説明

ポリスチレン系熱収縮性フィルム及びその製造方法

【課題】 熱収縮特性を維持しつつ、インキ密着性と溶剤シール性を両立させ、印刷後の伸び低下を防止した、品質バランス、印刷工程、スリーブ加工適性に優れたポリスチレン系熱収縮性フィルムをインラインコーティング法による提供。
【解決手段】 基材フィルムの少なくとも片面に易接着層を有するポリスチレン系熱収縮性フィルムにおいて、前記易接着層に水性アクリル樹脂A、水性ポリエステル樹脂B、水性ウレタン樹脂C、及び水性エポキシ系化合物Dを、前記AないしD成分の総質量に対し、A成分:15〜50質量%、B成分:15〜50質量%、C成分:5〜50質量%、D成分:5〜20質量%であり、かつA成分とB成分の合計が30〜80質量%含ませ、かつ80℃温水中で10秒間浸漬したときのフィルム主収縮方向の熱収縮率を30%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系熱収縮性フィルム及びその製造方法に関する。より詳しくは熱収縮性と耐溶剤性に優れるとともに、印刷インキ易接着性と溶剤シール性にも優れた、特に熱収縮性ラベル等に好適なポリスチレン系熱収縮性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、収縮包装、収縮結束包装、プラスチック容器の熱収縮ラベル、ガラス容器の破壊飛散防止包装、キャップシール等に広く利用されている熱収縮性フィルムの一つとしてポリスチレン系熱収縮性フィルム(以下「PSフィルム」という)が知られている(例えば、特許文献1ないし4参照)。PSフィルムは、その収縮特性がポリ塩化ビニル系熱収縮性フィルム(以下「PVCフィルム」という)に近く、シワのない、非常に美麗な外観が得られるため、近年、PVCフィルムの代替として熱収縮ラベルの基材として盛んに用いられるようになった。熱収縮ラベルは、機能や商品価値の附加、向上を目的として、表面に印刷加工が施されているのが一般的である。そのため、印刷時に均一な印刷特性が得られることは言うまでもなく、熱収縮性ラベルとして使用される際に、基材フィルムと印刷層との間の層間密着性が極めて重要である。
【0003】
基材フィルムがPSフィルムである場合(以下「PS系基材フィルム」という)、特別な物理的・化学的な前処理を行わなくても、印刷インキ中に含まれるアルコール系又はケトン系の溶剤成分によりインキ密着性を発現することは可能である。しかし、一般にPSフィルムは耐溶剤性が良好ではないため、インキ中に含まれる溶剤によりPS系基材フィルムが劣化し、印刷後に伸び特性が不十分となるおそれがある。そのため、PS系基材フィルムを熱収縮性ラベル用基材として用いた場合、熱収縮性ラベルを装着した容器が落下時にミシン目で破断を起こし、商品価値を損なう可能性がある。さらに、熱収縮性ラベルの印刷工程やスリーブ加工工程においてフィルムの切れが発生するという実用上の問題を引き起こす可能性もある。
【0004】
上記PS系基材フィルムの耐溶剤性向上のため、優れた耐溶剤性を有する成分をPS系基材フィルムに添加し、印刷後の伸びの低下を防止する方法も検討されている。しかし、この方法では耐溶剤性を向上できる反面、インキ密着性が低下し、また円筒状ラベルにした場合には、スリーブ加工工程(熱収縮性ラベルのセンターを溶剤でシールする工程)における溶剤シール性が低下する等の問題があった。
【0005】
一方、フィルムに機能層を積層する方法として、配向結晶化された基材フィルムに諸機能を付与し得る溶液を塗布した後、フィルムを延伸、熱処理する塗布延伸法(インラインコーティング法)が知られている(例えば、特許文献5ないし8参照)。この方法はフィルム製造工程内で実施可能であり、製造コスト低廉に有利であるため、特にポリエステル系フィルムの機能付与手法として広く利用されている。
【0006】
しかしながら、インラインコーティング法の場合、塗布延伸後の熱処理が不足すると、フィルム基材と塗布層との密着性が不十分となる可能性があるばかりか、ブロッキングをも生じてしまうという問題があった。通常のプラスチックフィルムは、延伸工程後に構成素材の融点付近の温度で熱処理されることにより結晶化が促進され、配向が固定されているのに対し、熱収縮性フィルムは、延伸工程後、比較的低温で熱処理され、フィルム内部に一定の構造ひずみを残存させることにより収縮特性が付与されている。そのため、インラインコーティング法による機能付与という手法は、熱処理温度が低温であるとの理由から、熱収縮性フィルムの分野ではほとんど用いられることはなかった。
【特許文献1】特開昭61−41544号公報
【特許文献2】特開2000−6329号公報
【特許文献3】特開2000−94598号公報
【特許文献4】特開2000−238192号公報
【特許文献5】特公昭54−16557号公報
【特許文献6】特開昭56−127450号公報
【特許文献7】特開昭58−124651号公報
【特許文献8】特開昭61−85436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、ポリスチレン系熱収縮性フィルムにおいて、熱収縮性ラベルとして不可欠な特性である熱収縮特性を維持しつつ、インキ密着性と溶剤シール性とを両立させながら耐溶剤性不足による印刷後の伸び低下を防止した、品質バランスに優れ、印刷工程、スリーブ加工適性に優れたポリスチレン系熱収縮性フィルムをインラインコーティング法によって提供することにある。
【0008】
また本発明はのもう一つの課題は、上記ポリスチレン系熱収縮性フィルムを用いた、収縮仕上がり性に優れ、印刷後の伸び低下が抑えられた熱収縮性ラベル及び該ラベルを装着した容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記従来技術の課題を解決するために、インラインコーティング法により塗布層を形成しても、インキ密着性が低下せず、かつブロッキングも生じない樹脂成分につき鋭意検討した。その結果、本発明者は、ポリスチレン系基材フィルムに所定の樹脂成分からなる易接着層を塗設することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の課題は、基材フィルムの少なくとも片面に易接着層を有するポリスチレン系熱収縮性フィルムであって、前記易接着層が水性アクリル樹脂A、水性ポリエステル樹脂B、水性ウレタン樹脂C、及び水性エポキシ系化合物Dを下記の条件で含み、かつ80℃温水中で10秒間浸漬したときのフィルム主収縮方向の熱収縮率が30%以上であることを特徴とするポリスチレン系熱収縮性フィルム(以下「本発明のフィルム」という)により達成される。
