説明

ポリプロピレン系樹脂発泡成形体

【課題】発泡ブロー成形中に発泡剤による気泡が破泡して散逸することがなく、所望の発泡倍率のポリプロピレン系樹脂発泡成形体を安定して製造できるようにする。
【解決手段】本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡成形体は、長鎖分岐構造を有するポリプロピレン30〜70重量%と一般用ポリプロピレン70〜30重量%とからなる配合ポリプロピレン系樹脂に発泡剤を添加して発泡成形したものであって、前記長鎖分岐構造を有するポリプロピレンは、メルトテンションが100mN以上のポリプロピレンであり、前記一般用ポリプロピレンはメルトフローレイトが2.0(g/10分)以下のポリプロピレンである。このため、パリソンを高温で押し出すことが可能となり、成形調整時間が短縮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡ブロー成形によって製造したポリプロピレン系樹脂発泡成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡成形体の発泡ブロー成形方法においては、ポリプロピレン系樹脂に混練された発泡剤による気泡によって発泡が行われる。しかし一般用ポリプロピレンは発泡適正温度範囲が狭く、発泡適正温度を超える高温では溶融樹脂の粘度やメルトテンションが低下して発泡剤による気泡が外部へ散逸して充分な発泡倍率が得られず、場合によっては、連続気泡化や破泡が進行し、発泡不能となるおそれがあるという問題点がある。
【0003】
次に説明する特許文献1(特開2004−122488号公報)に開示されたポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法は、上記問題点に鑑みてなされたものである。
【0004】
特許文献1に開示された方法は、メルトテンションが100mNを超え、メルトフローレイトが0.5〜15(g/10分)であるポリプロピレン系樹脂20〜70重量%と、メルトテンションが30mN未満で、メルトフローレイトが2〜30(g/10分)であるポリプロピレン系樹脂30〜80重量%とからなる基材樹脂を用い、前記基材樹脂に発泡剤を添加して混練・溶融してパリソンを押し出し、前記パリソンを吹込成形型にて型締めしたのち加圧流体を導入して中空のポリプロピレン系樹脂発泡成形体を製造する。
【0005】
しかし、特許文献1に開示された上記方法では、発泡剤による気泡が散逸しないようにパリソンにスキン層を形成する必要性がある。そのためには、押出ダイより押し出された直後のパリソンの樹脂温度を180℃未満の低温にしてパリソンを押し出さなければならない。その結果、ポリプロピレン系樹脂発泡成形体の壁面にコルゲート状の凹凸が発生して外観不良となる。また、パリソンの溶融樹脂温度を下げるのに時間がかかり、生産性が低いという問題点があった。
【特許文献1】特開2004−122488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであって、パリソンを高温、高速で押し出しても発泡ブロー成形中に発泡剤による気泡が破泡して散逸することがなく、所望の発泡倍率のポリプロピレン系樹脂発泡成形体を安定して製造することができるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡成形体は、長鎖分岐構造を有するポリプロピレンとメルトフローレイトが2.0(g/10分)以下のポリプロピレンとからなる配合ポリプロピレン系樹脂に、発泡剤を添加して発泡ブロー成形した中空の発泡成形体であって、配合ポリプロピレン系樹脂のメルトテンションが230℃で30mN以上、メルトフローレイトが230℃で2.7(g/10分)以下であることを特徴とする。
【0008】
また、長鎖分岐構造を持つメルトテンションが100mN以上のポリプロピレン30〜70重量%とメルトフローレイトが2.0(g/10分)以下のポリプロピレン70〜30重量%とからなる配合ポリプロピレン系樹脂に、発泡剤を添加して発泡ブロー成形した中空体であることを特徴とする。
【0009】
さらに、発泡成形体は、その肉厚に対する内面および外面におけるスキン層の膜厚比率がそれぞれ3%以上であり、前記発泡成形体の引張弾性率(C)および発泡倍率(B)と、前記発泡成形体に用いた配合ポリプロピレン系樹脂成形体の引張弾性率(A)とが、C>A/Bの関係を満たすとよい。
【0010】
また、発泡成形体は、三次元的に屈曲する屈曲部を有するダクト、ボトルまたはコンテナであるとよい。
