説明

ポリベンザゾールポリマーおよびその繊維

【課題】ポリベンザゾール繊維本来の優れた強度や耐熱性を有し、高温高湿度下においても強度低下が少ない、より耐久性能を向上させたポリベンザゾール繊維を提供する。
【解決手段】ポリマー末端が下記一般式(3)で示されるポリベンザゾールから製造されることを特徴とするポリベンザゾール繊維。
【化3】


式中XはS、O原子またはNH基、Ar4はベンゼン環、ナフタレン環またはピリジン環を2個以下含む2価の有機基、Ar5は芳香族、脂肪族、脂環族もしくはそれらの組合せを含む2価の有機基、もしくは元素がないことを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久性ポリベンザゾール繊維に関する。詳しくは、高温、高湿環境下においても優れた強度保持性を発揮する高耐久性ポリベンザゾール繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高強度、高耐熱性を有する繊維として、ポリベンゾオキサゾールやポリベンゾチアゾール、ポリベンゾイミダゾールなどのポリベンザゾール繊維が知られており、通常、ポリベンザゾール繊維は、ポリベンゾオキサゾールやポリベンゾチアゾール、ポリベンゾイミダゾールポリマーなどと酸溶媒を含むドープを紡糸口金より押し出した後、凝固性流体(水、または水と無機酸の混合液)中に浸漬して凝固させ、次いで水洗浴中で洗浄し後、さらに糸中に残っている酸を中和する目的で無機塩基の水溶液槽を通した後、水洗、乾燥する方法によって製造されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1にも記載されているように、糸中に残存する酸溶媒は糸の光酸化による劣化や高温化における強度や分子量の低下を招くため、徹底的に洗浄して、残存酸溶媒量を極力低減するように配慮がなされている。
しかしながら、糸中の残存無機酸溶媒濃度が無機原子で4000ppm以下にするのは容易ではなく、特に、残存酸溶媒濃度が無機原子で2000ppm以下になるようにするためには、高温で長時間の洗浄が必要であり、工業レベルで製造することは容易ではなかった(例えば、特許文献2)。
このため、更なる改善が望まれており、残存酸溶媒量の低減が容易であり、特に、高温高湿度環境に対しても優れた耐久性を有するポリベンザゾール系繊維の出現が期待されている。
【特許文献1】特許第3564822号公報
【特許文献2】特許第3528936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記の事情に着目してなされたものであり、その目的はポリベンザゾール繊維本来の優れた強度や耐熱性を有しながら、糸中の残存酸溶媒量の低減化が工業レベルで容易であり、高温、高湿環境下においても強度や分子量の低下が少ない、より耐久性能を向上させたポリベンザゾール繊維を工業的に提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は以下の構成を採用するものである。
1.分子鎖中に下記一般式(1)または(2)の繰り返し単位で表されるポリベンザゾールまたはその共重合体であり、その末端が下記一般式(3)で示されることを特徴とするポリベンザゾールポリマー。
【化1】

【化2】

式中XはS、O原子またはNH基、Ar1はベンゼン環、ナフタレン環またはピリジン環を2個以下含む4価の有機基、Ar2は芳香族、脂肪族、脂環族もしくはそれらの組合せを含む2価の有機基、もしくは元素がないことを示す。又Ar3はベンゼン環、ナフタレン環またはピリジン環を2個以下含む3価の有機基を、nは整数を示す。式中のN原子とX原子/基はトランス位であってもシス位であってもよい。
【化3】

式中XはS、O原子またはNH基、Ar4はベンゼン環、ナフタレン環またはピリジン環を2個以下含む2価の有機基、Ar5は芳香族、脂肪族、脂環族もしくはそれらの組合せを含む2価の有機基、もしくは元素がないことを示す。
2.末端が下記化学式(4)で示されることを特徴とする1に記載のポリベンザゾールポリマー。
【化4】

