説明

ポリアミド樹脂及びポリアミド樹脂組成物

【課題】バイオマス由来の原料を使用し、耐衝撃性が改良されたポリアミド樹脂を提供する。
【解決手段】ペンタメチレンジアミンとアジピン酸との重縮合により得られたポリアミド樹脂であって、重縮合触媒として使用された下記式(1)で表される燐酸塩類に由来する燐化合物を、燐原子換算で1重量ppm〜90重量ppm含有することを特徴とするポリアミド樹脂。式(1)中、Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、X及びYは、式(1)で表される燐酸塩類が全体として電気的に中性となり、且つ、X+Y=3を満たす0〜3の整数であり、Zは2〜4の整数である。但し、X=0になることはない。
PO 式(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂及び該ポリアミド樹脂に基づく組成物に関し、より詳しくは、ペンタメチレンジアミン単位を有するポリアミド樹脂及び該ポリアミド樹脂に基づく組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオマス由来の原料を使用したポリアミド樹脂(56ナイロン)が製造されている。56ナイロンは、6ナイロンや66ナイロンと、ほぼ同等の耐熱性や機械物性を有する。56ナイロンの製造方法として、特許文献1に、ジアミノペンタンとアジピン酸を加熱重縮合する製造方法が記載されている。また、特許文献2には、56ナイロンの製造方法として、ジアミノペンタンとアジピン酸との塩を加熱重縮合する製造方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−292612号公報
【特許文献2】米国特許第2,130,948号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、56ナイロンは、植物に由来する原料を使用することで、地球温暖化防止等に役立つと考えられている。
しかし、56ナイロンは、66ナイロンと同等な耐熱性、剛性、耐薬品性等を有するものの、耐衝撃性が劣ることが知られている。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものである。即ち、本発明の目的は、バイオマス由来の原料を使用し、且つ耐衝撃性が改良されたポリアミド樹脂及びポリアミド樹脂に基づく組成物(以下、これらをまとめて「ポリアミド樹脂」と記すことがある。)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして本発明によれば、ペンタメチレンジアミンとアジピン酸との重縮合により得られたポリアミド樹脂であって、重縮合触媒として使用された下記式(1)で表される燐酸塩類に由来する燐化合物を、燐原子換算で1重量ppm〜90重量ppm含有することを特徴とするポリアミド樹脂が提供される。
PO 式(1)
(式(1)中、Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、X及びYは、式(1)で表される燐酸塩類が全体として電気的に中性となり、且つ、X+Y=3を満たす0〜3の整数であり、Zは2〜4の整数である。但し、X=0になることはない。)
【0007】
ここで、本発明のポリアミド樹脂において、ペンタメチレンジアミンは、リジン脱炭酸酵素、リジン脱炭酸酵素活性の向上した組み換え微生物、リジン脱炭酸酵素を産生する細胞または当該細胞の処理物を使用してリジンから産出されるものであることが好ましい。
【0008】
次に、本発明によれば、前記のポリアミド樹脂が、さらに、ハロゲン化第一銅を銅原子換算で5重量ppm〜500重量ppm含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
また、本発明によれば、前記のポリアミド樹脂が、さらに、アルカリ金属ハロゲン化物を0.01重量%〜1重量%含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0009】
ここで、前記のポリアミド樹脂組成物100重量部に対し、さらに、強化材1重量部〜150重量部を配合することが好ましい。
【0010】
また、強化材としては、ガラス繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バイオマス由来の原料を使用し、且つ耐衝撃性が改良されたポリアミド樹脂等が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
(ポリアミド樹脂)
本実施の形態におけるポリアミド樹脂は、ペンタメチレンジアミンとアジピン酸との重縮合により得られたポリアミドと、ペンタメチレンジアミンとアジピン酸との重縮合における重縮合触媒として使用された燐酸塩類に由来する燐化合物と、を有するものである。重縮合触媒として使用された燐酸塩類については後述する。
【0014】
主成分としてのポリアミドは、ペンタメチレンジアミンとアジピン酸とをモノマー成分とした重縮合反応により、ポリアミド56として得られる。
ここで、ペンタメチレンジアミンとアジピン酸とを重縮合する際に、本発明の効果を損なわない範囲で、他のモノマー成分を共重合させてもよい。他のモノマー成分の含有量は、全モノマー成分の中、通常、10重量%未満、好ましくは5重量%未満である。
【0015】
