説明

ポリプロピレン樹脂組成物及び該組成物からなるエアバッグカバー

【課題】インパネのエアバッグカバーに適した、軽く、剛性、耐衝撃性、優れた展開性を有する成形品が得られる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記(A)〜(D)成分を、下記(A)〜(D)成分を合わせて100重量%としたとき下記量で含むポリプロピレン樹脂組成物。(A)ポリプロピレン40.5〜84.5重量%、(B)熱可塑性エラストマー0〜30重量%、(C)平均粒径が6μm以下のタルク15〜24.5重量%、(D)平均粒径が26〜34μmである、球形又は無定形の有機又は無機充填物0.5〜5.0重量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂組成物、それからなるエアバッグカバー及びエアバッグカバー一体シームレスインストルメントパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のインストルメントパネル(以下インパネという)の助手席部分には、事故等の際に搭乗者の安全を守るため、自動車の衝突時に作動して展開するエアバッグが搭載されている。
このエアバッグは、寒冷地や温暖地等の気候の違いに対応し、広い温度幅で正常に展開しなければならない。
【0003】
インパネの種類には、エアバッグ展開する部分を覆う蓋(エアバッグカバー)とインパネ部を別々に成形し取り付けるものと、エアバッグカバーとインパネ部が一体成形されるものに大別できる。前者は予め成形したエアバッグカバーをインパネ部にはめ込む構造をしている。
【0004】
これに対し後者のエアバッグカバーとインパネが一体成形されるものは、エアバッグカバー一体インパネ、又はエアバッグカバー一体シームレスインパネと呼ばれ、インサート成形、二色成形や振動溶着法等によって作成されている。このエアバッグカバー一体インパネは、インパネ裏面のエアバッグ展開部分に沿って、薄肉の破断予定開裂線(ティアライン)を作成し、該部からエアバッグが展開する。ティアラインは、例えば特許文献1に記載の公知のレーザービームによる溝加工等により形成する。
【0005】
特許文献2には、エアバッグカバーとして、ポリプロピレン、エチレン−αオレフィン系ゴム及び長さ15μm以下のタルクを含む組成物を成形したエアバッグカバーが開示されており、このカバーは別に成形したインストルメントパネルと一体化されている。この組成物はゴム成分が多く、強度や曲げ弾性率を高くすることができないため、この組成物を用いて、インパネとエアバッグカバーとを一体成形できない。
【0006】
特許文献3には、エアバッグカバーとインパネ部分が同一材料で、一体成形可能な樹脂組成物が記載されている。該組成物はレーザー回折法で求めた平均粒径が15〜25μmで、かつ粒子径5μm以下のものが10重量%以下、粒子径40μmを超えるものが10重量%以下の粒度分布を有するタルクを使用し、インパネに必要な高い剛性と耐衝撃性の他、−30℃の低温領域でのエアバッグ展開時、エアバッグカバーの破片が飛散しないような性能を付与している。
【0007】
特許文献3のシームレスエアバッグカバー一体インパネは、平均粒径の大きいタルクを使用しているが、剛性を維持するためには、タルクの添加量を多くしなければならず成形品が重くなるという問題がある。さらに耐衝撃性を維持するためには、熱可塑性エラストマーの添加量を増やさなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−282420号公報
【特許文献2】特開平10−273001号公報
【特許文献3】国際公開第2006/040825号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自動車内装部材は、環境面から、より軽量化がもとめられている。このような背景から、インパネに要求される剛性、衝撃等の物性を有し、エアバッグカバーとインパネ部とを同一素材で一体成形可能で、低温でエアバッグ展開した場合でも破片飛散なく展開が完了し、より軽量の樹脂組成物が望まれていた。
【0010】
従って、本発明の目的は、インパネのエアバッグカバーに適した、軽く、剛性、耐衝撃性、優れた展開性を有する成形品が得られる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究した結果、エアバッグカバー用樹脂組成物に、特定の粒径の球形又は無定形の充填物を少量添加することで、軽量であって、十分な性能を有するエアバッグカバー又はエアバッグカバー一体インパネの作成が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明によれば以下のポリプロピレン樹脂組成物等が提供される。
