説明

ポリアミック酸組成物、ポリイミド無端ベルト、定着装置および画像形成装置

【課題】安定した粘度を得ると共に、イミド化した際における強靭性を向上させること。
【解決手段】ジアミン化合物とテトラカルボン酸ジ無水物と酸モノ無水物とが、下記式(1)および下記式(2)を満たす量比で反応し、且つイミド化率が5.0%以上25.0%以下であるポリアミック酸を含有するポリアミック酸組成物。
式(1) 0.970<Y/X<0.998
式(2) 0.00<Z/2(X−Y)<0.50
(上記式(1)および式(2)中、Xは前記ジアミン化合物の含有量(モル)を、Yは前記テトラカルボン酸ジ無水物の含有量(モル)を、Zは前記酸モノ無水物の含有量(モル)を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミック酸組成物、ポリイミド無端ベルト、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いた画像形成装置では、トナー像を記録媒体上に加熱および/または加圧して定着するための定着体などに、金属や各種プラスチックまたはゴム製の回転体が使用されている。画像形成装置の小型化或いは高性能化のために、定着体等の回転体は変形し得ることが好ましく、この回転体としては肉厚が薄いプラスチック製のフィルムからなるベルトが用いられ、この場合ベルトに継ぎ目(シーム)のない無端ベルトが用いられる。
【0003】
上記無端ベルトを用いた定着装置としては、例えば、ベルトニップ方式のものがあげられる(例えば特許文献1参照)。前記定着装置は、回転可能な定着ロールと、該定着ロールに接触し従動回転するように配置された無端ベルトと、を含んで構成されている。この構成を有する定着装置を用いた定着では、表面が加熱された定着ロールと無端ベルトとの接触部に、トナー像を形成した記録媒体を通過させることによって、前記トナー像を前記記録媒体表面に加熱定着して行われる。その際、前記接触部(ニップ)において、無端ベルトを定着ロールに接触配置させるために、無端ベルトの内周面に圧力パッドおよび摺動シートが設けられる。
【0004】
尚、上記無端ベルトに用いられる材料としては、ポリイミドが好適に用いられている。ポリイミド無端ベルトの製造方法としては、例えば、円筒状基材の内面にポリアミック酸(ポリイミド前駆体)の溶液を塗布し、回転しながら乾燥させる遠心成形法(例えば特許文献2参照)や、円筒状基材の内面にポリアミック酸の溶液を展開する内面塗布法(例えば特許文献3参照)、さらに円筒状基材の表面に浸漬塗布法によってポリアミック酸の溶液を塗布して乾燥・加熱した後、ポリイミド皮膜を円筒状基材から剥離する方法(例えば特許文献4参照)をあげられる。
【0005】
ここで従来、ポリアミック酸を安定化させる方法として、例えばポリアミック酸の末端を無水フタル酸等で封鎖する方法が報告されている。例えば、ポリアミック酸と顔料からなるカラーフィルタ用耐熱着色ペーストでは、ポリアミック酸に対して1塩基酸、多塩基酸および多塩基酸無水物からなる群から選ばれた1種以上の酸を添加する方法(例えば特許文献5参照)が開示されている。
【0006】
更に、特定構造のポリイミドであって、末端が無水フタル酸で封止された溶融成型用ポリイミド(例えば特許文献6参照)、シロキサンガスの発生量が少なくSi,Sを含有した特定構造のシリコーン変性ポリイミド(例えば特許文献7参照)、フッ素含有モノマーを用いた特定構造のポリイミドであって、末端にアセチレン含有するか、またはアセチレン含有すると共に無水フタル酸等で封鎖した混合物であるポリイミド(例えば特許文献8参照)等が開示されている。
【0007】
さらに従来において、ポリイミドの一次構造をより柔軟な構造にする、もしくは柔軟な成分を共重合させるなどの特定構造に変更する方法(例えば特許文献9参照)が開示されている。
【特許文献1】特開平8−262903号公報
【特許文献2】特開昭57−74131号公報
【特許文献3】特開昭62−19437号公報
【特許文献4】特開昭61−273919号公報
【特許文献5】特開平7−198929号公報
【特許文献6】特開平5−170905号公報
【特許文献7】特開平9−272739号公報
【特許文献8】特開2000−63518号公報
【特許文献9】特開2008−106095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ジアミン化合物とテトラカルボン酸ジ無水物と酸モノ無水物との反応の量比を考慮せず且つイミド化率を考慮しない場合に比べ、粘度が安定化したポリアミック酸を得ると共に、イミド化した際における機械的強度および強靭性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。
すなわち、請求項1に係る発明は、
ジアミン化合物とテトラカルボン酸ジ無水物と酸モノ無水物とが、下記式(1)および下記式(2)を満たす量比で反応し、且つイミド化率が5.0%以上25.0%以下であるポリアミック酸を含有するポリアミック酸組成物である。
式(1) 0.970<Y/X<0.998
式(2) 0.00<Z/2(X−Y)<0.50
(上記式(1)および式(2)中、Xは前記ジアミン化合物の含有量(モル)を、Yは前記テトラカルボン酸ジ無水物の含有量(モル)を、Zは前記酸モノ無水物の含有量(モル)を表す。)
【0010】
請求項2に係る発明は、
前記ジアミン化合物が、p−フェニレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のポリアミック酸組成物である。
【0011】
請求項3に係る発明は、
前記テトラカルボン酸ジ無水物が、ピロメリット酸ジ無水物および3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物から選ばれる少なくとも一種である請求項1または請求項2に記載のポリアミック酸組成物である。
【0012】
請求項4に係る発明は、
前記酸モノ無水物が、無水マレイン酸および無水フタル酸から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のポリアミック酸組成物である。
【0013】
請求項5に係る発明は、
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のポリアミック酸組成物に含まれるポリアミック酸をイミド転化してなるポリイミド無端ベルトである。
【0014】
請求項6に係る発明は、
表面にフッ素樹脂層を有する請求項5に記載のポリイミド無端ベルトである。
【0015】
請求項7に係る発明は、
複数の支持ロールと、該複数の支持ロールによって支持される請求項5または請求項6に記載のポリイミド無端ベルトと、を具備するベルト支持装置である。
【0016】
請求項8に係る発明は、
定着ロールと、
前記定着ロールに接触して配置される請求項5または請求項6に記載のポリイミド無端ベルトと、
前記ポリイミド無端ベルトを前記定着ロールに接触するよう加圧する加圧部材と、
を具備する定着装置である。
【0017】
請求項9に係る発明は、
請求項5または請求項6に記載のポリイミド無端ベルトを具備する画像形成装置である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、ジアミン化合物とテトラカルボン酸ジ無水物と酸モノ無水物との反応の量比を考慮せず且つイミド化率を考慮しない場合に比べ、粘度が安定化したポリアミック酸を得ると共に、イミド化した際における機械的強度および強靭性が向上する。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、用いるジアミン化合物を考慮しない場合に比べ、粘度が安定化したポリアミック酸を得ると共に、イミド化した際における機械的強度および強靭性が向上する。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、用いるテトラカルボン酸ジ無水物を考慮しない場合に比べ、粘度が安定化したポリアミック酸を得ると共に、イミド化した際における機械的強度および強靭性が向上する。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、用いる酸モノ無水物を考慮しない場合に比べ、粘度が安定化したポリアミック酸を得ると共に、イミド化した際における機械的強度および強靭性が向上する。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、強靭性が向上したポリイミド無端ベルトが提供される。
【0023】
請求項6に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、ポリイミドとフッ素樹脂とが良好に密着し、摺動性、強靭性に優れたポリイミド無端ベルトが提供される。
