説明

ポリクロロプレン分散液

【課題】改良された貯蔵安定性と接着性を示すポリクロロプレン分散液から調製される水性ポリマー分散液を含有する接着剤組成物を提供する。
【解決手段】(a)クロロプレンおよびこれと共重合し得るエチレン性不飽和モノマーを0〜70℃で重合させて調製されるポリマーに基づいてゲル含有量が0.1〜30重量%であるポリクロロプレン水性分散液を調製し、次いで(b)該分散液を、ゲル含有量が該ポリマーに基づいて少なくとも10重量%増加して1〜60重量%になるまで50〜110℃で貯蔵することによって得られる水性ポリマー分散液を含有する接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この特許出願は、独国特許出願No.103 18 107.5(出願日:2003年4月22日)の35U.S.C.§119(a)〜(d)に基づく優先権を主張する出願である。
この発明は、改良された貯蔵安定性と接着性を有するポリクロロプレン分散液、該分散液の製造方法および無機もしくは有機の支持体(substrate)に対するコンタクト接着剤としての該分散液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリクロロプレンの製造は古くから知られており、アルカリ性水性媒体中での乳化重合によっておこなわれる。これに関しては下記の非特許文献1〜3を参照されたい。
【0003】
使用可能な乳化剤は原則として、エマルションを充分に安定化する全ての化合物およびこれらの混合物である。例えば、下記の化合物が例示される:長鎖脂肪酸の水溶性塩類(特に、ナトリウム塩、カリウム塩およびアンモニウム塩)、コロホニルおよびその誘導体、高分子量のアルコールスルフェート、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドに基づくノニオン性乳化剤、乳化作用を示すポリマー類。このような乳化剤については下記の特許文献1〜10を参照されたい。
【0004】
ポリクロロプレンは、適当な配合と加硫処理に付した後で工業的ゴム製品の製造に使用されるか、またはコンタクト接着剤の原料として使用されている。これに関しては下記の非特許文献を参照されたい。
【0005】
ポリプロピレンに基づくコンタクト接着剤は主として溶剤含有型の接着剤であって、この種の接着剤は接合されるべき両方の成分に塗布された後、乾燥処理に付される。次いで、これらの2つの成分を加圧下で接合させることによって、室温における高い結合強度が得られ、また、適当な高融点樹脂を添加した後では高温での高い結合強度[耐熱性]が得られる。
【0006】
生態学的理由と経済的理由から、水性接着剤組成物に加工できる適当なポリクロロプレン分散液に対する要請が増々高くなっている。しかしながら、この場合の難点は、この種のアルカリ性分散液のpHが貯蔵中に低下することであり、この現象は室温での貯蔵中においても短時間で発現する。この望ましくない効果は、貯蔵温度が高くなると促進される。このため、取引先の構内における輸送と貯蔵はサーモコンテナ(thermo-container)を用いてのみおこなわれる。この種の分散液から調製される接着剤組成物も貯蔵中にこのようなpH低下を示すので、このような効果を緩和させなければならない。
【0007】
高融点樹脂、例えば、アルキルフェノール樹脂のマグネシウムキレート錯体(この錯体は溶剤含有接着剤の接着の耐熱性を著しく増加させる)等を添加することは、ポリクロロプレン分散液の組成物の分野においては不可能である。ポリイソシアネートを接着剤組成物へ添加することによって耐熱性の高い接着を達成する方法(この方法は溶剤含有ポリクロロプレン接着剤に対しては古くから知られている)を利用する場合には、水性ポリクロロプレン分散液に基づく組成物の耐熱性はわずかに増大するだけである。この理由は、ポリイソシアネート分散液は主として水分子と反応して尿素を生成し、ポリクロロプレン中の少ない応性基とはわずかに反応するに過ぎないからである。
【0008】
このため、長い貯蔵安定性(即ち、貯蔵期間中にpHが著しく変化しない)によって区別される水性ポリクロロプレン分散液であって、接着剤組成物中においても高い初期強度を示すと共に、好ましくは高融点樹脂を添加しなくても高い耐熱性を示す接着を達成し、しかもポリイソシアネート分散液に対して著しく高い反応性を示す水性ポリクロロプレン分散液の開発が要請されていた。
