説明

ポリフェニレンエーテル樹脂組成物

【課題】誘電正接値が低く、例えば、配線の高密度化、信号の高周波化等に対応したプリント配線板等に好適に用いることのできるポリフェニレンエーテル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】以下の(A)、(B)の各成分;(A)ポリフェニレンエーテル骨格部を有する、エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂、(B)芳香族ビニル骨格部を有する、芳香族ビニル化合物−無水マレイン酸共重合体、を含むポリフェニレンエーテル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、プリント配線板等に好適に用いることが可能なポリフェニレンエーテル樹脂組成物及び該ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を用いて製造された樹脂ワニス、電子部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板用の絶縁材料にはコストパフォーマンスに優れるエポキシ樹脂が広く用いられており、近年、配線の高密度化への対応などからさらなる高機能化が求められている。その一つとして衛星通信などの高周波領域で使用されるプリント配線基板には、信号の遅滞を防ぐため低誘電率や低誘電正接といった誘電特性に優れた絶縁材料が要求されている。
【0003】
従来から、ポリフェニレンエーテルを含有するエポキシ樹脂組成物を用いると、優れた誘電特性を示す積層板が得られることが知られている。ポリフェニレンエーテルとエポキシ樹脂を組み合わせた材料として、例えば特許文献1にはポリフェニレンエーテルとビスフェノールA型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂等の各種エポキシ樹脂と、フェノール類やアミン類等の各種硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物が記載されている。また、特許文献2には不飽和カルボン酸又は酸無水物との反応により変性されたポリフェニレンエーテルとポリエポキシ化合物、エポキシ用硬化触媒からなるエポキシ樹脂組成物が記載されている。さらに、特許文献3にはフェノール変性ポリフェニレンエーテルと多官能エポキシ化合物、シアネート化合物、酸無水物、硬化促進剤からなるエポキシ樹脂組成物が記載されている。
【0004】
一方、芳香族ビニル化合物と無水マレイン酸からなる共重合体として、スチレンと無水マレイン酸からなるスチレン−無水マレイン酸共重合体(以下、SMA共重合体とも称する)が、エポキシ樹脂の硬化剤として使用できることが知られている。SMA共重合体をエポキシ樹脂の硬化剤として使用する樹脂組成物又は積層板として、例えば特許文献4には可撓性付与のために反応性エポキシ希釈剤とアクリロニトリル−ブタジエン共重合体を必須とする、可撓性エポキシ樹脂、SMA共重合体等による可撓性印刷配線板が記載されている。また、特許文献5にはエポキシ樹脂、芳香族ビニル化合物及び無水マレイン酸から得られる酸価が280以上の共重合樹脂、並びに、ジシアンジアミドを含有するエポキシ樹脂化合物が記載されている。さらに、特許文献6にはブロム化されたエポキシ樹脂、スチレンと無水マレイン酸の共重合樹脂、スチレン系化合物及び溶剤を含むプリプレグ、電気用積層板材料が記載されている。またさらに、特許文献7にはエポキシ樹脂、芳香族ビニル化合物と無水マレイン酸の共重合樹脂、フェノール化合物を含むプリプレグ、電気用積層板材料が記載されている。さらにまた、特許文献8にはエポキシ樹脂、カルボン酸無水物型エポキシ樹脂用架橋剤、アリル網目形成化合物を含む樹脂組成物、積層板、プリント配線板が記載されている。加えて、特許文献9には芳香族ビニル化合物と無水マレイン酸を含む共重合樹脂、共重合樹脂中にN−フェニルマレイミド及びその誘導体を含む共重合樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート化合物を含む熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ、積層板が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特公昭64−3223号公報
【特許文献2】特公平6−17452号公報
【特許文献3】特許第3525745号公報
【特許文献4】特開昭49−109476号公報
【特許文献5】特開平1−221413号公報
【特許文献6】特許第3633673号公報
【特許文献7】特許第3678258号公報
【特許文献8】特表平10−505376号公報
【特許文献9】特開2002−317085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらはいずれも、近年の配線の高密度化、信号の高周波化等に伴い要求されている低誘電正接性の観点から、なお改良の余地を有するものである。本発明は、誘電正接値が低く、例えば、配線の高密度化、信号の高周波化等に対応したプリント配線板等に好適に用いることのできるポリフェニレンエーテル樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討の結果、エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂と、芳香族ビニル化合物−無水マレイン酸共重合体とを組み合わせて用いた場合、予想外に誘電正接の低いポリフェニレンエーテル樹脂組成物が得られることを見出した。
また、かかるポリフェニレンエーテル樹脂組成物を用いることにより、配線の高密度化、信号の高周波化等に対応したプリント配線板等が実現され得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のポリフェニレンエーテル樹脂組成物等を提供する。
[1]
以下の(A)、(B)の各成分;
(A)ポリフェニレンエーテル骨格部を有する、エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂、
(B)芳香族ビニル骨格部を有する、芳香族ビニル化合物−無水マレイン酸共重合体、
を含むことを特徴とするポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
[2]
前記(A)成分が、下記一般式(1)で表される樹脂である[1]に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【化3】


(式中、Aは、水素原子もしくは下記一般式(2)
【化4】


で表される構造を示し、
m、nは1以上の整数を示し、
、R、R、R、Rx及びRyは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の官能基を示し、
、X、Y、Y及びZは、それぞれ独立に、2価の官能基を示す。)
[3]
