説明

ポリアミド

【課題】生産性と物性の両面で安定した、特定の成分の含有率が少ない天然物由来のジアミン化合物を用いたポリアミドの製造方法を提供する。
【解決手段】テレフタル酸やアジピン酸を代表例とするジカルボン酸成分と、含窒素六員環化合物の含有率の低いジアミン化合物成分とを用いて、ポリアミドを製造する方法。好ましくは、非ハロゲン系溶媒を用いて抽出する工程を含む製造方法で得られる特定ジアミン成分を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐熱性、低吸水性、更には靱性、成形性、耐薬品性、透明性に優れたポリアミドに関する。さらに詳しくは、特定の高級ジアミン単位を含むポリアミドに関する。
【背景技術】
【0002】
アジピン酸やテレフタル酸などの脂肪族ポリカルボン酸や芳香族ポリカルボン酸成分単位と脂肪族ジアミン成分単位を含む構造を有するポリアミド樹脂は、その高い耐熱性と溶融射出成型が可能であることから電子回路基板や電装材部品、反射板等の主に電子情報材分野から高強度繊維などの民生用途まで幅広く用いられている。一方で、最近の環境問題から、ポリアミドを含む合成樹脂原料を天然物から誘導することを求める動きがある。
【0003】
脂肪族ジアミンの天然物からの誘導例としては、例えば、リシン(別名:リジン)から1,5−ペンタンジアミンを得た後、1,5−ペンタメチレンジイソシアネートへと変換することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、リシンから1,5−ペンタンジアミンを得る方法として、例えば、リシン塩酸塩水溶液に、リシン脱炭酸酵素を作用させ、リシンを1,5−ジアミノペンタンへと変換した後、得られた反応液にクロロホルムを添加し、1,5−ジアミノペンタンをクロロホルム相に抽出する方法が、提案されている(例えば、特許文献2参照)。 1,5−ペンタンジアミンは分子内脱アンモニア反応することにより、2,3,4,5−テトラヒドロピリジンなどの塩基性化合物が副生してしまうことが知られているが、上記の方法では副生物が少ないことが開示されている。
【0005】
ポリアミド樹脂は、一般的にジカルボン酸化合物とジアミン化合物との重縮合反応によって得られる。重縮合反応は、系内の酸性、塩基性によって反応が影響を受けるため、これらの塩基性化合物は少ないことが望ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−545553号公報
【特許文献2】特開2003−292612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の観点より1,5−ペンタンジアミンも上記の副生成物の含有率が低いことが望まれる。また本発明者らは、驚くべきことにアミノ基を含有する含窒素六員環化合物が上記の様な1,5−ペンタンジアミンには含有されていることを突き止めた。このようなアミノ基を含有する化合物の存在は、重縮合反応性制御や得られるポリアミドの物性の安定性や分子量制御の観点から1,5−ペンタンジアミンには含まれないことが好ましい。これらの状況に鑑み、本発明はアミノ基含有含窒素六員環化合物含有率の低い1,5−ペンタンジアミンを用いる事を特徴とするポリアミドの製造方法を提供することを課題として成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような状況に鑑みて鋭意検討した結果、前記のアミノ基含有六員環化合物含有率が低い1,5−ペンタンジアミンを用いてポリアミドを製造することにより、従来よりも吸水性が低く、かつ、優れた耐熱性、靱性、成形性を有するポリアミドが得られることを見出し、本発明の完成するに到った。更には、アミノ基を有する含窒素六員環化合物の含有率の少ない1,5−ペンタンジアミンを用いることが好ましいことを見出した。
【0009】
即ち本発明は、ジカルボン酸成分(A−1)と含窒素六員環化合物の含有率が2.0重量%以下であるジアミン成分(a−2)とを反応させることを特徴とするポリアミドの製造方法である。
【0010】
また、本発明の前記ジアミン成分(a−2)は、アミノ基含有-含窒素六員環化合物の含有率が、1.5重量%以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の前記ジアミン成分(a−2)は、1,5−ペンタンジアミン水溶液から非ハロゲン系有機溶剤を用いて抽出する工程を経て得られることが好ましい。
【0012】
また、本発明の前記ジアミン成分(a−2)は、リシン脱炭酸酵素を用いたリシンの脱炭酸反応で製造される1,5−ペンタンジアミンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い耐熱性、靱性、成形性などを有しつつ、吸水率が低くポリアミドを容易に得ることが出来る。このため、例えば、各種電子情報分野の材料として好適に用いられると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリアミドの製造方法では、ジカルボン酸成分(a−1)と、1,5−ペンタンジアミン成分(a−2)と、必要に応じて脂肪族モノアミン成分、脂肪族モノカルボン酸から選ばれる単官能化合物成分(a−3)とを含むことを特徴とする。
【0015】
[ジカルボン酸成分(a−1)]
本発明のポリアミド樹脂の製造方法に用いられるに含まれるジカルボン酸成分(a−1)は、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸や炭素原子数は4〜20、好ましくは6〜12の脂肪族ジカルボン酸である。このような芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、特にはテレフタル酸である。脂肪族ジカルボン酸成分単位を誘導するために用いられる脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、特にアジピン酸が好ましい。
【0016】
本願発明の製造方法で得られるポリアミドが、芳香族ジカルボン酸単位を主成分とする態様としては、テレフタル酸成分単位30〜100モル%、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位0〜70モル%、脂肪族ジカルボン酸成分単位0〜70モル%を含むものが好ましい。このうちテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位としては、具体的にはイソフタル酸、2−メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等を例示できる。これらは2種以上の組み合せでも良い。本発明における芳香族ジカルボン酸単位を含む態様では、全てのジカルボン酸成分単位を100モル%とするとき、テレフタル酸成分単位は、30〜100モル%、好ましくは40〜100モル%、より好ましくは60〜100モル%、更に好ましくは80モル%であり、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位は0〜70モル%、好ましくは0〜60モル%、より好ましくは0〜40モル%であり、更に好ましくは0〜20モル%であり、炭素原子数4〜20、好ましくは6〜12の脂肪族ジカルボン酸成分単位は、0〜70モル%、好ましくは0〜60モル%、より好ましくは0〜40モル%であり、更に好ましくは0〜20モル%である。
【0017】
このようなポリアミドを製造する場合の各種ジカルボン酸の使用比率は、全てのジカルボン酸成分を100モル%とするとき、テレフタル酸は、30〜100モル%、好ましくは40〜100モル%、より好ましくは60〜100モル%、更に好ましくは80モル%であり、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸は0〜70モル%、好ましくは0〜60モル%、より好ましくは0〜40モル%であり、更に好ましくは0〜20モル%であり、炭素原子数4〜20、好ましくは6〜12の脂肪族ジカルボン酸は、0〜70モル%、好ましくは0〜60モル%、より好ましくは0〜40モル%であり、更に好ましくは0〜20モル%である。
【0018】
また、脂肪族ジカルボン酸成分単位を主成分とする態様としては、例えば、前記のジカルボン酸から誘導される単位を含むものが好ましい。これらの中でも、特にアジピン酸が好ましい。
【0019】
