説明

ポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体及びその製造方法

【課題】ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層との積層体とすることで、高透明、高弾性、低線膨張係数で、耐衝撃性等の特性のバランスが良好で、生産性も良いコンポジットを実現する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層とを備える積層体において、セルロース繊維層の厚みに対して、ポリカーボネート樹脂層の厚みが1.4倍以上であるポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体。セルロース繊維層とポリカーボネート樹脂層とを積層し、加熱融着してこのポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層とを有するポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体に係り、特に、ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層とを積層一体化することで、高透明、高弾性、低線膨張係数で、耐衝撃性等の特性のバランスが良好で、生産性も良いコンポジットを実現したポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体に関する。本発明はまた、このようなポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースナノファイバーシートにポリカーボネート樹脂を含浸させてなる、透明で、低線膨張係数、高弾性のコンポジットが提供されているが、含浸状態のコントロールが難しく、コンポジットの製造歩留まりが悪いという欠点があった。
【0003】
また、透明性向上を目的として、ポリスチレンフイルムやポリエチレンテレフタレートフイルムをセルロースナノファイバーシートと加熱融着する方法が知られている。しかしながら、ポリスチレンフイルムを用いた場合、得られるコンポジットの透明性は高いものの、機械的特性や低線膨張係数に問題があった。即ち、ポリスチレンでは、その構造上、セルロースとの親和性が悪く、セルロースとの界面の接合が弱いため、応力をかけたときの密着力が弱く、そのため、セルロースの特性が反映されず、線膨張係数が高くなる懸念があった。また、ポリエチレンテレフタレートフイルムを用いた場合には、セルロースナノファイバーシートに加熱融着する際、高温にすると結晶化してしまい、高透明性が維持できなくなり、一方で、低温で加熱融着した場合には密着性が悪くなる懸念がある。
【0004】
特許文献1には、セルロース繊維集合体の表面を有機高分子材料でコーティングして、透明で線膨張係数が低い複合材料を得ることが記載され、コーティングに用いる材料として、ポリカーボネート樹脂の例示もあるが、この複合材料では、セルロースの物性維持のために、コート層は薄いほうがよいとされている。しかし、コート層の膜厚が薄い複合材料では、耐衝撃性や可撓性といった物性が得られないことが予想される。
【特許文献1】特開2008−24778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層の積層体とすることで、高透明、高弾性、低線膨張係数で、耐衝撃性等の特性のバランスが良好で、生産性も良いコンポジットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層との積層構造とし、セルロース繊維層の厚みに対してポリカーボネート樹脂層の厚みを所定値以上に厚くすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
本発明は以下を要旨とする。
【0008】
[1] ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層とを備える積層体において、セルロース繊維層の厚みに対して、ポリカーボネート樹脂層の厚みが1.4倍以上であるポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体。
【0009】
[2] セルロース繊維層がポリカーボネート樹脂層で挟まれている[1]に記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体。
【0010】
[3] セルロース繊維層を構成するセルロース繊維の平均繊維径が200nm以下である[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体。
【0011】
[4] セルロース繊維層の空隙率が35vol%以下である[1]ないし[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体。
【0012】
[5] セルロース繊維層を構成するセルロース繊維が化学修飾されている[1]ないし[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体。
【0013】
[6] セルロース繊維層とポリカーボネート樹脂層とを積層して加熱融着する工程を有する[1]ないし[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体の製造方法。
【0014】
[7] セルロース繊維層の積層面にプライマー処理を施した後、セルロース繊維層とポリカーボネート樹脂層とを積層して加熱融着する[6]に記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体の製造方法。
【0015】
[8] セルロース繊維の化学修飾を行った後、セルロース繊維層とポリカーボネート樹脂層とを積層して加熱融着する[6]又は[7]に記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体の製造方法。
【0016】
[9] 加熱融着を減圧条件下に行う[6]ないし[8]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来のポリカーボネート樹脂の含浸やコーティングによらず、ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層との積層構造とし、セルロース繊維層の厚みに対してポリカーボネート樹脂層の厚みを所定値以上に厚くすることにより、高透明、高弾性、低線膨張係数で、耐衝撃性等の特性のバランスが良好で、生産性にも優れたコンポジットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体及びその製造方法の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0019】
[ポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体]
本発明のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体は、ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層とを含み、セルロース繊維層の厚みに対して、ポリカーボネート樹脂層の厚みが1.4倍以上であることを特徴とする。
【0020】
{ポリカーボネート樹脂層}
ポリカーボネート樹脂層には、ポリカーボネート樹脂をフイルム状にしたものを用いることができ、ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート系樹脂及び脂肪族(脂環族を含む)ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
【0021】
芳香族ポリカーボネート系樹脂としては、3価以上の多価フェノール類を共重合成分として含有できる1種以上のビスフェノール類と、ビスアルキルカーボネート、ビスアリールカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類との反応により製造される共重合体であり、必要に応じて芳香族ポリエステルカーボネート類とするために共重合成分としてテレフタル酸やイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸又はその誘導体(例えば芳香族ジカルボン酸ジエステルや芳香族ジカルボン酸塩化物)を使用してもよい。
【0022】
前記ビスフェノール類としては、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールM、ビスフェノールP、ビスフェノールS、ビスフェノールZ(略号はアルドリッチ社試薬カタログを参照)等が挙げられ、中でもビスフェノールAとビスフェノールZ(中心炭素がシクロヘキサン環に参加しているもの)が好ましく、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0023】
共重合可能な3価フェノール類としては、1,1,1−(4−ヒドロキシフェニル)エタンやフロログルシノールなどが挙げられる。
【0024】
脂肪族ポリカーボネート系樹脂としては、脂肪族ジオール成分及び/又は脂環式ジオール成分とビスアルキルカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類との反応により製造される共重合体が挙げられる。脂環式ジオールとしては、シクロヘキサンジメタノールやイソソルバイト等が挙げられる。
【0025】
ポリカーボネート樹脂の分子量に特に制限は無く、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定される重量平均分子量Mwが通常10,000〜500,000であることが好ましく、特に機械的物性と溶融流動性の観点から重量平均分子量Mwは好ましくは15,000〜200,000、より好ましくは20,000〜100,000である。
【0026】
また、ポリカーボネート樹脂のガラス転移点Tgは通常120〜190℃であり、耐熱性と溶融流動性の観点から好ましくは130〜180℃、より好ましくは140〜180℃である。
【0027】
ポリカーボネート樹脂は、1種の単独使用でも良く、2種以上をポリマーブレンドとして併用しても良い。
【0028】
本発明のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体のポリカーボネート樹脂層を形成するために用いられるポリカーボネート樹脂フィルムの厚さには特に制限はないが、過度に薄いと、本発明で規定されるポリカーボネート樹脂層/セルロース繊維層の厚み比を満たすことが困難である場合があることから、通常、14μm以上、好ましくは50μm以上で、通常3mm以下、好ましくは1.5mm以下である。
【0029】
{セルロース繊維層}
セルロース繊維層とは、主としてセルロース繊維からなる不織布(以下「セルロース不織布」と称す。)から形成される層であり、セルロース繊維の集合体である。セルロース不織布はセルロース分散液を抄紙又は塗布によって製膜する方法、あるいはゲル状膜を乾燥する方法などによって得られる。
【0030】
<厚み>
セルロース繊維層を形成するセルロース不織布の厚みは特に制限されるものではないが、好ましくは10μm以上1mm以下、さらに好ましくは20μm以上500μm以下、特に好ましくは30μm以上300μm以下である。製造の安定性、強度の点からセルロース不織布の厚みは50μm以上であることが好ましく、生産性、均一性の点から250μm以下であることが好ましい。
なお、このセルロース不織布の厚みは、セルロース不織布の空隙率の説明の項における、セルロース不織布の厚みの測定方法に従って求められる。
【0031】
<繊維径>
セルロース繊維層を形成するセルロース繊維の繊維径は細いことが好ましい。具体的には直径が1500nm以上のものを含んでいないことが好ましく、さらに好ましくは1000nm以上の繊維径のものを含んでいないことが好ましく、特に好ましくは500nm以上の繊維径のものを含んでいないことが好ましい。1500nm以上の繊維径のものを含んでいない不織布であれば、樹脂と複合化した場合、透明性が高く、線膨張係数が低いものが得られる。
なお、セルロース繊維の繊維径はSEM観察により確認することができる。
【0032】
また、SEMより観察されるセルロース不織布のセルロース繊維径は、平均で4〜200nmであることが好ましい。セルロース繊維の平均繊維径が200nmを超えると、可視光の波長に近づき、マトリクス材料との界面で可視光の屈折が生じ易く、透明性が低下するので好ましくない。また、繊維径が4nm未満の繊維は実質的に製造できない。透明性の観点から、セルロース繊維の平均繊維径はより好ましくは4〜100nmである。
【0033】
<繊維長>
セルロース繊維の繊維長さについては特に限定されないが、平均で100nm以上が好ましい。セルロース繊維の平均長さが100nmより短いと、強度が不十分となる恐れがある。
