説明

ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法およびポリビニルアルコール系フィルム

【課題】光学特性に加え、無色透明性に優れたポリビニルアルコール系フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤を含むポリビニルアルコール系樹脂水溶液を用いて、キャスト法によりポリビニルアルコール系フィルムを製膜する工程により、ポリビニルアルコール系フィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無色透明性に優れたポリビニルアルコール系フィルムの製造方法及びそれにより得られるポリビニルアルコール系フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂を水などの溶媒に溶解して原液を調製した後、溶液流延法(キャスティング法)により製膜して、金属加熱ロール等を使用して乾燥することにより製造される。このようにして得られたポリビニルアルコール系フィルムは、透明性に優れたフィルムとして多くの用途に利用されており、その有用な用途の一つに偏光膜が挙げられる。かかる偏光膜は液晶ディスプレイの基本構成要素として用いられており、近年では高品位で高信頼性の要求される機器へとその使用が拡大されている。
【0003】
このような中、液晶テレビなどの画面の高輝度化、高精細化に伴い、従来品より一段と無色透明性に優れたポリビニルアルコール系フィルムが要望されている。また、高輝度化に伴い、光源からの紫外線や熱線によるフィルムの黄変が問題になっている。かかる対策として、重合度が1500〜5000、エチレン単位の含有量が1〜4モル%、1,2−グリコール結合量が1.4モル%以下である変性ポリビニルアルコールから製膜されたYI値20以下のポリビニルアルコール系フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、特許文献1の開示技術では、得られるポリビニルアルコール系フィルムの無色透明性が不充分である。黄色度を表すYI値が10程度では無色とは言えず、また、原反フィルムの色調に関しては言及されていない。
【0005】
したがって、近年の無色性に対する要望を鑑みると、Lab表色系におけるa値、b値が、共に限りなくゼロに近いフィルムが必要とされている。なお、a値が0のとき、b値5程度がYI値10程度に相当する。
【0006】
【特許文献1】特開2003−342322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光学特性に加え、無色透明性に優れたポリビニルアルコール系フィルムの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤を含むポリビニルアルコール系樹脂水溶液を用いて、キャスト法によりポリビニルアルコール系フィルムを製膜する工程からなるポリビニルアルコール系フィルムの製造方法に関する。
【0009】
アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤が、一般式(1):
1SO3- (1)
(ここで、R1はアルキル基を表わし、その炭素数は6〜30であり、単独のアルキル基であっても、混合アルキル基であってもよい。)
を有する脂肪族アルキルスルホン酸塩であること、または一般式(2):
2−O(C24O)nCH2CH2SO3- (2)
(ここで、R2はアルキル基を表わし、その炭素数は6〜30であり、単独のアルキル基であっても、混合アルキル基であってもよい。nは1〜20の整数を表わす。)
を有するポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸塩であることが好ましい。
【0010】
アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤が、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液中に、ポリビニルアルコール系樹脂に対して50〜1000ppm含有されていることが好ましい。
【0011】
前記製造方法は、さらに、ブルーイング剤をポリビニルアルコール系樹脂に添加する工程を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムに関する。
【0013】
さらに、本発明は、重量平均分子量が140000〜260000であるポリビニルアルコール系樹脂を用いること、フィルムの厚みが30〜70μmであること、フィルム幅が3m以上であることが好ましい。
【0014】
本発明は、前記ポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光膜、さらには偏光膜の少なくとも片面に保護膜を設けてなる偏光板に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法により製造されるポリビニルアルコール系フィルムは、光線透過率に優れるうえ、色調に優れて無色透明性に優れており、偏光サングラスや液晶表示装置などに用いられる偏光フィルムの原反として、あるいは衣類や食品などの包装に用いられる包装材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤を含むポリビニルアルコール系樹脂水溶液を用いて、キャスト法によりポリビニルアルコール系フィルムを製膜する工程からなるポリビニルアルコール系フィルムの製造方法に関する。
