説明

ポリオレフィン製造用触媒

【課題】オレフィン重合用触媒系を提供する。
【解決手段】(a)アルモキサン、イオン性ボレート、イオン性アルミネート、アルキルアルミニウム及びアルミノボレートからなる群から選択される活性化剤、および、(b)インデノインドリル基への架橋がインドリル窒素を介して行われている、下記化学式の構造を有する架橋インデノインドリルの第4族遷移金属錯体を含む、シリカに担持されたオレフィン重合用触媒系。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィンを製造する方法に関する。この方法は、「オープン構造」を有する架橋インデノインドリル配位子を持つ触媒を用いる方法であり、非常に低密度のポリオレフィンを製造するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
チグラー−ナッター触媒がポリオレフィン生産の主力であるが、シングルサイト(メタロセンおよび非メタロセン)触媒は業界の将来を代表するものである。これらの触媒はチグラー−ナッター触媒よりも反応性が高いことが多く、物理特性の改善されたポリマーを製造する。この改善された特性には分子量分布が狭いこと、低分子量の抽出可能部分が少ないこと、α−オレフィンコモノマーの含有率が高いこと、ポリマー密度が低いこと、長鎖分岐の含有率および分布が調整されていること、溶融レオロジーおよび緩和特性が調整されていることが含まれる。
【0003】
「オープン構造」を有するシングルサイトオレフィン重合触媒は一般的に知られている。たとえば、Dow Chemical Companyの科学者によって開発された(たとえば米国特許第5,064,802号を参照)いわゆる「幾何拘束型(constrained geometry)」触媒があり、この触媒は各種のポリオレフィンを製造するのに使用されてきた。「オープン構造」触媒は、架橋したパイ電子供与体の対を有する通常の架橋メタロセンとは構造が異なる。オープン構造触媒においては、架橋した配位子の基の一方しかパイ電子を金属に供与せず、もう一方の基は金属にシグマ結合している。このタイプの架橋の利点は、錯体が触媒的に活性化されたときにオレフィンの錯化および成長鎖に対して開放的あるいは露出した場所となっていることにあると考えられる。オープン構造を有する錯体の単純な例として、tert−ブチルアミド(シクロペンタジエニル)ジメチル−シリルジルコニウムジクロライドおよびメチルアミド(シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイルチタンジメチルがある。
【0004】
【化1】

【0005】
「インデノインドリル」配位子を組み込んだ有機金属錯体は知られている(米国特許第6,232,260号およびPCT国際出願WO99/24446(「Nifant'ev」)参照)。'260号特許はスラリー重合でHDPEを製造するのに非架橋ビス(インデノインドリル)錯体を使用することを明示している。汎用性がこの錯体の長所である。出発材料を改変することにより、多種多様のインデノインドリル錯体を調製することができる。「オープン構造」錯体は調製されていないし、具体的に論じられてもいない。Nifant'evは、架橋インデノインドリル錯体をポリプロピレン、HDPEおよびLLDPEを含むポリオレフィンを製造するための触媒として用いることは教示していない。Nifant'evによって開示された錯体はオープン構造を有していない。
【0006】
PCT国際出願WO01/53360(Resconiら)はオープン構造を有する架橋インデノインドリル錯体およびそれを実質的にアモルファスなプロピレンをベースとするポリマーの製造に用いることを開示している。Resconiは多くのオープン構造錯体を教示しているが、インドリル窒素を介して架橋したものはない。さらに、錯体はすべてプロピレンポリマーを製造するためにのみ使用されており、低密度エチレンポリマーの製造に使用することは開示されていない。Resconiの教示はまたインデノ[2,1−b]インドリル錯体に限られており、この参考文献にはインデノ[1,2−b]インドリル錯体も、またそれをプロピレンポリマーを製造するのに使用することの開示も含まれていない。
【0007】
前に述べたように、インデノインドリル骨格は汎用性がある。しかし、非常に低密度のポリオレフィン、特にエチレンコポリマーを製造する新しい手段に対するニーズは今も継続している。特に、知られているインデノインドリル錯体を用いて約0.915g/cm3未満の密度を有するエチレンポリマーを製造することは困難である。他方、そのような低密度のエチレンポリマーはエラストマー特性を必要とする特別の用途にとっては有用である。インデノインドリル骨格の固有の柔軟性を利用する新しい触媒が入手できれば業界も利益を得ることであろう。
発明の概要
本発明はエチレンコポリマーを製造する方法である。この方法は活性化剤およびシリカに担持した有機金属錯体を含む触媒系の存在下にエチレンをα−オレフィンと共重合することを含む。「オープン構造」を有する錯体は4族から6族の遷移金属と架橋インデノインドリル配位子を含んでいる。この担持錯体はコモノマーを非常に効率的に取り込むので、この方法によって高分子量(Mw>100K)で非常に低密度(<0.910g/cm3)のエチレンコポリマーの製造が可能となる。本発明はインデノインドリル骨格のインドリル窒素を介した架橋を利用する新しいオープン構造の触媒を含む。
【0008】
本発明はオープン構造のインデノ[1,2−b]インドリル錯体に基づく触媒も含む。本発明者らは、これらの種々の触媒は担持したものも担持していないものもポリプロピレンおよびエチレンコポリマーのエラストマーを製造するのに非常に価値があることを発見した。
本発明において触媒系としては、以下のものが特に好ましい。
(a)アルモキサン、イオン性ボレート、イオン性アルミネート、アルキルアルミニウム及びアルミノボレートからなる群から選択される活性化剤、および
(b)インデノインドリル基への架橋がインドリル窒素を介して行われている、下記化学式の構造を有する架橋インデノインドリルの第4族遷移金属錯体
を含む、シリカに担持されたオレフィン重合用触媒系。
【化2】

