説明

ポリイミドフィルムおよびその製造方法

【課題】 低熱膨張係数かつ高破断伸度を有するポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】 下記構成単位(I)
【化1】


(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,4−フェニレン基である。)
30〜99モル%、および下記構成単位(II)
【化2】


(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,3−フェニレン基である。)
70〜1モル%とからなるポリイミドフィルムであって、100℃〜200℃における面内方向の線熱膨張係数が10ppm/℃以下であると同時に、破断伸度が10%以上であることを特徴とするポリイミドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張係数かつ高破断伸度を有するポリイミドフィルム、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリイミドフィルムはその優れた耐熱性や機械物性から広く工業的に利用され、特に電子実装用途を始めとする電子部品用基材として重要な位置を占めるに至っている。近年電子部品の小型化への強い要請から、薄層電子部品用基材、例えば、ダイアタッチフィルムなどの半導体デバイス構成部材や半導体周辺・パッケージング用途への適用の期待がますます高まっている。
【0003】
このような用途において、ポリイミドフィルムは、シリコン、ガラス、42合金、セラミックなどと組み合わせて用いられるケースが多い。このような素材と組み合わせて用いられる場合において、ポリイミドフィルムとその無機素材との膨張係数差から、張り合わせ工程、アニール処理工程などの温度変化を伴う各種工程において、反りの発生などによる寸法精度不良などの課題があった。この為、低熱膨張のポリイミドフィルムが望まれていた。
【0004】
これらを克服する方法として、例えば、ポリ−p−フェニレンピロメリットイミドの如く剛直分子構造を有するポリイミドを用いた二軸配向フィルムの採用などが挙げられるが、これらのフィルムは、同時に弾性率の高いフィルムである反面、比較的伸度の低いフィルム素材である。この為、平面性を保つ為の張力制御が困難な場合がある。より具体的には、例えばフィルムを張った状態でフレームなどに固定しようとする場合、フィルムの伸長に伴う張力の高さとその低伸度から、綺麗にフレームに固定できずに、たわみやしわが発生したり、ひどい場合は割れ、裂けが発生したりする場合があった。この為、より高い破断伸度を有する低熱膨張ポリイミドフィルムが望まれている。
【0005】
このようなポリイミドとしては、例えば面内異方性指数が20以下であり、平均面内熱膨張係数(CTE)が未延伸フィルムよりも少なくとも10%小さい、等方性でかつ面配向係数が0.11以上になるように二軸配向された、幅1400mm以上のポリイミドフィルムの記載例がある(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−2880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低熱膨張係数かつ高破断伸度を有するポリイミドフィルムを提供することである。また他の目的は低熱膨張係数かつ高破断伸度を有するポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、下記構成単位(I)
【化1】

(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,4−フェニレン基である。)
30〜99モル%、および下記構成単位(II)
【化2】

(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,3−フェニレン基である。)
70〜1モル%とからなるポリイミドフィルムであって、100℃〜200℃における面内方向の線熱膨張係数が10ppm/℃以下であると同時に、破断伸度が10%以上であることを特徴とするポリイミドフィルム、およびその製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
上記の如くして、得られた二軸配向ポリイミドフィルムは分子鎖がフィルム面内に効果的な配向構造を形成し、面内物性バランスの優れたポリイミドフィルムとなり、特に面内の線熱膨張係数の値が10ppm/℃以下となる。更に該ポリイミドは低熱膨張であるばかりでなく、本発明の方法によれば、耐熱性、機械的特性に優れ、特に破断伸度が10%以上であるポリイミドフィルムを得ることができる。また、上記の如くして得られた本発明のポリイミドフィルムは厚みが10μm程度といった極薄いフィルムであっても、充分な工程通過性とハンドリング性を有することから、電子用途、特にダイアタッチフィルムなどの半導体デバイス構成部材や半導体周辺・パッケージング用途へ好適に用いることができる。また、電気記録テープのベースとして用いることができる。以上のように、本発明のポリイミドフィルムは各種工業用用途に好適に用いることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に付いて詳細を説明する。先ず、本発明のポリイミドフィルムについて説明する。
【0010】
本発明のポリイミドフィルムとは、下記構成単位(I)
【化3】

