説明

ポリ乳酸含有樹脂組成物ならびに樹脂フィルム及びその製造方法

【課題】 柔軟性及び伸び特性を改良し、しかも従来の技術で大きな問題であったブリードアウトの発生を抑制できる改良されたポリ乳酸含有樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 (A)ポリ乳酸と、(B)次式(I)に示す分子単位式を含むポリビニルアルキルエーテル:
−〔CH−CH(ОR)〕− … (I)
(上式において、Rは、アルキル基である)とを有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸含有樹脂組成物に関し、さらに詳しく述べると、柔軟性及び伸び特性に優れたフィルムに成形可能なポリ乳酸含有樹脂組成物に関する。本発明はまた、かかるポリ乳酸含有樹脂組成物から成形によって形成された樹脂フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(PLA)は、土に還ることが可能な生分解性のプラスチック材料として広く知られている。ポリ乳酸はまた、「石油由来」ではなく、育てることが可能な「植物由来」の再生可能な資源でもあるので、近年注目を集めている。さらに、ポリ乳酸は炭素循環型プラスチックとも呼ばれているが、これは、トウモロコシやジャガイモなどの植物から得られた乳酸を原料として製造され、また、使用の完了後、生分解もしくは焼却によって再び水と二酸化炭素に戻ることができるからである。
【0003】
ところで、ポリ乳酸は、透明性に優れ、室温における機械的強度は同じくエステル系のプラスチック材料であるポリエチレンテレフタレートに近く、しかも加熱成形性に優れるので、日常生活用途の汎用プラスチック材料への仲間入りが期待されている。しかし、ポリ乳酸は性能面で抱えている課題が依然として多いので、耐熱性、脆性、柔軟性等のいくつかの性能が改良されれば、工業的用途の展開を図るうえで大きな突破口になると考えられる。
【0004】
現在、上記のような課題を解決する方法として、ポリ乳酸に対して柔軟性を付与する方法がいくつか提案されている。
【0005】
一つの方法として、ポリ乳酸の骨格に他の脂肪族ポリエステル成分やポリエーテル成分を共重合によって導入し、柔軟性を付与する方法がある。しかし、この方法の場合、共重合を行うことで、ポリ乳酸の結晶性が損なわれ、耐熱性が低下したり、引張り強度や弾性率が低下する。また、経済的観点からコストがかかりすぎる。
【0006】
別の方法として、低分子量の可塑剤をポリ乳酸に対して添加する方法もある。しかし、可塑剤を添加した場合には、可塑剤が表面にブリードアウト(析出)しやすい。
【0007】
これらの問題点を解決するため、ガラス転移点の比較的低いポリマーをポリ乳酸に対して添加する方法が最近提案されている。具体的には、例えば特許文献1は、(A)ポリ乳酸と、(B)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を主成分として含有し、ガラス転移点が10℃以下である重合体と含有してなり、成分(B)の重量平均分子量が30,000以下であるポリ乳酸含有樹脂組成物を記載している。また、特許文献2は、(A)ポリ乳酸と、(B)次式(II)で表される構成単位を有するアクリル酸アルキルエステル系オリゴマー:
【0008】
【化1】

【0009】
(上式において、R’は、炭素数1〜3のアルキル基を示す)を含むことを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物を記載している。しかしながら、これらの特許文献において記載されているポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸に添加されるポリアルキルアクリレートのガラス転移点がさほど低くないことに原因するものと考察されるが、所望とする柔軟性を付与するのに十分でない。
【0010】
【特許文献1】特開2003−286401号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−10842号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、柔軟性及び伸び特性を改良し、しかも従来の技術で大きな問題であったブリードアウトの発生を抑制できる改良されたポリ乳酸含有樹脂組成物を提供することである。
【0012】
また、本発明の別の課題は、透明性、引張り強度、柔軟性、伸び特性等の機械的強度などに優れたポリ乳酸含有の樹脂フィルムを提供することである。
【0013】