(式中、Mは第4族の遷移金属であり、Lはアルキルアミドであり、Gはジアルキルシリルであり、Xはアルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、ハライド、ジアルキルアミノ、またはシロキシであり、nはMの原子価を満足する数である。)
上式において、MがTiまたはZrであり、Lがt−ブチルアミドであり、Gがジメチルシリルであり、Xがハライドまたはアルキルであることがより好ましい。
発明の詳細な説明
本発明の方法では、エチレンは1種または複数のα−オレフィンと重合して、非常に低密度のコポリマーとなる。適当なα−オレフィンは、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、およびそれらの混合物である。1−ヘキセンが特に好ましい。
【0009】
この方法に有用な触媒系は活性化剤およびシリカに担持したオープン構造のインデノインドリルと4〜6族遷移金属の錯体を含む。さらに好ましい錯体はチタンまたはジルコニウムなどの第4族の遷移金属を含む。
【0010】
「インデノインドリル」配位子は、強力な塩基を用いてインデノインドール化合物を脱プロトン化することによって生成する。「インデノインドール化合物」とは、インドール環とインデン環の両方を持つ有機化合物を意味する。それぞれの五員環は縮合しており、すなわち、2個の炭素原子を共有する。インドール窒素とインデニル環の唯一つのsp3混成の炭素がお互いに「トランス」となるように環が縮合するのが好ましい。それは次式のようなインデノ[1,2−b]環系のような場合である。
【0011】
【化3】

【0012】
好ましい適当な環系にはインドール窒素とインデンのsp3混成炭素がお互いにベータ位にある、すなわち分子の同じ側にあるものも含まれる。これはインデノ[2,1−b]インドール環系である。
【0013】
【化4】

【0014】
環原子は置換されていなくてもよいし、1つまたは複数のアルキル、アリール、アラルキル、ハロゲン、シリル、ニトロ、ジアルキルアミノ、ジアリールアミノ、アルコキシ、アリールオキシ、チオエーテル等などの基で置換されていてもよい。インデノインドール部が存在する限り、別の縮合環が存在していてもよい。
【0015】
インデノインドールの番号付けはIUPAC Rule A−22のルールに従う。分子を下式のように配置し、ヘテロ原子にできるだけ小さい番号がつくように、この構造の一番右上の環から始めて時計回りに番号を付ける。したがって、5,10−ジヒドロインデノ[1,2−b]インドールは次式のように番号付けし、
【0016】
【化5】

【0017】
一方、5,6−ジヒドロインデノ[2,1−b]インドールは次式のような番号となる。
【0018】
【化6】

【0019】
これらの環系の正確な命名と番号付けは、Chemical Abstracts Service発行のthe Ring Systems Handbook(1998):Ring Systems File II:RF58952および58955のRF33986−RF66391を参照されたい。(正確な番号付けの他の例はPCT国際出願WO99/24446にある)
インデノインドール化合物を製造する方法はよく知られている。適当な方法および化合物はたとえば、米国特許第6,232,260号およびBuu−HoiおよびXuongのJ.Chem.Soc.(1952)2225の方法を含むそこに引用された参考文献に開示されている。適当な方法はPCT国際出願WO99/24446およびWO01/53360にもある。
【0020】
本発明の方法に使用できるインデノインドリル錯体はオープン構造を有するものである。「オープン構造」または「幾何拘束型(constrained geometry)」とは、触媒を活性化剤と合わせたときに、大きく露出した活性サイトを生成することができるような固定した幾何学的構造を持つ錯体のことを意味する。錯体の金属はインデニルCp環とパイ結合しており、また2個以上の原子を介してインドリル窒素またはインデニルメチレン炭素にシグマ結合している。(対照的に、文献に記載された架橋インデノインドリル錯体の多くはインデニルCp環にパイ結合しており、別のCp様の基にもパイ結合している遷移金属を有している。たとえば、米国特許第6,232,260号またはWO99/24446を参照)。金属はヘテロ原子、すなわち酸素、窒素、リン、または硫黄にシグマ結合しているのが好ましく、金属は窒素にシグマ結合しているのが最も好ましい。ヘテロ原子は橋架け基を介してインデノインドリル基に結合しており、橋架け基はジアルキルシリル、ジアリールシリル、メチレン、エチレン、イソプロピリデン、ジフェニルメチレン等であるのが好ましい。特に好ましい橋架け基はジメチルシリル、メチレン、エチレン、およびイソプロピリデンである。橋架け基は、インドリルの窒素原子またはインデニルのメチレン炭素に共有結合している。
【0021】
架橋インデノインドリル配位子に加えて、有機金属錯体は通常1個または複数のハライド、アルコキシ、アリールオキシ、アルキル、アルカリール、アリール、ジアルキルアミノなどのような反応活性のあるアニオン配位子を含有している。特に好ましいのはハライド、アルキル、およびアルカリール(たとえばクロライド、メチル、ベンジル)である。
【0022】
本発明の好ましい方法においては、インデノインドリル錯体は次の一般構造を有するものである。
【0023】
【化7】

【0024】
式中、Mは4族から6族の遷移金属であり、Gは結合基であり、LはGおよびMと共有結合する配位子であり、Rはアルキル、アリール、またはトリアルキルシリルであり、Xはアルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、ハライド、ジアルキルアミノ、またはシロキシであり、nはMの原子価を満足する数である。さらに好ましくは、Mは4族の遷移金属であり、Lはアルキルアミドであり、Gはジアルキルシリルであり、Xはハライドまたはアルキルである。
【0025】
別の好ましい方法においては、インデノインドリル錯体は次の一般構造を有するものである。
【0026】
【化8】

【0027】
式中、Mは4族〜6族の遷移金属であり、Gは結合基であり、LはGおよびMと共有結合する配位子であり、Xはアルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、ハライド、ジアルキルアミノ、またはシロキシであり、nはMの原子価を満足する数である。好ましくは、Mが4族の遷移金属であり、Lはアルキルアミドであり、Gはジアルキルシリルであり、Xはハライドまたはアルキルである。
【0028】
本発明の方法に有用な有機金属錯体代表例は以下の式のものである。
【0029】
【化9】