【0024】
請求項7に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、ベルトの強靭性が向上したベルト支持装置が提供される。
【0025】
請求項8に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、定着部の耐久性、および印字性が向上した定着装置が提供される。
【0026】
請求項9に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、印字部の耐久性が向上した画像形成装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態についてより詳細に説明する。
<第1実施形態:ポリアミック酸組成物>
第1実施形態に係るポリアミック酸組成物は、(I)ジアミン化合物と、(II)テトラカルボン酸ジ無水物と、(III)酸モノ無水物と、が下記式(1)および下記式(2)を満たす量比で反応し、且つイミド化率が5.0%以上25.0%以下であるポリアミック酸を含有することを特徴とする。
式(1) 0.970<Y/X<0.998
式(2) 0.00<Z/2(X−Y)<0.50
(上記式(1)および式(2)中、Xは前記ジアミン化合物の含有量(モル)を、Yは前記テトラカルボン酸ジ無水物の含有量(モル)を、Zは前記酸モノ無水物の含有量(モル)を表す。)
【0028】
・式(1)および式(2)を満たす量比で反応したポリアミック酸
従来、(I)ジアミン化合物が過剰に存在するもとで(II)テトラカルボン酸ジ無水物を添加・重合して得られるポリアミック酸において、(III)酸モノ無水物を加える技術は、いわゆる末端封鎖技術として行われてきた。ここで、末端封鎖技術とは、得られるポリアミック酸の末端基であるアミノ基の活性を失活させて、ポリアミック酸の化学的・熱的安定性を向上させる効果を有する。そのため従来においては、該目的を達成するために末端に生じるアミノ基の量よりも過剰の(III)酸モノ無水物を加えることが行なわれていた。
【0029】
これに対し上記第1実施形態では、上記式(1)および式(2)の範囲内で(III)酸モノ無水物を加えることを要件とする。即ち特定の範囲の(I)ジアミン化合物と(II)テトラカルボン酸ジ無水物を重合して得られるポリアミック酸において、従来よりも少量の(III)酸モノ無水物を加えることによって、ポリアミック酸の化学的・熱的安定性の向上に加えて、イミド化した際における機械的強度、特に耐折れ性に代表される強靭性が向上される。
【0030】
該問題がどのようなメカニズムによって解決されているかは必ずしも明確ではないが、以下のように推察される。
【0031】
ポリアミック酸は加熱・焼成工程を経てポリイミドに転換される。該加熱・焼成工程においては、温度の上昇、溶媒の飛散に伴い、ポリアミック酸はいったん解重合反応を起こし、重合度が低下することが知られている。また、引き続きより高温での焼成を行なうと溶媒が蒸発し、ポリアミック酸は再び重合度が上昇し、さらに脱水反応を経てポリイミドになることが知られている。従来の末端封鎖技術のように、ポリアミック酸の末端が(III)酸モノ無水物によりほとんど封鎖されていると、いったん起こした解重合反応後に重合度が上がらず、そのままポリイミドとなり、機械的強度が得にくいものと推察される。
これに対し、上記第1実施形態では含有されるポリアミック酸が上記式(2)においてZ/2(X−Y)<0.50の要件を満たすため、末端構造が高度に相互作用を及ぼし、加熱・焼成工程においていったん起こした解重合反応後も重合度が上がり、得られるポリイミドの機械的強度、特に耐折れ性が向上するものと推察される。
【0032】
式(2)のうちZ/2(X−Y)<0.50の要件を満たさない場合には、イミド化した際における機械的特性、特に耐折れ性に代表される強靭性が悪化する。
【0033】
また、従来、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸は、該ポリアミック酸を用いた場合の加工的観点、例えばベルト作製のための塗布等の工程において、作業性が著しく低下する場合があった。また、該ポリアミック酸組成物をイミド化した際の機械的強度をより向上させることが望まれていた。
これに対し、上記第1実施形態に係るポリアミック酸組成物は、上記式(1)を満たす量比で反応したポリアミック酸を含有していることにより、粘度が安定したポリアミック酸が得られると共に、イミド化した際における機械的強度、特に耐折れ性に代表される強靭性が向上される。
【0034】
式(1)の要件を満たさない場合のうち、0.970≧Y/Xである場合、ポリアミック酸組成物の溶液粘度が低くなるものと推察され、その結果ベルト等への加工などイミド化する際に塗布等の観点で液だれが生じベルト等の形状とするのが困難となり、得られたポリイミドにおいてもその機械的強度が悪化する欠点を有する。一方、Y/X≧0.998である場合、ポリアミック酸の溶液粘度が高くなるものと推察され、ベルト等への加工時、すなわち塗布工程の観点で作業性が悪化する欠点を有する。
【0035】
ここで、好ましいY/Xは、0.975≦Y/X≦0.997であり、より望ましくは0.985≦Y/X≦0.995、特に望ましくは0.987≦Y/X≦0.993である。一方、好ましいZ/2(X−Y)は、0.03≦Z/2(X−Y)≦0.47であり、より望ましくは0.05≦Z/2(X−Y)≦0.40であり、更に望ましくは0.10≦Z/2(X−Y)≦0.30であり、特に望ましくは0.15≦Z/2(X−Y)≦0.20である。
【0036】
尚、第1実施形態におけるポリアミック酸が、前記式(1)および式(2)を満たす量比で反応したものであるか否かの分析方法については、後述する。
【0037】
・イミド化率
第1実施形態において用いられるポリアミック酸は、下記赤外吸収スペクトル(IR)法によって規定されるイミド化率が5.0%以上25.0%以下であり、さらに望ましくは7.0%以上20.0%以下であり、特に望ましくは8.0%以上15.0%以下である。尚、上記ポリアミック酸のイミド化率は、後述する「ポリアミック酸の重合方法」に記載の反応温度および/または重合時間を調整することで制御される。
【0038】
ここでIR法によるイミド化率は下記方法で測定が行われ、本明細書に記載の数値は下記方法によって測定されたものである。
1)ポリアミック酸がN−メチルピロリドン等の有機溶媒に溶解している場合、ガラスやフッ素樹脂基盤に浸漬塗布、またはスピン塗布を実施して膜厚が十数μm程度の膜(ア)を得る。
2)上記膜(ア)をTHF(テトラヒドロフラン)等のポリアミック酸の貧溶媒であり、かつ沸点が100℃未満の溶媒に25±5℃で3分浸漬して、有機溶媒を除去し、ポリアミック酸を析出させ、膜(イ)を得る。
【0039】
3)上記膜(イ)を温度25±5℃で真空乾燥(−0.08MPa)により15分乾燥させたのち、基盤からポリアミック酸の膜をはがして測定サンプル膜(ウ)を得る。
4)上記膜(ウ)をIR装置((株)堀場製作所製FT−730)を用いて、透過法で測定する。
【0040】
5)イミド化率100%の標準サンプルとして、上記膜(ウ)を該当するポリイミドのガラス転移温度(Tg)以上の温度で2時間焼成したサンプル(エ)を作製し、これを前記の方法によりIR測定する。
6)イミド化率は下記式(3)を用いて算出する。
【0041】
式(3)
イミド化率(%)=<膜(ウ)における、イミド環由来の吸収ピーク/内標である芳香
族環由来の吸収ピーク強度>/<膜(エ)における、イミド環由
来の吸収ピーク/内標である芳香族環由来の吸収ピーク強度>×1
00(%)
【0042】
またポリアミック酸が固体状である場合、前記の方法によりKBr粉末を用いて測定することでイミド化率が求められる。尚、上記のポリアミック酸のイミド化率測定方法は、ポリアミック酸のイミド化反応が加熱等によって非常に早く進行してしまい、ポリアミック酸自体の、真のイミド化率の測定が困難である状況であるなか、優位な方法である。
【0043】
一般にポリアミック酸は、そのアミド結合部位およびカルボキシル基による脱水反応、すなわちイミド化反応が逐次的に起きると言われている。ここで、イミド化反応が起きると、イミド閉環構造となり、分子の動きが阻害され、結果として溶液としての流動性が低下することが予想される。第1実施形態に係るポリアミック酸組成物では、このイミド化率を上記範囲とすることでポリアミック酸の良好な流動性を保持したまま、かつイミド転化した際の機械的強度、特に耐折れ性に代表される強靭性が向上する。
該効果がどのようなメカニズムによって達成されているかは必ずしも明確ではないが、以下のように推察される。ポリアミック酸中の一部イミド化した分子構造の部位が、剛直な部位として溶液中にあたかも分散したかのような状態となり、該溶液を塗布することによってその剛直な部位が分子配向し、イミド転化した際の補強効果が生じるためと推察される。
