説明

ポリエステル繊維及びそれを用いて得られた仮撚加工糸

【課題】本発明の目的は、主にチタン触媒を用いて製造されたポリエステルを用いた繊維を製造する際に、配向結晶性における結晶サイズの拡大化が抑制された、特に紡糸速度が2000〜4000m/minの領域にあるワンステップの製糸工程において繊度斑が少なく、後の延伸工程で得られた延伸糸の染色斑に優れたポリエステル部分的配向未延伸糸及び、それを用いて得られた仮撚加工糸を提供することである。
【解決手段】ポリエステル(PES)、金属原子、ホスホン酸化合物を含むポリエステル組成物であって、PESはPESを構成する全繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位である固有粘度が0.55dL/g以上のポリエステルであり、複屈折率が0.03〜0.07の繊維配向であり、結晶子サイズが45オングストローム以下となる繊維構造であって、ポリエステル可溶性のチタン原子含有量がPESを構成する全繰返し単位に対してTi金属原子として3〜30ミリモル%であり、マンガン、マグネシウムおよび亜鉛よりなる群から選ばれる1種または2種以上の金属原子含有量がPESを構成する全繰返し単位に対して10〜1000ミリモル%であり、アンチモン元素含有量がポリエステル組成物に対して15質量ppm未満であり、フェニルホスホン酸を一定の数式を満たす範囲で含有するポリエステル部分的配向未延伸糸及び、それを用いて得られた仮撚加工糸によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル繊維に関する。さらに詳しくは、繊度斑が少なく、配向結晶性における結晶サイズの拡大化が抑制され、後の延伸工程で得られた延伸糸の均染性に優れたポリエステル繊維及びそれを用いて得られた仮撚加工糸である。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートは、機械的特性、化学的特性、成形性等に優れており、古くからポリエステル繊維用に利用されている。なかでも紡糸速度を2000〜4000m/min.の領域で部分的配向未延伸糸を得た後、仮撚加工機にて捲縮付与糸された仮撚加工糸は嵩高性や風合、ストレッチ性等の様々な特性を活かして多くの用途に使用されており、部分的配向未延伸糸及びそれを用いた仮撚加工糸をいかにして効率良く低コストで品質の良いものを生産するか各所での技術開発が進められてきた。一方でポリエチレンテレフタレートは一般的にアンチモン化合物を重合触媒として使用しているが、このポリエステルを例えば長時間にわたって連続的に溶融紡糸し繊維化しようとした場合、口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)が付着堆積し、溶融ポリマー流れの曲がり現象(ベンディング)が発生することが原因となって紡糸、仮撚工程において毛羽および/または断糸などを発生するという生産性低下の問題が生じる。
【0003】
そこで、このような問題を解決する為に、ポリエステルの重合触媒としてチタンテトラブトキシドを変性させたようなチタン系化合物を用いることが提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。このような方法によって製造されたポリエチレンテレフタレートは確かに口金孔周辺の堆積物が大幅に減少し、繊維製造工程を安定化させることが可能である。
【0004】
しかしながら、このようにチタン系触媒を用いて製造されたポリエステルは特に繊維製造工程の紡糸速度を高めることや、単糸繊度が細い銘柄において繊維の配向結晶化が促進され、その結果、得られた繊維の品質が安定しにくい、という欠点を有している。すなわち、紡糸速度が速くなったり、単糸繊度が細くなるにつれて繊維の配向度は高くなり、同時に結晶化が進展していくが、チタン系触媒をはじめとする非アンチモン系触媒は、この結晶化が非常に速いことが知られている。配向結晶化が速すぎると、配向が充分に進展しないうちに結晶化が進んでしまうため、結晶サイズの不均一化が発生し、繊維形成段階での紡糸工程による繊度斑も悪くなり、該当部分的配向未延伸糸を用いて仮撚加工機にて捲縮付与糸された仮撚加工糸での均染性も悪くなる。
【0005】
上記のような紡糸工程での繊維の結晶化を抑制する手段としては、例えばジフェニル化合物とアルカリ金属塩化合物を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながらこの方法はアンチモン化合物を触媒として用いたポリエチレンテレフタレートには効果的であるものの、チタン化合物を触媒として用いたポリエチレンテレフタレートにはほとんど効果を示さない。
【0006】
以上のことから、これまでに行われた数多くの非アンチモン系触媒、特にチタン系触媒に関する数多くの研究によっても、配向結晶性を改善できる有効な技術は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭59−046258号公報
【特許文献2】国際公開第03/027166号パンフレット