【0034】
<原料>
セルロース不織布の原料としては、針葉樹や広葉樹等の木質、バクテリアの産生するバクテリアセルロース、コットンリンターやコットンリント等のコットン、バロニアやシオグサ等の海草やホヤの被嚢等があげられる。これらの天然セルロースは、結晶性が高いので低線膨張性を示し、好ましい。バクテリアセルロースは微細な繊維径のものが得やすいが、横方向に扁平な結晶構造であることと、分岐した繊維形態を形成するため、光の散乱を生じやすいので好ましくない。また、コットンも微細な繊維径なものが得やすい点で好ましいが、木質と比較して生産量が乏しいため経済的に好ましくない。一方、針葉樹や広葉樹等の木質はミクロフィブリルの径が約4nmと非常に微細であり、分岐のない線状の繊維形態を有する。さらに、地球上で最大量の生物資源であり、年間約700億トン以上ともいわれる量が生産されている持続型資源あることから、地球温暖化に影響する二酸化炭素削減への寄与も大きく、性能的にも経済的にも非常に好ましい。
【0035】
<空隙率>
セルロース不織布は空隙率が、20vol%以下であることがより好ましく、15vol%以下であることが更に好ましく、13vol%以下であることが特に好ましい。
【0036】
セルロース不織布により形成されるセルロース繊維層の空隙率が大きいと、透明性が悪くなり、積層体にしたときに気泡が残るため、その界面で散乱が生じてヘーズが高くなり好ましくない。また、セルロース不織布の空隙率が高いと積層体としたとき、繊維による十分な補強効果が得られず、線膨張係数が大きくなるので、好ましくない。従って、セルロース不織布の空隙率はできるだけ小さいことが好ましい。
【0037】
ここでいう空隙率とは、セルロース不織布中における空隙の体積率を示す。また空隙率は、不織布の面積、厚み、重量から下記式により算出することができる。なお、以下において、空隙率はセルロースの密度を1.5g/cmと仮定して求めている。
空隙率(vol%)={1−B/(1.5×A×t)}×100
ここで、Aは不織布の面積(cm)、tは不織布の厚み(cm)、Bは不織布の重量(g)である。
【0038】
なお、セルロース不織布の厚みは膜厚計(Mitutoyo(株)製 IP65)を用いて、不織布の種々な位置について10点の測定を行い、その平均値で求められる。
また、複合体中のセルロース不織布、即ちセルロース繊維層の空隙率を求める場合は、分光分析や、複合体の断面のSEM観察を画像解析することにより空隙率を求めることもできる。
【0039】
<化学修飾>
セルロース繊維層を形成するセルロース繊維は、化学修飾されたものであってもよい。化学修飾とは、セルロース中の水酸基を化学修飾剤と反応させて官能基を導入したものである。
【0040】
(官能基の種類)
化学修飾によってセルロースに導入させる官能基としては、アセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2−ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、チイラン基、チエタン基等が挙げられる。これらの中では特にアセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基等の炭素数2〜12のアシル基、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。
【0041】
(修飾方法)
修飾方法としては、特に限定されるものではないが、セルロースと次に挙げるような化学修飾剤とを反応させる方法がある。この反応条件についても特に限定されるものではないが、必要に応じて溶媒、触媒等を用いたり、加熱、減圧等を行うこともできる。
【0042】
化学修飾剤の種類としては、酸、酸無水物、アルコール、ハロゲン化試薬、イソシアナート、アルコキシシラン、オキシラン(エポキシ)等の環状エーテルよりなる群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0043】
酸としては、例えば酢酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロパン酸、ブタン酸、2−ブタン酸、ペンタン酸等が挙げられる。
【0044】
酸無水物としては、例えば無水酢酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水プロパン酸、無水ブタン酸、無水2−ブタン酸、無水ペンタン酸等が挙げられる。
【0045】
アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール等が挙げられる。
【0046】
ハロゲン化試薬としては、例えばアセチルハライド、アクリロイルハライド、メタクロイルハライド、プロパノイルハライド、ブタノイルハライド、2−ブタノイルハライド、ペンタノイルハライド、ベンゾイルハライド、ナフトイルハライドが挙げられる。
【0047】
イソシアナートとしては、例えばメチルイソシアナート、エチルイソシアナート、プロピルイソシアナート等が挙げられる。
【0048】
アルコキシシランとしては、例えばメトキシシラン、エトキシシラン等が挙げられる。
【0049】
オキシラン(エポキシ)等の環状エーテルとしては、例えばエチルオキシラン、エチルオキセタンが挙げられる。
【0050】
これらの中では特に無水酢酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、ベンゾイルハライド、ナフトイルハライドが好ましい。
これらの化学修飾剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0051】
(化学修飾率)
以下に定義されるセルロース繊維の化学修飾率はセルロース繊維の全水酸基に対して、8mol%以上であることが好ましく、15mol%以上であることがさらに好ましい。また、化学修飾率はセルロース繊維の全水酸基に対して65mol%以下であることが好ましく、50mol%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
化学修飾率が低すぎると、積層化の処理で加熱した際に着色することがある。また、化学修飾率が低すぎると不織布の親水性が高くなり、吸水率が高くなり好ましくない。一方、化学修飾率が高すぎると、セルロース構造が破壊され結晶性が低下するため、得られる積層体の線膨張係数が大きくなり、好ましくない。
【0053】
<定義>
化学修飾率とは、セルロース中の全水酸基のうちの化学修飾されたものの割合をさし、以下の方法で測定される。
