説明

ポリエチレンナフタレート

【課題】本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、耐熱性に優れたポリエチレンナフタレートを提供することにある。
【解決手段】主たる繰り返し単位がエチレン2,6−ナフタレートであるポリエチレンナフタレートであり、下記一般式(I)で示されるアミノヒドロキシル化合物が共重合されていることを特徴とするポリエチレンナフタレートにより、本発明の目的を達成することができる。
【化1】


[上記式中、Rは炭素数2〜8個の炭化水素基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合ポリエチレンナフタレートに関し、さらに詳しくはアミノヒドロキシル化合物を共重合することにより、高い耐熱性を有するポリエチレンナフタレートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンナフタレートは、優れた成形性と機械特性とを有し、融点が低く溶融可能なことから、繊維やフィルム、ボトルなど樹脂、など好ましく用いられている。ポリエチレンナフタレート製品は常温で高強度、高弾性率を有しているが、高温領域、特にガラス転移点よりも高温の120℃以上の領域において、強度・弾性率が大きく低下し、変形しやすい欠点を有している。
【0003】
この欠点を克服するため、高ガラス転移点を持つポリマーをブレンドしアロイ化する方法やフィラーを添加する方法が提案されているが、これら添加剤では、改質が十分なレベルでなく、またその添加剤自体が高価であることから、解決に至っていない。また、共重合により高ガラス転移点を増加させる方法も、様々な添加剤が検討されているが、大量に共重合しないと効果がない、共重合によりポリエチレンナフタレートの結晶性が失われ、強度・弾性率低下を引き起こす、共重合に付随する融点上昇で加工性が失われるなどの欠点を有していた。またアミノアルコール(アミノヒドロキシル化合物)をポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレートに共重合した文献はあるが(特許文献1参照。)、耐熱性等が充分とはいえなかった。
【特許文献1】特開2001−131282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、高いガラス転移点を有するポリエチレンナフタレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、アミノヒドロキシル化合物を共重合させることにより、耐熱性を改善したポリエチレンナフタレートを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、主たる繰り返し単位がエチレン2,6−ナフタレートであるポリエチレンナフタレートであり、下記一般式(I)で示されるアミノヒドロキシル化合物が共重合されていることを特徴とするポリエチレンナフタレートであり、当該発明により上記課題を解決することができる。
【化1】

[上記式中、Rは炭素数2〜8個の炭化水素基を示す。]
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリエチレンナフタレートはアミノヒドロキシル化合物を共重合することにより、ガラス転移点が増加し、耐熱性が増加した。しかも、驚くべきことに結晶性を維持したままであり、更に融点の増加を抑えたまま、耐熱性(ガラス転移点)が改善することが可能となった。このようにして得られた又このポリエチレンナフタレートは、アミド結合を有するため、高強度、高耐熱性、難燃性、高弾性などを有する繊維、樹脂、フィルム、その他の産業的用途に有用に用いることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明のポリエチレンナフタレートとは主たる繰り返し単位がエチレンナフタレート、すなわち酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコールを用いたポリエステルポリマーを示している。主たる繰り返し単位とはポリエステルを構成する全繰り返し単位のうち50モル%以上がエチレンナフタレート単位であることを表す。より好ましくは70モル%以上である。最も好ましくは80モル%以上である。
【0009】
本発明のポリエチレンナフタレートは、下記一般式(I)で示されるアミノヒドロキシル化合物が共重合されていることを特徴とする。
【化2】