また、本発明においては、ジカルボン酸成分(a−1)として、上記のような構成単位とともに、少量、例えば10モル%以下程度の量の3価以上の多価カルボン酸が含まれても良い。このような多価カルボン酸として具体的には、トリメリット酸およびピロメリット酸等のような三塩基酸および多塩基酸を挙げることができる。
【0020】
[ジアミン成分単位(a−2)]
本発明に用いられる1,5−ペンタンジアミン(a−2)は、好ましくはアミノ基含有含窒素六員環化合物の含有率が1.5重量%以下、より好ましくは1.0重量%以下、更に好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0.2重量%以下である。このような化合物としては、2−アミノメチル−3,4,5,6−テトラヒドロピリジンなどが挙げられる。
【0021】
また、アミノ基を含まない含窒素六員環化合物、例えば2,3,4,5−テトラヒドロピリジンの様な化合物と前記アミノ基を含む含窒素六員環化合物との総和は、2.0重量%以下、好ましくは1.5重量%以下、より好ましくは1.2重量%以下、更に好ましくは1.0重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下である。
【0022】
前記のアミノ基を含有する含窒素六員環化合物が多過ぎると、ポリアミドの製造中に分子量の他、融点やガラス転移温度の制御が困難になったり、吸水性が高くなることがある。また、空気中の酸素との反応が起こり易くなる可能性も考えられる。また、アミノ基を含まない含窒素六員環化合物が多過ぎると、例えば重縮合反応性が低下するなどの反応性制御が困難になる場合がある。
これらは、例えば電子情報材料用途への展開を図る上では避けることが好ましいと考えられる。
【0023】
また、1,5−ペンタンジアミンの異性体である1,4-ペンタンジアミンなどが含まれていても良い。
【0024】
このような1,5−ペンタンジアミンは、好ましくは水中におけるリシンの脱炭酸酵素反応により得る工程を含む製造方法で得られる。
【0025】
以下において、リシンの脱炭酸酵素反応について詳述する。
リシンの脱炭酸酵素反応では、リシン(化学式:NH(CHCH(NH)COOH、別名:1,5−ペンタメチレンジアミン−1−カルボン酸)に、リシン脱炭酸酵素を作用させる。
【0026】
リシンとしては、例えば、L−リシンなどが挙げられる。
【0027】
また、リシンとしては、リシンの塩を用いることもできる。リシンの塩としては、例えば、カルボン酸塩(例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、2−エチルヘキサン酸塩、ステアリン酸塩など)、スルホン酸塩などの有機酸塩、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩などの無機酸塩などが挙げられる。
【0028】
リシンの塩として、好ましくはリシン塩酸塩が挙げられる。このようなリシン塩酸塩としては、例えば、L−リシン・一塩酸塩などが挙げられる。
【0029】
リシン(またはその塩)の濃度は、特に制限はされないが、例えば、1〜75重量%、好ましくは2〜70重量%、好ましくは、2〜65重量%である。また、リシン塩は高濃度で用いることで、収率や純度の向上を図ることが出来る場合がある。このような場合の好ましい濃度の下限は、25重量%、より好ましくは30重量%、更に好ましくは32重量%である。一方で好ましい濃度の上限は75重量%、より好ましくは70重量%、更に好ましくは65重量%である。濃度が低すぎると収量の低下に繋がることがある。一方で濃度が高すぎると、副反応が増加したり、反応温度の制御が困難となり、運転の不安定化や、やはり副反応の増加に繋がる場合がある。
【0030】
リシン脱炭酸酵素は、リシン(またはその塩)をペンタメチレンジアミン(またはその塩)に転換させる酵素であって、特に制限されないが、例えば、公知の生物に由来するものが挙げられる。リシン脱炭酸酵素として、より具体的には、例えば、バシラス・ハロドゥランス(Bacillus halodurans)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ストレプトマイセス・コエリカーラ(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、ナイセリア・メニンギチデス(Neisseria meningitidis)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、ピロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)またはコリネバクテリウム・グルタミカス(Corynebacterium glutamicum)などの微生物に由来するものが挙げられる。安全性の観点から、好ましくは、Escherichia coliに由来するものが挙げられる。
【0031】
リシン脱炭酸酵素は、例えば、特開2004−114号公報(例えば、段落番号[0015]〜[0042]など)の記載に準拠するなど、公知の方法により製造することができる。
【0032】
リシン脱炭酸酵素を製造する方法として、より具体的には、例えば、リシン脱炭酸酵素が細胞内で高発現した組換え細胞(以下、内部発現細胞)を公知の培地で培養し、その後、増殖した内部発現細胞を回収および破砕する方法や、例えば、リシン脱炭酸酵素が細胞表面で局在化した組換え細胞(以下、表面発現細胞)を公知の培地で培養し、その後、増殖した表面発現細胞を回収および必要により破砕する方法などが挙げられる。
【0033】
このような方法において、組換え細胞としては、特に制限されず、微生物、動物、植物または昆虫由来のものが挙げられる。より具体的には、例えば、動物を用いる場合には、マウス、ラットやそれらの培養細胞などが挙げられ、また、植物を用いる場合には、例えば、シロイヌナズナ、タバコやそれらの培養細胞などが挙げられ、また、昆虫を用いる場合には、例えば、カイコやその培養細胞などが挙げられ、微生物を用いる場合には、例えば、大腸菌などが挙げられる。
これら組換え細胞は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0034】
組換え細胞の表面にリシン脱炭酸酵素を局在化させる方法としては、特に制限されず、例えば、分泌シグナル配列の一部、細胞表面局在タンパク質の一部をコードする遺伝子配列、および、リシン脱炭酸酵素の構造遺伝子配列をこの順で有するDNAを、大腸菌に導入する方法など、公知の方法を採用することができる。
【0035】
分泌シグナル配列の一部としては、宿主においてタンパク質を分泌するために必要な配列であれば、特に制限されず、例えば、大腸菌においては、例えば、リポプロテインの配列の一部、より具体的には、例えば、アミノ酸配列としてMKATKLVLGAVILGSTLLAGCSSNAKIDQ(アミノ酸の一文字表記)と翻訳される遺伝子配列などが挙げられる。
【0036】
細胞表面局在タンパク質の一部をコードする遺伝子配列としては、特に制限されないが、大腸菌においては、例えば、外膜結合タンパク質の配列の一部が挙げられ、より具体的には、例えば、OmpA(外膜結合タンパク質)の46番目のアミノ酸から159番目のアミノ酸までの配列の一部などが挙げられる。
【0037】
リシン脱炭酸酵素遺伝子、リポプロテイン遺伝子およびOmpA遺伝子をクローニングする方法としては、特に制限されないが、例えば、既知の遺伝子情報に基づき、PCR(polymerase chain reaction)法を用いて必要な遺伝領域を増幅取得する方法、例えば、既知の遺伝子情報に基づき、ゲノムライブラリーやcDNAライブラリーより相同性や酵素活性を指標としてクローニングする方法などが挙げられる。
【0038】
なお、これらの遺伝子は、遺伝的多形性(遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているもの)などによる変異型の遺伝子も含む。
【0039】
このような方法として、より具体的には、例えば、Escherichia coli K12の染色体DNAより、PCR法を用いて、リシン脱炭酸酵素をコードする遺伝子であるcadA遺伝子またはldc遺伝子を、クローニングする。なお、このとき採用する染色体DNAは、Escherichia coli由来であれば、制限されず、任意の菌株由来のものを採用することができる。
【0040】