【0030】
これらの錯体は任意の適当な方法で作製できる。当業者であれば、許容できる様々な合成戦略が分かるであろう。適当なルートについては特にPCT国際出願WO01/53360を参照されたい。合成は特定のインダノンおよびアリールヒドラジン前駆体から所望のインデノインドール化合物を調製することから始めることが多い。1つの簡便なアプローチにおいては、インデノインドールを脱プロトン化し、ジクロロジメチルシランと反応させて、クロロジメチルシリル基をインデニルのメチレン炭素に結合させる。引き続きアミンあるいは、さらに好ましくは、リチウムtert−ブチルアミド(tert−ブチルアミンとn−ブチルリチウムから得る)などのアルカリ金属アミド化合物との反応によりクロライドを置換して、所望のシリルアミン生成物とする。二重脱プロトン化および遷移金属原との反応により目標のオープン構造を有するインデノインドリル金属錯体を得る。典型的な反応経路は以下の通りである。
【0031】
【化10】

【0032】
同様の錯体はアイオワ大学のRichard F.Jordan教授および共同研究者によって探求された方法により、アミン脱離によって生成することができる。この方法は加熱してもよいし、しなくてもよい。
【0033】
【化11】

【0034】
このアプローチによって有機金属錯体を製造するさらなる例については米国特許第5,495,035号、J.Am.Chem.Soc.118(1996)8024、およびOrganometallics 15(1996)4045を参照されたい。
【0035】
本発明の方法は、インデノインドリル基への橋架けがインドリルの窒素原子を介して行われている錯体を用いることができる。N−Si−Nで架橋した錯体への簡便なルートを以下に示す。
【0036】
【化12】

【0037】
あるいはアミン脱離により同様の錯体を形成する。
【0038】
【化13】

【0039】
オープン構造を有する広範な種々のインデノインドリル金属錯体を作製するのに同様の戦略を用いることができる。
【0040】
任意の好都合な遷移金属源をこの錯体を作製するのに使うことができる。上記のように、遷移金属源は、架橋インデノインドリル配位子のインデノインドリルアニオンおよびアミドアニオンと容易に置き換わることのできるハライドまたはジアルキルアミノ基のような動きやすい配位子を有するものが手頃である。例としてはハライド(たとえばTiCl4、ZrCl4)、アルコキシド、アミド等がある。
【0041】
この方法に使用できる触媒系にはインデノインドリル金属錯体に加えて、活性化剤が含まれる。活性化剤は有機金属錯体をイオン化し、触媒を活性化するのを助ける。適当な活性化剤は当業者にはよく知られている。たとえば、アルモキサン(メチルアルモキサン(MAO)、PMAO、エチルアルモキサン、ジイソブチルアルモキサン)、アルキルアルミニウム化合物(トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム)などが含まれる。適当な活性化剤には非求核性のアニオンを有する酸の塩が含まれる。これらの化合物は一般的にホウ素またはアルミニウムに結合した嵩高い配位子からなる。例としては、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミネート、アニリニウムテトラキス(ペンタ−フルオロフェニル)ボレートなどが含まれる。適当な活性化剤にはまたホウ素と1個以上のアルキル、アリール、またはアラルキル基を含有するオルガノボランも含まれる。適当な活性化剤にはトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリフェニルボラン、トリ−n−オクチルボランなどのような置換および非置換のトリアルキルおよびトリアリールボランが含まれる。これらや他の適当なホウ素を含む活性化剤は米国特許第5,153,157号、米国特許第5,198,401号、および米国特許第5,241,025号に記載されている。適当な活性化剤には米国特許第5,414,180号および米国特許第5,648,440号に記載された、アルキルアルミニウム化合物と有機ボロン酸の反応生成物であるアルミノボロネートも含まれる。MAOのようなアルモキサン活性化剤が好ましい。
【0042】
有機金属錯体の量に対して必要な最適の活性化剤の相対量は多くの要素に依存する。たとえば錯体および活性化剤の特性、所望の反応速度、ポリオレフィン生成物の種類、反応条件、等の要素が含まれる。しかし、一般的には活性化剤がアルモキサンまたはアルキルアルミニウム化合物の場合、使用量は遷移金属M1モル当り、アルミニウム約0.01〜約5000モル、好ましくは約10〜約500モル、さらに好ましくは約10〜約200モルの範囲である。活性化剤がオルガノボランまたはイオン性のボレートまたはアルミネートの場合、活性化剤使用量はM1モル当り、約0.01〜約5000モル、好ましくは約0.1〜約500モル、の範囲となろう。活性化剤を錯体と混ぜて、混合物として反応器に加えてもよいし、各成分を別々に反応器に加えてもよい。
【0043】
この方法はシリカに担持した触媒系を使用する。表面のヒドロキシル基濃度を減らすためにシリカを使用前に熱的、化学的、または両方で処理するのが好ましい。熱処理は使用に先立って、シリカを乾燥雰囲気で高温、好ましくは約100℃超、さらに好ましくは約150〜約600℃で加熱(あるいは「焼成」)することから成る。有機アルミニウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機ケイ素化合物、あるいは有機ホウ素化合物との反応を含む種々の異なる化学的処理を用いることができる。たとえば米国特許第6,211,311号に記載された技術を参照されたい。
【0044】
本発明のエチレンの共重合方法を実施する手段は多くあるが、スラリー法または気相法が好ましい。これらの方法は担持触媒の使用によく適している。本発明の触媒を用いるオレフィンの重合の適当な方法はたとえば米国特許第5,902,866号、米国特許第5,637,659号、および米国特許第5,539,124号に記載されている。
【0045】
重合は広い温度範囲、たとえば約−30℃〜約280℃にわたって実施することができる。より好ましい範囲は約30℃〜約180℃、最も好ましいのは約60℃〜約100℃の範囲である。オレフィンの分圧は普通約15psia〜約50,000psiaの範囲である。より好ましいのは約15psia〜約1000psiaの範囲である。
【0046】
オレフィンの重合に使う触媒の濃度は多くの要素に依存する。しかし約0.01μmol/L〜約100μmol/Lの範囲の濃度が好ましい。重合時間は方法のタイプ、触媒濃度その他の要素に依存する。一般的に重合は数秒から数時間で完結する。
【0047】
本発明は触媒系を含む。この触媒系は上述のごとく活性化剤と、架橋したインデノインドリルの4族〜6族の遷移金属との錯体を含有する。この錯体はインドリル窒素を介してインデノインドリル基に橋架けしたオープン構造を持っている。この錯体は前述のようにして製造される。本発明の好ましい触媒系においてはインデノインドリル錯体は次の一般構造を持っている。
【0048】
【化14】

