説明

ポリエステル樹脂からなる中空成形体

[課題]肉厚であっても透明性と機械特性に優れたボトルを生産できるポリエステル樹脂を提供することを目的としている。[解決手段] ジカルボン酸単位とジオール単位より構成されるポリエステル樹脂からなり、口栓部、肩部、胴部 および底部を備えた中空ボトルであって、 (1)ボトル胴部の肉厚が500μm以上であり、 (2)チタン原子含有量が1ppm以上30ppm以下であることを特徴とする中空ボトル。ボトル胴部の降温結晶化温度(Thc)が170℃以下であること、および全ジカルボン酸単位のうち97モル%以上がテレフタル酸であり、全ジオール単位のうち97%モル以上がエチレングリコールであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルからなる中空ボトル、更に詳しくは繰り返し使用が可能でかつ透明性に優れた中空ボトル、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、調味料、油、飲料、化粧品、洗剤などの容器の素材としては、充填内容物の種類およびその使用目的に応じて種々の樹脂が採用されている。
【0003】
これらのうちでポリエチレンテレフタレートは機械的強度、耐熱性、透明性およびガスバリヤー性に優れているので、特にジュース、清涼飲料、炭酸飲料などの飲料充填用容器の素材として好適である。
また、このような容器の中には、消費者が使用した後容器を回収、洗浄を行い飲料を再充填し販売するといったリフィラブルリターナブルボトル(以降リターナブルボトルと呼ぶ)と呼ばれる容器がある。一方、繰り返し使用を行わない容器はワンウェイボトルと呼ばれる。リターナブルボトルは繰り返し使用に耐えるため機械強度が要求され、通常ボトル胴部で500μm以上の肉厚を有するものが使用される。
【0004】
このようなボトルに用いるポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とをエステル化した後、重縮合触媒の存在下で液相重縮合し、次いで固相重縮合して得ることができる。そしてこのポリエチレンテレフタレートは、例えば射出成形機械などの成形機に供給して中空成形体用プリフォームを成形し、このプリフォームを所定形状の金型に挿入し延伸ブロー成形したり、さらに熱処理(ヒートセット)して中空成形容器に成形される。
【0005】
この射出成形工程では、溶融樹脂を金型内に射出し、金型内で冷却し固化させた後金型から取り出す。その際、リターナブルボトル用のプリフォームは肉厚が通常5mm以上あり、通常4mm以下であるワンウェイボトル用プリフォームに比較して厚い。したがって、金型内での冷却工程において結晶化が進行しプリフォームが白化し不透明となることがある。
【0006】
射出された溶融状態の樹脂は固化するまで冷却されるが、温度がガラス転位点(Tg)を越えている間に結晶化が進行する。リターナブルボトル用のプリフォームは、肉厚が大きく、射出成形の際に溶融した樹脂がTg以下に冷却されるまでの時間が長いため、その間に結晶化がおきやすいと考えられる。
【0007】
リターナブルボトルとしてはアンチモン触媒を用いて重縮合したポリエチレンテレフタレートが用いられている。アンチモンは重縮合触媒として添加されるが、樹脂の結晶化を促進する核剤としても働く。したがって核剤作用の強いアンチモン触媒を用いて得られるポリエチレンテレフタレートではプリフォームの結晶化およびこれをブロー成形して得られる中空容器の不透明化が問題となっていた。
【0008】
結晶化を抑制させるための手段としては、分子量を高くする方法が知られている。例えば非特許文献1:224頁には、ポリエチレンテレフタレートの分子量(固有粘度)を増大することで、結晶化速度が低下することが記載されている。
しかしながら、分子量を高くすることにより、重合時間が増大し、樹脂の生産性低下を引き起こすという問題点を抱えている。
【0009】
同様に結晶化を抑制させるための手段としては、テレフタル酸やエチレングリコール以外のモノマーを共重合させる方法がある。例えば非特許文献1:562から563頁には、ポリエチレンテレフタレートに他の成分を共重合すると結晶性が低下することが記載されており、共重合成分としてイソフタル酸または1,4−シクロヘキサンジメタノールが開示されている。
【0010】
しかしながら、テレフタル酸やエチレングリコール以外の共重合モノマー量を高くすると、融点も低下するため、固相重合行程の温度を低くする必要があり、樹脂の生産性低下を引き起こす。さらに、中空ボトルの機械特性、特に耐圧性や耐ストレスクラッキング性が低下するという問題点を有する。
【非特許文献1】「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」,湯木和男 編,日刊工業新聞社(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような従来技術に伴う課題を解決しようとするものであって、成形の際に溶融した樹脂がTg以下まで冷却されるまでの時間が長く、その間に結晶化がおきやすいという、プリフォームおよびボトルの肉厚が厚いポリエチレンテレフタレート製リターナブルボトル特有の問題を解決することを目的としている。
詳しくは、ポリエステル樹脂の重合時間増大による樹脂の生産性低下や、耐圧性や耐ストレスクラッキング性等機械特性の低下を引き起こすことなく、透明性に優れた肉厚の中空成形体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のようにワンウェイ用途ボトルにおいては、アンチモン触媒を用いて重合されたポリエチレンテレフタレートが好適に用いられているが、リターナブルボトルにおいては、ボトルの胴部厚が通常500μm以上、プリフォームの射出肉厚が通常5mm以上と厚く、成形の際に結晶化をおこしやいために透明性を損なうという特有の問題点があった。本発明者らは、共重合モノマーの導入や分子量を増大するといった従来の技術以外の方法によりこの問題を解決すべく鋭意検討を行った。
【0013】
ポリエチレンテレフタレートに触媒として用いられる元素は樹脂の結晶化にも影響を及ぼすため、本発明者らが含有される元素の種類と量に着目して検討を行った結果、意外なことに、ポリエチレンテレフタレートに対しチタン原子を特定量で用いると、重縮合触媒としての活性および樹脂に対する結晶化促進効果のバランスに優れること、さらに厚みの大きいボトルやプリフォームに適用しても透明性に優れることを見出した。
すなわちチタン原子を特定量で含むプリフォーム、およびこれから得られる中空ボトルが透明性に優れることを見出し、さらに特定量のチタン原子を含有するポリエチレンテレフタレート樹脂からなり、胴部厚が特定以上の範囲にある中空ボトルが、透明性に優れ、かつ生産性や機械特性にも優れることを見出して本発明に到達した。
【0014】
