説明

ポリイミド、その製造方法、及びポリイミドフィルムの製造方法

【課題】脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸無水物及び脂肪族及び/又は脂環族ジアミンを用いた場合であっても、高い反応性でイミド化することができ、非着色性、低吸水性、透明性、機械的特性、成形性に優れたフィルムを与えうるポリイミドの製造方法、及びポリイミドフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリイミドの製造方法は、(A)脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物及びこれらの反応性誘導体から選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と(B)脂肪族及び/又は脂環族ジアミンとを反応させてなるポリアミック酸を、脂環族三級モノアミンの存在下でイミド化する工程を含む。本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、得られたポリイミド及び有機溶媒を含む溶液を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記有機溶媒を蒸発除去してフィルムを得る工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド、その製造方法、及び該ポリイミドからなるフィルム(ポリイミドフィルム)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンから得られる全芳香族ポリイミドは、分子の剛直性や、分子が共鳴安定化していること、強い化学結合を有すること等に起因して、優れた耐熱性、機械的特性、電気特性、耐酸化・加水分解性を有しており、電気、電池、自動車及び航空宇宙産業などの分野において、フィルム、コーティング剤、成型部品、絶縁材料として幅広く使用されている。
一方、光学部材に使用される材料には、優れた耐熱性、機械的特性等に加えて、無色透明性、易成形(成型)性、光学特性に優れることが必要とされる。
【0003】
例えば、Kapton(東レ・デュポン社製)に代表される全芳香族ポリイミドフィルムは、上述のとおり、優れた耐熱性等を有し、電気等の分野には適するものの、着色性が高く、また、成形性が低いことから、光学材料としての使用には制限があるという問題がある。
すなわち、上記フィルムは、分子間あるいは分子内の電荷移動相互作用に由来する可視光領域の吸収により、黄色から褐色に着色しているという問題がある。また、上記フィルムは、フィルム状に成形するのに、高温での熱処理を要するなど、プロセス負荷が高く成形性が低いという問題がある。具体的には、上記フィルムを形成するポリイミドは有機溶媒に対する溶解性が低く、ポリイミドをそのまま用いてフィルムを形成することができない。そのため、前記ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸の有機溶媒溶液を用い、基板への塗布などによりフィルム状の塗膜とした後、該塗膜を400℃程度の高温で熱処理することにより、塗膜中のポリアミック酸をイミド化し、ポリイミドからなるフィルムを得る必要がある。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば(A)テトラカルボン酸二無水物と(B)ジアミンとをイミド化して得られるポリイミド、及び有機溶剤を含有する光半導体封止剤であって、該ポリイミドが、(i)脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物が、(A)成分中の50モル%以上であるか、(ii)脂環構造を有するジアミンが、(B)成分中の50モル%以上であるか、又は、(iii)脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物が、(A)成分中の50モル%以上であり、且つ、脂環構造を有するジアミンが、(B)成分中の50モル%以上である、ポリイミドであることを特徴とする光半導体封止剤が開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−80885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のポリイミドは、耐熱性に優れており、透明性が改良されている。
しかし、このような脂肪族系のポリイミドは、従来使用されているアミン系触媒(ピリジンやトリエチルアミン等)や脱水触媒(無水酢酸やトリフルオロ無水酢酸等)では高いイミド化率を達成することができないという問題がある。イミド化を促進するために、触媒量を多くする、反応温度を高くする、反応時間を延長するなどの方法が考えられるが、これらの方法はいずれも高コストである上、イミド化率を十分に向上させることはできない。すなわち、イミド化反応時には、ポリアミック酸の解重合が副反応として起こるため、高温や長時間の反応ではこの副反応も促進することとなり、得られるイミドの低分子量化を招く。さらに、この副反応により、機械的強度が低下したり、吸水性や着色が増大するという問題がある。
また、特許文献1に記載のポリイミドは、有機溶媒に対する溶解性が低いままであるため、フィルム状に成形するには、前駆体であるポリアミック酸を用いた高温での熱処理(熱イミド化)が必要である。このように、プロセス負荷が大きく、成形性が悪いという課題は、依然として残されたままである。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、脂肪族等のテトラカルボン酸及び脂肪族等のジアミンを用いた場合であっても、高いイミド化率(高い反応性でのイミド化)を達成することができ、非着色性、低吸水性、機械的特性、透明性、成形性(具体的には、フィルム状に成形する際の容易さ、プロセス負荷の小ささ)に優れたフィルムを与え得るポリイミドの製造方法、該製造方法により得られるポリイミド、及び前記の各物性に優れたポリイミドフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物およびこれらの反応性誘導体から選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と、脂肪族及び/又は脂環族ジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸について、脂環族三級モノアミンをイミド化触媒として用いてイミド化することにより、本発明の上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[15]を提供するものである。
[1] (A)脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物及びこれらの反応性誘導体から選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と(B)脂肪族及び/又は脂環族ジアミンとを反応させてなるポリアミック酸を、脂環族三級モノアミンの存在下でイミド化することを特徴とするポリイミドの製造方法。