また、このようにして得られる表面発現細胞の表面にリシン脱炭酸酵素が局在化していることは、例えば、リシン脱炭酸酵素を抗原として作製した抗体により、表面発現細胞を免疫反応させた後、包埋および薄切りし、例えば、電子顕微鏡(免疫電顕法)により観察することによって、確認することができる。
【0041】
なお、表面発現細胞は、リシン脱炭酸酵素が細胞表面に局在化していればよく、例えば、リシン脱炭酸酵素が細胞表面に局在化するとともに、細胞内部に発現していてもよい。
【0042】
また、リシン脱炭酸酵素としては、例えば、リシン脱炭酸酵素の細胞内および/または細胞表面での活性が上昇した組換え細胞から調製されるものも挙げられる。
【0043】
細胞内および/または細胞表面でリシン脱炭酸酵素の活性を上昇させる方法としては、特に制限されず、例えば、リシン脱炭酸酵素の酵素量を増加させる方法、例えば、リシン脱炭酸酵素の細胞内および/または細胞表面での活性を上昇させる方法などが挙げられる。
【0044】
細胞内もしくは細胞表面の酵素量を増加させる手段としては、例えば、遺伝子の転写調節領域の改良、遺伝子のコピー数の増加、蛋白への翻訳の効率化などが挙げられる。
【0045】
転写調節領域の改良とは、遺伝子の転写量を増加させる改変を加えることであって、例えば、プロモーターに変異を導入することによってプロモーターを強化し、下流にある遺伝子の転写量を増加させることができる。プロモーターに変異を導入する以外にも、宿主内で強力に発現するプロモーターを導入することもできる。プロモーターとして、より具体的には、例えば、大腸菌においては、lac、tac、trpなどが挙げられる。また、エンハンサーを新たに導入することによって遺伝子の転写量を増加させることができる。なお、染色体DNAのプロモーターなどの遺伝子導入については、例えば、特開平1−215280号公報の記載に準拠することができる。
【0046】
遺伝子のコピー数の上昇は、具体的には、遺伝子を多コピー型のベクターに接続して組換えDNAを作製し、その組換えDNAを宿主細胞に保持させることにより達成することができる。ベクターとは、プラスミドやファージなど、広く用いられているものを含むが、これら以外にも、例えば、トランソポゾン(Berg,D.E and Berg.C.M., Bio/Technol.,vol.1,P.417(1983))やMuファージ(特開平2−109985号公報)なども挙げられる。さらには、遺伝子を相同組換え用プラスミドなどを用いた方法で染色体に組み込んで、コピー数を上昇させることもできる。
【0047】
蛋白の翻訳効率を上昇させる方法としては、例えば、原核生物においては、SD配列(Shine, J. and Dalgarno, L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 71, 1342−1346 (1974))、真核生物では、Kozakのコンセンサス配列(Kozak, M., Nuc. Acids Res., Vol.15,p.8125−8148(1987))を導入、改変する方法や、使用コドンの最適化(特開昭59−125895)などが挙げられる。
【0048】
リシン脱炭酸酵素の細胞内および/または細胞表面での活性を上昇させる方法としては、リシン脱炭酸酵素の構造遺伝子自体に変異を導入して、リシン脱炭酸酵素そのものの活性を上昇させることも挙げられる。
【0049】
遺伝子に変異を生じさせる方法としては、例えば、部位特異的変異法(Kramer,W. and frita,H.J., Methods in Enzymology,vol.154,P.350(1987))、リコンビナントPCR法(PCR Technology,Stockton Press(1989)、特定の部分のDNAを化学合成する方法、遺伝子をヒドロキシアミン処理する方法、遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、または、ニトロソグアニジンや亜硝酸などの化学薬剤で処理する方法などが挙げられる。
【0050】
また、このような組換え細胞(内部発現細胞、表面発現細胞など)を培養する方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。より具体的には、例えば、微生物を培養する場合には、培地として、例えば、炭素源、窒素源および無機イオンを含有する培地が用いられる。
【0051】
炭素源としては、例えば、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物などの糖類、例えば、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、例えば、グルコン酸、フマル酸、クエン酸やコハク酸などの有機酸類などが挙げられる。
これら炭素源は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0052】
窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機アンモニウム塩、例えば、大豆加水分解物などの有機窒素、例えば、アンモニアガス、アンモニア水などが挙げられる。
これら窒素源は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0053】
無機イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、塩素イオン、マンガンイオン、鉄イオン、リン酸イオン、硫酸イオンなどが挙げられる。
これら無機イオンは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0054】
また、培地には、必要に応じて、その他の有機成分(有機微量栄養素)を添加することもでき、そのような有機成分としては、例えば、各種アミノ酸、例えば、ビタミンBなどのビタミン類、例えば、RNAなどの核酸類などの要求物質、さらには、例えば、酵母エキスなどが挙げられる。このような培地として、より具体的には、LB培地が挙げられる。
【0055】
培養条件としては、特に制限されないが、例えば、大腸菌を培養する場合には、好気条件下において、培養温度が、例えば、30〜45℃、好ましくは、30〜40℃であり、培養pHが、例えば、5〜8、好ましくは、6.5〜7.5であり、培養時間が、例えば、16〜72時間、好ましくは、24〜48時間である。なお、pHの調整には、例えば、無機または有機の酸性またはアルカリ性物質や、アンモニアガスなどを用いることができる。
【0056】
そして、このような培地において増殖した組換え細胞(内部発現細胞、表面発現細胞)は、例えば、遠心分離などにより回収することができる。
【0057】
また、この方法では、回収された細胞を、例えば、休止細胞として用いることもできるが、必要により、破砕し、その細胞破砕液(菌体破砕液)として用いることができる。
【0058】
細胞破砕液(菌体破砕液)の調製においては、公知の方法を採用することができる。より具体的には、例えば、まず、得られた内部発現細胞および/または表面発現細胞を、例えば、超音波処理、ダイノミル、フレンチプレスなどの方法により破砕し、その後、遠心分離により細胞残渣を除去する。また、この方法では、必要により、得られた細胞破砕液からリシン脱炭酸酵素を精製することができる。
【0059】
リシン脱炭酸酵素の精製方法としては、特に制限されず、酵素の精製に通常用いられる公知の方法(例えば、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、等電点沈殿、熱処理、pH処理など)を、必要により適宜組み合わせて採用することができる。
【0060】
そして、リシン(またはその塩)の脱炭酸酵素反応では、このようにして得られた休止細胞および/またはその細胞破砕液と、リシン(またはその塩)の水溶液とを配合し、水中でリシン脱炭酸酵素をリシン(またはその塩)に作用させる。
【0061】
反応に使用するリシン(またはその塩)の総質量に対する、反応に使用する菌体(細胞)の乾燥菌体換算質量の比率は、リシン(またはその塩)をペンタメチレンジアミン(またはその塩)に転換させるのに十分な量であれば、特に制限されないが、例えば、0.01以下、好ましくは、0.007以下である。
【0062】
なお、反応に使用するリシン(またはその塩)の総質量とは、反応開始時に反応系内に存在するリシン(またはその塩)の質量(反応中に反応系にリシン(またはその塩)を加える場合には、それらリシン(またはその塩)の総量)である。