【特許文献3】特公平08−019566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、主にチタン触媒を用いて製造されたポリエステルを用いた繊維を製造する際に、配向結晶性における結晶サイズの拡大化が抑制された、特に紡糸速度が2000〜4000m/minの領域にあるワンステップの製糸工程において繊度斑が少なく、後の延伸工程で得られた延伸糸の均染性に優れたポリエステル繊維及びそれを用いて得られた仮撚加工糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述の従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、マンガン、マグネシウムおよび亜鉛よりなる群から選ばれる1種または2種以上の金属原子、フェニルホスホン酸を含むポリエステル組成物からなるポリエステル繊維であって、ポリエステル組成物を構成するポリエステルはポリエステルを構成する全繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であり、アンチモン原子含有量が15ppm以下、固有粘度が0.55dL/g以上、複屈折率が0.03〜0.07、ポリエステル繊維の(010)面と(100)面の平均結晶子サイズが45オングストローム以下、繊度斑が1.0%以下であることを特徴とするポリエステル繊維である。また本発明はそのようなポリエステル繊維であって、該ポリエステル組成物中の、ポリエステル可溶性のチタン原子含有量がポリエステルを構成する全繰返し単位に対してTi金属原子として3〜30ミリモル%であり、マンガン、マグネシウムおよび亜鉛よりなる群から選ばれる1種または2種以上の金属原子含有量がポリエステルを構成する全繰返し単位に対して10〜1000ミリモル%であり、該フェニルホスホン酸を下記数式(1)を満たす範囲で該ポリエステル組成物中に含有する請求項1記載のポリエステル繊維を含む。
0.8≦P/M≦2.0 ・・・・・(1)
[上記数式(1)中、Pはポリエステル組成物中のポリエステルを構成する全繰返し単位に対するフェニルホスホン酸の総モル量、Mはポリエステル組成物中のポリエステルを構成する全繰返し単位に対するマンガン原子、マグネシウム原子および亜鉛原子の総モル量を表す。]
【0011】
更にはそのポリエステル組成物中に含まれるポリエステル可溶性のチタン原子を含有しているチタン化合物が下記一般式(I)で表わされる化合物または下記一般式(I)で表わされる化合物と下記一般式(II)で表わされる芳香族多価カルボン酸もしくは酸無水物とを反応させ生成した化合物である請求項1または2記載のポリエステル繊維を包含し、
【化1】

[上記一般式(I)中、Rは、2〜10個の炭素原子を有するアルキル基またはフェニル基を表し、pは1〜3の整数を表す。]
【化2】

[上記一般式(II)中、nは2〜4の整数を表す。]
最後にそれらのポリエステル繊維を仮撚り加工してなる仮撚加工糸が本発明に該当し、これによって上記の課題が解決できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、チタン触媒を用いて得られたポリエステルについて、通常のポリエステル部分的配向未延伸糸を得る条件で紡糸を行っても、配向結晶が抑制されたポリエステル繊維を得ることができる。その結果、その後の糸加工操作により、高品質の繊維を安定して生産することができる。すなわちチタン触媒を用いて長時間にわたって連続的に溶融紡糸し繊維化しようとした場合での口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)の付着堆積を大幅に抑制し、紡糸、仮撚工程において毛羽および/または断糸などの不良を抑制することによる生産歩留りを改善することができる。さらにポリエステル繊維の繊度斑が少ないので、仮撚加工延伸工程で得られた加工糸の均染性を向上させることでができ、繊維生産工程の工程通過性を高め、コストダウンを行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明におけるポリエステルとは、ポリエステルを構成する全繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルのことである。エチレンテレフタレート単位が少ないと引張強度などの力学的物性が低下することがある。好ましくは95モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることである。また本発明におけるポリエステル繊維は、その固有粘度が0.55dL/g以上であることが必要である。固有粘度が0.55dL/gより小さいと、同様に引張強度などの力学的物性が低下し、繊維等の用途として使用に供することができない。より好ましくは95モル%以上がエチレンテレフタレート単位であり、固有粘度は0.60dL/g以上である。また、本発明のポリエステル組成物は固相重合によって固有粘度を高めてもよい。固有粘度を測定する際には通常オストワルド粘度計、ウベローデ粘度計等を用いるが、ポリエステル組成物中にこれらの粘度計を使用する際に障害になるような粒子が含まれている場合には、溶媒に溶解した後濾過操作を行うことも採用することができる。また固有粘度が高すぎると溶融成形が困難になる等の理由で、高固有粘度が好ましくない用途に用いる場合には0.55〜0.90dL/gの範囲が好ましく、0.60〜0.80dL/gの範囲が更に好ましい。
【0014】
本発明のポリエステルは物性・特性に影響が出ない範囲内、且つ全繰り返し単位の10モル%以下の範囲で他の成分を共重合されていても良い。その共重合成分としては、一般にポリエステルで用いられているジカルボン酸成分、ジオール成分(グリコール成分)、ヒドロキシカルボン酸成分を挙げることができる。より具体的には、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ビス(トリメチレングリコール)、ビス(テトラメチレングリコール)、トリエチレングリコールを挙げる事ができる。
