説明

ポリカーボネート製造用エステル交換触媒、その製造方法及びポリカーボネートとその製造方法

【課題】水などの溶媒に溶解又は分散することなく、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの反応系にエステル交換触媒として直接導入して使用でき、透明性・色相に優れたポリカーボネート製造用エステル交換触媒の提供。
【解決手段】下記式(1)で表されるポリカーボネート製造用エステル交換触媒。
【化1】


(式(1)中、符号Rはフェノキシ基、フェニル基またはブトキシ基を表し、Rはフェニル基またはブチル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル交換法によりポリカーボネートを製造する際に使用する新規な触媒、その製造方法及びポリカーボネートの製造方法に関する。更に詳しくはエステル交換法を用いて、色相など品質に優れたポリカーボネートを製造するのに好適な難燃性付与効果のあるエステル交換触媒、その製造方法及び本発明の新規な触媒を使用するポリカーボネートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、耐衝撃性、機械的特性、耐熱性、透明性などに優れており、清涼飲料水用ボトル、電子基板、光学材料などの広範な分野で用いられている。
このようなポリカーボネートを製造する方法としては、ビスフェノールAなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとを直接反応させる方法(界面法)、あるいはビスフェノールAなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステルをエステル交換させ、副生するフェノールを迅速且つ完全に除去してポリカーボネートを合成する方法(溶融法)が知られている(特許文献1)。
【0003】
このような製造方法のうち、エステル交換反応によってポリカーボネートを製造する溶融法は、有害なホスゲンやメチレンクロライドを使用しないため、環境面からは優しい方法であり、また、コスト的にも界面法を稜駕する可能性があり注目されている。
【0004】
このエステル交換反応は、エステル交換触媒の存在下で進行するが、使用するエステル交換触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、含窒素塩基性化合物が知られている(特許文献2、特許文献3)。
しかしながら、特許文献2及び特許文献3に開示されているエステル交換触媒は、反応系に直接導入しても溶解しないものが多く、これらは使用する場合、一旦、水などの溶媒に溶解又は分散させた形にして反応系に導入する方法を採らなければならないと云う問題がある。
また反応系に直接導入して使用できるエステル交換触媒については、これを使用して得られるポリカーボネートの透明性・色相に優れないと云う問題がある。
このように、反応系に直接導入出来て、しかも透明性・色相に優れたポリカーボネートを得るためのエステル交換触媒は現時点では未だ存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭52−36159号公報
【特許文献2】特開平11−310631号公報
【特許文献3】特開2000−34344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エステル交換触媒を、水などの溶媒に溶解又は分散してから反応系に導入する方法は、触媒を溶解又は分散する工程が必要となる。樹脂合成において工程は少ない方が好ましく、反応系に直接導入して使用でき、得られるポリカーボネートの透明性・色相に優れるエステル交換触媒の開発が切望されているのが現状である。
【0007】
本発明の課題は、反応によって得られるポリカーボネートが透明性・色相に優れ、併せてポリカーボネートの燃焼時のドリップ(樹脂が液状になって、燃えながら滴る現象)防止効果を付与することができ、しかも水などの溶媒に溶解又は分散することなく、反応系に直接導入してエステル交換触媒として使用できる触媒を提供すること、その触媒の製造方法を提供すること、及びこの触媒を使用したポリカーボネートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するため、本発明は、下記式(1)で表されるポリカーボネート製造用エステル交換触媒を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、符号Rはフェノキシ基、フェニル基またはブトキシ基を表し、Rはフェニル基またはブチル基を表す。)
【0011】
本発明の前記ポリカーボネート製造用エステル交換触媒としては、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【0012】
【化2】

