説明

ポリエチレン系樹脂組成物、及び該樹脂組成物を含むフィルム

【課題】 低温ヒートシール性、及び衝撃強度に優れ、かつ透明性とガスバリヤー性とを備えたフィルムの製造を可能にするポリエチレン系樹脂組成物、及び該組成物を含むフィルムを提供する。
【解決手段】 エチレン・α-オレフィン共重合体(A);エチレンと少なくとも1種のラジカル重合性酸無水物とを共重合してなる多元共重合体であって、該ラジカル重合性酸無水物に由来する単位が0.1〜20重量%であるエチレン系共重合体(B);及び共重合体中のエチレンに由来する単位が10〜70モル%であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(C)とを含むポリエチレン系樹脂組成物であって:
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が所定の(a)密度、(b)メルトフローレート、(c)分子量分布(M/M)などが一定の関係を満たすポリエチレン系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂組成物、及び該樹脂組成物を含むフィルムに関する。さらに詳細に述べると、低温ヒートシール性、及び衝撃強度に優れ、かつ透明性(ヘイズ)とガスバリヤー性とを備えたフィルムの製造を可能にするポリエチレン系樹脂組成物、及び該ポリエチレン系樹脂組成物を含むフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリエチレン系フィルムは、その対薬品性、及び接着性などの化学的性質、寸法安定性、剛性、引裂強度、及び耐衝撃性などの物理的性質に優れているため、透明包装材料として広く用いられているが(特許文献1、及び2)、ガスバリヤー性が低いという欠点があった。
【0003】
この欠点を克服し、ガスバリヤー性の高いポリエチレン系フィルムを提供するため、ポリアミドやポリビニルアルコールなどと、ポリエチレンとを成形機を用いて押し出して製造する、ポリエチレン系の多層フィルム、及びその製造方法が開発されてきたが(特許文献3、及び4)、該多層フィルムの製造は作業工程が複雑で作業性が悪い、また多層フィルム成形機の価格が高いので、ガスバリヤー性ポリエチレン系フィルムの価格が高いという問題があった。
【0004】
さらに多成分系のポリエチレン樹脂組成物を用い単層成形機で、透明性とともにガスバリヤー性を備えたポリエチレン系フィルムを製造することも検討されているが、該フィルムの衝撃強度、及び低温ヒートシール性の改善が必要とされていた。
【特許文献1】特開2002−273843号公報
【特許文献2】特開2003−276081号公報
【特許文献3】特開2003−064205号公報
【特許文献4】特開2004−224050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低温ヒートシール性、及び衝撃強度に優れ、かつ透明性(ヘイズ)とガスバリヤー性とを備えたフィルムの製造を可能にするポリエチレン系樹脂組成物、及び該ポリエチレン系樹脂組成物を含むフィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの課題を解決するため、本発明者が研究を行った結果、所定のエチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン系共重合体及びエチレン-ビニルアルコール共重合体を組み合わせたポリエチレン系樹脂組成物により、低温ヒートシール性、及び衝撃強度に優れ、かつ透明性(ヘイズ)とガスバリヤー性とを備えたフィルムが得られるという知見を得た。
【0007】
したがって、本発明は下記ポリエチレン系樹脂組成物を提供する:
エチレン・α-オレフィン共重合体(A)50〜98重量%;エチレンと少なくとも1種のラジカル重合性酸無水物とを共重合してなる多元共重合体であって、該ラジカル重合性酸無水物に由来する単位が0.1〜20重量%であるエチレン系共重合体(B)1〜50重量%;及びエチレンとビニルアルコールとを共重合してなるエチレン-ビニルアルコール共重合体であって、該共重合体中のエチレンに由来する単位が10〜70モル%であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(C)1〜50重量%とを含むポリエチレン系樹脂組成物であって:
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が下記の特性を有する該ポリエチレン系樹脂組成物:
(a)密度が0.86〜0.94 g/cm3
(b)メルトフローレートが0.01〜50 g/10分;
(c)分子量分布(M/M)が1.5〜4.5;及び
(d)連続昇温溶出分別法による溶出温度−溶出量曲線の積分溶出曲線から求めた全体の25%が溶出する温度T25(℃)と全体の75%が溶出する温度T75(℃)との差T75−T25及び密度d(g/cm3)が、下記(式1)の関係を満足すること、
75−T25≦−670×d+644 (式1)。
【0008】
また、本発明は、前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、さらに下記(e)の要件を満たす前記ポリエチレン系樹脂組成物を提供する:
(e)連続昇温溶出分別法による溶出温度−溶出量曲線の積分溶出曲線から求めた全体の25%が溶出する温度T25(℃)と、全体の75%が溶出する温度T75(℃)との差T75−T25及び密度d(g/cm3)が、下記(式2)の関係を満たすこと、
75−T25≧−300×d+285 (式2)。
【0009】
さらに本発明は、前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、さらに下記(f)及び(g)の要件を満たすエチレン・α-オレフィン共重合体(A1)である前記ポリエチレン系樹脂組成物を提供する:
(f)25℃におけるオルトジクロロベンゼン可溶分量X(重量%)、密度d(g/cm3)及びメルトフローレート(MFR)(g/10分)が下記(式3)、及び(式4)の関係を満たすこと、
d−0.008 log MFR≧0.93 (式3)の場合
X<2.0
d−0.008 log MFR<0.93 (式4)の場合
X<9.8×10×(0.93−d+0.008 log MFR)+2.0;及び
(g)連続昇温溶出分別法による溶出温度−溶出量曲線のピークが複数個存在すること。
【0010】
さらに、本発明は、前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、さらに下記(h)及び(i)の要件を満たすエチレン・α-オレフィン共重合体(A2)である前記ポリエチレン系樹脂組成物を提供する;
(h)連続昇温溶出分別法による溶出温度−溶出量曲線のピークが一つであること;及び
(i)1以上の融点ピークを有し、かつその最高融点Tml(℃)と密度d(g/cm3)が、下記(式5)の関係を満たすこと、
ml≧150×d−19 (式5)。
【0011】
さらに、本発明は、前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A2)が、さらに下記(j)の要件を満たす前記ポリエチレン系樹脂組成物を提供する:
(j)メルトテンション(MT)(g)とメルトフローレート(MFR)(g/10分)が、下記(式6)を満たすこと、
log MT≦−0.572×log MFR+0.3 (式6)。
【0012】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、実質的に添加剤を含まず、かつ前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)のハロゲン含有量が10 ppm以下である請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエチレン系樹脂組成物。
さらに、本発明は、前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、少なくとも共役二重結合をもつ有機環状化合物と周期律表第IV族の遷移金属化合物とを含む触媒によって重合されたものである前記ポリエチレン系樹脂組成物を提供する。
【0013】
さらに本発明は、前記ポリエチレン系樹脂組成物からなる層を含む、ポリエチレン系樹脂フィルムを提供する。
さらに本発明は、前記ポリエチレン系樹脂組成物からなる層が、温度20℃、相対湿度65% RHにおける酸素透過速度11,000cc・20μ/m・day・atm以下、フィルムヘイズが20%以下、フィルム衝撃強度が130 kg・cm/mm以上、かつヒートシール温度120℃以下である、前記ポリエチレン系樹脂フィルムを提供する。
なお、本明細書中において、必要に応じて、本発明のポリエチレン系樹脂フィルムを製品フィルムと、エチレン-ビニルアルコール共重合体をEVOHと略して表記する。
