説明

ポリフェニレンスルフィド樹脂製中空成形体

【課題】耐熱性、耐熱水性、耐薬品性、耐アルコールガソリン透過性に優れ、かつ成形品外観、層間の密着性、柔軟性、導電性などが均衡して優れる中空成形体を提供する。
【解決手段】(A)体積固有抵抗が100Ω・cmを越え、1010Ω・cm以下である導電性樹脂組成物からなる内層、(B)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(b)ポリエーテルイミドを配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂をマトリックス相とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる中間層、(C)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂ならびに(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂をマトリックス相とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる外層を含む少なくとも3層以上の多層中空成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐熱水性、耐薬品性、耐アルコールガソリン透過性、成形品外観、層間の密着性、柔軟性、導電性などが均衡して優れPPS樹脂製導電性中空成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す)樹脂は優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアリングプラスチックとしては好適な性質を有しており、射出成形、押出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などに使用されている。熱可塑性樹脂の中空成形品は、例えば自動車のエンジンルーム内のダクト類を中心に、ポリアミド系樹脂を使用したブロー成形によって製造する技術や、チューブ類に飽和ポリエステル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリウレタンを使用した押出成形によって製造する技術が普及している。
【0003】
しかし、従来のポリアミド系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン樹脂および熱可塑性ポリウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂からなる単層中空成形品では、耐熱性、耐熱水性、耐薬品性などが不十分であることから、適用する範囲が限定されてしまうため、耐熱性、耐熱水性、耐薬品性などを一層高めた製品が要求されている。
【0004】
特に自動車燃料チューブ用としては、ポリアミド樹脂、中でもポリアミド11やポリアミド12などの柔軟ポリアミド樹脂が広く用いられているが、ポリアミド樹脂を単独で使用した場合、環境汚染問題および燃費向上から要求されているアルコールガソリンの透過防止性に対しては十分ではないと言う懸念点が指摘されその改良が望まれている。またブロー中空成形体やチューブ成形体内を燃料などの非導電性液体が流れる用途においては、成形体が帯電する場合があり、これを抑制することから中空成形体に導電性を同時に付与することも求められ場合がある。
【0005】
そこでポリフェニレンスルフィド樹脂の有する高いガソホール等の燃料バリヤー性を活かした多層中空成形体について、近年検討されるようになってきた(特許文献1〜6)。これらは、優れた耐ガソホール性と靭性を満たす技術ではあるが、いずれもPPS樹脂組成物とPPS以外の樹脂組成物の積層体であるため、積層後に特に強い曲げ加工などの加工を施した場合に、層間密着力が不十分な場合が認められるようになってきた。
【特許文献1】特開平10−138372公報(審査請求の範囲)、
【特許文献2】特開平10−180911公報(審査請求の範囲)、
【特許文献3】特開平10−182970公報(審査請求の範囲)、
【特許文献4】特開平10−230556公報(審査請求の範囲)、
【特許文献5】特開平10−296889公報(審査請求の範囲)
【特許文献6】特開2005−127503公報(審査請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来の問題点を解消し、ポリフェニレンスルフィドの特徴である耐熱性、耐熱水性、耐薬品性、耐アルコールガソリン透過性に優れ、かつ成形品外観、層間の密着性、柔軟性、導電性などが均衡して優れPPS樹脂製中空成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、下記構成からなるPPS系多層中空体である。
1.(A)体積固有抵抗が100Ω・cmを越え、1010Ω・cm以下である導電性樹脂組成物からなる内層、(B)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(b)ポリエーテルイミドを配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂をマトリックス相とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる中間層、(C)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂ならびに(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂をマトリックス相とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる外層を含む少なくとも3層以上の多層中空成形体、
2.(A)内層を構成する樹脂組成物が(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(d)導電性フィラーを1〜70重量部配合してなる1記載の多層中空成形体、
3.(B)中間層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)ポリエーテルイミドを1〜20重量部配合してなる1または2記載の多層中空成形体、
4.(C)外層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種の配合量が15重量部以上である1〜3のいずれか記載の多層中空成形体、
5.前記(A)内層と前期(B)中間層が直接接している1〜4のいずれか記載の多層中空成形体、
6.前記(B)中間層と前期(C)外層が直接接している1〜5のいずれか記載の多層中空成形体、
7.(B)中間層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中で(b)ポリエーテルイミド樹脂が平均粒径1000nm以下で分散していることを特徴とする、1〜6いずれか記載の多層中空成形体、
8.(B)中間層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に、更に(e)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を(a)ポリフェニレンスルフィド100重量部に対し、0.1〜10重量部添加してなる1〜7のいずれか記載の多層中空成形体、
9.(e)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも1種の基を有する化合物が有機シラン化合物である8記載の多層中空成形体、
10.(B)中間層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に、更に(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種を(a)ポリフェニレンスルフィド100重量部に対し、15重量部未満配合してなる1〜9のいずれか記載の多層中空成形体、
11.(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種が、密度880kg/m以下のオレフィン系共重合体である1〜11のいずれか記載の多層中空成形体、
12.(A)内層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に、更に(b)ポリエーテルイミドおよび/またはポリアミドを(a)ポリフェニレンスルフィド100重量部に対し、1〜20重量部配合してなる2〜11のいずれか記載の多層中空成形体、
13.共押出成形法によって得られた、1〜12のいずれか記載の多層中空成形体、および
