説明

ポリエステルフィルム

【課題】本発明は、透明性、耐溶剤性(印刷性)、耐熱性、成形性のいずれにも満足し、さらにコストパフォーマンスに優れるポリエステルフィルムを提供せんとするものである。
【解決手段】レーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1未満であるポリエステル(A)層を少なくとも有し、該ポリエステル(A)層が、伸長剤を含有し、120℃の雰囲気下、400%伸長時の応力が、2〜20MPaの範囲であり、ヘイズが10%以下であることを特徴とする、ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐溶剤性、耐熱性、成形性に優れるポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷および成形加工して用いられる転写箔用フィルムとしては、従来、二軸延伸ポリエステルフィルム(例えば、特許文献1、特許文献2参照)が用いられているが、この二軸延伸ポリエステルフィルムを用いた転写箔は、絞り比の大きい部材や形状の複雑な部材への転写に対しては、成形性の点で不十分であった。
【0003】
また、成形性の改善を目的としたポリエステルフィルムとしては、二軸延伸ポリエステルフィルムに比べて成形応力の低い共重合ポリエステルフィルムを用いた転写箔(例えば、特許文献3参照)、およびポリエステルを構成するグリコール成分としてブタンジオールなどの特定のグリコール成分を含有する成形、加工、印刷製品など向けのポリエステルフィルム(例えば、特許文献4参照)が提案されているが、これらのポリエステルフィルムを用いた転写箔は、成形性が良いものの、印刷性に関しては特に考慮されておらず、印刷インキに含まれる有機溶剤、例えば、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、アセトンなどによって、白化し易く、透明性、フィルム表面の平滑性が悪化し、印刷欠点が発生しやすいなどの問題があった。
【0004】
これより、印刷インキに含まれる各種溶剤に対する耐溶剤性、すなわち印刷性に優れるフィルムが望まれていた。
【0005】
また、ポリエステル無延伸フィルムは、二軸延伸フィルムに比べ、成形性が良いものの、例えば、転写箔などの成形用途に用いる場合、フィルムに離型層、トップ層、印刷層が順次コートされる。それらの層を形成するために酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、アセトンなど溶剤またはそれらの混合溶剤に溶解し、溶液として塗工され、溶剤を乾燥し、順次各層が形成される。溶剤を乾燥する温度は、各溶剤の沸点近くまたは沸点以上{酢酸エチル(沸点:77℃)、メチルエチルケトン(沸点:80℃)、トルエン(沸点:110℃)、アセトン(沸点:56℃)}に加熱され、乾燥される。しかしながら、ポリエステル無延伸フィルムは、二軸延伸フィルムと比べ、乾燥温度で張力をかけるとフィルムにシワ、伸び、収縮などの変形などが生じ易い、それを成形物に転写した場合、印刷物が変形して、成形不良の原因となり、80〜120℃の耐熱性が不十分であるという問題があった。
【0006】
また、融点が180℃以上、結晶化パラメーターΔTcg(結晶化温度−ガラス転移温度)が50℃以下の熱可塑性ポリエステルを他の熱可塑性ポリエステルの両面に積層した成形用ポリエステルシートが提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、積層表面の結晶性を考慮しておらず、耐溶剤性、耐熱性、成形性の全てを満足するものではなかった。そこで、耐溶剤性、耐熱性、成形性の全てを満足するフィルムが望まれている。
【特許文献1】特開平6−210799号公報
【特許文献2】特開2000−344909号公報
【特許文献3】特許第3090911号公報
【特許文献4】特開2002−97261号公報
【特許文献5】特開平4−070333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐溶剤性、耐熱性、成形性の全てを満足するフィルムを提供することにある。これにより本発明のフィルムは、印刷および成形加工に関する用途に好適に用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、次のような手段を採用するものである。すなわち、以下である。
[1] レーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1未満であるポリエステル(A)層を少なくとも有し、
該ポリエステル(A)層が、伸長剤を含有し、
120℃の雰囲気下、400%伸長時の応力が、2〜20MPaの範囲であり、
ヘイズが10%以下であることを特徴とする、ポリエステルフィルム。
[2] レーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1未満であるポリエステル(A)層と、レーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1以上であるポリエステル(B)層を少なくとも有し、
該ポリエステル(A)層および/またはポリエステル(B)層が、伸長剤を含有し、
120℃の雰囲気下、400%伸長時の応力が、2〜20MPaの範囲であり、
ヘイズが10%以下であることを特徴とする、ポリエステルフィルム。
[3] 前記伸長剤が、脂肪族カルボン酸アミド、およびN−置換尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
さらに前記伸長剤を含有する層が、脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、およびポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載のポリエステルフィルム。
[4] 前記ポリエステル(A)層の主成分であるポリエステル(A)が、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびこれらの共重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種からなるポリエステルであることを特徴とする、前記[1]〜[3]の何れかに記載のポリエステルフィルム。
[5] 前記ポリエステル(B)層の主成分であるポリエステル(B)が、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートの共重合体からなるポリエステルであることを特徴とする、前記[2]〜[4]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[6] ポリエステル(B)層の両面に、ポリエステル(A)層を有することを特徴とする、前記[2]〜[5]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、透明性、耐熱性、耐溶剤性、成形性に優れた、ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0010】
より具体的には、本発明のポリエステルフィルムは、印刷インクに含有する溶剤、特に酢酸エチル、メチルエチルケトンなどに対しての耐溶剤性に優れるため、各種印刷インクを用いることができ、印刷性に優れる。
【0011】
また、ポリエステル(A)層表面のレーザーラマン法における1730cm−1付近のスペクトルバンド半値全幅を23cm−1未満として、さらに伸長剤を添加することで、各種溶剤を乾燥するコーター適性(耐熱性)、耐溶剤性と成形性を両立することが可能となり、特に成形性に優れたフィルムとなる。
【0012】
本発明のポリエステルフィルムは、深い絞りを必要とする成形、複雑な形状に対する成形などの成形性に優れるため、印刷および成形して用いるインモールド転写箔、さらに自動車内外装部品、浴室パネル、家電製品用部品、包装容器などの印刷の転写加工を行うための転写箔として好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のポリエステルフィルムは、レーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1未満であるポリエステル(A)層を少なくとも有し、該ポリエステル(A)層が、伸長剤を含有し、120℃の雰囲気下、400%伸長時の応力が、2〜20MPaの範囲であり、ヘイズが10%以下であるポリエステルフィルムである。
【0014】
また本発明のポリエステルフィルムの別の態様は、レーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1未満であるポリエステル(A)層と、レーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1以上であるポリエステル(B)層を少なくとも有し、該ポリエステル(A)層および/またはポリエステル(B)層が、伸長剤を含有し、120℃の雰囲気下、400%伸長時の応力が、2〜20MPaの範囲であり、ヘイズが10%以下であるポリエステルフィルムである。以下このような本発明のポリエステルフィルムについて詳細に説明する。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムは、印刷インキに含まれる溶剤に対する耐溶剤性、すなわち印刷性の点から、ポリエステル(A)層を少なくとも有することが必要である。
【0016】
