説明

ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム、その製造方法ならびにそれを用いた金属化フィルム

【課題】 ポリイミドフィルムの強度を維持しつつ、金属層に対する密着性が向上したポリイミドベンゾオキサゾールフィルム、その製造方法ならびにそれを用いた金属化フィルムを提供すること。
【解決手段】 ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを縮重合してなるポリイミドを含有するフィルムであって、当該フィルムの少なくとも片面の表層部を構成するポリイミドの少なくとも一部のイミド環または少なくとも一部のベンゾオキサゾール環が開裂している、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムおよび前記フィルムの上記片面上に金属層を形成してなる金属化フィルム。上記ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、所定の雰囲気下でポリイミドを含有するフィルムの少なくとも片面をプラズマ放電処理に供することで好適に製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム、その製造方法ならびにそれを用いた金属化フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、電気絶縁性、機械的強度等において優れた特性を有することから、種々の分野で広く利用されている。ポリイミドフィルムは、特に優れた耐熱性と高い剛性を持つので、フレキシブルプリント配線用銅張基板(以下、FPCとも表記する)やテープ・オートメーテッド・ボンディング(以下、TABとも表記する)用キャリアテープなどの基材フィルムとして使用されている。
【0003】
金属化ポリイミドフィルムには、基材フィルムたるポリイミドフィルムと金属層とを接着剤層を介して接合してなる3層基板、ポリイミドフィルムに接着剤を介さずに直接金属層を形成してなる2層基板などが挙げられ、3層基板も2層基板も電気回路の細線化に伴い、金属層とポリイミドフィルムとの接合界面の信頼性が低くなるという問題点が指摘されている。
【0004】
また、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、機械的特性などが他のポリイミドより優れているが(特許文献1〜3)、一般的なポリイミドと同様に、金属に対する密着性が乏しいという問題があった。この問題を解決する手段として、種々のポリイミドフィルムの表面改質による接着性の改良が提案されている。例えば、密着性を改良するために、ポリイミドフィルムをアルカリ処理に供することで表面改質することが提案されている。(特許文献4)。最近、乾式めっきを施す前のポリイミドフィルムの表面をプラズマ、コロナ放電、または薬品等を使用した表面改質処理に供することが提案されている。
【特許文献1】特開昭45−845号公報
【特許文献2】特表平6−56992号公報
【特許文献3】特表平10−508059号公報
【特許文献4】特開平7−3055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラズマ処理やコロナ処理はその効果が明らかでなく、またアルカリによる表面処理では、薬品に浸漬させるために、工程が複雑になることや、フィルムの強度が低下するなどという問題点がある。本発明は、ポリイミドフィルムの強度を維持しつつ、金属層に対する密着性が向上したフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポリイミドフィルムと金属層との密着のメカニズムを検討することにより、アルカリ処理を施さなくても上記課題を達し得ることを見出して以下の特徴を有する本発明を完成した。
(1)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを縮重合してなるポリイミドを含有するフィルムであって、当該フィルムの少なくとも片面の表層部を構成するポリイミドの少なくとも一部のイミド環または少なくとも一部のベンゾオキサゾール環が開裂している、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
(2)上記片面の表層部を構成するポリイミドの少なくとも一部のイミド環および少なくとも一部のベンゾオキサゾール環が開裂している、上記(1)記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
(3)上記イミド環またはベンゾオキサゾール環の開裂が、プラズマ放電処理によるものである、上記(1)記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
(4)上記プラズマ放電処理が、テトラフルオロメタン、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素およびこれらの混合気体から選ばれるガスの雰囲気下でなされる、上記(3)記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
(5)上記プラズマ放電処理が、酸素雰囲気下または酸素を10vol%以上含む混合気体の雰囲気下でなされる、上記(3)記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
(6)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを縮重合してなるポリイミドを含有するフィルムであって、X線光電子分光法により測定される酸素原子と炭素原子とのモル比をO/Cとするとき、当該フィルムの少なくとも片面の表層部のO/Cが当該フィルムの内部のO/Cの1.03倍以上であるポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
(7)上記片面の表層部のO/Cが上記フィルムの内部のO/Cの1.17倍以上である上記(6)記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
(8)上記片面の表層部のO/Cが上記フィルムの内部のO/Cの1.03〜1.70倍である上記(6)記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの上記片面上に金属層を形成してなる金属化フィルム。
(10)上記金属層が銅層であって当該金属化フィルムが銅張積層板である、上記(9)記載の金属化フィルム。
(11)テトラフルオロメタン、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素およびこれらの混合気体から選ばれるガスの雰囲気下で、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを縮重合してなるポリイミドを含有するフィルムの少なくとも片面をプラズマ放電処理に供する、ポリイミドベンゾオキサゾールの表面処理方法。
(12)上記プラズマ放電処理が、酸素雰囲気下または酸素を10vol%以上含む混合気体の雰囲気下でなされる、上記(11)記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、金属層との密着性が高いので、信頼性の高いプリント配線板(PWB)、FPC、TABテープ等の電子部品へ好適に用い得て、従来のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムと同様のフィルム強度を備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムに含まれるポリイミドは、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られるポリイミドである。上述の「反応」は、まず、溶媒中でジアミン類とテトラカルボン酸無水物類とを開環重付加反応に供してポリアミド酸溶液を得て、次いで、このポリアミド酸溶液からグリーンフィルムなどを成形した後に脱水縮合(イミド化)することによりなされる。
【0009】
<芳香族ジアミン類>
本発明で用いるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類の分子構造は特に限定されるものではなく、具体的には以下のものが挙げられる。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
【化9】