【0063】
また、菌体の乾燥菌体換算質量とは、乾燥して水分を含まない菌体の質量である。菌体の乾燥菌体換算質量は、例えば、菌体を含む液(菌体液)から、遠心分離や濾過等の方法で菌体を分離し、質量が一定になるまで乾燥し、その質量を測定することにより求めることができる。
【0064】
上記の様な菌体は、熱処理を行った方が好ましい場合がある。このような熱処理の温度として好ましい下限値は、46℃、より好ましくは50℃である。一方、好ましい上限値は75℃、より好ましくは70℃である。温度が低すぎる場合も、高すぎる場合も、反応活性の向上が得られないことがある。また熱処理の時間の好ましい下限値は10分、より好ましくは15分であり、好ましい上限値は60分、より好ましく55分である。上記の時間が短すぎる場合も長すぎる場合もやはり反応活性の向上が得られないことがある。
【0065】
また、上記の菌体を凍結融解処理も活性向上に好ましい場合がある。前記凍結融解処理の凍結工程の温度は、その好ましい下限値が−180℃、より好ましくは−80℃、更に好ましくは−75℃である。上記の様な温度は、反応活性向上の観点からだけでなく、液体窒素やドライアイスを用いることが出来る観点から、工業的にも好ましい温度範囲である。一方、好ましい温度上限値は0℃、より好ましくは−5℃である。上記の温度範囲は、反応活性向上の観点からだけでなく、水や氷を用いることが出来る観点から、工業的にも好ましい温度範囲である。
【0066】
前記融解処理の好ましい温度範囲は、その下限値が1℃、好ましくは5℃である。一方で好ましい上限値は80℃、より好ましくは75℃、更に好ましくは70℃である。
【0067】
リシン(またはその塩)の脱炭酸酵素反応における反応温度は、例えば、28〜55℃、好ましくは、35〜45℃であり、反応時間は、採用されるリシン脱炭酸酵素の種類などにより異なるが、例えば、1〜72時間、好ましくは、12〜36時間である。また、反応pHは、例えば、5.0〜8.0、好ましくは、5.5〜6.5である。
【0068】
これにより、リシン(またはその塩)が脱炭酸酵素反応して、ペンタメチレンジアミンに転換され、その結果、ペンタメチレンジアミン水溶液が得られる。
【0069】
ペンタメチレンジアミンまたはその塩の反応収率は、リシン(またはその塩)を基準として、例えば、10〜100モル%、好ましくは、70〜100モル%、より好ましくは、80〜100モル%である。
【0070】
また、ペンタメチレンジアミン水溶液におけるペンタメチレンジアミンまたはその塩の濃度(ペンタメチレンジアミン塩の場合はペンタメチレンジアミン換算濃度)は、例えば、1〜70重量%、好ましくは、2〜50重量%、より好ましくは、5〜40重量%である。
【0071】
なお、この反応では,得られるペンタメチレンジアミンがアルカリ性であるため、リシン(またはその塩)がペンタメチレンジアミン(またはその塩)に転換されるに伴って反応液のpHが増加する場合がある。このような場合には、必要により、酸性物質(例えば、有機酸、例えば、塩酸などの無機酸など)などを添加し、pHを調整することができる。
【0072】
また、この反応では、必要により、例えば、ビタミンBおよび/またはその誘導体を反応液中に添加することもできる。ビタミンBおよび/またはその誘導体としては、例えば、ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサール、ピリドキサールリン酸などが挙げられる。好ましくはピリドキサールリン酸が挙げられる。ビタミンBおよび/またはその誘導体を添加することにより、ペンタメチレンジアミンの生産速度および反応収率を向上することができる。
これらビタミンBおよび/またはその誘導体は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0073】
この方法では、得られたペンタメチレンジアミン水溶液から、必要により、水の一部を留去させた後、ペンタメチレンジアミンまたはその塩を抽出する。抽出では、例えば、液−液抽出法が採用される。
【0074】
液−液抽出法では、ペンタメチレンジアミン水溶液に、抽出溶剤(後述)を接触させ、混合および攪拌することにより、ペンタメチレンジアミン水溶液中のペンタメチレンジアミンまたはその塩を、抽出溶剤(後述)へと抽出する。
【0075】
液−液抽出におけるペンタメチレンジアミン水溶液と抽出溶剤(後述)との配合割合は、ペンタメチレンジアミン水溶液100重量部に対して、抽出溶剤(後述)が、例えば、30〜300重量部、好ましくは、50〜200重量部、より好ましくは60〜150重量、とりわけ好ましくは、80〜120重量部である。
【0076】
また、液−液抽出では、ペンタメチレンジアミン水溶液と抽出溶剤(後述)とを、例えば、常圧(大気圧)下、例えば、5〜60℃、好ましくは、10〜50℃、より好ましくは、15〜40℃において、例えば、1〜120分間、好ましくは、5〜90分間、より好ましくは、5〜60分間混合する。これにより、ペンタメチレンジアミンまたはその塩を、抽出溶剤(後述)中へと抽出する。
【0077】
次いで、この方法では、ペンタメチレンジアミンまたはその塩と抽出溶剤(後述)との混合物を、例えば、5〜300分間静置し、その後、ペンタメチレンジアミンまたはその塩が抽出された抽出溶剤(すなわち、抽出溶剤(後述)とペンタメチレンジアミンまたはその塩との混合物)を、公知の方法により取り出す。
【0078】
なお、1回の液−液抽出によりペンタメチレンジアミンまたはその塩を十分に抽出できない場合には、複数回(例えば、2〜5回)繰り返し液−液抽出することもできる。
【0079】
また、液−液抽出法では、例えば、抽出塔などを用いて、ペンタメチレンジアミンまたはその塩を、連続的に抽出することもできる。このような抽出塔としては、例えば、塔内部に棚板が数十段組み込まれた抽出塔や、棚板が回転円盤型の抽出塔などが挙げられる。
【0080】
これにより、ペンタメチレンジアミン水溶液中のペンタメチレンジアミンまたはその塩を、抽出溶剤(後述)に抽出することができる。
【0081】
このようにして得られる抽出溶剤(抽出溶剤(後述)とペンタメチレンジアミンまたはその塩との混合物)において、ペンタメチレンジアミンまたはその塩の濃度は、例えば、0.2〜40重量%、好ましくは、0.3〜35重量%、より好ましくは、0.4〜30重量%、とりわけ好ましくは、0.8〜25重量%である。
【0082】
また、抽出後におけるペンタメチレンジアミンまたはその塩の収率(抽出率)は、リシン(またはその塩)を基準として、例えば、65〜100モル%、好ましくは、70〜100モル%、より好ましくは、80〜100モル%、とりわけ好ましくは、90〜100モル%である。
【0083】
なお、この方法では、必要により、得られた抽出溶剤(後述)とペンタメチレンジアミンまたはその塩との混合物から、例えば、減圧蒸留などの公知の方法により抽出溶剤(後述)を除去し、ペンタメチレンジアミンまたはその塩を単離することもできる。このような蒸留を行う場合は、出来る限り低温で行うことが好ましい。
【0084】
このような抽出において、抽出溶剤としては、例えば、非ハロゲン系有機溶剤が挙げられる。
非ハロゲン系有機溶剤は、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)を分子中に含有しない有機溶剤であって、例えば、非ハロゲン脂肪族系有機溶剤、非ハロゲン脂環族系有機溶剤、非ハロゲン芳香族系有機溶剤などが挙げられる。
【0085】
非ハロゲン脂肪族系有機溶剤としては、例えば、直鎖状の非ハロゲン脂肪族系有機溶剤、分岐状の非ハロゲン脂肪族系有機溶剤などが挙げられる。
【0086】
直鎖状の非ハロゲン脂肪族系有機溶剤としては、例えば、直鎖状の非ハロゲン脂肪族炭化水素類(例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカンなど)、直鎖状の非ハロゲン脂肪族エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテルなど)、直鎖状の非ハロゲン脂肪族アルコール類(例えば、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、n−ドデカノールなど)などが挙げられる。
【0087】