【0049】
式中、Mは4族〜6族の遷移金属であり、Gは結合基であり、LはGおよびMに共有結合する配位子であり、Xはアルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、ハライド、ジアルキルアミノ、またはシロキシであり、nはMの原子価を満足する数である。Mは4族の遷移金属であり、Lはアルキルアミドであり、Gはジアルキルシリルであり、Xはハライドまたはアルキルであるのが好ましい。
【0050】
たとえば本発明の触媒系のためのインデノインドリル錯体は次式のようなものである。
【0051】
【化15】

【0052】
本発明によって非常に低密度のエチレンコポリマーの調製が可能になる。一般的に、コポリマーは約0.930g/cm3未満の密度を有することができる。しかし、本発明の長所は、密度をかなり小さい値、たとえば、0.910g/cm3未満、さらに0.890g/cm3未満にさえすることができる。表1に示すように、非常に低密度を達成するのはオープン構造を持たないインデノインドリル金属触媒では困難である(比較例2および比較例3を参照)。オープン構造触媒はコモノマーをより効果的に組み込むことが見いだされた(実施例1参照)。
【0053】
本発明の触媒系および方法は高分子量のエチレンポリマーを製造するのに使うことができる。たとえば、重量平均分子量(Mw)が400,000超、さらに1,000,000超でさえある、非常に低密度のポリオレフィンを容易に製造することができる(実施例4参照)。所望により水素または他の連鎖移動剤を反応器に入れてポリマーの分子量を調節することができる。
【0054】
本発明の方法によって製造したポリオレフィンは通常分子量分布が狭く、好ましくは約3.5未満、さらに好ましくは約3.0未満である。コモノマーが含まれると、高レベルの短鎖分岐がFT−IR分析により、明らかとなる。非常に低密度のポリオレフィンを作製することを目標とする場合、コポリマーは炭素1000個当り約20を超える、好ましくは約30を超える分岐を持つ。
【0055】
別の態様によれば、本発明はエラストマー状のポリプロピレンおよびエチレンコポリマーを製造するのに有用な触媒系である。この触媒系は活性化剤およびオープン構造を有する架橋したインデノ[1,2−b]インドリルの4族〜6族遷移金属錯体である。驚くべきことに架橋した[1,2−b]錯体はプロピレンの重合においてもエチレンの共重合においても対応する[2,1−b]錯体よりもはるかに高活性であることが見いだされた。
【0056】
この触媒系で有用な活性化剤は前述のものと同じものである。この錯体は架橋したインデノ[1,2−b]インドリル配位子および4族〜6族の、好ましくは4族の、遷移金属を含有する。適当なインデノ[1,2−b]インドリル錯体はすでに記載した。下記に錯体4の調製で示すように、インデノ[1,2−b]インドリル配位子はアリールヒドラジンと1−インダノンを反応させることによって手軽に調製できる。好ましいインデノ[1,2−b]インドリル錯体は次の構造を持つ。
【0057】
【化16】