【0019】
【化10】

【0020】
【化11】

【0021】
【化12】

【0022】
【化13】

【0023】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましく、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールがより好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明においては、全ジアミンの30モル%以下であれば下記に例示されるベンゾオキサゾール構造を有しないジアミン類を一種または二種以上を併用しても構わない。そのようなジアミン類としては、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0025】
<芳香族テトラカルボン酸無水物類>
本発明で用いられるテトラカルボン酸無水物は芳香族テトラカルボン酸無水物類である。芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0026】
【化14】

【0027】
【化15】

【0028】
【化16】

【0029】
【化17】

【0030】
【化18】

【0031】
【化19】

【0032】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以下であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上を併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0034】
ジアミン類と、テトラカルボン酸無水物類とを重合してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの重量が、通常5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%となるような量が挙げられる。
【0035】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/または混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の重量は、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
【0036】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸溶液を製造するのに有効である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
【0037】
重合反応により得られるポリアミド酸溶液から、ポリイミドフィルムを形成するためには、ポリアミド酸溶液を支持体上に塗布して乾燥することによりグリーンフィルム(自己支持性の前駆体フィルム)を得て、次いで、グリーンフィルムを熱処理に供することでイミド化反応させる方法が挙げられる。
【0038】
支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0039】
支持体上に塗布したポリアミド酸を乾燥してグリーンシートを得る条件は特に限定はなく、温度としては70〜150℃が例示され、乾燥時間としては、5〜180分間が例示される。そのような条件を達する乾燥装置も従来公知のものを適用でき、熱風、熱窒素、遠赤外線、高周波誘導加熱などを挙げることができる。次いで、得られたグリーンシートから目的のポリイミドフィルムを得るために、イミド化反応を行わせる。その具体的な方法としては、従来公知のイミド化反応を適宜用いることが可能である。例えば、閉環触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、必要により延伸処理を施した後に、加熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)が挙げられる。この場合の加熱温度は100〜500℃が例示され、フィルム物性の点から、より好ましくは、150〜250℃で3〜20分間処理した後に350〜500℃で3〜20分間処理する2段階熱処理が挙げられる。
【0040】
別のイミド化反応の例として、ポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることもできる。この方法では、ポリアミド酸溶液を支持体に塗布した後、イミド化反応を一部進行させて自己支持性を有するフィルムを形成した後に、加熱によってイミド化を完全に行わせることができる。この場合、イミド化反応を一部進行させる条件としては、好ましくは100〜200℃による3〜20分間の熱処理であり、イミド化反応を完全に行わせるための条件は、好ましくは200〜400℃による3〜20分間の熱処理である。
【0041】
