説明

ポリスチレン系樹脂積層発泡シート及びその製造方法

【課題】 成形性がよく、強度、外観のバランスに優れ、成形加工性が良好で、かつ、成形直後の印刷性に優れ、圧縮強度の異方性が少ない容器を成型可能で、パンチング時の切り屑や切り粉の発生を低減できるポリスチレン系樹脂積層発泡シートを提供する。
【解決手段】 懸濁重合法により得られるポリスチレン系樹脂95〜60重量%および塊状重合法により得られるポリスチレン系樹脂5〜40重量%からなる基材樹脂を押出発泡して得られたポリスチレン系樹脂発泡シートに、目付量が100〜210g/m2であるポリスチレン系樹脂非発泡フィルムを積層してなるポリスチレン系樹脂積層発泡シートとすることにより、上記特性を有し、深絞り性に優れた容器を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスタントラーメン等の食品容器や包装容器等の用途に適し、成形性がよく、強度、外観のバランスに優れ、成形直後でも印刷性に優れたポリスチレン系樹脂発泡シートおよびポリスチレン系樹脂積層発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂発泡シートは表面が美しく、軽量かつ強度があり、成形加工性に優れ、安価である他、疎水性に富み、衛生的で、保温・断熱性に優れているため、皿状・カップ状・丼状に成形され、各種の食品包装材や簡易容器として広く使用されている。その一方で、ポリスチレン系樹脂発泡シート中には一部に環境ホルモンの疑いのあるスチレンダイマー及びスチレントリマーが含まれており、即席麺のスープ中に溶出するという欠点があった。
【0003】
スチレンダイマー、スチレントリマーが溶出し難い発泡シートおよび成形品の製造方法としては、スチレンダイマーおよびスチレントリマーの含有量が少ない懸濁重合法により得られたポリスチレン樹脂を使用する方法(例えば、特許文献1)が知られている。しかしながら、懸濁重合法により得られたポリスチレン樹脂を用いたポリスチレン系樹脂発泡シートは、発泡シート目付の軽量化、容器取り数の多数化によるピッチ間の縮小化、等の成形加工における難易度を著しく上げることにつながり、成形容器の強度が低下したり、ナキと呼ばれるセル膜の破断に伴う不良が生じて外観が損なわれる等の問題が発生する。この問題は、最近特に需要が拡大している深絞りの容器においては、なおのこと顕著にその影響が現れやすい。また、得られた容器の強度に関しては、異方性が認められる、すなわち、シート製造時の流れ方向(MD方向)とその直交方向(TD方向)では差異が認められる問題があった。
【0004】
これらの問題を回避しつつ、強度低下を発生させない深絞り成形容器を得るために、塊状重合法により得られるポリスチレン系樹脂を主成分として、懸濁重合法により得られるポリスチレン系樹脂を混合した基材樹脂を用いる方法(特許文献2)が提案されている。しかし、この方法においてさえ、軽量化に伴う強度低下を解決するには不十分であった。
【0005】
一方、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートに熱成形を施した後、成形品の周囲部分に打ち抜き加工(以降、「パンチング」と呼ぶ。)が施されてシートから成形品が分離される。しかしながら、懸濁重合法により得られたポリスチレン樹脂を用いたポリスチレン系樹脂積層発泡シートは、熱成形後にパンチングを施すと、長さが1mm以上の切り屑や、これより細かい切り粉が著しく多く発生し、これらが成形品に付着して成形品の製品価値を低下させる問題があった。このため、従来は、パンチング後、成形品に付着した切り屑や切り粉を吹き飛ばす工程を必要とし、成形品の製造工程が煩雑となると共に、切り屑や切り粉の吹き飛ばしを行なっても成形品に付着した切り屑や切り粉を完全に除去することは困難であった。
【0006】
他方、食品容器、特にカップ麺容器では、容器の外側が非発泡フィルムで被覆され、外観美麗なものが製造されている。それら容器のフィルム面には、曲面印刷機により文字や模様等の印刷が施されたり、予め印刷されたフィルムがさらに積層されたりしていて、カラフルで表面光沢性に優れている。しかしながら、曲面印刷に使用される容器は、その性状により曲面印刷性が左右されやすく、ベタ印刷部分に斑点が出現したり、凹凸が目立ったり、また、文字や模様がにじんだり、かすれたりする等の問題が生じやすい。これらの問題を改善する方法として、曲面印刷のスピードを遅くすることが行われている。すなわち、一分間当たりの容器印刷のでき高を少なくして、印刷性を改善することが試みられているが、このような方法では生産性の低下を伴う。また、印刷性を改善する別の方法として、容器と印刷ロールとの印圧を上げることが行われているが、過度に印圧を上げると容器にシワが生じやすい。また、容器が発泡体なので、容器厚みや重量のバラツキが生じやすく、印圧の煩雑な微調整が必要となる。