また、本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル(A)層とポリエステル(B)層とを少なくとも有する積層構成とすることも好ましい。特に好ましくは、例えば温度や湿度などによる各層の伸縮応力の違いに起因するフィルムのカール現象の抑制やフィルムの取り扱い性の点より、ポリエステル(B)層の両面にポリエステル(A)層を有する態様(ポリエステル(A)層/ポリエステル(B)層/ポリエステル(A)層)のフィルム構成で積層することが好ましいが、本発明はこのフィルム構成に限定されるものではない。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムのポリエステル(A)層の主成分であるポリエステル(A)は、ジカルボン酸成分とグリコール成分とで基本的に構成されるポリマーであることが好ましい。
【0018】
なお、以後の説明において「主成分」とは、ある層における全成分合計100質量%において最も多い成分であることを意味する。
【0019】
ジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、マロン酸、1,1−ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバチン酸、デカメチレンジカルボン酸などを用いることができる。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムのポリエステル(A)層の主成分であるポリエステル(A)は、耐溶剤性の点から、結晶化速度の速いポリエステルまたはガラス転移温度の高いポリエステルであることが好ましい。結晶化速度の速いポリエステルとして、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレートが挙げられる。これらの中でもポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートが好ましく、ポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。またガラス転移温度の高いポリエステルとしては、ポリエチレンナフタレートが挙げられ、特に好ましく用いられる。
【0021】
よって、本発明のポリエステルフィルムのポリエステル(A)層の主成分であるポリエステル(A)としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびそれらの共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種からなるポリエステルであることが好ましい。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムのポリエステル(A)を主成分とするポリエステル(A)層とは、ポリエステル(A)層表面のレーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1未満であることが重要である。ポリエステル(A)層表面のレーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅を、23cm−1未満に制御しやすい点から、上記ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびこれらの共重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種のポリエステル(A)を、ポリエステル(A)層の全成分合計100質量%において80質量%以上100質量%以下含有するポリエステル(A)層とすることが好ましいものである。より好ましくはポリエステル(A)層の全成分合計100質量%において前記ポリエステル(A)を90質量%以上100質量%以下含有する態様であり、さらに好ましくはポリエステル(A)層の全成分合計100質量%において前記ポリエステル(A)を95質量%以上99.9質量%以下含有する態様である。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル(A)層表面のレーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が、23cm−1未満であることが重要である。レ−ザーラマン法の1730cm−1のスペクトルバンドは、ポリエステルのC=O結合のバンドによるものと言われている。このC=O結合のスペクトルバンド半値全幅が小さい程、結晶性が高く、耐溶剤性、耐熱性に優れていることが判明した。ポリエステルフィルムの、ポリエステル(A)層表面のレーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1以上の場合、耐溶剤性、耐熱性が劣り易くなる。ポリエステル(A)層表面のレーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅は、より好ましくは22cm−1未満、さらに好ましくは21cm−1未満である。ポリエステル(A)層表面のレーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅の下限値は、実質的に15cm−1未満は認められないため、かかるバンド半値全幅の下限値は15cm−1である。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムはポリエステル(B)層をさらに有することも好ましく、このポリエステル(B)層の主成分であるポリエステル(B)は、ポリエステル(A)層に用いられるポリエステル(A)と同様のジカルボン酸成分とグリコール成分を使用することが可能である。
【0025】
ポリエステル(B)は、耐熱性や生産性の点から、ジカルボン酸成分の中でナフタレンジカルボン酸成分および/またはテレフタル酸成分を90モル%以上100モル%以下含有するポリエステルであることがさらに好ましい。上記ナフタレンジカルボン酸成分およびテレフタル酸成分以外のジカルボン酸成分を使用すると、また上記ジカルボン酸成分中のナフタレンジカルボン酸成分および/またはテレフタル酸成分を90モル%未満とすると、耐熱性および生産性が低下し易くなるので好ましくない。
【0026】
また、グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオールなどの脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、ビスフェノール−A、ビスフェノール−Sなどの芳香族グリコールなどのグリコール成分やポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール−プロピレングリコール共重合体などを用いることができる。
【0027】
成形性と生産性の点から、グリコール成分の中でエチレングリコール成分が100モル%、もしくは、グリコール成分の中でエチレングリコール成分60〜98モル%の範囲、かつ1,3−プロパンジオールおよび/または1,4−ブタンジオール成分が2〜40モル%の範囲、を含有することが好ましい。上記エチレングリコール成分、1,3−プロパンジオール成分、および1,4−ブタンジオール成分以外のグリコール成分を使用すると、また上記エチレングリコール成分が100モル%、もしくは、エチレングリコール成分60〜98モル%、かつ1,3−プロパンジオールおよび/または1,4−ブタンジオール成分が2〜40モル%、以外の組成比であると、成形性および生産性が低下し易くなるので好ましくない。
【0028】
ポリエステル(B)として使用される具体的なポリマーとしては、ガラス転移温度の点からポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレートの共重合体などが好ましい。
【0029】
また、本発明のポリエステルフィルムのポリエステル(B)層の主成分であるポリエステル(B)は、フィルムのガラス転移温度が低下し難い点から、上記ポリエチレンテレフタレート、又はポリエチレンテレフタレートの共重合体からなるポリエステル(B)であることが好ましい。そしてポリエチレンテレフタレート、又はポリエチレンテレフタレートの共重合体からなるポリエステル(B)を、ポリエステル(B)層の全成分合計100質量%に対して80質量%以上100質量%以下含有するポリエステル(B)層とすることが好ましいものである。より好ましくはポリエステル(B)層の全成分合計100質量%に対して90質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは95質量%以上99.9質量%以下である。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムのポリエステル(B)層表面のレーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅は、23cm−1以上であることが重要である。半値幅が23cm−1未満であると、ポリエステル(A)層にさらにポリエステル(B)層を有するポリエステルフィルムの耐熱性は優れるものの、成形性が劣り易い場合があり好ましくない。ポリエステル(B)層表面のレーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅は、より好ましくは、24cm−1以上、さらに好ましくは25cm−1以上である。スペクトルバンド半値全幅の上限値は、実質的に26cm−1以上は認められないため、ポリエステル(B)層のかかるバンド半値全幅の上限値は26cm−1である。
【0031】
