説明

ポリカーボネート樹脂組成物及び熱線遮蔽能を備えた成形体

【課題】
日射透過率が低く十分な熱線遮蔽の機能を有し、かつ特に熱安定性に優れ、熱応力に長時間暴露された後にも黄色度の変化が小さく、さらには、湿熱雰囲気下における耐加水分解性にも優れた、一般建築物の窓ガラス、自動車の窓ガラス等に好適なポリカーボネート樹脂組成物及びこれを用いた熱線遮蔽能を備えた成形体を提供すること。
【解決手段】
芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、(a)La、Ce、Pr、Nd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Yb、Lu、Sr及びCaからなる群より選択された少なくとも1種の金属ホウ化物微粒子0.0001〜0.5重量部及び(b)ホスフィン化合物0.005〜1重量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物及び該組成物を成形してなる熱線遮蔽能を備えた成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日射透過率が低く十分な熱線遮蔽の機能を有し、かつ特に耐湿熱安定性に優れ、熱応力に長時間暴露された後にも黄色度の変化が小さく、さらには、湿熱雰囲気下における耐加水分解性にも優れた、一般建築物の窓ガラス、自動車の窓ガラス等に好適なポリカーボネート樹脂組成物及びこれを用いた熱線遮蔽能を備えた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般建築物の窓ガラス、自動車の窓ガラスを透過して室内に進入する近赤外線は、室内の温度を過度に上昇させる原因になっている。これを防止するため、日射透過率が低く十分な熱線遮蔽の機能を有した熱線遮蔽性樹脂組成物及び熱線遮蔽能を備えた成形体の提供が強く求められている。このような要求に対し、特許文献1及び2には、ポリカーボネート樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂又は塩化ビニル樹脂にフタロシアニン化合物を配合した熱線遮蔽材が開示されているが、十分な熱線遮蔽性を付与するには多量のフタロシアニン化合物を配合しなければならず、多量に配合すると耐熱性が不足し着色の問題が生じたり、耐候性も不十分であった。
また特許文献3には、有機赤外線吸収剤およびホスフィン化合物を含有する透明な熱可塑性樹脂が開示されているが、有機赤外線吸収剤の耐熱性が不足しており、耐熱性に優れる無機赤外線吸収剤として金属酸化物の併用が開示されているが、有機赤外線吸収剤を使用するために成形時の耐熱性は不十分であった。さらには、成形品の耐加水分解性については、まったく触れられていない。
特許文献4には、ポリカーボネート樹脂に耐熱性の高い紫外線吸収剤とホスフィン化合物を添加することにより、安定したハードコート層を形成できることを開示しているが、熱線遮蔽性能や熱応力に長時間暴露された場合の効果、成形品の耐加水分解性については何の記載もされていない。
また特許文献5には、金属ホウ化物とホスファイトかつ/またはホスホナイト化合物を含有するポリカーボネートを射出成形した成形品表面にハードコート層を有する成形体が開示されているが、熱応力に長時間暴露された場合の効果については何の記載もされていない。
さらに、特許文献6には、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、飽和ポリエステル樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルスルフォン系樹脂及びフッ素系樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂に、6ホウ化物を配合した熱線遮蔽樹脂成形体が開示されており、この技術では熱線遮蔽成分の分散の改良を達成しているが、成形品における耐熱性が不十分であり熱応力に長時間暴露された後の黄色度変化が大きく、一般建築物の窓ガラスや自動車の窓ガラスとして満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開平06−240146号公報
【特許文献2】特開平06−264050号公報
【特許文献3】特開2003−12947号公報
【特許文献4】特開2004−167946号公報
【特許文献5】特開2005−179504号公報
【特許文献6】特開2004−162020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、特に熱安定性に優れ、熱応力に長時間暴露された後にも黄色度の変化が小さく、かつ日射透過率が低く十分な熱線遮蔽性(特に、可視光には透過性で選択的に赤外線を遮蔽する機能)を有し、さらには、湿熱雰囲気下における耐加水分解性にも優れた、一般建築物の窓ガラス、自動車の窓ガラス等に好適なポリカーボネート樹脂組成物及びこれを用いた熱線遮蔽能を備えた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討した結果、芳香族ポリカーボネート樹脂に微量のホウ化物を配合する際に特定の化合物を添加することにより、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、(a)La、Ce、Pr、Nd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Yb、Lu、Sr及びCaからなる群より選択された少なくとも1種の金属ホウ化物微粒子0.0001〜0.5重量部及び(b)ホスフィン化合物0.005〜1重量部を含有させた場合に限り、特に熱安定性に優れ、熱応力に長時間暴露された後にも黄色度の変化が小さく、かつ日射透過率が低く十分な熱線遮蔽性(特に、可視光には透過性で選択的に赤外線を遮蔽する機能)を有し、また湿熱雰囲気下における耐加水分解性にも優れ、蒸気暴露された際にもポリカーボネートの加水分解が抑制され、透明性の低下(ヘイズの増加)のないポリカーボネート樹脂組成物、及び該樹脂組成物からなる熱線遮蔽能を備えた成形体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0005】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物及びこれを用いた熱線遮蔽能を備えた成形体は、特に熱安定性に優れ、熱応力に長時間暴露された後にも黄色度の変化が小さく、かつ日射透過率が低く十分な熱線遮蔽性(特に、可視光には透過性で選択的に赤外線を遮蔽する機能)を有し、さらには、湿熱雰囲気下における耐加水分解性にも優れ、蒸気暴露された際にもポリカーボネートの透明性の低下(ヘイズの増加)がないので、一般建築物や自動車の窓ガラス、アーケードやカーポート等の屋根材、赤外線カットフィルター等の光学材、農業用フィルム等として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について具体的に説明する。
芳香族ポリカーボネート樹脂
本発明におけるポリカーボネート樹脂は、芳香族ヒドロキシ化合物と、ホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネート重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等の従来法によることができる。
【0007】
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂の原料の一つである芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的なものとして、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。さらに、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン(THPE)、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン等の分子中に3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール等を分岐化剤として少量併用することもできる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物なかでも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」とも言い、「BPA」と略記することもある。)が好ましい。
【0008】
エステル交換法による重合においては、ホスゲンの代わりに炭酸ジエステルがモノマーとして使用される。炭酸ジエステルの代表的な例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表されるジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記することもある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0009】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0010】
エステル交換法により芳香族ポリカーボネートを製造する際には、通常、触媒が使用される。触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が使用されるが、中でもアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が特に好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。エステル交換法では、上記重合触媒をp−トルエンスルホン酸エステル等で失活させることが一般的である。
【0011】
芳香族ポリカーボネートとして好ましいものは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。また、難燃性等を付与する目的で、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーを共重合させることができる。芳香族ポリカーボネートは、原料の異なる2種以上の重合体及び/又は共重合体の混合物であってもよく、分岐構造を0.5モル%まで有していてもよい。芳香族ポリカーボネートの末端OH基含有量は通常30〜2000ppm、好ましくは100〜1500ppm、さらに好ましくは200〜1000ppmであり、封止末端としてはp−t−ブチルフェノール、フェノール、クミルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等で封止したものを使用することができる。ポリカーボネート樹脂中の残存モノマー量としては、芳香族ジヒドロキシ化合物が150ppm以下、好ましくは100ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。エステル交換法により合成された場合には、さらに炭酸ジエステル残存量が300ppm以下、好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは150ppm以下である。