このような他のモノマー成分としては、例えば以下のようなものが挙げられる。ペンタメチレンジアミン(1,5−ジアミノペンタン)以外の他の脂肪族ジアミン:エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン等。
【0016】
アジピン酸以外の他のジカルボン酸:シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸。
【0017】
その他のモノマー成分:6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノ酸;ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタム;シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン;キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等。
【0018】
本実施の形態において、ペンタメチレンジアミン及びアジピン酸の重縮合方法は特に限定されず、従来公知の方法から適宜選択することができる。重縮合方法の一例としては、例えば、ペンタメチレンジアミン及びアジピン酸を含む水溶液を、高温高圧下で脱水反応を進行させる加熱重合法;ペンタメチレンジアミン及びアジピン酸を加圧加熱下で、重縮合して得られた低次縮合物(オリゴマー)を、高分子量化する方法;ペンタメチレンジアミンを溶解した水溶液と、アジピン酸塩を水性溶媒又は有機溶媒に溶解させた溶液とを接触させ、これらの界面で重縮合させる界面重合法等が挙げられる。
【0019】
本実施の形態では、ペンタメチレンジアミン及びアジピン酸の重縮合方法としては、化学工業的な観点から加熱重合法が好ましい。加熱重合法によりペンタメチレンジアミン及びアジピン酸を重縮合する場合、ペンタメチレンジアミンとジカルボン酸と反応させてジカルボン酸塩を調製し、水の存在下でこのジカルボン酸塩を加熱し、脱水反応を進行させる方法が好ましい。この方法で得られたポリアミドは、加熱重合後、さらに固相重合することによって、分子量を上昇させることが可能である。固相重合は、例えば、100℃〜当該樹脂の融点の温度範囲で、真空中又は不活性ガス中で加熱することにより行われる。
【0020】
(重縮合触媒)
本実施の形態において、ペンタメチレンジアミン及びアジピン酸の重縮合は、重縮合触媒として下記式(1)で表される燐酸塩類を用いて行われる。
PO 式(1)
(式(1)中、Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、X及びYは、式(1)で表される燐酸塩類が全体として電気的に中性となり、且つ、X+Y=3を満たす0〜3の整数であり、Zは2〜4の整数である。但し、X=0になることはない。)
【0021】
式(1)で表される燐酸塩類としては、燐酸水素塩類が好ましい。また、燐酸塩類として、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が含まれる。
また、燐酸種としては、正燐酸、亜燐酸または次亜燐酸が挙げられる。
【0022】
本実施の形態において、式(1)で表される燐酸塩類の中でも、ナトリウム塩が最も好ましい。具体例としては、例えば、亜燐酸1水素2ナトリウム塩5水和物(NaHPO)、亜燐酸2水素1ナトリウム塩2.5水和物(NaHPO)等が挙げられる。
さらに、ナトリウム塩の場合、(Na原子数)/(P原子数)が0.1以上が好ましく、1以上がより好ましく、2以上が特に好ましい。具体的には、X=1又は2、Y=2又は1、Z=2又は3若しくは4であるナトリウム塩が好ましく、中でもX=2、Y=1、Z=2又は3若しくは4であるナトリウム塩がより好ましく、特に、NaHPOが最も好ましい。
【0023】
重縮合触媒として使用される式(1)で表される燐酸塩類の使用量は、モノマー成分の総重量に対し、燐原子換算で1重量ppm〜90重量ppm、好ましくは5重量ppm〜50重量ppmである。燐酸塩類の使用量が過度に少ないと、重縮合反応が促進しない傾向がある。燐酸塩類の使用量が過度に多いと、得られるポリアミド樹脂の強度や透明性が損なわれる傾向がある。
また、式(1)で表される燐酸塩類と併せて使用する水の使用量は、通常、モノマー成分に対し、1重量%〜200重量%、好ましくは50重量%〜150重量%の割合である。水の使用量が過度に少ない場合または過度に多い場合、ペンタメチレンジアミン及びアジピン酸の重縮合反応における反応速度が低下することがある。
【0024】
本実施の形態において、式(1)で表される燐酸塩類を含む重縮合触媒を使用してペンタメチレンジアミン及びアジピン酸を重縮合することにより、得られたポリアミド中に、式(1)で表される燐酸塩類に由来する燐化合物が含まれるポリアミド樹脂が得られる。
かかるポリアミド樹脂における、式(1)で表される燐酸塩類に由来する燐化合物の含有量は、燐原子換算で1重量ppm〜90重量ppm、好ましくは、3重量ppm〜50重量ppm、特に好ましくは、5重量ppm〜30重量ppmの範囲である。
このように、式(1)で表される燐酸塩類を含む重縮合触媒を使用してペンタメチレンジアミン及びアジピン酸を重縮合することにより、得られたポリアミド樹脂の耐衝撃性を向上させることができる。
【0025】