【0017】
以下、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法について具体的に説明する。
【0018】
本発明の製造方法においては、ポリビニルアルコール系樹脂を用いてポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製し、該水溶液をドラム型ロール(以下キャストドラムと呼ぶ)またはエンドレスベルト、好ましくはドラム型ロールに流延して製膜、乾燥することにより、ポリビニルアルコール系フィルムを製造する。
【0019】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、通常、酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルをケン化して製造される樹脂が用いられるが、本発明の製造方法では、必ずしもこれに限定されるものではなく、少量の不飽和カルボン酸(塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2〜30のオレフィン類(エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等、酢酸ビニルと共重合可能な成分を含有するものであってもよい。
【0020】
ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量はとくに限定されないが、好ましくは120000〜300000、より好ましくは140000〜260000、さらに好ましくは160000〜200000である。重量平均分子量が120000未満では、ポリビニルアルコール系樹脂を光学フィルムとする場合に充分な光学性能が得られず、300000をこえると、フィルムを偏光膜とする場合に延伸が困難となり、工業的な生産が難しく好ましくない。なお、ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、GPC−LALLS法により測定される。
【0021】
さらに、ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は97モル%以上であることが好ましく、さらには98〜100モル%、特には99〜100モル%が好ましい。ケン化度が97モル%未満では、得られるフィルムを光学フィルムとする場合に充分な光学性能が得られず好ましくない。
【0022】
本発明の製造方法において、まず、ポリビニルアルコール系樹脂粉末は、通常樹脂に含有されている酢酸ナトリウムを除去するため、洗浄される。洗浄に当たっては、メタノールあるいは水で洗浄されるが、メタノールで洗浄する方法では溶剤回収などが必要になるため、水で洗浄する方法がより好ましい。
【0023】
次に、洗浄後の含水ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを溶解し、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製するが、かかる含水ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキをそのまま水に溶解すると所望する高濃度の水溶液が得られないため、一旦脱水を行なうことが好ましい。脱水方法は特に限定されないが、遠心力を利用した方法が一般的である。
【0024】
前記洗浄及び脱水により、含水率50重量%以下、好ましくは30〜45重量%の含水ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキとすることが好ましい。含水率が50重量%を超えると、所望する水溶液濃度にすることが難しくなり好ましくない。
【0025】
通常、ポリビニルアルコール系樹脂には、製膜後のポリビニルアルコール系フィルムをキャストドラムやエンドレスベルトから剥離しやすくするために、界面活性剤が添加される。アニオン性界面活性剤としては、特開2003−342322号公報に、オクチルサルフェートやドデシルベンゼンスルホネートが例示されている。しかし、スルホン酸塩の中でもドデシルベンゼンスルホネートなどの芳香族基を有するものは黄変しやすく、フィルムのb値を増大させる。また、オクチルサルフェートなどの硫酸塩は、100℃以上の高温下で分解し、生成するNaHSO4がSUS製の槽や配管を腐食させる。その結果、配管中のポリビニルアルコール系樹脂に錆や金属が混入し、a値あるいはb値がゼロからずれる原因となっていた。なお、スルホン酸塩は高温下でも安定であり、SUSを腐食することは無い。
【0026】
したがって、本発明の製造方法においては、界面活性剤として、アルキルスルホン酸塩系のアニオン界面活性剤を使用する。本発明の製造方法で用いられるアルキルスルホン酸塩系のアニオン界面活性剤としては、