前記ポリフェニレンエーテル骨格部の数平均分子量が500〜4000である[1]又は[2]に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
[4]
前記ポリフェニレンエーテル骨格部の前記(A)成分中に占める割合が30〜80質量%である[1]〜[3]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
[5]
前記芳香族ビニル化合物がスチレンである[1]〜[4]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
[6]
前記(B)成分の数平均分子量が1000〜10000である[1]〜[5]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
[7]
前記芳香族ビニル骨格部の前記(B)成分中に占める割合が50〜95質量%である[1]〜[6]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
[8]
前記(B)成分の酸価が100〜500mgKOH/gである[1]〜[7]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
[9]
更に、以下の(C)成分;
(C)エポキシ樹脂、
を含む[1]〜[8]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
[10]
前記ポリフェニレンエーテル骨格部の存在割合が5〜60質量%である[1]〜[9]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
[11]
前記芳香族ビニル骨格部の存在割合が20〜50質量%である[1]〜[10]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
[12]
[1]〜[11]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物と、溶剤とを含む樹脂ワニス。
[13]
[1]〜[11]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物を用いて形成された電子部材であって、プリプレグ、前記プリプレグを積層成型してなる積層板、シート、前記シートと金属箔を積層成型してなる樹脂金属箔複合体、又は前記プリプレグと金属箔を積層成型してなる金属箔積層板、のいずれかである電子部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誘電正接値が低く、例えば、配線の高密度化、信号の高周波化等に対応したプリント配線板等に好適に用いることのできるポリフェニレンエーテル樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本実施の形態のポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、以下の(A)、(B)の各成分;
(A)ポリフェニレンエーテル骨格部を有する、エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂、
(B)芳香族ビニル骨格部を有する、芳香族ビニル化合物−無水マレイン酸共重合体、
を含むことを特徴とする。
【0012】
[(A)成分]
(A)成分であるエポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂としては、より低い誘電正接値を有する樹脂組成物を実現する観点から、下記一般式(1)で表される構造を有する樹脂が好ましく用いられる。
【0013】
【化5】

【0014】
(式中、Aは、水素原子もしくは下記一般式(2)
【0015】
【化6】

【0016】
で表される構造を示し、m、nは1以上の整数を示し、R、R、R、R、Rx及びRyは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の官能基を示し、X、X、Y、Y及びZは、それぞれ独立に、2価の官能基を示す。)
【0017】
一般式(1)又は(2)において、R、R、R、R、Rx及びRyで示される1価の官能基としては、例えば、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基等が挙げられる。
【0018】
、R、R、R、Rx及びRyで示される置換されていてもよいアルキル基の「アルキル基」としては、炭素数が1〜6、好ましくは1〜3の、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0019】
、R、R、R、Rx及びRyで示される置換されていてもよいシクロアルキル基の「シクロアルキル基」としては、炭素数が3〜8のシクロアルキル基を示し、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられ、好ましくは、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。
【0020】
、R、R、R、Rx及びRyで示される置換されていてもよいアリール基の「アリール基」としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられ、好ましくはフェニル基である。
【0021】
、R、R、R、Rx及びRyで示される置換されていてもよいアラルキル基の「アラルキル基」としては、アルキル部分が上記で定義された「アルキル基」であり、アリール部分が上記で定義された「アリール基」であるアラルキル基が挙げられ、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、1−ナフチルメチル基などが挙げられ、好ましくはベンジル基である。
【0022】
、R、R、R、Rx及びRyで示される置換されていてもよいアルコキシ基の「アルコキシ基」としては、炭素数が1〜6、好ましくは1〜3の、直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基を示し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基などが挙げられ、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。
【0023】
、R、R、R、Rx及びRyで示されるアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基は、置換可能な位置に、1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。かかる置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)、炭素数1〜6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)などが挙げられる。
【0024】
