説明

ポリ乳酸含有樹脂組成物、ポリ乳酸含有樹脂フィルム及びそれらの製造方法

【課題】ポリ乳酸のような環境負荷の低い樹脂をベースとした剥離性シートを提供する。
【解決手段】ポリ乳酸(A)と、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及びシリコーン(ii)から構成される、重量平均分子量が約25,000以上の(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)とを含み、当該組成物を厚さ30μmのフィルムに成膜し、JIS K 7136に従って測定したときのヘーズ値が約10%以下である、ポリ乳酸含有樹脂組成物、並びに当該組成物から作られるポリ乳酸含有樹脂フィルム及びポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルムが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を主成分として含有する樹脂組成物、及びこの組成物より作製されたポリ乳酸含有樹脂フィルム、特にポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
剥離性シートは、その基材の種類から大別すると、ポリエステルやポリオレフィンなどの石油由来の合成高分子フィルムを利用したものと、グラシン紙、クレーコート紙などの種々の紙基材を利用したものとに分類される。剥離性シートは粘着剤面やその他の材料表面の保護を目的として使用され、使用後に不要となった剥離性シートは通常廃棄される。しかし、近年の環境意識の高まりの中で、石油由来の合成高分子フィルムは環境に高い負荷を与えるものであるとみなされる場合がある。一方、紙基材は、所定の処理を施せば古紙としてリサイクル可能であるが、透明性、平滑性、防塵性などの観点から、合成高分子フィルムを基材とした剥離性シートより劣っている点も多い。
【0003】
一方、バイオマス由来の樹脂の1つとして、ポリ乳酸(PLA)が近年注目されている。ポリ乳酸は、トウモロコシやサトウキビなどの植物を原料としているため再生可能資源であると同時に、樹脂製造時のエネルギー使用量や、ポリ乳酸樹脂の焼却時に発生する単位重量あたりの炭酸ガス量が少ないことから、環境対応型の樹脂であると考えられている。
【0004】
しかし、ポリ乳酸フィルムなどの脂肪族ポリエステル系フィルムは、汎用の芳香族系ポリエステルフィルムと比較すると耐熱性に乏しい。そのため、ポリ乳酸ベースのフィルムに対して、一般的なシリコーン処理ポリエステルフィルムのように、反応性シリコーンを塗布して、熱キュアー(通常、140〜160℃)することは困難である。例えば特開2000−280429号明細書に記載されているように、比較的低温硬化型の反応性シリコーンを使用した場合でもキュアーに100℃程度は必要であり、ポリ乳酸フィルムの変形は避けられない。また、反応時間を短くすることによりポリ乳酸フィルムへの熱ダメージを減らすことも考えられるが、この場合、高価な触媒を大量に使用する必要があり、経済的でない。また、低温及び/又は短時間でキュアーを行うとシリコーン成分が未硬化の状態で残存する場合があり、そのようなシリコーン成分は粘着剤面に移行して、粘着剤の残留接着力を損なうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−280429号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ポリ乳酸のような環境負荷の低い樹脂をベースとした剥離性シートが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施態様に係るポリ乳酸含有樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)と、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及びシリコーン(ii)から構成される、重量平均分子量が約25,000以上の(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)とを含み、当該組成物を厚さ30μmのフィルムに成膜し、JIS K 7136に従って測定したときのヘーズ値が約10%以下である。
【0008】
本開示の別の実施態様に係るポリ乳酸含有樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)と、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及びシリコーン(ii)から構成される、重量平均分子量が約25,000以上の(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)とを含み、当該組成物を厚さ30μmのフィルムに成膜し、粘着テープScotch(登録商標)810(住友スリーエム製)を用いJIS Z 0237に従って測定したときの剥離力(粘着力)が、ポリ乳酸(A)単体から成膜されたフィルムについて測定された剥離力(粘着力)の約65%以下である。なお、JIS Z 0237は、粘着テープの「粘着力」を測定することを目的とするが、本願における「剥離力」は、フィルムの剥離性を表すものであって、当該「粘着力」と表裏一体の関係にあり同じ大きさの値を有する。
【0009】
本開示の一実施態様によれば、上記ポリ乳酸含有樹脂組成物の製造方法は、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)を製造する工程と、ポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)とを混合する工程とを含む。
【0010】
本開示の一実施態様によれば、上記ポリ乳酸含有樹脂組成物を含む、ポリ乳酸含有樹脂フィルムが提供される。
【0011】
本開示の別の実施態様によれば、上記ポリ乳酸含有樹脂組成物を含む、ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルムが提供される。
【0012】
本発明の別の実施態様によれば、上記ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルムが第2のポリ乳酸含有樹脂フィルムに積層された、ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルム積層体が提供される。
【0013】
本開示の一実施態様によれば、ポリ乳酸含有樹脂フィルムの製造方法は、ポリ乳酸(A)と、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及びシリコーン(ii)から構成される、重量平均分子量が約25,000以上の(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)とを含む、ポリ乳酸含有樹脂組成物であって、当該組成物を厚さ30μmのフィルムに成膜して測定したときのヘーズ値が約10%以下である、ポリ乳酸含有樹脂組成物を、押出加工によってシート状に成形する工程を含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、ポリ乳酸と(メタ)アクリル−シリコーン共重合体とが、互いに相溶しているか、少なくとも部分的に相溶した、ポリ乳酸含有樹脂組成物が得られる。
【0015】
また、本開示によれば、上記ポリ乳酸含有樹脂組成物を用いて作られる、ポリ乳酸含有樹脂フィルムが得られる。上述したように、ポリ乳酸と(メタ)アクリル−シリコーン共重合体とが、互いに相溶しているか、少なくとも部分的に相溶しているため、このポリ乳酸含有樹脂フィルムは、高い透明性及び/又は(メタ)アクリル−シリコーン共重合体のシリコーン部分に由来する剥離性を有する。また、ポリ乳酸からブリードアウトする共重合体成分はあっても僅かであるか又は全くない。そのため、例えばポリ乳酸含有樹脂フィルムを剥離性シートとして使用した場合、粘着剤面への共重合体成分の移行による粘着特性の低下を抑制又は防止できる。
【0016】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本開示の一実施態様に係る、ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルム積層体の横断面図である。
【図2】共重合体中のアクリル酸メチル(MA)とシリコーン(KF−2001)の組成比、及び組成物中のポリ乳酸(PLA)と共重合体の配合比を変化させたときの、ポリ乳酸含有樹脂フィルムのヘーズ値(%)を示す3次元棒グラフである。
【図3】共重合体中のアクリル酸メチル(MA)とシリコーン(KF−2001)の組成比、及び組成物中のポリ乳酸(PLA)と共重合体の質量比を変化させたときの、ポリ乳酸含有樹脂フィルムの剥離力(N/18mm)を示す3次元棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。なお、本明細書で使用する用語「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」はそれぞれ、アクリル及びメタクリル、アクリレート及びメタクリレート、アクリロイル及びメタクリロイルを包含する。