一般式(1):
1SO3- (1)
を有する脂肪族アルキルスルホン酸塩、
一般式(2):
2−O(C24O)nCH2CH2SO3- (2)
を有するポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸塩、
等が挙げられる。
【0027】
一般式(1)及び(2)中、R1、R2はアルキル基を表わし、その炭素数は6〜30、好ましくは8〜20である。R1、R2は、単独のアルキル基であっても、混合アルキル基であってもよい。また、やし油、パーム油、パーム核油、牛脂等から得られるアルキル分布を有するアルキル基であってもよい。また、一般式(2)中のnは1〜20、好ましくは1〜10の整数を表わす。
【0028】
これらの中では、耐熱性の観点から、脂肪族アルキルスルホン酸塩が好ましい。脂肪族アルキルスルホン酸塩の具体例としては、例えば、ヘキシルスルホン酸ナトリウム、ヘプチルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、ノニルスルホン酸ナトリウム、デシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウム、ヘキサデシルスルホン酸ナトリウム、オクタデシルスルホン酸ナトリウム、炭素数6〜18の脂肪族アルキルスルホン酸ナトリウムの混合物等が挙げられる。好適には、ドデシルスルホン酸ナトリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウム、ヘキサデシルスルホン酸ナトリウム、炭素数10〜18の二級アルキルスルホン酸ナトリウムの混合物等が使用される。特に、炭素数6〜30の脂肪族アルキル基を有する脂肪族アルキルスルホン酸塩が、耐光性の点より好ましく用いられる。
【0029】
また、本発明の製造方法で用いられるアルキルスルホン酸塩のカウンターカチオンとしては、特に限定されないが、Na+、Ca2+、NH4+、またはこれらの混合物が挙げられる。これらの中では、Na+が好ましい。
【0030】
アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤の添加量は、ポリビニルアルコール系樹脂に対して、好ましくは50〜1000ppm、より好ましくは100〜800ppm、特に好ましくは200〜600ppmの範囲である。添加量が50ppm未満では、界面活性剤の能力が発揮されず、製膜性が確保できない。特に、2000m以上の長尺フィルムを製膜する際に、キャストドラムからフィルムを剥離するのが困難になる。逆に、1000ppmを超えると、析出が発生し外観不良となる。
【0031】
本発明の製造方法において、ポリビニルアルコール系樹脂には、必要に応じて、グリセリンなどの一般的に使用される可塑剤が、ポリビニルアルコール系樹脂に対して30重量%以下、好ましくは3〜25重量%、さらに好ましくは5〜20重量%添加される。添加量が30重量%を超えるとフィルム強度が劣り好ましくない。
【0032】
また、本発明の製造方法においては、本発明の主旨をそこなわない範囲で、ブルーイング剤などをポリビニルアルコール系樹脂に添加して着色を行なうことができる。当然のことながら、得られるフィルムは、着色により、ある波長域の光線透過率が低下するが、可視光全域で90%以上の光線透過率は確保する必要がある。また、a値およびb値も限りなくゼロに近くなるようにする必要がある。以上を考慮すると、例えば、ブルーイング剤をポリビニルアルコール系樹脂に添加する場合、その添加量は、樹脂に対して、好ましくは10ppm以下、より好ましくは2ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。
【0033】
ポリビニルアルコール系フィルムの製膜に用いられるポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、溶解槽に、水、前述した脱水後の含水ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキ、アルキルスルホン酸塩系界面活性剤、可塑剤などを仕込み、加温し、撹拌して溶解させることにより調製される。本発明の製造方法においては、特に、上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解槽中で水蒸気を吹き込んで含水ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを溶解させることが、溶解性の点より好ましい。
【0034】
上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解槽中で水蒸気を吹き込んで含水ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを溶解させる際には、水蒸気を吹き込み、樹脂温度が40〜80℃、好ましくは45〜70℃となった時点で、撹拌を開始することが均一溶解できる点で好ましい。樹脂温度が40℃未満ではモーターの負荷が大きくなり、80℃を超えるとポリビニルアルコール系樹脂の固まりができて均一な溶解ができなくなり好ましくない。さらに、水蒸気を吹き込み、樹脂温度が90〜100℃、好ましくは95〜100℃となった時点で、缶内を加圧することも均一溶解ができる点で好ましい。樹脂温度が90℃未満では未溶解物ができ好ましくない。そして、樹脂温度が130〜150℃となったところで水蒸気の吹き込みを終了し、0.5〜3時間撹拌を続け、溶解が行なわれる。溶解後は、所望する濃度となるように濃度調整が行なわれる。