1.下記(A)〜(D)成分を、下記(A)〜(D)成分を合わせて100重量%としたとき下記量で含むポリプロピレン樹脂組成物。
(A)ポリプロピレン 40.5〜84.5重量%
(B)熱可塑性エラストマー 0〜30重量%
(C)平均粒径が6μm以下のタルク 15〜24.5重量%
(D)平均粒径が26〜34μmである、球形又は無定形の有機又は無機充填物 0.5〜5.0重量%
2.前記(B)成分が3〜7重量%である1に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
3.前記(B)成分がエチレン−α−オレフィン共重合エラストマーである1又は2に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
4.前記(D)成分が重質炭酸カルシウムである1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
5.前記(A)成分及び(B)成分の合計のゴム量が、成分(A)及び成分(B)の合計に対して20〜30重量%である1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
6.JIS K 7211−2に準拠した高速面衝撃試験において、試験温度−30℃、試験速度5m/secで、台座直径25mm、撃芯径12.7mmの撃芯を落としたときに、突き抜けた穴の最長の線分長さと撃芯の直径との比の平均値が1.0〜1.4であり、破断変位の平均が3.0〜7.0mm、破断エネルギーが5.5〜13.0Jにある1〜5のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
7.エアバッグカバー用又はエアバッグカバー一体シームレスインストルメントパネル用である1〜6のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
8.1〜7のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物から得られるエアバッグカバー。
9.1〜7のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物から、シームレスエアバッグカバーとインストルメントパネル部とを一体成形して得られるエアバッグカバー一体シームレスインストルメントパネル。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インパネのエアバッグカバーに適した、軽く、剛性、耐衝撃性、優れた展開性を有する成形品が得られる樹脂組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は下記(A)〜(D)成分を、下記(A)〜(D)成分を合わせて100重量%としたとき下記量で含む。
(A)ポリプロピレン 40.5〜84.5重量%
(B)熱可塑性エラストマー 0〜30重量%
(C)平均粒径が6μm以下のタルク 15〜24.5重量%
(D)平均粒径が26〜34μmである、球形又は無定形の有機又は無機充填物 0.5〜5.0重量%
【0015】
(A)成分のポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン及びランダムポリプロピレンが挙げられるが、特にブロックポリプロピレンが衝撃強度と剛性のバランスの点から好ましい。
【0016】
ブロックポリプロピレンは、プロピレンと、プロピレン及びエチレン又はブテン−1、オクテン−1等の炭素数4〜8のα−オレフィンとをブロック的に重合させた共重合体である。特にホモポリプロピレンとプロピレンとエチレンの共重合体(ゴム部)からなるブロックポリプロピレンが好ましい。このとき、ゴム部のエチレン量が20〜50重量%であると好ましい。20重量%未満の場合、耐衝撃性が低下し、50重量%を超えると、剛性の低下によりインパネとして必要な物性が発現しない場合がある。
【0017】
ランダムポリプロピレンの具体例として、プロピレンと、エチレン、又はブテン−1、オクテン−1等の炭素数4〜8のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0018】
