説明

ポリ乳酸の分解方法、及びポリ乳酸を含む有機物の処理方法

【課題】ポリ乳酸を含む有機物から、簡便且つ効率的に高純度の乳酸に分解する方法を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸を含む有機物1を、特定のアミン化合物を含むガス5雰囲気で処理することによって、ポリ乳酸から高純度の乳酸に分解する。処理対象となる有機物に含まれるポリ乳酸とは、ポリマーの主要な構成単位として乳酸を有するポリマーである。また、アミン化合物を含むガス5雰囲気とは、アミン化合物が気化して気体として存在している雰囲気を意味し、上記有機物を該雰囲気中に晒すことによって処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸から簡便且つ効率的に高純度の乳酸を得ることができる、ポリ乳酸の分解方法に関する。更に、本発明は、当該分解方法を利用した、ポリ乳酸を含む有機物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は生分解性を有し、次世代のプラスチックとして種々の用途開発が進められている。ポリ乳酸から製造した製品であれば、自然環境下やコンポスト内等に存在する微生物による分解が可能であるので、易分解性の有機物と混合されていても、そのまま生物的処理に供することができるという利点がある。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸は好気性雰囲気では分解され易いが、嫌気性雰囲気では分解され難くなることが分かっている(特許文献1参照)。そのため、嫌気性雰囲気が必須であるメタン発酵に、ポリ乳酸をそのまま供すると、その処理には長期間を要するという欠点がある。
【0004】
そこで、ポリ乳酸をメタン発酵に供する前に、ポリ乳酸をメタン発酵後の排水と混合することによって、約50〜60℃の条件下でポリ乳酸を可溶化させる方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、最終的に生じる乳酸の量が少なく、依然としてポリ乳酸を効率的に可溶化できないため、ポリ乳酸の処理効率を向上できず、ひいては効率的なエネルギー回収が図れないという問題点がある。
【0005】
また、ポリ乳酸を処理した後に乳酸を回収できれば、ポリ乳酸の製造原料を提供することにより資源のリサイクルが可能になり、地球環境保全や省エネルギー化にも寄与することになる。そのため、ポリ乳酸から乳酸を回収する技術を確立することも産業界で強く望まれている。
【0006】
しかしながら、前述するポリ乳酸の可溶化方法では、ポリ乳酸が低分子化されるものの、その一部は、乳酸にまで分解されずに、依然としてポリマー又はオリゴマーとして残存するので、乳酸を高い回収効率で得ることはできないという問題点がある。
【0007】
このような従来技術を背景として、ポリ乳酸を効率的に分解して乳酸を得る技術、及びポリ乳酸の分解処理によって効率的なエネルギー回収を行う技術の開発が切望されている。
【特許文献1】特開2005−206735号公報
【特許文献2】特開2005−232336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリ乳酸を含む有機物から、簡便且つ効率的に、純度の高い乳酸に分解する方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、当該乳酸の分解方法を利用して、ポリ乳酸を含む有機物を効率的に処理する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、驚くべきことに、ポリ乳酸を含む有機物を、特定のアミン化合物を含むガス雰囲気で処理することによって、ポリ乳酸を乳酸に効率的に分解でき、高い収率で高純度の乳酸を回収できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げるポリ乳酸の分解方法、及びポリ乳酸を含む有機物の処理方法を提供する。
