説明

ポラリメトリSAR装置及びポラリメトリSARデータを用いる目標物同定方法

【課題】地物の向き及び撮像方向による影響を軽減させながら、撮像された地物を任意の形状のものと定量的に同定する。
【解決手段】提供されるポラリメトリSAR装置は、第1の基底変換処理部19が撮像された地物のフルポラリメトリデータに基づいて第1のフルポラリメトリ複素画像を算出し、第2の基底変換処理部20が既知の地物のフルポラリメトリデータに基づいて第2のフルポラリメトリ複素画像を算出する。強度変換処理部23とフィルタ処理部27を経由した第1のフルポラリメトリ複素画像と、強度変換処理部24とフィルタ処理部28を経由した第2のフルポラリメトリ複素画像は、類似度算出処理部31によって類似度が算出される。類似度算出処理部31は、算出された類似度rの値が所定値より高いときに撮像された地物を既知の地物によって定量的に同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成開口レーダ(以下、SAR:Synthetic Aperture Radarと言う)による水平偏波と垂直偏波を用いて目標物を同定するポラリメトリSAR装置及び目標物同定方法に係り、詳しくは、ポラリメトリSARによって取得されたフルポラリメトリデータに基づいて、撮像されている地物の形状をその地物の向き及び撮像方向に依らずに同定するポラリメトリSAR装置及び目標物同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星や航空機等の飛翔体を利用して地物(地表の状態や形状)を観測したり同定したりするリモートセンシング分野では、飛翔体から地表の状態を撮像するためのセンサとして、マイクロ波帯を用いたSARが一般的に使用されている。このようなSARを使用した地表状態の判読方法は、SARによって得られた受信波の振幅と位相のデータ(複素データ)から画像データを再生し、その画像データに基づいて地表状態を判読するものである。
【0003】
特に、SARによる送信波の水平(H:Horizontal)・垂直(V:Vertical)偏波と受信波のH・V偏波の組合せを変えて地表状況を観測するポラリメトリを利用したポラリメトリSARでは、偏波面が水平(H)と垂直(V)の2種類のマイクロ波を交互に切り替えて送信し、それぞれの反射波のH成分とV成分を受信する。これによって、フルポラリメトリデータ、すなわち、水平偏波Hと垂直偏波Vの組合せによって生じる合計4つの偏波(HH,HV,VH,VVの各偏波)に対応するデータを取得することができる。このようなフルポラリメトリデータ(つまり、HH,HV,VH,VVの各データ)を使用する目標物同定方法(関連技術)は、散乱行列の分解や固有値解析による分類を主な手法としている。このような関連技術による手法では、撮像された地物に対し、典型的な形状への分解や散乱形態の複雑さ等による分類が行われている。
【0004】
また、静止した目標物への送信波の偏波面と目標物から反射した受信波の偏波面との角度を最適に制御することにより、その目標物の画像を鮮明に再生させるポラリメトリSAR画像処理の技術も開示されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、静止した目標物の部位ごとに送受信波の偏波面を適切に選択することにより、複雑な形状の目標物を1枚のSAR画像に鮮明に映し出すポラリメトリSAR画像処理の技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、目標物(飛翔体)の動きに基づく振幅情報と位相情報との複素データによって移動物体の画像認識を行うISAR(Inverse Synthetic Aperture Radar:逆合成開口レーダ)により、その移動物体の大きさや形状を識別する技術も開示されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、レーダによって移動物体の回転運動や姿勢角を推定して、移動物体の動きを特定するISAR画像処理の技術も開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−014735号公報