【0012】
芳香族ポリカーボネートの分子量は特に制限は無いが、溶媒としてメチレンクロライドを用い、20℃の温度で測定した溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、10,000〜50,000の範囲のものであり、好ましくは11,000〜40,000のものであり、特に好ましくは12,000〜30,000の範囲のものが好ましい。
【0013】
ホウ化物微粒子
本発明で用いられるホウ化物は、La、Ce、Pr、Nd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Yb、Lu、Sr及びCaからなる群より選択された少なくとも1種の金属ホウ化物で、微粒子状のものであることが必要である。ホウ化物微粒子は、表面が酸化されていないものが好ましいが、多少酸化されていても熱線遮蔽効果の有効性に変わりはなく用いることができる。これらのホウ化物微粒子は、灰黒色、茶黒色、緑黒色等有色の粉末であるが、粒径を可視光波長に比べて十分小さくして樹脂成形体中に分散させた状態とすれば、得られる熱線遮蔽能を備えた樹脂成形体に可視光透過性が生じ、かつ、赤外光遮蔽能は十分強く保持できる。また、ホウ化物微粒子の粒径は、1000nm以下、好ましくは200nm以下である。粒子径が1000nmよりも大きい微粒子若しくは微粒子が凝集した粗大粒子の存在する樹脂成形体は、ヘイズが高くなり透明性が低下するため好ましない。
【0014】
本発明において、ホウ化物微粒子は、その表面をシラン化合物、チタン化合物、ジルコニア化合物等によって被覆処理されているものを使用することができ、これ等化合物で微粒子表面を被覆処理することでホウ化物微粒子の耐水性を向上させることが可能となる。
【0015】
また、本発明において、ホウ化物微粒子は、均一な分散性と作業性を向上させるために、高分子系分散剤および/または無機系分散剤中に分散させることが好ましい。このような高分子系分散剤は、透明性が高く可視光領域の光線透過率が高いものが使用できる。具体的な高分子系分散剤としては、ポリアクリレート系分散剤、ポリウレタン系分散剤、ポリエーテル系分散剤、ポリエステル系分散剤、ポリエステルウレタン系分散剤等が挙げられ、好ましくはポリアクリレート系分散剤、ポリエーテル系分散剤、ポリエステル系分散剤である。無機系分散剤として、例えばケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムの各金属のアルコキシドまたはこれら金属の部分加水分解重合物が挙げられる。分散剤のホウ化物微粒子に対する配合割合は、ホウ化物微粒子1重量部に対して、0.3重量部以上50重量部未満であり、好ましくは1重量部以上15重量部未満である。
ホウ化物微粒子を高分子系分散剤中に分散させる方法は、例えば、ホウ化物微粒子、有機溶剤及び分散剤を適量混合し、直径0.3mmのジルコニアビーズを用いて5時間ビーズミル混合し、ホウ化物微粒子分散液(ホウ化物微粒子濃度:6.5重量%)を調製する。さらに、上記分散液に分散剤を適量添加し、撹拌しながら60℃減圧下で有機溶剤を除去して、ホウ化物微粒子分散体を得ることができる。
【0016】
芳香族ポリカーボネート樹脂とホウ化物との配合割合は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、ホウ化物0.0001〜0.5重量部であり、さらに好ましくは0.0005〜0.1重量部、さらに好ましくは0.001〜0.05重量部である。ホウ化物の配合割合が0.0001重量部未満では熱線遮蔽効果が小さく、0.5重量部を超えるとヘイズが高くなって透明性が低下し、コスト的にも不利になるので好ましくない。
【0017】
ホスフィン化合物
本発明で用いられるホスフィン化合物は特に限定されるものではなく、各種オルガノホスフィン類およびその塩を含むものであり、例えばホスフィンオキサイド類、ハロゲン等とのホスホニウム塩、ジホスフィン類等の誘導体が挙げられる。特に、脂肪族または芳香族ホスフィン化合物を好適に使用できる。1級、2級および3級のいずれのホスフィン化合物も使用できるが、特に3級ホスフィン化合物が好ましく、より好ましくは3級芳香族ホスフィン化合物またはその誘導体が挙げられる。
3級芳香族ホスフィン化合物は、一般式RP(式中、Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基で、互いに異なっていてもよい。)で表される。Rは、フェニル基が好ましい。置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、n−へキシル基、イソへキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。