項1. ポリ乳酸を含む有機物を、一般式(I)で表される化合物を含むガス雰囲気で処理する工程を含む、ポリ乳酸の分解方法。
【0011】
【化1】

【0012】
[式(I)中、R、R及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。]
項2. 一般式(I)において、R、R及びR3は、同一又は異なって、水素原子、メチル基又はエチル基である、項1に記載の分解方法。
項3. 40℃以上の温度条件下で、一般式(I)で表される化合物のガス雰囲気で前記有機物の処理を行う、項1又は2に記載の分解方法。
項4. 下記工程(a)及び(b)を含む、ポリ乳酸を含む有機物の処理方法:
(a)ポリ乳酸を含む有機物を、一般式(I)で表される化合物を含むガス雰囲気で処理することにより、ポリ乳酸を分解する工程、及び
【0013】
【化2】

【0014】
[式(I)中、R、R及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。]
(b)工程(a)で得られた分解物をメタン発酵する工程。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリ乳酸の分解方法によれば、ポリ乳酸を含む有機物を特定のアミン化合物を含むガス雰囲気中で処理することによって、ポリ乳酸から高い収率で乳酸を得ることができる。とりわけ、本発明のポリ乳酸の分解方法により得られる液状の分解物は、乳酸のオリゴマーや、上記アミン化合物によってアミド化された乳酸が殆ど混在しておらず、高い純度の乳酸が含まれているため、ポリ乳酸の製造原料としてのリサイクルに有用である。更に、本発明の分解方法によれば、ポリ乳酸に金属(レアメタル等)や本発明の方法で分解されない固形物が結合した機械部品や電子部品に対して処理することにより、ポリ乳酸を分解して液状にした後、それら金属等を固形物として容易に回収することが可能になる。
【0016】
また、本発明のポリ乳酸の分解方法によれば、ポリ乳酸を効率的に生物学的処理(特にメタン発酵処理)に適した乳酸に変換できるので、ポリ乳酸の生物学的処理の前処理として有用である。特に、ポリ乳酸から製造されたごみ袋に有機性廃棄物が収容されている場合等、本発明の方法により分解・生成した乳酸のみを分離回収することが困難な処理対象物に対しては、本発明の方法により得られた分解物をメタン発酵処理に供することによって、最終的にポリ乳酸を含む有機物からメタンガスに高効率で変換できるので、ポリ乳酸からバイオガスとして回収されるエネルギー量を、従来のメタン発酵処理技術に比べて飛躍的に増大させることも可能になる。
【0017】
更に、ポリ乳酸を含む農業用マルチフィルム等を、使用後土壌中で分解・コンポスト化させる場合には、予め本発明の方法で完全もしくは部分的にポリ乳酸を分解した後に、土壌中で処理することにより、土壌中での分解・コンポスト化速度を格段に促進させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.ポリ乳酸の分解
本発明の分解方法では、ポリ乳酸を含む有機物が処理対象となる。
【0019】
本発明において処理対象となる有機物に含まれるポリ乳酸とは、ポリマーの主要な構成単位として乳酸を有するポリマーである。本発明において、ポリ乳酸の種類については、特に制限されないが、例えば、ポリL-乳酸やポリD-乳酸等の乳酸ホモポリマー;L-乳酸及びD-乳酸の少なくとも1種と、アラニン、グリコール酸、グリコリド、グリシン、ε−カプロラクトン、グルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、糖類、多価アルコールの少なくとも1種との乳酸コポリマー;ポリD,L-乳酸等が例示される。
【0020】
本発明において、処理対象となる有機物には、上記ポリ乳酸1種を単独で含んでいてもよく、また上記ポリ乳酸の中の2種以上を組合せて含んでいてもよい。
【0021】