【特許文献2】特開2008−232626号公報
【特許文献3】特開2001−221857号公報
【特許文献4】特開平09−033649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記関連技術において、ポラリメトリSARによって地物の形状を同定する場合、散乱行列の分解では撮像された地物を典型的な形状へ分解して画像処理を行うことはできるが、任意の形状の地物を同定することはできない。また、地物の形状を同定する場合は、その地物の向きあるいは撮像方向によって、同じ形状の地物であるにもかかわらず、異なる形状の地物と認識されてしまうこともある。
【0008】
また、特許文献1に記載の技術においても、特定の形状の地物を同定することはできるが、撮像された任意の形状の地物を同定することはできない。さらに、特許文献2に記載の技術においては、任意の形状の目標物については、それぞれの目標物ごとに、個別に、送受信波の偏波面を適切に選択しなければならないので、任意の目標物を同定するためにはかなり複雑な処理が必要となる。すなわち、特許文献2に記載のポラリメトリSAR画像処理方法で任意の形状の目標物を撮像する場合は、ポラリメトリSARを用いた画像処理が極めて複雑になり、ポラリメトリSAR装置の使い勝手がよくない。また、特許文献3、4に記載の技術は、移動物体の動きを識別したり特定したりするISAR(逆合成開口レーダ)による画像処理の技術であって、飛翔体から地上の地物を同定する技術ではないので、ポラリメトリSAR装置によって任意の形状の地物を同定する技術に応用することはできない。
【0009】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、地物の向き及び撮像方向による影響を軽減させながら、撮像された地物を任意の形状のものと定量的に同定することができるポラリメトリSAR装置及び目標物同定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明の第1の構成は、ポラリメトリSAR装置に係り、ポラリメトリSAR(合成開口レーダ)により撮像された地物のフルポラリメトリ複素画像である第1のフルポラリメトリデータと、既知の地物のフルポラリメトリ複素画像データである第2のフルポラリメトリデータとの類似度を算出し、算出された類似度に基づいて、前記撮像された地物の形状を同定する構成になされていることを特徴としている。
【0011】
この発明の第2の構成は、ポラリメトリSAR撮像地物の同定方法に係り、ポラリメトリSAR(合成開口レーダ)により撮像した地物のフルポラリメトリ複素画像である第1のフルポラリメトリデータを取得し、取得した前記第1のフルポラリメトリデータと既知の地物のフルポラリメトリ複素画像データである第2のフルポラリメトリデータとの類似度を算出し、算出された類似度に基づいて、前記撮像された地物の形状を同定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
この発明の構成によれば、既知の地物との類似度に基づいて撮像された地物を同定しているので、撮像された地物を任意の形状のものと定量的に同定することが可能となる。さらに、この同定は、既知の地物との類似度に基づいて行われるので、地物の向き及び撮像方向による影響を軽減することができる。例えば、複数のデータをひとつにまとめたライブラリとして、航空機の尾翼部分、主翼付け根部分、及び主翼部分のフルポラリメトリデータを用意しておくと、尾翼部分、主翼付け根部分、及び主翼部分のそれぞれの形状に類似した物体が、類似度に応じてSAR画像の中から抽出される。すなわち、実際に撮像した画像が航空機であれば、その航空機の向き及び撮像方向に依存されることなく、それぞれの形状に類似した物体の配置が、その航空機の尾翼部分、主翼付け根部分、及び主翼部分の配置と同じになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施形態に適用されるポラリメトリSAR装置の構成及びデータ処理の概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施形態に適用されるポラリメトリSAR装置は、合成開口レーダ(SAR)を用いて地物を同定するポラリメトリSAR装置であって、偏波面が水平(H)偏波と垂直(V)偏波の2種類のマイクロ波を交互に地物へ送信する。そして、地物からの反射波のH成分とV成分とを受信することにより、撮像された地物のポラリメトリ複素画像を取得する。さらに、取得したポラリメトリ複素画像とライブラリ化された既知の地物のポラリメトリ複素画像との類似度を算出する。これによって、類似度が高い場合は、撮像された地物を既知の地物によって定量的に同定することができる。