[2] 上記脂環族三級モノアミンが下記式(7)で表される化合物である前記[1]に記載のポリイミドの製造方法。
【化1】

(式(7)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Xは酸素原子又は硫黄原子、lは0又は1、m及びnは各々独立して0〜2の整数である。)
[3] 上記(A)成分が、5員環及び/又は6員環の酸無水物骨格を有する脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物である前記[1]又は[2]に記載のポリイミドの製造方法。
[4] さらに、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸のいずれかの酸無水物、これらの酸無水物に相当する酸クロライド類、及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の脱水剤を用いる前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリイミドの製造方法。
[5] 10℃〜120℃の温度でイミド化を行う前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリイミドの製造方法。
[6] (A)脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物及びこれらの反応性誘導体から選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と(B)脂肪族及び/又は脂環族ジアミンとを反応させて得られるポリイミドであって、イミド化率が85モル%以上であることを特徴とするポリイミド。
[7] 上記(A)成分が下記(a−1)成分であり、かつ、イミド化率が95%以上である前記[6]に記載のポリイミド。
(a−1)5員環の酸無水物骨格を有しかつ架橋環構造を有しない化合物、及び/又は、これらの反応性誘導体であるアシル化合物
[8] 上記(A)成分が、下記(a−2)成分、(b)成分、及び(c)成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のアシル化合物である前記[6]に記載のポリイミド。
(a−2)5員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有し、かつ、該架橋環構造を構成する少なくとも2つの炭素原子が酸無水物骨格を形成し、6員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体
(b)5員環の酸無水物骨格及び6員環の酸無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体
(c)6員環の酸無水物骨格を有し、かつ、5員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体
[9] イミド化率が100モル%であると仮定した場合に、イミド基濃度が2.5〜5.5mmol/gとなる前記[6]〜[8]のいずれかに記載のポリイミド。
[10] ポリスチレン換算の重量平均分子量が50,000〜500,000である前記[6]〜[9]のいずれかに記載のポリイミド。
[11] 前記[6]〜[10]のいずれかに記載のポリイミドからなるポリイミドフィルム。
[12] 25℃で24時間浸漬した場合の吸水率が、5質量%未満である前記[11]に記載のポリイミドフィルム。
[13] JIS K7105透明度試験法に準じて測定したイエローインデックスが、フィルムの厚さが20μmである場合に2.0以下である前記[11]又は[12]に記載のポリイミドフィルム。
[14] 破断伸びが、5%以上である前記[11]〜[13]のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
[15] 前記[11]〜[14]のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法であって、ポリイミド及び有機溶媒を含む溶液を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記有機溶媒を蒸発除去させることにより除去してポリイミドフィルムを得る工程とを含む、ポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリイミドの製造方法によると、特定のイミド化触媒を用いているため、脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物またはこれらの反応性誘導体と、脂肪族及び/又は脂環族ジアミンを用いた場合であっても、高い反応率でイミド化することができる。そのため、従来の触媒を使用した場合のように、触媒量を増やしたり、反応温度を高く設定したり、反応時間を長くする等の必要がなく、低コストかつ簡易にポリイミドを得ることができる。
また、得られたポリイミドは有機溶媒に対して優れた溶解性を有するため、そのまま有機溶媒に溶解させて、フィルムを形成することができる。
本発明のポリイミドフィルムの製造方法によると、上記ポリイミド及び有機溶媒を含む溶液を基板等に塗布して塗膜を形成した後、該塗膜中の有機溶媒が蒸発する程度の温度で加熱すればよく、例えばポリアミック酸及び有機溶媒を含む溶液を用いて熱イミド化する場合のように400℃を超える高温で熱処理する必要がないため、プロセス負荷の低減を達成することができる。
得られたポリイミドフィルムは、低吸水性、非着色性、機械的特性(破断伸び等)、透明性、成形性(フィルム状に成形する際の容易さ、プロセス負荷の小ささ)等に優れる。
得られたポリイミドは、発光ダイオード、太陽電池、フラットディスプレー周辺材料、具体的には、封止剤、レンズ、耐熱透明フィルム、導電性透明フィルム等に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、本発明のポリイミドの製造方法に用いられる(A)成分(脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物およびこれらの反応性誘導体)及び(B)成分(脂肪族及び/又は脂環族ジアミン)について説明する。ここで、脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体、及び、脂肪族及び/又は脂環族ジアミンとは、ジカルボン酸無水物、アミン等のような重合時にイミド骨格を形成する官能基が脂肪族基及び/又は脂環族基に結合している化合物を示し、化合物中に芳香環や複素環を含んでいても良い。
【0010】
[(A)成分]
(A)成分は、脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル化合物である。