【0011】
ここで、長鎖分岐構造とは分子の長い鎖が分岐点で結合した構造であって、ポリプロピレンのメルトテンションを改良する。メルトテンションを向上させる方法としては、下記(1)〜(7)がある。
【0012】
(1)メルトテンションの高い高分子量の高密度ポリエチレンを混合する方法(特公平6−55868号公報)。
(2)クロム系触媒によって製造されるメルトテンションの高い高密度ポリエチレンを混合する方法(特開平8−92438号公報)。
(3)一般的な高圧ラジカル重合法により製造される低密度ポリエチレンを混合する方法。
(4)一般的なポリプロピレンに光照射することによりメルトテンションを高める方法。
(5)一般的なポリプロピレンに架橋剤や過酸化物の存在下、光照射することによりメントテンションを高める方法。
(6)一般的なポリプロピレンにスチレンなどのラジカル重合性モノマーをプラクトする方法。
(7)プロピレンとポリエンを共重合させる方法(特開平5−194778号公報、特開平5−194779号公報)などがある。本発明では、長鎖分岐構造をもつことで(4)、(5)によるものを使用した。
【0013】
また、引張弾性率は、引張比例限度内における引張応力とこれに対応するひずみの比であり、引張応力・ひずみ曲線が無い場合には変形開始点における接線の傾斜による。
【0014】
試験片としてはJIS K−7113の2号形であり、試験方法としては、JIS K−7113に準じて、引張速度を50mm/分で実施した。
【0015】
配合ポリプロピレン系樹脂の引張弾性率の測定における試験片は製品より100〜500gの発泡体を切り出し、細かくカッティングし、押出機で再押出し、50mm×150mm 厚み2mmの未発泡シートを作成し、このシートからJIS K−7113の2号形試験片を作成して、前述の方法にて測定を行った。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、上述のとおり構成されているので、次に記載するような効果を奏する。
【0017】
パリソンを高温で押し出すことが可能になり、成形調整時間が短縮できる。また、発泡剤による気泡が散逸することがなく、所望の発泡倍率を有する高品質のポリプロピレン系樹脂発泡成形体を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上述した特許文献1に開示されたポリプロピレン系樹脂発泡成形体の製造方法では、押し出されたパリソンの外周面にスキン層を形成して発泡剤による気泡が散逸しないようにするために、押出ダイより押し出された直後のパリソンの溶融樹脂温度が180℃未満になるように、押出ダイ等の設定温度を設定してパリソンを押し出す必要がある。その結果、180℃未満に溶融樹脂温度を低下させるための冷却時間が必要であるため、成形調整時間が長くなってしまう。これと逆に、パリソンの溶融樹脂温度を下げずに高温成形すると、スキン層が形成されずに発泡剤による気泡が破泡し、発泡成形体の壁面の表面粗さが目立つようになる。
【0019】
そこで、繰り返し実験を行ったところ、メルトフローレイト(MFR)が1.8(g/10分)以下の一般用ポリプロピレンと長鎖分岐構造を持つメルトテンションが100mN以上の発泡用ポリプロピレンとを混合した配合ポリプロピレン系樹脂を用いると、高温成形(180℃以上)においてもパリソンにスキン層が形成されるという知見が得られた。
【0020】
ここで、メルトフローレイト(MFR)とは、JIS K−7210(1997年)に従い、試験温度230℃、試験荷重2.16kgで測定したものである。
【0021】
また、メルトテンションとは、メルトテンションテスター(株式会社東洋精機製作所製)を用い、余熱温度230℃、押出速度5.7mm/分で、直径2.095mm、長さ8mmのオリフィスからストランドを押し出し、このストランドを直径50mmのローラに巻き取り速度100rpmで巻き取ったときの張力を示すものである。
【0022】
本発明は、上記知見に基づくものであって、長鎖分岐構造を持つメルトテンションが100mN以上の発泡用ポリプロピレン30〜70重量%と、メルトフローレイト(MFR)が1.8(g/10分)以下の一般用ポリプロピレン70〜30重量%からなる配合ポリプロピレン系樹脂に発泡剤を添加して発泡ブロー成形したポリプロピレン系樹脂発泡成形体である。
【0023】
本発明において用いる発泡剤としては、物理発泡剤および化学発泡剤のいずれでもよい。
【0024】