分岐状の非ハロゲン脂肪族系有機溶剤としては、例えば、分岐状の非ハロゲン脂肪族炭化水素類(例えば、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、n−オクタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、3−エチルへキサン、2,2−ジメチルへキサン、2,3−ジメチルへキサン、2,4−ジメチルへキサン、2,5−ジメチルへキサン、3,3−ジメチルへキサン、3,4−ジメチルへキサン、2−メチル−3−エチルペンタン、3−メチル−3−エチルペンタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,3,4−トリメチルペンタン、2,2,3,3−テトラメチルブタン、2,2,5−トリメチルヘキサンなど)、分岐状の非ハロゲン脂肪族エーテル類(ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテルなど)、分岐状の非ハロゲン脂肪族一価アルコール類(例えば、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、イソペンタノール、イソヘキサノール、イソヘプタノール、イソオクタノール、イソノナノール、イソデカノール、5−エチル−2−ノナノール、トリメチルノニルアルコール、2−ヘキシルデカノール、3,9−ジエチル−6−トリデカノール、2−イソヘプチルイソウンデカノール、2−オクチルドデカノール、その他(C(炭素数、以下同様)4〜12)の1価アルコールなど)、分岐状の非ハロゲン脂肪族多価アルコール類(例えば、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなど)などが挙げられる。
これら非ハロゲン脂肪族系有機溶剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0088】
非ハロゲン脂肪族系有機溶剤として、好ましくは、直鎖状の非ハロゲン脂肪族系有機溶剤、より好ましくは、直鎖状の非ハロゲン脂肪族アルコール類が挙げられる。
【0089】
直鎖状の非ハロゲン脂肪族アルコール類を用いると、ペンタメチレンジアミンを、高収率で抽出することができる。
【0090】
非ハロゲン脂環族系有機溶剤としては、例えば、非ハロゲン脂環族炭化水素類(例えば、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p−メンタン、ビシクロヘキシルなど)が挙げられる。
これら非ハロゲン脂環族系有機溶剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0091】
非ハロゲン芳香族系有機溶剤としては、例えば、非ハロゲン芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、エチルベンゼンなど)、フェノール類(例えば、フェノール、クレゾールなど)などが挙げられる。
これら非ハロゲン芳香族系有機溶剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0092】
また、非ハロゲン系有機溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素類と芳香族炭化水素類との混合物なども挙げられ、そのような混合物としては、例えば、石油エーテル、石油ベンジンなどが挙げられる。
これら非ハロゲン系有機溶剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0093】
なお、抽出溶剤としては、本発明の優れた効果を阻害しない範囲において、例えば、後述するハロゲン系有機溶剤(ハロゲン原子を分子中に含有する有機溶剤)を用いることもできる。
【0094】
ハロゲン系有機溶剤としては、例えば、ハロゲン系脂肪族炭化水素類(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、テトラクロロエチレンなど)、ハロゲン系芳香族炭化水素類(例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなど)などが挙げられる。
これらハロゲン系有機溶剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0095】
一方、抽出溶剤として、ハロゲン系有機溶剤を用いると、得られるペンタメチレンジアミンまたはその塩の総量に対する、前記含窒素六員環化合物の含有量が増加する場合がある。従って、本発明においては、非ハロゲン系有機溶剤を用いることが好ましい。
【0096】
また、ペンタメチレンジアミン水溶液からペンタメチレンジアミンまたはその塩を得る方法としては、上記の抽出に限定されず、例えば、蒸留など、公知の単離精製方法を採用することもできる。前記の1,5−ペンタンジアミンの分子内環化反応の観点からは、出来る限り低温で精製出来る方法、例えば前記の非ハロゲン系有機溶媒による抽出法が好ましい例として挙げられる。
【0097】
そして、このようにして得られるペンタメチレンジアミンまたはその塩は、C=N結合を有する含窒素六員環化合物(以下、C=N六員環化合物と称する場合がある。)を含有しないか、または、その含有量が低減されている。
【0098】
本発明の前記ジアミン成分(a−2)100モル%に対して0〜10モル%含まれる脂肪族モノアミン成分単位や脂肪族モノカルボン酸成分単位(a−3)は、炭素原子数4〜20、好ましくは炭素原子数8〜20、より好ましくは炭素原子数11〜16の脂肪族モノアミン成分単位や脂肪族モノカルボン酸成分単位が好ましい。脂肪族モノアミン成分単位の具体的な例としては、1−アミノブタン、1−アミノヘキサン、1−アミノオクタン、1−アミノデカン、1−アミノウンデカン、1−アミノドデカン、1−アミノテトラデカン、1−アミノヘキサデカン、1−アミノオクタデカン、1−アミノエイコセン等の直鎖状脂肪族モノアミンが挙げられる。また、メチルアミノペンタン、メチルアミノヘプタン、メチルアミノオクタン、メチルアミノノナン、メチルアミノウンデカン、メチルアミノトリデカン、メチルアミノペンタデカン、メチルアミノヘプタデカン、メチルアミノノナデカン等の分岐脂肪族モノアミンも例示することが出来る。これらの中でも、炭素原子数11〜20のアミン単位が好ましく、より好ましくは1−アミノドデカン単位である。一方、脂肪族モノカルボン酸の具体的な例としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、バレリアン酸、ヘプチル酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトイル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、ツベクロステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸などが挙げられる。これらの中でも炭素原子数11〜20のカルボン酸単位が好ましい。
【0099】
これらの単官能化合物成分単位が含まれる好ましい下限値は0.005モル%、より好ましくは0.1モル% 、更に好ましくは0.02モル% 、特に好ましくは0.03モル%である。一方、好ましい上限値は2.0モル%、より好ましくは1.0モル% 、更に好ましくは0.5モル% 、特に好ましくは0.3モル%である。
【0100】
上記の様なアミン成分や高級カルボン酸成分は、ポリアミド分子の末端に位置する事が予想され、自由度が高いとされる末端のアミド結合に由来する極性を緩和し、吸水率の低減に寄与する効果が期待される。特に高級アミンや高級カルボン酸であると、その効果が高くなることが期待される。一方、末端が芳香族カルボン酸であると、得られるポリアミドが着色し易く、視覚的な安定性が低い可能性がある。
【0101】
本発明においては前記の1,5−ペンタンジアミン成分を用いる以外は、公知の方法でポリアミドを製造可能である。具体的には上記の各成分単位に対応するジカルボン酸成分とジアミン成分、必要に応じて上記のモノアミンやモノカルボン酸との重縮合により製造することができる。例えば、上記のジカルボン酸成分とジアミン成分とをWO03/085029に記載されているように、触媒の存在下に加熱することにより低次縮合物を得、次いでこの低次縮合物の溶融物に剪断応力を付与することにより重縮合することで製造することができる。
【0102】
