説明

ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法及びこれに用いる濾過装置

【課題】ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる異物を効率的に取り除くことができ、優れた外観の成形体を製造するのに有用な濾過装置を提供すること。
【解決手段】濾過装置は、ポリオレフィン成分を含有するポリオレフィン系樹脂組成を濾過するためのものであって、流路を有する装置本体部と、濾過精度1〜100μmの金属焼結フィルタ13と、金属焼結フィルタ13と一方面が当接した線径0.01〜0.25mmの金網14aと、複数の開口15dを有する厚さ10〜100mm及び開口率30〜60%の支持部材15とを備え、金属焼結フィルタ13、金網14a及び支持部材15がこの順序で流路の上流側から下流側に向けて配置され、金属焼結フィルタ13はシール部材18を介して装置本体部に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種又は2種以上のポリオレフィン成分を含有するポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法及びこれに用いる濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂組成物は、機械的強度やヒートシール性能、耐薬品性、食品衛生性など、様々な性能に優れるため、ポリマーフィルムの原料等として、広く普及している。近年、このポリオレフィン系樹脂組成物は、より高価な内容物の包装用途や高価な工業製品の部材にも使用され始めており、品質に対する要求が従前より厳しくなっている。
【0003】
ポリオレフィン系樹脂組成物にゲル状のポリマー炭化物やゴミなどの異物が含まれていると、ポリオレフィン系樹脂組成物をフィルム状に成形した際に、表面にブツ(フィッシュアイ)が発生し、外観悪化の原因となる。
【0004】
このため、ポリオレフィン系樹脂組成物から異物を除去する方法として、金属メッシュや、金属繊維焼結体、金属粉末焼結体などの金属焼結フィルタで該組成物を濾過する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上述のような濾過方法においては、ブツ(フィッシュアイ)の発生を十分に抑制するため、通常、濾過精度の優れるフィルタが用いられる。しかし、より一層高い品質が求められる場合にあっては、優れた濾過精度のフィルタを使用したとしてもその要求を満たす樹脂組成物が十分に得られない場合もある。そこで、フィルタの濾過精度を改善するだけでなく、フィルタの構造自体の検討がなされている。例えば、特許文献1〜3には、リーフディスク型フィルタやプリーツ状フィルタを用いて濾過を行う方法が記載されている。
【0006】
一方、ポリオレフィン系樹脂組成物は、製品の多様化に伴って、種々の物性及び加工性(メヤニ・スジの発生し難さ)を高水準に達成することの要求に応えるべく、複数のポリオレフィン成分を含有するポリオレフィン系樹脂組成物が検討されている。この様なポリオレフィン系樹脂組成物では、各構成成分の分散不良に起因するゲルが発生しやすいため、様々な種類のフィルタを用いる手法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2006−88081号公報
【特許文献2】特開平9−38423号公報
【特許文献3】国際公開第2003/099417号パンフレット
【特許文献4】特表2000−511967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、リーフディスク型フィルタやプリーツ状フィルタを備える濾過装置は、耐圧性の点において改善の余地があり、ポリオレフィン系樹脂組成物の溶融体を濾過する際に圧力を十分高くすることが困難であった。すなわち、上記のような濾過装置は装置の許容圧力以上の高い濾過圧力で濾過を行うと、フィルタを保持する部材がその圧力に耐えることができずに破損する場合がある。この場合、異物が十分に低減されていない溶融体がフィルタの下流側に流れてしまう。このような事態が生じれば、ポリオレフィン系樹脂組成物から得られる成形体は外観などの点で品質が不十分なものとなる。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる異物を効率的に取り除くことができ、優れた外観の成形体を製造するのに有用な濾過装置を提供することを目的とする。また、本発明は、当該濾過装置を用いたポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物用濾過装置は、1種又は2種以上のポリオレフィン成分を含有するポリオレフィン系樹脂組成物の溶融体を濾過するためのものであって、溶融体を移送する流路を有する装置本体部と、濾過精度1〜100μmの金属焼結フィルタと、金属焼結フィルタと一方面が当接した線径0.01〜0.25mmの金網と、金属焼結フィルタ及び金網を支持しており、厚さ方向に貫通する複数の開口を有する、厚さ10〜100mm及び開口率30〜60%の支持部材と、金属焼結フィルタの縁部を覆うように配設されたシール部材とを備え、金属焼結フィルタ、金網及び支持部材がこの順序で流路の上流側から下流側に向けて配置され、金属焼結フィルタはシール部材を介して装置本体部に固定されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る濾過装置は、金属焼結フィルタ、金網及び支持部材を有する積層体が流路に配置されている。本発明の濾過装置によれば、金属焼結フィルタによって異物を十分に除去できるという効果のみならず、溶融体の濾過処理を高い濾過圧力で実施できるという効果が奏される。このため、十分に高い濾過速度を達成でき、単位時間当たりの処理量が向上する。よって、効率的な濾過処理が可能となる。
【0011】
本発明の濾過装置の高い耐圧性は、主に上記積層体の構成及びその固定方法によって達成される。すなわち、第1に、所定の線径(0.01〜0.25mm)の金網に金属焼結フィルタが当接しているため、溶融体の圧力によって金属焼結フィルタが支持部材の方向に押圧されても金属焼結フィルタの変形等を十分に抑制できる。このため、金属焼結フィルタの変形に起因したリークを十分に低減できる。第2に、金属焼結フィルタがシール部材を介して装置本体部に固定されているため、装置本体部と金属焼結フィルタとの接合部におけるリークを十分に低減できる。
【0012】