【0044】
・「式(1)および式(2)を満たす量比で反応したポリアミック酸」と「イミド化率」との組合せ
第1実施形態に係るポリアミック酸組成物は、前記式(1)および式(2)の範囲、かつ前述のイミド化率の範囲を満たすことで、ポリアミック酸組成物の粘度に関して安定性がより高いとの効果を有する。また、該ポリアミック酸組成物を基板に塗布し、焼成すなわちイミド転化して得たポリイミドの膜は機械的強度、特に耐折れ性に代表される強靭性がより向上するとの効果を有する。現段階において該効果がどのようなメカニズムによって達成されているかは必ずしも明確ではないが、ポリアミック酸の末端に係る運動性、ポリアミック酸の主鎖に係る運動性がともに制御された結果、該効果が得られるものと推察される。
【0045】
ついで、第1実施形態に係るポリアミック酸組成物に用いられる各成分について詳細に説明する。
【0046】
[ポリアミック酸]
第1実施形態に係るポリアミック酸組成物に用いられるポリアミック酸は、上記の量比で反応して得られ、且つイミド化率が上記範囲のものであれば特に限定されるものではない。該ポリアミック酸の主たる分子骨格としては、例えば下記一般式(1)で表される。
一般式(1)
【0047】
【化1】

【0048】
(式中、Rは2価の芳香族残基または脂肪族残基を示し、Rは4価の芳香族残基または脂肪族残基を表す。またnは正の数を示す。またRは分子の末端を表し、水素または(III)酸モノ無水物による有機基を示し、該水素を除いた有機基は0.00<Z/2(X−Y)<0.50の関係を満たす。)
より具体的には、Rとしては例えば
【0049】
【化2】

【0050】
が挙げられる。
としては例えば
【0051】
【化3】

【0052】
が挙げられる。
としては水素のほかに、例えば
【0053】
【化4】

【0054】
が挙げられる。
上記芳香族残基、脂肪族残基の水素の一部がアルキル基や水酸基等の置換基で置換されていても、公知の構造であれば限定されるものではない。これらは1種類あるいは2種以上併用して用いても差し支えない。
【0055】
ここで、第1実施形態に係るポリアミック酸組成物を用いて得られるポリイミドの好ましい構造としては、
【0056】
【化5】

【0057】
が挙げられる。
【0058】
上記ポリアミック酸の構造の分析方法について説明する。
まずポリアミック酸組成物の溶液に対してメタノールを加えて、ポリアミック酸の再沈殿物を得る。該再沈殿物を耐圧ビンに入れて、1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、100℃で2時間処理を行い、ポリアミック酸の加水分解物を得る。次にこの加水分解物をクロロホルムで抽出作業を行い、クロロホルム相の濃縮液から、赤外分光法および核磁気共鳴分光法、ガスクロマトグラフィー法によって分析し、ジアミン成分((I)ジアミン化合物由来)の構造および量を特定する。また、上記加水分解物のクロロホルム不溶相である水相を中和し、凍結乾燥後、乾燥固形分を得る。これにメタノールによる抽出作業を行い、その溶解物を、赤外分光法および核磁気共鳴分光法、ガスクロマトグラフィー法によって分析し、カルボン酸成分((II)テトラカルボン酸ジ無水物および(III)酸モノ無水物由来)の構造および量を特定する。
本明細書に記載のポリアミック酸が前記式(1)および式(2)を満たすか否かは、上記分析方法によって確認した。
【0059】
上記第1実施形態におけるポリアミック酸の分子量は、特に限定されるものではないが、上記一般式(1)におけるnとしては望ましくは50以上1000以下であることが好ましく、さらに望ましくは100以上500以下であり、特に望ましくは150以上300以下である。
【0060】
ここで、ユニット数nの測定は下記GPC法によって得られる重量平均分子量とポリアミック酸を構成するための原料のテトラカルボン酸ジ無水物1モルおよびジアミン1モルの分子量を合計して1ユニットの分子量を計算し、上記重量平均分子量を上記1ユニットの分子量で除してポリアミック酸のユニット数nが求められる。
【0061】
該GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)の例としては、装置として、東ソー(株)製:HLS−8120GPC(カラム:TSKgelシリーズ)、溶離液としてはN−メチルピロリドン(1mMの臭化リチウム、1mMの燐酸を添加)を用いて、測定を行う。ここで、ポリアミック酸は化学的に不安定であり、条件によっては解重合反応、すなわち分子量が低下するために注意が必要である。よって該GPC法でもサンプル作製から測定まで5時間程度で実施することが好ましい。
【0062】
(I)ジアミン化合物
第1実施形態において用いられる(I)ジアミン化合物としては、ポリアミック酸の重合反応に用いられる、分子構造中に2つのアミノ基を有する公知のジアミン化合物であれば特に限定されるものではなく、公知のものが用いられる。該ジアミン化合物は、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、5−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、6−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,5−ジアミノ−3’−トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5−ジアミノ−4’−トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,7−ジアミノフルオレン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)−ビフェニル、1,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−(p−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチル)フェノキシ]−オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4−ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]−ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミンおよび脂環式ジアミン等があげられる。これらのジアミン化合物は1種類あるいは2種以上併用して用いても差し支えない。
【0063】
ここで、上記(I)ジアミン化合物としては、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォンが好ましく用いられ、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルがより好ましく用いられる。
【0064】
(II)テトラカルボン酸ジ無水物
第1実施形態において用いられる(II)テトラカルボン酸ジ無水物としては、ポリアミック酸の重合反応に用いられる化合物であれば特に限定されるものではなく、公知のものが用いられる。該テトラカルボン酸ジ無水物としては、例えば、ピロメリット酸ジ無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸ジ無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジ無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸ジ無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸ジ無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸ジ無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸ジ無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸ジ無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィドジ無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホンジ無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパンジ無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸ジ無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイドジ無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)ジ無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)ジ無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテルジ無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタンジ無水物等があげられる。
