説明

ポリエステル系樹脂組成物

【課題】本発明の目的は、難燃性と共に、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度等の諸物性を確保できるポリエステル系樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】ポリエステル系樹脂の少なくとも1種と、表面処理された金属水酸化物粒子の少なくとも1種と、反応性基を有するホスファゼン化合物の少なくとも1種とを含有することを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、耐熱性、機械的強度に優れたポリエステル系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業のあらゆる分野において使用されているプラスチックは、その大半が使用後に廃棄されていることから環境保全の観点から大きな社会問題となっており、また、近年プラスチックの原料となる石油資源の枯渇が懸念される中、再生可能な資源の確保が重要な課題となってきている。そのような社会情勢において、解決策として使用後は生分解して自然界に戻る生分解性プラスチックや、再生可能な非枯渇資源であるバイオマスから得られる植物原料由来プラスチックの利用が検討されてきている。例えば、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチテンサクシネートといった生分解性脂肪酸ポリエステル類は既に工業的に量産されており、用途開拓が進められている。これらの中で、特にポリ乳酸は、耐熱性、透明性等に比較的優れていることから、ポリスチレン、ABS樹脂等の代替材料として注目されており、家電機器、OA機器、自動車用部品等の成形部品用途への利用が検討されてきている。
【0003】
ところが、ポリ乳酸は、ポリスチレンやABS樹脂と同様に燃焼し易い樹脂であるため、家電機器やOA機器等の構成部材に使用する場合には難燃剤の付与が求められており、近年その要求性能が次第に高まってきている。従来、ポリスチレンやABS樹脂等に難燃性を付与する際、主として臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤が使用されてきたが、廃棄時の焼却処理においてダイオキシン類のような有害ガスが発生することがあり、サーマルリサイクルにおける安全性に課題があった。これに対し、ハロゲン系難燃剤の代替としてリン化合物や、金属水酸化物への代替が検討されており、特に、分解時に有害ガスを発生させることのない安全性の高い難燃剤として例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水和物系難燃剤やリン酸エステル系、縮合リン酸エステル系、リン酸アミド系、ポリリン酸アンモニウム系およびホスファゼン系などのリン系難燃剤が多用されるようになっている。金属水和物系難燃剤は、脱水熱分解の吸熱反応とそれに伴う水の放出が合成樹脂の熱分解や燃焼開始温度と重複した温度領域で起こることで難燃化効果を発揮するが、その効果を高めるためには樹脂組成物に対して多量に配合する必要がある。例えば、特許文献1には、生分解性プラスチックである脂肪族ポリエステル類に水酸化アルミニウムあるいは水酸化マグネシウムを30質量%〜50質量%配合して難燃性を付与する手法が開示されているが十分な難燃性を付与することができず、通常60質量%以上配合する必要があり、金属水酸化物が破壊の開始点になるため、耐衝撃性等の物性が大幅に低下するといった問題があった。また、リン系難燃剤を用いる場合、リン酸エステル系および縮合リン酸エステル系のものは、可塑効果を有するため、難燃性を高めるために樹脂組成物に対して多量に添加すると、樹脂成形品の機械的強度が低下するなどの問題があり、リン酸エステル系、リン酸アミド系、リン酸アミドエステル系およびポリリン酸アンモニウム系のものは、容易に加水分解することから、機械的および電気的に長期信頼性が要求される樹脂成形品用途において使用が困難である。これらに対し、ホスファゼン系の難燃剤は、他のリン系難燃剤に比べて可塑効果および加水分解性が小さく、樹脂組成物に対する添加量を大きくすることができるため、特許文献2,3に記載のように、合成樹脂用の有効な難燃剤として多用されつつあるが、難燃効果を高めるため配合量を増やすと、高温使用条件下においてその樹脂成形品からブリードアウトし易いといった問題があった。また、特許文献4には、上記以外のノンハロゲンまたはノンリンの難燃剤を用いる方法として、ケイ素酸化物を樹脂に相溶化させる手法が開示されているが、家電、OA機器用途に使用するには難燃性が十分でなく、機械物性も十分ではない。一方、耐衝撃性等の機械物性を付与する手段として、例えば、特許文献5に、ポリ乳酸系樹脂にポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート共重合体等の脂肪族ポリエステルを配合することが開示されているが、ポリ乳酸系樹脂に金属水酸化物を配合した系の耐衝撃性を改良するためには、脂肪族ポリエステルを多量に配合しなければならず、これを用いて得られた射出成形体は弾性率低下したり、耐熱性の低下が生じるので、耐熱性が要求される用途には使用することができなかった。
【特許文献1】特開平8−252823号公報
【特許文献2】特開2004−83671号公報
【特許文献3】特開2004−210849号公報
【特許文献4】特開2000−319532号公報
