説明

ポリエチレン系樹脂製射出成形体

【課題】高剛性でかつ高衝撃特性を有し、その成形においても優れた流動性を有しているポリエチレン系樹脂からなる射出成形体を得る。
【解決手段】下記(A)〜(D)の要件を満たすポリエチレン系樹脂を射出成形する。(A)密度が890kg/m以上980kg/m以下、(B)炭素数6以上の長鎖分岐数が1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下、(C)式(1)と式(2)を共に満たし、 MS190>22×MFR−0.88 (1) MS160>110−110×log(MFR) (2)(D)示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のポリエチレン系樹脂を用いて成形されたポリエチレン系樹脂製射出成形体に関する。さらに詳しくは、特定の密度、長鎖分岐数、MFRおよび溶融張力を有するエチレン単独重合体、またはエチレンとα−オレフィンとの共重合体を用いて成形された射出成形体、例えばカップ、キャップ、コンテナ、パレット等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリエチレン系樹脂はその優れた特性により、各種射出成形体の原料に用いられているが、近年プラスチックスの廃棄物問題が注目されており、射出成形体の薄肉化が望まれている。また、実際の成形現場においてもコストダウンを目的に、成形時間短縮等も検討されている。このような要求を満たすためには、ポリエチレン系樹脂製射出成形体は高剛性かつ高衝撃強度を有していることが重要であり、また該成形体の成形工程においては、薄肉金型においてもポリエチレン系樹脂が十分な流動性を有している必要がある。
【0003】
従来、ポリエチレン系樹脂の射出成形分野は、主にチーグラーナッタ触媒により製造されたポリエチレン系樹脂が好的に用いられてきた。このポリエチレン系樹脂を用いて上記課題を解決しようとすると種々の問題が発生する。例えば、該ポリエチレン系樹脂に十分な流動性をもたせると、得られた射出成形体の衝撃強度が不十分となり、成形体は実質的に薄肉化できないという問題があり、また多量の低分子量ポリエチレンが金型に付着し、長期連続生産が困難となる。そこで、最近メタロセン触媒により製造されたポリエチレン系樹脂を射出成形体に応用する試みがある。しかし、メタロセン触媒を用いた射出成形品が開示されているが、成形体の剛性が不十分であり、成形時の流動性においても満足のいくものではない(例えば、特許文献1参照)。メタロセン触媒によるポリエチレン系樹脂組成物を用いた高剛性の射出成形品が開示されているが、流動性においては満足のできるレベルではなく、薄肉金型における流動性としては満足のいくものではなかった(例えば、特許文献2参照)。分子量分布の狭いポリエチレン系樹脂製射出成形体が開示されているが、使用されるポリエチレン系樹脂は薄肉金型での成形ができるような十分な流動性を有していない(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−193377号公報
【特許文献2】特開平10−193379号公報
【特許文献3】特開平7−278229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の課題を解決するものであり、特定の要件を満たすエチレン単独重合体、またはエチレンとα−オレフィンとの共重合体を用いたポリエチレン系樹脂製射出成形体を提供するものである。本発明のポリエチレン系樹脂製射出成形体は、高剛性でかつ高衝撃特性を有し、その成形においても優れた流動性を有している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は鋭意検討した結果、特定のポリエチレン系樹脂が優れた流動性を有し、かつ得られた成形体が優れた物性であることを見い出した。すなわち本発明は、エチレン単独重合体またはエチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体であって、下記(A)〜(D)の要件を満たすポリエチレン系樹脂を射出成形して得られることを特徴とするポリエチレン系樹脂製射出成形体に関する。
(A)密度が890kg/m以上980kg/m以下、
(B)炭素数6以上の長鎖分岐数が1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下、
(C)190℃で測定した溶融張力(MS190)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(1)
MS190>22×MFR−0.88 (1)
を満たすと共に160℃で測定した溶融張力(MS160)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(2)を満たし、
MS160>110−110×log(MFR) (2)
(D)示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つである