2種以上のポリオレフィン成分を含有する溶融体を濾過する場合、本発明の濾過装置によれば、溶融体に含まれる各成分が濾過精度1〜100μmの金属焼結フィルタを通過することによって、溶融体に含まれる異物を取り除くと同時に、各成分を高度に分散させることができる。各成分が高度に分散した原料組成物を使用することによって、フィッシュアイの発生量が十分に少なく、優れた外観の成形体を製造できる。
【0013】
本発明においては、開口率30〜60%の支持部材を使用する。ここでいう「開口率」とは、金属焼結フィルタの一方面における開口の面積の合計を当該一方面の面積(装置本体部によって覆われる周縁部を除く)で除すことによって算出される値を意味する。
【0014】
本発明に係る濾過装置においては、金属焼結フィルタ、金網及び支持部材は、装置本体部に対して着脱自在に取り付けされていることが好ましい。かかる構成を採用することにより、各構成部材の交換や洗浄を容易に実施できるという利点がある。
【0015】
本発明に係る濾過装置においては、金属焼結フィルタ、金網及び支持部材は、外形がいずれも円形であってもよく、あるいは、外形がいずれも筒状であってもよい。金属焼結フィルタ、金網及び支持部材を有する積層体の形状は、装置本体部の構造に応じて適宜選択すればよい。
【0016】
筒状の外形を有する金属焼結フィルタを使用する場合、シート状の金属焼結体を丸めた後、繋ぎ目を樹脂製部材又は金属製部材によって圧着してなるものを使用することが好ましい。あるいは、当該金属焼結フィルタとして表面に繋ぎ目が存在しないものを使用することが好ましい。これらの金属焼結フィルタを使用することにより、金属焼結フィルタの繋ぎ目からのリークを十分に低減できる。
【0017】
本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法は、1種又は2種以上のポリオレフィン成分を含有する溶融体を調製する溶融工程と、本発明に係る上記濾過装置において溶融体を濾過する濾過工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る製造方法によれば、上記構成の濾過装置を使用するため、異物の含有量が十分に低減された濾過流体を効率的に得ることができる。このため、優れた外観の成形体を製造するのに有用なポリオレフィン系樹脂組成物を効率的に製造できる。
【0019】
また、2種以上のポリオレフィン成分を含有する溶融体からポリオレフィン系樹脂組成物を製造する場合、本発明の製造方法によれば、濾過工程において溶融体に含まれる各成分が濾過精度1〜100μmの金属焼結フィルタを通過することによって、溶融体に含まれる異物を取り除くと同時に、各成分を高度に分散させることができる。各成分が高度に分散した原料組成物を使用することによって、フィッシュアイの発生量が十分に少なく、優れた外観の成形体を製造できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる異物を効率的に取り除くことができ、優れた外観の成形体を製造するのに有用な濾過装置及びこれを用いたポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0022】
<第1実施形態>
(ポリオレフィン系樹脂組成物の製造システム)
まず、図1〜5を参照しながら、ポリオレフィン系樹脂組成物の製造システムの第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る製造システムを示す模式構成図である。同図に示す製造システム50は、2種以上のポリオレフィン成分を含有するポリオレフィン系樹脂組成物を製造するためのものである。
【0023】
製造システム50は、2種以上のポリオレフィン成分を溶融混練して溶融体を得るとともに溶融体を濾過して濾過流体を得る濾過装置10と、濾過流体を冷却して固化させる水槽20と、固化物からペレットを製造するペレタイザー30とを備える。
【0024】
濾過装置10は、ポリオレフィンなどの原料を投入するホッパー2を装置本体部10aの入口側に有する。装置本体部10aは、被処理物を移送する流路10bを有し、その中に1本又は複数本のスクリュー4が設けられている。ホッパー2に投入された原料組成物は、スクリュー4によって流路10bを下流側へと移動しながら混合され、装置本体部10aに内蔵されたヒーター(図示せず)によって加熱されて溶融体となる。
【0025】
濾過装置10の装置本体部10aとして、市販の押出機を使用することができ、具体的には、単軸押出機、同方向回転二軸押出機、異方向回転二軸押出機等を用いることができる。同方向回転二軸押出機としては、東芝機械(株)製のTEM(登録商標)、日本製鋼所(株)製のTEX(登録商標)及びCMP(登録商標)などを例示できる。異方向回転二軸押出機としては、日本製鋼所(株)製のTEX(登録商標)及びCMP(登録商標)、並びに、神戸製鋼所(株)製のFCM(登録商標)、NCM(登録商標)及びLCM(登録商標)等を例示できる。
【0026】
濾過装置10は、装置本体部10aの出口側にフィルタ機構12を有する。図2は、フィルタ機構12の構成を示す模式断面図である。フィルタ機構12は、スクリュー4によって移送される溶融体を濾過するためのものであり、積層体16を装置本体部10aに固定するフランジ5及びボルト6を具備する。図3は、フィルタ機構12が備える積層体16を構成する各部材の配置関係を示す模式断面図である。図3に示すように、フィルタ機構12が有する積層体16は、金属焼結フィルタ13及び金網14a及びブレーカープレート(支持部材)15がこの順序で流路10bの上流側から下流側に向けて積層されている。なお、図3においては、各部材が互いに離隔した状態の積層体16を図示したが、これは配置関係を明示するためのものであり、実際は各部材同士は互いに当接している。
【0027】
金属焼結フィルタ13、金網14a及びブレーカープレート15の外形は、いずれも円形でありシール部材18を介して装置本体部10aに固定されている。シール部材18は、金属焼結フィルタ13の縁部を覆うとともに積層体16と装置本体部10aとの当接部に位置するように配設されている。
【0028】
金属焼結フィルタ13は、溶融体を通過させることによって、これに含まれる異物を取り除くとともに、各ポリオレフィン成分を互いに分散させるためのものである。金属焼結フィルタ13として、例えば、ステンレス鋼(SUS316L)繊維の焼結によって製造されたものを使用できる。なお、金属焼結フィルタは、市販のものを使用でき、例えば、ナスロン(商品名、日本精線株式会社製)などを好適に使用できる。
【0029】