[上記式中、Rは炭素数2〜8個の炭化水素基を示す。]
【0010】
一般式(I)中のRは炭素数2〜8個の炭化水素基である。その炭化水素基としては、共重合時の反応性の高さからアルキレン基が好ましい。炭素数が8を超えると、十分な耐熱性が得られない。アルキレン基の炭素数は更に好ましくは2〜6である。最も好ましくは、2〜4である。
【0011】
アルキレン基は直鎖のアルキレン基に限定されるものでなく、アルキル基、アルコキシ基、アリール基で置換されていても良い。このようなアミノヒドロキシル化合物として、2−アミノエタノール、3−アミノプロパノール、4−アミノブタノール、5−アミノペンタノール、6−アミノヘキサノール、7−アミノヘプタノール、8−アミノオクタノール、2−アミノプロパノール、2−アミノブタノール、2−アミノペンタノール、2−アミノヘキサノール、1−アミノ−2−プロパノール、1−アミノ−2−ブタノール、4−アミノシクロヘキサノール、2−アミノシクロヘキサノールが挙げられる。
【0012】
そのアミノヒドロキシル化合物の共重合量としては、ポリエチレンナフタレートを構成する全酸成分に対して、1.0〜50モル%共重合するが好ましい。アミノヒドロキシル化合物の共重合量が1.0モル%未満の場合、耐熱性の向上効果が十分でなく、50モル%を超えると、重合時間が増加し、生産効率が落ちるため好ましくない。共重合量としては、2.0〜30モル%がより好ましく、更に好ましくは2.5〜15モル%である。
【0013】
本発明のポリエチレンナフタレートは、主たる繰り返し単位がエチレン2,6−ナフタレートであるポリエチレンナフタレートであるが、全酸成分の15モル%未満の範囲で共重合成分を共重合することが可能である。共重合可能な酸成分としてはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸若しくはドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸若しくはジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸若しくはテトラリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;又はグリコール酸、p−オキシ安息香酸等のオキシ酸等があげられる。
【0014】
本発明のポリエチレンナフタレートは、主たる繰り返し単位がエチレン2,6−ナフタレートであるポリエチレンナフタレートであるが、全グリコール成分の15モル%未満の範囲で他のジオール成分が共重合されることが可能である。共重合可能なジオール成分として、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA1モルに対して2モルエチレンオキサイドを反応させて得られるジヒドロキシ化合物等のジオールが挙げられる。
【0015】
これらの酸成分及び/又はグリコール成分の共重合量が15モル%を超える場合、ポリエチレンナフタレート本来の物性、例えば強度、モジュラス、ヤング率、寸法安定性などが低下する。その共重合量はポリエチレンナフタレートに対し、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。
【0016】
また、本発明のポリエチレンナフタレートに分岐成分、例えばトリカルバリル酸、トリメシン酸若しくはトリメリット酸等の三官能若しくは四官能のエステル形成能を持つ酸、又はグリセリン、トリメチロールプロパン若しくはペンタエリトリットなどの三官能若しくは四官能のエステル形成能を持つアルコールを共重合してもよく、その場合にそれらは全酸成分の1.0モル%以下、好ましくは、0.5モル%以下、さらに好ましくは、0.3モル%以下である。更に、本発明のポリエチレンナフタレートはこれら共重合成分を2種類以上組み合わせて使用しても構わない。
【0017】
本発明に用いるポリエチレンナフタレートの固有粘度は好ましくは、固有粘度(ポリエチレンナフタレートをフェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合溶媒に溶解した希薄溶液を、35℃でオストワルド型粘度計を用いて測定した値)が、0.30〜2.00dL/gである。0.30dL/g以上であることが、充分な強度を得る上で好ましい。固有粘度の上限については、2.00dL/g以下であることが、紡糸性、延伸性を確保する上で好ましい。より好ましくは0.40〜1.50dL/g、さらに好ましくは0.50〜1.30dL/gの範囲である。
【0018】
本発明で使用するアミノヒドロキシル化合物のポリエチレンナフタレートへの共重合の方法は、特に限定されるものではないが、(1)アミノヒドロキシル化合物と、エチレングリコールグリコールとナフタレンジカルボン酸を含むエステルアミドオリゴマーを用いる方法、(2)アミノヒドロキシル化合物とナフタレンジカルボン酸を含むアミドオリゴマーを用いる方法、(3)ポリエチレンナフタレートのエステル交換反応、重合反応の任意の段階でアミノヒドロキシル化合物を添加する方法を挙げることができる。
【0019】
(1)、(2)のオリゴマーを用いる方法は、さらに細かな重合方法に分別することができ、(4)オリゴマーを重直接重合させる方法、(5)各オリゴマーをポリエチレンナフタレートのエステル交換反応、重合反応の任意の段階で添加する方法、(6)ポリエチレンナフタレートにオリゴマーを混練機で練り込み、エステル交換させる方法などを挙げることができる。