さらに、本発明の別の課題は、透明性、引張り強度、柔軟性、伸び特性等の機械的強度などに優れたポリ乳酸含有の樹脂フィルムの製造方法を提供することである。
【0014】
本発明の上記したような課題やその他の課題は、以下の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、1つの面において、(A)ポリ乳酸、及び
(B)次式(I)に示す分子単位式を含むポリビニルアルキルエーテル:
−〔CH−CH(ОR)〕− …(I)
(上式において、Rは、アルキル基である)
を有するポリ乳酸含有樹脂組成物にある。
【0016】
本発明は、もう1つの面において、(A)ポリ乳酸及び(B)前式(I)に示す分子単位式を含むポリビニルアルキルエーテルを有するポリ乳酸含有樹脂組成物の成形物からなる樹脂フィルムにある。
【0017】
本発明は、さらにもう1つの面において、下記の工程:
(A)ポリ乳酸及び(B)前式(I)に示す分子単位式を含むポリビニルアルキルエーテルを溶融混練する工程、及び
上記工程で得られた溶融混練物を任意の成膜法、好ましくは流延法によってフィルムに成形する工程
を含んでなる樹脂フィルムの製造方法にある。
【0018】
本発明は、さらにもう1つの面において、(A)ポリ乳酸及び(B)前式(I)に示す分子単位式を含むポリビニルアルキルエーテルを含む溶液を溶液キャスト法によってフィルムに成形する樹脂フィルムの製造方法にある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下の詳細な説明から理解されるように、ポリ乳酸に、相溶性のあるポリビニルアルキルエーテルを添加することで、ポリ乳酸含有樹脂組成物において、ポリ乳酸に固有の性能である透明性、引張り強度等の機械的強度、加熱成形性などを損なうことなく、柔軟性及び伸び特性をさらに改良することができる。また、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、従来の技術で大きな問題であったブリードアウトの発生を抑制し、コストの増加も回避できる。
【0020】
また、本発明によれば、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物を原料として使用することで、透明性、引張り強度、柔軟性、伸び特性等の機械的強度などに優れた、植物由来の成分を主成分とする再生可能な樹脂フィルムを提供することができる。
【0021】
さらに、本発明によれば、透明性、引張り強度、柔軟性、伸び特性等の機械的強度などに優れた、植物由来の成分を主成分とする再生可能な樹脂フィルムを低コストで製造する方法を提供することができる。
【0022】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物及び樹脂フィルムは、それぞれ、上述のような優れた性能をもたらすことができるので、いろいろな分野において有利に使用することができる。本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、柔軟性が付与されているので、特にフィルムあるいはシート状に成形した場合、柔軟性及び伸び特性等に優れた基材として、多方面への応用が可能である。例えば、ポリ乳酸含有樹脂組成物由来のフィルムあるいはシートからなる基材の片面に粘着剤層を設け、必要ならば他方の面に印刷層、トップコート層などの任意の層を施すなどとして、壁材、装飾フィルムなどとして有利に応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明によるポリ乳酸含有樹脂組成物は、
(A)ポリ乳酸、及び
(B)次式(I)に示す分子単位式を含むポリビニルアルキルエーテル:
−〔CH−CH(ОR)〕− …(I)
(上式において、Rは、置換もしくは非置換のアルキル基、好ましくは約1〜5個の炭素原子を有するアルキル基、例えばメチル基、エチル基、ブチル基などである)
を少なくとも含んでなることを特徴とする。