金属焼結フィルタ13は濾過精度が1〜100μmである。ここでいう濾過精度は、JIS−B8356に基づいて濾過試験を行ったときに、粒子の95%が捕集された粒子の径を意味する。濾過精度が1μm未満であると、濾過圧力を装置の許容圧力以上に高くしないと、単位時間当たり十分な量の溶融体を濾過できない。他方、濾過精度が100μmを超えると、異物の除去や各成分の分散が不十分となり、フィッシュアイ低減効果が不十分となる。金属焼結フィルタ13の濾過精度は、10〜60μmであることが好ましく、20〜40μmであることがより好ましい。
【0030】
金網14aは、金属焼結フィルタ13の下流側に1枚又は2枚以上配置され、金属焼結フィルタ13と直接接している。金網14aの線径は0.01〜0.25mmである。金網14aの線径が0.01mm未満であると、濾過圧力によって金属焼結フィルタ13がブレーカープレート15の開口15dに押し込まれた際、金属焼結フィルタ13に変形や破断が生じやすくなる。他方、金網14aの線径が0.25mmを越えると、濾過処理中、金属焼結フィルタ13に金網14aを構成する針金が食い込むことによって金属焼結フィルタ13が変形し、濾過精度の低下が生じる。金網14aの線径は、0.03〜0.23mmであることが好ましく、0.05〜0.20mmであることがより好ましい。また、金網14aの線径と同様の観点から、金網14aの網目数は30〜500メッシュであることが好ましく、40〜150メッシュであることがより好ましい。ここでいう金網の網目数(メッシュ)は、1インチ(25.4mm)の間にある目数を意味する。
【0031】
ブレーカープレート15の開口15dにおける金属焼結フィルタ13の変形や破断の発生をより一層確実に防止する観点から、図3に示すように、金属焼結フィルタ13とブレーカープレート15との間に金網14aを複数枚(例えば、2〜10枚)積層させることが好ましい。
【0032】
なお、金属焼結フィルタ13の下流側の面と金網14a(線径0.01〜0.25mm)とが直接接している限り、積層体16は他の金網等を具備してもよい。例えば、図4に示すように、金網14aとブレーカープレート15との間に、線径0.01〜1mmの金網14bを1枚又は複数枚(例えば、2〜10枚)積層させてもよい。また、金属焼結フィルタ13を装置本体部10aに設置する際に、金属焼結フィルタ13が局所的につぶれたりするのを防止するため、線径0.01〜0.25mmの金網14cを金属焼結フィルタ13の上流側の面と当接するように更に配置してもよい。
【0033】
ブレーカープレート15は、金属焼結フィルタ13及び金網14a等を支持するためのものである。図5(a)はブレーカープレート15の上流側の面を示す正面図であり、図5(b)はブレーカープレート15の断面図である。図5に示すように、ブレーカープレート15の上流側の面F1は、縁部15aとその他の領域とが面一となっているのに対し、下流側の面F2は、縁部15bが隆起して他の領域が凹部15cとなるように形成されている。
【0034】
ブレーカープレート15は、濾過圧力を受けてもほとんど歪みを起こさない構造体であることが好ましい。濾過圧力によってブレーカープレート15が変形すると、これによって支持される金属焼結フィルタ13等に変形や破損が生じ、異物等が下流側にリークしやすくなる。かかる観点から、ブレーカープレート15の材質としては、例えば、炭素鋼等が好ましい。炭素鋼以外の好適な材質として、ニッケル、クロム、タングステン等を含有する特殊鋼を例示できる。ブレーカープレート15の厚さは、十分の強度を確保する観点から、10〜100mmであることが好ましい。
【0035】
ブレーカープレート15は、厚さ方向に貫通する直径1〜10mmの開口15dを複数有する。ブレーカープレート15の開口率は30〜60%である。開口率が30%未満のブレーカープレート15を使用した場合、濾過圧力を過度に高くしないと、単位時間当たり十分な量の溶融体を濾過できず、濾過圧力が濾過装置の許容圧力以上となりやすい。他方、開口率が60%を超えるブレーカープレート15を使用した場合、濾過圧力によってブレーカープレート15の変形量が大きくなる。ブレーカープレート15の開口率は30〜55%であることが好ましく、35〜50%であることがより好ましい。
【0036】
シール部材18は、溶融体がブレーカープレート15の縁部15a及び側面15eを通じて下流側へとリークするのを防止するためのものである。シール部材18としては、樹脂製パッキン(例えば、フッ素系樹脂)又は金属板(例えば、鉄板、アルミニウム板、銅板)を好適に使用できる。図3,4に示すように、シール部材18は、金属焼結フィルタ13及び金網14a等の縁部を一体的に覆うように配置することが好ましい。
【0037】
濾過装置10において、積層体16(金属焼結フィルタ13、金網14a、ブレーカープレート15等)は、装置本体部10aに対して着脱自在に取り付けされている。かかる構成を採用することにより、各構成部材の交換や洗浄を容易に実施できるという利点がある。
【0038】
積層体16を装置本体部10aに固定する際には、ブレーカープレート15の面F1上に金属焼結フィルタ13や金網14a等を重ね、シール部材18を介して装置本体部10a側のフランジと金属焼結フィルタ13の縁部とを当接させ、ブレーカープレート15の面F2の縁部15bとフランジ5とを当接させた後、ボルト6によって固定すればよい(図2参照)。
【0039】
なお、従来、濾過装置にブレーカープレート15を設置する場合、図12に示すように、面F2を上流側に向け、その凹部15c内に金属焼結フィルタ23を配置していた。この場合、面F2と金属焼結フィルタ23との当接面からのリーク等が生じやすい。これに対し、本実施形態に係る濾過装置10は、面一に形成された面F1を上流側に向け、金属焼結フィルタ13等を縁部15aにまで延在させるとともに、シール部材18を使用することによって、リークの発生を低減したものである。
【0040】
濾過装置10は、流路10bのフィルタ機構12の下流側に設けられたダイ19を有する。濾過処理を経た溶融体をダイ19から押し出すことによって、溶融状態のストランドが水槽20内へと供給される。水槽20で冷却されて得られる固化物はペレタイザー30に供給され、ペレタイザー30における処理によってポリオレフィン系樹脂組成物のペレットが製造される。
【0041】
(ポリオレフィン系樹脂組成物の原料)
ポリオレフィン系樹脂組成物の製造に使用する原料組成物について説明する。
【0042】