前記AないしD成分の総質量(100質量%)に対し、
A成分:15質量%以上50質量%以下
B成分:15質量%以上50質量%以下
C成分:5質量%以上50質量%以下
D成分:5質量%以上20質量%以下であり、かつ
A成分とB成分の合計が30質量%以上80質量%以下である。
【0011】
本発明のフィルムは、水性ポリエステル樹脂Bがアクリル系重合体をグラフト共重合した、水性ポリエステル−アクリルグラフトポリマーであることが好ましい。
【0012】
本発明のフィルムの基材フィルムは、スチレン−ブタジエンブロック共重合体からなるフィルムであることが好ましい。
【0013】
本発明のフィルムは、易接着層の厚みが0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のフィルムは、溶融押出された未延伸ポリスチレン系樹脂フィルム又は一軸延伸ポリスチレン系樹脂フィルムの少なくとも片面に、水性アクリル樹脂A、水性ポリエステル樹脂B、水性ウレタン樹脂C、及び水性エポキシ系化合物Dを以下の条件で含む水溶液又は水分散液を塗布し、乾燥した後、少なくとも一軸方向に延伸する工程を有することを特徴とする製造方法で得られることが好ましい。
前記AないしD成分の総質量(100質量%)に対し、
A成分:15質量%以上50質量%以下
B成分:15質量%以上50質量%以下
C成分:5質量%以上50質量%以下
D成分:5質量%以上20質量%以下であり、かつ
A成分とB成分の合計が30質量%以上80質量%以下である。
【0015】
また、本発明のもう一つの目的は、上記ポリスチレン系熱収縮性フィルムを用いた熱収縮性ラベル、及び該ラベルを装着した容器により達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフィルムでは、耐溶剤性が高く、かつ、インキ密着性に優れた所定の成分を、基材フィルムの少なくとも片面に易接着層として形成されているので、本発明であれば、収縮仕上がり性に優れ、印刷時のインキ溶剤による劣化を低減し、さらには溶剤クラック発生を抑えることにより、印刷後の伸び低下を抑えた、印刷加工適性に優れたポリスチレン系熱収縮性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のフィルム、熱収縮性ラベル、該ラベルを装着した容器及び本発明のフィルムの製造法につき詳しく説明する。
【0018】
[熱収縮性フィルム]
<易接着層>
本発明のフィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に易接着層を有する。前記易接着層は、水性アクリル樹脂A、水性ポリエステル樹脂B、水性ウレタン樹脂C、及びエポキシ系化合物Dを主成分として含む。なお、本明細書において「水性」とは、水溶性又は水分散性を有することを意味する。
【0019】
易接着層に含まれる水性アクリル樹脂Aは、アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートを主成分とし、これらと共重合可能でかつ官能基を有するビニル単量体成分を1モル%以上50モル%以下、好ましくは20モル%以上40モル%以下含有する樹脂である。水性アクリル樹脂Aを構成するアルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートのアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。中でもメチル基やエチル基を有するアルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートを主成分とするものを好適に用いることができる。
【0020】
また、アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートと共重合可能で官能基を有するビニル単量体成分としては、反応性官能基、自己架橋性官能基、親水性基などの官能基を有する下記の化合物が挙げられる。
【0021】
(1)カルボキシル基を有する化合物
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、これらの金属塩、アンモニウム塩など
【0022】
(2)水酸基を有する化合物
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートのようなα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類
【0023】
(3)エポキシ基を有する化合物
グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテルなど
(4)スルホン酸基を有する化合物
ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、これらの金属塩、アンモニウム塩など
【0024】
上記水性アクリル樹脂Aは、種類の異なるアルキルアクリレート又はアルキルメタクリレート成分と、それに共重合可能で官能基を有するビニル単量体成分とを混合して使用することもできる。水性アクリル樹脂Aの好適な化合物を例示すれば、メタクリル酸、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられ、中でもアクリル酸が好ましい。
【0025】
上記水性アクリル樹脂Aは、重量平均分子量(Mw)が1,000以上300,000以下、好ましくは10,000以上200,000以下の範囲であり、かつ、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上90℃以下、好ましくは40℃以上70℃以下のものである。水性アクリル樹脂Aの重量平均分子量が上記範囲内であれば、併用する他の水性樹脂と混合した場合の相溶性を良好に保つことができる。また、水性アクリル樹脂AのTgが上記範囲内であれば、ブロッキングを起こさず、かつフィルムを収縮させた場合の基材変形への追従性を良好にすることができる。
【0026】
