説明

ポリオレフィン系積層フィルム及び粘着フィルム

【目的】帯電防止性が優れるとともに、各層間の密着性及び伸びの均一性に優れる半導体部品等のダイシング工程に使用するのに適したポリオレフィン系積層フィルム及び該フィルムからなる粘着フィルムの提供。
【構成】引張弾性率が900MPa以下であり、かつ引張降伏伸びが10%以上であるポリオレフィン系基材フィルムの片面に、帯電防止剤及びアクリル系樹脂を含有する帯電防止層(a)並びにアクリル系樹脂を主成分とする接着層(b)をこの順に有するポリオレフィン系積層フィルム及び該ポリオレフィン系積層フィルムの接着層(b)の上に、アクリル系粘着剤を含有する粘着剤層(d)が形成されてなる半導体製造用粘着フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性を有するポリオレフィン系積層フィルム及び該ポリオレフィン系積層フィルムからなる粘着フィルム(テープ)に関し、更に詳しくは特に電気、電子及び半導体部品等を生産する際、例えばダイシングやバックグラインドの際に使用されるのに適する帯電防止性を有するポリオレフィン系積層フィルム及び粘着フィルム(テープ)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気、電子部品及び半導体部品等を生産する際の、ダイシング工程やその他の工程において部品の固定や保護を目的とする粘着テープが用いられている。このような粘着テープとしては、基材フィルムに再剥離性のアクリル系粘着剤層が設けられたものや、貼付時には外力に対し強い抵抗性があるが剥離時には小さい力で剥離可能な光架橋型再剥離性粘着剤層が設けられたものがある(特許文献1)。
【0003】
ところで、該粘着テープは所定の処理工程が終了すると剥離されるが、このとき部品と粘着テープとの間に剥離帯電と呼ばれる静電気が発生する。この静電気による部品の被着体(例えば回路など)への悪影響を押さえるため、基材フィルムの背面側を帯電防止処理した粘着テープ等が用いられている。ところが回路を形成する部品の基板がセラミックスやガラスなどの絶縁材料である場合には、静電気の発生量が大きくしかも減衰に時間がかかる。このような部品には前記粘着テープを用いても帯電防止効果が十分ではなく、回路等が破壊されてしまう危険が大きかった。このため、上記部品の生産工程においては、例えば周囲の環境においてイオナイザー等の静電気除去装置をさらに使用しているのが実状であるが、このような対策では、十分な帯電防止効果が得られず、生産性が低く、また部品の保護性も十分とはいえなかった。
【0004】
また、粘着剤層へ帯電防止剤を添加混合した粘着テープも知られている(特許文献2)。しかしながら粘着剤に界面活性剤や導電性フィラー、カーボンブラックのような帯電防止効果のある材料を添加すると、粘着物性やその経時変化の調整ないしは抑制が困難であるばかりでなく、剥離する際に粘着剤や添加した材料自体が部品に移行して部品を汚染する恐れがあった。この場合、部品の表面には目視可能な糊残りや顕微鏡レベルのパーティクル状物の付着、あるいは光学的に観測不能な液状物の付着等が起こり、以降の工程において部品の接着不良などの悪影響を及ぼすという問題があった。
【0005】
その他、粘着テープの剥離帯電を防止する方法としては、基材フィルムと粘着剤層との間に帯電防止中間層を作成した粘着テープが知られている(特許文献3)。しかし、このような粘着テープは、ダイシングにおけるエキスパンド工程やニードル工程において、基材と帯電防止層間、帯電防止層と粘着剤層間等で塗膜剥離がおこる等の問題もあり、各層間の密着強度の向上も大きな課題となっていた。
【0006】
【特許文献1】特開平6−61346
【特許文献2】特開2004−41977
【特許文献3】特開平8−245932
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の技術における問題点を解決するためになされたものであり、電気、電子部品及び半導体部品等を生産する際、中でも半導体部品のダイシング工程等に使用するのに適した、帯電防止性及び各層の接着性に優れ、更にはフィルムの伸びの均一性に優れたポリオレフィン系積層フィルム及び該フィルムからなる帯電防止性粘着フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、(1)引張弾性率が900MPa以下であり、かつ引張降伏伸びが10%以上であるポリオレフィン系基材フィルムの片面に、帯電防止剤及びアクリル系樹脂を含有する帯電防止層(a)並びにアクリル系樹脂を主成分とする接着層(b)をこの順に有するポリオレフィン系積層フィルム、(2)帯電防止剤が導電性金属酸化物である(1)に記載のポリオレフィン系積層フィルム、(3)ポリオレフィン系基材フィルムが、プロピレンランダム共重合体を含有する(1)または(2)に記載のポリオレフィン系積層フィルム、(4)ポリオレフィン系基材フィルムの片面の60°グロスが15%以下で、反対面の60°グロスが30%以上であり、かつ帯電防止層(a)及び接着層(b