即ち本発明は、
ジカルボン酸単位とジオール単位より構成されるポリエステル樹脂からなり、口栓部、肩部、胴部および底部を備えてなる中空ボトルであって、
(1)ボトル胴部の肉厚が500μm以上であり、
(2)チタン原子含有量が1ppm以上30ppm以下である
ことを特徴とする中空ボトルである。
【0015】
本発明の中空ボトルはチタン触媒を用いて製造したポリエステル樹脂を用いることが好ましい。ポリエステル樹脂はチタン原子を1ppm以上30ppm以下含有することが好ましく、5ppm以上30ppm以下含有することがより好ましく、5ppm以上20ppm以下含有することが最も好ましい。チタン原子を1ppm以上30ppm以下含有すると、適度な重合活性が得られかつ成型時にも透明性が保たれるため好ましい。チタン触媒を用いて製造したポリエステル樹脂は、厚肉のプリフォームでも透明性に優れるため、本発明に好適に用いることができる。
本発明の中空ボトルに用いるポリエステル樹脂は、アンチモン原子の含有量が100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。アンチモン原子の含有量が100ppmを越えると、中空ボトルの透明性が劣ることがある。
【0016】
本発明の中空ボトルは、
(3)ボトル胴部の降温結晶化温度(Thc)が170℃以下であることが好ましい。
降温結晶化温度(Thc)が170℃以下であると、成型時の結晶化を抑制できるため好ましい。
(4)全ジカルボン酸単位のうち97モル%以上がテレフタル酸であり、全ジオール単位のうち97%モル以上がエチレングリコールであることが好ましい。
テレフタル酸とエチレングリコールがともに97モル%以上であると、耐圧性等の機械物性が良好であり、また融点降下が小さいため好ましい。
【0017】
(5)固有粘度が0.74から0.82dl/gの範囲にあることが好ましい。
固有粘度が0.74以上であると、繰り返し使用に耐える強度が得られる点で好ましく、0.82dl/g以下であると、生産性の点で好ましい。
(6)溶融粘度が230から340Pa・sの範囲にあることが好ましい。
溶融粘度が230以上であると、繰り返し使用に耐える強度が得られる点で好ましく、340以下であると、生産性の点で好ましい。溶融粘度は270℃、せん断速度1333sec.−1で測定する。
(7)ボトル胴部の密度が1355から1365kg/m3の範囲であることが好ましい。
【0018】
本発明の中空ボトルは、ポリエチレンテレフタレートを射出成形して得られる筒状プリフォームを、中空ブロー成型することにより得られる。プリフォームの射出成形は公知の方法を用いることができ、成形温度270〜300℃、成形サイクル50〜90秒で行うことが好ましい。
プリフォームは、チタン原子を1ppm以上30ppm以下含有することが好ましく、5ppm以上30ppm以下含有することがより好ましく、肉厚は4.5〜7mmの範囲が好ましく、さらに5〜6mmの範囲が好ましい。このようなプリフォームは、射出成形の際に結晶化をおこしにくく、透明性に優れる点で好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、ポリエステル樹脂の生産性および耐圧性等の機械特性を低下させることなく、かつ成形体に成形する際に透明性を損なわず、高い強度を有する中空容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
[図1]プリフォームの断面図
[図2]中空ボトルの断面図
【符号の説明】
【0021】
1 口栓部(非延伸部)
2 延伸部高さ
3 プリフォーム外径
4 プリフォーム内径
5 プリフォーム厚み
6 口栓部
7 肩部
8 胴部
9 底部
10 ボトル外径
11 ボトル内径
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明に係るポリエステル中空成形体の製造方法について具体的に説明する。
得られるポリエステル中空成形体はチタン原子を含むことが望ましく、チタン原子の含有量が1〜30ppm、特に5〜20ppmの範囲にあることが好ましい。
チタン原子の含有量が上記範囲にあると、高い生産性を維持しながら結晶化温度が低く透明性に優れた成形体が得られる。
【0023】
本発明の中空成形体に係わるポリエステル樹脂の重縮合に用いられるチタン触媒は公知のチタン化合物で例えばアルコキシチタン化合物でもよく、また以下に記載のチタン化合物であることが好ましい。
(a)チタン、酸素、炭素、水素およびアルカリ金属を含み、Ti−O−C結合を有し、かつ150℃のエチレングリコールに溶解した場合のエチレングリコールへの最大溶解度がチタン原子換算で1,000ppm以上である固体状含チタン化合物からなるか、または、(a)と(b)アルカリ金属化合物とからなる。
【0024】
(a)固体状含チタン化合物
本発明に係るポリエステル製造用触媒を形成する固体状含チタン化合物(a)は、チタン、酸素、炭素および水素、必要に応じてアルカリ金属を含み、Ti−O−C結合を有している。
【0025】
固体状含チタン化合物(a)は、チタンを5〜50重量%、好ましくは(5〜40)重量%、酸素を(35〜75)重量%、好ましくは(40〜60)重量%、炭素を1〜35重量%、好ましくは(5〜25)重量%、水素を(1〜10)重量%、好ましくは(1〜6)重量%の量で含むことが望ましい。
また、アルカリ金属は、固体状含チタン化合物(a)中のチタン原子とのモル比(アルカリ金属/チタン)で、20/1〜0.1/1、好ましくは10/1〜0.1/1の範囲の量で含有することが望ましい。
【0026】
固体状含チタン化合物(a)は、該化合物中のチタン原子と炭素原子との重量比(Ti/C)が50〜1、好ましくは25〜2の範囲にある。
アルカリ金属は、上記固体状含チタン化合物(a)中に含まれていても良いし、ポリエステル製造の際に(a)と併用して用いてもよい。
固体状含チタン化合物(a)のエチレングリコールへの最大溶解度は、溶媒としてエチレングリコールのみを使用し、150℃加熱下で100gのエチレングリコールに固体状含チタン化合物(a)を溶解させその溶液の透明性をヘイズメーターにより測定し、ヘイズが10%を超えない範囲で最大となる溶解量を求めて、固体状含チタン化合物の最大溶解度とする。
【0027】
固体状含チタン化合物(a)は、平均粒径が1〜30μm、好ましくは1.5〜20μmの範囲にあることが好ましい。
また、固体状含チタン化合物(a)は、2θ(回折角度)が18°〜35°の範囲にある、X線回折パターンから算出したアナターゼ型二酸化チタンの構造由来の結晶化度が50%以下であることが好ましい。
【0028】
(b)アルカリ金属化合物