【0054】
<測定方法>
化学修飾率は下記の滴定法によって求めることができる。
セルロース不織布0.05gを精秤しこれにメタノール6mL、蒸留水2mLを添加する。これを60〜70℃で30分攪拌した後、0.05N水酸化ナトリウム水溶液10mLを添加する。これを60〜70℃で15分攪拌しさらに室温で一日攪拌する。ここにフェノールフタレインを用いて0.02N塩酸水溶液で滴定する。
ここで、滴定に要した0.02N塩酸水溶液の量Z(mL)から、化学修飾により導入された置換基のモル数Qは、下記式で求められる。
Q(mol)=0.05(N)×10(mL)/1000
−0.02(N)×Z(mL)/1000
この置換基のモル数Qと、化学修飾率X(mol%)との関係は、以下の式で算出される(セルロース=(C10=(162.14),繰り返し単位1個当たりの水酸基数=3,OHの分子量=17)。なお、以下において、Tは置換基の分子量である。
【数1】

これを解いていくと、以下の通りである。
【数2】

【0055】
<セルロース不織布の製造方法>
セルロース不織布の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば次のようにして製造することができる。
【0056】
不織布の製造に当たっては、セルロース原料を必要に応じて、精製や微細化した後に、そのセルロース分散液(通常はセルロースの水分散液)を濾過又は塗布によって製膜、あるいはゲル状膜を製膜し、製膜後は乾燥して不織布とする。
【0057】
化学修飾については、不織布に製膜してから行ってもよいし、不織布に製膜する前のセルロースに化学修飾を行ってもよいが、前者の方が好ましい。化学修飾が終了した後は水でよく洗浄した後、乾燥することが好ましい。
【0058】
このような不織布の製造方法について更に詳しく説明する。
【0059】
(不織布の製造)
不織布の製造には微細化したセルロース繊維を用いる。
バクテリアセルロースをセルロース原料とする場合、セルロースを産生するバクテリアを培養することによりセルロース繊維を得ることができる。この産生物を培地から取り出し、それを水洗、又はアルカリ処理などしてバクテリアを除去することにより、バクテリアを含まない含水バクテリアセルロースを得ることができる。バクテリアは微細なセルロースを産生するので微細化処理を行うことなく、そのまま用いることができる。
【0060】
針葉樹や広葉樹等の木質、コットンリンターやコットンリント等のコットンは一般的な塩素による漂白法や、酸やアルカリ、各種有機溶剤による抽出などにより精製した後、微細化処理を行い微細化したセルロースを得る。また、バロニアやシオグサ等の海草やホヤの被嚢等も微細化処理を行い微細化したセルロースを得る。
【0061】
セルロースを微細化する分散機としてはブレンダータイプの分散機や高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、マスコマイザーX(増幸産業社製)のような対向衝突型の分散機等を用いることが好ましい。特に、超高圧ホモジナイザーはセルロースを均一に微細化するのに有効である。
【0062】
微細化を行う際のセルロース分散液のセルロース濃度は0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.3重量%以上であることが好ましい。セルロース濃度が低すぎると濾過や塗布するのに時間がかかりすぎる。また、セルロース濃度は10重量%以下、好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下であることが好ましい。セルロース濃度が高すぎると粘度が高くなりすぎたり、均一な微細セルロースが得られなかったりするので好ましくない。
【0063】
濾過によって不織布を得る場合、セルロース分散液の濃度は、0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上であることが好ましい。濃度が低すぎると濾過に膨大な時間がかかるため好ましくない。また、セルロース分散液の濃度は1.5重量%以下、好ましくは1.2重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以下であることが好ましい。濃度が高すぎると均一な不織布が得られないため好ましくない。
【0064】
また、濾過時の濾布としては、微細化したセルロースは通過せずかつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては、有機ポリマーからなる不織布、織物、多孔膜であることが好ましい。有機ポリマーとしてはポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。
具体的には孔径0.1〜5μm、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1〜5μm、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられる。
【0065】
(不織布の化学修飾)
不織布の化学修飾は、上述のように、不織布を製造後、不織布を乾燥した後に行っても、乾燥せずに行っても構わないが、乾燥した後に行った方が化学修飾の反応速度が速くなるため好ましい。乾燥する場合は送風乾燥、減圧乾燥してもよいし、加圧乾燥してもよい。また、加熱しても構わない。この場合の乾燥条件は、後述の乾燥条件と同様の条件を採用することができる。
【0066】
不織布の化学修飾は、通常の方法をとることができる。すなわち、常法に従って、不織布のセルロースと化学修飾剤とを反応させることによって化学修飾を行うことができる。この際、必要に応じて溶媒や触媒を用いたり、加熱、減圧等を行ってもよい。触媒としてはピリジンやトリエチルアミン、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性触媒や、酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることが好ましい。
【0067】
温度条件としては、高すぎるとセルロースの黄変や重合度の低下等が懸念され、低すぎると反応速度が低下することから40〜130℃が好ましい。反応時間は化学修飾剤や化学修飾率にもよるが数分から数十時間である。
【0068】
このようにして化学修飾を行った後は、反応を終結させるために水で十分に洗浄することが好ましい。未反応の化学修飾剤が残留していると、後で着色の原因になったり、ポリカーボネート樹脂フィルムと積層する際に問題になったりするので好ましくない。