【0015】
本発明におけるポリエステル繊維は、複屈折率が0.03〜0.07の繊維配向であり、ポリエステル繊維の(010)面と(100)面の平均結晶子サイズが45オングストローム以下となる繊維構造であって、繊度斑(U%、ノーマル値)が1.0%以下であることを特徴とする。複屈折率が0.03以下の場合、紡糸工程での引き取り速度が低く生産性があがらないこともあるが、配向結晶化が非常に低いことから巻取り後での物性変化が大きく、品質管理が困難である面においても生産性の悪化につながる。複屈折率が0.07以上の場合、紡糸工程での引き取り速度が速すぎて繊維の伸度が低いものとなり、後の延伸工程において十分なネック延伸を付与できないことによる強度低下が発生する。ポリエステル部分的配向未延伸糸の複屈折率として0.03〜0.07の範囲が好ましく、0.04〜0.06の範囲が更に好ましい。
【0016】
また本発明のポリエステル繊維の(010)面と(100)面の平均結晶子サイズが45オングストロームを超えるポリエステル部分的配向未延伸糸の場合では、紡口直下でのポリマー吐出直後に繊維構造が形成される段階において結晶子サイズの成長が急激に起こり過ぎて冷却固化により繊維の直径が決定される段階での紡糸張力斑が大きくなり、その結果、繊度斑(U%、ノーマル値)が1.0%を超える繊度斑の大きな繊維となってしまう。繊度斑(U%、ノーマル値)が1.0%以下であることが重要であり、1.0%以下であるポリエステル部分的配向未延伸糸は後の延伸工程において、変動の少ない延伸張力を発現させることができ、その結果、均染性の優れた延伸糸を得ることが出来る。特に近年では布帛でのソフトな風合を表現するためにフィラメント数が72以上であるハイカウントのマルチフィラメントのものが増えてきており、これらの規格の繊維においては特に均繊性を維持する為には繊度斑(U%、ノーマル値)が1.0%以下であることが重要であり、更に好ましくは0.90%以下が重要である。また後述の製造方法により本発明のポリエステル繊維を製造する際に、部分配向糸となることがある。
【0017】
本発明のポリエステル繊維には、その繊維を構成するポリエステルの製造に用いる重合触媒としては一般的にアンチモン化合物が使用されているが、本発明のポリエステル組成物は、ポリエステル組成物中に含有されているアンチモン元素量が15質量ppm以下である必要がある。ポリエステル組成物中のアンチモン元素含有量が15質量ppmを超える場合、特に製糸工程においてアンチモン化合物が口金周辺に異物となって付着し、長期間の連続成形性に悪影響を与える為好ましくない。ポリエステル組成物中のアンチモン元素量は10質量ppm以下が好ましく、5質量ppm以下が更に好ましい。
【0018】
本発明におけるポリエステル繊維を構成するポリエステル組成物の製造方法は、通常知られている製造方法が用いられる。すなわち、まずテレフタル酸のごとき芳香族ジカルボン酸成分とエチレングリコールのごときグリコール成分とを直接エステル化反応させる方法、またはテレフタル酸ジメチルのごとき芳香族ジカルボン酸成分の低級アルキルエステルとエチレングリコールのごときグリコール成分とをエステル交換反応触媒の存在下エステル交換反応させる方法などにより、芳香族ジカルボン酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を製造する。次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって、目的とするポリエステルが製造される。上述したエステル交換反応触媒としてはマンガン化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物、チタン化合物が好ましく例示される。
【0019】
なお本発明のポリエステル繊維を構成するポリエステル組成物には、マンガン、マグネシウムおよび亜鉛よりなる群から選ばれる1種または2種以上の金属原子を、ポリエステルを構成する全繰返し単位に対して10〜1000ミリモル%の範囲で含有していることが好ましい。すなわちエステル交換反応触媒を用いる場合には、これらの金属化合物をエステル交換反応触媒として用いれば、本発明の目的を達成するのみならず、触媒としても活用できるため効率的である。またこれらの金属原子は2価の価数を有する場合が好ましい。
【0020】
一方、テレフタル酸のごとき芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールのごときグリコール成分とを直接エステル化反応させる方法においては、エステル交換触媒やその直接エステル化反応の際の触媒は不要であるが、本発明の効果を発現させるために、あえてマンガン、マグネシウム、亜鉛のうちの1種または2種以上の金属成分を、ポリエステルを構成する全繰返し単位に対して10〜1000ミリモル%の範囲で含有せしめることが必要である。
【0021】
これらの金属元素の含有量が10ミリモル%未満の場合には、本発明の効果を充分に発現させることができず、また1000ミリモル%を超えると、これらの金属化合物が粗大な粒子を形成し、例えば該ポリエステルを製糸する際に異物となり、著しく成形性を悪化させるため望ましくない。これらの金属元素の含有量の合計は20〜500ミリモル%が望ましく、30〜100ミリモル%がさらに好ましい。