【0024】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物において、第1の成分として使用されるポリ乳酸は、特に限定されるものではない。構成単位がL−乳酸のみからなるポリ(L−乳酸)、D−乳酸のみからなるポリ(D−乳酸)、L−乳酸単位とD−乳酸単位とが種々の割合で存在するポリ(D/L−乳酸)などを包含する。また、ポリ乳酸として、L−又はD−乳酸と乳酸以外の脂肪族ヒドロキシカルボン酸、例えばグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等とのコポリマーを使用することもできる。これらのポリ乳酸は、単独で使用してもよく、2種類以上のポリ乳酸を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明に用いるポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、またはD/L−乳酸を直接脱水重縮合する方法により製造することができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドを開環重合する方法によっても製造することができる。開環重合は、高級アルコール、ヒドロキシカルボン酸等の水酸基を有する化合物の存在下で行ってもよい。乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸コポリマーは、乳酸と上記ヒドロキシカルボン酸を脱水重縮合する方法により製造することができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドと上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状体を開環共重合する方法によっても製造することができる。なお、これらのポリ乳酸や下記のポリ乳酸の製造において、必要ならば、特開2003−286401号公報及び特開2004−10842号公報(前出)に記載された方法などを使用してもよい。
【0026】
本発明の実施において、必要ならば、上記したポリ乳酸は、構成単位として、乳酸単位、脂肪族多価カルボン酸単位及び脂肪族多価アルコール単位を含む脂肪族ポリエステル樹脂、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールの脂肪族ポリエステル樹脂、乳酸単位及び多官能多糖類を含む脂肪族ポリエステル樹脂などを使用してもよい。かかるポリエステル樹脂の製造に用いる脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等及びこれらの無水物が挙げられる。これらは、酸無水物であっても、酸無水物との混合物であってもよい。
【0027】
また、脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0028】
乳酸単位、脂肪族多価カルボン酸単位及び脂肪族多価アルコール単位からなる脂肪族ポリエステル樹脂は、上記脂肪族多価カルボン酸及び上記脂肪族多価アルコールと、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー等を反応する方法や上記脂肪族多価カルボン酸及び上記脂肪族多価アルコールと、乳酸を反応する方法により製造できる。また、上記脂肪族多価カルボン酸及び上記脂肪族多価アルコールと乳酸の環状2量体であるラクチドや上記ヒドロキシカルボン酸の環状エステル類等を反応する方法によっても製造することができる。また、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールの脂肪族ポリエステル樹脂は、上記脂肪族多価カルボン酸及び上記脂肪族多価アルコールを反応する方法により製造できる。
【0029】
乳酸単位及び多官能多糖類を含む脂肪族ポリエステル樹脂の製造に用いる多官能多糖類としては、例えば、セルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、セロハン(登録商標)、ビスコースレーヨン、キュプラ等の再生セルロース、ヘミセルロース、デンプン、アミロペクチン、デキストリン、デキストラン、グリコーゲン、ペクチン、キチン、キトサン等及びこれらの混合物及びこれらの誘導体が挙げられる。これらの多官能多糖類のうちで、特に酢酸セルロース、エチルセルロースが好ましい。
【0030】
乳酸単位及び多官能多糖類を含む脂肪族ポリエステル樹脂は、上記多官能多糖類と乳酸またはポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー等を反応する方法により製造することができ、また、上記多官能多糖類と乳酸の環状2量体であるラクチドや上記ヒドロキシカルボン酸の環状エステル類等を反応する方法によっても製造することができる。
【0031】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物には、上記した種々のポリ乳酸、換言すると、種々の脂肪族ポリエステル樹脂が用いられるが、特にポリ乳酸のホモポリマー、乳酸どうしのコポリマー、乳酸と乳酸以外の脂肪族ヒドロキシカルボン酸とのコポリマー(透明性が要求される場合、乳酸成分を重量比で50%以上含むものが好ましい)、乳酸と脂肪族多価カルボン酸及び脂肪族多価アルコールからなる脂肪族ポリエステル樹脂(透明性が要求される場合、乳酸成分が重量比で50%以上含むものが好ましい)等の乳酸成分を含むものが好適に用いられる。