次に、実施の実施形態により本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、エチレンと炭素原子数3〜20個のα-オレフィンとの共重合体であって、少なくとも下記特性を有するものである:
(a)密度が0.86〜0.94 g/cm3未満;
(b)メルトフローレートが0.01〜50 g/10分;
(c)分子量分布(M/M)が1.5〜4.5;及び
(d)連続昇温溶出分別法による溶出温度−溶出量曲線の積分溶出曲線から求めた全体の25%が溶出する温度T25(℃)と全体の75%が溶出する温度T75(℃)との差T75−T25及び密度d(g/cm3)が、下記(式1)の関係を満たすこと、
75−T25≦−670×d+644 (式1)。
【0015】
該α-オレフィンは、炭素原子数3〜20のα-オレフィン、好ましくは炭素原子数3〜12個のα-オレフィンである。該α-オレフィンの例を挙げると、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、及び1-ドデセンなどがある。また、これらα-オレフィンの含有量は、合計で通常30モル%以下、好ましくは3〜20モル%以下の範囲とすることが望ましい。
該エチレン・α-オレフィン共重合体(A)の(a)密度は、0.86〜0.94 g/cm3、好ましくは0.88〜0.935 g/cm3、さらに好ましくは0.89〜0.93 g/cm3の範囲である。該密度が0.86 g/cm3未満では、製品フィルムの剛性(腰の強さ)、及び耐熱性が劣り、また、該密度が0.94 g/cm3以上であると、引裂強度、耐衝撃性等が不十分となる。
【0016】
該エチレン・α-オレフィン共重合体(A)の(b)メルトフローレート(以下、MFRと記す)は、0.01〜50 g/10分、好ましくは0.1〜20 g/10分、さらに好ましくは0.2〜10 g/10分の範囲である。該MFRが0.01 g/10分未満では、製品フィルム成形の加工性が劣り、該MFRが50 g/10分を超えると、製品フィルムの剛性などが劣るようになる。該MFRは、JIS K-7210の表1の条件4により測定したものである。
また、該エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、さらに下記(c)及び(d)の要件を満たすものである。
【0017】
すなわち、(c)分子量分布(M/M)が、1.5〜4.5、好ましくは2.0〜4.0、さらに好ましくは2.5〜3.5の範囲である。該M/Mが1.5未満では、製品フィルム成形の加工性が劣るようになり、該M/Mが4.5を超えると、製品フィルムの機械的強度等が不十分となるからである。
該分子量分布(M/M)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)を求め、それらの比(M/M)を算出することにより求めることができる。
【0018】
さらに該エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、例えば、図1に示すように、(d)連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線の積分溶出曲線から求めた、低温側から全体の25%が溶出する温度T25(℃)と全体の75%が溶出する温度T75(℃)との差T75−T25及び密度d(g/cm3)が、下記(式1)の関係を満たす:
75−T25≦−670×d+644 (式1)。
該共重合体(A)においてT75−T25と密度dが(式1)の関係を満さない場合、製品フィルムの平滑性、及び光沢が劣るようになる。
【0019】
なお、本発明では、該エチレン・α-オレフィン共重合体に1,000〜3,500 kg/cm3の高圧下、パーオキサイドなどの遊離基発生剤の存在下で、エチレン単独又はエチレンとプロピレン、ブテン-1、イソブチレン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、ビニルアセテート、エチルアクリレート等を重合させた、密度約0.91〜0.93 g/cm3、MFRが約0.3〜50 g/10分の高圧法低密度ポリエチレン(以下、LDPEという。)を配合しても良い。この場合、該エチレン・α-オレフィン共重合体とLDPEとの合計重量に対して、該LDPEの配合割合を5〜50重量%とする。該LDPEの配合割合が50重量%を超えると製品フィルムの衝撃強度が顕著に低下するので避けるべきであり、一方、該LDPEを5重量%以上配合すると、前記エチレン・α-オレフィン共重合体を用いる場合に押出機先端の圧力を低下させる効果が得られるので好ましい。
【0020】
次に、該TREFの測定方法について説明する。まず、酸化防止剤(例えば、ブチルヒドロキシトルエン)を加えたオルトジクロロベンゼン(ODCB)に、試料を濃度0.05重量%となるように加え、140℃で加熱溶解する。該試料溶液5 mlを、ガラスビーズを充填したカラムに注入し、0.1℃/分の速度で25℃まで冷却し、該試料をガラスビーズ表面に沈着させる。次に、該カラムにODCBを一定流量で流しながら、カラム温度を50℃/時の一定速度で昇温させ、該試料を順次溶出させる。この際、溶剤中に溶出する試料の濃度は、メチレンの非対称伸縮振動の波数2,925 cm−1に対する吸収を赤外検出機で測定することにより連続的に検出することができる。この値から、溶液中のエチレン・α-オレフィン共重合体の濃度を定量分析し、溶出温度と溶出速度の関係を求める。
【0021】
該TREF分析により、極少量の試料で、温度変化に対する溶出速度の変化を連続的に分析出来るため、分別法では検出できない比較的細かいピークの検出が可能である。
また、該エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、さらに、(e)連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線の積分溶出曲線から求めた全体の25%が溶出する温度T25(℃)と全体の75%が溶出する温度T75(℃)との差T75−T25及び密度d(g/cm3)が、下記(式2)の関係を満たすことが好ましい:
75−T25≧−300×d+285 (式2)。
【0022】
該T75−T25と密度dが上記(式2)の関係を満足しない場合には、製品フィルムのヒートシール強度と耐熱性が劣ることがある。
該エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、さらに後述する(f)及び(g)の要件を満たすエチレン・α-オレフィン共重合体(A1)、または、さらに後述する(h)及び(i)の要件を満たすエチレン・α-オレフィン共重合体(A2)のいずれかであることが好ましい。
【0023】
該エチレン・α-オレフィン共重合体(A1)は、(f)25℃におけるODCB可溶分の量X(重量%)と密度d(g/cm3)及びMFR(g/10分)が、下記(式3)及び(式4)の関係を満たす:
d−0.008 log MFR≧0.93(式3)の場合
X<2.0
d−0.008 log MFR<0.93(式4)の場合
X<9.8×10×(0.93−d+0.008 log MFR)+2.0。
【0024】
また、好ましいのは下記の関係を満たす場合である:
d−0.008 log MFR≧0.93の場合、
X<1.0
d−0.008 log MFR<0.93の場合、
X<7.4×10×(0.93−d+0.008 log MFR)+2.0。
【0025】
また、さらに好ましいのは下記の関係を満たす場合である:
d−0.008 log MFR≧0.93の場合
X<0.5
d−0.008 log MFR<0.93の場合
X<5.6×10×(0.93−d+0.008 log MFR)+2.0。
【0026】
ここで上記25℃におけるODCB可溶分の量Xは、次の方法で測定することができる。まず、試料0.5 gを20 mlのODCBにて135℃で2時間加熱し、該試料を完全に溶解した後、25℃まで冷却する。この溶液を25℃で一晩放置した後、テフロン(登録商標)製フィルターでろ過してろ液を採取する。試料溶液であるこのろ液を赤外分光器によりメチレンの非対称伸縮振動の波数2,925 cm−1付近の吸収ピーク強度を測定し、予め作成した検量線により試料濃度を算出する。この値から25℃におけるODCB可溶分量を求めることができる。
【0027】
この25℃におけるODCB可溶分は、エチレン・α-オレフィン共重合体に含まれる高分岐度成分及び低分子量成分であり、耐熱性の低下や成形体表面のべたつきの原因、衛生面劣化の原因、及び成形体内面のブロッキングの原因となる為、この含有量は少ないことが望ましい。該ODCB可溶分の量は、共重合体全体のα-オレフィンの含有量、及び分子量、即ち、密度とMFRに影響される。従ってこれらの指標である密度及びMFRとODCB可溶分の量が前記関係を満たすことは、ポリエチレン系樹脂組成物全体に含まれるα-オレフィンの偏在が少ないことを示す。