【特許文献5】特開平10−87976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、ポリ乳酸系樹脂等の脂肪族ポリエステル系樹脂に金属水酸化物、あるいはその他の難燃剤を配合することによって難燃性を付与する方法では、難燃剤を多量に添加することによって難燃性を向上させることは可能であるが、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度等の諸物性が損なわれるという欠点を解決することはできなかった。本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、難燃性と共に、前記諸物性を確保できるポリエステル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0006】
1.ポリエステル系樹脂の少なくとも1種と、表面処理された金属水酸化物粒子の少なくとも1種と、反応性基を有するホスファゼン化合物の少なくとも1種とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【0007】
2.前記ポリエステル系樹脂が下記一般式(1)で表される構造単位の1種、あるいは2種以上を有する重合体であることを特徴とする前記1記載の樹脂組成物。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から20の置換、もしくは無置換の炭化水素基を表し、nは0から6の整数を表す。)
3.前記樹脂組成物が(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂の中から選ばれる1種以上の樹脂を含むことを特徴とする前記1または2に記載の樹脂組成物。
【0010】
4.前記金属水酸化物粒子がシランカップリング剤で表面処理され、平均粒径500nm以下であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0011】
5.前記ホスファゼン化合物が、(メタ)アクリル基、エポキシ基、ヒドロキシル基から選ばれる少なくとも1種の反応性基を有することを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、難燃性と共に、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度等の諸物性を確保できるポリエステル系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂の少なくとも1種と、表面処理された金属水酸化物粒子の少なくとも1種と、反応性基を有するホスファゼン化合物の少なくとも1種とを含有することを特徴とする。
【0015】
本発明者らは上記課題に対し、ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物に配合する難燃剤として、金属水酸化物とその他の難燃剤について構造設計と難燃剤処方について鋭意検討した結果、少なくとも表面処理された金属水酸化物と反応性基を有するホスファゼン化合物を含有する樹脂組成物によって、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度を確保しつつ高い難燃性を有するポリエステル系樹脂組成物が得られることを見出したものである。
【0016】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
【0017】
(ポリエステル系樹脂組成物)
本発明に係るポリエステル系樹脂は、前記一般式(1)で表される構造単位の1種、あるいは2種以上を有する重合体であり、構成成分として、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシブチルカルボン酸などのような脂肪族ヒドロキシカルボン酸、グリコシド、ラクチド、ブチロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどのような脂肪族ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチルプロピルエーテルグリコール、ビスヒドロキシエチルプロパン、ビスヒドロキシプロピルブタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどの脂肪族ポリエーテルグリコール、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などの成分を含むものであって、脂肪族ポリエステルのホモポリマー、脂肪族ポリエステル共重合ポリマー等が挙げられる。具体的には、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバレレート)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリカプロラクトン、ポリ(カプロラクトン/ブチレンサクシネート)等が挙げられる。これらのポリエステル系樹脂は、その2種以上を併用して用いても差し支えない。
【0018】
また、本発明の樹脂組成物においては、上記目的物性を阻害しない範囲で耐熱性や機械的強度等の物性を調整する目的で前記ポリエステル系樹脂以外の樹脂をブレンドして用いてもよい。例えば、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート)等の(メタ)アクリル樹脂、脂環式ビスフェノールAポリカーボネート、ビスフェノールFポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、シクロオレフィン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0019】
前記樹脂組成物において、ポリエステル系樹脂に対するポリエステル系樹脂以外の樹脂の配合量は、所望の樹脂物性を調整する上で好ましくは10〜70質量%の範囲で使用される。
【0020】
(金属水酸化物)
