説明

ポリベンゾオキサゾール及びその製造方法

【課題】高ガラス転移温度、高透明性、低複屈折、低吸水率および十分な靭性を有するフィルムおよびこれに用いることができるポリベンゾオキサゾール等を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される反復単位を有するポリベンゾオキサゾールであって、該ポリベンゾオキサゾールを20μm厚のフィルムとしたときのカットオフ波長が300nm以下であり、400nmでの透過率が70%以上である、ポリベンゾオキサゾール。
一般式(1)
【化1】


(一般式(1)中、Rは2価の脂環族基である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高ガラス転移温度、高透明性、低複屈折、低吸水率、十分な靭性等を併せ持つ、各種電子デバイスにおけるフィルム(例えば、電気絶縁膜)および各種基板(例えば、液晶ディスプレー用基板、有機ELディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、特にフレキシブルフィルム液晶ディスプレー用プラスチック基板)材料、偏光膜用保護膜として有益なポリベンゾオキサゾールおよびその製造方法ならびにポリベンゾオキサゾールフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶ディスプレー用基板にはガラス基板が用いられているが、近年のディスプレーの大画面化の動向に伴い、軽量化および生産性向上の問題が顕在化している。また、携帯電話、電子手帳、携帯用パーソナルコンピューター等のモバイル用情報・通信機器では液晶ディスプレー中のガラス基板が小さな衝撃でも破損しやすいといった問題も指摘されている。そこで、最近では重くて割れやすいガラス基板の代替材料として、より軽量で成型加工性が高く、割れにくいプラスチック基板が注目されている。もし、ガラスのように高透明性、かつ、十分靭性の高いプラスチック基板があれば、曲げたり丸めたりして収納可能なフレキシブルフィルム液晶パネルが実現可能になる。
【0003】
しかし、プラスチック基板はガラス基板に比べて耐熱性に劣るという欠点を持つ。特にTFT型液晶パネルでは製造工程上200〜220℃程度の高温に複数回曝されるため、プラスチック基板のガラス転移温度は少なくとも220℃より高いことが要求される。しかしながら現存する代表的な透明樹脂である、ポリメタクリル酸メチルおよびポリカーボネートはガラス転移温度がそれぞれ100℃および150℃であり、耐熱性の点では全く不十分である。さらに、耐熱性と透明性を併せ持つ、フレキシブルフィルム液晶ディスプレー用プラスチック基板として、現在ポリエーテルスルホンが有望視されているが、そのガラス転移温度は220℃であり、耐熱性の点で十分であるとはいえないのが現状である。
【0004】
一方、ガラス転移温度が高い高分子材料として、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンズイミダゾール等が知られている。非特許文献1では、高ガラス転移温度、高透明性、高靭性を同時に有するポリイミドが検討されている(非特許文献1)。
【0005】
ポリイミドフィルムは、一般にテトラカルボン酸二無水物とジアミンとをジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒中で等モル反応させて得られるポリイミド前駆体を、基板上に流延・乾燥し、300℃以上の高温で加熱硬化する2段階法で製造される。これはポリイミドそのものが溶媒に不溶で、熱可塑性も殆どない場合が多く、ポリイミド自身を成型加工することが困難なためである。
しかしながら、例えば、フレキシブルフィルム液晶ディスプレー用のプラスチック基板は、通常、厚さが100μmよりも厚いフィルムが要求されるが、このように厚いポリイミドフィルムを2段階法で作製することは困難を伴う。
【0006】
さらに深刻な問題はポリイミドフィルムが着色してしまうことである。これはポリイミド鎖における芳香族基を通じた分子内共役および、分子内・分子間電荷移動相互作用によるものである(非特許文献2)。これに対し、ポリイミド前駆体重合の際に用いるテトラカルボン酸二無水物とジアミンの一方または両方に脂肪族モノマーを使用することで、電荷移動相互作用を妨害することが可能である。