【0069】
(乾燥)
セルロース不織布の製造においては、最後に不織布を乾燥するが、乾燥は、送風乾燥、減圧乾燥してもよいし、加圧乾燥してもよい。また、加熱しても構わない。加熱する場合、加熱温度は50℃から250℃が好ましい。加熱温度が低すぎると乾燥が不十分になる可能性があり、加熱温度が高すぎるとセルロースが着色したり、分解したりする可能性がある。加圧する場合は0.01〜5MPaが好ましい。加圧力が低すぎるとセルロース不織布がしわになる可能性があり、加圧力が高すぎるとセルロース不織布が均一に乾燥できず、つぶれたり分解する可能性がある。
【0070】
{積層体}
次に、本発明のポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層とを積層一体化してなる本発明の積層体の物性について説明する。
【0071】
<厚み比>
セルロース繊維層の厚みに対してポリカーボネート樹脂層の厚みが薄いと、積層体の耐衝撃性が不足する。このため、本発明のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体では、ポリカーボネート樹脂層の厚みは、セルロース繊維層の厚みに対して1.4倍以上、好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは1.7倍以上とする。この厚み比の上限は特に限定はないが、ポリカーボネート樹脂層が厚すぎると線膨張係数が大きくなるといった問題点がある。このため、ポリカーボネート樹脂層の厚みは、セルロース繊維層の厚みに対して30倍以下、特に20倍以下とすることが好ましい。
【0072】
なお、本発明において、セルロース繊維層の厚みとは、ポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体を構成するセルロース繊維層の総厚みであり、積層体中に複数のセルロース繊維層を有する場合、セルロース繊維層の厚みとは、この複数のセルロース繊維層の厚みの合計の厚みをさす。同様に、ポリカーボネート樹脂層の厚みについても、ポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体を構成するポリカーボネート樹脂層の総厚みであり、積層体中に複数のポリカーボネート樹脂層を有する場合、ポリカーボネート樹脂層の厚みとは、この複数のポリカーボネート樹脂層の厚みの合計の厚みをさす。
【0073】
本発明の積層体を構成するセルロース繊維層の1層当たりの厚みは、積層体の製造に用いたセルロース不織布の1枚当たりの厚みとほぼ同等である。また、本発明の積層体を構成するポリカーボネート樹脂層の1層当たりの厚みは、当該層を形成するために用いたポリカーボネート樹脂フィルムの厚みに対してほぼ同等である。
【0074】
<層構成>
本発明の積層体の層構成は、ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層とを有するものであれば良く、特に制限はないが、好ましくはポリカーボネート樹脂層でセルロース繊維層を挟んでいる構造である。即ち、ポリカーボネート樹脂層がセルロース繊維層を介して積層されたサンドイッチ構造であることが、耐水性の向上、透明性の向上、機械的特性の向上の点で好ましい。
【0075】
この積層構造はポリカーボネート樹脂層/セルロース繊維層/ポリカーボネート樹脂層の3層積層構造に限らず、ポリカーボネート樹脂層/セルロース繊維層/ポリカーボネート樹脂層/セルロース繊維層/ポリカーボネート樹脂層、或いは更に、ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層とが交互積層され、最外層がポリカーボネート樹脂層となるような積層構造であっても良い。この積層数は、ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層との合計で3〜500層、特に3〜50層であることが好ましい。積層数を多くすることにより高強度となるが、過度に多いと透明性の低下やコスト上実用性がなくなる。いずれの場合も最外層はポリカーボネート樹脂層であることが、耐水性の向上、透明性の向上、機械的特性の向上のために好ましい。
【0076】
なお、本発明の積層体は、ポリカーボネート樹脂とセルロース繊維層以外の層を有していても良いが、通常は、ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層との積層体とされる。
【0077】
<セルロース繊維層比率>
本発明の積層体に占めるセルロース繊維層の含有割合(セルロース繊維の含有割合)は、10重量%以上80重量%以下であり、セルロース繊維層以外の樹脂、即ちポリカーボネート樹脂の含有割合が20重量%以上90重量%以下であることが好ましい。より好ましい範囲はセルロース繊維層の含有割合が15重量%以上70重量%以下であり、セルロース以外の樹脂の含有割合が30重量%以上85重量%以下であり、さらに好ましい範囲はセルロース繊維層の含有割合が20重量%以上60重量%以下であり、セルロース以外の樹脂の含有割合が40重量%以上80重量%以下である。ここで樹脂又はセルロース繊維の含有割合は、積層化前のセルロース繊維層の重量と積層化後の積層体の重量より求めることができる。また、積層体を樹脂が可溶な溶媒に浸漬し樹脂のみを取り除き残ったセルロース繊維の重量から求めることもできる。その他、樹脂の比重から求める方法や、NMR、IRを用いて樹脂やセルロースの官能基を定量して求める方法がある。
【0078】
<厚み>
本発明の積層体の厚み(総厚み)は、好ましくは20μm以上10cm以下である。このような厚みの積層体にすることで、強度を保つことができる。積層体の厚みはより好ましくは50μm以上6cm以下であり、さらに好ましくは80μm以上、5cm以下である。
【0079】
<ヘーズ>
本発明の積層体は、セルロース繊維層に、可視光の波長よりも細い繊維径のセルロース繊維を用いることにより、透明性の高い、すなわちヘーズの低い積層体とすることができる。
この場合、積層体の厚み50μmでのヘーズ値(50μm厚ヘーズ)としては20以下であることが好ましく、10以下であることがさらに好ましく、1以下であることが各種透明材料として用いる場合に好ましい。
【0080】
積層体のヘーズの測定は例えばスガ試験機製ヘーズメータで測定することができ、C光の値を用いる。
【0081】
<全光線透過率>