本発明に使用される金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化スズ水和物、硝酸亜鉛六水和物、硝酸ニッケル六水和物などが挙げられ、特に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを用いることが好ましい。また、これらを配合した樹脂組成物の難燃性を向上させ、且つ、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度の低下を抑制するために、上記の金属水酸化物粒子を表面処理し、粒子表面に反応性基を導入することが重要である。
【0021】
反応性基を有することで、配合時に樹脂組成物中に均一に分散させることが可能となるため難燃性機能を向上させることができる。また、難燃機能の向上により、配合量を低減することが可能となり、従来金属水酸化物の配合に基づく耐衝撃性等の機械的強度低下が抑制される。
【0022】
該表面処理剤としては、反応性基を導入できるシランカップリング剤が用いられ、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のビニル基を末端に有するシランカップリング剤、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基を末端に有するシランカップリング剤等が挙げられる。これらの中で、末端にエポキシ基、あるいはビニル基を有するものが好ましく用いられる。
【0023】
このシランカップリング剤による金属水酸化物の表面処理方法としては、乾式法、湿式法などで行うことができる。乾式法は、シラン溶液を水酸化マグネシウムあるいは水酸化アルミニウムに噴霧、滴下して、攪拌し、これを乾燥する方法である。湿式法は、水に水酸化マグネシウムあるいは水酸化アルミニウムを分散させておき、これにシランを加えて攪拌し、濾過後乾燥する方法である。また、金属水酸化物とポリエステル系樹脂組成物を配合すると同時にシランカップリング剤を添加するインテグラルブレンド法を用いてもよい。本発明に使用される金属水酸化物には、上記のシランカップリング剤による表面処理と併用して、他の処理剤、例えば、高級脂肪酸、チタネートカップリング剤、ゾル−ゲルコーティング、シリコーンポリマーコーティング、樹脂コーティング等を用いる表面処理が施されてもよい。また、上記シランカップリング剤により表面処理された金属水酸化物と、他の処理剤により表面処理された金属水酸化物とを併用してもよい。
【0024】
上記金属水酸化物の平均粒径は、難燃性を向上させ、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度の低下を抑制するために500nm以下が好ましい。金属水酸化物の平均粒径が500nm以下であれば、実用上十分な難燃性が得られ、耐衝撃性、機械的強度の低下も抑えられるが、好ましくは100nm以下である。100nm以下であれば、難燃性を向上し、且つ金属水酸化物の添加量を低減することができるため、耐衝撃性、機械的強度の低下を更に抑制することが可能となる。
【0025】
また、金属水酸化物粒子の配合量は、樹脂100質量部に対して10〜30質量部であることが好ましく、10〜20質量部がより好ましい。10質量部未満では難燃性が得られない場合があり、30質量部以上では機械的強度が低下する場合がある。
【0026】
(ホスファゼン化合物)
本発明で用いられるホスファゼン化合物としては、下記の一般式(2)で表される反応性基を有する環状ホスファゼン化合物であることが好ましい。
【0027】
【化2】

【0028】
上記一般式(2)中、nは3〜15の整数を示し、Aは下記のA1基、A2基およびA3基からなる群から選ばれた基を示す。また、2n個のAのうちの2〜2n個が反応性基を有する炭化水素基であり、nは3〜10が好ましく、より好ましくは3、もしくは4である。
【0029】
(A1基)炭素数2〜6のエポキシオキシ基を有する炭素数2〜30の炭化水素基であり、具体的には、4′−(1,2−エポキシエトキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(1,2−エポキシプロピルオキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−グリシジルオキシフェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(1,2−エポキシ−1−メチルエトキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(1,2−エポキシブトキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(2,3−エポキシブトキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(3,4−エポキシブトキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基等が挙げられるが、特に4′−(1,2−エポキシプロピルオキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−グリシジルオキシフェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(3,4−エポキシブトキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基が好ましい。
【0030】