【0013】
本発明の前記ポリカーボネート製造用エステル交換触媒としては、下記式(3)で表される化合物が好ましい。
【0014】
【化3】

【0015】
本発明の前記ポリカーボネート製造用エステル交換触媒としては、下記式(4)で表される化合物が好ましい。
【0016】
【化4】

【0017】
また本発明は、ジクロルフェニルホスフィンとフェノールを、塩化マグネシウムを触媒として反応させてホスホン酸ジフェニルベンゼンを製造し、次いで得られたホスホン酸ジフェニルベンゼンと水酸化カリウムを反応させ、前記式(2)で表される化合物を得ることを特徴とするポリカーボネート製造用エステル交換触媒の製造方法を提供する。
【0018】
また本発明は、リン酸ジフェニルと水酸化カリウムを反応させ、式(3)で表される化合物を得ることを特徴とするポリカーボネート製造用エステル交換触媒の製造方法を提供する。
【0019】
また本発明は、リン酸ジブチルと水酸化カリウムを反応させ、式(4)で表される化合物を得ることを特徴とするポリカーボネート製造用エステル交換触媒の製造方法を提供する。
【0020】
また本発明は、エステル交換法により芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換触媒の存在下で反応させてポリカーボネートを製造する方法において、
前記エステル交換触媒として請求項2〜4のいずれか1項に記載のエステル交換触媒を使用することを特徴とするポリカーボネートの製造方法を提供する。
【0021】
また本発明は、エステル交換法により芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換触媒の存在下で反応させてポリカーボネートを製造する方法において、
前記エステル交換触媒として下記式(5)
【0022】
【化5】

【0023】
で表される化合物を使用することを特徴とするポリカーボネートの製造方法を提供する。
【0024】
また本発明は、前述したポリカーボネートの製造方法により得られたポリカーボネート樹脂に、非ハロゲン系難燃剤を配合してなるポリカーボネート樹脂を提供する。
【発明の効果】
【0025】
前記の化合物(2)〜(5)は、水などの溶媒に溶解又は分散することなく、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの反応系にエステル交換触媒として直接導入して使用でき、反応によって得られるポリカーボネートは透明性・色相に優れ、併せてドリップ防止の付与効果を有する。なお、化合物(2)〜(5)が有する難燃性付与効果は、それ自体の添加によってUL94規格の燃焼試験におけるV−0を達成し得るものではないが、V−0を達成するために必要とする他の難燃剤の添加量の軽減に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】式(2)の化合物の赤外線吸収スペクトログラムである。
【図2】式(3)の化合物の赤外線吸収スペクトログラムである。
【図3】式(4)の化合物の赤外線吸収スペクトログラムである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[ポリカーボネート製造用エステル交換触媒]
本発明のポリカーボネート製造用エステル交換触媒は、前記式(1)で表される化合物(ただし、式(1)中、符号Rはフェノキシ基、フェニル基またはブトキシ基を表し、Rはフェニル基またはブチル基を表す。)からなる。
【0028】
前記式(1)で表される化合物は、エステル交換法により芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換触媒の存在下で反応させてポリカーボネートを製造する際のエステル交換触媒として利用可能な触媒活性を有している。
また前記化合物は、前記ポリカーボネートの製造における反応系に直接導入して使用できる。これにより得られるポリカーボネートは、透明性・色相に優れたものとなる。
【0029】
前記式(1)で表される化合物のうち、本発明のポリカーボネート製造用エステル交換触媒として、特に好ましい化合物は、前記式(2)〜式(4)で表される化合物である。
さらに、本発明のポリカーボネートの製造方法では、エステル交換触媒として、前記式(5)で表される化合物を用いることもできる。
【0030】
[ポリカーボネート製造用エステル交換触媒の製造方法]
[製造方法1]
本発明の式(2)で示されるポリカーボネート製造用エステル交換触媒(ホスホン酸フェニルベンゼンK塩)は、以下の合成法によって製造することができる。
【0031】
(ホスホン酸ジフェニルベンゼンの合成)
100mLの反応釜に、ジクロルフェニルホスフィン(a)39.0g(200mmol)、フェノール(b)37.6g(400mmol)、及び塩化マグネシウム0.0327gを仕込んだ。
これらを90℃付近で反応させ、反応の進行とともに90℃から徐々に昇温していき最終的には150℃で反応させた。反応時に発生する塩酸は窒素パージで随時系外に出すようにした。反応は5時間かけて行った。
反応液をトルエン40gで希釈した。希釈した反応液を30%塩化水素水溶液10gで2回洗浄した。
更に48%水酸化ナトリウム水溶液でpH=7になるまで中和した後、精製水10gで水洗し、104〜122℃で共沸脱水した。更に熱濾過を行い、不純物を除去した。
90℃から徐冷し、31℃で結晶核を入れ、17℃まで晶析を行った。減圧濾過を行い、白色固体であるホスホン酸ジフェニルベンゼン(c)25.1g(81mmol)を得た。
以上の反応を化学反応式で示すと下記式(6)の通りである。
【0032】
【化6】

