説明

ポリイミド前駆体、ポリイミド樹脂およびその利用

【課題】有機溶媒への可溶性、耐熱性、寸法安定性および透明性に優れたポリイミド樹脂、該ポリイミド樹脂を含有するコーティング樹脂溶液、およびそれにより形成したコーティングフィルムを用いたTFT基板、フレキシブルディスプレイ基板、電子デバイス材料を提供する。
【解決手段】トリフルオロメチル基を有する特定構造のジアミンとトリフルオロメチル基を有する特定構造のテトラカルボン酸二無水物およびフッ素を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物を共重合して得られる特定構造のポリイミド前駆体、およびポリイミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い透明性を有し、耐熱性および寸法安定性に優れたフィルムを与えるポリイミド樹脂に関する。特に、有機溶媒に可溶であり、透明性、耐熱性および寸法安定性に対する要求が高い製品あるいは部材を形成する材料(例えば、画像表示装置のガラス代替フィルムなど)として好適に利用できるポリイミド樹脂、コーティング用樹脂溶液および、それからなる光学フィルム、透明基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶や有機EL、電子ペーパー等のディスプレイや、太陽電池、タッチパネル等のエレクトロニクスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、更には、フレキシブル化が要求されている。そこでガラス基板に変えて、薄型化、軽量化、フレキシブル化が可能なプラスチックフィルム基板が検討されている。
【0003】
これらのデバイスには基板上に様々な電子素子、例えば、薄膜トランジスタや透明電極等が形成されているが、これらの電子素子の形成には高温プロセスが必要である。しかしながら、プラスチックフィルムは、耐熱性、高温での寸法安定性が低いため、製造工程において反りなどの熱変形が生じやすく、位置あわせが困難になり、また電気素子が破壊されてしまう恐れがあった。
【0004】
更に、表示素子から発せられる光がプラスチックフィルム基板を通って出射されるような場合(例えば、ボトムエミッション型の有機ELなど)、プラスチックフィルム基板には透明性が必要となる。
【0005】
これらデバイス作製プロセスはバッチプロセスとロール・トゥ・ロールに分けられる。ロール・トゥ・ロールの作製プロセスを用いる場合には、新たな設備が必要となり、さらに回転と接触に起因するいくつかの問題を克服しなければならない。一方、バッチプロセスは、ガラス基板上にコーティング樹脂溶液を塗布、乾燥し、基板形成した後、剥がすというプロセスになる。そのため、現行TFT等のガラス基板用プロセス、設備を利用することができるため、コスト面で優位である。
【0006】
このような背景から、既存のバッチプロセス対応が可能で、耐熱性、寸法安定性および透明性の高いコーティングフィルムが得られるコーティング樹脂溶液の開発が強く望まれている。
【0007】
これらの要求を持たす材料としてポリイミドが検討されている。透明性の高いポリイミドを得ようとする場合、脂環式モノマーやフッ素置換基を含有する芳香族モノマーが一般に用いられている。しかし、脂環式モノマーを用いた場合、有機溶媒への可溶性は高くなるものの、耐熱性および寸法安定性の高いポリイミドを得ることができない。一方、フッ素置換基を含有するモノマー、例えば2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、TFMBという場合がある)を用いた場合、高い耐熱性、寸法安定性、透明性および有機溶媒への可溶性が比較的高いポリイミドが得られる場合が多いが、全ての要求特性を十分に満足できるポリイミド樹脂は未だ開示されていない。
【0008】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、TFMBを使用したポリイミドの熱物性について記載されている。しかしながら、それ以外の物性の詳細は記載されていない。
【0009】
特許文献3には、TFMBを用いた可溶性ポリイミドの技術が開示されている。線熱膨張係数の記載はあるものの、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に関する溶解性の記載のみであり、その他の溶剤への溶解性に関しては、何ら記載されていない。
【0010】
特許文献4には、下記式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物とTFMBからなるポリイミドが記載されている。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Aは酸素原子またはNH基を表す。)
式(9)でAが酸素であるポリエステル−イミドは有機溶剤への可溶性を有し、耐熱性および透明性は比較的高いものの、寸法安定性に課題を残している。また、式(9)でAがNH基であるポリアミド−イミドの場合は、耐熱性および寸法安定性は比較的高いものの、透明性に課題を残している。
【0013】
上述のように、コーティング用樹脂として好適に使用できる有機溶媒への可溶性、実用上求められる耐熱性、寸法安定性および透明性を合わせ持つ材料はこれまでに開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許5071997
【特許文献2】米国特許5194579
【特許文献3】特表平8−511812
【特許文献4】特開2010−106225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、有機溶媒への可溶性、耐熱性、寸法安定性および透明性に優れたポリイミド樹脂、該ポリイミド樹脂を含有するコーティング樹脂溶液、およびそれにより形成したコーティングフィルムを用いたTFT基板、フレキシブルディスプレイ基板、電子デバイス材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記問題を鑑み、鋭意研究を重ねた結果、下記式(8)であらわされるポリイミド樹脂が上記要求特性を同時に満足する優れた特性を示すことから、前記産業分野において有益な材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
【化2】

