説明

ポリイミド樹脂前駆体溶液を用いた電子部品用基材及びその基材の製造方法

【課題】 金属層との密着強度が高く、かつ、絶縁性が高い電子部品用機材及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 ポリイミド基材上にパラジウム化合物を含有するポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布・乾燥させてポリイミド樹脂前駆体層を形成し、次いで水素共与体の存在下において紫外線を照射してメッキ下地核を形成した後、無電解メッキ処理によってメッキ下地金属層を形成し、さらに表面メッキ層を形成した後、又は形成する前に前記ポリイミド樹脂前駆体層を加熱イミド化してポリイミド樹脂層にすることにより電子部品用基材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細加工用の電子部品用基材及びその基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板、TAB材料やCSP材料として銅張のポリイミド基材が使用されているが、機器の小型化や信号の伝達速度の高速化などに伴い高密度微細配線や微細ビアなどの微細加工が必要となり、金属膜の密着強度の高い材料がますます要求されている。
【0003】
従来は、密着強度の高い銅張ポリイミド基材を得るために、ポリイミド表面をイオンボンバードやコロナ放電などの乾式前処理を行った後に、ニッケルやクロムなどの下地金属をスパッタで付着させ、その上に無電解メッキと電解メッキを行って金属膜を形成させる方法が採られている。しかし、この方法では、前処理やスパッタ−を真空中で行うために高価な機器が必要であり、量産性が低く、コストが高くなり工業的にはあまり有利な方法とは云いがたい。
【0004】
一方、乾式前処理やスパッタ−処理なしで、触媒付与と無電解メッキや電解メッキで銅張ポリイミドを製造した場合は、高価な機器が不用ではあるが、金属とポリイミドの密着強度が低いため実用上使用できないという問題があった。
【0005】
基材表面に金属層を形成する手段としては、塩化第一錫を還元剤とする塩化パラジウム触媒を用いる方法があり、最近では、ガラスやセラミックの表面に金属層を形成するために、酸化亜鉛膜と塩化パラジウムの反応でパラジウム触媒を吸着させ、還元剤で還元する方法や酸化亜鉛の光半導体特性を利用し酸化亜鉛に光を照射して、金属イオンを還元する方法がエレクトロニクス実装技術(非特許文献1)に報告されているが、本方法は酸化亜鉛薄膜が容易に形成でき、かつ密着性の高いガラスやセラミックスなどの無機材料に限定されるため、有機材料に対しては適用できなかった。
【0006】
また、ポリイミドフィルムの表面をアルカリ加水分解し、ポリアミド酸とした後、硫酸銅や塩化パラジウムを吸着させた後、蟻酸ソーダを還元剤として低圧水銀灯の紫外線を照射する方法(非特許文献2)が報告されているが、紫外線照射による触媒核の形成に要する時間が非常に長く、かつ還元剤の分解によりNaOHが生成してアルカリ性となり、ポリイミドフィルムが劣化するという問題があった。
【0007】
さらに、上述の方法は、いずれも基材の表面にのみ金属層が形成される方法のため、金属層が基材の中まで入り込んだいわゆるアンカー効果を得ることができない。
【0008】
そこで、上述の問題を解決するため、被メッキ物の表面に貴金属の塩を溶解した塗膜を形成したあと、水素、CO、HSなどの還元性ガスで還元する方法(特許文献1)や還元剤で直接還元可能な金属化合物と接触的にだけ還元可能な金属化合物を組み合わせる方法(特許文献2)が提案されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は還元性ガスの爆発、毒性など安全面での問題が多く、特許文献2に記載の方法は金属化合物の添加量が樹脂100重量部当たり約200重量部と多量に必要なため樹脂の特性(強度、絶縁性など)が失われてしまったり、金属化合物が完全に還元されないまま樹脂中に残り、金属イオンマイグレーションが起こりやすい等絶縁性に問題があった。
