説明

ポリイミド樹脂硬化膜及び光学補償部材

【課題】簡便に液晶表示装置用位相差薄膜を形成でき、液晶表示装置の視野角特性、コントラストの向上が図れるポリイミド樹脂硬化膜を提供する。
【解決手段】分子内にエチレン性二重結合を有する有機基、アセチレン性三重結合を有する有機基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、及びアミノ基の中から選ばれる官能基を持つ可溶性ポリイミド樹脂(A)、可溶性ポリイミド樹脂(A)と架橋構造を形成可能な官能基を有する架橋剤(B)、及び溶剤(C)を必須成分とする可溶性ポリイミド樹脂組成物を膜状に形成、乾燥、硬化させてなるポリイミド樹脂硬化膜であって、硬化膜の複屈折Δnが0.01〜0.3の範囲であるポリイミド樹脂硬化膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂硬化膜及び該硬化膜を含む光学補償部材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶表示装置は、軽量、薄型、低消費電力などの特性を生かし、ノートPC、携帯情報端末、デスクトップモニタ、デジタルカメラなど様々な用途で使用されている。液晶表示装置は、大画面化やモニター用途への展開に伴い視野角の拡大が求められている。
【0003】
液晶表示装置の視野角が自発光型の陰極線管(CRT)表示装置やプラズマ表示装置と比べて狭い理由は、液晶表示装置が一般に2枚の偏光フィルムで液晶層を挟む構造をしているため、光の進行方向の違いから生じる液晶層のリターデーションの違いが透過強度に影響を与えるためである。すなわち、斜め方向ではリターデーションが大きくなるため入射直線偏光が楕円偏光になり、暗状態での光漏れ量が増え、コントラストの低下に繋がるためである。
【0004】
したがって、斜め方向でのコントラスト低下を抑制するためには、液晶層のリターデーションを補償するための光学補償部材を使用することが有効である。現在、ツイスティド・ネマチック方式の液晶表示装置では、光学補償部材としてディスコティック液晶からなる視野角拡大フィルムを貼付することによって視野角拡大が図られている。
【0005】
一方、視野角拡大を目指した新規な液晶表示方式であるVA(Vertical Alignment)方式、IPS(In-plane Switching)方式などが開発されている。しかしながら、これら新規な液晶表示方式に対しても、さらなる視野角拡大を目的として2軸延伸した位相差フィルムが使用されている。しかし、これらのフィルムの作製は容易ではなく、また、配向または延伸工程が不可欠であるため、工程が煩瑣となっている。
【0006】
この課題に対して、例えば特許文献1や特許文献2などにおいて光学的に負の一軸異方性を有し、光軸が薄膜面に対して垂直または略垂直であるポリイミド位相差薄膜を設けることによって、液晶表示装置の視野角を拡大する方法が提案されている。しかしながら、特許文献1において示されるポリイミド位相差薄膜は下式のような芳香族イミド繰り返し単位に起因する光吸収性が強く、透明性が十分とは言えない。
【化1】

【0007】
特許文献2では、脂環ユニットを含むイミド繰り返し単位からなるポリイミド薄膜とすることで透明性の改善がなされている。しかし、この位相差薄膜はポリイミド前駆体であるポリアミック酸を塗工、硬化して得られるものであり、硬化温度及び硬化時間によって複屈折の値にブレが生じるため、極めて精密な硬化条件設定が求められる。
【0008】
ポリイミドが位相差薄膜の機能を示すのは、高分子の主鎖方向に芳香族環や芳香族複素環などをもつため、主鎖に垂直な方向に比べて主鎖方向の屈折率が大きくなり、分子として大きな複屈折を示すこと、また、その分子鎖が基板に平行に配向しやすいため膜厚方向と膜面に平行な方向の間に屈折率差(膜としての複屈折)が生じることによる。
【0009】
これに対して、例えば特許文献3や特許文献4において、ポリイミド樹脂溶液自身を塗工、硬化することでポリイミド位相差薄膜を形成する方法が例示されている。これら方法では、ポリアミック酸の場合における硬化条件における極めて厳密な制御は必要ない。しかし、この方法で得られるポリイミド薄膜は溶解させていた溶剤に侵されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−290023号公報
【特許文献2】特開2008−107766号公報
【特許文献3】WO2005−118686号公報
【特許文献4】特開2009−96967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、耐溶解性が良く、極めて厳密な硬化条件制御を必要とせずに作成できるポリイミド樹脂硬化膜、及び光学補償部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、分子内にエチレン性二重結合を有する有機基、アセチレン性三重結合を有する有機基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、及びアミノ基の中から選ばれる1つ以上の官能基を持つ可溶性ポリイミド樹脂(A)、可溶性ポリイミド樹脂(A)と架橋構造を形成可能な官能基を有する架橋剤(B)、及び溶剤(C)を必須成分とし、可溶性ポリイミド樹脂(A)と架橋剤(B)の重量割合(B/A)が0.01〜0.4の範囲である可溶性ポリイミド樹脂組成物を膜状に形成、乾燥、硬化させてなるポリイミド樹脂硬化膜であって、硬化膜の複屈折Δnが0.01〜0.3の範囲であることを特徴とするポリイミド樹脂硬化膜である。