ジカルボン酸成分(A−1)とジアミン成分(a−2)との仕込み比は、反応場の環境に依存する面があるが、通常はジアミンの飛散や分子量の調整などの目的で必要に応じて用いられるモノカルボン酸や三価以上の多価カルボン酸の併用などを鑑み、ジアミン成分(a−2)は、ジカルボン酸成分(A−1)に対して、過剰に添加するのが望ましい。好ましくは、ジアミン成分(a−2)/ジカルボン酸成分(A−1)のモル比が1.00〜1.100である。さらに好ましいモル比は、1.005〜1.050である。このような範囲にある場合、耐熱性、色相、流動性に優れる場合が多い。
【0103】
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂は、温度25℃、96.5%硫酸中で測定した極限粘度[η]が、0.3〜3.0dl/g、好ましくは0.5〜1.5dl/g、さらに好ましくは0.6〜1.1dl/gである。このような範囲にある場合、成形時の流動性に優れる。また、通常DSCで測定した融点は230〜330℃、特に250〜310℃が好ましい。
【0104】
このような範囲にあるポリアミド樹脂は、その分解温度と融点との差が比較的大きいので。成形時など樹脂が溶融状態での安定性にも優れていると予想される。また上記の融点範囲にあれば、電子情報材分野や自動車材分野などの産業材分野においても、充分な耐熱性としては充分なレベルである。
【0105】
またポリアミド樹脂は、通常アミド結合を有するため水分を吸収し易い。例えば電子部品を基盤に実装する際の半田付け工程では雰囲気温度が260℃付近となる。このような高温では吸湿した水分が蒸気となりポリアミド材料から放出され、その蒸気圧により部品表面に膨れが生じる、即ち製品不良となることがある。従って、ポリアミド樹脂の吸水率を低減させることは、実装工程での耐熱性向上、製品不良低減に繋がると考えられる。
【0106】
本発明における吸水率は、以下のような方法で測定される。
(株)ソディック プラステック社製、ツパールTR40S3A型射出成形機を用い、
シリンダー温度335℃、金型温度120℃で射出成形した長さ64mm、幅6mm、厚さ0.8mmの試験片を得、重量測定する(重量B)。
【0107】
この試験片を40℃、90%相対湿度のオーブンに4日放置し、これを室温に戻した後、試験片の重量を測定する。(重量A) これらの測定値を用い、下記式により吸水率が決定される。
【0108】
吸水率(/%) = 100 X (重量A − 重量B)/重量B
本発明のポリアミドの吸水率は、好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下である。好ましい下限値は勿論0%である。
【0109】
ポリアミドは吸水率が上記のような範囲にあることが多く、実装工程でのリフロー耐熱性(後述)に優れる事が期待される。
【0110】
[その他の成分]
本発明の製造方法で得られるポリアミドは、公知の無機充填材や安定剤を含む組成物として使用することも出来る。上記の無機充填材としては、繊維状、粉状、粒状、板状、針状、クロス状、マット状等の形状を有する種々の無機補強材を使用することができる。さらに詳述すると、無機充填材としては、ガラス繊維、金属被覆ガラス繊維、セラミックス繊維、炭素繊維、金属炭化物繊維、金属硬化物繊維、アスベスト繊維およびホウ素繊維などの無機繊維が挙げられる。このような繊維状充填剤を使用することにより、組成物の成形性が向上すると共に、樹脂組成物から形成される成形体の引張り強度、曲げ強度、曲げ弾性率等の機械的特性および熱変形温度などの耐熱特性が向上する。上記のような繊維状添加剤の形状は、種類によって様々であるが、例えばガラス繊維の場合、平均長さは、通常0.1〜20mm、好ましくは0.3〜6mmの範囲にあり、アスペクト比(L(繊維の平均長)/D(繊維の平均外径))が、通常10〜2000、好ましくは30〜600の範囲にある。
【0111】
本発明の製造方法で得られるポリアミドは、白色顔料や黒色顔料などの各種顔料と組み合わせて用いることも出来る。例えばポリアミドを反射材に使用する場合、公知の白色顔料と組み合わせることが出来る。黒色顔料を併用しても良い。そのような白色顔料としては酸化チタン、チタン酸カリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、鉛白、硫酸亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化アルミナなどが上げられる。黒色顔料として代表的なのはカーボンブラックである。
【0112】
これらの白色顔料は、単独で用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。また、これらの白色顔料はシランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤などで処理して使用することもできる。たとえばビニルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのシラン系化合物で表面処理されていてもよい。白色顔料としては特に酸化チタンが好ましく、酸化チタンを使用することにより反射率、隠蔽性といった光学特性が向上する。また酸化チタンはルチル型が好ましい。また酸化チタンの粒子径は0.05〜2.0μm、好ましくは0.05〜0.7μmである。
【0113】
本発明の製造方法で得られるポリアミドを含む樹脂組成物は、例えばベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物またはベンゾフェノン系化合物やヒンダードアミン系化合物等から選ばれる特定の紫外線吸収剤や安定剤、添加剤と組み合わせた組成物とすることも出来る。 当該ポリアミド組成物を成形して、例えば反射板などの光学用途に展開した場合、得られる反射板の変色や反射率の低下の抑制等、その光学性能の保持に効果を示すことが期待される。
【0114】
上記の紫外線吸収剤は、窒素雰囲気下で温度25℃から340℃まで20℃/分で昇温した後に、温度340℃で10分間保持したときの紫外線吸収剤の加熱質量減少率が0〜50重量%、好ましくは0〜40重量%,さらに0〜30重量%であることが好ましい。上記の様な紫外線吸収剤としては、特にベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物またはベンゾフェノン系化合物から選ばれる少なくとも1種以上からなることが好ましい。このような紫外線吸収剤として具体的には、2−[2‘−Hydroxy−3’−(3“,4”,5“,6”−tetra hydrophthalimidemethl)−5‘−methylphenyl]−benzotriazole、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−Bis(2,4−dimethylphenyl)−1,3,5−triazin−2−yl]−5−(octyloxy)phenol、などが挙げられる。
【0115】
紫外線吸収剤として、ヒンダードアミン系化合物を挙げることも出来る。本発明におけるヒンダードアミン系化合物は、前記と同様の熱安定性を示すことが好ましい。このようなヒンダードアミン系化合物として具体的には、N,N’,N”,N’’’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10ジアミン、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]などが挙げられる。
【0116】
上記のベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物またはベンゾフェノン系化合物から選ばれる紫外線吸収剤とヒンダードアミン系の紫外線吸収剤とを組み合わせて用いることも出来、またこの場合、より高い効果を示すことがある。
【0117】
本発明では、発明の効果を損なわない範囲で、用途に応じて、以下の添加剤、すなわち、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類、リン類等)、熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、光安定剤(ベンゾエート類、オギザニリド類等)、他の重合体(オレフィン類、変性ポリオレフィン類、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体等のオレフィン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体等のオレフィン共重合体、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、LCP等)、難燃剤(臭素系、塩素系、リン系、アンチモン系、無機系の低分子化合物や例えばブロモポリスチレンなどの重合体等)や同様の難燃助剤、蛍光増白剤、可塑剤、増粘剤、帯電防止剤、離型剤、顔料、核剤等の、種々公知の配合剤を添加することができる。