【特許文献1】特公平5−61296号公報
【特許文献2】特開平5−306469号公報
【非特許文献1】VOL.11,No.6,P32,1995
【非特許文献2】第13回エレクトロニクス実装学会講演集P183,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高価な機器を使用することなく、金属層との密着強度が非常に高くかつ、基材が本来の特性を失うことなく、絶縁性が高い電子部品用基材、電子部品用基材の安価な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明におけるポリイミド樹脂前駆体溶液を用いた電子部品用基材は、ポリイミド基材上にパラジウム化合物を含有するポリイミド樹脂前駆体溶液を用いてポリイミド樹脂前駆体層が形成され、次いで紫外線が照射されてメッキ下地核が形成された後、無電解メッキ処理によりメッキ下地金属が形成され、さらに表面メッキ層が形成された後、又は形成される前に前記ポリイミド樹脂前駆体層が加熱イミド化されて形成されたポリイミド樹脂層を有することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明における電子部品用基材の製造方法は、ポリイミド基材上にパラジウム化合物を含有するポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布・乾燥させてポリイミド樹脂前駆体層を形成し、次いで水素共与体の存在下において紫外線を照射してメッキ下地核を形成した後、無電解メッキ処理によってメッキ下地金属層を形成し、さらに表面メッキ層を形成した後、又は形成する前に前記ポリイミド樹脂前駆体層を加熱イミド化してポリイミド樹脂層にすることを特徴とするものである。
【0013】
なお、水素供与体として、水、アルコールまたはアルコール水溶液を使用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明による電子部品用基材は、ポリイミド基材上にパラジウム化合物を含有するポリイミド樹脂前駆体溶液を用いてポリイミド樹脂前駆体層が形成され、次いで紫外線が照射されてメッキ下地核が形成された後、無電解メッキ処理によりメッキ下地金属が形成され、さらに表面メッキ層が形成された後、又は形成される前に前記ポリイミド樹脂前駆体層が加熱イミド化されて形成されたポリイミド樹脂層を有するように構成されているため、メッキ下地金属層とポリイミド樹脂との密着強度が非常に高い。
【0015】
本発明における電子部品用基材の製造方法においては、ポリイミド基材上にパラジウム化合物を含有するポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布・乾燥させてポリイミド樹脂前駆体層を形成し、次いで水素共与体の存在下において紫外線を照射してメッキ下地核を形成した後、無電解メッキ処理によってメッキ下地金属層を形成し、さらに表面メッキ層を形成した後、又は形成する前に前記ポリイミド樹脂前駆体層を加熱イミド化してポリイミド樹脂層にするようにしているため、メッキ下地核がポリイミド樹脂内に存在し、そのアンカー効果によりメッキ下地金属層とポリイミド樹脂との密着強度が非常に高くなる。
【0016】
また、水素供与体に水、アルコールまたはアルコール水溶液を用いることにより、紫外線照射によるパラジウム錯体のパラジウムイオンを効率的かつ安定的にパラジウム金属に還元することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態における電子部品用基材1は、図1に示すように、ポリイミド基材2と表面メッキ層7との間にあるメッキ下地金属層6の一部をポリイミド樹脂前駆体溶液を用いてポリイミド基材2上に新たに形成されたポリイミド樹脂層に包み込ませた構造になっている。
【0018】