【0007】
また、容器の曲面印刷性は、容器成形後の経日によって異なり、成形直後が最も悪く、経日が長くなるにつれて良くなっていき、約5日程度で一定となる。この理由は定かではないが、おそらく成形直後の容器の気泡内は負圧状態となっているため、膜強度が弱く、全体として容器強度が低下しているためと考えられる。このことから、容器成形後、時間をおくことで印刷特性を改善することが考えられるが、この場合、容器を保管する場所が必要となる。したがって、容器成形後できるだけ早い時点で良好な印刷が可能となるよう要望されていた。
【特許文献1】特開2000−95888号公報
【特許文献2】特開2003−12843号公報
【特許文献3】特開昭62−22834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためのものであり、成形加工性が良好で、かつ、成形直後でも印刷性に優れ、強度の異方性が少なく、パンチング時の切り屑や切り粉の発生を低減できるポリスチレン系樹脂発泡シートおよびその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、それぞれ特定の分子量及び分子量分布を有する懸濁重合法により得られるポリスチレンおよび塊状重合法により得られるポリスチレンを特定比率にて混合した基材樹脂を押出発泡して得られるポリスチレン系樹脂発泡シートが、懸濁重合法により得られるポリスチレン樹脂を使用した際の成形直後での印刷性等を維持しながら、成形加工性、強度の異方性、パンチング時の切り屑等の発生量を低減できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
懸濁重合法により得られたポリスチレン系樹脂95〜60重量%および塊状重合法により得られたポリスチレン系樹脂5〜40重量%からなる基材樹脂を、押出発泡して得られることを特徴とする、ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法(請求項1)、
懸濁重合法により得られるポリスチレン系樹脂の、重量平均分子量Mwが20万〜45万であり、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比であるMw/Mnが2.6〜4.0であり、かつ、塊状重合法により得られるポリスチレン系樹脂の、重量平均分子量Mwが20万〜45万であり、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比であるMw/Mnが2.0〜3.0であることを特徴とする、請求項1に記載のポリスチレン系樹脂発泡シート(請求項2)、
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートにおける重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比であるMw/Mnが2.6〜4.0であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリスチレン系樹脂発泡シート(請求項3)、および
目付量が200g/m2以上である請求項1〜3のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に、目付量が100〜210g/m2であるポリスチレン系樹脂非発泡フィルムを積層してなる、厚み1.5〜2.2mmであることを特徴とする、ポリスチレン系樹脂積層発泡シート(請求項4)
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形加工性が良好で、かつ、成形直後の印刷性に優れ、圧縮強度の異方性が少なく、パンチング時の切り屑や切り粉の発生を低減できるポリスチレン系樹脂発泡シート、およびその成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明におけるポリスチレン系樹脂発泡シートは、懸濁重合法により得られるポリスチレン系樹脂(以降、「懸濁重合樹脂」と称する場合がある)および、塊状重合法により得られるポリスチレン系樹脂(以降、「塊状重合樹脂」と称する場合がある)を含有し、懸濁重合樹脂と塊状重合樹脂の重量比が95:5〜60:40であるスチレン系樹脂混合物を押出発泡したものである。
【0012】