本発明のポリエステルフィルムは、耐溶剤性、耐熱性および成形性を両立させる点から、ポリエステル(A)を主成分とするポリエステル(A)層の厚み(ポリエステル(A)層の1層あたりの厚み)が1μm以上、かつ、ポリエステル(A)を主成分とするポリエステル(A)層の厚みの合計がフィルム全体の厚みの5〜50%の範囲で積層することが好ましい。
【0032】
ポリエステル(A)層の厚み(ポリエステル(A)層の1層あたりの厚み)が1μm未満であると耐溶剤性、耐熱性が劣り易くなるので好ましくない。より好ましくは、ポリエステル(A)層の厚み(ポリエステル(A)層の1層あたりの厚み)が3μm以上、特に好ましくは4μm以上である。ポリエステル(A)層の厚み(ポリエステル(A)層の1層あたりの厚み)の上限値は、フィルム全体の厚みによって異なり、後述の耐熱性と成形性を両立する点から、ポリエステル(A)層の厚みの合計がフィルム全体の厚みの50%の厚みである。例えば、フィルム全体の厚みが20μmの場合、フィルム構成がA/B/A構成であれば、ポリエステル(A)層の厚み(ポリエステル(A)層の1層あたりの厚み)の上限値は5μm、フィルム構成がA/B構成であれば、ポリエステル(A)層の厚み(ポリエステル(A)層の1層あたりの厚み)の上限値は10μmである。また、フィルム全体の厚みが500μmの場合、フィルム構成がA/B/A構成であれば、ポリエステル(A)層の厚み(ポリエステル(A)層の1層あたりの厚み)の上限値は125μm、フィルム構成がA/B構成であれば、ポリエステル(A)層の厚み(ポリエステル(A)層の1層あたりの厚み)の上限値は250μmである。ポリエステル(A)層の厚み(ポリエステル(A)層の1層あたりの厚み)が上限値を越えると、耐溶剤性および耐熱性が優れるものの、成形性が劣り易くなるので好ましくない。また、ポリエステル(A)層の厚みの合計がフィルム全体の厚みの5%未満であるとコーターなどで溶剤を乾燥するときフィルムが伸びるなどの耐熱性が劣り易いので好ましくない。逆にポリエステル(A)層の厚みの合計が、フィルム全体の厚みの50%を越えると耐熱性が優れるものの、成形性が劣り易くなるので好ましくない。ポリエステル(A)層の厚み(ポリエステル(A)層の1層あたりの厚み)を1μm以上とすることで、耐溶剤性を得ることができ、ポリエステル(A)層の厚みの合計をフィルム全体の厚みの5〜50%の範囲とすることで、耐熱性と成形性を両立することが可能となるのである。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムは、前記ポリエステル(A)層および/またはポリエステル(B)層が伸長剤を含有することが重要ある(ポリエステルフィルムがポリエステル(B)層を有さない場合は、ポリエステル(A)層が伸長剤を含有することが重要である。そして、ポリエステルフィルムがポリエステル(A)層及びポリエステル(B)層の両方を有する場合は、ポリエステル(A)層及び/またはポリエステル(B)層が伸長剤を含有することが重要である。)。ポリエステル(A)層および/またはポリエステル(B)層が伸長剤を含有することで、本発明のポリエステルフィルムのヘイズ値が半減し、透明性が向上し、全体の破断伸度が30%以上向上することが判ったのである。このメカニズムは明らかでないが、次のように考えている。伸長剤を含有することによって、ポリエステルの結晶の成長を抑制し、可視光以下の結晶サイズに微細化することで、透明性が向上しているものと考えている。また、引っ張り試験ではポリエステル結晶を構成する分子を解きほぐしながら、伸長し、分子が伸びきり、分子が切断した点が破断伸度となるが、伸長剤を含有すると分子拘束構造が生成し、可視光以下の結晶サイズに微細化すると、結晶の数が多い分、結晶を構成する分子を解きほぐすとき、分子の絡み合いが多くなり、フィルムの破断伸度を向上すると考えている。破断伸度の向上は、強いては、深絞りの成形、複雑な形状の成形などの成形性の向上に結びつくのである。
【0034】
このような透明性の向上および破断伸度の向上の特性を有する伸長剤としては、脂肪族カルボン酸アミド、N−置換尿素、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジド、ソルビトール系化合物、メラミン系化合物、フェニルホスホン酸金属塩、アミノ酸、ポリペプチド等を使用することができる。中でも、脂肪族カルボン酸アミド、N−置換尿素、ソルビトール系化合物、アミノ酸、ポリペプチドから選ばれた化合物を好ましく使用することができ、特に好ましくは脂肪族カルボン酸アミド、N−置換尿素である。
【0035】
伸長剤として好ましく用いられる脂肪族カルボン酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミドのようなN−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、へキサメチレンビスステアリン酸アミド、へキサメチレンビスベヘニン酸アミド、へキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族カルボン酸ビスアミド類、N,N´−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N´−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルセバシン酸アミドのようなN−置換脂肪族カルボン酸ビスアミド類が挙げられる。この中でも、脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類および脂肪族カルボン酸ビスアミド類から選ばれた化合物が好適に用いられる。好ましくは炭素数4〜30、より好ましくは炭素数12〜30の脂肪族カルボン酸と、アンモニアもしくは炭素数1〜30の脂肪族/芳香族のモノアミン/ジアミンから選ばれたアミンとのアミドが好ましく用いられる。特に、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミドおよびm−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドから選ばれた化合物が好適に用いられる。
【0036】
また、伸長剤として好ましく用いられるN−置換尿素の具体例としては、N−ブチル−N´−ステアリル尿素、N−プロピル−N´−ステアリル尿素、N−ステアリル−N´−ステアリル尿素、N−フェニル−N´−ステアリル尿素、キシリレンビスステアリル尿素、トルイレンビスステアリル尿素、ヘキサメチレンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスラウリル尿素などが使用できる。
【0037】
また、伸長剤として好ましく用いられる脂肪族カルボン酸塩の好ましい例としては、好ましくは炭素数4〜30、より好ましくは炭素数14〜30の脂肪族カルボン酸の金属塩が挙げられる。炭素数14〜30の脂肪族カルボン酸の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸などが挙げられる。また、金属の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、亜鉛、銀、銅、鉛、タリウム、コバルト、ニッケル、ベリリウムなどが挙げられる。特に、ステアリン酸の塩類やモンタン酸の塩類が好適に用いられ、特に、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛およびモンタン酸カルシウムから選ばれた化合物が好適に用いられる。
【0038】
また、伸長剤として好ましく用いられる脂肪族アルコールの好ましい例としては、炭素数4〜30、より好ましくは炭素数15〜30の脂肪族アルコールが挙げられる。具体的にはペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール等の脂肪族モノアルコール類、1,6−ヘキサンジオール、1,7−へプタンジール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族多価アルコール類、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール等の環状アルコール類等が挙げられる。特に脂肪族モノアルコール類が好適に用いられ、特にステアリルアルコールが好適に用いられる。
【0039】
また、伸長剤として好ましく用いられる脂肪族カルボン酸エステルの好ましい例としては、好ましくは炭素数4〜30、より好ましくは炭素数12〜30の脂肪族カルボン酸と、炭素数1〜30の脂肪族/芳香族のモノオール、ジオールおよびトリオールから選ばれたアルコールとのエステルが好ましく用いられる。具体例としては、ラウリン酸セチルエステル、ラウリン酸フェナシルエステル、ミリスチン酸セチルエステル、ミリスチン酸フェナシルエステル、パルミチン酸イソプロピルエステル、パルミチン酸ドデシルエステル、パルミチン酸テトラデシルエステル、パルミチン酸ペンタデシルエステル、パルミチン酸オクタデシルエステル、パルミチン酸セチルエステル、パルミチン酸フェニルエステル、パルミチン酸フェナシルエステル、ステアリン酸セチルエステル、ベヘニン酸エチルエステル等の脂肪族モノカルボン酸エステル類、モノラウリン酸グリコール、モノパルミチン酸グリコール、モノステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのモノエステル類、ジラウリン酸グリコール、ジパルミチン酸グリコール、ジステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのジエステル類、モノラウリン酸グリセリンエステル、モノミリスチン酸グリセリンエステル、モノパルミチン酸グリセリンエステル、モノステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのモノエステル類、ジラウリン酸グリセリンエステル、ジミリスチン酸グリセリンエステル、ジパルミチン酸グリセリンエステル、ジステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのジエステル類、トリラウリン酸グリセリンエステル、トリミリスチン酸グリセリンエステル、トリパルミチン酸グリセリンエステル、トリステアリン酸グリセリンエステル、パルミトジオレイン、パルミトジステアリン、オレオジステアリン等のグリセリンのトリエステル類等が挙げられる。この中でもエチレングリコールのジエステル類が好適であり、特にエチレングリコールジステアレートが好適に用いられる。