この実施の形態における電子部品用基材の製造方法は、図2に示すように、ポリイミド基材2上にパラジウム化合物4を含有するポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布・乾燥させてポリイミド樹脂前駆体層3を形成し(図2(a))、次いで水素供与体8の存在下において紫外線9を照射してパラジウム化合物4中のパラジウムイオンをパラジウム金属に還元することによりメッキ下地核5を形成し(図2(b))、無電解メッキ処理によりメッキ下地金属層6を形成し(図2(c))、さらに表面メッキ層7を形成し(図2(d))、その後、前記ポリイミド樹脂前駆体層を加熱イミド化してポリイミド樹脂層にする(図2(e))ことにより、電子部品用基材1を製造するものである。
【0019】
このようにして得られた電子部品用基材(電解銅メッキ厚さ24μm)の金属層とポリイミド樹脂層間の密着強度をJISC−6481で測定した結果、ピール強度は12〜14N/cm(1200〜1400gf/cm)であり、従来のスパッタ/無電解メッキ/電解メッキによる方法で製造した電子部品用基材のピール強度と同等以上であった。
【0020】
本発明で使用されるポリイミド基材としては、非熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂があり、例えば、市販のピロメリット酸無水物(PMDA)とオキシジアニリン(ODA)からなるポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BTDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)からなるポリイミドおよびこれらのモノマーの共重合体、芳香族テトラカルボン酸無水物と分子中に−O−、−CO−、−Si−等の屈曲基を持った芳香族ジアミン等からなる熱可塑性ポリイミド、さらには脂環式カルボン酸無水物との共重合体などの溶剤可溶型熱可塑性ポリイミドなどがあげられ、これらのポリイミド基材は電子部品材料分野では主にフィルム状基材として使用される。
【0021】
ポリイミド樹脂前駆体としては、ポリイミド樹脂と同じモノマー成分から得られたポリアミック酸ワニスまたは、分子中に感光性基を含有するポリアミック酸ワニスなどを使用する。例えば、東レ(株)の”トレニース”ワニスや”フォトニース”ワニス、宇部興産(株)の”U−ワニス”などがあげられ、ポリイミド樹脂前駆体ワニスと溶剤可溶型ポリイミドワニスを混合使用することもできる。溶剤可溶型ポリイミドワニスとしては新日鉄化学製熱可塑性ポリイミドワニス”SPI−200N”などがある。
【0022】
パラジウム化合物としては、パラジウムの各種塩や有機カルボニル錯体があり、パラジウム塩としては塩酸塩,硫酸塩,酢酸塩、蓚酸塩、クエン酸塩などが挙げられる。また、有機カルボニル化合物としては、アセチルアセトンやジベンゾイルメタンなどのβ−ジケトン類やアセト酢酸エチルなどのβ−ケトカルボン酸エステルなどがあげられる。特に、パラジウム酢酸塩やアセチルアセトン錯体などの有機塩や錯体化合物は入手が容易なことや有機溶媒への溶解性や熱安定性、光反応後に樹脂中に塩素イオン等の無機イオンが残らないことなどから好んで用いられる。
【0023】
前記有機カルボニル錯体はポリイミド樹脂前駆体の溶媒であるn−メチル2−ピロリジノン(NMP)やNN'−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解したあと、ポリイミド樹脂前駆体ワニスに均一に混合・溶解され、例えば、スピンコーターやバーコーター、更には、スクリーン印刷などを使ってポリイミド基材の上に薄膜層として塗布され、有機カルボニル錯体の熱分解温度以下、通常は150℃以下の温度で乾燥される。乾燥後のポリイミド樹脂前駆体層の膜厚は通常0.1〜10μmであり、また、ポリイミド樹脂前駆体層中の錯体濃度は0.1〜10重量%程度である。スクリーン印刷法はポリイミド基材上にフォトリソなどの工程を経ずに直接配線や接続バンプなどを形成するのに好ましい。
【0024】