14.1〜12のいずれか記載の多層中空成形体であって、自動車燃料が内部を流れるチューブである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂製中空成形体は、耐熱性、耐熱水性、耐薬品性、耐アルコールガソリン透過性、成形品外観、層間の密着性、柔軟性、導電性などが均衡して優れPPS樹脂製中空成形体に関するものであり、自動車の燃料系チューブなどに特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
【0010】
本発明のポリフェニレンスルフィド(以下PPSと称す)樹脂で使用する、PPS樹脂とは、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0011】
【化1】

【0012】
上記構造式で示される繰り返し単位を70モル%以上、特に90モル%以上、さらには98モル%以上含む重合体であることが耐熱性の点で好ましい。またPPS樹脂は、その繰り返し単位の30モル%未満を、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されることが可能である。
【0013】
【化2】

【0014】
本発明のPPS樹脂の分子量には特に制限はないが、重量平均分子量が30,000以上が好ましく、35,000以上であることがより好ましい。上限としては重量平均分子量が90,000以下が好ましく、70,000以下がより好ましい。重量平均分子量があまり低すぎると、靭性が下がる傾向にあり、重量平均分子量が高すぎると成形性を損なうため好ましくはない。
【0015】
以下に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造、条件を満たす(a)PPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではない。
【0016】
まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0017】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0018】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、本発明の目的に適した分子量の(a)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0019】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0020】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0021】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0022】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0023】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0024】
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0025】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0026】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0027】
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0028】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選ばれる。
【0029】
[分子量調節剤]
生成する(a)PPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0030】
[重合助剤]
比較的高重合度の(a)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られる(a)PPS樹脂の重合度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
【0031】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0032】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0033】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
【0034】
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
【0035】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
【0036】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0037】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0038】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0039】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが添加が容易である点からより好ましい。
【0040】
次に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明する。
【0041】
[前工程]
(a)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0042】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0043】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0044】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(a)PPS樹脂を製造する。
【0045】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0046】
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
【0047】
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
【0048】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選ばれる。
【0049】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0050】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(イ)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)−PHA過剰量(モル)〕
(ロ)上記(イ)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕
【0051】
[回収工程]
(a)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。(a)PPS樹脂は、公知の如何なる回収方法を採用しても良い。
【0052】
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いても良い。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
【0053】
また上記の回収を急冷条件下に行うことも一つの方法であり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選ばれる。
【0054】
[後処理工程]
(a)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄を施されたものであってもよい。
【0055】
酸処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、(a)PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のような(a)PPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0056】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、PH4の水溶液を80〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のPHは4以上例えばPH4〜8程度となっても良い。酸処理を施された(a)PPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0057】