【0058】
式中、Mは4族〜6族の遷移金属、Gは結合基、LはGおよびMと共有結合する配位子であり、Rはアルキル、アリール、またはトリアルキルシリルであり、Xはアルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、ハライド、ジアルキルアミノ、またはシロキシであり、nはMの原子価を満足する数である。さらに好ましくは、Mは4族の遷移金属であり、Lはアルキルアミドであり、Gはジアルキルシリルであり、Xはハライドまたはアルキルである。
【0059】
錯体を調製する方法および構造の例は既に述べた。錯体4(下記)および調製方法を説明する。
【0060】
インデノ[1,2−b]インドリル錯体はエラストマー状のポリプロピレンを製造するのに非常に有用である。[1,2−b]錯体でも[2,1−b]錯体でもエラストマー状の性質(すなわち、生成するポリマーが高度にアイソタクティックでもなく高度にシンジオタクティックでもない)を有するポリプロピレンが得られるが、担持していない[1,2−b]錯体はプロピレンの重合において同一反応温度で[2,1−b]体よりも一桁(約10倍)活性が高い(表3参照)。担持したインデノ[1,2−b]インドリル錯体でもプロピレンの重合において同様の活性の利点が認められる(実施例20および比較例21参照)。
【0061】
同様の結果がエチレンとα−オレフィンの共重合において達成される。実施例18および比較例19に示すように、オープン構造を有する担持したインデノ[1,2−b]インドリル錯体はエチレンと1−ヘキセンの共重合において[2,1−b]体の3倍の活性を持っている。
【0062】
以下の実施例は単に本発明を説明するものである。当業者であれば本発明および請求の範囲の精神の範囲で多くの変法が可能なことを理解するであろう。
錯体Aの調製
オープン構造の錯体4
(a)インデノ[1,2−b]インドール1の調製。
1−インダノン(30.6g、232mmol)とp−トリルヒドラジン塩酸塩(37.0g、233mmol)の混合物のEtOH(350mL)溶液とHCl水溶液(12N、18mL)を90分間加熱還流する。混合物を冷却し濾過して、固体をEtOH(600mL)、次いで20%EtOH水溶液(400mL)、最後にヘキサン(200mL)で洗浄する。純白でない固体を真空で乾燥する(36.5g、72%)。
【0063】
(b)1のN−メチル化。
1(36.5g、166mmol)、NaOH水溶液(112mL、20M、2.2mol)、C1633NMe3Br(0.65g、1.78mmol)、およびトルエン(112mL)の混合物を室温で激しく攪拌する。MeI(17.0mL、273mmol)のトルエン(15mL)溶液を滴下し、混合物を室温で4時間攪拌し、3時間還流する。冷却すると結晶状の固体が生成するので濾過し、冷(−78℃)EtOH(300mL)次いでヘキサン(100mL)で洗浄する。層を分離し、水層をトルエン(2×100mL)で洗浄する。有機層を合わせてNa2SO4上で乾燥し濾過する。揮発分を真空で除去し、沈殿物を乾燥し、結晶状生成物2と合わせる(全収量25.7g、66%)。
【0064】
(c)架橋した配位子の調製(3)。
n−ブチルリチウム(8mL、2.5Mヘキサン溶液、20mmol)を2(4.66g、21mmol)の乾燥エーテル溶液(70mL)中に滴下する。2時間後、この溶液をゆっくりとジクロロジメチルシラン(5.20g)のエーテル(30mL)溶液に加える。室温で2時間攪拌後、混合物を濾過し蒸発させる。蒸発残渣をエーテル(60mL)に再溶解し、リチウムt−ブチルアミド(通常の方法でt−ブチルアミン(1.46g)とn−ブチルリチウム(2.5M溶液8mL)から調製)のエーテル溶液を滴下し、混合物を3時間攪拌し、セライト濾過助剤を用いて濾過する。濾液を濃縮した後、残渣をペンタンで回収し−30℃に冷却する。架橋した配位子3の収量は6g(82%)である。
【0065】
(d)オープン構造の錯体4の調製。
架橋した配位子3(6g)をエーテル(120mL)に溶解しn−ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液13.5mL)を加える。室温で一晩攪拌した後、メチルリチウム(1.4Mエーテル溶液24.5mL)を加え、混合物を−30℃に冷却する。四塩化チタンのビス(テトラヒドロフラン)錯体(5.66g)を加え、3時間攪拌を継続する。混合物を濾過し、濾液を濃縮する。残渣を熱ヘプタン(2×100mL)で抽出する。合わせた濾液を蒸発し、残渣をペンタンで結晶化し−30℃に冷却する。生成物である錯体4は暗褐色の固体である。収量は4.67gである。
【0066】
1H NMRスペクトルは提案した次の構造と一致する。
【0067】
【化17】

【0068】
錯体Bの調製−−比較例
架橋したインデノ[2,1−b]インドリルジルコニウム錯体9
(a)インデノ[2,1−b]インドール5の調製。
2−インダノン(51.0g、0.39mol)とp−トリルヒドラジン塩酸塩(61.4g、0.39mol)の混合物を氷酢酸(525mL)に溶かし激しく攪拌して還流するまで加熱する。混合物は赤く変わり、2時間加熱する。室温まで冷却した後、氷水(1L)中に注ぐ。沈殿物を濾過して得られる固体を水(約1L)で洗浄する。固体を酢酸エチル(1.4L)に溶解し、活性炭を加えて混合物を軽く暖める。混合物を冷却してセライトパッドで濾過する。濾液をNa2SO4上で乾燥し、濾過して450mLまで濃縮し、3日間−30℃に冷却する。結晶状の固体を濾過し冷(−78℃)ヘキサン(2×500mL)で洗浄する。ベージュ色の固体を集めて真空で乾燥する(47.1g、56%)。
【0069】
(b)5のN−メチル化による6の合成。
NaOH水溶液(42mL、21.5M、903mmol)、C1633NMe3Br(0.36g、0.97mmol)、および5(15.0g、68.4mmol)のスラリーをトルエン(50mL)と合わせる。MeI(8.0mL、129mmol)のトルエン(15mL)溶液を室温で滴下する。混合物を室温で2.5時間攪拌し、1時間還流する。混合物は赤く変わり、その後室温まで冷却し濾過する。結晶状固体を冷(−30℃)EtOH(200mL)、次いで冷ヘキサン(200mL)で洗浄すると淡赤色固体(10.3g、65%)が得られる。
【0070】
(c)アニオンの生成:7の調製。
室温でn−ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液13.0mL、32.5mmol)を6(4.94g、21.1mmol)のトルエン(125mL)スラリーに加える。混合物を室温に保持すると淡黄色に変わる。2時間後に沈殿物が生成する。2日後、混合物を濾過すると淡ベージュ色の固体が得られる。固体をトルエン(60mL)、次いでヘキサン(30mL)で洗浄し、集めて真空で乾燥する(4.37g、87%)。
【0071】
(d)ジアニオン8の調製。
生成物7(4.57g、19.1mmol)をトルエン(100mL)に懸濁する。ジエチルエーテル(40mL)を滴下するとオレンジ色の溶液が得られるので、それを室温でSiCl2Me2(12.0mL、98.9mmol)のEt2O(100mL)溶液に加える。混合物は濁って濃いベージュ色になり、3日間攪拌して濾過すると暗赤色からオレンジ色の溶液となる。揮発分を減圧で除去するとオイル状固体となる。1部分を1H NMRで分析すると、所望の生成物が得られていることが分かる。100%転化率と思われる。オイル状固体をEt2O(140mL)に溶解し、NaCp(2.0M THF溶液11.0mL、22mmol)を加える。直ちに沈殿物が生成するので、2日間攪拌を継続する。混合物を水(3×50mL)で洗浄し、有機相をNa2SO4上で乾燥し、濾過する。揮発分を真空で除去すると油状残渣が得られ、100%転化率と予想される。残渣をEt2O(75mL)に溶解し、−78℃に冷却し、n−ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液18.0mL、45.0mmol)をシリンジで加え、混合物をゆっくり室温まで暖める。一晩で黄色い固体が沈殿するので揮発分を真空で除去する。粗性物質をヘキサン(100mL)で洗浄し、濾過すると黄色い粉末が得られる。粉末を集めて真空で乾燥する(6.73g、93%)。
【0072】
(e)錯体9の調製。
四塩化ジルコニウム(3.15g、13.5mmol)をトルエン(100mL)と混ぜEt2O(50mL)に溶かして濁った懸濁液を製造する。ジアニオン8(5.02g、13.7mmol)を固体状で少しずつ30分かけて加える。色が黄色から濃オレンジ色に変わって、沈殿物が生成する。混合物を室温で2日間放置し、濾過すると濃黄色の固体が得られる。固体をトルエン(50mL)およびヘキサン(50mL)で洗浄する。黄色い粉末を集めて真空で乾燥する(3.72g、53%)。
【0073】
1H NMRスペクトルは次の提案構造と一致する。
【0074】
【化18】