以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂の密度は、JIS K6922−1(1998)に準拠して密度勾配管法で測定した値として、890kg/m以上980kg/m以下、好ましくは920kg/m以上965kg/m以下である。密度が890kg/m未満の場合、得られる射出成形体の剛性が不足し、成形体が使用中に容易に変形しやすくなるという問題が発生する。また、密度が高くなると射出成形体の衝撃強度が低下するので、密度の上限としては980kg/mが好ましい。
【0008】
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂の直鎖状ポリエチレン換算の重量平均分子量(M)は、10,000以上1,000,000以下であり、好ましくは20,000以上700,000以下であり、さらに好ましくは25,000以上300,000以下である。Mが10,000未満であると得られた射出成形体の衝撃強度が低下し、金型に多量の低分子量ポリエチレンの付着物がつき、連続成形が困難となる。また、1,000,000を越えると薄肉金型での流動性が不足し、成形体を得られない恐れがある。
【0009】
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂の190℃、2.16kg荷重におけるMFRは、0.1g/10分以上200g/10分以下、好ましくは1g/10分以上150g/10分以下、さらに好ましくは1g/10分以上50g/10分以下である。0.1g/10分未満であると射出成形を行うことが困難となり、200g/10分を超えると実用に耐えない強度となってしまう。
【0010】
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂の長鎖分岐数は、1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下である。0.01個未満では流動性が悪く、良好な薄肉成形体を得られない恐れがある。また、3個を超えると力学的性質に劣る射出成形体となる恐れがある。なお、長鎖分岐数とは13C−NMR測定で検出されるヘキシル基以上(炭素数6以上)の分岐の数である。
【0011】
本発明の射出成形体に用いられるポリエチレン系樹脂の190℃で測定した溶融張力MS190(mN)とMFR(g/10分、190℃)は、
MS190>22×MFR−0.88 (1)
で示される関係にあり、好ましくは下記式(1)’
MS190>30×MFR−0.88 (1)’
で示される関係にあり、さらに好ましくは下記式(1)”
MS190>5+30×MFR−0.88 (1)”
で示される関係にある。(1)式を満たさない場合、流動性が乏しく、良好な薄肉成形品を得られない恐れがある。
【0012】
また、本発明の射出成形体に用いられるポリエチレン系樹脂の160℃で測定した溶融張力MS160(mN)とMFR(g/10分、190℃)は、
MS160>110−110×log(MFR) (2)
で示される関係にあり、好ましくは下記式(2)’
MS160>130−110×log(MFR) (2)’
で示される関係にあり、さらに好ましくは下記式(2)”
MS160>150−110×log(MFR) (2)”
で示される関係にある。(2)式を満たさない場合、流動性が悪く、薄肉の射出成形体を得られない恐れがある。
【0013】
本発明の射出成形体に用いられるポリエチレン系樹脂は、示差走査型熱量計(DSC)による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つであることを特徴とし、これによって得られる射出成形体は寸法安定性に優れ、かつ耐熱性にも優れるものとなる。吸熱曲線は、アルミニウム製のパンに5〜10mgのサンプルを挿填し、DSCにて昇温することによって得られる。なお、昇温測定は、予め230℃で3分間放置した後、10℃/分で−10℃まで降温し、その後、10℃/分の昇温速度で150℃まで昇温することにより行われる。
【0014】
本発明の射出成形体に用いられるポリエチレン系樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)/固有粘度計によって評価した収縮因子(g’値)が0.1以上0.9未満、さらには0.1以上0.7以下であることが好ましく、これによってポリエチレン系樹脂を射出成形するする際の収縮が小さくなるため、得られる射出成形体の収縮が低減する。本発明における収縮因子(g’値)とは、長鎖分岐の程度を表すパラメータであり、重量平均分子量(M)の3倍の絶対分子量における本ポリエチレン系樹脂の固有粘度と、分岐が全くない高密度ポリエチレン(HDPE)の同じ分子量における固有粘度との比である。また、このg’値とGPC/光散乱計によって評価した収縮因子(g値)との間には、好ましくは式(3)、さらに好ましくは式(3)’で示される関係があり、これによって成形品の収縮率はさらに低減する。なお、g値はMの3倍の絶対分子量における本ポリエチレン系樹脂の慣性半径の二乗平均と、分岐が全くないHDPEの同じ分子量における慣性半径の二乗平均との比である。