【0013】
ここで、1)可溶性ポリイミド樹脂(A)が、分子内にトリフルオロメチル基を含むジアミンを含む単量体より合成されるポリイミド樹脂であること、及び2)可溶性ポリイミド樹脂(A)が、ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物を含み、末端封止剤としてモノアミン又はジカルボン酸無水物を含む単量体より合成されるポリイミド樹脂であることのいずれか1以上を満足することが好ましい。
【0014】
また、本発明は可溶性ポリイミド樹脂(A)、架橋剤(B)、及び溶剤(C)を必須成分とする可溶性ポリイミド樹脂組成物を基材に塗工し、乾燥し、250℃以下で硬化して厚さが1〜10μmの範囲であって、複屈折Δnが0.01〜0.3の範囲の硬化膜とすることを特徴とするポリイミド樹脂硬化膜の製造方法である。
【0015】
更に、本発明は上記ポリイミド樹脂硬化膜よりなることを特徴とする光学補償部材である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリイミド樹脂硬化膜は、液晶表示装置用位相差薄膜として優れる。このポリイミド樹脂硬化膜によって簡便に液晶表示装置用位相差薄膜を形成でき、液晶表示装置の視野角特性、コントラストの向上が図れる。また、本発明のポリイミド樹脂硬化膜の製造方法によれば、液晶表示装置用位相差薄膜として優れるポリイミド樹脂硬化膜を簡便に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のポリイミド樹脂硬化膜は、可溶性ポリイミド樹脂(A)、架橋剤(B)、溶剤(C)を必須成分とする可溶性ポリイミド樹脂組成物を硬化させてなり、硬化膜の複屈折Δnが0.01〜0.3の範囲である。
【0018】
可溶性ポリイミド樹脂(A)の調整方法は、特に制限はなく一般的な方法が用いられる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを共重合させることでポリアミック酸とし、更に熱若しくは化学イミド化によりポリイミド樹脂溶液を作る方法が例示できる。
【0019】
この可溶性ポリイミド樹脂(A)は分子内にエチレン性二重結合を有する有機基、アセチレン性三重結合を有する有機基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、及びアミノ基の中から選ばれる少なくとも1つの官能基を持つ。これらの官能基は、他の官能基と架橋構造を形成することができるため、硬化膜の溶剤に対する耐溶解性を向上することができる。
【0020】
ここで、耐溶解性とは、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に対する耐溶解性をいう。常温〜40℃の温度においてNMPに触れても硬化膜の表面に変性が生じない硬化膜であることが好ましい。硬化膜において耐溶解性が必要な理由としては、本硬化膜の直上又は直下に機能層を塗工若しくは接着する際、硬化膜が溶剤により侵され、所望の性能が発揮されなくなることを防ぐためである。また、可溶性ポリイミド樹脂(A)の可溶性とは、NMPに対する溶解性をいい、NMP100gに対し、常温で5g以上、好ましくは10g以上溶解することをいう。
【0021】
可溶性ポリイミド樹脂(A)に官能基を導入する方法に特に制限はない。例えば、ポリイミド樹脂の原料であるテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの少なくとも一部に上記官能基を有するものを用いてもよく、モノアミン又はジカルボン酸無水物を末端封止剤として使用する場合は、その少なくとも一部に上記官能基を有するものを用いてもよい。
【0022】
また、可溶性ポリイミド樹脂(A)は分子内にトリフルオロメチル基を含むジアミンとテトラカルボン酸二無水物を含む単量体から得られるものであることが好ましい。トリフルオロメチル基は、ジアミン中に有してもよく、テトラカルボン酸二無水物中に有してもよいが、前者が好ましい。一般に、トリフルオロメチル基の電子効果および立体効果はポリイミド樹脂を透明、可溶性にすることが知られており、トリフルオロメチル基を含むジアミン又は酸二無水物の種類又は使用割合を制御することにより、可溶性ポリイミド樹脂の特性を調整することが可能となる。
【0023】
更に、可溶性ポリイミド樹脂(A)は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を主とする単量体に加えて、末端封止剤としてモノアミン又はジカルボン酸無水物を含む単量体より合成されることが好ましい。末端封止剤を用いることで高分子鎖末端の反応性を低下させ、樹脂自身の経時劣化を抑制することができる。
【0024】