【0028】
また、エチレン・α-オレフィン共重合体(A1)は、(g)連続昇温溶出分別法(TREF)により求めた溶出温度−溶出量曲線において、ピークが複数個存在するものである。この複数ピーク温度のうち高温側のピーク温度が85℃から100℃の間に存在することが特に好ましい。該ピークが存在することにより、融点が高くなり、また結晶化度が上昇するので、製品フィルムの耐熱性及び剛性が向上する。
【0029】
ここでエチレン・α-オレフィン共重合体(A1)は、連続昇温溶出分別法(TREF)により求めた溶出温度−溶出量曲線において実質的にピークが複数個の特殊なエチレン・α-オレフィン共重合体である。該複数個のピークを図2に示す。一方、他のエチレン・α-オレフィン共重合体は、図3に示すように連続昇温溶出分別法(TREF)により求めた溶出温度−溶出量曲線において実質的にピークを1個有するエチレン・α-オレフィン共重合体であり、従来の典型的なメタロセン系触媒により製造されたエチレン・α-オレフィン共重合体に相当する。
【0030】
本発明におけるエチレン・α-オレフィン共重合体(A2)は、図3に示すように、(h)連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線のピークが一つである。また、該エチレン・α-オレフィン共重合体(A2)は、(i)融点ピークを1ないし複数個有し、かつそのうち最も高い融点Tml(℃)と密度d(g/cm3)が、下記(式5)の関係を満たす。なお該融点はDSCにより測定したものである:
ml≧150×d−19 (式5)。
融点Tmlと密度dが上記(式5)の関係を満たすことにより、製品フィルムの耐熱性が向上する。
【0031】
また、エチレン・α-オレフィン共重合体(A2)の中でも、さらに下記(j)の要件を満たすエチレン・α-オレフィン共重合体が好ましい。
要件(j)は、メルトテンション(MT)(g)とメルトフローレート(MFR)(g/10分)が、下記(式6)の関係を満たすことである:
log MT≦−0.572×log MFR+0.3 (式6)。
該MTとMFRが上記(式6)の関係を満たすことにより、シートの成形加工性が良好になる。
【0032】
ここで、エチレン・α-オレフィン共重合体(A2)は、図4に示されるように、従来の典型的なメタロセン系触媒によるエチレン・α-オレフィン共重合体と同様にTREFピークが1つであるが、従来の典型的なメタロセン系触媒によるエチレン・α-オレフィン共重合体(図3)は前記式2及び式5の関係を満足しないため、両者は区別することができる。
該エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、シングルサイト系触媒の存在下に、エチレンとα-オレフィンとを共重合させて得られる直鎖状のエチレン・α-オレフィン共重合体である。このような直鎖状エチレン・α-オレフィン共重合体は、分子量分布及び組成分布が狭いため、機械的特性、及び光学的特性に優れた重合体である。
【0033】
本発明におけるシングルサイト系触媒としては、従来の典型的なメタロセン触媒の他に、少なくとも共役二重結合を持つ有機環状化合物と周期律表第IV族の遷移金属化合物を含む触媒がある。該触媒のうち、下記a1〜a4の化合物を混合して得られる触媒が好ましい。これらa1〜a4の化合物を説明すると下記のとおりである:
a1:一般式Me(OR4−p−q−rで表される化合物:
(式中Meはジルコニウム、チタン、又はハフニウムを示し、R及びRはそれぞれ炭素原子数1〜24個の炭化水素基、Rは2,4-ペンタンジオナト配位子又はその誘導体、ベンゾイルメタナト配位子、ベンゾイルアセトナト配位子又はその誘導体、Xはハロゲン原子を示し、p、q及びrはそれぞれ0≦p≦4、0≦q≦4、0≦r≦4、0≦p+q+r≦4の範囲を満たす整数である);
a2:一般式Me(ORz−m−nで表される化合物:
(式中Meは周期律表第I〜III族元素、R及びRはそれぞれ炭素原子数1〜24個の炭化水素基、Xはハロゲン原子又は水素原子(ただし、Xが水素原子の場合はMeは周期律表第III族元素の場合に限る)を示し、zはMeの価数を示し、m及びnはそれぞれ0≦m≦z、0≦n≦zの範囲を満たす整数であり、かつ、0≦m+n≦zである);
a3:共役二重結合を持つ有機環状化合物;及び
a4:Al−O−Al結合を含む変性有機アルミニウムオキシ化合物及び/又はホウ素化合物である。
【0034】
次にa1〜a4の化合物をさらに詳説する。
前記触媒成分a1の一般式Me(OR4−p−q−rで表される化合物において、式中、Meはジルコニウム、チタン、又はハフニウムを示し、これらの遷移金属は単独、又は組み合わせて複数を用いることができ、共重合体(A)に優れた耐候性を付与するジルコニウムが含まれることが好ましい。前記式中のR及びRはそれぞれ炭素原子数1〜24個の炭化水素基、好ましくは炭素原子数1〜12個の炭化水素基、さらに好ましくは1〜8個の炭化水素基である。該炭化水素基の例を挙げると、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのアルキル基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、インデニル基、ナフチル基などのアリール基;ベンジル基、トリチル基、フェネチル基、スチリル基、ベンズヒドリル基、フェニルブチル基、ネオフイル基などのアラルキル基などがある。これらの炭化水素基は分岐があってもよい。また前記式中のRは、2,4-ペンタンジオナト配位子又はその誘導体、ベンゾイルメタナト配位子、ベンゾイルアセトナト配位子又はその誘導体を示す。また前記式中のXはフッ素、ヨウ素、塩素及び臭素などのハロゲン原子を示し、p及びqはそれぞれ、0≦p≦4、0≦q≦4、0≦r≦4、0≦p+q+r≦4の範囲を満たす整数である。
【0035】
前記触媒成分a1の一般式で示される化合物の例を挙げると、テトラメチルジルコニウム、テトラエチルジルコニウム、テトラベンジルジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、トリプロポキシモノクロロジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、テトラブトキシチタン、及びテトラブトキシハフニウムなどがあり、特にテトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウムなどのZr(OR)化合物が好ましい。これらの化合物を単独、又は2種以上組み合わせ用いることができる。
【0036】
また、前記2,4-ペンタンジオナト配位子又はその誘導体、ベンゾイルメタナト配位子、ベンゾイルアセトナト配位子又はその誘導体の例を挙げると、テトラ(2,4-ペンタンジオナト)ジルコニウム、トリ(2,4-ペンタンジオナト)クロライドジルコニウム、ジ(2,4-ペンタンジオナト)ジクロライドジルコニウム、(2,4-ペンタンジオナト)トリクロライドジルコニウム、ジ(2,4-ペンタンジオナト)ジエトキサイドジルコニウム、ジ(2,4-ペンタンジオナト)ジ-n-プロポキサイドジルコニウム、ジ(2,4-ペンタンジオナト)ジ-n-ブトキサイドジルコニウム、ジ(2,4-ペンタンジオナト)ジベンジルジルコニウム、ジ(2,4-ペンタンジオナト)ジネオフイルジルコニウム、テトラ(ジベンゾイルメタナト)ジルコニウム、ジ(ジベンゾイルメタナト)ジエトキサイドジルコニウム、ジ(ジベンゾイルメタナト)ジ-n-プロポキサイドジルコニウム、ジ(ジベンゾイルメタナト)ジ-n-ブトキサイドジルコニウム、ジ(ベンゾイルアセトナト)ジエトキサイドジルコニウム、ジ(ベンゾイルアセトナト)ジ-n-プロポキサイドジルコニウム、及びジ(ベンゾイルアセトナト)ジ-n-ブトキサイドジルコニウムなどがある。
【0037】
前記触媒成分a2の一般式Me(ORz−m−nで表される化合物では、該式中のMeは周期律表第I〜III族元素を示し、例を挙げるとリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ホウ素、及びアルミニウムなどである。該式中のR及びRは、それぞれ炭素原子数1〜24個の炭化水素基、好ましくは炭素原子数1〜12個の炭化水素基、さらに好ましくは炭素原子数1〜8の炭化水素基であり、その具体的な例を挙げると、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのアルキル基;ビニル基、及びアリル基などのアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、インデニル基、及びナフチル基などのアリール基;ベンジル基、トリチル基、フェネチル基、スチリル基、ベンズヒドリル基、フェニルブチル基、及びネオフイル基などのアラルキル基などがある。これらの炭化水素基は分岐があってもよい。該式中、Xはフッ素、ヨウ素、塩素及び臭素などのハロゲン原子又は水素原子を示す。ただし、該Xが水素原子の場合は、Meはホウ素、及びアルミニウムなどの周期律表第III族元素である。また、該式中zはMeの価数を示し、m及びnはそれぞれ、0≦m≦z、0≦n≦zの範囲を満たす整数であり、かつ、0≦m+n≦zである。