【0015】
0.2<log(g’)/log(g)<1.3 (3)
0.5<log(g’)/log(g)<1.0 (3)’
さらに、Mの3倍の絶対分子量におけるg値(g3M)とMの1倍の絶対分子量におけるg値(g)の間には、式(4)、好ましくは式(4)’、さらに好ましくは式(4)”で示される関係があることが、成形品の収縮率低減のために望ましい。
【0016】
0<g3M/g≦1 (4)
0<g3M/g≦0.9 (4)’
0<g3M/g≦0.8 (4)”
本発明の射出成形体を構成するポリエチレン系樹脂は、エチレンを重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン重合体、またはエチレンと炭素数3以上のオレフィンを共重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン共重合体であり、
(E)Mが2,000以上であり、
(F)M/Mが2以上5以下である
マクロモノマーの存在下に、エチレンおよび任意に炭素数3以上のオレフィンを重合することによって得られたものであることが望ましい。マクロモノマーとは、末端にビニル基を有するオレフィン重合体であり、好ましくはエチレンを重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン重合体、またはエチレンと炭素数3以上のオレフィンを共重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン共重合体であり、さらに好ましくは任意に用いられる炭素数3以上のオレフィンに由来する分岐以外の分岐のうち、長鎖分岐(すなわち、13C−NMR測定で検出されるヘキシル基以上の分岐)が、主鎖メチレン炭素1,000個当たり0.01個未満である、末端にビニル基を有する直鎖状エチレン重合体または直鎖状エチレン共重合体である。
【0017】
炭素数3以上のオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテンもしくはビニルシクロアルカン等のα−オレフィン、ノルボルネンもしくはノルボルナジエン等の環状オレフィン、ブタジエンもしくは1,4−ヘキサジエン等のジエンまたはスチレンを例示することができる。また、これらのオレフィンを2種類以上混合して用いることもできる。
【0018】
マクロモノマーとして末端にビニル基を有するエチレン重合体または末端にビニル基を有するエチレン共重合体を用いる場合、その直鎖状ポリエチレン換算の数平均分子量(M)は、2,000以上であり、好ましくは5,000以上であり、さらに好ましくは10,000以上である。直鎖状ポリエチレン換算の重量平均分子量(M)は、4,000以上であり、好ましくは10,000以上であり、さらに好ましくは15,000より大きい。また、重量平均分子量(M)とMの比(M/M)は、2以上5以下であり、好ましくは2以上4以下であり、さらに好ましくは2以上3.5以下である。下記一般式(5)
Z=[X/(X+Y)]×2 (5)
(ここで、Xはマクロモノマーの主鎖メチレン炭素1,000個当たりのビニル末端数であり、Yはマクロモノマーの主鎖メチレン炭素1,000個当たりの飽和末端数である。)
で表されるビニル末端数と飽和末端数の比(Z)は0.25以上1以下であり、好ましくは0.50以上1以下である。XおよびYは、H−NMR、13C−NMRまたはFT−IR等で求められる。例えば、13C−NMRにおいて、ビニル末端は114ppm、139ppm、飽和末端は32.3ppm、22.9ppm、14.1ppmのピークにより、その存在および量が確認できる。
【0019】
本発明におけるマクロモノマーの製造方法に関して特に限定はないが、マクロモノマーとして末端にビニル基を有するエチレン重合体または末端にビニル基を有するエチレン共重合体を製造する場合は、例えば、周期表第3族、第4族、第5族および第6族から選ばれる遷移金属を含有するメタロセン化合物を主成分として含む触媒を用いてエチレンを重合する方法を用いることができる。助触媒としては、有機アルミニウム化合物、プロトン酸塩、ルイス酸塩、金属塩、ルイス酸および粘土鉱物等が挙げられる。
【0020】
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂は、例えば、周期表第3族、第4族、第5族および第6族から選ばれる遷移金属を含有するメタロセン化合物を主成分として含む触媒を用いて、マクロモノマーの存在下に、エチレンおよび任意に炭素数3以上のオレフィンを重合することによって得られる。また、マクロモノマーの製造と同様に、助触媒を用いることができる。重合温度は、−70〜300℃、好ましくは0〜250℃、さらに好ましくは20〜150℃の範囲である。エチレン分圧は、0.001〜300MPa、好ましくは0.005〜50MPa、さらに好ましくは0.01〜10MPaの範囲である。また、重合系内に分子量調節剤として水素を存在させてもよい。