ここで、反応性誘導体とは、脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物に変化しうる化合物であり、例えば、脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物の当該無水物に代えて2つのカルボキシル基を有する化合物、これら2つのカルボキシル基の中の片方または両方がエステル化されたエステル化物である化合物、またはこれら2つのカルボキシル基の中の片方または両方がクロル化された酸クロライド等が好適に用いられる。
【0011】
本発明で用いられる(A)成分としては、5員環の酸無水物骨格及び/又は6員環の酸無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体が挙げられる。
具体的には、下記(a)〜(c)が挙げられる。
(a)5員環の酸無水物骨格を有し、かつ、6員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体
(b)5員環の酸無水物骨格及び6員環の酸無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体
(c)6員環の酸無水物骨格を有し、かつ、5員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体
さらに、上記(a)成分の具体例としては、下記(a−1)〜(a−2)が挙げられる。
(a−1)5員環の酸無水物骨格を有し、かつ架橋環構造を有しない化合物及びこれらの反応性誘導体
(a−2)5員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有し、かつ、該架橋環構造を構成する少なくとも2つの炭素原子が酸無水物骨格を形成する化合物、及びこれらの反応性誘導体
【0012】
上記(a−1)成分(5員環の酸無水物骨格を有し、架橋環構造を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体)としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジクロロ−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5,8−ジメチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、下記式(1)で表される化合物、及びこれらの反応性誘導体が挙げられる。
【0013】
なお、下記式(1)で表される化合物の具体例としては、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【化2】

(式中、Rは、芳香環を有する2価の有機基を示し、Rは、水素原子またはアルキル基を示し、複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【化3】

【0014】
上記(a−2)成分(5員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有し、かつ、架橋環構造を構成する少なくとも2つの炭素原子が無水物骨格を形成する化合物、及びこれらの反応性誘導体)としては、ノルボルニル基、ビシクロ〔2.2.2〕オクチル基等を含む化合物が挙げられる。例えば、ビシクロ〔2.2.2〕オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシノルボルナン−2:3,5:6−ジ無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体が挙げられる。
【0015】
上記(b)成分(5員環の酸無水物骨格及び6員環の酸無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体)としては、例えば、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸二無水物、及びこれらの反応性誘導体等が挙げられる。
上記(c)成分(6員環の酸無水物骨格を有し、かつ、5員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体)としては、例えば下記式(3)で表される化合物、及びこれらの反応性誘導体が挙げられ、具体的な化合物としては下記式(4)〜(6)で表される化合物、及びこれらの反応性誘導体が挙げられる。
【化4】

(式中、Rは、芳香環を有する2価の有機基を示し、Rは、水素原子またはアルキル基を示し、複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【化5】

これらのアシル化合物は1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0016】
上記のうち、(a−1)成分(5員環の酸無水物骨格を有し、架橋環構造を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体)は、比較的分子構造にゆがみが少なく、特に高いイミド化率(例えば95%以上)を達成することができる点で好ましく用いられる。さらに、このような化合物を(A)成分として用いることにより、耐水性(低吸水性)や非着色性等に優れたポリイミドフィルムを得ることができる。また、上記(a−1)成分は、入手性およびコストの観点からも好ましい。
一方、(a−2)成分(5員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有し、かつ、架橋環構造を構成する少なくとも2つの炭素原子が無水物骨格を形成する化合物、及びこれらの反応性誘導体)、(b)成分(5員環の酸無水物骨格及び6員環の酸無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体)、(c)成分(6員環の酸無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体)は、(a−1)成分に比して歪みは大きいものの、十分に高いイミド化率(例えば85%以上)を達成することができる。なお、上記(a−2)成分、(b)成分、及び(c)成分のうち、溶解性、加工性の観点から、(b)成分が好ましく用いられる。
【0017】
なお、(A)成分としては、無水物(脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物)、及びこれらの反応性誘導体のうち、無水物が好ましく用いられる。無水物を(A)成分として用いると、無水物ではないものを用いる場合に比して、温和かつハンドリング性よくポリアミック酸を合成することができる。
また、(A)成分としては、上述のテトラカルボン酸二無水物の中でも、脂環族テトラカルボン酸二無水物が好ましく用いられる。脂環族テトラカルボン酸二無水物を(A)成分として用いると、透明性、非着色性、耐熱性、機械的特性等に優れたポリイミドフィルムを得ることができる。