【0065】
また、脂肪族のテトラカルボン酸ジ無水物としては、ブタンテトラカルボン酸ジ無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸ジ無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸ジ無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸ジ無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボナン−2−酢酸ジ無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸ジ無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジ無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸ジ無水物等の脂肪族または脂環式テトラカルボン酸ジ無水物;1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸ジ無水物等があげられる。これらのテトラカルボン酸ジ無水物は、1種類あるいは2種類以上併用して用いても差し支えない。
【0066】
ここで上記(II)テトラカルボン酸ジ無水物としては、芳香族系のテトラカルボン酸ジ無水物が好ましく、ピロメリット酸ジ無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸ジ無水物がより好ましく、ピロメリット酸ジ無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物が特に好ましい。
【0067】
(III)酸モノ無水物
第1実施形態において用いられる(III)酸モノ無水物としては、アミンと反応する公知の酸モノ無水物であれば特に限定されるものではなく公知のものが用いられる。該酸モノ無水物としては無水酢酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、2,3−ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、3,4−ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルエーテル無水物、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルエーテル酸無水物、2,3−ビフェニルジカルボン酸無水物、3,4−ビフェニルジカルボン酸無水物、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルスルホン無水物、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルスルホン無水物、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルスルフィド無水物、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルスルフィド無水物、1,2−ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物、1,2−アントラセンジカルボン酸無水物、2,3−アントラセンジカルボン酸無水物、1,9−アントラセンジカルボン酸無水物等があげられる。これらはその構造の一部がアミンまたはカルボン酸無水物と反応性を有しない範囲で置換されていても差し支えない。また、これらは酸モノ無水物は1種類あるいは2種類以上併用して用いても差し支えない。
【0068】
ここで、上記の(III)酸モノ無水物としては、無水マレイン酸、無水フタル酸が好ましい。
【0069】
[ポリアミック酸の重合方法]
第1実施形態で用いられるポリアミック酸は、(I)ジアミン化合物と、(II)テトラカルボン酸ジ無水物と、(III)酸モノ無水物と、を下記式(1)および下記式(2)を満たす量比で重合することによって得られる。
式(1) 0.970<Y/X<0.998
式(2) 0.00<Z/2(X−Y)<0.50
(上記式(1)および式(2)中、Xは前記ジアミン化合物の含有量(モル)を、Yは前記テトラカルボン酸ジ無水物の含有量(モル)を、Zは前記酸モノ無水物の含有量(モル)を表す。)
【0070】
また、既に述べた通り、上記ポリアミック酸のイミド化率を5.0%以上25.0%以下の範囲への制御は、下記に示す反応温度および/または重合時間の調整によって行われる。
【0071】
第1実施形態において用いられるポリアミック酸の重合方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法が用いられる。例えば、
・(I)ジアミン化合物と(II)テトラカルボン酸ジ無水物と(III)酸モノ無水物とを、前記式(1)および式(2)を満たす範囲で調合し、高温にして重合を無溶媒で行う溶解法
・(I)ジアミン化合物と(II)テトラカルボン酸ジ無水物と(III)酸モノ無水物とを、前記式(1)および式(2)を満たす範囲で調合し、さらに溶媒を加えて重合を行う溶液法
・(II)テトラカルボン酸ジ無水物をいったんアルコールで処理を施してジエステルジカルボン酸としたのちに重合を行うジエステルジカルボン酸法
をあげられる。ここで、望ましくは溶媒を用いる溶液法をあげられる。
【0072】
該溶媒としては公知の有機極性溶媒をもちいることができ、具体的には、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒;N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒;フェノール、o−、m−、またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ブチルセロソルブ等のセロソルブ系;およびヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げられる。
【0073】
ここで、(I)ジアミン化合物と(II)テトラカルボン酸ジ無水物と(III)酸モノ無水物とを溶媒に添加、重合する方法としては特に限定されるものではないが、例えば、
1)一段法:溶媒に(I)Xモル、(II)Yモル、(III)Zモルを混合して重合を行う方法
2)多段法:溶媒に(I)Xモルを溶解させた後、(II)Yモル、(III)Zモルを数段階に分けて徐々に添加する方法
3)ブレンド法:第一バッチで溶媒に(I)X/2モルを溶解させた後、(II)Y/2モルを混合して重合を行い、第二バッチで溶媒に(I)X/2モルを溶解させた後、(II)Y/2モル、(III)Zモルを混合して重合を行い、最終的に第一バッチ、第二バッチをブレンド混合する方法
等があげられる。すなわち、前記式(1)および式(2)の量比を満たす範囲であればどの方法であってもよく、例えば上記の1種類または2種類以上の組み合わせで行っても差し支えない。
【0074】
このとき、上記の溶解法における重合条件としては特に限定されるものではないが、好ましい反応温度としては、30℃以上90℃未満が好ましく、40℃以上80℃未満がより好ましく、50℃以上75℃未満が特に好ましい。その際の重合時間は、重合反応が十分進行すればよく、重合度の確認はGPC法(ゲル浸透クロマトグラフィー法)による分子量、分子量分布の測定や、より簡易的には溶液の粘度変化が一定となる時間が目安となる。例えば上記第1実施形態では、数時間から48時間程度である。
【0075】
またポリアミック酸の固形分濃度も特に限定されるものではないが、望ましくは5質量%以上50質量%以下であり、さらに望ましくは10質量%以上30質量%以下である。
【0076】
第1実施形態に係るポリアミック酸組成物においては、その目的を損なわない範囲において公知の各種添加剤、充填剤を添加してもよい。例えば、シリコン系消泡剤、酸性カーボンブラックやケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボンブラック、酸化チタンや酸化亜鉛、金属粉等の無機化合物、さらには脂肪酸エステル系の帯電防止剤、ポリアニリンなどの高分子導電化合物、また強化材や摺動材、熱伝導材、弾性付与材としてガラス繊維、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、PTFE、シリコンゴムなどがあげられる。