)が前記の60°グロスが15%以下の面に形成されてなる(1)〜(3)のいずれかに記載のポリオレフィン系積層フィルム、(5)帯電防止層(a)中のアクリル系樹脂及び接着層(b)中のアクリル系樹脂がメタクリル酸メチルの重合体または共重合体を含有し、かつアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)が20〜80℃である(1)〜(4)のいずれかに記載のポリオレフィン系積層フィルム、(6)ポリオレフィン系基材フィルムと帯電防止層(a)との間に、不飽和カルボン酸無水物及び/または不飽和カルボン酸エステルによって変性された変性ポリオレフィン系樹脂を含有する層(c)を有する(1)〜(5)のいずれかに記載のポリオレフィン系積層フィルム、(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のポリオレフィン系積層フィルムの接着層(b)の上に、アクリル系粘着剤を含有する粘着剤層(d)が形成されてなる半導体製造用粘着フィルム及び(8)粘着剤層(d)が架橋剤及び光重合性化合物を含有する(7)に記載の半導体製造用粘着フィルムに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリオレフィン系積層フィルムは、帯電防止性が優れるとともに、各層間の密着性に優れ、更には伸びの均一性に優れるため、電気、電子部品及び半導体部品等の製造工程、例えば、ダイシング時のエキスパンド工程、ニードル工程や加熱工程時において正確な加工が可能であり、かつフィルムの各層の剥離が起こらない。また、チップのピックアップがスムーズに行われるとともに、ピックアップ時等に発生する静電気も抑制するため、チップ破壊を起こさないことから、半導体製造用の粘着フィルムに特に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリオレフィン系積層フィルム(以下、「本フィルム」という)のポリオレフィン系基材フィルム(以下、「基材フィルム」という)はJIS K 7127に従って測定した引張弾性率が900MPa以下であり、かつ引張降伏伸びが10%以上である。引張弾性率が900MPaを超えたり、引張降伏伸びが10%に満たないと、エキスパンド工程やピックアップ工程において、フィルムの伸びが不均一となり、そのためチップ間の間隔も不均一となり、正確な加工やスムーズなピックアップができなくなる。引張弾性率は100〜900MPaであるのが好ましく、また引張降伏伸びは10〜15%であるのが好ましい。
【0012】
更に該基材フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を50〜100重量%含有しているのが好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0013】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体や、エチレンを主成分とする、エチレンとこれと共重合可能な他の単量体との共重合体(低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセン系触媒を用いて重合して得られたポリエチレン等)、あるいは前記単独重合体及び/または共重合体と他の重合体との混合物(ポリマーブレンド)等が例示できる。この単独重合体及び/または共重合体と混合してポリマーブレンドを与えることのできる重合体としては、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、プロピレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン非共役ジエンゴム、エチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−イソプレンゴム等のジエン系ゴム及びエチレン−プロピレンゴム等のオレフィン系熱可塑性エラストマー並びにスチレン−ブタジエン系及びスチレン−イソプレン系等のスチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。中でもスチレン−ブダジエン系熱可塑性エラストマーが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーは水素添加されたものが好ましい。またこれらの重合体は架橋されていても良く、架橋体の粉末をポリエチレン系樹脂と混練し微分散させたり、動的架橋させても良い。混合する重合体の量は5〜80重量%が好ましい。
【0014】
半導体製造工程において、加熱処理等される場合には、その耐熱性からポリプロピレン系樹脂を選択することが好ましい。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)や共重合体、これらの混合物、あるいは前記単独重合体及び/または共重合体と他の重合体との混合物(ポリマーブレンド)等が例示できる。該共重合体としてはプロピレンとエチレンまたはプロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとの、ランダム共重合体またはブロック共重合体、あるいはポリオレフィン系の共重合体を幹ポリマーとしたプロピレンのグラフト共重合体等が例示できる。中でも、ランダム共重合体がフィルムの透明性及び柔軟性が良好となるので好ましい。