【0018】
(式(8)中、XとZは下記式(2)〜(4)から選ばれる2価のフッ素含有芳香族基を表し、XとZは同一であっても異なってもよい。Yはフッ素を含まない4価の芳香族基を表す。Rは水素原子、シリル基、炭素原子数1〜12の直鎖状または分岐状アルキル基のいずれかの基を表し、これらが混在してもよい。また、mとnはそれぞれの構造単位のモル分率を表し、m+n=1、0.5≦m≦0.9、0.5≧n≧0.1を満たす。)
【0019】
【化3】

【0020】
即ち本発明の要旨は以下に示すものである。
1.下記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミド前駆体。
【0021】
【化4】

【0022】
(式(1)中、XとZは下記式(2)〜(4)から選ばれる2価のフッ素含有芳香族基を表し、XとZは同一であっても異なってもよい。Yはフッ素を含まない4価の芳香族基を表す。Rは水素原子、シリル基、炭素原子数1〜12の直鎖状または分岐状アルキル基のいずれかの基を表し、これらが混在してもよい。また、mとnはそれぞれの構造単位のモル分率を表し、m+n=1、0.5≦m≦0.9、0.5≧n≧0.1を満たす。)
【0023】
【化5】

【0024】
2.上記式(1)中、Yが下記式(5)〜(7)から選ばれる4価の芳香族基であることを特徴とする上記1に記載のポリイミド前駆体。
【0025】
【化6】

【0026】
3.下記式(8)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂。
【0027】
【化7】

【0028】
(式(8)中、XとZは下記式(2)〜(4)から選ばれる2価のフッ素含有芳香族基を表し、XとZは同一であっても異なってもよい。Yはフッ素を含まない4価の芳香族基を表す。Rは水素原子、シリル基、炭素原子数1〜12の直鎖状または分岐状アルキル基のいずれかの基を表し、これらが混在してもよい。また、mとnはそれぞれの構造単位のモル分率を表し、m+n=1、0.5≦m≦0.9、0.5≧n≧0.1を満たす。)
【0029】
【化8】

【0030】
4.上記式(8)中、Yが下記式(5)〜(7)から選ばれる4価の芳香族基であることを特徴とする上記3に記載のポリイミド樹脂。
【0031】
【化9】

【0032】
5.化学イミド化されたことを特徴とする上記3また4記載のポリイミド樹脂。
6.上記3〜5のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂と、有機溶媒を含有し、該ポリイミド樹脂の固形分濃度が1重量%以上であることを特徴とするコーティング用樹脂溶液。
7.上記6に記載のコーティング用樹脂溶液を基板上に塗布、乾燥して形成することを特徴とするコーティングフィルム。
8.上記7に記載のコーティングフィルムからなることを特徴とするTFT基板。
9.上記7に記載のコーティングフィルムからなることを特徴とするフレキシブルディスプレイ基板。
10.上記7に記載のコーティングフィルムを含むことを特徴とする電子デバイス材料。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るポリイミド樹脂は種々の有機溶媒に可溶であり、該ポリイミド樹脂を含む樹脂溶液を用いて形成したコーティングフィルムは、耐熱性、寸法安定性、透明性に優れたものになっている。そのため、TFT基板、フレキシブルディスプレイ基板、電子デバイス材料に好適に用いることができるという効果を奏する。また本発明のコーティング樹脂は、既存のガラス基板用プロセス、設備を利用することができるため、コスト面で優位である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<テトラカルボン酸二無水物の製造方法>
本発明で用いるテトラカルボン酸二無水物の製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。一例として、式(10)であらわされるテトラカルボン酸二無水物(以下、TABDという場合がある)の製造方法について説明する。
【0035】
【化10】

【0036】
その原料となる式(11)で表される4,4‘−ヒドロキシ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(以下、DHTFMBという場合がある)およびトリメリット酸無水物誘導体を用いエステル化反応を行う。
【0037】
【化11】