【0015】
すなわち、このポラリメトリSAR装置は、目標物となる地物に対する送信波と反射波(受信波)のH偏波とV偏波とを生成するポラリメトリSARによって得られたフルポラリメトリデータと、既知の地物のフルポラリメトリデータとを比較して、撮像された地物の形状を既知の地物によって同定している。これによって、地物の向き及び撮像方向に依存されることなく、撮像されている地物の形状を高精度に同定することができる。
【0016】
前記第1のフルポラリメトリデータに対して、直線偏波基底から円偏波基底へ基底変換処理を行う第1の基底変換処理部と、前記第2のフルポラリメトリデータに対して、直線偏波基底から円偏波基底へ基底変換処理を行う第2の基底変換処理部と、前記第1の基底変換処理部によって基底変換された前記第1のフルポラリメトリデータと、前記第2の基底変換処理部によって基底変換された前記第2のフルポラリメトリデータとの類似度を算出する類似度算出処理部とを備えることで、該類似度算出処理部にて算出された類似度に基づいて、前記撮像された地物の形状を定量的に同定する構成を実現した。
【0017】
この発明の目的を実現するためには、具体的には、HH,HV,VH,VVの4種類からなる前記第1のフルポラリメトリデータに対して、HV偏波基底からLR偏波基底へ基底変換処理を行って、1画素ごとに、LL.LR,RL,RRの強度を並べて4次元実ベクトルηを得る第1の基底変換処理部と、HH,HV,VH,VVの4種類からなる前記第2のフルポラリメトリデータに対して、HV偏波基底からLR偏波基底へ基底変換処理を行って、1画素ごとに、LL.LR,RL,RRの強度を並べて4次元実ベクトルξを得る第2の基底変換処理部と、画素ごとに、前記第1の基底変換処理部によって基底変換された前記第1のフルポラリメトリデータと、前記第2の基底変換処理部によって基底変換された前記第2のフルポラリメトリデータとの類似度を算出する類似度算出処理部とを備える構成とするのが好ましい。
【0018】
ここで、HHは、水平偏波送信・水平偏波受信の組み合せで観測された受信データ、HVは、水平偏波送信・垂直偏波受信の組み合せで観測された受信データ、VHは、垂直偏波送信・水平偏波受信の組み合せで観測された受信データ、VVは、垂直偏波送信・垂直偏波受信の組み合せで観測された受信データ。
LLは、左旋円偏波送信・左旋円偏波受信の組み合せに変換された受信データ、LRは、左旋円偏波送信・右旋円偏波受信の組み合せに変換された受信データ、RLは、右旋円偏波送信・左旋円偏波受信の組み合せに変換された受信データ、RRは、右旋円偏波送信・右旋円偏波受信の組み合せに変換された受信データ。
【実施形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、この発明のポラリメトリSAR装置の実施形態について詳細に説明する。図1は、この発明の実施形態に適用されるポラリメトリSAR装置の構成及びデータ処理の概要を示すブロック図である。
【0020】
まず、図1に示すポラリメトリSAR装置の構成について説明する。ポラリメトリSAR装置は、送信機1、送信波切替スイッチ2、サーキュレータ3,4、アンテナ5,6、受信機7,8、データ処理部9,10、分離処理部11,12、再生処理部13,14,15,16、記憶装置17,18,21,22,25,26,29,30、第1の基底変換処理部19、第2の基底変換処理部20、強度変換処理部23,24、フィルタ処理部27,28、及び類似度算出処理部31を少なくとも備えて構成されている。
【0021】