【0021】
本発明において、マクロモノマーの存在下に、エチレンと炭素数3以上のオレフィンを重合する場合、エチレン/炭素数3以上のオレフィン(モル比)は、1〜200、好ましくは3〜100、さらに好ましくは5〜50の供給割合を用いることができる。
【0022】
本発明の射出成形体に用いられるポリエチレン系樹脂は、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、防曇剤、抗ブロッキング剤、スリップ剤、滑剤、核剤、顔料、タッキファイヤー、カーボンブラック、タルク、ガラス粉、ガラス繊維等の無機充填剤または補強剤、有機充填剤または補強剤、難燃剤、中性子遮蔽剤等の公知の添加剤を配合することができる。また、他の熱可塑性樹脂と混合して用いることもできる。これらの例として、粘着付与樹脂、ワックス、HDPE、L−LDPE、LDPE、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリスチレン、これらの無水マレイン酸グラフト物等を例示することができる。混合方法としては、各成分をバンバリーミキサー、ロールミキサー、ニーダー、高速回転ミキサー、押出機等の各種混練機、好ましくは単軸もしくは二軸押出機を用いて混合・混練することができる。また、射出成形加工時に混練することもできる。さらに、適当な良溶媒を用いて、溶液ブレンドにより混合することもできる。
【0023】
射出成形機は通常のものでよく、また、使用する金型も特に制限はなく、通常の金型を使用することができ、事前に冷却水通水パスの大きさ、位置などを変更したり、特別の通水条件を選ぶ必要もない。容器を成形する際のシリンダー温度条件、型締圧、射出圧、射出時間、冷却時間などの成形条件には特に制限がなく、通常の条件を選べばよい。金型からの成形品の離型も、金型キャビティ内で成形品が変形しない温度まで冷却し、離型するという通常の方法で行えばよい。
【0024】
射出成形条件としては、シリンダー温度160〜200℃、金型温度5〜40℃、スクリュー回転数40〜300rpm、射出圧力4〜14MPa等の範囲を用いることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂は、従来のポリエチレン系樹脂に比べて優れた流動性を有している。このため、分子量の大きなポリエチレン系樹脂を使用しても射出成形が行えることから、それから得られる射出成形体は、高剛性でかつ高衝撃特性を有するものとなる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
変性ヘクトライトの調製、マクロモノマー製造用触媒の調製、マクロモノマーの製造、ポリエチレンの製造および溶媒精製は、全て不活性ガス雰囲気下で行った。変性ヘクトライトの調製、マクロモノマー製造用触媒の調製、マクロモノマーの製造、ポリエチレンの製造に用いた溶媒等は、全て予め公知の方法で精製、乾燥、脱酸素を行ったものを用いた。ジフェニルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリドは公知の方法により合成、同定したものを用いた。トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)は東ソー・ファインケム(株)製を用いた。
【0028】
さらに、実施例および比較例におけるポリエチレン系樹脂の諸物性は、以下に示す方法により測定した。
【0029】
〜分子量および分子量分布〜
重量平均分子量(M)および数平均分子量(M)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置としては東ソー(株)製 HLC−8121GPC/HTを用い、カラムとしては東ソー(株)製 TSKgel GMHhr−H(20)HTを用い、カラム温度を140℃に設定し、溶離液として1,2,4−トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mLの濃度で調製し、0.3mL注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正されている。なお、MおよびMは直鎖状ポリエチレン換算の値として求めた。
【0030】
〜収縮因子(g’値)〜
収縮因子(g’値)は、GPCによって分別したポリエチレン系樹脂の[η]を測定する手法で求めたMの3倍の絶対分子量における[η]を、分岐が全くないHDPEの同一分子量における[η]で除した値である。GPC装置としては東ソー(株)製 HLC−8121GPC/HTを用い、カラムとしては東ソー(株)製 TSKgel GMHhr−H(20)HTを用い、カラム温度を145℃に設定し、溶離液として1,2,4−トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は2.0mg/mLの濃度で調製し、0.3mL注入して測定した。粘度計は、Viscotek社製 キャピラリー差圧粘度計210R+を用いた。
【0031】