上記水性アクリル樹脂Aの市販品としては、例えば、日本カーバイド社製:商品名ニカゾールRX7022B、楠本化成社製:ネオクリルXK90などが挙げられる。
【0027】
易接着層に含まれる水性ポリエステル樹脂Bは、ポリエステルにアクリル系重合体を枝ポリマーとして共重合した、水性ポリエステル−アクリルグラフトポリマーである。ポリエステル成分は、多塩基酸又はそのエステル誘導体と、ポリオール又はそのエステル誘導体とから合成される実質的に線状のポリマーである。
【0028】
ポリエステル多塩基酸成分としては、テレフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメロット酸、2−スルホイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸、アジピン酸、セバチン酸、コハク酸、ダイマー酸などを例示できる。また、ポリオール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン等を例示できる。
【0029】
アクリルグラフトポリマーを構成するアクリルモノマーとしては、例えばアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ含有モノマー、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチロールアクリルアミド等のアミド基含有モノマー、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー等が挙げられる。
【0030】
ポリエステル成分にアクリル系重合体をグラフトさせる方法は、公知のグラフト重合法を用いることができる。例えば、ポリエステルにラジカル、カチオン又はアニオン等の反応開始点を発生させ、アクリルモノマーをグラフト重合する方法や、連鎖移動反応を利用する方法、側鎖に官能基を有するポリエステルと、末端に前記官能基と反応する基を有するアクリルポリマーとを反応させる方法等が挙げられる。
【0031】
グラフトポリマーにおけるポリエステル成分とアクリル成分との割合(ポリエステル成分/アクリル成分)は質量%比で10/90ないし90/10であることが好ましく、20/80ないし80/20であることがさらに好ましい。ポリエステル成分が10質量%以上であれば、易接着層の耐溶剤性が得られ、印刷時のインキ溶剤によるポリスチレン基材の劣化を抑えられ、所定の効果が得られる。またアクリル成分が10質量%以上であれば、水性アクリル樹脂Aと混合した場合に良好な相溶性が得られ、均一な塗膜が得られる。
【0032】
上記水性ポリエステル樹脂Bは、ポリエステル成分及び/又はアクリル成分が異なる2種以上を混合して使用することもできる。水性ポリエステル樹脂Bの好適な化合物を例示すれば、テレフタル酸及びイソフタル酸とエチレングリコールからなるポリエステルにメチルメタクリレートとエチルアクリレートの共重合体を質量%比50/50でグラフト結合させた化合物(B1)や、テレフタル酸、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸とエチレングリコール及びネオペンチルグリコールからなるポリエステルにメチルメタクリレート、ブチルアクリレート、アクリル酸、グリシジルメタクリレートの共重合体を重量比で50:50グラフト結合させた化合物(B2)が挙げられ、中でも前記B2が好ましい。
【0033】
上記水性ポリエステル樹脂Bは、重量平均分子量(Mw)5,000以上200,000以下の範囲ものが好ましく、10,000以上150,000以下がより好ましく、20,000以上100,000以下のものが最も好ましい。また上記水性ポリエステル樹脂Bの平均粒子径は10nm以上0.5μm以下の範囲のものが好ましい。水性ポリエステル樹脂Bの重量平均分子量(Mw)が上記範囲であれば、他の水性樹脂と併用した場合の相溶性に優れ、また平均粒子径が上記範囲であれば被膜形成後の表面粗さを低く抑えられ、透明性を向上させることができる。
【0034】
上記水性ポリエステル樹脂Bの市販品としては、例えば、高松油脂製:ペスレジンA215Gなどが挙げられる。
【0035】
易接着層に含まれる水性ウレタン樹脂Cは、各種の公知の水性ポリウレタン樹脂、又はそれらに準じた水性ポリウレタン樹脂を使用することができる。具体的には、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との反応物を挙げることができる。ポリイソシアネート成分としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。また、ポリオール成分としては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングルコール等のポリエーテルポリオール類、ポリエチレンアジペート、ポリカプロラクトン等のポリエステルポリオール類、アクリル系ポリオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。
【0036】
水性ポリウレタン樹脂Cは、Tgが30℃以上80℃以下であることが好ましい。Tgが30℃以上であれば、フィルムをロール状に巻き取った際にブロッキングを起こす危険性が少なく、また延伸過程において搬送ロールに粘着するという問題を抑えることができる。また、Tgが80℃以下であれば、フィルムを熱収縮させた際に良好な収縮追従性が得られ、またクラックの発生を防止し、フィルムの白化を抑えられる。なお、Tgの異なる2種類のポリウレタン樹脂を混合して使用しても差し支えない。
【0037】
上記水性ポリウレタン樹脂Cは、ポリイソシアネート成分及び/又はポリオール成分が異なる2種以上を混合して使用することもできる。水性ポリウレタン樹脂Cの好適な化合物を例示すれば、ヘキサメチレンジイソシアネートとポリオキシエチレングリコールとの反応物であるポリエーテルタイプポリウレタンやヘキサメチレンジイソシアネートとポリエチレンアジペートとの反応物であるポリエステルタイプポリウレタン等が挙げられ、この両者を併用して使用することが好ましい。
【0038】