【0022】
本発明のポリエステル組成物に含有されるマンガン、マグネシウム、亜鉛はそれぞれの金属原子を含む化合物としてポリエステル組成物の製造工程のいずれかにおいて添加される。その添加されるマンガン化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物としては、有機金属化合物であれば特に限定するものではないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸もしくはステアリン酸などの脂肪族モノカルボン酸塩、シュウ酸、マロン酸もしくはコハク酸などの脂肪族ジカルボン酸塩、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸もしくはテレフタル酸などの芳香族カルボン酸塩、またはグリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸もしくはヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸塩が好ましく用いられ、とくに酢酸塩がもっとも好ましく用いられる。
【0023】
また本発明のポリエステル繊維を構成するポリエステル組成物には、フェニルホスホン酸を、下記数式(1)の範囲で含有することが必要である。
0.8≦P/M≦2.0 ・・・・・(1)
[上記数式(1)中、Pはポリエステル組成物中のポリエステルを構成する全繰返し単位に対するフェニルホスホン酸の総モル量、Mはポリエステル組成物中のポリエステルを構成する全繰返し単位に対するマンガン原子、マグネシウム原子および亜鉛原子の総モル量を表す。]
【0024】
数式(1)で示されるP/Mが0.8未満では、金属化合物濃度Mが過剰となり、過剰金属原子成分がポリエステルや、ポリエステル組成物、ポリエステル繊維の熱分解を促進し、熱安定性を著しく損なうため好ましくない。一方、P/Mが2.0を超えると、逆にフェニルホスホン酸が過剰となり、過剰なフェニルホスホン酸がポリエステルの重合反応を著しく阻害するため好ましくない。好ましくはP/Mは0.9〜1.8である。
【0025】
本発明のポリエスエテル繊維を構成するポリエステル組成物においては、ポリエステル可溶性のチタン元素の含有量がポリエステルを構成する全繰返し単位に対してTi金属として3〜30ミリモル%であることが好ましく、このポリエステル可溶性のチタン元素を含む化合物はポリエステル製造工程における触媒として添加されることが好ましく採用される。ここでポリエステル可溶性のチタン元素とは、艶消し目的で添加される二酸化チタンのような無機のチタン化合物は含まれず、通常触媒として用いられている有機のチタン化合物や艶消し剤として使用される二酸化チタンに不純物として含有されている有機チタン化合物を指す。なお、ポリエステル可溶性のチタン元素の含有量は、好ましくはポリエステルを構成する全繰返し単位に対してTi金属として4〜20ミリモル%であることが必要であり、さらに好ましくは4〜15ミリモル%である。
【0026】
ポリエステル可溶性のチタン元素の含有量がポリエステルを構成する全繰返し単位に対してTi金属として3ミリモル%未満の場合には、他のマンガン原子、マグネシウム原子および亜鉛原子といった金属成分、ホスホン酸成分との相互作用とあいまって本発明の効果を実現することができない。一方で30ミリモル%を超える場合には、熱劣化・熱分解が促進される傾向があり、加熱時、溶融時等のポリエステルの固有粘度の低下が著しくなり好ましくない。
【0027】
そのポリエステル可溶性のチタン元素を含む有機チタン化合物としては、チタン錯体化合物であることが好ましく、より具体的には炭素数1〜10のアルキル基を有するテトラアルコキシチタンまたはテトラフェノキシキシチタン、ヘキサアルキルジチタネート、またはオクタアルキルトリチタネート等が挙げられる。テトラアルコキシチタンの具体的な化合物の例としては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、またはテトラ−n−ブトキシチタンが挙げられる。他のチタン化合物としては、テトラフェノキシチタン、ヘキサブチルジチタネート、またはオクタブチルトリチタネート等が好ましく挙げることができる。
【0028】
他のチタン錯体化合物として、乳酸チタン、酢酸チタン、テトラキスアセチルアセトナトチタン、テトラキス(2,4−ヘキサンジオナト)チタン、テトラキス(3,5−ヘプタンジオナト)チタン、ビスアセチルアセトナトジメトキシチタン、ビスアセチルアセトナトジエトキシチタン、ビスアセチルアセトナトビス(n−プロポキシ)チタン、ビスアセチルアセトナトジイソプロポキシチタン、ジアセチルアセトナトジブトキシチタン、チタニウムジヒドロキシビスグリコレート、チタニウムジヒドロキシビスラクテート、チタニウムジヒドロキシビス(2−ヒドロキシプロピオネート)、ジメトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジエトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジイソプロポキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジノルマルプロポキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、またはジブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタンを好ましく挙げることができる。これらの化合物はポリエステル製造時の重合触媒として用いることができる。