本発明の積層体の厚み50μmでの全光線透過率(50μm厚全光線透過率)は60%以上、特に70%以上、とりわけ80%以上、なかでも90%以上であることが好ましい。50μm厚全光線透過率が60%未満であると積層体が半透明又は不透明となり、透明性が要求される用途への使用が困難となる場合がある。
【0082】
積層体の全光線透過率は例えば、スガ試験機製ヘーズメータを用いて測定することができ、C光を値を用いる。
【0083】
<線膨張係数>
本発明の積層体は、線膨張係数の低い積層体である。本発明の積層体の線膨張係数は1〜50ppm/Kであることが好ましく、40ppm/K以下であることがさらに好ましく、35ppm/K以下であることが特に好ましい。積層体の線膨張係数が50ppm/Kを超えると、低線膨張係数のコンポジットを提供するという本発明の目的を達成し得ない。
なお、積層体の線膨張係数は、後述の実施例の項に記載される方法により測定される。
【0084】
<空隙率>
本発明の積層体のセルロース繊維層部分の空隙は、積層体にしても、基本的にはセルロース繊維層の形成に用いたセルロース不織布の空隙が保たれている。よって、本発明の積層体のセルロース繊維層の空隙率は20vol%以下であることがより好ましく、15vol%以下であることが更に好ましい。13vol%以下であることが特に好ましい。
積層体中のセルロース繊維層の空隙率は、前述の如く、例えば分光分析や、積層体の断面のSEM観察やTEM観察の画像解析によって測定することができるが、用いた積層体の製造に用いたセルロース不織布の空隙率と同等である。
【0085】
<曲げ強度>
本発明の積層体の曲げ強度は、好ましくは40MPa以上であり、より好ましくは100MPa以上である。曲げ強度が40MPaより低いと、十分な強度が得られず、構造材料等、力の加わる用途への使用に影響を与えることがある。
なお、積層体の曲げ強度は、JIS規格K7171に準拠して、後述の実施例の項に記載される方法に従って測定される。
【0086】
<曲げ弾性率>
本発明の積層体の曲げ弾性率は、好ましくは0.2〜100GPaであり、より好ましくは、1〜50GPaである。曲げ弾性率が0.2GPaより低いと、十分な強度が得られず、構造材料等、力の加わる用途への使用に影響を与えることがある。
なお、積層体の曲げ弾性率は、JIS規格K7171に準拠して、後述の実施例の項に記載される方法に従って測定される。
【0087】
<破壊ひずみ>
本発明の積層体の曲げ破壊ひずみは、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは、1%以上である。曲げ破壊ひずみは高ければ高い程良いが通常は20%以下である。
なお、積層体の曲げ破壊ひずみは、JIS規格K7171に準拠して、後述の実施例の項に記載される方法に従って測定される。
【0088】
<貯蔵弾性率E’>
本発明の積層体の貯蔵弾性率E’は、好ましくは2.6〜20GPa、特に3.0〜15GPaである。貯蔵弾性率E’が2.6GPaより低いとポリカーボネート樹脂層単体と同等の貯蔵弾性率E’となり、機械的特性として十分な効果が得られない。この貯蔵弾性率E’は高ければ高い程良いが、通常、その上限は、セルロース不織布の貯蔵弾性率E’である20GPa以下である。
なお、積層体の貯蔵弾性率E’は、JIS K7198に準拠して、後述の実施例の項に記載される方法に従って測定される。
【0089】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体の製造方法には特に制限はないが、好ましくは、本発明の製造方法に従って、前述のポリカーボネート樹脂フィルムとセルロース不織布を用い、これを所定の積層構造に積層して加熱融着することにより製造される。
【0090】
この加熱融着に当っては、加圧しても良く、また減圧条件下で加熱融着を行っても良い。
加熱融着時の加熱温度としては、低過ぎるとポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層との密着性が不足し、高過ぎるとポリカーボネート樹脂層やセルロース繊維層が熱劣化する恐れがあるため、180〜300℃、特に200〜250℃とすることが好ましい。
【0091】
また、加圧力についても低過ぎるとポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層との密着性が不足し、高過ぎると積層体の厚みが減少する恐れがあるため、0.01〜5MPa、特に0.05〜3MPaとすることが好ましい。
【0092】
また、この加熱融着時の雰囲気を真空ないし減圧条件とすることにより、気泡の入らない積層体が作成できるという効果が奏され、好ましい。この場合の減圧条件としては、真空度2hPa以下であることが好ましい。
【0093】
加熱融着の具体的方法としては、熱プレス成形、インサート射出成形等の射出成形、共押出や押出コーティング等の押出成形が挙げられる。
【0094】
より具体的な熱プレス成形の方法としては、ポリカーボネート樹脂フィルムとセルロース不織布との加熱融着は、真空ヒータプレス機(ミカドテクノス株式会社製)等を用いて、真空度1.7hPa以下に到達した後、1〜30分間程度180〜250℃で予熱し、その後、0.1〜5MPaで20秒〜5分程度加圧して行われる。
【0095】
なお、ポリカーボネート樹脂フィルムとセルロース不織布との加熱融着に先立ち、セルロース不織布表面をプライマー処理しても良い。このプライマー処理としては、アクリルプライマー等のプライマー処理液をセルロース不織布のポリカーボネート樹脂フィルムとの積層面に塗布する方法、セルロース不織布をこのようなプライマー処理液に浸漬して液を含浸させる方法などが挙げられる。
【0096】
更に、ポリカーボネート樹脂フィルムとセルロース不織布とを加熱融着するに先立ち、セルロース不織布のセルロース繊維を表面処理しても良く、この表面処理としては、次のようなものが挙げられる。
【0097】
[用途]
ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層とを含む本発明の積層体は、その透明性が、強度、低吸水性、低着色性、低線膨張性、高弾性、高強度等の特性を生かして、後述する各種の用途に適用可能であるが、その用途によっては、更に他の部材を積層したり、他の層を積層したり、各種の処理を施しても良く、例えば窓材としての用途において、必要に応じてフッ素皮膜、ハードコート膜等の膜や耐衝撃性、耐光性の素材を積層してもよい。
【実施例】
【0098】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0099】
[評価方法]
以下の実施例及び比較例で作製した試料の物性等は、下記の評価方法及び測定方法により行った。