【0038】
この際、適用できる方法として、例えば、DHTFMBのヒドロキシ基とトリメリット酸無水物のカルボキシル基を高温で直接脱水反応させるか、あるいはDHTFMBのジアセテート化体とトリメリット酸無水物とを高温で反応させて脱酢酸してエステル化する方法(エステル交換法)、トリメリット酸無水物のカルボキシル基をハライドに変換し、これとDHTFMBとを脱酸素剤(塩基)の存在下で反応させる方法(酸ハライド法)、トシルクロリド/N,N−ジメチルホルムアミド/ピリジン混合物を用いてトリメリット酸無水物中のカルボキシル基を活性化してエステル化する方法等が挙げられる。上述の方法の中でも酸ハライド法が経済性、反応性の点で好ましく適用できる。
【0039】
以下に本発明に用いるTABDの酸クロライド法による製造方法について具体的に説明する。まず、トリメリット酸無水物クロリド(A[mol])を溶媒に溶解し、セプタムキャップで密栓する。この溶液に、DHTFMB(A/2[mol])および適当量の塩基(脱酸剤)を同一溶媒に溶解したものをシリンジまたは滴下ロートにてゆっくり滴下する。滴下終了後、反応混合物を24時間撹拌する。合成に用いた溶媒に対する目的物の溶解度が高い場合は、反応混合物からまず生成した塩酸塩を濾別し、濾液をエバポレーターで溶媒留去し、100〜200℃で24時間真空乾燥して粉末状の粗生成物を得る。目的物の溶解度が低い場合には、目的物と塩酸塩の混合物を濾別し、これを大量の水で洗浄して塩酸塩のみ溶解除去する。次に一部洗浄工程で加水分解を受けた素生成物を100〜200℃で真空乾燥して閉環処理する。このようにして得られた粗生成物を適当な溶媒で再結晶、洗浄、加熱真空乾燥工程を経て重合に供することができる高純度のTABDが得られる。
【0040】
この反応の際、使用可能な溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒、およびフェノール、o−m−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独でも、2種類以上を混合して用いてもよい。反応試薬の溶解性、留去のしやすさの観点から酢酸エチルおよびテトラヒドロフランが好適に使用される。
【0041】
上記エステル化反応は、−10〜50℃で行われるが、より好ましくは0〜30℃で行われる。反応温度が50℃よりも高いと一部副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。
【0042】
上記エステル化反応は、溶質濃度5〜50重量%の範囲で行われる。副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮して、好ましくは10〜40重量%の範囲で行われる。
【0043】
上記エステル化反応により生成した沈殿物は、脱酸剤としてピリジンを使用した場合、水溶性のピリジン塩酸塩を含んでいる。例えば溶媒としてテトラヒドロフランを用いた場合、ピリジン塩酸塩はほとんど溶解しないため、反応溶液を濾過するだけで、塩酸塩をほぼ完全に分離することができる。通常、目的物の溶解度が高い場合、目的物は濾液中に溶解しているので、濾液から溶媒を留去し、適当な溶媒から再結晶するだけで高収率で十分純度の高い目的物が得られるが、痕跡量の塩素成分を分離除去するために、目的物をクロロホルムや酢酸エチル等に再溶解し、分液ロートを用いて有機層を水洗する方法や、沈殿物を単に十分水洗する方法を用いることも可能である。塩酸塩の除去は洗浄液を1%硝酸銀水溶液を用いて塩化銀の白色沈殿の精製の有無をもって、容易に判断することができる。水洗操作の際、該エステル基含有テトラカルボン酸二無水物が一部加水分解を受けて、ジカルボン酸に変化するが、80〜250℃、好ましくは120〜200℃で真空乾燥することで、一部加水分解してジカルボン酸が生成しても容易に脱水閉環して酸無水物に戻すことができる。また有機酸の酸無水物と処理する方法も適用可能である。この際使用可能な有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられるが、除去の容易さの点で無水酢酸が好適に用いられる。
【0044】
<ポリイミド前駆体の重合>
本発明の下記式(1)で表されるポリイミド前駆体中、
【0045】
【化13】

【0046】
XとZは下記式(2)〜(4)から選択され、XとZは同一であっても異なっていてもよい。同一である方が製造面の制御は容易である。
【0047】
【化14】

【0048】
また、式(1)中のYはフッ素を含まない4価の芳香族基であり、製造の際に使用する芳香族テトラカルボン酸二無水物の残基である。使用可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物としてはフッ素を含有しないという点以外、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、ハイドロキノンビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が例示される。中でも剛直な構造を有するものが好ましく、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が特に好適に使用される。つまり、Yは下記式(5)〜(7)で表される4価の芳香族基であることがより好ましい。
【0049】
【化15】