本実施の形態において、ペンタメチレンジアミン及びアジピン酸の重縮合により得られるポリアミドの分子量は特に限定されず、目的に応じて適宜選択される。実用性の観点から、通常、ポリアミドの25℃における98%硫酸溶液(ポリアミド濃度:0.01g/ml)の相対粘度の下限が、通常、1.5以上、好ましくは1.8以上、特に好ましくは2.2以上であり、上限は、通常、8.0以下、好ましくは5.0以下、特に好ましくは3.5以下である。相対粘度が過度に小さいと実用的強度が得られない傾向がある。相対粘度が過度に大きいと、ポリアミドの流動性が低下し、成形加工性が損なわれる傾向がある。
【0026】
本実施の形態において、ポリアミドのモノマー成分の一つであるペンタメチレンジアミンは、リジン脱炭酸酵素、リジン脱炭酸酵素活性の向上した組み換え微生物、リジン脱炭酸酵素を産生する細胞または当該細胞の処理物を使用してリジンから産出されるものであることが好ましい。ポリアミドのモノマー成分として、このようなペンタメチレンジアミンを用いることにより、ポリアミドのモノマー成分に占めるバイオマス由来原料の割合(バイオマス比率)を高くすることができる。
本実施の形態では、ポリアミドにおけるバイオマス比率が2.51%以上であることが好ましい。バイオマス比率が2.51%以上の場合、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の発生を抑制する効果が得られる。
【0027】
上記のペンタメチレンジアミンは、例えば、以下の方法によって製造される。即ち、リジンの酵素的脱炭酸反応は、リジン溶液に酸を加えることにより行われる。この場合、リジン溶液のpHが酵素的脱炭酸反応に適した範囲に維持されるように、リジン溶液に酸が加えられる。ここで、リジン溶液に加えられる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、炭酸(二酸化炭素)等の無機酸;酢酸等の有機酸が挙げられる。次に、酵素的脱炭酸反応により得られた反応生成液を通常の分離精製方法により処理し、遊離ペンタメチレンジアミンが採取される。
また、リジンの酵素的脱炭酸反応において、アジピン酸等のジカルボン酸を使用することにより、ポリアミドのモノマー成分としてペンタメチレンジアミン・ジカルボン酸塩を直接採取することができる。なお、酸としてアジピン酸を使用し、リジンの酵素的脱炭酸反応によりペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩を製造する方法は、特開2005−6650号公報に記載されている。
【0028】
(添加剤)
本実施の形態が適用されるポリアミド樹脂には、必要に応じて、各種の添加剤が配合される。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、離型剤、滑剤、顔料、染料、結晶核剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、充填剤、他の重合体等が挙げられる。
【0029】
具体的には、酸化防止剤又は熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキノン系化合物、ホスファイト系化合物及びこれらの置換体、ハロゲン化銅、アルカリ金属ハロゲン化物等が挙げられる。耐候剤としては、レゾルシノール系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。離型剤又は滑剤としては、脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素、ポリエチレンワックス等が挙げられる。顔料としては、硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等が挙げられる。染料としては、ニグロシン、アニリンブラック等が挙げられる。結晶核剤としては、タルク、シリカ、カオリン、クレー等が挙げられる。可塑剤としては、p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等が挙げられる。
【0030】
帯電防止剤としては、アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等の非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等が挙げられる。難燃剤としては、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等が挙げられる。充填剤としては、グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、針状、板状充填材が挙げられる。他の重合体としては、他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等が挙げられる。
これらは、ポリアミド樹脂を製造する工程において、添加量、添加工程等が適宜選択され、添加すればよい。
【0031】
(ポリアミド樹脂組成物)
本実施の形態において、式(1)で表される燐酸塩類に由来する燐化合物を含むポリアミド樹脂に、熱安定剤としてハロゲン化第一銅と、好ましくはさらにアルカリ金属ハロゲン化物と、を配合することにより、耐衝撃性がさらに向上したポリアミド樹脂組成物を調製することができる。
ここで、ハロゲン化第一銅としては、例えば、ヨウ化第一銅、臭化第一銅、塩化第一銅等が挙げられる。これらの中でも、ポリアミド樹脂の熱安定性の点で、ヨウ化第一銅、塩化第一銅が好ましい。