次に、各構成要素の基本的な機能について説明する。送信機1は、送信トリガ信号となるパルス繰り返し周波数に同期させて直線周波数変調された送信信号(チャープ信号)を生成し、この送信信号を送信波切替スイッチ2へ出力する。送信波切替スイッチ2は、送信機1から受信した送信信号を、パルス繰り返し周波数ごとに交互に切り替え、サーキュレータ3,4のいずれかを介して、アンテナ5,6のいずれかへ送出する。
【0022】
アンテナ5は、水平偏波(H偏波)用アンテナであり、H偏波の送信波を目標物に送信し、その目標物からの反射波としてHH受信波及びVH受信波を受信する。アンテナ6は、垂直偏波(V偏波)用アンテナであり、V偏波の送信波を目標物に送信し、その目標物からの反射波としてHV受信波及びVV受信波を受信する。すなわち、アンテナ5及びアンテナ6は、パルス繰り返し周波数に同期して交互に切り替えられて、それぞれ、H偏波及びV偏波を送信波として目標物に向けて送信し、それぞれ、HH,VH受信波及びHV,VV受信波を受信する。
【0023】
さらに、詳しく説明すると、アンテナ5及びアンテナ6のH偏波及びV偏波のそれぞれの送信波が照射される目標物(例えば地表面)からの反射波は、目標物(地表面)の形状に応じて、水平偏波(H偏波)、垂直偏波(V偏波)いずれの送信波についても、水平偏波(H偏波)成分と垂直偏波(V偏波)成分を含んでいる。したがって、それぞれの送信波の送信タイミングに対応した時刻に、アンテナ5及びアンテナ6のそれぞれにおいて、H偏波成分とV偏波成分とを、HH受信波(H送信−H受信)、HV受信波(H送信−V受信)、または、VH受信波(V送信−H受信)、VV受信波(V送信−V受信)として受信する。
【0024】
受信機7は、アンテナ5で受信されたHH受信波(H送信−H受信)、VH受信波(V送信−H受信)を、サーキュレータ3を介して受信し、受信処理を行ってデータ処理部9へ出力する。一方、受信機8は、アンテナ6で受信されたHV受信波(H送信−V受信)、VV受信波(V送信−V受信)を、サーキュレータ4を介して受信し、受信処理を行ってデータ処理部10へ出力する。
【0025】
データ処理部9は、受信機7からのHH受信波(H送信−H受信)のデータ及びVH受信波(V送信−H受信)のデータをSARデータとして記憶し、データ処理部10は、受信機8からのHV受信波(H送信−V受信)のデータ及びVV受信波(V送信−V受信)のデータをSARデータとして記憶し、それぞれ、分離処理部11、12へ出力する。
【0026】
分離処理部11は、データ処理部9からのSARデータを、HH受信波のSARデータとVH受信波のSARデータとに分離して、それぞれを、再生処理部13、14へ出力する。一方、分離処理部12は、データ処理部10からのSARデータを、HV受信波のSARデータとVV受信波のSARデータとに分離して、それぞれを、再生処理部15、16へ出力する。
【0027】
再生処理部13、14、15、16は、分離処理部11、12から出力されたそれぞれのSARデータ(HH,VH,HV,VVの各受信波)に基づいて、それぞれを複素画像として生成して、記憶装置17にフルポラリメトリ複素画像(HH,VH,HV,VV)として記憶する。
【0028】
第1の基底変換処理部19は、図1に示すように、記憶装置17に記憶されたSARデータの第1のフルポラリメトリ複素画像(HH,VH,HV,VV)を用いて、直線偏波であるHV(Horizontal-Vertical:水平−垂直)偏波基底から円偏波であるLR(Lefr-right:左旋回−右旋回)偏波基底へ基底変換処理を行い、LR基底変換された第1のフルポラリメトリ複素画像の4種類の複素データ(LL,LR,RL,RR)を記憶装置21に記憶させる。ここで、LLは、L送信−L受信の組み合せに変換された受信データ、LRは、L送信−R受信の組み合せに変換された受信データ、RLは、R送信−L受信の組み合せに変換された受信データ、RRは、R送信−R受信の組み合せに変換された受信データを意味している。
【0029】
強度変化処理部23は、LR偏波基底へ変換された第1のフルポラリメトリ複素画像(LL,LR,RL,RR)を、それぞれ強度画像(LL,LR,RL,RR)に変換して記憶装置25に記憶させる。さらに、フィルタ処理部27は、これらの強度画像(LL,LR,RL,RR)に対して、スペックルフィルタ処理を施して記憶装置29に記憶させる。
【0030】