【0075】
錯体Cの調製−−比較例
非架橋のインデノ[1,2−b]インドリルジルコニウム錯体10
窒素置換したグローブボックス中で、前に述べたようにして調製したN−メチル化インデノ[1,2−b]インドール2(14.2g、60.9mmol)をトルエン(175mL)に溶解する。n−ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液38.0mL、95mmol)を室温で激しく攪拌しながら注意深く加えると赤色の溶液となる。1時間後に沈殿物が生成する。混合物を一晩室温に放置し、濾過し、トルエン(100mL)次いでヘプタン(200mL)で洗浄する。粘凋な生成物をグローブボックスの窒素中で乾燥し、集めて真空で乾燥する。
【0076】
上で製造したインデノ[1,2−b]インドリルリチウム塩のサンプル(10g、42mmol)をトルエン(95mL)に溶解するとオレンジ色のスラリーとなる。ジエチルエーテル(35mL)をゆっくりと加えてオレンジ色の溶液とする。この溶液を室温で15分かけて、攪拌しながらシクロペンタジエニルジルコニウムトリクロライド(11g、42mmol)のトルエン(190mL)とジエチルエーテル(190mL)のスラリーに加える。混合物は深赤色に変わるので室温で一晩放置する。スラリーを濾過して赤色の固体を回収し、トルエン(200mL)で洗浄し真空で乾燥する。錯体10の収量は16.5gである。1H NMRスペクトルは次の提案構造に一致する。
【0077】
【化19】

【0078】
シリカ−担持錯体の調製
Crossfield ES757のシリカを250℃で12時間焼成する。窒素置換したグローブボックス中で、メチルアルモキサン(MAO)の30重量%トルエン(0.8mL)溶液を室温で効率的に攪拌しながらゆっくりと焼成したシリカのサンプル(1.0g)に加える。MAOの添加が終了した後、0.5時間攪拌を継続する。揮発分を室温で真空で(約28.5インチHgで1時間)除去する。MAOで処理したシリカの収量は1.25gである。
【0079】
同様にしてグローブボックス中で、30重量%MAO/トルエン溶液(1.18mL)を遷移金属0.11mmolに相当する量の有機金属錯体(A、B、またはC)に加える。得られた溶液を室温で攪拌しながらゆっくりと上述の乾燥したMAOで処理したシリカに加える。さらに0.5h攪拌した後、担持錯体を真空で乾燥し、担持錯体(約1.75g)を得る。
【0080】
実施例1および比較例2〜3
エチレンと1−ヘキセンの共重合
1リッターのステンレススチール製反応器に1−ヘキセン(35mL)を仕込む。トリイソブチルアルミニウム(1.0Mヘプタン溶液1.0mL、1.0mmol)とArmostat 710脂肪族アミン(1mg、Akzo Nobel社の製品)のヘプタン溶液(0.25mL)を1つの注入側管の中で混合する。この混合物を窒素圧とイソブタン(約450mL)で反応器に流し込む。水素を(初期H2圧500psigの90mLステンレススチール製シリンダから10dpsigで)反応器に加え、次いでエチレンで320psigに加圧する。反応器内容物を80℃で平衡に保つ。担持触媒(30mg)を別の注入側管に入れ、イソブタン(100mL)と窒素圧力で反応器に流し込む。0.5時間重合する。反応器を排気し、オレフィンポリマーを回収して試験前に真空で60℃で乾燥する。ポリマーの試験結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
実施例4
エチレンと1−ヘキセンの共重合
1リットルのステンレススチール製反応器に1−ヘキセン(35mL)を仕込む。トリイソブチルアルミニウム(1.0Mヘプタン溶液0.20mL、0.20mmol)を1つの注入側管からイソブタン(450mL)と窒素の圧力で反応器に注ぎ込む。次に反応器をエチレンで320psigまで加圧する。反応器内容物を80℃で平衡にする。担持触媒(シリカ担持錯体A、34mg)を別の注入側管に取り付けイソブタン(100mL)と窒素圧力で反応器に流し込む。0.5時間重合する。反応器を排気してオレフィンポリマーを回収し試験前に60℃で真空乾燥する。活性は6120g−ポリオレフィン/g−触媒/時間、Mw/Mn(GPC)=2.44、Mw=1,180,000、固有粘度(GPCによる)は9.57、炭素1000個当りの短鎖分岐(FT−IRによる)は32.8、密度は0.888g/cm3である。
【0083】
実施例4は本発明の方法によるオープン構造のインデノインドリル触媒のエチレンコポリマーの製造への使用を説明している。表1に示すように、このコポリマーは非常に低密度で、高分子量(反応器内に水素が存在するにもかかわらず)であり、分子量分布が狭い(2.8〜3.0)。
【0084】
錯体Aとボレート共触媒による担持触媒Dの調製
race Davisonのシリカ955を250℃で12時間焼成する。チッソ置換したグローブボックス中でトリエチルアルミニウム(TEAL)の0.5Mヘプタン(8mL)溶液を室温で効率的に攪拌しながらゆっくりと焼成したシリカ2gに加える。1時間攪拌した後、処理したシリカを室温で真空乾燥する。錯体A(29mg、0.066mmol)、トルエン(5mL)、およびトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート[(C653CB(C654](85mg、0.092mmol)をTEALで処理したシリカ(1.0g)のサンプルと混合し混合物を0.5時間攪拌する。揮発分を室温で真空で(約28.5インチHg、1時間)除去する。触媒Dの収量は1.12gである。
【0085】
実施例5
エチレンと1−ヘキセンの共重合
1リットルのステンレススチール製反応器に1−ヘキセン(35mL)を仕込む。トリイソブチルアルミニウム(1.0Mヘプタン溶液0.20mL、0.20mmol)を1つの注入側管からイソブタン(450mL)と窒素の圧力で反応器に注ぎ込む。次に反応器をエチレンで320psigまで加圧する。反応器内を80℃で平衡にする。担持触媒D(20mg)を別の注入側管に仕込みイソブタン(100mL)と窒素圧力で反応器に流し込む。0.5時間重合する。反応器を排気してオレフィンポリマーを回収し試験前に60℃で真空乾燥する。活性は2680g−ポリオレフィン/g−触媒/時間、Mw/Mn(GPC)=2.32、Mw=923,360、固有粘度(GPCによる)は8.1、炭素1000個当りの短鎖分岐(FT−IRによる)は33.2、密度は0.882g/cm3である。
【0086】
実施例5は本発明の方法によるボレートで活性化したオープン構造のインデノインドリル触媒の、非常に低密度で、高分子量のエチレンコポリマーの製造への使用を説明している。
【0087】
実施例6
N−Si−Nで架橋した錯体の調製
2−メチル−5,6−ジヒドロインデノ[1,2−b]インドール(3.28g)をエーテル(30mL)に懸濁し、n−ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液6.0mL)を加える。1時間後、この混合物をジメチルジクロロシラン(4.14g)のエーテル(20mL)溶液に滴下する。この混合物を3時間攪拌し、濾過する。濾液を蒸発するとベージュ色の固体(4.68g)となる。残渣をエーテル(60mL)に溶解し、t−ブチルアミン(1.20g)とn−ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液6.0mL)の混合物を滴下する。2時間後、混合物を蒸発し、残渣をペンタンで抽出する。混合物の体積を30mLまで減らし、n−ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液12mL)を加える。一晩攪拌した後、黄色い固体を濾過によって回収し、ペンタンで洗浄し、乾燥する。収量は4.49gである。生成物をエーテル(100mL)に溶解しメチルリチウム(1.4Mエーテル溶液18mL)を加える。この混合物を−30℃に冷却し、次にTiCl4(THF)2(4.15g)を加える。2時間攪拌した後、混合物を濾過し、濾液を蒸発する。残渣を熱ヘプタン(2×100mL)で抽出する。抽出液を集めて蒸発すると次式の提案構造に一致する1H NMRスペクトルを持つ黒褐色の固体(2.00g)が得られる。
【0088】
【化20】