【0009】
固形分濃度を高くすることによってポリクロロプレン分散液の状態を調節する方法は従来技術として知られている。特許文献11には、分散されたポリイソシアネートに対して良好な反応性を示す生成物が、該分散液を50℃で貯蔵することによって得られることが報告されている。この場合に判明している難点は、分散液のpHが著しく低下すること、およびこの操作によって電解質の濃度が著しく増大することである。これらの両方の要件によって、貯蔵中の安定性と接着剤の配合中の安定性が低下する。
【0010】
架橋されたゲル含有ポリクロロプレン分散液を調製することも知られている。この重合方法は特許文献12に記載されている。モノマーの変換率が高くなるまで重合をおこなうことにより、接着剤組成物中において高い耐熱性を示すことによって区別されるゲル含有ポリマー分散液が得られる。この場合に判明している難点も、該分散液の貯蔵安定性が低いことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】独国特許公報DE−A 2307811
【特許文献2】独国特許公報DE−A 2426012
【特許文献3】独国特許公報DE−A 2514666
【特許文献4】独国特許公報DE−A 2527320
【特許文献5】独国特許公報DE−A 2755074
【特許文献6】独国特許公報DE−A 3246748
【特許文献7】独国特許公報DE−A 1271405
【特許文献8】独国特許公報DE−A 1301502
【特許文献9】米国特許公報US−A 2234215
【特許文献10】特開昭60−031510号公報
【特許文献11】ヨーロッパ特許公報EP−A 0857741
【特許文献12】米国特許公報US−A 5773544
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「ウルマンス・エンシクロペディー・デア・テヒニッシェン・ヘミー」、第9巻、第366頁、フェアラーク・ウルバン&シュヴァルツェンベルク、ミュンヘン−ベルリン、1957年
【非特許文献2】「エンサイクロペディア・オブ・ポリマー・サイエンス・アンド・テクノロジー」、第3巻、第705〜730頁、ジョン・ワイリー、ニューヨーク、1965年
【非特許文献3】「メトーデン・デア・オーガニッシェン・ヘミー」(フーベン−ヴェイル)、XIV/1、第738頁以降、ゲオルク・ティーメ・フェアラーク、ストゥットガルト、1961年
【非特許文献4】「ハンドブック・オブ・アドヘッシブズ」(第2版)、第21章、フェアラーク・ファン・ノストラント・ラインホルト、ニューヨーク、1977年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、改良された貯蔵安定性と接着性を示すポリクロロプレン分散液を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明は、(a)クロロプレンおよびクロロプレンと共重合し得る所望によるエチレン性不飽和モノマーを0〜70℃で重合させることによって調製されるポリマーに基づいてゲル含有量が0.1〜30重量%のポリクロロプレン水性分散液を調製し、次いで(b)該水性分散液を、ゲル含有量が該ポリマーに基づいて少なくとも10重量%増加して1〜60重量%になるまで50〜110℃で貯蔵することによって得られる水性ポリマー分散液に関する。
また、本発明は、フィラー、湿潤剤、酸化亜鉛、有機増粘剤、無機増粘剤、殺カビ剤、粘着性付与樹脂および有機溶剤から成る群から選択される1種もしくは複数種の助剤および/または添加剤を上記のポリマー分散液へ添加することを含む接着剤組成物の製造方法にも関する。
さらに、本発明は、上記の水性ポリマー分散液を含有する接着剤組成物にも関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるポリクロロプレン分散液は、従来品に比べて改良された貯蔵安定性と接着性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】TMA測定における温度の関数としての侵入深さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施例以外の記載および特に言及しない限り、本願の特許請求の範囲および明細書において用いる成分の量および反応条件等に関する数値は、全ての場合において「約」という用語を付加して理解すべきである。
