説明

ポリペプチド−核酸コンジュゲートおよびその使用

本発明は、ポリペプチド-核酸コンジュゲートに関する。これらのコンジュゲートは、例えば、癌、神経変性疾患、またはリソソーム蓄積症を治療するために、血液脳関門を通過する治療的RNAi薬の標的化適用を可能にし得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物送達の分野における改善に関する。より詳細には、本発明は、癌、神経変性疾患、およびリソソーム蓄積症などの疾患の治療のために、被験体の血液脳関門を通過して核酸を輸送するための、または他の組織内へ核酸を輸送するための、ポリペプチド-核酸コンジュゲートならびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脳病理学に関する新たな治療法の開発において、血液脳関門(BBB)は、中枢神経系(CNS)の疾患を治療する薬物の使用の可能性に対する主要な障害と考えられる。CNS薬の世界市場は1998年において330億ドルであり、米国では心血管疾患のほぼ2倍の人々がCNS疾患を患っているにも関わらず、それは心血管薬の世界市場の約半分であった。この不均衡の理由は、1つには、すべての潜在的CNS薬の98%以上が血液脳関門を通過しないことである。加えて、世界的規模のCNS薬開発の99%以上はCNS薬の発見のみに専念し、CNS薬の送達を目的としているものは1%に満たない。これは、なぜ主要な神経疾患に利用可能な治療上の選択肢が不足しているかを説明しうる。
【0003】
脳は、2つのバリアシステム:血液脳関門(BBB)および血液脳脊髄液関門(BCSFB)の存在によって潜在的毒物から遮断される。BBBは、その表面積がBCSFBの表面積の約5000倍以上であるため、血中リガンドの取り込みのための主要経路であると考えられる。BBBを構成する脳の内皮細胞は、CNSの多くの疾患に対する潜在的薬物の使用への主要な障害である。原則として、脂溶性低分子のみがBBBを越えて、すなわち、循環している全身の血液から脳へ通過しうる。より大きなサイズまたはより高い疎水性を有する多くの薬物が、CNS疾患を治療するための動物実験において見込みのある結果を示す。そのため、ペプチドおよびタンパク質治療薬は通常、これらの薬剤に対する脳毛細血管内皮壁のごくわずかな透過性のために、血液から脳への輸送から排除される。脳毛細血管内皮細胞(BCECs)は、密着結合によってしっかりと密封されており、他の器官の毛細血管と比較して窓(fenestrae)およびエンドサイトーシス小胞をほとんど持たない。BCECsは、細胞外マトリックス、アストロサイト、周皮細胞、およびマイクログリア細胞に囲まれている。内皮細胞のアストロサイト足突起との密接な結合および毛細血管の基底膜は、血液脳物質交換の厳密な制御を可能にするBBB特性の発達および維持に重要である。
【0004】
癌、神経変性疾患、またはリソソーム蓄積症などの疾患を治療する1つの方法は、RNA干渉(RNAi)を用いた遺伝子サイレンシングである。RNAi遺伝子サイレンシングは、低分子干渉すなわち「siRNA」として知られる相同な短い(21-23 bp)dsRNA断片を用いて達成され得る。長いdsRNAが細胞株に導入された場合、細胞性酵素であるダイサー(Dicer)が、それを低分子干渉RNA(siRNA)分子に切断する。この低分子干渉RNA分子は現在ガイドRNAと呼ばれている。ガイドRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RNA-Induced-Silencing-Complex, RISC)を相同な標的mRNAへと導く。一旦、それが相同なmRNA配列とのハイブリッド構造を形成すると、RISCはmRNAを切断する。その結果、mRNAにコードされるタンパク質はもはや産生されず、それによって遺伝子のサイレンシングを引き起こす。
【0005】
RNA干渉とは、低分子干渉RNAs(siRNAs)によって仲介される、動物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングの過程を指す。転写後遺伝子サイレンシングの過程は、外来遺伝子の発現を防ぐために用いられる進化的に保存された細胞防御機構であると考えられ、多様な植物および動物門に共通である。このような外来遺伝子発現からの防御は、相同な一本鎖RNAもしくはウイルスゲノムRNAを特異的に破壊する細胞応答によって、ウイルス感染または宿主ゲノム内へのトランスポゾン因子のランダムな組み込みに由来する二本鎖RNAs(dsRNAs)の産生に対応して進化したのかもしれない。細胞内のdsRNAの存在は、いまだ完全には解明されていない機構を介してRNAi応答を引き起こす。この機構は、リボヌクレアーゼL によるmRNAの非特異的切断を引き起こすプロテインキナーゼPKRおよび2’,5’-オリゴアデニル酸シンセターゼのdsRNAを介した活性化に起因するインターフェロン応答のような、二本鎖RNA特異的リボヌクレアーゼが関与する他の公知の機構とは異なると考えられる(例えば、米国特許第6,107,094号; 第5,898,031号; Clemensら、J. Interferon & Cytokine Res., 17:503-524; 1997; Adahら、Curr. Med. Chem. 8:1189, 2001参照)。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ポリペプチド-核酸コンジュゲートを特徴とする。これらのコンジュゲートは、癌、神経変性疾患、もしくはリソソーム蓄積症を治療するため、RNAi薬、例えばsiRNA薬を細胞、組織、または器官に輸送するために使用されうる。本発明は、更に、ポリペプチド-核酸コンジュゲートを合成する方法を特徴とする。
【0007】
1つの態様では、本発明は、ポリペプチド-核酸コンジュゲートを特徴とする。好ましい実施形態では、ポリペプチドは、配列番号1〜105ならびに107〜112(例えば、AngioPep-1(配列番号67)、AngioPep-2 (配列番号97)、AngioPep-3(配列番号107)、AngioPep-4a(配列番号108)、AngioPep-4b(配列番号109)、AngioPep-5(配列番号110)、AngioPep-6(配列番号111)、およびAngioPep-7(配列番号112))で示される任意の配列と実質的に同一である。ポリペプチドは、配列番号5、8、67、75、76、77、78、79、81、82、90、91、または97(例えば、配列番号67および97)で示されるアミノ酸配列を有しうる。コンジュゲートは、本明細書に記載される任意のポリペプチドの断片(例えば、血液脳関門を通過して効率的に輸送される、または特定の細胞型に効率的に輸送される断片)を含有しうる。本発明のポリペプチド-核酸コンジュゲートは、特定の細胞型(例えば、肝臓、肺、腎臓、脾臓、および筋肉の任意の1つ、2つ、3つ、4つ、もしくは5つ)に効率的に輸送されうる、または哺乳動物の血液脳関門(BBB)を効率的に通過しうる(例えば、AngioPep-1、-2、-3、-4a、-4b、-5、および-6)。別の実施形態では、コンジュゲートは、特定の細胞型(例えば、肝臓、肺、腎臓、脾臓、および筋肉の任意の1つ、2つ、3つ、4つ、または5つ)に入ることができるが、BBBを効率的に通過しない(例えば、AngioPep-7)。ポリペプチドは、任意の長さ、例えば、少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、25、35、50、75、100、200、または500アミノ酸の長さでありうる。好ましくは、ポリペプチドは10〜50アミノ酸の長さである。同様に、核酸は任意の長さ(例えば、15〜25ヌクレオチド)でありうる。核酸は、DNA分子、RNA分子、修飾核酸(例えば、ヌクレオチド類似体を含有する)、またはそれらの組合せでありうる。核酸は、一本鎖、二本鎖、直鎖状、環状(例えば、プラスミド)、ニックのある環状、コイル状、スーパーコイル状、コンカテマー化、または荷電したものでありうる。加
えて、核酸は、5’および3’のセンス鎖およびアンチセンス鎖末端修飾を含有してもよく、平滑末端もしくは突出末端ヌクレオチド、またはそれらの組合せを有し得る。核酸は、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、またはマイクロRNA(miRNA)分子であり得る。本発明のsiRNA、shRNA、dsRNA、およびmiRNA分子は、以下の標的の1つ:血管内皮増殖因子(VEGF)、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD-1)、ハンチンチン(Htt)、α-セクレターゼ、β-セクレターゼ(BACE)、γ-セクレターゼ、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、ソーティングネキシン(sorting nexin)-6(SNX6)、LINGO-1、Nogo-A、Nogo受容体1(NgR-1)、およびα-シヌクレインをサイレンシングすることができ、最も好ましくは、上皮増殖因子受容体(EGFR)をサイレンシングすることができる。別の実施形態では、本発明のsiRNA、shRNA、dsRNA、またはmiRNA分子は、配列番号117〜119で示される任意の配列と少なくとも70%、80%、90%、95%、もしくは100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する。本発明のポリペプチド-核酸コンジュゲートは、実質的に純粋でありうる。別の実施形態では、ポリペプチドは、遺伝子組換え技術または化学合成によって産生される。本発明のポリペプチド-核酸コンジュゲートは、製薬上許容される担体とともに混合または調合され得る。
【0008】
他の実施形態では、コンジュゲートは、下記の化学式を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドを含有し、

式中、X1〜X19のそれぞれ(例えば、X1〜X6、X8、X9、X11〜X14、およびX16〜X19)は、独立に任意のアミノ酸(例えば、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびValなどの天然に存在するアミノ酸)または欠失であり、X1、X10、およびX15のうち少なくとも1つはアルギニンである。いくつかの実施形態では、X7はSerまたはCysであり;X10およびX15はそれぞれ独立にArgまたはLysである。いくつかの実施形態では、包括的な、X1からX19までの残基は、配列番号1〜105および107〜112(例えば、AngioPep-1、AngioPep-2、AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5、AngioPep-6、およびAngioPep-7)の任意の1つのアミノ酸配列のいずれかと実質的に同一である。いくつかの実施形態では、アミノ酸X1〜X19の少なくとも1つ(例えば、2つ、3つ、4つ、または5つ)はArgである(例えば、X1、X10、およびX15の任意の1つ、2つ、または3つ)。
【0009】
他の例示的なポリペプチドは、(配列番号1のアミノ酸配列に対して)10番目、15番目、もしくは両方にリシンまたはアルギニンを有する。本発明のポリペプチドはまた、(配列番号1のアミノ酸配列に対して)7番目にセリンまたはシステインを有しうる。ポリペプチドの多量体化が望ましい場合、ポリペプチドは(例えば7番目に)システインを含みうる。
【0010】
ある実施形態では、コンジュゲートは、(例えば、本明細書に記載されるように)修飾されたポリペプチド(例えば、本明細書に記載される任意のポリペプチド)を含みうる。ポリペプチドは、アミド化、アセチル化、または両方が行われうる。このようなポリペプチドの修飾は、ポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端にありうる。本発明のコンジュゲートはまた、本明細書に記載される任意のポリペプチドのペプチド模倣薬(例えば、本明細書に記載されるもの)を包含する。ポリペプチドは多量体型でありうる。例えば、ポリペプチドは二量体型でありうる(例えば、システイン残基を介したジスルフィド結合によって形成される)。
【0011】
本発明のポリペプチドは、特定の細胞(例えば、肝臓、腎臓、肺、筋肉、もしくは脾臓細胞)に効率的に輸送されうる、またはBBBを効率的に通過しうる(例えば、配列番号5、8、67、75、76、77、78、79、81、82、90、91、107〜111)。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、特定の細胞(例えば、肝臓、腎臓、肺、筋肉、または脾臓細胞)に効率的に輸送され、BBBを効率的に通過しない(例えば、AngioPep-7;配列番号112)。ポリペプチドは、肝臓、腎臓、肺、筋肉、または脾臓からなる群より選択される、少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つ、もしくは5つ)の細胞または組織に効率的に輸送されうる。
【0012】
本明細書に記載される任意のポリペプチドおよびコンジュゲートについて、アミノ酸配列は、配列番号1〜105ならびに107〜112のいずれかを含むまたはいずれかからなるポリペプチド(例えば、配列番号1〜96、AngioPep-1、AngioPep-2、AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5、AngioPep-6、およびAngioPep-7のいずれか)を特に除外しうる。いくつかの実施形態では、本発明のポリペプチドおよびコンジュゲートは、配列番号102、103,104および105のポリペプチドを除外する。他の実施形態では、本発明のポリペプチドおよびコンジュゲートは、これらのペプチドを含む。
【0013】
ある実施形態では、本発明のコンジュゲートは、少なくとも1つのアミノ酸置換(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12個の置換)を伴う本明細書に記載されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。ある実施形態では、ポリペプチドは、配列番号1、AngioPep-1、AngioPep-2、AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5、AngioPep-6、およびAngioPep-7の任意のアミノ酸配列の1、10、ならびに15番目に相当する位置の1つ、2つ、または3つにアルギニンを有しうる。例えば、ポリペプチドは1〜12個のアミノ酸置換を含みうる(例えば、配列番号91)。例えば、アミノ酸配列は、1〜10個の(例えば、9、8、7、6、5、4、3、2個の)アミノ酸置換、または1〜5個のアミノ酸置換を含みうる。本発明では、アミノ酸置換は、保存的または非保存的アミノ酸置換でありうる。
【0014】
第二の態様では、本発明は、本発明の1つ以上のポリペプチド-核酸コンジュゲートを被験体に治療的有効量で提供することにより、癌を有する被験体を(例えば予防的に)治療する方法を特徴とする。1つの実施形態では、ポリペプチド-核酸コンジュゲートは、脳または中枢神経系の癌を治療するために使用される(例えば、そのポリペプチドがBBBを通過して効率的に輸送される場合)。別の実施形態では、癌は、脳腫瘍、脳腫瘍転移、または転移した腫瘍である。他の実施形態では、ポリペプチド-核酸コンジュゲートは、神経膠腫、膠芽細胞腫、肝細胞癌、肺癌、または本明細書に記載される任意の癌を有する被験体を治療するために使用される。
【0015】
第三の態様では、本発明は、本発明の1つ以上のポリペプチド-核酸コンジュゲートを被験体に治療的有効量で提供することにより、神経変性疾患を有する被験体を(例えば予防的に)治療する方法を特徴とする。1つの実施形態では、コンジュゲートは、多発性硬化症、統合失調症、てんかん、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳卒中、または本明細書に記載される任意の神経変性疾患を有する被験体を治療するために使用される。
【0016】
第四の態様では、本発明は、本発明の1つ以上のポリペプチド-核酸コンジュゲートを被験体に治療的有効量で提供することにより、リソソーム蓄積症を有する被験体を(例えば予防的に)治療する方法を特徴とする。1つの実施形態では、コンジュゲートは、ムコ多糖症(MPS-I;すなわち、ハーラー症候群、シャイエ症候群)、MPS-II(ハンター症候群)、MPS-IIIA (サンフィリポ症候群A型)、MPS-IIIB (サンフィリポ症候群B型)、MPS-IIIC(サンフィリポ症候群C型)、MPS-IIID(サンフィリポ症候群D型)、MPS-VII(スライ症候群)、ゴーシェ病、ニーマン・ピック病、ファブリー病、ファーバー病、ウォルマン病、テイ・サックス病、サンドホフ病、異染性白質ジストロフィー、クラッベ病、または本明細書に記載される任意のリソソーム蓄積症を有する被験体を治療するために使用される。
【0017】
第五の態様では、本発明は、本明細書に記載されるポリペプチド(例えば、配列番号1〜105および107〜112の任意の配列と実質的に同一なアミノ酸配列)を核酸とコンジュゲートさせることにより、本発明のポリペプチド-核酸コンジュゲートを合成する方法を特徴とする。1つの実施形態では、ポリペプチドは、共有結合によって核酸とコンジュゲートされる。別の実施形態では、ポリペプチドは、ジスルフィド結合によって核酸とコンジュゲートされる。ポリペプチドは、リンカー(例えば、当技術分野において公知の、または本明細書に記載される任意のリンカー)を用いてコンジュゲートされうる。
【0018】