【0018】
[(B)成分]
(B)成分は、脂肪族及び/又は脂環族ジアミンである。
(B)成分である脂肪族ジアミンとしては、炭素数2〜30の脂肪族ジアミンが挙げられ、その具体例としては、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ヘブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン等のアルキレンジアミン、オキシジ(2−アミノエタン)、オキシジ(2−アミノプロパン)、2−(2−アミノエトキシ)エトキシアミノエタン等のポリオキシアルキレンジアミン等が例示される。これら脂肪族ジアミンは、一種単独で又は2種以上を混合してイミド化反応に供することができる。
また、脂環族ジアミンとしては、分子内に少なくとも1個の脂環基を有するものを用いることができ、脂環基としては単環、多環、縮合環のいずれの構造であってもよい。少なくとも1個の脂環基を有する脂肪族ジアミンとしては、炭素数4〜30の脂肪族ジアミンが好適に用いられ、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルシクロヘキシルメタン、4、4’−ジアミノ−3,3’,5、5’−テトラメチルシクロヘキシルメタン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4,4’−ジアミノシクロヘキシル)プロパン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、2,3−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,5−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,7−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,3−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)−トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカン等が挙げられる。
脂肪族ジアミンおよび脂環族ジアミンの中では、透明性、非着色性、耐熱性等に優れたポリイミドが得られる点から、脂環族ジアミンが好ましく、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサンがより好ましく用いられる。これらの脂環族ジアミンは、一種単独で又は2種以上を混合してイミド化反応に供することができる。
【0019】
次に、本発明のポリイミドの製造方法について説明する。
本発明のポリイミドの製造方法は、上記(A)アシル化合物と上記(B)脂肪族及び/又は脂環族ジアミンとを反応させてなるポリアミック酸を、脂環族三級モノアミンの存在下でイミド化する工程を含む。具体的には、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて、ポリアミック酸と有機溶媒とを含む溶液を調製する工程(a)と、前記ポリアミック酸の少なくとも一部を、脂環族三級モノアミンの存在下でイミド化する工程(b)とを含む。
【0020】
[工程(a)]
工程(a)は、上記(A)成分と上記(B)成分とを反応させて得られるポリアミック酸と、有機溶媒とを含む溶液を調製する工程である。
(A)成分と(B)成分とを反応させる際の具体的な方法としては、少なくとも1種の(B)脂肪族ジアミンを有機溶媒に溶解した後、得られた溶液に、少なくとも1種の(A)アシル化合物を添加し0〜150℃の温度で、1〜60時間撹拌する方法が挙げられる。
上記有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等の非プロトン系極性溶媒;クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール等のフェノール系溶媒;等が挙げられる。中でも、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
これらの溶媒は一種単独で、あるいは2種以上混合して使用することができる。
なお、反応液中の(A)アシル化合物と(B)脂肪族及び/又は脂環族ジアミンとの合計量は、反応液全量の5〜30質量%であることが好ましい。
(A)アシル化合物と(B)脂肪族及び/又は脂環族ジアミンとの割合は、成分(B)のアミノ基1当量に、成分(A)の酸無水物基が0.8〜1.2当量となる割合が好ましく、1.0〜1.1当量となる割合がより好ましい。成分(B)のアミノ基1当量に対して、成分(A)の酸無水物基の量が0.8当量未満、若しくは1.2当量を超えると、分子量が低くなり、フィルムを形成することが困難なことがある。
なお、ポリアミック酸とは、酸無水物基とアミノ基とが反応して生じる、−CO−NH−、及び、−CO−OHを含む構造を有する酸、または、その誘導体(具体的には、例えば、−CO−NH−、及び、−CO−OR(ただし、Rはアルキル基等である。)を含む構造を有するもの)をいう。ポリアミック酸は、加熱等によって、−CO−NH−のHと、−CO−OHのOHとが脱水して、環状の化学構造(−CO−N−CO−)を有するポリイミドとなる。
【0021】
[工程(b)]
工程(b)は、前記工程(a)で得られたポリアミック酸の少なくとも一部を、脂環族三級モノアミンの存在下でイミド化して、ポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を得る工程である。
具体的なイミド化の方法としては、脱水剤を用いる方法(化学イミド化)や、160℃〜350℃(ただし、溶液では160〜220℃、キャストフィルムでは300℃以上での処理が一般的である。)で熱処理する方法(熱イミド化)が挙げられる。
化学イミド化における脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物、もしくは相当する酸クロライド類、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物等が挙げられる。脱水剤の添加量は、目的とするイミド化率に応じて適宜変えることができるが、通常アシル化合物1モルに対して、1〜10モルの範囲であり、2〜10モルの範囲であることが好ましい。
なお、化学イミド化は、10℃〜120℃の温度で行うことができ、25℃〜90℃の温度で行うことが好ましい。温度が120℃を超えると、着色が抑制できない場合があり、温度が10℃よりも低い場合には、反応速度が低く、イミド化に時間がかかることがある。
熱イミド化の場合には、脱水反応で生じる水を系外に除去しながら行うことが好ましい。この際、ベンゼン、トルエン、キシレン等を用いて水を共沸除去することができる。
イミド化の方法としては、より低温での加熱によってイミド化を行うことができることなどから、化学イミド化が好ましい。