【0033】
(ホスホン酸フェニルベンゼンカリウム塩の合成)
50mlビーカーに、ホスホン酸ジフェニルベンゼン(c)1.0g(3.2mmol)、精製水25g、ジオキサン10gを仕込んだ。95℃まで昇温してから、pH=7になるまで2%水酸カリウム水溶液(KOH)を少しずつ滴下した。
反応液をトルエン10gで2回洗浄し、分液で油層を除去した。分液で得られた水層を50mlナスフラスコに移してエバポレーターを用いて50℃で減圧乾燥し、白色固体であるホスホン酸ジフェニルベンゼンカリウム塩(d)0.8gを得た。このもののIR分析(図1)、H−NMR分析及び元素分析(表1)の結果から、本品はホスホン酸フェニルベンゼンカリウム塩であることが確認された。
【0034】
【表1】

【0035】
以上の反応を化学反応式で示すと下記式(7)の通りである。
【0036】
【化7】

【0037】
[製造方法2]
本発明の式(3)で示されるポリカーボネート製造用エステル交換触媒(リン酸ジフェニルカリウム塩)は、以下の反応によって製造することができる。
【0038】
50mlビーカーに、水酸化カリウム1.0g(18mmol)を量りとり、精製水24.0gを加え溶解させた。このとき、水溶液のpHは、約11であった。
水酸化カリウム水溶液にリン酸ジフェニル(e)4.5g(18mmol)を少しずつ添加していき、水溶液のpHがpH=7になったところで反応の終点とした。
次いで、この反応水溶液を濾紙に通して自然濾過を行い、水に不溶の不純物を除去した。ろ液を50mlナスフラスコに移してエバポレーターを用いて40℃で減圧乾燥し、白色固体であるリン酸ジフェニルカリウム塩(f)4.5g(1.6mmol)を得た。このもののIR分析(図2)、H−NMR分析及び元素分析(表2)の結果から、本品はリン酸ジフェニルカリウム塩であることが確認された。
【0039】
【表2】

【0040】
以上の反応を化学反応式で示すと下記式(8)の通りである。
【0041】
【化8】

【0042】
[製造方法3]
本発明の式(4)で示されるポリカーボネート製造用エステル交換触媒(リン酸ジブチルカリウム塩)は、以下の反応によって製造することができる。
【0043】
50mlビーカーに、水酸化カリウム0.5g(9mmol)を量りとり、精製水20gを加え溶解させた。ここで、水溶液のpHは約13.3であった。
この水酸化カリウム水溶液にリン酸ジブチル(g)1.9g(9mmol)を少しずつ添加して60℃まで昇温していき、水溶液のpHがpH=7になったところで反応の終点とした。
次いで、この反応水溶液を熱濾過を行い、水に不溶の不純物を除去した。ろ液を50mlナスフラスコに移してエバポレーターを用いて40℃で減圧乾燥し、白色固体であるリン酸ジブチルカリウム塩(h)1.8g(7.3mmol)を得た。このもののIR分析(図3)、H−NMR分析及び元素分析(表3)の結果から、本品はリン酸ジブチルカリウム塩であることが確認された。
【0044】
【表3】

【0045】
以上の反応を化学反応式で示すと下記式(9)の通りである。
【0046】
【化9】

【0047】
[製造方法4]
前記式(5)で示されるポリカーボネート製造用エステル交換触媒(CA−K塩)は、以下の合成法によって製造することができる。
【0048】
50mlビーカーに、水酸化カリウム(KOH)0.24g(4.3mmol)を量りとり、精製水20.0gを加え溶解させた。このとき、水溶液のpHは約12であった。
この水酸化カリウム水溶液に9,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(CA;(i))を常温下、回転子で攪拌しながら少しずつ添加して反応させ、水溶液のpHがpH=7になったところで反応の終点とした。
次いで、この反応水溶液を濾紙に通して自然濾過を行い、水に不溶の不純物を除去した。ろ液をエバポレーターを用いて70℃で減圧乾燥し、白色固体のCA−K塩(h)1.0g(3.7mmol)を得た。
以上の反応を化学反応式で示すと下記式(10)の通りである。
【0049】
【化10】

