説明

ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料、絶縁電線、及びコイル

【課題】耐部分放電特性に優れた絶縁皮膜を形成することができ、かつ塗装作業性及びコストパフォーマンスに優れたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料、及びそれを用いて形成された絶縁電線、並びにその絶縁電線を用いて形成されたコイルを提供する。
【解決手段】熱架橋性の反応基を有するポリアミック酸と、熱架橋性の反応基を有するアミド化合物と、を含むポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を提供する。このポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記ポリアミック酸は、少なくともジアミン成分、テトラカルボン酸二無水物、及び架橋剤を原料として合成される酸である。前記架橋剤は、アミノ基又は無水酸基、及び熱架橋性の反応基を有する。また、前記アミド化合物は、少なくともカルボン酸化合物とジイソシアネート成分を原料として合成される化合物である。前記カルボン酸化合物は、前記ポリアミック酸に含まれる前記架橋剤と架橋反応可能な熱架橋性の反応基を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料、絶縁電線、及びコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いて形成された絶縁皮膜を有する絶縁電線が知られている(例えば、特許文献1参照)。ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、アミド基とイミド基をほぼ半々の比率で含む、耐熱性、機械的特性、耐加水分解性等に優れた耐熱高分子樹脂である。
【0003】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、一般にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)等の極性溶媒中における、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とトリメリット酸無水物(TMA)との主に2成分による脱炭酸反応により生成される。
【0004】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の製造方法として、例えばイソシアネート法や酸クロライド法などが知られているが、製造生産性の観点から、一般的にはイソシアネート法が用いられている。
【0005】
また、ポリアミドイミド樹脂の特性を改質するために、芳香族ジアミンと芳香族トリカルボン酸無水物とを50/100〜80/100の酸過剰下で反応させた後、ジイソシアネート成分でポリアミドイミド樹脂を合成する方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
一方、ポリアミドイミド樹脂の欠点の一つに、誘電率が高く、絶縁電線の絶縁皮膜の材料として用いた場合に部分放電が発生し易いことが挙げられる。この高い誘電率の要因は、ポリアミドイミド樹脂に含まれる極性の大きいアミド基とイミド基の存在にあるため、ポリアミドイミド樹脂の分子の繰り返し単位当たりのアミド基とイミド基の数を低減するために、ポリアミドイミド樹脂の原料として分子量の大きいモノマーを用いる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3496636号公報
【特許文献2】特許第2897186号公報
【特許文献3】特開2009−161683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ポリアミドイミド樹脂中の極性の大きいアミド基とイミド基の数を低減すると、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の溶剤への溶解性が低下し、樹脂の固化又は析出が発生し易くなる。ポリアミドイミド樹脂の固化又は析出が生じた場合、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の塗装作業性が大きく低下するおそれがある。
【0009】
この問題の対策として、ポリアミドイミド樹脂の不揮発成分濃度を小さくすることが考えられるが、樹脂の不揮発成分濃度を小さくしてしまうと、従来と同等の厚さの絶縁皮膜を得るためには塗料を塗装する回数を増やす必要があり、コストが増加してしまう。なお、大幅にコストが増加しない程度の不揮発成分濃度(20質量%以上)のポリアミドイミド樹脂を用いる場合は、温度30℃、湿度50%の環境下で少なくとも30分以上は樹脂の固化、析出を抑制しなければならない。
【0010】
したがって、本発明の目的の一つは、耐部分放電特性に優れた絶縁皮膜を形成することができ、かつ塗装作業性及びコストパフォーマンスに優れたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料、及びそれを用いて形成された絶縁電線、並びにその絶縁電線を用いて形成されたコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の一態様によれば、上記目的を達成するため、熱架橋性の反応基を有するポリアミック酸と、熱架橋性の反応基を有するアミド化合物と、を含むポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が提供される。このポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記ポリアミック酸は、少なくともジアミン成分、テトラカルボン酸二無水物、及び架橋剤を原料として合成される酸である。前記架橋剤は、アミノ基又は無水酸基、及び熱架橋性の反応基を有する。また、前記アミド化合物は、少なくともカルボン酸化合物とジイソシアネート成分を原料として合成される化合物である。前記カルボン酸化合物は、前記ポリアミック酸に含まれる前記架橋剤と架橋反応可能な熱架橋性の反応基を有する。