3.酸溶媒を用いて製造されることを特徴とする1〜2に記載のポリベンザゾールポリマーより構成されるポリベンザゾール繊維中の残留酸濃度が酸を構成する無機原子として1800ppm以下であることを特徴とするポリベンザゾール繊維。
4.80℃、相対湿度80%の環境条件下で700時間処理後の引張強度保持率が80%以上あることを特徴とする3に記載のポリベンザゾール繊維。
【発明の効果】
【0005】
本発明のポリベンザゾール繊維によれば、ポリマー末端にNH2基、OH基、SH基、COOH基などの官能基を持たないため、30℃程度の低温で短時間の洗浄で繊維中の残留酸濃度が酸を構成する無機原子として1800ppm以下に低減することが容易である。そのため、従来のポリベンザゾール繊維の高強度、高耐熱性を維持しつつ、高温高湿度環境下での耐久性が改善されたポリベンザゾール繊維を工業的に提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明におけるポリベンザゾールとは、ポリベンザゾール成分を主たる構成成分とするポリマーであり、ポリベンザゾール(以下、PBZともいう)とは、ポリベンゾオキサゾール(以下、PBOともいう)、ポリベンゾチアゾール(以下、PBTともいう)、ポリベンズイミダゾール(以下、PBIともいう)またはそれらが共重合成分を含んでなるポリマーを言い、その末端にNH2基、OH基、SH基、COOH基などの官能基を持たない
下記一般式(3)で示される末端構造を持つことを特徴とする。
【化5】

式中XはS、O原子またはNH基、Ar4はベンゼン環、ナフタレン環またはピリジン環を2個以下含む2価の有機基、Ar5は芳香族、脂肪族、脂環族もしくはそれらの組合せを含む2価の有機基、もしくは元素がないことを示す。
【0007】
本発明におけるPBZポリマーは下記一般式(5)、(6)の化合物をPBZポリマー製造の際に添加することにより製造される。
【化6】

【化7】

式(5)中XはS、O原子またはNH基、Ar6はベンゼン環、ナフタレン環またはピリジン環を2個以下含む2価の有機基、Ar7は芳香族、脂肪族、脂環族もしくはそれらの組合せを含むカルボン酸、カルボン酸エステルを示す。式(6)中XはSH、OH基またはNH2基、Ar8はベンゼン環、ナフタレン環またはピリジン環を2個以下含む2価の有機基を示す。
【0008】
上記一般式(5)の化合物の中で好ましい化合物としては具体的に以下の化合物が挙げられる。これらの化合物のカルボン酸は炭素数1〜6のアルコールとのエステルを形成していても良い。
【0009】
【化8】

【化9】

【化10】

【0010】
【化11】

【化12】

【化13】

【0011】
【化14】

【化15】

【化16】

【0012】
【化17】

【化18】

【化19】

【0013】
上記一般式(6)の化合物の中で好ましい化合物としては具体的に以下の化合物が挙げられる。これらの化合物のアミノ基は塩酸塩などを形成していても良い。
【0014】
【化20】