【0022】
イミド化の際、脂環族三級モノアミンをイミド化触媒として用いる。脂環族三級モノアミン化合物をイミド化の際に用いるとイミド化反応が促進される理由は、脂環族三級モノアミン化合物が有する窒素原子上の孤立電子対が高い求核性を有するためと考えられる。
上記脂環族三級モノアミンとしては、下記式(7)で表される化合物が好適に用いられる。
【化6】

(式(7)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Xは酸素原子又は硫黄原子、lは0又は1、m及びnは、各々独立して、0〜2の整数である。)
式(7)中、Rは、メチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。また、m、nは、好ましくは0又は1である。さらに、m+nは1〜3であることが好ましい。
上記式(7)で表される化合物の好適な例としては、N−メチルピペリジン、N−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリンなどが挙げられる。
イミド化触媒として脂環族三級モノアミンを用いることにより、脂肪族化合物及び/又は脂環族化合物を、(A)成分及び(B)成分として用いても、高い反応性(イミド化の反応速度)でイミド化することができ、より低温でのイミド化や、イミド化に要する時間の短縮などを達成することができる。そして、その結果、得られるポリイミドの着色を低減することが可能となる。
上記(a−1)成分(5員環の酸無水物骨格を有し、架橋環構造を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体)を(A)成分として用いた場合には、高温条件下においても従来達成できなかったような高いイミド化率(例えば95%以上)を達成することができる。
上記(a−2)成分(5員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有し、かつ、架橋環構造を構成する少なくとも2つの炭素原子が無水物骨格を形成する化合物、及びこれらの反応性誘導体)、上記(b)成分(5員環の酸無水物骨格と6員環の酸無水物骨格とを有する化合物、及びこれらの反応性誘導体)、あるいは上記(c)成分(6員環の酸無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体)のような特にイミド化が進みにくい化合物を(A)成分として用いた場合であっても、高温条件下においても従来達成できなかったような高いイミド化率(例えば85%以上)を達成することができる。
脂環族三級モノアミンは、アシル化合物1モルに対して0.01〜10モルの範囲で用いることが好ましく、0.1〜5モルの範囲で用いることが特に好ましい。
なお、イミド化の際には、必要に応じて、ピリジン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、イミダゾール等の他の塩基性化合物を併用することもできる。
【0023】
なお、イミド化は、ポリアミック酸の少なくとも一部、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上をイミド化するように行われる。
得られたポリイミド及び有機溶媒を含む溶液は、そのまま使用することもできるが、ポリイミドを固体分として単離した後、有機溶媒に再溶解して用いることもできる。なお、再溶解する有機溶媒としては、上記有機溶媒と同様のものが挙げられる。ポリイミドを単離する方法としては、ポリイミド及び有機溶媒を含む溶液を、メタノール等のポリイミドに対する貧溶媒に投じてポリイミド等を沈殿させ、濾過・洗浄・乾燥等によりポリイミド等を固体分として分離する方法が挙げられる。このような操作をすることにより、イミド化の際に使用した脱水触媒(イミド化触媒)の除去も図ることができる。
【0024】
得られたポリイミドは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が、50,000〜500,000であることが好ましく、55,000〜400,000であることがより好ましく、60,000〜300,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であることにより、機械特性を十分に発現することができる。
また、得られたポリイミドは、イミド化率が100モル%であると仮定した場合に、イミド基濃度が2.5〜5.5mmol/gとなるような構造を有するポリイミドであって、イミド化率が85モル%以上のポリイミドであることが好ましい。上記イミド基濃度は、より好ましくは2.6〜4.5mmol/gであり、上記イミド化率は、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。ポリイミドが上記条件(イミド基濃度及びイミド化率)を満たすことにより、非着色性、低吸水性、機械的特性、成形性に優れたポリイミドフィルムを得ることができる。
【0025】
次に本発明のポリイミドフィルムの製造方法について説明する。
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、上記ポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を基板上に塗布して塗膜を形成する工程(c)と、該塗膜から前記有機溶媒を蒸発させて除去して、ポリイミドフィルムを得る工程(d)とを含む。
[工程(c)]
工程(c)は、上記ポリイミドと有機溶媒と含む溶液を基板上に塗布して塗膜を形成する工程である。
上記基板としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、SUS板、等が挙げられる。
ポリイミドと有機溶媒とを含む溶液を基板上に塗布する方法としては、ロールコート法、グラビアコート法、スピンコート法、ドクターブレードを用いる方法等を使用することができる。
塗膜の厚さは、特に限定されないが、例えば1〜250μmである。
【0026】
[工程(d)]
工程(d)は、塗膜から有機溶媒を蒸発させて除去して、ポリイミドフィルムを得る工程である。
具体的には、塗膜を加熱することにより、該塗膜中の有機溶媒を蒸発させて除去する。
上記加熱の条件は、有機溶媒が蒸発すればよく特に限定されないが、例えば60〜250℃で1〜5時間である。なお、加熱は二段階で行ってもよい。例えば、100℃で30分間加熱した後、150℃で1時間加熱するなどである。また、必要に応じて、窒素雰囲気下、もしくは減圧下にて乾燥を行ってもよい。
本工程では、有機溶媒を除去することができればよく、イミド化を行う必要がないため、従来技術に比して低温でフィルムを得ることができる。そのため、光学部材を形成する他の部材が耐熱性の低いものであっても、該部材に直接、ポリイミド等及び有機溶媒を含む溶液を塗布して、有機溶媒を蒸発除去することにより、フィルムを形成することができる。
得られたフィルムは、基板から剥離して、あるいは剥離せずにそのまま用いることができる。