本発明に係るポリエステル製造用触媒を形成するアルカリ金属化合物(b)は、アルカリ金属単体、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アルコキシド化合物、アルカリ金属ハロゲン化物、および炭酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、有機スルホン酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、メタリン酸、ポリリン酸、有機ホスホン酸、有機ホスフィン酸、ホウ酸、アルミン酸、チタン酸、ケイ酸、脂肪酸、芳香族カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸から選ばれる酸のアルカリ金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属化合物である。
【0029】
これらのアルカリ金属化合物(b)の中では、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等が好ましい。
これらのアルカリ金属化合物(b)は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
固体状含チタン化合物(a)は、本発明の目的を満たす上でチタン、酸素、炭素および水素以外の元素からなる化合物を含んでいてもよい。好ましい化合物としては、マグネシウム、アルミニウム、コバルト、ゲルマニウム、およびリンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の化合物があげられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
マグネシウム、アルミニウム、コバルト、から選ばれる元素の化合物としては、酢酸塩等の脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物等のハロゲン化物、アセチルアセトナート塩、酸化物等が挙げられるが、酢酸塩または炭酸塩が好ましい。これらのなかでも炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等のマグネシウム化合物が好ましい。
【0032】
また、リン化合物としては、元素の周期表第1族、第2族、周期表第4周期の遷移金属、ジルコニウム、ハフニウムおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1種の金属のリン酸塩、亜リン酸塩が挙げられる。このうち、特にリン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウムが、好ましく使用される。
【0033】
ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム、酢酸ゲルマニウム等が挙げられる。
【0034】
マグネシウム化合物の含有量は、ポリエステル樹脂中にマグネシウム原子として20ppm以下が好ましい。
アルミニウム化合物の含有量は、ポリエステル樹脂中にアルミニウム原子として20ppm以下が好ましい。
コバルト化合物の含有量は、ポリエステル樹脂中にコバルト原子として20ppm以下が好ましい。
ゲルマニウム化合物の含有量は、ポリエステル樹脂中にゲルマニウム原子として20ppm以下が好ましい。
リン化合物の含有量は、ポリエステル樹脂中にリン原子として5ppm以上40ppm以下が好ましい。
上記の範囲で各元素を用いると、生成するポリエステル樹脂の透明性を損なわず、かつ適度な触媒活性が得られる点で好ましい。
【0035】
また、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガンの含有量は、原子として合計で5ppm以下であることが好ましい。これらの元素が合計で5ppm以上含有されると、生成するポリエステル樹脂の透明性が損なわれることがある。
【0036】
チタンとともにアンチモン原子を用いてもよいが、本発明のポリエステルはアンチモン原子の含有量が100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。アンチモン原子は重縮合活性を有するが、その含有量が100ppmを越えると、中空ボトルの透明性を劣化させやすい。アンチモン化合物としては酢酸アンチモン、酸化アンチモンを例示することが出来る。
【0037】
上記固体状含チタン化合物(a)は、原料としてチタンハロゲン化物を用いる場合、ハロゲン元素含量が通常0〜10,000ppm、好ましくは0〜100ppmである。
【0038】
固体状含チタン化合物(a)は、エチレングリコールを含むエチレングリコール含有液(c)に溶解して触媒として用いることができ、固体状含チタン化合物(a)をエチレングリコール含有液(c)に溶解する際には、上記アルカリ金属化合物(b)等の塩基性化合物の存在下に、溶解させることが好ましい。
固体状含チタン化合物(a)を、エチレングリコール含有液(c)に溶解する際には、加熱することが好ましく、加熱温度は通常100〜200℃、好ましくは110〜195℃の範囲である。
【0039】
アルカリ金属化合物(b)を用いる場合には、溶液中のチタンに対するモル比で、アルカリ金属/チタン=20/1〜0.1/1の範囲となる量で用いられる。
本発明では、固体状含チタン化合物(a)を、アルカリ金属化合物(b)の存在下にエチレングリコール含有液(c)に溶解する際には、必要に応じて溶解助剤を含むエチレングリコール含有液(c)を用いることができる。また、固体状含チタン化合物(a)を、エチレングリコール含有液(c)に溶解する際にアルカリ金属化合物(b)を用いない場合は、必要に応じて溶解助剤および/または酸成分を含むエチレングリコール含有液(c)を用いることができる。
【0040】
溶解助剤としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられ、グリセリンまたはトリメチロールプロパンが好ましい。
溶解助剤は、エチレングリコール含有液(c)に対して1〜50重量%、好ましくは1〜25重量%となるような量で用いられる。
【0041】
酸成分としては、硫酸、パラトルエンスルホン酸等の有機スルホン酸;シュウ酸、酢酸、クエン酸等の有機カルボン酸等が挙げられ、硫酸または有機スルホン酸が好ましい。
酸成分はエチレングリコール含有溶液に対して0.1〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%となるような量で用いられる。
【0042】
このようにして固体状含チタン化合物(a)がエチレングリコール含有液(c)に溶解した溶液であるチタン含有溶液が調製される。
このチタン含有溶液は、透明であることが好ましく、後述する方法でヘイズメーターにより測定したHAZE値が30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
【0043】