更に、処理対象となる有機物に含まれるポリ乳酸は、ポリ乳酸以外の成分も含有している樹脂組成物であってもよい。ポリ乳酸及び他の成分を含有する樹脂組成物を使用する場合、該樹脂組成物中のポリ乳酸の配合割合については、特に制限されないが、例えば、該樹脂組成物の総量当たり、ポリ乳酸が5〜99重量%、好ましくは20〜99重量%、更に好ましくは50〜99重量%が挙げられる。また、ポリ乳酸と他の樹脂組成物を効率よく混合するための添加剤、若しくはポリ乳酸そのもの及び他の樹脂組成物との混合品の物性を改良するための添加剤が含まれていてもよい。その割合についても特に制限されないが、例えば、該樹脂組成物の総量当たり、添加剤が10%以下程度であることが望ましい。
【0022】
本発明において処理対象となるポリ乳酸の形態については、特に制限されない。例えば、粉末、フィルム、不織布、シート、板体、発泡体、射出成型体等の各種形状のポリ乳酸を対象にすることができる。なお、本発明の方法を実施するに際して、フィルム、不織布、シート、板体、発泡体、射出成型体等形態のポリ乳酸については、粉末状又は小片形状にするために、粉砕や裁断等の前処理に供しておいても良い。
【0023】
本発明において、処理対象となる有機物は、ポリ乳酸のみからなるものであってもよく、またポリ乳酸と他の有機物との混合物であってもよい。後者の場合、処理対象となる有機物の具体例として、例えば、厨芥、生ゴミ、生ゴミの乾燥物、食品工場廃棄物、下水汚泥、畜産廃棄物(家畜のし尿と、わら、おがくず等との混合物)等の有機物と、ポリ乳酸との混合物が挙げられる。特に、本発明における処理対象として、生ごみとポリ乳酸を含む有機物は好適である。本発明によれば、生ごみを、ポリ乳酸から製造されたゴミ袋に収容して回収して、生ごみと当該ゴミ袋を分離することなく、そのまま分解方法に供することができるという利点がある。
【0024】
また、本発明において、ポリ乳酸と他の有機物との混合物を処理対象とする場合には、ポリ乳酸の分解と共に、他の有機物も生物学的処理が容易になる程度に分解されるため、これらの処理に要するトータルコストを低減させることもできる。
【0025】
本発明では、上記有機物の処理が、下記一般式(I)で表される化合物(以下、単に「アミン化合物」と表記することもある)を含むガス雰囲気で行う。
【0026】
【化3】

【0027】
一般式(I)において、R、R及びR3は、同一又は異なって、水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。炭素数1〜5のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基が例示される。これらの中でも、ポリ乳酸から乳酸への分解効率を一層高めるという観点から、好ましくは、R、R及びR3は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基であり;更に好ましくは、R、R及びR3は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、又はエチル基である。ポリ乳酸から乳酸への分解効率を高めるという観点から、上記アミン化合物の好適な具体例として、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、及びトリメチルアミンが例示される。これらのアミン化合物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み併せて使用してもよい。
【0028】
本発明において、アミン化合物を含むガス雰囲気とは、アミン化合物が気化して気体として存在している雰囲気を意味し、アミン化合物のガス雰囲気での上記有機物の処理は、アミン化合物が気化されている雰囲気に、上記有機物を晒すことにより実施される。
【0029】
上記アミン化合物のガス雰囲気におけるアミン化合物のガス濃度については、処理対象となる有機物の量、アミン化合物の種類、処理時間等に応じて適宜設定すればよいが、常圧下で、通常0.1〜100容量%、好ましくは1〜100容量%、更に好ましくは10〜100容量%が挙げられる。
このようなアミン化合物のガス濃度であれば、ポリ乳酸の分解速度を高め、効率的な分解が可能になる。