一方、記憶装置18は、既知の地物における第2のフルポラリメトリ複素画像のSARデータ(HH,VH,HV,VV)を記憶し、基底変換処理部20は、記憶装置18に記憶された第2のフルポラリメトリ複素画像のSARデータ(HH,VH,HV,VV)に対して、HV偏波基底からLR偏波基底へ基底変換処理を行い、LR偏波基底変換された第2のフルポラリメトリ複素画像の4種類の複素データ(LL,LR,RL,RR)を記憶装置22に記憶させる。
【0031】
強度変化処理部24は、LR偏波基底へ変換された第2のフルポラリメトリ複素画像(LL,LR,RL,RR)を、それぞれ強度画像(LL,LR,RL,RR)に変換して記憶装置26に記憶させる。そして、フィルタ処理部28は、これらの強度画像(LL,LR,RL,RR)に対して、スペックルフィルタを施して記憶装置30に記憶させる。
【0032】
類似度算出処理部31は、記憶装置29から取り出したポラリメトリSARによって撮像された地物のデータ(第1のフルポラリメトリ複素画像)と、記憶装置30から取り出した既知の地物のデータ(第2のフルポラリメトリ複素画像)との類似度を算出して類似度画像を出力する。このとき、類似度算出処理部31は、1画素ずつ類似度を算出して、濃淡により各画素の類似度を表した画像を出力する。
【0033】
次に、図1に示すポラリメトリSAR装置の動作について説明する。1台の送信機1からの2つの送信波を、送信波切替スイッチ2によりパルス繰り返し周波数ごとに切り替え、サーキュレータ3、4を介して、2台のアンテナ5、6から、交互に、H偏波送信波とV偏波送信波とを図示しない目標物に向けて送信する。尚、アンテナ5、6にて送受信される送信波と受信波とは、1台の送信機1と2台の受信機7、8とにサーキュレータ3、4により振り分けられる。
【0034】
目標物から反射されたH偏波成分とV偏波成分は、受信波として、それぞれ、2つのアンテナ5、6で受信され、受信機7、8によって受信処理が施されて2つのデータ処理部9、10にてそれぞれSARデータとして記録される。2つのデータ処理部9、10に記録されているSARデータは、それぞれ、分離処理部11、12にて、(HH)SARデータ、(VH)SARデータ、(HV)SARデータ、及び(VV)SARデータに分離され、4つの再生処理部13、14、15、16に入力される。
【0035】
さらに、4つの再生処理部13、14、15、16にて、(HH)SARデータ、(VH)SARデータ、(HV)SARデータ、及び(VV)SARデータは、それぞれの複素画像として生成され、第1のフルポラリメトリ複素画像のSARデータ(HH,VH,HV,VV)として記憶装置17に格納される。以上のような処理により、ポラリメトリSARにより取得された第1のフルポラリメトリ複素画像のSARデータは記憶装置17に記憶される。
【0036】
次に、この第1のフルポラリメトリ複素画像のSARデータ(HH,VH,HV,VV)を用いて、第1の基底変換処理部19によりHV偏波基底からLR偏波基底へ基底変換処理を行って、LR基底変換された第1のフルポラリメトリ複素画像のデータ(LL,LR,RL,RR)を記憶装置21に記憶する。さらに、LR偏波基底へ変換された第1のフルポラリメトリ複素画像のSARデータ(LL,LR,RL,RR)は、強度変化処理部23によりそれぞれ強度画像(LL,LR,RL,RR)に変換されて、記憶装置25に記憶される。そして、これらの強度画像(LL,LR,RL,RR)に対して、フィルタ処理部27によってスペックルフィルタが施され、記憶装置29に記憶される。
【0037】
一方、記憶装置18に記憶された既知の地物の第2のフルポラリメトリ複素画像(HH,VH,HV,VV)に対して、第2の基底変換処理部20によってHV偏波基底からLR偏波基底へ基底変換処理が行われ、LR偏波基底されたLR基底変換データ(LL,LR,RL,RR)が記憶装置22に記憶される。そして、LR基底変換された第2のフルポラリメトリ複素画像のデータ(LL,LR,RL,RR)は、強度変化処理部24によってそれぞれ強度画像(LL,LR,RL,RR)に変換されて記憶装置26に記憶される。さらに、これらの強度画像(LL,LR,RL,RR)に対して、フィルタ処理部28によってスペックルフィルタが施されて記憶装置30に記憶される。
【0038】