【0050】
[ポリカーボネートの製造方法]
本発明に係るポリカーボネートの製造方法は、エステル交換法により芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換触媒の存在下で反応させてポリカーボネートを製造する方法において、エステル交換触媒として式(2)〜式(5)のエステル交換触媒を使用することを特徴としている。
【0051】
前記式(2)〜式(5)のエステル交換触媒を使用して、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換させてポリカーボネートを製造する際に使用する設備およびプロセスには特に制限はなく、従来知られている設備やプロセスが使用できる。
【0052】
本発明において、ポリカーボネートとは、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを主として含む混合物を、本発明のエステル交換触媒の存在下、溶融重縮合させた芳香族ポリカーボネートのことを指している。
【0053】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的にはビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキサイド、ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)オキサイド、p,p’−ジヒドロキシジフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、レゾルシノール、ハイドロキノン、1,4−ジヒドロキシ−2,5−ジクロロベンゼン、1,4−ジヒドロキシ−3−メチルベンゼン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられるが、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0054】
炭酸ジエステルとしては、具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が用いられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0055】
芳香族ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルのモル比は、通常0.8〜1.7の範囲であり、1.01〜1.5の範囲が好ましく、1.015〜1.2の範囲が更に好ましい。
【0056】
本発明に係るポリカーボネートの製造方法において、前述した各原料は、少なくとも加熱保温手段及び撹拌手段とを備えた反応容器内に、前述したような質量比となるように計量・投入し、エステル交換反応を行うことが好ましい。このエステル交換反応は、単独の反応容器内で行ってもよいし、複数の反応容器を用意して内容物を順次移動させながら段階的に反応を進行させるようにしてもよい。またこの反応時、反応容器の温度は、反応により副生するモノヒドロキシ化合物を反応系外に蒸発除去させることができる温度に加熱保温しておくことが好ましい。さらに、前記反応は、常圧下で実施しても良いし、減圧下で実施してもよい。
【0057】
本発明のエステル交換触媒は、使用に際して、従来公知の触媒と異なり、水などの溶媒に溶解又は分散することなく、反応系に直接導入して使用できるという特徴があり、その使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、例えば10−9〜10−1モル、好ましくは10−8〜10−2モル程度である。なお、該エステル交換触媒は、芳香族ジヒドロキシ化合物または炭酸ジエステルと混合した状態で投入してもよいし、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルと別個に反応容器内に投入してもよい。
【0058】
前記エステル交換反応が進行し、生成したポリカーボネートの含有量が上昇するのに伴って、反応系の混合物の粘度が著しく上昇する。このため、反応系の混合物を撹拌手段で撹拌しつつ、反応系の温度を上昇させて該反応を継続させる。前記エステル交換反応完了後、得られたポリカーボネートを反応容器から取り出す。
【0059】
本発明の製造方法で得られたポリカーボネートには、触媒失活剤を添加することもできる。触媒失活剤としては、公知の触媒失活剤が有効に使用されるが、この中でもスルホン酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が好ましく、更にドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のドデシルベンゼンスルホン酸の塩類が好ましい。
【0060】
この触媒失活剤の使用量は、前記エステル交換触媒1モル当たり0.5〜50モルの割合が好ましく、0.8〜5モルの割合がより好ましい。これらの触媒失活剤は直接、または適当な溶剤に溶解または分散させて溶融状態のポリカーボネートに添加、混練する。
【0061】
また、本発明の製造方法により得られたポリカーボネートには、本発明の目的を損なわない範囲で添加剤を添加することができる。この添加剤は触媒失活剤と同様に溶融状態のポリカーボネートに添加することが好ましく、このような添加剤としては、例えば、難燃剤、耐熱安定剤、エポキシ化合物、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、滑剤、有機充填剤、無機充填剤等を挙げることができる。
【0062】
これらの添加剤の内でも、難燃剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等が特に一般的に使用され、これらは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0063】
本発明に用いられる難燃剤としては、有機難燃剤、無機難燃剤が挙げられ特に限定されないが、リン酸系難燃剤などの非ハロゲン系難燃剤を用いることが好ましい。このような非ハロゲン系難燃剤の中でも、10−ベンジル−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(BCA)が特に好ましい。