【化21】

【化22】

【0015】
【化23】

【化24】

【化25】

【0016】
本発明に用いられる上記一般式(5)、(6)で表される化合物は、溶解性の面から微粒子状であることが好ましいが、その形状、大きさはとくには限定されない。好ましくは光散乱式粒度分布計で測定したメジアン径が5ミクロン以上1mm以下、さらに好ましくは10ミクロン以上500ミクロン以下である。
【0017】
本発明におけるPBZポリマーの合成方法としては、基本的には、例えばWolfeらの米国特許第4,533,693号明細書(1985.8.6)、Sybertらの米国特許第4,772,678号明細書(1988.9.22)、Harrisの米国特許第4,847,350号明細書(1989.7.11)、Gregoryらの米国特許第5,089,591号明細書(1992.2.18)などに記載されている方法を採用することができる。すなわち、好適なモノマーは非酸化性で脱水性の酸溶液中で、非酸化性雰囲気下で高速撹拌及び高剪断条件のもと、約60℃から230℃までの段階的または一定昇温速度で温度を上げることで反応させられる。
【0018】
非酸化性溶媒はポリリン酸、メタンスルホン酸を用いることができ、適宜五酸化二リンを加えて脱水能力やポリマー溶解性を調整することができる。好ましい溶媒はおよびメタンスルホン酸と五酸化二リンの混合溶媒である。特にポリリン酸と五酸化二リンの混合溶媒が好ましい。この場合ポリリン酸の濃度は110%以上が好ましく、更に好ましくは115%以上である。
【0019】
ポリマー濃度は、ポリマーが析出しない濃度であれば特に限定されないが、液晶性が発現する濃度であることが好ましい。また生産性の面からも高濃度であることが好ましく、10%以上が好ましい。しかしあまり高濃度にすると溶液の粘度が高くなりすぎるので、20%以下が適当である。
【0020】
また、本発明においては、この溶媒中に還元剤を含むことが好ましい。好ましい還元剤としては塩化第一錫、塩化亜鉛などがあげられ、特に塩化第一錫が着色も無く好ましい。還元剤の量は特に制限はないが、ポリマーに対し500〜10000ppmが好ましい。
【0021】
本発明において上記一般式(5)、(6)の化合物は末端停止剤として作用するため、その添加量によって重合度を調整することができる。
【0022】
上記一般式(5)、(6)の化合物は反応溶媒中に一度に投入されても、分割して投入されてもよく、重合初期から投入されても、反応がある程度進行しオリゴマーが形成されてから投入されてもよい。
【0023】
PBZ繊維は、PBZポリマーを含有するドープより製造されるが、当該ドープを調製するための好適な溶媒としては、クレゾールやそのポリマーを溶解しうる非酸化性の酸が挙げられる。好適な非酸化性の酸の例としては、ポリリン酸、メタンスルホン酸および高濃度の硫酸あるいはそれらの混合物などの無機酸類が挙げられる。中でもポリリン酸及びメタンスルホン酸が、特にポリリン酸が好適である。また、重合終了後、PBZポリマーを単離すること無く、そのまま紡糸用ドープとして使用することもできる。
【0024】
このようにして得られるドープを紡糸口金から押し出し、空間で引き伸ばしてフィラメントが形成される。好適なフィラメントの製造法は、米国特許第5034250号明細書に記載されている方法を採用することができる。紡糸口金を出たドープは紡糸口金と洗浄バス間の空間に入る。この空間は一般にエアギャップと呼ばれているが、空気である必要はない。この空間は、溶媒を除去すること無く、かつ、ドープと反応しない溶媒で満たされている必要があり、例えば空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等が挙げられる。
【0025】
紡糸後のフィラメント状のドープ(以下、ドープフィラメントとも言う)は、過度の延伸を避けるために洗浄され溶媒の一部が除去される。そして、更に洗浄され、適宜水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム等の無機塩基で中和され、ほとんどの溶媒は除去される。ここでいう洗浄とは、PBZポリマーを溶解している酸に対し相溶性であり、PBZポリマーに対して溶媒とならない液体に、ドープフィラメントまたは繊維を接触させ、ドープフィラメントまたは繊維から酸溶媒を除去することである。好適な洗浄液体としては、水や水と酸溶媒との混合物がある。
【0026】
上記の工程を経ることで本発明のPBZ繊維は、残留酸濃度が酸を構成する無機原子として1800ppm以下にすることができる。更に洗浄条件を選ぶことにより、残留酸濃度を容易に1400ppm以下、さらには1000ppm以下にもすることができる。その後、フィラメントは、乾燥、熱処理、巻き取り等が必要に応じて行われる。
【0027】
残留酸濃度の測定方法は、公知の抽出法や公知の機器分析法、化学分析法などが利用できるが、酸が有するリンや硫黄などの無機原子に着目して測定する機器分析法が簡便である。
例えば、リン含有濃度の測定法は、特に限定されるものではないが、走査型蛍光X線分析装置による測定法が簡便で好ましい。その他、残留酸濃度を決定する方法として、原子吸光法、ICP発光分析法、イオンクロマトグラフィー法などのような化学分析法で測定しても良い。
【0028】
本発明における上記のPBZ繊維は、繊維中に残留する無機塩基と無機酸の化学量論比が0.8〜2:1であることが好ましい。繊維中に残留する無機塩基と無機酸の化学量論比が0.8未満であれば、糸内部のpHが極端に酸性となるため、PBZの加水分解が進行し、強度が低下しやすくなる。一方、繊維中に残留する無機塩基と無機酸の化学量論比が2を超えると、糸内部のpHが極端に塩基性となるため、PBZ分子の加水分解が進行し、強度が低下しやすくなる。以上より、繊維中に残留する無機塩基と無機酸の化学量論比は0.8〜2:1であることが好ましく、より好ましくは1〜1.5:1であり、微視的に見たとき繊維中どの部分においても上記化学量論比を実現していることが望ましい。洗浄中での無機塩基による中和方法として、ガイドオイリング方式、シャワリング方式、ディップ方式などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0029】
本発明のPBZ繊維は残留酸濃度を容易に低減できることから、80℃、相対湿度80%の高温高湿度条件下で、700時間処理後においても、引張強度保持率を80%以上に維持することが可能である。
【0030】
本発明に係る上記PBZ繊維は、単糸の平均直径Dは、5〜22μm程度が好ましく、より好ましくは10〜20μmである。なお、繊維径の測定は、走査電子顕微鏡(SEM)や、レーザー式外径測定器等の光学的な手法、マイクロメーターのような機械的な手法のいずれであってもよいが、繊維母集団の全体像を反映させる為に、多くの単糸を測定することが好ましい。