【0032】
本発明の実施において、上記したようなポリ乳酸は、ポリ乳酸含有樹脂組成物から成形される各種の成形物に所望の物性などに応じていろいろな分子量で使用することができる。すなわち、本発明に使用するポリ乳酸の分子量は、容器、フィルム、シート、板等の成形物に成形した場合、実質的に十分な機械的物性が得られ、かつ本発明に所望の上記したような効果が得られる限り、特に制限されるものではない。分子量が低いと得られる成形物の強度が低下し、分解速度が速くなり、反対に分子量が高いと加工性が低下し、成形が困難となることを考慮すると、本発明に使用するポリ乳酸の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した重量平均分子量で表して、約10,000〜5,000,000の範囲であり、好ましくは約50,000〜2,000,000の範囲であり、さらに好ましく約70,000〜1,000,000の範囲であり、最も好ましくは約90,000〜500,000の範囲である。ここで、本発明で最も重要視しているフィルム又はシートの形の成形物の場合、得られる成形物の伸び特性を考慮すると、ポリ乳酸の重量平均分子量は、好ましくは約10,000以上であり、より好ましくは約50,000以上である。重量平均分子量の上限は、フィルム又はシートの成形加工が可能である範囲で特に限定されるわけではないけれども、通常約2,000,000以下である。したがって、フィルム又はシートの形の成形物を意図する場合、ポリ乳酸の重量平均分子量は、通常、約10,000〜2,000,000範囲である。
【0033】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物において、第2の成分として使用されるポリビニルアルキルエーテルは、上記したように、前式(I)に示す分子単位式を含む。これらのポリビニルアルキルエーテルは、ポリ乳酸との相溶性に優れているからである。また、これらのポリビニルアルキルエーテルの重量平均分子量は、通常、約2,500〜2,000,000の範囲であり、好ましくは約2,800〜1,500,000の範囲であり、さらに好ましくは約3,000〜1,000,000の範囲である。本発明の実施に好適なポリビニルアルキルエーテルは、特に、ポリビニルメチルエーテル又はポリビニルエチルエーテルである。これらのポリビニルアルキルエーテルは、正確なメカニズムはいまだ解明されていないけれども、従来の技術で可塑剤として添加しているものに比較して高分子量であり、これに由来してブリードアウトの問題などがが解消されているものと考察される。また、ポリビニルメチルエーテルとポリビニルエチルエーテルを比較すると、どちらの化合物も本発明の実施において有用であるというものの、特にポリビニルメチルエーテルは、ポリビニルエチルエーテルに比較してポリ乳酸との相溶性がよく、成膜性にも優れているので、本発明の実施に好適である。
【0034】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物において、ポリ乳酸とポリビニルアルキルエーテルは、所望とする効果などに応じていろいろな配合比率で配合することができ、特に制限されるものではない。ポリ乳酸とポリビニルアルキルエーテルの配合比率は、好ましくは、約90:10〜60:40(重量部比)の範囲である。ポリ乳酸とポリビニルアルキルエーテルの配合比率は、さらに好ましくは、約80:20〜70:30(重量部比)の範囲である。ポリ乳酸の配合比率が90%を超えると、成形物、特にフィルムやシートが硬くなりすぎたり脆くなりすぎたりするであろう。反対にポリビニルアルキルエーテルの配合比率が40%を超えると、成形したフィルムやシートが軟化しすぎて、引張り強度が低下するおそれがある。
【0035】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、ポリ乳酸及びポリビニルアルキルエーテルに加えて1種類もしくは2種類以上の添加剤を任意に含有することができる。ポリ乳酸含有樹脂組成物に配合し得る添加剤は、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、充填材(フィラー)、顔料、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、発泡剤などを包含する。これらの添加剤の具体例を示すと、充填材は、例えば炭酸カルシウム、クレー、カーボンブラック、耐衝撃性コア/シェル型粒子などであり、また、顔料は、例えば酸化チタン、メタリック顔料、パール顔料などである。これらの添加剤は、本発明の効果に悪影響が出ない範囲で、任意の量で配合することができる。