閉環触媒をポリアミド酸溶液に加えるタイミングは特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどといった脂肪族第3級アミンや、イソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどといった複素環式第3級アミンなどが挙げられ、中でも、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種のアミンが好ましい。ポリアミド酸1モルに対する閉環触媒の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.5〜8モルである。
【0042】
脱水剤をポリアミド酸溶液に加えるタイミングも特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。脱水剤の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などといった脂肪族カルボン酸無水物や、無水安息香酸などといった芳香族カルボン酸無水物などが挙げられ、中でも、無水酢酸、無水安息香酸あるいはそれらの混合物が好ましい。また、ポリアミド酸1モルに対する脱水剤の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.1〜4モルである。脱水剤を用いる場合には、アセチルアセトンなどといったゲル化遅延剤を併用してもよい。
【0043】
熱閉環法であっても、化学閉環法であっても、支持体に形成されたポリイミドフィルムの前駆体(グリーンシート、フィルム)を完全にイミド化する前に支持体から剥離してもよいし、イミド化後に剥離してもよい。
【0044】
<フィルムの表面構造>
本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの少なくとも片面の表層部を構成するポリイミドの少なくとも一部のイミド環または少なくとも一部のベンゾオキサゾール環が開裂しており、好ましくはポリイミドの少なくとも一部のイミド環および少なくとも一部のベンゾオキサゾール環が開裂している。ポリイミド環が開裂するとカルボキシル基と第二級アミド基が生成し、ベンゾオキサゾール環が開裂すると第二級アミド基が生成する。
これらの開裂による化学構造の変化は後述する図1および図2で示される。
上記したポリイミドベンゾオキサゾールフィルム表面層に形成された変質ポリイミドベンゾオキサゾール層におけるカルボキシル基と水酸基とが乾式めっき法によって形成された第1金属層の金属原子と強い結合性を持つために、第1金属層に90°ピール強度が1.0kgf/cm以上の高い接合強度をもたらすことができたものと推定される。なお特開平11−117060号公報には、イミド環が開環して生成したカルボキシル基と、イミド環の窒素および/またはイミド環が開環して生成した第二級アミドの窒素と結合したベンゼン環に少なくとも1つの水酸基が付加された分子構造が記載されているが、ジアミン成分としてベンゾオキサゾール構造を含むポリイミドベンゾオキサゾールフィルムではこのような構造は形成せず、オキサゾール環も開環した化学式の変質ポリイミド層を形成することが明らかとなった。かかる効果は、蒸着やスパッタリング等に代表される乾式めっきに有効であり、さらに無電解めっき等の湿式めっきにおいても効果を有する。
【0045】
ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを構成するポリイミドベンゾオキサゾールの環構造の開裂の有無とその程度は、X線光電子分光分析法(以下、XPSとも記載する)を用いて解析される。図1は、化学構造中に環の開裂がないポリイミドベンゾオキサゾールフィルムのXPSによる炭素のC1sスペクトル(図1(a))および部分化学構造(図1(b))を示す。図2は、イミド環とベンゾオキサゾール環が開裂しているポリイミドベンゾオキサゾールフィルムのXPSによる炭素のC1sスペクトル(図2(a))および部分化学構造(図2(b))を示す。図中、a〜fは炭素をピーク分離した各ピークの帰属を示す。表1は、上記スペクトルからピーク分離して求めたピーク面積の強度比と分子構造式から計算により求めた強度比とを対比して示す。
【0046】
【表1】

【0047】
XPSでは炭素の化学状態によりC1sスペクトルのピーク位置がシフトすることを利用して分子構造の解析を行うことができる。すなわち、表面改質処理前(環の開裂なし)のポリイミドベンゾオキサゾールの単一分子構造ユニット中の23個の炭素を、その化学状態によって5つに分類し、ピーク分離により求めたピーク面積の強度比と、分子構造から求めた強度比とは表1に示すようによく一致していることが分かる。また表面改質処理後のポリイミドフィルムについても同様の手法で解析したところ、同様に表1に示すように、図2(b)で示される分子構造において、測定により求めたピーク面積強度比と計算により求めた強度比とがよく一致した。表2は、XPSによる炭素、窒素、酸素の半定量分析結果である。この結果からも、測定値と分子構造をもとに算出される計算値とはよく一致していることが分かる。
【0048】
【表2】