【0050】
上記X、Y、Zの組成構成とすることのより、最終的に得られるポリイミド樹脂の溶解性、耐熱性、寸法安定性および透明性が優れたものとなる。
【0051】
式(1)中のRは水素原子、シリル基、炭素原子数1〜12の直鎖状または分岐状アルキル基のいずれかの基であり、これらが混在してもよい。Rは最終的に得られるポリイミド樹脂の物性に影響するものではなく、ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂を製造する際の反応制御のし易さ、分離精製のし易さといたった観点から選択すればよく、通常は全て水素原子である。
【0052】
更に、式(1)中のmとnは各構造単位のモル分率を表し、m+n=1、0.5≦m≦0.9、0.5≧n≧0.1を満たす。より好ましくは、0.6≦m≦0.8、0.4≧n≧0.2である。要すれば、mとnは共重合比率であり、製造に使用する2種のテトラカルボン酸二無水物の仕込みモル分率により調整することができる。mが0.5未満(nが0.5超)となると最終的に得られるポリイミド樹脂の溶解性が低くなる。mが0.9超(nが0.1未満)となると最終的に得られるポリイミド樹脂の溶解性は良好であるが熱寸法安定性が低下する。
【0053】
本発明の式(1)で表されるポリイミド前駆体の製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。一例として、式(12)であらわされるポリイミド前駆体の製造方法について説明する。
【0054】
【化16】

【0055】
まず、重合容器中にジアミンであるTFMBを重合溶媒に溶解する。このジアミン溶液に対して、TABDおよび2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(以下、NTCDAという場合がある)の粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、−20〜100℃の範囲で、好ましくは20〜60℃の範囲で1〜72時間攪拌する。ここで、TABDのモル分率をm、NTCDAのモル分率をnとして、m+n=1、0.5≦m≦0.9、0.5≧n≧0.1を満たす。ジアミンのモル数とテトラカルボン酸二無水物のモル数(TABDとNTCDAのモル数の和)は実質的に等モルで仕込まれる。また重合の際の全モノマー濃度は5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度のポリイミド前駆体溶液を得ることができる。 上記モノマー濃度範囲よりも低濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の重合度が十分高くならず、最終的に得られるポリイミド樹脂膜が脆弱になる恐れがあり、好ましくない。
【0056】
重合溶媒としては特に限定されないが、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン-ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テロラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン等の非プロトン性溶媒および、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が使用可能である。またこれらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0057】
<ポリイミド樹脂の製造方法>
本発明の下記式(8)で表されるポリイミド樹脂中、
【0058】
【化17】