【0030】
また、本発明の分解方法において、上記ポリ乳酸を含む有機物に対して適用されるアミン化合物の比率には、上記アミン化合物の濃度と処理対象となるポリ乳酸を含む有機物の量に基づいて定まるが、効率的なポリ乳酸の分解を可能ならしめるために、例えば有機物に含まれるポリ乳酸1重量部当たり、アミン化合物のガス重量が0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、更に好ましくは1〜10重郎部となる比率を充足することが望ましい。
【0031】
また、本発明の分解方法では、ポリ乳酸が加水分解されて乳酸に変換されるため、水が共存していることが必要とされる。本発明において、ポリ乳酸の分解は、アミン化合物のガスとの接触によって行われるため、加水分解に使用される水は、水蒸気の状態で存在していることが望ましい。本発明において、加水分解に使用される水は、アミン化合物のガス雰囲気に水蒸気として供給してもよいが、アミン化合物のガス雰囲気内に液状の水を存在させておき、該雰囲気内で液状の水が蒸散されるようにしていてもよい。このように液状の水が存在していれば、ガス雰囲気の水蒸気がポリ乳酸の加水分解に利用されても、ガス雰囲気に液状の水が蒸散することにより、ガス雰囲気に加水分解で利用される水を水蒸気として供給することが可能になる。なお、アミン化合物のガス雰囲気内に液状の水を存在させる場合には、処理対象の有機物が液状の水によってアミン化合物のガスとの接触を妨げられないように調整しておくことが望ましい。具体的には、(i)アミン化合物のガス雰囲気内で液状の水と有機物と異なる区画に収容してこれらが直接接触しないようにする;(ii)アミン化合物のガス雰囲気内で、有機物の少なくとも一部がアミン化合物のガス雰囲気に露出するように、有機物と液状の水が混合された状態にする;或いは(iii)反応温度を高くして水蒸気圧を高くする等の態様で液状の水を存在させる方法が例示される。
【0032】
アミン化合物を含むガス雰囲気に過剰に水を加えると、ポリ乳酸と水との接触効率が向上し、ポリ乳酸の分解速度は上昇するが、余剰分の水に分解・生成した乳酸が溶け込むため、得られる分解物の乳酸濃度が低下することになる。
【0033】
一方、アミン化合物のR、R及びR3のいずれか少なくとも1つは水素原子である場合には、該アミン化合物がポリ乳酸の末端カルボキシル基と縮合反応によりアミド化されて水を生じさせるので、この水を利用してポリ乳酸の分解を行うことができ、水を供給しなくてもポリ乳酸と水とを共存させることは可能である。但し、アミン化合物を含むガス雰囲気に水を供給した方が、アミド化合物の副生がなく、より純度の高い乳酸に分解することができるので、好ましい。
【0034】
アミン化合物を含むガス雰囲気に供給する水の量は、目的とする分解物の乳酸の純度、ポリ乳酸の分解速度等を勘案した上で、ポリ乳酸の加水分解に必要とされる量以上であることが望ましく、例えば、処理対象の有機物に含まれるポリ乳酸100重量部当たり、水が0〜1000重量部、好ましくは25〜1000重量部、更に好ましくは100〜1000重量部となる量が例示される。
【0035】
上記ポリ乳酸を含む有機物に対して、アミン化合物を含む雰囲気で処理する際の温度条件としては、アミン化合物をガス状で維持し得る限り特に制限されないが、通常40℃以上、好ましくは50〜220℃、更に好ましくは60〜100℃が挙げられる。なお、本発明の分解方法により分解された有機物を更にメタン発酵に供する場合には、当該アミン化合物の雰囲気における温度の維持には、重油等を利用するよりも、メタン発酵で発生するメタンガスを用いて熱と電力を得るコジェネレーション手段(ガスエンジン、燃料電池等)を利用し、当該雰囲気の温度維持に使用することが望ましい。
【0036】
また、アミン化合物のガス雰囲気での処理時間は、使用するアミン化合物の種類やガス濃度、処理対象のポリ乳酸の種類や量によって異なり一律に規定することはできないが、通常0.1〜48時間、好ましくは1〜12時間、更に好ましくは1〜2時間が例示される。
【0037】