また、本発明のPBZ繊維の平均強度は、4.5GPa以上であるのが好ましく、5.0〜8.0GPaであるのがより好ましい。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の主旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
【0032】
(高温高湿度処理法及び耐久性評価方法)
直径10cmの樹脂ボビンに糸サンプルを巻き付けた状態で、恒温恒湿器(ヤマト科学社製Humidic Chamber 1G43M)中に入れ、かつ恒温恒湿器中に光が入らないよう完全に遮光して、80℃、相対湿度80%の条件下で700時間処理を実施した。処理サンプルと未処理サンプルとを、JIS−L1013に準じて引張試験機(島津製作所製、型式AG−50KNG)で引張強度を測定した。
得られた測定値から、以下の引張強度保持率(%)を求めて、耐久性を評価した。
引張強度保持率(%)=(処理サンプル引張強度/未処理サンプル引張強度)×100
【0033】
(フィラメント中の残留酸濃度及びナトリウム濃度)
残留リン、ナトリウムの濃度は、試料をペレット状に固めて走査型蛍光X線分析装置(株式会社リガク ZSX 100e)を用いて測定した。
【0034】
(繊維径)
走査電子顕微鏡(SEM)で観察、測定した。
【0035】
(実施例1)
窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩457.5g、テレフタル酸351.8g、ポリリン酸2237.8g、五酸化二リン679.8gを60℃で1時間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で25時間反応させた。そこで2−(4−カルボキシフェニル)ベンゾオキサゾール4.1gを加え10分攪拌した後、150℃で5時間、170℃で45時間反応せしめた。得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が34dL/gのポリマードープ2.0kgを用いて、単糸フィラメント径が11.5μmになるように条件を設定し、紡糸温度175℃で孔径0.18mm、孔数166のノズルから紡糸ドープを押し出してドープフィラメントを形成させた後、次いで凝固浴(30℃、20%リン酸水溶液)中に5秒間浸漬して凝固させ、かつ1分間流水で洗浄して、マルチフィラメントを得た。続いて凝固した糸をオフラインで水洗(30℃)、中和(30℃、1%NaOH水溶液)、水洗(30℃)を各20秒実施した後、80℃で4時間乾燥してPBZ繊維を得た。前述した方法で高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果、引張強度保持率は88%であった。また前述した方法でフィラメント中の残留酸濃度を測定した結果、P=1630ppmであった。
【0036】
(実施例2)
窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩430.0g、テレフタル酸329.1g、ポリリン酸2103.5g、五酸化二リン639.0gを60℃で1時間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で25時間反応させた。そこで2−(4−カルボキシフェニル)ベンゾイミダゾール6.22gを加え10分攪拌した後、150℃で5時間、170℃で45時間反応せしめた。得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が23dL/gのポリマードープ2.0kgを用いて、単糸フィラメント径が11.5μmになるように条件を設定し、紡糸温度175℃で孔径0.18mm、孔数166のノズルから紡糸ドープを押し出してドープフィラメントを形成させた後、次いで凝固浴(30℃、20%リン酸水溶液)中に5秒間浸漬して凝固させ、かつ1分間流水で洗浄して、マルチフィラメントを得た。続いて凝固した糸をオフラインで水洗(30℃)、中和(30℃、1%NaOH水溶液)、水洗(30℃)を各20秒実施した後、80℃で4時間乾燥してPBZ繊維を得た。前述した方法で高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果、引張強度保持率は85%であった。また前述した方法でフィラメント中の残留酸濃度を測定した結果、P=1370ppmであった。
【0037】
(実施例3)
窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩466.6g、テレフタル酸350.1g、ポリリン酸2237.8g、五酸化二リン679.8gを60℃で1時間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で25時反応させた。そこで2-(4-カルボキシフェニル)ベンゾチアゾール7.23gを加え10分攪拌した後、150℃で5時間、170℃で45時間反応せしめた。得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が26dL/gのポリマードープ2.0kgを用いて、単糸フィラメント径が11.5μmになるように条件を設定し、紡糸温度175℃で孔径0.18mm、孔数166のノズルから紡糸ドープを押し出してドープフィラメントを形成させた後、次いで凝固浴(30℃、20%リン酸水溶液)中に5秒間浸漬して凝固させ、かつ1分間流水で洗浄して、マルチフィラメントを得た。続いて凝固した糸をオフラインで水洗(30℃)、中和(30℃、1%NaOH水溶液)、水洗(30℃)を各20秒実施した後、80℃で4時間乾燥してPBZ繊維を得た。前述した方法で高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果、引張強度保持率は86%であった。また前述した方法でフィラメント中の残留酸濃度を測定した結果、P=1430ppmであった。
【0038】
(実施例4)