(A2基)アクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基を有する、炭素数3〜30の炭化水素基であり、具体的には4′−(アクリロイルオキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(メタクリロイルオキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(1−プロペニルオキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(2−プロペニルオキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(3−ブテニルオキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基等が挙げられるが、特に4′−(アクリロイルオキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(メタクリロイルオキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基、4′−(2−プロペニルオキシ)フェニル−4−フェニルオキシ基が好ましい。
【0031】
(A3基)ヒドロキシル基を有する炭素数6〜30の炭化水素基であり、具体的には4′−ヒドロキシフェニル−4−フェニルオキシ基、4′−ヒドロキシフェニルオキシ−4−フェニルオキシ基、4′−ヒドロキシフェニルチオ−4−フェニルオキシ基、4′−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基、4′−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基、4′−ヒドロキシベンゾイル−4−フェニルオキシ基等が挙げられるが、特に4′−ヒドロキシフェニル−4−フェニルオキシ基、4′−ヒドロキシフェニルオキシ−4−フェニルオキシ基、4′−ヒドロキシフェニルスルホニル−4−フェニルオキシ基、4′−ヒドロキシフェニルイソプロピリデン−4−フェニルオキシ基が好ましい。
【0032】
ホスファゼン化合物の配合量は、樹脂100質量部に対して5〜20質量部であることが好ましく、5〜10質量部がより好ましい。5質量部未満では難燃性が得られない場合があり、20質量部以上では耐熱性が低下する場合がある。
【0033】
また、本発明に係るポリエステル系樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、リン系、フェノール系、硫黄系など各種の酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤など各種の耐候剤、銅害防止剤、変性シリコーンオイル、シリコーンオイル、ワックス、酸アミド、脂肪酸、脂肪酸金属塩など各種の滑剤、芳香族リン酸金属塩系、ゲルオール系など各種の造核剤、グリセリン脂肪酸エステル系、脂肪族パラフィンオイル、芳香族系パラフィンオイル、フタル酸系、エステル系など各種の可塑剤、タルク、クレーなど各種のフィラー、各種の着色剤などの添加剤等を必要に応じて更に配合しても差し支えない。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、難燃化成分として反応性基を有する表面処理金属水酸化物粒子の少なくとも1種、および反応性基を有するホスファゼン化合物の少なくとも1種が配合される為、樹脂組成物の難燃性を向上させるとともに、難燃剤の配合量を低減が可能であることで、耐熱性、機械的強度の低下を抑制した良好な物性を得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
【0036】
(製造例1)
水酸化アルミニウム(ハイジライトH−42I、昭和電工社製、平均粒子径1μm)を、平均粒径500μmのビーズを用いて乾式でビーズミル粉砕することで平均粒径450nmに調整した。次に、ヘンシェルミキサー内で、この粉砕した水酸化アルミニウム100質量部に対し、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Z−6040、東レ・ダウコーニング社製)10質量部を添加して20分間撹拌した後、熱風乾燥機中、110℃で1時間乾燥し、水酸化アルミニウム粒子Aを得た。
【0037】
(製造例2)
水酸化アルミニウム(ハイジライトH−42I、昭和電工社製、平均粒子径1μm)を、平均粒径100μmのビーズを用いて乾式でビーズミル粉砕することで平均粒径90nmに調整すること以外は、製造例1と同様の方法にて水酸化アルミニウム粒子Bを得た。
【0038】
(製造例3)
水酸化アルミニウム(ハイジライトH−42I、昭和電工社製、平均粒子径1μm)を、平均粒径500μmのビーズを用いて乾式でビーズミル粉砕することで平均粒径510nmに調整し、シランカップリング剤としてメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Z−6030、東レ・ダウコーニング社製)を用いること以外は、製造例1と同様の方法にて水酸化アルミニウム粒子Cを得た。
【0039】
(製造例4)
水酸化アルミニウム(ハイジライトH−42I、昭和電工社製、平均粒子径1μm)を、平均粒径100μmのビーズを用いて乾式でビーズミル粉砕することで平均粒径450nmに調整し、シランカップリング剤としてn−プロピルトリメトキシシラン(Z−6265、東レ・ダウコーニング社製)を用いること以外は、製造例1と同様の方法にて表面に反応性基をもたない水酸化アルミニウム粒子Dを得た。
【0040】
(製造例5)
水酸化マグネシウム(200−06H、協和化学工業社製、平均粒子径600nm)を、平均粒径500μmのビーズを用いて乾式でビーズミル粉砕することで平均粒径450nmに調整すること以外は、製造例1と同様の方法にて表面に反応性基をもたない水酸化マグネシウム粒子Aを得た。
【0041】
(製造例6)
水酸化マグネシウム(200−06H、協和化学工業社製、平均粒子径600nm)を、平均粒径100μmのビーズを用いて乾式でビーズミル粉砕することで平均粒径90nmに調整すること以外は、製造例1と同様の方法にて水酸化マグネシウム粒子Bを得た。
【0042】
(製造例7)