(A)成分がゴム成分を含むブロックポリプロピレンであるとき、ブロックポリプロピレンに由来するゴムと(B)熱可塑性エラストマー中のゴムとの合計量は、成分(A)及び成分(B)の合計に対して20〜30重量%が好ましい。(A)成分及び(B)成分の合計ゴム量が20重量%未満になると、耐衝撃性が低下し、インパネが脆性化してしまい、特に低温でエアバッグ展開した場合に破片が飛散する可能性がある。また30重量%を超えると延性が増大し、エアバッグ展開時にティアラインに沿って展開しない、又は展開が完了しない恐れがある。
ゴム量は、キシレンの沸点で溶解させた後、冷却して結晶部と分離させることにより抽出(キシレン結晶化分別)し、その抽出量で測定する。
【0019】
ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレンの場合は、熱可塑性エラストマーをブロックポリプロピレンの場合よりも多く添加し、(A)成分と(B)成分の合計ゴム量を成分(A)及び成分(B)の合計に対して20〜30重量%に調整すると好ましい。
【0020】
(A)ポリプロピレンの配合量は、(A)〜(D)成分の合計量の40.5〜84.5重量%である。ポリプロピレンの配合量が40.5重量%未満の場合、相対的に熱可塑性エラストマーが多くなると、エアバッグカバーの強度や剛性が不足する恐れがあり、相対的にタルクが多くなると、成形品重量が増加したり、脆性化して耐衝撃性能が低下する恐れがある。(A)ポリプロピレン量が84.5重量%を超えると、相対的にタルクの重量が低下するため、インパネに必要な剛性を維持できなくなる場合がある。
好ましくは42.5〜84.5重量%、より好ましくは65.5〜81.5重量%、さらに好ましくは67.0〜81.5重量%である。
【0021】
(B)成分の熱可塑性エラストマーとしては公知のエラストマーを適宜選定して使用可能であるが、エチレンとα−オレフィン、好ましくは炭素数3〜8のα−オレフィン(ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等)との二元以上の共重合エラストマー、この共重合エラストマーに非共役ジエンを共重合させた三元以上の共重合エラストマー、及びプロピレン系樹脂とこれらの共重合エラストマーとの混合物が好適である。特に、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンの共重合エラストマーが好適である。
【0022】
また、例えばキシレンの沸点で溶解させた後、冷却して結晶部と分離させることにより抽出(キシレン結晶化分別)したゴム量が25重量%以上の高ゴム共重合ポリプロピレン等のオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレンと、ブタジエン,イソプレン等の共役ジエンとのブロック共重合体、及びこのブロック共重合体の水素添加物等のスチレン系熱可塑性エラストマー等が代表的なものとして挙げられる。
【0023】
(B)成分の熱可塑性エラストマーの配合量は、0〜30重量%、好ましくは3〜7重量%である。上述したように、(A)成分中のゴム量と(B)成分中のゴム量との合計が成分(A)及び成分(B)の合計に対して20〜30重量%になるように調整することが好ましい。
熱可塑性エラストマー((B)成分)として、1種のみ又は2種以上を用いることができる。
【0024】
(C)成分のタルクの配合量は、(A)〜(D)成分の合計量の15〜24.5重量%、好ましくは15〜23重量%である。また、(C)成分の平均粒径は6μm以下であり、通常1〜5μmである。ここで平均粒径はレーザー回折法により測定されるものである。例えば、島津粒度分布測定器SALD−2000型を用いて測定できる。
尚、タルクは板状フィラーであるが、レーザー回折法で非球形のフィラーを測定する場合、フィラーを球形に近似して平均粒径を求める。
タルクの平均粒径が6μm超になると剛性、衝撃向上効果が低下し、インパネに必要な剛性、衝撃を付与するために添加量を増加する必要が生じ、インパネ成形品の重量が増加する恐れがある。
【0025】
(D)成分である有機又は無機充填物として、例えば、エポキシビース、アクリルビーズ、スチレンビーズ等の有機フィラーや、ガラスバルーン、シラスバルーン、炭酸カルシウム、ドロマイト、クロライト、シリカ、カオリン、クレー、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の無機フィラーが挙げられ、好ましくは重質炭酸カルシウムである。
尚、不飽和カルボン酸変性処理等により官能基を導入し、ポリプロピレンとの接着性を高め、ポリプロピレンと親和性を向上させたガラスビーズやクレー等の充填物や、相溶化剤を添加した他樹脂とのポリマーアロイ等を好ましく使用できる。