しかしながら脂肪族ジアミンとテトラカルボン酸二無水物からポリイミド前駆体を重合する際、重合反応初期に塩形成が起こり、重合終了まで長期間を要するか、重合反応が全く進行しないという重大な問題が生じる(非特許文献3)。
【0007】
さらにポリイミドは分子内に高分極性イミド基を高濃度に含有しているため、吸水率が高く、液晶ディスプレーの動作不良を招く可能性がある。
また、ポリベンズイミダゾールも分子内に極性の高い2級アミン残基を有するためポリイミドよりもさらに吸水率が高い。
【0008】
一方、ポリベンゾオキサゾールはイミド基のような高分極性の構造単位を分子内に含んでおらず、低吸水性が期待される。さらに、ポリベンゾオキサゾールの分子内に脂環構造を導入することで、フィルムの透明性が改善されると同時に、分子間相互作用が低下して有機溶媒に対する溶解性が高くなることが期待される。ここで、例えば、特許文献1には、低誘電率、低線熱膨張係数、高ガラス転移温度を併せ持つ脂環構造をもつポリベンゾオキサゾールが開示されている。また、特許文献2には、ポリベンゾオキサゾール前駆体のi線透過率が高い脂環構造をもつポリベンゾオキサゾールが開示されている。さらに、特許文献3には、波長が1.3μmや1.55μmにおける光導波路材料として脂環構造をもつポリベンゾオキサゾールが開示されている。しかしながら、これらに記載のポリベンゾオキサゾールは、前駆体の有機溶媒溶液を塗布・乾燥後、高温で脱水閉環により得たものであり、高温環化過程では着色してしまう。
すなわち、フレキシブルフィルム液晶ディスプレー用プラスチック基板に適した上記フィルムの特性および加工性を全て満足するポリベンゾオキサゾールを製造する技術は開示されていないのが現状である。
【0009】
一方、ポリイミドやポリベンゾオキサゾールが有機溶媒に不溶な場合、通常、ポリイミドやポリベンゾオキサゾール前駆体の有機溶媒溶液を塗布・乾燥後、300℃以上の高温で脱水環化反応することで、基板上に耐熱性絶縁膜を形成する方法がとられる。しかしながら、この際、絶縁膜の線熱膨張係数が十分低くないと(金属基板のそれに近くないと)、熱環化反応後室温に戻す冷却過程で大きな熱応力が発生し、基板から絶縁膜の剥れ、割れ、積層体の反り等が発生し、デバイスの信頼性の低下を招いてしまう。
【0010】
【非特許文献1】「高分子討論会予稿集」,53巻,2004年,p.3985〜3986
【非特許文献2】「プログレス イン ポリマーサイエンス(Progress in Polymer Science)」,26巻,2001年,p.259〜335
【非特許文献3】「ハイパフォーマンス ポリマー(High Performance Polymers)」,15巻,2003年,p.47〜64
【特許文献1】特開2002−327060号公報
【特許文献2】特開2004−18594号公報
【特許文献3】特開2004−118123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記課題を解決することを目的としたものであって、高ガラス転移温度、高透明性、低複屈折、低吸水率および十分な靭性を有する、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜、液晶ディスプレー用基板、有機ELディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、偏光膜用保護膜、特にフレキシブルフィルム液晶ディスプレー用プラスチック基板として有益なポリベンゾオキサゾールフィルムに用いることができるポリベンゾオキサゾールおよびその製造方法等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題のもと、発明者が鋭意検討した結果、下記手段により解決しうることを見出した。
(1)下記一般式(1)で表される反復単位を有するポリベンゾオキサゾールであって、該ポリベンゾオキサゾールを20μm厚のフィルムとしたときのカットオフ波長が300nm以下であり、400nmでの透過率が70%以上である、ポリベンゾオキサゾール。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、Rは2価の脂環族基である)
(2)2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンまたはその誘導体と脂環式ジカルボン酸またはその誘導体を縮合剤の存在下で重縮合反応させる工程を含む、下記一般式(1)で表される反復単位を有するポリベンゾオキサゾールの製造方法。
一般式(1)
【化2】