熱水処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満では(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
【0058】
熱水洗浄による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量の(a)PPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。(a)PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、(a)PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
【0059】
また、処理の雰囲気は、末端基の分解は好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えた(a)PPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0060】
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、(a)PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒ
ドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピ
ロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0061】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒で(a)PPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0062】
本発明において、PPS中にCaなどのアリカリ土類金属塩導入したPPSを用いても良い。かかるアルカリ土類金属塩を導入する方法としては、上記前工程の前、前工程中、前工程後にアルカリ土類金属塩を添加する方法、重合行程前、重合行程中、重合行程後に重合釜内にアルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階でアルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でももっとも容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ土類金属塩は、酢酸塩、、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ土類金属イオンの形でPPS中に導入するのが好ましい。上記アルカリ土類金属イオン導入の際のアルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく。90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
【0063】
(a)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0064】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5〜100時間が好ましく、1〜50時間がより好ましく、2〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0065】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことが可能である。その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0066】
本発明において、好ましい(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂としては、東レ株式会社製、M2088、M2588、GR01、L2120などを挙げることができる。
【0067】
次に本発明に用いられる(b)ポリエーテルイミド樹脂および/またはポリアミド樹脂について説明する。本発明では、(B)中間層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物にポリエーテルイミドを配合する必要があり、(A)内層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物にポリエーテルイミドおよび/またはポリアミドを配合することが好ましい。かかる成分の配合はPPS樹脂の靭性を向上させ、チューブなどの環状体形成において、PPS樹脂の耐薬品性を大きく損なうこと無く、多層環状体に靭性を付与するのに効果的である。
【0068】
本発明において用いるポリエーテルイミド樹脂とは、繰り返し骨格中に、イミド結合とエーテル結合を有する樹脂である。代表的な構造として下記を例示できる。
【0069】
【化3】

【0070】
(但し、上記式中R1は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、R2は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、2〜20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、および2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基である。)上記R1、R2としては、例えば、下記式群に示される芳香族残基を有するものが好ましく使用される。
【0071】
【化4】

【0072】
本発明では、溶融成形性やコストの観点から、下記式で示される構造単位を有する、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物が好ましく使用される。このポリエーテルイミドは、“ウルテム”の商標でゼネラル・エレクトリック社から市販されている。
【0073】
【化5】

【0074】
【化6】

【0075】
本発明において用いるポリアミド樹脂はポリアミド樹脂であれば特に制限はないが、一般にアミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミドである。その主要構成成分の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−アミノカプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン、2−メチルペンタメチレンジアミンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマまたはコポリマを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0076】
本発明において、有用なポリアミド樹脂としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)などのホモポリアミド樹脂ないしはこれらの共重合体である共重合ポリアミド(ナイロン6/66、ナイロン6/10、ナイロン6/66/610、66/6T)などが挙げられ、なかでも共重合ポリアミド、ナイロン610が好ましい。これらのポリアミド樹脂は混合物として用いることもできる(“/”は共重合を表す。以下同じ)。
【0077】
上記のなかでもホモポリアミド樹脂としてはナイロン6、共重合ポリアミドとしてはナイロン6を他のポリアミド成分を共重合してなる共重合体がよりすぐれた靭性を発現させる上でより好ましく用いられ、特にナイロン6/66共重合体が靭性発現効果が高く、ナイロン6共重合量がナイロン66より多いナイロン6/66共重合体が特に好ましく用いられる。かかるナイロン6/66共重合体の共重合比は、重量比でナイロン6成分/ナイロン66成分=95/5〜65/35の範囲が特に好ましい。
【0078】
またナイロン610、ナイロン612は優れた熱安定性と比較的高い強度を有することから、これらもまた好ましいポリアミドとして挙げられる。
【0079】
一方ポリアミド樹脂(b)が、ポリアミドを構成する繰り返し単位中、アミド基1個あたりの炭素数が11以上のポリアミド、例えばポリアミド11やポリアミド12などは、特に優れた靱性を発現させる場合において、あまり良好ではない。これは、PPSとポリアミドの相互作用がPPSとアミド基間の相互作用と推察され、アミド基濃度が低すぎるとPPSとの親和性が低下するためと推察している。
【0080】
なお本発明ではポリアミドとしてナイロン46を用いることは好ましくない。理由は定かではないが本発明の目的である靭性発現効果が幾分減退する。