【0015】
このプロピレンと共重合可能なα−オレフィンとしては、炭素原子数が4〜12のものが好ましく、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、1−デセン等が挙げられ、その一種または二種以上の混合物が用いられる。α−オレフィンの混合割合はプロピレンに対して1〜10重量%、特に2〜6重量%とするのが好ましい。
【0016】
また、上記のプロピレンのグラフト共重合体の幹ポリマー用のポリオレフィン系共重合体としては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム等が例示できる。
【0017】
プロピレンの単独重合体及び/または共重合体と混合してポリマーブレンドを与えることのできる重合体としては、上記したポリエチレン系樹脂に混合する重合体と同じものが挙げられるが、スチレン系エラストマーが好ましく中でもスチレン−ブダジエン系熱可塑性エラストマーが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーは水素添加されたものが好ましい。混合する重合体の量は5〜80重量%が好ましく、特に20〜60重量%が好ましい。
【0018】
更に基材フィルムには、必要に応じて上記以外の他の合成樹脂や、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、スリップ剤(滑剤)、アンチブロッキング剤、顔料、着色剤、充填剤、核剤、難燃剤等、通常ポリオレフィン系樹脂製フィルムに添加される添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。なお本フィルムを用いた粘着フィルムにおいて粘着剤として紫外線硬化型アクリル系粘着剤を用いる場合は、基材フィルムは紫外線透過タイプとすることが好ましく、通常、紫外線吸収剤の添加は避けることが好ましい。
【0019】
基材フィルムは、ダイシングにおけるエキスパンド工程、ニードル工程への適正から、また、半導体製造工程における位置検知や欠点検知のため、透明であることが好ましく、特に表面が粗いと光の散乱が大きくなり正確な検知ができなくなるため、基材フィルムの少なくとも片面は、表面光沢が60°グロスで30%以上であるのが好ましく、更に60%以上であるのが好ましい。一方、本フィルムの製造の過程で、基材フィルムのブロックキングを防ぐために、基材フィルムの反対面(他方の面)にマット処理等を施して、表面光沢が60°グロスで15%以下となるようにするのが好ましい。そのため本フィルムにおいては、基材フィルムの表面光沢が60°グロスで15%以下となるようにした面側に帯電防止層(a)及び接着層(c)等を形成するのが、本フィルムの両面が平滑になり、透明性が良好となるので好ましい。
【0020】
基材フィルムは、Tダイ押出し成形法、インフレーション成形法及びカレンダー成形法等の一般的なポリオレフィン系樹脂フィルムの成形方法を用いて製造すればよい。基材フィルムが多層の場合には、成形した個々のフィルムをラミネーターを用いて貼り合わせる方法やフィルム成形と同時に圧着ラミネートする方法を用いることが出来るが、多層Tダイ押出し法によって成形と同時に多層フィルムを作成するのが工程数も減らすことができて特に好ましい。
【0021】
基材フィルムの厚みは通常30〜500μm、好ましくは50〜300μmである。
本発明の基材フィルムは、帯電防止層(a)との密着性を高める為に、フィルムの表面に易接着処理を施すのが好ましい。
易接着処理としては、公知のコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理及び火炎処理等の方法が挙げられるが、処理条件は基材フィルムの組成及びヌレ指数(JIS K 6768)の減衰率を考慮し適宜選択することが必要で、帯電防止層(a)や変性ポリオレフィン系樹脂を含有する層(c)を基材フィルム表面に形成する際における基材フィルムの易接着処理面のヌレ指数が、最低でも37mN/mになる様に調整すれば良い。
【0022】
本フィルムにおいて、基材フィルム上に形成される帯電防止層(a)は、帯電防止剤及びアクリル系樹脂を含有するものである。帯電防止剤としては、例えば金属系導電性フィラー、非金属系導電性フィラー及びカーボン系導電性フィラーのような導電性フィラーや有機系帯電防止剤が挙げられる。金属系導電性フィラーとしては、例えばAg、Cu、Al、Ni、Sn、Fe、Pb、Ti、Mo、W、Ta、Nb、Pt、Au、Pd、Cu−Sn合金、Cu−Zn合金等の導電性フィラーが挙げられる。非金属系導電性フィラーとしては、例えば酸化亜鉛系、酸化チタン系、酸化錫系及び酸化インジウム系等の導電性金属酸化物の導電性フィラーや、硫酸バリウム系、ホウ酸アルミ系、チタンブラック系及びチタン酸カリ系等の導電性フィラーが挙げられる。カーボン系導電性フィラーとしては、カーボンブラックが挙げられる。帯電防止剤は、帯電防止層(a)中10〜70重量%であるのが好ましい。10重量%未満では、十分な帯電防止性が得られず、また、70重量%を超えると帯電防止層(a)中の成分の凝集力の低下や、他の層との密着性低下が起こるので好ましくない。またアクリル系樹脂は帯電防止層(a)中30〜90重量%であるのが好ましい。