【0018】
本発明の目的は、(a)水性エマルション中において少量の調節剤の存在下もしくは不存在下でクロロプレンを連続的もしくは不連続的に重合させ、(b)所望により残存モノマーを除去し、次いで(c)生成物を特定の条件下で貯蔵することによって得られる水性ポリクロロプレン分散液を提供することによって達成された。この場合、所望のポリマー構造は、目的とするゲル含有量の増加に応じて決定することができる。この水性接着剤原料分散液は、従来から知られている接着剤用の助剤および添加剤を含有する接着剤組成物に加工することができる。
【0019】
従って、本発明は、次の工程(a)および(b)によって得られる水性ポリマー分散液を提供する:
(a)クロロプレンおよびこれと共重合可能な所望によるエチレン性不飽和モノマーを0〜70℃で重合させることによって調製されるポリマーに基づいて0.1〜30重量%の有機溶剤不溶成分(ゲル成分)を含有する水性ポリクロロプレン分散液を調製し、
(b)該分散液を、ゲル成分の含有量がポリマーに基づいて少なくとも10%増加して1〜60重量%になるまで50〜110℃において貯蔵する。
【0020】
適当な共重合性モノマーは次の文献に記載されている:「有機化学の方法」、フーベン−ヴェイル、XIV/1、第738頁以後、ゲオルク・ティーメ・フェアラーク、ストゥットガルト、1961年。1分子あたり3〜12個の炭素原子と1または2個の共重合性C=C二重結合を有する化合物が好ましい。好ましい共重合性モノマーとしては2,3−ジクロロブタジエンおよび1−クロロブタジエンが例示される。
【0021】
本発明による方法に用いるポリクロロプレン分散液は温度が0〜70℃(好ましくは5〜45℃)で、pHが10〜14(好ましくは11〜13)の条件下での乳化重合によって調製される。活性化は常套の活性剤および活性剤系を用いておこなわれる。ポリクロロプレン分散液は粒径が60〜120nmの粒子を含有する。
【0022】
使用してもよい活性剤および活性剤系としては、ホルムアミジンスルフィン酸、カリウムペルオキソジスルフェート、およびカリウムペルオキソジスルフェートと所望による銀塩(アントラキノン−β−スルホン酸のナトリウム塩)に基づくレドックス系(この場合、例えば、ホルムアミジンスルフィン酸、ヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩、亜硫酸ナトリウムおよびジチオン酸ナトリウムがレドックスパートナーとして作用する)が例示される。ペルオキシドとヒドロペルオキシドに基づくレドックス系も適当である。本発明によるポリクロロプレンの調製は連続的または不連続的におこなってもよいが、連続的重合が好ましい。
【0023】
本発明によるポリクロロプレンの粘度を調整するためには、常套の連鎖移動剤、例えば独国特許公報DE−A3002711、英国特許公報GB−A1048235および仏国特許公報FR−A2073106等に記載されているようなメルカプタン類、または次の特許文献に記載されているようなキサントゲンジスルフィド類を使用してもよい:DE−A1186215、DE−A2156453、DE−A2306610、DE−A3044811、EP−A0053319、GB−A512458、GB−A952156、US−A2321693およびUS−A2567117。特に好ましい連鎖移動剤はn−ドデシルメルカプタン並びにDE−A3044811、DE−A2306610およびDE−A2156453に記載されているキサントゲンジスルフィド類である。
【0024】
重合はモノマーの変換率が50〜95%(好ましくは60〜80%)になったときに停止させるのが一般的であり、この反応停止は禁止剤として、例えばフェノチアジン、t−ブチルピロカテコールまたはジエチルヒドロキシルアミンを添加することによっておこなってもよい。このフリーラジカル乳化重合においては、モノマーは生長するポリマー鎖の種々の位置に組み込まれる。例えば、重合温度が42℃の場合には、92.5%がトランス−1,4−位でおこなわれ、5.2%がシス−1,2−位でおこなわれ、1.2%が1,2−位でおこなわれ、1.1%が3,4−位でおこなわれる。これに関しては次の文献を参照されたい:W.オブレヒト(フーベン−ヴェイル)、「有機化学の方法」、第20巻、第3部、高分子物質、第845頁(1987年)。モノマーは容易に分解される不安定な塩素原子を含む1,2−位へ組み込まれる。これは金属酸化物との加硫を進行させる活性種となる。