【0012】
(2)上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記アミド化合物は、分子内にイミド基を含むことが好ましい。
【0013】
(3)上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記アミド化合物は、少なくとも前記カルボン酸化合物、前記ジイソシアネート成分、及びトリメリット酸無水物を原料として合成される化合物であることが好ましい。
【0014】
(4)上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記アミド化合物の数平均分子量Mnが5000以下であることが好ましい。
【0015】
(5)上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記ポリアミック酸と前記アミド化合物の重量比が99:1〜30:70であることが好ましい。
【0016】
(6)また、本発明の他の態様によれば、導体と、前記導体上、又は前記導体上の他の皮膜上に、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いて形成された絶縁皮膜と、を含む絶縁電線が提供される。
【0017】
(7)また、本発明の他の態様によれば、上記(6)に記載の絶縁電線を用いて形成されたコイルが提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、耐部分放電特性に優れた絶縁皮膜を形成することができ、かつ塗装作業性及びコストパフォーマンスに優れたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料、及びそれを用いて形成された絶縁電線、並びにその絶縁電線を用いて形成されたコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る絶縁電線の断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態]
本実施の形態のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、銅等の導体上、又は導体上の他の皮膜上に塗布、焼付けされることにより、絶縁電線の絶縁皮膜を形成することができる。
【0021】
絶縁電線の導体としては、丸線、平角線など多様な形状の導体を用いることができる。また、この絶縁皮膜の上下には密着性向上のための密着層など他の皮膜を用いてもよく、また絶縁皮膜の上に自己潤滑層や自己融着層を設けてもよい。
【0022】
また、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、フイルム、基板等の導線以外の部材の上に塗布、焼付けされた場合であっても絶縁皮膜を形成することができる。
【0023】
図1は、実施の形態に係る絶縁電線の断面の一例を表す。本実施の形態に係る絶縁電線1は、導体10と、導体10を被覆する絶縁皮膜11とを有する。
【0024】
(ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)
実施の形態に係るポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、各々熱架橋性の反応基を有するポリアミック酸及びアミド化合物を含む。そのため、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を導体へ塗装する際の加熱処理により、溶剤の乾燥とともにポリアミック酸の熱架橋性の反応基とアミド化合物の熱架橋性の反応基の間で架橋反応が起こり、ポリアミドイミド樹脂が形成される。
【0025】
ポリアミック酸は、少なくともジアミン成分(A)、テトラカルボン酸二無水物(B)、及び架橋剤(C)を原料として合成される。架橋剤(C)は、アミノ基又は無水酸基、及び熱架橋性の反応基を有する。そのため、ポリアミック酸は、熱架橋性の反応基を有する。
【0026】
アミド化合物は、少なくともカルボン酸化合物(D)とジイソシアネート成分(E)を原料として合成される。カルボン酸化合物(D)は、ポリアミック酸に含まれる架橋剤(C)と架橋反応可能な熱架橋性の反応基を有する。そのため、アミド化合物は、熱架橋性の反応基を有する。
【0027】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、分子の繰り返し単位当たりのアミド基とイミド基の数を低減して誘電率を低く抑えるために、分子量の大きいモノマーを原料として形成されることが好ましい。例えば、ジアミン成分(A)及びジイソシアネート成分(E)が3つ以上のベンゼン環を含むことが好ましい。
【0028】
(ポリアミック酸)
上述したように、本実施の形態のポリアミック酸は、少なくともジアミン成分(A)、テトラカルボン酸二無水物(B)、及び架橋剤(C)を原料として合成される。架橋剤(C)は、アミノ基又は無水酸基、及び熱架橋性の反応基を有する。
【0029】
また、ポリアミドイミド樹脂の合成反応を阻害しない溶剤、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンを併用してポリアミック酸を合成してもよい。
【0030】
また、これらの溶剤により溶液を希釈してもよい。希釈するために芳香族アルキルベンゼン類などを併用してもよい。但し、ポリアミドイミド樹脂の溶解性を低下させるおそれがある場合は、注意する必要がある。
【0031】