【0027】
本発明のポリイミドフィルムは、上記(A)成分と(B)成分とを反応させて得られるポリイミド等を主体とする。
ここで、例えば、(A)成分が1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物であり、(B)成分が4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンである場合には、ポリアミック酸は下記式(8)又は式(9)で表される繰り返し単位を有する。
【0028】
【化7】

【0029】
さらに、この場合、(A)成分と(B)成分とが反応してなるポリイミドは、例えば下記式(10)で表される繰り返し単位を有する
【化8】

【0030】
本発明のフィルムの厚みは、1〜250μm、好ましくは5〜200μmである。また、本発明のフィルムを基材として使用する場合には10〜150μmであることが特に好ましい。
本発明のフィルムのYI値(イエローインデックス)は、例えば、JIS K7105透明度試験法に準じて測定することができ、厚さが20μmである場合に、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.7以下である。
本発明のフィルムは、25℃で24時間浸漬した場合に、吸水率が5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3.5質量%以下であることが特に好ましい。
本発明のフィルムは、破断伸びが5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、12%以上であることが特に好ましい。なお、上記破断伸びは、下記の実施例に示す測定方法で測定されたものである。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
[実施例1]
温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン7.26g(34.5mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという。)58mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物7.74g(34.5mmol)を室温で加え、添加後に15分間120℃で攪拌し析出した塩を溶解させた。そのままの温度で24時間攪拌を続けて、ポリアミック酸溶液を得た。
得られたポリアミック酸溶液に対し、N−メチルピペリジン3.5ml、無水酢酸9.8mlを加え、75℃で3時間攪拌しイミド化を行った。室温まで冷却後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末とした(収量12.8g、収率93.1質量%)。
次いで、得られたポリマーをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に再溶解し、20質量%の樹脂溶液を得た。該樹脂溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基板上にドクターブレード(100μmギャップ)を用いて塗布し、100℃で30分、ついで150℃で60分乾燥してフィルムとした後、PET基板より剥離した。その後、フィルムをさらに150℃、減圧下で3時間乾燥して、膜厚20μmのフィルムを得た。
上記ポリマーについて、IR(KBr法)により構造分析を行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1776cm−1および1704cm−1であった。
また、上記ポリマーについて、下記の方法により、重量平均分子量、イミド化率、イミド基濃度(イミド化率が100モル%であると仮定した場合の理論値)を求め、有機溶媒に対する可溶性を評価した。なお、重量平均分子量は、イミド化前後のポリマーについて測定した。
また、得られたフィルムについて、吸水率、破断伸び、及び黄色度(イエローインデックス;YI)を下記の方法により測定した。
結果を表1に示す。
【0032】
(1)重量平均分子量
重量平均分子量は、TOSOH製HLC−8020型GPC装置を使用して測定した。溶媒には、臭化リチウム及び燐酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用い、測定温度40℃にて、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
(2)イミド化率(閉環率)
ポリイミドの閉環率は、1H−NMRを使用して測定した。溶媒にはd−DMSOを用いた。未閉環のアミド基のN−Hのプロトンのピーク積分値(7.0〜8.0ppm)と、ジアミン由来の−CH−(メチレン基)のプロトンのピーク積分値(0.8〜1.2ppm)比率から算出した。
(3)イミド基濃度
イミド化率が100モル%であると仮定すると、得られたポリマー中の繰り返し単位の分子量は、(アシル化合物の分子量)+(ジアミンの分子量)−2HOで求められる。この繰り返し単位1つあたり、2つのイミド基を含むため、イミド基濃度(イミド化率が100モル%であると仮定した場合の理論値)は、下記式により求めた。
[イミド基濃度](単位:mmol/g)=2/{(アシル化合物の分子量)+(ジアミンの分子量)−2HO}×1000
(4)有機溶媒に対する可溶性
ポリマーを、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、20質量%溶液になるように調整し、室温での溶解性を評価した。完全に溶解した場合を「○」、膨潤もしくは不溶ポリマーがある場合を「×」とした。
(5)吸水率
得られたフィルムを3cm×4cmの大きさに3枚切り出し、減圧乾燥下180℃で8時間乾燥させた。フィルムの質量を測定した後、蒸留水に25℃で24時間フィルムを浸漬させた。浸漬後フィルム表面の水滴をふき取り、浸漬前後の質量変化から吸水率を算出した。
(6)破断伸び
フィルムを7号ダンベルで打ち抜き、引張速度500mm/分でインストロン社製(5543型)を用いて破断伸びを測定した。なお、測定は、23℃、50%RHで行った。
(7)YI
JIS K7105透明度試験法に準じて測定した。具体的には、YI値(イエローインデックス)を、スガ試験機株式会社製SC−3H型ヘイズメーターを用いて測定した。
【0033】
[実施例2]
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の代わりに3,3’,4,4’−ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物8.89g(29.0mmol)を用い、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、N−メチルピペリジン、及び無水酢酸の各々の配合量を、6.11g(29.0mmol)、2.9ml、及び8.2mlに変更したこと以外は実施例1と同様にして、白色粉末からなるポリマー(収量13.2g、収率94.6質量%)及びフィルムを得た。