また、アルカリ金属ハロゲン化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、ヨウ化カリウムが好ましい。
ハロゲン化第一銅又はアルカリ金属ハロゲン化物は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
ポリアミド樹脂組成物に配合されるハロゲン化第一銅の配合量は、銅原子に換算した含有量として、下限は、通常5重量ppm、好ましくは30重量ppm、特に好ましくは80重量ppmであり、上限は、通常500重量ppm以下、好ましくは300重量ppm、特に好ましくは150重量ppmである。
また、アルカリ金属ハロゲン化物の配合量は、下限が、通常0.01重量%、好ましくは0.05重量%、特に好ましくは0.1重量%であり、上限は、通常1重量%、好ましくは0.6重量%、特に好ましくは0.2重量%である。
【0033】
(強化材)
本実施の形態が適用されるポリアミド樹脂組成物に、強化材を配合することにより、ポリアミド樹脂組成物の実用的強度、耐体衝撃性をさらに向上させることができる。
強化材の配合量は、ポリアミド樹脂100重量部に対し、下限は、通常1重量部、好ましくは20重量部、特に好ましくは40重量部であり、上限は、通常150重量部、好ましくは100重量部、特に好ましくは60重量部である。強化材の配合量が過度に多いと、ポリアミド樹脂組成物の流動性が低下する傾向がある。
【0034】
このような強化材としては、例えば、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、窒化硼素、チタン酸カリウム、硼酸アルミニウムが挙げられる。これらの中でも、補強効果が高いガラス繊維が好ましい。
【0035】
ガラス繊維としては、通常、熱可塑性樹脂に配合される公知のガラス繊維が使用でき、なかでも、Eガラス(無アルカリガラス)から製造されるチョップドストランドが好ましい。ガラス繊維の繊維径は、通常、1μm〜20μm、好ましくは、5μm〜15μmである。また、ガラス繊維は、ポリアミド樹脂との接着性を向上させるために、シランカップリング剤等により表面処理されていることが好ましい。
【0036】
本実施の形態において、ポリアミド樹脂の重縮合から成形までの任意の段階で、ポリアミド樹脂組成物に添加剤、強化材を配合することができる。中でも、ポリアミド樹脂と添加剤、強化材とを押出機中に投入し、これらを溶融混練することにより、ポリアミド樹脂組成物を調製することが好ましい。
【0037】
また、本実施の形態のポリアミド樹脂は、射出成形、フィルム成形、溶融紡糸、ブロー成形、真空成形等の任意の成形方法により、所望の形状に成形することができる。成形品としては、例えば、射出成形品、フィルム、シート、フィラメント、テーパードフィラメント、繊維等が挙げられる。また、ポリアミド樹脂は、接着剤、塗料等にも使用することができる。
【0038】
さらに、本実施の形態のポリアミド樹脂の具体的な用途例としては、自動車・車両関連部品として、例えば、インテークマニホールド、ヒンジ付きクリップ(ヒンジ付き成形品)、結束バンド、レゾネーター、エアークリーナー、エンジンカバー、ロッカーカバー、シリンダーヘッドカバー、タイミングベルトカバー、ガソリンタンク、ガソリンサブタンク、ラジエータータンク、インタークーラータンク、オイルリザーバータンク、オイルパン、電動パワステギヤ、オイルストレーナー、キャニスター、エンジンマウント、ジャンクションブロック、リレーブロック、コネクター、コルゲートチューブ、プロテクター等の自動車用アンダーフード部品;ドアハンドル、フェンダー、フードバルジ、ルーフレールレグ、ドアミラーステー、バンパー、スポイラー、ホイールカバー等の自動車用外装部品;カップホルダー、コンソールボックス、アクセルペダル、クラッチペダル、シフトレバー台座、シフトレバーノブ等の自動車用内装部品が挙げられる。
【0039】
また、本実施の形態のポリアミド樹脂は、釣り糸、漁網等の漁業関連資材、スイッチ類、超小型スライドスイッチ、DIPスイッチ、スイッチのハウジング、ランプソケット、結束バンド、コネクタ、コネクタのハウジング、コネクタのシェル、ICソケット類、コイルボビン、ボビンカバー、リレー、リレーボックス、コンデンサーケース、モーターの内部部品、小型モーターケース、ギヤ・カム、ダンシングプーリー、スペーサー、インシュレーター、キャスター、端子台、電動工具のハウジング、スターターの絶縁部分、ヒューズボックス、ターミナルのハウジング、ベアリングリテーナー、スピーカー振動板、耐熱容器、電子レンジ部品、炊飯器部品、プリンタリボンガイド等に代表される電気・電子関連部品、家庭・事務電気製品部品、コンピュータ関連部品、ファクシミリ・複写機関連部品、機械関連部品等各種用途に使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例において使用したポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂組成物の評価方法は以下の通りである。
【0041】
(1)相対粘度(η
ポリアミド樹脂の相対粘度(η)は、ポリアミド樹脂の98%硫酸溶液(濃度:0.01g/ml)を調製し、25℃で、オストワルド式粘度計を使用して測定した。
【0042】
(2)燐化合物の含有量
ポリアミド樹脂に含まれる燐化合物の含有量は、ポリアミド樹脂を硫酸−硝酸で湿式分解し、その後、ICP質量分析法により測定した燐原子量として求めた。