3級芳香族ホスフィン化合物またはその誘導体の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリm−トリルホスフィン、トリo−トリルホスフィン、トリp−トリルホスフィン、トリス−p−メトキシフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキサイド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリホスホニウムクロリド、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン等が挙げられ、より具体的にはトリフェニルホスフィンまたはトリフェニルホスフィン誘導体の使用が好ましいが、他のホスフィン化合物を併用してもよい。また、本発明の効果を妨げない範囲で他の熱安定剤を同時に添加することもできる。
【0018】
ホスフィン化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.005〜1重量部であり、好ましくは0.4重量部以下である。1重量部を超えると耐加水分解性が悪化する等の問題があるため好ましくない。
【0019】
さらに、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、耐候性改良剤、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、染顔料を配合することが、成形時、又は窓若しくは窓部品として使用する上で、色相安定性が向上するので好ましい。
耐候性改良剤
耐候性改良剤としては酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物等の有機紫外線吸収剤が挙げられる。本発明では、これらのうち有機紫外線吸収剤が好ましく、特にベンゾトリアゾール化合物、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステルから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
ベンゾトリアゾール化合物としては、メチル−3−〔3−t−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物が好ましい。また、その他のベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、2−ビス(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−t−ブチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン ビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール〕[メチル−3−〔3−t−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物等を挙げることができる。
【0021】
これらの中で、特に好ましいものは、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−メチレン ビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール〕である。
【0022】
紫外線吸収剤の配合率は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.01〜5重量部である。5重量部を超えるとモールドデボジット等の問題があり、0.01重量部未満では耐候性の改良効果が不十分である。紫外線吸収剤は1種でも使用可能であるが、複数種併せて使用することもできる。
【0023】
酸化防止剤
本発明で好ましく使用される酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。具体例としては、ペンタエリスリト−ルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3',3",5,5',5"−ヘキサ−t−ブチル−a,a',a"−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。上記のうちで,特にペンタエリスリト−ルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これら2つのフェノール系酸化防止剤は,チバ・スペシャリテイ・ケミカルズ社よりイルガノックス1010及びイルガノックス1076の名称で市販されている。
【0024】
フェノール系酸化防止剤の配合率は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01〜1重量部である。フェノール系酸化防止剤の配合量は0.01重量部未満であると、抗酸化剤としての効果が不十分であり、1重量部を超えても抗酸化剤として更なる効果は得られない。
【0025】
離型剤
本発明で好ましく使用される離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物及びポリシロキサン系シリコーンオイルから選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0026】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族1価、2価若しくは3価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。このうち好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の1価又は2価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸がさらに好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。