【0040】
また、伸長剤として好ましく用いられる脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジドの具体例としては、セバシン酸ジ安息香酸ヒドラジド、ソルビトール系化合物の具体例としては、ジベンジリデンソルビトール、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(3,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、メラミン系化合物の具体例としては、メラミンシアヌレートおよびポリビン酸メラミン、フェニルホスホン酸金属塩の具体例としては、フェニルホスホン酸亜鉛塩、フェニルホスホン酸カルシウム塩、フェニルホスホン酸マグネシウム塩等が使用できる。
【0041】
また、伸長剤として好ましく用いられるアミノ酸の具体例としては、生体に含まれるタンパク質を構成する要素であるグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルグリシン、トリプトファン、プロリン、o−チロシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、ポリペプチドの具体例としてはロイプロリドなどが使用できる。
【0042】
これらの伸長剤は、各層において、単独で用いても、2種以上を併用してもかまわない。2種以上を併用して用いると、それぞれを単独で利用する場合と比較し、それぞれの相乗効果を発現し、結晶化速度増大、結晶の微細化促進がより顕著なものとなる場合がある。
【0043】
これらの伸長剤の総含有量について、ポリエステル(A)層に関しては、透明性、伸長性および伸長剤としての効果が飽和して、外観、物性が変化しない点から、ポリエステル(A)層の全成分合計100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲の伸長剤を含有することが好ましい。ポリエステル(A)層の全成分合計質量100質量%において伸長剤の含有量が0.1質量%未満の場合は、透明性、伸長性が劣り易いので好ましくない。逆に、含有量が5質量%を越える場合は、ブリードアウトし、外観、物性変化し易いので好ましくない。より好ましくはポリエステル(A)層100質量%において伸長剤の含有量が0.3〜3質量%、さらに好ましくは0.5〜2質量%の範囲である。
【0044】
また、ポリエステル(B)層に関しては、透明性、伸長性および成形性の点から、ポリエステル(B)層の全成分合計100質量%に対して、0.05〜3質量%の範囲の伸長剤を含有することが好ましい。ポリエステル(B)層の全成分合計100質量%において伸長剤の含有量が0.05質量%未満の場合は、透明性および伸長性が劣り易いので好ましくない。逆に、含有量が3質量%を越える場合、成形性が劣り易いので好ましくない。より好ましくは0.08〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%の範囲である。
【0045】
本発明のポリエステルフィルムでは、前記伸長剤と水素結合性を有する化合物をさらに含有することが好ましい。前記例示した伸長剤は自己会合していることが多く、その場合、樹脂中に伸長剤が凝集したまま添加されることになり、結晶の微細化には不都合となることがある。そこで、伸長剤、並びに伸長剤と水素結合性を有する化合物をさらに混合することで、該伸長剤の自己会合が解れ、伸長剤がより微分散化されることがある。この場合、結晶の微細化がより効果的なものとなる。
【0046】
この、伸長剤と水素結合性を有する化合物の添加方法には特に制限は無い。伸長剤と水素結合性を有する化合物は、ポリエステルや伸長剤と同時に溶融もしくは溶液混合してもよいし、先に伸長剤、並びに伸長剤と水素結合性を有する化合物と溶融もしくは溶液混合したものを、ポリエステルに添加してもよい。また、マスターペレットを作製し、それを希釈する方法でもよい。これらの中でも、伸長剤の自己会合を解す観点から、伸長剤と水素結合性を有する化合物を、先に伸長剤と溶融もしくは溶液混合したものを、ポリエステルに添加する方法が好ましい。
【0047】
また、該化合物と伸長剤とに水素結合性を有するかどうかの判断は、核磁気共鳴(NMR)で解析可能である。例えば、該化合物と伸長剤との溶液混合品のH−NMRスペクトルを、それぞれ単体の場合とを比較した化学シフト変化から水素結合の有無を確認できる。例えば、伸長剤として脂肪族カルボン酸アミド化合物、伸長剤との間に水素結合性を有する化合物としてソルビトール系化合物を用いた場合、溶液混合品では、それぞれの単体比較、アミド結合のプロトンピークは低磁場シフトし、ソルビトールのヒドロキシル基のプロトンピークは高磁場シフトしていることで、これら両者の間に水素結合が存在することが確認できる。
【0048】
伸長剤と水素結合性を有する化合物の具体例としては、伸長剤として脂肪族カルボン酸アミドやN−置換尿素などを用いた場合、伸長剤と水素結合性を有する化合物としては脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、ポリペプチドなどが使用できる。よって、伸長剤としては脂肪族カルボン酸アミド、およびN−置換尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用し、さらに前記伸長剤を含有する層が、脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、およびポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが、特に好ましい。
【0049】
伸長剤と水素結合性を有する化合物を含有する場合、伸長剤との量関係には特に制限は無いが、効果的に伸長剤の自己会合を解す観点から、伸長剤と、伸長剤と水素結合性を有する化合物の質量比は1:9〜9:1が好ましい。より好ましくは1:5〜5:1で、さらに好ましくは1:2〜2:1である。
【0050】
上記した、伸長剤の自己会合を解し、伸長剤を樹脂中に微分散化するという観点からは、伸長剤のみを一度溶剤に溶かし自己会合を解いたものを、ポリエステル中に添加するという方法も使用できる。
【0051】
本発明のポリエステルフィルムは、成形性の点から面配向係数fnが0.00〜0.04の範囲であることが好ましい。面配向係数fnを0.00〜0.04としたフィルムを得るためには、無延伸フィルムとする方法が挙げられる。無延伸フィルムであっても製膜時にドラフトがかかり、機械(長手)方向にフィルムがやや配向する場合があるので、面配向係数を0.00〜0.04とするためには無延伸の場合であっても配向を抑制することが重要である。面配向係数fnが0.04を越えると、成形時に機械(長手)方向と幅方向の成形性が異なる場合があるので好ましくない。より好ましくは、0.00〜0.03の範囲であり、さらに好ましくは0.00〜0.02の範囲である。
【0052】
ここで、面配向係数(fn)とは、アッベ屈折計などを用いて測定されるフィルム長手方向、幅方向、厚み方向の屈折率(それぞれNx、Ny、Nz)から次式により算出される値である。
・面配向係数:fn={(Nx+Ny)/2}−Nz
ここで、フィルムの長手方向や幅方向が分からない場合は、フィルム面内において最大屈折率を有する方向を長手方向、フィルム面内における長手方向に直行する方向を幅方向、フィルム面内に対して直行する方向を厚み方向として、面配向係数(fn)を求めることができる。また、フィルム面内における最大屈折率の方向は、面内全ての方向の屈折率をアッベ屈折率計で測定してもよいし、例えば、位相差測定装置(複屈折測定装置)などにより遅相軸方向を決定することで求めてもよい。
【0053】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムのヘイズが10%以下であることが重要である。一般にポリエステルは耐溶剤性を向上させるために熱処理などで結晶化させると、ポリエステルの結晶が成長しフィルムとして不透明となる。ポリエステルに伸長剤を添加することで、ポリエステルの結晶の過大な成長を抑制し、結晶を微細化し、透明性を得ることができるのである。フィルムのヘイズが10%を越えると、例えば、転写箔用途などのフィルムを通じて行う紫外線硬化などの塗剤を用いることが困難となる。好ましくポリエステルフィルムのヘイズは5%未満、より好ましくは2%未満である。ヘイズは、フィルムの厚みが薄くなる程、小さくなる。しかし、厚み25μmでヘイズ0.2%以下とすることは、困難である。よってポリエステルフィルムのヘイズの下限値は、0.2%程度と思われる。
【0054】