、R、R及びRとしては、低減された誘電率を実現する観点及び良好な溶剤への可溶性を実現する観点から、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0025】
Rx及びRyとしては、良好な接着性を実現する観点及び低減された誘電率を実現する観点から、好ましくは水素原子である。
【0026】
また、一般式(1)において、mは、ポリフェニレンエーテル骨格部の平均の繰り返し数を表し、好ましくは1以上30以下、より好ましくは3以上15以下の整数を示す。mを1以上とすることは、誘電率及び誘電正接の低減効果を大きくする観点から好適である。一方、30以下とすることは、溶剤への可溶性を向上させる観点から好適である。
【0027】
さらに、一般式(2)において、nは、ポリフェニレンエーテル骨格部の平均の繰り返し数を表し、好ましくは1以上30以下、より好ましくは3以上15以下の整数を示す。nが1以上であると、誘電率及び誘電正接の低減効果が大きくなるため、優れた誘電特性を発現する傾向にあり、30以下であると、溶剤への可溶性が良好となる傾向にある。
【0028】
一般式(1)又は(2)において、X、X、Y、Y及びZで示される2価の官能基としては、例えば、単結合、置換されていてもよいアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基等が挙げられる。
【0029】
、X、Y、Y及びZで示される置換されていてもよいアルキレン基の「アルキレン基」としては、前記「アルキル基」から、任意の位置の水素原子をさらに1個除いて誘導される2価の基を意味し、メチレン基、エチレン基、メチルエチレン基、エチルエチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、トリメチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられ、好ましくは、メチレン基、エチレン基、メチルエチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、トリメチレン基等である。
【0030】
、X、Y、Y及びZで示される置換されていてもよいアリーレン基の「アリーレン基」としては、前記「アリール基」から、任意の位置の水素原子をさらに1個除いて誘導される2価の基を意味する。
【0031】
、X、Y、Y及びZで示される置換されていてもよいアルキレン基、アリーレン基は、置換可能な位置に、1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。かかる置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)、炭素数1〜6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)などが挙げられる。
【0032】
(A)成分において、ポリフェニレンエーテル骨格部の数平均分子量は、好ましくは500〜4000であり、より好ましくは1000〜3000であり、さらに好ましくは1000〜2500である。数平均分子量が4000以下であると、樹脂組成物の溶融粘度が適度に低く加工性が良好となる傾向にあり、500以上であると、誘電率及び誘電正接の低減効果が大きくなるため優れた誘電特性を発現する傾向にある。
なお、本実施の形態における数平均分子量は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0033】
また、(A)成分においては、ポリフェニレンエーテル骨格部を、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは40〜80質量%含有する。ポリフェニレンエーテル骨格部の割合が30質量%以上であると、誘電率及び誘電正接の低減効果が大きくなるため優れた誘電特性を発現する傾向にあり、80質量%以下であると、エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂を製造する際の樹脂の粘度が適度に低く製造が容易となる傾向にある。
【0034】
さらに、樹脂組成物全体に対する、ポリフェニレンエーテル骨格部の存在割合は、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは5質量%〜55質量%、さらに好ましくは10〜50質量%である。ポリフェニレンエーテル骨格部の存在割合が、5質量%以上であると、優れた誘電特性及び耐熱性を示す傾向があり、60質量%以下であると、樹脂の溶剤への溶解性が良好となる傾向にある。
【0035】
前記(A)成分は、いかなる方法で製造されてもよく、例えば、低分子量ポリフェニレンエーテルとエポキシ化合物を付加反応させることによって製造することができる。ここで、上記「ポリフェニレンエーテル骨格部」は、原料となるこのような低分子量ポリフェニレンエーテルに由来することができる。本実施の形態において、ポリフェニレンエーテル骨格部の質量割合や、ポリフェニレンエーテル骨格部の数平均分子量を論ずる際には、各々、原料となる低分子量ポリフェニレンエーテルの質量割合、低分子量ポリフェニレンエーテルの数平均分子量と同一視することができる。
【0036】
原料の低分子量ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されず、例えば、下記一般式(3)で表される樹脂を用いることができる。
【0037】
【化7】

【0038】
(式中、aは1以上の整数を示し、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基を示す)
【0039】
低分子量ポリフェニレンエーテルとしては、具体的には、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)、ポリ(3,5−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)等が挙げられ、中でも、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)が好ましい。
【0040】
低分子量ポリフェニレンエーテルを製造する方法としては、特に限定されず、例えば、フェノール性水酸基を2個以上有するフェノール性化合物を種結晶として、2,6−キシレノールを付加させていく方法や、高分子量ポリフェニレンエーテルを再分配反応に供し、数平均分子量を上記の好ましい範囲に調整する方法等が挙げられる。
【0041】
高分子量ポリフェニレンエーテルを再分配反応に供する方法としては、例えば、文献「Joural of Organic Chemistry,34,297〜303(1968)」に示されているように、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂をラジカル開始剤の存在下で、ビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビフェニル、ジヒドロキシジフェニルエーテル、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ピロガロール等のポリフェノール化合物と反応させて、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂の分子量を低下させる方法等を用いることができる。
