説明

ポリ乳酸系印刷用フィルムおよび印刷体並びに自動販売機内模擬缶用ラベル

【課題】 無溶剤型インキによる印刷適性、特に紫外線硬化型印刷インキ密着性に優れる特性を有すると共に、十分な耐ブロッキング性を有するポリ乳酸系の延伸フィルムを提供する。
【解決手段】ポリ乳酸系重合体を主成分とし、少なくとも2層からなる2軸延伸積層フィルムであり、少なくとも一方の表層は、結晶融解熱量(ΔHm−ΔHc)が4〜23J/gの範囲内のポリ乳酸系重合体から構成され、かつ、当該フィルムの80℃で200時間経過後の収縮率(%)が、長手方向および幅方向ともに−2%から3%の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動販売機内の広告等のディスプレイ用印刷フィルムに関するもので、特に、夏季の太陽光入射による熱変形が生じても、見栄えの低下が少ない、生分解性のポリ乳酸系印刷用フィルムおよび印刷体に関する。
また、インキ密着性、なかでも無溶剤型の紫外線硬化型インキまたは酸化重合型インキの密着性の良好な生分解性の乳酸系印刷用フィルムおよび印刷体に関する。
さらに当該ポリ乳酸系フィルム印刷体を用いた自動販売機内模擬缶用ラベルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋外で使用されている飲料やタバコ等の販売のための自動販売機は、国内で極めて多く利用されている。最近の自動販売機は、もちろん商品を販売するためのものであるが、一方で広告媒体の利用としての価値も見いだされている。具体的には、自動販売機の一部は、ガラスや透明なプラスチックにして、内部に販売促進のための広告ポスターやラベルを貼り付けている例がある。
【0003】
また、飲料品では缶入りやPETボトル入りで販売されているが、ユーザーが利用しやすいため、商品である缶やPETボトルが、自動販売機の内側に透明板を介してディスプレイされている例がある。かつては、実際に使用している缶を並べていたが、最近では夜間でもわかるように、透明なプラスチックシートに印刷し、その印刷体からなるラベルを枠にはめ込んで、缶のように見せ(以下、本発明においては「模擬缶用ラベル」という。また一般には「ダミーラベル」と称されることがある。)、中に電球のような照明具を入れて、内側から照らし、見栄えをよくしているものが使用されている例が数多くある。
【0004】
これらの印刷体に使用されている素材は、代表的には厚み100〜250μmの2軸延伸PETフィルムが使用されている。2軸延伸PETフィルムは、耐水性、強度、透明性に優れ、また融点は260℃以上、ガラス転移点も80℃近くある。また、このガラス転移点を越える温度でも、結晶性が高いので、大きな収縮率を示さない。実際、使用されているPETフィルムの熱収縮率は、100℃でも0.1%前後ときわめて低いものである。
【0005】
しかしながら、これらPETフィルムは石油由来原料からなる熱可塑性プラスチックである。石油由来原料からなるフィルムは近年、京都議定書に基づく排出二酸化炭素の削減や循環型材料導入の機運が高まる中でこれら石油由来原料からなるフィルムを焼却することは、その課題に反するものである。これら問題への対応としては、これらプラスチック類の積極的な再利用いわゆるマテリアルリサイクルやモノマーに解重合して再使用するケミカルリサイクルなどが行われているが、前段階での製品設計や種類ごとの分別が必要であり、PETボトル以外で大きな進展が見られないのが今日の現状である。
【0006】
これに対し、今注目され開発が進められているのがポリ乳酸からなる各種プラスチック製品である。ポリ乳酸は、植物から得られるデンプンから発酵・合成される技術が確立しており、炭素源は大気中の二酸化炭素である。したがって、これらポリ乳酸からなるプラスチック製品を燃焼しても、自然環境中に還元されるものであって、大気中の二酸化炭素の増減は実質ないとみなすことができる。さらに燃焼熱量はポリエチレンの半分以下であり、また生分解性プラスチックとして土中・水中で自然に加水分解が進行し、次いで微生物により無害な分解物となる。現在、ポリ乳酸を用いて成形物、具体的にはフィルム、シートやボトルなどの容器等を得る研究がなされている。
【0007】
ところで、ポリ乳酸の無延伸フィルムは、伸びが数%しかなく、脆い材料である。このため、無延伸フィルムは包装用、印刷・記録用としては、そのままでは実用性が低い。一方、ポリ乳酸を一軸延伸若しくは二軸延伸することにより、フィルムが配向して伸びが増大し、さらに熱処理することで熱収縮性を抑制した実用性の高いフィルムが得られることは既に特開平6−256480号公報(特許文献1)や特開平7−207041号公報(特許文献2)で開示されている。これらポリ乳酸系延伸フィルムは、従来から使用されているポリオレフィン類やポリスチレン系、アクリル系、芳香族ポリエステルに代わって使用することが期待されており、現在プラスチックフィルムの全使用量から比べればほんのわずかではあるが使用されつつある。