【0019】
本開示によるポリ乳酸含有樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)と、重量平均分子量が約25,000以上の(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)とを含む。(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及びシリコーン(ii)から構成される。
【0020】
ある実施態様において、この組成物を厚さ30μmのフィルムに成膜し、JIS K 7136に従って測定したヘーズ値は約10%以下である。また、別の実施態様において、この組成物を厚さ30μmのフィルムに成膜し、粘着テープScotch(登録商標)810(住友スリーエム製)を用いJIS Z 0237に従って測定したときの剥離力(粘着力)は、ポリ乳酸(A)単体から成膜されたフィルムについて測定された剥離力(粘着力)の約65%以下である。
【0021】
このポリ乳酸含有樹脂組成物において、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)は、互いに完全もしくはほぼ完全に相溶して相溶系ブレンドを構成していてもよく、あるいは両者が相分離状態にあるが部分的には相溶している部分相溶系ブレンドを構成していてもよい。ここで、「相溶系ブレンド」とは、成分が相溶状態にあって均一な単一相状態の混合系(miscible and monophase system blend)をいい、「部分相溶系ブレンド」とは、成分が混和性を示して部分的に相溶しつつ相分離状態にある混合系(partially miscible and phase separation system blend)をいう。ポリ乳酸含有樹脂組成物が、相溶系ブレンドと部分相溶系ブレンドのいずれの範疇に属するかは、ポリ乳酸含有樹脂組成物のガラス転移点(Tg)の測定結果から判断することができる。すなわち、示差走査熱量計(以下、DSCという)を用いたTg測定において、試験したポリ乳酸含有樹脂組成物において1点のTgが観察された場合、その組成物が相溶状態にあることを確認できる。一方、DSCを用いたTg測定において、2点のTgが観察された場合、その組成物が相分離状態にあることを確認できる。
【0022】
部分相溶系ブレンドについてさらに説明すると、このブレンドは、いわゆる「共連続構造」や「海島構造」などの相分離状態を有している。すなわち、部分相溶系ブレンドは、ポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)が共に連続構造を形成する場合もあるし、ポリ乳酸(A)のマトリックス(海)中に(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)の微粒体(島)がほぼ均一に分散された構造を有するか、それとは反対に、ポリ乳酸(A)の微粒体(島)が(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)のマトリックス(海)中にほぼ均一に分散された構造を有する。これらの成分が少なくとも部分的に相溶性であるため、相溶性セグメントによって、ブレンド中の非相溶性セグメントの相溶化を補助することができる。
【0023】
また、部分相溶系ブレンドの場合、ポリ乳酸含有樹脂組成物のTgを測定すると、ポリ乳酸(A)リッチ相のTg及び/又は(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)リッチ相のTgは、それぞれ、純粋成分の本来のTgより数℃シフトしている。このことは、当業者にとって明らかなように、ポリ乳酸(A)リッチ相に(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)が部分的に相溶していること及び/又は(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)リッチ相にポリ乳酸(A)が部分的に相溶していることを示している。Tgのシフトの程度は、通常、約3℃もしくはそれ以上であり、例えば、3.5℃、4℃などである。すなわち、ポリ乳酸含有樹脂組成物が「部分相溶」状態にあるとは、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)に由来する2つのTg値をもつが、少なくともいずれか一方のTg値が他方のTg値の方にシフトしている状態をいう。
【0024】
ポリ乳酸含有樹脂組成物において、第1成分として使用されるポリ乳酸(A)は、特に限定されるものではない。ポリ乳酸(A)とは、構成単位がL−乳酸のみからなるポリ(L−乳酸)、D−乳酸のみからなるポリ(D−乳酸)、L−乳酸単位とD−乳酸単位とが種々の割合で存在するポリ(D/L−乳酸)などを包含する。また、ポリ乳酸として、L−又はD−乳酸と乳酸以外の脂肪族ヒドロキシカルボン酸、例えばグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などとの共重合体を使用することもできる。これらのポリ乳酸は、単独で使用してもよく、2種類以上のポリ乳酸を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0025】
ポリ乳酸(A)は、L−乳酸、D−乳酸、またはD/L−乳酸を直接脱水重縮合する方法により製造することができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドを開環重合する方法によっても製造することができる。開環重合は、高級アルコール、ヒドロキシカルボン酸などの水酸基を有する化合物の存在下で行ってもよい。乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合体は、乳酸と上記ヒドロキシカルボン酸を脱水重縮合する方法により製造することができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドと上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状体を開環共重合する方法によっても製造することができる。ポリ乳酸の製造において、必要であれば、特開2003−286401号公報及び特開2004−10842号公報に記載された方法などを使用してもよい。
【0026】
必要に応じて、ポリ乳酸(A)は、構成単位として、乳酸単位、脂肪族多価カルボン酸単位及び脂肪族多価アルコール単位を含む脂肪族ポリエステル樹脂、乳酸単位及び多官能多糖類を含む脂肪族ポリエステル樹脂などを使用してもよい。かかるポリエステル樹脂の製造に用いる脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸など及びこれらの無水物が挙げられる。これらの脂肪族多価カルボン酸は、酸無水物であっても、酸無水物との混合物であってもよい。
【0027】
脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0028】
乳酸単位、脂肪族多価カルボン酸単位及び脂肪族多価アルコール単位からなる脂肪族ポリエステル樹脂は、上記脂肪族多価カルボン酸及び上記脂肪族多価アルコールと、ポリ乳酸、乳酸及び他のヒドロキシカルボン酸の共重合体などとを反応させる方法や、上記脂肪族多価カルボン酸及び上記脂肪族多価アルコールと、乳酸とを反応させる方法により製造できる。また、上記脂肪族多価カルボン酸及び上記脂肪族多価アルコールと、乳酸の環状2量体であるラクチドや上記ヒドロキシカルボン酸の環状エステル類などとを反応させる方法によっても製造することができる。
【0029】
乳酸単位及び多官能多糖類を含む脂肪族ポリエステル樹脂の製造に用いる多官能多糖類としては、例えば、セルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、セロハン(登録商標)、ビスコースレーヨン、キュプラなどの再生セルロース、ヘミセルロース、デンプン、アミロペクチン、デキストリン、デキストラン、グリコーゲン、ペクチン、キチン、キトサンなど及びこれらの混合物並びにこれらの誘導体が挙げられる。これらの多官能多糖類のうちで、特に酢酸セルロース、エチルセルロースが好ましい。
【0030】
乳酸単位及び多官能多糖類を含む脂肪族ポリエステル樹脂は、上記多官能多糖類と、乳酸又はポリ乳酸、乳酸及び他のヒドロキシカルボン酸の共重合体などとを反応させる方法により製造することができる。また、上記多官能多糖類と、乳酸の環状2量体であるラクチドや上記ヒドロキシカルボン酸の環状エステル類などとを反応させる方法によっても製造することができる。
【0031】