本発明の分解方法において、アミン化合物を含む雰囲気は、公知の手段で作製される。具体的には、密閉可能な槽内にポリ乳酸を含む有機物を入れた状態でアンモニアガスを充填する方法;気体の流入及び流出が可能な槽内にポリ乳酸を含む有機物を入れた状態でアンモニアガスの流入と流出を持続的又は断続的に行う方法等が例示される。
【0038】
本発明の分解方法において、水を供給した状態で処理する場合、アミン化合物は触媒として作用し、それ自体化学変化を受けないので、処理後に槽内からアミン化合物のガスを回収することにより、再利用することもできる。
【0039】
斯くして処理することにより、分解されたポリ乳酸は乳酸となって液状を呈するので、処理後に生じた液体を回収することにより、乳酸を含む分解物が得られる。また、必要以上の水を添加しないよう添加する水の量を調整すれば、分解物は100%乳酸溶液となり、該乳酸溶液にはアミン化合物のガスが溶解しないため、乳酸溶液から溶解したアミン化合物を回収する工程を省略することができる。一方、分解速度を向上させるために水を過剰に加える場合は、得られる分解物はアミン化合物が溶解した乳酸水溶液となる。この乳酸水溶液にアルカリを添加する、又は加熱することによりアミン化合物を回収することができる。また、得られた乳酸水溶液をポリ乳酸合成のための原料とするために、乳酸水溶液にアミン化合物が含まれていてもよい場合、或いは乳酸水溶液にアミン化合物が含まれているほうが望ましい場合には、アミン化合物が溶解した乳酸水溶液をそのまま利用することもできる。
【0040】
斯くして処理することにより、ポリ乳酸が効率的に分解されて、乳酸に変換される。処理後に液体として回収される分解物において、ポリ乳酸の分解産物としては、乳酸のオリゴマーや低分子化されたポリ乳酸は殆ど含まれておらず、乳酸が高純度で含まれている。また、従来、アミン化合物を用いてポリ乳酸をアルカリ分解すると、乳酸以外に乳酸アミドが副生することが分かっているが、本発明によれば、このような乳酸アミドを生じることなく、乳酸を得ることができ、乳酸の回収効率が極めて高くなる。
【0041】
斯くして得られた分解物に含まれる乳酸は、ポリ乳酸の合成原料としてリサイクルすることもできる。特に、処理対象となる有機物におけるポリ乳酸の含有割合が高い場合には、回収される分解物は、乳酸の純度が高く、他の化合物の濃度が低いため、必要に応じて乳酸を精製して、ポリ乳酸の合成原料として好適に使用される。
【0042】
また、斯くして得られた乳酸は生物的に分解されやすい物質であるため、メタン発酵処理や活性汚泥処理等の生物学的処理に供してもよい。特に、処理対象となる有機物において、ポリ乳酸以外の有機物も比較的多く含まれている場合には、回収される分解物は、乳酸と共に他の有機物の分解物も混在するので、生物学的処理に供して更に分解することが望ましいこともある。
【0043】
本発明の分解方法は、前述するように、ポリ乳酸を純度の高い乳酸に変換することができるので、乳酸の製造方法として実施することもできる。
【0044】
本発明の分解方法は、上記処理条件を調節・保持できる槽(以下、分解槽と表記することもある)を備える装置で行うことができる。以下、本発明の分解方法を行うための装置の一態様について、図1を例に挙げて説明する。ポリ乳酸を含む有機物1をアミン化合物を含むガス雰囲気で処理するための分解槽10と、ポリ乳酸を含む有機物1を該分解槽10内に供給するための有機物供給手段と、アミン化合物のガス5を該分解槽内に供給するためのアミン化合物のガス供給手段(図1中では省略)とを備えるものが例示される。図1中、有機物供給手段には、有機物1を搬送するための搬送部2と、有機物1を分解槽内に投入するための投入部3を備えている。また、投入部3と分解槽10との間には、着脱可能なガスバリア部4が設けられていることにより、ガスバリア部4の非装着時に有機物の投入が可能になり、ガスバリア部4の装着時に分解槽内を密閉することが可能になっている。上記分解槽10は、処理中に槽内を密閉できるように構成されていることが望ましい。