【0027】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。この脂肪族カルボン酸と反応しエステルを形成するアルコールとしては、飽和又は不飽和の1価アルコール、飽和又は不飽和の多価アルコール等を挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらのアルコールのうち、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、さらに炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール、又は多価アルコールが好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。これらのアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。これらの脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0028】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートを挙げることができる。
【0029】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス又は炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等を挙げることができる。ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。これらの中で好ましいものは、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリエチレンワックスの部分酸化物であり、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。数平均分子量は200〜15000であるが、好ましくは200〜5000である。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記範囲内であればよい。
【0030】
また、ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。これらは、単独で使用しても二種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
離型剤の配合率は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.01〜1重量部である。離型剤の配合率が1重量部を超えると耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等の問題がある。離型剤は1種でも使用可能であるが、複数併用して使用することもできる。
【0032】
染顔料
本発明で使用される染顔料としては、無機顔料 、有機顔料、有機染料等が挙げられる。無機顔料としては、例えばカーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料、群青等の珪酸塩系顔料、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛ー鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅ークロム系ブラック、銅ー鉄系ブラック等の酸化物系顔料、黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料、紺青等のフェロシアン系等があげられる。有機顔料及び有機染料としては、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料、ニッケルアゾイエロー等のアゾ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の縮合多環染顔料、アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料等が挙げられる。中でも熱安定性の点から酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物等が好ましく、カーボンブラック、アンスラキノン系化合物、フタロシアニン系化合物がさらに好ましい。それらの具体例としては、MACROLEX Blue RR、MACROLEX Violet 3R、MACROLEX Violet B(バイエル社製)、Sumiplast Violet RR、Sumiplast Violet B、Sumiplast Blue OR(住友化学工業(株)製)、Diaresin Violet D、Diaresin Blue G、Diaresin Blue N(三菱化学(株)製)等が挙げられる。
【0033】
染顔料の配合率は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、1重量部以下であり、好ましくは0.3重量部以下、さらに好ましくは0.1重量部以下である。該着色剤は1種でも使用可能であるが、複数種併用することもできる。