このチタン含有溶液は、固体状含チタン化合物(a)に由来するチタンの含有量が、通常500〜100,000ppm、好ましくは3,000〜100,000ppm、より好ましくは5,000〜50,000ppmの範囲にある。
【0044】
上記チタン含有溶液は、含水率が0.05〜15.0重量、好ましくは0.05〜10重量%の範囲にあることが好ましい。
チタン含有溶液の含水率が上記範囲内にあると、溶解性も良好であり、保存安定性も良好であり好ましい。
【0045】
(ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、上記のポリエステル製造用触媒の存在下に、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを重縮合させてポリエステル樹脂を製造する。以下、その一例について説明する。
【0046】
(使用原料)
本発明に係るポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオール成分を重縮合して得られ、主たるジカルボン酸成分としてテレフタル酸を、主たるジオール成分としてエチレングリコールを用いる。
本発明に係るポリエステル樹脂の製造方法は、主たるジカルボン酸成分としてテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と、主たるジオール成分としてエチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体を原料として用いる。
全ジカルボン酸成分のうち、テレフタル酸は97モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましい。全ジオール酸成分のうち、エチレングリコールは97モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましい。
テレフタル酸およびエチレングリコールの量が97モル%以上であると、重合時間増大による樹脂の生産性低下や、機械特性の低下を生じないため好ましい。
【0047】
(共重合モノマー成分)
テレフタル酸およびエチレングリコールの量が上記範囲を満たす限りにおいて、次に示すジカルボン酸やジオール成分を共重合することができる。
テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、フタル酸が好ましく、エチレングリコール以外のジオール成分としては、シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0048】
本発明で用いられるテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸としては、、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸を3モル%以下の範囲で用いることが出来る。これらのジカルボン酸は2種類以上用いてもよい。
【0049】
エチレングリコール以外の脂肪族ジオールとしては、シクロヘキサンジメタノール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコール等の脂肪族グリコールを3モル%以下の範囲で用いることが出来る。これらのジオールは2種類以上用いてもよい。
【0050】
また、本発明では、芳香族ジカルボン酸とともに、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を原料として使用することができる。また、脂肪族ジオールとともに、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニルプロパン類等の芳香族ジオール等を原料として3モル%以下の範囲で使用することができる。
【0051】
さらに本発明では、トリメシン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトール等の多官能性カルボン酸またはアルコール化合物を原料として使用することができる。多官能性化合物の使用量は1モル%以下が好ましい。
【0052】
(エステル化工程)
まず、ポリエステル樹脂を製造するに際して、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と、ルエチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とをエステル化させる。必要に応じてその他のジカルボン酸やジオール成分を共重合しても良い。具体的には、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と、脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを含むスラリーを調製する。
【0053】
このようなスラリーにはテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体1モルに対して、通常1.005〜1.4モル、好ましくは1.01〜1.3モルのエチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体が含まれる。このスラリーは、エステル化反応工程に連続的に供給される。
エステル化反応は好ましくは2個以上のエステル化反応基を直列に連結した装置を用いてエチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら行う。
【0054】
エステル化反応工程は通常多段で実施され、第1段目のエステル化反応は、通常、反応温度が240〜270℃、好ましくは245〜265℃であり、圧力が0.02〜0.3MPaG(0.2〜3kg/cmG)、好ましくは0.05〜0.2MPaG(0.5〜2kg/cmG)の条件下で行われ、また最終段目のエステル化反応は、通常、反応温度が250〜280℃、好ましくは255〜275℃であり、圧力が0〜0.15MPaG(0〜1.5kg/cmG)、好ましくは0〜0.13MPaG(0〜1.3kg/cmG)の条件下で行われる。
【0055】
エステル化反応を2段階で実施する場合には、第1段目および第2段目のエステル化反応条件がそれぞれ上記の範囲であり、3段階以上で実施する場合には、第2段目から最終段の1段前までエステル化反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件であればよい。
【0056】
例えば、エステル化反応が3段階で実施される場合には、第2段目のエステル化反応の反応温度は通常245〜275℃、好ましくは250〜270℃であり、圧力は通常0〜0.2MPaG(0〜2kg/cmG)、好ましくは0.02〜0.15MPaG(0.2〜1.5kg/cmG)であればよい。