(一般式(1)中、Rは2価の脂環族基である)
(3)(2)に記載の製造方法により得られるポリベンゾオキサゾール。
(4)下記一般式(2)で表される反復単位を有するポリベンゾオキサゾール。
一般式(2)
【化3】

(5)0.5質量%溶液としたときの、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定したときの固有粘度が0.4dL/g以上である、(1)、(3)および(4)のいずれかに記載のポリベンゾオキサゾール。
(6)有機溶媒に可溶である(1)、(3)〜(5)のいずれかに記載のポリベンゾオキサゾール。
(7)(1)、(3)〜(6)のいずれかに記載のポリベンゾオキサゾールを含むポリベンゾオキサゾールフィルム。
(8)ガラス転移温度が240℃以上である、(7)に記載のポリベンゾオキサゾールフィルム。
(9)ポリベンゾオキサゾールフィルムに平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率の差が0.015以下である(7)または(8)に記載のポリベンゾオキサゾールフィルム。
(10)膜厚20μmのポリベンゾオキサゾールフィルムを25℃の水に24時間浸漬した後の重量増加分から求められる吸水率が1%以下である(7)〜(9)のいずれかに記載のポリベンゾオキサゾールフィルム。
(11)1MHzにおける誘電率ε(ε=1.1×nav2、navは平均屈折率を示す)が2.8以下である、(7)〜(10)のいずれかに記載のポリベンゾオキサゾールフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリベンゾオキサゾールは、例えば、フィルム状としたときに、高ガラス転移温度、高透明性、低複屈折、低吸水率、十分な靭性等を有する。特に、これらすべてを併せ持つものとすることができる。本発明のポリベンゾオキサゾールフィルムは、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜、液晶ディスプレー用基板、有機ELディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、偏光膜用保護膜、フレキシブルフィルム液晶ディスプレー用プラスチック基板等として好ましく用いることができる。
また、ポリベンゾオキサゾールフィルムを多層基板等における電気絶縁膜として利用する場合、金属基板上に絶縁膜を形成するために該ポリベンゾオキサゾールの有機溶媒溶液を塗布後、比較的低温で溶媒を蒸発・乾燥するだけでよく、金属基板/絶縁膜積層体における熱応力低減に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
まず、本発明の一般式(1)で表される化合物について説明する。
一般式(1)
【化4】

一般式(1)中、Rは2価の脂環族基であり、Rは、炭素数4〜20であることが好ましい。さらに、環は6〜12員環が好ましく、6員環がより好ましい。また、単環でも多環(縮合環を含む)でもよいが、好ましくは、単環である。具体的には、以下のものが挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
【化5】

一般式(1)で表される化合物のうち、より好ましくは、一般式(2)で表される化合物である。
一般式(2)
【化6】

【0017】
一般式(1)で表される化合物は、例えば、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンおよびその誘導体とジカルボン酸またはその誘導体を重縮合反応させて得られうる。重縮合反応は好ましくは、重合溶媒中でおよび/または縮合剤の存在下で、より好ましくは、縮合剤の存在下で行う。
2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンおよびその誘導体としては、好ましくは下記式(2)で表される2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンである。このような2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンおよびその誘導体と、脂環式ジカルボン酸を重縮合反応させることにより、上記要求特性を満たす、一般式(1)で表されるポリベンゾオキサゾールが得られる。
式(2)
【化7】

【0018】
本発明で用いる、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンおよびその誘導体は、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
さらに本発明では、他のビス(o−アミノフェノール)誘導体を併用してもよい。このような他のビス(o−アミノフェノール)誘導体としては、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノハイドロキノン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン等が好ましい例として挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
他のビス(o−アミノフェノール)誘導体の含量は、他のビス(o−アミノフェノール)誘導体と2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンの合計量の30質量%以下であることが好ましい。
2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンおよびその誘導体、他のビス(o−アミノフェノール)誘導体は塩酸塩のような塩を使用することもできる。
【0019】
本発明で用いる脂環式ジカルボン酸は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、特に限定されないが、好ましくは、炭素原子数4〜20のものである。環状部分は、6〜12員環が好ましく、6員環がより好ましい。また、単環であってもよいし多環(縮合環を含む)であってもよいが、単環が好ましい。
本発明で用いる脂環式ジカルボン酸としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,1−シクロプロパンジカルボン酸、1,1−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、2,5−ノルボナンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸等が好ましい例として挙げられ、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(式(3))および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(式(4))がより好ましい。
本発明で用いる脂環式ジカルボン酸は単独あるいは2種類以上組み合わせて使用することができる。さらに、本発明で用いる脂環式ジカルボン酸は、ポリベンゾオキサゾールの重合反応性および有機溶媒に対する溶解性の観点から、少なくとも、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を含有することが好ましい。このときの含有量としては、全脂環式ジカルボン酸量の20%以上が好ましい。
式(3)
【化8】

式(4)
【化9】

【0020】
1,3−シクロヘキサンジカルボン酸には式(5)に示すようにトランス体とシス体が存在するが、本発明に係るポリベンゾオキサゾールを重合する場合、特に立体構造の制約はなく、トランス体、シス体どちらも使用可能であり、これらの混合物であってもなんら差し支えない。
式(5)
【化10】

式(4)の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸には式(6)に示すようにトランス体とシス体が存在するが、本発明に係るポリベンゾオキサゾールを重合する場合、特に立体構造の制約はなく、トランス体、シス体どちらも使用可能であり、これらの混合物であってもなんら差し支えない。
式(6)
【化11】