原料組成物としては、極限粘度が互いに異なるポリオレフィン成分を複数準備してこれらを組み合わせて用いることができる。あるいは、オレフィン成分を重合してポリオレフィンを製造した後、連続して極限粘度が異なるポリオレフィンを製造することにより得られるポリオレフィンを用いてもよい。なお、当該ポリオレフィンは、極限粘度が互いに異なる複数のポリオレフィン成分を含有する。本実施形態においては、多段重合により直接重合される、極限粘度が互いに異なる複数のポリオレフィン成分を含有する原料組成物を用いることが好ましい。
【0043】
原料組成物の製造方法としては、例えば、重合槽でポリオレフィンを製造(第一段階)した後、引き続いて、同一の重合槽で極限粘度が異なるポリオレフィンを製造(第二段階)する回分式重合法が挙げられる。また、別の製造方法としては、二槽以上の重合槽を直列に配列し、ポリオレフィンを製造(第一段階)した後、得られた重合体を次の重合槽へ移送し、その重合槽で極限粘度が異なるポリオレフィンを製造する(第二段階)連続式重合法が挙げられる。連続式重合法の場合、第一段階及び第二段階で用いるそれぞれの重合槽の数は一槽でも二槽以上でもよい。
【0044】
ポリオレフィンとしては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−α−オレフィン三元共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−エチレン−ブロック共重合体、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ブテン−1共重合体等が挙げられる。これらのうち、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−α−オレフィン三元共重合体、プロピレン−エチレン−ブロック共重合体は、熱劣化が生じてもゲル化しにくく、フィッシュアイなどの欠点を起こしにくいため好ましい。
【0045】
プロピレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−エチレン−α−オレフィン三元共重合体及びエチレン−α−オレフィン共重合体に用いられるα−オレフィンとしては、炭素原子数4〜12のα−オレフィンが挙げられ、例えば、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、メチルエチル−1−ブテン、1−オクテン、メチル−1−ペンテン、エチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ヘキセン、プロピル−1−ヘプテン、メチルエチル−1−ヘプテン、トリメチル−1−ペンテン、プロピル−1−ペンテン、ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセンなどが挙げられる。このうち、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましく、共重合特性、経済性などの観点から、1−ブテン、1−ヘキセンがより好ましい。
【0046】
ポリオレフィンとしてプロピレン−エチレン共重合体を用いる場合、当該共重合体中のエチレン含有量は、通常0.1〜20質量%であり、好ましくは0.5〜10質量%である。プロピレン−α−オレフィン共重合体を用いる場合、当該共重合体中のα−オレフィンの含有量は、通常0.1〜40質量%であり、好ましくは1〜30質量%である。プロピレン−エチレン−α−オレフィン三元共重合体を用いる場合、当該共重合体中のエチレン含有量は、通常0.1〜20質量%であり、好ましくは0.5〜10質量%であり、α−オレフィン含有量は、通常0.1〜40質量%であり、好ましくは1〜30質量%である。エチレン−α−オレフィン共重合体を用いる場合、当該共重合体中のα−オレフィンの含有量は、通常0.1〜30質量%であり、好ましくは1〜20質量%である。
【0047】
オレフィンの重合方法としては、例えば、不活性炭化水素溶媒による溶媒重合法、液状モノマーを溶媒として用いる塊状重合法、気体モノマー中で行う気相重合法等が挙げられる。また、極限粘度が互いに異なる複数のポリオレフィン成分を含有する原料組成物を直接重合によって得る方法としては、バッチ式に行う回分式重合法や、連続式に行う気相−気相重合法、液相−気相重合法などが挙げられ、これらのうち、生産性の観点から、連続的に行う気相−気相重合法、液相−気相重合法が好ましい。
【0048】
上記ポリオレフィンは、例えばマグネシウム化合物にTi化合物を複合化させた固体触媒成分等からなるTi−Mg系触媒、この固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物および必要に応じて電子供与性化合物などの第3成分を組み合わせた触媒系、又はメタロセン系触媒を用いて得ることができる。より具体的には、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報等に記載された触媒系を挙げることができる。
【0049】
本実施形態では、極限粘度が3〜15dl/gのポリオレフィン成分(A)と、極限粘度が0.5〜3dl/gのポリオレフィン成分(B)とを有する原料組成物を用いることが好ましい。また、ポリオレフィン成分(A)とポリオレフィン成分(B)との極限粘度比([η]/[η])が1.5〜30であることがより好ましい。これによって、フィッシュアイの発生、及びメヤニ、スジなどの加工不良現象の発生を一層抑制できるポリオレフィン系樹脂組成物を得ることができる。なお、原料組成物全体の極限粘度は、一層均一なポリオレフィン系樹脂組成物を得る観点から、1.0〜3.0dl/gであることが好ましい。
【0050】
上述の極限粘度を有するポリオレフィン成分を用いる場合、ポリオレフィン成分(A)及び(B)の合計を基準として、ポリオレフィン成分(A)の含有量は0.05〜70質量%であることが好ましく、0.5〜40質量%であることがより好ましい。他方、ポリオレフィン成分(B)の含有量は30〜99.95質量%であることが好ましく、60〜99.5質量%であることがより好ましい。
【0051】
原料組成物には、製造するポリオレフィン系樹脂組成物の性能の向上を図るため、フェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤などの酸化防止剤、中和剤、滑剤、帯電防止剤、耐ブロッキング剤、フッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂等の添加剤を含有させてもよい。
【0052】
添加剤の添加方法は、均質なポリオレフィン系樹脂組成物を得られるのであれば特に制限されない。例えば、原料組成物のパウダーと各種添加剤とをヘンシェルミキサー等の混合装置を用いて配合した後、直接ペレット化する方法や、比較的高濃度の添加剤マスターバッチを二軸押出機等の高混練押出機を用いてペレット化した後、原料組成物と配合する方法、添加剤を溶融させて液状で原料組成物に添加する方法等の方法を採用することができる。