【0057】
これらの各段におけるエステル化反応率は、特に制限はされないが、各段階におけるエステル化反応率の上昇の度合いが滑らかに分配されることが好ましく、さらに最終段目のエステル化反応生成物においては通常90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。
【0058】
このエステル化工程により、テレフタル酸とエチレングリコールおよび共重合モノマー成分とのエステル化反応物(低次縮合物)が得られ、この低次縮合物の数平均分子量が500〜5,000程度である。
上記のようなエステル化工程で得られた低次縮合物は、次いで重縮合(液相重縮合)工程に供給される。
【0059】
(液相重縮合工程)
液相重縮合工程においては、上記したポリエステル製造用触媒の存在下に、エステル化工程で得られた低次縮合物を、減圧下で、かつポリエステル樹脂の融点以上の温度(通常250〜280℃)に加熱することにより重縮合させる。この重縮合反応では、未反応のエチレングリコールおよび共重合モノマー成分を反応系外に留去させながら行われることが望ましい。
【0060】
重縮合反応は、1段階で行ってもよく、複数段階に分けて行ってもよい。例えば、重縮合反応が複数段階で行われる場合には、第1段目の重縮合反応は、反応温度が250〜290℃、好ましくは260〜280℃、圧力が0.07〜0.003MPaG(500〜20Torr)、好ましくは0.03〜0.004MPaG(200〜30Torr)の条件下で行われ、最終段の重縮合反応は、反応温度が265〜300℃、好ましくは270〜295℃、圧力が1〜0.01kPaG(10〜0.1Torr)、好ましくは0.7〜0.07kPaG(5〜0.5Torr)の条件下で行われる。
【0061】
重縮合反応を3段階以上で実施する場合には、第2段目から最終段目の1段前間での重縮合反応は、上記1段目の反応条件と最終段目の反応条件との間の条件で行われる。例えば、重縮合工程が3段階で行われる場合には、第2段目の重縮合反応は通常、反応温度が260〜295℃、好ましくは270〜285℃で、圧力が7〜0.3kPaG(50〜2Torr)、好ましくは5〜0.7kPaG(40〜5Torr)の条件下で行われる。
【0062】
このような重縮合反応では、前述した固体状含チタン化合物(a)またはチタン含有溶液を、低次縮合物中のテレフタル酸単位に対して、金属原子換算で、0.001〜0.2モル%、好ましくは0.002〜0.1モル%使用することが望ましい。
【0063】
また、重縮合反応では、安定剤の共存下で行われることが望ましい。
安定剤として具体的に、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類;トリフェニルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルフェニホスファイト等の亜リン酸エステル類;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート等のリン酸エステルおよびリン酸、ポリリン酸等のリン化合物が挙げられる。
【0064】
このようなリン化合物の添加量は、テレフタル酸に対して、該リン化合物中のリン原子換算で、0.005〜0.2モル%、好ましくは0.01〜0.1モル%の量であることが望ましい。
【0065】
以上のような液相重縮合工程で得られるポリエステル樹脂の固有粘度[IV]は0.40〜1.0dl/g、好ましくは0.50〜0.90dl/gであることが望ましい。なお、この液相重縮合工程の最終段目を除く各段階において達成される固有粘度は特に制限されないが、各段階における固有粘度の上昇の度合いが滑らかに分配されることが好ましい。
この重縮合工程で得られるポリエステル樹脂は、通常、溶融押し出し成形されて粒状(チップまたはペレット状)に成形される。
【0066】
(固相重縮合工程)
この液相重縮合工程で得られるポリエステル樹脂は、所望によりさらに固相重縮合することができる。
固相重縮合工程に供給される粒状ポリエステル樹脂は、予め、固相重縮合を行う場合の温度より低い温度に加熱して予備結晶化を行った後、固相重縮合工程に供給してもよい。
【0067】
このような予備結晶化工程は、粒状ポリエステル樹脂を乾燥状態で通常、120〜200℃、好ましくは130〜180℃の温度に1分から4時間加熱することによって行うことができる。またこのような予備結晶化は、粒状ポリエステル樹脂を水蒸気雰囲気、水蒸気含有不活性ガス雰囲気下、または水蒸気含有空気雰囲気下で、120〜200℃の温度で1分間以上加熱することによって行うこともできる。
【0068】
予備結晶化されたポリエステル樹脂は、結晶化度が20〜50%であることが望ましい。なお、この予備結晶化処理によっては、いわゆるポリエステル樹脂の固相重縮合反応は進行せず、予備結晶化されたポリエステル樹脂の固有粘度は、液相重縮合後のポリエステル樹脂の固有粘度とほぼ同じであり、予備結晶化されたポリエステル樹脂の固有粘度と予備結晶化される前のポリエステル樹脂の固有粘度との差は、通常0.06dl/g以下である。
【0069】
固相重縮合工程は、少なくとも1段からなり、温度が190〜230℃、好ましくは195〜225℃であり、圧力が98〜0.001MPaG(1kg/cmG〜10Torr)、好ましくは常圧から0.01MPaG(100Torr)の条件下で、窒素、アルゴン、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気下で行われる。使用する不活性ガスとしては窒素ガスが望ましい。
このような固相重縮合工程を経て得られた粒状ポリエステル樹脂には、例えば特公平7−64920号公報記載の方法で、水処理を行ってもよく、この水処理は、粒状ポリエステル樹脂を水、水蒸気、水蒸気含有不活性ガス、水蒸気含有空気等と接触させることにより行われる。
【0070】
このようにして得られた粒状ポリエステル樹脂の固有粘度は、通常0.60dl/g以上、好ましくは0.60〜1.00dl/g、より好ましくは0.75〜0.95dl/gであることが望ましい。
上記のようなエステル化工程と重縮合工程とを含むポリエステル樹脂の製造工程はバッチ式、半連続式、連続式のいずれでも行うことができる。
【0071】
このようにして得られたポリエチレンテレフタレートは、チタンの含有量が1〜30ppmであり、5〜30ppmが好ましく、特に5〜20ppmの範囲にあることが好ましい。マグネシウムを用いる場合はその含有量が1〜20ppm、特に1〜15ppmの範囲にあることが好ましい。また、該ポリエチレンテレフタレートに含まれるチタンとマグネシウムとの重量比(Mg/Ti)が0.01以上、好ましくは0.06〜10、特に好ましくは0.06〜5の範囲にあることが望ましい。さらに該ポリエチレンテレフタレートは、塩素の含有量が0〜1,000ppm、好ましくは0〜100ppmの範囲である。