【0118】
上記のうち、無機充填材、顔料、難燃剤等はポリアミド組成物100重量%に対して0〜80重量%である。好ましい下限値は10重量%、より好ましくは20重量%、更に好ましくは30重量%、殊に好ましくは40重量%、特に好ましくは45重量%である。好ましい上限値は70重量%、より好ましくは60重量%、更に好ましくは55重量%、特に更に好ましくは50重量%である。
【0119】
一方、各種安定剤については、ポリアミド組成物を100重量%に対して0〜10重量%である。好ましい下限値は0.05重量%、より好ましくは0.1重量%である。好ましい上限値は5重量%、更に好ましくは3重量%、特に好ましくは2重量%である。
[ポリアミド樹脂組成物]
本発明の製造方法で得られるポリアミドを用いた樹脂組成物は、上記の各成分を、公知の方法、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダーなどで混合する方法、あるいは混合後さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで溶融混練後、造粒あるいは粉砕する方法により製造することができる。温度等の混合時の条件は、その手法や樹脂の融点、極限粘度([η])等を考慮して決定される。
【0120】
また本発明の製造方法由来のポリアミドや上記ポリアミド樹脂組成物は、公知の各種成形法によって成型することが可能である。具体的には、射出成形法、圧縮成形法、押出し成形法等の公知の方法が挙げられる。これらの手法により、その形状は射出成形体、フィルム、シート、繊維など多岐の形状の成形体を得ることが可能である。
【0121】
上記の方法で得られる成形体は、各種の用途に用いることが出来る。具体的には自動車電装部品用材料、エレクトロニクス用の回路基板、発光ダイオードや自動車照明、室内照明などの各種光源に対応する反射材等の産業用材料、工業用材料が挙げられる。
【実施例】
【0122】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例において、各物性値の測定および評価は以下の方法で行った。
[極限粘度[η]]
ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解し、ウベローデ粘度計を使用し、25℃±0.05℃の条件下で試料溶液の流下秒数を測定し、以下の式に基づき算出した。
【0123】
[η]=ηSP/[C(1+0.205ηSP)、ηSP=(t−t0)/t0
(上記の各記号の意味は以下の通りである。
[η]:極限粘度(dl/g)、ηSP:比粘度、C:試料濃度(g/dl)、t:試料溶液の流下秒数(秒)、t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒))
【0124】
[融点]
PerkinElemer社製DSC7を用いて、一旦330℃で5分間保持し、次いで10℃/分の速度で23℃まで降温せしめた後、10℃/分で昇温した。このときの融解に基づく吸熱ピークを融点とした。
【0125】
[耐熱性]
(株)ソディック プラステック製ツパールTR40S3A型射出成形機を用い、シリンダー温度:335℃、金型温度:120℃の条件で射出成形した長さ64mm、幅6mm、厚さ0.8mmの試験片を用いて、40℃。相対湿度95%の恒温恒湿オーブンに4日間保管して吸水させた。
【0126】
上記吸水した試験片を赤外線および熱風併用型リフローはんだ装置(日本アントム工業(株)製SOLSYS−2001R)に装入し、所定の設定温度で20秒間保持する。その後、10℃高い温度(以下、ピーク温度と言う事がある。)に昇温させる。この工程で、試験片に目視で膨れが観察されなければ、更に温度を5℃昇温させ、試験片の膨れを確認する。膨れが無ければ、更に温度を5℃昇温させる。(本件では特に断らない限り上記の所定温度は180℃とする。)
この昇温工程を繰り返し、膨れの発生しなかった最も高い温度を耐熱性の指標(リフロー耐熱性)とした。
【0127】
実施例1
<ペンタンジアミンの反応収率(単位:mol%)>
L−リシン一塩酸塩(和光純薬工業社製)、および、後述する(ペンタンジアミンの蒸留)で得られた精製ペンタンジアミンを用い、以下のHPLC(高速液体クロマトグラフ)分析条件下で得られたクロマトグラフの面積値から作成した検量線により、ペンタンジアミンの濃度を算出し、L−リシン一塩酸塩およびペンタンジアミンの合計濃度に対するペンタンジアミンの濃度の割合を、ペンタンジアミンの反応収率とした。
カラム;Asahipak ODP−50 4E(昭和電工社製)
カラム温度;40℃
溶離液;0.2mol/Lのリン酸ナトリウム(pH7.7)水溶液+2.3mmol/Lの1−オクタンスルホン酸ナトリウム水溶液
流量;0.5mL/min
L−リシン一塩酸塩およびペンタンジアミンの検出には、オルトフタルアルデヒドを用いたポストカラム誘導体化法〔J.Chromatogr.,83,353−355(1973)〕を採用した。
【0128】
<ペンタンジアミンの純度(単位:質量%)>
後述する(ペンタンジアミンの蒸留)で得られた精製ペンタンジアミンを用い、以下のガスクロマトグラフ分析条件で得られたガスクロマトグラムの面積値から作成した検量線により、ペンタンジアミンの純度を算出した。
装置;GC−6890(アジレント・テクノロジー社製)
カラム;WCOT FUSED SILICA CP−SIL 8CB FOR AMINES(VARIAN社製)
オーブン温度;40℃で3分間保持、40℃から300℃まで、10℃/minで昇温、300℃で11分間保持
注入口温度;250℃
検出器温度;280℃
キャリアガス;ヘリウム
検出法;FID
【0129】
<C=N結合を含む環状構造を有した化合物の総含有量(単位:重量%)>
後述する(2,3,4,5−テトラヒドロピリジン濃度)と(2−(アミノメチル)−3,4,5,6−テトラヒドロピリジン濃度)との合計値により求めた。
【0130】
<2,3,4,5−テトラヒドロピリジン濃度(単位:重量%)>
後述する(未知物質の構造解析)で得られた、2,3,4,5−テトラヒドロピリジンを用い、(ペンタンジアミンの純度)に記載と同条件の測定により得られたガスクロマトグラムの面積値から作成した検量線により、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン濃度を算出した。
【0131】
<2−(アミノメチル)−3,4,5,6−テトラヒドロピリジン濃度(単位:重量%)>
後述する(未知物質の構造解析)で得られた、2−(アミノメチル)−3,4,5,6−テトラヒドロピリジンを用い、(ペンタンジアミンの純度)に記載と同条件の測定により得られたガスクロマトグラムの面積値から作成した検量線により、2−(アミノメチル)−3,4,5,6−テトラヒドロピリジン濃度を算出した。
【0132】
調製例1(菌体破砕液の調製)
(リシン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)のクローニング)
Escherichia coli W3110株(ATCC27325)から常法に従い調製したゲノムDNAをPCRの鋳型に用いた。
【0133】
PCR用のプライマーには、リシン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)(GenBank Accession No.AP009048)の塩基配列に基づいて設計した配列番号1および2に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(インビトロジェン社に委託して合成した)を用いた。これらのプライマーは、5’末端付近にそれぞれKpnIおよびXbaIの制限酵素認識配列を有する。
【0134】
上記のゲノムDNA1ng/μLおよび各プライマー0.5pmol/μLを含む25μLのPCR反応液を用いて、変性:94℃、30秒間、アニーリング:55℃、30秒間、伸長反応:68℃、2分間からなる反応サイクルを30サイクルの条件で、PCRを行った。
【0135】