【0023】
帯電防止剤としては、酸化錫、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛及びこれらの混合物等の導電性金属酸化物が好ましく、中でも酸化錫が好ましい。また導電性金属酸化物は、酸化アンチモンをドーピングしたものが好ましい。
【0024】
アクリル系樹脂としては、アクリル酸アルキルまたはメタクリル酸アルキル(合わせて「(メタ)アクリル酸アルキル」という。以下同様。)の重合体や(メタ)アクリル酸アルキルと共重合性単量体との共重合体及びこれらの混合物が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基及びオクチル基等が挙げられる。また共重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル(例えば、ヒドロキシエチルエステル、ヒドロキシブチルエステル、ヒドロキシヘキシルエステル等)、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸N−ヒドロキシメチルアミド、(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキル(例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、t −ブチルアミノエチルメタクリレート等)、酢酸ビニル、スチレン及びアクリロニトリル等が挙げられる。
【0025】
帯電防止層(a)の厚みは、層中の帯電防止剤の量にもよるが、通常、0.1〜10μmであることが好ましい。0.1μm未満だと十分な帯電防止性が得られ難くなり、また、10μmを超えると本フィルム全体の引張り物性、透明性などの性能を変化させてしまう恐れがあるので好ましくない。
【0026】
本フィルムは、上記帯電防止層(a)の上に更に、アクリル系樹脂を主成分とする接着層(b)を有している。接着層(b)中のアクリル系樹脂の量は50〜100重量%であるのが好ましい。該接着層(b)を設けることで、本フィルムを粘着フィルム、特に半導体加工用の粘着フィルムとして使用する際に半導体固定のために更に設けられる粘着剤層(d)と帯電防止層(a)との密着性を著しく向上させ、エキスパンド工程、ニードル工程での物理的負荷に耐えられるフィルムとなる。
【0027】
接着層(b)に用いるアクリル系樹脂としては、前述の帯電防止層(a)に用いるアクリル系樹脂と同様のもの使用することができるが、両層に使用するアクリル系樹脂は組成的に近いものを選択することが好ましく、特にメタクリル酸メチルの重合体、共重合体またはこれらの混合物を好ましくは50〜100重量%含有し、かつアクリル系樹脂のガラス転移温度が、20〜80℃であるものが、塗膜物性、各層との密着性の点から好ましい。
接着層(b)の厚みは0.1〜20μm、好ましくは0.5〜5μmの範囲で選択すればよい。0.1μm未満だと十分な層間接着が得られない恐れがあり、また、20μmを超えても性能はほとんど向上しない。
【0028】
更に本フィルムは、基材フィルムと帯電防止層(a)との間に、不飽和カルボン酸無水物及び/または不飽和カルボン酸エステルによって変性された変性ポリオレフィン系樹脂を含有する層(c)を有するのが好ましい。層(c)中の変性ポリオレフィン系樹脂の量は5重量%以上、特に20〜100重量%であるのが好ましい。層(c)を形成することにより、更に基材フィルムと帯電防止層(a)の層間の密着性を向上させることができる。かかる変性ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン成分を主成分とし、これに不飽和カルボン酸無水物及び/もしくは不飽和カルボン酸エステルが共重合またはグラフト重合したもの等が挙げられる。変性ポリオレフィン系樹脂としては、具体的には例えば、α−オレフィンとエチレン性不飽和カルボン酸無水物とエチレン性不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、α−オレフィンとエチレン性不飽和カルボン酸無水物との二元共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸エステルによるグラフト体、α−オレフィンとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとの二元共重合体のエチレン性不飽和カルボン酸無水物によるグラフト体、α−オレフィン系重合体のエチレン性不飽和カルボン酸無水物とエチレン性不飽和カルボン酸エステルとによるグラフト体、更には前記二元共重合体または三元共重合体の不飽和カルボン酸無水物及び/もしくは不飽和カルボン酸エステルによるグラフト体並びにこれら変性ポリオレフィン系樹脂の混合物等が挙げられる。