(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,4−フェニレン基である。)
30〜99モル%、および下記構成単位(II)
【化4】

(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,3−フェニレン基である。)
70〜1モル%とからなるポリイミドフィルムである。
【0011】
ここで、上記式(I)中のArは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,4−フェニレン基である。非反応性置換基としては、例えばメチル基等の炭素数1〜6のアルキル基やメトキシ基、フェノキシ基などの炭素数1〜6のアルコキシル基や塩素、フッ素等のハロゲン基などを例示することが出来る。上記式Arの好ましい例としては、1,4−フェニレン基、2−クロロ−1,4−フェニレン基、2−メチル−1,4−フェニレン基、2、5−ジクロロ−1,4−フェニレン基、2、5−ジメチル−1,4−フェニレン基、2−クロロ−5−メチル−1,4−フェニレン基、2−メトキシ−1,4−フェニレン基、2−フェノキシ−1,4−フェニレン基などを例示することができる。より好ましい例としては1,4−フェニレン基が挙げられる。即ち特に好ましい構成単位(I)としては実質的に、下記式(I−A)
【化5】

が例示される。また構成単位(I)は2種以上を併用することも出来る。
【0012】
また、上記式(II)中のArは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,3−フェニレン基である。非反応性置換基としては、例えばメチル基等の炭素数1〜6のアルキル基やメトキシ基、フェノキシ基などの炭素数1〜6のアルコキシル基や塩素、フッ素等のハロゲン基などを例示することが出来る。上記式Arの好ましい例としては、1,3−フェニレン基、5−クロロ−1,3−フェニレン基、5−メチル−1,3−フェニレン基、4、5−ジクロロ−1,3−フェニレン基、4、5−ジメチル−1,3−フェニレン基、4−クロロ−5−メチル−1,3−フェニレン基、5−メトキシ−1,3−フェニレン基、5−フェノキシ−1,3−フェニレン基などを例示することができる。上記式Arの好ましい例としては、1,3−フェニレン基を例示することができる。即ち特に好ましい構成単位(II)としては下記式(II−A)
【化6】

が例示される。また構成単位(II)は2種以上を併用することも出来る。
【0013】
構成単位(I)が30モル%未満の場合、充分な低熱膨張特性が達成できない。99モル%より高いと十分な伸度が得られなくなる。好ましくは、構成単位(I)が40〜95モル%である。更に好ましくは、45〜90モル%である。
【0014】
本発明のポリイミドフィルムは、100℃〜200℃における面内方向の線熱膨張係数が10ppm/℃以下である。該線熱膨張係数が10ppm/℃より高い値の場合、そのフィルムをシリコンなどの無機材料と組み合わせて用いた場合、製品に反りが発生したりする場合がある。より好ましくは、8ppm/℃以下、特に好ましくは5ppm/℃以下である。下限は特に限定されるものではないが、実質的に−10ppm以上である。
【0015】
本発明のポリイミドフィルムは破断伸度が10%以上である。破断伸度が10%未満の場合、半導体素子製造における種々の工程において、安定した工程通過性とハンドリング性を得ることが困難となる。より好ましくは、20%以上であり、更に好ましくは30%以上である。
【0016】
本発明のポリイミドフィルムはそのヤング率が3GPa以上であることが好ましい。ヤング率が3GPa未満の場合、その剛性の低さから、フィルムのコシが不足し、ハンドリング性に劣るフィルムとなる。より好ましくは4GPa以上で有り、更に好ましくは5GPa以上である。
【0017】
本発明のポリイミドフィルムはその引張強度が150MPa以上であることが好ましい。150MPa未満では、強度不足から、半導体素子製造における工程通過性が得られない場合がある。より好ましくは180MPa以上であり、更に好ましくは200MPa以上である。
【0018】
本発明のポリイミドフィルムは、その使用目的から、薄膜であること好ましい。膜厚は15μm以下であることが好ましく、より好ましくは12μm以下であり、10μm以下が特に好ましい。
【0019】
本発明者らは、剛直な構造を有する芳香族ポリイミドを高度に延伸し、分子配向させる技術を検討した結果、上記構成単位(I)に対し、構成単位(II)を特定量共重合させた前駆体であるポリアミック酸を特定の方法で化学処理することによって調製されたゲル体が室温付近の低温で高い延伸性を有すること見出した。このゲル体を膨潤状態で延伸後熱処理することで縦横方向にバランスがとれ、かつ面内に優れた機械的性質の発現と同時に、シリコン、セラミックやガラスなどを始めとする半導体デバイス構成材料や周辺部材へ用いられる無機材料と同等の線熱膨張係数を有するポリイミドフィルムが得られることを見出した。特に、その破断伸度が飛躍的に改善されることにより、例えば、半導体デバイスの構成材料や周辺部材として、寸法安定性及びハンドリング性に優れたポリイミドフィルムが得られることを見出した。
【0020】
次に、本発明のポリイミドフィルムを製造する方法を詳述する。
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、下記の工程1〜4から成る。
工程1: (A)無水ピロメリット酸、(B)下記式(III)
【化7】