【0042】
上記ラジカル開始剤としては、特に限定されず、例えば、ジクミルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−tert−ブチルクミルパーオキシヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ−tert−ブチルパーオキシヘキサン、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン〔1,4(又は1,3)−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンともいう〕、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシベンゼン、過酸化ベンゾイル等の過酸化物を用いることができる。この際、ラジカル開始剤の触媒として、さらに、ナフテン酸コバルト、4級アンモニウム塩やアミン化合物等を用いてもよい。
【0043】
(A)成分は、上記低分子量ポリフェニレンエーテルと、平均2個以上のエポキシ基を持ったエポキシ樹脂とを反応させて形成することができる。平均2個以上のエポキシ基を持ったエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスAノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノールエポキシ樹脂、脂環式アミンエポキシ樹脂、脂肪族アミンエポキシ樹脂及びこれらをハロゲン化したエポキシ樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0044】
(A)成分を得るには、例えば、上記低分子量ポリフェニレンエーテルとエポキシ樹脂を、触媒存在下、100〜200℃で1〜20時間反応させることにより得ることができる。触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物;ナトリウムメチラート、ナトリウムブチラート等のアルキレート塩;テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩;テトラフェニルホスホニウムブロミド、アミルトリフェニルホスホニウムブロミド等のホスホニウム塩;2−メチルイミダゾール、2−メチル−4−イミダゾール等のイミダゾール系、N,N―ジエチルエタノールアミン等のアミン類;塩化カリウム等の金属ハロゲン化物及びトリ−o−トリルホスフィン等から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0045】
(A)成分の含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは5〜60質量%であり、より好ましくは5〜55質量%である。5質量%以上である場合、優れた誘電特性を発現する傾向にあり、60質量%以下である場合、溶剤に溶かした時の粘度や、樹脂の溶融粘度が適度に低く作業性に優れる傾向にある。
【0046】
[(B)成分]
本実施の形態の(B)成分は、芳香族ビニル骨格部を有する。そして、(B)成分は、芳香族ビニル化合物と無水マレイン酸を必須成分として得られる共重合体である。(B)成分中の芳香族ビニル化合物の共重合割合(芳香族ビニル骨格部の存在割合)は、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは70〜95質量%である。共重合割合が50質量%以上であると、優れた誘電正接を示す傾向にあり、95質量%以下であると、接着強度が良好となる傾向にある。
【0047】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、P−tert−ブチルスチレン、クロルスチレン、ブロムスチレンなどが挙げられ、中でも、組成物の誘電正接値をより良好に低減する観点から、スチレンが好ましい。これらの芳香族ビニル化合物は、1種もしくは2種以上を適宜混合して使用することができる。
なお、スチレン−無水マレイン酸共重合体を「SMA共重合体」と略記することがある。
【0048】
(B)成分の数平均分子量は、好ましくは1000〜10000であり、より好ましくは2500〜6000、さらに好ましくは3500〜5000である。当該数平均分子量が10000以下であると樹脂組成物の加工性が良好となる傾向にあり、1000以上であると樹脂組成物の耐熱性が良好となる傾向にある。
【0049】
また、(B)成分の酸価は、好ましくは100〜500mgKOH/gであり、より好ましくは150〜400mgKOH/g、さらに好ましくは200〜300mgKOH/gである。当該酸価が100mgKOH/g以上であると、硬化物の架橋密度が高くなるため耐熱性が向上する傾向にあり、500mgKOH/g以下であると、誘電正接が良好となる傾向にある。
なお、本実施の形態における「酸価」は、共重合体中の無水マレイン酸をKOHで中和滴定することで測定される値である。
【0050】
さらに、樹脂組成物全体に対する前記芳香族ビニル骨格部の存在割合(樹脂組成物全体に対する、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の割合)は、好ましくは20〜50質量%、より好ましくは25〜45質量%、さらに好ましくは30〜40質量%である。芳香族ビニル骨格部の存在割合が、20質量%以上であると、優れた誘電正接を示す傾向があり、50質量%以下であると、難燃性及び銅ピール強度が良好となる傾向にある。
【0051】
(B)成分としては、特に限定されず、市販品を用いることができる。このような市販品としては、例えば、サートマー社製のSMAEF30(スチレン共重合割合76質量%、数平均分子量3800、酸価280mgKOH/g)、SMAEF40(スチレン共重合割合81質量%、数平均分子量4500、酸価215mgKOH/g)等が挙げられる。
【0052】
前記(B)成分の含有量は、樹脂組成物全体に対して20〜70質量%、好ましくは30〜60質量%である。(B)成分の量が、20質量%以上であると、誘電正接が良好となる傾向にあり、70質量%以下であると、接着強度と難燃性が良好となる傾向にある。
【0053】
本実施の形態のポリフェニレンエーテル樹脂組成物には、必要に応じてエポキシ樹脂硬化剤を配合することができる。
このようなエポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤;
ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン、等のアミン系硬化剤;
ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、p−キシレンノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤;
酸無水物系硬化剤;
といった顕在型硬化剤や潜在型硬化剤等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのエポキシ樹脂硬化剤の含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.001〜40質量%、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
【0054】
[(C)成分]
本実施の形態のポリフェニレンエーテル樹脂組成物には、上記必須成分(A
)及び(B)に加えて、さらに、以下の(C)成分、
(C)エポキシ樹脂、
が含まれていてもよい。
このような(C)成分としては、分子内にエポキシ基を1個以上有する樹脂であれば特に限定されず、好ましくは分子内に2個以上のエポキシ基を有する樹脂である。(C)成分としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒンダート型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂及びこれらをハロゲン化したエポキシ樹脂等が挙げられる。また、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスAノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノールエポキシ樹脂、脂環式アミンエポキシ樹脂、脂肪族アミンエポキシ樹脂等の多官能性のエポキシ樹脂を用いてもよい。なお、(C)成分のエポキシ樹脂には、(A)成分のエポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂は含まれない。
【0055】
また、(C)成分は、臭素化エポキシ樹脂、エポキシ基含有ホスファゼン化合物等の難燃性のエポキシ樹脂を含むことが、樹脂組成物の難燃性の観点から好ましい。
【0056】
(C)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して好ましくは10〜50質量部、より好ましくは15〜40質量部である。(C)成分の量が10質量部以上であると、良好な取扱い性や難燃性が付与される傾向にあり、50質量部以下であると、優れた誘電率が発現する傾向にある。
【0057】
更に、本実施の形態のポリフェニレンエーテル樹脂組成物には、必要に応じて、硬化促進剤が含まれていてもよい。
このような硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−メチル−4−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;
1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類;
トリブチルポスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;
テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩;
等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0058】
またさらに、本実施の形態のポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、必要に応じて難燃剤が含まれていてもよい。
このような難燃剤としては、例えば、リン酸エステル、縮合リン酸エステル及びホスフィン化合物のキノン誘導体等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。難燃剤の含有量としては、樹脂組成物全体に対して、好ましくは10〜40質量%である。難燃剤の含有量が、10質量%以上であると、良好な難燃性が達成される傾向にあり、40質量%以下であると、誘電正接が良好となる傾向にある。
【0059】
本実施の形態のポリフェニレンエーテル樹脂組成物を溶剤に溶解又は分散させることで樹脂ワニスとし、この樹脂ワニスを基材に含浸乾燥することにより、プリプレグを得ることができる。用いられる溶剤としては、例えば、ワニス調製に用いられる公知の溶剤を用いることができる。より具体的には、例えば、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン系溶剤や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤に加えて、ケトン類溶剤の使用が可能である。
ケトン類溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の脂肪族ケトン;
アセトフェノン等の芳香族ケトンが挙げられる。
また、例えば、ジシアンジアミド等、ケトン類溶剤に溶解しにくい硬化剤や硬化促進剤を使用する場合は、主な溶剤としてケトン類溶剤を使用すると共に、補助溶剤として、例えば、ジメチルホルムアミド、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メシチレン等の溶剤を使用するのが好ましい。これらの溶剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0060】
ワニス中の固形分濃度は、特に限定されないが、好ましくは30〜80質量%である。
【0061】
[プリプレグ]
本実施の形態のプリプレグは、例えば、上記の樹脂ワニスを基材に浸漬、塗布等により含浸させた後、加熱して溶剤を除去し、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を半硬化させる方法等により製造することができる。プリプレグの樹脂含有量は、特に限定されないが、好ましくは30〜70質量%である。
【0062】
プリプレグを製造する際に用いられる基材としては、例えば、ロービングクロス、クロス、チョップドマット、サーフェシングマット等の各種ガラス布又はガラス不織布;セラミック繊維布;アズベスト布;金属繊維布及びその他合成もしくは天然の無機繊維布;ポリビニルアルコール繊維;ポリエステル繊維;アクリル繊維;全芳香族ポリアミド繊維等の合成繊維から得られる織布又は不織布;綿布、麻布、フェルト等の天然繊維布;カーボン繊維布;クラフト紙;コットン紙;紙−ガラス混織紙等の天然セルロース系布等が挙げられる。これらの基材は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0063】
[シート]