【0029】
前記α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1及びデセン−1等が挙げられる。
【0030】
エチレン性不飽和カルボン酸無水物としては、例えば、コハク酸2−オクテン−1−イル無水物、コハク酸2−ドデセン−1−イル無水物、コハク酸2−オクタデセン−1−イル無水物、マレイン酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、ブロモマレイン酸無水物、ジクロロマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、1−ブテン−3,4−ジカルボン酸無水物、1−シクロぺンテン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物、exo−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、endo−ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物及びビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0031】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のアルキルエステルが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸へキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル及びマレイン酸ジメチル等が挙げられる。
【0032】
なお、変性ポリオレフィン系樹脂は、前記α−オレフィン、エチレン性不飽和カルボン酸無水物及びエチレン性不飽和カルボン酸エステルの他に、更に、任意成分として(メタ)アクリル酸及びマレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸類、酢酸ビニル等のビニルエステル類、(メタ)アクリルアミド及びN−メチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和アミド類、スチレン、(メタ)アクリロニトリル等のその他のエチレン性不飽和化合物等が共重合されていてもよい。これら任意成分は前記三元共重合体等と共重合して変性ポリオレフィン系樹脂を四元以上の多元共重合体とすることができ、またグラフト体において主鎖となる二元共重合体等の共重合成分や側鎖のグラフト成分として使用される。
また、変性ポリオレフィン系樹脂は、塩素化されていてもよい。
【0033】
層(c)の厚みは、通常0.1〜20μm、好ましくは0.3〜5μmである。0.1μm未満だと密着性向上効果が得られない恐れがあり、また、20μmを超えると基材フィルムの物性を変化させてしまう恐れがあるので好ましくない。
層(c)は、基材フィルム製造時に共押出し法で形成させるか、可溶な溶剤に変性ポリオレフィン系樹脂等の成分を溶解したのち、基材フィルムの上に、グラビアコート法、リバースロールコート法、コンマコート法、バーコート法、ナイフコート法、キスコート法等従来公知のコーティング方式により塗布し、溶剤を揮発、乾燥させて形成させれば良い。
【0034】
本フィルムの接着層(b)の上に、粘着剤を含有する粘着剤層(d)を設けることにより粘着フィルムが得られる。粘着剤としてはアクリル系粘着剤が好ましい。本フィルムは、帯電防止層(a)の上にアクリル系樹脂を主成分とする接着層(b)を形成しているため、粘着剤層(d)のアクリル系粘着剤として従来公知の粘着剤用のアクリル系樹脂を広く用いることができる。例えば、上述の(メタ)アクリル酸アルキルの重合体、共重合性単量体との共重合体またはこれらの混合物が用いられる。更にアクリル系粘着剤の接着性や凝集力を制御する目的でアクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリルまたは酢酸ビニル等の単量体を共重合させてもよい。これらの単量体を重合して得られるアクリル系(共)重合体の重量平均分子量は、5×10〜2×10であるのが好ましく、更に4×10〜8×10であるのが好ましい。
【0035】