ジアミン成分(A)としては、1,4−ジアミノベンゼン(PPD)、1,3−ジアミノベンゼン(MPD)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(DAM)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(FDA)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)等が用いられる。また、これらのジアミン成分の水添化合物、ハロゲン化物、異性体等を使用、又は併用してもよい。
【0032】
テトラカルボン酸二無水物(B)としては、ピロメリット酸(PMDA)、3,3’4、4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物(BPADA)等が用いられる。また、必要に応じ、ブタンテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、又は上記のテトラカルボン酸二無水物を水添した脂環式テトラカルボン酸二無水物類等を併用してもよい。
【0033】
アミノ基又は無水酸基、及び熱架橋性の反応基を有する架橋剤(C)としては、熱架橋性の反応基として二重結合、三重結合の不飽和結合を有する化合物、例えば、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸、4−エチニルフタル酸無水物、4−アミノスチレン、4−エチニルアニリン、3−エチニルアニリン、4−フェニルエチニルアニリン、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸、ナジック酸無水物が用いられる。
【0034】
架橋剤(C)のもつアミノ基又は無水酸基により、ポリアミック酸に熱架橋性の反応基を導入することができる。そのためには、上記の架橋剤がアミノ基を有する場合はポリアミック酸の末端が無水酸基末端であり、上記の架橋剤が無水酸基を有する場合はポリアミック酸の末端がアミノ基末端である必要がある。ポリアミック酸を合成する際のジアミン成分(A)とテトラカルボン酸二無水物(B)の仕込みモル比を1にせずに、末端に配置したい方の成分をやや過剰にすることにより、無水酸基末端又はアミノ基末端を選択することができる。過剰率は、ポリアミック酸の目的の分子量や塗料特性、皮膜特性に応じて調整すればよい。
【0035】
(アミド化合物)
上述したように、本実施の形態のアミド化合物は、少なくともカルボン酸化合物(D)とジイソシアネート成分(E)を原料として合成される。カルボン酸化合物(D)は、ポリアミック酸に含まれる架橋剤(C)と架橋反応可能な熱架橋性の反応基を有する。
【0036】
例えば、カルボン酸化合物(D)とジイソシアネート成分(E)のみをアミド化合物の構成原料とし、これらのモル比が概ね2:1で合成される場合には、熱架橋性の反応基とアミド結合を2個ずつもったアミド化合物となる。
【0037】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の原料としてアミド化合物を用いることにより、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料から形成される絶縁電線の絶縁皮膜にアミド骨格が導入される。
【0038】
例えば、架橋剤(C)の熱架橋性の反応基が二重結合又は三重結合である場合、カルボン酸化合物(D)の熱架橋性の反応基は、二重結合又は三重結合である。二重結合又は三重結合をもつカルボン酸化合物(D)とジイソシアネート成分(E)とから、脱炭酸反応によりアミド結合が生成され、二重結合または三重結合を有するアミド化合物を得ることができる。
【0039】
カルボン酸化合物(D)としては、4−ビニル安息香酸又はその異性体、4−アミノスチレン、若しくは4−エチニルアニリン又はその異性体と、トリメリット酸無水物とをモル比で1:1で脱水イミド化反応させて得られるカルボン酸化合物を用いることができる。また、4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸、4−エチニルフタル酸無水物、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物のような無水酸基及び熱架橋性反応基を有する化合物と、4−アミノ安息香酸又はその異性体とをモル比で1:1で脱水イミド化反応させて得られるカルボン酸化合物を用いることができる。ただし、カルボン酸化合物(D)の架橋反応末端の置換基や、熱架橋性反応基とカルボン酸の間の骨格等は多種に及ぶため、これらに限定されるものではない。
【0040】
カルボン酸化合物(D)を熱架橋性の反応基及びアミノ基を有する化合物(例えば4−アミノスチレン)を用いて合成する際には、この化合物とカルボン酸及び無水酸基を有する化合物(例えばトリメリット酸無水物)とを溶剤中で約140〜200℃程度で加熱脱水させイミド化する。
【0041】
カルボン酸化合物(D)を熱架橋性の反応基及び無水酸基を有する化合物(例えば4−エチニルフタル酸無水物)を原料として合成する際には、この化合物とカルボン酸及びアミノ基をもつ化合物(例えば4−アミノ安息香酸)を溶剤中、約140〜200℃程度で加熱脱水させイミド化する。
【0042】
また、ポリアミドイミド樹脂の合成反応を阻害しない溶剤、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンを併用してカルボン酸化合物(D)を合成してもよい。また、これらの溶剤により溶液を希釈してもよい。なお、上記のカルボン酸化合物(D)の合成法は一例にすぎず、これらに限定されるものではない。
【0043】