【0081】
したがって、本発明における好ましいポリアミド樹脂(b)は、ポリアミドを構成する繰り返し単位中、アミド基1個あたりの炭素数が6以上、11未満のものであることがこのましい。
【0082】
本発明で用いるポリアミドの重合度には特に制限はないが、より優れた靭性発現の上から、濃硫酸中、濃度1%、25℃の条件で測定した相対粘度が1.5以上、より好ましくは相対粘度が1.8〜5.5のポリアミドを用いることが好ましい。
【0083】
本発明における(B)中間層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に配合される(b)ポリエーテルイミド樹脂の配合量および、(A)内層を構成する樹脂組成物に配合される(b)ポリエーテルイミド樹脂および/またはポリアミド樹脂の配合量は、(a)PPS樹脂100重量%に対し、1〜20重量部の範囲が好ましく、2〜15重量部の範囲がより好ましい。
【0084】
(b)ポリエーテルイミド樹脂および/またはポリアミド樹脂の配合量が20重量部を越えると、PPS樹脂が有する優れた耐湿熱性、流動性等の特性が損なわれるため好ましくなく、(b)ポリエーテルイミド樹脂および/またはポリアミド樹脂の配合量が1重量部未満では、靭性発現効果が著しく減退するため好ましくない。
【0085】
本発明の(B)層を構成するPPS樹脂組成物は、(a)PPS樹脂が本来有する優れた耐熱性、耐薬品性、バリアー性とともに、優れた靭性を有するものである。かかる特性を発現させるためには、PPS樹脂が海相(連続相あるいはマトリックス)を形成し、(b)ポリエーテルイミド樹脂および/またはポリアミド樹脂が島相(分散相)を形成することが必要である。さらに(b)ポリエーテルイミド樹脂および/またはポリアミド樹脂の数平均分散粒子径が1000nm未満であることが好ましく、好ましくは500nm以下、更には300nm以下好ましい。下限としては生産性の点から1nm以上であることが好ましい。(b)ポリエーテルイミド樹脂および/またはポリアミド樹脂の数平均分散粒子径が1000nm以上の場合、バリアー性や靭性が損なわれる傾向にある。
【0086】
なおここでいう平均分散径は、PPS樹脂の融解ピーク温度+20℃の成形温度でASTM4号試験片を成形し、その中心部から−20℃にて0.1μm以下の薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、透過型電子顕微鏡で2万倍の倍率で観察した際の任意の100個の(b)ポリエーテルイミド樹脂および/またはポリアミド樹脂の分散部分について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値を求め、その後それらの平均値を求めた数平均分散粒子径である。 なお(B)層を構成するポリフェニレン樹脂組成物に(b)ポリエーテルイミド樹脂とともに(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種を15重量部未満、好ましくは10重量部未満配合することは、(b)ポリエーテルイミド樹脂との相乗効果により(B)層のPPS樹脂組成物の靭性をより向上させることに有効である。
【0087】
また(B)層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に、更に(e)相溶化剤として、エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を(a)ポリフェニレンスルフィド100重量部に対し、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜5重量部添加することは、(b)ポリエーテルイミド樹脂の微分酸化を促し、よりすぐれた靭性を発現させる上で好ましい。
【0088】
かかる(e)相溶化剤の具体例を下記する。
【0089】
エポキシ基含有化合物としてはビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5,−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビスフェノール類のグリシジルエーテル、ビスフェノールの替わりにハロゲン化ビスフェノールを用いたもの、ブタンジオールのジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系化合物等々のグリシジルエポキシ樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、エポキシ化大豆油等の線状エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の環状系の非グリシジルエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0090】
またその他ノボラック型エポキシ樹脂も挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂はエポキシ基を2個以上有し、通常ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて得られるものである。また、ノボラック型フェノール樹脂はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる。原料のフェノール類としては特に制限はないがフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、レゾルシノール、p−ターシャリーブチルフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールSおよびこれらの縮合物が挙げられる。
【0091】
またその他エポキシ基を有するオレフィン共重合体も挙げられる。かかるエポキシ基を有するオレフィン共重合体(エポキシ基含有オレフィン共重合体)としては、オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体が挙げられる。また、主鎖中に二重結合を有するオレフィン系重合体の二重結合部分をエポキシ化した共重合体も使用することができる。
【0092】
オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入するための官能基含有成分の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
【0093】
これらエポキシ基含有成分を導入する方法は特に制限なく、α−オレフィンなどとともに共重合せしめたり、オレフィン(共)重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。
【0094】
エポキシ基を含有する単量体成分の導入量はエポキシ基含有オレフィン系共重合体の原料となる単量体全体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが適当である。
【0095】
本発明で特に有用なエポキシ基含有オレフィン共重合体としては、α−オレフィンとα、β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合成分とするオレフィン系共重合体が好ましく挙げられる。上記α−オレフィンとしては、エチレンが好ましく挙げられる。また、これら共重合体にはさらに、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル、スチレン、アクリロニトリル等を共重合することも可能である。
【0096】
またかかるオレフィン共重合体はランダム、交互、ブロック、グラフトいずれの共重合様式でも良い。
【0097】
α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合してなるオレフィン共重合体は、中でも、α−オレフィン60〜99重量%とα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル1〜40重量%を共重合してなるオレフィン共重合体が特に好ましい。
【0098】
上記α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルとしては、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルおよびエタクリル酸グリシジルなどが挙げられるが、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。
【0099】