【0077】
<第2実施形態:ポリイミド無端ベルト>
第2実施形態に係るポリイミド無端ベルトは、前記第1実施形態に係るポリアミック酸組成物を、例えば円筒状基材の表面に塗布し、前記円筒状基材の表面に塗布されたポリアミック酸組成物に加熱処理を施す等の方法によって、ポリアミック酸をイミド転化することによって得られることを特徴とする。
【0078】
上記製造方法として、その一例を示す。先ず、前記第1実施形態に係るポリアミック酸組成物を円筒状基材の表面に塗布する。円筒状基材としては、円筒形金型が好ましく、金型の代わりに、樹脂製、ガラス製、セラミック製など、従来既知の様々な素材の成形型が、基材として良好に動作し得る。また、基材の表面にガラスコートやセラミックコートなどを設けること、シリコーン系やフッ素系の剥離剤を使用することも差し支えない。
【0079】
更に、円筒状基材に対するクリアランス調整がなされた膜厚制御用基材を、円筒状基材に通し平行移動させることで、余分な溶液を排除し円筒状基材の溶液の厚みのバラツキを低減することが好ましい。円筒状基材上への溶液塗布の段階で、溶液の厚みバラツキが抑制されていれば、特に膜厚制御用基材を用いなくてもよい。
円筒状基材の表面とは、円筒型の基材の内面/外面のいずれも使用し得る。
【0080】
ここで、第1実施形態に係るポリアミック酸組成物を円筒状基材の表面に塗布するときに用いる塗布溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−、またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらを単独または混合物として用いるのが好ましい。更にはキシレン、トルエンの如き芳香族炭化水素を使用してもよい。溶媒は、ポリアミック酸およびポリアミック酸−ポリイミド共重合体を溶解するものであれば特に限定されない。
【0081】
該塗布溶媒は、第1実施形態に係るポリアミック酸合成時から使用しても、ポリアミック酸重合後に溶媒に置換してもよい。溶媒の置換には、ポリアミック酸溶液に溶剤を添加して希釈する方法、ポリマーを再沈殿した後に溶媒中に再溶解させる方法、溶剤を徐々に留去しながら溶媒を添加して組成を調整する方法のいずれでもよい。
【0082】
次に、ポリアミック酸組成物を塗布した円筒状基材を、加熱環境に置き、含有溶媒の望ましくは20質量%以上、より望ましくは60質量%以上を揮発させるための乾燥を行う。この際、溶媒は膜中に残留していても構わず、塗膜表面が乾燥し、傾けても流動しない状態であれば問題ない。乾燥温度は、50℃以上200℃以下の温度範囲で乾燥を行うことが好ましい。
【0083】
乾燥終了後、ポリアミック酸組成物をイミド転化させる。イミド転化は、ポリアミック酸組成物を塗布した円筒状基材を加熱し、イミド転化反応を十分に進行させることが好ましい。この際の加熱温度は、得られるポリイミドのガラス転移温度以上であれば問題ないとされているが、原料のテトラカルボン酸ジ無水物およびジアミンの種類によってそれぞれ異なり、イミド化が完結する温度、すなわち得られるポリイミドのガラス転移温度以上に設定することが好ましい。例えば、60℃以上500℃以下とされ、望ましくは100℃以上400℃以下とされる。
【0084】
一方、イミド転化として、以下の化学的イミド化を施してもよい。化学的イミド化の方法は、ポリアミック酸組成物中に脱水剤および/または触媒を添加し化学的にイミド化反応を進行させる。脱水剤は、1価カルボン酸無水物であれば特に限定はされない。例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、ブタン酸無水物およびシュウ酸無水物などの酸無水物から選ばれ、1種類または2種類以上を用いてもよい。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対して0.01モル以上2モル以下とするのが好ましい。
【0085】
前記触媒としては、例えばピリジン、ピコリン、コリジン、ルチジン、キノリン、イソキノリン、トリエチルアミンなどの3級アミンから選ばれる1種類または2種類以上を用いてもよいが、これらに限定されるものではない。触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01モル以上2モル以下とするのが好ましい。
【0086】
この化学的イミド化反応は、ポリアミック酸溶液中に脱水剤および/または触媒を添加し、必要に応じて加熱することにより行われる。脱水閉環の反応温度は、通常0℃以上180℃以下、望ましくは60℃以上150℃以下とされる。
【0087】
ポリアミック酸に作用させた脱水剤および/または触媒は除去しなくともよいが、以下の方法で除去してもよい。作用させた脱水剤および/または触媒を除去する方法としては、減圧加熱や再沈殿法等が用いられる。減圧加熱は、真空下80℃以上120℃以下の温度で行われ、触媒として使用される3級アミン、未反応の脱水剤および加水分解されたカルボン酸を留去する。また、再沈殿法は、触媒、未反応の脱水剤および加水分解されたカルボン酸を溶解させ、ポリアミック酸−ポリイミド共重合体は溶解させない貧溶媒を用い、この貧溶媒の大過剰中に、反応液を加えることによって行われる。貧溶剤としては、特に制限はなく、水や、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶剤、アセトンやメチルエチルケトンの如きケトン系溶剤、ヘキサンなどの如き炭化水素系溶剤、などが使用され得る。析出するポリアミック酸−ポリイミド共重合体は、ろ別乾燥後、再度γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に溶解させる。
【0088】
その後、円筒状基材から樹脂を取り外し、目的のポリイミド無端ベルトが得られる。
【0089】
以上、第2実施形態に係るポリイミド無端ベルトの製造方法について説明したが、これらの実施の態様のみに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき、種々なる改良、変更、修正を加えた態様で実施しうるものである。尚、円筒状基材から取り外さずにロールとして用いてもよい。
【0090】
[フッ素樹脂層]
上述の第2実施形態に係るポリイミド無端ベルトは、更に表面にフッ素樹脂層を有する態様としてもよい。上記フッ素樹脂層は、離型性を付与する観点で設けられ、特に第2実施形態に係るポリイミド無端ベルトを画像形成装置における定着部材として用いる際にトナーに対する離型性に優れる。
【0091】
・「第1実施形態に係るポリアミック酸をイミド転化させたポリイミド無端ベルト」と「フッ素樹脂層」との組合せ
第1実施形態に係るポリアミック酸組成物は、酸モノ無水物によってポリアミック酸の末端基、即ち親水基であるアミノ末端が適度に封鎖され、さらに予めイミド化率がある程度上昇されている。その結果、ポリアミック酸の主鎖中のカルボキシル基が比較的少なくなっているものと推察され、適量の反応基を有することにより、フッ素樹脂との密着性に優れる効果が得られるものと推察される。
【0092】
上記フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等があげられる。また該フッ素樹脂には、カーボン粉末が分散含有されていてもよい。
【0093】
上記フッ素樹脂層の形成方法としては、特に限定されるものではなく公知の方法が用いられる。フッ素樹脂層を有する場合の無端ベルトの製造方法の一例としては、前記第1実施形態に係るポリアミック酸組成物を、例えば円筒状基材の表面に塗布して塗布膜を形成し、さらに該ポリアミック酸組成物の塗布膜上にフッ素樹脂を含む水性の分散液を塗布して積層体とし、その後加熱・焼成処理を施す等の方法によって、ポリアミック酸をイミド転化することによって得られる。
フッ素樹脂層の厚さとしては、20μm以上30μm以下の範囲が好ましい。
【0094】
また、塗布したポリアミック酸組成物とフッ素樹脂との密着性が不足する場合には、必要に応じて、ポリアミック酸の層に対してプライマー層をあらかじめ塗布形成することも差し支えない。
前記プライマー層を形成する材料としては、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリイミドおよびこれらの誘導体が挙げられ、さらに上記したフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種類以上の化合物を含むことが好ましい。また、プライマー層の厚さは0.5μm以上10μm以下の範囲が好ましい。