更に粘着剤層(d)に架橋剤を配合することにより接着力と凝集力とを任意の値に設定することができる。このような架橋剤としては、多価イソシアネート化合物、多価エポキシ化合物、多価アジリジン化合物及びキレート化合物等がある。多価イソシアネート化合物としては、具体的にはトルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びこれらのアダクトタイプのもの等が用いられる。多価エポキシ化合物としては、具体的にはエチレングリコールジグリシジルエーテル及びテレフタル酸ジグリシジルエステルアクリレート等が用いられる。多価アジリジン化合物としては、具体的にはトリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、トリス〔1−(2−メチル)−アジリジニル〕ホスフィンオキシド、ヘキサ〔1−(2−メチル)−アジリジニル〕トリホスファトリアジン等が用いられる。またキレート化合物としては、具体的にはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート及びアルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が用いられる。また、粘着剤層(d)中に光重合性化合物を配合することによって、該粘着剤層(d)に光線好ましくは紫外線を照射することにより、初期の接着力を大きく低下させ、容易に被着体から該粘着フィルムを剥離することができる。このような光重合性化合物としては、たとえば特開昭60−196956号公報及び特開昭60−223139号公報に開示されているような光照射によって三次元網状化しうる、分子内に光重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物が広く用いられる。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート及び市販のオリゴエステルアクリレート等が用いられる。なお、前記の粘着剤層(d)中に、光重合開始剤を混入することにより、光照射による重合硬化時間及び光照射量を少なくすることができる。このような光重合開始剤としては、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル及びβ−クロールアンスラキノン等が挙げられる。光重合開始剤は、通常光重合性化合物100重量部に対し0.1〜10重量部の量が用いられる。
【0036】
粘着剤層(d)の厚みは、通常1〜50μmである。1μm未満では、半導体等の被着体の保持力が不十分となる恐れがあり、また、50μmを超えても、粘着性はほとんど変わらないため、単なるコストアップになり、更には帯電防止効果を減少させてしまう恐れがあるため好ましくない。
本フィルムにおける帯電防止層(a)、接着層(b)、粘着剤層(d)の形成は、基材フィルム上に層(c)を形成する場合と同様に、樹脂等の成分が可溶な溶剤に溶解した後、グラビアコート法、リバースロールコート法、コンマコート法、バーコート法、ナイフコート法及びキスコート法等従来公知のコーティング方式により塗布し、溶剤を揮発、乾燥させる方法を用いればよい。
【実施例】
【0037】
以下本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜27、比較例1〜12)
1)基材フィルムの作成
表−1の構成になるように、2種2層共押出し成形機を用いて3種類の基材フィルムを作成した。なお、基材フィルムの厚みは150μmで、層比は、層A:層B=4:1とした。
【0038】
【表1】

2)変性ポリオレフィン系樹脂含有層(c)の形成
無水マレイン酸変性塩素化ホモポリプロピレン(塩素含有率:15重量%、無水マレイン酸含有率:10重量%、固形分濃度20重量%のトルエン溶液、粘度(23℃):60mPa・s)をメチルエチルケトンで希釈して固形分10重量%とし、変性ポリオレフィン系樹脂よりなる塗布液を調製した。得られた塗布液を、基材フィルムの上にグラビアコート法にて乾燥後の塗膜厚みが1μmになるように塗工し、80℃の熱風乾燥機にて30秒間乾燥させて変性ポリオレフィン系樹脂含有層(c)を形成した(実施例19〜27)。
【0039】
3)帯電防止層(a)の形成
表−2に記載の単量体組成のアクリル系樹脂をメチルエチルケトンに溶解させて固形分濃度20重量%のアクリル系樹脂溶液を調製した後、酸化アンチモンドープ酸化錫微粒子(一次粒径0.02μm)を添加し分散させて固形分40重量%にし、更にメチルエチルケトンを追加して固形分20重量%の帯電防止性塗布液を調製した。得られた塗布液を、基材フィルムまたは2)で形成した変性ポリオレフィン系樹脂含有層(c)の上にリバースロールコート法にて、乾燥後塗膜厚みが2μmになるように塗工し、80℃の熱風乾燥機にて1分間乾燥させて帯電防止層(a)を形成した。
【0040】
【表2】

4)接着層(b)の形成
3)で用いたアクリル系樹脂をメチルエチルケトンに溶解し、固形分10重量%のアクリル系樹脂溶液を調製した。得られた塗布液を、3)で得られた積層フィルムの帯電防止層(a)上にグラビアコート法にて、乾燥後の塗膜厚みが1μmになるように塗工し、80℃の熱風乾燥機にて1分間乾燥させて、接着層(b)を形成した(実施例1〜27、比較例1〜9)。
5)粘着剤層(d)の形成