ポリイミド樹脂前駆体とパラジウム化合物との反応により高分子錯体が形成されることは、後述する実施例12から実施例14に記載のように、ポリイミド樹脂前駆体にパラジウム化合物を添加した時の粘度上昇やゲル形成から明らかである。
【0025】
後述する実施例12に記載のように、図3にポリイミド樹脂前駆体溶液にパラジウムアセチルアセトン錯体を添加した場合の粘度変化およびポリイミド樹脂前駆体溶液の粘度変化を示す。
【0026】
また、パラジウムアセチルアセトン錯体の代わりに、酢酸パラジウムや塩化パラジウムを添加した場合にも同様の傾向が見られる。しかし、後述する比較例8に記載のように、パラジウムアセチルアセトン錯体の代わりに銅(II)アセチルアセトン錯体を添加した場合は、溶液の粘度変化やゲル化現象は全く起こらない。
【0027】
従って、ポリイミド樹脂前駆体とパラジウム化合物との反応による高分子錯体の形成はパラジウムイオンに特有のものであり、パラジウムイオンがポリイミド樹脂前駆体の官能基と反応して、ポリマー分子中にパラジウムイオンが配位した錯体を形成し、一つの成分として取り込まれた状態にあるものと考えられる。
【0028】
すなわち、ポリイミド基材表面に塗布・乾燥して形成されたポリイミド樹脂前駆体層においては、パラジウムイオンが単に均一に分布しているだけでなく、ポリイミド樹脂前駆体層表面にあるポリマー分子の一成分として表面にも露出するように分布していると考えられる。
【0029】
実際に、後述する実施例1に記載のように、図4に示すポリイミド樹脂前駆体層表面のXPS測定結果および図5に示すオージェスペクトル測定の結果から、これらのパラジウム錯体がポリイミド樹脂層表面および樹脂層の深さ方向にも均一に存在していることが確認されている。
【0030】
本発明で使用する紫外線としては、水銀紫外線ランプや紫外線レーザー発生装置から放射される波長450nm以下の紫外線が使用でき、370nm以下の紫外線が有効であり、254nmの紫外線が特に有効である。紫外線ランプとしては市販の低圧水銀灯が好んで使用される。
【0031】
図4に示すポリイミド樹脂前駆体層表面のXPSの測定結果より、パラジウムイオンがパラジウム金属に還元されていることがわかる。すなわち、紫外線を照射するとパラジウム高分子錯体化合物が光を吸収して励起され、励起錯体分子中のパラジウムイオンが水素供与体の存在下でパラジウム金属まで還元され下地メッキ核が形成される。
【0032】
なお、錯体化合物の光反応を促進するために、金属とポリイミドとの密着性などに殊更の悪影響がない限り、増感剤を添加することもできる。
【0033】
水素供与体としては、水、アルコールさらにアルコール水溶液などがあるが、特に、上記の紫外線波長域に紫外線吸収があまりなく、ポリイミド樹脂前駆体層表面と適度な濡れ性を有するアルコール水溶液が好んで用いられる。なお、金属イオンを金属に還元する反応は、酸素があると反応が阻害されるので、紫外線照射時は空気(酸素)を遮断することが好ましい。通常は水素供与体の中にポリイミド基材を浸漬させた状態で照射するが、水素供与体が水の場合は水中照射などで外部から水分を供給しながら照射することのほかにポリイミド樹脂前駆体層にあらかじめ水分を十分に吸着させて利用することは可能である。
【0034】
なお、紫外線の照射時間は紫外線の照射強度によって異なるが、紫外線ランプからの紫外線照射では、通常の照射時間は1分〜20分間程度、レーザー発生装置からの紫外線照射の場合は通常の照射時間は60秒以内である。紫外線照射量としては、オーク製作所製紫外線照度計UV−02で測定した場合、500〜15000mJ/cm程度であり、とくに、1500〜9000mJ/cm程度が好ましい。照射量が多すぎるとポリマー自体の損傷なども起こるので好ましくない。
【0035】
紫外線照射されたポリイミド樹脂前駆体層を有するポリイミド基材は、メッキ下地核を触媒として無電解メッキ処理が行われメッキ下地金属層が形成された後、無電解銅メッキ処理や電解銅メッキ処理などで必要な金属膜厚さになるまで金属メッキが行われ、水洗・乾燥後、窒素雰囲気中で400℃まで加熱され、イミド化される。なお、加熱イミド化は無電解メッキ処理による下地金属層形成後であれば、電解メッキ前後のいずれの段階で行ってもよい。