水性ポリウレタン樹脂Cは、重量平均分子量(Mw)2,000以上300,000以下の範囲のものが好ましく、5,000以上200,000以下の範囲ものがより好ましく、10,000以上150,000以下の範囲のものがさらに好ましい。また上記水性ポリウレタン樹脂Cの平均粒子径は10nm以上0.5μm以下の範囲のものが好ましい。水性ポリウレタン樹脂Cの重量平均分子量が上記範囲内であれば、他の水性樹脂と併用した場合の相溶性に優れ、また平均粒子径が上記範囲内であれば被膜形成後の表面粗さを低く抑えて透明性を向上させることができる。
【0039】
上記水性ポリウレタン樹脂Cの市販品としては、例えば、大日本インキ化学工業製:商品名ハイドランAP10、楠本化成製:商品名ネオレッツR989、旭電化工業製:商品名アデカボンタイターHUX232などが挙げられる。
【0040】
易接着層に含まれる水性エポキシ系化合物Dは、例えば分子内にエポキシ基を含む化合物、そのプレポリマー、及び硬化物である。具体的にはポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物としては、例えばソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが挙げられる。ジエポキシ化合物としては、例えばネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルが挙げられる。この中でもポリグリセロールポリグリシジルエーテルやジグリセロールポリグリシジルエーテルを使用することが高い水溶性を有する観点から望ましい。
【0041】
上記水性エポキシ系化合物Dは、重量平均分子量(Mw)が100以上2,000以下の範囲であることが好ましく、150以上1,000以下の範囲であることがより好ましく、200以上1,000以下の範囲であることがさらに好ましい。水性エポキシ系化合物Dの重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であれば、適度な液粘度が得られ、他の水性樹脂との相溶性を良好に維持できる。
【0042】
上記水性エポキシ系化合物Dの市販品としては、例えばナガセケミテックス社製:商品名デナコールEX−521(Mw700)を挙げることができる。
【0043】
易接着層中に主成分として含まれる水性アクリル樹脂A、水性ポリエステル樹脂B、水性ウレタン樹脂C、及び水性エポキシ化合物Dの易接着層におけるそれぞれの含有率は、前記A成分ないしD成分の質量の合計を100質量%とした場合に、A成分とB成分とはいずれも15質量%以上50質量%以下、好ましくは20質量%以上45質量%以下、さらに好ましくは25質量%以上40質量%以下とすることが重要である。また、A成分とB成分との合計の含有率は30質量%以上80質量%以下、好ましくは45質量%以上70質量%以下、さらに好ましくは55質量%以上65質量%以下とすることが重要である。
【0044】
A成分がA成分ないしD成分の総質量に対して15質量%以上含まれる場合には、印刷インキとの良好な密着性が得られ、また上限を50質量%とすることにより耐溶剤性が得られる。また、B成分がA成分ないしD成分の総質量に対して15質量%以上含まれる場合には、良好な耐溶剤性が得られるため、印刷時にインキ溶剤によるポリスチレン系基材の劣化を抑え、所定の効果が得られ、また上限を50質量%とすることにより、良好なインキ密着性が得られる。また、A成分とB成分との合計の含有率が30質量%以上80質量%以下の範囲であれば、後述するC成分とD成分の効果を十分発揮させることができる。
【0045】
C成分は、A成分ないしD成分の総質量に対して5質量%以上50質量%以下であり、15質量%以上35質量%以下であることが好ましく、20質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。C成分がA成分ないしD成分の総質量に対して5質量%以上含まれる場合には、ポリスチレン系基材との密着不足や、被膜の柔軟性不足によるクラックの発生を抑えることができ、また50%質量以下であれば、被膜の硬化が十分に進行してブロッキングの発生を抑えることができる。
【0046】
また、D成分はA成分ないしD成分の総質量に対して5質量%以上20質量%以下であり、7質量%以上15質量%以下であることが好ましい。D成分がA成分ないしD成分の総質量に対して5質量%以上含まれる場合には、十分に硬化被膜が形成され、ブロッキングの発生を抑えることができ、またD成分が20質量%以下である場合には、被膜の柔軟性不足によるクラック発生を防ぐことができる。
【0047】
<基材フィルム>
本発明で用いられる基材フィルムは、ポリスチレン系樹脂からなる。ポリスチレン系樹脂は、スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体、スチレン含有率の異なる前記共重合体を2種類以上含む混合物、前記共重合体とスチレン炭化水素又は共役ジエン系炭化水素と共重合可能なモノマーとの共重合体、又はこれらの混合物を用いることができ、中でもスチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体を用いることが好ましい。
【0048】
スチレン系炭化水素としては、例えば、ポリスチレン、ポリ(p−、m−又はo−メチルスチレン)、ポリ(2,4−、2,5−、3,4−又は3,5−ジメチルスチレン)、ポリ(p−t−ブチルスチレン)等のポリアルキルスチレン;ポリ(o−、m−又はp−クロロスチレン)、ポリ(o−、m−又はp−ブロモスチレン)、ポリ(o−、m−又はp−フルオロスチレン)、ポリ(o−メチル−p−フルオロスチレン)等のポリハロゲン化スチレン;ポリ(o−、m−又はp−クロロメチルスチレン)等のポリハロゲン化置換アルキルスチレン;ポリ(p−、m−又はo−メトキシスチレン)、ポリ(o−、m−又はp−エトキシスチレン)等のポリアルコキシスチレン;ポリ(o−、m−、又はp−カルボキシメチルスチレン)等のポリカルボキシアルキルスチレン;ポリ(p−ビニルベンジルプロピルエーテル)等のポリアルキルエーテルスチレン;ポリ(p−トリメチルシリルスチレン)等のポリアルキルシリルスチレン;さらにはポリビニルベンジルジメトキシホスファイド等が挙げられる。スチレン系炭化水素は、これら単独又は2種以上で構成されていてもよい。
【0049】
共役ジエン系炭化水素としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。共役ジエン系炭化水素は、これら単独又は2種以上で構成されていてもよい。