α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−ポリスチレン、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−アクリロニトリルースチレン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−PMMA、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。
【0100】
さらにエポキシ基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物などが例示できる。
【0101】
アミノ基含有化合物としてはアミノ基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0102】
イソシアネート基を1個以上含む化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,5−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートなどのイソシアネート化合物やγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物を例示することができる。
【0103】
中でも高い靱性発現効果を得る上で、イソシアネート基を1個以上含む化合物またはエポキシ基を2個以上含む化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましく、さらにイソシアネート基を1個以上含む化合物であることがより好ましい。
【0104】
次に本発明における(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種について説明する。本発明では、(C)外層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に(c)成分を配合する必要があり、(B)中間層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物にも(c)成分を配合するのが好ましい。
【0105】
本発明における(c)オレフィン系重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどを例示することができる。
【0106】
次に(c)オレフィン系共重合体としては、オレフィン系エラストマー、変性オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーなどが挙げられる。
【0107】
オレフィン系エラストマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1、イソブチレンなどのα−オレフィン単独または2種以上を重合して得られる(共)重合体、α−オレフィンとアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、などのα,β−不飽和酸およびそのアルキルエステルとの共重合体などが挙げられる。オレフィン系エラストマーの具体例としては、エチレン/プロピレン共重合体(“/”は共重合を表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/ヘキセン−1、エチレン/オクテン−1、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸ブチル共重合体などが挙げられる。
【0108】
また(c)オレフィン系共重合体として、(a)PPS樹脂に対する(c)成分の相溶性を向上させるため、変性オレフィン系エラストマーを添加することも可能である。変性オレフィン系共重合体としては、上記したオレフィン系重合体及び/またはオレフィン系共重合体にエポキシ基、酸無水物基、アイオノマーなどの官能基を有する単量体成分(官能基含有成分)を導入することにより得られるが、その官能基含有成分の例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ[2.2.1]5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、エンドビシクロ−[2.2.1]5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物などの酸無水物基を含有する単量体、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体、カルボン酸金属錯体などのアイオノマーを含有する単量体が挙げられる。
【0109】
これら官能基含有成分を導入する方法は特に制限なく、前記オレフィン系(共)重合体として用いられるのと同様のオレフィン系(共)重合体を(共)重合する際に共重合せしめたり、オレフィン系(共)重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。官能基含有成分の導入量は変性オレフィン系(共)重合体を構成する全単量体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが適当である。
【0110】
特に有用なオレフィン重合体にエポキシ基、酸無水物基、アイオノマーなどの官能基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン(共)重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸メチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体の亜鉛錯体、エチレン/メタクリル酸共重合体のマグネシウム錯体、エチレン/メタクリル酸共重合体のナトリウム錯体あるいは、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィンとα,βー不飽和酸のグリシジルエステルに加え、更に下記一般式で示される単量体)を必須成分とするエポキシ基含有オレフィン系共重合体もまた好適に用いられる。
【0111】
【化7】

【0112】
(ここで、Rは水素または低級アルキル基を示し、Xは−COOR基、−CN基あるいは芳香族基から選ばれた1種また2種以上の基。またRは炭素数1〜10のアルキル基を示す)などを挙げることができる。
【0113】
好ましいものとしては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0114】
とりわけ好ましいものとしては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体などが挙げられる。
【0115】
一方、スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/エチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/イソプレンン共重合体などが挙げられるが、なかでもスチレン/ブタジエン共重合体が好ましい。さらに好ましくは、スチレン/ブタジエン共重合体のエポキシ化物が挙げられる。
【0116】
なお本発明における(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種として、その密度が880kg/m以下のオレフィン系共重合体を用いることは、より高い靭性を発現させる上で好ましい方法の一つである。オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種の密度の下限には特に制限は無いが耐熱性の観点から820kg/m以上が好ましい。
【0117】
またその他の熱可塑性エラストマー、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラエチレングリコールブロック共重合体、ポリアミド/ポリエチレンオキサイドブロック共重合体などのハードセグメントとソフトセグメントからなるエラストマーも例示できる。
【0118】
本発明の(A)内層を構成する樹脂組成物は、体積固有抵抗が100Ω・cmを越え、1010Ω・cm以下である必要があるが、(d)導電性フィラーを含有することが好ましい。使用樹脂としては、PPS樹脂、エチレンテトラフルオロポリマー、熱可塑性ポリエステル(PBT、PBNなど)などを用い得るがPPS樹脂が特に好ましい。
【0119】