【0036】
下地金属層を形成するための無電解メッキ浴としては、特に制限されないが、金属イオンに対するバリア性とポリイミド樹脂前駆体の耐薬品性(耐アルカリ性)から考えて通常は中性から弱酸性の次亜りん酸塩系やジメチルアミノボラン系のニッケルメッキ浴が好んで用いられる。また、電解メッキ浴には通常の電解銅メッキや電解ニッケルメッキ浴などを用いることができる。
【0037】
上述の方法で得られた電子部品用基材(電解銅メッキ厚さ18μm)を用いて、フォトリソエッチング法でL/S=100/100(μm)の配線を作成し、配線以外の部分のポリイミド樹脂前駆体層をエッチングで除去した後、線間絶縁抵抗をJISC−5016で測定したところ、1.5×1012Ω・cmという高い絶縁抵抗が得られた。
【0038】
本発明で得られる電子部品用基材は、メッキ下地核がポリイミド樹脂内に存在しているため、そのアンカー効果によりメッキ下地金属層とポリイミド樹脂との密着強度が非常に高い。また、配線形成後の線間絶縁性にも優れており、微細加工用の電子部品材料として十分使用できるものである。
【0039】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。
【0040】
(実施例1)市販のパラジウムアセチルアセトン錯体(以下パラジウム錯体と略す)をn−メチル2−ピロジノン(以下NMPと略す)に溶解した溶液を東レ(株)のポリイミド樹脂前駆体ワニス”トレニース”#3000に添加し、ワニス溶液当たりのパラジウム錯体の含有量が1wt/vol%になるようワニス溶液を調整した。このワニス溶液はポリイミド樹脂前駆体あたりほぼ5wt%のパラジウム錯体を含有している。なお、1wt/vol%とは、例えば、パラジウム錯体0.01gが”トレニース”ワニス溶液1mlに溶解した濃度を意味する。
【0041】
次いで、宇部興産(株)のポリイミド基材”ユーピレックス−S”の試片10×10cm(厚さ50μm)を1%NaOH水溶液および1%HCl水溶液で処理し、純水で洗浄し乾燥した後、前記ワニス溶液をバーコーターで塗布し、室温および120℃で乾燥し、塗膜の厚さが約5μmの基材を得た。基材表面をXPS分析した結果は図4に示すとおりであり、表面にパラジウムイオンの存在が認められた。
【0042】
前記基材上に水を滴下し、石英板の間に挟み水膜を形成した状態で、低圧水銀灯を用いて紫外線を3分間照射した。紫外線の照射量はオーク製作所製の照度計”UV−02”で測定した結果、4500mJ/cmであった。基材表面をXPS分析した結果は図4に示すように、パラジウム金属が検出され、パラジウムイオンがパラジウム金属に還元されていることが判る。
【0043】
次いで、紫外線を照射した基材を65℃に加温されたメルテック(株)の次亜りん酸ソーダを還元剤とした無電解ニッケルメッキ浴”エンプレートNi−426”(pH=6〜7)に5分間浸漬させたところ、紫外線照射部に均一な金属光沢のあるメッキ層が形成された基材を得た。前記基材を水洗し乾燥させ、メッキ下地層を形成した。得られた基材のニッケルメッキ部およびポリイミド樹脂前駆体層のオージェスペクトルを測定した結果は図5に示すように、ニッケルがポリイミド樹脂前駆体層の深部まで検出された。さらに、電解銅メッキ浴で電流密度3.3A/dmの電解メッキを行い、銅膜厚24μmの銅被覆ポリイミド基材を得た。
【0044】
前記基材を窒素雰囲気中において、150℃で乾燥した後、さらに400℃まで加熱し、400℃で15分間保持してポリイミド樹脂前駆体層をイミド化した後、20℃まで冷却した。
【0045】
得られた基材の金属部とポリイミド樹脂層間のピール強度をJISC−6481で定められた方法で測定した結果、14N/cm(1400gf/cm)であった。
【0046】