【0036】
本発明によるポリ乳酸含有樹脂組成物は、成形していろいろな形態をもった物品(成形物)となすことができる。例えば、ポリ乳酸、ポリビニルアルキルエーテル及び添加剤を所要量で混合した後、例えばこれらの原料を溶媒に溶解して混合するかもしくは溶融混練して所要の組成をもったポリ乳酸含有樹脂組成物を調製した後、その樹脂組成物を射出成形法、押出ブロー成形法、押出延伸ブロー成形法、射出ブロー成形法、射出延伸ブロー成形法、熱成形法、圧縮成形法等によって成形物を製造することができる。また、インフレーション成形法、Tダイ成形法等によってフィルム状、シート状、板状の成形物を製造することができる。
【0037】
本発明では特に、成形物をフィルムあるいはシートの形で有利に提供することができる。ここで、フィルム及びシートは同義であり、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物由来の成形物が、通常、約5μm〜約3mmの厚さで成形された薄肉で矩形あるいはそれに類似する物品であることを意味する。本発明の樹脂フィルムあるいは樹脂シート(以下、「樹脂フィルム」という)は、必要に応じて、上記した厚さよりも大きいかもしくは小さい厚さを有していてもよい。
【0038】
本発明の樹脂フィルムは、好ましくは、ポリ乳酸及びポリビニルアルキルエーテルを上記した添加剤の存在もしくは不存在において溶融混練した後、得られた溶融混練物を任意の成形法によってフィルムに成形することによって有利に製造することができる。溶融混練法は、経済性や環境面の観点から好適であり、公知公用の混練技術、例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー等で各原料を固体状で混合する方法を採用することができる。溶融混練時の温度は、広い範囲で変更することができるというものの、通常、約160℃もしくはそれ以上の温度である。次いで、得られた溶融混練物をフィルムに成形する。ここで使用する成形法は特に限定されないというものの、一軸押出し成形、二軸押出し成形、流延法などが好適である。得られた樹脂フィルムは、先に説明したように、柔軟性、伸び特性、生分解性などに優れた基材として、多方面への応用が可能である。
【0039】
本発明の樹脂フィルムは、上述のような溶融混練法に代えて、溶液キャスト法でも有利に製造することができる。溶液キャスト法は、フィルムの成形に一般的に使用されているものと同様な手法にしたがって、ポリ乳酸及びポリビニルアルキルエーテルを必要に応じて使用される添加剤と一緒に適当な溶媒に溶解し、得られた樹脂溶液を適当な基材の上にキャストし、乾燥することによって実施することができる。
【実施例】
【0040】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0041】
〔材料〕
実施例及び比較例においてポリ乳酸含有樹脂組成物を調製するため、下記の材料を原料として使用した。
ポリ乳酸:
重量平均分子量=110,000、LACEA(登録商標;以下、表示を省略)H−100、三井化学社製;使用前に60℃の真空オーブン中で24時間以上乾燥させた。
PVME(ポリビニルメチルエーテル):
重量平均分子量=140,000、Lutonal(登録商標;以下、表示を省略)M40、BASF社製
PVEE(ポリビニルエチルエーテル):
重量平均分子量=3,200、Lutonal(登録商標;以下、表示を省略)A25、BASF社製
poly−EA(ポリエチルアクリレート):
重量平均分子量=310,000;エチルアクリレートの溶液重合を行い、シート状にコーティングした後に溶媒を除去した。
poly−nBA(ポリブチルアクリレート):
重量平均分子量=400,000;n−ブチルアクリレートの溶液重合を行い、シート状にコーティングした後に溶媒を除去した。
【0042】
〔物性の測定及び評価試験〕
実施例及び比較例におけるポリ乳酸含有樹脂組成物及び樹脂フィルムを評価するため、重量平均分子量の測定、ガラス転移点(Tg)の測定、動的粘弾性の測定、そして上降伏点応力及び破断点伸び率(引張り試験による)の測定を下記の手順で実施した。
【0043】
重量平均分子量の測定