【0095】
以上、フッ素樹脂層を有するポリイミド無端ベルトの製造方法について説明したが、これらの実施の態様のみに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき、種々なる改良、変更、修正を加えた態様で実施しうるものである。尚、円筒状基材から取り外さずにロールとして用いてもよい。
【0096】
<第3実施形態:画像形成装置>
第3実施形態に係る画像形成装置は、無端ベルトを1本以上搭載し、前記1本以上の無端ベルトのうち、少なくとも1本が、前記第2実施形態に係るポリイミド無端ベルトであることを特徴とする。なお、第2実施形態に係るポリイミド無端ベルトは、電子写真複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ、これらの複合装置といった電子写真方式の画像形成装置における中間転写ベルト、転写搬送ベルト、搬送ベルト、定着ベルトなど種々の用途に供される。
【0097】
ここで、第3実施形態に係る画像形成装置の構成としては、無端ベルトを少なくとも1本以上搭載したものであれば、公知の構成を採用してもよい。例えば、像保持体と、像保持体表面を帯電する帯電手段と、像保持体表面を露光し静電潜像を形成する露光手段と、像保持体表面に形成された静電潜像を現像剤にて現像しトナー像を形成する現像手段と、像保持体表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写手段と、記録媒体表面に転写されたトナー像を定着する定着手段と、トナー像を記録媒体に転写した後の像保持体表面に付着したトナーやゴミ等の付着物を除去するクリーニング手段と、を備えたものが挙げられ、必要に応じてその他公知の手段を更に備えていてもよい。
【0098】
以下、第3実施形態に係る画像形成装置の一例を挙げて、更に詳細に説明する。
図1は、中間転写装置および定着装置を有する画像形成装置の概略構成図である。該画像形成装置は、中間転写ベルト2および定着ベルト52を備えており、何れも前記ポリイミド無端ベルトが適用されている。
【0099】
上記画像形成装置は、トナー像の保持体である像保持体(感光体)1、像保持体1にトナーを供給する現像装置6、循環して像保持体1上のトナーを一次転写位置から二次転写位置へ搬送する中間転写ベルト2、像保持体1上のトナーを一次転写位置で中間転写ベルト2に転写する転写電極である導電性ロール25、二次転写位置で中間転写ベルト2のトナー像が保持された表面側に設置された転写電極であるバイアスロール3、バイアスロール3を中間転写ベルト2を挟んで対向するように配置したバックアップロール22、バックアップロール22に接触して回転する電極ロール26、中間転写ベルト2を支持して中間転写ベルト2の循環をガイドする支持ロール21、23、24、記録媒体41、記録媒体41を供給する記録媒体貯蔵部4、記録媒体貯蔵部4から記録媒体41を供給する供給ロール42、トナー像が転写された記録媒体41が搬送される通路である搬送路43、および定着ベルト52を備えた定着装置5を有する。また、中間転写ベルト2は、バックアップロール22および支持ロール21、23、24によって支持され、ベルト支持装置28を形成している。
【0100】
この画像形成装置の動作について以下に説明する。
像保持体1は、矢印A方向に回転し、図示しない帯電装置によって表面が帯電される。その帯電された像保持体1には、図示しない画像書き込み装置によってレーザが照射されて静電潜像が形成される。
【0101】
この静電潜像が現像装置6によって供給されたトナーにより可視化されて、トナー像Tが形成される。トナー像Tは、像保持体1の回転によって導電性ロール25が配置された一次転写位置に到り、導電性ロール25からトナー像Tのトナーが帯びている電荷とは逆極性の電圧が印加されて、静電的に中間転写ベルト2に吸着される。中間転写ベルト2は、一次転写位置で像保持体1表面と接しながら矢印B方向へ移動するので、像保持体1上のトナー像Tは、その移動とともに中間転写ベルト2上に順次吸着されて一次転写される。中間転写ベルト2上に転写されたトナー像は、中間転写ベルト2の循環によってバイアスロール3が設置された二次転写位置に搬送される。
【0102】
記録媒体41が、記録媒体貯蔵部4から供給ロール42によって予め決められたタイミングで二次転写位置の中間転写ベルト2とバイアスロール3とで形成される領域に給送される。トナー像をのせた中間転写ベルト2が、その二次転写位置で、バイアスロール3およびバックアップロール22により記録媒体41に接触されつつ、電極ロール26からバックアップロール22を通してそのトナー像の極性と同極性の電圧が印加されることにより、そのトナー像は記録媒体41に吸着される。中間転写ベルト2は二次転写位置で記録媒体41とともに矢印Bの方向に循環するように移動するため、中間転写ベルト2上のトナー像は、その移動とともに記録媒体41に順次吸着されて二次転写される。
【0103】
トナー像が転写された記録媒体41は、搬送路43を通り定着装置5に搬送される。記録媒体41上のトナー像は、以下に図2とともに詳細に示すように、定着装置5によって加圧/加熱処理されて記録媒体41上に定着される。
【0104】
図2は、図1に示す画像形成装置の定着装置を拡大して示す概略構成図である。
定着装置5は、内部に加熱源を有する中空ロール(例えば、内部にハロゲンランプからなる加熱源を有するアルミニウム製中空ロール)51a、弾性層(例えば、中空ロール51aの表面上に積層された液状シリコンゴム(Liquid silicone Rubber)を硬化させた弾性層)51b、および耐熱離型耐油層(例えば、弾性層51bの表面にフッ素ゴムを塗布した耐熱離型耐油層)51cとで構成された、矢印C方向に回転するように駆動される定着ロール51、定着ロール51の駆動にともない矢印Dの方向に循環するように従動する定着ベルト52(第2実施形態に係るポリイミド無端ベルト)、定着ベルト52を定着ロール51に接触して広い接触幅の接触領域Nを形成する加圧パッド(加圧部材/例えば、金属製台座上にシリコンゴムを一体成型してなる加圧パッド)56、定着ベルト52を支える第1の支持ロール54、接触領域Nから定着ベルト52の循環の上流側に位置して定着ベルト52を支えるとともに加熱部を有して定着ベルト52を予備加熱する第2の支持ロール55、接触領域Nから定着ベルト52の循環の下流側に位置して定着ベルト52を支える圧力ロール53、接触領域Nを通過した記録媒体41を定着ベルト52から分離する用紙分離爪59を備える。定着ベルト52の接触領域Nと接する部分は、第2の支持ロール55と圧力ロール53に張架されており、圧力ロール53は図示しないコイルスプリングにより定着ロール51中心にむけて加圧されている。
【0105】
また、定着装置5は、定着ロール51に接触して定着ロール51表面の残留トナーを拭き取るクリーニング手段57、および定着接触上流で定着ロール51に接触して離型剤を塗布する離型剤塗布手段58を備える。
【0106】
定着装置5の動作を以下に説明する。
未定着トナーを表面に載せた記録媒体41は、図1の搬送路43を経由して定着ベルト52の第2の支持ロール55上に搬送される。記録媒体41は未定着トナーとともに第2の支持ロール55により予備加熱される。第2の支持ロール55から接触領域Nまで定着ベルト2は水平にのびる部分を有し、その水平にのびる部分によって記録媒体41が矢印Eの方向に接触領域Nまで搬送される。接触領域Nを未定着トナー像の付着した記録媒体41が通過する際、定着ロール51がその未定着トナー像を加熱および加圧することによりその未定着トナー像を記録媒体41上に定着させる。定着ロール51には離型剤塗布手段58によって離型剤が塗布されているため、未定着トナー像は記録媒体41に効率良く定着されるが、記録媒体41に定着されずに定着ロール51の表面に付着したトナーが存在すれば、そのトナーはクリーニング手段57によって拭き取られる。トナーが定着された記録媒体41は、接触領域Nを通過した後用紙分離爪59位置まで搬送され、用紙分離爪59によって定着ベルト52から分離され、定着装置5の下流に存在する図示しない排紙部に排出される。
尚、既に述べた通り、図2に示す定着装置5においては、定着ベルト52として第2実施形態に係るポリイミド無端ベルトが用いられている。
【0107】
・「第1実施形態に係るポリアミック酸をイミド転化させたポリイミド無端ベルト」と「定着装置」との組合せ
第1実施形態に係るポリアミック酸組成物をイミド転化して得たポリイミド無端ベルトは、強靭性に優れるため、定着装置に組み込むことによってその定着部としての耐久性の向上が期待される。またさらに、フッ素樹脂層を有するベルトを用いることによって、印字性の向上が期待される。