本実施形態のシートは、例えば、上記の樹脂ワニスを支持フィルムの上に塗布し、加熱乾燥により溶剤を除去してフィルムを形成(成膜)させることで製造できる。支持フィルムに塗工する方法としてはバーコーター、リップコーター、ダイコーター、ロールコーター、ドクターブレードコーターなどが挙げられる。また支持フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリカーボネート等が挙げられる。なお、支持フィルムには離型処理やマット処理が施してあってもよい。
【0064】
[積層板]
本実施形態の積層板は、例えば、上記プリプレグ、シート箔を目的に応じた層構成で積層し加圧加熱して製造することができる。積層板を製造する方法としては、例えば、基板上にプリプレグを加熱加圧下で各層間を接着すると同時に樹脂の硬化を行い所望の厚みの積層板を製造することができる。
【0065】
[樹脂金属箔複合体]
本実施形態の樹脂金属複合体を製造する方法としては、例えば、上記樹脂ワニスを金属箔の上に塗布して製造する方法、あらかじめ作成したシート上に金属箔を加熱圧着する方法、シート上に、銅やアルミニウム等の金属をスパッタや蒸着、メッキ等の手段により積層する方法等が挙げられる。ここで用いる金属箔は、導電性であることが好ましく、例えば、銅箔、アルミニウム箔等が挙げられる。
【0066】
[金属箔積層板]
本実施の形態の金属箔積層板は、例えば、所定枚数のプリプレグと金属箔を積層して被圧体とし、この被圧体を加熱加圧して製造することができる。金属箔としては銅箔、アルミニウム箔等が使用される。加圧は、金属箔及びシートの接合と厚みの調整のために行い、加圧条件は必要に応じて選択することができる。また、硬化剤の種類に応じて、加熱温度、加熱時間を選択することができ、通常は、温度150〜300℃、圧力5〜10MPa、時間10〜300分程度で行われる。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を示して、本実施の形態をより詳細に説明する。なお、以下において%とは、質量%を意味する。
【0068】
[測定方法]
本明細書中の物性等の測定方法は以下の通りである。
(1)数平均分子量
昭和電工社製shodex A−804、A−803、A−802、A802をカラムとして用いたゲル浸透クロマトグラフィー分析を行い、分子量既知のポリスチレンの溶出時間との比較で数平均分子量を求めた。
(2)PPE濃度、SM濃度
樹脂組成物全体に対するポリフェニレンエーテル骨格部の存在割合及び芳香族ビニル骨格部(スチレン)の存在割合(質量%)を、それぞれPPE濃度及びSM濃度とした。
(3)誘電率、誘電正接
JIS−C6481に準じて、アジレントテクノロジー社製LCRメーター4284Aを用いて測定した。
(4)ガラス転移温度(Tg)
JIS−C6481に準じて、DMA法にてオリテンテック社製動的粘弾性測定装置RHEOVIBRON・DDV−25FPを用いて測定した。
(5)耐燃性
JIS−C6481に準じて測定した。
【0069】
[低分子量ポリフェニレンエーテル:製造例1]
底栓弁つきのリアクターに溶媒としてトルエン300gを入れ、90℃に加熱後、数平均分子量18000の原料ポリフェニレンエーテル(旭化成ケミカルズ(株)、SA202)100g及びポリフェノール性化合物としてビスフェノールA(BPA)8gを溶解させ、70℃に冷却した後に、触媒としてナフテン酸コバルトミネラルスピリッツ7%液(和光純薬(株))を1.6ml添加した。この中に過酸化ベンゾイル(日本油脂(株)、ナイパーBMT)の2.5%トルエン溶液400gを240分かけて添加し、70℃で240分反応させ、低分子量ポリフェニレンエーテルを製造した。この反応溶液に、炭酸水素ナトリウム水を添加し、十分洗浄(アルカリ洗浄)した後に、水溶液のみを取り除いた。このときの有機層を少量取り、GPC法により数平均分子量を求めた。得られた低分子量ポリフェニレンエーテルの数平均分子量は1820であった。
【0070】
[エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂:製造例2]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−A250)30g、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、EOCN104S)30g、触媒としてトリ−o−トリルホスフィンを0.1g添加し、十分攪拌した後、160℃まで昇温し、そこに上記の低分子量ポリフェニレンエーテル40gを滴下し、そのまま5時間反応させ、エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−1を得た。
【0071】
[エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂:製造例3]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−A250)25g、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、EOCN104S)25g、触媒としてトリ−o−トリルホスフィンを0.1g添加し、十分攪拌した後、160℃まで昇温し、そこに上記の低分子量ポリフェニレンエーテル50gを滴下し、そのまま5時間反応させ、エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−2を得た。
【0072】
[エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂:製造例4]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−A250)20g、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、EOCN104S)20g、触媒としてトリ−o−トリルホスフィンを0.1g添加し、十分攪拌した。その後160℃まで昇温し、そこに上記の低分子量ポリフェニレンエーテル60gを滴下し、そのまま5時間反応させ、エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−3を得た。
【0073】
[実施例1]
エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−1を100g、SMA共重合体(サートマー(株)製、SMAEF30)を101.8g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を0.01g用いた。これらをトリメチルベンゼン123g、メチルエチルケトン123g中で混合し、エポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
【0074】
[実施例2]
エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−1を100g、SMA共重合体(サートマー(株)製、SMAEF40)を127.6g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を0.01g用いた。これらをトリメチルベンゼン139g、メチルエチルケトン139g中で混合し、エポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