分子内にトリフルオロメチル基を含むジアミン又はテトラカルボン酸二無水物として、下記一般式(1)又は(2)に示すジアミン又はテトラカルボン酸二無水物が例示される。
【化2】

【0025】
上記一般式(1)及び(2)がジアミンを表わす場合において、Rはアミノ基であり、X及びYは直接結合、二価の有機基を示し、連結部位はオルト位、メタ位、パラ位などいずれでもよいが、メタ又はパラ位がよい。一方、テトラカルボン酸二無水物を表わす場合において、Rはジカルボン酸無水物基(>(CO)2O)ユニットを示す。X及びYは直接結合、三価の有機基を示し、連結部位は化学構造的に可能な部位であればいずれの場所でも良い。また、X及びYは同じであっても、異なってもよい。また、芳香環上に一価の有機基からなる置換基を一つ以上含んでよく、該置換基及びX、Yの一部にエチレン性二重結合、水酸基などの官能基を含んでいてもよい。
【0026】
一般式(1)に例示される化合物としては、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノ-3-ビニルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)-3-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)-3-ビニルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェニルチオ)フェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェニルチオ)-3-メチルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェニルチオ)-3-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェニルチオ)-3-ビニルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシカルボニル)-3-ビニルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン等のジアミンが挙げられる。また、2,2-ビス(3,4-ジカルボニルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボニル-5-メチルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボニルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボニル-5-ビニルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(4-(3,4-ジカルボニルフェノキシ)フェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(4-(3,4-ジカルボニルフェノキシ)-3-メチルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(4-(3,4-ジカルボニルフェニルチオ)フェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(4-(3,4-ジカルボニルフェノキシカルボニル)-3-ビニルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物などの酸二無水物が挙げられる。
【0027】
一般式(2)に例示される化合物としては、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ジアミノ-5,5'-ジメチルビフェニル、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ジアミノ-5,5'-ジヒドロキシビフェニル、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ジアミノ-5,5'-ジビニルビフェニル、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3'-ジメチルビフェニル、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3'-ジヒドロキシビフェニル、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3'-ジビニルビフェニル、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(4-アミノフェニルチオ)ビフェニル、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(4-アミノフェノキシカルボニル)ビフェニルのジアミンが挙げられる。