本発明に用い得る(d)導電性フィラーは、通常樹脂の導電化に用いられる導電性フィラーであれば特に制限は無く、その具体例としては、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維、金属酸化物、導電性物質で被覆された無機フィラー、カーボン粉末、黒鉛、炭素繊維、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどが挙げられる。金属粉、金属フレーク、金属リボンの金属種の具体例としては銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。金属繊維の金属種の具体例としては鉄、銅、ステンレス、アルミニウム、黄銅などが例示できる。かかる金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維はチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。金属酸化物の具体例としてはSnO(アンチモンドープ)、In(アンチモンドープ)、ZnO(アルミニウムドープ)などが例示でき、これらはチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。
【0120】
導電性物質で被覆された無機フィラーにおける導電性物質の具体例としてはアルミニウム、ニッケル、銀、カーボン、SnO(アンチモンドープ)、In(アンチモンドープ)などが例示できる。また被覆される無機フィラーとしては、マイカ、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカー、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、ホウ酸アルミウィスカー、酸化亜鉛系ウィスカー、酸化チタン酸系ウィスカー、炭化珪素ウィスカーなどが例示できる。被覆方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、無電解メッキ法、焼き付け法などが挙げられる。またこれらはチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。
【0121】
カーボン粉末はその原料、製造法からアセチレンブラック、ガスブラック、オイルブラック、ナフタリンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラックなどに分類される。本発明で用いることのできるカーボン粉末は、その原料、製造法は特に限定されないが、アセチレンブラック、ファーネスブラックが特に好適に用いられる。またカーボン粉末は、その粒子径、表面積、DBP吸油量、灰分などの特性の異なる種々のカーボン粉末が製造されている。本発明で用いることのできるカーボン粉末は、これら特性に特に制限は無いが、強度、電気伝導度のバランスの点から、平均粒径が500nm以下、特に5〜100nm、更には10〜70nmが好ましい。また表面積(BET法)は10m/g以上、更には30m/g以上が好まし。またDBP給油量は50ml/100g以上、特に100ml/100g以上が好ましい。また灰分は0.5%以下、特に0.3%以下が好ましい。
【0122】
かかるカーボン粉末はチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。また溶融混練作業性を向上させるために造粒されたものを用いることも可能である。
【0123】
中空体の最内層は、しばしば表面の平滑性が求められる。かかる観点から、本発明で用いられる導電性フィラーは、高いアスペクト比を有する繊維状フィラーよりも、粉状、粒状、板状、鱗片状、或いは樹脂組成物中の長さ/直径比が200以下の繊維状のいずれかの形態であることが好ましい。
【0124】
上記導電性フィラーは、2種以上を併用して用いても良い。かかる導電性フィラー、導電性ポリマーの中で、特にカーボンブラックが強度、コスト的に特に好適に用いられる。
【0125】
本発明で用いられる導電性フィラーの含有量は、用いる導電性フィラーの種類により異なるため、一概に規定はできないが、導電性と流動性、機械的強度などとのバランスの点から、PPS樹脂100重量部に対し、1〜70重量部、好ましくは2〜30重量部の範囲が好ましく選択される。
【0126】
また(A)内層を構成する樹脂組成物(導電樹脂組成物)は、十分な帯電防止性能を得る意味で、その体積固有抵抗が1010Ω・cm以下であることが好ましい。但し上記導電性フィラーの配合は一般に強度、流動性の悪化を招きやすい。そのため目標とする導電レベルが得られれば、上記導電性フィラー、導電性ポリマーの配合量はできるだけ少ない方が望ましい。目標とする導電レベルは用途によって異なるが、通常体積固有抵抗が100Ω・cmを越え、1010Ω・cm以下の範囲である。ここで、体積固有抵抗とは、厚み0.3cm、直径100mmの成形体で測定した値である。
【0127】
本発明の中空成形体の層構成の例としては、以下を挙げることができる。
内層側 (A)層/(B)層/(C)層 外層側 の3層構成
内層側 (A)層/(B)層/組成の異なる(C)層/(D)PPS以外の樹脂層 外層側 の4層構成
【0128】
中でも導電性を必要とする場合は、内層側 (A)層/(B)層/(C)層 外層側 の3層構成が、(B)層がバリヤー層となることから、(A)層は靭性と伝導性を具備しておけば済むため、層数はふえるものの、樹脂組成物の設計や成形加工上の制約が少なくなることから、特に優れた層構成と言える。
【0129】
本発明では、(A)内層と(B)中間層、(B)中間層と(C)外層が直接接する構成となっている中空成形体が好ましい。
【0130】
本発明において最内層(A)を形成する導電性樹脂組成物における、構成樹脂100重量部に対する、(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種の配合量に特に制限はないが、通常5〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは15〜35重量部が好ましい。(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種の配合量があまり多すぎると、ガソホールと接触時に導電性が低下する場合があるため、靭性範囲が許す限りにおいて、(c)成分は少ない方が好ましい。
【0131】
本発明において(B)層に接合する(C)層は高い靭性を有する必要があることから、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種の配合量が15重量部以上であることが好ましく25重量部以上が更に好ましい。PPS樹脂相がマトリックスを形成していれば上限には特に制限はないが、通常PPS樹脂相がマトリックスを形成するためには、(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種の配合量が通常100重量部以下であることが好ましい。(C)層の(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種の配合量が15重量部未満では、靭性が著しく損なわれるため好ましくない。
【0132】
本発明においては、高い耐熱性及び熱安定性を保持するために、各層を構成するPPS樹脂組成物にフェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の酸化防止剤を含有せしめることが好ましい態様の一つである。(a)PPS樹脂100重量部に対して、かかる酸化防止剤の配合量は、耐熱改良効果の点からは0.01重量部以上であることが好ましく、成型時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下が好ましい。また、フェノール系及びリン系酸化防止剤を併用して使用することは、特に耐熱性及び熱安定性保持効果が大きく好ましい。
【0133】
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−t−ブチル−(5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0134】
中でも、エステル型高分子ヒンダードフェノールタイプが好ましく、具体的には、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが好ましく用いられる。
【0135】
次にリン系酸化防止剤としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5−ジーブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。
【0136】
中でも、PPS樹脂のコンパウンド中に酸化防止剤の揮発や分解を少なくするために、酸化防止剤の融点が高いものが好ましく、具体的にはビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイトなどが好ましく用いられる。
【0137】