【0089】
実施例7
共重合の実験
エチレンを8容器型Endeavor装置を用いて1−ヘキセンと共重合する。各容器に実施例6のオープン構造のTi錯体9.8×10-5mmol、MAO活性化剤(1000当量)およびいろいろな量の1−ヘキセンコモノマーを含有するトルエン溶液を仕込む。装置をエチレン(200psig)で加圧し、30分間重合する。気体を排気し、各容器からポリマーを回収する。活性を表2に列記する。
【0090】
【表2】

【0091】
実施例8
前に説明したようにしてオープン構造のインデノ[1,2−b]インドリル錯体4を調製する。
実施例9
リチウムt−ブチルアミドの代わりにリチウム1,1,3,3−テトラメチルブチルアミドを用いる以外は一般的に実施例8の手順に従ってオープン構造のインデノ[1,2−b]インドリル錯体11を得る。
【0092】
【化21】

【0093】
比較例10
オープン構造のインデノ[2,1−b]インドリル錯体12
この化合物をおおむねPCT国際出願WO01/53360の実施例1に詳しく説明された手順に従って2−インダノンから調製して、オープン構造のインデノ[2,1−b]インドリル錯体12を得る。
【0094】
【化22】

【0095】
参考例12
プロピレンの重合
不活性雰囲気のドライボックス中で実施例8のオープン構造のインデノ[1,2−b]インドリル錯体4 5mgをMAO(メチルアルモキサンの10重量%トルエン溶液)3.5mLおよびトルエン16.5mLと混合して錯体と活性化剤の溶液を調製する。この溶液を重合反応器に加える前に30分間エージングする。
【0096】
ステンレススチール製の1Lの反応器に、攪拌しながら室温で、酸素のないドライのプロピレン400mLを仕込む。次にトリイソブチルアルミニウムの25重量%ヘプタン溶液1.6mLをイソブタン50mLで反応器に流し込む。反応器を50℃にして平衡にする。錯体および活性化剤の溶液1.0mLをイソブタン50mLと共に流し込んで加えると重合が始まる。50℃で60分重合後に、反応器を排気して残存プロピレンおよびイソブタンを除去する。ポリマーを反応器から取り出して、1Lのメタノールに一晩浸し、濾過、乾燥する。活性は2467kg−ポリプロピレン/g−チタン/時間、重量平均分子量および多分散性(GPCによる)はMw=736,000およびMw/Mn=3.5である。13C NMRで測定したポリマーのタクティシティはmmトライアッド(アイソタクティックトライアッド)が7%、rrトライアッド(シンジオタクティックトライアッド)が59%であり、このことからこのポリプロピレンは高度にアイソタクティックでもなく高度にシンジオタクティックでもないことが分かる。この結果はこのポリプロピレンがエラストマー状の性質を持っていることを示している。
【0097】
参考例13
参考例12の重合を繰り返してMw=683,000のポリプロピレンを得る。ポリプロピレンを成型してASTMのタイプIの引っ張り試験片とし、物性を測定する。破断引っ張り強度は4.86Mpa、破断伸度は550%である。200%における延伸残留歪は8%(サンプルを元の長さの200%に延伸して10分間保持し、ついでサンプルを開放してさらに10分後に測定する。残留歪が0%ということは完全に元の長さに戻るということを意味し、100%であれば延伸した位置からまったく戻らないことを意味する。)応力回復は31%(これは200%延伸し、10分後のサンプルの応力の低下である)である。
【0098】
これらの張力の性質からインデノ[1,2−b]インドリル錯体を触媒成分として用いて調製したポリプロピレンは良好なエラストマーの性質を持っていることが分かる。
【0099】
参考例14、15および比較例16、17
プロピレンの重合
錯体および重合温度を変えて一般的に参考例12の重合手順で行う。条件および結果を表3に載せる。
【0100】
【表3】