また、前述するように、分解されたポリ乳酸の分解物は液状を呈するので、分解物を容易に回収するために、分解槽10の底部に固液分離フィルター6を設け、液状の分解物7が分解槽外に乳酸排出口9から排出できるように構成されていてもよい。また、図1に示すように、乳酸排出口9を、分解槽10の底部よりも上部且つ分解槽10の上面よりも下部に設置することにより、分解槽10内で液状の分解物7が、該乳酸排出口9と同じ高さまで蓄積し、アミン化合物を含むガス5に対してバリア機能を発揮するので、分解槽内のアミン化合物を含むガス5を底部から乳酸排出口9を介して流出させることを防止することもできる。また、図1に示すように、固液分離フィルター6と乳酸排出口9との間に、分解物7中に含まれる固形状の夾雑物を除去するための夾雑物除去手段11を設けておいてもよい。夾雑物除去手段11によって除去された夾雑物は、夾雑物排出口8から排出され、夾雑物除去手段11によって夾雑物が除去された乳酸は乳酸排出口9から排出される。
【0045】
以下、本発明の分解方法により得られた分解物を生物学的処理する方法として、メタン発酵処理する方法を具体例として挙げて、ポリ乳酸を含む有機物を処理する方法を説明する。
【0046】
2.メタン発酵処理
上記の分解方法により得られた分解物をメタン発酵処理するには、従来公知のメタン発酵菌及びメタン発酵槽を用いて、従来公知の条件でメタン発酵を実施すればよい。当該メタン発酵処理において、本発明の分解方法により得られた分解物がメタンと二酸化炭素に分解される。
【0047】
当該メタン発酵処理のメタン発酵時の温度条件は、用いるメタン発酵菌の種類に応じて広い温度範囲から適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、一般には20〜60℃程度、例えば、35℃程度のいわゆる中温でも、55℃程度のいわゆる高温でもよい。上記の分解方法により得られた分解物に含まれる窒素含量が少ない場合は、メタン発酵がアンモニア阻害を受けにくい35℃程度の中温の方が好ましい。一方、上記の分解方法により得られた分解物に含まれる窒素含量が多い場合は、メタン発酵速度を高めるという点から、55℃程度の高温の方が好ましい。
【0048】
当該メタン発酵処理におけるメタン発酵処理時間としては、上記分解方法により得られた分解物の種類や量、使用するメタン発酵菌の種類、発酵温度、発酵形態等によって異なり、一律に規定することはできないが、通常14〜30日、好ましくは10〜20日、更に好ましくは10〜14日を挙げることができる。
【0049】
当該メタン発酵処理において、メタン発酵の形式は特に制限されない。回分式、固定床式、UASB(Upflow Anaerobic Sludge Bed、上向流嫌気性汚泥床)式等のメタン発酵において利用されている公知のいずれの形式であってもよい。また、上記の分解方法により得られた分解物の供給と、メタン発酵槽内のメタン発酵処理物の抜き取りとを、連続的に又は断続的に行うことにより実施してもよい。上記分解物の供給と上記メタン発酵処理物の抜き取りを連続的又は断続的に行う場合、その分解物の供給速度及びメタン発酵処理物の抜き取り速度は、該分解物のメタン発酵槽内平均滞留時間が上記発酵処理時間となるように適宜設定すればよい。
【0050】
当該メタン発酵処理で得られたメタン発酵処理物は、そのまま、或いは固液分離をした後の液体分を、活性汚泥処理等の水処理に供してもよい。固液分離の方法は、特に限定されるものではなく、例えば沈殿分離、膜分離、遠心分離などの公知の方法を採用することができる。固液分離は、全てのメタン発酵処理物について行ってもよく、その一部について行ってもよい。
【0051】
また、メタン発酵処理物を固液分離した固形分含有画分(汚泥)は、一部又は全部を、メタン発酵槽に返送し、再度、メタン発酵処理に供することもできる。この操作により、固形分が更に徹底的に分解されるので、廃棄固形分量が更に低減でき、メタンガス発生量も増大するというメリットが得られると共に、メタン細菌が系内に返送されるので、メタン発酵の安定度が向上するというメリットも得られる。但し、返送比を大とすると、メタン発酵槽内の固形分濃度が上昇するため、メタン発酵槽内の攪拌やポンプ輸送の面では不利となる面もあるので、これらを総合的に判断した上で、返送量を決めるとよい。