PCR反応産物およびプラスミドpUC18(宝酒造社製)をKpnIおよびXbaIで消化し、ライゲーション・ハイ(東洋紡社製)を用いて連結した後、得られた組換えプラスミドを用いて、Eschrichia coli DH5α(東洋紡社製)を形質転換した。形質転換体を、アンピシリン(Am)100μg/mLおよびX−Gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシド)を含むLB寒天培地で培養し、Am耐性でかつ白色コロニーとなった形質転換体を得た。このようにして得られた形質転換体よりプラスミドを抽出した。
【0136】
通常の塩基配列の決定法に従い、プラスミドに導入されたDNA断片の塩基配列が配列番号3に示す塩基配列であることを確認した。
【0137】
得られたリシン脱炭酸酵素をコードするDNAを持つプラスミドをpCADAと命名した。pCADAを用いて形質転換した大腸菌を培養することで、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するリシン脱炭酸酵素を生産することができた。
【0138】
(形質転換体の作製)
pCADAを用いてEscherichia coli W3110株を通常の方法で形質転換し、得られた形質転換体をW/pCADAと命名した。
【0139】
この形質転換体をバッフル付き三角フラスコ中のAm100μg/mLを含むLB培地500mlに接種し、30℃にてOD(660nm)が0.5になるまで振盪培養した後、IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)が0.1mmol/Lとなるように添加し、さらに14時間振盪培養した。培養液を8000rpmで20分間遠心分離し、菌体を得た。この菌体を20mmol/L リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に懸濁した後、超音波破砕を行い、菌体破砕液を調製した。
【0140】
調製例2(ペンタンジアミン水溶液の製造)
フラスコに、L−リシン一塩酸塩(和光純薬製)を、終濃度が45重量%となるように、および、ピリドキサールリン酸(和光純薬製)を、終濃度が0.15mmol/Lとなるように調製した基質溶液120質量部を加えた。次に、上記のW/pCADA菌体破砕液(仕込み乾燥菌体換算重量0.3g)を添加し反応を開始した。反応条件は37℃、200rpmとした。反応液のpHは6mol/Lの塩酸にてpH6に調整した。24時間後のペンタンジアミンの反応収率は99%に達していた。上記の反応24時間後の反応液を、6mol/Lの塩酸にてpH2に調整し、0.6質量部の活性炭(三倉化成社製 粉末活性炭PM−SX)を添加し、25℃で1時間攪拌を行った後、濾紙(ADVANTEC社製 5C)にて濾過を行った。次に、この濾液を水酸化ナトリウムにてpH12に調整し、ペンタンジアミン水溶液(17.0重量%水溶液)を得た。
【0141】
製造例1(ペンタンジアミン(a)の調製)
分液ロートにペンタンジアミン水溶液100質量部とn−ブタノール100質量部とを仕込み、10分間混合し、その後30分間静置した。水層である下層を抜き出し、次いで有機層である上層を抜き出した。次いで、温度計、蒸留塔、冷却管および窒素導入管を備えた4つ口フラスコに有機層の抽出液80質量部を仕込み、オイルバス温度を120℃とし、10kPaの減圧下でn−ブタノールを留去させ、純度99.9重量%のペンタンジアミン(a)を得た。
【0142】
すなわち、ペンタンジアミン(a)は、ペンタンジアミン水溶液をn−ブタノールにより溶媒抽出し、さらにn−ブタノールを留去させることにより、調製することができた。
【0143】
得られたペンタンジアミン(a)は、1,5−ペンタンジアミンが主成分であり、2,3,4,5−テトラヒドロピリジンを含む不純物が含有されていた。
【0144】
これらの不純物を液体クロマトグラフィー(LC)、やGC−MS法、NMR法を用いて解析したところ、ペンタンジアミン(a)の2,3,4,5−テトラヒドロピリジン濃度は、0.1重量%、2−(アミノメチル)−3,4,5,6−テトラヒドロピリジン濃度は、検出限界未満(検出限界:0.0006重量%)であり、それらの総量(検出可能範囲における総量)は、0.1重量%であった。
【0145】
製造例2(ペンタンジアミン(b)の調製)
n−ブタノール100質量部に代えて、クロロホルム100質量部を仕込んだ以外は、上記の製造例1と同様にして、純度97.8重量%のペンタンジアミン(b)を得た。すなわち、ペンタンジアミン(b)は、ペンタンジアミン水溶液をクロロホルムにより溶媒抽出し、さらにクロロホルムを留去させることにより、調製することができた。
【0146】
得られたペンタンジアミン(b)は、1,5−ペンタンジアミンが主成分であり、2,3,4,5−テトラヒドロピリジンおよび未知物質を含む不純物が含有されていた。
【0147】
ペンタメチレンジアミン(b)の2,3,4,5−テトラヒドロピリジン濃度は、0.6重量%、2−(アミノメチル)−3,4,5,6−テトラヒドロピリジン濃度は、1.6重量%であり、それらの総量は、2.2重量%であった。
【0148】
[ポリアミドの製造]
300gのテレフタル酸と184gの前記1,5−ペンタンジアミン(a)とを内容積3リットルのガラス容器に投入し、さらにイオン交換水1リットルを添加し、攪拌しながら60℃まで昇温する。同温度で一時間保持した後、室温まで冷却しエタノールを500ミリリットル添加し、析出物をろ別し、減圧下70℃で48時間乾燥し白色固体を得た。これをナイロン塩―1と言う。
【0149】
300gのアジピン酸と210gの1,5−ペンタンジアミン(a)とを内容積3リットルのガラス容器に投入し、さらにイオン交換水1リットルを添加し、攪拌しながら60℃まで昇温する。同温度で一時間保持した後、室温まで冷却しエタノールを500ミリリットル添加し、析出物をろ別、減圧下70℃で48時間乾燥し白色固体を得た。これをナイロン塩―2と言う。
【0150】
次いで、50gのナイロン塩―1と20gのナイロン塩―2とを固体状態で予備混合し、1リットル容積のガラス反応器に投入する。次いで、窒素ガスを流通させながら330℃まで10℃/分の速度で昇温しさらに330℃到達後、20分保持した後、反応器下部を開き、溶融樹脂をストランド状に抜き出し、回転刃にてストランドをカットし、ペレット状のポリマーを得た。
【0151】
この低縮合物の[η]は0.70dl/gであり、DSCにより求められる融点は310℃、吸水率は3%であった。また、リフロー耐熱性は260℃であった。
【0152】
実施例2
実施例1で得られた低縮合物を二軸押出機を用い320℃で高縮合化反応を行った。
【0153】
比較例1
市販の1,5−ペンタンジアミン(含窒素六員環化合物の含有率:3重量%)を用いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0154】
この低縮合物の[η]は0.70dl/gであり、DSCにより求められる融点は300℃、吸水率は4%であった。また、リフロー耐熱性は250℃であった。
【0155】
上記の様に本発明のポリアミドは、従来に比して融点が同等以上で且つ溶融流動性に優れており、吸水率が低く、また実用耐熱性にも優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分(A−1)と含窒素六員環化合物の含有率が2.0重量%以下であるジアミン成分(a−2)とを反応させることを特徴とするポリアミドの製造方法。
【請求項2】
前記ジアミン成分(a−2)が、アミノ基含有含窒素六員環化合物の含有率が1.5重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミドの製造方法。
【請求項3】
前記ジアミン成分(a−2)が、1,5−ペンタンジアミン水溶液から非ハロゲン系有機溶剤を用いて抽出する工程を経て得られることを特徴とする請求項1に記載のポリアミドの製造方法。
【請求項4】
前記ジアミン成分(a−2)が、リシン脱炭酸酵素を用いたリシンの脱炭酸反応で製造される1,5−ペンタンジアミンであることを特徴とする請求項1に記載のポリアミドの製造方法。

【公開番号】特開2011−202103(P2011−202103A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72780(P2010−72780)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】