上記の任意の態様において、本発明のポリペプチド-核酸コンジュゲートは、更に薬剤(例えば、治療薬、検出可能な標識、タンパク質、またはタンパク質複合体)とコンジュゲートされうる。治療薬は、細胞毒性薬、アルキル化剤、抗生物質、抗腫瘍薬、代謝拮抗薬、抗増殖剤、チューブリン阻害剤、トポイソメラーゼIまたはII阻害剤、増殖因子、ホルモン作動薬または拮抗薬、アポトーシス剤、免疫調節薬、および放射性医薬品を含む。他の細胞毒性薬は、ドキソルビシン、メトトレキサート、カンプトテシン、ホモカンプトテシン、チオコルヒチン、コルヒチン、コンブレタスタチン、ビンブラスチン、エトポシド、シクロホスファミド、タキソテール、メルファラン、クロラムブシル、コンブレタスチン(combretastin)A-4、ポドフィロトキシン、リゾキシン、リゾキシン-d、ドリスタチン、タキソール、CC1065、アンサミトシンp3、メイタンシノイド、および任意のそれらの組合せを包含する。最も好ましくは、細胞毒性薬はパクリタキセルである。別の実施形態では、ポリペプチド-核酸コンジュゲートは、抗体または抗体断片とコンジュゲートされる。
【0019】
「血液脳関門」または「BBB」とは、必須の代謝機能は可能としながら、主として血液中の化学物質から脳を保護するために機能する膜構造を意味する。それは、脳毛細血管において非常に密集した内皮細胞で構成される。このより高い密度が、体内の他の毛細血管における内皮細胞よりはるかに血流からの物質の通過を制限する。
【0020】
「癌」または「増殖性疾患」という用語は、その独自の特性が正常な制御の欠如であり、それが無秩序な増殖、分化の欠如、ならびに/または局所組織への浸潤および転移の能力をもたらす、あらゆる細胞増殖を意味することが意図される。癌は、あらゆる組織、あらゆる器官、またはあらゆる細胞型において発症し得る。
【0021】
「コンジュゲート」とは、ベクターと他の化合物または薬剤(例えば、RNAi薬)との結合を意味する。コンジュゲーションは、リンカーを介するような化学的なものであってもよく、または、例えば、リポーター分子(例えば、緑色蛍光タンパク質、β-ガラクトシダーゼ、もしくはヒスタミン(histamine)タグ)との融合タンパク質のような遺伝子組み換え技術による遺伝学的なものであってもよい。
【0022】
「二本鎖RNA」(dsRNA)とは、RNA干渉によって遺伝子産物をサイレンシングするために使用され得る二本鎖RNA分子を意味する。
【0023】
「断片」とは、本来の配列すなわち親配列または親配列の類似体に由来するポリペプチドを意味する。断片は、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19個)のアミノ酸の切断を有するポリペプチドを包含し、その切断はアミノ末端(N-末端)、カルボキシ末端(C-末端)、またはタンパク質の内部から生じうる。断片は、本来の配列の対応部分と同一の配列を含みうる。本明細書に記載されるベクター(すなわち、ポリペプチド)の生物学的活性を有する断片は、本発明に包含される。
【0024】
「リソソーム蓄積症」とは、リソソーム機能の欠陥に起因する任意の疾患を意味する。例示的なリソソーム蓄積症は、ムコ多糖症(MPS、例えば、ハンター症候群)、大脳白質萎縮症(例えば、異染性白質ジストロフィー)、ガングリオシドーシス(例えば、テイ・サックス病)、ムコリピドーシス、リピドーシス(例えば、ゴーシェ病)、および糖タンパク質代謝異常症を含む。他のリソソーム蓄積症は、本明細書に記載される。
【0025】
「マイクロRNA」(miRNA)とは、RNA干渉によって遺伝子産物をサイレンシングするために使用され得る一本鎖RNA分子を意味する。
【0026】
「調節する」とは、発現、レベル、または活性が調節因子の非存在下において観察されるものより大きく、あるいは小さくなるように、遺伝子の発現、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットをコードするRNA分子もしくはRNA分子同等物のレベル、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットの活性が上方制御あるいは下方制御されることを意味する。例えば、調節という用語は、阻害を包含し得る。
【0027】
「神経変性疾患」とは、哺乳動物の脳、中枢神経系(CNS)、末梢神経系、または自律神経系に影響を及ぼし、ニューロンが失われるか、もしくは損なわれる、任意の疾患あるいは症状を意味する。例示的な神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、クラッベ病、多発性硬化症、ナルコレプシー、およびHIV関連認知症を含む。
【0028】
「天然には存在しないアミノ酸」とは、天然には産生されない、または哺乳動物において見られないアミノ酸である。
【0029】
「被験体」とは、任意のヒトまたはヒト以外の動物(例えば哺乳動物)を意味する。本発明の方法および組成物を用いて治療され得る他の動物は、ウマ、イヌ、ネコ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、サル、モルモット、ラット、マウス、トカゲ、ヘビ、ヒツジ、ウシ、魚類、および鳥類を含む。
【0030】
「製薬上許容される担体」とは、ともに投与される化合物の治療特性を保持しながら、患者に生理的に許容される担体を意味する。
【0031】
「提供すること」とは、本発明のコンジュゲートに関して、in vivoもしくはin vitroのいずれかにおいてコンジュゲートを標的細胞または標的組織と接触させることを意味する。ベクターまたはコンジュゲートは、被験体にベクターまたはコンジュゲートを投与することによって提供されうる。
【0032】
「RNAi薬」とは、RNA干渉経路によって遺伝子サイレンシングを機能させる任意の薬剤または化合物を意味する。RNAi薬は、配列特異的RNAiを仲介することができる任意の核酸分子、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉オリゴヌクレオチド、低分子干渉核酸、低分子干渉修飾オリゴヌクレオチド、化学修飾siRNA、および転写後遺伝子サイレンシングRNA(ptgsRNA)を含む。
【0033】
「サイレンシング」または「遺伝子サイレンシング」とは、遺伝子の発現、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットをコードするRNA分子もしくはRNA分子同等物のレベル、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットの活性が、RNAi薬の存在下において、RNAi薬(例えばsiRNA)の非存在下で観察されるもの以下に低下することを意味する。1つの実施形態では、siRNA分子を用いた遺伝子サイレンシングは、不活性なもしくは弱められた分子の存在下で観察されるレベル以下に、または、例えばスクランブル配列もしくはミスマッチを有するsiRNA分子の存在下で観察されるレベル以下に、遺伝子産物発現を低下させる。
【0034】
「低分子ヘアピンRNA」または「shRNA」とは、RNA干渉によって遺伝子産物をサイレンシングするために使用され得る、密なヘアピンターンを作るRNAの配列を意味する。
【0035】
「低分子阻害RNA」、「低分子干渉RNA」、または「siRNA」とは、10〜40(例えば、15〜25、例えば21)ヌクレオチド長の二本鎖RNA分子の種類を意味する。特に、siRNAは、一般的にRNA干渉(RNAi)経路に関与し、それによってsiRNAは特異的な遺伝子産物(例えば、EGFR)の発現を妨げる。
【0036】
「実質的な同一性」あるいは「実質的に同一な」とは、それぞれ参照配列と同一のポリペプチドもしくはポリヌクレオチド配列を有する、または2つの配列が最適にアラインメントされた際、それぞれ参照配列内の対応する位置と同一な特定の割合のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドを有する、ポリペプチドあるいはポリヌクレオチド配列を意味する。例えば、参照配列と「実質的に同一な」アミノ酸配列は、該参照アミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有する。ポリペプチドについては、比較配列の長さは、通常、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個の連続したアミノ酸であり、より好ましくは、少なくとも25、50、75、90、100、150、200、250、300、または350個の連続したアミノ酸であり、最も好ましくは、全長アミノ酸配列である。核酸については、比較配列の長さは、通常、少なくとも5個の連続したヌクレオチドであり、好ましくは、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25個の連続したヌクレオチドであり、最も好ましくは、全長ヌクレオチド配列である。配列同一性は、初期設定で配列解析ソフトウェア(例えば、the Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Centerの配列解析ソフトウェアパッケージ, 1710 University Avenue, Madison, WI 53705)を用いて測定されうる。このようなソフトウェアは、様々な置換、欠失、および他の改変に対して相同性を決定することにより、類似配列を照合しうる。
【0037】
「実質的に純粋な」または「単離された」とは、他の化学成分から分離された化合物(例えば、ポリペプチドもしくはコンジュゲート)を意味する。通常、重量で少なくとも30%他の成分を含まない場合、化合物は実質的に純粋である。ある実施形態では、調製物は、重量で少なくとも50%、60%、75%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%他の化合物を含まない。精製されたポリペプチドは、例えば、このようなポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドの発現によって、またはポリペプチドの化学合成によって得られる。純度は、任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定され得る。
【0038】
「センス領域」とは、他の核酸のアンチセンス領域に相補性を有する本発明の核酸のヌクレオチド配列を意味する。加えて、本発明の核酸のセンス領域は、標的遺伝子ヌクレオチド配列と相同性を有するヌクレオチド配列を含み得る。「アンチセンス領域」とは、標的遺伝子ヌクレオチド配列に相補性を有する本発明の核酸のヌクレオチド配列を意味する。
【0039】
「標的核酸」とは、その発現または活性が調節されるべき任意の核酸配列を意味する。標的核酸はDNAまたはRNAであり得る。
【0040】
「薬剤」とは、任意の化合物、例えば、抗体、または治療薬、検出可能な標識(マーカー、トレーサー、もしくは造影化合物)を意味する。
【0041】
「治療薬」とは、生物学的活性を有する任意の化合物を意味する。治療薬は、疾患または障害の治療の全領域を網羅する。治療薬は、リスクがあると認定され得る個体を標的とするように設計された方法を組み入れたものを含む予防的な(prophylactic or preventive)方法(薬理遺伝学);あるいは本質的に改善または治療的な方法で作用しうる;あるいは疾患もしくは障害の進行の速度または程度を遅らせるように作用しうる;あるいは所要時間、任意の不快症状もしくは痛みの発現もしくは程度、または疾患、障害もしくは身体外傷からの回復に関連する身体的制約を最小限にするように作用しうる;または他の治療および処置の補助として使用されうる。
【0042】
「治療」、「治療する」などは、例えば、癌細胞増殖の阻害、癌細胞の死または神経変性疾患もしくはリソソーム蓄積症の改善のような、目的とする薬理作用および/あるいは生理作用を得ることを意味する。治療は、疾患の抑制(例えば、その進行の停止)および疾患の軽減(例えば、疾患に関連した症状の減少)を含む。本明細書において用いられる治療は、個体における症状を治療、回復、 緩和、改善、減少、または抑制するための、個体への医薬品または化合物の任意の投与を包含し、個体への担体薬剤コンジュゲートの投与を含む。「癌の治療」、「癌の予防」、あるいは「癌の抑制」とは、腫瘍の大きさもしくは癌細胞の数の減少をもたらすこと、腫瘍の大きさの上昇もしくは癌細胞増殖を遅らせるまたは阻害すること、腫瘍もしくは他の癌の消失からその再発までの無病生存期間を延長させること、腫瘍もしくは他の癌の初期発現もしくは二次発現の可能性を予防するまたは低下させること、あるいは腫瘍もしくは他の癌に関連した悪性症状を減少させることを意味する。望ましい実施形態では、治療後生存する腫瘍細胞または癌性細胞の割合は、任意の標準的アッセイを用いて測定される場合、最初の腫瘍細胞もしくは癌性細胞の数より少なくとも20、40、60、80、または100%減少している。望ましくは、本発明の化合物の投与によって誘導される腫瘍細胞または癌性細胞の数の減少は、非腫瘍細胞もしくは非癌性細胞の数の減少より少なくとも2、5、10、20、または50倍大きい。望ましくは、本発明の方法は、標準的な方法を用いて測定される場合、腫瘍の大きさもしくは癌性細胞の数において20、40、60、80、または100%の減少をもたらす。望ましくは、治療された被験体の少なくとも20、40、60、80、90、または95%が、腫瘍もしくは癌のすべての兆候が消失する完全寛解を得る。望ましくは、腫瘍または癌は、5、10、15、または20年以上再発しない。
【0043】
「予防的に治療する」とは、疾患の症状の発現に先立って薬剤を投与することによって、疾患の発現頻度または疾患の重症度を低下させることを意味する。予防的治療は、疾患もしくはその症状の発現を完全に予防もしくは低下させうる、ならびに/または、疾患および/もしくは疾患に起因する悪影響の部分的もしくは完全な回復に関する治療でありうる。予防的治療は、いまだ疾患を有するとは診断されていないが疾患の素因を有する個体において、疾患もしくは症状を低下させることまたは未然に防ぐこと(例えば、癌の予防)を含みうる。
【0044】
「ベクター」とは、他の化合物を輸送できるポリペプチドのような化合物または分子を意味する。例えば、ベクターを用いて、血液脳関門を通過する、あるいは特定の組織または器官(例えば、肝臓、肺、腎臓、脾臓もしくは筋肉)への(例えばRNAi薬の)輸送が、起こりうる。ベクターは、脳の内皮細胞に存在する受容体に結合し、その結果、トランスサイトーシスによって血液脳関門を通過して輸送されうる。ベクターは、血液脳関門の完全性に影響を及ぼすことなく高レベルの経内皮輸送が得られる分子でありうる。ベクターは、タンパク質、ペプチド、またはペプチド模倣薬でありえ、天然に存在しうる、または化学合成もしくは遺伝子組換え技術(遺伝子工学)によって産生されうる。
【0045】
「BBBを通過して効率的に輸送される」ベクターとは、少なくともAngioPep-6(すなわち、参照により本明細書に組み入れられる2007年5月29日に出願された米国出願第11/807,597号に記載されたin situ脳かん流アッセイにおいてAngioPep-1(250 nM)より38.5%効率性が高い)と同様に効率的にBBBを通過できるベクターを意味する。従って、「BBBを通過して効率的に輸送されない」ベクターまたはコンジュゲートは、低いレベルで脳へと輸送される(例えば、AngioPep-6より低い効率で輸送される)。
【0046】
「特定の細胞型に効率的に輸送される」ベクターあるいはコンジュゲートとは、対照物質より、または、コンジュゲートの場合、非コンジュゲート薬剤と比較して、少なくとも10%(例えば、25%、50%、100%、200%、500%、1,000%、5,000%、もしくは10,000%)以上の程度で、(例えば、細胞への輸送の増加、細胞からの排出の減少、またはその組合せのいずれかによって)その細胞型に蓄積できるベクターあるいはコンジュゲートを意味する。このような活性は、PCT公開第WO 2007/009229号に詳細に記載され、それは参照により本明細書に組み入れられる。
【0047】
特定の特性(例えば、温度、濃度、時間など)について「範囲」または「物質群」が記載される場合、本発明は、すべての具体的な要素およびその下位範囲または下位群の組合せに関連し、それらを明確に本明細書に組み入れる。そのため、例えば、9〜18アミノ酸の長さに関して、個々のすべての長さ、例えば、18、17、15、10、9の長さ、およびその間の任意の数値を明確に本明細書に組み入れるものとして理解される。従って、特に記載されない限り、本明細書に記載されるすべての範囲は包括的なものとして理解される。例えば、5〜19アミノ酸の長さという表現は、5および19を包含する。これは同様に、配列、長さ、濃度、要素などの他のパラメータについても適用される。
【0048】
本明細書において定義される配列、領域、および部分はそれぞれ、それによって記載される個々のすべての配列、領域および部分、ならびに(このような下位配列、下位領域、および下位部分が、積極的に特定の可能性を包含するものとして、特定の可能性を除外するものとして、またはその組合せとして定義されるとしても、)考えられるすべての下位配列、下位領域、および下位部分を包含する。例えば、領域の排他的な定義は下記のように読みうる:すなわち、ただしそのポリペプチドは4、5、6、7、8または9アミノ酸より短くなることはない。否定的な限定の更なる例は、下記の;配列番号Yのポリペプチドを除いた配列番号Xを含む配列;などである。否定的な限定の更なる例は、下記の;ただしそのポリペプチドは配列番号Zではない(Zを含まないまたはZで構成されない)、である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】RNA干渉(RNAi)による阻害の機構を示す概略図を示す。
【図2】架橋剤スルホ-LC-SPDP を用いたAngioPep-2(配列番号97)のsiRNA分子とのコンジュゲーションを示す概略図である。この架橋剤の使用は、siRNA分子とAngioPep-2との間に切断可能なジスルフィド結合をもたらす。
【図3】架橋剤スルホ-LC-SPDPの図を示す。この架橋剤は、本発明のポリペプチドおよびRNAi薬を切断可能なジスルフィド結合によって連結するために使用され得る。
【図4】典型的な切断型および非切断型Angiopep-2-siRNAコンジュゲートを示す概略図であり、Angiopep-2はsiRNAのセンス鎖にコンジュゲートしている。