【0021】
脂環式ジカルボン酸に加えて、他のジカルボン酸を併用してもよい。この場合のジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸、1,8−アントラセンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等が例としてあげられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。これらのジカルボン酸は、脂環式ジカルボン酸量に対し0〜30質量%であることが好ましい。
【0022】
一般式(1)で表されるポリベンゾオキサゾールは、より具体的には、以下の方法により得られる。すなわち、脂環式ジカルボン酸成分総量と等モル量の2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンを反応容器中に入れ、重合溶媒および/または縮合剤を加える。撹拌機で撹拌しながら窒素雰囲気中、100℃から10℃ずつ最終温度まで段階的に昇温(各温度で10分間保持)し、最後に200〜230℃で10分〜4時間保持する。室温まで冷却後、水中に沈殿させ、洗浄水が中性になるまで大量の水で洗浄後、さらにメタノールで洗浄し、最後に100℃で真空乾燥して、ポリベンゾオキサゾールの白色沈殿を得る。
【0023】
重合時のモノマー濃度は5〜30質量%、好ましくは10〜20質量%である。モノマー濃度を5質量%以上とすることにより、ポリベンゾオキサゾールの重合度をより好ましいレベルに保つことができ、30質量%以下とすることにより、モノマーがより十分に溶解し、より均一な溶液が得られる。
【0024】
本発明で採用する重合溶媒および縮合剤については、特に制限がなく、例えば、米国特許4,931,532号に記載のように塩素化炭化水素溶媒に、五酸化ニ燐、オキシ塩化燐、五塩化燐、トリフルオロ酢酸無水物−ピリジン、塩化チオニルおよびトリメチルシリルホスフェート等の縮合剤を添加してもよい。また、高分子学会編 新高分子実験学第3巻 高分子の合成・反応(2)p178−179(1996 共立出版)に記載のポリ燐酸または五酸化燐−メタンスルホン酸のように縮合剤と重合溶媒を兼ねたものがより好ましい。
【0025】
脂環式ジカルボン酸を使用する該重合反応は、急激に昇温せず、上記のように徐々に昇温して行うことが好ましい(例えば、5〜10℃ずつ段階的に昇温し各温度で60分間保持する)。徐々に昇温することにより、脂環構造の一部が分解して最終的に得られるポリベンゾオキサゾールが着色してしまうのをより効果的に抑止し、さらに重合度をより好ましいレベルのものとすることができる。
また、最終重合温度は好ましくは180〜240℃、より好ましくは200〜240℃まで昇温する。最終重合温度で5分〜5時間より好ましくは10分〜4時間保持して重合反応を行うことにより、重合度をより十分なものとすることができる。
【0026】
脂環式ジカルボン酸を使用する本発明のポリベンゾオキサゾールの製造方法は、高温熱環化工程を必要としないため、得られるポリベンゾオキサゾールフィルムが着色する心配がないため好ましい。また、前駆体を経由せずに合成されるため、例えば、煩雑なジカルボン酸の塩素化工程等を含まず、前駆体重合の際に用いる試薬や、痕跡量でも残留すると電子デバイスに好ましくない化合物を一切使用する必要がないという利点を併せ持つ。さらに、本発明のポリベンゾオキサゾールの製造方法は、ポリベンゾオキサゾール前駆体重合の際しばしば添加される高分子溶解促進剤(例えば、リチウムブロマイドやリチウムクロライド等の金属塩類等)を使用する必要がない。これらの金属塩類はポリベンゾオキサゾールフィルム中に金属イオンが痕跡量でも残留すると、電子デバイスとしての信頼性を著しく低下させるため、本発明の製造方法はかかる観点からも好ましい。
【0027】
本発明に係るポリベンゾオキサゾールを有機溶媒に溶解させ、均一・透明で貯蔵安定性の高い溶液を得ることができる。さらに、この溶液をシリコン、銅、ガラス等の基板上に流延し、温風乾燥器中、例えば、50〜150℃範囲で10分〜10時間乾燥する。乾燥したものを好ましくは150〜300℃、より好ましくは180℃〜250℃で熱処理することにより、透明で強靭なポリベンゾオキサゾールフィルムが得られる。300℃以下で熱処理することにより、ポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾオキサゾールフィルム)が着色してしまうのをより効果的に防止できる。また、着色を抑制するためには、熱処理は真空中または窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことが望ましいが、あまり高温にしないかぎり空気中で行ってもよい。
【0028】
ポリベンゾオキサゾール溶液を得る際に用いる有機溶媒としては特に限定されないが、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テロラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の非プロトン性溶媒および、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のプロトン性溶媒が使用可能であり、非プロトン性溶媒が好ましく、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テロラヒドロフラン、ジクロロメタンがより好ましい。またこれらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0029】
本発明でいうガラス転移温度(Tg)とは、動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークから求められたものをいう。
本発明のポリベンゾオキサゾールのガラス転移温度は、240℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。
本発明のポリベンゾオキサゾールは、脂環構造を有するため、これを含まない全芳香族ポリベンゾオキサゾールに比べると長期熱安定性は劣るが、フレキシブルフィルム液晶ディスプレーや多層基板等の作製時に要求される短期耐熱性は充分高く、上記産業分野への応用には全く問題がない。
【0030】
本発明における、ポリベンゾオキサゾールの固有粘度とは、0.5質量%のポリベンゾオキサゾール溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定したときの固有粘度をいう。
本発明に係るポリベンゾオキサゾールの固有粘度は0.4dL/g以上であることが好ましく、0.5dL/g以上であることがより好ましい。0.4dL/g以上とすることにより、ポリベンゾオキサゾールフィルムの靭性が急激に低下して、フレキシブルフィルム液晶ディスプレーへの適用が困難になることをより効果的に防止できる。