【0026】
(D)成分の形状としては、球形、無定形、又は球形と無定形が混合していてもよい。
球形とは、完全な真球でなくてもよいが、アスペクト比が2.0未満であることが好ましい。アスペクト比が2.0以上であると、予定されたティアライン以外に割れが進行する恐れがある。
無定形とは、重質炭酸カルシウムや破砕シリカに代表されるような、形態が一定でなくランダムで不均一な形状のものである。この形態は電子顕微鏡で観察できる。例えば、重質炭酸カルシウムはガラス破片状の無定形である。
このような(D)成分を用いると、成形中においても充填物は流動方向に配向することがないので、エアバッグ展開時にティアラインに沿った亀裂(クラック)が入ることが可能となる。
【0027】
(D)成分の、平均粒径は26μm〜34μmであり、28〜32μmが好ましい。この平均粒径は、(C)成分と同様のレーザー回折法により測定されるものである。平均粒径が26μm未満であると延性が増大し、低温でのエアバッグ展開時にティアラインに沿って破壊せず、破片が生ずる恐れがある。また、34μmを超えると衝撃強度が低くなりすぎるため、エアバッグカバー部自体が破壊し、又はティアライン以外から破壊が進行して破片が飛散する場合がある。
【0028】
(D)成分の配合量は、(A)〜(D)成分の合計量の0.5重量%〜5.0重量%であり、好ましくは、0.5〜3.0重量%である。添加量が0.5重量%未満であると、フィラーの効果が得られずティアラインからエアバッグ展開が完了しない場合がある。5重量%を超えると成形品の軽量化効果が発揮できない恐れがある。
【0029】
(D)成分を少量添加することで、エアバッグ展開時にティアラインから発生したクラックが、微粉タルクに優先して異方性の小さい大粒径の充填物間を伝播して肉厚方向に進行するため、ティアラインを逸脱せずにエアバッグの展開が可能になる。
また、(D)成分を配合することで、タルクの配合量を低減でき、樹脂組成物の低比重化が可能となる。
【0030】
本発明の組成物は、例えば、90%重量以上、95重量%以上、98重量%以上、100重量%が、(A)〜(D)成分からなってもよい。本発明の組成物は、これらの成分の他に、下記の添加剤等本発明の新規で基本的な特性を実質的に損なわない物質を含むことができる。
【0031】
本発明の組成物には、目的に応じて、フェノール系酸化防止剤等の酸化防止剤、ベンゾエート系やヒンダードアミン系耐候安定剤等の耐候安定剤、無機フィラーの分散剤、結晶核剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、顔料等を適宜添加することができる。添加量は目的に応じて、適量添加すればよい。通常は、100〜5000PPM程度である。
【0032】
上記の樹脂組成物は展開性に優れ、例えばJIS K 7211−2に準拠した高速面衝撃試験の破壊形態が脆性破壊となり、破片が細かく飛び散ることなくストライカ(撃芯)が試験片を突き抜け、試験片の真上から見たとき、突き抜けた穴の最長の線分長さとストライカの直径との比の平均値が1.0以上1.4以下である。
上記の高速面衝撃試験は、試験温度−30℃、試験速度5m/secで、台座直径25mm、撃芯径12.7mmの撃芯を落として行う。
【0033】
上記の試験において、試験片に撃芯を落とした時に突き抜けた穴の最長の線分長さと撃芯の直径との比の平均値が1.4を超える場合、撃芯から離れた場所から破壊することを意味し、エアバッグ展開時最も応力集中するティアライン部に沿って破壊せず、ティアラインの他の部分に破壊が及ぶことになるため好ましくない。
一方、試験片に撃芯を落とした時に突き抜けた穴の最長の線分長さと撃芯の直径との比の平均値が1.0未満の場合は、材料が大きく変形し延性破壊することを示し、エアバッグの展開が正常に完了しない恐れがある。
【0034】
また上記の樹脂組成物は、好ましくは高速面衝撃試験の破断変位が3.0以上7.0mm以下、かつ破断エネルギーが5.5以上13.0J以下である。
上記の試験において破断変位が3.0mm未満の場合、材料は耐衝撃性が小さく、破壊に至るまでの変位が小さいため、エアバッグ展開時鋭利な破片が飛び散る危険がある。破断エネルギーが5.5J未満の場合も同様に、破壊するのに必要なエネルギーが少ないため、エアバッグ展開時クラックの進行をティアライン上に制御できず、破片が飛び散る恐れがあり好ましくない。
【0035】