【0049】
本発明では、ベンゾオキサゾールの環構造の開裂の程度をXPSで測定される酸素原子と炭素原子のモル比(O/Cとも表記する)で定量化する。ベンゾオキサゾールの環構造の開裂の程度をO/Cで定量化するのが適しているのは、プラズマ処理による炭素原子量の増減は比較的少なくほぼ一定であるという理由による。
【0050】
本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの少なくとも片面の表層部のO/Cは、当該フィルムの内部のO/Cの1.03倍以上であり、好ましくは1.17倍以上であり、良好な密着性を得るためには、好ましくは1.03〜1.70倍であり、より好ましくは1.17〜1.70倍である。上記片面の表層部のO/Cが、当該フィルムの内部のO/Cの1.03倍未満であると、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムと金属との密着性が低く不適である。
【0051】
ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの少なくとも片面の表層部とは、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面付近を構成する部分であり、換言すれば、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面からXPSで測定可能な厚さの領域であり、具体的には、当該ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面から約0.01μm程度の厚さの領域である。本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの内部とは、フィルムの表面から見て上述の表層部よりも深い部分であり、フィルムの表層部を削り取る加工をしてはじめてXPSの測定が可能になる領域である。具体的には、フィルムの両表面から約1.0μm程度よりも深い領域である。フィルムの内部は後述の表面処理によっても化学構造に変化は生じ難いと考えられる。よって当該内部のO/Cは、表面処理を施す前の高分子の化学構造を反映するものとみなすことができる。フィルムの表層部および内部のO/Cの導出方法は実施例の欄に記載する。
【0052】
本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、好ましくは、表面処理を施す前のフィルムに対して表面改質処理を施すことにより得られる。具体的な表面改質処理としては、プラズマまたはコロナ放電等の物理的手段および薬品等による化学的手段等が挙げられる。これらの手段は一般的な高分子フィルムの分野では公知の表面改質手段であるが、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面改質処理の手段には用いられていなかった。好ましくは、テトラフルオロメタン、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素およびこれらの混合気体から選ばれるガスの雰囲気下でプラズマ放電処理によってポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面処理がなされる。より好ましくは、酸素あるいは酸素を10vol%以上含む混合気体の雰囲気下でプラズマ放電処理がなされ、前記混合気体は酸素と不活性ガスとの混合気体が特に好ましく、その場合、酸素の含有量が10vol%以上が好ましく、30vol%以上が特に好ましい。
例えば同じプラズマ放電法を採用するにしても酸素プラズマによるときは本発明の分子構造を有する変質ポリイミド層を形成することができるが、アルゴンプラズマのような低反応性の不活性ガスプラズマによる場合には本発明の分子構造を有する変質ポリイミド層を形成する効果は低い。
【0053】
本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの厚さは特に限定はないが、好ましくは3〜200μmである。
【0054】
<金属化フィルム>
本発明の金属化フィルムは、上述した本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの上記片面上に金属層を形成してなるものである。ここで、「上記片面上」とは、表面改質処理がなされた面である。金属層はポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの上記面上に直接的に形成されていてもよいし、接着剤層、下地金属層などを介して形成されていてもよい。ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの片面上に形成する金属層の材質およびその形成手段は従来公知の金属および積層手段を適宜取り入れることができる。金属の種類としては、銅、ニッケル、クロムまたはそれらの合金等が挙げられ、導電性等の観点から銅が好ましい。金属層の形成手段には、乾式めっき、湿式めっき(無電解銅めっき、無電解ニッケルめっき、無電解金めっき等)等が挙げられる。乾式めっきの具体例としては真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等が挙げられる。本発明の金属化フィルムが有する金属層の厚さは特に限定はなく、好ましくは0.1〜50μmである。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0056】
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。
【0057】
2.フィルムの厚さ
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。
【0058】
3.フィルムの表面分析
3.1.フィルムの表層部の測定
プラズマ処理をした直後のフィルムをそのまま測定対象とした。そのような測定対象のフィルムを、X線光電子分光器(アルバック・ファイ ESCA−5801MC)のサンプルホルダー上に載せ、金属製カバーで固定し、予備排気室で十分に排気した。その後、試料を測定室のチャンバー内に投入して、CCDカメラで測定位置を確定した。その後、全元素スキャンを行ってフィルム表面の構成元素を調べ、検出された元素についてナロースキャンを行ってその存在比などを調べた。測定条件は以下のとおりである。励起X線:Al monochromatic Kα線、X線出力:14kV、11mA、光電子脱出角度:45°、分析径:直径400μm、パスエネルギー:187.85eV(全元素スキャン)、11.75eV(ナロースキャン)、真空度:10−7Pa以下。
3.2.フィルムの内部の測定
プラズマ処理をしたフィルムをミクロトームで切断して、フィルムの断面をX線光電子分光器(ESCA)で測定した。ESCAの具体的な測定手順・条件はフィルムの表層部の測定の場合と同様である。
【0059】
4.金属化フィルムの接合強度