【0031】
本発明におけるカットオフ波長とは、分光光度計により200nmから900nmの可視・紫外線透過率を測定し、透過率が0.5%以下となる波長をいう。
本発明のポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾオキサゾールフィルム)のカットオフ波長は、320nmより短波長であることが好ましく、300nmより短波長であることがより好ましい。このようなポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾオキサゾールフィルム)は、フレキシブルフィルム液晶ディスプレー用基板に適用する場合に特に好ましい。
また、本発明のポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾオキサゾールフィルム)は、400nmでの透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0032】
本発明におけるポリベンゾオキサゾールフィルムの複屈折とは、ポリベンゾオキサゾールフィルムに平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差から求められた値(Δn=nin−nout)をいう。
また、複屈折はできるだけ低い方が好ましい傾向にあるが、例えば、0.015以下(より好ましくは0.010以下、さらに好ましくは0.005以下)とすると、液晶ディスプレー用基板等により好適に用いられる。
【0033】
本発明におけるポリベンゾオキサゾールフィルムの吸水率とは、50℃で24時間真空乾燥したポリベンゾオキサゾールフィルム(フィルム厚:20μm)を25℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分を拭き取り、重量増加分から求められる吸水率(%)をいう。
本発明におけるポリベンゾオキサゾールフィルムの吸水率は、低い方が好ましい傾向にあるが、例えば、1%以下(より好ましくは、0.5%以下)とすると、液晶ディスプレー用基板等により好適に用いられる。
【0034】
本発明におけるポリベンゾオキサゾールフィルムの線熱膨張係数(CTE)とは、熱機械分析により、荷重0.5g/厚さ1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値として求められた線熱膨張係数をいう。本発明のおけるポリベンゾオキサゾールフィルムの線熱膨張係数は、好ましくは80ppm/K以下、より好ましくは70ppm/K以下である。
【0035】
本発明におけるポリベンゾオキサゾールフィルムの誘電率とは、下記平均屈折率nav
av=(2nin+nout)/3
に基づいて算出される、1MHzにおける誘電率(ε=1.1×nav2)をいう。
本発明におけるポリベンゾオキサゾールフィルムの誘電率は、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.7以下である。
【0036】
また、本発明におけるポリベンゾオキサゾールフィルムの破断伸び(%)とは、試験片(3mm×30mm)について引張り試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、試験片が破断した時の伸び率から求められる伸び(%)をいう。本発明におけるポリベンゾオキサゾールフィルムの破断伸び(%)は、できるだけ高い方が好ましいが、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上である。
本発明における5%重量減少温度とは、昇温速度10℃/minにおいて、窒素中(Td5N2)または、空気中(Td5 Air)で重量が5%減少する温度をいう。本発明における、Td5 N2は、できるだけ高い方が好ましいが、好ましくは450℃以上、より好ましくは470℃以上である。本発明における、Td5 Airは、できるだけ高い方が好ましいが、好ましくは350℃以上、より好ましくは380℃以上である。
【0037】
本発明のポリベンゾールは、フィルム状にして用いることができる。該本発明のポリベンゾオキサゾールフィルム中には、必要に応じて、酸化安定剤、末端封止剤、フィラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤および増感剤等の添加物が混合されていても差し支えない。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0039】
<固有粘度>
0.5質量%のポリベンゾオキサゾール溶液について、オストワルド粘度計を用い温度30℃における固有粘度を測定した。
<ガラス転移温度>
動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークから求めた。
<線熱膨張係数>
熱機械分析により、荷重0.5g/厚さ1μm、昇温速度5℃/分における試験片(5mm×20mm)の伸びについて、線熱膨張係数(100〜200℃の範囲の平均値)を求めた。
<カットオフ波長(透明性)>
分光光度計により200nmから900nmの可視・紫外線透過率を測定した。透過率が0.5%以下となる波長(カットオフ波長)を透明性の指標とした。カットオフ波長が短い程、透明性が良好であることを意味する。
<波長400nmにおける透過率%(透明性)>
分光光度計により、波長400nmにおける透過率を測定し、フィルム厚20μmの値を算出した。
<複屈折>
ポリベンゾオキサゾールフィルムに平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。
<誘電率>
ポリベンゾオキサゾールフィルムの平均屈折率nav=(2nin+nout)/3に基づいて、次式により1MHzにおける誘電率(ε)を算出した(ε=1.1×nav2)。
<弾性率、破断伸び>
ポリベンゾオキサゾールフィルムの試験片(3mm×30mm)について引張り試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力−歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。
<吸水率>
50℃で24時間真空乾燥したポリベンゾオキサゾールフィルム(厚さ:20〜30μm)を25℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分を拭き取り、重量増加分から吸水率(%)を求めた。
<5%重量減少温度>
昇温速度10℃/minにおいて、窒素中(Td5 N2)または、空気中(Td5 Air)で重量が5%減少する温度を測定した。
【0040】
(実施例1)