【0025】
重合後、残存するクロロプレンモノマーは、例えば水蒸気蒸留によって除去するのが好ましい。これは、例えば次の文献に記載のようにしておこなわれる:W.オブレヒト(フーベン−ヴェイル)、「有機化学の方法」、第20巻、第3部、高分子物質、第852頁(1987年)。
【0026】
このようにして調製されるモノマー含有量の少ないポリクロロプレン分散液は比較的高い温度で貯蔵される。この貯蔵中において不安定な塩素原子の一部が分解し、有機溶剤に溶解しないポリクロロプレンの網状構造が形成され、ゲル含有量は少なくとも10%(好ましくは少なくとも20%、特に少なくとも50%)増加する。このことは、重合によって調製される架橋ポリクロロプレンゲルとは著しく相違する(後述のTMA測定における測定法4参照)。
【0027】
この後の工程においては、分散液の固形分含有量はクリーミング過程によって増加させることができる。このクリーミングは、例えば、次の文献に記載されているようにしてアルギネートの添加によっておこなわれる:「ネオプレンラテックス」、ジョンC.カール、E.I.デュポン、第13頁(1964年)。
【0028】
従って、本発明は、下記の工程(a)〜(d)を含む部分的に架橋されたポリクロロプレン分散液の製造法も提供する:
(a)クロロプレンおよびクロロプレン100重量部あたり0〜20重量部のクロロプレンと共重合し得るエチレン性不飽和モノマーを、モノマー100gあたり0〜1mmol(好ましくは0〜0.25mmol)の調節剤の存在下で、水性エマルション(好ましくは水性アルカリ性エマルション)中において0〜70℃(好ましくは5〜45℃、特に好ましくは10〜25℃)で重合させる。得られる分散液中の有機溶剤不溶性成分の含有量は、ポリマーに基づいて0.1〜30重量%(好ましくは0.5〜5重量%)である。
(b)所望により、残存する未重合モノマーを、例えば、水蒸気蒸留によって除去する。
(c)該分散液を50〜110℃(好ましくは60〜100℃、特に好ましくは70〜90℃)で貯蔵させることによって、有機溶剤に不溶性の成分(ゲル成分)の含有量を少なくとも10%増量させることによって1〜60重量%(好ましくは5〜30重量%、特に好ましくは10〜20重量%)にする。このためには、例えば、分散系に応じて3時間〜14日間の貯蔵を必要とする。必要な貯蔵時間は予備実験をおこなうことによって決定することができる。
(d)所望により、クリーミング過程によって固形分含有量を50〜64重量%(好ましくは52〜59重量%)まで増加させる。この結果、塩含有量が非常に少なく、特に塩素イオン濃度が低い(特に好ましくは500ppm未満)分散液が得られる。
【0029】
本発明は、本発明によるポリクロロプレン分散液に基づく接着剤組成物および該接着剤組成物の製造法も提供する。
【0030】
分散液形態の好ましい接着剤組成物は、ポリクロロプレン分散液100重量部、接着性樹脂15〜75重量部、金属酸化物(好ましくは酸化亜鉛)1〜10重量部並びに所望による助剤および添加剤を含有する。
【0031】
本発明によるポリクロロプレン分散液は、所望により、他の分散液を30重量%まで含有していてもよい。他の分散液としては、ポリアクリレート分散液、ポリ塩化ビニリデン分散液、ポリブタジエン分散液、ポリ酢酸ビニル分散液およびスチレン−ブタジエン分散液が例示される。
【0032】
本発明による接着剤組成物を調製するためには、本発明によるポリクロロプレン分散液を常套の接着剤用の助剤および添加剤と混合する。
【0033】
本発明による接着剤組成物は有機溶剤を含有しないか、あるいは少量含有していてもよい。この場合、「少量」とは、最終接着剤に基づいて30重量%未満の有機溶剤を含有することを意味する。
【0034】
本発明による接着剤組成物は、ポリクロロプレン分散液のほかに、所望により接着剤用の助剤および添加剤をさらに含有していてもよい。例えば、石英粉末、珪砂、高分散シリカ、バライト、炭酸カルシウム、チョーク、ドロマイトまたはタルカム(talcum)のようなフィラーを、所望による湿潤剤、例えば、ナトリウムヘキサメタホスフェートのようなポリホスフェート、ナフタレンスルホン酸、ポリアクリル酸アンモニウムまたはポリアクリル酸ナトリウムと共に添加してもよい。この場合、フィラーの添加量は、一般的には接着剤に基づいて10〜60重量%(好ましくは20〜50重量%)であり、また、湿潤剤の添加量は一般的にはフィラーに基づいて0.2〜0.6重量%である。