【0050】
スチレン系炭化水素と共重合可能なモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の脂肪族不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。中でもスチレンとブチル(メタ)アクリレートとの共重合体が特に好ましく、特に共重合体中のスチレン含有率が70質量%以上90質量%以下の範囲であり、かつTg(損失弾性率E’’のピーク温度)が50℃以上90℃以下、メルトフローレート(MFR)測定値(測定条件:温度200℃、荷重49N)が2g/10分以上15g/10分以下のものが好適に用いられる。なお、上記(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0051】
共役ジエン系炭化水素と共重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0052】
本発明で好ましく使用されるスチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体の一つは、スチレン系炭化水素がスチレンであり、共役ジエン系炭化水素がブタジエンであるスチレン−ブタジエン系共重合体(SBS)である。SBSのスチレン含有率は60質量%以上、好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。またスチレン含有率の上限は95質量%、好ましくは90質量%、さらに好ましくは85質量%である。スチレンの含有率が60質量%以上であれば、室温前後の温度でのフィルムの弾性率が保持されて良好な腰の強さが得られ、また上限を95質量%とすることにより、耐衝撃性の効果が発揮できる。スチレン系樹脂としてスチレン−ブタジエン系共重合体を用いる場合の重合形態は特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、及びテーパーブロック構造を有する共重合体のいずれの態様であってもよいが、ブロック共重合体が好ましい。
【0053】
また上記スチレン系樹脂は単独で用いてもよいし、スチレン含有率の異なる2種以上のスチレン系樹脂を混合して用いてもよい。さらに、上記スチレン系樹脂は、スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体と、前記共重合体とスチレン系炭化水素又は共役ジエン系炭化水素と共重合可能なモノマーとの共重合体との混合物であってもよい。
【0054】
上記スチレン系樹脂の分子量は、重量平均分子量(Mw)が100,000以上500,000以下、好ましくは150,000以上400,000以下、さらに好ましくは150,000以上300,000以下である。スチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)が100,000以上であれば、フィルムの劣化が生じるような欠点もなく好ましい。さらに、スチレン系樹脂の分子量が500,000以下であれば、流動特性を調整する必要なく、押出性が低下するなどの欠点もないため好ましい。
【0055】
上記スチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)測定値(測定条件:温度200℃、荷重49N)は、2g/10分以上15g/10分以下であることが好ましく、3g/10分以上10g/10分以下であることがより好ましく、3g/10分以上8g/10分以下であることがさらに好ましい。MFRが2以上であれば、押出成型時に適度な流動粘度が得られ、生産性を維持又は向上できる。また、MFRが15以下であれば、適度な樹脂の凝集力が得られるため、良好なフィルム強伸度が得られ、フィルムを脆化し難くすることができる。
【0056】
熱収縮性フィルムとして望ましい特性を付与するためには、ガラス転移温度が50〜90℃であるスチレン−ブタジエンブロック共重合体を用いることが好ましい。また本発明の基材フィルムには目的に応じて可塑剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、無機フィラー等を各用途に応じて適宜添加できる。
【0057】
<層構成>
本発明のフィルムの総厚みは特に限定されるものではないが、透明性、収縮加工性、原料コスト等の観点からは薄い方が好ましい。具体的には延伸後のフィルムの総厚みが80μm以下であり、好ましくは70μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下であり、最も好ましくは40μm以下である。また、フィルムの総厚みの下限は特に限定されないが、フィルムのハンドリング性を考慮すると、20μm以上であることが好ましい。
【0058】
本発明のフィルムにおいて、易接着層の厚みは、0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上であることが望ましい。易接着層の厚みが0.01μm以上あれば、良好な耐溶剤性が得られ、インキ溶剤によるPS系基材フィルムの劣化を抑えられる。また、易接着層の厚みの上限は0.5μm、好ましくは0.4μm、さらに好ましくは0.2μmであることが望ましい。易接着層の厚みが0.5μm以下であれば、巻き取ったロールのブロッキングを抑え、スリーブ加工工程において良好な溶剤シール性が得られるとともに、コストを抑えられる。
【0059】
本発明のフィルムの層構成は特に限定されず、単層構成であっても多層構成であってもよい。2種3層又は3種5層構成として、両外層と中間層に組成、粘弾性特性の異なる材料を使用する方が、目的とする収縮特性、自然収縮特性が得られやすいため好ましい。さらに、中間層と表裏層との間に接着性樹脂層を設けても構わない。
中間層に異なる材料からなる層を配設する場合、中間層としてはポリエステル系樹脂層、ポリオレフィン系樹脂層等が挙げられ、中でもポリエステル系樹脂層が好ましい。
【0060】
本発明のフィルムの主収縮方向(TD方向)における、80℃温水中で10秒間浸漬したときの熱収縮率は、30%以上であり、40%以上であることが好ましい。フィルム主収縮方向の熱収縮率が30%以上であれば、低温域において良好な熱収縮性が得られ、良好な収縮仕上がり性が得られる。なお、フィルム主収縮方向の熱収縮率の上限は、自然収縮を低く抑える観点からは55%が好ましく、50%がより好ましい。