ジイソシアネート成分(E)としては、4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の他、汎用的に使用されているトリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート又はそれらの異性体、多量体が用いられる。また、必要に応じ、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、上記の芳香族ジイソシアネートを水添した脂環式ジイソシアネート類又はそれらの異性体を使用、又は併用してもよい。
【0044】
また、ジイソシアネート成分(E)として、例えば、2,2−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン(BIPP)、ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン(BIPS)、ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]エーテル(BIPE)、フルオレンジイソシアネート(FDI)、4,4’−ビス(4−イソシアネートフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−イソシアネートフェノキシ)ベンゼン、又はこれらの異性体が用いられる。これらの製造方法については特に限定されるものではないが、ホスゲンを用いた方法が工業的に最も適当であり、望ましい。
【0045】
なお、誘電率の低減や樹脂組成物の透明性の向上のため、必要に応じ脂環式原料を併用しても良いが、耐熱性の低下を招く恐れがあるため、配合量や化学構造には配慮が必要である。
【0046】
カルボン酸化合物(D)とジイソシアネート成分(E)から熱架橋性の反応基をもつアミド化合物を合成する方法として、これらカルボン酸化合物(D)とジイソシアネート成分(E)を溶剤中で60〜140℃程度に加熱撹拌する方法がある。カルボン酸化合物(D)のカルボン酸とジイソシアネート成分(E)のイソシアネート基より脱炭酸反応が起こり、アミド結合が形成される。
【0047】
また、ポリアミドイミド樹脂の合成反応を阻害しない溶剤、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンを併用してアミド化合物を合成してもよい。また、これらの溶剤により溶液を希釈してもよい。
【0048】
また、本実施の形態のアミド化合物は、その分子内にイミド基を含むことが好ましい。熱架橋性の反応基を有するアミド化合物がイミド基を含むことにより、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の塗装、焼付け後の絶縁皮膜の機械的特性を向上させることができる。
【0049】
アミド化合物にイミド基を導入する方法としては、上記のように、カルボン酸化合物(D)としてイミド基を含んだものを用いる方法がある。このカルボン酸化合物(D)とジイソシアネート成分(E)とをモル比で概ね2:1で反応させる場合、生成するアミド化合物中にはイミド基は2つ含まれる。
【0050】
また、他のイミド基の導入の方法として、カルボン酸化合物(D)とジイソシアネート成分(E)に加え、テトラカルボン酸二無水物を原料として用いる方法がある。例えば、カルボン酸化合物(D)、ジイソシアネート成分(E)、及びテトラカルボン酸無水物をモル比で概ね2:2:1で配合し、溶剤中で60〜140℃で加熱することで、カルボン酸とイソシアネート基の間、無水酸基とイソシアネート基の間で脱炭酸反応が起こり、それぞれアミド結合とイミド結合が生成する。
【0051】
このテトラカルボン酸としては、ピロメリット酸(PMDA)、3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物(BPADA)等が用いられる。また、必要に応じ、ブタンテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、又は上記のテトラカルボン酸無水物を水添した脂環式テトラカルボン酸二無水物類等を用いることができる。また、これらのうちの複数のテトラカルボン酸を併用してもよい。
【0052】
また、本実施の形態のアミド化合物は、カルボン酸化合物(D)、ジイソシアネート成分(E)、及びトリメリット酸無水物(TMA)を原料として合成される化合物であることが好ましい。ジイソシアネート成分(E)とトリメリット酸無水物を反応させることで、イソシアネート法で得られるアミド基とイミド基を含有するポリアミドイミドと同様の骨格を得ることができる。さらにカルボン酸化合物(D)を末端に反応させることで、熱架橋性の反応基を有するアミド化合物を生成することができる。
【0053】
例えば、カルボン酸化合物(D)、ジイソシアネート成分(E)、及びトリメリット酸無水物をモル比で概ね2:5:4で配合し、溶剤中で60〜140℃で加熱することで脱炭酸反応が起こり、アミド基とイミド基をもつアミド化合物が生成される。配合比については、イミド基とアミド基の含有量や、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料から形成される絶縁皮膜の導体との密着性、機械的特性、及びアミノ化合物の溶剤への溶解性の兼ね合いで調整することができる。
【0054】
カルボン酸化合物(D)に対して、ジイソシアネート成分(E)やトリメリット酸無水物が多くなると、ポリアミドイミド樹脂の特性が現れ、導体との密着性や耐熱性に優れた皮膜となる。しかし、この場合、アミノ化合物の溶剤への溶解性が低下してくるため、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が水分吸収する際に樹脂が固化、析出しやすくなる。
【0055】
この合成に用いる溶剤として、ポリアミドイミド樹脂の合成反応を阻害しない溶剤、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンを併用してアミド化合物を合成してもよい。また、これらの溶剤により溶液を希釈してもよい。
【0056】