【0035】
酸化亜鉛は添加剤として重要であり、ポリマーから脱離することがある少量の塩化水素の受容体としても重要である。
【0036】
さらに、適当な助剤、例えば、セルロース誘導体、アルギネート、デンプン、デンプン誘導体またはポリアクリル酸等の有機増粘剤を、接着剤に基づいて0.01〜1重量%使用してもよく、また、ベントナイト等の無機増粘剤を0.05〜5重量%使用してもよい。
【0037】
本発明による接着剤組成物には、防腐剤として殺カビ剤を添加してもよい。殺カビ剤は、一般的には接着剤に基づいて0.02〜1重量%使用される。適当な殺カビ剤としてはフェノールとクレゾールの誘導体および有機錫化合物等が例示される。
【0038】
所望により、粘着性付与樹脂、例えば、コロホニルエステルのような未変性もしくは変性天然樹脂、またはフタレートのような合成樹脂もしくは炭化水素樹脂を分散形態の接着剤組成物に添加してもよい。この助剤に関しては、次の文献を参照されたい:「接着樹脂」、R.ジョルダンおよびR.ヒンターバルドナー、第75頁〜第115頁、ヒンターバルドナー・フェアラーク(ミュンヘン)1994年。110℃よりも高い軟化点を有するアルキルフェノール樹脂分散液が好ましい。
【0039】
所望により、有機溶剤、例えばトルエン、キシレン、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ジオキサンもしくはこれらの混合物、または可塑剤、例えばアジペート、フタレートもしくはホスフェートに基づく可塑剤をポリクロロプレン分散液に添加してもよい。
【0040】
本発明による接着剤組成物は、同一もしくは異なる性質を有する所望の支持体、例えば木材、紙、プラスチック、織物、革、ゴムおよび無機材料(例えばセラミック、石器またはアスベストセメント)等を接着させるために使用することができる。
【実施例】
【0041】
(A1)ポリクロロプレン分散液の調製
重合は、EP−A0032977に記載されているような連続法によっておこなった。
実施例A(比較例)
水性相(W)とモノマー相(M)(これらの相の割合は測定調整装置を用いて常に一定に保った)および活性剤相(A)を、7台の同一の反応器(容積:50リットル)を含む重合カスケードの第1反応器内へ導入した。各々の反応器中の平均滞留時間は25分間とした。これらの反応器はDE−A2650714に記載の反応器に相当する。(以下のデータの単位は、使用したモノマー100重量部あたりの重量部で示す。)
【0042】
(M)=モノマー相
クロロプレン 100重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.11重量部
フェノチアジン 0.005重量部
(W)=水性相
脱イオン水 115.0重量部
不均化アビエチン酸のナトリウム塩 2.6重量部
水酸化カリウム 1.0重量部
(A)=活性剤相
ホルムアミジンスルフィン酸の1%水溶液 0.05重量部
過硫酸カリウム 0.05重量部
アントラキノン−2−スルホン酸のナトリウム塩 0.005重量部
【0043】
反応は内部温度が15℃のときに容易に開始した。発生する重合熱を外部冷却で除去することによって重合温度は10℃に保持した。モノマーの変換率が70%に達したときに、ジエチルヒドロキシルアミンを添加することによって反応を停止させた。残存モノマーは水蒸気蒸留によってポリマーから除去した。固形分含有量およびゲル含有量はそれぞれ33重量%および0重量%であり、またpHは13であった。
重合を120時間おこなった後、重合ラインを停止させた。
【0044】
実施例B(比較例)
調節剤の添加量を0.03重量%まで減少させ、モノマーの変換率を80%まで高め、また、重合温度を45℃まで高める以外は実施例Aの場合と同様の操作をおこなうことによってゲル含有量の高いポリマーを得た。
固形分含有量およびゲル含有量はそれぞれ38重量%および60重量%であり、また、pHは12.9であった。
【0045】
実施例C(本発明による実施例)
調節剤としてのn−ドデシルメルカプタンを0.03%使用してモノマー変換率が80%になるまで重合をおこなう以外は実施例Aの場合と同様の操作をおこなった。
固形分含有量およびゲル含有量はそれぞれ38重量%および4重量%であり、また、pHは12.8であった。