【0053】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[メチレン−3(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピルネート]、2,2−チオビス−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビタミンEに代表されるα−トコフェノール類等が挙げられる。
【0054】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−6−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ジフェニレンジホスナイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)2−エチルヘキシルホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フルオロホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−6−メチルフェニル)エチルホスファイト、2−(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)−5−エチル−5−ブチル−1,3,2−オキサホスホリナン、2,2’,2’’−ニトリロ[トリエチル−トリス(3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチル−1,1’−ビフェニルー2,2’−ジイル)ホスファイト等が挙げられる。
【0055】
中和剤としては、カルシウムステアレート、マグネシウムステアレート、ハイドロタルサイト、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0056】
滑剤としては、例えば、高級脂肪酸アミドや高級脂肪酸エステルが挙げられる。帯電防止剤としては、例えば、炭素原子数8〜22の脂肪酸のグリセリンエステル、ソルビタン酸エステル、ポリエチレングリコールエステル等が挙げられる。耐ブロッキング剤としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0057】
(ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法)
次に、上記製造システム50を用いてポリオレフィン系樹脂組成物を製造する方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、2種以上のポリオレフィン成分を含有する溶融体を調製する溶融工程と、濾過装置10において溶融体を濾過する濾過工程と、濾過流体からペレットを得る成形工程とを備える。
【0058】
まず、極限粘度の異なる複数のポリオレフィン成分を含有する原料組成物をホッパー2に投入する。スクリュー4を回転させることによって原料組成物を混練するとともに、原料を160〜300℃に加熱することによって複数のポリオレフィン成分を含有する溶融体を得る(溶融工程)。
【0059】
スクリュー4によって溶融体を流路10bの下流側に更に移送する。そして、フィルタ機構12の金属焼結フィルタ13で溶融体を濾過する(濾過工程)。溶融体を濾過する際の濾過速度は1〜150cm/分であることが好ましい。濾過速度が1cm/分未満である場合、単位時間当たりの処理量を十分に確保するために面積の大きい金属焼結フィルタを要し、設備が過度に大型化して設備費が増大する傾向がある。他方、濾過速度が150cm/分を超える場合、金属焼結フィルタ13がブレーカープレート15の開口15dで変形して濾過精度が悪化しやすくなる。これに加え、濾過圧力が高くなり濾過装置10に過度な負荷が生じやすい。
【0060】
濾過装置10における溶融体の濾過速度が1〜150cm/分となるように、濾過面積を決定することが好ましい。なお、高い生産性及びフィッシュアイ低減効果の両立の観点から、濾過速度は10〜100cm/分であることがより好ましく、30〜80cm/分であることが更に好ましい。また、濾過装置入口と出口の圧力差は、3〜35MPaであることが好ましく、10〜30MPaであることがより好ましい。
【0061】
濾過処理によって得られた溶融体をダイ19から押出し、水槽20に供給する。水槽20内で固化したストランドをペレタイザー30で裁断し、ポリオレフィン系樹脂組成物からなるペレットを得る。
【0062】
このようにして得られたペレットは、例えば、自動部品、家電部品、医療用材料、OA機器部品、建材、シート、各種ボトル等の製造に用いられる。このペレットから各種の部品を成形する際の流動性の観点から、ポリオレフィン系樹脂組成物はメルトフローレート(MFR)が0.1〜300g/10分であることが好ましく、1〜50g/10分であることがより好ましい。なお、ここでいうメルトフローレートとは、230℃で測定される値を意味する。
【0063】
濾過装置10を備える製造システム50及びこれを用いた上記製造方法によれば、異物が十分に取り除かれたポリオレフィン系樹脂組成物からなるペレットを得ることができる。このペレットを使用することにより、フィッシュアイの発生量が十分に少なく、優れた外観の成形体を製造することができる。また、濾過装置10は濾過圧力を比較的高く設定しても、リークを十分に抑制できるため、ポリオレフィン系樹脂組成物を効率的に製造することができる。
【0064】
<第2実施形態>
図6〜10を参照しながら、ポリオレフィン系樹脂組成物の製造システムの第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る製造システムは、図6に示すように、濾過装置40の流路40bに設置される積層体26が筒状である点において上記第1実施形態に係る製造システム50と相違する。積層体26は、金属焼結フィルタ23、金網24a及びブレーカープレート25等からなり、これらの部材の形状はいずれも筒状である。なお、金属焼結フィルタ23、金網24a,24b及びブレーカープレート25等として、第1実施形態における金属焼結フィルタ13、金網14a,14b及びブレーカープレート25等と同様の濾過精度、材質及び線径等を有するものをそれぞれ使用できる。
【0065】