本発明においては、成形性が低下する成形直後の成形品の強度が上がり、取扱い性や印刷性がより向上することから、懸濁重合樹脂および塊状重合樹脂を併用することが好ましい。スチレン系混合樹脂における懸濁重合樹脂および塊状重合樹脂との混合比率は、懸濁重合樹脂95〜60重量%および塊状重合樹脂5〜40重量%(合計量が100重量%)であることが好ましく、懸濁重合樹脂80〜60重量%および塊状重合樹脂20〜40重量%であることがより好ましい。懸濁重合樹脂の配合割合が60重量%を下回ると、成形直後の成形品の強度が下がり、印刷性が低下する傾向にある。また、懸濁重合樹脂の配合割合が95重量%を超えると、強度の異方性が大きく、パンチング時の切り屑や切り粉の発生が増大する傾向にある。
【0013】
本発明において用いられる懸濁重合樹脂の重量平均分子量Mwとしては20万〜40万が好ましく、25万〜40万がより好ましい。また、懸濁重合樹脂の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnとしては、2.6〜4.0が好ましく、2.6〜3.5がより好ましい。
【0014】
本発明において用いられる塊状重合樹脂の重量平均分子量Mwとしては20万〜 40万が好ましく、25万〜35万がより好ましい。また、塊状重合樹脂の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnとしては、2.0〜3.0が好ましく、2.0〜2.5がより好ましい。
【0015】
さらに、本発明のスチレン系樹脂発泡シートにおける重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnは、2.6〜4.0が好ましく、2.7〜3.5がより好ましい。スチレン系樹脂発泡シートのMw/Mnが2.6より小さくなると、流動性が低下する傾向がある。また、4.0を越える場合は、低分子成分も多くなり、得られた発泡体の強度が損なわれる傾向がある。
【0016】
なお、本発明における数平均分子量および重量平均分子量は、東ソー(株)社製、CCP&8020システム(GPC)を用いて、次の条件で測定した。
(1)ガードカラム :K−G(4.6×10mm)
(2)カラム :K−806L(8.0×300mm)2本 昭和電工
(3)カラム温度 :40℃
(4)溶離液 :高速液体クロマトグラフ用クロロホルム
(5)溶離液流量 :1.0mL/分
(6)試料濃度 :3mg/mL
(7)注入量 :100μL
(8)分析時間 :30分
(9)解析ソフト :MILLENNIUM 32 (Waters)
【0017】
押出発泡による発泡シート製造プロセスは、広く一般に行われている方法で行うことができる。例えば、ポリスチレン系樹脂に造核剤などを混合した樹脂組成物を、押出機を用いて溶融混合し、発泡剤を圧入した後、更に、発泡に適した温度となるまで溶融樹脂を冷却して、サーキュラー・ダイより低圧域に押出し(すなわち、圧力開放による発泡を行い)、円筒状発泡体を得、円筒状発泡体の内面側から冷却するように円筒状発泡体の内側に位置して設置された円筒状冷却筒にて成形した後、切り開いて発泡シートを得られる方法が知られている。
【0018】
本発明で用いられる発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタンなどの物理発泡剤、重曹−クエン酸などの化学発泡剤、などがあげられる。また、工業的には、常温常圧下で気体状態でありかつ可塑性効果の点から、ブタンが多用される。なかでも、シートの熱成形性・発泡剤ガスの保持性の観点から、イソブタン70〜100重量%およびノルマルブタン0〜30重量%からなる混合ブタンを用いることが好ましい。
【0019】
本発明で用いられる造核剤としては、多孔質無機粉末、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、酸化チタン、クレー、酸化アルミニウム、ベントナイト、ケイソウ土、タルク等が使用できる。また、必要に応じて、樹脂中の造核剤の分散を良くするために、エチレンビスステアリルアミド、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等の滑剤等を添加しても良い。
【0020】
本発明におけるポリスチレン系樹脂発泡シートの目付量は、200g/m2以上が好ましく、220g/m2以上がより好ましい。ポリスチレン系樹脂発泡シートの目付量が200g/m2未満であれば、容器強度を満足する容器を得ることができない傾向にある。また、ポリスチレン系樹脂発泡シートの目付量の増加は、容器強度の向上に繋がる反面、コストアップになることから、400g/m2以下にすることが好ましい。
【0021】