また、本実施の形態のアミド化合物の数平均分子量Mnが5000以下であることが好ましい。ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が水分を吸収する際に、樹脂の固化、析出を抑制するには、ポリアミック酸のみならずアミド化合物の溶解性を向上させる必要があり、そのためには、アミド化合物の数平均分子量Mnが5000以下であることが求められる。数平均分子量Mnが5000より大きい場合には、熱架橋性反応基を有するアミド化合物の溶解性が低下してくる。さらに、数平均分子量Mnは3000以下であることがより好ましい。なお、アミド化合物の数平均分子量Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定装置(溶離液:N−メチル−2−ピロリドン)を用いて測定することができる。
【0057】
また、本実施の形態のポリアミック酸とアミド化合物との重量比が99:1〜30:70(比の値が3/7〜99)であることが好ましい。ポリアミック酸とアミド化合物の重量比の値が99より大きい場合には、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料のアミド化合物由来の密着性などの特性が得られにくく、また、重量比の値が3/7より小さい場合には、溶解性の劣るアミド化合物のために、塗料の水分吸収の際に、樹脂の固化、析出が発生しやすくなる。されらに、重量比は95:1〜80:20(比の値が4〜95)であることがより好ましい。
【0058】
(実施の形態の効果)
本実施の形態のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、上述の構造を有することにより、分子の繰り返し単位当たりのアミド基とイミド基の数が少ない場合であっても、水分を吸収したときの樹脂の固化及び析出が生じにくい。このため、特に夏季、雨季などの気温や湿度が高い時期などにおいても、樹脂の固化、析出を効果的に抑制することができ、温度や湿度を調整するための設備や手間も不要であり、コストの増加も抑えられる。すなわち、本実施の形態のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、耐部分放電特性に優れた絶縁皮膜を形成することができ、かつ塗装作業性及びコストパフォーマンスに優れる。
【0059】
また、このポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いることにより、耐部分放電特性に優れた絶縁皮膜を有する絶縁電線を低コストで形成することができる。なお、このような絶縁電線は、例えばモータや発電機等の電気機器を構成するコイルを形成するのに用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下の実施例1〜7及び比較例1〜3に示す方法によりポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を作製し、その後、それぞれのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料に対して水分吸収時の樹脂の固化のし易さを評価した。
【0061】
(実施例1)
まず、撹拌機、窒素流入管、温度計、冷却管、水分定量受器を取り付けたフラスコを用意し、フラスコ中で4−アミノ安息香酸37.3g、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸41.3gを共沸溶剤としてのキシレン30gとともにN−メチル−2−ピロリドン300gに溶解させた。そして、溶液を180℃で撹拌し、発生する水分とキシレンを系外に除くことにより、実施の形態のカルボン酸化合物(D)としてのカルボン酸化合物を含む反応液を得た。
【0062】
次に、反応液を60℃まで冷却した後、実施の形態のジイソシアネート成分(E)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート40.8gをフラスコ中に投入し、130℃で1時間、さらに140℃で1.5時間撹拌し、反応性末端基をもつアミド化合物を合成した。
【0063】
また、別のフラスコ中で、実施の形態のジアミン成分(A)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン502.1g、実施の形態のテトラカルボン酸二無水物(B)としての2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物565.9g、実施の形態の架橋剤(C)としての無水マレイン酸26.7gをN−メチル−2−ピロリドン2778gに加えて撹拌し、反応性末端基をもつポリアミック酸を合成した。
【0064】
その後、これらのポリアミック酸の反応液とアミド化合物の反応液とを混合することにより、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0065】
(実施例2)
まず、フラスコ中で、4−アミノ安息香酸33.6g、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸37.2gを共沸溶剤としてのキシレン30gとともにN−メチル−2−ピロリドン300gに溶解させた。そして、溶液を180℃で撹拌し、発生する水分とキシレンを系外に除くことにより、実施の形態のカルボン酸化合物(D)としてのカルボン酸化合物を含む反応液を得た。
【0066】
次に、反応液を60℃まで冷却した後、実施の形態のジイソシアネート成分(E)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート128.6gとトリカルボン酸無水物であるトリメリット酸無水物70.5gをN−メチル−2−ピロリドン327.2gとともにフラスコ中に投入し、130℃で1時間、さらに140℃で1.5時間撹拌し、反応性末端基をもつアミド化合物を合成した。