ポリ乳酸含有樹脂組成物には、上記した種々のポリ乳酸、換言すると、種々の脂肪族ポリエステル樹脂が用いられるが、特に乳酸の単独重合体、乳酸どうしの共重合体、乳酸と乳酸以外の脂肪族ヒドロキシカルボン酸との共重合体(乳酸成分を質量比で50%以上含むものが好ましい)、乳酸と脂肪族多価カルボン酸及び脂肪族多価アルコールとからなる脂肪族ポリエステル樹脂(乳酸成分が質量比で50%以上含むものが好ましい)などが好適に用いられる。なお、乳酸どうしの共重合体としては、L−乳酸とD−乳酸の共重合体、乳酸単独重合体と上述する乳酸共重合体との共重合体などが挙げられる。
【0032】
上記ポリ乳酸(A)は、ポリ乳酸含有樹脂組成物から作られる物品に必要な物性などに応じて、いろいろな分子量で使用することができる。すなわち、ポリ乳酸の分子量は、フィルム、シートなどに成形した場合、実質的に十分な機械的物性が得られ、かつ所望の効果が得られる限り、特に制限されるものではない。分子量が低いと得られる物品の強度が低下し、分解速度が速くなり、反対に分子量が高いと加工性が低下し、成形が困難となることを考慮すると、ポリ乳酸の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)で測定した重量平均分子量(ポリスチレン換算)で表して、約10,000以上、約50,000以上、約70,000以上、又は約90,000以上であり、一方、約5,000,000以下、約2,000,000以下、約1,000,000以下、又は約500,000以下であってよい。フィルム、シートの伸び特性が重要な用途においては、ポリ乳酸の重量平均分子量は、好ましくは約10,000以上であり、より好ましくは約50,000以上であり、重量平均分子量の上限は、フィルム又はシートの成形加工が可能である範囲で特に限定される訳ではないが、通常約2,000,000以下である。
【0033】
ポリ乳酸含有樹脂組成物において、第2成分として使用される(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及びシリコーン(ii)から構成される。ポリ乳酸(A)の種類、結晶性などや、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)の分子構造などに応じて、GPCで測定したときに、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、約25,000以上、約30,000以上、約35,000以上、又は約40,000以上であってよく、一方、約150,000以下、約120,000以下、又は約100,000以下であってよい。(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)の分子量が約25,000以上であれば、ポリ乳酸(A)からの(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)の経時的なブリードアウトを抑制することができ、約150,000以下であれば、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)の粘度が十分低い範囲に収まって、ポリ乳酸(A)との混合作業に支障をきたさない。
【0034】
(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)は多岐に亘る分子構造を有していてよい。(メタ)アクリル酸メチルエステルの重合体とシリコーンとを、それらの分子内に含まれる適当な官能基、例えば水酸基、イソシアネート基、エポキシ基などを用いて、直接的に又は間接的(すなわち他の分子を介して)に結合させることによって、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体を形成してもよく、(メタ)アクリル酸メチルエステルの重合時に、シリコーンに含まれる反応性基を一緒に反応させることによって、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体を形成してもよい。(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸メチルエステル部分及びシリコーン部分がそれぞれ分子内で連続してある長さで存在してそれらの固有の特性(例えば、ポリ乳酸への混和性、剥離性など)を効果的に発揮する、ブロック共重合体、グラフト共重合体又はそれらの組み合わせであることが望ましい。
【0035】
(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)の第1構成成分である(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)は、アクリル酸メチルエステル、メタクリル酸メチルエステル、又はそれらの組み合わせである。いかなる理論に拘束される訳ではないが、分子内で(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)に由来する部分がポリ乳酸(A)との親和性に優れるため、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)がポリ乳酸(A)と混和して、相溶系ブレンド又は部分相溶系ブレンドを形成できると考えられている。
【0036】
(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)の第2構成成分であるシリコーン(ii)は、側鎖に、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜10のアリール基を有する、ポリシロキサン骨格を有する高分子である。側鎖は、水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜3のアルキル基であることが望ましく、メチル基であることがより望ましい。(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)の重合時にシリコーン(ii)を反応させて(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)を形成する場合、ポリシロキサン骨格の側鎖、いずれか一方の末端もしくは両末端、又は側鎖及び両末端に、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、アリルオキシ基、(メタ)アクリロイル基、及びメルカプト基などの、少なくとも1つのラジカル反応性基がさらに含まれる。(メタ)アクリル酸メチルエステルとの反応性が良好であることから、ラジカル反応性基は(メタ)アクリロイル基又はメルカプト基であることが望ましい。
【0037】
(メタ)アクリロイル基は、他のラジカル反応性基と重合反応して、重合体の分子鎖を構成する単位となる。一方、メルカプト基は他のラジカル反応性基と付加反応してラジカル反応を停止し、重合体の末端部分を構成する。従って、これらの基はそれぞれ異なった態様で共重合体の分子構造の形成に関与する。例えば、側鎖にメルカプト基を有するシリコーンを用いた場合、シリコーンを主鎖とし、ポリ(メタ)アクリル酸メチルエステルが側鎖となったグラフト共重合体が得られる。一方、片末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンを用いた場合、(メタ)アクリロイル基が(メタ)アクリル酸メチルエステルと一緒に重合して、ポリ(メタ)アクリル酸メチルエステルを主鎖とし、シリコーンが側鎖となったグラフト共重合体が得られる。また、例えば、両末端にメルカプト基を有するシリコーンを用いた場合、それらのメルカプト基にポリ(メタ)アクリル酸メチルエステルが結合したブロック共重合体が得られる。このように、ラジカル反応性基の種類及び位置を適宜選択することによって、様々な分子構造の共重合体を作ることができる。
【0038】
シリコーン(ii)の重量平均分子量は、一般に約500以上、約1000以上、又は約2000以上であってよく、一方、約50,000以下、約20,000以下、又は約10,000以下であってよい。重量平均分子量が約500以上であれば、ポリ乳酸含有樹脂組成物が、シリコーンに固有の特性、例えば剥離性、撥水性などを示すのに十分であり、重量平均分子量が約50,000以下であれば、ポリ乳酸と(メタ)アクリル−シリコーン共重合体が十分に混和して、完全に相溶した又は部分的に相溶したポリ乳酸含有樹脂組成物を得ることができる。
【0039】
このようなシリコーン(ii)の一例として、下記一般式(I)で表される化合物を挙げることができる。
【化1】

【0040】
式中、mは約10〜約600の整数であってよく、約50〜約300の整数であることが望ましく、nは0又は1以上の整数である一方、約50以下の整数であり、約30以下の整数であることが望ましい。mが約10以上であれば、ポリ乳酸含有樹脂組成物が、シリコーンに固有の特性、例えば剥離性、撥水性などを示すのに十分であり、mが約600以下であれば、ポリ乳酸と(メタ)アクリル−シリコーン共重合体が十分に混和して、完全に相溶した又は部分的に相溶したポリ乳酸含有樹脂組成物を得ることができる。また、nが約50以下であれば、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体の製造時に生じうるゲル化を防止できる。
【0041】
Rはそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜10のアリール基であってよく、水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜3のアルキル基であることが望ましく、メチル基であることがより望ましい。R1はそれぞれ独立して、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、アリルオキシ基、(メタ)アクリロイル基、及びメルカプト基から選択されるラジカル反応性基であり、(メタ)アクリロイル基又はメルカプト基であることが望ましい。
【0042】
nが1以上の場合、R2及びR3はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜10のアリール基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、アリルオキシ基、(メタ)アクリロイル基、又はメルカプト基であってよく、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜3のアルキル基、(メタ)アクリロイル基又はメルカプト基であることが望ましい。nが0すなわちシリコーンの側鎖にラジカル反応性基がない場合、R2もしくはR3のいずれか一方、又はR2及びR3の両方は、それぞれ独立して、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、アリルオキシ基、(メタ)アクリロイル基、及びメルカプト基から選択されるラジカル反応性基であり、(メタ)アクリロイル基又はメルカプト基であることが望ましい。
【0043】
上記一般式(I)で表されるシリコーンとして、例えば、信越化学工業株式会社製、商品名 KF−2001、KF−2004及びX−22−167B、Gelest社製、商品名 SMS−022、SMS−042及びSMS−992、United chemical社製、商品名 PS848、PS849、PS849.5、PS850、PS850.5及びPS927などのメルカプト変性シリコーン、信越化学工業株式会社製、商品名 X−22−174DX、X−22−2426、X−22−2475などのメタクリル変性シリコーンが挙げられる。これらの市販品は、それぞれ重量平均分子量、分子量分布及びラジカル反応性基の当量などが異なり、用途に応じて適宜選択することができる。
【0044】
(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)は、次式(II)〜(IV)で表される、任意成分の(メタ)アクリル酸エステルに基づく部分をさらに含んでもよい。このような任意成分の(メタ)アクリル酸エステルに基づく部分は、様々な種類のポリ乳酸に対して、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)の混和性を調節する必要が生じた場合に役立つことがある。
CH2=C(R1)−COO−R2 (II)
CH2=C(R1)−COO−(CH2CH2O)n1−R3 (III)
CH2=C(R1)−COO−(CH2CH2O)n2−Ar (IV)
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数が2〜14又は2〜8のアルキル基、R3はメチル基又はエチル基、Arはアリール基(例えばフェニル基)、n1及びn2は1以上の整数である。)
【0045】
式(II)の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸n−ブチルエステルが挙げられる。式(III)の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシノナエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。式(IV)の(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルエステル、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの化合物は、単独で使用してもよく、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0046】
用途に応じて所望の効果が得られる範囲で、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)に、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルエステル、エチレン、プロピレン、スチレン、酢酸ビニル、ビニルエーテル、塩化ビニル、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、ブタジエン、イソプレンなどの他のラジカル重合性モノマーに基づく部分が含まれてもよい。
【0047】
(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)は、例えば、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)、シリコーン(ii)例えばメルカプト変性シリコーン又はメタクリル変性シリコーン、及び必要に応じて上記任意成分を、ラジカル重合開始剤の存在下において反応させて得ることができる。ラジカル重合開始剤として、一般的な熱重合開始剤又は光重合開始剤が使用できる。熱重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物、ペルオキシド、ヒドロキシペルオキシド、過酸及び過エステルが挙げられる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス−イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス−イソブチレート、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、アゾビス−ジフェニルメタン、4,4’−アゾビス−(4−シアノペンタノン酸)が挙げられる。ペルオキシドとしては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、過酸化水素が挙げられる。ヒドロキシペルオキシドとしては、例えば、tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドが挙げられる。過酸としては、例えば、過酢酸、過安息香酸、過硫酸カリウムが挙げられる。過エステルとしては、例えば、過炭酸ジイソプロピルなどが挙げられる。光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、2−イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系光重合開始剤、ベンジル、キノン誘導体、3−ケトクマリンなどを用いることができる。これらの化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよく、光重合開始剤を使用する場合、増感剤を併用してもよい。
【0048】
(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)は、溶媒中において行われる溶液重合で調製することができる。溶液重合で用いられる溶媒としては、ラジカル重合におけるモノマー及び反応生成物に対して不活性であり、反応に有害な影響を及ぼさない任意の有機溶媒であることが望ましい。溶媒は、−10℃から50℃の間で液体であることが望ましい。より具体的には、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒又はトルエンを用いることができる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチルや酢酸ブチルが、ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルプロピルケトンが、アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。
【0049】
ラジカル重合は、任意の容器に(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)、シリコーン(ii)、ラジカル重合開始剤及び溶媒を入れ、さらに必要に応じて任意成分を入れて、光又は熱によりラジカル重合開始剤を分解させることにより行うことができる。このとき、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及びシリコーン(ii)の両方を、最初に一括して容器に投入して重合してもよく、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及び/又はシリコーン(ii)を数回に分けて投入してもよく、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及び/又はシリコーン(ii)を連続的に少量ずつ投入してもよい。このように、各成分の投入方法を変えることにより、最終的に得られる(メタ)アクリル−シリコーン共重合体の分子構造を調節することができる。生成した(メタ)アクリル−シリコーン共重合体は、溶媒の常圧留去又は減圧留去や、適当な溶媒(例えば、メタノール、ヘキサン又は水)中での再沈殿により回収することができる。