【0064】
本発明に用いられる耐熱安定剤としては、例えば、燐化合物、フェノール系安定剤、有機チオエーテル系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等を挙げることができる。
【0065】
また、紫外線吸収剤としては、一般的な紫外線吸収剤が用いられ、例えば、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0066】
また離型剤としては一般的に知られた離型剤を用いることができ、例えば、パラフィン類などの炭化水素系離型剤、ステアリン酸等の脂肪酸系離型剤、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド系離型剤、ステアリルアルコール、ペンタエリスリトール等のアルコール系離型剤、グリセリンモノステアレート等の脂肪酸エステル系離型剤、シリコーンオイル等のシリコーン系離型剤等を挙げることができる。
【0067】
着色剤としては有機系や無機系の顔料や染料を使用することができる。
【0068】
これらの添加剤の添加方法に特に制限はないが、例えば、直接ポリカーボネートに添加してもよく、マスターペレットを作製して添加してもよい。
【実施例】
【0069】
下記の実施例および比較例によって本発明の内容を具体的に説明する。但し、以下の実施例は発明の一部を示すのみで本発明を限定するものではない。
まず、下記の実施例および比較例での評価項目を説明する。
【0070】
<粘度平均分子量>
ウベローデ粘度計を用いて塩化メチレン中20℃の極限粘度[η]を測定し、次式より求めた。
[η]=1.11×10−4(Mv)0.82
【0071】
<色相>
得られたポリカーボネート4gを塩化メチレン25mlに溶解し、APHA標準液にて目視で判定した。本判定においては、値が小さい方が色相は良好である。
【0072】
<ポリカーボネート燃焼時のドリップ防止効果>
得られたポリカーボネートの燃焼時のドリップ防止効果を評価するために、ポリカーボネート樹脂に三光株式会社製の難燃剤である10−ベンジル−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(以下「BCA」という。)を添加し、UL94規格に基づいて燃焼試験を行い、燃焼時のドリップを観察し、評価をした。燃焼時に樹脂片から燃焼しながらドリップ(溶融液滴)が落下しない場合を「ドリップしなかった」とし、燃焼しながらドリップが落下した場合を「ドリップした」として評価した。
【0073】
[実施例1]
300mLの反応釜に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン137.0g(0.60mol)、ジフェニルカーボネート135.0g(0.63mol)を仕込み、窒素雰囲気下、140℃まで昇温した。140℃で前記式(5)のエステル交換触媒(CA−K塩)33.1mg(1.2×10−4mol)を添加した後、減圧度を60Torrに調整してから、副生するフェノールを系外に除去しながら20.0℃/hrの昇温速度で220℃まで昇温した。昇温開始後、約1時間経過時に反応釜内の減圧度を20Torrとした。さらにその30分後に減圧度を15Torrとし、攪拌下で4時間反応させエステル交換反応を進行させて低分子量の(粘度平均分子量2500)のプレポリマー(オリゴマー)を生成した。プレポリマー生成終了後、190℃まで冷却してから反応釜内に窒素を吹き込んで、一旦、常圧に戻して減圧度を3Torrに調整してから、副生するフェノールを系外に除去しながら60.0℃/hrの昇温速度で250℃まで昇温し、攪拌下で1時間反応させポリマーを合成した(粘度平均分子量8000)。更に、減圧度を0.1Torrに調整し、副生するフェノールを系外に除去しながら30.0℃/hrの昇温速度で280℃まで昇温し、攪拌下で1時間反応させて、粘度平均分子量20000のポリカーボネートを得た。得られたポリカーボネート樹脂100質量部に対して「BCA」7質量部を添加し、UL94規格に基づいて燃焼時のドリップ防止効果の評価を行った。得られたポリカーボネートの色相、燃焼時のドリップ防止効果の評価は表4に記載の通りであった。
【0074】
[実施例2]
エステル交換触媒としてホスホン酸ジフェニルベンゼンカリウム塩を使用し、得られたポリカーボネート樹脂に対して「BCA」を9質量部添加した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネートを合成した。得られたポリカーボネートの色相、燃焼時のドリップ防止効果の評価は表4に記載の通りであった。
【0075】
[実施例3]
エステル交換触媒としてリン酸ジフェニルカリウム塩を使用し、得られたポリカーボネート樹脂に対して「BCA」を8質量部添加した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネートを合成した。得られたポリカーボネートの色相、燃焼時のドリップ防止効果の評価は表4に記載の通りであった。
【0076】
[実施例4]
エステル交換触媒としてリン酸ジブチルカリウム塩を使用し、得られたポリカーボネート樹脂に対して「BCA」を9質量部添加した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネートを合成した。得られたポリカーボネートの色相、燃焼時のドリップ防止効果の評価は表4に記載の通りであった。
【0077】
[比較例1]
エステル交換触媒として水酸化カリウムを使用した以外は実施例1と同様にしてポリカーボネートを合成した。得られたポリカーボネートの色相、燃焼時のドリップ防止効果の評価は表4に記載の通りであった。
【0078】
[比較例2]
市販のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック社製、商品名「ユーピロン(R)S−3000」)100質量部に対して「BCA」10質量部を添加し、UL94規格に基づいて燃焼時のドリップ防止効果の評価を行った。評価の結果は表4に記載の通りであった。
【0079】
[比較例3]
実施例4で得られたポリカーボネート(BCAを添加しないもの)を用い、UL94規格に基づいて燃焼時のドリップ防止効果の評価を行った。評価の結果は表4に記載の通りであった。
【0080】
【表4】