得られたポリマーの構造解析を実施例1と同様にして行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1773cm−1および1701cm−1であった。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性について、実施例1と同様にして評価した。
結果を表1に示す。
【0034】
[実施例3]
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の代わりに2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物を7.74g(34.5mmol)用い、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、N−メチルピペリジン、及び無水酢酸の各々の配合量を、7.26g(34.5mmol)、3.5ml、及び9.8mlに変更したこと以外は実施例1と同様にして、白色粉末からなるポリマー(収量12.6g、収率91.7質量%)及びフィルムを得た。
得られたポリマーの構造解析を実施例1と同様にして行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1741cm−1および1692cm−1であった。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性について、実施例1と同様にして評価した。
結果を表1に示す。
【0035】
[実施例4]
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の代わりにブタンテトラカルボン酸二無水物7.28g(36.7mmol)を用い、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、N−メチルピペリジン、及び無水酢酸の各々の配合量を、7.72g(36.7mmol)、3.7ml、及び10.4mlに変更したこと以外は実施例1と同様にして、白色粉末からなるポリマー(収量13.1g、収率95.5質量%)及びフィルムを得た。
得られたポリマーの構造解析を実施例1と同様にして行った。結果は、カルボニル基の特性吸収が、1781cm−1および1710cm−1であった。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性について、実施例1と同様にして評価した。
結果を表1に示す。
【0036】
[比較例1]
温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン7.26g(34.5mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、NMP58mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物7.74g(34.5mmol)を室温で加え、添加後に15分間120℃で攪拌し析出した塩を溶解させた。そのままの温度で24時間攪拌を続けて、ポリアミック酸溶液を得た。
得られたポリアミック酸溶液に対し、ピリジン14.0ml、無水酢酸9.8mlを加え、110℃で3時間攪拌しイミド化を行った。室温まで冷却後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末(収量12.6g、収率91.7質量%)とした。
得られたポリマーからは分子量が低くフィルムを作製することが出来なかった。
得られたポリマーの構造解析を実施例1と同様にして行った。結果は実施例3と同一であった。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性について、実施例1と同様にして評価した。
結果を表1に示す。
【0037】
[比較例2]
温度計、攪拌機、窒素導入管、ディーンスターク管、冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン7.26g(34.5mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、NMP58mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物7.74g(34.5mmol)を室温で加え、添加後に15分間120℃で攪拌し析出した塩を溶解させた。そのままの温度で24時間攪拌を続けて、ポリアミック酸溶液を得た。
得られたポリアミック酸溶液に対し、水の共沸溶媒としてキシレンを15g添加し、160℃まで昇温して、6時間イミド化反応を行った。室温まで冷却後、大量のメタノールに投じ、ろ別によりポリマーを単離した。得られたポリマーは60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末(収量12.4g、収率90.4質量%)とした。
得られたポリマーからは分子量が低くフィルムを作製することが出来なかった。
得られたポリマーの構造解析を実施例1と同様にして行った。結果は実施例3と同一であった。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性について、実施例1と同様にして評価した。
結果を表1に示す。
【0038】
[比較例3]
ビス2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物の代わりに1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を7.74g(34.5mmol)使用したこと以外は比較例1と同様にして、白色粉末からなるポリマー(収量12.9g、収率93.8質量%)を得た。
得られたポリマーからは分子量が低くフィルムを作製することが出来なかった。
得られたポリマーの構造解析を実施例1と同様にして行った。結果は実施例1と同一であった。
また、得られたポリマー及びフィルムの各種物性について、実施例1と同様にして評価した。
結果を表1に示す。
【0039】
[比較例4]
2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物の代わりに3,3’,4,4’−ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物を8.89g(29.0mmol)用い、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンの配合量を6.11g(29.0mmol)、に変更したこと以外は比較例2と同様にして、ポリマーを得た。反応終了後に室温まで冷却したところポリマーがゲル化していたのでこれ以上の分析は行わなかった。
【0040】
[比較例5]