図6は、積層体26の断面及び各部材の表面の形状等を示す部分断面図である。積層体26はフランジ31及びボルト32によって装置本体部40aに対して着脱自在に取り付けられている。これらの部材はシール部材28を介して装置本体部40aに固定されている。なお、図6における矢印で示すように、上方から供給される溶融体は積層体26の金属焼結フィルタ23によって濾過され、下流側へと移送される。
【0066】
図7(a)は、最外面に金属焼結フィルタ23が配置された状態の積層体26を示す模式図である。金属焼結フィルタ23は、シート状の金属焼結体を丸めた後、繋ぎ目を圧着部材23aによって圧着して得たものである。また、金属焼結フィルタ23の両方の縁部はシール部材28によって覆われている。
【0067】
図7(b)は、圧着部材23aによって圧着された金属焼結フィルタ23の繋ぎ目を示す模式断面図である。圧着部材23aとして樹脂製部材や金属製部材を使用できる。図7(c)は、金属焼結フィルタ23、金網24a,24b及びブレーカープレート25の縁部を示す模式断面図である。各部材の端部はシール部材28によって一体的に覆われている。なお、金属焼結フィルタ23、金網24a、金網24b及びブレーカープレート25はこの順序で流路40bの上流側から下流側に向けて配置されている。
【0068】
図8は、ブレーカープレート25を示す側面図である。ブレーカープレート25は、金属焼結フィルタ23及び金網24a等を支持するためのものである。図8に示すように、ブレーカープレート25は上流側から下流側に向けて径が縮径するように形成されている。また、ブレーカープレート25はその厚さ方向に貫通する複数の開口25aを有しており、ブレーカープレート25の開口率は30〜60%である。
【0069】
図9(a)は、濾過装置40に適用可能な筒状の積層体の他の構成を示す模式図である。同図に示す積層体36は、金属焼結フィルタ23の繋ぎ目が圧着部材33aによって圧着されるとともに、ビス33bによってブレーカープレート35に固定されている点で図7に図示した積層体26と相違する。図9(b)は、圧着部材33a及びビス33bによって固定された金属焼結フィルタ23の繋ぎ目を示す模式断面図である。図9(c)は、金属焼結フィルタ23、金網24a,24b及びブレーカープレート35の縁部を示す模式断面図である。
【0070】
図10は、ブレーカープレート35を示す側面図である。ブレーカープレート35は、開口35aの他にビス33bを挿入するための孔35bを有する点で図8に図示したプレーカープレート25と相違する。
【0071】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第1及び第2実施形態においては、金属焼結フィルタ13、金網14a及びブレーカープレート15等として円形及び筒状のものを例示したが、これらの外形は、楕円形、円錐形等であってもよい。円形や楕円形のものを採用した場合と比較し、筒状や円錐形のものを採用した場合、濾過面積を大きくしやすく、そのため、低い濾過圧力で濾過処理を実施できるという利点がある。
【0072】
また、第2実施形態においては、金属焼結フィルタの繋ぎ目を圧着部材によって圧着する場合を例示したが、より一層確実にリークを低減する観点から、表面に繋ぎ目が存在しない金属焼結フィルタを使用してもよい。
【0073】
更に、上記実施形態においては、2種以上のポリオレフィン成分を含有するポリオレフィン系樹脂組成物を製造するための製造システムを例示したが、1種のポリオレフィン成分からなるポリオレフィン系樹脂組成物を製造するのに本発明に係る濾過装置を適用してもよい。この場合、原料の溶融体を濾過することにより、原料に含まれる異物を十分に取り除くことができ、異物に起因するフィッシュアイ等の発生を低減できる。また、各ポリオレフィン成分の溶融体の濾過処理を行った後、濾過流体を混練する工程を更に実施してもよい。
【0074】
また、上記実施形態においては、ポリオレフィン系樹脂組成物からなるペレットを製造する場合を例示したが、ペレットの代わりに各種用途(例えば、食品包装用、工業用)のフィルム又はシートを製造してもよい。本発明に係る濾過装置における処理を経て得られた濾過流体を使用することで、外観の優れたポリオレフィン系フィルムやシートを製造できる。
【0075】
フィルム製造装置としては、インフレーションフィルム製造装置又はTダイフィルム製造装置と、本発明に係る濾過装置とを組合せたものが好適である。例えば、Tダイフィルムを製造する場合、図11に示すように、ダイ51から押し出した溶融膜を冷却ロール52及びエアーチャンバー装置53によって所望の厚さにまで引き伸ばしながら、冷却固化させる。その後、所定の厚さのフィルムを最終的に巻取機55で巻き取る。なお、Tダイフィルム製造装置を用いてポリオレフィン系フィルムを製造する際の加工条件は下記の通りである。
ダイリップから押出す溶融樹脂の温度 …180〜300℃、
ダイリップにおける溶融樹脂の剪段速度…10〜1500sec−1
冷却ロールの回転速度 …10〜500m/分、
冷却ロールの温度 …10〜80℃、
フィルムの厚さ …5〜200μm。
【0076】
上記の方法によって製造したポリオレフィン系フィルム又はシートを延伸する加工を施し、最終的にフィルム又はシートを得てもよい。延伸方法としては、例えばロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法等によって、一軸又は二軸に延伸する方法を例示できる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例における各物性値及び評価は、下記の方法に基づいて求められたものである。
【0078】
(1)各ポリオレフィン成分(成分(A)、成分(B))の含有量(単位:質量%)
成分(A)及び成分(B)を製造した時の物質収支から、成分(A)の含有量(PA)及び成分(B)の含有量(PB)を求めた。
(2)極限粘度([η]、単位:dl/g)
測定は、ウベローデ型粘度計を用いて135℃テトラリン中で行った。最初に成分(A)を製造する場合は、成分(A)の製造終了後に測定した成分(A)の極限粘度[η]と、第2工程の製造終了後に測定したポリオレフィン組成物の極限粘度([η]AB)および、成分(A)の含有量(PA)、成分(B)の含有量(PB)から、式(I)により成分(B)の極限粘度([η])を求めた。なお、最初に成分(B)を製造する場合も、同様にして成分(A)の極限粘度[η]を求めた。
[η]×(PA/100)+[η]×(PB/100)=[η]AB (I)
(3)濾過精度(単位:μm)
JIS−B8356に基づいて濾過試験を行い、粒子の95%が捕集された粒子の径を測定し、金属焼結フィルタの濾過精度を求めた。
(4)フィッシュアイ(単位:個/m