【0035】
かくして得られるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の濃度は、10〜50重量%であることが好ましく、さらに好ましくは15〜40重量%、特に好ましくは20〜30重量%である。水溶液濃度が10重量%未満では乾燥負荷が大きくなり生産能力が劣り、50重量%を超えると粘度が高くなりすぎて均一な溶解ができず好ましくない。
【0036】
次に、得られたポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、脱泡処理される。脱泡方法としては、静置脱泡や多軸押出機による脱泡等が挙げられるが、本発明の製造方法においては、生産性の点より、多軸押出機を用いて脱泡する方法が好ましい。
【0037】
脱泡処理は、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を多軸押出機に供給し、ベント部の樹脂温度を105〜180℃、好ましくは110〜160℃とし、かつ押出機先端圧力を2〜100kg/cm2、好ましくは5〜70kg/cm2として行なわれる。ベント部の樹脂温度が105℃未満では脱泡が不充分となり、180℃を超えると樹脂劣化が起こることとなる。また、押出機先端圧力が2kg/cm2未満では脱泡が不充分となり、100kg/cm2を超えると配管での樹脂漏れ等が発生し、安定生産することができなくなる。
【0038】
脱泡処理が行なわれたのち、多軸押出機から排出されたポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、一定量ずつT型スリットダイに導入され、キャストドラムまたはエンドレスベルトに流延されて、製膜、乾燥される。
【0039】
T型スリットダイとしては、通常、細長の矩形を有したT型スリットダイが用いられる。T型スリットダイ出口の樹脂温度は80〜100℃であることが好ましく、より好ましくは85〜98℃である。T型スリットダイ出口の樹脂温度が80℃未満では流動不良となり、100℃を超えると発泡し好ましくない。
【0040】
流延に際しては、キャストドラムまたはエンドレスベルトで行われるが、幅広化や長尺化、膜厚の均一性などの点からキャストドラムで行うことが好ましい。
【0041】
キャストドラムで流延製膜するにあたり、例えばドラムの回転速度は5〜30m/分であることが好ましく、特に好ましくは6〜20m/分である。ドラム型ロールの表面温度は70〜99℃であることが好ましく、より好ましくは75〜97℃である。ドラム型ロールの表面温度が70℃未満では乾燥不良となり、99℃を超えると発泡し好ましくない。
【0042】
キャストドラムで製膜されたポリビニルアルコール系フィルムの乾燥は、膜の表面と裏面とを複数の乾燥ロールに交互に通過させることにより行なわれる。乾燥ロールの表面温度は特に限定されないが、60〜100℃、さらには65〜90℃であることが好ましい。かかる表面温度が60℃未満では乾燥不良となり、100℃を超えると乾燥しすぎることとなり外観不良を招き好ましくない。また本発明においては、乾燥の後、必要に応じて熱処理を行なってもよい。
【0043】
本発明の製造方法により得られる本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、界面活性剤として、分子中に芳香環を含まないアルキルスルホン酸塩を用いて製造されているため、ほぼ完全に無色透明であり、波長360nmから波長700nmの可視光全域において、光線透過率が90%以上であり、かつa値、b値がともに−0.1〜+0.1である。また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、空気中で120℃、1時間加熱した後、もしくは空気中で300〜400nmの紫外線を20J照射した後のa値、b値がともに−1〜+1であり、充分な耐熱性と耐光性を有するものである。したがって、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、偏光膜の原反フィルムとして好ましく用いられる。
【0044】
以下、本発明のポリビニルアルコール系フィルムを用いた本発明の偏光膜の製造方法について説明する。
【0045】
本発明の偏光膜は、通常の染色、延伸、ホウ酸架橋および熱処理などの工程を経て製造される。偏光膜の製造方法としては、ポリビニルアルコール系フィルムを延伸してヨウ素または二色性染料の溶液に浸漬し染色したのち、ホウ素化合物処理する方法、延伸と染色を同時に行なったのち、ホウ素化合物処理する方法、ヨウ素または二色性染料により染色して延伸したのち、ホウ素化合物処理する方法、染色したのち、ホウ素化合物の溶液中で延伸する方法などがあり、適宜選択して用いることができる。このように、ポリビニルアルコール系フィルム(未延伸フィルム)は、延伸と染色、さらにホウ素化合物処理を別々に行なっても同時に行なってもよいが、染色工程、ホウ素化合物処理工程の少なくとも一方の工程中に一軸延伸を実施することが、生産性の点より望ましい。