そして、類似度算出処理部31により、記憶装置29に記憶されているポラリメトリSARにより撮像された地物のデータ(第1のフルポラリメトリ複素画像)と、記憶装置30に記憶されている既知の地物のデータ(第2のフルポラリメトリ複素画像)との類似度が算出される。このとき、1画素ずつ類似度が算出され、濃淡により各画素の類似度を表した画像が出力される。
【0039】
次に、ポラリメトリSARによりフルポラリメトリ複素画像を取得して類似度を算出する処理について数式を用いて説明する。式(1)は、HV偏波基底からLR偏波基底への基底変換を表す式である。すなわち、記憶装置18に記憶されている既知の地物のSARデータであるHH,HV,VH,VVの4種類の複素データに対して、次の式(1)によりHV偏波基底受信データ(SHH、SVH、SHV、SVV)からLR偏波基底受信データ(SLL、SLR、SRL、SRR)へ偏波基底を変換する。
【0040】
【数1】

・・・(1)
【0041】
ただし、SHH、SVH、SHV、SVVは、それぞれ、SARデータのHH,HV,VH,VVに対する受信データ(複素データ)であり、iは虚数単位を表わす。
また、SLL、SLR、SRL、SRRは、それぞれ、LR偏波基底に変換された基底データ(複素データ)である。
【0042】
また、LR偏波基底へ変換された第2のフルポラリメトリ複素画像の1画素のLL,LR,RL,RRの強度を並べて、既知の地物の4次元実ベクトルとしたものをライブラリとして用意しておく。この既知の地物における4次元実ベクトルをξと表記する。4次元実ベクトルξは、式(2)で、絶対値|ξ|は、式(3)表される。
【0043】
【数2】

・・・(2)
【0044】
【数3】

・・・(3)
【0045】
一方、地物より観測されて記憶装置17に記憶されている第1のフルポラリメトリ複素画像のSARデータであるHH,HV,VH,VVの4種類の複素データ(SHH、SVH、SHV、SVV)に対して、前述の式(1)により、SLL、SLR、SRL、SRRの基底データを算出して、HV偏波基底受信データからLR偏波基底受信データへ偏波基底を変換する。
ここで、1画素のLL,LR,RL,RRの強度を並べて撮像地物の4次元実ベクトルとする。この撮像された地物における4次元実ベクトルηと表記する。4次元実ベクトルηは、式(2)で、絶対値|η|は、式(3)表される。
【0046】
以上のようにして求められた既知の地物のベクトルξと撮像された地物のベクトルηとに基づいて、類似度算出処理部31は、次の式(4)により類似度r[%]を算出する。
【0047】
【数4】

・・・(4)
ただし、(ξ/|ξ|,η/|η|)はベクトルの内積を表わす。
【0048】
以上のような処理により、撮像された地物は既知の地物によって定量的に同定される。なお、この類似度r[%]は地物の向き及び撮像方向による影響を軽減する。このようにして、目標物となる地物のポラリメトリSARによって得られた第1のフルポラリメトリデータと、既知の地物の第2のフルポラリメトリデータとを比較して、撮像された地物の形状を同定している。これによって、地物の向き及び撮像方向に依存されることなく撮像されている地物の形状を高精度に同定することができる。
【0049】
なお、前述したポラリメトリSARデータを用いた目標物同定方法は、コンピュータがプログラム読み込むことによって実現される。したがって、上述のポラリメトリSARデータを用いた目標物同定方法の各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、前述した各処理が行われる。ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM(Compact Disk−Read Only Memory)、DVD−ROM(Digital Versatile Disk−Read Only Memory)、半導体メモリ等をいう。