また、2,2'-ジトリフルオロメチル-3,3',4,4'-テトラカルボニルビフェニル二無水物、2,2'-ジトリフルオロメチル-3,3',4,4'-テトラカルボニル-5,5'-ジメチルビフェニル二無水物、2,2'-ジトリフルオロメチル-3,3',4,4'-テトラカルボニル-5,5'-ジヒドロキシビフェニル二無水物、2,2'-ジトリフルオロメチル-3,3',4,4'-テトラカルボニル-5,5'-ジビニルビフェニル二無水物、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(3,4-ジカルボニルフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(3,4-ジカルボニルフェノキシ)-3,3'-ジメチルビフェニル二無水物、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(3,4-ジカルボニルフェノキシ)-3,3'-ジヒドロキシビフェニル二無水物、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(3,4-ジカルボニルフェノキシ)-3,3'-ジビニルビフェニル二無水物、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(3,4-ジカルボニルフェニルチオ)ビフェニル二無水物、2,2'-ジトリフルオロメチル-4,4'-ビス(3,4-ジカルボニルフェノキシカルボニル)ビフェニル二無水物などの酸二無水物が挙げられる。
【0028】
末端封止剤として使用されるモノアミン、ジカルボン酸無水物に特に制限はない。ジカルボン酸無水物としては、例えば無水コハク酸、無水フタル酸、4−メチル無水フタル酸、4−フェニル無水フタル酸などを挙げることができる。また、モノアミン化合物としては、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミンなどを挙げることができる。好ましくは、エチレン性二重結合やアセチレン性三重結合、水酸基、カルボキシル基などの官能基を有する有機基を持つ化合物を用いると良い。具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、フェニルエチニルフタル酸無水物、無水トリメリット酸、アミノスチレン、アミノフェノールなどが挙げられる。
【0029】
可溶性ポリイミド樹脂(A)は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物から生じるイミド結合を有する繰り返し単位(A1)中に、ジアミンから生じる単位(A2)とテトラカルボン酸二無水物から生じる単位(A3)を有する構造を持ち、有利には末端の一部又は全部にモノアミンから生じる単位(A4)又はジカルボン酸無水物から生じる単位(A5)を有する構造を持つものと言える。そして、トリフルオロメチル基は(A2)〜(A5)の1以上に含むことができ、トリフルオロメチル基を含む単位を(A6)とすると、(A2)〜(A5)の合計(全構造単位)を100モルとした場合、(A6)は5〜60モル、好ましくは10〜50モルであることがよい。また、末端にある単位(A4)及び(A5)の合計は、全構造単位を100モルとした場合、1〜30モル、好ましくは5〜20モルであることがよい。そして、エチレン性二重結合を有する有機基、アセチレン性三重結合を有する有機基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、及びアミノ基の中から選ばれる少なくとも1つの官能基は(A2)〜(A5)の1以上に含むことができ、この官能基を含む単位を(A7)とすると、全構造単位を100モルとした場合、0.1〜80モル、好ましくは5〜60モルであることがよい。
【0030】
架橋剤(B)としては、熱、光など外的要因を引き金として三次元架橋構造をとりうるものであればよく、少なくとも一部は可溶性ポリイミド樹脂(A)の官能基と反応して、架橋構造を構築するものである。例えば、可溶性ポリイミド樹脂(A)がエチレン性二重結合及びアセチレン性三重結合を官能基として含む場合、架橋剤(B)としてはビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の不飽和二重結合又はプロパルギル等の不飽和三重結合を持つ化合物が例示される。これらの中でも共役型のビニル基やアクリロイル基、メタクリロイル基を有する化合物が重合性の面で好ましい。
【0031】
可溶性ポリイミド樹脂(A)が、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、又はアミノ基を官能基として含む場合、架橋剤(B)としてはこれらと反応性の官能基を2以上有する化合物が使用できる。水酸基と反応性の官能基としては、カルボキシル基、エポキシ基等が挙げられ、カルボキシル基と反応性の官能基としては、水酸基、エポキシ基、アミノ基等が挙げられ、アミノ基と反応性の官能基としては、カルボキシル基、エポキシ基等が挙げられる。
【0032】