【0029】
さらに本発明に用いるポリエステル可溶性のチタン元素を含むチタン化合物としては、下記一般式(I)で表わされる化合物、または一般式(I)で表わされる化合物と下記一般式(II)で表わされる芳香族多価カルボン酸もしくはその無水物とを反応させた生成物を用いることも好ましく挙げることができる。
【0030】
【化3】

[上記一般式(I)中、Rは、2〜10個の炭素原子を有するアルキル基またはフェニル基を表し、pは1〜3の整数を表す。]
【化4】

[上記一般式(II)中、nは2〜4の整数を表す。]
【0031】
一般式(I)で表わされるテトラアルコキサイドチタンおよび/またはテトラフェノキサイドチタンとしては、Rがアルキル基および/またはフェニル基であれば特に限定されないが、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラメトキシチタン、テトラフェノキシチタンなどが好ましく用いられる。また、かかるチタン化合物と反応させる一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸またはこれらの無水物が好ましく用いられる。上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸またはその無水物の一部または全部とを溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分以上反応させれば良い。このようにして得られた反応生成物も同様にポリエステル製造時の重合触媒として用いることができる。
【0032】
重合触媒として用いるチタン化合物の量は特に限定はないが、上述のようにポリエステルを構成する全繰返し単位に対してTi金属原子として3〜30ミリモル%の範囲にあることが好ましい。より好ましい使用量は上述の通りである。また、これらチタン化合物からなる触媒は重合触媒としてだけではなく、エステル交換反応触媒としても同時に使用することが出来る。上述した重合触媒の中では特にチタン化合物を重合触媒として用いた場合に、本発明の効果を特に発揮することが可能となるが、重合触媒として用いるチタン化合物としてより好ましいのは上述の一般式(II)で表される化合物、または一般式(II)で表わされる化合物と下記一般式(III)で表わされる芳香族多価カルボン酸もしくはその無水物とを反応させた生成物を用いることである。
【0033】
本発明においてポリエステルを製造する際に用いる重合触媒は、上記のようなチタン化合物を用いる他、更にゲルマニウム化合物およびアルミニウム化合物のいずれか1種以上を用いることも好ましい。ここで、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物としては特に限定されず、ポリエステルの重合触媒として一般的なものが挙げられる。例えば二酸化ゲルマニウムまたはゲルマニウムテトラアルコキシド、アルミニウムアセチルアセトナートなどが挙げられ、これらの中でも二酸化ゲルマニウム、アルミニウムアセチルアセトナート等が特に好ましく選定される。
【0034】
本発明のポリエステル組成物は、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、酸化防止剤、固相重合促進剤、整色剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤または艶消剤等を含んでいてもよい。整色剤としては、ポリエステルの外観の黄色味を抑制するために、青色系の整色剤や紫色系の整色剤を個別に又は同時に添加することが好ましい。
【0035】
本発明のポリエステル部分的配向未延伸糸を製造する時の製造方法としては特に限定はなく、従来公知の溶融紡糸方法が用いられる。例えば乾燥したポリエステル組成物を270℃〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の速度は2000〜4000m/分で紡糸することができる。より本発明の効果を確実に達成するには下記のような紡糸方法を採用することもできる。また、本発明の仮撚加工糸を製造する時の製造方法としては特に限定はなく、従来公知の仮撚加工法が用いられる。
【0036】
本発明のポリエステル繊維は上記のような複数のパラメータの要件を満たすように製造する方法があるが、それら複屈折率等をこの数値範囲内とするためには、上記のようなポリエステル組成物を用いて、以下のような手法により溶融紡糸を行うことが好ましく採用することができる。本発明のポリエステル繊維における溶融紡糸は、溶融押出機(スクリュウーエクストルーダー)を装備した通常のポリエステル溶融紡糸機を用い、上述のポリエチレンテレフタレート系ポリエステルを通常のポリエステル溶融紡糸温度(270〜310℃)で溶融し、紡糸口金より吐出し、冷却・固化しつつ、回転ローラーあるいは計量ノズル型給油装置で油剤を付与しながら2000〜4000m/minの速度で引き取りする方法で行う。紡糸速度が2500m/min未満の場合は得られたポリエステル部分配向未延伸糸の複屈折率が0.03未満となり、延伸仮撚加工が困難となる。複屈折率が0.06を越える場合はポリエステル部分配向未延伸糸からの延伸仮撚加工糸の強度、伸度が実用範囲以下に低下する。このように、本発明によれば、長期にわたり連続的に、安定して、好ましい色調を有し、かつ品質斑の少ない、分子配向度が複屈折率で0.03〜0.06のポリエステル未延伸糸(部分配向糸)を製造することができる。