本発明におけるポリスチレン系樹脂発泡シートの残存発泡剤量は、主に、ポリスチレン系樹脂の押出発泡による製造時の発泡剤の圧入量、および発泡時のポリスチレン系樹脂の樹脂温度によって決まる。また、後述するポリスチレン系樹脂発泡シートの表層部の密度を上げることも、ポリスチレン系樹脂発泡シート表面からの発泡剤の散逸を抑える効果も有し、残存発泡剤量の確保に有効である。ポリスチレン系樹脂発泡シートに残存発泡剤(ガス)量が多くなれば多くなるほど、ポリスチレン系樹脂発泡シートのセル内のガス圧力が高くなり、容器強度が向上する。十分に強度の高い容器を得るためには、残存発泡剤量が2.1〜3.0重量%であることが好ましく、2.3〜2.5重量%であることがより好ましい。残存発泡剤量が2.1重量%未満では、得られる容器の容器強度が低下する傾向があり、残存発泡剤量が3.0重量%を越えると、ポリスチレン系樹脂非発泡フィルムとの積層時にポリスチレン系樹脂発泡シートから発泡剤ガスが散逸して、両者の積層界面に空隙が生じ、成形の加熱時にポリスチレン系樹脂非発泡フィルムとポリスチレン系樹脂発泡シートとの界面が剥離し、いわゆる火膨れ現象を生じさせ、容器外観が大きく損なわれる傾向がある。
【0022】
本発明におけるポリスチレン系樹脂発泡シートの独立気泡率は、ポリスチレン系樹脂積層発泡シート中の発泡剤ガスの散逸を抑え、長期間での強度物性を維持するために、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。独立気泡率が85%未満では、発泡シートの残存発泡剤の散逸が早くなり、気泡内の圧力が維持できず、強度が大幅に低下する他、成形時の加熱による二次発泡力も低下するため、良好な成形が不可能となる傾向がある。なお、ポリスチレン系樹脂発泡シートの独立気泡率は、Air Comparison Pycnometer(例えば、BECKMAN製、model1930等)を用いて測定することができる。
【0023】
本発明においては、ポリスチレン系樹脂発泡シートのフィルムを積層しない面の表面から厚み150μmの表層部の密度が0.25〜0.40g/cm3であることが好ましい。ポリスチレン系樹脂発泡シートの表層部の密度を制御することにより、ポリスチレン系樹脂発泡シートの表面に剛直な層を形成し、得られる容器の圧縮強度を向上することができる。表層部の密度が0.25g/cm3未満であれば、補強効果が不十分となり、強度、特にリップ圧縮強度が低下する傾向がある。また、0.40g/cm3を越えると、ポリスチレン系樹脂発泡シート表面の伸びが極端に低下し、得られる成形体にナキ(局所的に発泡シートが引き延ばされる現象)が発生する傾向がある。
なお、ポリスチレン系樹脂発泡シートの表層部の密度は、表層部(表面から150μm)を削り出し、その重さを測定することにより、求められる。
【0024】
ポリスチレン系樹脂発泡シートのフィルムを積層しない面の表層部の密度の制御は、前述のシート押出時に行われる表面冷却条件の調整が可能であるが、余りに急激な冷却を行うと、表層部の残留歪みが大きくなり表層部の引張破断変位が低下する傾向がある。また、表層部には、加熱により100μ以下の微細な気泡が発生することがある。微細なセルが発生した場合、そこから表層部の割れが生じるため、シートの成形性が大きく損なわれる場合がある。
【0025】
本発明においては、シートの冷却を緩和することが好ましく、風温を高く、風速を低く、風量を少なくして、フィルムを積層しない面の表層部の密度を調整することが好ましい。一例を挙げると、吐出量200〜300kg/Hrで200g/m2以上の発泡シート製造を行う場合には、風温30〜50℃、風速50〜150m/minとした上で、風量を3.0〜4.0m3/minとすること好ましい。
本発明においては、ポリスチレン系樹脂発泡シート表面の少なくとも片面に、スチレン系樹脂非発泡フィルムを積層することにより、成形体の機械的強度や印刷適正を向上させることができる。
【0026】
本発明における、ポリスチレン系樹脂発泡シート表面に積層するスチレン系樹脂非発泡フィルムの樹脂としては、上記スチレン系樹脂発泡シートに使用されるスチレン系樹脂として例示したものが使用できるが、該ポリスチレン系樹脂発泡シートと同種の樹脂でも異種の樹脂でも良い。なかでも、スチレンモノマーおよびジエン系モノマーとの共重合樹脂よりなるゴム成分を含有するスチレン系樹脂フィルム、特にハイインパクトポリスチレン樹脂を原料としたフィルムが、発泡シートとの接着性およびフィルムの耐衝撃性の面から好ましい。
【0027】
ポリスチレン系樹脂発泡シート表面へのポリスチレン系樹脂非発泡フィルムの積層方法としては、特に限定されず、公知のドライラミネート法、押出ラミネート法、共押出法等が利用できる。なかでも、押出ラミネート法、すなわち、Tダイを使用して溶融状態の熱可塑性樹脂をポリスチレン系樹脂発泡シート表面上にフィルム状に押出して積層する方法が、成形性の確保の点から好ましい。
【0028】