(実施例2)実施例1のポリイミド樹脂前駆体液のパラジウム錯体の含有量を0.5wt/vol%に変更し、同様の処理を行い、銅膜厚22μmの電子部品用基材を得た。得られた基材の金属部とポリイミド樹脂層間のピール強度をJISC−6481で定められた方法で測定した結果、12N/cm(1200gf/cm)であった。
【0047】
(実施例3)実施例1の紫外線照射量を7500mJ/cmに変更し、同様の処理を行った。
【0048】
(実施例4)実施例1の紫外線照射量を9000mJ/cmに変更し、同様の処理を行った。
【0049】
(実施例5)実施例1のポリイミド樹脂前駆体液のパラジウム錯体の含有量を0.5wt/vol%に、紫外線照射量を7500mJ/cmに変更し、同様の処理を行った。
【0050】
(実施例6)実施例1のポリイミド樹脂前駆体液のパラジウム錯体の含有量を0.5wt/vol%に、紫外線照射量を9000mJ/cmに変更し、同様の処理を行った。
【0051】
実施例1から実施例6の銅膜厚およびピール強度を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(実施例7)市販の酢酸パラジウムをNMPに溶解した溶液を、東レ(株)のポリイミド樹脂前駆体ワニス”トレニース”#3000に添加し、酢酸パラジウム含有量が1wt/vol%になるようにワニス溶液を調整した。
【0054】
次いで、宇部興産(株)のポリイミド基材”ユーピレックス−S”の試片10×10cm(厚さ50μm)を1%NaOH水溶液および1%HCl水溶液で処理し、純水で洗浄し乾燥した後、前記ワニス溶液を塗布し、120℃で乾燥し、塗膜の厚さが4μmの基材を得た。
【0055】
前記基材上に20%エタノール水溶液を滴下し、石英板の間に挟みエタノール水溶液膜を形成した状態で、低圧水銀灯を用いて紫外線を3分間照射した。
【0056】
以下、実施例1と同様の処理を行った。
【0057】
(実施例8)実施例7の酢酸パラジウム含有量を0.5wt/vol%に変更し、同様の処理を行った。
【0058】
実施例7および実施例8の銅膜厚およびピール強度を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
(実施例9)実施例1の宇部興産(株)のポリイミド基材”ユーピレックス−S”を東レデュポン(株)のポリイミドフィルム”カプトンEN”に変更し、同様の処理を行った。得られた電子部品用基材の銅膜厚およびピール強度を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
(実施例10)実施例1の東レ(株)のポリイミド樹脂前駆体ワニス”トレニース”に新日本製鐵化学(株)の熱可塑性ポリイミドワニス”SPI−200N”を同量混合した混合物に、パラジウム錯体のNMP溶液を添加し、パラジウム錯体の含有量が1wt/vol%になるようワニス溶液を調整した。
【0063】
次いで、純水で洗浄し乾燥した東レデュポン(株)のポリイミド基材”カプトンEN”(厚さ50μm)上に、前記ワニス溶液を塗布し、120μで乾燥し、厚さが3μmのポリイミド樹脂前駆体と熱可塑性ポリイミドからなる薄膜層を有する基材を得た。
【0064】
前記基材上に20%エタノール水溶液を滴下し、石英板の間に挟みエタノール水溶液膜を形成した状態で、低圧水銀灯を用いて紫外線を3分間照射した。紫外線の照射量はオーク製作所製の照度計”UV−02”で測定した結果、7500mJ/cmであった。
【0065】
以下、実施例1と同様の処理を行った。得られた電子部品用基材の銅膜厚およびピール強度を表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
(実施例11)市販の塩化パラジウム5%水溶液をNMPに溶解した溶液を、東レ(株)のポリイミド樹脂前駆体ワニス”トレニース”#3000に添加し、塩化パラジウム含有量が1wt/vol%になるよう調整した。前記溶液を添加すると添加部所がゲル化するため、NMP溶媒をさらに添加し、80℃に加温し、濃度が均一になるまで約1時間撹拌した。
【0068】