架橋剤(B)に具体的に該当する化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジグリシジルエステルジ(メタ)アクリレート、グリセリントリアクリレート、グリセリンポリグリシジルエーテルポリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート(すなわち、トリレンジイソシアネート)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとヘキサメチレンジイソシアネート等と2−ビドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応物、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドメチレンエーテル、多価アルコールとN−メチロール(メタ)アクリルアミドとの縮合物等の多官能モノマーや、トリアクリルホルマール、1,2−ジヒドロナフタレン、1,3−ジイソプロペニルベンゼン等が例示される。ここで、(メタ)アクリレートとは、メタクリレート又はアクリレートのことである。
【0033】
水酸基を含む可溶性ポリイミド樹脂(A)の場合、メラミン系化合物、グアナミン系化合物、尿素系化合物等のアミノ基の一部もしくはすべてをヒドロキシメチル化した化合物、または該ヒドロキシメチル化した化合物の水酸基の一部もしくはすべてをメタノール、エタノール、n−ブチルアルコール、2−メチル−1−プロパノール等でエーテル化した化合物を例示できる。具体的には、ヘキサメトキシメチルメチロールメラミンであり、日本サイテックインダストリーズ製のアルキル型、メチロール型、イミノ型の各種アミノ樹脂などが挙げられる。
【0034】
可溶性ポリイミド樹脂(A)がカルボキシル基、エポキシ基、アミノ基を含む場合、架橋剤(B)としてビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどのフェノール類のグリシジルエーテル;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール類のグリシジルエーテル;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸などのカルボン酸のグリシジルエステル等のエポキシモノマーやこれらのオリゴマーもしくは脂環型エポキシド化合物が例示される。具体的には、油化シェル社製造のエピコート828(分子量380)、エピコート834(分子量470)、エピコート1001(分子量900)、エピコート1002(分子量1,060)、エピコート1055(分子量1,350)、エピコート1007(分子量2,900)などが例示される。
【0035】
以上のように、可溶性ポリイミド樹脂(A)に含有する官能基に応じて適宜最適な架橋剤(B)が用いられる。但し、上記化合物は本発明にかかる架橋剤(B)の一例であり、架橋剤(B)は上記化合物群にのみ制限されるものではない。また、架橋剤(B)は一種類のみを用いても二種類以上を併用しても良い。
【0036】
可溶性ポリイミド樹脂組成物中における可溶性ポリイミド樹脂(A)と架橋剤(B)の重量割合(B/A)は0.01〜0.4の範囲であるが、0.05〜0.35であることが好ましい。この割合が0.01より小さい場合、架橋構造が十分に発達せず、耐溶解性に劣る硬化膜となってしまう。また、0.4よりも大きい場合、組成物中の可溶性ポリイミド樹脂(A)の割合が少なくなり、硬化膜の複屈折が小さくなってしまう。
【0037】
別の観点からは、架橋剤(B)の使用量は、架橋剤(B)の有する官能基と可溶性ポリイミド樹脂(A)が有する官能基が反応する理論量の0.5倍以上であることが好ましく、より好ましくは1〜10倍の範囲である。エチレン性二重結合等の官能基である場合はそれ自体が自己重合するため、一方が過剰であっても差し支えないが、通常は架橋剤(B)と可溶性ポリイミド樹脂(A)の有する官能基が反応して、可溶性ポリイミド樹脂(A)が架橋し、硬化して、不溶性となるように架橋剤(B)の種類及び量が選択される。架橋剤(B)が2官能以上、特に3官能以上であれば架橋度が向上し、使用量が少量であっても高い不溶性又は耐溶解性を示す。
【0038】
溶剤(C)としては、有機溶媒であってポリイミド樹脂を溶解させる溶媒であれば特に限定されない。例えば、NMP、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、セロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の酢酸エステル類系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、ジオキソラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒を用いることができる。この溶剤(C)は一種類のみを用いても二種類以上を併用しても良い。また、ポリイミド樹脂を溶解する範囲であれば、ポリイミド樹脂を溶解させにくい貧溶媒であっても良溶解性溶媒と混合することで適時使用することができる。
【0039】
可溶性ポリイミド樹脂組成物における溶剤(C)の含有割合は、塗工に用いる塗工機によって最適とされる粘度範囲により変化するが、60〜90重量%の範囲が望ましい。なお、可溶性ポリイミド樹脂組成物は溶液であり、可溶性ポリイミド樹脂(A)と架橋剤(B)は全部が溶解していることが望ましいが、充填剤等をの不溶性材料を配合する場合は、固形分を有してもよい。