(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,4−フェニレン基である。)
で表わされる芳香族ジアミン化合物、及び(C)下記式(IV)
【化8】

(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,3−フェニレン基である。)
で表わされる芳香族ジアミン化合物とを下記式(1)および(2)
0.95≦a/(b+c)≦1.05 ・・・(1)
0.01≦c/(b+c)≦0.70 ・・・(2)
(ここでaは無水ピロメリット酸のモル数、bは上記式(III)で表わされる芳香族ジアミンのモル数、cは上記式(IV)で表わされる化合物のモル数の表わす。)
を同時に満足する割合で溶媒中にて反応せしめてポリアミック酸溶液を得る。
工程2: ポリアミック酸溶液を支持体上に流延した後、ポリアミック酸の一部あるいはすべてをイミド化および/またはイソイミド化しゲルフィルムを製膜する。
工程3: 得られたゲルフィルムを二軸延伸する。
工程4: 得られた2軸延伸フィルムを熱処理する。
【0021】
工程1では、無水ピロメリット酸と芳香族ジアミン化合物との溶液重合反応により、ポリアミック酸溶液が調整される。ポリアミック酸の重合方法としては、従来公知のいずれの方法を用いてもよい。
【0022】
ここで、上記式(III)中のArは、非反応性の置換基を含んでいてもよい1,4−フェニレン基である。即ち、実質的に前述の構成単位(I)中のものと同じである。従って上記式(III)で表わされる芳香族ジアミン化合物として特に好ましいものは、下記式(III−A)
【化9】

で表わされる化合物を例示できる。上記式(III)で表わされる芳香族ジアミン化合物は2種以上を併用することもできる。
【0023】
また、上記式(IV)中のArは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,3−フェニレン基である。即ち、実質的に前述の構成単位(II)中のものと同じである。従って上記式(IV)で表される芳香族ジアミン化合物として特に好ましいものは、下記式(IV−A)
【化10】