特開2007−153748号公報記載の方法に従い、4′−(1−プロペニルオキシ)フェニル−4−フェノールとヘキサクロロシクロトリホスファゼンを反応させた後、アリル基をエポキシすることにより、反応性基としてエポキシ基を有する下記ホスファゼン化合物Aを得た。
【0043】
[N=P(OC−COCHCH(O)CH
(製造例8)
特開2007−153749号公報記載の方法に従い、4′−メトキシフェニル−4−フェノールとヘキサクロロシクロトリホスファゼンを反応させ、脱保護工程の後、メタクリル酸クロライドと反応させることにより、反応性基としてメタクリロイル基を有する下記ホスファゼン化合物Bを得た。
【0044】
[N=P(OC−COCOC(CH)=CH
(製造例9)
PHOSPHORUS−NITROGEN COMPOUNDS、H.R.ALLCOCK著、1972年刊、151頁、に記載されている方法に従い、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンを用いて下記の反応性基を持たないホスファゼン化合物Cを得た。
【0045】
[N=P(OC−C
〔実施例1〜11、比較例1〜3〕
表1、2に示す配合組成(表1、2中、各々質量部を示す)に従って各原料をドライブレンドした後、真空乾燥機を用いて60℃、12時間乾燥させた。次に、二軸押出機(東芝機械社製 TEM35型)を用い、バレル温度180℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量10kg/hの条件にて溶融混練し、押出機先端から吐出された樹脂をペレット状にカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットについて、70℃、24時間真空乾燥したのち、射出成形機(東芝機械社製 IS−80G型)を用いて、物性測定用試験片(ASTM型)を作製し、各種測定に供した。評価結果を表1、2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表1、2中、製造例に記載した成分以外の配合成分の詳細は、以下の通りである。
【0049】
〔配合成分の詳細〕
ポリエステル系樹脂A:ポリ乳酸(レイシアH−400、三井化学社製)
ポリエステル系樹脂B:ポリブチレンアジペート/テレフタレート(エコフレックスF、BASFジャパン社製)
ポリカーボネート樹脂:ユーピロンS1000(三菱エンジニアプラスチック社製)
(メタ)アクリル樹脂:アクリエステル3FE(三菱レイヨン社製)
ポリオレフィン樹脂:アートン(JSR(株)製)
ポリアミド樹脂:ナイロン66(デュポン社製)
また、各樹脂組成物の物性評価方法は以下の通りである。
【0050】
〔樹脂の物性評価方法〕
(1)難燃性
UL94V(ASTM D 3801;Underwriters Laboratories社基準)の垂直燃焼試験法に準拠して燃焼試験を行い、難燃性を評価した。試験片は、1.5mm厚のものを用いた。評価ランクは難燃性が優れる順にV−0、V−1、V−2で示され、前記のランクに該当しなかった物は規格外とした。更に、V−0、V−1、V−2と評価された材料は同規格の5V試験を行った。
【0051】
(2)熱変形温度
射出成形により作製した3mm厚みの試験片を用い、ASTM法D648に従い、1.82MPaの荷重条件で熱変形温度を求めた。
【0052】
(3)アイゾット(IZOD)衝撃強度
ASTM D256に準拠し、試験片として肉厚3.18mmのものを用い、23℃において測定した。
【0053】
(4)曲げ強度
射出成形により作製した3mm厚みの試験片を用い、60℃、95%RHの高温高湿度環境下で21日間保管後、ISO178に準拠して測定した。
【0054】
表1、表2の物性評価結果から明らかなように、本発明に係わる実施例1〜11の樹脂組成物は、UL94垂直燃焼試験に基づく難燃性がV−1以上であり、且つ耐熱性、機械的強度に優れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂の少なくとも1種と、表面処理された金属水酸化物粒子の少なくとも1種と、反応性基を有するホスファゼン化合物の少なくとも1種とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂が下記一般式(1)で表される構造単位の1種、あるいは2種以上を有する重合体であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【化1】

(式中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から20の置換、もしくは無置換の炭化水素基を表し、nは0から6の整数を表す。)
【請求項3】
前記樹脂組成物が(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂の中から選ばれる1種以上の樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記金属水酸化物粒子がシランカップリング剤で表面処理され、平均粒径500nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ホスファゼン化合物が、(メタ)アクリル基、エポキシ基、ヒドロキシル基から選ばれる少なくとも1種の反応性基を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−31097(P2010−31097A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192909(P2008−192909)
【出願日】平成20年7月26日(2008.7.26)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】