【0043】
(3)ポリアミド樹脂組成物の調製
重縮合により得られたポリアミド樹脂に、後述する表1に示す組成でヨウ化第1銅(関東化学株式会社製)、ヨウ化カリウム(和光純薬工業株式会社製)及びガラス繊維(日本電気硝子株式会社製T249H)を配合し、ポリアミド樹脂組成物を調製した。
ポリアミド樹脂組成物の調製には、二軸混練機(東芝機械株式会社製:TEM−35B型二軸混練機)を用いた。設定温度は、実施例1〜実施例5、比較例3及び比較例4は270℃であり、比較例1,2及び5は280℃である。
尚、ガラス繊維は折損抑制のためサイドフィードした。
【0044】
(4)耐衝撃性(ノッチ付きシャルピー試験)
後述する表1に示す配合組成のポリアミド樹脂組成物を使用し、それぞれISO規格に準じ、射出成形機(日本製鋼所株式会社製:J75EII型射出成形機)を使用してISO試験片を成形した。
ガラス繊維を配合した実施例1〜実施例4、比較例3及び比較例4の場合、射出成形機は樹脂温度270℃、金型温度80℃である。ガラス繊維を配合しない実施例5の場合は、射出成形機は樹脂温度265℃、金型温度80℃である。
また、ガラス繊維を配合した比較例1及び比較例2の場合、射出成形機は樹脂温度280℃、金型温度80℃である。ガラス繊維を配合しない比較例5の場合は、射出成形機は樹脂温度275℃、金型温度80℃である。
得られたISO試験片を使用し、それぞれISO規格に準じて、ノッチ付きシャルピー試験を行い、衝撃強度を測定した。数値が大きいほど、耐衝撃性が良好である(単位:kJ/m)。
【0045】
(5)白異物
得られたポリアミド樹脂を目視にて観察した。
【0046】
(6)リジンの酵素的脱炭酸反応によるペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩の合成
[リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)増強株の作製]
(A)大腸菌DNA抽出
LB培地[組成:トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、NaCl5gを蒸留水1Lに溶解]10mLに、大腸菌(Eschericia coli)JM109株を対数増殖期後期まで培養し、得られた菌体を10mg/mLのリゾチームを含む10mM NaCl/20mMトリス緩衝液(pH8.0)/1mM EDTA・2Na溶液0.15mLに懸濁した。
【0047】
次に、上記懸濁液にプロテナーゼKを、最終濃度が100μg/mLになるように添加し、37℃で1時間保温した。さらにドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌した。この溶菌液に、等量のフェノール/クロロフォルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5,000×g、20分間、10℃〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加え混合した。遠心分離(15,000×g、2分間)により回収した沈殿物を70%エタノールで洗浄した後、風乾した。得られたDNAに10mMトリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後のPCRの鋳型DNAに使用した。
【0048】
(B)cadAのクローニング
大腸菌cadAの取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されている大腸菌K12−MG1655株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.U00096)を基に設計した合成DNA(配列番号1(配列;GTTGCGTGTTCTGCTTCATCGCGCTGATG)及び配列番号2(配列;ACCAAGCTGATGGGTGAGATAGAGAATGAGTAAG))を用いたPCRによって行った。
【0049】
(反応液組成)
鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.2μL、1倍濃度添付バッファー0.3μM、各々プライマー1mM、MgSO0.25μM、dNTPsを混合し、全量を20μLとした。
【0050】
(反応温度条件)
DNAサーマルサイクラー(MJResearch社製PTC−200)を用い、94℃で20秒間、60℃で20秒間、72℃で2.5分間からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒間、最終サイクルの72℃での保温は10分間とした。
【0051】
図1は、cadAのクローニングの手順を説明する図である。
図1に示すように、PCR反応終了後、増幅産物をエタノール沈殿により精製した後、制限酵素KpnI及び制限酵素SphIで切断した。このDNA標品を、0.75%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することによりcadAを含む約2.6kbの断片を検出し、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて目的DNA断片の回収を行った。
【0052】