で表わされる化合物を例示できる。上記式(IV)で表わされる芳香族ジアミン化合物は2種以上を併用することもできる。
【0024】
上記式(1)及び(2)中のaは無水ピロメリット酸のモル数、bは上記式(III)で表わされる芳香族ジアミンのモル数、cは上記式(IV)で表わされる芳香族ジアミン化合物のモル数を表わす。a/(b+c)の値が0.95未満または1.05より大きい値の場合、得られるポリアミック酸の重合度が低く、製膜が困難となる。好ましくは0.97以上1.03未満である。c/(b+c)の値が0.01未満の値の場合、充分な破断伸度を有するポリイミドフィルムが得ることが困難となる。また、c/(b+c)の値が0.70より高い場合、ポリイミドフィルムの線熱膨張係数が10ppm/℃以下という低熱膨張を実現することが困難となる。各原料(A)、(B)、(C)の仕込み方法については特に限定はなく、添加順序や添加方法は従来既存のいずれの方法でもよい。好ましくは、ジアミン成分である(B)及び(C)を先ず溶媒に溶解し、次いで所望の反応温度にて(A)を添加し、重合させる。(A)の添加は1段で規定量添加しても、複数回に分割して、添加してもよい。特に反応熱による反応温度制御が困難な場合は、複数回に分割することが好ましい。
【0025】
該ポリアミック酸の重合時の反応温度は−20℃以上、80℃以下が好ましい。−20℃未満の場合、充分な反応速度が得られず、好ましくない。また、80℃より高いと、部分的にイミド化が起きたり、副反応が発生したりする為、安定してポリアミック酸が得られなくなる場合がある。このましくは−10℃以上、70℃以下であり、更に好ましくは、0℃以上60℃以下である。
【0026】
反応溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(以下DMAcと略す)、1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなる溶媒が挙げられる。好ましくは、NMP及び/又はDMAcであり、特に好ましくは、DMAcである。また、必要に応じて、重合反応やポリアミック酸溶解性に影響しない範囲で、他の有機溶剤を適宜加えても構わない。例えば、ピリジン、4−(N,N−ジメチル)アミノピリジン、トリエチレンジアミンなどの非反応性有機アミン化合物や、トルエン、キシレンなどの如く芳香族炭化水素系溶媒などが例示される。添加量は特に限定されるものではないが、例えば30wt%以下の範囲である。
【0027】
該ポリアミック酸溶液の濃度は0.1wt%以上40wt%以下が好ましい。0.1wt%未満の場合、充分に重合を進めることが困難であり、フィルムを製膜するのに、充分な粘度の溶液が得られなくなることがある。40wt%より濃い濃度の場合、逆に高粘度となり、製膜性に劣る溶液となったり、オリゴマーが析出して均質なポリアミック酸溶液が得られなくなったりする場合がある。好ましくは1wt%以上30wt%以下であり、更に好ましくは、3wt%以上25wt%以下である。また、ポリアミック酸の重合途中及び/又は重合終了時に溶媒で希釈し、最終的に得られるポリアミック酸溶液の濃度を調整することも出来る。
【0028】
本発明の工程1は低湿度条件で行われることが好ましい。例えば、窒素、アルゴンといった低湿度不活性ガス雰囲気下や、乾燥空気雰囲気下が好ましい。また、工程1において用いられる原料や溶媒も出来るだけ乾燥させたものを用いることが好ましい。
【0029】
該ポリアミック酸溶液中のポリアミック酸はその分子鎖末端を何らかの形で封止されていてもよい。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えば、酸無水物成分としては、無水フタル酸およびその置換体、ヘキサヒドロ無水フタル酸およびその置換体、無水コハク酸およびその置換体、アミン成分としてはアニリン及びその置換体が好ましい例として挙げられる。この中でも、無水フタル酸およびその置換体及び/又はアニリン及びその置換体が特に好ましい例として挙げることが出来る。また末端封止剤の添加タイミングは特に限定されず、ポリアミック酸の重合原料仕込み時、重合途中、重合終了時のいずれに添加しても良い。添加量は実質的重合が停止し且つポリアミック酸溶液の粘度が安定する為に必要な量でよく、簡単な実験をすることで、好適な添加量を判断することができる。
【0030】