配合前の各材料について、分子量測定ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。なお、GPC法は重量平均分子量の測定に広く用いられている方法であるので、ここでの測定手順の説明を省略する。測定結果は、上記した通りである。
【0044】
ガラス転移点(Tg)の測定
配合前の各材料及び配合後のポリ乳酸含有樹脂組成物について、示差走査型熱量計(EXSTAR6000型、セイコー電子工業社製)により、ガラス転移点(Tg)を測定した。
測定雰囲気:窒素気流下
測定方法:試料の熱履歴を消去するために、試料の温度を室温より200℃まで昇温させ(昇温速度:10℃/分)、この温度を5分間維持した。次いで、20℃/分で、200℃から試料のTgより十分に低い温度(−60℃〜−80℃)まで降温させ、この温度を10分間維持した。この時、ポリ乳酸含有樹脂組成物が結晶化してないことを確認し、この温度から250℃まで10℃/分で昇温させ、この際にガラス転移点を測定した。測定結果を下記の第2表及び第5表に記載する。
【0045】
動的粘弾性の測定
配合後のポリ乳酸含有樹脂組成物について、動的粘弾性測定装置(DVA−200S型、アイティー計測制御社製)により、引張りモードの動的粘弾性を測定した。
サンプルサイズ:短冊状(縦30mm×幅5mm×厚み約100μm)
測定条件:周波数10Hz、昇温速度10℃/分、チャック間距離20mm、測定温度領域−50℃〜100℃
柔軟性付与の目安とするため、貯蔵弾性率E'=1.0×10のときの温度を記録した。測定結果を下記の第2表及び第5表に記載する。
【0046】
引張り試験
作製した樹脂フィルムについて、引張り試験機(テンシロンRTC−1325A型、株式会社オリエンテック製)により、上降伏点応力及び破断点伸び率を測定した。
サンプルサイズ:短冊状(縦30mm×幅5mm×厚み約100μm)
測定条件:引張り速度10mm/分、チャック間距離20mm、測定温度=室温(25℃)
それぞれのサンプルについて3回の測定を行い、その平均値をもとめた。測定結果を下記の第3表及び第6表に記載する。
【0047】
比較例1
本例では、比較のため、ポリ乳酸の単独からなる樹脂フィルムを作製し、試験した。
下記の第1表に記載するように、ポリ乳酸樹脂(LACEA H−100)のみを原料として使用した。この樹脂のガラス転移点及び動的粘弾性を上記の手順で測定したところ、下記の第2表に記載するような測定結果が得られた。なお、下記に第2表には、参考のため、PVME、PVEE、poly−EA及びpoly−nBAについて測定したガラス転移点も記載されている。
【0048】
次いで、用意した原料の加熱溶融キャストを180℃の温度で実施し、膜厚約100μmの樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂フィルムから短冊状のサンプルを調製し、その上降伏点応力及び破断点伸び率を引張り試験機により上記の手順で測定したところ、下記の第3表に記載するような測定結果が得られた。
【0049】
実施例1〜6及び比較例2,3
比較例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、ポリ乳酸の単独から樹脂フィルムを作製することに代えて、下記の第1表に記載するように、異なる材料をいろいろな配合比率で混合することによって調製したポリ乳酸含有樹脂組成物から樹脂フィルムを作製した。なお、ポリ乳酸含有樹脂組成物は、第1表に配合組成を記載する材料をブラベンダーミキサー(回転速度50rpm、温度180℃)を用いて、10分間にわたって溶融混練することによって調製した。それぞれの樹脂組成物のガラス転移点及び動的粘弾性を上記の手順で測定したところ、下記の第2表に記載するような測定結果が得られた。
【0050】
次いで、調製したポリ乳酸含有樹脂組成物の加熱溶融キャストを180℃の温度で実施し、膜厚約100μmの樹脂フィルムを作製した。実施例1〜4において得られた樹脂フィルムから短冊状のサンプルを調製し、その上降伏点応力及び破断点伸び率を引張り試験機により上記の手順で測定したところ、下記の第3表に記載するような測定結果が得られた。なお、比較例2及び3について測定結果が示されていないが、これらの比較例のサンプルにはブリードアウトに原因するべたつきがあり、測定を実施できなかったからである。
【0051】
実施例7〜11
比較例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、ポリ乳酸の単独から樹脂フィルムを作製することに代えて、下記の第4表に記載するように、異なる材料をいろいろな配合比率で混合することによって調製したポリ乳酸含有樹脂組成物から樹脂フィルムを作製した。なお、ポリ乳酸含有樹脂組成物は、第4表に配合組成を記載する材料をクロロホルムに溶解し、5重量%クロロホルム溶液の形で調製した。