温度計、攪拌機、窒素導入管、ディーンスターク管、冷却管を取り付けた300mLの4つ口フラスコに4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン7.26g(34.5mmol)を添加した。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、NMP58mlを加え均一になるまで攪拌した。得られた溶液に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物(7.74g、34.5mmol)を室温で加え、添加後に15分間120℃で攪拌し析出した塩を溶解させた。そのままの温度で24時間攪拌を続けて、ポリアミック酸溶液を得た。
次いで、得られたポリアミック酸溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基板上にドクターブレード(100μmギャップ)を用いて塗布し、100℃で30分、ついで120℃で60分乾燥してフィルムとした後、PET基板より剥離した。その後、フィルムをさらに250℃、減圧下で2時間乾燥して、膜厚18μmのフィルムを得た。
得られたポリマー(ポリアミック酸)及びフィルムの各種物性について、実施例1と同様にして評価した。
結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から、本発明によると、特定の触媒を用いているので従来に比して低温で、高いイミド化率を有するポリイミドが得られることがわかる。また、得られたポリイミドは有機溶媒に対して優れた溶解性を有するため、高温(例えば、400℃程度)で熱処理をすることなくフィルムを形成することができる。さらに、表1から、得られたフィルム(実施例1〜4)は、黄変が少なく、吸水率が低く、機械的特性(破断伸び)に優れることがわかる。一方、イミド化触媒として本発明以外のものを用いた比較例1〜3では、フィルムを形成することができなかった。また、比較例4では、ポリマーがゲル化してフィルムを形成することができず、比較例5でも、フィルムの着色性、耐水性(低吸水性)、機械的特性等が劣ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物及びこれらの反応性誘導体から選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と(B)脂肪族及び/又は脂環族ジアミンとを反応させてなるポリアミック酸を、脂環族三級モノアミンの存在下でイミド化することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【請求項2】
上記脂環族三級モノアミンが下記式(7)で表される化合物である請求項1に記載のポリイミドの製造方法。
【化1】

(式(7)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Xは酸素原子又は硫黄原子、lは0又は1、m及びnは各々独立して0〜2の整数である。)
【請求項3】
上記(A)成分が、5員環及び/又は6員環の酸無水物骨格を有する脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物である請求項1又は2に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項4】
さらに、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸のいずれかの酸無水物、これらの酸無水物に相当する酸クロライド類、及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の脱水剤を用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項5】
10℃〜120℃の温度でイミド化を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項6】
(A)脂肪族及び/又は脂環族テトラカルボン酸二無水物及びこれらの反応性誘導体から選ばれる少なくとも1種のアシル化合物と(B)脂肪族及び/又は脂環族ジアミンとを反応させて得られるポリイミドであって、イミド化率が85モル%以上であることを特徴とするポリイミド。
【請求項7】
上記(A)成分が下記(a−1)成分であり、かつ、イミド化率が95%以上である請求項6に記載のポリイミド。
(a−1)5員環の酸無水物骨格を有し、かつ6員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有しない化合物、及び/又は、これらの反応性誘導体であるアシル化合物
【請求項8】
上記(A)成分が、下記(a−2)成分、(b)成分、及び(c)成分からなる群より選ばれる少なくとも一種のアシル化合物である請求項6に記載のポリイミド。
(a−2)5員環の酸無水物骨格及び架橋環構造を有し、かつ、該架橋環構造を構成する少なくとも2つの炭素原子が酸無水物骨格を形成し、6員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体
(b)5員環の酸無水物骨格及び6員環の酸無水物骨格を有する化合物、及びこれらの反応性誘導体
(c)6員環の酸無水物骨格を有し、かつ、5員環の酸無水物骨格を有しない化合物、及びこれらの反応性誘導体
【請求項9】
イミド化率が100モル%であると仮定した場合に、イミド基濃度が2.5〜5.5mmol/gとなる請求項6〜8のいずれか1項に記載のポリイミド。
【請求項10】
ポリスチレン換算の重量平均分子量が50,000〜500,000である請求項6〜9のいずれか1項に記載のポリイミド。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載のポリイミドからなるポリイミドフィルム。
【請求項12】
25℃で24時間浸漬した場合の吸水率が、5質量%未満である請求項11に記載のポリイミドフィルム。
【請求項13】
JIS K7105透明度試験法に準じて測定したイエローインデックスが、フィルムの厚さが20μmである場合に2.0以下である請求項11又は12に記載のポリイミドフィルム。
【請求項14】
破断伸びが、5%以上である請求項11〜13のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法であって、ポリイミド及び有機溶媒を含む溶液を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜から前記有機溶媒を蒸発除去させることにより除去してポリイミドフィルムを得る工程とを含む、ポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−37401(P2010−37401A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200278(P2008−200278)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】