工程2では、工程1にて得られたポリアミック酸溶液を支持体上に流延した後、ポリアミック酸の一部あるいはすべてをイミド化および/またはイソイミド化しゲルフィルムを製膜する。工程1で得られたポリアミック酸溶液を支持体上に流延するには、一般に知られている湿式製膜並びに乾式製膜方法等、従来公知のいかなる製膜方法を用いてもよい。この製膜方法としては、ダイ押出による工法、アプリケーターを用いたキャスティング、コーターを用いる方法などが例示される。ポリアミド酸の流延に際して支持体として用いられるものとしては、金属製ベルト、キャスティングドラムなどを用いることができる。またポリエステルやポリプロピレンのような有機高分子フィルムを支持体として用いることも出来る。
【0031】
流延されたポリアミック酸溶液中のポリアミック酸の一部あるいはすべてをイミド化および/またはイソイミド化する方法としては、例えば、1)脂肪族酸無水物及び有機アミンを用いる方法と2)ジシクロヘキシルカルボジイミドを用いる方法とが好ましい例として挙げられる。脂肪族酸無水物として、好ましい例としては無水酢酸などが挙げられ、有機アミンとしてはトリメチルアミン、トリエチルアミンピリジン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチレンジアミンといった三級脂肪族アミン、N,N−ジメチルアニリン、1,8−ビス(N,N−ジメチルアミノ)ナフタレンの如き芳香族アミン、ピリジンおよび4−(N,N−ジメチル)アミノピリジンなどのピリジン誘導体、ピコリン及びその誘導体が挙げられる。これらのうち、ピリジン、トリエチレンジアミン、ピコリン、4−(N,N−ジメチル)アミノピリジンが好ましく用いることができ、更にこの中でもピリジン、トリエチレンジアミンが特に好ましく用いることが出来る。
【0032】
上記イミド/イソイミド化剤による反応方法としては、例えば、1)支持体上に流延されたポリアミック酸溶液を支持体ごとイミド/イソイミド化剤溶液中に浸漬する方法、2)あらかじめ工程1で得られたポリアミック酸溶液に、低温下で該イミド/イソイミド化剤を添加/混練した後、流延し得られたフィルムを加熱し、反応せしめる方法などが挙げられる。この際、方法1)におけるイミド/イソイミド化剤の使用量およびその溶液の濃度は、特に限定されるものではない。同様に、方法2)におけるイミド/イソイミド化剤の使用量は、特に限定されるものではない。いずれの場合において、目的とする、アミック酸を十分にイミド/イソイミドに化学反応せしめるに必要な量があればよく、これらの量は、反応時間・温度・ポリアミック酸濃度・流延厚みなどの諸条件により最適な条件が異なる。
また、得られたゲルフィルム中のイミド/イソイミドの比率は特に限定はない。イミド化剤の種類によりこの比率は大きく異なる。
【0033】
上記のごとく工程2にて得られたゲルフィルムは、均質かつ高度に膨潤した延伸性に優れたゲルフィルムとなる。このような延伸性に優れたゲルフィルムを得ることは、本発明の特筆すべき特徴の一つであり、後の工程により、低熱膨張のポリイミドフィルムを得るために不可欠なものである。
【0034】
本発明における上記の工程2は低湿度雰囲気下で行うことが望ましい。窒素、アルゴンといった不活性ガス雰囲気下や乾燥空気中で行うことが好ましく、この中でも、工業的な生産コストなどの観点から乾燥空気が最も好ましい。
【0035】
また、該ゲルフィルムは洗浄によりイミド化触媒・洗浄溶剤以外の他の有機溶剤などを除去したものを含む。洗浄方法や温度・時間は特に限定するものではないが、例えば、工程1にて溶媒として例示されたものや、トルエンや他のアルキルベンゼン類といった芳香族炭化水素、イソプロピルアルコールをはじめとする脂肪族アルコール類や高級アルコール類、ベンジルアルコールやその他エステル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤などが挙げられ、該ゲルフィルムをこれら有機溶剤に浸漬し洗浄することが可能である。特に、ジシクロヘキシルカルボジイミドを用いて得られたゲルフィルムの場合、ゲルフィルム中にイソイミド基が多く、後の工程において効率的に延伸配向効果を得るためには、トルエンなどで十分洗浄することが好ましい。一方、脂肪族酸無水物および有機アミンを用いて得られたゲルフィルムの場合、比較的、ゲルフィルム中にイミド基が多いため、ポリアミック酸重合溶媒と同じ有機溶剤を用いて洗浄することが好ましい。また、ゲルフィルムの洗浄の時期は、ゲルフィルムが支持体上にあるままでもよいが、工程2に留まるものではなく、例えば、工程3以降である支持体から分離した後でも、更には、延伸処理した後でもよく、それぞれの時期に複数回に分けて行ってもよい。
【0036】