回収したDNA断片を、大腸菌プラスミドベクターpUC18(宝酒造株式会社製)を制限酵素KpnI及び制限酵素SphIで切断して調整したDNA断片と混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造株式会社製)を用いて連結後、得られたプラスミドDNAを用いて大腸菌(JM109株)を形質転換した。
このようにして得られた組換え大腸菌を50μg/mL アンピシリン、0.2mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)及び50μg/mL X−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。
【0053】
この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素KpnI及び制限酵素SphIで切断することにより、約2.5kbの挿入断片が認められることを確認し、これをpCAD1、pCAD1を含む大腸菌株をJM109/pCAD1とそれぞれ命名した。
【0054】
[ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液の調製]
本実施例で使用したポリアミドを調製する際に使用したペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液は、cadA増幅株を用い、リジン・アジピン酸塩を原料とし、以下の方法で調製した。
【0055】
(1)cadA増幅株の培養
E.coli JM109/pCAD1をLB培地入りフラスコ10本で前培養した後、1Lの培養液を99LのLB培地が入った200L容ジャーファーメンターに接種し、通気量0.5vvm、35℃、250rpmで通気撹拌培養を行った。
培養開始6時間後、この培養液全量を、3mの2×LB培地が入った5m容培養タンクに接種して更に培養を行った。5m容培養タンクでの培養条件は、通気量0.5vvm、35℃であった。撹拌回転数は溶存酸素濃度が十分高い値になるように60rpm〜100rpmの範囲で調節した。培養4時間目に、滅菌したIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を終濃度で0.5mMになるように添加し、その後14時間培養を継続した。
【0056】
(2)菌体の分離
6,400rpm、フィード速度750L/hrの条件下で、アルファラバル分離機により培養液からの菌体回収を行った。回収された菌体の湿重量は36.9kgであった。この湿菌体を10mMの酢酸ナトリウム溶液160Lに懸濁したのち、15,000rpm、フィード速度1.0L/minの条件下でシャープレス遠心機により再度菌体回収を行い、18.7kgの湿菌体を取得した。
【0057】
(3)ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩の製造
50%(w/v)リジンベース溶液(協和醗酵工業株式会社製)にpHが6.0となるようにアジピン酸を添加し、リジン・アジピン酸塩の濃厚溶液を調製した。次に、リジン濃度で60g/Lとなるように基質溶液(3m)を作成し、5m容培養タンクに張り込んだ。ピリドキサルリン酸を0.1mMとなるように基質溶液に添加し、さらにE.coli JM109/pCAD1の菌体をOD660が0.5になるように添加して反応を開始した。
【0058】
反応条件は、37℃、0.5vvm通気、70rpmとした。反応中の溶液のpHは、250kgのアジピン酸をイオン交換水400Lに懸濁したスラリーを添加し、6.5になるように制御した。
また、リジン濃度318g/Lの基質濃厚溶液(600L)を開始から約130L/hで連続的にフィードし、約4.5時間で全量を添加した。さらに反応を継続し、合計22時間反応させた。
【0059】
反応終了時には、リジン残存濃度が0.03g/L以下であり、ほぼ100%のリジンがペンタメチレンジアミンに変換されていた。
反応後の溶液(約4m)は、菌体の不活化処理(80℃、30min)を行った後、UF膜モジュール(旭化成工業株式会社製ACP−3053)に通し、分子量13,000以上の高分子量体の不純物を除去した。
UF膜処理による回収率は99.3%であった。以上のようにして、ほぼペンタメチレンジアミンとアジピン酸をほぼ等モル含むペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液を取得した。
【0060】
[ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩の精製・単離]
(1)活性炭による脱色
直径700mmの活性炭塔に活性炭(三菱化学カルゴン株式会社製MM−11)105kg(約440L)を仕込み、2日間脱塩水を通水した。次に、前記ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液(約4m)を1.32m/hの速度で通液し、最後に500Lの脱塩水を通水した。初期460Lをパージした後、活性炭処理したペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液を採取した。
【0061】
(2)濃縮
PPプリーツカートリッジフィルターTCP−JXを通して、前記活性炭処理後のペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液を2m撹拌槽に仕込み、ジャケット温度110℃、内温57℃、真空度140Torr〜150Torrにて濃縮を開始し、適宜、活性炭処理後のペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液を仕込みながら濃縮を行った。
ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩濃度は63.5重量%であった。
【0062】
尚、上記濃縮液等のペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液中のペンタメチレンジアミン濃度は、1N−HCl水溶液にて滴定して、pHの変曲点までの滴定量から算出した。同様に上記濃縮液等のペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩水溶液中のアジピン酸濃度は、1N−NaOH水溶液にて滴定して、pHの変曲点までの滴定量から算出した。滴定には、自動滴定装置(三菱化学株式会社製GT−06型)を使用した。
【0063】
(3)晶析
次に、同一の2m撹拌槽にて晶析を行った。撹拌翼は3枚後退翼、撹拌速度は40rpm、降温速度は8℃/hである。
内温37.4℃のときに、予め作成したペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩を種晶として1kg添加して結晶を析出させ、内温10.5℃で晶析終了として、ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩スラリーを得た。尚、種晶としてのペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩は、本実施例に準じてラボスケールにて準備した。
【0064】
(4)遠心濾過
直径1.22mの遠心濾過器を用い、前記ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩スラリーを3回に分けて遠心濾過した。回転数は980rpm、母液振り切り時間は15分、母液振り切り後に10℃の脱塩水約12kg(脱塩水約12kgは、予想wetケーキ重量の約20重量%分)をシャワー状に振りかけて洗浄し、その脱塩水の振り切り時間は15分間とした。
【0065】
1番晶として得られたwetケーキは約190kg(ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩として約160kg、濃縮液に対する晶析率は28.3重量%)であった。
尚、上記ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩重量は、wetケーキの水分量を水分計(三菱化学株式会社製:電量滴定式水分測定装置CA−06型)と、水分気化装置(三菱化学株式会社製:VA−06型)とを使用して測定し、測定値から算出した。
【0066】
(実施例1、2、5)
<ポリアミド樹脂の製造>
上記ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩の精製・単離にて調製したペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩の1番晶40kgに水40kgを添加した後、ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩に対して、燐原子換算で30重量ppmの亜燐酸水素2ナトリウム5水和物を添加し、窒素雰囲気下で混合物を溶解させ、原料水溶液を得た。
プランジャーポンプにて予め窒素置換したオートクレーブに、上記の原料水溶液を移送した。ジャケット温度を280℃に、オートクレーブの圧力を1.47MPaにそれぞれ調節し、内容物を270℃に昇温した。
【0067】
次に、オートクレーブ内の圧力を除々に放圧した後、更に減圧して所定の撹拌動力に到達した時点で反応終了とした。反応終了後に窒素にて復圧し、内容物をストランド状に冷却水槽へ導入した後、回転式カッターでペレット化した。得られたペレットは、120℃、1torr(0.13kPa)の条件で、水分量が0.1%以下となる迄乾燥し、ポリアミド樹脂(PA56)を得た。相対粘度(η)は2.51であった。
【0068】
(実施例3)
実施例1において、1番晶25kg、水25kgを使用し、ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩に対して、燐原子換算で30重量ppmの亜リン酸2水素ナトリウム2.5水和物を用いた以外は、実施例1と同様な条件で重縮合を行い、ポリアミド樹脂(PA56)を得た。相対粘度(η)は2.50であった。
【0069】
(実施例4)
実施例1において、1番晶25kg、水25kgを使用し、ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩に対して、燐原子換算で15重量ppmの亜リン酸水素2ナトリウム・5水和物を用いた以外は、実施例1と同様な条件でポリアミド樹脂(PA56)を得た。相対粘度(η)は2.50であった。
【0070】
(比較例1、2)
実施例1において、1番晶に代えて、AH塩(ヘキサメチレンジアミン・アジピン酸塩;Rhodia社製)40kgを使用し、AH塩に対して燐原子換算で30重量ppmの亜リン酸水素2ナトリウム5水和物を添加し、オートクレーブのジャケット温度290℃、内容物温度280℃に変更した以外は、実施例1と同様な条件で重縮合を行い、ポリアミド樹脂(PA66)を得た。相対粘度(η)は2.51であった。