【図5】切断型siRNAコンジュゲート、非切断型siRNAコンジュゲート、および対照(非コンジュゲートsiRNA)のsiRNA活性を示す一連のグラフである。
【図6】切断型および非切断型siRNAコンジュゲートの取り込みを示すグラフである。
【図7】Angiopep-2の修飾型の概略図であり;Cys-Angiopep-2(配列番号113)および6-マレイミドヘキサン酸(6-MHA)誘導体化Angiopep-2が示される。
【図8】例示的な誘導体化RNA分子と還元剤トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)との遊離チオールへの反応、それに続く、活性化siRNAを形成するための2,2’-ジピリジルジスルフィド(Py-S-S-Py)との更なる反応を示す概略図である。
【図9】遊離チオールを有するsiRNA(図9A)、活性化siRNAの合成(図9B)、およびCys-Angiopep-2(図9C)のHPLC波形を示す。
【図10】活性化siRNAとCys-Angiopep-2とのコンジュゲーション反応を示す概略図である。
【図11】活性化siRNA(図11A)、Cys-Angiopep-2(図11B)、およびsiRNAコンジュゲート(図11C)のHPLC波形ならびに相対保持時間を示すグラフである。
【図12】siRNAコンジュゲートに対して行われた質量分析の結果を示すグラフである。
【図13】遊離チオールを有するsiRNAとマレイミドによって誘導体化されたAngiopep-2とのコンジュゲーション反応を示す概略図である。
【図14】遊離チオールを有するsiRNA(図14A)、Angiopep-2-マレイミド(図14B)、およびsiRNA+ポリペプチド粗反応混合物(図14C)のHPLC波形ならびに相対保持時間を示すグラフである。
【図15】精製されたsiRNA-ポリペプチドコンジュゲートのHPLC波形(図15A)およびコンジュゲートに対して行われた質量分析の結果(図15B)を示すグラフである。
【図16】蛍光標識Alexa 488とコンジュゲートしたアンチセンス鎖siRNAの構造を示す概略図である。
【図17】付加的な切断型(図17A)および非切断型(図17B)Angiopep-2コンジュゲートのHPLC波形を示すグラフである。また、非コンジュゲートAngiopep-2ペプチドおよび対照siRNAも示される。
【図18】切断型および非切断型の両方の、蛍光標識siRNA-Angiopep-2コンジュゲートのHPLC波形を示すグラフである。
【図19】本明細書に記載されるヨウ素化処理の前後での、切断型(図19A)および非切断型(図19B)siRNAコンジュゲートのHPLC波形を示す一連のグラフである。
【図20】放射標識siRNA コンジュゲートを用いてマウスにおいて行われたin situ脳かん流アッセイの結果を示すグラフである。イヌリンは対照として示される。
【図21】放射標識siRNA コンジュゲートを用いてマウスにおいて行われたin situかん流アッセイの結果を示すグラフである。脳全体、脳実質、および脳毛細血管における放射標識siRNAコンジュゲートの量が測定された。イヌリンは対照として用いられた。
【図22】蛍光標識siRNAコンジュゲートを用いたin situかん流アッセイの結果を示すグラフである。Alexa-488および非標識siRNAは対照として用いられた。
【図23】切断型および非切断型siRNAコンジュゲートを用いたin vitro血液脳関門モデルの結果を示すグラフである。ホロトランスフェリンは対照として用いられた。
【図24】in vitro BBBモデルにおける放射標識siRNA コンジュゲートの飽和輸送を示すグラフである。
【図25】in vitro BBBモデルにおける蛍光標識siRNA コンジュゲートの輸送を示すグラフである。非コンジュゲート蛍光標識siRNAは対照として用いられた。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、RNA干渉(RNAi)薬を、脳、中枢神経系(CNS)、または他の器官に輸送するためのベクターとして機能し得るポリペプチドのコンジュゲートに関する。siRNA、shRNA、dsRNA、およびmiRNAなどの様々な様式のRNAiは、癌、神経変性疾患、リソソーム蓄積症、および他の疾患の治療のための特異的な細胞遺伝子のサイレンシングに有用である。RNAi薬の輸送に加えて、コンジュゲートのポリペプチド成分は、RNAi治療薬を安定化し、保護し(例えば、ヌクレアーゼからの保護)、または治療される個体の特定の細胞、組織、もしくは器官へと標的化することができる。加えて、それらだけでは血液脳関門を通過できない、または効果的に通過しない他の薬剤は、これらのポリペプチド-核酸コンジュゲートに付加もしくは結合した場合、血液脳関門を通過して輸送され得る。他の事例では、血液脳関門を通過できる薬剤は、本明細書に記載されるポリペプチドベクターとコンジュゲートされた場合、その輸送増加が見られうる。このようなコンジュゲートは、症状もしくは疾患の治療または診断のための組成物、例えば、医薬組成物などの形をとりうる。
【0051】
ポリペプチドベクター
本発明の化合物、コンジュゲート、および組成物は、本明細書に記載される任意のポリペプチド、例えば、表1に記載される任意のペプチド(例えば、AngioPep-1もしくはAngioPep-2などの任意の配列番号1〜105および107〜112で規定されるペプチド)、またはその任意の断片、類似体、誘導体、もしくは変異体を特徴とする。ある実施形態では、ポリペプチドは、本明細書に記載されるポリペプチドと少なくとも35%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、または更に100%の同一性を有しうる。ポリペプチドは、本明細書に記載される配列の1つに対して1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個)の置換を有しうる。他の改変は、以下により詳細に記載される。
【0052】
本発明はまた、これらのポリペプチドの断片(例えば、機能的断片)を特徴とする。ある実施形態では、断片は、特定の細胞型(例えば、肝臓、目、肺、腎臓、もしくは脾臓)に効率的に輸送され、または蓄積し得る、あるいはBBBを通過して効率的に輸送され得る。ポリペプチドの切断は、ポリペプチドのN末端、ポリペプチドのC末端、もしくはその組合せのいずれかからの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、またはそれ以上のアミノ酸でありうる。他の断片は、ポリペプチドの内部が欠失された配列を包含する。
【0053】
更なるポリペプチドは、本明細書に記載されるアッセイまたは方法の1つを用いて同定されうる。例えば、候補ベクターは従来のペプチド合成によって産生され、パクリタキセルとコンジュゲートされ、実験動物に投与されうる。生物学的活性を有するベクターは、例えば、腫瘍細胞を注入されコンジュゲートを用いて治療された動物が、コンジュゲートを用いて治療されなかった(例えば、非コンジュゲート薬剤を用いて治療された)対照と比較して生存率を上昇させるその効果に基づいて同定されうる。例えば、生物学的活性を有するポリペプチドは、in situ脳かん流アッセイにおける脳実質でのその位置に基づいて同定されうる。
【0054】
他の組織での蓄積を測定するアッセイは、同様に実施されうる。ポリペプチドの標識コンジュゲートが動物に投与され、様々な器官での蓄積が測定され得る。例えば、検出可能な標識(例えば、Cy5.5のような近赤外蛍光分光標識)にコンジュゲートされたポリペプチドは、生きたままのin vivoでの可視化を可能にする。このようなポリペプチドは、動物に投与され、器官中のポリペプチドの存在が検出され得るため、目的とする器官でのポリペプチドの蓄積速度および蓄積量の測定を可能にする。他の実施形態では、ポリペプチドは、放射性同位体(例えば、125I)で標識され得る。その後、ポリペプチドは動物に投与される。一定期間後、動物は屠殺され、器官が摘出される。各器官中の放射性同位体の量は、その後、当技術分野において公知の任意の方法を用いて測定され得る。特定の器官中の標識された候補ポリペプチドの量を、標識された対照ポリペプチドの量と比較することによって、候補ポリペプチドが特定の組織に到達および蓄積する能力を確認できる。適切な陰性対照は、特定の細胞型に効率的に輸送されないことが知られている任意のペプチドまたはポリペプチドを含む。
【表1】

【0055】

【0056】

【0057】

【0058】
注釈:ポリペプチド番号5、67、76、および91は、それぞれ配列番号5、67、76、および91の配列を含み、C-末端がアミド化されている。
【0059】
ポリペプチド番号107、109、および110は、それぞれ配列番号97、109、および110の配列を含み、N-末端がアセチル化されている。
【0060】
改変ポリペプチド
本発明はまた、本明細書に記載されるアミノ酸配列の改変を有するポリペプチド(例えば、AngioPep-1(配列番号67)またはAngioPep-2(配列番号97)などの、任意の配列番号1〜105および107〜112に示される配列を有するポリペプチド)を含む。ある実施形態では、改変は、望ましい生物学的活性を顕著には破壊しない。いくつかの実施形態では、改変は、(例えば、少なくとも5%、10%、20%、25%、35%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%)生物学的活性の低下を引き起こしうる。他の実施形態では、改変は、生物学的活性に影響を及ぼさず、または本来のポリペプチドの生物学的活性を(例えば、少なくとも5%、10%、25%、50%、100%、200%、500%、もしくは1000%)上昇させうる。改変ペプチドは、ある場合に必要とされるもしくは望ましいかもしれない本発明のポリペプチドの1つ以上の特性を有しうる、または最適化しうる。このような特性は、in vivoでの安定性、生体利用性、毒性、免疫学的活性、および免疫学的同一性を含む。
【0061】
本発明のポリペプチドは、翻訳後プロセシングのような天然の過程、または当技術分野において公知の化学修飾技術によって修飾されるアミノ酸または配列を含みうる。修飾は、ポリペプチド骨格、アミノ酸側鎖およびアミノ末端またはカルボキシ末端を含むポリペプチドのあらゆる場所に起こりうる。同じ種類の修飾は所定のポリペプチドのいくつかの部位に同程度または様々な程度で存在してもよく、ポリペプチドは複数の種類の修飾を含みうる。ポリペプチドはユビキチン化の結果として分岐してもよく、それらは分岐を持つ、または持たない環状であってもよい。環状ポリペプチド、分岐ポリペプチド、および分岐環状ポリペプチドは、翻訳後の天然の過程に由来してもよく、または合成されてもよい。他の修飾は、PEG化、アセチル化、アシル化、アセトアミドメチル(acetomidomethyl)(Acm)基の付加、ADPリボシル化、アルキル化、アミド化、ビオチン化、カルバモイル化、カルボキシエチル化、エステル化、フラビン(fiavin)への共有結合、ヘム部分への共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、薬物の共有結合、標識(例えば蛍光標識もしくは放射標識)の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋結合、環化反応、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、アルギニン化のような転移RNAを介したタンパク質へのアミノ酸の付加およびユビキチン化を含む。
【0062】
改変ポリペプチドは更に、(例えば、このような変化がポリペプチドの生物学的活性を実質的に変化させない場合)ポリペプチド配列へのアミノ酸の挿入、欠失、または保存的もしくは非保存的な(例えば、D-アミノ酸、デスアミノ酸(desamino acid))置換を含む。
【0063】
置換は、保存的(すなわち、そこでは残基は同一の一般型もしくはグループの別の残基に置換される)または非保存的(すなわち、そこでは残基は別の種類のアミノ酸に置換される)でありうる。加えて、天然には存在しないアミノ酸が、天然に存在するアミノ酸と置換されうる(すなわち、天然には存在しない保存的アミノ酸置換または天然には存在しない非保存的アミノ酸置換)。
【0064】
合成されたポリペプチドは、天然にはDNAによってコードされないアミノ酸(例えば、天然には存在しないすなわち非天然アミノ酸)の置換を含みうる。天然には存在しないアミノ酸の例は、D-アミノ酸、システインの硫黄原子に結合するアセチルアミノメチル基を有するアミノ酸、PEG化されたアミノ酸、化学式NH2(CH2)nCOOH(式中、nは2〜6である)のωアミノ酸、中性非極性アミノ酸、例えばサルコシン、t-ブチルアラニン、t-ブチルグリシン、N-メチルイソロイシン、およびノルロイシンなどを含む。フェニルグリシンは、Trp、Tyr、またはPheと置換しうる;シトルリンおよびメチオニンスルホキシドは中性非極性であり、システイン酸は酸性であり、オルニチンは塩基性である。プロリンはヒドロキシプロリンと置換され、立体配座付与(conformation conferring)特性を保持しうる。
【0065】
類似体は、置換突然変異誘発によって生成され、本来のポリペプチドの生物学的活性を保持しうる。「保存的置換」と認識される置換の例は、表2に示される。このような置換が望ましくない変化をもたらす場合、表2において「例示的な置換」と表示される、またはアミノ酸の種類について本明細書に更に記載されるような、他の種類の置換が導入され、その産物がスクリーニングされる。
【0066】
機能または免疫学的同一性における実質的な改変は、
(a)例えば、シートもしくはへリックス構造のような、置換領域におけるポリペプチド骨格の構造、(b)標的部位での分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖の体積の維持に対するそれらの効果が著しく異なる置換を選択することによって実現される。天然に存在する残基は、共通の側鎖の特性に基づいていくつかのグループに分類される:
(1)疎水性:ノルロイシン、メチオニン(Met)、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)、
(2)中性親水性:システイン(Cys)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)
(3)酸性/陰性荷電:アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)
(4)塩基性:アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、ヒスチジン(His)、リシン(Lys)、アルギニン(Arg)
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:グリシン(Gly)、プロリン(Pro);
(6)芳香族性:トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)、ヒスチジン(His)、
(7)極性:Ser、Thr、Asn、Gln
(8)塩基性陽性荷電:Arg、Lys、His、および;
(9)荷電:Asp、Glu、Arg、Lys、His。
【0067】
他の保存的アミノ酸置換は、表2に記載される。
【表2】

【0068】
更なる類似体
本発明のポリペプチド、コンジュゲート、および組成物は、当技術分野において公知のアプロチニンのポリペプチド類似体を含みうる。例えば、米国特許第5,807,980号は、ウシ膵臓トリプシン阻害剤(アプロチニン)由来の阻害剤、ならびにそれらの調製および治療的使用のための方法を記載し、配列番号102のポリペプチドを含む。これらのポリペプチドは、異常な血栓症のように、組織因子および/または第VIIIa因子の異常な出現または異常な量を特徴とする症状の治療のために使用されている。米国特許第5,780,265号は、血漿カリクレインを阻害することができるセリンプロテアーゼ阻害剤を記載し、配列番号103を含む。米国特許第5,118,668号は、ウシ膵臓トリプシン阻害剤の変異体を記載し、配列番号105を含む。アプロチニンアミノ酸配列(配列番号98)、Angiopep-1アミノ酸配列(配列番号67)、および配列番号104、ならびに生物学的活性を有する類似体のいくつかの配列は、国際出願公開第WO 2004/060403号において見いだされうる。アプロチニン類似体をコードする例示的なヌクレオチド配列は、配列番号106(atgagaccag atttctgcct cgagccgccg tacactgggc cctgcaaagc tcgtatcatc cgttacttct acaatgcaaa ggcaggcctg tgtcagacct tcgtatacgg cggctgcaga gctaagcgta acaacttcaa atccgcggaa gactgcatgc gtacttgcgg tggtgcttag;Genbank受入番号X04666)によって示される。
【0069】
アプロチニン類似体の他の例は、国際出願第PCT/CA2004/000011号に開示される合成アプロチニン配列(またはその一部)を用い、protein BLAST(Genbank: www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)の実行によって見いだされうる。例示的なアプロチニン類似体は、受入番号CAA37967(GI:58005)および1405218C(GI:3604747)において見いだされる。
【0070】
ポリペプチド誘導体およびペプチド模倣薬の調製