本発明ではさらに耐熱性、機械強度等の特性を向上させるために、本発明の効果を損なわない範囲で、下記強化材を配合することも可能である。かかる強化材の具体例としては、繊維状もしくは、板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品など非繊維状の充填剤(無機充填剤でも有機充填剤でもよい)が挙げられ、具体的には例えば、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、ガラス繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、バサルト繊維や黄銅繊維などの金属繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、アルミナ水和物(ウィスカー・板状)、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、タルク、カオリン、シリカ(破砕状・球状)、石英、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、破砕状・不定形状ガラス、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化アルミニウム(破砕状)、酸化チタン(破砕状)、酸化亜鉛などの金属酸化物、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、窒化アルミニウム、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物などが挙げられる。金属粉、金属フレーク、金属リボンの金属種の具体例としては銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。
【0138】
なお、本発明に使用する上記の充填剤はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0139】
本発明において、本発明の効果を損なわない範囲で、各層を構成するPPS樹脂組成物に(a)、(b)以外の樹脂を配合しても良い。かかる樹脂の例としてはシクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂等が挙げられる
本発明において、よりすぐれた靭性を発現させるため、(A)層および/または(C)層を構成するPPS樹脂組成物に、シラン化合物を添加することが可能である。シラン化合物としては、エポキシシラン化合物、アミノシラン化合物、ウレイドシラン化合物、イソシアネートシラン化合物のほか種々のものが使用できる。シラン化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。シラン化合物の配合量は、本発明の効果、ならびに機械強度のバランスから、(A)PPS樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。
【0140】
本発明におけるPPS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(モンタン酸及びその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、燐酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)などが挙げられる。
【0141】
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。
【0142】
本発明のPPS樹脂組成物の製造方法は、通常公知の方法で製造される。例えば、(a)PPS樹脂、(b)成分、(c)成分、(d)成分、(e)成分、その他の必要な添加剤を予備混合して、またはせずに押出機などに供給して十分溶融混練することにより調製される。また、一部の成分を主ホッパーから供給し、残りの成分をサイドフィーダーから供給する方法などが挙げられる。また2度に分けて溶融混練しても良い。
【0143】
本発明の脂組成物を製造するに際し、例えば“ユニメルト”(R)タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機およびニーダタイプの混練機などを用いて180〜350℃で溶融混練して組成物とすることができる。
【0144】
次に、本発明の中空成形品の製造方法の1例である管状成形体を例にして説明するが、もちろん下記に限定されるものではない。即ち、層の数もしくは材料の数の押出機より押し出された溶融樹脂を、一つの多層チューブ用ダイスに導入し、ダイス内もしくはダイスを出た直後に接着せしめることにより、多層チューブを製造することができる。また、一旦単層チューブを製造し、その内側あるいは外側に他の層を積層し、多層チューブを製造する方法によってもよい。なお、三層以上の多層構成からなる多層チューブを製造する場合には、押出機を適宜に増設してそれぞれの押出機を共押出ダイに接続し、多層状のパリソンを押出すことにより得られる。
【0145】
このようにして得られた本発明の中空成形品は、耐熱性、耐熱水性、耐薬品性、耐摩耗性および成形品外観、靭性、導電性に優れると共に、特に層間密着強さが強固であり、ボトル、タンクおよびダクトなどのブロー成形品、パイプ、チューブなどの押出成形品として、自動車部品、電気・電子部品、および薬品用途に有効であるが、特に本発明の多層管状成形体は、上記特性を十分に発揮される燃料チューブ用途、特に自動車などの内燃機関用途に好ましく適用される。
【実施例】
【0146】
評価方法
[層間密着強さ]チューブを短冊状にカットし、短冊の端部の内層と外層を剥離させ、各層を引張試験機のチャックに挟み、下記条件で180度剥離強さ(Kg/10mm)を測定した。引張速度10mm/min、ロ.テストピースサイズ:幅5mm,長さ:100mm
【0147】
[ガソリン透過性]チューブを30cmにカットしたチューブの一端を密栓し、内部に市販レギュラーガソリンとメチルアルコールを85対15に混合したアルコールガソリン混合物を入れ、残りの端部も密栓した。その後、全体の重量を測定し、試験チューブを40℃のオーブンにいれ、重量変化によりアルコールガソリン透過性を評価した。
【0148】
[強度測定]外層PPS樹脂組成物ペレットを用い、樹脂温度320℃、金型温度150℃の条件下、射出成形にて測定サンプルを成形した。このサンプルを用い、ASTMD256法に従ってノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定した。
【0149】
[体積固有抵抗]導電性樹脂組成物ペレットを用い、樹脂温度320℃、金型温度150℃の条件下、厚み0.3cm、直径100mmの成形体を射出成形にて成形し、これをサンプルとした。測定には、タケダ理研工業(株)製 TR6877 Computing Digital Multimeterを用いた。
【0150】
[モルホロジーの観察]
B層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を、住友−ネスタール射出成形機SG75を用い、樹脂温度310℃、金型温度150℃でASTM4号ダンベル片を成形した。この試験片の中央部を流れ方向に対して直角方向に切断し、その断面の中心部から、−20℃で0.1μm以下の薄片を切削し、日立製作所製H−7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50〜60万倍)にて、1万〜2万倍に拡大してポリエーテルイミド樹脂の分散粒径を測定した。
【0151】
[キンク性]
チューブを半径Rmmの円筒に巻き付け、その際チューブが折れず、かつ扁平したチューブの短径が元の50%以上である、最小円筒半径Rをもって評価した。最小円筒半径Rが小さいほどチューブとしての柔軟性に優れていることを示す。
【0152】
参考例1 PPSの製造
PPS−1の製造
充填材入り精留塔を取り付けた撹拌機付きオートクレーブに濃度48wt%の水硫化ナトリウム水溶液2.923kg(水硫化ナトリウム換算で25.0モル)、濃度48wt%の水酸化ナトリウム水溶液2.188kg(水酸化ナトリウム換算で26.3モル)、NMP4.090kg(41.3モル)及び無水酢酸ナトリウム0.8kg(9.8モル)を室温で仕込んだ。常圧で窒素を通じて撹拌しながら240℃まで約2.5時間かけて徐々に加熱して2.658kgの水を留出した。このときに飛散した硫化水素は0.4モルであった。
【0153】
次にオートクレーブを180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン3.655kg(25.4モル)ならびにNMP3.345kg(33.8モル)を加えて、窒素下に密閉し、270℃まで160分かけて昇温後、270℃で80分反応した。反応後、水0.45kgを15分かけてオートクレーブに投入しながら250℃まで冷却した後、220℃まで75分かけて冷却を行った。その後、12.5リットルのNMP中に内容物を投入し85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾別して固形物を得た。得られた固形物を再度NMP12.5リットルで洗浄、濾過した。次に得られた固形物を25リットルの水(70℃)で3回洗浄、濾別した。ついで得られた固形物を、酢酸によりpH=4.2に調整されて70℃の温水で洗浄、濾別した。更に得られた固形物を再度25リットルの水(70℃)で洗浄、濾別した。