工程3では、工程2で得られたゲルフィルムを支持体から分離した後、二軸延伸を行う。延伸倍率は特に限定されるものではないが、縦横それぞれの方向に1.03〜10倍の倍率で行うことができる。好ましくは1.1〜8倍であり、さらに好ましくは1.3〜6倍である。1.5〜5倍が特に好ましい。延伸温度は特に限定するものではないが、例えば−10〜100℃が好ましい例として挙げられる。より好ましくは、−5〜90℃であり、更に好ましくは、0℃〜80℃である。なお、延伸は逐次延伸方法、同時二軸延伸方法のいずれの方法を用いてもよく、更には、溶剤中、空気又は乾燥空気中、不活性雰囲気中のいずれの雰囲気において行ってもよい。特に好ましくは、空気又は乾燥空気中で行うことが好ましい例として挙げることができる。
【0037】
最後に、工程4では、工程3により得られた2軸延伸フィルムを熱処理し、二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。熱処理方法としては、熱風加熱、真空加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱の他、熱板、ホットロールを用いた接触による加熱などが例示できる。この際、段階的に温度を上げることで、溶媒除去乾燥、イミド化および/またはイソイミドをイミドへの転移反応を進行させることが好ましい。
【0038】
この熱処理は定長乃至緊張下において行うことができる。また、熱処理の開始温度は、特に限定されるものではないが、最高温度としては、250〜650℃の温度で熱処理することが好ましい。多段階で徐々に昇温及び/又は降温せしめながら実施することもできる。250℃未満の熱処理では充分にイミド化反応が進行しない場合がある。650℃より高温の処理の場合、ポリイミドが熱劣化を起こす場合があり、好ましくない。好ましくは、300〜600℃であり、更に好ましくは、350〜550℃である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を更に詳細且つ具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらによって何ら限定されるものではない。
尚、ポリアミック酸の還元粘度は1wt%塩化リチウム/NMP溶液を溶解液として用いて、ポリマー濃度0.05wt%にて、温度0℃にて測定したものである。
強度、破断伸度およびヤング率は100mm×10mmのサンプルを用い、引張り速度5mm/分にて、オイエンテックUCT−1Tにより測定を行ったものである。
線熱膨張係数は、13mm×4mmのサンプルを用い、窒素雰囲気(流量0.2L/分)中、昇降温速度20℃/分にて温度30〜270℃の昇降温を1サイクルとし、TA instruments製 TMA2940 Thermomechanical Analyzerにて、2サイクル測定を行った。この時の100℃から200℃間の寸法変位量データ4点の平均値から求めた。
【0040】
[実施例1]
温度計、攪拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、脱水N,N−ジメチルアセトアミド(以下DMAcと略す)1410gを入れ、更に1,4−フェニレンジアミン(上記式(III-A)で表される芳香族ジアミン化合物)54.34g(0.5024モル)及び1,3−フェニレンジアミン(上記式(IV−A)で表わされる芳香族ジアミン化合物)9.588g(0.0887モル)を加え完全に溶解する。その後、氷浴にて冷却し、芳香族ジアミン化合物DMAc溶液の温度を3℃とした。この冷却した芳香族ジアミン化合物DMAc溶液に無水ピロメリット酸128.5g(0.5891モル)を3回に分けて添加し1時間反応させた。この時、前述の式(1)にて定義されるa/(b+c)=1.00であり、式(2)にて定義されるc/(b+c)=0.15であった。
【0041】
この時、反応溶液の温度は30〜40℃であった。更に該反応液を60℃にて3間反応させ、粘稠溶液として12wt%ポリアミック酸DMAc溶液を得た。得られたポリアミック酸の還元粘度は4.83dl/gであった。
得られた12wt%ポリアミック酸DMAc溶液をPETフィルム(膜厚50μ)上にリップ開度400μmのアプリケーターを用いて流延し、無水酢酸1050ml、ピリジン450ml及びNMP1500mlからなる35℃のイミド/イソイミド化剤溶液中に15分浸漬しイミド/イソイミド化させ、支持体であるPETフィルムから分離し、ゲルフィルムを得た。
【0042】
得られたゲルフィルムを室温下、脱水DMAcに20分浸漬させ洗浄を行った後、該ゲルフィルムの両端をチャック固定し、室温下、直交する2軸方向に各方向1.65倍に10mm/secの速度で同時二軸延伸した。