窒素気流下、2,5−ジヒロドキシテレフタル酸と1,2,4,5-テトラアミノベンゼンの1:1塩708.6g、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン四塩酸塩7.9g、ポリリン酸2237.8g、五酸化二リン679.8gを60℃で1時間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で25時間反応させた。そこで2−(4−カルボキシフェニル)ベンゾイミダゾール6.22gを加え10分攪拌した後、150℃で5時間、170℃で45時間反応せしめた。得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が27dL/gのポリマードープ2.0kgを用いて、単糸フィラメント径が11.5μmになるように条件を設定し、紡糸温度175℃で孔径0.18mm、孔数166のノズルから紡糸ドープを押し出してドープフィラメントを形成させた後、次いで凝固浴(30℃、20%リン酸水溶液)中に5秒間浸漬して凝固させ、かつ1分間流水で洗浄して、マルチフィラメントを得た。続いて凝固した糸をオフラインで水洗(30℃)、中和(30℃、1%NaOH水溶液)、水洗(30℃)を各20秒実施した後、80℃で4時間乾燥してPBZ繊維を得た。前述した方法で高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果、引張強度保持率は92%であった。また前述した方法でフィラメント中の残留酸濃度を測定した結果、P=1660ppmであった。
【0039】
(実施例5)
窒素気流下、2,5−ジヒロドキシテレフタル酸と1,2,4,5-テトラアミノベンゼンの1:1塩712.2g、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン四塩酸塩4.9g、ポリリン酸2237.8g、五酸化二リン679.8gを60℃で1時間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で25時間反応させた。そこで2−(4−カルボキシフェニル)ベンゾオキサゾール4.1gを加え10分攪拌した後、150℃で5時間、170℃で45時間反応せしめた。得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が28dL/gのポリマードープ2.0kgを用いて、単糸フィラメント径が11.5μmになるように条件を設定し、紡糸温度175℃で孔径0.18mm、孔数166のノズルから紡糸ドープを押し出してドープフィラメントを形成させた後、次いで凝固浴(30℃、20%リン酸水溶液)中に5秒間浸漬して凝固させ、かつ1分間流水で洗浄して、マルチフィラメントを得た。続いて凝固した糸をオフラインで水洗(30℃)、中和(30℃、1%NaOH水溶液)、水洗(30℃)を各20秒実施した後、80℃で4時間乾燥してPBZ繊維を得た。前述した方法で高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果、引張強度保持率は90%であった。また前述した方法でフィラメント中の残留酸濃度を測定した結果、P=1540ppmであった。
【0040】
(実施例6)
窒素気流下、2,5-ジアミノ-1,4-ベンゼンジチオール367.8g、テレフタル酸354.0g、ポリリン酸2237.8g、五酸化二リン679.8gを60℃で1時間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で25時間反応させた。そこで2-(4-カルボキシフェニル)ベンゾチアゾール4.36gを加え10分攪拌した後、150℃で5時間、170℃で45時間反応せしめた。得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が32dL/gのポリマードープ2.0kgを用いて、単糸フィラメント径が11.5μmになるように条件を設定し、紡糸温度175℃で孔径0.18mm、孔数166のノズルから紡糸ドープを押し出してドープフィラメントを形成させた後、次いで凝固浴(30℃、20%リン酸水溶液)中に5秒間浸漬して凝固させ、かつ1分間流水で洗浄して、マルチフィラメントを得た。続いて凝固した糸をオフラインで水洗(30℃)、中和(30℃、1%NaOH水溶液)、水洗(30℃)を各20秒実施した後、80℃で4時間乾燥してPBZ繊維を得た。前述した方法で高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果、引張強度保持率は87%であった。また前述した方法でフィラメント中の残留酸濃度を測定した結果、P=1440ppmであった。
【0041】
(比較例1)
窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩457.5g、テレフタル酸351.8g、ポリリン酸2237.8g、五酸化二リン679.8gを60℃で1時間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で25時間、150℃で5時間、170℃で45時間反応せしめた。得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が33dL/gのポリマードープ2.0kgを用いて、単糸フィラメント径が11.5μmになるように条件を設定し、紡糸温度175℃で孔径0.18mm、孔数166のノズルから紡糸ドープを押し出してドープフィラメントを形成させた後、次いで凝固浴(30℃、20%リン酸水溶液)中に5秒間浸漬して凝固させ、かつ1分間流水で洗浄して、マルチフィラメントを得た。続いて凝固した糸をオフラインで水洗(30℃)、中和(30℃、1%NaOH水溶液)、水洗(30℃)を各20秒実施した後、80℃で4時間乾燥してPBZ繊維を得た。前述した方法で高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果、引張強度保持率は77%であった。また前述した方法でフィラメント中の残留酸濃度を測定した結果、P=3200ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のポリベンザゾール繊維は、高温かつ高湿度下に長時間暴露されるような場合であっても、強度を充分に維持することができ、しかも、工業的製造も容易である。
このため、産業用資材として、より実用性を高めることができ、利用分野を拡大する効果が絶大である。即ち、織物、編物、組み紐、ロープ、コードなどに加工される用途、すなわち、ケーブル、電線や光ファイバー等のテンションメンバー、ロープ、等の緊張材、耐弾材等の耐衝撃用部材、手袋等の耐切創用部材、ベルト、タイヤ、靴底、ロープ、ホース、等のゴム補強材、等広範にわたる用途に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子鎖が下記一般式(1)または(2)の繰り返し単位で表されるポリベンザゾールまたはその共重合体であり、その末端が下記一般式(3)で示されることを特徴とするポリベンザゾールポリマー。
【化1】