Tダイフィルム製造装置に設置した株式会社ニレコ製無地表面欠陥検査装置(商品名DIPS、CCDカメラ4096画素,160MHz×2台)を用いて、直径(TD方向)が100μm以上の欠点(フィッシュアイ)の個数を計測した。
【0079】
<実施例1>
(ポリプロピレン系樹脂I)
プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体(住友化学株式会社製、商品名:FLX81K9)を使用した。
(ポリプロピレン系樹脂II)
以下のようにして製造したペレットを使用した。まず、Ti−Mg系チーグラー・ナッタ型触媒の存在下、液化プロピレン中でプロピレン重合体部分(成分(A))を製造した(第一工程)。第一工程で得たポリプロピレン粒子を気相中に供給し、プロピレン重合体部分(成分(B))を更に製造した(第二工程)。得られた樹脂粉末は、成分(A)の含有量が11質量%、成分(A)の極限粘度[η]が7.9dl/g、成分(B)の極限粘度[η]Bは1.1dl/gであった。得られた樹脂粉体100質量部と、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名:Irganox1010)0.15質量部と、リン系酸化防止剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名:Irgafos168)0.1質量部とを混合した。混合物を二軸造粒機に導入してペレット化した。
【0080】
(フィルムの作製)
流路の内径が93mmの押出機Mと、流路の内径が65mmの押出機Aと、流路の内径が68mmの押出機Bとを備える共押出Tダイフィルム加工装置を使用し、以下のようにしてフィルムを作製した。
【0081】
まず、押出機M及び押出機A,Bの流路に原料の溶融体を濾過するための積層体をそれぞれ装着した。流路の上流側から下流側に向けて金属焼結フィルタ、複数の金網及びブレーカープレートをこの順序で配置した積層体を、各押出機の出口側のフランジとフィードパイプ基端側のフランジとの間にボルトで固定した。
【0082】
押出機M及び押出機Aに装着した積層体の構成は、以下に示す通りである。金属焼結フィルタ等の縁部にテフロン(登録商標)製のシールテープを巻き、このシールテープを介して積層体を押出機M,Aの装置本体部に固定した(図2参照)。
金属焼結フィルタ:濾過精度60μm(日本精線(株)製、商品名:ナスロンNF13D)、
金網:線径0.22m、網目数50メッシュ、計2枚、
押出機M用のブレーカープレート:直径110mm、流路面の厚さ18mm、流路面の直径93mm、積層体固定巾8mm、開口の直径4mm、開口の数217個、開口率40%。
押出機A用のブレーカープレート:直径85mm、流路面の厚さ18mm、流路面の直径68mm、濾材固定巾8mm、開口の直径4mm、開口の数101個、開口率35%。
【0083】
押出機Bに装着した積層体の構成は、以下に示す通りである。金属焼結フィルタ等の縁部にテフロン(登録商標)製のシールテープを巻き、このシールテープを介して積層体を押出機Bの装置本体部に固定した(図2参照)。
金属焼結フィルタ:濾過精度10μm(日本精線(株)製、商品名:ナスロンNF06D)、
金網a−d:線径0.22m、網目数50メッシュ、計4枚、
押出機B用のブレーカープレート:直径85mm、流路面の厚さ18mm、流路面の直径68mm、濾材固定巾8mm、開口の直径4mm、開口の数101個、開口率35%。
【0084】
なお、押出機Mに積層体を固定するに際し、M30のボルト8本にそれぞれ30kg・mのトルクを掛けた。押出機A,Bに積層体を固定するに際し、M35のボルト6本にそれぞれ30kg・mのトルクを掛けた。
【0085】
各押出機に積層体を装着した後、フィルム加工機の温度が安定したところで、押出機M及び押出機Aにポリプロピレン系樹脂Iを、押出機Bにポリプロピレン系樹脂IIをそれぞれ供給した。押出機A,M,Bの押出量をそれぞれ33kg/時間、100kg/時間、33kg/時間に設定し、ポリプロピレン系樹脂I,IIを溶融混練してTダイ(巾1250mm,間隙0.8mm)から押し出した。押し出した溶融膜を冷却ロール(回転数50m/分)で冷却固化させ、厚さ50μmのフィルムを得た。なお、押出機の流路、フィードパイプ及びフィードブロックの温度は245℃となるように調節した。Tダイの温度は260℃に調節した。また、冷却ロールの温度調節用の水は温度30℃とし、冷却ロールによる冷却を補助するため、エアーチャンバー装置を用いた。
【0086】
(比較例1)
押出機Bの装置本体部に積層体を積層するに際し、金属焼結フィルタ等をブレーカープレートの凹部に収容させるとともに、シール部材を使用することなく、積層体を固定した(図12参照)。シール部材による金属焼結フィルタ等の固定を行わなかったことの他は、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
【0087】
(実施例2)
押出機Bに装着した積層体における金網の配置及びフィルム作製の条件を以下の通りとしたことの他は、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。なお、流路の上流側から下流側に向けて、金網a,金網b,金網cがこの順序となるように積層した。
金網a:線径0.22mm、網目数50メッシュ、
金網b:線径0.29mm、網目数20メッシュ、
金網c:線径0.47mm、10メッシュ、
押出機Aによる樹脂Iの押出量:50kg/時間、
押出機Mによる樹脂Iの押出量:100kg/時間、
押出機Bによる樹脂IIの押出量:10kg/時間、
冷却ロールの温度調節用水の温度:40℃。
【0088】
(比較例2)
押出機Bに装着した積層体における金網の配置及びフィルム作製の条件を以下の通りとしたことの他は、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。なお、流路の上流側から下流側に向けて、金網a,金網b,金網cがこの順序となるように積層した。
金網a:線径0.47mm、網目数10メッシュ、
金網b:線径0.29mm、網目数20メッシュ、
金網c:線径0.22mm、50メッシュ、
押出機Aによる樹脂Iの押出量:50kg/時間、
押出機Mによる樹脂Iの押出量:100kg/時間、
押出機Bによる樹脂IIの押出量:10kg/時間、
冷却ロールの温度調節用水の温度:40℃。
【0089】
(比較例3)
押出機Bに装着した金網の配置及びフィルム作製の条件を以下の通りとしたことの他は、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。なお、流路の上流側から下流側に向けて、上流側金網、金属焼結フィルタ、金網a及び金網bがこの順序となるように積層した。