【0046】
実施例D(本発明による実施例)
調節剤としてのn−ドデシルメルカプタンを使用せずにモノマー変換率が70%まで重合をおこなう以外は実施例Cの場合と同様の操作をおこなった。
固形分含有量およびゲル含有量はそれぞれ33重量%および15重量%であり、また、pHは13.0であった。
【0047】
実施例E(本発明による実施例)
モノマー相中の調節剤の含有量を0.03重量%に減少させる以外は実施例Aの場合と同様の操作をおこなった。
固形分含有量およびゲル含有量はそれぞれ33重量%および1.2重量%であり、また、pHは12.9であった。
【0048】
実施例F(本発明による実施例)
モノマー相中の調節剤の含有量を0.04重量%に減少させる以外は実施例Aの場合と同様の操作をおこなった。
固形分含有量およびゲル含有量はそれぞれ33重量%および1重量%であり、また、pHは13.1であった。
【0049】
(A2)分散液の状態調節
分散液を水蒸気蒸留に付した後、断熱貯蔵タンク内において、60〜90℃で6時間〜6日間の状態調節処理に付した。温度は付加的な加熱によって適宜調整した。また、ラテックス中のゲル含有量の増加は、採取した試料を用いて測定した。
【0050】
(A3)クリーミング法
固体状アルギネート(「マニュテックス(Manutex)」)を脱イオン水に溶解させることによって、アルギネートの2重量%水溶液を調製した。最初に、ポリクロロプレン分散液200gを8本のガラス壜(250ml)内へ入れ、次いで各々のガラス壜内へ6〜20gのアルギネートを2gずつ導入して撹拌した。貯蔵を24時間おこなった後、濃厚なラテックス上に生成した漿液の量を測定した。漿液の生成量が最大の試料中に含まれるアルギネートの量を5倍することによって、ポリクロロプレン分散液1kgをクリーミング処理するのに必要なアルギネートの最適量を決めた。
【0051】
(B)測定法
1.分散液からのゲル含有量の決定
ラテックス中のポリマーを再結晶化法によって分散液から抽出した。この処理は分散液をトルエンと酢酸と混合し、次いでアルキレンベンジルジメチルアンモニウムクロリドを添加することによっておこなった。ポリマー中に含まれるゲル成分を遠心分離によって分離させ、次いで該ゲル成分を乾燥させた後、秤量した。
【0052】
2.剥離強さの決定
試験はEN 1392に従っておこなった。分散液の湿潤膜(厚さ:100μm)をノラ(Nora)ゴム製の2枚の試験片(スチレン−ブタジエンゴム;SBR)に塗布させ、次いで研磨紙(粒度:80)を用いて粗面化処理をおこなった後、室温下で空気に1時間さらした。
【0053】
次いで、試験片を以下の試験法に付した。
方法A:衝撃活性化処理に付した後、4barの圧力のもとで10秒間接合させた。
方法B:活性化処理をおこなわないで、4barの圧力のもとで10秒間接合させた。
引裂き試験は市販の引張試験機を使用して室温下でおこなった。引張強さは接着直後と1日経過後に測定した。
【0054】
衝撃活性化
接着剤の表面をIRランプ(ファンク社製の「ショック・アクティベーター2000」)で4秒間の照射処理に付した。接着剤を塗布した試験片を熱的活性化の直後に該活性化接着剤層を相互に接触させ、次いで押圧処理に付すことによって接着をおこなった。このようにして得られた試験片を23℃で50%の相対大気湿度条件下で貯蔵した。
【0055】
3.熱試験
ノラ試験片を2cmにわたって重ね合わせることによって接着させ、次いで4kgの負荷を加えた後、40℃の加熱室内における状態調節処理に30分間付した。次いで、試験片を0.5℃/分の昇温速度で150℃まで加熱した。軟化温度[即ち、4kgの負荷のもとでの剪断試験において接着が解消する温度(℃)]を測定した。いずれの場合も、測定は5回おこなった。
【0056】
4.TMA測定
分散液を、特に室温で3日間放置し、次いで80℃で1時間放置した後、さらに室温で3日間放置することによってフィルム状態まで乾燥させた。この場合、厚さが1.0mm〜1.5mmのフィルムが形成された。測定はパーキン・エルマー社製の「DMA7」測定機を用いて次の条件下でおこなった:負荷500mN、測定温度範囲−100℃〜+240℃、昇温速度5℃/分。対応する温度における測定ヘッドの侵入深さを測定した。
【0057】
(C)重合後のポリクロロプレン分散液の本発明による状態調節
【表1】

【0058】