【0081】
表4の結果から、本発明に係る実施例1〜4で得られたポリカーボネート樹脂は、色相(APHA)が良好であり、また燃焼時のドリップ防止効果が良好(ドリップせず)であった。実施例1〜4で得られたポリカーボネート樹脂は、難燃剤BCAの配合量が10質量部未満とした場合でも、UL94 V−0規格の燃焼性であり、難燃性に優れていた。
【0082】
一方、比較例1〜3で得られたポリカーボネート樹脂は、ドリップ防止効果及び難燃性が実施例1〜4に比べて劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のポリカーボネート製造用エステル交換触媒は、水などの溶媒に溶解又は分散することなく、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの反応系にエステル交換触媒として直接導入して使用できる。反応によって得られるポリカーボネートは透明性・色相に優れ、併せてドリップ防止の付与効果を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるポリカーボネート製造用エステル交換触媒。
【化1】

(式(1)中、符号Rはフェノキシ基、フェニル基またはブトキシ基を表し、Rはフェニル基またはブチル基を表す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される請求項1に記載のポリカーボネート製造用エステル交換触媒。
【化2】

【請求項3】
下記式(3)で表される請求項1に記載のポリカーボネート製造用エステル交換触媒。
【化3】

【請求項4】
下記式(4)で表される請求項1に記載のポリカーボネート製造用エステル交換触媒。
【化4】

【請求項5】
ジクロルフェニルホスフィンとフェノールを、塩化マグネシウムを触媒として反応させてホスホン酸ジフェニルベンゼンを製造し、次いで得られたホスホン酸ジフェニルベンゼンと水酸化カリウムを反応させ、前記式(2)で表される化合物を得ることを特徴とするポリカーボネート製造用エステル交換触媒の製造方法。
【請求項6】
リン酸ジフェニルと水酸化カリウムを反応させ、式(3)で表される化合物を得ることを特徴とするポリカーボネート製造用エステル交換触媒の製造方法。
【請求項7】
リン酸ジブチルと水酸化カリウムを反応させ、式(4)で表される化合物を得ることを特徴とするポリカーボネート製造用エステル交換触媒の製造方法。
【請求項8】
エステル交換法により芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換触媒の存在下で反応させてポリカーボネートを製造する方法において、
前記エステル交換触媒として請求項2〜4のいずれか1項に記載のエステル交換触媒を使用することを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
【請求項9】
エステル交換法により芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換触媒の存在下で反応させてポリカーボネートを製造する方法において、
前記エステル交換触媒として下記式(5)で表される化合物を使用することを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
【化5】

【請求項10】
請求項8又は9に記載のポリカーボネートの製造方法により得られたポリカーボネート樹脂に、非ハロゲン系難燃剤を配合してなるポリカーボネート樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−270219(P2010−270219A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123113(P2009−123113)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(391052574)三光株式会社 (16)
【Fターム(参考)】