【0050】
(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)における、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)に基づく部分とシリコーン(ii)に基づく部分との質量比は、90:10〜50:50、80:20〜50:50、90:10〜55:45、80:20〜55:45、90:10〜60:40、又は80:20〜60:40であってよい。このような質量比とすることにより、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)のポリ乳酸(A)との混和性を確保しつつ、シリコーン部分に固有の性質、例えば剥離性を、ポリ乳酸含有樹脂組成物に付与することができる。
【0051】
ポリ乳酸含有樹脂組成物において、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)は、いろいろな配合比で混合することができる。例えば、ポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)の配合比は、質量基準で99:1〜50:50、97:3〜50:50、91:9〜50:50、99:1〜60:40、97:3〜60:40、91:9〜60:40、99:1〜70:30、97:3〜70:30、又は91:9〜70:30とすることができる。ポリ乳酸(A)の配合比が、(A)と(B)の合計に対して99質量%以下であれば、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)のシリコーン部分に固有の特性、例えば剥離性を、ポリ乳酸含有樹脂組成物に付与することができる。ポリ乳酸(A)の配合比が、(A)と(B)の合計に対して50質量%以上であれば、ポリ乳酸の有する特長、例えば、植物を原料としているため再生可能であること、ポリ乳酸樹脂製造時のエネルギー使用量が少ないこと、樹脂焼却時に発生する単位重量あたりの炭酸ガス量が少ないことなどを、ポリ乳酸含有樹脂組成物において有効に利用できる。
【0052】
ポリ乳酸含有樹脂組成物が部分相溶系ブレンドの形態をとるとき、必要に応じて、ポリ乳酸を分子内に含む(メタ)アクリル系グラフト共重合体又は(メタ)アクリル系ブロック共重合体を併用して、その相分離構造をさらに安定化してもよい。
【0053】
(メタ)アクリル系グラフト共重合体は、ポリ乳酸と(メタ)アクリル重合体とのいろいろなブロック共重合体を包含する。一例として、(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする主鎖に、約2000以上の分子量を有するポリ乳酸がグラフトした(メタ)アクリル系グラフト共重合体を挙げることができる。ポリ乳酸は、上記ポリ乳酸(A)から選ぶことができ、その他のタイプのポリ乳酸を使用してもよい。また、ポリ乳酸からなるグラフト鎖は、ポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)の相分離構造の巨大化を防止できる場合がある。(メタ)アクリル酸エステルの例としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルエステルなどが挙げられる。
【0054】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、ポリ乳酸と(メタ)アクリル重合体とのいろいろなブロック共重合体を包含する。ポリ乳酸は、上記ポリ乳酸(A)から選ぶことができ、その他のタイプのポリ乳酸を使用してもよい。(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステルやその他のアクリルモノマーに由来する任意の重合体である。(メタ)アクリル酸エステルの例としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルエステルなどが挙げられる。(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、相溶化剤などとして機能することができる。
【0055】
ポリ乳酸含有樹脂組成物は、必要に応じて、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)に加えて、1種類もしくは2種類以上の添加剤をさらに含有してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤などが挙げられる。これらの添加剤は、所望の効果が得られる範囲の量で配合することができる。
【0056】
ポリ乳酸含有樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)、並びに必要に応じて上記任意成分を混合することによって調製できる。混合方法は、混合される成分の量や性質などを考慮して適宜選択することができる。一例として、溶媒を用いて混合する方法や、溶融混練によって混合する方法が挙げられる。
【0057】
溶媒を用いて混合する場合、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)を、適当な溶媒、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどに溶解して、撹拌、振とうなどにより混合することができる。ポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)を同じ溶媒に溶解してもよく、それぞれ別々の溶媒に一旦溶解してから、得られたそれらの溶液を混合してもよい。
【0058】
溶融混練によって混合する場合、公知の混練技術及び装置、例えば、2軸混練機、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダーなどを用いて、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)を固体状で混合することができる。溶融混練は、一般に経済性や環境面の観点から有利である。溶融混練の温度は、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)が十分に混合する温度であればよく、一般に約100℃以上であり、約120℃以上、約140℃以上又は約160℃以上であることが望ましい。
【0059】
ポリ乳酸含有樹脂組成物は、公知の成形加工技術を用いて様々な形状の物品に形成できる。例えば、ポリ乳酸含有樹脂組成物を溶媒に溶解し、フィルム成形に一般に使用される溶液キャスト法を用いて、ポリ乳酸含有樹脂組成物を含む溶液を適当な基材の上にキャスト及び乾燥することによって、ポリ乳酸含有樹脂フィルム又はシートを形成できる。溶媒を用いてポリ乳酸含有樹脂組成物を調製した場合は、必要に応じて濃縮又は溶媒希釈して濃度を調節してもよい。
【0060】
また、射出成形法、押出ブロー成形法、押出延伸ブロー成形法、射出ブロー成形法、射出延伸ブロー成形法、2軸延伸法、熱成形法、圧縮成形法などを用いて、ポリ乳酸含有樹脂組成物から成形物を製造することができる。一般的な押出成形法である、Tダイ成形法、ブロー成型法、インフレーション成形法などを用いて、フィルム状、シート状、板状の成形物を製造することもできる。溶融混練によってポリ乳酸含有樹脂組成物を調製した後、Tダイ成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法などを用いて、引き続きその溶融混練物を成形してもよい。
【0061】
ポリ乳酸含有樹脂組成物から作られる成形物は、フィルムあるいはシートの形状で有利に提供することができる。ここで、フィルムとシートは同義であり、ポリ乳酸含有樹脂組成物由来の成形物が、通常、約5μm〜約3mmの厚さで成形された薄肉で矩形あるいはそれに類似する物品であることを意味する。成形物を延伸した場合は、厚さ5μmよりはるかに薄いフィルムを得ることも可能である。ポリ乳酸含有樹脂フィルムあるいはポリ乳酸含有樹脂シート(以下、「ポリ乳酸含有樹脂フィルム」という)は、必要に応じて、上記厚さより大きいもしくは小さい厚さを有していてもよい。ポリ乳酸含有樹脂フィルムは、単層構造であってもよく、2層以上の多層構造であってもよい。
【0062】
本開示の一実施態様によれば、このようにして得られるポリ乳酸含有樹脂フィルムは、フィルム厚さを30μmとしてJIS K 7136に従って測定したときのヘーズ値が、約10%以下、約8%以下又は約5%以下である。このようにヘーズ値が約10%以下であることは、ポリ乳酸含有樹脂組成物において、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)がポリ乳酸(A)と良好に混和して、これらが互いに相溶しているか、少なくとも部分的に相溶していることを示す。