天然に存在するアミノ酸のみからなるポリペプチドに加えて、ペプチド模倣薬またはポリペプチド類似体もまた、本発明に包含される。ポリペプチド類似体は、製薬産業において、テンプレートポリペプチドのそれと類似した特性を有する非ペプチド薬として、一般的に使用される。その非ペプチド化合物は、「ペプチド模倣薬(peptide mimeticsまたはpeptidomimetics)」と呼ばれる(Fauchereら、Infect. Immun. 54:283-287 ,1986; Evansら、J. Med. Chem. 30:1229-1239, 1987)。治療上有用なペプチドまたはポリペプチドと構造的に関連しているペプチド模倣薬は、同等のもしくは強化された治療または予防効果をもたらすために使用されうる。通常、ペプチド模倣薬は、天然に存在する受容体結合ポリペプチドのようなパラダイム(paradigm)ポリペプチド(すなわち、生物学的活性または薬理学的活性を有するポリペプチド)と構造的に類似しているが、当技術分野において周知の方法によって、例えば-CH2NH-、-CH2S-、-CH2-CH2-、-CH=CH-(シスおよびトランス)、-CH2SO-、-CH(OH)CH2-、-COCH2-などの結合により随意に置換された1つ以上のペプチド結合を有する(Spatola, Peptide Backbone Modifications, Vega Data, 1(3):267, 1983; Spatolaら、Life Sci. 38:1243-1249, 1986; Hudsonら、Int. J. Pept. Res. 14:177-185, 1979;およびWeinstein. B., 1983, Chemistry and Biochemistry, of Amino Acids, Peptides and Proteins, Weinstein編、Marcel Dekker, New-York)。このようなポリペプチド模倣薬は、より経済的な製造、より高い化学安定性、薬理学的特性の向上(例えば、半減期、吸収、効力、効率性)、抗原性の低下などを含む、天然に存在するポリペプチドより大きな利点を有しうる。
【0071】
本明細書に記載されるポリペプチドは特定の細胞型(例えば、本明細書に記載されるもの)を効率的に標的としうるが、それらの有効性はプロテアーゼの存在によって低下しうる。血清プロテアーゼは特異的な基質の必要条件を有する。切断のために、基質はL-アミノ酸とペプチド結合との両方を持たなければならない。更に、血清中のプロテアーゼ活性の最大の成分であるエキソペプチダーゼは、通常、ポリペプチドの最初のペプチド結合に作用し、遊離のN-末端を必要とする(Powellら、Pharm. Res. 10:1268-1273, 1993)。これを考慮すると、改変型のポリペプチドの使用は、しばしば有利である。改変ポリペプチドは、IGF-1に関して生物学的活性をもたらす本来の L-アミノ酸ポリペプチドの構造的特性を保持するが、有利なことにプロテアーゼおよび/またはエキソペプチダーゼによる切断を容易には受けにくい。
【0072】
コンセンサス配列の1つ以上のアミノ酸と同種のD-アミノ酸との体系的な置換(例えば、エナンチオマー;L-リシンの代わりにD-リシン)は、より安定なポリペプチドを生成するために使用されうる。従って、本明細書に記載されるようなポリペプチド誘導体またはペプチド模倣薬は、すべてL-、すべてD-またはD、L混合のポリペプチドでありうる。ペプチダーゼはD-アミノ酸を基質として利用できないため、N-末端またはC-末端D-アミノ酸の存在は、ポリペプチドのin vivoでの安定性を上昇させる(Powellら、Pharm. Res. 10:1268-1273, 1993)。リバースD-ポリペプチドは、L-アミノ酸を含むポリペプチドに対して逆順で配置されるD-アミノ酸を含むポリペプチドである。従って、L-アミノ酸ポリペプチドのC-末端残基は、D-アミノ酸ポリペプチドのN-末端になり、以降も同様である。リバースD-ポリペプチドは、L-アミノ酸ポリペプチドと同じ三次構造、従って同じ活性を保持するが、in vitroおよびin vivoでの酵素分解に対してより安定であり、従って本来のポリペプチドより大きな治療効果を有する(BradyおよびDodson, Nature 368:692-693, 1994; Jamesonら、Nature 368:744-746, 1994)。リバースD-ポリペプチドに加えて、コンセンサス配列または実質的に同一なコンセンサス配列変異を含む拘束性ポリペプチド(constrained polypeptide)は、当技術分野において周知の方法によって作製されうる(RizoおよびGierasch, Ann. Rev. Biochem. 61:387-418, 1992)。例えば、拘束性ポリペプチド(constrained polypeptide)は、ジスルフィド架橋を形成できるシステイン残基の付加によって作製され、それによって環状ポリペプチドを生じることができる。環状ポリペプチドは遊離のN-またはC-末端を持たない。従って、それらは当然、ポリペプチド末端で切断しないエンドペプチダーゼに対しては感受性であるが、それらはエキソペプチダーゼによるタンパク質分解を受けにくい。N-末端またはC-末端D-アミノ酸を有するポリペプチドおよび環状ポリペプチドのアミノ酸配列は、それぞれ、N-末端もしくはC-末端D-アミノ酸残基の存在、またはそれらの環状構造の存在以外、それらが対応するポリペプチドの配列と通常同一である。
【0073】
分子内ジスルフィド結合を有する環状誘導体は、アミノ末端およびカルボキシ末端などの環化のために選択された部位に、適切なS-保護システインまたはホモシステイン残基を取り込みながら、従来の固相合成によって調製されうる(Sahら、J. Pharm. Pharmacol. 48:197, 1996)。ポリペプチド鎖合成の完了後、環化は、(1)S-保護基の選択的除去、その結果として起こる対応する2つの遊離SH-官能基の担体上での酸化(S-S結合を形成する)、それに続く標準的な担体からの生成物の除去および適切な精製処理によって、または(2)完全な側鎖脱保護と並行した担体からのポリペプチドの除去、それに続く高度に希釈した水溶液中での遊離SH-官能基の酸化によって実施され得る。
【0074】
分子内アミド結合を有する環状誘導体は、環化のために選択された部位に、適切なアミノ側鎖およびカルボキシル側鎖が保護されたアミノ酸誘導体を取り込みながら、従来の固相合成によって調製されうる。分子内-S-アルキル結合を有する環状誘導体は、環化のために選択された部位に、適切なアミノ基保護側鎖を有するアミノ酸残基、および適切なS-保護システインまたはホモシステイン残基を取り込みながら、従来の固相化学によって調製され得る。
【0075】
ポリペプチドのN-末端またはC-末端残基に作用するペプチダーゼに対して抵抗性をもたらす他の効果的なアプローチは、修飾されたポリペプチドがもはやペプチダーゼの基質ではないように、ポリペプチド末端に化学基を付加することである。このような化学修飾の1つは、どちらか一方または両方の末端でのポリペプチドのグリコシル化である。いくつかの化学修飾、特にN-末端グリコシル化は、ヒト血清中のポリペプチドの安定性を上昇させることが示されている(Powellら、Pharm. Res. 10:1268-1273, 1993)。血清安定性を向上させる他の化学修飾は、アセチル基のような1〜20個の炭素の低級アルキルからなるN-末端アルキル基の付加、および/またはC-末端アミドもしくは置換アミド基の付加を含むが、それらに限定されない。具体的には、本発明は、N-末端アセチル基および/またはC-末端アミド基を有するポリペプチドからなる修飾ポリペプチドを包含する。
【0076】
また、その誘導体がポリペプチドの望ましい機能的活性を保持するならば、通常はポリペプチドの一部ではない更なる化学的部分を有する他の種類のポリペプチド誘導体も、本発明に含まれる。このような誘導体の例は、(1)アミノ末端または他の遊離アミノ基のN-アシル誘導体(そこでのアシル基は、アルカノイル基(例えば、アセチル、ヘキサノイル、オクタノイル)、アロイル基(例えば、ベンゾイル)もしくはF-moc(フルオレニルメチル-O-CO-)のようなブロック基でありうる);(2)カルボキシ末端または他の遊離カルボキシ基もしくはヒドロキシル基のエステル;(3)アンモニアもしくは適切なアミンとの反応によって生じる、カルボキシ末端または他の遊離カルボキシル基のアミド;(4)リン酸化誘導体;(5)抗体または他の生物学的リガンドとコンジュゲートした誘導体、および他の種類の誘導体を含む。
【0077】
本明細書に記載されるポリペプチドへの更なるアミノ酸残基の付加に由来する、より長いポリペプチド配列もまた、本発明に包含される。このようなより長いポリペプチド配列は、上述のポリペプチドと同様の生物学的活性および特異性(例えば、細胞指向性)を有することが期待され得る。相当数の更なるアミノ酸を有するポリペプチドは除外されないが、いくつかの大きなポリペプチドは、有効な配列を遮蔽する立体配置をとり、その結果、標的(例えば、LRPまたはLRP2などのLRP受容体ファミリーの一員)との結合を妨げうることが認識される。これらの誘導体は競合的拮抗薬として作用し得るかもしれない。従って、本発明は、伸張を有する本明細書に記載されるポリペプチドまたはポリペプチドの誘導体を包含するが、望ましくは、その伸張はポリペプチドまたはその誘導体の細胞標的化活性を損なわない。
【0078】
本発明に包含される他の誘導体は、直接的に、またはアラニン残基の短い伸張もしくはタンパク質分解の推定部位(例えばカテプシンによる、例えば、米国特許第5,126,249号および欧州特許第495 049号参照)によるスペーサーを介して互いに共有結合した、本明細書に記載されるような、2つの同一の、あるいは2つの異なるポリペプチドからなるデュアルポリペプチド(dual polypeptides)である。本明細書に記載されるポリペプチドの多量体は、同一のまたは異なるポリペプチドもしくはその誘導体から形成される分子の重合体からなる。
【0079】
本発明はまた、そのアミノ末端もしくはカルボキシ末端、もしくは両方で、異なるタンパク質のアミノ酸配列と結合した、本明細書に記載されるポリペプチドまたはその断片を含むキメラタンパク質あるいは融合タンパク質であるポリペプチド誘導体を包含する。このようなキメラタンパク質または融合タンパク質は、そのタンパク質をコードする核酸の組換え発現によって産生されうる。例えば、キメラタンパク質または融合タンパク質は、記載されたポリペプチドの1つと共有される少なくとも6アミノ酸を含み、望ましくは同等のもしくはより大きな機能的活性を有するキメラタンパク質または融合タンパク質をもたらす。
【0080】
本明細書に記載されるポリペプチド誘導体は、必要に応じて、機能的に同等の分子、または機能的に向上もしくは低下した分子を提供するために、アミノ酸残基の置換、付加、あるいは欠失によりアミノ酸配列を変化させることによって作製され得る。ポリペプチド誘導体は、一次アミノ酸配列として、機能的に同等のアミノ酸残基の置換を含む配列の変化を含んでいる、本明細書に記載されるポリペプチド(例えば、VEGFRポリペプチド2.1、2.2、もしくは2.3、またはAPG-201、APG-202、APG-203、APG-204、APG-205、もしくはAPG-206ペプチド、またはAPI-101、API-103、もしくはAPI-106 ペプチド、またはAPI-401、API-402、API-403、API-404、もしくはAPI-405ポリペプチド)のアミノ酸配列のすべてあるいは一部を有するものを含むが、それらに限定されない。例えば、配列内の1つ以上のアミノ酸は、機能的同等物として機能して、サイレント変化をもたらす、類似した極性の他のアミノ酸によって置換され得る。配列内のアミノ酸の置換は、そのアミノ酸が属するクラスの他のメンバーから選択されうる。例えば、陽性荷電(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リシンおよびヒスチジンを含む。非極性(疎水性)アミノ酸は、ロイシン、イソロイシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、プロリン、トリプトファンおよびメチオニンを含む。非荷電極性アミノ酸は、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンを含む。陰性荷電(酸性)アミノ酸は、グルタミン酸およびアスパラギン酸を含む。アミノ酸グリシンは、非極性アミノ酸ファミリーまたは非荷電(中性)極性アミノ酸ファミリーのいずれかに含まれうる。アミノ酸のファミリー内で行われる置換は、通常、保存的置換であると理解される。
【0081】
ペプチド模倣薬を同定するためのアッセイ
上述のように、本明細書に記載されるポリペプチドの骨格構造およびファーマコフォア(pharmacophore)提示を再現するために作製された非ペプチド性化合物(ペプチド模倣薬)は、しばしば、より高い代謝的安定性、より高い効力、より長い作用持続時間、ならびにより良い生体利用性の特性を有する。
【0082】
本発明のペプチド模倣薬化合物は、生物学的ライブラリー;空間的に位置指定可能な(spatially addressable)平行固相もしくは液相ライブラリー;デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー法、およびアフィニティークロマトクラフィー選抜を用いる合成ライブラリー法を含む、当技術分野において公知のコンビナトリアルライブラリー法での多数のアプローチのいずれかを用いて入手され得る。生物学的ライブラリーアプローチはペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマーまたは化合物の小分子ライブラリー(Lam, Anticancer Drug Des. 12:145, 1997)に適用できる。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において、例えば、DeWittら、(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909, 1993);Erbら、(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422, 1994);Zuckermannら、(J. Med. Chem. 37:2678, 1994);Choら、(Science 261:1303, 1993);Carellら、(Angew. Chem, Int. Ed. Engl. 33:2059, 1994およびibid 2061);ならびにGallopら、(Med. Chem. 37:1233, 1994)に見出すことができる。化合物のライブラリーは、溶液中(例えば、Houghten, Biotechniques 13:412-421, 1992)またはビーズ上(Lam, Nature 354:82-84, 1991)、チップ(Fodor, Nature 364:555-556, 1993)、細菌もしくは胞子(米国特許第5,223,409号)、プラスミド(Cullら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-1869, 1992)もしくはファージ上(ScottおよびSmith, Science 249:386-390, 1990)、またはルシフェラーゼ、ならびに適切な基質の生成物への変換の測定によって検出される酵素標識で提供されうる。
【0083】
一旦本明細書に記載されるようなポリペプチドが同定されると、それは、溶解度の違い(例えば、沈殿)、遠心分離、クロマトグラフィー(例えば、アフィニティー、イオン交換、サイズ排除など)を含むが、それらに限定されない多くの標準方法のいずれかによって、またはペプチド、ペプチド模倣薬、もしくはタンパク質の精製に使用される他の任意の標準的技術によって、単離、精製されうる。目的とする同定されたポリペプチドの機能特性は、当技術分野において公知の任意の機能アッセイを用いて評価されうる。望ましくは、細胞内シグナル伝達における下流の受容体機能を評価するアッセイが使用される(例えば、細胞増殖)。
【0084】
例えば、本発明のペプチド模倣薬化合物は、下記の3段階の過程:すなわち、(1)本明細書に記載されるポリペプチドを解析して、本明細書に記載される特定の細胞型を標的とするために必要な二次構造の領域を同定する過程;(2)立体配座を拘束したジペプチド代替物を使用して、骨格構造(backbone geometry)を改良し、これらの代替物に対応する有機基本骨格を提供する過程;および(3)最良の有機基本骨格を使用して、天然のポリペプチドの望ましい活性を模倣するために設計された候補ライブラリーにおいて有機ファーマコフォアを提示する過程、を用いて入手されうる。より詳細には、3つの段階は下記の通りである。第一段階では、リード候補ポリペプチドを解析し、それらの構造を削減し、それらの活性のための必要条件を同定する。一連の原型ポリペプチド類似体が合成される。第二段階では、立体配座を拘束したジペプチド代替物を用いて、最良のポリペプチド類似体を検討する。インドリジジン-2-オン、インドリジジン-9-オンおよびキノリジジノン(quinolizidinone)アミノ酸(それぞれI2aa、I9aaおよびQaa)は、最良のペプチド候補の骨格構造(backbone geometry)を研究するための基本骨格として使用される。これらおよび関連の基本骨格(Halabら、Biopolymers 55:101-122, 2000;およびHanessianら、Tetrahedron 53:12789-12854, 1997において概説される)は、ポリペプチドの特定の領域に導入され、ファーマコフォアを異なる方向に配向しうる。これらの類似体の生物学的評価は、活性のための幾何学的必要条件を模倣する改善されたリードポリペプチドを同定する。第三段階では、最も活性の高いリードポリペプチド由来の基本骨格を使用して、天然のペプチドの活性に関与するファーマコフォアの有機代替物を提示する。ファーマコフォアおよび骨格は、平行合成方式で一体化される。ポリペプチドの誘導および上記の段階は、当技術分野において公知の方法を用いた他の方法によって達成され得る。
【0085】
本明細書に記載されるポリペプチド、ポリペプチド誘導体、ペプチド模倣薬または他の小分子から決定される構造機能相関は、同様のもしくはより良い特性を有する類似の分子構造を改善、作製するために使用されうる。従って、本発明の化合物はまた、本明細書に記載されるポリペプチドの構造、極性、荷電特性および側鎖特性を共有する分子をも包含する。
【0086】