ポリスチレン系樹脂発泡シートの表面へ、ポリスチレン系樹脂の非発泡押出フィルム層を一層だけ積層しても良いし、該押出フィルム層を介して更に外面に熱可塑性樹脂非発泡フィルムを積層しても良い。
【0029】
押出ラミネート法による積層方法においては、Tダイから押出されるフィルム状ポリスチレン系樹脂の樹脂温度を、使用する樹脂の流動性により適宜選定することが好ましい。フィルム状ポリスチレン系樹脂の樹脂温度がポリスチレン系樹脂発泡シートと溶融圧着するのに必要な温度に対して低すぎる場合には、ポリスチレン系樹脂発泡シートとの接着力が確保できなくなる傾向がある。一方、高すぎる場合には、フィルム状ポリスチレン系樹脂の有する熱により、ポリスチレン系樹脂発泡シートのポリスチレン系樹脂フィルム接着を行う側の表面に微細な気泡が発生し、成形時の火膨れの原因となったり、更に、外面に積層する他の熱可塑性樹脂非発泡フィルムが膨張・収縮を起こしてシワが発生する傾向がある。例えば、ハイインパクトポリスチレン樹脂の場合には、その樹脂温度は210〜240℃であることが好ましい。
【0030】
本発明のポリスチレン系樹脂積層発泡シートにおいて、ポリスチレン系樹脂非発泡フィルムとして、押出フィルム層を一層だけ積層する場合には、該非発泡フィルムの目付量は100〜210g/m2が好ましく、120〜150g/m2がより好ましい。該非発泡フィルムの目付量が120g/m2未満の場合には、曲面印刷適正が損なわれる傾向がある。また、210g/m2を越える場合には、コストアップになる一方で、該非発泡フィルムの目付量の増加分ほどの容器強度の向上が見込めない傾向がある。
【0031】
また、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートにおいて、押出フィルム層を介して外面に積層される熱可塑性樹脂非発泡フィルムの素材としては、スチレン系樹脂以外にも、ポリエチレン、ポリスチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の食品包装用途に適用可能な素材であれば、使用することが可能である。
【0032】
ポリスチレン系樹脂積層発泡シートにおいて、押出フィルム層を介して外面に積層する熱可塑性樹脂非発泡フィルムは、Tダイ法やインフレーション法の公知の方法等で製造されるものであるが、その製造工程に於いて、ある程度の延伸が行われるため、該熱可塑性樹脂非発泡フィルムを積層することにより、容器強度の向上効果も期待できる。
【0033】
本発明のポリスチレン系樹脂積層発泡シートにおいては、予めグラビア法等の公知の方法により印刷を施した該熱可塑性樹脂非発泡フィルムフィルムを積層することにより、成形容器に意匠性を付与することも可能である。
【0034】
本発明のポリスチレン系樹脂積層発泡シートにおいて、押出フィルム層を介して積層される該熱可塑性樹脂非発泡フィルムの目付量は、20〜40g/m2が好ましく、25〜35g/m2がより好ましい。該熱可塑性樹脂非発泡フィルムの目付量が20g/m2未満の場合、積層時に該熱可塑性樹脂非発泡フィルムにシワが発生しやすくなり、安定的な生産が困難となる傾向がある。また、40g/m2を越えると、フィルム自体のコストが高くなる傾向がある。
【0035】
本発明により得られるポリスチレン系樹脂積層発泡シートは、広く一般的に行われている加熱成形方法にて容器に成形することができる。すなわち、赤外線ヒーター等で加熱し、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートを二次発泡させた後、金型で嵌合して容器形状を付与した後、シートから容器を打ち抜く方法である。加熱成形の例としては、具体的には、プラグ成形、マッチ・モールド成形、ストレート成形、ドレープ成形、プラグアシスト成形、プラグアシスト・リバースドロー成形、エアスリップ成形、スナップバック成形、リバースドロー成形、フリードローイング成形、プラグ・アンド・リッジ成形、リッジ成形などの方法があげられるが、容器形状の出方および表面性の点でマッチ・モールド成形が好ましい。
【0036】
一般に、熱成形に使用される金型設計により、適正なポリスチレン系樹脂積層発泡シートの二次発泡厚みが決まる。一般に、丼形状を有する成形体を得るために熱成形を行う場合には、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートの二次厚みとしては4.5〜6.0mm程度が求められ、これに合わせてポリスチレン系樹脂積層発泡シートの一次厚みを決める必要がある。
【0037】