〜収縮因子(g値)〜
収縮因子(g値)は、GPCによって分別したポリエチレン系樹脂を、光散乱によって慣性半径を測定する手法で求めた。本発明の射出成形体に用いるポリエチレン系樹脂のMの3倍の絶対分子量における慣性半径の二乗平均を、分岐が全くないHDPEの同一分子量における慣性半径の二乗平均で除した値である。光散乱検出器としては、Wyatt Technology社製 多角度光散乱検出器DAWV EOSを用い、690nmの波長で、29.5°、33.3°、39.0°、44.8°、50.7°、57.5°、64.4°、72.3°、81.1°、90.0°、98.9°、107.7°、116.6°、125.4°、133.2°、140.0°、145.8°の検出角度で測定した。
【0032】
〜Z値〜
ビニル末端、飽和末端などのマクロモノマーの末端構造は、日本電子(株)製 JNM−ECA400型核磁気共鳴装置を用いて、13C−NMRによって測定した。溶媒はテトラクロロエタン−dである。ビニル末端数は、主鎖メチレン炭素(化学シフト:30ppm)1,000個当たりの個数として114ppm、139ppmのピークの平均値から求めた。また、飽和末端数は、同様に32.3ppm、22.9ppm、14.1ppmのピークの平均値から求めた。このビニル末端数(X)と飽和末端数(Y)から、Z=[X/(X+Y)]×2を求めた。
【0033】
〜密度〜
密度は、JIS K6922−1(1998)に準拠して密度勾配管法で測定した。
【0034】
〜MFR〜
MFRは、JIS K6922−1(1998)に準拠して190℃、2.16kg荷重で測定した。
【0035】
〜長鎖分岐数〜
ポリエチレン系樹脂の長鎖分岐数は、日本電子(株)製 JNM−GSX270型核磁気共鳴装置を用いて、13C−NMRによって測定した。
【0036】
〜溶融張力(MS)〜
溶融張力(MS)の測定に用いたポリエチレンは、予め耐熱安定剤としてイルガノックス1010TM(チバスペシャリティケミカルズ社製)1,500ppm、イルガフォス168TM(チバスペシャリティケミカルズ社製)1,500ppmを添加し、インターナルミキサー(東洋精機製作所製、商品名:ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、190℃、回転数30rpmで3分間混練したものを用いた。溶融張力(MS)は、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、商品名:キャピログラフ)に、長さ(L)が8mm、直径(D)が2.095mm、流入角が90°のダイを装着し測定した。MSは、温度を160℃または190℃に設定し、ピストン降下速度を10mm/分、延伸比を47に設定し、引き取りに必要な荷重(mN)をMSとした。
【0037】
〜吸熱ピークの数〜
DSC(パーキンエルマー社製、商品名:DSC−7)を用いて測定を行なった。5〜10mgのポリエチレン系樹脂をアルミニウムパンに挿填し、DSCに設置した後、80℃/分の昇温速度で230℃まで昇温し、230℃で3分間放置する。その後、10℃/分の降温速度で−10℃まで冷却し、再度10℃/分の昇温速度で−10℃から150℃まで昇温する手順で昇温/降温操作を行い、2回目の昇温時に観測される吸熱曲線のピーク数を評価した。
【0038】
〜流動性の評価〜
東芝製射出成形機IS−100E、肉厚0.6mmの渦巻き溝の金型を用いて、中央ゲートより射出により溶融ポリエチレン樹脂組成物を圧入して成形品を作り、その流動距離(スパイラルフローディスタンス)により流動性を評価した。射出圧力75MPa、射出時間10秒、金型温度40℃、樹脂温度160℃、190℃の条件下でスパイラルフローディスタンス(SFD)を測定した。
【0039】
〜成形体の物性〜
東芝製射出成形機IS−100Eを用い、肉厚1mm、縦10cm、横10cmの平板を成形した。得られた平板のアイゾット衝撃強さ(JIS K7106)、オルゼン曲げこわさ(JIS K7110)を評価した。
【0040】
実施例1
[変性ヘクトライトの調製]
水60mLにエタノール60mLと37%濃塩酸2.0mLを加えた後、得られた溶液にN,N−ジメチルオクタデシルアミン 6.55g(0.022mol)を添加し、60℃に加熱することによって、N,N−ジメチルオクタデシルアミン塩酸塩溶液を調製した。この溶液にヘクトライト20gを加えた。この懸濁液を60℃で3時間撹拌し、上澄液を除去した後、60℃の水1Lで洗浄した。その後、60℃、10−3torrで24時間乾燥し、ジェットミルで粉砕することによって、平均粒径5.2μmの変性ヘクトライトを得た。元素分析の結果、変性ヘクトライト1g当たりのイオン量は0.85mmolであった。
【0041】
[マクロモノマー製造用触媒の調製]
上記変性ヘクトライト8.0gをヘキサン29mLに懸濁させ、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)46mLを添加し、室温で1時間攪拌することにより、変性ヘクトライトとトリイソブチルアルミニウムの接触生成物を得た。一方、ジフェニルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド151mg(320μmol)をトルエンに溶解させたものを添加し、室温で一晩攪拌することにより、触媒スラリー(100g/L)を得た。