【0052】
当該メタン発酵処理において、メタン発酵槽には、メタン発酵の進行に従って固形分が蓄積するので、通常、該固形分は汚泥として適宜引き抜かれる。引き抜かれた汚泥は、種々の方法で処理される。例えば、そのまま、液肥として農地還元する、脱水後コンポスト化して農地還元をする、脱水して廃棄する、脱水後焼却する、脱水及び乾燥後に廃棄する、脱水及び乾燥後に焼却する等の処理が行われる。また、乾燥には低温廃熱を有効利用することができ、メタンガスをガスエンジンやマイクロガスタービン、ボイラー等で利用する場合、その廃熱を利用して乾燥することが可能である。なお、脱水ろ液はその水質と排水基準によりそのまま放流できる場合もあり、そうでない場合は再度水処理に供すればよい。メタン発酵処理は嫌気性雰囲気で行われるので、水処理が活性汚泥処理などの好気性雰囲気で行われる処理である場合、メタン発酵で分解されなかったポリ乳酸やその分解物等であっても、活性汚泥処理などの水処理で分解できる場合がある。この場合、廃棄すべき汚泥の量が減少するので好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例等を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1 アンモニアガスによるポリ乳酸の分解処理
2.5mLの密閉容器に、1gのポリ乳酸(Nature Works社製ポリ乳酸をシート状に成型したもの)と、0.25gの水を入れ、これにアンモニアガス(アンモニア 0.1ミリモル;100容量%)、を充填し、70℃で10時間静置した(なお、密閉容器内の気圧は、常圧である)。その後、容器内には、ポリ乳酸が残存しておらず、全て液状の分解物1.25gに変換されていた。また、本分解処理における乳酸の生成速度(分解処理開始から10時間後までの乳酸生成速度)は、13,888μg/秒-Lであった。なお、乳酸の生成速度は、下記式に従って算出した。
【0055】
【数1】

【0056】
また、得られた液状の分解物の組成を、ダイオネクス社製DX-300を用いてイオンクロマトグラフ法で分析したところ、乳酸の単一ピークが得られ、その濃度は2.38mg/Lであった(図2参照)。乳酸の比重は1.2であるので、得られた液状の分解物は略100重量%が乳酸であり、水は1重量%以下しか含まれていないことが明らかである。また、液状分解物には、乳酸のアミド化物の存在も認められなかった。
【0057】
以上の結果から、アンモニアガスによって、ポリ乳酸が乳酸に加水分解されることが明らかとなった。また、得られた液状分解物は、ほぼ純度が100%の乳酸であったことから、アンモニアガスを用いた加水分解では、乳酸のオリゴマーや乳酸のアミド化合物等は副生されないことも確認された。また、本条件では、得られた液状分解物に水が殆ど残存していなかったことから、処理開始時に投入した水のほぼ全てが、ポリ乳酸の加水分解に使用されたと考えられる。
【0058】
実施例2 各種アミン化合物ガスによるポリ乳酸の分解処理
アンモニアガスの代わりに同量の他のアミン化合物(表1に示す)を使用すること、及び処理時間を6時間とすること以外は、上記実施例1と同条件でポリ乳酸の分解処理を行った。本分解処理における乳酸の生成速度(分解処理開始から6時間後までの乳酸生成速度)を上記実施例1と同様に算出した結果を表1に示す。
【0059】
更に、処理時間を10時間まで延長してポリ乳酸の分解処理を継続したところ、実施例1と同様に、容器内には、ポリ乳酸が残存しておらず、全て液状の分解物1.25gに変換されていた。
【0060】
また、本分解処理において得られた液状の分解物を分析したところ、ほぼ100重量%が乳酸であり、水は1重量%以下、乳酸のアミド化物は含まれていなかった。
【0061】
【表1】

【0062】
以上の結果から、他のアミン化合物のガスでも、アンモニアガスと同様に、ポリ乳酸から乳酸への分解が可能であり、アルキルアミンがポリ乳酸から高純度の乳酸への変換を可能にすることが示された。