【0072】
このようなポリエチレンテレフタレートは、色相に優れ、特に透明性に優れる。このようにして製造されたポリエステルは、従来から公知の添加剤、例えば、安定剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、染顔料等の着色剤などが添加されていてもよく、これらの添加剤はポリエステル製造時のいずれかの段階で添加してもよく、成形加工前、マスターバッチにより添加したものであってもよい。
【0073】
本発明のボトルを成形する場合には、上記ポリエチレンテレフタレートを溶融状態でダイより押出してチューブ状パリソンを形成し、次いでパリソンを所望形状の金型中に保持した後空気を吹き込み、金型に着装することにより中空成形体を製造する方法、上記ポリエチレンテレフタレートから射出成形によりプリフォームを製造し、該プリフォームを延伸適性温度まで加熱し、次いでプリフォームを所望形状の金型中に保持した後空気を吹き込み、金型に着装することにより中空成形体を製造する方法などがある。
【0074】
プリフォームは、ポリエチレンテレフタレートを図1に示すように閉じた筒型に射出成形することにより得られる。プリフォームの射出成形は公知の方法を用いることができ、成形温度270〜300℃、成形サイクル50〜90秒で行うことが好ましい。
プリフォームの内径及び外径は、製造する中空ボトルの容量及び肉厚に応じて選択することができる。容量500mlで胴部の厚みが500μm以上650μm以下の中空ボトルをブロー成形する場合、プリフォームの内径は10〜15mm、外径は18〜27mm、肉厚は4.5〜6mmの範囲が好ましい。同様に容量1600mlで胴部の厚みが500μm以上650μm以下の中空ボトルをブロー成型する場合、プリフォームの内径は20〜32mm、外径は30〜39mm、肉厚は5〜7mmの範囲が好ましい。
【0075】
次いでプリフォームを金型中に保持して空気等の気体を吹き込み、金型に着装する中空ブロー成形により、中空成形体を製造する。ブロー成形の延伸比は、プリフォーム長さ方向の延伸倍率が1.5〜2.5倍、円周方向の延伸倍率が3〜4倍程度が好ましい。ブロー成形する際のプリフォーム外面温度は、通常100〜120℃であり、105〜115℃が好ましい。
【0076】
(中空ボトル)
本発明の中空ボトルは、図2に示すように口栓部6、円錐台状の肩部7、円筒状の胴部8および閉ざされた底部9からなる。
口栓部は密度が、1337〜1343kg/m3の範囲にあることが好ましい。口部の形状はネジ形状を有した、スクリュウキャップ(例:アルコア社“Euro Lok”など)が装着できる形状が好ましい。例えばThread Finishi Review Sub−Committee Membersから提示されている“Alcoa1716”などの形状が好ましい。
肩部の密度は、1350〜1375kg/m3が好ましく、1355〜1365kg/m3がより好ましい。厚みは600〜800μmの範囲にあることが好ましく、強度保持やデザインの為に凹凸や模様を有しても良い。
底部の密度は、1335〜1355kg/m3が好ましく、1335〜1345kg/m3がより好ましい。厚みは1〜4mmの範囲にあることが好ましく、強度保持やデザインの為に凹凸や模様を有しても良い。強度を向上するためには、図2に示すような内部に半球状に窪んだ形状が好ましい。
【0077】
(ボトル胴部)
ボトル胴部の形状は、円筒状が好ましい。なお円筒状とは、断面が完全な円であるものに限定されず、楕円等の形状であってもよい。中空ブロー成形によりプリフォームを中空ボトルに成形する際、胴部が円筒状のボトルは、円周方向の延伸倍率がどの部分も一定となり、機械強度が保たれるため好ましい。また、炭酸飲料などを充填した場合、ボトル内部の圧力が高くなる。この際に断面が円状であれば圧力が均等に分散されて強度が保たれるため好ましい。
【0078】
(胴部密度)
本発明の中空ボトルは、ボトル胴部の密度が好ましくは1355から1365kg/m3の範囲が好ましい。密度が1355から1365kg/m3の範囲にあると、機械強度が保たれるため好ましい。密度の測定は、密度勾配管を用いて測定する。塩化亜鉛、塩酸、水を用いて密度が1320kg/m3から1360kg/m3程度の範囲にある溶液と、1360kg/m3から1420kg/m3程度の範囲にある溶液を調整して、密度勾配管に用いることができる。
【0079】
(胴部厚み)
本発明の中空ボトルは、胴部の厚みが500μm以上であり、好ましくは500μm以上650μm以下であり、さらに好ましくは550μm以上650μm以下である。胴部の肉厚が500μm以上あると、繰り返し使用に耐える機械強度が得られるため好ましい。ボトル肉厚は、十分に延伸された胴部で測定する。ボトル容量が1600mlの場合、測定個所は底部からの高さが140mm以上210mm以下の範囲で、凹凸や屈曲のない曲面の平滑な部分を選ぶ。胴部に強度保持等の理由で凹凸が設けられている場合は、凹凸部と段差部は避ける。
【0080】
(降温結晶化温度)
本発明の中空ボトルは降温結晶化温度が170℃以下であり、好ましくは168℃以下である。降温結晶化温度が170℃を越えると、ボトルの透明性が劣ることがある。
降温結晶化温度を170℃以下とするためには、ポリエステルのチタン原子含有量を1ppm以上30ppm以下とすることが好ましく、5ppm以上30ppm以下とすることがさらに好ましい。
またアンチモン原子の含有量は100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。さらに、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガンの含有量は、原子として合計で5ppm以下であることが好ましい。アンチモン原子の含有量が100ppmを越える場合、あるいはカルシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガンの合計含有量が5ppmを越える場合、降温結晶化温度が170℃を越えることがある。
【0081】
なお、共重合モノマー成分を増やし、全ジカルボン酸成分のうち、テレフタル酸を97モル%以下とするか、または全ジオール酸成分のうち、エチレングリコールを97モル%以下とすることによっても降温結晶化温度を下げることは可能であるが、ポリエステル中空ボトルの機械特性または生産性が損なわれることがある。また、固有粘度を0.82dl/g以上とすることによっても降温結晶化温度を下げることは可能であるが、ポリエステル中空ボトルの生産性が損なわれることがある。
【0082】
(降温結晶化温度の測定)
サンプルは、透明性の優劣を判断しやすい胴部で測定する。測定個所は底部からの高さが140mm以上210mm以下の範囲で、ボトルの胴部を切り出し、150℃で5時間真空乾燥した切片を用いる。