要約すると、本明細書の開示に基づき、当業者は、特定の細胞型(例えば、本明細書に記載されるもの)に薬剤を標的化するための化合物の同定に有用な、ペプチドおよびペプチド模倣薬スクリーニングアッセイを開発できる。本発明のアッセイは、ロースループット(low-throughput)、ハイスループット(high-throughput)、またはウルトラハイスループット(ultra-high throughput)スクリーニング方式のために開発されうる。本発明のアッセイは、自動化の可能なアッセイを含む。
【0087】
核酸
本明細書に記載されるポリペプチドは、任意の核酸とコンジュゲートされうる。これによって、ポリペプチドは、コンジュゲートされた核酸を特定の細胞、組織、もしくは器官に、またはBBBを通過して標的化し、輸送するためのベクターとして機能することができる。コンジュゲートされた核酸は、発現ベクター(例えば、プラスミド)および治療用核酸(例えば、RNAi薬)を含み得る。核酸は、任意の長さ、構造、電荷、または形状(すなわち、直鎖状、コンカテマー、環状(例えば、プラスミド)、ニックのある環状、コイル状、スーパーコイル状、もしくは荷電したもの)の二本鎖および一本鎖DNAおよびRNA分子など、当技術分野において公知の任意の種類を包含する。加えて、核酸は、5’および3’末端修飾を含有することができ、これらの末端に平滑および突出ヌクレオチド、またはそれらの組合せを有し得る。本発明のある実施形態では、核酸は、標的遺伝子産物をサイレンシングできるRNA干渉配列(例えば、siRNA、shRNA、miRNA、もしくはdsRNAヌクレオチド配列)であるか、またはそれをコードする。核酸は、例えば、DNA分子、RNA分子、またはその改変型であり得る。
【0088】
発現ベクター
ある実施形態では、核酸は、細胞内で発現され得る。核酸は、ポリペプチド(例えば、治療用ポリペプチド)をコードしてもよく、または治療用核酸(例えば、本明細書に記載されるようなRNAi薬)をコードしてもよい。当技術分野において公知の任意の発現系が使用され、任意の適切な疾患は、当技術分野において公知の発現系(例えば、プラスミド)を用いて治療されうる。典型的なアプローチでは(Hortonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:1553-1558, 1999)、サイトカイン(インターフェロンα)をコードするプラスミドが、癌を有する被験体に与えられる。細胞内に入った後、サイトカイン遺伝子は、細胞内の転写および翻訳経路によって発現され、その結果、腫瘍の増殖を抑制するサイトカインタンパク質を産生する。例えば、Mahviら、Cancer Gene Ther. 14:717-723, 2007には、他のアプローチが記載される。ここでは、IL-12を発現するプラスミドは転移性腫瘍に注入され、それによって腫瘍サイズの減少がもたらされた。本発明のコンジュゲートは癌細胞を含む特定の細胞型に核酸を標的化することができるため、核酸をベクターにコンジュゲートすることは、このような核酸の全身送達を可能にしうる。心血管障害のような疾患もまた、同様の治療を用いて治療され得る。FGF-2のような増殖因子は、増殖因子をコードするプラスミドベクターを用いて心筋虚血患者に投与され得る。肝臓などの組織へのプラスミドDNAの輸送はまた、肝細胞癌または他の肝臓癌などの癌に対する治療または予防接種に望ましいかもしれない。例えば、Chou(http://www.nature.com/cgt/journal/v13/n8/abs/7700927a.html-aff1)ら、Cancer Gene Ther. 13:746-752, 2006参照。
【0089】
他のアプローチは、(例えば、EGFRの)shRNAヌクレオチド配列をコードするDNAプラスミドにコンジュゲートされたポリペプチドの使用を含む。標的細胞への局在の際、shRNA分子はプラスミドから転写され、ダイサー(Dicer)によるプロセシングの後、標的遺伝子産物の下方制御をもたらす。別の実施形態では、本発明のポリペプチドベクターは、組換えsiRNA配列を運ぶウイルスゲノムを有するウイルス核酸またはウイルス粒子(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)にコンジュゲートされる。標的細胞へのまたはBBBを経由する輸送の際、ウイルス核酸またはウイルス粒子は標的細胞に結合し、形質導入する。その後、ウイルスゲノムは標的細胞で発現され、治療用分子の転写を可能にする。
【0090】
RNA干渉
RNA干渉(RNAi)は、特異的なRNA分子の分解または特異的遺伝子の転写の妨害を引き起こすことによって遺伝子発現を阻害する機構である。自然においては、それはまた発生の制御およびゲノム維持にも関与するが、RNAi標的はしばしばウイルスおよびトランスポゾンに由来するRNA分子である(一種の先天性免疫応答)。RNAiの機構の鍵は、低分子干渉RNA鎖(siRNA)であり、それは標的メッセンジャーRNA(mRNA)分子に相補的なヌクレオチド配列を有する。siRNAは、RNAi経路のタンパク質を標的mRNAに誘導し、それらを分解し、それらをもはやタンパク質に翻訳され得ない、より小さな部分に破壊する。
【0091】
RNAi経路はダイサー(Dicer)という酵素によって開始され、それは長い二本鎖RNA(dsRNA)分子を通常約21〜約23ヌクレオチドの長さで約19塩基対の二本鎖を含むsiRNA分子に切断する。各断片の二本鎖のうちの一方(ガイド鎖として知られる)は、その後、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれ、相補的な配列と対になる。RISCは、siRNA二本鎖(dulpex)のアンチセンス鎖に相補的な配列を有する一本鎖RNAの切断を仲介する。標的RNAの切断は、siRNA二本鎖(dulpex)のアンチセンス鎖に相補的な領域の中央で起こる。この認識事象の結果は、転写後遺伝子サイレンシングである。これは、ガイド鎖がmRNA分子と特異的に対合し、RISC複合体の触媒成分であるアルゴノート(Argonaute)による分解を誘導する際に起こる。
【0092】
本発明へのRNAi技術の適用はいくつかの方法で生じ得るが、そのそれぞれは目的とする遺伝子(例えば、上皮増殖因子受容体(EGFR))の機能的サイレンシングを引き起こす。RNAiは、本明細書に記載されるベクターポリペプチド(例えば、AngioPep-2、配列番号97)にコンジュゲートされたsiRNA分子によって達成されうる。別の実施形態では、RNAi薬が構築され、それは目的とする遺伝子に誘導される配列を示すヘアピン配列(すなわち、21-bpヘアピンのようなshRNA)を含有している。siRNA、shRNA、dsRNA、miRNA、または他のRNAi薬が標的細胞に導入され、標的mRNAおよびタンパク質の発現を低下させる。
【0093】
RNAi薬による機能的遺伝子サイレンシングは、標的遺伝子産物の完全な阻害を必ずしも誘導しない。ある場合には、RNAi薬による遺伝子産物発現の最低限の低下が、宿主細胞、組織、器官、または動物において顕著な機能的変化または表現型の変化に変わりうる。従って、遺伝子サイレンシングは機能相当性であると理解され、サイレンシングを達成するための遺伝子産物分解の程度は遺伝子標的または宿主細胞型の間で異なりうる。遺伝子サイレンシングは、遺伝子産物発現を1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、または10%低下させうる。好ましくは、遺伝子産物発現は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%(すなわち、完全な阻害)低下する。
【0094】
siRNA
低分子干渉RNA(siRNA)は、本発明において重要なRNAi様式である。いくつかのsiRNAモチーフが一般的に使用される。例えば、siRNAは、短い(通常21-nt)、二本鎖のRNA(dsRNA)であり得る。多くのsiRNA分子は、3’末端に例えば、1または2ヌクレオチドの突出を有するが、平滑末端でもあり得る。各鎖は、5’リン酸基および3’ヒドロキシル(-OH)基を有する。ほとんどのsiRNA分子は18〜23ヌクレオチドの長さであるが、当業者は遺伝子サイレンシングの全体レベルを上昇または低下させるためにこの配列長を変更しうる。siRNAsはまた、目的とする遺伝子の特異的ノックダウンを引き起こすために、種々の方法によって外来的に(すなわち、人為的に)細胞内に導入され得る。従って、配列が既知のほとんどあらゆる遺伝子が、適切に設計されたsiRNAによって、配列相補性に基づき標的とされ得る。siRNAは、配列特異的に遺伝子発現を阻害または下方制御できる核酸分子を指す;例えば、Zamoreら、Cell 101:25 33 (2000);Bass, Nature 411:428-429 (2001);Elbashirら、Nature 411:494-498 (2001);ならびにKreutzerら、国際PCT 公開第WO 00/44895号;Zernicka-Goetzら、国際PCT公開第WO 01/36646号;Fire, 国際PCT公開第WO 99/32619号;Plaetinckら、国際PCT公開第WO 00/01846号;MelloおよびFire, 国際PCT公開第WO 01/29058号;Deschamps-Depaillette, 国際PCT公開第WO 99/07409号;ならびにLiら、国際PCT公開第WO 00/44914号を参照せよ。遺伝子サイレンシングにおける使用のためのsiRNA分子の調製方法は、米国特許第7,078,196号に記載され、それは参照により本明細書に組み入れられる。
【0095】
shRNA
低分子ヘアピンRNA(shRNA)分子は、標的遺伝子サイレンシングを達成するためにsiRNAの代わりに使用されうる。shRNAは、密なヘアピンループ構造が存在し、同一鎖内の相補的なヌクレオチドの結合形成を可能にする一本鎖RNA分子である。ヘアピン構造はヌクレアーゼ分解に対するRNA分子の感受性を低下させるため、shRNAは、いくつかの適用にとってsiRNAより好ましいことがある。一旦標的細胞内に入ると、shRNAはプロセシングされ、siRNAについて上述された同一の機構によって遺伝子サイレンシングをもたらす。細胞性酵素ダイサー(Dicer)は、標的細胞に入るshRNA分子の、遺伝子サイレンシングに最適なsiRNA分子への切断に関与する。
【0096】
dsRNA
二本鎖RNA(dsRNA)もまたRNAi薬として使用され得る。酵素ダイサー(Dicer)によって、より小さく、特異的なmRNAを標的とする最適なsiRNA分子に切断され得る任意の二本鎖RNAは、RNAi薬としての使用のために本発明のポリペプチドとコンジュゲートされ得る。RNAi薬としての使用のためのdsRNAの調製方法は、米国特許第7,056,704号に記載され、それは参照により本明細書に組み入れられる。
【0097】
miRNA
マイクロRNA(miRNA)は、本発明のもう1つのRNAi薬である。miRNAは、siRNAおよびshRNA薬と同一または類似の機構を用いて標的遺伝子をサイレンシングできる一本鎖RNA分子である。miRNAは、標的遺伝子をサイレンシングするために本発明のポリペプチドとコンジュゲートされ得る。21〜23ヌクレオチドの長さのmiRNA分子は、遺伝子サイレンシングへの適用に通常最も効果的であるが、当業者は遺伝子サイレンシングの全体レベルを上昇または低下させるためにこの配列長を変更しうる。
【0098】
RNAi遺伝子標的
本発明は、ポリペプチド-核酸コンジュゲートを用いた治療による、病変組織または器官における標的遺伝子のサイレンシングを特徴とする。コンジュゲートはBBBを通過し得る、または特定の細胞(例えば、肝細胞)を効率的に標的とし得る可能性がある。一旦細胞内に入ると、RNAi薬はベクターから解離し、上記のRNAiサイレンシング経路に入ることができる。疾患状態(例えば、癌)の確立もしくは維持に関与することが知られているまたは関与すると考えられる特定の標的遺伝子のmRNA分子が、RNAi薬によって分解される場合、本発明の治療可能性は実現される。本発明とともに使用するためのRNAi標的の例は、増殖因子(例えば、上皮増殖因子(EGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-beta))、受容体チロシンキナーゼを含む増殖因子受容体(例えば、Her2/neu(ErbB)を含むEGF受容体(EGFR)、VEGF受容体(VEGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR))、サイトカイン、ケモカイン、細胞質チロシンキナーゼおよびセリン/トレオニンキナーゼを含むキナーゼ(例えば、焦点接着キナーゼ、サイクリン依存性キナーゼ、SRCキナーゼ、syk-ZAP70キナーゼ、BTKキナーゼ、RAFキナーゼ、MAPキナーゼ(ERKを含む)、およびWntキナーゼ)、ホスファターゼ、調節性GTPase(例えば、Rasタンパク質)、転写因子(例えば、MYC)、ホルモンおよびホルモン受容体(例えば、エストロゲンおよびエストロゲン受容体)、抗アポトーシス分子(例えば、スルビビン(survivin)、Bcl-2、Bcl-xL)、癌遺伝子(例えば、mdm2のような腫瘍抑制因子調節因子)、酵素(例えば、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD-1)、α、β(BACE)、およびγセクレターゼ、α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸スルファターゼ、ヘパランN-スルファターゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、アセチル-Coα-グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン4-スルファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、グルコセレブロシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ-A、セラミダーゼ、ガラクトシルセラミダーゼ、アリールスルファターゼA、アスパルトアシラーゼ、フィタノイル-CoAヒドロキシラーゼ、ペルオキシン-7、β-ヘキソサミニダーゼA、アスパルチルグルコサミニダーゼ、フコシダーゼ、およびα-マンノシダーゼ、シアリダーゼ)、ならびに他のタンパク質(例えば、ハンチンチン(Httタンパク質)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、ソーティングネキシン(sorting nexins)(SNX6を含む)、α-シヌクレイン、LINGO-1、Nogo-A、およびNogo受容体1(NgR-1))、およびグリア繊維性酸性タンパク質を含む。表3は、例示的なRNAi標的と疾患との関係を示し、本発明の範囲の限定を意図するものではない。
【0099】
EGFRをサイレンシングするための例示的なRNAi配列は、配列番号117(GGAGCUGCCCAUGAGAAAU)および配列番号118(AUUUCUCAUGGGCAGCUCC)である。同様に、VEGFは、例えば、配列番号119(GGAGTACCCTGATGAGATC)に記載される配列を有するRNAi分子を用いてサイレンシングされ得る。本発明の薬剤に使用するための更なるRNAi配列は、(例えば、Dharmacon、Ambionから)市販品を入手できるか、または、当業者は、実行可能なRNAi配列の構築のための、いくつかの公的に入手可能なソフトウェアツールの1つを使用しうる(例えば、MIT/Whiteheadによって維持されているsiRNA選択サーバー;http://jura.wi.mit.edu/bioc/siRNAext/で利用可能)。疾患または症状、およびこのような疾患の治療に有用でありうるRNAi標的の例を、表3に示す。
【表3】

【0100】
修飾核酸
修飾RNA分子を含む修飾核酸(すなわち、ヌクレオチド類似体)は、本発明のコンジュゲートに使用されうる。修飾核酸は、本明細書に記載される核酸の半減期、安定性、特異性、送達、溶解度、およびヌクレアーゼ耐性の性質を改善できる。例えば、siRNAは、部分的にまたは完全に、上述の有益な性質を与えるヌクレオチドで構成され得る。Elmenら(Nucleic Acids Res. 33(1):439-447 (2005))に記載されるように、合成のRNA様ヌクレオチド類似体(例えば、ロック核酸(LNA))は、標的遺伝子産物に対してサイレンシング活性を示すsiRNA分子を構築するために使用され得る。
【0101】
修飾核酸は、核酸の成分、すなわち糖、塩基、およびリン酸部分の1つ以上が天然に存在するものとは異なる、好ましくは人体に存在するものとは異なる分子を含む。ヌクレオシド代替物は、リボリン酸(ribophosphate)骨格が非リボリン酸構築物、例えば、非荷電のリボリン酸骨格模倣体に置換されている分子であり、それはハイブリダイゼーションがリボリン酸骨格で見られるものと実質的に同等であるように、塩基を正しい空間関係で存在させることを可能にする。
【0102】
修飾は、本明細書に記載される任意の二本鎖RNA(例えば、任意のRNAi薬(例えば、siRNA、shRNA、dsRNA、またはmiRNA))、RNA様、DNA、およびDNA様分子に組み込まれ得る。核酸のアンチセンス鎖およびセンス鎖の一方または両方を修飾することが望ましいかもしれない。核酸はサブユニットまたは単量体の重合体であるため、多数の下記の修飾、例えば、塩基、またはリン酸部分、またはリン酸部分の非結合Oの修飾が、核酸中で繰り返される位置に存在する。ある場合には、修飾は核酸中の対象となる位置のすべてに存在するであろうが、多くの場合、実際にはほとんどの場合、そうではない。例えば、修飾は、3’または5’末端位置のみに存在してもよく、末端領域、例えば、末端ヌクレオチドまたは鎖の最後の2、3、4、5、もしくは10ヌクレオチドの位置に存在してもよい。修飾は、二本鎖領域、一本鎖領域、またはその両方に存在しうる。例えば、非結合O位置でのホスホロチオエート修飾は、一方または両方の末端のみに存在してもよく、末端領域、例えば、末端ヌクレオチドまたは鎖の最後の2、3、4、5、もしくは10ヌクレオチドの位置に存在してもよく、あるいは、特に末端での二本鎖および一本鎖領域に存在してもよい。同様に、修飾は、センス鎖、アンチセンス鎖、またはその両方に存在しうる。ある場合には、センスおよびアンチセンス鎖は同一の修飾または同種の修飾を有するが、他の場合には、センスおよびアンチセンス鎖は異なる修飾を有する(例えば、ある場合には、一方の鎖、例えばセンス鎖のみを修飾することが望ましいかもしれない)。