【0100】
<ポリセルロース不織布の化学修飾率>
化学修飾率は下記の方法により求めた。
セルロース不織布0.05gを精秤し、これにメタノール6mL、蒸留水2mLを添加した。これを60〜70℃で30分攪拌した後、0.05N水酸化ナトリウム水溶液10mLを添加した。これを60〜70℃で15分攪拌し、さらに室温で一日攪拌した。ここにフェノールフタレインを用いて0.02N塩酸水溶液で滴定した。
ここで、滴定に要した0.02N塩酸水溶液の量Z(ml)から、化学修飾により導入された置換基のモル数Qは、下記式で求められる。
Q(mol)=0.05(N)×10(ml)/1000
−0.02(N)×Z(ml)/1000
この置換基のモル数Qと、化学修飾率X(mol%)との関係は、以下の式で算出される(セルロース=(C10=(162.14),繰り返し単位1個当たりの水酸基数=3,OHの分子量=17)。なお、以下において、Tは置換基の分子量である。
【数3】

これを解いていくと、以下の通りである。
【数4】

【0101】
<セルロース不織布の厚み>
セルロース不織布の厚みは膜厚計(Mitutoyo(株)製 IP65)を用いて、不織布の種々な位置について10点の測定を行い、その平均値で求めた。
【0102】
<セルロース不織布の空隙率>
セルロース不織布の空隙率は、不織布の面積、厚み、重量から下記式により算出した。なお、以下において、空隙率はセルロースの密度を1.5g/cmと仮定して求めている。
空隙率(vol%)={1−B/(1.5×A×t)}×100
ここで、Aは不織布の面積(cm)、tは不織布の厚み(cm)、Bは不織布の重量(g)である。
【0103】
<積層体のヘーズ>
JIS規格K7136に準拠し、スガ試験機製ヘーズメータを用いてC光によるヘーズ値を測定した。
【0104】
<積層体の全光線透過率>
JIS規格K7105に準拠し、スガ試験機製ヘーズメータを用いてC光による全光線透過率を測定した。
【0105】
<積層体の線膨張係数>
積層体をレーザーカッターにより、3mm幅×30mm長に切断した。これを、SII製TMA120を用いて引っ張りモードでチャック間20mm、荷重10g、窒素雰囲気下、室温から120℃まで5℃/分で昇温、120℃から25℃まで5℃/分で降温、25℃から120℃まで5℃/分で昇温した際の2度目の昇温時の60℃から100℃の測定値から線膨張係数を求めた。
【0106】
<積層体の曲げ弾性率・曲げ強度・破壊ひずみ>
積層体をレーザーカッターにより、25mm幅×40mm長に切断した。これを、JIS規格K7171に準拠し、支点間距離20mm、試験速度1mm/分で試験を行い、測定値より曲げ弾性率、曲げ強度、破壊ひずみを求めた。
【0107】
<積層体の貯蔵弾性率E’>
積層体をレーザーカッターにより、5mm幅×40mm長に切断した。これをSII製DMS6100を用いて引張モードでチャック間20mm、周波数1Hz、10Hz、張力条件の歪振幅10、窒素雰囲気下、−10℃から50℃まで昇温した際の23℃付近の測定値から貯蔵弾性率E’を求めた。
【0108】
<積層体の厚み>
積層体の総厚は、膜厚計(Mitutoyo(株)製IP165)を用いて積層体の種々な位置について10点の測定を行い、その平均値で求めた。また、積層体を構成する各層の厚み比は、積層化する前に各々の厚みを総厚測定と同様の方法で求め、それから厚み比を算出した。
【0109】
[製造例1:セルロース不織布前駆溶液の調製]
米松木粉((株)宮下木材)を炭酸ナトリウム2重量%水溶液で80℃にて6時間脱脂した。脱塩水で洗浄した後、0.66重量%の亜塩素酸ナトリウム及び0.14重量%の酢酸水溶液に80℃にて5時間浸漬してリグニン除去を行った。脱塩水洗浄した後濾過し、回収した精製セルロースを脱塩水で洗浄後、5重量%の水酸化カリウム水溶液に16時間浸漬してヘミセルロース除去を行った。脱塩水洗浄した後に、0.5重量%の水懸濁液とし、超高圧ホモジナイザー(アルティマイザー;スギノマシーン社製)で微細化処理を行ってセルロース分散液を得た。処理条件は圧力245MPaで、10回行った。
【0110】
[実施例1]
製造例1で得られたセルロース分散液を0.14重量%の濃度に水で希釈し、孔径1μmのPTFEを用いた120mm径の濾過器に800g投入した。120℃、1MPaで5分間プレス乾燥してセルロース不織布を得た。このセルロース不織布を構成するセルロース繊維の平均繊維径は10nmであった。
このセルロース不織布を200mLの無水酢酸に含浸して60℃にて7時間加熱した。その後、蒸留水でよく洗浄し、120℃、1MPaで5分間プレス乾燥して厚み83μmのアセチル化セルロース不織布を得た。この不織布の化学修飾率は17mol%であった。また空隙率は13vol%であった。
【0111】
この不織布を、2枚のポリカーボネート樹脂フィルム(ユーピロン:三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、厚み100μm)の間に挟み、真空ヒータプレス機(ミカドテクノス株式会社製)を用いて真空度1.7hPaに到達した後、10分間、210℃で予熱し、その後、1分間、10KN(加圧面:150×150mm)で加圧して積層体を作製した。
得られた積層体の評価結果を表1に示す。なお、この積層体のセルロース繊維含有割合は31重量%であった。
【0112】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で作製したアセチル化セルロース不織布に、アクリルプライマー液を含浸させ、一晩風乾させた後、実施例1と同様に2枚のポリカーボネート樹脂フイルム(ユーピロン:三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、厚み100μm)の間に挟み、同様の条件で加熱融着して積層体を作製した。
得られた積層体の評価結果を表1に示す。
【0113】
[比較例1]
製造例1で得られたセルロース分散液を0.14重量%の濃度に水で希釈し、孔径1μmのPTFEを用いた120mm径の濾過器に800g投入し、固形分が約5重量%になったところで2−プロパノールを投入して水と置換した。その後、120℃、2MPaで5分間プレス乾燥してセルロース不織布を得た。
このセルロース不織布を200mLの無水酢酸に含浸して60℃にて7時間加熱した。その後、蒸留水でよく洗浄し、120℃、1MPaで5分間プレス乾燥して厚み54μmのアセチル化セルロース不織布を得た。この不織布の化学修飾率は17mol%であった。また空隙率は39vol%であった。
【0114】