【0061】
本発明のフィルムの主収縮方向に対して垂直方向(MD方向)の収縮率は、80℃温水中で10秒間加熱したときは10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。縦方向の収縮率が10%を越えるとラベル用途において収縮後に縦方向の収縮が顕著となり、寸法ずれや外観上不具合を生じる場合がある。
【0062】
本発明のフィルムの自然収縮率はできるだけ小さいほうが望ましいが、一般的に熱収縮性フィルムの自然収縮率は、例えば、30℃で30日保存後の自然収縮率が3.0%以下、好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.5%以下であることが望ましい。上記条件下における自然収縮率が3.0%であれば作製したフィルムを長期保存する場合であっても容器等に安定して装着することができ、実用上問題を生じにくい。
【0063】
本発明のフィルムの透明性は、例えば、厚み50μmのフィルムをJIS K 7105に準拠して測定した場合、ヘーズ値は10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。ヘーズ値が10%以下であれば、フィルムの透明性が得られ、ディスプレー効果を奏することができる。
【0064】
<ポリスチレン系熱収縮性フィルムの製造方法>
本発明のフィルムは、PS系基材フィルムの少なくとも片面に、上記の水性アクリル樹脂Aと水性ポリエステル樹脂Bと水性ウレタン樹脂Cと水性エポキシ系化合物Dとを上記の条件で混合した塗液を塗布し、延伸し、乾燥することによって製造できる。
【0065】
この塗液には界面活性剤、消泡剤、増粘剤、帯電防止剤、有機粒子、無機粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等の添加剤を含んでいてもよい。また、この塗液は、取り扱い上及び作業環境上、水溶液や水分散液であることが望ましいが、水を主たる媒体としており本発明の主旨を越えない範囲であれば有機溶剤を含有してもよい。
【0066】
上記塗液の固形分濃度は30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。固形分濃度が30質量%以下であれば、塗工ムラの発生を抑えることができる。塗工厚みは特に限定されるものではないが、延伸、乾燥後の易接着層の厚みが0.01μm以上0.5μm以下の範囲であることが好ましい。
【0067】
上記塗液の塗布方法としては、既知の任意の方法を選択できるが、中でもフィルムを製造する工程中で塗液を塗布する方法(インラインコーティング法)が好適に採用される。特に未延伸又は縦方向に延伸したフィルムに塗液を塗布し、その後、テンター内で横方向に延伸し、乾燥する方法が経済的にも有利である。上記塗液を塗布する方法としては、例えば、原崎勇次著、槙書店1979年発行「コーティング方式」に示される塗布技術を用いることができる。
具体的にはエアドクターコータ、ブレードコータ、ロッドコータ、ナイフコータ、リバースロールコータ、グラビアロールコータ等の技術が挙げられる。
【0068】
本発明のフィルムを構成するPS系基材フィルムの製造方法としては、公知の任意の方法を採用することができる。例えば、前述のスチレン−ブタジエンブロック共重合体を一軸又は2軸(同方向、異方向)押出機によってTダイ法によって押出して製造される。溶融押出された樹脂は、冷却ロール、空気、水等で冷却された後、熱風、温水、赤外線等の適当な方法で再加熱され、ロール法、テンター法等により、1軸又は2軸に延伸される。延伸温度は、フィルムを構成している樹脂の軟化温度や得られるフィルムに要求される用途によって変える必要があるが、概ね60℃以上130℃以下、好ましくは80℃以上120℃以下の範囲で制御される。
【0069】
前記延伸処理において、フィルム主収縮方向(フィルムの長さ方向と直角方向(TD方向))の延伸倍率は、フィルム構成組成、延伸手段、延伸温度、目的の製品形態に応じて2倍以上7倍以下、好ましくは4倍以上7倍以下の範囲で適宜決定される。また、1軸延伸にするか2軸延伸にするかは、目的の製品の用途によって決定される。
【0070】
より具体的には、スチレン−ブタジエンブロック共重合体樹脂を押出機で溶融し、Tダイにて押出した溶融体をキャストロールで冷却し、厚さ200μm以上400μm以下の未延伸フィルムを得ることが好ましい。そして、この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に80℃以上100℃以下の温度下で1.0倍以上1.5倍以下の延伸倍率で延伸した後、その直角方向(TD )に4倍から7倍の範囲で延伸し、厚さ約30μm以上60μm以下 のフィルムを作製できる。但し、延伸温度は80 ℃温水中の10秒間の熱収縮率が30%以上55%以下、好ましくは35%以上50%以下程度となるように設定するのが好ましい。さらに、延伸した後フィルムの分子配向が緩和しない時間内に速やかに、得られたフィルムの冷却を行うことも、収縮性を付与して保持する上で重要である。
【0071】
[熱収縮性ラベル及び容器]
本発明のフィルムは、フィルムの低温収縮性、収縮仕上がり性、透明性、自然収縮等に優れているため、その用途が特に制限されるものではないが、必要に応じて印刷層、蒸着層その他機能層を形成することにより、ボトル(ブローボトル)、トレー、弁当箱、総菜容器、乳製品容器等の様々な成形品として用いることができる。特に本発明のフィルムを食品容器(例えば清涼飲料水用または食品用のPETボトル、ガラス瓶、好ましくはPETボトル)用熱収縮性ラベルとして用いる場合、複雑な形状(例えば、中心がくびれた円柱、角のある四角柱、五角柱、六角柱など)であっても該形状に密着可能であり、シワやアバタ等のない美麗なラベルが装着された容器が得られる。本発明の成形品および容器は、通常の成形法を用いることにより作製することができる。
【0072】
本発明のフィルムは、優れた低温収縮性、収縮仕上がり性を有するため、高温に加熱すると変形を生じるようなプラスチック成形品の熱収縮性ラベル素材のほか、熱膨張率や吸水性等が本発明の熱収縮性フィルムとは極めて異なる材質、例えば金属、磁器、ガラス、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種を構成素材として用いた包装体(容器)の熱収縮性ラベル素材として好適に利用できる。