ポリスチレン系樹脂積層発泡シートの強度を十分引き出すためには、積層発泡シートの最大二次厚み(加熱してシートに焼けが発生する直前の二次発泡厚み)の80〜90%程度の二次厚みとなるように加熱して成形を行うことが望ましく、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートの厚みは1.5〜2.2mmが好ましく、1.7〜2.0mmがより好ましい。ポリスチレン系樹脂積層発泡シートの厚みが1.5mm未満であれば、成形時の加熱を強くする必要があり、過剰な加熱による容器強度の低下や外観不良を招く傾向がある。また、2.2mmを越える場合には、成形時に十分な加熱を行うことができず、加熱不足のためポリスチレン系樹脂積層発泡シートの伸びが不足し、ナキ(成形体において、局所的に発泡シートが引き延ばされる現象)等の成形不良が発生する傾向がある。
【0038】
ポリスチレン系樹脂積層発泡シートを成形して得られる容器は、特定のリップ強度を有することにより、絞り比の高い容器形状においても、安全に使用が可能となる。
【実施例】
【0039】
以下に、具体的な実施例を挙げて説明する。
【0040】
実施例および比較例にて使用したポリスチレン樹脂の樹脂特性を、表1に示す。
【0041】
(懸濁重合樹脂・ポリスチレンA)
攪拌機を具備した反応器に、純水100重量部、懸濁安定剤として燐酸カルシウム0.15重量部を投入し、攪拌して水懸濁液とした後、スチレンモノマー100重量部に重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド0.15重量部および1,1−ビスターシャリブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.13重量部を溶解し、反応器に加え、98℃に昇温してから4時間かけて重合した。次いで、120℃に昇温して2時間30分保持した後、冷却して、その内容物を取り出し脱水・乾燥し、ポリスチレン樹脂Aを得た。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例および比較例にて得られたポリスチレン系樹脂発泡シート、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートまたは容器に対する評価方法を、以下に示す。
【0044】
(ポリスチレン系樹脂の数平均分子量および重量平均分子量)
ポリスチレン系樹脂および得られた発泡シートの数平均分子量および重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフGPC(東ソー(株)社製、CCP&8020システム)を用いて、以下の条件で測定した。
(1)ガードカラム :K−G(4.6×10mm)
(2)カラム :K−806L(8.0×300mm)2本 昭和電工
(3)カラム温度 :40℃
(4)溶離液 :高速液体クロマトグラフ用クロロホルム
(5)溶離液流量 :1.0mL/分
(6)試料濃度 :3mg/mL
(7)注入量 :100μL
(8)分析時間 :30分
(9)解析ソフト :MILLENNIUM 32 (Waters)
【0045】
(シートの目付量)
得られたポリスチレン系樹脂発泡シートから10cm角のサンプルを、幅方向に10点切り出し、その重量を測定して求めた。
【0046】
(シートの残存発泡剤量)
得られたポリスチレン系樹脂発泡シートから10×10cmのサンプルを切り出し、180℃の乾燥機中にて30分間加熱した前後のサンプル重量の重量変化から算出した。
【0047】
(シートの非ラミ面側の表層部(150μm以内)の密度)
ポリスチレン系樹脂発泡シートの非ラミ面側の表層部の密度は、表層部(表面から150μm)を削り出し、その重さを測定することにより、算出した。
【0048】
(成形性)
成形性の評価として、得られた容器に割れ(セルが破断される現象)、ナキ(局所的に発泡シートが引き延ばされる現象)が発生していないか否かを目視で評価した。その際の評価基準は、以下のとおり。
◎:割れ、ナキの発生が認められない。
○:微小な割れ、ナキの発生が認められる。
×:割れ、ナキの発生が認められる。
【0049】
(タレ発生の有無)
加熱成形時のタレ発生の有無を評価するために、実施例および比較例で得られた容器に対して、目視にて評価した。
○:タレによる成形2重打ちの発生無し。
×:タレによる成形2重打ちの発生あり。
【0050】
(容器のリップ圧縮強度)
オートグラフ(島津製作所製、DSS−1000)を用い、実施例および比較例で得られた容器口元のTD方向またはMD方向での両端部を2枚の板によって支え、一方の端を100mm/minの速度にて80mm圧縮した時の最大荷重を測定した。なお、測定は、1ショット36個について行い、その平均値をした。
【0051】
(印刷性の評価)
実施例および比較例で得られた容器に対して、曲面印刷機(石川島産業機械(株)製、印刷適正試験機RI−2型)を用いて曲面印刷を行い、その印刷面を目視観察にて評価した。その際の評価基準は以下のとおり。