【0063】
本開示の別の実施態様によれば、このようにして得られるポリ乳酸含有樹脂フィルムは、フィルム厚さを30μmとして粘着テープScotch(登録商標)810(住友スリーエム製)を用いJIS Z 0237に従って測定したときの剥離力(粘着力)が、使用したポリ乳酸(A)単体から成膜されたフィルムについて測定された剥離力(粘着力)の約65%以下、約60%以下、約50%以下、又は約40%以下である。このように相対剥離力(粘着力)が約65%以下であることは、ポリ乳酸含有樹脂組成物において、(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)がポリ乳酸(A)と良好に混和して、これらが互いに相溶しているか、少なくとも部分的に相溶していることを示す。
【0064】
ポリ乳酸含有樹脂フィルムは、一般にシリコーン部分に由来する剥離性、離型性を有するため、粘着シートの剥離性ライナー、例えば、一般工業用途、ヘルスケアー用途、建築装飾用途など、あらゆる粘着シートの剥離性ライナーとして使用できる。また、ポリ乳酸含有樹脂フィルムを、他の物品の製造における中間工程で使用される工程用シートなどにも利用できる。いずれの用途においても、ポリ乳酸の有する上記特長を利用できるため、剥離性ライナーを廃棄した場合の環境負荷を低減することが可能である。
【0065】
また、図1に示すように、ポリ乳酸/(メタ)アクリル−シリコーン共重合体を含み剥離性を有するポリ乳酸含有樹脂フィルム10と、第2のポリ乳酸含有樹脂フィルム20とを積層することにより、ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルム積層体30を製造することができる。第2のポリ乳酸含有樹脂フィルム20は、剥離性であっても非剥離性であってもよい。ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルム積層体30は、ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルム10の剥離力を制御することにより、例えば、第2のポリ乳酸含有樹脂フィルム20を基材とした片面剥離性又は両面剥離性ライナーや、テープ用の背面処理剤付きバッキング材として使用することができる。この場合、積層体全体についてポリ乳酸の有する上記特長を利用できるため、積層体を廃棄した場合の環境負荷を低減することができる。積層体30は、ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルム10及び第2のポリ乳酸含有樹脂フィルム20を、別々にフィルムに成形した後、例えば熱圧着して製造してもよく、多層押し出しダイなどを用いて、フィルム成形と積層を同時に行ってもよい。粘着テープの製造において、溶融混練及び押出加工などを使用して積層体の製造工程を無溶剤化し、かつホットメルト型粘着剤を使用する場合、粘着剤/基材/背面処理剤の全ての製造工程を無溶剤化することができるため、環境負荷の極めて小さい粘着テープを製造することが可能になる。
【0066】
以下、実施例を参照して本発明を詳しく説明するが、本発明の内容はこれらの例に制限されるものではない。
【実施例】
【0067】
例1
アクリル−シリコーン共重合体は以下の通り準備した。先ず、メチルアクリレート(MA)28部、側鎖メルカプト変性の反応性シリコーンである信越化学工業株式会社製のKF−2001 12部、メチルエチルケトン40部の混合溶液に、開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製 商品名 V−65)0.08部を加えて、10分間窒素パージした。続いて、50℃の恒温槽で24時間反応させたところ、透明な粘稠溶液が得られた。得られたアクリル−シリコーン共重合体(MA/KF−2001=70質量%/30質量%)の重量平均分子量は、54,000であった。(以下、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィ法によるポリスチレン換算に基づく。)
【0068】
次に、得られたアクリル−シリコーン共重合体溶液を乾燥させた後、1,4−ジオキサンを用いて再度溶解し、固形分15質量%の溶液を調製した。一方、三井化学株式会社製のポリ乳酸樹脂であるレイシア(登録商標)H440を1,4−ジオキサンを用いて溶解し、固形分15質量%の溶液を調製した。続いて、15質量%のポリ乳酸溶液21部と、15質量%のアクリル−シリコーン共重合体溶液9部とを混合して、塗工液を調製した。
【0069】
この塗工液を、50μmの厚みの無処理ポリエステルフィルム基材上にナイフコーターのギャップを500μmに調整して塗布し、100℃のオーブンで7分間乾燥させた。室温に冷却後、ポリエステルフィルム基材から剥がして、30μmの厚みのポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを得た。このとき、乾燥フィルム中のポリ乳酸とアクリル−シリコーン共重合体の配合比は質量基準で70:30(70質量%:30質量%)である。
【0070】
剥離力はJIS Z 0237に基づき以下のように測定した。得られたブレンドフィルムのポリエステルフィルム基材に接していた面に対して、住友スリーエム製の粘着テープScotch(登録商標)810を貼り付け、2000gのロールで1往復(300mm/分)させて圧着させ、室温で一晩放置した。続いて、引張試験機(オートグラフ AG−X 100N、株式会社島津製作所製)にて、剥離角180°、剥離速度300mm/分の条件で、粘着テープ(巾18mm)を連続して引き剥がしたときの荷重を剥離力として測定した。
【0071】
続いて、剥離力測定後の粘着テープを未使用の無処理ポリエステルフィルムに貼り付け、2000gのロールで1往復(300mm/分)させて圧着し、圧着30分後に接着力を測定して残留接着力とした(剥離角180°、剥離速度300mm/分)。得られた剥離力、残留接着力の値を表1に示す。
【0072】
フィルムのヘーズ値は、JIS K 7136に準拠し、濁度計NDH2000(日本電色工業社製)を用いて測定した。得られたヘーズ値を表1に示す。
【0073】
例2〜3
15質量%のポリ乳酸溶液をそれぞれ30部、32.5部とし、15質量%のアクリル−シリコーン共重合体溶液をそれぞれ3部、1.0部とした他は、例1と同様に実施し、ポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを得た。このとき、乾燥フィルム中のポリ乳酸とアクリル−シリコーン共重合体の配合比は質量基準でそれぞれ91:9(91質量%:9質量%)、97:3(97質量%:3質量%)である。これらのフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表1に示す。
【0074】
例4
MAを26部、KF−2001を14部の混合溶液(MA/KF−2001=65質量%/35質量%)とした他は、例1と同様に実施し、アクリル−シリコーン共重合体を得た。得られたアクリル−シリコーン共重合体の重量平均分子量は、47,000であった。
【0075】
次に、得られたアクリル−シリコーン共重合体溶液から、例1と同様にポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを作製した。このフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表1に示す。
【0076】
例5
MAを30部、KF−2001を10部の混合溶液(MA/KF−2001=75質量%/25質量%)とした他は、例1と同様に実施し、アクリル−シリコーン共重合体を得た。得られたアクリル−シリコーン共重合体の重量平均分子量は、63,000であった。
【0077】
次に、得られたアクリル−シリコーン共重合体溶液から、例1と同様にポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを作製した。このフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表1に示す。
【0078】
例6
MAを32部、KF−2001を8部の混合溶液(MA/KF−2001=80質量%/20質量%)とした他は、例1と同様に実施し、アクリル−シリコーン共重合体を得た。得られたアクリル−シリコーン共重合体の重量平均分子量は、72,000であった。
【0079】
次に、得られたアクリル−シリコーン共重合体溶液から、例1と同様にポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを作製した。このフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表1に示す。
【0080】
例7〜8
15質量%のポリ乳酸溶液をそれぞれ30部、32.5部とし、15質量%のアクリル−シリコーン共重合体溶液をそれぞれ3部、1.0部とした他は、例6と同様に実施し、ポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを得た。これらのフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表1に示す。