【0103】
本明細書に記載される核酸に修飾を導入する2つの主要目的は、生物環境での分解からの保護の強化、および薬理学的特性、例えば薬力学的特性の改善であり、更に下記において議論される。核酸の糖、塩基、または骨格への他の適切な修飾は、PCT出願第PCT/US2004/01193号に記載され、参照により本明細書に組み入れられる。核酸は、PCT出願第PCT/US2004/011822号(参照により本明細書に組み入れられる)に記載される天然に存在しない塩基を含有し得る。核酸は、非炭水化物環状担体分子のような、天然には存在しない糖を含有し得る。本明細書に記載される核酸に使用するための天然には存在しない糖の例示的な特徴は、PCT出願第PCT/US2004/11829号に記載され、参照により本明細書に組み入れられる。
【0104】
本明細書に記載される任意の核酸は、ヌクレアーゼ耐性の上昇に有用なヌクレオチド間結合(例えば、キラルホスホロチオエート結合)を含み得る。加えて、または別法では、核酸は、ヌクレアーゼ耐性の上昇のためにリボース模倣体を含み得る。ヌクレアーゼ耐性の上昇のための、例示的なヌクレオチド間結合およびリボース模倣体は、米国特許出願公開第2005/0164235号に記載され、参照により本明細書に組み入れられる。
【0105】
本明細書に記載される任意の核酸は、オリゴヌクレオチド合成のためのリガンドにコンジュゲートした単量体サブユニットおよび単量体を含み得る。典型的な単量体は、米国特許出願公開第2005/0107325号に記載され、参照により本明細書に組み入れられる。
【0106】
任意の核酸は、米国特許出願公開第2005/0164235号に記載されるような、ZXY構造を有し得る。
【0107】
任意の核酸は、両親媒性部分と複合し得る。RNAi薬に使用するための例示的な両親媒性部分は、米国特許出願公開第2005/0164235号に記載される。
【0108】
ポリペプチドと核酸とのコンジュゲーション
本発明のポリペプチドと核酸とのコンジュゲーションは、当技術分野において公知の任意の方法によって達成され得る。核酸は、ポリペプチドに直接コンジュゲートでき、またはリンカーを介してコンジュゲートされうる。
【0109】
ポリペプチドと核酸との間の結合は、切断型または非切断型でありうる。1つの実施例では、ポリペプチドとsiRNA分子との間にジスルフィド結合が導入される。この過程は、例としてAngioPep-2(配列番号97)およびEGFRを標的とするsiRNAを用いて、図2に示される。架橋剤スルホ-LC-SPDP を用いたAngioPep-2の修飾は、切断可能なジスルフィド結合による2分子のコンジュゲーションを可能にする。通常、本発明のポリペプチドとRNAi薬との間の化学的コンジュゲーションは、一旦コンジュゲートが標的細胞に入ると切断可能になり、RNAi薬(例えば、siRNA)がその遺伝子サイレンシング機能を発揮できるようにする。切断可能な結合はエステル結合を含み、核酸分子の任意の遊離ヒドロキシル基とコンジュゲートされ得る。他の切断可能なリンカーはジスルフィド結合を含む。非切断型の結合は、スルフィド-アミノ結合を介して起こり得る。
【0110】
リンカーを用いる実施形態では、リンカーは、二官能性リンカー(例えば、ホモ二官能性またはヘテロ二官能性リンカー)でありうる。ヘテロ二官能性架橋剤としては、以下のものが挙げられる:EMCS([N-ε-マレイミドカプロイルオキシ]スクシンイミドエステル)、マレイミド-ヘキサン酸(MHA)、MBS(m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)、スルホ MBS(m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル)、GMBS (N-γ-マレイミドブチリルオキシスクシンイミドエステル)、スルホ GMBS(N-γ-マレイミドブチリルオキシスルホスクシンイミドエステル)、 EMCH(N-(ε-マレイミドカプロン酸)ヒドラジド)、EMCS(N-(ε-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミドエステル)、スルホ EMCS(N-(ε-マレイミドカプロイルオキシ)スルホスクシンイミドエステル)、PMPI (N-(p-マレイミドフェニル)イソシアナート)、SIAB(N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾアート)、SMCC(スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート)、SMPB(スクシンイミジル4-(p-マレイミドフェニル)ブチラート)、スルホ SIAB(N-スルホスクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾアート)、スルホ SMCC(スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート)、スルホ SMPB(スルホスクシンイミジル4-(p-マレイミドフェニル)ブチラート)、EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)、MAL-PEG-SCM(マレイミドPEGスクシンイミジルカルボキシメチル)、ABH (p-アジドベンゾイルヒドラジド)、ANB-NOS(N-5-アジド-2-ニトロベンジルオキシスクシンイミド)、APDP(N-(4-[p-アジドサリチルアミド]ブチル)-3’-(2’-ピリジルジチオ)プロピオンアミド)、NHS-ASA(N-ヒドロキシスクシンイミジル-4-アジドサリチル酸(salicyclic acid))、スルホ HSAB(N-ヒドロキシスルホスクシンイミジル-4-アジドベンゾアート)、スルホ SAED(スルホスクシンイミジル2-(7-アミノ-4-メチルクマリン-3-アセトアミド)エチル-1,3-ジチオプロピオナート)、スルホ SAND(スルホスクシンイミジル2-(m-アジド-o-ニトロベンズアミド)-エチル-1,3’-ジチオプロピオナート)、スルホ SANPAH(スルホスクシンイミジル6-(4’-アジド-2’-ニトロフェニルアミノ)ヘキサノアート)、スルホ SADP(スルホスクシンイミジル(4-アジドフェニル)-1,3’-ジチオプロピオナート)、およびスルホ SASD(スルホスクシンイミジル-2-(p-アジドサリチルアミド)エチル-1,3-ジチオプロピオナート)。例示的なホモ二官能性架橋剤としては、以下のものが挙げられる:BSOCOES(ビス(2-[スクシンイミドオキシカルボニルオキシ]エチル)スルホン)、DPDPB(1,4-ジ-(3’-[2’ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ブタン)、DSS(ジスクシンイミジルスベラート)、DST(ジスクシンイミジルタルトラート)、スルホ DST(スルホジスクシンイミジルタルトラート)、DSP(ジチオビス(スクシンイミジルプロピオナート))、DTSSP(3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオナート))、EGS(エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシナート))、およびBASED(ビス(β-[4-アジドサリチルアミド]-エチル)ジスルフィド)。
【0111】
1つの実施例では、(例えば、siRNA分子上の)ヒドロキシル基は、酸無水物リンカー(例えば、無水コハク酸および無水グルタル酸)を用いて(例えば、ペプチドベクター上の)アミン基と切断可能に結合される。
【0112】
ある場合には、アンチセンス鎖は遺伝子サイレンシングの前にまずリン酸化を必要とするため、siRNA、shRNA、またはdsRNA分子のセンス鎖をポリペプチドと結合させることが有利である。
【0113】
他の方法および架橋剤は、本発明のポリペプチドとRNAi薬とを結合させるために使用され得る。例えば、5’または3’にチオールを含有するsiRNAセンス鎖は、ポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端のいずれかに置かれたシステイン残基とジスルフィド結合によって連結され得る。Muratovskaら(FEBS Letters 558:63-68 (2004))およびTurnerら、(Blood Cells, Molecules, and Diseases 38:1-7 (2007))は、ポリペプチドをRNA分子にコンジュゲートする例示的な化学結合形成方法を提供し、参照により本明細書に組み入れられる。
【0114】
遺伝子治療法
ポリペプチド-核酸コンジュゲートの被験体への投与に加えて、本発明は、標的細胞、組織、または器官への輸送および特異性を改善するための他の遺伝子治療法の追加を包含する。
【0115】
リポプレックス(lipoplex)およびポリプレックス(polyplex)
本発明のコンジュゲートの細胞内への送達を改善するために、核酸を損傷から保護し、細胞内へのその侵入を促進しなければならない。この目的のため、輸送過程の間望ましくない分解から核酸を保護する能力を有する新たな分子、リポプレックスおよびポリプレックスが開発された。例えば、本発明のコンジュゲートは、脂質によってミセルまたはリポソームのような組織化された構造内に被覆され得る。その組織化された構造が核酸と複合する場合、それはリポプレックスと呼ばれる。3種類の脂質、陰イオン性(陰性に荷電)、中性、または陽イオン性(陽性に荷電)がある。陽イオン性脂質を用いたリポプレックスは、遺伝子導入のために実績のある有用性を持つ。陽イオン性脂質は、それらの正電荷によって、陰性に荷電した核酸と自然に複合体を形成する。また、それらの電荷によって、それらは細胞膜と相互作用し、リポプレックスのエンドサイトーシスが起こり、ポリペプチド-核酸コンジュゲートは細胞質中に放出される。陽イオン性脂質はまた、細胞による核酸の分解から保護する。
【0116】
ポリマーと核酸との複合体は、ポリプレックスと呼ばれる。ほとんどのポリプレックスは陽イオン性ポリマーからなり、それらの産生はイオン相互作用によって調節される。ポリプレックスとリポプレックスの作用方法の1つの大きな違いは、ポリプレックスは細胞質中にそれらの核酸内容物を放出できないことであり、このために、不活性化アデノウイルスのようなエンドソーム分解剤(エンドサイトーシスの間に作られるエンドソームを分解させる)を用いたコトランスフェクションが起こらなければならない。しかし、常にこうであるとは限らず、ポリエチレンイミンのようなポリマーは、キトサンおよびトリメチルキトサンが行うようなそれら自身のエンドソーム破壊方法を有する。
【0117】
ハイブリッド法
いくつかのハイブリッド法は、2つ以上の方法を組み合わせ、本発明のコンジュゲートを被験体の細胞、組織、または器官に投与するために有用であり得る。例えば、ビロソーム(virosome)は、リポソームを不活性化ウイルスと組み合わせる。これは、ウイルス法またはリポソーム法のいずれか単独よりも、呼吸上皮細胞において、より効果的に遺伝子導入させることを示した。他の方法は、他のウイルスベクターの陽イオン性脂質との混合またはウイルスのハイブリッド形成を含む。
【0118】
デンドリマー
デンドリマーは、球状の高度に分岐した高分子である。粒子の表面は様々に官能化されてもよく、結果として生じる構築物の多くの特性はその表面によって決定される。具体的には、陽イオン性デンドリマー(すなわち、陽性の表面電荷を有するもの)を構築することができる。DNAまたはRNAなどの遺伝物質の存在下では、電荷相補性は、核酸の陽イオン性デンドリマーとの一時的な結合を引き起こす。その目的地に到達すると、デンドリマー核酸複合体はその後、エンドサイトーシスによって細胞に取り込まれる。
【0119】
近年、トランスフェクション試薬の標準は陽イオン性脂質であった。これらの競合する試薬の限界は、様々な細胞型にトランスフェクトする能力の欠如、強く能動的な標的化能力の欠如、動物モデルとの不適合性、および毒性を含むと報告されている。デンドリマーは、強固な共有結合性の構造および高度な分子構造の制御、従ってサイズの制御を提供する。同時に、これらは既存のアプローチと比較して有力な利点を有する。
【0120】

本発明の化合物、コンジュゲート、および組成物は、任意の癌を治療するために使用され得るが、BBBを通過して効率的に輸送されるベクターを含むコンジュゲートの場合、脳腫瘍およびBBBによって保護される他の癌の治療に特に有用である。これらは、星状細胞腫、毛様細胞性星状細胞腫、胚芽異形成性神経上皮腫瘍、乏突起膠腫、上衣腫、多形性膠芽腫、混合性神経膠腫、乏突起星細胞腫、髄芽腫、網膜芽腫、神経芽腫、胚細胞腫および奇形腫を含む。他の種類の癌は、肝細胞癌、乳癌、頭頸部の癌(マントル細胞リンパ腫などの様々なリンパ腫を含む)、非ホジキンリンパ腫、腺腫、扁平上皮癌、喉頭癌、網膜の癌、食道癌、多発性骨髄腫、卵巣癌、子宮癌、黒色腫、結腸直腸癌、膀胱癌、前立腺癌、肺癌(非小細胞肺癌を含む)、膵臓癌、子宮頸癌、頭頸部癌、皮膚癌、鼻咽腔癌、脂肪肉腫、上皮性癌、腎細胞癌、胆嚢腺癌、耳下腺癌、子宮内膜肉腫、多剤耐性癌;ならびに増殖性疾患および症状、例えば腫瘍の血管新生に関連した新血管形成、黄斑変性(例えば、滲出型/萎縮型加齢黄斑変性(wet/dry AMD))、角膜(comeal)血管新生、糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、近視性変性、ならびに再狭窄および多発性嚢胞腎などの他の増殖性の疾患および症状を含む。
【0121】
神経変性疾患
本明細書に記載されるポリペプチドはBBBを通過して薬剤を輸送することができるため、本発明の化合物、コンジュゲート、および組成物はまた、ニューロンが失われるもしくは損なわれる神経変性疾患または哺乳動物の脳、中枢神経系(CNS)、末梢神経系、もしくは自律神経系を侵す他の疾患の治療にも有用である。多くの神経変性疾患は、運動失調(すなわち、非協調性筋肉運動)および/または記憶障害を特徴とする。神経変性疾患は、アレキサンダー病、アルパース病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS;すなわち、ルー・ゲーリッグ病)、毛細血管拡張性運動失調症、バッテン病(シュピールマイアー・フォークト・シェーグレン・バッテン病)、牛海綿状脳症(BSE)、カナバン病、コケイン症候群、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、ハンチントン病、HIV関連認知症、ケネディ病、クラッベ病、レビー小体型認知症、マシャド・ジョセフ病(脊髄小脳失調症3型)、多発性硬化症、多系統萎縮症、ナルコレプシー、神経ボレリア症、パーキンソン病、ペリツェウス・メルツバッハー病、ピック病、原発性側索硬化症、プリオン病、レフサム病、シルダー病(すなわち、副腎白質ジストロフィー)、統合失調症、脊髄小脳失調、脊髄性筋萎縮症、スティール・リチャードソン・オルゼウスキー症候群、および脊髄癆を含む。
【0122】
リソソーム蓄積症
本発明の化合物、コンジュゲート、および組成物は、リソソーム蓄積症を治療するために使用されうるが、それらの多くは中枢神経系(CNS)を侵し、神経変性疾患を引き起こすまたは悪化させる。リソソーム蓄積症としては、以下のものが挙げられる:任意のムコ多糖症(MPS;MPS-I(ハーラー症候群、シャイエ症候群)、MPS-II(ハンター症候群)、MPS-IIIA(サンフィリポ症候群A型)、MPS-IIIB(サンフィリポ症候群B型)、MPS-IIIC (サンフィリポ症候群C型)、MPS-IIID(サンフィリポ症候群D型)、MPS-IV(モルキオ症候群)、MPS-VI(マロトー・ラミー症候群)、MPS-VII(スライ症候群)、およびMPS-IX(ヒアルロニダーゼ欠損)を含む)、リピドーシス(ゴーシェ病、ニーマン・ピック病、ファブリー病、ファーバー病、およびウォルマン病を含む)、ガングリオシドーシス(GM1およびGM2ガングリオシドーシス、テイ・サックス病、およびサンドホフ病を含む)、大脳白質萎縮症(副腎白質ジストロフィー(すなわち、シルダー病)、アレキサンダー病、異染性白質ジストロフィー、クラッベ病、ペリツェウス・メルツバッハー病、カナバン病、中枢低ミエリン化を伴う小児失調(CACH)、レフサム病、および脳腱黄色腫症を含む)、ムコリピドーシス(ML;ML-I(シアリドーシス)、ML-II(I細胞病)、ML-III(偽性ハーラー・ポリジストロフィー)、およびML-IVを含む)、ならびに糖タンパク質代謝異常(アスパルチルグルコサミン尿症、フコシドーシス、およびマンノシドーシスを含む)。
【0123】
更なる適応症
本発明のポリペプチド-核酸コンジュゲートはまた、他の器官または組織において見られる疾患を治療するためにも使用され得る。例えば、AngioPep-7(配列番号112)は、肝臓、肺、腎臓、脾臓、および筋肉細胞に効率的に輸送され、これらの組織に関連した疾患(例えば、肝細胞癌および肺癌)の選択的治療を可能にする。本発明の組成物および方法はまた、特定の遺伝子転写産物の下方制御が有用でありうるダウン症候群(すなわち、21トリソミー)のような遺伝性疾患を治療するためにも使用されうる。
【0124】
投与および用量
本発明はまた、治療的有効量のポリペプチド-核酸コンジュゲートを含有する医薬組成物に関する。組成物は、様々な薬物送達システムで用いるために製剤化され得る。1つ以上の生理的に許容される賦形剤または担体もまた、適切な剤形のために組成物に含有され得る。本発明における使用のために適切な剤形は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, PA, 17th ed., 1985に見られる。薬物送達方法の短い総説については、例えば、Langer, Science 249:1527-1533, 1990を参照せよ。