【0046】
延伸は一軸方向に3〜10倍、好ましくは3.5〜7倍延伸することが望ましい。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸)を行なっても差し支えない。延伸時の温度は、40〜170℃から選ぶのが望ましい。さらに、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は一段階のみならず、製造工程の任意の範囲の段階に実施すればよい。
【0047】
フィルムへの染色は、フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行なわれる。通常は、ヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1〜2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は10〜50g/L、ヨウ化カリウム/ヨウ素の重量比は20〜100が適当である。染色時間は30〜500秒程度が実用的である。処理浴の温度は5〜50℃が好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させても差し支えない。接触手段としては浸漬、塗布、噴霧などの任意の手段が適用できる。
【0048】
染色処理されたフィルムは、ついでホウ素化合物によって処理される。ホウ素化合物としてはホウ酸、ホウ砂が実用的である。ホウ素化合物は水溶液または水−有機溶媒混合液の形で濃度0.3〜2モル/L程度で用いられ、液中には少量のヨウ化カリウムを共存させるのが実用上望ましい。処理法は浸漬法が望ましいが、もちろん塗布法、噴霧法も実施可能である。処理時の温度は40〜70℃程度、処理時間は3〜20分程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0049】
このようにして得られる本発明の偏光膜は、その片面または両面に光学的に等方性の高分子フィルムまたはシートを保護膜として積層接着して、偏光板として用いることもできる。本発明の偏光板に用いられる保護膜としては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ−4−メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド、シクロ系ないしはノルボルネン系ポリオレフィンなどのフィルムまたはシートが挙げられる。
【0050】
また、偏光膜には、薄膜化を目的として、上記保護膜の代わりに、その片面または両面にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂などの硬化性樹脂を塗布し、積層させることもできる。
【0051】
偏光膜(少なくとも片面に保護膜あるいは硬化性樹脂を積層させたものを含む)は、その一方の表面に必要に応じて、透明な感圧性接着剤層が通常知られている方法で形成されて、実用に供される場合もある。感圧性接着剤層としては、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルと、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、クロトン酸などのα−モノオレフィンカルボン酸との共重合物(アクリルニトリル、酢酸ビニル、スチロールのようなビニル単量体を添加したものも含む)を主体とするものが、偏光フィルムの偏光特性を阻害することがないので特に好ましいが、これに限定されることなく、透明性を有する感圧性接着剤であれば使用可能で、例えばポリビニルエーテル系、ゴム系などでもよい。
【0052】
本発明の偏光膜は、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、パソコン、携帯情報端末機、自動車や機械類の計器類などの液晶表示装置、サングラス、防目メガネ、立体メガネ、表示素子(CRT、LCDなど)用反射低減層、医療機器、建築材料、玩具などに用いられる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。なお、実施例中「部」、「%」とあるのは特に断りのない限り重量基準である。
【0054】
重量平均分子量、フィルムの光線透過率、a値、b値および製膜性の評価、ならびに耐熱試験および耐光試験は、次のようにして行なった。
【0055】
(1)重量平均分子量
GPC−LALLS法により、以下の条件で測定する。
1)GPC
装置:Waters製244型ゲル浸透クロマトグラフ
カラム:東ソー(株)製TSK−gel−GMPWXL(内径8mm、長さ30cm、2本)
溶媒:0.1M−トリス緩衝液(pH7.9)
流速:0.5ml/分
温度:23℃
試料濃度:0.040%
ろ過:東ソー(株)製0.45μmマイショリディスクW−25−5
注入量:0.2ml
検出感度(示差屈折率検出器):4倍
【0056】