(D)クリーミングによる分散液中の固形分含有量の増加
【表2】

【0059】
図1はポリクロロプレンフィルムの軟化特性(TMA測定)を示す。図1に示すように、比較ポリマー中のゲル含有量の増加によって、実施例1(0重量%ゲル)と実施例2(60重量%ゲル)の軟化特性においてわずかの改良がもたらされるに過ぎない。
本発明によるポリマーは、実施例4〜7および10の曲線から明らかなように、ゲル含有量にかかわらず、著しく低い軟化特性を示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3から明らかなように、クリーミング処理後においては、全ての状態調節された分散液(実施例4〜10)は、状態調節されない比較分散液(実施例1〜3)に比べて、より高い貯蔵温度においてさえも著しく高い貯蔵安定性を示す。このことは、実施例4〜10の分散液は貯蔵後においてもpHの低下をほとんど示さないことからも理解される。
【0062】
(E)本発明によるポリクロロプレン分散液に基づく接着剤の調製
【表4】

【0063】
表4における脚注の意義は次の通りである。
(1)ライン・ヘミー社(マンハイム、独国)の製品(ジフェニルアミン誘導体を50%含有する水性エマルション)
(2)バイエル社(レーバークーセン、独国)の製品(ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合生成物のナトリウム塩)
(3)ボルケルス社(ランゲンフェルト、独国)の製品(酸化亜鉛ペースト)
(4)DRT(レ・デリベ・レシニッケ+テルペニッケ)社(セデックス、仏国)の製品(テルペン−フェノール樹脂分散液)
【0064】
組成物を調製するために、ポリクロロプレン分散液をガラス製ビーカーに入れ、次いで、撹拌しながら安定剤、老化防止剤、ZnOおよび樹脂を添加した。
【0065】
(E1)剥離強さと軟化点の測定
接着剤を塗布した後、60分間貯蔵し、方法Aによる衝撃活性化によって接着をおこなった。支持体としてはリネンを用いた。
【表5】

【0066】
表5に示すように、接着の初期強度は分散液のゲル含有量の増加に伴って低下するが、耐熱性(軟化点)は最大点を通過する。従って、次の領域が存在する。
(A)ゲル含有量が接着性に影響しない領域。本発明による実施例9と10は、比較の実施例1に比べて、初期強度はほぼ同等であるが、著しく高い耐熱性を示す。
(B)分散液中のゲル含有量がより高くなると、耐熱性が増加する領域。本発明による実施例4と8は、状態調節しない比較の実施例3に比べて、著しく良好な貯蔵安定性によって区別される。
(C)分散液のゲル含有量が高くなると、強度と耐熱性は組成物の低活性化能によって不利な影響を受ける(実施例5〜7)。
【0067】
(E2)初期の剥離強さと軟化点の測定
【表6】

ノラゴムに関する接着性もリネンの場合の依存性を支持する(表6参照)。
【0068】
以上のように、本発明を例証するために詳細に説明したが、このような説明は単なる例示的な目的のためであって、特許請求の範囲によって限定される場合を除き、本発明は、本発明の技術的思想と範囲を逸脱することなく、当業者によって修正できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)クロロプレンおよびクロロプレンと共重合し得る所望によるエチレン性不飽和モノマーを0〜70℃で重合させることによって調製されるポリマーに基づいてゲル含有量が0.1〜30重量%のポリクロロプレン水性分散液を調製し、次いで
(b)該水性分散液を、ゲル含有量が該ポリマーに基づいて少なくとも10重量%増加して1〜60重量%になるまで50〜110℃で貯蔵することによって得られる水性ポリマー分散液。
【請求項2】
ポリクロロプレン分散液が、粒径が60〜120nmの粒子を含有する請求項1記載の水性ポリマー分散液。
【請求項3】
調節剤の含有量が、モノマー100gに基づいて、好ましくは0〜0.25ミリモルである請求項1記載の水性ポリマー分散液。
【請求項4】
重合を5〜45℃でおこなう請求項1記載の水性ポリマー分散液。
【請求項5】
状態調節前の分散液中のゲル含有量が0.5〜5重量%である請求項1記載の水性ポリマー分散液。
【請求項6】
分散液の貯蔵を60〜90℃でおこなう請求項1記載の水性ポリマー分散液。
【請求項7】
工程(b)における状態調節後のポリクロロプレン分散液中のゲル含有量が5〜30重量%である請求項1記載の水性ポリマー分散液。