【0038】
前記触媒成分a2の化合物の例を挙げると、メチルリチウム、エチルリチウムなどの有機リチウム化合物;ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、メチルマグネシウムクロライド、及びエチルマグネシウムクロライドなどの有機マグネシウム化合物;ジメチル亜鉛、及びジエチル亜鉛などの有機亜鉛化合物;トリメチルボロン、及びトリエチルボロンなどの有機ボロン化合物;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムエトキサイド、及びジエチルアルミニウムハイドライドなどの有機アルミニウム化合物、並びにこれらの誘導体がある。
【0039】
前記触媒成分a3の共役二重結合を持つ有機環状化合物の例を挙げると、共役二重結合を2個以上、好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2〜3個有する環状構造を1個以上有し、全炭素原子数が4〜24個、好ましくは4〜12個である環状炭化水素化合物;前記環状炭化水素化合物が部分的に、例えば、炭素原子数1〜12個のアルキル基又はアラルキル基などの炭化水素基1〜6で置換された環状炭化水素化合物;共役二重結合を2個以上、好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2〜3個有する環状構造を1個以上もち、全炭素原子数が4〜24個、好ましくは4〜12個である環状炭化水素基を有する有機ケイ素化合物;前記環状炭化水素基が部分的に1〜6個の炭化水素残基、又はアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム又はリチウム塩)で置換された有機ケイ素化合物がある。これら有機環状化合物のうち、特分子中のいずれかにシクロペンタジエン構造をもつ化合物が、触媒成分a3として好ましい。
【0040】
前記触媒成分a3として好ましい化合物の例を挙げると、シクロペンタジエン、インデン、アズレン、又はこれらのアルキル、アリール、アラルキル、アルコキシ又はアリールオキシ誘導体などがある。また、これらの化合物が、炭素原子数2〜8個、好ましくは2〜3個のアルキレン基を介して結合(架橋)した化合物も好ましい。
【0041】
該環状炭化水素基を有する有機ケイ素化合物は、一般式ASiR4−Lの化合物である。該式中において、Aはシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、及び置換インデニル基などの環状水素基を示し;Rは炭素原子数1〜24個、好ましくは炭素原子数1〜12個の炭化水素残基、又は水素を示し、かつLは1≦L≦4、好ましくは1≦L≦3である。該Rで示される炭化水素残基の例を挙げると、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、及びブチル基などのアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、及びブトキシ基などのアルコキシ基;フェニル基などのアリール基;フェノキシ基などのアリールオキシ基;ベンジル基などのアラルキル基がある。
【0042】
前記成分a3の有機環状炭化水素化合物の具体例を挙げると、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、1,3-ジメチルシクロペンタジエン、1-メチル-3-エチルシクロペンタジエン、1-メチル-3-プロピルシクロペンタジエン、1-メチル-3-ブチルシクロペンタジエン、1,2,4-トリメチルシクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエン、インデン、4-メチル-1-インデン、4,7-ジメチルインデン、シクロヘプタトリエン、メチルシクロヘプタトリエン、シクロオクタテトラエン、アズレン、フルオレン、メチルフルオレンのような炭素原子数5〜24個のシクロポリエン又は置換シクロポリエン、モノシクロペンタジエニルシラン、ビスシクロペンタジエニルシラン、トリスシクロペンタジエニルシラン、モノインデニルシラン、ビスインデニルシラン、及びトリスインデニルシランなどがある。
【0043】
前記触媒成分a4のAl−O−Al結合を含む変性有機アルミニウムオキシ化合物とは、アルキルアルミニウム化合物と水とを反応させて得られる、通常アルミノキサンと称されている変性有機アルミニウムオキシ化合物であり、該分子中に通常1〜100個、好ましくは1〜50個のAl−O−Al結合を含む。なお、該変性有機アルミニウムオキシ化合物は線状構造又は環状構造のいずれでもよい。
【0044】
前記有機アルミニウムと水との反応は通常、不活性炭化水素中で行われる。該不活性炭化水素の好ましい例を挙げると、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、及びキシレンなどの脂肪族、脂環族、及び芳香族炭化水素がある。該反応における水と有機アルミニウム化合物との反応比(水/Alモル比)は、通常0.25/1〜1.2/1、好ましくは0.5/1〜1/1とする。
【0045】
また、前記ホウ素化合物の好ましい例を挙げると、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸トリエチルアルミニウム、トリエチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸ジメチルアニリニウム、ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ブチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラ(3,5-ジフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキスペンタフルオロボレート、フェロセニウムテトラキスペンタフルオロボレート、及びトリスペンタフルオロボランなどがある。これらのホウ素化合物中、特に、N,N-ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキスペンタフルオロボレート、フェロセニウムテトラキスペンタフルオロボレート、及びトリスペンタフルオロボランが好ましい。
【0046】
前記触媒a1〜a4は、反応体と混合接触させて使用することができるが、無機担体及び/又は粒子状ポリマー担体(a5)に担持させて使用することが望ましい。該無機物担体及び/又は粒子状ポリマー担体(a5)の例を挙げると、炭素質物、金属、金属酸化物、金属塩化物、金属炭酸塩又はこれらの混合物、あるいは熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などがある。また該無機物担体として好ましい例を挙げると、鉄、アルミニウム、及びニッケルなどの金属がある。
【0047】
前記無機物担体の例を挙げると、SiO、Al、MgO、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、ThO、又はこれらの混合物、SiO−Al、SiO−V、SiO−TiO、SiO−MgO、SiO−Crなどがある。これら例の中でもSiO又はAlの少なくとも1種を主成分とするものが好ましい。
【0048】
また、該有機化合物の担体として、熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂のいずれも使用でき、具体的な例を挙げると、粒子状のポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリノルボルネン、各種天然高分子及びこれらの混合物などがある。
【0049】
前記無機物担体及び/または粒子状ポリマー担体は、そのまま使用することもできるが、該担体を、有機アルミニウム化合物やAl−O−Al結合を含む変性有機アルミニウム化合物などに接触処理させる予備処理を行った後に成分a5として用いることもできる。
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)の製造は、前記触媒の存在下、実質的に溶媒の存在しない気相重合法、スラリー重合法、又は溶液重合などで行うことができる。この実質的に酸素、又は水などを断った状態で、共重合体(A)の製造は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素のような不活性炭化水素溶媒の存在下、又は不存在下で行う。
【0050】