【0075】
[実施例3]
エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−2を50g、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−8018)を50g、SMA共重合体(サートマー(株)製、SMAEF30)を88.5g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を0.01g用いた。これらをトリメチルベンゼン115g、メチルエチルケトン115g中で混合し、エポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
【0076】
[実施例4]
エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−3を50g、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−8018)を50g、SMA共重合体(サートマー(株)製、SMAEF40)を99.1g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を0.04g用いた。これらをトリメチルベンゼン122g、メチルエチルケトン122g中で混合し、エポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
【0077】
[実施例5]
エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−1を40g、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−8018)を60g、SMA共重合体(サートマー(株)製、SMAEF30)を101.6g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を0.03g用いた。これらをトリメチルベンゼン123g、メチルエチルケトン123g中で混合し、エポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
【0078】
[実施例6]
エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−3を80g、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−8018)を20g、SMA共重合体(サートマー(株)製、SMAEF30)を59.3g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を0.01g用いた。これらをトリメチルベンゼン97g、メチルエチルケトン97g中で混合し、エポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
【0079】
[実施例7]
エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−2を50g、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−8018)を50g、SMA共重合体(サートマー(株)製、SMAEF30)を18.4g、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成(株)製、HN−5500)を30.2g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を0.01g用いた。これらをトリメチルベンゼン91g、メチルエチルケトン91g中で混合し、エポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
【0080】
[比較例1]
臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−8021)を90g、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、EOCN104S)を10g、ジシアンジアミド(和光純薬工業(株)製)を2.91g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を0.03g用いた。これらをトリメチルベンゼン50g、メチルエチルケトン50g、ジメチルホルムアミド26g中で混合し、エポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
【0081】
[比較例2]
エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−2を27g、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−8018)を73g、ジシアンジアミド(和光純薬工業(株)製)を2.98g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を0.02g用いた。これらをトリメチルベンゼン50g、メチルエチルケトン50g、ジメチルホルムアミド25g中で混合し、エポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
【0082】
[比較例3]
臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−8018)を90g、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、EOCN104S)を10g、SMA共重合体(サートマー(株)製、SMAEF30)を94.6g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を0.03g用いた。これらをトリメチルベンゼン119g、メチルエチルケトン119g中で混合し、エポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
【0083】
[比較例4]
エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂−3を83g、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成エポキシ(株)製、AER−8018)を17g、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成(株)製、HN−5500)を30.2g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を0.02g用いた。これらをトリメチルベンゼン80g、メチルエチルケトン80g中で混合し、エポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