2)LALLS
装置:Chromatrix製KMX−6型低角度レーザー光散乱光度計
温度:23℃
波長:633nm
第2ビリアル係数×濃度:0mol/g
屈折率濃度変化(dn/dc):0.159ml/g
フィルター:MILLIPORE製0.45μmフィルターHAWP01300
ゲイン:800mV
【0057】
(2)光線透過率
分光光度計(日本分光工業(株)製、商品名:「Ubest−35」)を用いて360nmから700nmにおける光線透過率を測定し、この波長域における最低値を求める。
【0058】
(3)a値およびb値
測色計(スガ試験機(株)製カラーコンピューター)を用いて、JIS Z−8722に準拠して測定する。
【0059】
(4)製膜性
4000m以上の長尺フィルムの製膜において、キャストドラムから膜を剥離する際に、ドラムへの付着で剥離できなかったものを×、問題なく剥離できたものを○として評価する。
【0060】
(5)耐熱試験
120℃で1時間の加熱は、熱風循環オーブンを用いて空気中で行なう。
【0061】
(6)耐光試験
20Jの紫外線照射は、(株)オーク製作所製露光機「EXM−1201」を用いて(80W超高圧水銀ランプ)、照度12mw/cm2で139分間照射することにより行なう。
【0062】
実施例1
500lのタンクに18℃の水200kgを入れ、撹拌しながら、重量平均分子量165000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂42kgを加え、15分間撹拌を続けた。その後一旦水を抜いた後、さらに水200kgを加え、15分間撹拌した。得られたスラリーを脱水し、含水率40%のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを得た。
【0063】
得られたポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキ70kg(樹脂分42kg)を溶解槽に入れ、可塑剤としてグリセリン4.2kg、界面活性剤としてドデシルスルホン酸ナトリウム21g(ポリビニルアルコール系樹脂に対し500ppm)、水10kgを加え、槽底から水蒸気を吹き込んだ。内部樹脂温度が50℃になった時点で撹拌(回転数:5rpm)を行ない、内部樹脂温度が100℃になった時点で系内を加圧し、150℃まで昇温した後、水蒸気の吹き込みを停止した(水蒸気の吹き込み量は合計75kg)。30分間撹拌(回転数:20rpm)を行ない均一に溶解した後、濃度調整により濃度23%のポリビニルアルコール系樹脂水溶液を得た。
【0064】
次に、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液(液温147℃)を、ギアポンプ1より2軸押出機に供給し、脱泡した後、ギアポンプ2より排出した。排出されたポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、T型スリットダイ(ストレートマニホールドダイ)よりキャストドラムに流延して製膜した。かかる流延製膜の条件は下記の通りである。
【0065】
キャストドラム
直径(R1):3200mm、幅:4.3m、回転速度:8m/分、表面温度:90℃、T型スリットダイ出口の樹脂温度:95℃
得られた膜の表面と裏面とを下記の条件にて乾燥ロールに交互に通過させながら乾燥を行なった。
【0066】
乾燥ロール
直径(R2):320mm、幅:4.3m、本数(n):10本、回転速度:8m/分、表面温度:50℃
得られたポリビニルアルコール系フィルム(長さ4000m、幅4m、厚さ50μm、ならびに耐熱試験後および耐光試験後のフィルムの各物性を表1に示す。
【0067】
実施例2
ドデシルスルホン酸ナトリウムを5g(ポリビニルアルコール系樹脂に対し119ppm)用いる以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルム、ならびに耐熱試験後および耐光試験後のフィルムの各物性を表1に示す。
【0068】
実施例3
ドデシルスルホン酸ナトリウムを38g(ポリビニルアルコール系樹脂に対し905ppm)用いる以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルム、ならびに耐熱試験後および耐光試験後のフィルムの各物性を表1に示す。
【0069】
実施例4
重量平均分子量142000のポリビニルアルコール系樹脂を用いる以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルム、ならびに耐熱試験後および耐光試験後のフィルムの光学特性を表1に示す。
【0070】
実施例5
ヘキサデシルスルホン酸ナトリウムを21g(ポリビニルアルコール系樹脂に対し500ppm)用いる以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルム、ならびに耐熱試験後および耐光試験後のフィルムの光学特性を表1に示す。
【0071】
実施例6
ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸ナトリウム(アルキル基は炭素数12〜15の直鎖アルキル基、ポリオキシエチレンの縮合度は7を中心)(日本油脂(株)製、「ニッサンアバネルS−70」(固形分35%))60g(固形分21g)(ポリビニルアルコール系樹脂に対し500ppm)用いる以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルム、ならびに耐熱試験後および耐光試験後のフィルムの光学特性を表1に示す。
【0072】
実施例7
ブルーイング剤として、三菱化学(株)製「ダイアレジンBlueLR」を0.042g(ポリビニルアルコール系樹脂に対し1ppm)用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルム、ならびに耐熱試験後および耐光試験後のフィルムの各物性を表1に示す。
【0073】
比較例1
ドデシルスルホン酸ナトリウムに代えて、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルム、ならびに耐熱試験後および耐光試験後のフィルムの光学特性を表1に示す。
【0074】
比較例2
ドデシルスルホン酸ナトリウムに代えて、ドデシル硫酸ナトリウムを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたポリビニルアルコール系フィルム、ならびに耐熱試験後および耐光試験後のフィルムの光学特性を表1に示す。
【0075】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤を含むポリビニルアルコール系樹脂水溶液を用いて、キャスト法によりポリビニルアルコール系フィルムを製膜する工程からなることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項2】
アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤が、一般式(1):
1SO3- (1)
(ここで、R1はアルキル基を表わし、その炭素数は6〜30であり、単独のアルキル基であっても、混合アルキル基であってもよい。)
を有する脂肪族アルキルスルホン酸塩であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項3】
アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤が、一般式(2):
2−O(C24O)nCH2CH2SO3- (2)
(ここで、R2はアルキル基を表わし、その炭素数は6〜30であり、単独のアルキル基であっても、混合アルキル基であってもよい。nは1〜20の整数を表わす。)
を有するポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸塩であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項4】
アルキルスルホン酸塩系の界面活性剤が、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液中に、ポリビニルアルコール系樹脂に対して50〜1000ppm含有されていることを特徴とする請求項1、2または3記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項5】
さらに、ブルーイング剤をポリビニルアルコール系樹脂に添加する工程を含むことを特徴とする請求項1、2、3または4記載ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の製造方法により得られることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項7】
重量平均分子量が140000〜260000であるポリビニルアルコール系樹脂を用いることを特徴とする請求項6記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項8】
フィルムの厚みが30〜70μmであることを特徴とする請求項6または7記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項9】
フィルム幅が3m以上であることを特徴とする請求項6、7または8記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項10】
偏光膜の原反フィルムとして用いることを特徴とする請求項6、7、8または9記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項11】
請求項6、7、8、9または10記載のポリビニルアルコール系フィルムからなることを特徴とする偏光膜。
【請求項12】
請求項11記載の偏光膜の少なくとも片面に保護膜を設けてなることを特徴とする偏光板。

【公開番号】特開2006−193694(P2006−193694A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9378(P2005−9378)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】