攪拌機付密閉反応容器中に1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(シス、トランス混合物)10mmolおよび2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン10mmolを入れ、モノマー濃度が10質量%になるようにポリ燐酸を加えた。撹拌機で撹拌しながら窒素気流中、オイルバスにて100℃から10℃ずつ段階的に昇温(各温度で10分間保持)し、最後に200℃で1時間保持した。反応終了後室温まで冷却し、水中に沈殿させ、洗浄水が中性になるまで大量の水で洗浄した。さらにメタノールで洗浄し、最後に100℃で真空乾燥して、ポリベンゾオキサゾールの白色沈殿を得た。
N−メチル−2−ピロリドン中、30℃で測定した、ポリベンゾオキサゾールの固有粘度は0.501dL/gであり、高重合体であることが認められた。また、様々な溶媒(N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、m−クレゾール、ヘキサメチルホスホルアミド等)に高い溶解性を示した。次にこのポリベンゾオキサゾールをN−メチル−2−ピロリドンに溶解(10質量%)した。この溶液は均一・透明であり、室温で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定性を示した。この溶液をガラス基板上に流延し、100℃で1時間乾燥後、さらに真空中230℃で1時間熱処理し、透明で可撓性のポリベンゾオキサゾールフィルムを得た。180°折り曲げ試験によりこのフィルムは破断することなく、靭性が見られた。フィルム物性はガラス転移温度244℃、カットオフ波長(Cut Off)290nm、破断伸び10.0%、複屈折Δn=0.0047、線熱膨張係数(CTE)53.4ppm/K、5%重量減少温度(昇温速度10℃/min)は、窒素中(Td52)で482℃、空気中(Td5 Air)で404℃、誘電率は2.61、吸水率0.14%であり、要求特性を全て満足するポリベンゾオキサゾールが得られた(表1)。このポリベンゾオキサゾールフィルムの赤外線吸収スペクトルを図1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
(実施例2)
脂環式ジカルボン酸として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(シス、トランス混合物)を用いた以外は、実施例1に記載の方法と同様にポリベンゾオキサゾールを重合し、フィルムを作製して物性評価を行った。表1に物性値を示す。180°折り曲げ試験によりこのフィルムは破断することなく、靭性が見られた。1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を用いなかったため、限られた溶媒(m−クレゾール、ヘキサメチルホスホルアミド等)にしか溶解性を示さなかったが、実施例1と同様に要求特性をほぼ満足するポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾオキサゾールフィルム)が得られた。
【0043】
(実施例3)
脂環式ジカルボン酸としてトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を用いた以外は、実施例1に記載の方法と同様にポリベンゾオキサゾールを重合し、フィルムを作製して、物性評価を行った。表1に物性値を示す。180°折り曲げ試験によりこのフィルムは破断することなく、靭性が見られた。1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を用いなかったため、限られた溶媒(m−クレゾール、ヘキサメチルホスホルアミド等)にしか溶解性を示さなかったが、実施例1と同様に要求特性をほぼ満足するポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾオキサゾールフィルム)が得られた。
【0044】
(実施例4)
実施例1の方法に準じて、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(シス、トランス混合物)7.5mmol、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(シス、トランス混合物)2.5mmolと2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン10mmolよりポリベンゾオキサゾール共重合体を合成した。また実施例1と同様にポリベンゾオキサゾールフィルムを作製して、物性評価を行った。表1に物性値を示す。180°折り曲げ試験によりこのフィルムは破断することなく、靭性が見られた。1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を用いたため、実施例1に記載のポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾオキサゾールフィルム)と同様の有機溶媒に可溶であった。また実施例1と同様に要求特性を全て満足した。
(実施例5)
実施例1の方法に準じて、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(シス、トランス混合物)5mmol、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(シス、トランス混合物)5mmolと2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン10mmolよりポリベンゾオキサゾール共重合体を合成した。また実施例1と同様にポリベンゾオキサゾールフィルムを作製して、物性評価を行った。表1に物性値を示す。180°折り曲げ試験によりこのフィルムは破断することなく、靭性が見られた。1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を用いたため、実施例1に記載のポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾオキサゾールフィルム)と同様の有機溶媒に可溶であった。また実施例1と同様に要求特性を全て満足した。
(実施例6)
実施例1の方法に準じて、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(シス、トランス混合物)2.5mmol、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(シス、トランス混合物)7.5mmolと2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン10mmolよりポリベンゾオキサゾール共重合体を合成した。また実施例1と同様にポリベンゾオキサゾールフィルムを作製して、物性評価を行った。表1に物性値を示す。180°折り曲げ試験によりこのフィルムは破断することなく、靭性が見られた。1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を用いたため、実施例1に記載のポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾオキサゾールフィルム)と同様の有機溶媒に可溶であった。また実施例1と同様に要求特性を全て満足した。