【0084】
[プリプレグ及び銅張積層板の作製]
得られた実施例1〜7及び比較例1〜4のエポキシ樹脂組成物の樹脂ワニスをEガラスクロス(旭シュエーベル(株)製、2116)に含浸加熱して樹脂含有量50質量%のプリプレグを作製した。上記プリプレグを7枚、さらに両面に銅箔((株)日鉱マテリアルズ製、JTC箔0.018mm)を重ねて、190℃で1時間プレス成形して銅張積層板を作製した。
この銅張積層板の物性を、上記各測定方法に従って評価し、結果を表1にまとめた。また、PPE濃度とSM濃度との合計濃度に対し、誘電正接値をプロットした図を、図1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
上記表1及び図1から、以下の内容が読み取れる。
(1)ポリフェニレンエーテル骨格部(PPE)又はポリスチレン骨格部(SM)のいずれも含まれない比較例1、PPEのみ含まれる比較例2,4、SMのみ含まれる比較例3の配合を基に、図1の近似式1(一次の近似式。相関係数0.957。)を得ることができた。PPE、SMのどちらを用いるかによらず、相関係数が1に近い近似式を得ることができたことから、PPEとSMとは、各々が同等に、誘電正接値を低減させる効果を有するものと考えられた。
(2)一方、PPEとSMとの両者を併用する実施例1〜7の配合を基に、図1の近似式2(一次の近似式。相関係数0.943。)を得ることができた。ここで、上記近似式1と近似式2とは、異なる傾きを有する。また、傾きが小さく、しかもより低い誘電正接値領域に近似式2が位置することとなった。即ち、PPEとSMとを別個に使用する場合には生じなかった相乗的な効果により、PPEとSMとの併用物は単独物とは異なる挙動を示し、想定以上に誘電正接値が低減されることが観察された。
(3)なお、例えば、実施例3と比較例1〜3との対比により、上記相乗効果をより具体的に説明することができる。比較例1と比較例2とを対比すると、PPE濃度13%の誘電正接値に対する効果は−0.002である。また、比較例1と比較例3とを対比すると、SM濃度37%の誘電正接値に対する効果は−0.012である。従って、PPE濃度13%、且つSM濃度37%である場合の誘電正接値に対する効果は−0.014と見積もることができる。一方、比較例1と実施例3とを対比すると、PPE濃度13%、且つSM濃度36%の誘電正接値に対する効果は−0.016である。当該値は、SM濃度が37%よりも小さな値であるにも関わらず、上記のように見積もられた誘電正接値よりも小さな値(誘電正接値の低減効果がより大きい)となっている。
(4)他方、SM濃度が10質量%〜50質量%である実施例1〜6は、SM濃度が10質量%未満の実施例7に比し、より低い誘電率値、より低い誘電正接値、より高いTg値を有していた。
(5)また、PPE濃度が比較的低い実施例3〜5は、より良好な耐燃性を有していた。なお、上記表1及び図1には記載されていないが、実施例3〜5で調製された樹脂ワニスは適度な粘度を有し、取り扱い性の良好な樹脂ワニスであった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物は誘電正接値が小さく、プリント配線板用の絶縁材料の分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】PPE濃度とSM濃度との合計濃度に対し、誘電正接値をプロットした図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)、(B)の各成分;
(A)ポリフェニレンエーテル骨格部を有する、エポキシ化ポリフェニレンエーテル樹脂、
(B)芳香族ビニル骨格部を有する、芳香族ビニル化合物−無水マレイン酸共重合体、
を含むことを特徴とするポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、下記一般式(1)で表される樹脂である請求項1に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【化1】


(式中、Aは、水素原子もしくは下記一般式(2)
【化2】


で表される構造を示し、
m、nは1以上の整数を示し、
、R、R、R、Rx及びRyは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の官能基を示し、
、X、Y、Y及びZは、それぞれ独立に、2価の官能基を示す。)
【請求項3】
前記ポリフェニレンエーテル骨格部の数平均分子量が500〜4000である請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリフェニレンエーテル骨格部の前記(A)成分中に占める割合が30〜80質量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ビニル化合物がスチレンである請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)成分の数平均分子量が1000〜10000である請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項7】
前記芳香族ビニル骨格部の前記(B)成分中に占める割合が50〜95質量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項8】
前記(B)成分の酸価が100〜500mgKOH/gである請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項9】
更に、以下の(C)成分;
(C)エポキシ樹脂、
を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリフェニレンエーテル骨格部の存在割合が5〜60質量%である請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項11】
前記芳香族ビニル骨格部の存在割合が20〜50質量%である請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物と、溶剤とを含む樹脂ワニス。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物を用いて形成された電子部材であって、プリプレグ、前記プリプレグを積層成型してなる積層板、シート、前記シートと金属箔を積層成型してなる樹脂金属箔複合体、又は前記プリプレグと金属箔を積層成型してなる金属箔積層板、のいずれかである電子部材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−24064(P2009−24064A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187358(P2007−187358)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】