【0067】
また、別のフラスコ中で、実施の形態のジアミン成分(A)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン451.9g、実施の形態のテトラカルボン酸二無水物(B)としての2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物509.3g、実施の形態の架橋剤(C)としての無水マレイン酸24gをN−メチル−2−ピロリドン2533gに加えて撹拌し、反応性末端基をもつポリアミック酸を合成した。
【0068】
その後、これらのポリアミック酸の反応液とアミド化合物の反応液とを混合することにより、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0069】
(実施例3)
まず、フラスコ中で、4−アミノ安息香酸33.6g、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸37.2gを共沸溶剤としてのキシレン20gとともにN−メチル−2−ピロリドン200gに溶解させた。そして、溶液を180℃で撹拌し、発生する水分とキシレンを系外に除くことにより、実施の形態のカルボン酸化合物(D)としてのカルボン酸化合物を含む反応液を得た。
【0070】
次に、反応液を60℃まで冷却した後、実施の形態のジイソシアネート成分(E)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート189.9gとトリカルボン酸無水物であるトリメリット酸無水物117.6gをN−メチル−2−ピロリドン600gとともにフラスコ中に投入し、130℃で1時間、さらに140℃で1.5時間撹拌し、反応性末端基をもつアミド化合物を合成した。
【0071】
また、別のフラスコ中で、実施の形態のジアミン成分(A)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン451.9g、実施の形態のテトラカルボン酸二無水物(B)としての2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物509.3g、実施の形態の架橋剤(C)としての無水マレイン酸24.0gをN−メチル−2−ピロリドン2639gに加えて撹拌し、反応性末端基をもつポリアミック酸を合成した。
【0072】
その後、これらのポリアミック酸の反応液とアミド化合物の反応液とを混合することで、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0073】
(実施例4)
まず、フラスコ中で、4−アミノスチレン23.8g、トリカルボン酸無水物としてのトリメリット酸無水物38.4gを共沸溶剤としてのキシレン30gとともにN−メチル−2−ピロリドン300gに溶解させた。そして、溶液を180℃で撹拌し、発生する水分とキシレンを系外に除くことにより、実施の形態のカルボン酸化合物(D)としてのカルボン酸化合物を含む反応液を得た。
【0074】
次に、反応液を60℃まで冷却した後、実施の形態のジイソシアネート成分(E)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート150.1gとトリメリット酸無水物96.1gをN−メチル−2−ピロリドン300gとともにフラスコ中に投入し、130℃で1時間、さらに140℃で1.5時間撹拌し、反応性末端基をもつアミド化合物を合成した。
【0075】
また、別のフラスコ中で、実施の形態のジアミン成分(A)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン369.2g、実施の形態のテトラカルボン酸二無水物(B)としての2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物416.1g、実施の形態の架橋剤(C)としての無水マレイン酸19.6gをN−メチル−2−ピロリドン2231gに加えて撹拌し、反応性末端基をもつポリアミック酸を合成した。
【0076】
その後、これらのポリアミック酸の反応液とアミド化合物の反応液とを混合することにより、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0077】
(実施例5)
まず、フラスコ中で、4−アミノスチレン16.7g、トリカルボン酸無水物としてのトリメリット酸無水物26.9gを共沸溶剤としてのキシレン30gとともにN−メチル−2−ピロリドン300gに溶解させた。そして、溶液を180℃で撹拌し、発生する水分とキシレンを系外に除くことにより、実施の形態のカルボン酸化合物(D)としてのカルボン酸化合物を含む反応液を得た。
【0078】
次に、反応液を60℃まで冷却した後、実施の形態のジイソシアネート成分(E)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート175.2gとトリメリット酸無水物121gをN−メチル−2−ピロリドン300gとともにフラスコ中に投入し、130℃で1時間、さらに140℃で1.5時間撹拌し、反応性末端基をもつアミド化合物を合成した。
【0079】
また、別なフラスコ中で、実施の形態のジアミン成分(A)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン258.4g、実施の形態のテトラカルボン酸二無水物(B)としての2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物291.3g、実施の形態の架橋剤(C)としての無水マレイン酸13.7gをN−メチル−2−ピロリドン1700gに加えて撹拌し、反応性末端基をもつポリアミック酸を合成した。
【0080】