【化2】

式中XはS、O原子またはNH基、Ar1はベンゼン環、ナフタレン環またはピリジン環を2個以下含む4価の有機基、Ar2は芳香族、脂肪族、脂環族もしくはそれらの組合せを含む2価の有機基、もしくは元素がないことを示す。又Ar3はベンゼン環、ナフタレン環またはピリジン環を2個以下含む3価の有機基を、nは整数を示す。式中のN原子とX原子/基はトランス位であってもシス位であってもよい。
【化3】

式中XはS、O原子またはNH基、Ar4はベンゼン環、ナフタレン環またはピリジン環を2個以下含む2価の有機基、Ar5は芳香族、脂肪族、脂環族もしくはそれらの組合せを含む2価の有機基、もしくは元素がないことを示す。
【請求項2】
末端が下記化学式(4)で示されることを特徴とする請求項1に記載のポリベンザゾールポリマー。
【化4】

【請求項3】
酸溶媒を用いて製造されることを特徴とする請求項1〜2に記載のポリベンザゾールポリマーより構成されるポリベンザゾール繊維中の残留酸濃度が酸を構成する無機原子として1800ppm以下であることを特徴とするポリベンザゾール繊維。
【請求項4】
80℃、相対湿度80%の環境条件下で700時間処理後の引張強度保持率が80%以上あることを特徴とする請求項3に記載のポリベンザゾール繊維。

【公開番号】特開2007−308632(P2007−308632A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140293(P2006−140293)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】