本発明のポリエステルフィルムは、例えば、転写箔用途に用いられる場合、転写箔として、フィルムに離型層/トップコート層/印刷層/接着層などの各層が設けられる。離型層を設ける、フィルム表面の表面形状が被転写体に転写するため、本発明のポリエステルフィルムの少なくとも片面は、表面粗さRaが20〜100nmの範囲であることが好ましい。表面粗さRaが20〜100nmを満たす層は、本発明のポリエステルフィルムの最外面が、他層(ポリエステル(A)層でもポリエステル(B)層でもない層)とポリエステル(A)層の場合は、ポリエステル(A)層であることが好ましい。本発明のポリエステルフィルムが、ポリエステル(A)層を両面に有する場合、若しくは本発明のポリエステルフィルムがポリエステル(A)層のみからなる場合は、少なくとも片面の表面粗さRaが20〜100nmの範囲であることが好ましい。表面粗さRaが100nmを越えると、各層のコーテング斑など生じ易いので好ましくない。逆に表面粗さRaが20nm未満であるとブロッキング等が生じ、取り扱い性が悪くなるので好ましくない。
【0055】
本発明のポリエステルフィルムは、例えば、転写箔用途に用いられる場合、塗工性の点から、厚み斑が±10%未満の範囲が好ましい。厚み斑が±10%を越えると、各層のコーテング斑など生じ易いので好ましくない。本発明のポリエステルフィルムのポリエステル無延伸フィルムは、二軸延伸フィルムと比べ、厚み斑の制御が難しく、厚み斑±3%程度が限界である。
【0056】
本発明のポリエステルフィルムは、応力1.2MPaの荷重を加えて昇温した際の5%変形温度が80〜120℃の範囲であることが好ましい。例えば、本発明のポリエステルフィルムを転写箔用途に用いられる場合、フィルムに離型層、トップコート層、印刷層、接着層などの各層が設けられる。これらの塗剤中には各種有機溶剤が含まれており、有機溶剤の沸点近くまたは沸点以上に加熱されて有機溶剤が乾燥される。そのとき、フィルムが均一な表面が得られるように張力が掛けられる。その張力は、4.0〜1.2MPa程度である。その張力が高い程、フィルムにシワ、伸び、収縮などの変形などが生じ易い。本発明のポリエステルフィルムによる転写箔を成形物に転写した場合、印刷物が変形して、成形不良の原因となり易い。この変形が生じ易い最大張力を測定張力とし、応力1.2MPaの荷重を加えて昇温した際の熱機械分析計(TMA)曲線から5%変形温度を求めた。5%変形温度の下限は、各種塗剤によく用いられる有機溶剤として、酢酸エチル(沸点:77℃)、メチルエチルケトン(沸点:80℃)、アセトン(沸点:56℃)が挙げられるが、メチルエチルケトンの沸点を下限とすると、80℃と考えられる。5%変形温度の上限は、耐熱性の点から、変形温度が高い程、好ましいが、高くなり過ぎると成形性が劣り易いので好ましくは、120℃と考えられる。5%変形温度が、80℃未満では、コーター適性の点から好ましくない。逆に5%変形温度が、120℃を越えるとコーター適性に優れるものの、成形応力が大きくなり、成形性が悪化し易いので好ましくない。
【0057】
本発明のポリエステルフィルムは、120℃の雰囲気下、400%伸長時の応力が2〜20MPaの範囲であることが重要である。最近の塗剤は、UV硬化型などの塗剤が用いられており、UV硬化型の塗剤は、高い温度では、分離、発泡などの分解を生じるので成形温度の低温化が検討されている。塗剤の分解が始まる上限温度は、120℃位と言われており、120℃での成形性が求められている。成形性は、成形温度での低応力で高伸長の特性が求められており、また、フィルムが均一に伸びるためには、応力−歪み曲線における降伏点がないことが求められている。そこで、鋭意検討した結果、深絞り成形の場合、120℃雰囲気下での破断伸度が400%以上で、400%伸長時の応力が、低い程好ましいが、低すぎるとドロー延伸状態となり、400%以上の破断伸度が得られないことが判明した。
【0058】
また、通常の二軸延伸ポリエステルフィルムは、120℃の雰囲気下での破断伸度が400%以上とすることは困難である。面倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)を6倍程度以下にすると、破断伸度400%以上の二軸延伸ポリエステルフィルムが得られる場合があるが、この場合は厚み斑が大きくなったり、応力−歪み曲線における降伏点が発現したり、400%伸長時の応力が20MPaを越えたりするので、成形性の点から好ましくない。
【0059】
以上の点から120℃の雰囲気下、400%伸長時の応力は2〜20MPaの範囲であることが好ましい。120℃の雰囲気下、400%伸長時の応力は、より好ましくは、5〜20MPaの範囲、さらに好ましくは5〜15MPaの範囲である。
【0060】
なお、本発明のポリエステルフィルム中には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、伸長剤以外の可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤などの化合物や、無機粒子、有機粒子、他種ポリマーなどを添加してもかまわない。
【0061】
本発明のポリエステルフィルムは、コロナ放電処理などの表面処理を施すことにより、必要に応じて塗工性、印刷性などを向上させることが可能である。また、各種コーティングを施してもよく、その塗布化合物の種類、塗布方法や厚みは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、特に限定されない。さらに、必要に応じてエンボス加工などの成形加工、印刷などを施して使用することもできる。
【0062】
フィルムの厚みは使用する用途に応じて自由にとることができる。厚みは通常20〜500μmの範囲であり、製膜安定性の面から好ましくは30〜200μm、さらに好ましくは50〜200μmの範囲である。
【0063】
本発明のポリエステルフィルムは、Tダイ法またはインフレーション法などの溶融押出し法によって得られる。例えばTダイ法によりフィルムを得る場合、押出されたフィルムを急冷し、冷却固化することは重要な条件である。
【0064】
次に、本発明のポリエステルフィルムの製造方法について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0065】
本発明のポリエステルフィルムは、例えば、ポリエステル(A)層のポリエステル(A)を主成分とする樹脂およびポリエステル(B)層のポリエステル(B)を主成分とする樹脂を必要に応じて乾燥した後、公知の溶融押出機に供給する。押出機は、一軸溶融押出機でもベント口を具備した2軸溶融押出機でも構わない。供給された樹脂は、それぞれのポリエステルの融点+20〜30℃の温度で溶融させた後、濾過精度20〜40μmのリーフディスクフィルターを通過させる。
【0066】
次に、A層/B層/A層の3層またはA層/B層の2層ピノール管を通過させ、スリット状のTダイ口金に導き、シート状に押出す。押出されたシートの両端部に針状エッジピニング装置を用いる静電印加の方式、エアーノズル、エアーチャンバーなどの方式、吸引チャンバーの方式などにより、表面温度40〜80℃に調整したキャスティングドラムに密着させ、溶融状態から冷却固化することで、ポリエステルフィルムを得ることができる。キャスティングドラムは、鏡面ドラムでも、梨地ドラムでも構わないが、フィルムのドラムへの密着性、粘着性の点から梨地ドラムが好ましい。密着性と粘着性を両立させる点から、梨地ドラムの表面粗さは、中心線表面粗さRaで100〜1000nmの範囲が好ましい。さらに好ましくは、200〜500nmの範囲である。梨地ドラムを用いた場合、ドラムへの密着性が不十分となり易く、透明性が劣るフィルムとなることがあるので他の密着方式を併用することが好ましい。
【0067】
得られたフィルムは、面配向係数fnが0.00〜0.04の実質的に無配向の無延伸フィルムが得られる。A層表面のレーザーラマン法におけるスペクトルバンド半値全幅を23cm−1以下とするにはキャスティングドラム温度を40〜80℃とすることが好ましい。80℃を越えるとA層のレーザーラマン法におけるスペクトルバンド半値全幅は23cm−1以下となるが、フィルムがキャスティングドラムに粘着し易く生産性が劣るものとなる。また上限を越えるとフィルムが白化し、透明性が劣る場合や成形性が劣る場合があるので好ましくない。逆に40℃未満であるとA層のレーザーラマン法におけるスペクトルバンド半値全幅が23cm−1を越え、耐溶剤性や耐熱性が劣るものとなるので好ましくない。
【0068】
本発明のポリエステルフィルムは、耐溶剤性、耐熱性に優れ、特に成形性では、深い絞りの成形や複雑な形状に対する成形が可能であり、表面形状の複雑な部品、例えば自動車内外装部品、建材用化粧シート、浴室パネル、家電製品部品、OA製品部品、包装容器などの転写箔用フィルムとして好ましく用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、諸特性は以下の方法により測定、評価した。
(1)ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)および融点(Tm)
Seiko Instrument(株)社製示差走査熱量分析装置DSCII型を用い、試料5mgを昇温速度10℃/分で昇温していった際のDSC曲線からガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、融点(Tm)を求めた。吸熱融解曲線のピーク温度を融点(Tm)とした。
(2)厚み、ポリエステル(A)層の積層厚みおよびポリエステル(A)層の割合
フィルム全体の厚みを測定する際は、ダイヤルゲージを用いて、フィルムから切り出した各々の試料の任意の場所5ヶ所の厚みを測定し、平均して求めた。