【0101】
参考例12、14および15はオープン構造のインデノ[1,2−b]インドリル錯体で重合を行うとオープン構造のインデノ[2,1−b]インドリル錯体を用いて行う比較例16および17の重合に比べて活性が約10倍に改良されることを示している。このポリプロピレンは高分子量で分布が狭い。タクティシティのデータはこのポリマーは高度にアイソタクティックでもなく高度にシンジオタクティックでもないことを示している。このタクティシティレベルはエラストマー状のポリプロピレンであることを示している。
【0102】
シリカ担持錯体4および12の調製
Grace Davison955のシリカを250℃で12時間焼成した。窒素置換したグローブボックス中で、メチルアルモキサン(MAO)の30重量%トルエン溶液(0.8mL)を焼成したシリカのサンプル(1.0g)に効率的に攪拌しながら室温でゆっくり加える。MAOの添加が完了したら、攪拌を0.5時間継続し、揮発分を室温で真空(約28.5インチHg、1時間)で除去する。MAO処理シリカの収量は1.30gである。
【0103】
やはりグローブボックス中で、30重量%MAO/トルエン溶液(1.18mL)をトルエン(3.4mL)で希釈し、チタン0.048mmolに相当する量のオープン構造のチタン錯体(4または12)を希釈したMAOに加えて溶液とする。この生成した溶液を上記の乾燥したMAO処理シリカと混合する。さらに0.5時間攪拌した後、担持錯体を真空で乾燥し、担持錯体(約1.80g)を得る。
【0104】
実施例18
担持錯体4によるエチレンと1−ヘキセンの共重合
1Lのステンレススチール製反応器に1−ヘキセン(15mL)を仕込む。トリイソブチルアルミニウム(1.0Mヘプタン溶液0.5mL、0.5mmol)とStadis425脂肪族アミン(12mg、AkzoNobel社の製品)のヘプタン溶液(3.0mL)を1つの注入側管の中で混合する。この混合物を窒素圧およびイソブタン(約400mL)で反応器に流し込む。水素を(300dpsig、初期圧500psigのH2で加圧した10mLのステンレススチール製シリンダより)反応器に加え、次にエチレンで350psigに加圧する。反応器の内容物を80℃で平衡にする。担持錯体4(58mg)を別の注入側管に仕込みイソブタン(85mL)と窒素圧力で反応器に流し込む。0.5時間重合する。反応器を排気し、オレフィンポリマーを回収し乾燥する。活性は1,650kg−ポリオレフィン/g−チタン/時間である。
【0105】
実施例19
担持錯体12を用いたエチレンと1−ヘキセンの共重合
担持錯体12を用いる以外すべての操作を繰り返す。活性501kg−ポリオレフィン/g−チタン/時間である。
実施例18および比較例19からエチレンコポリマーを製造するのに担持したオープン構造のインデノ[1,2−b]インドリル錯体を選択するのが有利であることが分かる。
【0106】
参考例20
担持錯体4を用いたプロピレンの重合
1Lのステンレススチール製の反応器に攪拌しながら室温で、トリイソブチルアルミニウムの1.0Mヘプタン溶液1.0mLを乾燥した酸素のないプロピレン450mLと共に流し込む。反応器を70℃にし、平衡にする。担持錯体4(98mg)を乾燥した酸素のないプロピレン50mLと共に流し込んで加えると重合が始まる。70℃で30分重合した後、反応器を排気し残存プロピレンを除去する。ポリマーを反応器から除去し乾燥する。活性は331kg−ポリプロピレン/g−チタン/時間
比較例21
担持錯体12を用いたプロピレンの重合
担持錯体12を用いる以外参考例20の重合を繰り返す。活性79kg−ポリプロピレン/g−チタン/時間である。
参考例20および比較例21からポリプロピレンを製造するのに担持したオープン構造のインデノ[1,2−b]インドリル錯体を選択することの有利さが分かる。
以上の実施例は単に説明のためのものである。本発明は特許請求の範囲により定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アルモキサン、イオン性ボレート、イオン性アルミネート、アルキルアルミニウム及びアルミノボレートからなる群から選択される活性化剤、および
(b)インデノインドリル基への架橋がインドリル窒素を介して行われている、下記化学式の構造を有する架橋インデノインドリルの第4族遷移金属錯体
を含む、シリカに担持されたオレフィン重合用触媒系。
【化1】

(式中、Mは第4族の遷移金属であり、Lはアルキルアミドであり、Gはジアルキルシリルであり、Xはアルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、ハライド、ジアルキルアミノ、またはシロキシであり、nはMの原子価を満足する数である。)
【請求項2】
MがTiまたはZrであり、Lがt−ブチルアミドであり、Gがジメチルシリルであり、Xがハライドまたはアルキルである請求項1に記載の触媒系。

【公開番号】特開2011−179011(P2011−179011A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103819(P2011−103819)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【分割の表示】特願2004−526037(P2004−526037)の分割
【原出願日】平成15年7月10日(2003.7.10)
【出願人】(501391331)エクイスター ケミカルズ、 エルピー (30)
【氏名又は名称原語表記】Equistar Chemicals,LP
【Fターム(参考)】