このアセチル化セルロース不織布を、ポリカーボネート樹脂(ノバレックス7020AD2:三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)をジクロロメタン(試薬特級、純正化学株式会社製)に10重量%濃度で溶解させた溶液に不織布面を溶液面に対して垂直にして4回ディップした。ディップ時間は5秒で、ディップ間隔は5分であった。その後、3時間風乾した後、160℃で一晩真空乾燥機させた後、真空ヒータプレス機(ミカドテクノス株式会社製)を用いて真空度1.7hPaに到達した後、10分間、210℃で予熱し、その後1分間、10KN(加圧面:150×150mm)で加圧して両面ポリカーボネート樹脂コートセルロース不織布を作製した。
【0115】
なお、この方法はセルロース不織布の空隙にポリカーボネート溶液を含浸させる方法であり生産性が悪い。
得られたポリカーボネート樹脂含浸セルロース不織布の評価結果を表1に示す。
【0116】
このポリカーボネート樹脂含浸セルロース不織布は、厚み54μmのセルロース不織布に、ポリカーボネート樹脂が含浸された総厚100μmのものである。
【0117】
【表1】

【0118】
[実施例3]
製造例1で得られたセルロース分散液を0.13重量%濃度に水で希釈し、孔径1μmのPTFEを用いた300mm径の濾過器に4043g投入し、120℃、1MPaで5分間プレス乾燥してセルロース不織布を得た。
このセルロース不織布を3000mLの無水酢酸に含浸して60℃にて7時間加熱した。その後、蒸留水でよく洗浄し、120℃、1MPaで5分間プレス乾燥して厚み65μmのアセチル化セルロース不織布を得た。この不織布の化学修飾率は17mol%であった。また空隙率は13vol%であった。
【0119】
このアセチル化セルロース不織布を、50mm×100mm角の大きさ5枚に切断し、この不織布に、アクリルプライマー液を含浸させ一晩風乾させた後、6枚のポリカーボネート樹脂フイルム(ユーピロン:三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、厚み100μm)の間に交互に挟み、実施例1と同様の条件で加熱融着して積層体を作製した。
得られた積層体の評価結果を表2に示す。
【0120】
[実施例4]
実施例3において300mm径の濾過器にセルロース分散液を4959g投入したこと以外は同様にしてセルロース不織布を得、同様にアセチル化、ポリカーボネート樹脂フィルムとの加熱融着を行って積層体を作製した。なお、得られたアセチル化セルロース不織布の厚みは82μmであり化学修飾率は17mol%、空隙率は13vol%であった。
得られた積層体の評価結果を表2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
表1,2より、本発明によれば、高透明、高弾性、低線膨張係数で、耐衝撃性等の特性のバランスが良好なコンポジットを、高い生産性で提供することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層とを含む本発明の積層体は、透明性が高く、高強度、低吸水性、低着色、低線膨張係数でヘーズの小さい積層体を実現することができ、光学特性に優れるため、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイや基板、パネルとして好適である。また、シリコン系太陽電池、色素増感太陽電池などの太陽電池用基板に好適である。また、自動車用の窓材、鉄道車両用の窓材、住宅用の窓材、オフィスや工場などの窓材などに好適に用いることができる。
【0124】
更に本発明の積層体は、低線膨張係数、高弾性、高強度等の特性を生かして透明材料用途以外の構造材料としても用いることができる。特に、グレージング、内装材、外板、バンパー等の自動車材料やパソコンの筐体、家電部品、包装用資材、建築資材、土木資材、水産資材、その他工業用資材等として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂層とセルロース繊維層とを備える積層体において、セルロース繊維層の厚みに対して、ポリカーボネート樹脂層の厚みが1.4倍以上であるポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体。
【請求項2】
セルロース繊維層がポリカーボネート樹脂層で挟まれている請求項1に記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体。
【請求項3】
セルロース繊維層を構成するセルロース繊維の平均繊維径が200nm以下である請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体。
【請求項4】
セルロース繊維層の空隙率が35vol%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体。
【請求項5】
セルロース繊維層を構成するセルロース繊維が化学修飾されている請求項1ないし4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体。
【請求項6】
セルロース繊維層とポリカーボネート樹脂層とを積層して加熱融着する工程を有する請求項1ないし5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体の製造方法。
【請求項7】
セルロース繊維層の積層面にプライマー処理を施した後、セルロース繊維層とポリカーボネート樹脂層とを積層して加熱融着する請求項6に記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体の製造方法。
【請求項8】
セルロース繊維の化学修飾を行った後、セルロース繊維層とポリカーボネート樹脂層とを積層して加熱融着する請求項6又は7に記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体の製造方法。
【請求項9】
加熱融着を減圧条件下に行う請求項6ないし8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂/セルロース繊維積層体の製造方法。

【公開番号】特開2010−23275(P2010−23275A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185010(P2008−185010)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】