【0070】
積層フィルムの層厚みを測定する際は、ライカマイクロシステムズ(株)社製金属顕微鏡LeicaDMLMを用いて、フィルム断面を倍率100倍の条件で透過光を写真撮影し、積層フィルムの各層の層厚みを測定した。
【0071】
測定したポリエステル(A)層の各厚みからフィルム全体の厚みに対する割合を求めた。
(3)固有粘度
オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から下式によって計算される値を用いる。すなわち、
ηsp/C=[η]+K[η]2×C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1、Cは溶媒100mlあたりの溶解ポリマー質量(g/100ml)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。
(4)面配向係数(fn)
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて、フィルムの表面の長手方向屈折率(Nx),幅方向屈折率(Ny),厚み方向屈折率(Nz)を測定し、下式から面配向係数(fn)を算出した。
・面配向係数 fn={(Nx+Ny)/2}−Nz
(5)レーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅
ポリエステルフィルムをエポキシ樹脂包埋後、ミクロトームにより断面を作製し、フィルム(A)層表面から1μmの測定点およびポリエステル(A)層とポリエステル(B)層の界面からポリエステル(B)層へ1μmの測定点について、下記装置および測定条件でラマンスペクトルを測定し、1730cm−1付近のラマンバンドの半値全幅(cm−1)を測定した。異なる場所で測定数n=5の測定を行い、その平均値を求め、スペクトルバンド半値全幅とした。
装置:Ramnor T−64000(堀場Jobin Yvon)
顕微ラマン(ラマンマイクロプローブ)の機能を兼備
・マイクロプローブ
Beam Splitter:右
対物レンズ:×100
ビーム径:1μm
クロススリット:200μm
・光源
Ar+レーザー:NEC GLG3460 5145A
レーザーパワー:40mW
・分光器
構成:640mm Triple Monochromator
回折格子:PAC Holographic 76×76mm
Spectrograph 1800gr/mm
分散:Single、7A/mm
スリット:100μm
・検出器
CCD:Jobin Yvon 1024×256
(6)梨地ドラムの表面粗さRa
厚み80μmのトリアセチルセルロースフィルム(ビオデンRFAトリアセチルセルロース/溶剤:酢酸メチル)を用い、トリアセチルセルロースフィルムを梨地ドラム面に圧着ローラーで線圧9.8N/cmを加えて、梨地ドラムの表面形状を転写させたものを室温で溶剤を乾燥して、このレプリカサンプルを測定サンプルとした。
【0072】
上記測定サンプルのドラム表面形状を転写させた面側を、(株)小坂研究所製の高精度薄膜段差計ET−10を用いて測定した。触針先端半径0.5μm、針圧5mg、測定長1mm、カットオフ0.08mmの条件で測定し、中心線表面粗さRaを求めた。なお各パラメーターの定義は例えば、奈良次郎著表面粗さ評価方法(総合技術センター、1983)に示されているものである。
(7)耐熱性(5%変形温度)
セイコーインスツルメンツ(株)製:TMA熱分析システムEXSTAR6000により、昇温速度10℃/分、測定温度範囲25〜200℃、サンプル試験長20mm、サンプル幅4mmとし、応力1.2MPaの荷重となる条件にて測定した。フィルムの長手方向、幅方向を試験数n=5の測定を行い、伸長曲線から試験長が5%伸長したときの温度を求め、長手方向、幅方向の平均値を5%変形温度とし、下記の評価基準で耐熱性を評価した。○と△であれば、合格レベルである。
○:5%変形温度が80℃を越えるもの。
△:5%変形温度が75〜80℃の範囲のもの。
×:5%変形温度が75℃未満のもの。
(8)120℃雰囲気下での400%伸長時の応力および破断伸度
ポリエステルフィルムから、長さ200mm、幅10mmのサンプルを、機械方向および幅方向の2方向に切り出し、ASTM−D−882−81(A法)に従い、120℃雰囲気下で引張速度200mm/分で、機械方向および幅方向の各々について試験数n=5で測定し、400%伸長時の応力の全測定結果の平均値を求め、400%伸長時の応力とした。また同様の測定条件でサンプルの破断伸度も測定した。
(9)耐溶剤性
フィルム表面に酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、メチルイソブチルケトンの5種類について、各々3ml滴下させて6時間放置した後、溶剤をきれいに拭き取って、表面状態を下記の評価基準の通り目視で観察し判定した。○と△であれば合格レベルである。
○:すべての溶剤に対して、白化、収縮、変形、溶剤の痕跡が認められないもの。
△:いずれかの溶剤に対して、比較的軽い白化、収縮、変形が認められるもの。
×:いずれかの溶剤に対して、白化、収縮、変形が認められるもの。
(10)成形性
カップ型真空成形機を用いて120℃の温度条件で成形性を評価した。成形は、直径50mmのカップ型で絞り比1.0の条件で行い、最も良好な温度条件で成形した際の状態を以下に基準で判定した。○と△であれば合格レベルである。
○:コーナーもシャープに成形され、成形後の厚みも均一であった。
△:コーナーにやや丸みがあり、成形後の厚みもやや不均一であった。
×:成形後の厚みが不均一であり、しわ、破れが発生した。
(11)総合評価
耐熱性、耐溶剤性、成形性の評価結果を踏まえ、以下の基準で判定した。○と△であれば合格レベルである。
○:耐熱性、耐溶剤性、成形性のすべての評価ついて、いずれも○の評価であり、転写箔用フィルムとして、好ましく用いることができる。
△:耐熱性、耐溶剤性、成形性について、1項目または2項目について△の評価であったが、それ以外は○の評価であり、転写箔用フィルムとしての実用に十分耐えられる。
×:耐熱性、耐溶剤性、成形性について、少なくとも1項目が×の評価であり、転写箔用フィルムとしての実用に耐えられない、または転写箔用フィルムとして使用することが困難である。
【0073】
実施例および比較例には、以下のポリエステルおよび粒子マスターを使用した。
[ポリエチレンテレフタレート(PET)]
テレフタル酸ジメチル95.3質量部、エチレングリコール54.7質量部の混合物に、酢酸マグネシウム0.09質量部、三酸化二アンチモン0.03質量部を添加して、常法により加熱昇温してエステル交換反応を行った。
【0074】
次いで、該エステル交換反応生成物に、リン酸トリメチル0.026質量部を添加した後、重縮合反応槽に移送した。次いで、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1.33×10Pa以下の減圧下、290℃で常法により重合し、固有粘度0.65dl/gのポリエステルを作製した。
【0075】
得られたポリマーのガラス転移温度は80℃、融点は257℃であった。
[イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(PET−I)]
テレフタル酸ジメチル75.5質量部、イソフタル酸ジメチル16.0質量部、エチレングリコール58.5質量部の混合物を用いた以外上記PETと同様の方法で、融点223℃、固有粘度0.70dl/gのイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(PET−I)を得た。
[ポリブチレンテレフタレート(PBT)]
テレフタル酸ジメチル69.7質量部、1、4−ブタンジオール80.3質量部の混合物に、テトラブチルチタネート0.05質量部、IRGANOX1010(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社)0.02質量部を加えて最終的に210℃まで昇温を行い、エステル交換反応を行った。
【0076】
エステル交換反応を行った後、リン酸トリメチル0.01質量部、テトラブチルチタネート0.07質量部、IRGANOX1010を0.03質量部添加した。徐々に昇温、減圧にし、最終的に245℃、1.33×10Pa以下で重縮合反応を行い、固有粘度0.85dl/gのポリエステルを作製した。
【0077】
得られたポリマーのガラス転移温度は30℃、融点は224℃であった。
[ポリプロピレンテレフタレート(PPT)]
テレフタル酸ジメチル80.5質量部、1,3−プロパンジオール69.5質量部の混合物に、テトラブチルチタネート0.06質量部を加えて最終的に220℃まで昇温を行い、エステル交換反応を行った。
【0078】
エステル交換反応を行った後、リン酸トリメチル0.05質量部、テトラブチルチタネート0.04質量部を添加した。徐々に昇温、減圧にし、最終的に260℃、1.33×10Pa以下で重縮合反応を行い、固有粘度0.70dl/gのポリエステルを作製した。
【0079】
得られたポリマーのガラス転移温度は50℃、融点は223℃であった。
[ポリエチレンナフタレート(PEN)]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル99.4質量部、エチレングリコール50.6質量部の混合物に、テトラブチルチタネート0.06質量部を加えて最終的に220℃まで昇温を行い、エステル交換反応を行った。
【0080】
エステル交換反応を行った後、リン酸トリメチル0.05質量部、テトラブチルチタネート0.04質量部を添加した。徐々に昇温、減圧にし、最終的に290℃、1.33×10Pa以下で重縮合反応を行い、固有粘度0.69dl/gのポリエステルを作製した。