【0059】
XとZは式(2)〜(4)から選択され、XとZは同一であっても異なっていてもよい。また、Yはフッ素を含まない4価の芳香族基である。Yは式(5)〜(7)で表される4価の芳香族基であることがより好ましい。
【0060】
上記X、Y、Zの組成構成にすることのより、ポリイミド樹脂の溶解性、耐熱性、寸法安定性および透明性が優れたものとなる。
【0061】
更に、式(8)中のmとnは各構造単位のモル分率を表し、m+n=1、0.5≦m≦0.9、0.5≧n≧0.1を満たす。より好ましくは、0.6≦m≦0.8、0.4≧n≧0.2である。mが0.5未満(nが0.5超)となるとポリイミド樹脂の溶解性が低くなる。mが0.9超(nが0.1未満)となるとポリイミド樹脂の溶解性は良好であるが熱寸法安定性が低下する。
【0062】
本発明の式(8)で表されるポリイミド樹脂は、上記の方法で得られたポリイミド前駆体の脱水閉環反応(イミド化反応)により製造することができる。イミド化反応には、熱イミド化や化学イミド化といった公知の方法を用いることができる。中でも、得られるポリイミド樹脂がより優れた寸法安定性を示す化学イミド化がより好ましい。
【0063】
例えば、熱イミド化の場合、ポリイミド前駆体の重合溶液をそのまま用いるか若しくは溶媒で適度に希釈した後、そのワニスを150〜230℃に加熱することで容易にイミド化することできる。この際イミド化の副生成物である水等を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加しても差し支えない。また触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することができる。得られたワニスを大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下して析出させ、これを濾過しポリイミド樹脂を粉末として単離することもできる。
【0064】
化学イミド化は、有機酸の酸無水物と有機3級アミンからなる脱水環化剤(化学イミド化剤)を用いて行うこともできる。例えば、ポリイミド前駆体ワニスをそのまま用いるか若しくは溶媒で適度に希釈後、これに脱水環化試剤を投入し、0〜100℃、好ましくは20〜60℃で0.5〜48時間攪拌することで容易にイミド化することができる。
【0065】
その際に使用される有機酸の酸無水物としては、特に限定されず、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が使用可能であるが、コストおよび後処理のしやすさの観点から無水酢酸が好適に用いられる。また有機3級アミンとしては特に限定されず、ピリジン、1,5-ジメチルピリジン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ルチジン、イソキノリン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等が使用可能である。
【0066】
化学イミド化反応の際、脱水環化試薬中の酸無水物の使用量は、ポリイミド前駆体の理論脱水量の1〜10倍モルの範囲であることが好ましく、脱水環化試薬中の塩基性触媒の使用量は酸無水物に対して0.1〜2倍モルの範囲であることが好ましい。これらの範囲外で化学イミド化を行うとイミド化反応が完結しなかったり、反応溶液中にイミド化が未完結のポリイミド樹脂が析出してやはりイミド化が不十分となる恐れがある。
【0067】
イミド化完了後、反応溶液を大量の貧溶媒中に滴下してポリイミド樹脂を析出・洗浄して反応溶媒や、化学イミド化の場合は過剰な化学イミド化剤を除去した後、減圧乾燥してポリイミド樹脂の粉末を得ることができる。使用可能な貧溶媒としては、ポリイミド樹脂を溶解しなければよく、特に限定されないが、反応溶媒や化学イミド化剤との親和性および乾燥による除去のしやすさの観点から水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等が好適に用いられる。
【0068】
<コーティング溶液>
本発明のコーティング用樹脂溶液は、上記方法で得られたポリイミド樹脂と有機溶媒を含有し、ポリイミド樹脂の固形分濃度が1重量%以上である。1重量%未満ではコーティングによる均一な塗膜形成が困難となる。固形分濃度の好ましい範囲は、形成しようとする膜厚や、コーティング方式・コーティング機の仕様により求められる粘度範囲等により異なる。また、使用する溶媒への溶解度が固形分濃度の上限となる。このため、固形分濃度の好ましい範囲は一概には決められないが、3重量%〜20重量%が好ましい場合が多い。
【0069】
また、含有されるポリイミド樹脂の重量平均分子量は、特に制限されるものではないが、5,000〜2,000,000であることが好ましく、10,000〜1,000,000であることがさらに好ましく、50,000〜500,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が5,000以下であると、コーティングフィルムとした場合に十分な強度が得られにくい上、また寸法安定性が低下する傾向があるため、十分な寸法安定性が得られない場合がある。一方、2,000,000を超えると溶液粘度が高くなりすぎるため取扱いが難しくなる傾向がある。なお、上記重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によるによるポリエチレングリコール換算の値のことをいう。
【0070】
本発明に用いる有機溶媒は、本発明のポリイミド樹脂を溶解させる溶媒であれば特に限定されず、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン系溶媒、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒、メチルジグライム、エチルジグライム、メチルトリグライム等のグリコールエーテル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を混合しても良い。溶解性の観点から、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、ピロリドン系溶媒、グリコールエーテル系溶媒から少なくとも1つ選択されることが好ましい。溶解性に加えて、コーティング後の乾燥における溶媒除去のし易さを考慮に入れると、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒を単独、あるいは2種以上混合して使用することが好ましい。またポリイミド樹脂を溶解する範囲であれば、ポリイミド樹脂を溶解させにくい貧溶媒を混合溶媒として適時使用しても良い。