【0042】
[マクロモノマーの製造]
10Lオートクレーブに、ヘキサン6,000mLとトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/L)5.0mLを導入し、オートクレーブの内温を85℃に昇温した。このオートクレーブに、上記触媒スラリー0.88mLを添加し、エチレンを分圧が1.2MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が1.2MPaに保たれるようにエチレンを連続的に導入した。また、重合温度を85℃に制御した。重合開始90分後に、内温を50℃まで降温してオートクレーブの内圧を0.1MPaまで脱圧した後、オートクレーブに窒素を0.6MPaになるまで導入して脱圧した。この操作を5回繰り返した。このオートクレーブから抜き出したマクロモノマーのMは14,400、M/Mは3.02であり、13C−NMRによりマクロモノマーの末端構造を解析したところ、ビニル末端数と飽和末端数の比(Z)はZ=0.65であった。また、13C−NMRにおいてメチル分岐が1,000炭素原子当たり0.41個、エチル分岐が1,000炭素原子当たり0.96個検出された。さらに、13C−NMRにおいて長鎖分岐は検出されなかった。
【0043】
[ポリエチレンの製造]
上記で製造したマクロモノマーが含まれる10Lオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/L)1.4mLとジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド 7μmolを導入し、オートクレーブの内温を60℃に昇温後、30分間攪拌した。続いてオートクレーブの内温を90℃に昇温後、エチレン/水素混合ガス(水素2,000ppm)を分圧が0.3MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.3MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を90℃に制御した。重合開始173分後に、オートクレーブの内圧を脱圧した後、内容物を吸引ろ過した。乾燥後、865gのポリマーが得られた。得られたポリエチレンのMFRは4.3g/10分、密度は960kg/m、Mは9.6×10、M/Mは6.6、長鎖分岐数は0.03個/1,000炭素、示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークは一つであった。得られたポリエチレンのSFD、オルゼン曲げこわさ、アイゾット衝撃強度は、前述の評価方法に従い測定した。その結果、得られたポリエチレンは良好な流動性を示し、かつ射出成形体も優れた物性を有していた。物性を表1〜4に示す。
【0044】
実施例2
[ポリエチレンの製造]
実施例1で製造したマクロモノマーが含まれる10Lオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/L)1.4mLとジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド 7μmolを導入し、オートクレーブの内温を90℃に昇温した。エチレン/水素混合ガス(水素3,000ppm)を分圧が0.3MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.3MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を90℃に制御した。重合開始194分後に、オートクレーブの内圧を脱圧した後、内容物を吸引ろ過した。乾燥後、870gのポリマーが得られた。得られたポリエチレンのMFRは6.1g/10分、密度は958kg/m、Mは9.7×10、M/Mは7.2、長鎖分岐数は0.03個/1,000炭素、示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークは一つであった。得られたポリエチレンは良好な流動性を有し、かつ射出成形体も優れた物性を有していた。物性を表1〜4に示す。
【0045】
実施例3
[ポリエチレンの製造]