本発明において、染顔料の配合は、本来、透過光による視認性を調整する目的で行われる。すなわち、金属ホウ化物微粒子の配合量が増加すると、成形体の色相が変化し視認性を低下させる(具体的には、L値を低下させ、a値及びb値の絶対値を増大させる)傾向があるので、配合する染顔料の種類及び/又は配合率を選定して適正な色相にすることにより、透過光による視認性が改善される。もちろん、成形体の用途によっては、例えば、サンルーフ等では、熱線遮蔽性を損なわない範囲で、カーボンブラック等の黒色顔料を配合して、意図的にL値を低下させることもできる。
【0034】
赤外線吸収剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、熱線遮蔽性能をさらに改善する目的で、必要に応じて、さらにアンチモンドープ酸化錫微粒子、In、Ga、Al及びSbよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含有する酸化亜鉛微粒子、錫ドープ酸化インジウム微粒子、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、硫化銅、銅イオン等の他の有機、無機系赤外線吸収剤を配合することもできる。
【0035】
その他の添加剤
本発明ポリカーボネート樹脂組成物には、さらに、本発明の目的を損なわない範囲で、ABS,ポリスチレン,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエステル等の他の熱可塑性樹脂、リン系,金属塩系,シリコン系等の難燃剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、滑剤、離型剤、防曇剤、天然油、合成油、ワックス、有機系充填剤、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維状強化材、マイカ、タルク、ガラスフレーク等の板状強化材あるいはチタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、ワラストナイト等のウィスカー等無機系充填剤等の添加剤を配合することができる。
【0036】
ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、特に制限はなく、例えば、(1)芳香族ポリカーボネート樹脂の重合反応の途中又は重合反応終了時に、ホウ化物やその他の添加剤を混合する方法、(2)混練途中等、芳香族ポリカーボネート樹脂が溶融した状態で、ホウ化物やその他の添加剤を混合する方法、(3)ペレット等、芳香族ポリカーボネート樹脂が固体状態にあるものに、ホウ化物やその他の添加剤を混合後、押出機等で溶融・混練する方法等が挙げられる。
【0037】
熱線遮蔽能を備えた成形体
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から熱線遮蔽能を備えた成形体を成形する方法は、特に限定されるものでなく、熱可塑性樹脂について一般的に用いられている成形法、例えば、射出成形、射出ブロー成形、射出圧縮成形、ブロー成形、フィルムやシート等の押出成形、異型押出成形、熱成形、回転成形等の何れをも適用できる。さらに、ガス又は水等の流体アシスト成形、超臨界又は亜臨界ガスを使用した成形、各種印刷等の機能化処理されたフィルム又はシートのインサート成形、2色成形、インモールド成形、他樹脂又は紫外線吸収層等の共押し出し、ラミネート等も可能である。成形可能な形状の自由度から、好ましくは射出成形又は射出圧縮成型がよい。さらに射出成形又は射出圧縮成形ではホットランナーを使用することもできる。
成形体の形状は、必要に応じて任意の形状に成形可能であるが、一般建築用又は車両用の窓若しくは窓部品として用いるには、平面状又は曲面状の板状部分を有することが好ましい。板状部分の厚みは特に制限は無いが、本発明の熱線遮蔽能を備えた成形体は、0.2mm以上10mm以下の板状部分が存在するものである。板状部分の厚みは好ましくは1mm以上10mm以下、もっとも好ましくは3mm以上8mm以下である。板状部分の厚みが0.2mm以下では、十分な熱線遮蔽性能を得るために、ホウ化物を高濃度で配合する必要があり透明性が得難い。このような熱線遮蔽能を備えた成形体は必要に応じてさらにアニール処理等を行い、他部品と接着することも可能である。接着方法も特に制限は無いが、溶剤による接着のほか、振動溶着、レーザー溶着等公知の方法を使用することができる。
【0038】
また、本発明の熱線遮蔽能を備えた成形体は、厚み0.2〜10mmの板状部分を有する芳香族ポリカーボネート樹脂成形体であって、該熱線遮蔽能を備えた成形体の板状部分(後記加飾が施された場合は、加飾が施される前の板状部分)における、日射透過率が70%以下、好ましくは60%以下であるのが好ましい。日射透過率が70%を超えると、一般建築物や車両の室内温度が過度に上昇することがあるので好ましくない。
さらに、該熱線遮蔽能を備えた成形体の板状部分(後記加飾が施された場合は、加飾が施される前の板状部分)における、全光線透過率と日射透過率の比(全光線透過率/日射透過率)は、好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.3以上である。全光線透過率と日射透過率の比が大きいことは、可視光に比べて熱線を選択的に吸収することを示し、この値が大きいことが好ましい。
【0039】
本発明の熱線遮蔽能を備えた成形体は、また、窓若しくは窓部品として要求される性能を付与するために、該板状部分の片面又は両面に、ハードコート層、反射防止層から選択された少なくとも1種の機能化層を1層以上有するものであるのが好ましい。