【0020】
本発明で使用するポリエチレンナフタレートは必要に応じて固相重合により重合度(固有粘度)を増加させることができる。アミノヒドロキシル化合物とナフタレンジカルボン酸の間に形成されるアミド縮合反応は発熱反応であり、ルシャトリエの法則より温度増加により平衡が吸熱反応である逆反応側に移動する。それゆえ、溶融重合より低温で実施される固相重合で重合度を増加させる方法を好ましく使用することができる。
【実施例】
【0021】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0022】
(ア)固有粘度:
ポリエチレンナフタレートチップ試料をフェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合溶媒に溶解した希薄溶液を、35℃でオストワルド型粘度計を用いて測定した。
【0023】
(イ)ジエチレングリコール(DEG)含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエチレンナフタレートチップ試料を分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0024】
(ウ)示差走査熱量計
TAインスツルメンツ社製Q10型示差走査熱量計を用いて測定した。測定条件は、以下のとおり。すなわちポリエチレンナフタレート試料を、300℃で2分間保持、溶融させたものを液体窒素中で急冷・固化させることにより得られた該樹脂組成物に対し、示差走査熱量計を用い、窒素気流下、20℃/分の昇温条件にて、現れるピークを観測した。以下、ガラス転移温度をTg、昇温結晶化温度をTc、融点をTmで表す。
【0025】
(エ)ポリエチレンナフタレート中のジオール成分及びアミノヒドロキシル化合物の共重合量:
ポリマーサンプルをトリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定して、そのスペクトルパターンから常法に従って、各プロトン量により定量した。
【0026】
[実施例1]
(1)エステルアミドオリゴマーの調製
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100質量部、エチレングリコール51質量部及び酢酸マンガン四水和物0.030質量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させた。メタノールが完全に流出したことを、精留塔の塔頂点温度、メタノール流出量から確認後、2−アミノエタノール1.25質量部を反応生成物に添加し、200℃で、60分間反応させた。反応物を冷却し、エステルアミドオリゴマーを得た。
【0027】
(2)エステルアミドオリゴマーの精製
エステルアミドオリゴマーにメタノールを加え攪拌、濾過し、未反応のアミノエタノールとエチレングリコールを除去し、黄白色固形物を得た。固形物を真空乾燥機中で、常温にて24時間乾燥させ、精製エステルアミドオリゴマーを得た。
【0028】
(3)ポリエチレンナフタレートの重合
精製エステルアミドオリゴマーを220℃に加熱し溶融させ、三酸化二アンチモン0.036質量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、285℃まで徐々に昇温させ、30Pa以下の高真空で縮合重合反応を行い、固有粘度0.60dL/gのポリエチレンナフタレートを得た。さらに常法に従いチップ化し、暗褐色のチップを得た。結果を表1に示した。
【0029】
[実施例2〜3]
2−アミノエタノールの量を変更した以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示した。
【0030】
[比較例1]
2−アミノエタノールを添加しないこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示した。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明におけるポリエチレンナフタレートは、高ガラス転移点と耐熱性を有する。更にアミド結合を有するため、高強度、高耐熱性、難燃性、高弾性などを有する繊維、樹脂、フィルムとして好適に用いることが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位がエチレン2,6−ナフタレートであるポリエチレンナフタレートであり、下記一般式(I)で示されるアミノヒドロキシル化合物が共重合されていることを特徴とするポリエチレンナフタレート。
【化1】

[上記式中、Rは炭素数2〜8個の炭化水素基を示す。]
【請求項2】
アミノヒドロキシル化合物がポリエチレンナフタレートを構成する全酸成分に対して、1.0〜50モル%共重合することを特徴とする請求項1記載のポリエチレンナフタレート。
【請求項3】
アミノヒドロキシル化合物が2−アミノエタノールであることを特徴とする請求項1又は2記載のポリエチレンナフタレート。

【公開番号】特開2009−227852(P2009−227852A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75987(P2008−75987)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】