【0045】
(比較例1)
脂環式ジカルボン酸に代えてテレフタル酸を用いた以外は、実施例1に記載の方法と同様にポリベンゾオキサゾールを重合し、フィルムを作製して物性評価を行った。表1に物性値を示す。1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を用いなかったため、プロトン性のm−クレゾールやヘキサメチルホスホルアミド以外、有機溶媒に殆ど溶解性を示さず、またフィルムの透明性も不十分であった。
(比較例2)
脂環式ジカルボン酸に代えてイソフタル酸を用いた以外は、実施例1に記載の方法と同様にポリベンゾオキサゾールを重合、フィルムを作製して物性評価を行った。表1に物性値を示す。1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を用いなかったため、プロトン性のm−クレゾールやヘキサメチルホスホルアミド以外、有機溶媒に殆ど溶解性を示さず、またフィルムの透明性も不十分であった。
(比較例3)
攪拌機付密閉反応容器中に2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン5mmolを入れ、セプタムキャップで密閉した。シリンジにてN−メチル−2−ピロリドン22mLを加えてモノマーを溶解し、さらにピリジン3mLを加えた。この溶液にトリメチルシリルクロリド3.2ml(25mmol)をシリンジでゆっくりと滴下し、滴下終了後室温で1時間攪拌してシリル化反応を行った。この溶液にトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸5mmolをゆっくり加え、室温で24時間重合反応を行なわせて透明で粘稠なポリベンゾオキサゾール前駆体溶液を得た。これをガラス基板に流延し、60℃、2時間で乾燥後、減圧下200℃で1時間、270℃で1時間、段階的に熱処理を行って熱脱水閉環反応を完結させ、厚さ約20μmの強靱なポリベンゾオキサゾールフィルムを得た。閉環反応の完結はフィルムの赤外線吸収スペクトルから確認した。物性値を表1に示す。得られたポリベンゾオキサゾールフィルムは実施例3に記載のポリベンゾオキサゾールフィルムと同等の物性を示したが、著しい着色が見られ、400nmでの透過率は26.4%と低い値を示した。これは270℃での熱脱水閉環反応の際に脂環構造単位がわずかに熱分解したためである。
【0046】
(比較例4)
脂環式ジカルボン酸として1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を用いた以外は、比較例3に記載の方法と同様にポリベンゾオキサゾール前駆体を重合した。このポリベンゾオキサゾール前駆体溶液をガラス基板に流延し、60〜100℃で2時間乾燥したところ、全く製膜性を示さなかった。これはこのポリベンゾオキサゾール前駆体の固有粘度が0.139dL/gと低く、分子量が低すぎるためである。ポリベンゾオキサゾールフィルムを作製することができなかったため、物性評価を実施しなかった。
(比較例5)
脂環式ジカルボン酸に代えてテレフタル酸を用いた以外は、比較例3に記載の方法と同様にポリベンゾオキサゾール前駆体を重合した。これをガラス基板に流延し、80℃、1時間で乾燥後、減圧下360℃で30分熱処理を行って熱脱水閉環反応を完結させ、厚さ15μmの強靱なポリベンゾオキサゾールフィルムを得た。閉環反応の完結はフィルムの赤外線吸収スペクトルから確認した。しかしポリベンゾオキサゾールフィルムは有機溶媒に殆ど溶解性を示さず、フィルムの着色も見られた。
(比較例6)
脂環式ジカルボン酸に代えてイソフタル酸を用いた以外は、比較例3に記載の方法と同様にポリベンゾオキサゾール前駆体を重合した。これをガラス基板に流延し、60℃、2時間で乾燥後、減圧下300℃で1時間熱処理を行って熱脱水閉環反応を完結させ、厚さ15μmの強靱なポリベンゾオキサゾールフィルムを得た。閉環反応の完結はフィルムの赤外線吸収スペクトルから確認した。比較的透明なフィルムが得られたが、有機溶媒に殆ど溶解性を示さなかった。
【0047】
(比較例7)
実施例1に記載のポリベンゾオキサゾールに対応するポリイミドを合成し、そのフィルムの物性を比較した。すなわち、反応容器中にトランス−1,4−シクロヘキサンジアミン5mmolを入れ、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解した。この溶液に2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物粉末5mmolを徐々に加え、48時間撹拌し、透明で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。これをガラス基板上に流延し、60℃で2時間乾燥後、300℃で1時間、熱イミド化反応を行い、可撓性のポリイミドフィルムが得られた。しかし、実施例5のポリベンゾオキサゾールとほぼ同等の固有粘度(分子量)を有しているにもかかわらず、破断伸びははるかに低い値であった。フィルムの透明性は極めて高かったが、有機溶媒に殆ど溶解性を示さなかった。また、実施例1〜6に記載のポリベンゾオキサゾールフィルムに比べ、若干高い吸水率を示した。これは分子内に高分極性のイミド基を含んでいるためである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は実施例1に記載のポリベンゾオキサゾールフィルムの赤外線吸収スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される反復単位を有するポリベンゾオキサゾールであって、該ポリベンゾオキサゾールを20μm厚のフィルムとしたときのカットオフ波長が300nm以下であり、400nmでの透過率が70%以上である、ポリベンゾオキサゾール。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、Rは2価の脂環族基である)
【請求項2】
2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパンまたはその誘導体と脂環式ジカルボン酸またはその誘導体を縮合剤の存在下で重縮合反応させる工程を含む、下記一般式(1)で表される反復単位を有するポリベンゾオキサゾールの製造方法。
一般式(1)
【化2】