【請求項8】
フィラー、湿潤剤、酸化亜鉛、有機増粘剤、無機増粘剤、殺カビ剤、粘着性付与樹脂および有機溶剤から成る群から選択される1種もしくは複数種の助剤を請求項1記載の水性ポリマー分散液へ添加することを含む接着剤組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の水性ポリマー分散液を含有する接着剤組成物。
【請求項10】
請求項9記載の接着剤組成物で被覆された支持体。
【請求項11】
フィラーが、石英粉末、珪砂、高分散シリカ、バライト、炭酸カルシウム、チョーク、ドロマイトおよびタルカムから成る群から選択される請求項8記載の方法。
【請求項12】
湿潤剤がポリホスフェート、ナフタレンスルホン酸、ポリアクリル酸アンモニウムおよびポリアクリル酸ナトリウムから成る群から選択される請求項8記載の方法。
【請求項13】
有機増粘剤がセルロース誘導体、アルギン酸塩、デンプン、デンプン誘導体およびポリアクリル酸から成る群から選択される請求項8記載の方法。
【請求項14】
無機増粘剤がベントナイトを含む請求項8記載の方法。
【請求項15】
殺カビ剤が、フェノール誘導体、クレゾール誘導体および有機錫化合物から成る群から選択される請求項8記載の方法。
【請求項16】
粘着性付与樹脂が、コロホニルエステル、フタレート樹脂および110℃よりも高い軟化点を有するアルキルフェノール樹脂から成る群から選択される請求項8記載の方法。
【請求項17】
有機溶剤が、トルエン、キシレン、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ジオキサンおよびこれらの混合物から成る群から選択される請求項8記載の方法。
【請求項18】
フィラー、湿潤剤、酸化亜鉛、有機増粘剤、無機増粘剤、殺カビ剤、粘着性付与樹脂および有機溶剤から成る群から選択される1種もしくは複数種の助剤および/または添加剤を含有する請求項9記載の接着剤組成物。
【請求項19】
フィラーが、石英粉末、珪砂、高分散シリカ、バライト、炭酸カルシウム、チョーク、ドロマイトおよびタルカムから成る群から選択される請求項18記載の接着剤組成物。
【請求項20】
湿潤剤がポリホスフェート、ナフタレンスルホン酸、ポリアクリル酸アンモニウムおよびポリアクリル酸ナトリウムから成る群から選択される請求項18記載の接着剤組成物。
【請求項21】
有機増粘剤がセルロース誘導体、アルギン酸塩、デンプン、デンプン誘導体およびポリアクリル酸から成る群から選択される請求項18記載の接着剤組成物。
【請求項22】
無機増粘剤がベントナイトを含む請求項18記載の接着剤組成物。
【請求項23】
殺カビ剤が、フェノール誘導体、クレゾール誘導体および有機錫化合物から成る群から選択される請求項18記載の接着剤組成物。
【請求項24】
粘着性付与樹脂が、コロホニルエステル、フタレート樹脂および110℃よりも高い軟化点を有するアルキルフェノール樹脂から成る群から選択される請求項18記載の接着剤組成物。
【請求項25】
有機溶剤が、トルエン、キシレン、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ジオキサンおよびこれらの混合物から成る群から選択される請求項18記載の接着剤組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−293048(P2009−293048A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219002(P2009−219002)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【分割の表示】特願2004−126783(P2004−126783)の分割
【原出願日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(504419760)ランクセス ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (58)
【氏名又は名称原語表記】Lanxess Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】D−51369 Leverkusen, Germany
【Fターム(参考)】