該製造における重合条件は特に限定されないが、重合温度は通常15〜350℃、好ましくは20〜200℃、さらに好ましくは50〜110℃とし、重合圧力は低中圧法の場合、常圧〜7 MPa Gauge(70 kg/cmG)、好ましくは常圧〜2 MPa Gauge(20 kg/cmG)であり、高圧法の場合、通常150 MPa Gauge(1,500kg/cmG)以下とするのが望ましい。重合時間は低中圧法を用いる場合、3分〜10時間、特に5分〜5時間程度が望ましく、高圧法の場合は、1分〜30分、特に2分〜20分程度が望ましい。
【0051】
また、該共重合体(A)における重合法は、特に限定されるものではなく、一段重合法、又は水素濃度、モノマー濃度、重合圧力、重合温度、触媒などの条件が異なる2段階以上の多段重合法で行ってもよい。特に好ましい製造方法としては、特開平5−132518号公報に記載の方法がある。
【0052】
なお、エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、前記触媒成分として塩素などハロゲンを含まない触媒を使用することにより、ハロゲン濃度としては多くとも10 ppm以下、好ましくは5 ppm以下、さらに好ましくは実質的に含まない(2 ppm以下、ND:未検出)とすることができる。
【0053】
このようなハロゲンフリーのエチレン・α-オレフィン共重合体(A)を用いることにより、従来のように酸中和剤(ハロゲン吸収剤)を使用する必要がなくなり、化学的安定性が優れ、食品包装などに適したポリエチレン系樹脂組成物を得ることができる。
本発明のエチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、他の樹脂と混合して用いることができる。そのような他の樹脂の例を挙げると、エチレン系重合体(D)がある。例えば、高圧ラジカル重合法によって得られた低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン・ビニルエステル共重合体、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸、又はその誘導体との共重合体、密度が0.88〜0.94 g/cm3の他のエチレン・α-オレフィン共重合体などがある。このようなエチレン系重合体(D)を、本発明の共重合体(A)に配合することで製品フィルムの成形性向上を図ることができる。
【0054】
前記エチレン系重合体(D)として、低密度ポリエチレン(LDPE)を用いる場合、該LDPEのMFRは、0.01〜50 g/10分、好ましくは0.1〜30 g/10分、さらに好ましくは0.5〜10 g/10分の範囲とする。この範囲であれば、メルトテンションが適切な範囲となり、成形加工性が向上するからである。また、該LDPEの密度は、0.91〜0.94 g/cm3、さらに好ましくは0.91〜0.93 g/cm3の範囲とする。また該LDPEのメルトテンションは1.5〜25 g、好ましくは3〜20 g、さらに好ましくは3〜15 gとする。さらに、該LDPEの分子量分布M/Mは、3.0〜12、特に4.0〜8.0とするのが好ましい。
【0055】
また前記エチレン・ビニルエステル共重合体は、高圧ラジカル重合法で製造されるエチレンを主成分とするビニルエステル単量体との共重合体である。該ビニルエステル単量体の例を挙げると、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、及びトリフルオル酢酸ビニルなどがある。これらビニルエステル単量体の中でも特に好ましいのは酢酸ビニルである。
【0056】
また、本発明の共重合体(A)は、エチレン50〜99.5重量%、ビニルエステル0.5〜50重量%、及び他の共重合可能な不飽和単量体0〜49.5重量%からなる共重合体が好ましい。特に、該ビニルエステルの含有量は好ましくは3〜30重量%、特に好ましくは5〜25重量%の範囲である。該エチレン・ビニルエステル共重合体のMFRは、0.01〜50 g/10分、好ましくは0.1〜30 g/10分、さらに好ましくは0.5〜10 g/10分の範囲である。
【0057】
前記エチレンとα,β-不飽和カルボン酸、又はその誘導体との共重合体の例を挙げると、エチレン・(メタ)アクリル酸又はそのアルキルエステル共重合体があり、これらのコモノマーの例を挙げると、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、及びメタクリル酸グリシジルなどがある。
【0058】
該モノマーのうち、特に好ましいのは、(メタ)アクリル酸のメチル、エチルなどのアルキルエステルであり、該(メタ)アクリル酸エステルの含有量を3〜30重量%、特に5〜25重量%の範囲とするのが好ましい。またエチレンとα,β-不飽和カルボン酸、又はその誘導体との共重合体のMFRは0.01〜50 g/10分、好ましくは0.05〜30 g/10分、さらに好ましくは0.1〜10 g/10分である。
【0059】
前記密度が0.88〜0.94 g/cm3の他のエチレン・α-オレフィン共重合体としては、チーグラー系触媒、フィリップス触媒などで製造した、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどがあり、これらの共重合体は、エチレンと炭素原子数3〜20個、好ましくは炭素原子数3〜12個のα-オレフィンとを共重合させることにより製造することができる。
【0060】
該炭素原子数3〜20個のα-オレフィンの例を挙げると、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、及び1-ドデセンなどがある。また、これらα-オレフィンの含有量は、合計で通常30モル%以下、3〜20モル%の範囲とするのが好ましい。
該エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRは0.01〜50 g/10分、好ましくは0.05〜30 g/10分、さらに好ましくは0.1〜10 g/10分の範囲である。
【0061】
本発明のエチレン・α-オレフィン共重合体(A)においては、必要に応じて従来の添加剤、例えば、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、各種安定剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、顔料、各種の無機・有機充填剤などを添加することができる。
本発明で用いるエチレン系共重合体エチレン(B)は、エチレンと少なくとも1種のラジカル重合性酸無水物とを共重合してなる多元共重合体であって、該ラジカル重合性酸無水物に由来する単位が0.1〜20重量%であるエチレン系共重合体である。
また、該エチレン系共重合体(B)は、エチレンとラジカル重合性酸無水物に加え、必要に応じて他のラジカル重合性コモノマー(以下、第3モノマーと称する)成分を含む多元共重合体であってもよい。
【0062】
前記ラジカル重合性酸無水物の例を挙げると、無水マイレン酸、無水イタコン酸、無水エンディック酸、無水シトラコン酸、1-ブテン-3,4-ジカルボン酸無水物、炭素原子数が18個以下であり、かつ末端に二重結合を有するアルケニル無水コハク酸、炭素原子数18個以下であり、かつ末端に二重結合を有するアルカジエニル無水コハク酸などがあり、特に無水マレイン酸、及び無水イタコン酸が好ましい。これらのラジカル重合性無水物は、単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
前記エチレン系共重合体(B)中の、ラジカル重合性酸無水物に由来する単位は0.1〜20重量%、特に1〜10重量%とするのが好ましい。該酸無水物に由来する単位が0.1重量%よりも少ないと、製品フィルムのガスバリヤー性低下し、かつ20重量%を越えると、製品フィルムの柔軟性、強度などが損なわれ、かつ価格が上がるので好ましくない。
【0064】
次に、前記ラジカル重合性酸無水物と組み合わせることができる第3コモノマーには、エチレン系不飽和エステル化合物、エチレン系不飽和アミド化合物、エチレン系不飽和カルボン酸化合物、エチレン系不飽和エーテル化合物、及びエチレン系不飽和炭化水素化合物などがある。
【0065】
該エチレン系不飽和エステル化合物の例を挙げると、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、フマル酸メチル、フマル酸エチル、フマル酸プロピル、フマル酸ブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、マレイン酸メチル、マレイン酸エチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブロピル、及びマレイン酸ジブチルなどがある。
【0066】
また、該エチレン系不飽和アミド化合物の例を挙げると、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドなどがある。