(一般式(1)中、Rは2価の脂環族基である)
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法により得られるポリベンゾオキサゾール。
【請求項4】
下記一般式(2)で表される反復単位を有するポリベンゾオキサゾール。
一般式(2)
【化3】

【請求項5】
0.5質量%溶液としたときの、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定したときの固有粘度が0.4dL/g以上である、請求項1、3および4のいずれかに記載のポリベンゾオキサゾール。
【請求項6】
有機溶媒に可溶である請求項1、3〜5のいずれかに記載のポリベンゾオキサゾール。
【請求項7】
請求項1、3〜6のいずれかに記載のポリベンゾオキサゾールを含むポリベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項8】
ガラス転移温度が240℃以上である、請求項7に記載のポリベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項9】
ポリベンゾオキサゾールフィルムに平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率の差が0.015以下である請求項7または8に記載のポリベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項10】
膜厚20μmのポリベンゾオキサゾールフィルムを25℃の水に24時間浸漬した後の重量増加分から求められる吸水率が1%以下である請求項7〜9のいずれかに記載のポリベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項11】
1MHzにおける誘電率ε(ε=1.1×nav2、navは平均屈折率を示す)が2.8以下である、請求項7〜10のいずれかに記載のポリベンゾオキサゾールフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2006−143943(P2006−143943A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338369(P2004−338369)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】