上流側金網:線径0.29mm、網目数20メッシュ、
金属焼結フィルタ:濾過精度10μm(日本精線(株)製、商品名:ナスロンNF06D)、
金網a:線径0.47mm、網目数10メッシュ、
金網b:線径0.47mm、網目数10メッシュ、
押出機Aによる樹脂Iの押出量:50kg/時間、
押出機Mによる樹脂Iの押出量:100kg/時間、
押出機Bによる樹脂IIの押出量:10kg/時間、
冷却ロールの温度調節用水の温度:40℃。
【0090】
(実施例3)
押出機Bに装着した金網の配置及びフィルム作製の条件を以下の通りとしたことの他は、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。なお、流路の上流側から下流側に向けて、上流側金網、金属焼結フィルタ、金網a、金網b、金網c及び金網dがこの順序となるように積層した。
上流側金網:線径0.10mm、網目数80メッシュ、
金属焼結フィルタ:濾過精度10μm(日本精線(株)製、商品名:ナスロンNF06D)、
金網a:線径0.10mm、網目数80メッシュ、
金網b:線径0.22mm、網目数50メッシュ、
金網c:線径0.22mm、網目数50メッシュ、
金網d:線径0.22mm、網目数50メッシュ、
押出機Aによる樹脂Iの押出量:45kg/時間、
押出機Mによる樹脂Iの押出量:130kg/時間、
押出機Bによる樹脂IIの押出量:45kg/時間、
フィルムの厚さ:70μm、
冷却ロールの温度調節用水の温度:40℃。
【0091】
(実施例4)
押出機Bに装着した金属焼結フィルタとして濾過精度20μmのものを使用したことの他は、実施例3と同様にしてフィルムを作製した。
金属焼結フィルタ:濾過精度20μm(日本精線(株)製、商品名:ナスロンNF08D)。
【0092】
上記実施例及び比較例における積層体の構成及び濾過条件、並びに、評価結果等について、表1に示す。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係る濾過装置を備える製造システムの第1実施形態を示す模式構成図である。
【図2】本発明に係る濾過装置のフィルタ機構の一例を示す模式断面図である。
【図3】図2に図示した積層体を形成する部材の配置関係の一例を示す模式断面図である。
【図4】図2に図示した積層体を形成する部材の配置関係の他の例を示す模式断面図である。
【図5】円形のブレーカープレートの一例を示す図である。
【図6】第2実施形態に係る濾過装置のフィルタ機構を示す部分断面図である。
【図7】図6に図示した積層体の構成の一例を示す図である。
【図8】筒状のブレーカープレートの一例を示す側面図である。
【図9】図6に図示した積層体の構成の他の例を示す図である。
【図10】筒状のブレーカープレートの他の例を示す側面図である。
【図11】本発明に係る濾過装置を備える製造システムの他の実施形態を示す模式構成図である。
【図12】従来の濾過装置のフィルタ機構の一例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0094】
10,40…濾過装置、10a,40a…装置本体部、10b,40b…流路、12…フィルタ機構、13,23…金属焼結フィルタ、14a,24a…金網、15,25,35…ブレーカープレート、15a,15b…ブレーカープレートの縁部、15d,25a,35a…ブレーカープレートの開口、16,26,36…積層体、18,28…シール部材、20…水槽、23a33a…圧着部材、30…ペレタイザー、50…製造システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上のポリオレフィン成分を含有するポリオレフィン系樹脂組成物の溶融体を濾過するための濾過装置であって、
前記溶融体を移送する流路を有する装置本体部と、
濾過精度1〜100μmの金属焼結フィルタと、
前記金属焼結フィルタと一方面が当接した線径0.01〜0.25mmの金網と、
前記金属焼結フィルタ及び前記金網を支持しており、厚さ方向に貫通する複数の開口を有する、厚さ10〜100mm及び開口率30〜60%の支持部材と、
前記金属焼結フィルタの縁部を覆うように配設されたシール部材と、
を備え、
前記金属焼結フィルタ、前記金網及び前記支持部材がこの順序で前記流路の上流側から下流側に向けて配置され、前記金属焼結フィルタは前記シール部材を介して前記装置本体部に固定されていることを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物用濾過装置。
【請求項2】
前記金属焼結フィルタ、前記金網及び前記支持部材は、前記装置本体部に対して着脱自在に取り付けされていることを特徴とする、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂組成物用濾過装置。
【請求項3】
前記金属焼結フィルタ、前記金網及び前記支持部材の外形は、いずれも円形であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂組成物用濾過装置。
【請求項4】
前記金属焼結フィルタ、前記金網及び前記支持部材の外形は、いずれも筒状であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂組成物用濾過装置。
【請求項5】
筒状の外形を有する前記金属焼結フィルタは、シート状の金属焼結体を丸めた後、繋ぎ目を樹脂製部材又は金属製部材によって圧着してなるものであることを特徴とする、請求項4に記載のポリオレフィン系樹脂組成物用濾過装置。
【請求項6】
筒状の外形を有する前記金属焼結フィルタは、表面に繋ぎ目が存在しないものであることを特徴とする、請求項4に記載のポリオレフィン系樹脂組成物用濾過装置。
【請求項7】
1種又は2種以上のポリオレフィン成分を含有する溶融体を調製する溶融工程と、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂組成物用濾過装置において前記溶融体を濾過する濾過工程と、
を備えることを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−23464(P2010−23464A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191133(P2008−191133)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】