【0081】
得られたポリマーのガラス転移温度は、124℃、融点は270℃であった。
[粒子マスター1(MS−1)]
上記で得られたPET90質量部、二酸化ケイ素(富士シリシア化学(株)製“サイリシア445”、平均粒子径2.5μm)10質量部の混合物を30mmφのベント式異方向二押出機(L/D=35)を用い、260℃で混練し、二酸化ケイ素を10質量%含有した二酸化ケイ素マスター(MS−1)を作製した。
[粒子マスター2(MS−2)]
上記で得られたPBT90質量部、二酸化ケイ素(富士シリシア化学(株)製“サイリシア445”、平均粒子径2.5μm)10質量部の混合物を30mmφのベント式異方向二押出機(L/D=35)を用い、260℃で混練し、二酸化ケイ素を10質量%含有した二酸化ケイ素マスター(MS−2)を作製した。
[粒子マスター3(MS−3)]
上記で得られたPPT90質量部、二酸化ケイ素(富士シリシア化学(株)製“サイリシア445”、平均粒子径2.5μm)10質量部の混合物を30mmφのベント式異方向二押出機(L/D=35)を用い、260℃で混練し、二酸化ケイ素を10質量%含有した二酸化ケイ素マスター(MS−3)を作製した。
[粒子マスター4(MS−4)]
上記で得られたPEN90質量部、二酸化ケイ素(富士シリシア化学(株)製“サイリシア445”、平均粒子径2.5μm)10質量部の混合物を30mmφのベント式異方向二押出機(L/D=35)を用い、300℃で混練し、二酸化ケイ素を10質量%含有した二酸化ケイ素マスター(MS−4)を作製した。
[伸長剤−1]
エチレンビスラウリル酸アミド(EBLA)
[伸長剤−2]
エチレンビスステアリン酸アミド(EBSA)
[伸長剤−3]
ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール(BMBS)
[伸長剤−4]
[伸長剤−1](30g)と[伸長剤−3](30g)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)200ml中に加え、系内を100℃に加熱し、溶液が透明になるまで撹拌した。その後DMSOを減圧留去し、更に100℃の真空乾燥機で12時間乾燥して、溶液混合物[伸長剤−4]を得た。
【0082】
なお、[伸長剤−4]のH−NMRスペクトル(DMSO溶媒)を確認したところ、3.4ppm付近に観測された[伸長剤−1]中のアミドのプロトンピークが、単体比較約0.03ppm低磁場シフトしており、また、4.5ppm付近に観測された[伸長剤−3]中のヒドロキシル基のプロトンピークが、単体比較約0.05ppm高磁場シフトしていた。このことから[伸長剤−4]において、エチレンビスラウリル酸アミドとビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトールの間に水素結合が形成されているとことが分かった。
[伸長剤−5]
[伸長剤−1](30g)と[伸長剤−3](30g)を、窒素雰囲気下、300℃で5分間溶融混合し、溶融混合物[伸長剤−5]を得た。
【0083】
なお、[伸長剤−5]のH−NMRスペクトル(DMSO溶媒)を確認したところ、3.4ppm付近に観測された[伸長剤−1]中のアミドのプロトンピークが、単体比較約0.03ppm低磁場シフトしており、また、4.5ppm付近に観測された[伸長剤−3]中のヒドロキシル基のプロトンピークが、単体比較約0.05ppm高磁場シフトしていた。このことから[伸長剤−5]において、エチレンビスラウリル酸アミドとビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトールの間に水素結合が形成されているとことが分かった。
[離型剤−1]
反応釜中に、水600質量部を入れ、ベヘニルメタクレート70質量部、メタクリル酸30質量部の混合物に、アゾビスイソブチロニトリル1質量部、分散剤としてカルボキシメチルソロソルブ0.6質量部、ポリアクリル酸ソーダ0.5質量部を加えて、攪拌しながら、85℃で5時間反応させた。水洗にてポリマー分を洗浄し、固形物を得た。固形物をこの固形物(精製物)をFT−IR((株)島津製作所製、FTIR−8100M)及び13C−NMR(日本電子(株)製、JNM−EX400)を用いて分析したところ、ベヘニルメタクリレート単位69.8質量%、メタクリル酸単位30.2質量%の長鎖アルキルアクリレート共重合樹脂であり、仕込みモノマー組成比とほぼ同一の共重合組成であった。
(実施例1)
ポリエステル(A)層のポリエステルとして、PBTのペレット(97質量%)、粒子マスターMS−2のペレット(2質量%)、[伸長剤−1]1質量%の混合物を用い、押出温度260℃に設定したベント式異方向二軸押出機A(ベント口2ヶ所、L/D=70)に、ポリエステル(B)層のポリエステルとして、PETのペレット(94質量%)、PBTのペレット(5質量%)、伸長剤−1(1質量%)の混合物を用い、押出温度280℃に設定したベント式異方向二軸押出機B(ベント口2ヶ所、L/D=70)にそれぞれ投与し、A層/B層/A層の3層ピノールを通し、280℃に設定したスリット間隙0.8mmのTダイ口金に導きフィルム状に押出し、押出されたシートの両端部に針状エッジピニング装置を用いて静電印加方式およびエアーチャンバー方式を併用し、表面温度60℃の梨地キャスティングドラム(中心線表面粗さRa=200〜350nm)に密着させて冷却固化し、厚み100μm(A層/B層/A層厚み=10μm/80μm/10μm)のポリエステルフィルムを作製した。フィルムの面配向係数(fn)は、0.00であった。ポリエステルフィルムは安定に製膜でき、カールなど生じず、取扱性に優れていた。
【0084】
次に、得られたポリエステルフィルムのポリエステル(A)層面に、順に離型層、トップコート層、印刷層、接着層を形成して、転写箔を作製した。離型層として、離型剤−1を用い、乾燥後の固形分の厚み0.2μmを形成し、トップコート層として、紫外線硬化型アクリル系樹脂{BASFジャパン(株)製“LAROMER”LR8983}を厚み60μmで、印刷層として、ポリウレタン系樹脂グラビアインキ(大日精化工業(株)製“ハイラミック”、主要溶剤:トルエン/メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール、インキ:723B黄/701R白)を厚み70μmで形成し、さらに、接着層として、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合樹脂フィルム(オカモト(株)製ABSフィルム“ハイフレックス”、厚み100μm)を用いた。印刷層を硬化させるために40℃の温度で72時間エージングを行った。
【0085】
次に、絞り比1.0、直径50mmカップ凹金型射出成型機、成形樹脂として、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合樹脂(東レ(株)製、ABS樹脂“トヨラック”930)を用い、射出成形して、ABS共重合樹脂製カップ型成形物を作製した。
【0086】
さらに、上記転写箔を温度80℃に加熱し、転写箔の接着層面側にABS共重合樹脂製カップ型成形物を配して、圧空成形機を用い、85℃の温度で転写成形した。圧力解放後、転写箔を貼り付けたまま、トップコート層を波長365nmの紫外線を用い紫外線硬化させた後、外表面の貼り合わせフィルム層を剥離して、外表面から印刷が見えるABS樹脂製カップ型成形物を作製した。
【0087】
得られたABS共重合樹脂製成形物は、表面に表れた印刷がエンボス加工の効いた印刷で深みのある、優れた意匠性で、しかも形のきれいな成形物であった。また、転写箔フィルムとした場合、透明性、耐熱性、耐溶剤性、成形性に優れ、転写箔用フィルムとして優れたフィルムであった。
(実施例2)
ポリエステル(A)層のポリエステルとして、PBTのペレット(96質量%)、粒子マスターのペレットMS−2(2質量%)、伸長剤2(2質量%)の混合物を用い、ポリエステル(B)層のポリエステルとして、PETのペレット(90質量%)、PBTのペレット(8質量%)、伸長剤2(2質量%)の混合物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、厚み75μm(A層/B層厚み=22.6μm/42.4μm)のポリエステルフィルムを作製した。また、実施例1と同様の方法で、転写箔およびカップ型成形物を作製した。
(実施例3)
ポリエステル(A)層のポリエステルとして、PPT(97質量%)、粒子マスターMS−3のペレット(2質量%)、伸長剤3(1質量%)の混合物を用い、ポリエステル(B)層のポリエステルとして、PETのペレット(89質量%)、PPT(10質量%)、伸長剤3(1質量%)の混合物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、厚み50μm(A層/B層/A層厚み=10μm/30μm/10μm)のポリエステルフィルムを作製した。また、実施例1と同様の方法で、転写箔およびカップ型成形物を作製した。
(実施例4)
ポリエステル(A)層のポリエステルとして、PENのペレット(97質量%)、粒子マスターMS−4(2質量%)、伸長剤4(1質量%)の混合物を用い、押出温度300℃、ポリエステル(B)層のポリエステルとして、PETのペレット(89質量%)、PENのペレット(10質量%)、伸長剤4(1質量%)の混合物を用い、押出温度285℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、厚み60μm(A層/B層/A層厚み=3μm/54μm/3μm)のポリエステルフィルムを作製した。また、実施例1と同様の方法で、転写箔およびカップ型成形物を作製した。