該エチレン系不飽和カルボン酸化合物の例を挙げると、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、及びフマル酸などがある。
【0067】
さらに、該エチレン系不飽和エーテル化合物の例を挙げると、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、及びフェニルビニルエーテルなどがある。
さらにエチレン系不飽和炭化水素化合物及びその他の化合物の例を挙げると、スチレン、α-メチルスチレン、ノルボルネン、ブタジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクロレイン、クロトンアルデヒド、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、塩化ビニル、及び塩化ビニリデンなどがある。これら第3モノマーは、必要に応じて単独で、又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0068】
前記第3モノマーを併用する場合、本エチレン系共重合体中の該第3コモノマー成分の含量は40重量%以下であることが好ましい。40重量%を越えると製品フィルムの成形性が大幅に低下するからである。
該エチレン系共重合体(B)のMFRは、JIS K-7210の表1の条件4により測定した場合、0.1〜100 g/10分の範囲であるのが好ましい。この範囲外ではガスバリヤー性を有する製品フィルムが得にくいからである。
【0069】
また、該エチレン系共重合体(B)は、塊状、溶液、懸濁、又はエマルジョンなどの重合方法により製造することができ、基本的には既存の低密度ポリエチレン製造設備、及び従来技術を利用することができる。
最も一般的な製造方法は塊状重合であり、700〜3,000気圧の圧力下で100〜300℃の温度範囲でラジカル重合することで製造することができる。好ましい重合圧力、重合温度の範囲としては1,000〜2,500気圧、反応器内の平均温度が150〜270℃である。700気圧以下では重合体の分子量が低くなり、製品フィルムの成形性が低下するので好ましくない。また3,000気圧以上とするのは、本発明のポリエチレン系樹脂組成物の物性の向上がないので実質的に無意味であり、製造コストを高めるだけなので好ましくない。
【0070】
該エチレン系共重合体(B)の製造装置としてベッセル型の反応器が好ましい。特に前記ラジカル重合性酸無水物は重合安定性が低い、反応器内が高度に均一化されている必要があるからである。また、必要に応じて複数個の反応器を直列、又は並列に接続して多段重合を行なうこともできる。さらに反応器の内部を複数のゾーンに仕切ることで、より緻密な温度コントロールを行なうことも可能である。
【0071】
次に、本発明のエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下EVOHと略す。)(c)について説明する。本発明で用いるEVOHは、エチレンとビニルアルコールとを共重合してなるエチレン-ビニルアルコール共重合体であって、該共重合体中のエチレンに由来する単位が10〜70モル%であるエチレン-ビニルアルコール共重合体である。ここで該エチレンに由来する単位は、好ましくは20〜50モル%であり、さらに好ましくは25〜45モル%である。
【0072】
該EVOHは、エチレン-ビニルエステル共重合体を合成し、次いで該共重合体をケン化することにより製造することができる。
該EVOHの合成に用いるビニルエステルには、炭素原子数5個以下の低級脂肪酸ビニルエステル、例えば、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、及び酢酸ビニルなどがある。
【0073】
また、エチレン、及びビニルエステル以外に、これらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体を、本発明の目的を逸脱しない範囲で使用してもよい。該エチレン性不飽和単量体の例を挙げると、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテンなどの炭素原子数3〜18個のオレフィン;バーサチック酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどのカルボン酸ビニル;ラウリルビニルエーテル、メチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル;(メタ)アクリレート類;アクリルアミド、メタクリルアミド、及びN,N-ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド類;アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸、該不飽和カルボン酸のエステル、又は無水物;ビニルスルホン酸、アクリルスルホン酸などのスルホン酸モノマー;ジメチルアミノエチルメタクリレート、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、及びビニルサクシイミドなどのカチオン性モノマー;及びアルキルチオール類、ビニルピロリドン類、ビニレンカーボネート、アリルアルコール、及びアリルアセテートなどその他のものがある。
【0074】
前記エチレン-ビニルエステル共重合体の合成は、所定量のエチレン、及びビニルエステルをラジカル開始剤の存在下で、メタノール、t-ブタノールなどのアルコール、又はジアルキルスルホキシドなどの重合溶媒中で反応させて行うことができる。該共重合体のエチレン含量、極限粘度は重合系のエチレン圧力、重合温度、重合速度、重合率、ビニルエステルと溶媒の組成等により変化するので、所望のエチレン含量、及び極限粘度の共重合体を得るため、各種の条件を調整しながら反応を行う必要がある。
【0075】
次いで、得られたエチレン-ビニルエステル共重合体のビニルエステル成分をケン化することにより、EVOH(c)を製造する。該ケン化度は、高度なガスバリヤー性を得るために、通常、80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらにより好ましくは98モル%以上とする。
【0076】
該ケン化は、公知の方法によって行うことができる。例えば、前記エチレン-ビニルエステル共重合体のアルコリシス反応によりケン化を行いEVOHを製造することができる。
該アルコリシス反応の溶媒には、低級アルコール、特に炭素原子数1〜5個の一価低級アルコールが好ましい。該低級アルコールの例を挙げると、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、n-アミルアルコール、及びi-アミルアルコールなどがあり、特にメタノール、及びエタノールが好ましい。
【0077】
該低級アルコールの使用量は、エチレン-ビニルエステル共重合体のアルコリシス反応によりEVOHを製造するのに充分な量であれば特に限定されないが、エチレン-ビニルエステル共重合体の平均分子量に基づくモル数に対して1.0〜50倍モル、好ましくは1.5〜30倍モル、特に好ましくは2.0〜20である。
【0078】
また、該アルコリシス反応では、アルカリ性触媒の共存下で行う。該アルカリ性触媒としては、エチレン-ビニルエステル共重合体のアルコリシス反応に使用されている公知の触媒をそのまま使用できる。該触媒の例を挙げると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、ナトリウムメチラート、t-ブトキシカリウムなどのアルカリ金属アルコラート、1,8-ジアザビシクロ[5,4,10]ウンデセン-7(DBU)などの強塩基性アミン、炭酸アルカリ金属塩、及び炭酸水素アルカリ金属塩などがある。該触媒の使用量は、必要ケン化度、反応温度等により異なるが、通常、エチレン-ビニルエステル共重合体の平均分子量に基づくモル当り、0.001〜1.0モルである。
【0079】
該アルコリシスの反応温度は、室温から約150℃の任意の温度とし得るが、常圧の反応系で高い反応速度を得るためには40〜120℃、好ましくは50〜100℃とする。また、該アルコリシス反応は撹拌槽型式、又は塔型式の装置により行うことができる。
なお、本発明ではEVOH(c)として2種類以上のEVOHを配合して用いることもできる。この場合、各々のEVOHのエチレン含有量、及びケン化度に配合重量比を加味して算出される平均値を、EVOHのエチレン含有量、及びケン化度とする。
【0080】
また、該EVOHに必要に応じて、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー、他の樹脂(ポリアミド、ポリオレフィン等)を配合することができる。