物理発泡剤としては、空気、炭酸ガス、窒素ガス、水等の無機系物理発泡剤、およびブタン、ペンタン、ヘキサン、ジクロルメタン、ジクロルエタン等の有機系物理発泡剤、場合によっては、二酸化炭素・窒素等の超臨界流体を用いることができる。
【0025】
化学発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アゾ化合物等の超分解型の化学発泡剤を用いることができる。
【0026】
なお、長鎖分岐構造を持つメルトテンションが100mN以上の発泡用ポリプロピレンの割合が30重量%未満であると、パリソンの溶融伸度が低下し、成形性が著しく悪くなる。逆に70重量%を超えると、全体的なメルトフローレイトが大きくなり、発泡剤による気泡が散逸し易くなる。気泡が散逸しないようにするためには、パリソンの溶融樹脂温度を下げる冷却時間を必要とし、その結果、成形調整時間が長くなってしまう。さらに、発泡用ポリプロピレンは一般用ポリプロピレンに比べて高価であるため、最終製品のコスト高を招く。
【実施例1】
【0027】
図1は、一実施例による発泡体ダクトの模式斜視図である。発泡体ダクト1は、中央部1aと中央部1aの一端側に連設された一方の屈曲部1b、中央部1aの他端側に連設された他方の屈曲部1cを有する、後述する発泡ブロー成形により一体成形された三次元的に屈曲した断面矩形状の筒状体である。
【0028】
一方の屈曲部1bが中央部1aを基準にして円弧状に屈曲(図示X軸側に屈曲)しており、その反中央部側には、中央部1aからわずかに高い段差2aが生じる断面形状の拡大した膨出部2が連設されている。他方、中央部1aの他端側に連設された他方の屈曲部1cは、中央部1aを基準にしてL字状に屈曲(図示Z軸側へ屈曲し、続いて図示Y軸側へ屈曲)しており、その反中央部側には一対の突条部3a、3bが間隔をおいて外面に突設された接続部3が連設されている。
【0029】
吹込成形金型は、型締めした状態で発泡体ダクト1の外面を規制する形状のキャビティを有する分割型式のものであれば、発泡体ダクト1のパーティングライン5の全部分にバリが発生する総バリタイプの吹込成形型、あるいは、膨出部2および閉鎖部4におけるパーティングライン5の部分にのみバリが生じるタイプの吹込成形型のいずれでもよい。
【0030】
スクリュ式押出機を備えた発泡ブロー成形機(株式会社日本製鋼所製P−50−L/D34)を用い、図1に示したものと同様の三次元的に屈曲した屈曲部を有する発泡体ダクトのサンプルを下記成形条件で発泡ブロー成形した。
【0031】

成形条件
パリソンの外径:120mm
パリソンの内厚:5mm
発泡体ダクトの最も薄い部分の肉厚0.3mm
発泡剤:炭酸ガス(CO2 )0.77重量パーセント
【0032】
配合ポリプロピレン系樹脂:長鎖分岐構造を持つメルトテンションが100mN以上の発泡用ポリプロピレン〔サンアロマー(株)製、PF814 MFR:3.0(g/10分)〕50重量パーセントと、一般用ポリプロピレン〔日本ポリプロ(株)製、EC9 MFR:0.5(g/10分)〕50重量パーセントとの混合物
【実施例2】
【0033】
配合ポリプロピレン系樹脂のうち、一般用ポリプロピレン〔MFR:1.2(g/10分)日本ポリプロ(株)製BC8D〕に変更した以外は実施例1と同様に発泡体ダクトのサンプルを発泡ブロー成形した。
【実施例3】
【0034】
配合ポリプロピレン系樹脂のうち、一般用ポリプロピレン〔MFR:1.5(g/10分)日本ポリプロ(株)製EC7〕に変更した以外は実施例1と同様に発泡体ダクトのサンプルを発泡ブロー成形した。
【実施例4】
【0035】
配合ポリプロピレン系樹脂のうち、一般用ポリプロピレン〔MFR:1.8(g/10分)日本ポリプロ(株)製BC8〕に変更した以外は実施例1と同様に発泡体ダクトのサンプルを発泡ブロー成形した。
【0036】
(比較例1)
配合ポリプロピレン樹脂のうち、一般用ポリプロピレン〔MFR:2.3(g/10分)日本ポリプロ(株)製FL6CK〕に変更した以外は、実施例1と同様に発泡体ダクトのサンプルを発泡ブロー成形した。
【0037】
(比較例2)
配合ポリプロピレン樹脂のうち、一般用ポリプロピレン〔MFR:2.7(g/10分)日本ポリプロ(株)製BC6〕に変更した以外は、実施例1と同様に発泡体ダクトのサンプルを発泡ブロー成形した。
【0038】
(比較例3)
配合ポリプロピレン樹脂のうち、一般用ポリプロピレン〔MFR:9.0(g/10分)出光石油化学(株)製J700GP〕に変更した以外は、実施例1と同様に発泡体ダクトのサンプルを発泡ブロー成形した。
【0039】