実施例1で製造したマクロモノマーが含まれる10Lオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/L)5mLとジフェニルメチレン(1−インデニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド 50μmolを導入し、オートクレーブの内温を85℃に昇温した。エチレンを分圧が0.3MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.3MPaに保たれるようにエチレンを連続的に導入した。また、重合温度を85℃に制御した。重合開始126分後に、オートクレーブの内圧を脱圧した後、内容物を吸引ろ過した。乾燥後、805gのポリマーが得られた。得られたポリエチレンのMFRは8.0g/10分、密度は972kg/m、Mは8.6×10、M/Mは6.4、長鎖分岐数は0.03個/1,000炭素、示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークは一つであった。得られたポリエチレンは良好な流動性を有し、かつ射出成形体も優れた物性を有していた。物性を表1〜4に示す。
【0046】
比較例1
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つである、市販の高密度ポリエチレン(ニポロンハード#2000、東ソー(株)製、MFR=15g/10分、密度960kg/m)を用いて、実施例1と同様の方法で射出成形を試みたが、流動性が不十分であり、成形体の衝撃強度も不十分であった。物性を表1〜4に示す。
【0047】
比較例2
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つである、市販の高密度ポリエチレン(ニポロンハード#2500、東ソー(株)製、MFR=8g/10分、密度961kg/m)を用いて、実施例1と同様の方法で射出成形を試みたが、流動性が不十分であり、成形体の衝撃強度も不十分であった。物性を表1〜4に示す。
【0048】
比較例3
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つである、市販の低密度ポリエチレン(ペトロセン203、東ソー(株)製、MFR=8g/10分、密度919kg/m)を用いて、実施例1と同様の方法で射出成形を試みたが、流動性は十分であるものの、成形体の剛性が不十分であった。物性を表1〜4に示す。
【0049】
比較例4
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つである、市販のメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(アフィニティPT1450、ダウケミカル社製、MFR=7.5g/10分、密度902kg/m)を用いて、実施例1と同様の方法で射出成形を試みたが、流動性が不十分であることに加え、成形体の剛性も不十分であった。物性を表1〜4に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(D)の要件を満たすポリエチレン系樹脂を射出成形して得られるポリエチレン系樹脂製射出成形体。
(A)密度が890kg/m以上980kg/m以下、
(B)炭素数6以上の長鎖分岐数が1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下、
(C)190℃で測定した溶融張力(MS190)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(1)
MS190>22×MFR−0.88 (1)
を満たすと共に160℃で測定した溶融張力(MS160)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(2)を満たし、
MS160>110−110×log(MFR) (2)
(D)示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つである
【請求項2】
エチレンを重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン重合体、またはエチレンと炭素数3以上のオレフィンを共重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン共重合体であり、
(E)Mが2,000以上であり、
(F)M/Mが2以上5以下である
マクロモノマーの存在下に、エチレンおよび任意に炭素数3以上のオレフィンを重合することによって得られるポリエチレン系樹脂を用いることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン系樹脂製射出成形体。
【請求項3】
(A)’密度が920kg/m以上965kg/m以下であるポリエチレン系樹脂を用いることを特徴とする請求項1〜2に記載のポリエチレン系樹脂製射出成形体。
【請求項4】
(G)190℃、2.16kg荷重でのMFRが1g/10分以上50g/10分以下であるポリエチレン系樹脂を用いることを特徴とする請求項1〜3に記載のポリエチレン系樹脂製射出成形体。

【公開番号】特開2006−124447(P2006−124447A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311875(P2004−311875)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】