【0050】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、この発明の具体的に構成は、これらの実施形態に限られるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもそれらはこの発明に含まれる。例えば、このプログラムを通信回線によって外部のコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。また、地物は、地上の物体に限らず、人工衛星等から見れば、低空を飛んでいる飛翔体も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明のポラリメトリSAR装置は、地上の地物を高精度に撮像して同定することができるので、航空写真に基づく地図の作成等に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 送信機
2 送信波切替スイッチ
3,4 サーキュレータ
5,6 アンテナ
7,8 受信機
9,10 データ処理部
11,12 分離処理部
13,14,15,16 再生処理部
17,18,21,22,25,26,29,30 記憶装置
19 第1の基底変換処理部
20 第2の基底変換処理部
23,24 強度変換処理部
27,28 フィルタ処理部
31 類似度算出処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポラリメトリSAR(合成開口レーダ)により撮像された地物のフルポラリメトリ複素画像である第1のフルポラリメトリデータと、既知の地物のフルポラリメトリ複素画像データである第2のフルポラリメトリデータとの類似度を算出し、算出された類似度に基づいて、前記撮像された地物の形状を同定する構成になされていることを特徴とするポラリメトリSAR装置。
【請求項2】
ポラリメトリSAR(合成開口レーダ)により撮像された地物のフルポラリメトリ複素画像である第1のフルポラリメトリデータと、予め取得され、ライブラリに格納されている、既知の地物のフルポラリメトリ複素画像データである第2のフルポラリメトリデータとの類似度を算出し、算出された類似度に基づいて、前記撮像された地物の形状を定量的に同定する構成になされていることを特徴とするポラリメトリSAR装置。
【請求項3】
前記第1のフルポラリメトリデータに対して、直線偏波基底から円偏波基底へ基底変換処理を行う第1の基底変換処理部と、
前記第2のフルポラリメトリデータに対して、直線偏波基底から円偏波基底へ基底変換処理を行う第2の基底変換処理部と、
前記第1の基底変換処理部によって基底変換された前記第1のフルポラリメトリデータと、前記第2の基底変換処理部によって基底変換された前記第2のフルポラリメトリデータとの類似度を算出する類似度算出処理部とを備え、
該類似度算出処理部にて算出された類似度に基づいて、前記撮像された地物の形状を定量的に同定する構成になされていることを特徴とする請求項1又は2記載のポラリメトリSAR装置。
【請求項4】
HH,HV,VH,VVの4種類からなる前記第1のフルポラリメトリデータに対して、HV偏波基底からLR偏波基底へ基底変換処理を行って、1画素ごとに、LL.LR,RL,RRの強度を並べて4次元実ベクトルηを得る第1の基底変換処理部と、
HH,HV,VH,VVの4種類からなる前記第2のフルポラリメトリデータに対して、HV偏波基底からLR偏波基底へ基底変換処理を行って、1画素ごとに、LL.LR,RL,RRの強度を並べて4次元実ベクトルξを得る第2の基底変換処理部と、
画素ごとに、前記第1の基底変換処理部によって基底変換された前記第1のフルポラリメトリデータと、前記第2の基底変換処理部によって基底変換された前記第2のフルポラリメトリデータとの類似度を算出する類似度算出処理部とを備え、
該類似度算出処理部にて算出された画素ごとの類似度に基づいて、前記撮像された地物の形状を定量的に同定する構成になされていることを特徴とする請求項1又は2記載のポラリメトリSAR装置。
ここで、HHは、水平偏波送信・水平偏波受信の組み合せで観測された受信データ、HVは、水平偏波送信・垂直偏波受信の組み合せで観測された受信データ、VHは、垂直偏波送信・水平偏波受信の組み合せで観測された受信データ、VVは、垂直偏波送信・垂直偏波受信の組み合せで観測された受信データ。
LLは、左旋円偏波送信・左旋円偏波受信の組み合せに変換された受信データ、LRは、左旋円偏波送信・右旋円偏波受信の組み合せに変換された受信データ、RLは、右旋円偏波送信・左旋円偏波受信の組み合せに変換された受信データ、RRは、右旋円偏波送信・右旋円偏波受信の組み合せに変換された受信データ。