延伸後のゲルフィルムを枠固定し、乾燥空気を用いた熱風乾燥機にて260℃から300℃まで多段的に昇温していき、乾燥及び熱処理を実施した。次いで、熱風循環式オーブンを用いて300℃〜450℃まで多段的に昇温していきポリイミドフィルムを得た。
得られたポリイミドフィルムの厚み、面内の直交する二方向に測定したヤング率、引張強度、破断伸度、更に線熱膨張係数を表1に示す。
【0043】
[実施例2]
温度計、攪拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、脱水DMAc1410gを入れ、更に1,4−フェニレンジアミン(上記式(III-a)で表される芳香族ジアミン化合物)31.91g(0.2951モル)及び1,3−フェニレンジアミン(上記式(IV−a)で表わされる芳香族ジアミン化合物)31.91g(0.2951モル)を加え完全に溶解する。その後、氷浴にて冷却し、芳香族ジアミン化合物DMAc溶液の温度を3℃とした。この冷却した芳香族ジアミン化合物DMAc溶液に無水ピロメリット酸128.7g(0.5900モル)を3回に分けて添加し1時間反応させた。この時、前述の式(1)にて定義されるa/(b+c)=1.00であり、式(2)にて定義されるc/(b+c)=0.50であった。
【0044】
この時、反応溶液の温度は30〜40℃であった。更に該反応液を60℃にて3間反応させ、粘稠溶液として12wt%ポリアミック酸DMAc溶液を得た。得られたポリアミック酸の還元粘度は5.83dl/gであった。
得られた12wt%ポリアミック酸DMAc溶液をPETフィルム(膜厚50μ)上にリップ開度450μmのアプリケーターを用いて流延し、無水酢酸1050ml、ピリジン450ml及びNMP1500mlからなる35℃のイミド/イソイミド化剤溶液中に15分浸漬しイミド/イソイミド化させ、支持体であるPETフィルムから分離し、ゲルフィルムを得た。
【0045】
得られたゲルフィルムを室温下、脱水DMAcに20分浸漬させ洗浄を行った後、該ゲルフィルムの両端をチャック固定し、室温下、直交する2軸方向に各方向2.00倍に10mm/secの速度で同時二軸延伸した。
延伸後のゲルフィルムを枠固定し、乾燥空気を用いた熱風乾燥機にて260℃から300℃まで多段的に昇温していき、乾燥及び熱処理を実施した。次いで、熱風循環式オーブンを用いて300℃〜450℃まで多段的に昇温していきポリイミドフィルムを得た。
得られたポリイミドフィルムの厚み、面内の直交する二方向に測定したヤング率、引張強度、破断伸度、更に線熱膨張係数を表1に示す。
【0046】
[比較例1]
温度計、攪拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、脱水NMP1920gを入れ、更に1,4−フェニレンジアミン26.52gを加え完全に溶解する。その後、氷浴にて冷却し、芳香族ジアミン化合物NMP溶液の温度を3℃とした。この冷却した芳香族ジアミン化合物NMP溶液に無水ピロメリット酸53.46gを添加し1時間反応させた。この時反応溶液の温度は5〜20℃であった。更に該反応液を室温(23℃)下3時間反応させ、次いで、無水フタル酸0.091gを添加し、1時間反応させアミン末端封止を行い、粘稠溶液としてポリアミック酸NMP溶液を得た。得られたポリアミック酸の還元粘度は13.8dl/gであった。
得られたポリアミック酸溶液をガラス板上に厚み1.0mmのドクターブレードを用いてキャストし、無水酢酸250ml、トリエチレンジアミン74g及びNMP2000mlからなる30℃のイミド/イソイミド化剤溶液中に30分浸漬しイミド/イソイミド化させ、支持体であるガラス板から分離し、ゲルフィルムを得た。
【0047】
得られたゲルフィルムをNMPに室温下20分浸漬させ洗浄を行った後、該ゲルフィルムの両端をチャック固定し、室温下、直交する2軸方向に各方向1.05倍に10mm/secの速度で同時二軸延伸した。
延伸後のゲルフィルムを枠固定し、乾燥空気を用いた熱風乾燥機にて160℃から300℃まで多段的に昇温していき、乾燥及び熱処理を実施した。次いで、熱風循環式オーブンを用いて300℃〜450℃まで多段的に昇温していきポリイミドフィルムを得た。
得られたポリイミドフィルムの厚み、面内の直交する二方向に測定したヤング率、引張強度、破断伸度、更に線熱膨張係数を表1に示す。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構成単位(I)
【化1】