以下、実施例1と同様の処理を行った。得られた電子部品用基材の銅膜厚およびピール強度を表5に示す。
【0069】
【表5】

【0070】
(実施例12)NMP(2g)に、東レ(株)のポリイミド樹脂前駆体ワニス”トレニース”#3000(1g)とパラジウムアセチルアセトン錯体を混合し、溶液の粘度変化を調べた。その結果、図3に示すように、混合直後と1時間経過後の溶液状態に大きな変化は見られなかったが、その後粘度は急激に増大しており、高分子錯体が形成されたことが判る。
【0071】
宇部興産(株)のポリイミド基材”ユーピレックス−S”の試片10×10cm(厚さ50μm)を1%NaOH水溶液および1%HCl水溶液で処理し、純水で洗浄し乾燥した後、”トレニース”ワニスとパラジウムアセチルアセトン錯体の混合溶液を塗布し、120℃で乾燥後、水膜で空気を遮断した状態で低圧水銀灯の紫外線(7500mJ/cm)を照射し、65℃に加温されたメルテック(株)の次亜りん酸ソーダを還元剤とした無電解ニッケルメッキ浴”エンプレートNi−426”(pH=6〜7)に浸漬させた結果を表6に示す。
【0072】
表中の濃度とはワニス溶液当たりのパラジウムアセチルアセトン錯体の濃度%であり、溶解量とはパラジウムアセチルアセトン錯体の溶解量である。また、溶解性とは前記溶液がゲル化した場合、ポリイミド基材に塗布できるように80℃に加温しNMPを追加して溶解させるために必要なNMP量である。
【0073】
【表6】

【0074】
(実施例13)NMP(2g)に前記ワニス溶液(1g)と酢酸パラジウムを混合し、実施例12と同様に溶液の粘度変化を調べた結果を表7に示す。なお、混合直後と1時間経過後の溶液状態に大きな変化は見られなかったが、その後粘度は急激に増大しており、高分子錯体が形成されたことが判る。
【0075】
表中の濃度とはワニス当たりの酢酸パラジウムの濃度%であり、溶解量とは酢酸パラジウムの溶解量である。また、溶解性とは前記溶液がゲル化したした場合、ポリイミド基材に塗布できるように80℃に加温しNMPを追加して溶解させるために必要なNMP量である。
【0076】
【表7】

【0077】
(実施例14)ワニス溶液(1g)と5%塩化パラジウム水溶液を混合し、実施例12と同様に溶液の粘度変化を調べた結果を表8に示す。なお、凝集とはワニス溶液5%塩化パラジウム水溶液を混合した後、急速にゲル化したことをいう。このような状態変化より、粘度は急激に増大しており、高分子錯体が形成されたことが判る。
【0078】
表中の濃度とはワニス溶液当たりの塩化パラジウムの濃度%であり、溶解量とは塩化パラジウムの溶解量である。また、溶解性とは前記溶液がゲル化したした場合、ポリイミド基材に塗布できるように80℃に加温しNMPを追加して溶解させるために必要なNMP量である。
【0079】
【表8】

【0080】
(比較例1)実施例1において、紫外線を照射せず、その他は同様の作業を行った。
【0081】
(比較例2)実施例2において、紫外線を照射せず、その他は同様の作業を行った。
【0082】
(比較例3)実施例7において、紫外線を照射せず、その他は同様の作業を行った。
【0083】
(比較例4)実施例11において、紫外線を照射せず、その他は同様の作業を行った。
【0084】
(比較例5)実施例1において、水膜で空気を遮断せずに空中で紫外線を照射し、その他は同様の作業を行った。
【0085】
(比較例6)実施例1において、加熱によるイミド化を行わず、その他は同様の作業を行った。
【0086】
(比較例7)実施例3において、加熱によるイミド化を行わず、その他は同様の作業を行った。
【0087】
比較例1から7の結果を表9に示す。比較例に示すように、紫外線を照射しなかったり、水素供与体が存在しない状態で紫外線を照射した場合は、パラジウムイオンがパラジウム金属に完全に還元されないため、無電解メッキ処理によりメッキ下地金属層が形成されなかった。また、加熱によるイミド化を行わない場合は、ポリイミド樹脂前駆体層にあるメッキ下地核が充分に捕捉されないため、電子部品用基材(電解銅メッキ厚さ24μm)の金属層とポリイミド樹脂層間の密着強度が低かった。