【0071】
本発明のコーティング用樹脂溶液に、最終的に得られるポリイミド樹脂塗膜、コーティングフィルムの特性を損なわない範囲で、加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤、帯電防止剤、染料、顔料、可塑剤、微粒子、増感剤等が挙げられる。
【0072】
本発明のコーティング用樹脂溶液から、コーティングフィルムを製造する方法については特に限定されず、公知の方法により容易に製造することが出来る。例えば、本発明のコーティング用樹脂溶液を所定の基板上に塗布、乾燥することで、コーティングフィルムを形成することができる。塗布する基板としては、ガラス、SUS、シリコンウェハー、プラスチックフィルム等が使用されるがこれに限定されるものではない。特に、電子デバイスの基板材料として適用する場合においては、既存設備を利用することができるという観点から、塗布する基板がガラス、シリコンウェハーであることが好ましい。
【0073】
上記のように、本発明のコーティングフィルムをガラス代替の電子デバイス材料として使用する場合においては、ガラス基板上に塗布、乾燥して、コーティングフィルムを製造することが好ましい。コーティングフィルムをガラスから剥離して、基板用コーティングフィルムとして使用しても良いし、ガラス/コーティングフィルム積層体の形態で、電子素子を形成した後、ガラスから剥離しても良い。本発明のコーティングフィルムは、ガラスに近い低い線熱膨張係数を示し、かつ反り等の熱変形が非常小さいという優れた寸法安定性と、300℃以上のプロセス温度に耐える高い耐熱性と、85%以上の全光線透過率を示し、400nmでの透過率が65%以上と着色が少なく、高い透明性を合わせ持つことから、これらの特性が有効とされる分野・製品、例えば、電子デバイス材料、TFT基板、フレキシブルディスプレイ基板に好適に使用することが可能である。さらには、ガラスが使用されている部分の代替材料とすることが可能である。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0075】
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300)を用い、KBr法にてテトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収(FT−IR)スペクトルを測定した。またイミド化の完結を確認するためにポリイミド樹脂粉末および薄膜(約5μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0076】
H−NMRスペクトル>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド中でテトラカルボン酸二無水物のH−NMRスペクトルを測定した。
【0077】
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
テトラカルボン酸二無水物の融点および融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。
【0078】
<固有粘度>
ポリイミド前駆体およびポリイミド樹脂の0.5重量%溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0079】
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、試験片に一定荷重(膜厚1μm当たり0.5g)をかけ、昇温速度5℃/分における試験片の伸び値より、100〜200℃の範囲での平均値として、ポリイミドフィルムの線熱膨張係数を求めた。
【0080】
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて熱機械分析により、試験片に一定荷重(膜厚1μm当たり0.5g)をかけ、昇温速度5℃/分における試験片の伸び値を温度の関数として計測し、伸び−温度曲線(TMA曲線)において、試験片が急激に伸び始めた温度を2つの接線の交点より求め、ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)を決定した。
【0081】
<5%重量減少温度:T
ブルカーエイエックスエス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルムの初期重量が5%減少した時の温度を測定した。
【0082】
<カットオフ波長(透明性)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−530)を用いて、200nmから900nmの可視・紫外線透過率を測定した。透過率が0.5%以下となる波長(カットオフ波長)をフィルムの透明性の指標とした。
【0083】
<光透過率(透明性)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−530)を用いて、400nmにおける光透過率を測定した。
【0084】
<複屈折:Δn、およびその波長分散>
アタゴ社製偏光子付アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、ポリイミドフィルムに平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の一定波長における屈折率(ナトリウムランプの波長589nmを測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。
【0085】
<弾性率、破断伸び、破断強度>
エー・アンド・ディー社製引張試験機(テンシロンUTM−II)を用いて、ポリイミド試験片(3mm×30mm×20μm厚)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、弾性率、破断伸びおよび破断強度を求めた。
【0086】
<テトラカルボン酸二無水物の合成>
下記式(10)で表されるテトラカルボン酸二無水物(TABD)は、
【0087】
【化18】