【請求項5】
前記類似度r[%]は、
【数4】

によって与えられることを特徴とする請求項4記載のポラリメトリSAR装置。
ξ:前記既知の地物の4次元実ベクトル
η:前記撮像された地物の4次元実ベクトル
(ξ/|ξ|,η/|η|):ベクトルの内積
【請求項6】
各画素の前記類似度は、濃淡に変換されて画像表示されることを特徴とする請求項4記載のポラリメトリSAR装置。
【請求項7】
ポラリメトリSAR(合成開口レーダ)により撮像した地物のフルポラリメトリ複素画像である第1のフルポラリメトリデータを取得し、取得した前記第1のフルポラリメトリデータと既知の地物のフルポラリメトリ複素画像データである第2のフルポラリメトリデータとの類似度を算出し、算出された類似度に基づいて、前記撮像された地物の形状を同定することを特徴とするポラリメトリSARデータを用いる目標物同定方法。
【請求項8】
前記第1のフルポラリメトリデータに対して、直線偏波基底から円偏波基底へ基底変換処理を行う第1のステップと、
前記第2のフルポラリメトリデータに対して、直線偏波基底から円偏波基底へ基底変換処理を行う第2のステップと、
前記第1の基底変換処理部によって基底変換された前記第1のフルポラリメトリデータと、前記第2の基底変換処理部によって基底変換された前記第2のフルポラリメトリデータとの類似度を算出する第3のステップと、
該第3のステップにて算出した類似度に基づいて、前記撮像された地物の形状を定量的に同定することを特徴とする請求項7記載のポラリメトリSARデータを用いる目標物同定方法。
【請求項9】
HH,HV,VH,VVの4種類からなる前記第1のフルポラリメトリデータに対して、HV偏波基底からLR偏波基底へ基底変換処理を行って、1画素ごとに、LL.LR,RL,RRの強度を並べて4次元実ベクトルηを得る第1のステップと、
HH,HV,VH,VVの4種類からなる前記第2のフルポラリメトリデータに対して、HV偏波基底からLR偏波基底へ基底変換処理を行って、1画素ごとに、LL.LR,RL,RRの強度を並べて4次元実ベクトルξを得る第2のステップと、
画素ごとに、前記第1の基底変換処理部によって基底変換された前記第1のフルポラリメトリデータと、前記第2の基底変換処理部によって基底変換された前記第2のフルポラリメトリデータとの類似度を算出する第3のステップと、
該第3のステップにて算出された画素ごとの類似度に基づいて、前記撮像した地物の形状を定量的に同定することを特徴とする請求項7記載のポラリメトリSARデータを用いる目標物同定方法。
ここで、HHは、水平偏波送信・水平偏波受信の組み合せで観測した受信データ、HVは、水平偏波送信・垂直偏波受信の組み合せで観測した受信データ、VHは、垂直偏波送信・水平偏波受信の組み合せで観測した受信データ、VVは、垂直偏波送信・垂直偏波受信の組み合せで観測した受信データ。
LLは、左旋円偏波送信・左旋円偏波受信の組み合せに変換した受信データ、LRは、左旋円偏波送信・右旋円偏波受信の組み合せに変換した受信データ、RLは、右旋円偏波送信・左旋円偏波受信の組み合せに変換した受信データ、RRは、右旋円偏波送信・右旋円偏波受信の組み合せに変換した受信データ。
【請求項10】
前記類似度r[%]は、
【数4】

によって与えられることを特徴とする請求項9記載のポラリメトリSARデータを用いる目標物同定方法。
ξ:前記既知の地物の4次元実ベクトル
η:前記撮像された地物の4次元実ベクトル
(ξ/|ξ|,η/|η|):ベクトルの内積
【請求項11】
各画素の前記類似度を、濃淡に変換して画像表示することを特徴とする請求項9記載のポラリメトリSARデータを用いる目標物同定方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−230462(P2010−230462A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77855(P2009−77855)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】