(実施例5)
ポリエステル(A)層のポリエステルとして、PBTのペレット(98質量%)、粒子マスターMS−2(2質量%)を用い、ポリエステル(B)層のポリエステルとして、PETのペレット(79質量%)、PBTのペレット(20質量%)、伸長剤5(1質量%)の混合物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、厚み30μm(A層/B層/A層厚み=7.5μm/15μm/7.5μm)のポリエステルフィルムを作製した。また、実施例1と同様の方法で、転写箔およびカップ型成形物を作製した。
(実施例6)
ポリエステル(A)層のポリエステルとして、PBTのペレット(97.5質量%)、粒子マスターMS−2のペレット(2質量%)、伸長剤1(0.5質量%)の混合物を用い、ポリエステル(B)層のポリエステルとして、PET−I(100質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、厚み90μm(A層/B層/A層厚み=15μm/60μm/15μm)のポリエステルフィルムを作製した。また、実施例1と同様の方法で、転写箔およびカップ型成形物を作製した。
(実施例7)
ポリエステル(A)層のポリエステルとして、PBTのペレット(97質量%)、粒子マスターMS−2のペレット(2質量%)、伸長剤1(1質量%)の混合物を用い、ポリエステル(B)層のポリエステルを用いなかった以外は、実施例と同様の方法で、厚み100μmの単層ポリエステルフィルムを作製した。また、実施例1と同様の方法で、転写箔およびカップ型成形物を作製した。
(比較例1)
ポリエステル(A)層のポリエステルとして、PETのペレット(97質量%)、粒子マスターMS−1(2質量%)、伸長剤1(1質量%)の混合物を用い、押出温度を280℃にし、ポリエステル(B)層のポリエステルとして、PETのペレット(99質量%)、伸長剤1(1質量%)の混合物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、厚み100μmの単層ポリエステルフィルムを作製した。また、実施例1と同様の方法で、転写箔およびカップ型成形物を作製した。
(比較例2)
ポリエステル(A)層のポリエステルとして、PBTのペレット(98質量%)、粒子マスターMS−2(2質量%)の混合物を用い、ポリエステル(B)層のポリエステルとして、PETのペレット(92質量%)、PBTマスターのペレット(8質量%)の混合物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、厚み50μm(A層/B層/A層厚み=0.8μm/48.4μm/0.8μm)のポリエステルフィルムを作製した。また、実施例1と同様の方法で、転写箔およびカップ型成形物を作製した。
(比較例3)
梨地キャストドラムの温度を25℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、厚み100μm(A層/B層/A層厚み=10μm/80μm/10μm)のポリエステルフィルムを作製した。また、実施例1と同様の方法で、転写箔およびカップ型成形物を作製した。
(比較例4)
ポリエステル(A)層のポリエステルとして、PBTのペレット(98.8質量%)、粒子マスターMS−2(0.2質量%)、伸長剤1(1質量%)の混合物(150℃×4時間減圧乾燥)を用い、押出温度260℃に設定した一軸押出機Aに、ポリエステル(B)層のポリエステルとして、PETのペレット(99質量%)、伸長剤1(1質量%)の混合物(150℃×4時間減圧乾燥)を用い、押出温度280℃に設定した一軸押出機Bにそれぞれ投与し、A層/B層/A層の3層ピノールを通し、280℃に設定したスリット間隙0.8mmのTダイ口金に導き、フィルム状に押出し、静電印加させながら、25℃に保った鏡面金属ドラムに巻き付けて冷却固化せしめ、未延伸フィルムを得た。
【0088】
次に、この未延伸フィルムを長手方向に90℃で3.2倍に延伸し、幅方向に115℃で3.2倍に延伸し、220℃で熱処理を行い、厚み30μm(A層/B層/A層厚み=3μm/24μm/3μm)の二軸延伸ポリエステルフィルムを作製した。また、実施例1と同様の方法で、転写箔およびカップ型成形物を作製した。
【0089】
上記実施例、比較例において用いたポリエステルの組成などおよびフィルム特性の評価結果を表1、表2に、それぞれまとめて示す。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
上記表1、表2において、用いた略記号を示す。
PET:ポリエチレンテレフタレート
PET−I:イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート
PBT:ポリブチレンテレフタレート
PPT:ポリプロピレンテレフタレート
PEN:ポリエチレンナフタレート
実施例1〜2、実施例5で得られたフィルムは、転写箔とした場合、透明性、耐熱性、耐溶剤性、成形性に優れ、転写箔用フィルムとして優れたフィルムであった。
【0093】
実施例3で得られたフィルムは、耐熱性、耐溶剤性がやや劣るものの、透明性、成形性が優れたフィルムであった。耐熱性、耐溶剤性は実用上問題なかった。
【0094】
実施例4、実施例7で得られたフィルムは、透明性、耐熱性、耐溶剤性に優れ、成形性がやや劣るものであったが、実用上問題なかった。
【0095】
一方、比較例1〜4で得られたフィルムは、透明性、耐熱性、耐溶剤性、成形性のいずれも満足するフィルムではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のポリエステルフィルムは、透明性、耐溶剤性(印刷性)、耐熱性、成形性に優れた、ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0097】
より具体的には、耐溶剤性(印刷性)は、印刷インクに含有する溶剤、特に酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、アセトンなどに対しての耐溶剤性に優れるため、各種印刷インクを用いることができる。また、ポリエステル(A)層および/またはポリエステル(B)層に伸長剤を含有することで、特に成形性に優れる。
【0098】
本発明のポリエステルフィルムは、深絞りの成形、複雑な形状の成形等の成形性に優れるため、印刷および成形して用いるインモールド転写箔、さらに自動車内外装部品、浴室パネル、家電製品用部品、包装容器などの印刷の転写加工を行うための転写箔として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1未満であるポリエステル(A)層を少なくとも有し、
該ポリエステル(A)層が、伸長剤を含有し、
120℃の雰囲気下、400%伸長時の応力が、2〜20MPaの範囲であり、
ヘイズが10%以下であることを特徴とする、ポリエステルフィルム。
【請求項2】
レーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1未満であるポリエステル(A)層と、レーザーラマン法における1730cm−1のスペクトルバンド半値全幅が23cm−1以上であるポリエステル(B)層を少なくとも有し、
該ポリエステル(A)層および/またはポリエステル(B)層が、伸長剤を含有し、
120℃の雰囲気下、400%伸長時の応力が、2〜20MPaの範囲であり、
ヘイズが10%以下であることを特徴とする、ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記伸長剤が、脂肪族カルボン酸アミド、およびN−置換尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
さらに前記伸長剤を含有する層が、脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、およびポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ポリエステル(A)層の主成分であるポリエステル(A)が、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびこれらの共重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種からなるポリエステルであることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記ポリエステル(B)層の主成分であるポリエステル(B)が、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートの共重合体からなるポリエステルであることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
ポリエステル(B)層の両面に、ポリエステル(A)層を有することを特徴とする、請求項2〜5のいずれかに記載のポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2010−70581(P2010−70581A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236056(P2008−236056)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】