【0108】
また、第2実施形態に係るポリイミド無端ベルトを用いた定着装置の他の一例を示す。
図3は、該定着装置の他の一例を示す概略断面図である。図3において、150は、基体150a上にシリコーンゴム等による弾性層150bを形成し、更にその上層にフッ素樹脂等からなる離型層150cを形成した加熱ロールである。加熱ロール150の内部には、ヒータランプ152が内蔵されている。一方加圧ベルト159の内側には、加圧ベルト159を加熱ロール150に押しつける加圧パッド158が配されニップ部を形成しており、また加圧ベルト159は張架ロール等による張架はされずテンションフリーの状態になっている。加圧パッド158は、例えば、シリコーンゴムベース上にシリコーンスポンジを載せ、更にその上にフッ素樹脂製のシートを被せたもの等が用いられる。
【0109】
加熱ロール150は矢印B方向に回転し、それにつれて加圧ベルト159も矢印C方向に従動回転し、ガイド156により加圧ベルト159の回転の軌道が一定に保持される。未定着トナー像154が形成された記録材155は矢印A方向に、上記定着装置のニップ部に挿通され、加熱溶融および加圧されトナー像が定着される。
【0110】
また、第3実施形態に係る画像形成装置の他の一例を示す。
図4は、中間転写定着装置を有する画像形成装置の概略構成図である。該画像形成装置は、中間転写ベルトと定着ベルトの両方の機能を兼ねる中間転写定着ベルト61(第2実施形態に係るポリイミド無端ベルト)を備えており、該中間転写定着ベルト61として前記ポリイミド無端ベルトが適用されている。
【0111】
上記画像形成装置では、中間転写定着ベルト61は駆動ロール62、ガイドロール63、64、テンションロール65、および加熱ローラ(定着ロール)66に支持され、ベルト支持装置70を形成している。駆動ロール62と加熱ローラ66とで形成される領域においては、それぞれ異色トナー画像が形成された四個の感光体ドラム67A、67B、67C、67Dが接し、それに対向して転写器68A、68B、68C、68Dが配置され、加熱ローラ66には加圧ローラ(加圧部材)69が接触配置されている。
【0112】
上記構成において、中間転写定着ベルト61には四個の感光体ドラム67A、67B、67C、67Dから各色のトナー画像が一次転写され、加熱ローラ66と加圧ローラ69とで挟まれる領域には記録媒体Pが送り込まれ、中間転写定着ベルト61上の多色トナー画像は記録媒体P上に二次転写されると共に加熱定着される。
【実施例】
【0113】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の製造例、実施例、比較例において記載した評価は、以下の方法により実施した。
【0114】
(1)ポリアミック酸溶液の粘度測定
東機産業(株)製TV−20形粘度計コーンプレートタイプを用いて、測定温度25℃で測定した。
【0115】
(2)ポリアミック酸のイミド化率測定
前述の方法により測定した。
【0116】
(3)ポリイミド無端ベルトの作製方法
外径90mm、長さ450mmのSUS材料製円筒型金型を用意し、その外表面にシリコーン系離型剤を塗布・乾燥処理を行った(離型剤処理)。離型剤処理を施した円筒型金型を周方向に10rpmの速度で回転させながら、ポリアミック酸溶液を口径1.0mmディスペンサーより吐出しながら、金型上に設置した金属ブレードにて押し付けながら塗布を行った。ディスペンサーユニットを円筒型金型の軸方向に100mm/分の速度で移動させることによって円筒型金型上に螺旋状にポリアミック酸溶液を塗布した。塗布後、ブレードを解除して円筒型金型を2分間回転し続けレベリングを行った。
【0117】
その後、金型および塗布物を乾燥炉中で150℃空気雰囲気下、10rpmで回転させながら1時間乾燥処理を行った。乾燥後、クリーンオーブン中で、380℃、2時間焼成処理を行い、イミド化反応を進行させた。その後、金型を25℃にして、金型から樹脂を取り外し、目的のポリイミド無端ベルトを得た。
【0118】
尚、以下の製造例、実施例、比較例に用いた原料としては下記に示すものを用いた。
・重合溶媒/N−メチル−2−ピロリドン(以降NMPと略す)
・ジアミン化合物/p−フェニレンジアミン(以降PDAと略す)
・テトラカルボン酸ジ無水物/3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物(以降BPDAと略す)
・酸モノ無水物/無水フタル酸(以降PAと略す)
【0119】
〔実施例1〕
・ポリアミック酸溶液の調製
1Lセパラブルフラスコに、PDA54.719g(0.5060モル)、NMP600gを混合して70℃に加熱、攪拌した。さらにBPDA145.344g(0.4940モル)、PA0.1481g(0.0010モル)をNMP200gと加えてスラリーとして、該スラリーを、30分かけて徐々に滴下した。その後、70℃で、攪拌を行ったまま24時間重合反応を行った。その後、溶液を#800のステンレスメッシュを用いてろ過してポリアミック酸溶液を得た。上記において、Y/X=BPDAモル量/PDAモル量=0.976、Z/2(X−Y)=PAモル量/2(PDAモル量−BPDAモル量)=0.04であった。またイミド化率は上記の方法によって測定した。
【0120】
・ポリイミド無端ベルトの作製
上記実施例1のポリアミック酸溶液を用い、上記に示す方法でポリイミド無端ベルトを作製した。また、後述の方法により評価試験を行った評価結果を表1に示す。
【0121】
〔実施例2〜15および比較例1〜16〕
表1〜表4に示す(I)ジアミン化合物、(II)テトラカルボン酸無水物、(III)酸モノ無水物を、表1〜表4に表記の量、表記の反応温度、表記の反応時間で用いた以外は実施例1に記載の方法によりポリアミック酸溶液を調製し、且つポリイミド無端ベルトを作製した。評価結果を表1〜表4に示す。
【0122】
(評価)
−ポリアミック酸溶液の安定性評価(粘度変化率(%))−
ポリアミック酸溶液を50mlのサンプル瓶に10gを秤量し密封した後、23℃±5℃の状態で放置し、その粘度を上記(1)の方法で測定した。なお、測定値としては変化率%=(30日放置後の粘度)/(ポリアミック酸溶液作製直後の粘度)×100で表し、100%に近いほうが安定性に優れることを示す。
【0123】
−ポリイミド無端ベルトの引張り試験(強度、伸度)−
イコーエンジニアリング(株)製1605Nを用いて、チャック間距離40mm、引張り速度20mm/min.条件で、JIS−K7127(1987年)に準じて測定した。尚、サンプルはポリイミド無端ベルトより5mm×60mmを切り出して測定に用いた。
【0124】
−ポリイミド無端ベルトのMIT試験(耐折度)−
安田精機製作所(株)製MIT耐折度試験機を用いて、JIS−C5016(1994年)に準じ、引張り荷重1.0kg、屈折角度135°の条件で試験片に対して、往復折り曲げ試験を行った。尚、サンプルはポリイミド無端ベルトから150mm×15mmを切り出して測定に用いた。
【0125】
〔実施例16〕
・ポリアミック酸溶液の調製
1Lセパラブルフラスコに、PDA54.049g(0.4998モル)、NMP600gを混合して70℃に加熱、攪拌した。さらにBPDA145.951g(0.4961モル)、PA0.2800g(0.0019モル)をNMP200gと加えてスラリーとして、該スラリーを、30分かけて徐々に滴下した。その後、70℃で、攪拌を行ったまま24時間重合反応を行った。その後、溶液を#800のステンレスメッシュを用いてろ過してポリアミック酸溶液を得た。上記において、Y/X=BPDAモル量/PDAモル量=0.9925、Z/2(X−Y)=PAモル量/2(PDAモル量−BPDAモル量)=0.25であった。また、イミド化率は12.0であった。
【0126】
・ポリイミド無端ベルトの作製
前述の(3)ポリイミド無端ベルトの作製方法には準じず、以下の方法によりポリイミド無端ベルトを作製した。
外径30mm、長さ500mmのSUS材料製円筒型金型を用意し、その外表面に離型剤KS−700(信越シリコーン社製)をスプレー塗布し、300℃にて1時間の焼き付け、離型材処理を行った。離型剤処理を施した円筒型金型を周方向に10rpmの速度で回転させながら、ポリアミック酸溶液を口径1.0mmディスペンサーより吐出しながら、金型上に設置した金属ブレードにて押し付けながら塗布を行った。ディスペンサーユニットを円筒型金型の軸方向に100mm/分の速度で移動させることによって円筒型金型上に螺旋状にポリアミック酸溶液を塗布した。塗布後、ブレードを解除して円筒型金型を2分間回転し続けレベリングを行った。その後、金型および塗布物を乾燥炉中で150℃空気雰囲気下、10rpmで回転させながら1時間乾燥処理を行い、ポリアミック酸の乾燥膜を形成した。
【0127】