【0088】
【表9】

【0089】
(比較例8)実施例12において、パラジウムアセチルアセトン錯体に変えて、銅(II)アセチルアセトン錯体を用いて、溶液の濃度変化を調べた結果を表10に示す。この場合、溶液の状態は粘度変化もゲル化も観測されず、24時間経過後も粘度に変化は現れなかった。すなわち、銅(II)アセチルアセトン錯体を用いると錯体の形成が起こらないものと考えられる。
【0090】
表中の濃度とはワニス溶液当たりの銅(II)アセチルアセトン錯体の濃度%であり、溶解量とは銅(II)アセチルアセトン錯体の溶解量である。
【0091】
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の電子部品用基材の断面図である。
【図2】本発明の電子部品用基材の製造方法を工程順に断面的に示す図であり、(a)はポリイミド基材上にポリイミド樹脂前駆体層を形成した状態を示す断面図、(b)は水素供与体の存在下において紫外線を照射してメッキ下地核を形成した状態を示す断面図、(c)は無電解メッキ処理によりメッキ下地金属層を形成した状態を示す断面図、(d)は表面メッキ層を形成した状態を示す断面図、(e)はポリイミド樹脂前駆体層を加熱イミド化してポリイミド樹脂層にした状態を示す断面図である。
【図3】ポリイミド樹脂前駆体溶液にパラジウムアセチルアセトン錯体を添加した場合の粘度変化およびポリイミド樹脂前駆体溶液の粘度変化を示す図である。
【図4】紫外線照射前後におけるポリイミド樹脂前駆体薄膜のパラジウムの結合エネルギー変化を示すXPS分析結果を示す図である。
【図5】無電解ニッケルメッキ後のニッケルメッキ下地金属層およびポリイミド樹脂前駆体薄膜の深さ方向のオージェ分析チャート図である。
【符号の説明】
【0093】
1 電子部品用基材
2 ポリイミド基材
5 メッキ下地核
6 メッキ下地金属層
7 表面メッキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド基材に表面メッキ層を形成した電子部品用基材であって、このポリイミド基材上にパラジウム化合物を含有するポリイミド樹脂前駆体溶液を用いてポリイミド樹脂前駆体層が形成され、次いで紫外線が照射されてメッキ下地核が形成された後、無電解メッキ処理によりメッキ下地金属が形成され、さらに表面メッキ層が形成された後、又は形成される前に前記ポリイミド樹脂前駆体層が加熱イミド化されて形成されたポリイミド樹脂層を有することを特徴とする電子部品用基材。
【請求項2】
ポリイミド基材上にパラジウム化合物を含有するポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布・乾燥させてポリイミド樹脂前駆体層を形成し、次いで水素共与体の存在下において紫外線を照射してメッキ下地核を形成した後、無電解メッキ処理によってメッキ下地金属層を形成し、さらに表面メッキ層を形成した後、又は形成する前に前記ポリイミド樹脂前駆体層を加熱イミド化してポリイミド樹脂層にすることを特徴とする電子部品用基材の製造方法。
【請求項3】
水素供与体として、水、アルコール又はアルコール水溶液を使用することを特徴とする請求項2に記載の電子部品用基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−165931(P2007−165931A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41807(P2007−41807)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【分割の表示】特願2001−16339(P2001−16339)の分割
【原出願日】平成13年1月24日(2001.1.24)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【出願人】(594066132)レイテック株式会社 (8)
【Fターム(参考)】