アクリル酸ブチル95重量部、アクリル酸5重量部をトルエン中で共重合させて得られたアクリル系樹脂溶液に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート60重量部、光重合開始剤(商品名「イルガキュア184」,チバ・スペスシャルティ・ケミカルズ社製)3重量部、多価イソシアネート化合物(商品名「コロネートL」,日本ポリウレタン(株)製)5重量部を加えて、アクリル系紫外線硬化型粘着剤溶液を調製した。
【0041】
得られた粘着剤をセパレータ上にコンマコート法にて、塗膜厚みが20μmになるように塗工し、80℃の熱風乾燥機にて10分間乾燥させたのち、表−3及び4に記載の通りの構成になるように各積層フィルムとラミネートし、粘着剤層(d)を形成した。
<基材フィルムの評価>
(引張弾性率)JIS K 7127に従って基材フィルムの引張弾性率を測定した。
【0042】
(引張降伏伸び)JIS K 7127に従って基材フィルムの引張降伏伸びを測定した。
<粘着フィルムの評価>
上記実施例及び比較例において得られた粘着フィルムに固定した直径5インチのシリコンウエハを、ダイシングソーにて3×3mmの大きさの素子にフルカットし(この際、粘着フィルムの厚みのほぼ中央部までダイシングソーの刃先が入る)、次に粘着剤層(d)に紫外線を照射して粘着剤を硬化させた後、ウエハ拡張装置にてエキスパンドストロークを30mm上昇させ、素子同士の間隔を広げた。素子間隔の均一性を以下の基準により評価し結果を表−3及び4に記載した。更にウエハピックアップ装置にて素子をピックアップした後の粘着フィルムの層間剥離の有無を以下の方法にて評価し、結果を表−3及び4に記載した。
【0043】
(素子間隔の均一性)
エキスパンドした後の素子間隔を拡大鏡を用いて観察し、縦方向の素子間隔及び横方向の素子間隔の均一性を目視評価した。縦方向、横方向、ともに均一に見えるものを○とし、縦横のどちらか、もしくは両方が不均一に見えるものを×とした。
【0044】
(層間剥離の有無)
(1)ピックアップ後
素子ピックアップ後の粘着フィルムの各層間の剥離の有無を目視で評価し、層間剥離が全く認められないものを○とし、層間剥離が認められるものを×とした。
(2)テープ剥離後
素子ピックアップ後、粘着フィルムの粘着剤層(d)面にセロハンテープを貼り付けた後剥がし、セロハンテープ密着試験を実施し、層間剥離の全くなかったものを◎、1個〜10個の剥離が認められたものを○、10個を超えて剥離したものを×とした。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張弾性率が900MPa以下であり、かつ引張降伏伸びが10%以上であるポリオレフィン系基材フィルムの片面に、帯電防止剤及びアクリル系樹脂を含有する帯電防止層(a)並びにアクリル系樹脂を主成分とする接着層(b)をこの順に有するポリオレフィン系積層フィルム。
【請求項2】
帯電防止剤が導電性金属酸化物である請求項1に記載のポリオレフィン系積層フィルム。
【請求項3】
ポリオレフィン系基材フィルムが、プロピレンランダム共重合体を含有する請求項1または2に記載のポリオレフィン系積層フィルム。
【請求項4】
ポリオレフィン系基材フィルムの片面の60°グロスが15%以下で、反対面の60°グロスが30%以上であり、かつ帯電防止層(a)及び接着層(b)が前記の60°グロスが15%以下の面に形成されてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリオレフィン系積層フィルム。
【請求項5】
帯電防止層(a)中のアクリル系樹脂及び接着層(b)中のアクリル系樹脂がメタクリル酸メチルの重合体または共重合体を含有し、かつアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)が20〜80℃である請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系積層フィルム。
【請求項6】
ポリオレフィン系基材フィルムと帯電防止層(a)との間に、不飽和カルボン酸無水物及び/または不飽和カルボン酸エステルによって変性された変性ポリオレフィン系樹脂を含有する層(c)を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系積層フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリオレフィン系積層フィルムの接着層(b)の上に、アクリル系粘着剤を含有する粘着剤層(d)が形成されてなる半導体製造用粘着フィルム。
【請求項8】
粘着剤層(d)が架橋剤及び光重合性化合物を含有する請求項7に記載の半導体製造用粘着フィルム。

【公開番号】特開2006−95874(P2006−95874A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285081(P2004−285081)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000176774)三菱化学エムケーブイ株式会社 (29)
【Fターム(参考)】