一方破断変位が7.0mm超の場合は、破壊に至るまでの変形量が大きいので、エアバッグ展開時材料は延性変形し展開が正常に完了しないおそれがある。破断エネルギーが13.0J超の場合も同様に、破壊に必要なエネルギーが大きすぎるため、エアバッグ展開時に最も応力が集中するティアライン以外の場所からクラックが発生したり、延性破壊して展開が完了しない恐れがある。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、一般的な自動車用内装材に求められる機械物性として、JIS K7111に準拠して23℃、ノッチ付きで測定したシャルピー衝撃強度が5〜20kJ/m、JIS K7171に準拠して23℃で測定した曲げ弾性率が1500〜2500MPaであることが好ましい。
シャルピー衝撃強度(23℃、ノッチ付き)が5kJ/m以上であると、耐衝撃性が良好で、インパネ材と同一素材にすることが容易になる。シャルピー衝撃強度が20kJ/mを超えると、耐衝撃性が高すぎ、材料は延性変形するため、エアバッグ破断予定線できれいに割れなくなる。
【0037】
曲げ弾性率が1500MPa以上であると、剛性が上昇し、インパネ材と共通素材にすることが容易である。曲げ弾性率が2500MPaを超えると、剛性が高くなりすぎ、相対的に耐衝撃性が低下するため、エアバッグが膨張して展開したときに、エアバッグカバー自体が破壊し、鋭角な形状の破片が飛散する場合がある。曲げ弾性率は、好ましくは1800〜2300MPaである。
この樹脂組成物は、軽量化を図る観点から、JIS K7112に準拠した密度が1077kg/m未満が好ましい。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、押出機等を用いて常法で混練して製造できる。また、本発明の樹脂組成物は、エアバッグカバー又はエアバッグカバー一体シームレスインストルメントパネルの原料として好適に使用できる。
【0039】
本発明のエアバッグカバーは、上記のポリプロピレン樹脂組成物を用いて製造する。原料の他、例えば、カバー形状、車体や内装材への取り付け方法、取り付け部のミシン目やヒンジ構造等は、通常のエアバッグカバーと同じでよい。
本発明のエアバッグカバーは、耐衝撃性と剛性とのバランスに優れるため、他の内装材部品、例えば、インパネ等と共通素材として用いることができる。このため、本発明の組成物を用いると、エアバッグカバーとインパネ部とが一体化された部品を、二色成形や通常の射出成形で製造することが可能であり、材料を共通化することができるため、表皮を貼り付けなくてもシームレスにすることが容易になる。また、エアバッグカバー一体インパネの製造を簡略化でき、リサイクル時にも同一材料として処理することができる。
【0040】
尚、本発明の組成物の用途は、エアバッグカバー又はエアバッグカバー一体シームレスインパネに限定されるものではなく、他の部材の製造に用いることができる。
【実施例】
【0041】
実施例及び比較例で使用した成分を以下に示す。尚、メルトフローレイト(MFR)は、JIS K7210に準拠し、230℃、荷重21.2N(2.16kgで測定した値である。
ポリプロピレンA:株式会社プライムポリマー製ブロックポリプロピレン J−3054HP(MFR:40g/10分、ゴム量:14重量%、ゴム中のエチレン含量:35.3重量%)
ポリプロピレンB:ブロックポリプロピレン(製造例1)
ポリプロピレンC:ブロックポリプロピレン(製造例2)
【0042】
エラストマーA:エチレン・ブテン−1共重合エラストマー(全量がゴム部) MFR=2.4g/10分
エラストマーB:エチレン・オクテン−1共重合エラストマー(全量がゴム部) MFR=2.2g/10分
【0043】
タルクA:平均粒径=4.2μm
タルクB:平均粒径=17.0μm
【0044】
フィラーA:無定形重質炭酸カルシウム 平均粒径=2.5μm
フィラーB:無定形重質炭酸カルシウム 平均粒径=20.0μm
フィラーC:無定形重質炭酸カルシウム 平均粒径=29.7μm
フィラーD:無定形重質炭酸カルシウム 平均粒径=32.0μm
フィラーE:無定形重質炭酸カルシウム 平均粒径=35.0μm
タルクA、B及びフィラーA〜Eの平均粒径はレーザー回折法にて測定した。
【0045】
製造例1(ポリプロピレンBの調製)
(固体媒成分の調製)
窒素ガスで充分に置換し、攪拌機を具備した容量500mLの丸底フラスコに、ジエトキシマグネシウム10g及びトルエン500mLを装入し、懸濁状態とした。この中に、室温の四塩化チタン500mLを装入し、攪拌しながら50℃まで昇温し、次いで、ジ−iso−オクチルフタレート52mLを添加後、さらに昇温して100℃でジエチルフタレート15mLを添加し、系内の温度を115℃に昇温して、室温での粘度が100cStのジメチルポリシロキサン40mLを添加して2時間反応させた。