【0125】
医薬組成物は、予防的および/もしくは治療的処置のための、非経口投与、鼻腔内投与、局所(topical)投与、経口投与、または経皮投与のような局所(local)投与を目的とする。医薬組成物は、非経口的に(例えば、静脈注射、筋肉注射、または皮下注射によって)、あるいは経口摂取によって、あるいは血管症状もしくは癌症状に侵された部位への局所(topical)適用または関節内注射によって投与され得る。更なる投与経路は、血管内投与、動脈内投与、腫瘍内投与、腹腔内投与、脳室内投与、硬膜内投与、ならびに経鼻投与、点眼投与、強膜内投与、眼窩内投与、直腸投与、局所(topical)投与、またはエアロゾル吸入投与を含む。デポー注射または浸食性インプラントもしくは成分のような方法による持続放出性投与もまた、明確に本発明に包含される。従って、本発明は、許容される担体、好ましくは、例えば、水、緩衝水、生理食塩水、PBSなどの水性担体に溶解または懸濁した上述の薬剤を含有する非経口投与用組成物を提供する。組成物は、pH調整剤および緩衝剤、等張性調整剤、湿潤剤、界面活性剤などの、近似の生理条件に必要とされるような、製薬上許容される助剤物質を含有しうる。本発明はまた、経口送達用組成物を提供し、それは、錠剤、カプセルなどの剤形のために、結合剤または充填剤のような不活性成分を含有しうる。更に、本発明は、局所(local)投与用組成物を提供し、それは、クリーム、軟膏などの剤形のために、溶媒または乳化剤のような不活性成分を含有しうる。
【0126】
これらの組成物は、従来の滅菌技術によって滅菌されてもよく、またはろ過滅菌されてもよい。その結果得られた水溶液は、そのまま使用のために包装されても、凍結乾燥されてもよく、凍結乾燥調製物は投与前に滅菌した水性担体と混合される。調製物のpHは、通常、3〜11であり、より好ましくは5〜9または6〜8、最も好ましくは7〜7.5のように7〜8である。得られた固形の組成物は、それぞれ一定量の上述の薬剤を含有する、錠剤またはカプセルの密封包装のような、多数の単回投与単位に包装されうる。固形の組成物はまた、局所に適用可能なクリームまたは軟膏用に作られた絞り出しチューブのような、量を調節できる容器に包装され得る。
【0127】
有効量を含有する組成物は、予防的または治療的処置のために投与され得る。予防的適用では、組成物は、臨床的に決定される素因、あるいは腫瘍もしくは癌または神経変性疾患の発症に対する感受性の上昇を有する患者に投与され得る。本発明の組成物は、臨床疾患もしくは腫瘍形成の発症を遅延させる、減少させる、または好ましくは予防するために十分な量で、患者(例えば、ヒト)に投与され得る。治療的適用では、組成物は、既に癌または神経変性疾患に罹患している患者(例えば、ヒト)に、疾患の症状およびその合併症を回復させる、または少なくとも部分的に抑制するために十分な量で投与される。この目的を達成するために適切な量は、「治療的有効量」、疾患または病状に関連するいくつかの兆候を実質的に改善するために十分な化合物の量と定義される。例えば、癌、神経変性疾患、またはリソソーム蓄積症の治療では、疾患もしくは症状の任意の兆候を減少、予防、遅延、抑制、または阻止する薬剤あるいは化合物は、治療上有効であると思われる。治療的有効量の薬剤あるいは化合物は、疾患あるいは症状を回復させる必要はないが、個体において、疾患もしくは症状の発症が遅延、阻害、もしくは予防されるような、または疾患もしくは症状の兆候が改善されるような、または疾患もしくは症状の期間が変化するような、または、例えば、比較的軽症であるような、または回復が促進されるような、疾患あるいは症状の治療を提供するであろう。この用途に有効な量は、疾患または症状の重症度ならびに患者の体重および全身状態に依存しうるが、通常、1回分あたり患者あたり約0.5 mg〜約3000 mgの薬剤の範囲である。初回投与および追加投与のための適切な投薬計画は、初回投与に続く1回以上の、1時間に1回、1日1回、週1回、または月1回の次の投与までの間隔での反復投与に代表される。本発明の組成物に含まれる薬剤の全有効量は、哺乳動物に単回投与として、ボーラスとしてまたは比較的短時間の点滴によって投与でき、あるいは、複数回投与がより長期間にわたって(例えば、4〜6、8〜12、14〜16、もしくは18〜24時間に1回、または2〜4日に1回、1〜2週間に1回、1ヶ月に1回)投与される分割治療プロトコールを用いて投与され得る。別法としては、血中で治療上有効な濃度を維持するために十分な持続静脈注射が企図される。
【0128】
本発明の組成物内に存在し、哺乳動物(例えば、ヒト)に適用される本発明の方法に使用される、1つ以上の薬剤の治療的有効量は、哺乳動物の年齢、体重、および症状の個体差を考慮して、当業者によって決定され得る。本発明の薬剤は、被験体(例えば、ヒトのような哺乳動物)に有効な量で投与され、それは治療される被験体に望ましい結果(例えば、癌または神経変性疾患の遅延または寛解)をもたらす量である。このような治療的有効量は、当業者によって実験的に決定され得る。
【0129】
患者はまた、1週間あたり1回以上(例えば、1週間あたり2、3、4、5、6、または7回以上)、1回分あたり約0.1〜3,000 mg、1週間あたり0.1〜2,500(例えば、2,000、1,500、1,000、500、100、10、1、0.5、または0.1)mg用量の範囲で、薬剤の投与を受けうる。患者はまた、2または3週間毎に1回、1回分あたり0.1〜3,000 mgの範囲で、組成物の薬剤の投与を受けうる。
【0130】
有効量を含む本発明の組成物の単回投与または複数回投与は、治療している医師によって選択される投与量および投与様式で実施され得る。用量および投与計画は、臨床医が通常行う方法もしくは本明細書に記載される方法に従い治療期間にわたって観察されうる、患者の疾患または症状の重症度に基づいて決定および調整され得る。
【0131】
本発明の担体およびコンジュゲートは、従来の処置または治療方法と併用して使用されてもよく、または従来の処置または治療方法とは別に使用されてもよい。
【0132】
本発明のコンジュゲートが他の薬剤による治療と併用して投与される場合、それらは順次または同時に個体に投与されうる。別法としては、本発明の医薬組成物は、本明細書に記載されるような製薬上許容される賦形剤、および当技術分野において公知の別の治療薬または予防薬と合併した本発明の担体薬剤コンジュゲートとの組合せで構成されうる。
【0133】
更なるコンジュゲーション
本発明のポリペプチド-核酸コンジュゲートは、治療薬、検出可能な標識、または本明細書に記載される他の任意の薬剤などの別の薬剤と更に結合されうる。コンジュゲートは、疾患または症状の検出のために、放射線を放出するような放射性造影剤などの検出可能な標識で標識されうる。他の実施形態では、本発明の担体もしくはその官能性誘導体またはその混合物は、疾患もしくは症状を治療するために、治療薬と結合されうる、あるいはその混合物と結合されるまたはその混合物で標識されうる。治療は、血液脳関門を通過する薬剤の輸送またはこのような治療が有益な他の細胞もしくは組織への薬剤の輸送を可能にする条件下で、更に治療化合物とコンジュゲートされた本発明のポリペプチド-核酸コンジュゲートを個体に投与することによって達成されうる。
【0134】
本明細書において使用される治療薬は、薬物、医薬、放射線を放出する物質、細胞毒(例えば、化学療法薬)および/もしくはその生物学的活性断片、ならびに/または細胞の死滅を可能にするそれらの混合物であってもよく、あるいはそれは、治療される個体において疾患または症状を治療、回復、 緩和、改善、減少、または抑制するための物質であってもよい。治療薬は、合成生成物あるいは真菌、細菌もしくはマイコプラズマ、ウイルスなどの他の微生物、爬虫類などの動物、または植物由来の生成物でありうる。治療薬および/またはその生物学的活性断片は、酵素活性を有する物質および/またはその断片であってもよく、あるいは、重要なおよび/もしくは必須の細胞経路を阻害または遮断することによって、または天然に存在する重要なおよび/もしくは必須の細胞成分と競合することによって作用してもよい。
【0135】
適合しうる放射線を放出する放射性造影剤(検出可能な放射標識)の例は、インジウム-111、テクネチウム(technitium)-99、または低線量ヨウ素-131によって例示される。本発明における使用のための検出可能な標識またはマーカーは、放射標識、蛍光標識、核磁気共鳴活性を有する標識、発光標識、発色団標識、PETスキャナーのための陽電子放出同位体、化学発光標識、または酵素標識でありうる。蛍光標識は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、フルオレセイン、およびローダミンを含むが、それらに限定されない。化学発光標識は、ルシフェラーゼおよびβ-ガラクトシダーゼを含むが、それらに限定されない。酵素標識は、ペルオキシダーゼおよびホスファターゼを含むが、それらに限定されない。ヒスタミン(histamine)タグもまた、検出可能な標識でありうる。例えば、コンジュゲートは、担体部分および抗体部分(抗体または抗体断片)を含み、更に標識を含みうる。標識は、例えば、テクネチウム-99、ヨウ素-123および-131、タリウム-201、ガリウム-67、フッ素-18、インジウム-111などの医療用同位体でありうるが、限定はされない。
【0136】
薬剤は、血液脳関門を通過して輸送された後、例えば、ベクターと薬剤との間の酵素的切断または化学結合の切断によって、ポリペプチド-核酸コンジュゲートから放出可能でありうる。放出された薬剤はその後、ベクターの非存在下でその目的とする能力で機能しうる。
【0137】
ポリペプチド-核酸コンジュゲートの共有結合修飾は、本発明の範囲内に包含される。化学的誘導体は、当技術分野において周知の方法を用いて、直接化学合成によって都合良く調製されうる。このような修飾は、例えば、選択された側鎖もしくは末端残基と反応することができる有機誘導体化剤と標的アミノ酸残基を反応させることによって、ポリペプチド、薬剤、またはポリペプチド薬剤コンジュゲートに導入されうる。ベクターの化学的誘導体は、例えば、血液脳関門を通過でき、別の薬剤と結合またはコンジュゲートされ得るため、それによって血液脳関門を通過して薬剤を輸送しうる。本発明のポリペプチド-核酸薬は、スルフヒドリル基、アミノ基(アミン)および/または炭水化物を介して適切な検出可能標識または治療薬と結合(すなわちコンジュゲート)されうるが、限定はされない。ホモ二官能性およびヘテロ二官能性架橋剤(コンジュゲーション剤)は、多くの商業的供給源から入手可能である。架橋のために利用可能な部位は、本発明の担体上に見いだされうる。架橋剤は、例えば、短いアーム(<2炭素鎖)、中間サイズのアーム(2〜5炭素鎖)、または長いアーム(≧6炭素鎖)のようなフレキシブルアームを有しうる。例示的な架橋剤は、BS3([ビス(スルホスクシンイミジル)スベラート];BS3は、接触可能な第一級アミンを標的とするホモ二官能性のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルである)、NHS/EDC(N-ヒドロキシスクシンイミドおよびN-エチル-’(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(carbodimide);NHS/EDCは、第一級アミン基のカルボキシル基とのコンジュゲーションを可能にする)、スルホ-EMCS([N-e-マレイミドカプロン酸]ヒドラジド;スルホ-EMCSは、スルフヒドリル基およびアミノ基に反応性のヘテロ二官能性反応基(マレイミドおよびNHS-エステル)である)、ヒドラジド(ほとんどのタンパク質は露出した炭水化物を含み、ヒドラジドはカルボキシル基を第一級アミンと結合させるために有用な試薬である)、ならびにSATA(N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセタート;SATAはアミンに反応性であり、保護されたスルフヒドリル基を付加する)を含む。
【0138】
下記の実施例は、限定ではなく、本発明を説明することを目的とする。
【実施例1】
【0139】
ポリペプチド-核酸コンジュゲーション
5’チオール基を有する上皮増殖因子受容体(EGFR)siRNA配列をコードする35μMの一本鎖RNAオリゴヌクレオチドを、アニーリングバッファー(100 mM酢酸カリウム、30 mM HEPES-KOH pH 7.2、2 mM酢酸マグネシウム)中、90℃で1分間インキュベートし、続いて37℃で1時間インキュベートする。そのハイブリダイゼーション混合物を(100μLチップを融解したアガロース混合物中に置き、それが固まらせることにより)エッペンドルフチューブにあらかじめ用意した100 mM グルコース中1%アガロースのウェル内で7分間氷上でインキュベートすることによって、アニーリングしたsiRNAオリゴヌクレオチドを脱塩する。脱塩したsiRNA分子に1倍容の反応バッファー(10 mM HEPES, 1 mM EDTA, pH 8.0)を添加し、siRNAの最終濃度を17.5μMに調整する。等モル量のEGFR siRNA、AngioPep-2ポリペプチド、およびチオール酸化剤ジアミド(Sigma, USA)を混合し、40℃で1時間インキュベートする。ポリペプチド-核酸コンジュゲート/ジアミド溶液を培地と混合し、標的細胞、組織、器官、または患者に適用する。
【実施例2】
【0140】
siRNAのペプチドベクターとのN末端およびC末端コンジュゲーション
図4に示されるように、N末端またはC末端システインを有するペプチドベクター(例えば、配列番号113および114)は、直接またはリンカーを介してSH-siRNAにコンジュゲートできる。選択されるリンカーに応じて、結合は切断型または非切断型であり得る。ここで、ペプチドベクターはsiRNA二本鎖(dulpex)のセンス鎖にコンジュゲートされる。
【実施例3】
【0141】
siRNAコンジュゲートの活性
切断型コンジュゲートおよび非切断型siRNAコンジュゲートを、試験系にトランスフェクトした後、サイレンシング活性について試験した(図5)。両リンカーは非コンジュゲートsiRNAの2〜3倍以内のIC50値を有するため、Angiopep-2のコンジュゲーションは、siRNAのサイレンシング活性に有意な影響を及ぼさない。従って、このサイレンシング活性は、使用されるリンカーの種類(切断型または非切断型)とは無関係であると思われる。
【実施例4】
【0142】
BBB を通過するsiRNAコンジュゲートの輸送
マウスにおけるin situ脳かん流を用いて、コンジュゲートの輸送をin vivoで測定した。siRNA-Angiopep-2コンジュゲートはBBBを通過して効率的に輸送されることが実証された。脳実質に存在する量は、脳毛細血管枯渇(capillary depletion)後に測定された(図6)。
【実施例5】
【0143】
siRNAのペプチドベクターとのコンジュゲーションのための更なる戦略
別の実施例では、Cys-Angiopep-2(配列番号113)またはそのN末端アミンで6-マレイミドヘキサン酸によって誘導体化されたAngiopep-2が、ペプチドベクターとして使用された(図7)。これらのペプチドは例示的なsiRNAセンス鎖構築物とコンジュゲートされた。活性化されたジスルフィドを有するsiRNA分子は、図のように誘導体化されたsiRNAから作製された。簡潔には、siRNA分子を、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)で処理して、遊離チオールを生じさせた後、2,2’-ジピリジルジスルフィドで活性化して、活性化化合物を形成した(図8)。
【0144】
遊離チオールを有するsiRNA、活性化siRNAの合成、およびCys-Angiopep-2分子のHPLC波形もまた示される(図9A〜9C)。活性化siRNAはCys-Angiopep-2と反応して、siRNAコンジュゲートを形成した(図10)。活性化siRNA、Cys-Angiopep-2、およびその結果得られたコンジュゲートのHPLC波形は、図11A〜11Cに示す。質量分析を用いて、コンジュゲートの形成を確認した(図12)。
【0145】
別の例示的なコンジュゲーションでは、遊離チオールを有するsiRNAは、6-マレイミドヘキサン酸によって誘導体化されたAngiopep-2とコンジュゲートされた(図13)。反応物(図14Aおよび14B)ならびに反応混合物(図14C)のHPLC波形は、反応の成功を示唆する。更なる精製の後、コンジュゲートをHPLC(図15A)および質量分析(図15B)によって分析し、コンジュゲートの形成を確認した。
【実施例6】
【0146】
更なるsiRNAコンジュゲート
表4に示すsiRNA分子およびコンジュゲートも作製した。
【表4】

【0147】
例示的なRNA-Alexa 488コンジュゲートを図16に示す。上記の表に記載されたこれらの分子を、50 mM酢酸トリエチルアンモニウム(TEAA)、pH 7.0バッファーおよびアセトニトリル勾配を用いたC18カラムのHPLCによって分析した。切断型コンジュゲート、Angiopep-2-cys(An2-Cys(C末端))、およびsiRNA対照の溶出は、図17Aに示す。非切断型コンジュゲート、Angiopep-MHA、siRNA対照の同様な分析は、図17Bに示す。HPLC 分析はまた、Alexa 488標識コンジュゲートにも行った(図18)。
【実施例7】
【0148】
siRNAコンジュゲートのヨウ素化
実施例5に記載されるsiRNAコンジュゲートを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でヨードビーズ(Iodobead)を用いてヨウ素化した。遊離ヨウ素を除去するために、Sephadex G25カラムのゲルろ過クロマトグラフィーを用いてコンジュゲートを分離し、分画分子量10,000 Daを用いてPBSに対する透析を行った。ゲルろ過後、放射活性の88%はコンジュゲートに関連し、透析後、放射活性の93〜95%がコンジュゲートに関連していた(データは示さない)。