【0040】
必要により、本発明の可溶性ポリイミド樹脂組成物には、その他の添加剤(D)を配合することができる。その他の添加剤(D)としては熱重合開始剤、光重合開始剤、硬化促進剤、熱重合禁止剤、可塑剤、充填材、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤等が挙げられる。これらは用いなくてもよく、一種類もしくは複数を併用しても良い。添加量としては各添加剤によって異なるが、ポリイミド樹脂組成物及びポリイミド樹脂硬化膜の物性を損なわない範囲で添加することがよい。
【0041】
本発明の可溶性ポリイミド樹脂組成物から、ポリイミド樹脂硬化膜を得る方法は公知の方法が採用できる。好ましくは、基板にポリイミド樹脂組成物を塗工し、乾燥し、硬化させる方法である。
【0042】
塗工方法としては、ディップ法、ロールコータ法、スピナー法、ダイコーティング法、ワイヤーバーによる方法などが例示できる。塗工する際の厚みに関して、硬化後の膜厚が1〜10μmとなるように塗工することが望ましい。膜厚が1μmを下回る場合、光学補償材料として必要なリターデーションを確保できない。また、塗工する基板はガラス、透明フィルム(例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルフォン等)及び/またはそれらの上にITO、金等の透明電極が蒸着あるいはパターニングされたもの、カラーフィルター基板、TFT基板などが挙げられる。
【0043】
乾燥、硬化方法としては、熱による溶剤分の乾燥(プレベーク処理)と本硬化(ポストベーク処理)を二段階に分けて行うことが例示される。また、可溶性ポリイミド樹脂(A)又は架橋剤(B)がエチレン性二重結合のような光硬化性基を持つ場合は、露光機による光硬化を組み合わせても良い。熱による乾燥方法は、ホットプレートや熱風式乾燥機など公知の方法が使用でき、乾燥条件は溶剤(C)の種類や組成物中における溶剤(C)の含有量にも依存するが、プレベーク処理では60〜120℃で1〜10分、ポストベーク処理では180〜250℃で10〜60分が望ましい。光硬化の方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、UV-LEDランプ、遠紫外線灯等を光源とした露光機が使用でき、その露光照射条件はランプの性能によって適宜選択される。可溶性ポリイミド樹脂(A)の官能基と架橋剤(B)の官能基の反応は、乾燥工程で一部が生じても差し支えないが、本硬化工程で架橋反応が完了し、硬化して不溶性となることが好ましい。
【0044】
本発明のポリイミド樹脂硬化膜の複屈折Δnは0.01〜0.3の範囲である。本硬化膜において、ポリイミドの分子鎖は基板面に平行に配向しやすいため膜厚方向と膜面に平行な方向とで屈折率差(膜としての複屈折)が生じる。一方、膜面内での分子の配向はランダムであるので、膜面に平行な方向での屈折率の異方性はない。すなわち、本発明の硬化膜は、膜面内方向にx軸、y軸を取り、膜面に垂直方向にz軸を取ると、屈折率はnx ≧ ny > nzとなり、光学的に負の一軸異方性を有し、かつ、光軸が膜面に対して略垂直な位相差薄膜(負のCプレート)である。そして、nxとnyはほぼ等しいので、下記式(i)からΔnが計算できる。nxとnyに差がある場合は、nxとnyの平均を下記式(i)のnxとする。
Δn=nx−nz (i)
【0045】
本発明の光学補償部材は、ポリイミド樹脂組成物を基板上に直接塗工・硬化することによって基板上にポリイミド樹脂硬化膜を作成することにより得られた膜であってもよいが、本発明のポリイミド樹脂硬化膜を貼り合わせなどによって組み込まれた膜であることがよい。本光学補償部材を含む液晶表示装置では、光が液晶層を透過する過程で発生する複屈折を本光学補償部材が補正する機能を有する。
【0046】
本発明の光学補償部材は液晶表示装置一般に有効であるが、光軸が硬化膜面に略垂直であるので、液晶表示装置の中でも、特に電圧無印加時に液晶分子が液晶セル面に対して略垂直な方向に配向(ホメオトロピック配向)し、電圧印加時に液晶分子が液晶セル面に略平行な方向に配向する表示方式、具体的にはMVA(Multi-domain Vertical Alignment)方式、PVA(Patterned Vertical Alignment)方式、CPA(Continuous PinwheelAlignment)方式などの垂直配向方式の液晶表示装置においてより好ましく用いられる。
【0047】
上述のように本発明のポリイミド樹脂硬化膜の光軸は液晶を挟む2枚の基板の基板面に対して略垂直方向にあるので、画面を垂直に見た場合には光学補償効果がないが、垂直配向方式の場合には電圧無印加時において垂直方向では液晶層の位相差もほぼゼロであるため位相差の補償は必要ない。すなわち、電圧無印加時、位相差を補償しなくても良好な黒表示が得られる。しかし、斜め方向では電圧無印加時においても液晶層に位相差があるため、この位相差を補償しないと光漏れが起こり、良好な黒表示が得られず、コントラスト低下の原因となる。したがって、本発明の位相差薄膜は垂直配向方式において斜め方向でのコントラスト向上、ひいては視野角拡大に顕著な効果を示す。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