厚み0.2〜10mmの板状部分を有する成形体の片面又は両面に、ハードコート層及び反射防止層から選択された少なくとも1種の機能化層を1層以上形成する方法は、特に限定されるものでなく、従来公知の種々の方法が用いられる。
【0040】
反射防止層は、例えば、(A)電子ビーム加熱法、抵抗加熱法、フラッシュ蒸着法等の各種真空蒸着法;(B)プラズマ蒸着法;(C)2極スパッタリング法、直流スパッタリング法、高周波スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、バイアススパッタリング法等の各種スパッタリング法;(D)DC法、RF法、多陰極法、活性化反応法、HCD法、電界蒸着法、高周波イオンプレーティング法、反応性イオンプレーティング法等の各種イオンプレーティング法;(E)CVD法等によって形成することができる。さらに、反射防止層は、ZrO2ゾル、TiO2ゾル、Sb25ゾル、WO3ゾルのような高屈折率を有する金属酸化物ゾルをシリコン系ハードコート剤やプライマー中に分散させ、塗布・熱硬化させることによって形成することもできる。
【0041】
ハードコート層の形成には、所望によりアンダーコート層を設けた上に、エポキシ系、アクリル系、アミノ樹脂系、ポリシロキサン系、コロイダルシリカ系、有機・無機ハイブリッド系等のハードコート剤を、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フローコート法等の各種塗布法により塗布し、熱又は紫外線等の手段により硬化する方法を用いることができる。これらのハードコート層は、ポリカーボネート基材上に1層以上設けることができる。例えば、ポリカーボネート基材上に直接ハードコート剤を塗付することも可能であるが、基材上に予め形成されたアンダーコート層の上に塗布してもよい。さらに、形成されたハードコート層の表面を、プラズマ重合等によりSiO2 等の無機化合物処理の他、防曇処理、反射防止膜塗布等を行うことも可能である。また、ハードコート層は、成形品表面にハードコート剤を塗付して形成するだけではなく、ハードコート層を有するシート又はフィルムを金型内にセットし、そこへポリカーボネート組成物を射出成形することでハードコート層を有する一体成形体を作成することも可能である。
これらハードコート層中には、諸種の添加剤、例えばトリアゾール系、トリアジン系化合物等の紫外線吸収剤や、金属ホウ化物、ITO、ATO、ZnO、アンチモン酸亜鉛等の金属・金属酸化物微粒子系熱線遮蔽剤、銅系化合物、有機錯体系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、ジイモニウム系、アンスラキノン系、アミニウム系、シアニン系、アゾ化合物系、キノン系、ポリメチン系、ジフェニルメタン系等の有機系熱線遮蔽剤等の各種熱線遮蔽剤を含有させることもできる。これらの添加剤は、ハードコート層及び/又はアンダーコート層のいずれに添加してもよい。
【0042】
上記方法によって形成される、反射防止層やハードコート層の厚さは1μm〜20μm、好ましくは2μm〜10μmである。1μm未満では反射防止層やハードコート層の耐久性が不足し、20μmを超えると反射防止層やハードコート層にクラックが発生し易くなる。本発明の熱線遮蔽能を備えた成形体の表面機能化層としては、窓若しくは窓部品としての観点から、ハードコート層であることが好ましい。
【0043】
本発明の熱線遮蔽能を備えた成形体は、上記機能化層表面又はポリカーボネート樹脂表面に任意の部分加飾を施すことが可能であり、ブラックアウト、各種マーク、キャラクター等により意匠性を付与することができる。
本発明の熱線遮蔽能を備えた成形体は、その板状部分(上記加飾が施された場合は、加飾が施される前の板状部分)の色相が、L値92〜35、a値5〜−15、b値20〜−5の範囲内であることが好ましい。L値が35未満であると、a値及びb値が、それぞれ、5〜−15及び20〜−5の所定範囲内であっても、黒ずんで透明感が低下する。また、L値が80以上であっても、a値及びb値が、それぞれ、−15及び−5より小さいと緑〜青味の強い色になり、5及び20より大きいと赤〜黄味の強い色となり好ましくない。さらに、L値、a値及びb値が、すべて上記範囲から外れる場合には、ポリカーボネート樹脂組成物の色相熱安定性も低くなる傾向にある。なお、一般には、L値は大きいほど可視光透過性が良好であり、a値及びb値はゼロに近いほど着色が少ない。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、使用した原材料の詳細は、以下のとおりである。
〔原材料〕
(1)芳香族ポリカーボネート: 三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名ノバレックス7022PJ、粘度平均分子量21,000(以下、「7022」と略記)。
(2)ホウ化物: 6ホウ化ランタン微粒子分散物(住友金属鉱山(株)製、商品名KHDS−02)、6ホウ化ランタン微粒子含量10.5重量%、酸化ジルコニウム含量10.6重量%、高分子系分散剤含量78.9重量%、粒子径20〜100nm(以下、「ホウ化物1」と略記)。
(3)ホスフィン化合物: トリフェニルホスフィン(東京化成工業(株)製、試薬)(以下、「ホスフィン化合物1」と略記)。
(4)耐候性改良剤: 2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、シプロ化成(株)製、商品名シーソーブ709(以下、「紫外線吸収剤1」と略記)。