【0037】
更に結晶子サイズや繊度斑を上述の価の範囲内にするには、上述のような、フェニルホスホン酸、特定種類の金属原子を一定量含有するポリエステル組成物を使って上記で示したように紡糸することが好ましい。そのなかで、特に重要なのは、吐出直後のポリエステルが冷却・固化され繊維構造となるまでであり、まず、吐出後のポリエステルは150〜300℃の雰囲気温度で維持された30〜200mmのゾーンを通過し、結晶子サイズの急激な成長を抑える必要がある。その次に、口金より吐出した際のポリエステルの吐出速度と、それを引き取る速度(紡糸速度)の関係であり、ドラフト値(引取り速度(紡糸速度)/吐出速度)が100〜600であることが重要である。ドラフト値が600以上の場合、繊維の冷却・固化が積極的に進むことにより、本技術にある結晶子サイズの拡大化抑制効果が十分に発現されず、結晶子サイズが45オングストローム以上となり、繊度斑U%も1.0%以上となることが多くなる。ドラフト値が100以下の場合、結晶子サイズの拡大化抑制効果は発現するが、吐出されるポリマーの体積に対して口金吐出孔の体積が小さ過ぎることから吐出後のポリマーが急激に膨らみ口金吐出孔周辺にポリマーが滲み出して異物として付着することで、断糸や毛羽等の工程通過性の悪化を誘発してしまう結果となる。好ましいドラフト値の範囲は150〜450である。
【0038】
また紡糸時に使用する口金の形状についても他の紡糸条件を含めて上記の要件を満たすのであれば特に制限は無く、円形、異形、中実または中空などのいずれも採用することが出来る。更に本発明のポリエステル繊維は風合を高める為に、アルカリ減量処理も好ましく実施される。
【実施例】
【0039】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0040】
(ア)固有粘度:
ポリエステル組成物チップを100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
【0041】
(イ)ポリエステル組成物中のリンおよび金属元素含有量:
ポリエステル組成物中のリン金属元素量、金属元素量は粒状のポリエステル組成物サンプルをスチール板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成した。この試験成形体を使って蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製3270E型)を用いて求めた。触媒としてチタン化合物を使用したものについては、サンプルをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について日立製作所製Z−8100型原子吸光光度計を用いて定量を行った。ここで0.5規定塩酸抽出後の抽出液中に酸化チタンの分散が確認された場合は遠心分離機で酸化チタン粒子を沈降させた。次に傾斜法により上澄み液のみを回収して、同様の操作を行った。これらの操作によりサンプル中に酸化チタンを含有していても触媒として添加しているポリエステルに可溶性のチタン元素の定量が可能となる。また含有量が1ppm未満の測定限界未満であった場合には、「ND」と表記した。
【0042】
(ウ)ポリエステルの繰り返し単位、含有化合物の化学構造
ポリエステル組成物サンプルを重水素化トリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、沈殿を濾過により除き、得られた溶液を日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定した。そのスペクトルパターンから常法に従ってポリエステルの繰り返し単位の化学構造を同定した。またポリエステル組成物の溶液にメタノールを添加しポリエステル成分を沈殿させた後、上澄み液を濃縮して核磁気共鳴スペクトル分析を行うことによりチタン化合物、ホスホン酸化合物の化学構造を同定した。
【0043】
(エ)繊維の引張強度、繊度:
JIS L1013記載の方法に準拠して測定を行った。
【0044】
(オ)繊維の複屈折率
光学顕微鏡とコンペンセーターを用いて、繊維の表面に観察される偏光のリターデーションから求めた。複屈折率は、繊維の配向の指標値として用いられ、複屈折の値が大きいほど配向が進んでいることを示す。
【0045】
(カ)ポリエステル繊維の結晶子サイズ
ポリエスエテル繊維の結晶子サイズはBrucer社製D8 DISCOVER with GADDS Super Speedを用いて広角X線回折法により求めた。
結晶子サイズは、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維)の広角X線回折において(010)面、(100)面に対応する2Θピークを特定し、それぞれの回折ピーク強度の半価幅より、それぞれの面における結晶子サイズDをフェラーの式
D=[(0.94×λ×180)/(π×(B−1)×cosΘ)]
(ここで、Dは結晶子サイズ、Bは回折ピークの半価幅、Θは回折角、λはX線の波長(CuKαを使用したので0.154178nm=1.54178オングストローム)を表す。)