【0071】
(比較例3)
実施例1において、1番晶25kg、水25kg、ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩に対して燐原子換算で30重量ppmの亜リン酸を使用した以外は、実施例1と同様な条件で重縮合を行い、ポリアミド樹脂(PA56)を得た。相対粘度(η)は2.52であった。
【0072】
(比較例4)
実施例1において、1番晶25kg、水25kg、ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩に対して燐原子換算で100重量ppmの亜リン酸水素2ナトリウム5水和物を使用した以外は、実施例1と同様な条件で重縮合を行い、ポリアミド樹脂(PA56)を得た。相対粘度(η)は2.51であった。
得られたポリアミド樹脂のペレットには、直径1mm程度の白い粉が多数析出していた。赤外吸収スペクトルで確認したところ、析出物はピロリン酸ナトリウムであった。
【0073】
(比較例5)
実施例1において、1番晶に代えて、AH塩(Rhodia社製)25kgを使用し、さらに、水25kg、AH塩に対して燐原子換算で30重量ppmの亜リン酸を使用し、オートクレーブのジャケット温度290℃、内容物温度280℃に変更した以外は、実施例1と同様な条件で重縮合を行い、ポリアミド樹脂(PA66)を得た。相対粘度(η)は2.52であった。
実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例5において調製したポリアミド樹脂に含まれる燐化合物の含有量(燐原子換算量:単位重量ppm)を測定した。またこれらのポリアミド樹脂を使用し、表1の組成で配合したポリアミド樹脂組成物について耐衝撃性(衝撃強度:単位kJ/m)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
尚、表1において、重縮合触媒中の燐原子使用量よりも、生成したポリアミド樹脂中の燐原子含有量が多いのは、重縮合に際して「水」が脱離するため、モノマー重量よりもポリマー重量の方が少なくなるためである。
【0076】
表1に示す結果から、重縮合触媒として式(1)で表される燐酸塩類を用いて得られたポリアミド56(PA56)を含むポリアミド樹脂組成物(実施例1〜実施例5)は、ポリアミド66を使用した樹脂組成物(比較例1,2,5)と比較して耐衝撃性が増大していることが分かる。
また、重縮合触媒として亜燐酸(HPO)を用いて得られたポリアミド56(PA56)を含むポリアミド樹脂組成物(比較例3)は、重縮合触媒として式(1)で表される燐酸塩類を用いた場合と比較して耐衝撃性が改良されないことが分かる。
さらに、重縮合触媒として用いた式(1)で表される燐酸塩類に由来する燐化合物の含有量(燐原子換算)が100重量ppmの場合(比較例4)は、ポリアミド樹脂に白異物が観察され、また、耐衝撃性が改良されないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】cadAのクローニングの手順を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンタメチレンジアミンとアジピン酸との重縮合により得られたポリアミド樹脂であって、
重縮合触媒として使用された下記式(1)で表される燐酸塩類に由来する燐化合物を、燐原子換算で1重量ppm〜90重量ppm含有する
ことを特徴とするポリアミド樹脂。
PO 式(1)
(式(1)中、Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、X及びYは、式(1)で表される燐酸塩類が全体として電気的に中性となり、且つ、X+Y=3を満たす0〜3の整数であり、Zは2〜4の整数である。但し、X=0になることはない。)
【請求項2】
ペンタメチレンジアミンは、リジン脱炭酸酵素、リジン脱炭酸酵素活性の向上した組み換え微生物、リジン脱炭酸酵素を産生する細胞または当該細胞の処理物を使用してリジンから産出されるものであることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂。
【請求項3】
請求項1に記載のポリアミド樹脂が、さらに、ハロゲン化第一銅を銅原子換算で5重量ppm〜500重量ppm含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のポリアミド樹脂が、さらに、アルカリ金属ハロゲン化物を0.01重量%〜1重量%含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物100重量部に対し、さらに、強化材1重量部〜150重量部を配合することを特徴とする請求項3又は4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
強化材が、ガラス繊維であることを特徴とする請求項5に記載のポリアミド樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−191156(P2009−191156A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33088(P2008−33088)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】