◎:印刷面にしわの混入がなく、かすれも見られない。
○:印刷面にしわの混入はないものの、かすれが見られる。
× :印刷面にしわの混入があり、かすれも見られる。
【0052】
(切り粉発生の有無)
実施例および比較例において発泡シートまたは積層発泡シートを加熱後、パンチングを行って得られた容器36個の口元断面を観察し、以下の基準で評価した。
○:口元断面に大きな欠損部分が発生なし。
×:口元断面に大きな欠損部分が発生あり。
【0053】
(実施例1)
[ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法]
基材樹脂であるポリスチレン系樹脂混合物(懸濁重合樹脂ポリスチレンA・95重量%および塊状重合樹脂G0002・5重量%)100部に対して、気泡調整剤であるタルク(林化成株式会社製、タルカンPK)0.3部および滑剤としてステアリン酸マグネシウム0.02重量部添加し、115−180mmφのタンデム押出機に前記ポリスチレン系樹脂組成物を投入し、設定温度200℃に加熱された一段目の押出機にて前記混合物を溶融し、発泡剤としてブタン系ガス(イソブタン85重量%/ノルマルブタン15重量%の混合物)14L/hrを圧入した後、二段目の押出機にて樹脂温度が150℃となるように冷却後、150℃に設定したサーキュラーダイより大気中に押出発泡させ、引取速度を9m/minとし、非発泡フィルムを積層しない面に対して30℃の冷風を1.4m3/minの風量で吹き付け、幅1050mm、目付量250g/m2、非ラミ面側の表層部密度0.25g/m3、独立気泡率90%のポリスチレン系押出発泡シートを得た。
なお、得られた発泡シートにおける重量平均分子量と数平均分子量との比Mw/Mnは、2.8であった。
[成形体の製造方法]
得られたポリスチレン系樹脂発泡シートを、連続成形機(浅野研究所製、FLC3型)を用い、絞り比0.85の丼容器(口元内径130mmφおよび底面口径86mmφ×深さ110mm、36個/ショット)の金型を用い、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートのポリスチレン系樹脂非発泡フィルム積層面が容器の外側となるように、マッチ・モールド法により成形して、成形体を得た。ポリスチレン系樹脂積層発泡シートのマッチ・モールド法による成形時の二次発泡厚みが4.5〜5.0mmとなるように、加熱条件を調整した。
その後、各容器を分離するために((株)浅野研究所製、PLS−415B3−R−D)を用いて、トリミング速度80SPMの条件にてパンチングを行った。
得られた発泡シートおよび成形品に対する評価結果を、表2に示す。
【0054】
(実施例2)
実施例1において得られたポリスチレン系発泡シートに対して、以下の積層発泡シートの製造方法に従い、ポリスチレン系樹脂積層発泡樹脂を得た。
[ポリスチレン系樹脂積層発泡シートの製造方法]
得られたポリスチレン系樹脂発泡シートに、押出ラミネート法により、ハイインパクトポリスチレン樹脂(PSジャパン製、HIPS475D)を用いたフィルムを、目付量130g/m2および厚さ1.9mmとなるよう積層して、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートを得た。
なお、押出ラミネート時の押出されたフィルム状ポリスチレン樹脂の表面温度は、非接触式表面温度計(APTUS製PT−3LF)を用いて測定した結果、幅方向で225±3℃であった。
得られた積層発泡シートを、実施例1記載の成形体の製造方法に従い、成形体を得た。
得られた発泡シートおよび成形品に対する評価結果を、表2に示す。
【0055】
(実施例3)
発泡シートの基材樹脂として、懸濁重合樹脂ポリスチレンA・80重量%および塊状重合樹脂G0002・20重量%からなるポリスチレン系樹脂混合物を用いた以外は、実施例2と同様にして、積層発泡シートおよび成形品を得た。発泡シートにおける重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.72であった。
得られた発泡シートおよび成形品に対する評価結果を、表2に示す。
【0056】
(実施例4)
発泡シートの基材樹脂として、懸濁重合樹脂ポリスチレンA・60重量%および塊状重合樹脂G0002・40重量%からなるポリスチレン系樹脂混合物を用いた以外は、実施例2と同様にして、積層発泡シートおよび成形品を得た。発泡シートにおける重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.64であった。
得られた発泡シートおよび成形品に対する評価結果を、表2に示す。
【0057】
(比較例1)