【0088】
式(11)で表されるジオール(DHTFMB)とトリメリット酸無水物クロリドより合成した。
【0089】
【化19】

【0090】
まずDHTFMBを以下のように合成した。2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)3.20g(10mmol)を500mLナス型フラスコに入れ、水100mLを加えて攪拌し、懸濁させた。これに濃塩酸24mL(100mmol)を加えて攪拌しA液とした。50mLナス型フラスコに亜硝酸ナトリウム1.38g(30mmol)を入れ、水8mLを加えて溶解し、B液とした。氷浴で冷却したA液に攪拌下B液をシリンジにてすばやく加えた。2時間攪拌後、未反応の亜硝酸ナトリウムを分解するために尿素0.1gを加え、更に30分攪拌し、C液とした。次に1L3つ口フラスコに燐酸7mLと水600mLを入れ、還流管を付けて窒素雰囲気中、120℃に加熱した。この水溶液中にC液をゆっくり加え、120℃で1時間還流して加水分解を行った。室温まで放冷後、生成物をジエチルエーテルで抽出し、エバポレーターで溶媒留去して橙色油状生成物を得た。これに水と活性炭を加えて脱色後、熱濾過し、エバポレーターで水を留去して薄黄色固体を得た。最後にシクロヘキサンにて再結晶・真空乾燥を行い、収率43%で白色結晶を得た。FT−IRスペクトルおよびH−NMRスペクトルから得られた生成物は式(2)で表される目的のジオール体であることが確認された。分析結果を以下に示す。
【0091】
FT−IR: 3316cm−1(フェノール性OH基)、1593cm−1(ビフェニレン基)
H−NMR:δ10.2ppm(OH、2H)、δ7.0〜7.1ppm(ビフェニレン基上CaromH、6H)
DSC:融点151.0℃
次に、トリメリット酸無水物クロリドと上記のようにして得られたDHTFMBより、式(10)で表されるテトラカルボン酸二無水物(TABD)を以下のようにして合成した。まず、ナス型フラスコにトリメリット酸クロリド4.21g(20mmol)を入れ、脱水済みテトラヒドロフラン(THF)18.9mLを加えて溶解させ、セプタムシールして溶液Aを調製した。更に別のフラスコ中でDHTFMB3.22g(10mmol)をTHF14.5mLに溶解し、これにピリジン2.42mL(30mmol)を加えて溶解し、セプタムシールして溶液Bを調製した。
【0092】
氷浴中で冷却した溶液Aに攪拌下溶液Bを滴下して3時間攪拌し、その後室温で12時間攪拌した。析出した白色のピリジン塩酸塩を濾別し、濾液をエバポレーターで溶媒留去し、析出物を水で繰り返し洗浄してピリジンを除去した。生成物を80℃で12時間真空乾燥し、更に適当量の無水酢酸を加えて120℃で3時間加熱して一部開環した酸無水物基を完全に閉環させた。これにトルエンを加えて無水酢酸を共沸除去し、得られた白色固体を120℃で24時間真空乾燥して収率42%で粗生成物を得た。最後にトルエンにて再結晶(再結晶収率92%)し、120℃で24時間真空乾燥して白色結晶を得た。FT−IRスペクトルより得られた生成物は式(10)で表される目的のテトラカルボン酸二無水物であり、示差熱分析による融解の吸熱ピークが非常にシャープであったことから生成物は高純度であることが確認された。分析結果を以下に示す。
【0093】
FT−IR: 1856cm−1、1784cm−1(酸無水物基C=O伸縮振動)、1750cm−1(エステル基C=O伸縮振動)
DSC:融点245.3℃
【0094】
(実施例1)
<ポリイミド前駆体の重合、イミド化およびポリイミドフィルム特性の評価>
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)10mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したN,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcという場合がある)に溶解した後、この溶液に式(10)で表されるテトラカルボン酸二無水物粉末(TABD)7mmolおよび2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA、JFEケミカル社製)3mmolを一度に加えた(溶質濃度:30重量%)。室温で攪拌を続けたところ、溶液粘度が増加して攪拌しにくくなったため、23重量%まで同一溶媒で適宜希釈しトータル74時間撹拌して均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。このポリイミド前駆体溶液は室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。DMAc中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の固有粘度は1.62dL/gであり、高重合体であった。
【0095】
ポリイミド前駆体溶液に過剰量の無水酢酸/ピリジン(体積比7/3)を攪拌しながら滴下し、室温で24時間攪拌して化学イミド化を行った。この際反応溶液のゲル化や沈殿の析出等の不均一化は見られなかった。化学イミド化終了後、反応溶液を大量のメタノール中に滴下してポリイミド樹脂を沈殿・濾過してメタノールで十分洗浄した後、100℃で真空乾燥してポリイミド樹脂の粉末を得た。赤外吸収スペクトルを測定したところ、化学イミド化はほぼ完結していることが確認された。得られたポリイミド樹脂の固有粘度は2.42dL/gであった。得られたポリイミド樹脂の化学構造を式(13)に示す。式(13)中、mは0.7、nは0.3。
【0096】
【化20】