降温結晶化温度(Thc)は、DSC:示差走査熱量計を用いて、以下の条件にて測定する。
雰囲気:窒素中
前処理:30℃から290℃までを320℃/分の速度で昇温、290℃にて10分保持した後、30℃まで320℃/分の速度で冷却し、さらに30℃にて10分保持する。
測定:30℃から290℃まで10分/分の速度で昇温、290℃にて10分保持した後、10度/分の速度で30℃まで降温させる。この降温時の結晶化温度をThcとする。
【0083】
(固有粘度)
本発明の中空ボトルの固有粘度は通常0.70から0.86dl/gであり、好ましくは0.74から0.82dl/gの範囲にあり、さらに好ましくは0.77から0.82dl/gの範囲にある。固有粘度が0.74dl/g以上であると、繰り返し使用に必要な強度が得られるため好ましい。固有粘度が0.82dl/g以下であると、生産効率の観点から好ましい。
測定方法は、ボトルの胴部を切り出して1,1,1−トリクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)中に溶解し、25℃で測定された溶液粘度から固有粘度を算出する。
【0084】
(溶融粘度)
本発明の中空ボトルは溶融粘度が230から340Pa・sの範囲にあることが好ましく、250から320Pa・sの範囲にあることがさらに好ましい。溶融粘度が230Pa・s以上であると、繰り返し使用に必要な強度が得られるため好ましい。溶融粘度が340Pa・s以下であると、生産効率の観点から好ましい。
溶融粘度は、十分に乾燥した試料を用い、一定温度で溶融した樹脂を一定速度でノズルから押し出す時の粘度を測定する。温度270℃、せん断速度1333sec.−1における値を用いる。
溶融粘度は樹脂固有の値であるため測定試料はいずれの部分でも良いが、成形体の胴部は延伸されており溶融するのに時間がかかることがあるため、口栓部を用いて測定することが好ましい。
【0085】
(ヘイズ)
サンプルは、透明性の優劣を判断しやすい胴部で測定する。測定個所は底部からの高さが140mm以上210mm以下の範囲で、ボトルの胴部を切り出し、ボトルの胴部を切り出し、ヘイズメーター 日本電色社製NDH20−D を用いて測定する。
胴部の厚みが500μmから550μmの場合、ヘイズの値は2.0%以下が好ましい。胴部の厚みが550μmから600μmの場合、ヘイズの値は2.5%以下が好ましい。胴部の厚みが600μmから650μmの場合、ヘイズの値は3.0%以下が好ましい。胴部が650μmより厚い場合、ヘイズの値は3.5%以下が好ましい。
【実施例】
【0086】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
【0087】
(チタン触媒溶液の調整)
1,000mlガラス製ビーカーに脱イオン水500mlを秤取し、氷浴にて冷却した後撹拌しながら四塩化チタン5gを滴下した。塩化水素の発生が止まったら氷浴より取り出し、室温下で撹拌しながら25%アンモニア水を滴下し、液のpHを9にした。これに、室温下で攪拌しながら15%酢酸水溶液を滴下し、液のpHを5にした。生成した沈殿物を濾過により、分離した。洗浄後の沈殿物を、30重量%エチレングリコール含有水でスラリー濃度2.0重量%のスラリーとして30分間保持した後、二流体ノズル式のスプレードライヤーを用いて温度90℃で造粒乾燥を行い、固体状の加水分解物(固体状含チタン化合物)を得た。
【0088】
得られた固体状含チタン化合物の粒径分布は、0.5〜20μmであり、平均粒径は1.8μmであった。
ICP分析法により測定した固体状含チタン化合物中の金属チタン含量は、34.8重量%であった。
固体状含チタン化合物が、チタン、酸素、炭素および水素を含みTi−O−C結合を有することは、元素分析、EXAFS分析および13C−NMR分析により確認した。また固体状の加水分解物のエチレングリコールへの最大溶解度は3,000ppmであり、炭素含有量は11.6重量%、チタンと炭素との重量比(Ti/C)は3であった。
【0089】
200mlガラス製フラスコにエチレングリコール102gとグリセリン18gを秤取し、これに水酸化ナトリウム1.74gを添加し溶解させた。これに上記固体状含チタン化合物を3.38gを添加し、120℃で30分間加熱して溶解させて、ポリエステル製造用触媒であるチタン含有溶液を調製した。ICP分析法により測定したこのチタン含有溶液中の金属チタン含量は1.0重量%であり、また、ヘイズメーター(日本電色工業(株)製、ND−1001DP)を用いて測定したこの溶液のHAZE値は1.0%であった。
【0090】
(ポリエステルの製造)
予め33,500重量部の反応液(定常運転時)が滞留する反応器内に、撹拌下、窒素雰囲気で260℃、0.9kg/cm2 G(0.09MPaG)に維持された条件下に、6,458重量部/時の高純度テレフタル酸と2,615重量部/時のエチレングリコールとを混合して調製されたスラリーを連続的に供給し、エステル化反応を行った。このエステル化反応では、水とエチレングリコールとの混合液が留去された。
エステル化反応物(低次縮合物)は、平均滞留時間が3.5時間になるように制御して、連続的に系外に抜き出した。
上記で得られたエチレングリコールとテレフタル酸との低次縮合物の数平均分子量は、600〜1,300(3〜5量体)であった。
【0091】
重縮合触媒として、調製したチタン触媒溶液を用い、上記で得られた低次縮合物の重縮合反応を行った。
その際各触媒の添加量としては、チタン原子に換算して、生成ポリエチレンテレフタレートに対し、15ppmとなるようにチタン触媒溶液を添加し、さらにリン酸をリン原子に換算して生成ポリエチレンテレフタレートに対し、6ppmとなるように加え、285℃、0.1kPa(1Torr)の条件下で重縮合を行い、固有粘度が0.62dl/gの液重品ポリエチレンテレフタレートが得られる時間を測定した。
【0092】
次に得られた液重品ポリエチレンテレフタレートを170℃で2時間、予備結晶化を行った後、215℃で窒素ガス雰囲気下で加熱し、固有粘度が0.62dl/gから0.81dl/gになるまで固相重合で分子量を上昇させた。この際に要する固相重縮合時間は9(hour)であった。
【0093】
(ボトルの成形)
得られたポリエチレンテレフタレートを、除湿エア乾燥機を用いて170℃、4時間にて乾燥した。乾燥後の樹脂中の水分量は50ppm以下であった。乾燥したポリエチレンテレフタレートを先ず、名機製作所製M−100射出成形機を用いて、シリンダー設定温度280℃、成形サイクル60秒前後で成形、プリフォームを得た。
プリフォームの内径は21mm、外径は32mm、肉厚は6mmであった。得られたプリフォームはSidel製ブロー成形機SBO1を用いてプリフォーム温度105から115℃の範囲でブロー成形によりボトルを得た。
延伸比は、プリフォーム長さ方向が2.1倍、円周方向が3.5倍であった。
【0094】