測定対象の金属化フィルムを90μm配線幅のTABテープパターンに加工した後、90度方向に引き剥がしたときに要する強度を以って接合強度とした。測定は、JIS C6418に準じて引張試験機(島津製作所製、オートグラフ(R)機種名AG−5000A)を用いて行った。上記引き剥がしの際に、剥離状態が、凝集剥離であるか、層間剥離であるかを目視で観察した。
【0060】
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、500重量部の5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールを入れた。次いで、5000重量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、485重量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて40時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。この還元粘度(ηsp/C)は4.0であった。
【0061】
(ポリアミド酸のグリーンフィルムの製造)
このポリアミド酸溶液をステンレスベルトにスキージを用いてコーティングした。スキージとベルトとの間のギャップは650μmであった。次いで、90℃にて60分間乾燥することにより得られた自己支持性をもつポリアミド酸フィルムをステンレスベルトから剥離して、厚さ40μmの前駆体フィルム(グリーンフィルム)を得た。
【0062】
(ポリイミドフィルムの製造)
得られたグリーンフィルムを、連続式の乾燥炉にて、170℃で3分間、次いで、約20秒間で450℃にまで昇温して450℃にて7分間加熱して、その後、5分間で室温にまで冷却して、厚さ25μmの褐色のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得た。このポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを500mm幅にスリットして種々の表面処理を施した。
【0063】
(実施例1)
(表面処理)
上記ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを常圧プラズマ処理装置に装着した。フィルムを1m/分の速度にて走行させ、空気中、周波数13.56MHz、出力100Wの条件で表面のプラズマ処理を行った。処理時の温度は25℃であり、プラズマにフィルム表面が暴露されている時間は約10秒間である。
【0064】
(金属層形成)
上記処理を施したフィルムを連続式スパッタ装置に装着し、周波数13.56MHz、出力400W、ガス圧0.8Paの条件、ニッケル−クロム(クロム含有量10%)合金のターゲットを用い、キセノン雰囲気下にてRFスパッタ法により、10Å/秒のレートで厚さ50Åのニッケル−クロム合金被膜を形成した。次いで、100Å/秒のレートで銅を蒸着し、厚さ0.3μmの銅薄膜を形成させた。その後、このフィルムを250mm×400mmに切り出し、プラスチック製の枠に固定し直し、硫酸銅めっき浴を用いて、厚さ5μmの厚付け銅メッキ層を上記銅薄膜上に形成して、金属化ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得た。
【0065】
(実施例2)
(表面処理)
プラズマ処理を空気ではなく窒素雰囲気下で行ったこと以外は実施例1と同様の処理を施した。
(金属層形成)
プラズマ処理を行ったフィルムに対して実施例1と同様の処理を施して金属化フィルムを得た。
【0066】
(実施例3)
(表面処理)
実施例1と同様の処理を施した。
(金属層形成)
プラズマ処理を行ったフィルムに対して、エポキシ系接着剤(UR2700:東洋紡績製)を塗工して、5分間80℃にすることで接着剤の溶媒を蒸発させた。その後、厚さ35μmの銅箔(BHY−22B−T、日鉱マテリアルズ製)をラミネーターで積層した。その後、150℃にて2時間処理することで接着剤を硬化させた。その後、このフィルムを250mm×400mmに切り出すことで、金属化ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得た。
【0067】
(実施例4)
(表面処理)
プラズマ処理を空気ではなくアルゴン雰囲気下で行い、プラズマにフィルム表面が暴露されている時間を数秒間に変えたことのほかは実施例1と同様の処理を施した。
(金属層形成)
プラズマ処理を行ったフィルムに対して実施例1と同様の処理を施して金属化フィルムを得た。
【0068】
(実施例5)
(表面処理)
プラズマ処理を空気ではなくアルゴン雰囲気下で行ったこと以外は実施例1と同様の処理を施した。
(金属層形成)
プラズマ処理を行ったフィルムに対して実施例1と同様の処理を施して金属化フィルムを得た。
【0069】
(実施例6)
(表面処理)
プラズマ処理を空気ではなくアルゴン(50vol%)と酸素(50vol%)との混合雰囲気下で行ったこと以外は実施例1と同様の処理を施した。
(金属層形成)
プラズマ処理を行ったフィルムに対して実施例1と同様の処理を施して金属化フィルムを得た。
【0070】
(実施例7)
(表面処理)
実施例5と同様の処理を施した。
(金属層形成)
実施例3と同様の処理を施して金属化フィルムを得た。
【0071】
(実施例8)
(表面処理)
実施例1と同様の処理を施した。
(金属層形成)
上記処理を施したフィルムをメルテックス社製酸性コンディショナー:エンプレートPC475を用い、70℃で3分間コンディショニングを行った。次いで、脱イオン水で充分に洗った後、メルテックス社製プレディップ浴:エンプレートPC236に25℃で1分間浸漬した後、メルテックス社製エンプレートアクチベーター444にて25℃で5分間触媒を付与し、メルテックス社製アクセレーター:PA−360にて触媒活性化し、メルテックス社製メルプレートCU−390にて25℃で20分間無電解銅めっき処理を施した。さらに、硫酸銅めっき浴を用い、厚さ8μmまで電気メッキによる厚付けを行い金属化フィルムを得た。
【0072】
(比較例1)
(表面処理)
表面処理を行わなかった。
(金属層形成)
表面処理を行っていないフィルムに対して実施例1と同様の処理を施して金属化フィルムを得た。
【0073】
(比較例2)
(表面処理)
表面処理を行わなかった。
(金属層形成)
表面処理を行っていないフィルムに対して実施例3と同様の処理を施して金属化フィルムを得た。
【0074】
各実施例、比較例のフィルムについての上記測定の結果を表3に記載する。表3の「剥離状態」において、「凝集」は接着剤の凝集破壊による剥離を意味し、「層間」は層間での剥離を意味し、「層間/凝集」は層間での剥離と接着剤の凝集破壊が混在した剥離を意味する。また、表3に記載の「O/C」は、フィルムの表層部の酸素原子と炭素原子のモル比(O/C)である。各実施例、比較例のフィルムの内部の酸素原子と炭素原子のモル比(O/C)は、いずれも0.29だった。
【0075】
【表3】