【0149】
コンジュゲートの完全性を決定するために、HPLCを用いてコンジュゲートを分析した。ヨウ素化前、ヨウ素化およびゲルろ過後、またはヨウ素化、ゲルろ過、および透析後のコンジュゲートのHPLC波形には、切断型または非切断型コンジュゲートのいずれについても差異は観察されなかった。これらの結果は、ヨウ素化がこれらのコンジュゲートの完全性に影響を及ぼさなかったことを示す。
【0150】
下記の表5に示されるように、ヨウ素化されたコンジュゲートの比活性もまた測定された。
【表5】

【実施例8】
【0151】
siRNAコンジュゲートのin situかん流
125 nMの切断型および非切断型コンジュゲートを用いたin situかん流を実施し、脳内への取り込みを測定した。対照としてイヌリンを用いた。切断型および非切断型siRNAコンジュゲートの両方は、in situモデルにおいてBBBを通過することが観察された(図20)。各タンパク質のKin値を測定した。:切断型コンジュゲートは、1.1×10-4 ml/s/gのKin値を有し、非切断型は、4.7×10-5 ml/s/gのKin値を有し、イヌリンは2.1×10-5 ml/s/gのKin値を有した。
【0152】
毛細血管枯渇(capillary depletion)後のsiRNAの脳区画(compartments)内への分配もまた測定された。このかん流もまた125 nMで実施された。イヌリン対照と比較して、切断型および非切断型siRNAコンジュゲートの両方が、全脳、脳毛細血管、ならびに脳実質においてより多量に観察された(図21)。
【0153】
in situかん流はまた、蛍光siRNAを用いても実施された。切断型siRNAコンジュゲートは、対照siRNA、Alexa 488、および非切断型siRNAコンジュゲートと比較して、脳内へのかん流の増加を示した(図22)。しかし、高い内因性の蛍光および蛍光消光が、実験において観察された。
【実施例9】
【0154】
in vitro BBB モデルを通過するsiRNAコンジュゲートの輸送
in vitro血液脳関門モデル(例えば、米国特許出願公開第2006/0189515号に記載される)を用いて、siRNAコンジュゲートの輸送を経時的に測定した。対照としてホロトランスフェリンを用いた。この実験は250 nMで実施された。すべての画分においてTCA沈殿を行い、放射標識の量を測定した。非切断型と切断型siRNAコンジュゲートとの両方は、ホロトランスフェリンより効率的にin vitroでのBBBを通過することが観察された(図23)。
【0155】
in vitro BBBモデルにおいて0〜1000 nMの放射標識siRNAコンジュゲートの濃度を試験し、輸送速度を測定した(図24)。これらのデータに基づき、BBBを通過するsiRNA輸送は、飽和機構を使用すると思われる;従って、切断型および非切断型コンジュゲートに対するKmおよびVmax値が計算された。非切断型siRNAコンジュゲートに対するKmおよびVmaxは、それぞれ480 nMおよび3.9 pmol/cm2/hであると測定された。切断型siRNAコンジュゲートに対するKmおよびVmaxは、それぞれ240 nMおよび0.9 pmol/cm2/hであると測定された。
【0156】
蛍光標識siRNAコンジュゲートの輸送もまた測定された(図25)。放射標識コンジュゲートでのように、蛍光標識コンジュゲートもまた、非コンジュゲートsiRNA対照と比較して、BBBを通過する輸送の増加を示した。
【実施例10】
【0157】
AngioPep-2/EGFRコンジュゲートを用いた膠芽細胞腫の治療
膠芽細胞腫と診断されたヒト患者を、実施例1のAngioPep-2/EGFR siRNAコンジュゲートによって治療する。治療の際、コンジュゲートは血液脳関門(BBB)を通過し、脳内の癌細胞に移行する。上皮増殖因子受容体(EGFR)mRNAを分解させるsiRNAの存在は、癌細胞内でこの分子の顕著な機能サイレンシングをもたらす。治療は、膠芽細胞腫のより遅い進行もしくはサイズの減少、または完全寛解をもたらす。
【0158】
他の実施形態
本明細書において言及されるすべての出版物、特許出願、ならびに特許は、参照により本明細書に組み入れられ、それは2007年12月20日に出願された米国仮出願第61/008,880号および2007年12月20日に出願された第61/008,825号を包含する。
【0159】
本発明の記載された方法およびシステムの様々な変更形態および変形形態は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、当業者にとって明白である。本発明は特定の望ましい実施形態に関連して記載されているが、請求項に記載されるように本発明はこのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことが、理解されるはずである。実際、医学、薬学、または関連分野における当業者にとって明白な、本発明を実施するために記載された方法の様々な変更形態は、本発明の範囲内であることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸分子とコンジュゲートされた、配列番号1〜105および107〜112に示される任意の配列と少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む化合物。
【請求項2】
前記アミノ酸配列同一性が少なくとも80%である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記アミノ酸配列同一性が少なくとも90%である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記ポリペプチドが配列番号1〜105および107〜112に示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記ポリペプチドが配列番号5、8、67、75、76、77、78、79、81、82、90、91、および97に示されるアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記ポリペプチドが配列番号97に示されるアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記組成物(composition)が哺乳動物の血液脳関門を効率的に通過できる、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
前記ポリペプチドが10〜50アミノ酸の長さである、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
前記核酸がリボ核酸(RNA)分子である、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
前記核酸が15〜25アミノ酸の長さである、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
前記核酸が低分子干渉RNA分子(siRNA)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
前記siRNA分子が、哺乳動物の上皮増殖因子受容体(EGFR)、血管内皮増殖因子(VEGF)、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD-1)、ハンチンチン(Htt)、α-セクレターゼ、β-セクレターゼ(BACE)、γ-セクレターゼ、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、ソーティングネキシン(sorting nexin)-6(SNX6)、LINGO-1、Nogo-A、Nogo受容体1(NgR-1)、またはα-シヌクレインをサイレンシングする、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
前記siRNA分子が哺乳動物の上皮増殖因子受容体(EGFR)をサイレンシングする、請求項11に記載の化合物。
【請求項14】
前記siRNA分子が配列番号117〜119に示される任意の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項11に記載の化合物。
【請求項15】
前記siRNA分子が配列番号117〜119に示される任意の配列を有するヌクレオチド配列を含む、請求項11に記載の化合物。
【請求項16】
前記核酸が、低分子ヘアピンRNA分子(shRNA)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項17】
前記shRNA分子が、哺乳動物の上皮増殖因子受容体(EGFR)、血管内皮増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-beta)、Her2/neu(ErbB)、VEGF受容体(VEGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、焦点接着キナーゼ、サイクリン依存性キナーゼ、srcキナーゼ、syk-ZAP70キナーゼ、btkキナーゼ、rafキナーゼ、mapキナーゼ、wntキナーゼ、ras GTPase、c-myc、エストロゲン、エストロゲン受容体、スルビビン(survivin)、Bcl-2、Bcl-xL、またはmdm2をサイレンシングする、請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
前記shRNA分子が哺乳動物の上皮増殖因子受容体(EGFR)をサイレンシングする、請求項16に記載の化合物。
【請求項19】
前記shRNA分子が配列番号117〜119に示される任意の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項16に記載の化合物。
【請求項20】
前記shRNA分子が配列番号117〜119に示される任意の配列を有するヌクレオチド配列を含む、請求項16に記載の化合物。
【請求項21】
前記核酸が、二本鎖RNA分子(dsRNA)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項22】
前記dsRNA分子が、哺乳動物の上皮増殖因子受容体(EGFR)、血管内皮増殖因子(VEGF)、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD-1)、ハンチンチン(Htt)、α-セクレターゼ、β-セクレターゼ(BACE)、γ-セクレターゼ、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、ソーティングネキシン-6(SNX6)、LINGO-1、Nogo-A、Nogo受容体1(NgR-1)、またはα-シヌクレインをサイレンシングする、請求項21に記載の化合物。
【請求項23】
前記dsRNA分子が哺乳動物の上皮増殖因子受容体(EGFR)をサイレンシングする、請求項21に記載の化合物。
【請求項24】
前記dsRNA分子が配列番号117〜119に示される任意の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項21に記載の化合物。
【請求項25】
前記dsRNA分子が配列番号117〜119に示される任意の配列を有するヌクレオチド配列を含む、請求項21に記載の化合物。
【請求項26】
前記核酸が、マイクロRNA分子(miRNA)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項27】
前記miRNA分子が、哺乳動物の上皮増殖因子受容体(EGFR)、血管内皮増殖因子(VEGF)、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD-1)、ハンチンチン(Htt)、α-セクレターゼ、β-セクレターゼ(BACE)、γ-セクレターゼ、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、ソーティングネキシン-6(SNX6)、LINGO-1、Nogo-A、Nogo受容体1(NgR-1)、またはα-シヌクレインをサイレンシングする、請求項26に記載の化合物。
【請求項28】
前記miRNA分子が哺乳動物の上皮増殖因子受容体(EGFR)をサイレンシングする、請求項26に記載の化合物。
【請求項29】
前記miRNA分子が配列番号117〜119に示される任意の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項26に記載の化合物。
【請求項30】
前記miRNA分子が配列番号117〜119に示される任意の配列を有するヌクレオチド配列を含む、請求項26に記載の化合物。
【請求項31】
前記化合物が精製されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項32】
前記ポリペプチドが遺伝子組換え技術によって産生される、請求項1に記載の化合物。
【請求項33】
前記ポリペプチドが化学合成によって産生される、請求項1に記載の化合物。
【請求項34】
請求項1に記載の化合物および製薬上許容される担体を含有する組成物。
【請求項35】
前記ポリペプチドが更に薬剤とコンジュゲートされている、請求項1に記載の化合物を含有する組成物。
【請求項36】
前記薬剤が、アルキル化剤、抗生物質、抗腫瘍薬、代謝拮抗薬、抗増殖剤、チューブリン阻害剤、トポイソメラーゼIもしくはII阻害剤、増殖因子、ホルモン作動薬もしくは拮抗薬、アポトーシス剤、免疫調節薬、または放射性医薬品である、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
前記薬剤が、ドキソルビシン、メトトレキサート、カンプトテシン、ホモカンプトテシン、チオコルヒチン、コルヒチン、コンブレタスタチン、ビンブラスチン、エトポシド、シクロホスファミド、タキソテール、メルファラン、クロラムブシル、コンブレタスチン(combretastin)A-4、ポドフィロトキシン、リゾキシン、リゾキシン-d、ドリスタチン、タキソール、パクリタキセル、CC1065、アンサミトシンp3、メイタンシノイド、およびそれらの任意の組合せからなる群より選択される治療薬である、請求項35に記載の組成物。
【請求項38】
前記薬剤がパクリタキセルである、請求項35に記載の組成物。
【請求項39】
前記薬剤が抗体または抗体断片である、請求項35に記載の組成物。
【請求項40】
神経変性疾患を有する被験体を治療する方法であって、該被験体に請求項1に記載の化合物を治療的有効量で提供することを含む、該方法。
【請求項41】
前記神経変性疾患が、多発性硬化症、統合失調症、てんかん、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、または脳卒中である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
リソソーム蓄積症を有する哺乳動物を治療する方法であって、該哺乳動物に請求項1に記載の化合物を治療的有効量で提供することを含む、該方法。
【請求項43】
前記リソソーム蓄積症が、ムコ多糖症(MPS-I;すなわち、ハーラー症候群、シャイエ症候群)、MPS-II(ハンター症候群)、MPS-IIIA (サンフィリポ症候群A型)、MPS-IIIB (サンフィリポ症候群B型)、MPS-IIIC(サンフィリポ症候群C型)、MPS-IIID(サンフィリポ症候群D型)、MPS-VII(スライ症候群)、ゴーシェ病、ニーマン・ピック病、ファブリー病、ファーバー病、ウォルマン病、テイ・サックス病、サンドホフ病、異染性白質ジストロフィー、またはクラッベ病である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
癌を有する哺乳動物を治療する方法であって、該哺乳動物に請求項1に記載の化合物を治療的有効量で提供することを含む、該方法。
【請求項45】
前記癌が脳または中枢神経系(CNS)内にある、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記癌が、脳腫瘍、脳腫瘍転移、または脳に転移した腫瘍である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記癌が神経膠腫または膠芽細胞腫である、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記癌が肝細胞癌である、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記癌が肺癌である、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
配列番号1〜105および107〜112に示される任意の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを核酸とコンジュゲーションさせることを含む、請求項1に記載の化合物を合成する方法。
【請求項51】
前記コンジュゲーションが共有結合を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記共有結合がジスルフィド結合である、請求項51に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公表番号】特表2011−505846(P2011−505846A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538304(P2010−538304)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/CA2008/002269
【国際公開番号】WO2009/079790
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(509110839)アンジオケム,インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】