ボトルの容量は1600mlで、胴部形状は凹凸の無い円筒形とした。底部は内側に凹形となる形状とした。
胴部内径は約94mm、外径が約95mmであった。ボトルの胴部肉厚は610μmであった。
なお厚みは、底部より170mmの高さで平滑な胴部から30mm四方の小片を切り取り、測定した。胴部の密度は1360kg/m3であった。
肩部は厚みが650μm、密度が1358kg/m3であった。底部は厚みが2.5mm、密度が1338kg/m3であった。
【0095】
(降温結晶化温度(Thc)の測定)
得られたボトルの胴部を切り出し、150℃で5時間真空乾燥した切片を示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC)を用いて、以下の条件にて測定を行った。
前処理:30℃から290℃までを320℃/分の速度で昇温、290℃にて10分保持した後、30℃まで320℃/分の速度で冷却した。さらに30℃にて10分保持した。
測定:30℃から290℃まで10分/分の速度で昇温、290℃にて10分保持した後、10度/分の速度で30℃まで降温させた。この降温時の結晶化温度をThcとした。
【0096】
(ボトル胴部の透明性)
得られたボトルの胴部(平滑部)を40mm四方に切り出し、ヘイズメーター(日本電色(株)製NDH−20D)をもちいて3回測定し、その平均値をもって評価した。
(金属量)
ボトル中に含まれる金属原子は蛍光X線により定量した。
【0097】
(固有粘度の測定)
得られたボトルの胴部を切り出し、固有粘度を測定した。
(ボトル耐圧強度の測定)
得られたボトルを40℃、90RH(相対湿度)のオーブンに1週間保管する。1週間経過後、ボトルを取り出し、ボトルに水を50cc/sec.の流量で注入し破裂するまでの最大ボトル内圧(水圧)を耐圧強度とした。
【0098】
(溶融粘度の測定)
先ず、得られた中空ブロー成形ボトルの口栓部を縦横が1から3mm四方のペレット状に切り出す。本実施例では2mm四方のペレットを用いた。切片(ペレット)は50ccのガラス製スクリュウバイアル瓶に入れ、150℃、16時間の条件で真空乾燥機により乾燥処理を行う。乾燥処理後から測定までの時間は限定されないが、切片は窒素を流すことの出来る容器に保管し、吸湿を防ぐ必要がある。吸湿したサンプルを測定に用いると測定時に加水分解を起こし、正確な測定が難しくなる。
次に、溶融粘度の測定を実施する。溶融粘度は、一定温度で溶融した樹脂を一定速度でノズルから押し出す時の粘度を測定する。装置は東洋精機社製キャビログラフ1B型を使用した。ノズルは、穴径が1.0mm、穴の長さが30mmであるものを使用した。乾燥した切片は15g採取し、270℃に調整された、溶融シリンダーに投入し6分間保持し、樹脂を溶融させる。その後装置に装着されたクロスヘッドという金属棒をシリンダーに挿入し、樹脂をノズルから押し出す。押出速度は、100mm/sec.の速度で押し出す。押出速度は以下の式によりずり速度に換算した。
ずり速度=2×V×100/(15×D
V:押出速度(mm/sec.)、D:ノズル穴径(mm)
したがって、溶融粘度はずり速度=2×100×100/(15×1)=1333における値を用いた。
【0099】
(ボトル耐ストレスクラッキング性の評価)
得られたボトルを40℃、90RH(相対湿度)のオーブンに1週間保管する。1週間経過後、ボトルを取り出し、ボトルに1500ccの水を充填する。さらに、ボトル内に炭酸水素ナトリウム23gとクエン酸10gを混合添加、キャップにて密栓しボトル内圧を約4.0GV(ガスボリューム)に調整する。23℃におけるボトル内圧は約0.5MPaであった。次に、ボトル底部に界面活性剤(スライダー205)を塗布し、再び40℃、90RH(相対湿度)のオーブンに1週間保管し、底部ならびに胴部の変形状態を観察する。評価は、外観上変化の無い場合は変化無し、変化した場合は、場所(例:胴部、底部等)、変形の種類(例:クラック、破壊)を観察する。
【0100】
(比較例1)
ポリエステル重合用触媒として、Ti触媒の代わりに酢酸アンチモンをアンチモン原子として表に示す量で用い、色相調整剤として酢酸コバルトを使用したこと以外は、実施例1と同様にポリエチレンテレフタレートならびに成形品を得た。結晶化温度が高く透明性に劣る。
【0101】
(比較例2)
固相重合時間を13時間としたこと以外は比較例1と同様に樹脂および成形品を得た。分子量を上げるためにより長い重合時間が必要であり、透明性も実施例1より劣る。
【0102】
(比較例3)
全ジカルボン酸単位の内、イソフタル酸成分量を5モル%としたこと、固相重合温度を200℃、固相重合時間を24時間とした以外は比較例1と同様に樹脂および成形品を得た。イソフタル酸共重合量が多いため融点が低く、固相重合温度をあげられないので、実施例同等のIVを得るのに固相重合時間が倍以上かかる。またイソフタル酸量を増大することにより、耐圧強度および耐ストレスクラッキング性が実施例1より低下している。
【0103】


【0104】
EG:エチレングリコール
TA:テレフタル酸
IA:イソフタル酸
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸単位とジオール単位より構成されるポリエステル樹脂からなり、口栓部、肩部、胴部、および底部を備えた中空ボトルであって、
(1)ボトル胴部の肉厚が500μm以上であり、
(2)チタン原子含有量が1ppm以上30ppm以下である
ことを特徴とする中空ボトル。
【請求項2】
(3)ボトル胴部の降温結晶化温度(Thc)が170℃以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の中空ボトル。
【請求項3】
(4)全ジカルボン酸単位のうち97モル%以上がテレフタル酸であり、全ジオール単位のうち97%モル以上がエチレングリコールであるポリエステル樹脂からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の中空ボトル。
【請求項4】
(5)前記ポリエステル樹脂の固有粘度が0.74から0.82dl/gの範囲にある
ことを特徴とする請求項1に記載の中空ボトル。
【請求項5】
(6)前記ポリエステル樹脂の270℃、せん断速度1333sec.−1における溶融粘度が230から340Pa・sの範囲にある
ことを特徴とする請求項1に記載の中空ボトル。

【国際公開番号】WO2005/080480
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519370(P2006−519370)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002989
【国際出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】