実施例1〜4、比較例1〜3の各サンプルについて、スキン層の膜厚比率、内面の凹凸の有無、ピンホールの発生の有無(成形可否)を目視にて評価した。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

※a 表中、一般PPとPF814との重量%割合は50%、50%である。
※b 上表中実施例1、3に使用した一般PPは押出し成形グレードである。
※c 上表中実施例2、4、比較例2に使用した一般PPは射出グレードである。
【0041】
表1から明らかなように、長鎖分岐構造を持つメルトテンションが100mN以上の発泡用ポリプロピレン30〜70重量%と、メルトフローレイト1.8(g/分)以下の一般用ポリプロピレン70〜30重量%とを混合した配合ポリプロピレン系樹脂を用いると、パリソンの表面温度を下げなくてもスキン層が確実に形成されて、発泡剤による気泡セルが破泡することがなく所望の発泡倍率の発泡体ダクトを製造することができる。
【0042】
また、発泡体ダクトは、その肉厚に対する内面および外面におけるスキン層の膜厚比率がそれぞれ3%以上であり、発泡成形体の引張弾性率である発泡体ダクト引張弾性率(C)および発泡倍率(B)と、発泡体ダクトに用いた配合ポリプロピレン系樹脂成形体の引張弾性率である未発泡引張弾性率(A)とが、C>A/Bの関係を満たしている。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡成形体は、断熱性、耐熱性、剛性等に勝れており、ボトル、ダクト、中空二重壁構造パネル、中空二重壁構造の側壁や底壁を有するコンテナ等の各種用途が挙げられる。特に、耐熱性、軽量性が要求される自動車用の各種ダクトに適している。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】一実施例による発泡体ダクトの模式斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
1 発泡体ダクト
1a 中央部
1b、1c 屈曲部
2 膨出部
3 接続部
4 閉鎖部
5 パーティングライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長鎖分岐構造を有するポリプロピレンとメルトフローレイトが2.0(g/10分)以下のポリプロピレンとからなる配合ポリプロピレン系樹脂に、発泡剤を添加して発泡ブロー成形した中空の発泡成形体であって、
配合ポリプロピレン系樹脂のメルトテンションが230℃で30mN以上、メルトフローレイトが230℃で2.7(g/10分)以下であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡成形体。
【請求項2】
長鎖分岐構造を持つメルトテンションが100mN以上のポリプロピレン30〜70重量%とメルトフローレイトが2.0(g/10分)以下のポリプロピレン70〜30重量%とからなる配合ポリプロピレン系樹脂に、発泡剤を添加して発泡ブロー成形した中空体であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡成形体。
【請求項3】
発泡成形体は、その肉厚に対する内面および外面におけるスキン層の膜厚比率がそれぞれ3%以上であり、前記発泡成形体の引張弾性率(C)および発泡倍率(B)と、前記発泡成形体に用いた配合ポリプロピレン系樹脂成形体の引張弾性率(A)とが、C>A/Bの関係を満たすことを特徴とする請求項1または2記載のポリプロピレン系樹脂発泡成形体。
【請求項4】
発泡成形体は、ダクトであることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡成形体。
【請求項5】
発泡成形体は、三次元的に屈曲する屈曲部を有するダクトであることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡成形体。
【請求項6】
発泡成形体は、ボトルであることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡成形体。
【請求項7】
発泡成形体は、コンテナであることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−181957(P2006−181957A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380136(P2004−380136)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】