【0052】
次いで、調製したポリ乳酸含有樹脂組成物のクロロホルム溶液をキャストした。50℃の真空オーブン中で8時間乾燥させたところ、膜厚約100μmの樹脂フィルムが得られた。それぞれの樹脂フィルムのガラス転移点及び動的粘弾性を上記の手順で測定したところ、下記の第5表に記載するような測定結果が得られた。また、それぞれの実施例において得られた樹脂フィルムから短冊状のサンプルを調製し、その上降伏点応力及び破断点伸び率を引張り試験機により上記の手順で測定したところ、下記の第6表に記載するような測定結果が得られた。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
上記したガラス転移点の測定結果から理解されるように、PVME又はPVEEを配合したポリ乳酸含有樹脂組成物(実施例1〜11)は、ポリ乳酸の単独使用(比較例1)と比較してガラス転移点が低下しているので、柔軟性を発現している。一方、同様なポリ乳酸含有樹脂組成物であっても、poly−EA又はpoly−nBAを配合したポリ乳酸含有樹脂組成物(比較例2,3)は、ポリ乳酸のガラス転移点を低下させることなく、完全に2成分に相分離していることがわかった。
【0060】
また、柔軟性発現の効果は、上記した動的粘弾性の測定結果からも理解される。すなわち、PVME又はPVEEを配合したポリ乳酸含有樹脂組成物(実施例1〜11)は、ポリ乳酸の単独使用(比較例1)と比較してより低温で軟化するので、柔軟性の発現に寄与している。
【0061】
さらに、上降伏点応力の測定結果から理解されるように、PVME又はPVEEを配合したポリ乳酸含有樹脂組成物(実施例1〜4及び実施例7〜11)は、ポリ乳酸の単独使用(比較例1)と比較して上降伏点応力が低下するので、柔軟性の発現に寄与することができる。また、PVME又はPVEEを配合したポリ乳酸含有樹脂組成物(実施例1〜3及び実施例7〜10)の場合、破断点伸び率の上昇から理解されるように、伸び特性に優れている。
【0062】
以上のことから、本発明によるポリ乳酸含有樹脂組成物は、柔軟性及び伸び特性に優れたフィルムやシートを提供することができることがわかる。また、かかるフィルムやシートを基材として使用することで、各種用途への応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ乳酸、及び
(B)次式(I)に示す分子単位式を含むポリビニルアルキルエーテル:
−〔CH−CH(ОR)〕− …(I)
(上式において、Rは、アルキル基である)
を有するポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリビニルアルキルエーテルが、ポリビニルメチルエーテル又はポリビニルエチルエーテルである請求項1に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリ乳酸と前記ポリビニルアルキルエーテルの配合比率が、90:10〜60:40(重量部比)である請求項1又は2に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項4】
(A)ポリ乳酸、及び
(B)次式(I)に示す分子単位式を含むポリビニルアルキルエーテル:
−〔CH−CH(ОR)〕− … (I)
(上式において、Rは、アルキル基である)
を有するポリ乳酸含有樹脂組成物の成形物からなる樹脂フィルム。
【請求項5】
(A)ポリ乳酸、及び
(B)次式(I)に示す分子単位式を含むポリビニルアルキルエーテル:
−〔CH−CH(ОR)〕− … (I)
(上式において、Rは、アルキル基である)
を溶融混練し、
得られた溶融混練物をフィルムに成形する樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
(A)ポリ乳酸、及び
(B)次式(I)に示す分子単位式を含むポリビニルアルキルエーテル:
−〔CH−CH(ОR)〕− … (I)
(上式において、Rは、アルキル基である)
を含む溶液を溶液キャスト法によってフィルムに成形する樹脂フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−63456(P2007−63456A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253192(P2005−253192)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】