合成例1
乾燥窒素気流下、加熱乾燥させたディーンスタークトラップを備えたガラス製反応容器に4,4'-ジアミノ-2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル5.05g、3-アミノフェノール0.38g、脱水精製したNMP 53.57gを投入した。その後、4,4'-ビフタル酸無水物2.72g、4,4'-オキシジフタル酸無水物2.58gと共沸溶媒として脱水精製したキシレン35.71gを加え、150〜155℃で2時間撹拌した。脱水縮合により発生する水はディーンスタークトラップにより反応系中から除外した。更に170〜175℃で1時間撹拌する間に共沸溶媒であるキシレンを除去した。このようにして、可溶性ポリイミド樹脂A-1を含むNMP溶液(固形分16.7%)を得た。
【0050】
合成例2
乾燥窒素気流下、加熱乾燥させたディーンスタークトラップを備えたガラス製反応容器に4,4'-ジアミノ-2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル5.61g、脱水精製したNMP 53.71gを投入した。その後、4,4'-ビフタル酸無水物2.45g、4,4'-オキシジフタル酸無水物2.32g、無水マレイン酸0.34gと共沸溶媒として脱水精製したキシレン35.71gを加え、150〜155℃で2時間撹拌した。脱水縮合により発生する水はディーンスタークトラップにより反応系中から除外した。更に170〜175℃で1時間撹拌する間に共沸溶媒であるキシレンを除去した。このようにして、可溶性ポリイミド樹脂A-2を含むNMP溶液(固形分16.7%)を得た。
【0051】
合成例3
乾燥窒素気流下、加熱乾燥させたディーンスタークトラップを備えたガラス製反応容器に4,4'-ジアミノ-2,2'-ジメチルビフェニル3.12g、3-アミノフェノール0.36g、脱水精製したNMP 53.71gを投入した。その後、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物7.25gと共沸溶媒として脱水精製したキシレン35.71gを加え、150〜155℃で2時間撹拌した。脱水縮合により発生する水はディーンスタークトラップにより反応系中から除外した。更に170〜175℃で1時間撹拌する間に共沸溶媒であるキシレンを除去した。このようにして、可溶性ポリイミド樹脂A-3を含むNMP溶液(固形分16.7%)を得た。
【0052】
合成例4
乾燥窒素気流下、加熱乾燥させたディーンスタークトラップを備えたガラス製反応容器に4,4'-ジアミノ-2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル4.55g、4,4'-ジアミノ-2,2'-ジビニルビフェニル0.42g、3-アミノフェノール0.39g、脱水精製したNMP 53.71gを投入した。その後、4,4'-ビフタル酸無水物2.75g、4,4'-オキシジフタル酸無水物2.61gと共沸溶媒として脱水精製したキシレン35.71gを加え、150〜155℃で2時間撹拌した。脱水縮合により発生する水はディーンスタークトラップにより反応系中から除外した。更に170〜175℃で1時間撹拌する間に共沸溶媒であるキシレンを除去した。このようにして、可溶性ポリイミド樹脂A-4を含むNMP溶液(固形分16.7%)を得た。
【0053】
合成例5
乾燥窒素気流下、加熱乾燥させたディーンスタークトラップを備えたガラス製反応容器に2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.47g、3-アミノフェノール0.36g、脱水精製したNMP 53.71gを投入した。その後、4,4'-ビフタル酸無水物4.88gと共沸溶媒として脱水精製したキシレン35.71gを加え、150〜155℃で2時間撹拌した。脱水縮合により発生する水はディーンスタークトラップにより反応系中から除外した。更に170〜175℃で1時間撹拌する間に共沸溶媒であるキシレンを除去した。このようにして、可溶性ポリイミド樹脂A-5を含むNMP溶液(固形分16.7%)を得た。
【0054】
合成例6
乾燥窒素気流下、加熱乾燥させたディーンスタークトラップを備えたガラス製反応容器に4,4'-ジアミノ-2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル5.59g、脱水精製したNMP 53.71gを投入した。その後、4,4'-ビフタル酸無水物5.13gと共沸溶媒として脱水精製したキシレン35.71gを加え、150〜155℃で2時間撹拌した。脱水縮合により発生する水はディーンスタークトラップにより反応系中から除外した。更に170〜175℃で1時間撹拌する間に共沸溶媒であるキシレンを除去した。重合中、反応溶液に濁りが生じた。すなわち、本例において合成されたポリイミド樹脂a-1はNMPに溶解しない。
【0055】
合成例7