【0081】
例9
MAを36部、KF−2001を4部の混合溶液(MA/KF−2001=90質量%/10質量%)とした他は、例1と同様に実施し、アクリル−シリコーン共重合体を得た。得られたアクリル−シリコーン共重合体の重量平均分子量は、120,000であった。
【0082】
次に、得られたアクリル−シリコーン共重合体溶液から、例1と同様にポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを作製した。このフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表1に示す。
【0083】
例10〜11
15質量%のポリ乳酸溶液をそれぞれ20部、16.5部とし、15質量%のアクリル−シリコーン共重合体溶液をそれぞれ13.3部、16.5部とした他は、例9と同様にポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを得た。このとき、乾燥フィルム中のポリ乳酸とアクリル−シリコーン共重合体の配合比は質量基準でそれぞれ60:40(60質量%:40質量%)、50:50(50質量%:50質量%)である。これらのフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表1に示す。
【0084】
比較例1
ポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体の混合溶液の代わりに、15質量%のポリ乳酸溶液のみを無処理ポリエステルフィルム上に塗布した他は、例1と同様にポリ乳酸フィルムを作製した。このフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表1に示す。
【0085】
比較例2
MAを20部、KF−2001を20部の混合溶液(MA/KF−2001=50質量%/50質量%)とした他は、例1と同様に実施し、アクリル−シリコーン共重合体を得た。得られたアクリル−シリコーン共重合体の重量平均分子量は、30,000であった。
【0086】
次に、得られたアクリル−シリコーン共重合体溶液から、例1と同様にポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを作製したところ、ブレンドフィルムを剥がした後のポリエステルフィルムに白っぽい付着物が観察された。このとき、乾燥フィルム中のポリ乳酸とアクリル−シリコーン共重合体の混合比は質量基準で70:30(70質量%:30質量%)である。このフィルムを用いてヘーズ値を測定したところ、34.7%と高く(表1)、著しく相分離したフィルムであったため、剥離力及び残留接着力の測定は行わなかった。
【0087】
比較例3
MAを16部、KF−2001を24部の混合溶液(MA/KF−2001=40質量%/60質量%)とした他は、例1と同様に実施し、アクリル−シリコーン共重合体を得た。得られたアクリル−シリコーン共重合体の重量平均分子量は、26,000であった。
【0088】
次に、得られたアクリル−シリコーン共重合体溶液から、例1と同様にポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを作製したところ、ブレンドフィルムを剥がした後のポリエステルフィルムに白っぽい付着物が観察された。このとき、乾燥フィルム中のポリ乳酸とアクリル−シリコーン共重合体の混合比は質量基準で70:30(70質量%:30質量%)である。このフィルムを用いてヘーズ値を測定したところ、53.6%と高く(表1)、著しく相分離したフィルムであったため、剥離力及び残留接着力の測定は行わなかった。
【0089】
比較例4
MAを12部、KF−2001を28部の混合溶液(MA/KF−2001=30質量%/70質量%)とした他は、例1と同様に実施し、アクリル−シリコーン共重合体を得た。得られたアクリル−シリコーン共重合体の重量平均分子量は、24,000であった。
【0090】
次に、得られたアクリル−シリコーン共重合体溶液から、例1と同様にポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを作製したところ、ブレンドフィルムを剥がした後のポリエステルフィルムに白っぽい付着物が観察された。このとき、乾燥フィルム中のポリ乳酸とアクリル−シリコーン共重合体の混合比は質量基準で70:30(70質量%:30質量%)である。このフィルムを用いてヘーズ値を測定したところ、64.5%と高く(表1)、著しく相分離したフィルムであったため、剥離力及び残留接着力の測定は行わなかった。
【0091】
比較例5〜8
例1において、アクリル−シリコーン共重合体を用いる代わりに、シリコーンオイルKF−2001のみを用いた。ポリ乳酸及びシリコーンオイルをそれぞれクロロホルムに溶解し15質量%溶液を調製し、表1に記した配合比で例1と同様に実施し、ポリ乳酸−シリコーンオイルのブレンドフィルムを作製した。このフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力、ヘーズ値を表1に示す。
【0092】
比較例9〜12
例1において、アクリル−シリコーン共重合体を用いる代わりに、信越化学工業株式会社製のメチルスチリル変性シリコーンオイルKF−410のみを用いた。ポリ乳酸及びシリコーンオイルをそれぞれ1,4−ジオキサンに溶解し15質量%溶液を調製し、表1に記した配合比で例1と同様に実施し、ポリ乳酸−シリコーンオイルのブレンドフィルムを作製した。このフィルムを用いて測定した剥離力及びヘーズ値を表1に示す。これらのフィルムは、剥離力が非常に重たかったため(表1)、残留接着力の測定は行わなかった。また、比較例11及び12では、ヘーズ値が高く、シリコーンオイルのブリードアウトも観察された。
【0093】
【表1】

【0094】
比較例13〜15
例1において、ポリ乳酸とアクリル−シリコーン共重合体を混合する代わりに、ポリ(メチルアクリレート)(PMA)を混合した。ポリ(メチルアクリレート)は、メチルアクリレート15部、メチルエチルケトン85部、V−65 0.04部を用いて例1と同様に実施して得た。得られたポリ(メチルアクリレート)の重量平均分子量は、65,000であった。
【0095】
次に、得られたポリ(メチルアクリレート)溶液から、表2に記した配合比で例1と同様にポリ乳酸−ポリ(メチルアクリレート)のブレンドフィルムを作製した。これらのフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力、ヘーズ値を表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
比較例16〜18
例1において、ポリ乳酸とアクリル−シリコーン共重合体を混合する代わりに、ポリ(メチルアクリレート)(PMA)及びシリコーンオイルKF−2001を混合した。ポリ(メチルアクリレート)は、比較例13〜15と同じものを使用した。ポリ乳酸、ポリ(メチルアクリレート)及びシリコーンオイルKF−2001をそれぞれクロロホルムに溶解し15質量%溶液を調製し、表3に記した配合比で例1と同様にポリ乳酸−ポリ(メチルアクリレート)−シリコーンオイルのブレンドフィルムを作製した。これらのフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力、ヘーズ値を表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
例12〜19、比較例19〜20
アクリル−シリコーン共重合体の組成比、ポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体の配合比を表4に記した通りとし、例1と同様にブレンドフィルムを作製した。これらのフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力、ヘーズ値を表4に示す。表4には例4及び比較例2の結果も併せて示す。
【0100】
【表4】

【0101】
ここで、比較例19、比較例20は、比較例2と同様に、ブレンドフィルムを剥がした後のポリエステルフィルムに白っぽい付着物が観察された。また、これらのフィルムを用いてヘーズ値を測定したところ、10.34%、17.21%と高く、著しく相分離したフィルムであったため、剥離力及び残留接着力の測定は行わなかった。
【0102】
ここで用いたアクリル−シリコーン共重合体の重量平均分子量を表5に示す。
【0103】
【表5】

【0104】
例20
例1において、KF−2001の代わりに、両末端メルカプト変性の反応性シリコーンX−22−167B(信越化学工業株式会社製)を使用してアクリル−シリコーン共重合体を得た。この共重合体は、MAを16部、X−22−167Bを4部、メチルエチルケトンを20部、V−65を0.04部とした他は、例1と同様に実施して得られた。得られたアクリル−シリコーン共重合体の重量平均分子量は、26,000であった。
【0105】