(5)熱安定剤: トリフェニルホスファイト(東京化成工業(株)製、試薬)(以下、「ホスファイト化合物1」と略記)、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、旭電化工業(株)製、商品名PEP−36(以下、「ホスファイト化合物2」と略記)。
(6)酸化防止剤: ペンタエリスリト−ルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、商品名イルガノックス1010(以下、「フェノール系安定剤1」と略記)。
(7)離型剤: グリセリンモノステアレート、理研ビタミン(株)製、商品名S−100A(以下、「離型剤1」と略記)。
(8)染料1: マクロレックスブルーRR(バイエル社製)。
(9)染料2: ダイアレジンレッドHS(三菱化学(株)製)。
(10)カーボンブラック: 三菱化学(株)製、カーボンブラック#1000。
【0045】
〔実施例1、2および比較例1、2〕
芳香族ポリカーボネート(7022)100重量部に、表−1記載の各種添加剤を混合後、40mm単軸押出機に供給し、280℃で混練、ペレット化した。
得られたペレットを120℃、5時間乾燥後、名機製作所製のM150AII−SJ型射出成形機を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル40秒の条件で50mm×90mmの3段プレート(1mm厚、2mm厚、3mm厚の部分の大きさがそれぞれ50mm×30mm)を成形した。この平板表面上に、アクリル系アンダーコート、シリコン系ハードコートの順にそれぞれ塗付・UV硬化を行い、10μm厚のアンダーコート層及び5μm厚のハードコート層を形成し板状成形体を得た。
この板状成形体を、下記評価法(1)〜(5)用試験片とし、3mm厚の部分を用いて測定を行なった。評価結果表−1に示した。
【0046】
〔評価法〕
(1)ヘイズ・全光線透過率: JIS K−7105に準じ、3mm厚の平板を試験片とし、日本電色工業(株)製のNDH−2000型ヘイズメーターで測定した。
(2)日射透過率: 3mm厚の平板を試験片とし、(株)島津製作所製のU−3100PC型分光光度計を使用して測定した波長域300〜2500nmの光線透過率の値から、JIS R−3106に従って日射透過率を算出した。
(3)L値、a値、b値、YI値: JIS K−7105に準じ、3mm厚の平板を試験片とし、日本電色工業(株)製のSE2000型分光式色彩計で、透過法により測定した。
(4)耐熱老化試験: 試験片を130℃、空気雰囲気で500時間熱貯蔵し、この熱貯蔵前後のYI値の変化量をΔYIとして算出し、耐熱性の指標とした。
(5)耐湿熱性試験: プレッシャークッカー試験機((株)平山製作所製、HASTEST、MODEL PC−SIII)にて、試験片を120℃、圧力1kg/cm、湿度100%の水蒸気雰囲気で50時間処理し、この処理前後のヘイズ値の変化をΔヘイズとして算出し、耐加水分解性の指標とした。
【0047】
【表1】

【0048】
上記の表−1において、実施例1、2は比較例1、2と比較して、耐熱老化試験後のΔYIの値が小さく変化率は10%以下となっており、また、プレッシャークッカー試験後のΔヘイズ値も小さく変化率は100%以下となっていることから、ホスフィン化合物の添加によって耐熱老化性および耐湿熱性を改善できることを示す。また、実施例1、2で得られた板状成形体は、十分な熱線遮蔽能を備え、一般建築物用又は車両用の窓若しくはサンルーフ、ルーフパネル、ディスプレイパネル等の窓部品として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、(a)La、Ce、Pr、Nd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Yb、Lu、Sr及びCaからなる群より選択された少なくとも1種の金属ホウ化物微粒子0.0001〜0.5重量部及び(b)ホスフィン化合物0.005〜1重量部を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
(b)ホスフィン化合物が、トリフェニルホスフィンまたはトリフェニルホスフィン誘導体であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1、2に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる熱線遮蔽能を備えた成形体であって、厚み0.2〜10mmの板状部分を有し、かつ、該板状部分における、日射透過率が70%以下であることを特徴とする熱線遮蔽能を備えた成形体。
【請求項4】
上記板状部分が、その片面又は両面に、ハードコート層及び反射防止層から選択された少なくとも1種の機能化層を1層以上有することを特徴とする請求項3に記載の熱線遮蔽能を備えた成形体。
【請求項5】
上記成形体が一般建築物用又は車両用の窓若しくは窓部品であることを特徴とする請求項3、4に記載の熱線遮蔽能を備えた成形体。

【公開番号】特開2007−169503(P2007−169503A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370305(P2005−370305)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】