本発明のエチレン系樹脂組成物中のエチレン・α-オレフィン共重合体の配合割合は、通常10〜98重量%、特に50〜95重量%、好ましくは60〜90重量%、特に好ましくは70〜90重量%である。該エチレン・α-オレフィン共重合体の配合量が、10重量%未満では、衝撃強度の改善が見られず、一方、配合割合が98重量%を超えると、ガスバリヤー性が低下するからである。
【0081】
本発明のエチレン系樹脂組成物中のエチレン系共重合体(B)の配合割合は、1〜50重量%であり、好ましくは5〜25重量%、特に好ましくは7〜15重量%である。該エチレン系共重合体の配合量が、1重量%未満ではガスバリヤー性の改善が見られず、一方、配合割合が、50重量%を超えると、弾性率の低下、べたつき性が発現し、自動製袋適性が低下するからである。
【0082】
本発明のエチレン系樹脂組成物中のEVOH(C)の配合割合は、1〜50重量%であり、好ましくは5〜25重量%、特に好ましくは7〜15重量%である。該EVOHの配合量が、1重量%未満ではガスバリヤー性の改善が見られず、一方、配合割合が50重量%を超えると衝撃強度が低下するからである。
【0083】
次に本発明のポリエチレン系樹脂組成物における各成文(A)、(B)及び(C)の配合量について説明する。
本発明におけるエチレン・α-オレフィン共重合体(A)の配合割合は、50〜98重量%、好ましくは60〜95重量%、特に好ましくは70〜90重量%である。該エチレン・α-オレフィン共重合体の配合量が、50重量%未満では衝撃強度の改善が見られず、一方、配合割合が98重量%を超えると、ガスバリヤー性が低下するので好ましくないからである。
【0084】
本発明のエチレン系樹脂組成物中のエチレン系共重合体(B)の配合割合は、1〜50重量%であり、好ましくは5〜25重量%、特に好ましくは7〜15重量%である。該エチレン系共重合体の配合量が、1重量%未満ではガスバリヤー性の改善が見られず、一方、配合割合が、50重量%を超えると、弾性率の低下、べたつき性が発現し、自動製袋適性が低下するからである。
【0085】
本発明のエチレン系樹脂組成物中のEVOH(C)の配合割合は、1〜50重量%であり、好ましくは5〜25重量%、特に好ましくは7〜15重量%である。該EVOHの配合量が、1重量%未満ではガスバリヤー性の改善が見られず、一方、配合割合が50重量%を超えると衝撃強度が低下するからである。
【0086】
次に、本発明のポリエチレン系樹脂フィルムについて説明する。該フィルムは、先に記載したポリエチレン系樹脂組成物からなる層を含む、ポリエチレン系樹脂フィルムである。
特に該フィルムは、前記ポリエチレン系樹脂組成物からなる層が、温度20℃、相対湿度65% RHにおける酸素透過速度11,000cc・20μ/m・day・atm以下、フィルムヘイズが20%以下、フィルム衝撃強度が130 kg・cm/mm以上、好ましくは140 kg・cm/mm以上、かつヒートシール温度120℃以下である、ポリエチレン系樹脂フィルムとすることができる。該フィルムにおける酸素透過速度は、酸素透過速度11,000cc・20μm/m・day・atm、特に8,000cc・20μm/m・day・atm以下とするのが好ましい。
【0087】
本発明のエチレン系樹脂フィルムは種々の方法で製造することができる。例えば、空冷インフレーション法、水冷インフレーション法、及びT-ダイ法などがあり、特に空冷インフレーション法が好ましい。
該空冷法インフレーション法による本発明のフィルムの製造は、従来の空冷法インフレーションフィルム製造装置で行うことができる。例えば、該エチレン系樹脂組成物を150〜250℃の温度で押出機よりサーキュラーダイを通して押出し、空冷式エアーリングより吹き出す空気に接触させて急冷し、固化させてピンチロールで引取った後、枠に巻取ることにより行うことができる。
【0088】
この方法により、従来、同時に解決することが困難であった空冷法インフレーションフィルムの透明性、強度、及びヒートシール性を同時に改善することができる。また、水冷法インフレーションフィルム法、及びT-ダイ法による本発明の製品フィルムを製造することもでき、透明性、及び低温衝撃性に加え、ガスバリヤー性の良好なポリエチレン系フィルムを得ることができる。
【0089】
これらの方法により製造する、本発明のフィルムの厚さは、その使い易さの点から10〜200μm、特に30〜100μmとするのが好ましい。
また必要に応じて、前記ポリエチレン系樹脂層の一方、又は両面に少なくとも1層以上の付加層を加えてもよい。
該付加層は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、又はそれ以外のナイロン、PET等の非ポリオレフィン系の樹脂で形成することができる。なお、該ポリエチレン系樹脂組成物のベースとなるポリエチレン樹脂組成物の密度が、高くなるにつれて、ヘイズ値が高くなるが、両サイドに比較的、低密度のポリエチレン樹脂でポリエチレン樹脂層を形成することにより、ヘイズ値を低減することが可能である。
【0090】
なお、前記ポリエチレン系樹脂組成物層を少なくとも一層以上含む多層フィルムは、種々の方法で製造することができる。例えば、多層空冷インフレーション法、多層水冷インフレーション法、多層T-ダイ法、ドライラミネーション法、及びイクストルージョンコーティング法などがある。なお、本発明における該付加層の厚みは特に限定されるものではないが、通常5〜200μm、特に7〜120μmとするのが好ましい。
次に、本発明を下記実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0091】
本実施例、及び比較例における製品フィルムの各物性は下記の方法により測定した。
酸素透過速度: ASTM D3895に準拠
フィルム全ヘイズ: ASTM D1003に準拠
製品フィルムの衝撃強度: ASTM D781に準拠
ヒートシール強度: JIS Z0238に準拠
【0092】
(実施例1)
密度が、0.922 g/cm3、MFRが0.80 g/10分であるエチレン-ブテン-1共重合体(エチレン・α-オレフィン共重合体)50重量%(100 kg)と、無水マレイン酸3.0重量%を含有するエチレン−無水マレイン酸共重合体25重量%(50 kg)と、エチレンユニット32モル%を含有するエチレンビニルアルコール25重量%(50 kg)とを、ヘンシェルミキサーで5分間混合し、混合ペレットを得た。該混合ペレットを押出機口径50 mmφ、ダイス口径80 mmφ、ダイスのソップギャップ3.0 mmの成形機を用い、樹脂温度200℃でフィルム厚み20μm、折幅250 mm、引き取り速度20 m/分で製膜した。得られた製品フィルムの物性を表2に示す。
表2の結果から明らかなように、本発明のフィルムは、酸素透過速度が遅く、優れたガスバリヤー性を有し、透明性(低いヘイズ)、衝撃強度、及び低温ヒートシール性においても優れていることが確認できた。
【0093】
(実施例2〜16)
実施例2〜16では、表1に示すエチレン・α-オレフィン共重合体(A)、エチレン系共重合体(B)、及びエチレンビニルアルコール(C)を用い、表1に示す組成比により、実施例1と同一成形条件で同サイズのフィルムを得た。実施例2〜16で得られた製品フィルムの物性を表2に示した。
表2の結果から明らかなように、本発明のフィルムは、酸素透過速度が遅く、優れたガスバリヤー性を示し、かつ透明性(低いヘイズ)、衝撃強度、及び低温ヒートシール性においても優れていることが確認できた。
【0094】
(実施例17)
実施例2と同配合の組成物で厚み20μmのフィルム中間層、及び密度が0.922 g/cm3、MFRが0.80 g/10分であるエチレン-ブテン-1共重合体(エチレン・α-オレフィン共重合体)で厚み各10μmのフィルム内外層を有する、トータル40μm、2種/3層フィルムを製造した。該フィルムの製造には、押出機口径中間層50 mmφ、内外層50 mmφ、ダイス口径80 mmφ、ダイスのリップギャップ2.0 mmの2種/3層成形機を用い、樹脂温度200℃で、フィルム厚み40μm、折幅250 mm、かつ引き取り速度20 m/分で製膜した。
得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
(比較例1〜16)
比較例1〜16では、表3に示した種々のエチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン系共重合体、及びエチレンビニルアルコールを用い、表3に示した組成比により、実施例1と同一成形条件で同サイズのフィルムを得た。比較例1〜16で得られた製品フィルムの物性を表4に示した。
表4に示された結果から明らかなように、比較例のフィルムは、実施例の製品フィルムと比べ、衝撃強度、及び低温ヒートシール性が劣っていた。
【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】図1は、連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線の積分溶出曲線を示す。