【0076】
各実施例、比較例の表面分析から、全ての実施例では、O/C値が上がっており、イミド環またはベンゾオキサゾール環の一部が開裂していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】化学構造中に環の開裂がないポリイミドベンゾオキサゾールフィルムのXPSによる炭素のC1sスペクトル(図1(a))および部分化学構造(図1(b))を示す。
【図2】イミド環とベンゾオキサゾール環が開裂しているポリイミドベンゾオキサゾールフィルムのXPSによる炭素のC1sスペクトル(図2(a))および部分化学構造(図2(b))を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを縮重合してなるポリイミドを含有するフィルムであって、当該フィルムの少なくとも片面の表層部を構成するポリイミドの少なくとも一部のイミド環または少なくとも一部のベンゾオキサゾール環が開裂している、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項2】
上記片面の表層部を構成するポリイミドの少なくとも一部のイミド環および少なくとも一部のベンゾオキサゾール環が開裂している、請求項1記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項3】
上記イミド環またはベンゾオキサゾール環の開裂が、プラズマ放電処理によるものである、請求項1記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項4】
上記プラズマ放電処理が、テトラフルオロメタン、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素およびこれらの混合気体から選ばれるガスの雰囲気下でなされる、請求項3記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項5】
上記プラズマ放電処理が、酸素雰囲気下または酸素を10vol%以上含む混合気体の雰囲気下でなされる、請求項3記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項6】
ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを縮重合してなるポリイミドを含有するフィルムであって、X線光電子分光法により測定される酸素原子と炭素原子とのモル比をO/Cとするとき、当該フィルムの少なくとも片面の表層部のO/Cが当該フィルムの内部のO/Cの1.03倍以上であるポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項7】
上記片面の表層部のO/Cが上記フィルムの内部のO/Cの1.17倍以上である請求項6記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項8】
上記片面の表層部のO/Cが上記フィルムの内部のO/Cの1.03〜1.70倍である請求項6記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの上記片面上に金属層を形成してなる金属化フィルム。
【請求項10】
上記金属層が銅層であって当該金属化フィルムが銅張積層板である、請求項9記載の金属化フィルム。
【請求項11】
テトラフルオロメタン、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素およびこれらの混合気体から選ばれるガスの雰囲気下で、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを縮重合してなるポリイミドを含有するフィルムの少なくとも片面をプラズマ放電処理に供する、ポリイミドベンゾオキサゾールの表面処理方法。
【請求項12】
上記プラズマ放電処理が、酸素雰囲気下または酸素を10vol%以上含む混合気体の雰囲気下でなされる、請求項11記載のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−37023(P2006−37023A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222469(P2004−222469)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】