上記方法により形成されたポリアミック酸の乾燥膜に対し、フッ素樹脂を積層するためにディップ塗布を行い積層体を形成した。尚、フッ素樹脂としては、フッ素樹脂分散液であるPFA水性塗料(商品名:710CL、三井デュポンフロロケミカル社製、濃度60質量%、粘度0.6Pa・s)を用い、塗布の際の引き上げ速度は200mm/分とした。
【0128】
次に、得られた上記積層体を、オーブン中で150℃で20分、220℃で20分、さらに380℃で30分加熱処理を行い、イミド化反応およびフッ素樹脂の焼成を行った。その後、金型から樹脂を取り外し、目的のポリイミド−フッ素樹脂積層無端ベルトを得た。
【0129】
該ポリイミド−フッ素樹脂積層無端ベルトを富士ゼロックス社製DocuCenterColor400CPの定着装置における定着ベルトとして組み込み、20万枚までのランニングテストを実施した。その結果、ランニング初期および20万枚のランニング後のいずれにおいても、紙しわやベルト端部の破損、さらには画像不良のいずれも発生することはなかった。
【0130】
〔比較例17〕
1Lセパラブルフラスコに、PDA54.049g(0.4998モル)、NMP600gを混合して70℃に加熱、攪拌した。さらにBPDA145.951g(0.4961モル)、PA1.1150g(0.0075モル)をNMP200gと加えてスラリーとして、該スラリーを、30分かけて徐々に滴下した。その後、70℃で、攪拌を行ったまま24時間重合反応を行った。その後、溶液を#800のステンレスメッシュを用いてろ過してポリアミック酸溶液を得た。上記において、Y/X=BPDAモル量/PDAモル量=0.9925、Z/2(X−Y)=PAモル量/2(PDAモル量−BPDAモル量)=1.00であった。また、イミド化率は12.0であった。
【0131】
該ポリアミック酸を用いたこと以外は実施例16に記載の方法によりポリイミド−フッ素樹脂積層無端ベルトを作製し、実施例16に記載のランニングテストを実施した。その結果、4万枚のランニング後にベルト端部の破損が発生した。またその際、印字物には紙しわ、印字むらが発生した。
【0132】
〔比較例18〕
1Lセパラブルフラスコに、PDA54.049g(0.4998モル)、NMP600gを混合して70℃に加熱、攪拌した。さらにBPDA145.951g(0.4961モル)、PA0.5550g(0.0037モル)をNMP200gと加えてスラリーとして、該スラリーを、30分かけて徐々に滴下した。その後、70℃で、攪拌を行ったまま24時間重合反応を行った。その後、溶液を#800のステンレスメッシュを用いてろ過してポリアミック酸溶液を得た。上記において、Y/X=BPDAモル量/PDAモル量=0.9925、Z/2(X−Y)=PAモル量/2(PDAモル量−BPDAモル量)=0.50であった。また、イミド化率は12.0であった。
【0133】
該ポリアミック酸を用いたこと以外は実施例16に記載の方法によりポリイミド−フッ素樹脂積層無端ベルトを作製し、実施例16に記載のランニングテストを実施した。その結果、13万枚のランニング後にベルト端部の破損が発生した。またその際、印字物には紙しわ、印字むらが発生した。
【0134】
〔実施例17〕
<ポリイミドとフッ素樹脂の剥離>
実施例16に記載の方法により作製したポリイミド−フッ素樹脂積層無端ベルトから20mm×40mmの短冊片を切り出した。さらに、該短冊片の端部10mmにおけるポリイミドとフッ素樹脂の層とをカッターを用いて剥離させたサンプルを作製した。
【0135】
イコーエンジニアリング(株)製1605Nを用いて、上記サンプルの剥離させた端部のポリイミドとフッ素樹脂の層をチャック間距離10mmでチャックにはさんで、引張り速度5mm/min.でポリイミドとフッ素樹脂の層それぞれを上下に引っ張り剥離させた。そのときの最大荷重は6.91Nであった。
【0136】
〔比較例19〕
<ポリイミドとフッ素樹脂の剥離>
比較例17に記載の方法により作製したポリイミド−フッ素樹脂積層無端ベルトを用いて、実施例17に記載の方法によりポリイミドとフッ素樹脂の層の引張りによる剥離を行なった。そのときの最大荷重は5.95Nであった。
【0137】
〔比較例20〕
<ポリイミドとフッ素樹脂の剥離>
比較例18に記載の方法により作製したポリイミド−フッ素樹脂積層無端ベルトを用いて、実施例17に記載の方法によりポリイミドとフッ素樹脂の層の引張りによる剥離を行なった。そのときの最大荷重は6.18Nであった。
【0138】
【表1】

【0139】
【表2】

【0140】
【表3】

【0141】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】中間転写ベルト、定着ベルトとしてポリイミド無端ベルトを適用した、第3実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【図2】図1に記載の第3実施形態に係る画像形成装置の定着装置を拡大して示す概略構成図である。
【図3】第3実施形態に係る画像形成装置の定着装置の他の一例を示す概略断面図である。
【図4】中間転写定着ベルトとしてポリイミド無端ベルトを適用した、第3実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0143】
1 像保持体
2 中間転写ベルト
3 バイアスロール
4 記録媒体貯蔵部
5 定着装置
6 現像装置
21、23、24 支持ロール
22 バックアップロール
25 導電性ロール
26 電極ロール
28、70 ベルト張架装置
41、P 記録媒体
42 供給ロール
43 搬送路
51 定着ロール
51a 中空ロール
51b 弾性層
51c 耐熱離型耐油層
53 圧力ロール
54 第1の支持ロール
55 第2の支持ロール
56 加圧パット
57 クリーニング手段
58 離型剤塗布手段
59 用紙分離爪
61 中間転写定着ベルト
62 駆動ロール
63、64 ガイドロール
65 テンションロール
66 加熱ローラ
67A、67B、67C、67D 感光体ドラム
68A、68B、68C、68D 転写器
69 加圧ローラ
150 加熱ロール
152 ヒータランプ
154 未定着トナー
155 記録材
156 ガイド
158 加圧パッド
159 加圧ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン化合物とテトラカルボン酸ジ無水物と酸モノ無水物とが、下記式(1)および下記式(2)を満たす量比で反応し、且つイミド化率が5.0%以上25.0%以下であるポリアミック酸を含有するポリアミック酸組成物。
式(1) 0.970<Y/X<0.998
式(2) 0.00<Z/2(X−Y)<0.50
(上記式(1)および式(2)中、Xは前記ジアミン化合物の含有量(モル)を、Yは前記テトラカルボン酸ジ無水物の含有量(モル)を、Zは前記酸モノ無水物の含有量(モル)を表す。)
【請求項2】
前記ジアミン化合物が、p−フェニレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のポリアミック酸組成物。
【請求項3】
前記テトラカルボン酸ジ無水物が、ピロメリット酸ジ無水物および3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物から選ばれる少なくとも一種である請求項1または請求項2に記載のポリアミック酸組成物。
【請求項4】
前記酸モノ無水物が、無水マレイン酸および無水フタル酸から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のポリアミック酸組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のポリアミック酸組成物に含まれるポリアミック酸をイミド転化してなるポリイミド無端ベルト。
【請求項6】
表面にフッ素樹脂層を有する請求項5に記載のポリイミド無端ベルト。
【請求項7】
複数の支持ロールと、該複数の支持ロールによって支持される請求項5または請求項6に記載のポリイミド無端ベルトと、を具備するベルト支持装置。
【請求項8】
定着ロールと、
前記定着ロールに接触して配置される請求項5または請求項6に記載のポリイミド無端ベルトと、
前記ポリイミド無端ベルトを前記定着ロールに接触するよう加圧する加圧部材と、
を具備する定着装置。
【請求項9】
請求項5または請求項6に記載のポリイミド無端ベルトを具備する画像形成装置。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−215709(P2010−215709A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61346(P2009−61346)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】