次に、得られたアクリル−シリコーン共重合体溶液から、表6に記した配合比で例1と同様にポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを作製した。このフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表6に示す。
【0106】
【表6】

【0107】
例21
例1において、KF−2001の代わりに、片末端メタクリル変性の反応性シリコーンX−22−174DX(信越化学工業株式会社製)を使用してアクリル−シリコーン共重合体を得た。この共重合体は、MAを3.9部、X−22−174DXを2.1部、メチルエチルケトンを34部、V−65を0.024部とした他は、例1と同様に実施して得られた。得られたアクリル−シリコーン共重合体の重量平均分子量は、77,000であった。
【0108】
次に、得られたアクリル−シリコーン共重合体溶液から、表7に記した配合比で例1と同様にポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを作製した。このフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表7に示す。
【0109】
【表7】

【0110】
例22
例1において、MAの代わりに、メチルメタクリレート(MMA)を使用してメタクリル−シリコーン共重合体を得た。この共重合体は、MMAを11部、KF−2001を9部、メチルエチルケトンを20部、V−65を0.04部とした他は、例1と同様に実施して得られた。得られたメタクリル−シリコーン共重合体の重量平均分子量は、40,000であった。
【0111】
次に、得られたメタクリル−シリコーン共重合体溶液から、表8に記した配合比で例1と同様にポリ乳酸/メタクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを作製した。このフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表8に示す。
【0112】
【表8】

【0113】
例23
例1において、ポリ乳酸とアクリル−シリコーン共重合体を溶液中で混合する代わりに、ポリ乳酸とアクリル−シリコーン共重合体の溶融混練を行った。
【0114】
先ず、HAAKE製樹脂混練装置ミニラボを200℃に予熱し、スクリュ回転速度12rpm/同方向回転の条件下で、ポリ乳酸5.5gを5分間かけて投入した。次に、スクリュ回転速度12rpmのままアクリル−シリコーン共重合体0.5gを5分間かけて投入した。続いて、回転速度を50rpmに上げて10分間混練した後、取り出し口よりストランド状のコンパウンドを取り出した。
【0115】
このコンパウンドをポリイミドフィルムに挟み、200℃に加熱したヒートプレス機によりフィルム化し、厚さ105μmのフィルムを得た。このフィルムを用いて測定した剥離力、残留接着力及びヘーズ値を表9に示す。
【0116】
【表9】

【0117】
例24
以下のようにして、ポリ乳酸フィルム及びポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体ブレンドフィルムからなる積層フィルムを得た。
【0118】
先ず、ナイフコーターのギャップを200μmに調整して塗布した他は、例2と同様にポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルムを作製した。
【0119】
次に、このブレンドフィルム(ポリエステル基材付き)と、比較例1で得られたポリ乳酸フィルム(ポリエステル基材付き)の塗布面同士を、ヒートラミネータを用いて、120℃、0.2m/分の条件下で貼り合わせた。ラミネート後、両面のポリエステル基材を剥がし取り、ラミネートフィルムのヘーズ値、A面(ポリ乳酸/アクリル−シリコーン共重合体のブレンドフィルム側)及びB面(ポリ乳酸フィルム側)の剥離力及び残留接着力を測定した。結果を表10に示す。
【0120】
【表10】

【符号の説明】
【0121】
10 ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルム
20 第2のポリ乳酸含有樹脂フィルム
30 ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルム積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(A)と、
(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及びシリコーン(ii)から構成される、重量平均分子量が25,000以上の(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)と
を含む、ポリ乳酸含有樹脂組成物であって、当該組成物を厚さ30μmのフィルムに成膜し、JIS K 7136に従って測定したときのヘーズ値が10%以下である、ポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸(A)と、
(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及びシリコーン(ii)から構成される、重量平均分子量が25,000以上の(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)と
を含む、ポリ乳酸含有樹脂組成物であって、当該組成物を厚さ30μmのフィルムに成膜し、粘着テープScotch(登録商標)810(住友スリーエム製)を用いJIS Z 0237に従って測定したときの剥離力が、ポリ乳酸(A)単体から成膜されたフィルムについて測定された剥離力の65%以下である、ポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリ乳酸(A)と前記(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)との質量比が99:1〜50:50である、請求項1又は2のいずれかに記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)における、前記(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)に基づく部分と前記シリコーン(ii)に基づく部分との質量比が、90:10〜50:50である、請求項1〜3のいずれか1つに記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)が、グラフト共重合体及び/又はブロック共重合体である、請求項1〜4のいずれか1つに記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリ乳酸(A)と前記(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)とを、溶融混練して得た、請求項1〜5のいずれか1つに記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)を製造する工程と、前記ポリ乳酸(A)と前記(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)とを混合する工程とを含む、請求項1〜6のいずれか1つに記載のポリ乳酸含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程が溶融混練によって行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のポリ乳酸含有樹脂組成物を含む、ポリ乳酸含有樹脂フィルム。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のポリ乳酸含有樹脂組成物を含む、ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルム。
【請求項11】
第2のポリ乳酸含有樹脂フィルムに積層された、請求項10に記載のポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルムを含む、ポリ乳酸含有剥離性樹脂フィルム積層体。
【請求項12】
ポリ乳酸(A)と、(メタ)アクリル酸メチルエステル(i)及びシリコーン(ii)から構成される、重量平均分子量が25,000以上の(メタ)アクリル−シリコーン共重合体(B)とを含む、ポリ乳酸含有樹脂組成物であって、当該組成物を厚さ30μmのフィルムに成膜して測定したときのヘーズ値が10%以下である、ポリ乳酸含有樹脂組成物を、押出加工によってシート状に成形する工程を含む、ポリ乳酸含有樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−174185(P2010−174185A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20474(P2009−20474)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】