【0097】
上記ポリイミド樹脂粉末をDMAcに溶解し11.6重量%の均一なワニスを得た。これをガラス基板上に塗布し、150℃で2時間、次いで180℃で1時間真空乾燥してポリイミドフィルムを作製した。得られた膜厚14μmのポリイミドフィルムは、通常、透明性に不利なNTCDAを併用したにもかかわらず、高い透明性を維持しており、目視での着色はあまり見られなかった。更にこの系は、非常に低い線熱膨張係数(13.1ppm/K)を有していた。その他の物性も併せて表1に示す。
【0098】
(実施例2)
NTCDAの代わりに3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、s−BPDAという場合がある)を用い、共重合組成をTABD:s−BPDA=60:40へ変更した以外は実施例1に記載した方法と同様にポリイミド前駆体を重合し、化学イミド化、製膜を行って膜物性を評価した。この系では透明性に不利な汎用テトラカルボン酸二無水物であるs−BPDAを併用したにもかかわらず、高い透明性を維持していた。また、比較的低い線熱膨張係数も有していた。物性値を表1に示す。
【0099】
(比較例1)
テトラカルボン酸二無水物成分のうち、共重合成分としてNTCDAやs−BPDAを使用せず、TABDを単独で使用した以外は実施例1に記載した方法に従って、ポリイミド前駆体を重合、化学イミド化した。得られたポリイミド樹脂粉末をシクロペンタノンに溶解して15重量%の均一なワニスとした。これを実施例1に記載した方法に従ってキャスト製膜し、膜物性を評価した。得られたポリイミドフィルムは高い透明性を示したが、低熱膨張特性は得られなかった。膜物性を表1に示す。
【0100】
(比較例2)
テトラカルボン酸二無水物成分の共重合成分としてTABDを使用せず、NTCDAを単独で使用した以外は実施例1に記載した方法に従って、ポリイミド前駆体を重合し、固有粘度2.15dL/gの均一なワニス(15重量%)を得た。化学イミド化を行うため、無水酢酸とピリジンの混合溶液をこれに添加したところ、溶液が不均一化したため、均一なポリイミドワニスを得ることが困難であった。これはこのポリイミド樹脂の溶媒溶解性が低いためである。そこで化学イミド化の代わりに常法に従って、ポリイミド前駆体ワニスをガラス基板上に塗布し、温風乾燥機中60℃で2時間乾燥し、200℃で1時間、続いて330℃で1時間真空中で熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。この系ではポリイミド樹脂粉末およびフィルムは溶媒溶解性を殆ど示さなかったが、極めて低い線熱膨張係数を示した。一方、400nmにおける光透過率は実施例1および2の結果に比べてかなり低下しており、透明性に劣っていた。膜物性を表1に示す。
【0101】
(比較例3)
テトラカルボン酸二無水物成分のうち、共重合成分としてTABDを使用せず、s−BPDAを単独で使用した以外は実施例1に記載した方法に従って、ポリイミド前駆体を重合し、固有粘度1.74dL/gの均一なワニス(15重量%)を得た。化学イミド化により得られたポリイミド樹脂粉末は、汎用の有機溶媒に対して十分な溶解性を示さなかったため、均一で安定なポリイミドワニスを得ることが困難であった。そこで比較例2に記載したようにポリイミド前駆体ワニスをガラス基板上に塗布・乾燥し、250℃で1時間、続いて300℃で1時間真空中で熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。この系は低熱膨張特性を示さず、また400nmにおける光透過率も実施例1および2の結果に比べてかなり低下しており、透明性に劣っていた。膜物性を表1に示す。
【0102】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミド前駆体。
【化1】

(式(1)中、XとZは下記式(2)〜(4)から選ばれる2価のフッ素含有芳香族基を表し、XとZは同一であっても異なってもよい。Yはフッ素を含まない4価の芳香族基を表す。Rは水素原子、シリル基、炭素原子数1〜12の直鎖状または分岐状アルキル基のいずれかの基を表し、これらが混在してもよい。また、mとnはそれぞれの構造単位のモル分率を表し、m+n=1、0.5≦m≦0.9、0.5≧n≧0.1を満たす。)
【化2】

【請求項2】
上記式(1)中、Yが下記式(5)〜(7)から選ばれる4価の芳香族基であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体。
【化3】

【請求項3】
下記式(8)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂。
【化4】

(式(8)中、XとZは下記式(2)〜(4)から選ばれる2価のフッ素含有芳香族基を表し、XとZは同一であっても異なってもよい。Yはフッ素を含まない4価の芳香族基を表す。Rは水素原子、シリル基、炭素原子数1〜12の直鎖状または分岐状アルキル基のいずれかの基を表し、これらが混在してもよい。また、mとnはそれぞれの構造単位のモル分率を表し、m+n=1、0.5≦m≦0.9、0.5≧n≧0.1を満たす。)
【化5】

【請求項4】
上記式(8)中、Yが下記式(5)〜(7)から選ばれる4価の芳香族基であることを特徴とする請求項3に記載のポリイミド樹脂。
【化6】

【請求項5】
化学イミド化されたことを特徴とする請求項3または請求項4記載のポリイミド樹脂。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂と、有機溶媒を含有し、該ポリイミド樹脂の固形分濃度が1重量%以上であることを特徴とするコーティング用樹脂溶液。
【請求項7】
請求項6に記載のコーティング用樹脂溶液を基板上に塗布、乾燥して形成することを特徴とするコーティングフィルム。
【請求項8】
請求項7に記載のコーティングフィルムからなることを特徴とするTFT基板。
【請求項9】
請求項7に記載のコーティングフィルムからなることを特徴とするフレキシブルディスプレイ基板。
【請求項10】
請求項7に記載のコーティングフィルムを含むことを特徴とする電子デバイス材料。


【公開番号】特開2012−62344(P2012−62344A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205432(P2010−205432)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】