より算出し、双方の面の結晶子サイズの平均値を算出した。
【0046】
(キ)繊度斑(繊度変動値、U%(ノーマル値))
以下の方法で求めた。
測定機 :イヴネステスター(ツエルベーガーウースター社製ウースターテスター4型)
・測定条件
モード:ノーマルモード
糸速度:200m/分
撚数:10,000回/分 S撚
張力レンジ:10
測定繊維長:2,000m
【0047】
(ク)紡糸口金に発生する付着物層の高さ
ポリエステル組成物チップを290℃で溶融し、紡糸口金吐出孔から紡糸ドラフト(引き取り速度/吐出速度)が150〜300に入る範囲でポリマーの吐出量を設定し、3000m/分で引き取り3日間紡糸し、口金の吐出口外縁に発生する付着物の層の高さを測定した。この付着物層の高さが大きいほど吐出されたポリエステル組成物の溶融物のフィラメント状流にベンディングが発生しやすく、このポリエステルの成形性は低くなる。すなわち、紡糸口金に発生する付着物層の高さは、当該ポリエステルの成形性の指標である。
【0048】
(ケ)仮撚加工糸の染色斑判定
得られた加工糸を12ゲージ丸編み機で100cm長の筒編みとし、染料(テラシールブルーGFL)を用い、100℃、40分染色し、均染性を検査員が目視にて下記基準で格付けした。
レベル1:均一に染色されており、染斑が殆んど認められない。
レベル2:縞状又はチラチラとして見える染斑が薄っすらと認められる。
レベル3:縞状又はチラチラとして見える染斑が全体的にはっきりと認められる。
【0049】
[参考例]チタン触媒Aの合成
無水トリメリット酸のエチレングリコール溶液(0.2重量%)にテトラブトキシチタンを無水トリメリット酸に対して1/2モル添加し、空気中常圧下で80℃に保持して60分間反応せしめた。その後常温に冷却し、10倍量のアセトンによって生成触媒を再結晶化させた。析出物をろ紙によって濾過し、100℃で2時間乾燥せしめ、目的の化合物を得た。得られた化合物のチタン含有量は11.5重量%であった。これをチタン触媒Aとする。
【0050】
[実施例1]
・ポリエステル組成物チップの製造
テレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール70質量部との混合物に、酢酸マグネシウム・4水和物0.022質量部をSUS製容器に仕込んだ。常圧下で140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、フェニルホスホン酸0.020質量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に参考例で調製したチタン触媒A0.011質量部(ポリエステルを構成する全繰返し単位に対してTi金属原子として4.8ミリモル%に相当する)、整色剤としてC.I.Solvent Blue45を0.0003質量部、C.I.Solvent Violet36を0.0002質量部、二酸化チタンの20質量%エチレングリコールスラリー1.5質量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口および蒸留装置を備えた反応容器に移した。反応容器内温を285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、固有粘度0.64dL/gであるポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。結果を表1に示した。
【0051】
・ポリエステル繊維の製造
チップを130℃で2時間、160℃で4時間乾燥後、紡糸温度290℃、巻取速度2730m/分で90dtex/72filの部分的配向未延伸糸を得た。また紡糸速度/吐出速度により紡糸時のドラフト値を算出した。得られた糸をフリクション仮撚機にて加工速度600m/分、加工倍率1.65、非接触の仮撚ヒーター温度を400℃/230℃とし、ポリウレタン製の仮撚ユニットにより加撚張力(T1張力)を解撚張力(T2張力)の比率が1:0.70〜1:0.75になるよう仮撚り加工を施し56dtex/72filの加工糸を得た。結果を表2に示した。
【0052】
[実施例2]
実施例1において、ポリエステル繊維の製造方法を次の通り変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1および表2に示した。
・ポリエステル繊維の製造
チップを130℃で2時間、160℃で4時間乾燥後、紡糸温度290℃、巻取速度3300m/分で90dtex/36filの部分的配向未延伸糸を得た。実施例1と同様にドラフト値も算出した。得られた糸をフリクション仮撚機にて加工速度600m/分、加工倍率1.65、非接触の仮撚ヒーター温度を400℃/230℃とし、ポリウレタン製の仮撚ユニットにより加撚張力(T1張力)を解撚張力(T2張力)の比率が1:0.80〜1:0.85になるよう仮撚り加工を施し56dtex/36filの加工糸を得た。結果を表1および表2に示した。
【0053】
[実施例3〜4,比較例1]
実施例1において、酢酸マグネシウム、フェニルホスホン酸の添加量等を表1記載の量に変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1および表2に示した。
【0054】
[比較例2]