【図2】図2は、連続昇温溶出分別法(TREF)により求めた溶出温度−溶出曲線において、特殊なエチレン・α-オレフィン共重合体に生じる複数個のピークを示す。
【図3】図3は、連続昇温溶出分別法(TREF)により求めた溶出温度−溶出量曲線において通常のエチレン・α-オレフィン共重合体に生じる実質的に1個のピークを示す。
【図4】図4は、エチレン・α-オレフィン共重合体(A2)では、従来の典型的なメタロセン系触媒によるエチレン・α-オレフィン共重合体と同様にTREFピークが1つであることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・α-オレフィン共重合体(A)10〜98重量%;エチレンと少なくとも1種のラジカル重合性酸無水物とを共重合してなる多元共重合体であって、該ラジカル重合性酸無水物に由来する単位が0.1〜20重量%であるエチレン系共重合体(B)1〜50重量%;及びエチレンとビニルアルコールとを共重合してなるエチレン-ビニルアルコール共重合体であって、該共重合体中のエチレンに由来する単位が10〜70モル%であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(C)1〜50重量%とを含むポリエチレン系樹脂組成物であって:
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が下記の特性を有する該ポリエチレン系樹脂組成物:
(a)密度が0.86〜0.94 g/cm3
(b)メルトフローレートが0.01〜50 g/10分;
(c)分子量分布(M/M)が1.5〜4.5;及び
(d)連続昇温溶出分別法による溶出温度−溶出量曲線の積分溶出曲線から求めた全体の25%が溶出する温度T25(℃)と全体の75%が溶出する温度T75(℃)との差T75−T25及び密度d(g/cm3)が、下記(式1)の関係を満足すること、
75−T25≦−670×d+644 (式1)。
【請求項2】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、さらに下記(e)の要件を満足する、請求項1記載のポリエチレン系樹脂組成物:
(e)連続昇温溶出分別法による溶出温度−溶出量曲線の積分溶出曲線から求めた全体の25%が溶出する温度T25(℃)と、全体の75%が溶出する温度T75(℃)との差T75−T25および密度d(g/cm3)が、下記(式2)の関係を満足すること、
75−T25≧−300×d+285 (式2)。
【請求項3】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、さらに下記(f)及び(g)の要件を満足するエチレン・α-オレフィン共重合体(A1)である、請求項1又は2のいずれか1項記載のポリエチレン系樹脂組成物:
(f)25℃におけるオルトジクロロベンゼン可溶分量X(重量%)、密度d(g/cm3)及びメルトフローレート(MFR)(g/10分)が下記(式3)、及び(式4)の関係を満足すること、
d−0.008 log MFR≧0.93 (式3)の場合
X<2.0
d−0.008 log MFR<0.93 (式4)の場合
X<9.8×10×(0.93−d+0.008 log MFR)+2.0;及び
(g)連続昇温溶出分別法による溶出温度−溶出量曲線のピークが複数個存在すること。
【請求項4】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、さらに下記(h)及び(i)の要件を満足するエチレン・α-オレフィン共重合体(A2)であることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか1項記載のポリエチレン系樹脂組成物;
(h)連続昇温溶出分別法による溶出温度−溶出量曲線のピークが一つであること;及び
(i)1以上の融点ピークを有し、かつその最高融点Tml(℃)と密度d(g/cm3)が、下記(式5)の関係を満足すること、
ml≧150×d−19 (式5)。
【請求項5】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A2)が、さらに下記(j)の要件を満足する、請求項4に記載のポリエチレン系樹脂組成物:
(j)メルトテンション(MT)(g)とメルトフローレート(MFR)(g/10分)が、下記(式6)を満足すること、
log MT≦−0.572×log MFR+0.3 (式6)。
【請求項6】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、実質的に添加剤を含まず、かつ前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)のハロゲン含有量が10 ppm以下である、請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、少なくとも共役二重結合をもつ有機環状化合物と周期律表第IV族の遷移金属化合物とを含む触媒によって重合されたものである、請求項1から請求項6のいずれか1項記載のポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記エチレン系共重合体(B)が、エチレンと、無水マレイン酸、無水イタコン酸及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれたラジカル重合性酸無水物との多元共重合体である、請求項1記載のポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項9】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、密度約0.91〜0.93 g/cm3、かつMFRが約0.3〜50 g/10分の高圧法低密度ポリエチレンを5〜50重量%含む、請求項1記載のポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項10】
前記エチレン系共重合体(B)が、エチレン、ラジカル重合性無水物及び他のラジカル重合性コモノマーとの多元共重合体である、請求項1記載のポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項11】
前記エチレン系共重合体(B)が、ラジカル重合性酸無水物に由来する単位を1〜10重量%含む、請求項1記載のポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項12】
前記エチレン系共重合体(B)を7〜15重量%含む、請求項1記載のポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項13】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)中のエチレン共重合に由来する単位が25〜45モル%である、請求項1記載のポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項14】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)を7〜15重量%含む、請求項1記載のポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項記載のポリエチレン系樹脂組成物からなる層を含む、ポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項16】
前記ポリエチレン系樹脂組成物からなる層が、温度20℃、相対湿度65% RHにおける酸素透過速度が11,000 cc・20μm/m・day・atm以下であり、フィルムヘイズが20%以下、かつフィルム衝撃強度が130 kg・cm/mm以上の層である、請求項15記載のポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項17】
さらに、少なくとも1層以上の付加層を含む、請求項15又は16のいずれか1項記載のポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項18】
該付加層がポリエチレン層である、請求項17記載のポリエチレン系樹脂フィルム。
【請求項19】
該ポリエチレン系樹脂組成物からなる層の厚さが10〜200μmである、請求項15〜18のいずれか1項記載のポリエチレン系樹脂フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−131764(P2006−131764A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322487(P2004−322487)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(593137071)武蔵野樹脂株式会社 (2)
【Fターム(参考)】