その後、これらのポリアミック酸の反応液とアミド化合物の反応液とを混合することにより、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0081】
(実施例6)
まず、フラスコ中で、4−アミノスチレン119.2g、トリカルボン酸無水物としてのトリメリット酸無水物192.1gを共沸溶剤としてのキシレン50gとともにN−メチル−2−ピロリドン500gに溶解させた。そして、溶液を180℃で撹拌し、発生する水分とキシレンを系外に除くことにより、実施の形態のカルボン酸化合物(D)としてのカルボン酸化合物を含む反応液を得た。
【0082】
次に、反応液を60℃まで冷却した後、実施の形態のジイソシアネート成分(E)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート373.4gとトリメリット酸無水物192.1gをN−メチル−2−ピロリドン600gとともにフラスコ中に投入し、130℃で1時間、さらに140℃で1.5時間撹拌し、反応性末端基をもつアミド化合物を合成した。
【0083】
また、別のフラスコ中で、実施の形態のジアミン成分(A)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン184.6g、実施の形態のテトラカルボン酸二無水物(B)としての2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物208.1g、実施の形態の架橋剤(C)としての無水マレイン酸9.8gをN−メチル−2−ピロリドン2035gに加えて撹拌し、反応性末端基をもつポリアミック酸を合成した。
【0084】
その後、これらのポリアミック酸の反応液とアミド化合物の反応液とを混合することにより、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0085】
(実施例7)
まず、フラスコ中で、4−アミノスチレン23.8g(0.20モル)、トリカルボン酸無水物としてのトリメリット酸無水物38.4g(0.20モル)を共沸溶剤としてのキシレン30gとともにN−メチル−2−ピロリドン500gに溶解させた。そして、溶液を180℃で撹拌し、発生する水分とキシレンを系外に除くことにより、実施の形態のカルボン酸化合物(D)としてのカルボン酸化合物を含む反応液を得た。
【0086】
次に、反応液を60℃まで冷却した後、実施の形態のジイソシアネート成分(E)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート350.4g(1.4モル)とトリメリット酸無水物249.7g(1.3モル)をN−メチル−2−ピロリドン600gとともにフラスコ中に投入し、130℃で1時間、さらに140℃で1.5時間撹拌し、反応性末端基をもつアミド化合物を合成した。
【0087】
また、別のフラスコ中で、実施の形態のジアミン成分(A)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン184.6g(0.45モル)、実施の形態のテトラカルボン酸二無水物(B)としての2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物208.0g(0.40モル)、実施の形態の架橋剤(C)としての無水マレイン酸9.8g(0.1モル)をN−メチル−2−ピロリドン1924gに加えて撹拌し、反応性末端基をもつポリアミック酸を合成した。
【0088】
その後、これらのポリアミック酸の反応液とアミド化合物の反応液とを混合することで、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0089】
(比較例1)
まず、トリカルボン酸無水物であるトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、ジイソシアネート成分(E)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート250.0g(1.0モル)、及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン1062gをフラスコ中に投入して、140℃で合成を行った。1時間後、酸成分の約2%のベンジルアルコールを加えて30分撹拌した後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0090】
比較例1では、実施の形態のジアミン成分(A)、テトラカルボン酸二無水物(B)、及び架橋剤(C)が用いられず、ポリアミック酸がポリアミドイミド樹脂絶縁塗料に含まれない。また、実施の形態のカルボン酸化合物(D)の原料である、熱架橋性の反応基を有する化合物が用いられない。
【0091】
(比較例2)
まず、ジアミン成分(A)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン215.4g(0.53モル)、トリカルボン酸無水物であるトリメリット酸無水物182.5g(0.95モル)、テトラカルボン酸二無水物(B)としてのODPA15.6g(0.05モル)、及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン1117gをフラスコ中に投入して、180℃で系外に水を除きながら合成を行った。
【0092】
次に、窒素雰囲気を維持したまま反応液を60℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分(E)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート120.1g(0.48モル)をフラスコ中に投入して140℃で合成を行った。1時間後、酸成分の約2%のベンジルアルコールとN−メチル−2−ピロリドン300gを加えて30分撹拌した後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0093】