【0073】
本発明のフィルムが利用できるプラスチック包装体を構成する材質としては、上記の樹脂の他、ポリスチレン、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。これらのプラスチック包装体は2種以上の樹脂類の混合物でも、積層体であってもよい。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例に示す測定値及び評価は次のように行い、フィルムの流れ方向をMD、流れ方向と直角方向をTDとして記載した(主収縮方向がTDに相当する)。
【0075】
[熱収縮率]
フィルムを、主収縮方向が長くなるように幅40mm、長さ200mmの大きさに切り取り、主収縮方向(TD)の収縮量を80℃の温水バスに10秒間浸漬し測定した。熱収縮率は、収縮前の原寸に対する収縮量の比率を%値で表示した。
【0076】
[引張伸び率]
フィルムの各方向に幅15mm、長さ100mmで試験片を切り取り、その試験片をチャック間40mmで恒温槽付引張試験機((株)インテスコ製「201X 」)にセットする。これを0℃で100mm/分の試験速度でMD方向にそれぞれ引っ張り、下記式より引張伸び率を求めた。
引張伸び率={(破断した時のチャック間長さ−40mm)/40mm}×100
【0077】
[透明性]
JIS K 7105に準拠してフィルム厚み50μmでフィルムのヘーズ値を測定した。
【0078】
[収縮仕上がり]
10mm間隔の格子目を印刷したフィルムをMD100mm、TD298mmの大きさに切り取り、TDの両端を10mm重ねて溶剤で接着し、円筒状にした。この円筒状フィルムを、容量500mLのペットボトルに装着し、蒸気加熱方式の長さ3.2m(3ゾーン)の収縮トンネル中を回転させずに、約4秒間で通過させた。各ゾーンでのトンネル内雰囲気温度は蒸気量を蒸気バルブにて調整し、80℃から90℃までの範囲とした。下記基準にてフィルムの装着外観を目視評価した。
○ :シワもなく綺麗に仕上がる
△ :収縮不足はないが若干シワが入るため、外観を損ねる
× :シワが入り、ミシン目が広がりすぎて外観を損ねる
【0079】
[シール強度]
MD25mm、TD150mmの大きさで試験片を切り取り、該試験片に混合溶剤(酢酸エチル:n−ヘキサン=100:40)4μLを滴下した後、1kgの加重を3秒かけ、さらにそのシール試験片の両側を切断してMD15mmに調整した後、T 型剥離法でシール強度を5回ずつ測定した。その際、チャック間40mmとし、23℃50%RH環境下でセットして200mm/分の試験速度でTD方向に剥離強度を測定し、5回のうち剥離時の最大値をそのシール強度とした。
【0080】
[インキ密着性]
フィルムにグラビア校正機で30m/分の速度で印刷をし、印刷直後に印刷面にセロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製エルパックLP−18)を貼り、セロテープ(登録商標)の上から指で5回こすった。その直後、セロテープ(登録商標)を一気に剥がし、インキがどれほど剥離したかを目視で観察した。使用した校正機の版は80mm角ベタ版でヘリオ彫刻175Lを使用し、インキは大日精化工業(株)のOS−M65白で希釈溶剤はイソプロピルアルコールを60%と酢酸エチルを40%混合したものを使用した。
評価は、以下の5段階評価を行った。
レベル5:全くインキが剥離しなかったもの
レベル4:インキが基材に80%残ったもの
レベル3:インキが基材に50%残ったもの
レベル2:インキが基材に20%残ったもの
レベル1:完全にインキが剥離したもの
【0081】
[ブロッキング性]
片面に塗液をコートしたフィルムをMD10mm、TD100mmの大きさで試験片を切り出し、10枚を重ねた状態でプレスした。プレス条件は30℃、60%RH、10分×500kg/cm2 とした。その後フィルム同士の密着度合いを目視判定した。
○:良好。容易に剥離する。
△:普通。密着した部分が全体の50%未満
×:不良。密着した部分が全体の50%以上
【0082】
また、実施例においては下記の樹脂を使用した。
(a)スチレン−ブタジエンブロック共重合樹脂
ブタジエンを主体とする重合体ブロックとスチレン共重合体ブロックとを所定の質量比率になるようにn−ヘキサン又はシクロヘキサン中で溶液重合法によりスチレン−ブタジエンブロック共重合体を得た。各成分の質量比率は以下の通りである。
SBS−1: スチレン/ブタジエン=92/8(質量%)
SBS−2: スチレン/ブタジエン=70/30(質量%)
(b)水性アクリル樹脂(A成分)
(AC1):楠本化成社製ネオクリルXK90
(c)水性ポリエステル樹脂(PES)(B成分)
高松油脂社製ペスレジンA615GE
(d)水性ポリウレタン樹脂(C成分)
(PU1):楠本化成社製ネオレッツR600(ポリエーテル型ポリウレタン)
(PU2):楠本化成社製ネオレッツR989(ポリエステル型ポリウレタン)
(e)水性エポキシ化合物(EC)(D成分)
ナガセケミテックス社製デナコールEX521
【0083】
[実施例1]
水性アクリル樹脂(AC1)30質量部に水性ポリエステル樹脂(PES)30質量部と水性ポリウレタン樹脂(PU1)15質量部と(PU2)15質量部と水性エポキシ化合物(EC)10質量部とを加え、水で希釈し、攪拌して総固形分濃度が10質量%となるように調整して水性塗液1を作製した。
次にSBS−1とSBS−2の質量%比が40/60である樹脂混合物を押出機で溶融混練して、Tダイにて押出した溶融体をキャストロールで冷却し厚さ300μmの未延伸シートを得た。続いてこの未延伸シートに水性塗液1をリバースロールコータにて延伸乾燥後の塗布層厚みが0.1μmとなるようにコーティングした。その後テンター式延伸機にて90℃で横方向(TD方向)に5.3倍延伸し、冷却後巻取り厚さ約50μmのポリスチレン系熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0084】
[比較例1]