【0046】
反応終了後、上澄み液を除去し、トルエン800mL及び四塩化チタン200mLを用いて100℃にて15分間処理し、さらにトルエン1000mLを用いて100℃にて3回洗浄した。その後ステアリン酸ナトリウム8g、トルエン800mL及び四塩化チタン200mLを新たに加え、100℃で2時間攪拌しながら処理し、その後40℃のn−ヘプタン1000mLにて8回洗浄して固体触媒成分を得た。この固体触媒成分中のTi含有量は2.5重量%であった。
【0047】
(前重合触媒の調製)
上記固体触媒成分60g、トリエチルアルミニウム30.8mL、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシシラン10.4mL、ヘプタン60Lを内容量200Lのオートクレーブに装入し、内温を5℃に保ちプロピレン180gを装入し、60分間攪拌後、固体成分を沈降させ、ヘプタン120L追加後、上澄み液を除去した。再びヘプタン161Lを装入した。上澄み液を除去後、ヘプタンを追加し、全ヘプタン量を60Lとし、スラリー状の前重合触媒(触媒スラリー(1))を得た。
【0048】
(重合)
内容量66Lの環状反応器にプロピレンを30kg/時間、水素を205NL/時間、触媒スラリー(1)を固体触媒成分として0.23g/時間、トリエチルアルミニウム2.5mL/時間、ジシクロペンチルジメトキシシラン1.3mL/時間の割合で連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。環状反応器の温度は67℃であり、圧力は3.6MPa/Gであった。
得られたスラリーは、内容量90Lのベッセル重合器へ連続的に送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を103NL/時間の割合で供給した。重合温度は64℃、圧力は3.3MPa/Gで重合を行った。
【0049】
得られたスラリーの分散媒をガス化させて気固分離を行った後、480Lの気相重合器に連続的にポリプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.32(モル比)、水素/(エチレン+プロピレン)=0.077(モル比)、重合温度70℃、圧力0.9MPa/Gで重合を行った。このような操作により結晶性プロピレンブロック共重合体(ポリプロピレンB)を得て、キシレン結晶化分別を行ったところ、ゴム量は24重量%であった。また、ゴム分中のエチレン含量は31.7重量%であった。また、ポリプロピレンBのMFRは40g/10分であった。
【0050】
製造例2(ポリプロピレンCの調製)
(前重合触媒の調製)
製造例1で用いたものと同様の固体状触媒成分60g、トリエチルアルミニウム30.8mL、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシシラン20.8mL、ヘプタン60Lを内容量200Lのオートクレーブに装入し、内温5℃に保ちプロピレンを180g装入し、60分間攪拌後、固体成分を沈降させ、ヘプタン120L追加後、上澄み液を除去した。再びヘプタン161Lを装入した。上澄み液を除去後、ヘプタンを追加し、全ヘプタン量を60Lとし、スラリー状の前重合触媒(触媒スラリー(2))を得た。
【0051】
(重合)
内容量66Lの環状反応器にプロピレンを30kg/時間、水素を150NL/時間、触媒スラリー(2)を固体触媒成分として0.23g/時間、トリエチルアルミニウム2.5mL/時間、エチル(パーヒドロキシイソキノリノ)ジメトキシシラン1.4mL/時間の割合で連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。環状反応器の温度は67℃であり、圧力は3.6MPa/Gであった。
得られたスラリーは、内容量90Lのベッセル重合器へ連続的に送りさらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を170NL/時間の割合供給した。重合温度は64℃、圧力は3.3MPa/Gで重合を行った。
【0052】