実施例1において、フェニルホスホン酸0.020質量部をリン酸0.042質量部に変更し添加量等を表1記載の量に変更した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1および表2に示した。
【0055】
[比較例3]
テレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール70質量部との混合物に、酢酸マグネシウム・4水和物0.077質量部をステンレスSUS314製容器に仕込んだ。常圧下で140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、フェニルホスホン酸0.068質量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.041質量部、整色剤としてC.I.Solvent Blue45を0.0003質量部、C.I.Solvent Violet36を0.0002質量部、二酸化チタンの20質量%エチレングリコールスラリー1.5質量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口および蒸留装置を備えた反応容器に移した。反応容器内温を285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、固有粘度0.64dL/gであるポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化し、実施例1と同様にポリエステル繊維を得た。結果を表1および表2に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1および表2からも明らかなように、本発明のポリエステル組成物は良好な性能が得られたが、本発明の範囲を外れるものは得られた糸の特性(固有粘度、複屈折率、結晶化サイズ、繊度斑U%、染色斑、付着物高さ)が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、チタン触媒を用いて得られたポリエステルについて、通常のポリエステル部分的配向未延伸糸を得る条件で紡糸を行っても、配向結晶が抑制されたポリエステル繊維を得ることができる。その結果、その後の糸加工操作により、高品質の繊維を安定して生産することができる。すなわちチタン触媒を用いて長時間にわたって連続的に溶融紡糸し繊維化しようとした場合での口金孔周辺に異物(以下、単に口金異物と称することがある。)の付着堆積を大幅に抑制し、紡糸、仮撚工程において毛羽および/または断糸などの不良を抑制することによる生産歩留りを改善しつつ、延伸工程で得られた延伸糸の染色斑不良を抑制することで繊維生産工程の工程通過性を高め、コストダウンを行うことが可能となる。さらにポリエステル繊維の繊度斑が少ないので、延伸糸や仮撚加工糸の染色斑を抑制することも達成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン、マグネシウムおよび亜鉛よりなる群から選ばれる1種または2種以上の金属原子、フェニルホスホン酸を含むポリエステル組成物からなるポリエステル繊維であって、ポリエステル組成物を構成するポリエステルはポリエステルを構成する全繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であり、アンチモン原子含有量が15ppm以下、固有粘度が0.55dL/g以上、複屈折率が0.03〜0.07、ポリエステル繊維の(010)面と(100)面の平均結晶子サイズが45オングストローム以下、繊度斑が1.0%以下であることを特徴とするポリエステル繊維。
【請求項2】
該ポリエステル組成物中の、ポリエステル可溶性のチタン原子含有量がポリエステルを構成する全繰返し単位に対してTi金属原子として3〜30ミリモル%であり、マンガン、マグネシウムおよび亜鉛よりなる群から選ばれる1種または2種以上の金属原子含有量がポリエステルを構成する全繰返し単位に対して10〜1000ミリモル%であり、該フェニルホスホン酸を下記数式(1)を満たす範囲で該ポリエステル組成物中に含有する請求項1記載のポリエステル繊維。
0.8≦P/M≦2.0 ・・・・・(1)
[上記数式(1)中、Pはポリエステル組成物中のポリエステルを構成する全繰返し単位に対するフェニルホスホン酸の総モル量、Mはポリエステル組成物中のポリエステルを構成する全繰返し単位に対するマンガン原子、マグネシウム原子および亜鉛原子の総モル量を表す。]
【請求項3】
ポリエステル組成物中に含まれるポリエステル可溶性のチタン原子を含有しているチタン化合物が下記一般式(I)で表わされる化合物または下記一般式(I)で表わされる化合物と下記一般式(II)で表わされる芳香族多価カルボン酸もしくは酸無水物とを反応させ生成した化合物である請求項1または2記載のポリエステル繊維。
【化1】

[上記一般式(I)中、Rは、2〜10個の炭素原子を有するアルキル基またはフェニル基を表し、pは1〜3の整数を表す。]
【化2】

[上記一般式(II)中、nは2〜4の整数を表す。]
【請求項4】
請求項1〜3に記載のポリエステル繊維を仮撚り加工してなる仮撚加工糸。

【公開番号】特開2011−63895(P2011−63895A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213239(P2009−213239)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】