(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,4−フェニレン基である。)
30〜99モル%、および下記構成単位(II)
【化2】

(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,3−フェニレン基である。)
70〜1モル%とからなるポリイミドフィルムであって、100℃〜200℃における面内方向の線熱膨張係数が10ppm/℃以下であると同時に、破断伸度が10%以上であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
ヤング率が3GPa以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
引張強度が150MPa以上であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
膜厚が15μm以下であることをと特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
工程1:(A)無水ピロメリット酸、(B)下記式(III)
【化3】

(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,4−フェニレン基である。)
で表わされる芳香族ジアミン化合物、及び(C)下記式(IV)
【化4】

(Arは非反応性の置換基を含んでいてもよい1,3−フェニレン基である。)
で表わされる芳香族ジアミン化合物とを、下記式(1)および(2)
0.95≦a/(b+c)≦1.05 ・・・(1)
0.01≦c/(b+c)≦0.70 ・・・(2)
(ここでaは無水ピロメリット酸のモル数、bは上記式(III)で表わされる芳香族ジアミン化合物のモル数、cは上記式(IV)で表わされる芳香族ジアミン化合物のモル数を表わす。)
を同時に満足する割合で溶媒中にて反応せしめてポリアミック酸溶液を得る。
工程2:ポリアミック酸溶液を支持体上に流延した後、ポリアミック酸の一部あるいはすべてをイミド化および/またはイソイミド化しゲルフィルムを製膜する。
工程3:得られたゲルフィルムを二軸延伸する。
工程4:得られた2軸延伸フィルムを熱処理する。
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
工程1において用いられる溶媒がN−メチル−2−ピロリドン及び/又はN,N−ジメチルアセトアミドであることを特徴とする請求項5に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
工程1において得られるポリアミック酸溶液の濃度が0.1〜40wt%であることを特徴とする請求項5又は6のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
工程3において、ゲルフィルムの延伸倍率がそれぞれ、1.5倍以上であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかにに記載のポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−56198(P2007−56198A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245532(P2005−245532)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】