比較例2では、実施の形態の架橋剤(C)が用いられず、ポリアミック酸が熱架橋性の反応基を含まない。また、実施の形態のカルボン酸化合物(D)の原料である、熱架橋性の反応基を有する化合物が用いられない。
【0094】
(比較例3)
まず、ジアミン成分(A)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン291.1g(0.71モル)、トリカルボン酸無水物であるトリメリット酸無水物111.4g(0.58モル)、テトラカルボン酸二無水物(B)としての3,3’4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物150.4g(0.42モル)、及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン1124gをフラスコ中に投入して、180℃で系外に水を除きながら合成を行った。
【0095】
次に、窒素雰囲気を維持したまま反応液を60℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分(E)として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート72.5g(0.29モル)をフラスコ中に投入して140℃で合成を行った。1時間後、酸成分の約2%のベンジルアルコールとN−メチル−2−ピロリドン600gを加えて30分撹拌した後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0096】
比較例3では、実施の形態の架橋剤(C)が用いられず、ポリアミック酸が熱架橋性の反応基を含まない。また、実施の形態のカルボン酸化合物(D)の原料である、熱架橋性の反応基を有する化合物が用いられない。
【0097】
(固化特性の評価)
上記の実施例1〜7及び比較例1〜3に示す方法により作製したポリアミドイミド樹脂絶縁塗料をそれぞれアルミパン上にのせ、30℃、50%RHの恒温恒湿槽の中で30分間保存した。その後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料のそれぞれの固化の度合いを目視にて観察し、評価した。
【0098】
実施例1〜7の塗料の評価結果及び比較例1〜3の塗料の評価結果をそれぞれ表1、表2に示す。表1及び2の「固化試験」におけるマーク◎は塗料が透明であった場合、マーク○は塗料がやや固化しかけていたが塗装作業性に影響のない程度であった場合、マーク×は塗料が固化して白くなっていた場合を表す。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
表1及び2は、実施の形態の例である実施例1〜7のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、水分吸収時の樹脂の固化が抑えられ、比較例1〜3のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、水分吸収時に樹脂が固化することを示している。
【0102】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0103】
1 絶縁電線
10 導体
11 絶縁皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱架橋性の反応基を有するポリアミック酸と、
熱架橋性の反応基を有するアミド化合物と、
を含み、
前記ポリアミック酸は、少なくともジアミン成分、テトラカルボン酸二無水物、及び架橋剤を原料として合成される酸であり、
前記架橋剤は、アミノ基又は無水酸基、及び熱架橋性の反応基を有し、
前記アミド化合物は、少なくともカルボン酸化合物とジイソシアネート成分を原料として合成される化合物であり、
前記カルボン酸化合物は、前記ポリアミック酸に含まれる前記架橋剤と架橋反応可能な熱架橋性の反応基を有する、
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項2】
前記アミド化合物は、分子内にイミド基を含む、
請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項3】
前記アミド化合物は、少なくとも前記カルボン酸化合物、前記ジイソシアネート成分、及びトリメリット酸無水物を原料として合成される化合物である、
請求項1又は2に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項4】
前記アミド化合物の数平均分子量Mnが5000以下である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項5】
前記ポリアミック酸と前記アミド化合物の重量比が99:1〜30:70である、
請求項1〜4に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項6】
導体と、
前記導体上、又は前記導体上の他の皮膜上に、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いて形成された絶縁皮膜と、
を含む絶縁電線。
【請求項7】
請求項6に記載の絶縁電線を用いて形成されたコイル。

【図1】
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【公開番号】特開2013−1872(P2013−1872A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136440(P2011−136440)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】