得られたスラリーの分散媒をガス化させ、気固分離を行った後、480Lの気相重合器に連続的にポリプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.31(モル比)、水素/(エチレン+プロピレン)=0.047(モル比)、重合温度70℃、圧力1.2MPa/Gで重合を行った。このような操作により結晶性プロピレンブロック共重合体(ポリプロピレンC)を得、キシレン結晶化分別を行ったところ、ゴム量は23重量%であった。また、ゴム分中のエチレン含量は31.7重量%であった。また、ポリプロピレンCのMFRは、13g/10分であった。
【0053】
実施例1〜4,比較例1〜7
表1に示す配合成分を、50mm径、L/D=32の二軸押出機を用いて温度220℃、回転数800rpmで混練して樹脂組成物を得た。
この樹脂組成物から、以下の評価法により定められた試験片を作成し、当該評価法により評価した。結果を表1に示す。
ただし、面衝撃試験用試験片は、型締め力85トンの射出成型機で140×140×3mmtの角板を成形して作成した。
【0054】
(1)高速面衝撃試験
JIS K 7211−2(脆性破壊)に準拠して測定温度−30℃、速度5m/secで台座直径25mm、撃芯径12.7mmの撃芯を落として行った。破壊形態結果は測定回数6回中4回以上で同一結果が得られたものを示した。
(2)曲げ弾性率
JIS K7171に準拠して23℃で測定した。
(3)シャルピー(Charpy)衝撃強度
JIS K7111に準拠して23℃、ノッチ付きで測定した。
(4)密度
JIS K7112に準拠して23℃で測定した。
(5)展開性評価
高速面衝撃試験の結果、以下の所定範囲を満足する場合:○、満足しない場合:×と表示した。
所定範囲:
突き抜けた穴の最長の線分長さとストライカの直径との比:1.0〜1.4
破断変位:3.0〜7.0mm
破断エネルギー:5.5〜13.0J
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、自動車のエアバッグカバー又はエアバッグカバー一体シームレスインストルメントパネルに使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(D)成分を、下記(A)〜(D)成分を合わせて100重量%としたとき下記量で含むポリプロピレン樹脂組成物。
(A)ポリプロピレン 40.5〜84.5重量%
(B)熱可塑性エラストマー 0〜30重量%
(C)平均粒径が6μm以下のタルク 15〜24.5重量%
(D)平均粒径が26〜34μmである、球形又は無定形の有機又は無機充填物 0.5〜5.0重量%
【請求項2】
前記(B)成分が3〜7重量%である請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)成分がエチレン−α−オレフィン共重合エラストマーである請求項1又は2に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)成分が重質炭酸カルシウムである請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)成分及び(B)成分の合計のゴム量が、成分(A)及び成分(B)の合計に対して20〜30重量%である請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項6】
JIS K 7211−2に準拠した高速面衝撃試験において、試験温度−30℃、試験速度5m/secで、台座直径25mm、撃芯径12.7mmの撃芯を落としたときに、突き抜けた穴の最長の線分長さと撃芯の直径との比の平均値が1.0〜1.4であり、破断変位の平均が3.0〜7.0mm、破断エネルギーが5.5〜13.0Jにある請求項1〜5のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項7】
エアバッグカバー用又はエアバッグカバー一体シームレスインストルメントパネル用である請求項1〜6のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物から得られるエアバッグカバー。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物から、シームレスエアバッグカバーとインストルメントパネル部とを一体成形して得られるエアバッグカバー一体シームレスインストルメントパネル。

【公開番号】特開2012−36345(P2012−36345A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180213(P2010−180213)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】