発泡シートの基材樹脂として、懸濁重合樹脂ポリスチレンA・100重量%を用いた以外は、実施例1と同様にして発泡シートおよび成形品を得た。発泡シートにおける重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が3.1であった。
得られた発泡シートおよび成形品に対する評価結果を、表2に示す。
比較例1では、リップ圧縮強度の異方性が大きく、また、切り粉の発生が認められた。
【0058】
(比較例2)
発泡シートの基材樹脂として、懸濁重合樹脂ポリスチレンA・100重量%を用いた以外は、実施例2と同様にして積層発泡シートおよび成形品を得た。発泡シートにおける重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が3.1であった。
得られた発泡シートおよび成形品に対する評価結果を、表2に示す。
比較例2では、リップ圧縮強度の異方性が大きく、また、切り粉の発生が認められた。
【0059】
(比較例3)
発泡シートの基材樹脂として、懸濁重合樹脂ポリスチレンA・40重量%および塊状重合樹脂G0002・60重量%からなるポリスチレン系樹脂混合物を用いた以外は、実施例2と同様にして発泡シート及び成形品を得た。発泡シートにおける重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.56であった。
得られた発泡シートおよび成形品に対する評価結果を、表2に示す。
【0060】
(比較例4)
発泡シートの基材樹脂として、懸濁重合樹脂ポリスチレンA・20重量%および塊状重合樹脂G0002・80重量%からなるポリスチレン系樹脂混合物用いた以外は、実施例2と同様にして発泡シート及び成形品を得た。発泡シートにおける重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.48であった。
得られた発泡シートおよび成形品に対する評価結果を、表2に示す。
(比較例5)
発泡シートの基材樹脂として、塊状重合樹脂G0002・100重量%を用いた以外は、実施例1と同様にして発泡シート及び成形品を得た。発泡シートにおける重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.4であった。
得られた発泡シートおよび成形品に対する評価結果を、表2に示す。
【0061】
比較例3〜5はいずれも、成形直後の印刷性に劣り、シートにタレの発生が認められた。
【0062】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁重合法により得られたポリスチレン系樹脂95〜60重量%および塊状重合法により得られたポリスチレン系樹脂5〜40重量%からなる基材樹脂を、押出発泡して得られることを特徴とする、ポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項2】
懸濁重合法により得られるポリスチレン系樹脂の、重量平均分子量Mwが20万〜45万、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比であるMw/Mnが2.6〜4.0であり、かつ、塊状重合法により得られるポリスチレン系樹脂の、重量平均分子量Mwが20万〜45万、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比であるMw/Mnが2.0〜3.0であることを特徴とする、請求項1に記載のポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項3】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートにおける重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比であるMw/Mnが2.6〜4.0であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項4】
目付量が200g/m2以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に、目付量が100〜210g/m2であるポリスチレン系樹脂非発泡フィルムを積層してなる、厚み1.5〜2.2mmであることを特徴とする、ポリスチレン系樹脂積層発泡シート。

【公開番号】特開2008−69289(P2008−69289A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249972(P2006−249972)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】