【0063】
比較例1 アンモニア水によるポリ乳酸のアルカリ分解処理
<比較例:アルカリ加水分解>
ポリ乳酸10gを水10mlに添加し、25容量%アンモニア水溶液でpHを初期設定値として8.5、9.5、又は10.5に調整して70℃で分解処理を開始した。ポリ乳酸の分解と共に乳酸が生成され、反応液のpHが低下するため、pHが常に初期設定値に保たれるように25容量%アンモニア水溶液を適宜添加した。また、分解処理中は、経時的に生成した乳酸濃度を測定した。
【0064】
各条件で反応液中の乳酸の濃度が0、1、5、及び10g/lに到達した際に、添加したアンモニアの累積量を表2に示す。
【0065】
各条件で反応液中の乳酸の濃度が0g/lから5g/lになる間では、乳酸濃度の増加に対する添加したアンモニアの累積量の増加の比率がほぼ一定であった。つまり、乳酸の濃度が0g/lから5g/lの間では、乳酸濃度と添加したアンモニアの累積量には比例関係が認められている。これは生成した乳酸によるpHの低下抑制にアンモニアが使用されたためであると考えられる。
【0066】
一方、各条件で反応液中の乳酸の濃度が5g/lから10g/lになる間では、乳酸濃度の増加に対する添加したアンモニアの累積量の増加の比率が明らかに向上している。これは、乳酸の濃度が5g/lから10g/lになる間では、生成した乳酸がアミド化され、そのアミド化物の基質としても、アンモニアが利用されたことを示している。
【0067】
【表2】

【0068】
また、上記各条件での乳酸の生成速度は、それぞれ、1.2μg/秒-L(pHの初期設定値8.5)、15μg/秒-L(pHの初期設定値9.5)、109μg/秒-L(pHの初期設定値10.5)であり、上記実施例1の場合に比して格段に低かった。なお、乳酸の生成速度は、下記式に従って算出した。
【0069】
【数2】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の分解方法を行うための装置の構成の一例を示す図である。
【図2】実施例1において得られた液状の分解物を分析した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 ポリ乳酸を含む有機物
2 搬送部
3 投入部
4 ガスバリア部
5 アミン化合物を含むガス
6 固液分離フィルター
7 液状の分解物
8 夾雑物排出口
9 乳酸排出口
10 分解槽
11 夾雑物除去手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸を含む有機物を、一般式(I)で表される化合物を含むガス雰囲気で処理する工程を含む、ポリ乳酸の分解方法。
【化1】

[式(I)中、R、R及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。]
【請求項2】
一般式(I)において、R、R及びR3は、同一又は異なって、水素原子、メチル基又はエチル基である、請求項1に記載の分解方法。
【請求項3】
40℃以上の温度条件下で、一般式(I)で表される化合物を含むガス雰囲気で前記有機物の処理を行う、請求項1又は2に記載の分解方法。
【請求項4】
下記工程(a)及び(b)を含む、ポリ乳酸を含む有機物の処理方法:
(a)ポリ乳酸を含む有機物を、一般式(I)で表される化合物を含むガス雰囲気で処理することにより、ポリ乳酸を分解する工程、及び
【化2】

[式(I)中、R、R及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。]
(b)工程(a)で得られた分解物をメタン発酵する工程。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−144097(P2010−144097A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324575(P2008−324575)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】