【0154】
このようにして得られた固形物を80℃で24時間減圧乾燥しMFR100g/10分(重量平均分子量70,000)、融解ピーク温度280℃のPPS−1を得た。
【0155】
参考例2 配合剤
(B−1)ポリエーテルイミド (PEI):“ウルテム” 1010 GE社製
(B−2)ナイロン6/66共重合体:アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの塩(AH塩)の50%水溶液およびε−カプロラクタム(CL)をAH塩を20重量部、CLを80重量部になるように混合し、30リットルのオートクレーブに仕込んだ。内圧10kg/cm2で270℃まで昇温した後、内温を245℃に保ち、撹拌しながら0.5kg/cm2まで徐々に減圧して撹拌を停止した。窒素で常圧に戻した後、ストランドにして抜き出し、ペレット化し、沸騰水を用いて未反応物を抽出除去して乾燥した。このようにして得られた共重合ポリアミド6/66樹脂(共重合比(重量比):ナイロン6成分/ナイロン66成分=80/20)の相対粘度は4.20、融点は193℃であった。
(B−3):東レ株式会社製CM2001(ナイロン610)
(C−1)α−オレフィンおよびα,βー不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするオレフィン系共重合体エチレン/グリシジルメタクリレ−ト=88/12(重量%)共重合体
(C−2)エチレン/ブテン−1=88/12 MFR=0.5 密度885kg/m
(C−3)エチレン/ブテン−1=81/19 MFR=0.5 密度865kg/m(重量%)共重合体D−2:エチレン/アクリル酸エチル=85/15(重量%)共重合体
(C−4)無水マレイン酸(0.5wt%)グラフト変性エチレン−ブテン共重合体
(D−1)導電性フィラー:カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル(株)社製EC600JD、DBP吸油量495ml/100g、BET法表面積1270m/g、平均粒径30nm、灰分0.2%
(E−1)3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製 KBE9007)
(E−2)γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製 KBM403)
(F−1)フェノール系酸化防止剤:3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン
(F−2)燐系酸化防止剤:ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト。
【0156】
成形方法:成形装置としては、2〜3台の押出機を有し、この2〜3台の押出機から吐出された樹脂をアダプターによって集めてチューブ状に成形するダイス、チューブを冷却し寸法制御するサイジングダイ、および引取機からなるものを使用した。得られた2層チューブは、外径:8mm、内径:6mmで、外層厚み:0.9mm、内層厚み:0.1mm、3層チューブは、外径:9mm、内径:6mmで外層厚み:0.9mm、中間層0.1mm、内層厚み:0.1mmであった。
【0157】
[実施例1〜7、比較例1]
各層を構成する配合材料を表1に示す割合でドライブレンドし、タンブラーにて2分間予備混合した後、シリンダー温度300〜320℃に設定した2軸押出機で溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化し、120℃で1晩乾燥した。得られたペレットを用い衝撃強度試験片、体積固有抵抗測定用試験片を成形するとともに、チューブを共押出成形した。結果を表1に示す。
【0158】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)体積固有抵抗が100Ω・cmを越え、1010Ω・cm以下である導電性樹脂組成物からなる内層、(B)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂および(b)ポリエーテルイミドを配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂をマトリックス相とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる中間層、(C)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂ならびに(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂をマトリックス相とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる外層を含む少なくとも3層以上の多層中空成形体。
【請求項2】
(A)内層を構成する樹脂組成物が(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(d)導電性フィラーを1〜70重量部配合してなる請求項1記載の多層中空成形体。
【請求項3】
(B)中間層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)ポリエーテルイミドを1〜20重量部配合してなる請求項1または2記載の多層中空成形体。
【請求項4】
(C)外層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種の配合量が15重量部以上である請求項1〜3のいずれか記載の多層中空成形体。
【請求項5】
前記(A)内層と前期(B)中間層が直接接している請求項1〜4のいずれか記載の多層中空成形体。
【請求項6】
前記(B)中間層と前期(C)外層が直接接している請求項1〜5のいずれか記載の多層中空成形体。
【請求項7】
(B)中間層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中で(b)ポリエーテルイミド樹脂が平均粒径1000nm以下で分散していることを特徴とする、請求項1〜6いずれか記載の多層中空成形体。
【請求項8】
(B)中間層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に、更に(e)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の基を有する化合物を(a)ポリフェニレンスルフィド100重量部に対し、0.1〜10重量部添加してなる請求項1〜7のいずれか記載の多層中空成形体。
【請求項9】
(e)エポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも1種の基を有する化合物が有機シラン化合物である請求項8記載の多層中空成形体。
【請求項10】
(B)中間層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に、更に(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種を(a)ポリフェニレンスルフィド100重量部に対し、15重量部未満配合してなる請求項1〜9のいずれか記載の多層中空成形体。
【請求項11】
(c)オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体および熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種が、密度880kg/m以下のオレフィン系共重合体である請求項1〜11のいずれか記載の多層中空成形体。
【請求項12】
(A)内層を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に、更に(b)ポリエーテルイミドおよび/またはポリアミドを(a)ポリフェニレンスルフィド100重量部に対し、1〜20重量部配合してなる請求項2〜11のいずれか記載の多層中空成形体。
【請求項13】
共押出成形法によって得られた、請求項1〜12のいずれか記載の多層中空成形体。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか記載の多層中空成形体であって、自動車燃料が内部を流れるチューブ。

【公開番号】特開2008−30289(P2008−30289A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205821(P2006−205821)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】