インラインコーティング法で易接着層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様の手順でポリスチレン系熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0085】
[実施例2〜6及び比較例2〜6]
水性樹脂成分AないしDの配合比を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様の手順でポリスチレン系熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1及び表2に示す。
【0086】
[実施例7,8]
塗布層の厚みを変更した以外は実施例1と同様の手順でポリスチレン系熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0087】
[実施例9]
基材フィルムとしてSBS−1とSBS−2の質量%比を60/40に変更した以外は実施例1と同様の手順でポリスチレン系熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0088】
[比較例7]
テンター内での延伸温度を120℃に変更した以外は実施例1と同様の手順でポリスチレン系熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0089】
[実施例10及び比較例8、9]
水性樹脂成分AないしDの配合比を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様の手順でポリスチレン系熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1及び表2に示す。
【0090】
[参考例1,2]
塗布層の厚みを変更した以外は実施例1と同様の手順でポリスチレン系熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表3に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
表1より実施例1ないし10で得られたフィルムは適当な熱収縮性とインキ密着性とを有しつつ、さらに印刷後の伸び低下が少なく、インキ溶剤による劣化の少ない熱収縮フィルムであった。また溶剤シール強度も実用上問題のない範囲であった。
これに対し、表2より比較例1ないし6、8及び9は水性塗液の構成が本発明の範囲外であるため、インキ溶剤により基材フィルムが劣化し、インキ密着性に劣る(比較例1、2及び8)、印刷後の伸びが大きく低下する(比較例1、3、4及び8)、溶剤シール強度不足(比較例9)、またはブロッキングしやすい(比較例5、6及び8)フィルムとなった。また比較例7は延伸温度が高いために熱収縮率が低くなり、収縮仕上がり外観の悪いフィルムとなった。
また、表3の参考例1及び2に示すように、易接着層の厚みが薄い場合(参考例1)には、インキ溶剤により基材が劣化し、印刷後の伸びが低下する傾向にある。また、易接着層の厚みが厚い場合(参考例2)には、ブロッキングしやすいフィルムとなる傾向にあることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のフィルムは、優れた耐溶剤性、インキ密着性、アンチブロッキング機能を有するため、ポリスチレン系熱収縮性フィルム、ラベル及び該ラベルを装着した容器として好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に易接着層を有するポリスチレン系熱収縮性フィルムであって、前記易接着層が水性アクリル樹脂A、水性ポリエステル樹脂B、水性ウレタン樹脂C、及び水性エポキシ系化合物Dを下記の条件で含み、かつ80℃温水中で10秒間浸漬したときのフィルム主収縮方向の熱収縮率が30%以上であることを特徴とするポリスチレン系熱収縮性フィルム。
前記AないしD成分の総質量(100質量%)に対し、
A成分:15質量%以上50質量%以下
B成分:15質量%以上50質量%以下
C成分:5質量%以上50質量%以下
D成分:5質量%以上20質量%以下であり、かつ
A成分とB成分の合計が30質量%以上80質量%以下である。
【請求項2】
前記水性ポリエステル樹脂Bがアクリル系重合体をグラフト共重合した、水性ポリエステル−アクリルグラフトポリマーであることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレンン系熱収縮性フィルム。
【請求項3】
前記基材フィルムがスチレン−ブタジエンブロック共重合体からなるフィルムである請求項1又は2に記載のポリスチレン系熱収縮性フィルム。
【請求項4】
前記易接着層の厚みが0.01μm以上0.5μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリスチレン系熱収縮性フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリスチレン系熱収縮性フィルムを用いた熱収縮性ラベル。
【請求項6】
請求項5に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。
【請求項7】
溶融押出された未延伸ポリスチレン系樹脂フィルム又は一軸延伸ポリスチレン系樹脂フィルムの少なくとも片面に、水性アクリル樹脂A、水性ポリエステル樹脂B、水性ウレタン樹脂C、及び水性エポキシ系化合物Dを以下の条件で含む水溶液又は水分散液を塗布し、乾燥した後、少なくとも一軸方向に延伸する工程を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のポリスチレン系熱収縮性フィルムの製造方法。
前記AないしD成分の総質量(100質量%)に対し、
A成分:15質量%以上50質量%以下
B成分:15質量%以上50質量%以下
C成分:5質量%以上50質量%以下
D成分:5質量%以上20質量%以下であり、かつ
A成分とB成分の合計が30質量%以上80質量%以下である。

【公開番号】特開2006−321165(P2006−321165A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147748(P2005−147748)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】