乾燥窒素気流下、加熱乾燥させたディーンスタークトラップを備えたガラス製反応容器に4,4'-ジアミノ-2,2'-ジメチルビフェニル4.04g、3-アミノフェノール0.46g、脱水精製したNMP 53.71gを投入した。その後、4,4'-ビフタル酸無水物6.22gと共沸溶媒として脱水精製したキシレン35.71gを加え、150〜155℃で2時間撹拌した。脱水縮合により発生する水はディーンスタークトラップにより反応系中から除外した。更に170〜175℃で1時間撹拌する間に共沸溶媒であるキシレンを除去した。重合中、反応溶液に濁りが生じた。すなわち、本例において合成されたポリイミド樹脂a-2はNMPに溶解しない。
【0056】
実施例1〜9及び比較例1〜2
合成例1〜5で得られた可溶性ポリイミド樹脂(A)と架橋剤(B)及び溶剤(C)、必要に応じて添加剤(D)を配合して可溶性ポリイミド樹脂組成物を得た。各原料の配合量(g)は以下の表の通りである。可溶性ポリイミド樹脂(A)の量は、可溶性ポリイミド樹脂A-1〜A-5を含むNMP溶液中の固形分の量であり、溶剤(C)であるNMPの量はそのNMP溶液中のNMPに対応する量である。
【0057】
【表1】

【0058】
表中の略号
B-1:ヘキサメトキシメラミン(日本サイテックインダストリーズ社製 商品名 サイメル303)
B-2:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの混合物(日本化薬社製 商品名 DPHA)
D-1:シランカップリング剤(チッソ社製 商品名 S-510)
【0059】
得られた各可溶性ポリイミド樹脂組成物をガラス基板上にスピンコーターを用いて塗工した。これにホットプレートを用いてプレベーク処理を90℃、5分間おこなった。更に、熱風オーブンを用いてポストベーク処理を230℃、30分おこなうことで、膜厚2〜3μmのポリイミド樹脂硬化膜を得た。実施例8のみポストベーク後、さらに250℃、30分の熱処理を追加した。該硬化膜のΔnの測定は以下に示す方法でおこなった。
【0060】
メトリコン社製“プリズムカプラー2010”を用いて測定した。硬化膜の面に平行な方向の屈折率nxと膜厚方向の屈折率nzを測定し、式(i)に実測の屈折率の値を代入してりΔnを算出した。光源波長は849nmを使用した。
【0061】
実施例1〜8に該当する硬化膜は溶剤(C)に再溶解することなく、Δn > 0.01を満足した。しかし、架橋剤(B)を含まない比較例1に該当する硬化膜はNMPに溶解してしまった。また、B/Aが0.4を超える架橋剤(B)を含有する比較例2に該当する硬化膜は、Δn > 0.01を満足することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にエチレン性二重結合を有する有機基、アセチレン性三重結合を有する有機基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、及びアミノ基の中から選ばれる1つ以上の官能基を持つ可溶性ポリイミド樹脂(A)、可溶性ポリイミド樹脂(A)と架橋構造を形成可能な官能基を有する架橋剤(B)、及び溶剤(C)を必須成分とし、可溶性ポリイミド樹脂(A)と架橋剤(B)の重量割合(B/A)が0.01〜0.4の範囲である可溶性ポリイミド樹脂組成物を膜状に形成、乾燥、硬化させてなるポリイミド樹脂硬化膜であって、硬化膜の複屈折Δnが0.01〜0.3の範囲であることを特徴とするポリイミド樹脂硬化膜。
【請求項2】
可溶性ポリイミド樹脂(A)が、分子内にトリフルオロメチル基を含むジアミンを含む単量体より合成されるポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド樹脂硬化膜。
【請求項3】
可溶性ポリイミド樹脂(A)が、ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物を含み、末端封止剤としてモノアミン又はジカルボン酸無水物を含む単量体より合成されるポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂硬化膜。
【請求項4】
分子内にエチレン性二重結合を有する有機基、アセチレン性三重結合を有する有機基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、及びアミノ基の中から選ばれる1つ以上の官能基を持つ可溶性ポリイミド樹脂(A)、可溶性ポリイミド樹脂(A)と架橋構造を形成可能な官能基を有する架橋剤(B)、及び溶剤(C)を必須成分とする可溶性ポリイミド樹脂組成物を基材に塗工し、乾燥し、250℃以下で硬化して厚さが1〜10μmの範囲であって、複屈折Δnが0.01〜0.3の範囲の硬化膜とすることを特徴とするポリイミド樹脂硬化膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミド樹脂硬化膜よりなることを特徴とする光学補償部材。

【公開番号】特開2011−184508(P2011−184508A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48999(P2010−48999)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】