【0008】
しかしながら、これら延伸フィルムは結晶化しているので必ずしも印刷性に優れているとは言い難い。結晶化したポリ乳酸の表面のぬれ指数は低く、360μN/cm以下しかないのでインキの密着性は不利である。そこでコロナ処理やプラズマ処理のようにフィルム表面を酸化してぬれ性を向上させる方法がある。具体的には、これらの処理によりぬれ指数で420μN/cm以上にしたポリ乳酸フィルムのインキ密着性が向上していることがグラビア印刷をはじめとする溶剤含有型インキ等で観察されている。
【0009】
この溶剤含有型インキ印刷の場合において、溶剤による変形や膨潤による外観不良や印刷インキ密着性を改良する目的で、ポリ乳酸と乳酸/脂肪族ポリエステルの共重合体の混合系において、耐インキ溶剤性のある乳酸系ポリマーからなる基材層と印刷適性のある非結晶性の乳酸系ポリマーからなる溶剤受容層とを有した乳酸系ポリマー積層体からなる印刷用基材が提案されている(特許文献3:特開2002−103550号公報、および特許文献4:特開2003−94586号公報)。
この目的は結晶性基材層と非晶性の印刷層をもつ積層構成にしたときの耐溶剤性の違いを応用することで溶剤含有型インキの密着性を、表面処理を必要とせずに改良したものである。
【0010】
ポリ乳酸を溶解させる汎用溶剤としてはトルエン、酢酸エチル、MEK、THF等が挙げられ、これらを高い割合で含むグラビアインキ、例えばオレフィン用やPET用インキを用いた場合では、ポリ乳酸に対してはこれらに含まれる溶剤がフィルム表面を侵食し、そこへインキのバインダー樹脂が食いこむように密着しているものと推察される。
【0011】
【特許文献1】特開平6−256480号公報
【特許文献2】特開平7−207041号公報
【特許文献3】特開2002−103550号公報
【特許文献4】特開2003−94586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、溶剤のないもしくはほとんど使用されていない(無溶剤型)インキとなると密着性はグラビアインキ等の場合と異なる。本発明者は、種々の無溶剤型の代表的なインキである紫外線硬化型インキ、あるいは酸化重合型インキで結晶化したポリ乳酸系2軸延伸フィルムへの印刷を試してみたが、コロナ処理等の有無にかかわらずインキの密着性に優れないことがわかった。
【0013】
上記に挙げたディスプレイのための印刷用PETフィルムでは、フレキソ印刷方式あるいはオフセット印刷方式等で無溶剤型の紫外線硬化型インキあるいは酸化重合型インキを使用した印刷がされている。これはグラビア印刷等ではインキの厚塗りが難しく、上述したような内部から照明具で照らし出す模擬缶ラベルでは照度に比べて印刷柄が薄くて目立たなかったり、逆に日中の太陽光で照らされる場合においては表面に光沢がなく貧弱に見えたりするからである。さらに印刷物の扱いにおいては印刷柄に硬さがないので、流通過程での扱いやディスプレイを手作業で行う際に傷がつきやすい等の問題があるためでもある。しかしながら、同様に紫外線硬化型インキや酸化重合型インキを用いた上記方式でこれまでのポリ乳酸フィルムに印刷しても、インキの密着性が低く、印刷後のフィルムを輸送中のこすれなどで、容易にインキ層が脱落してしまう等の問題が生じた。
【0014】
さらに、前記の公知文献(特許文献3:特開2002−103550号公報、および特許文献4:特開2003−94586号公報)の構成では、印刷層は完全な非晶性(融点が観察されない)のため、ブロッキングの問題がある。これはこの印刷層の軟化はガラス転移点にのみ依存し、実際ポリ乳酸のガラス転移点近傍の50〜55℃程度でフィルム同士の融着、いわゆるブロッキングが起こる。さらに多湿下では40℃の温度下でもブロッキングする。印刷用基材としてのフィルムはロール状であり、もしくはカットされていわゆる枚葉品として数枚から数百枚単位で重ね合わせて取り扱われることが多く、該製品の夏場の流通・保管時においては40℃で相対湿度80%以上は想定される倉庫や自動車、船舶内の環境ではフィルム同士がブロッキングする不具合があった。
【0015】
さらに、先述したいわゆる自動販売機内のディスプレイ用印刷体として使用を試みたが、夏場の暑い時期では、太陽光が直接あたるような自動販売機では、透明板の内側はかなりの高温になるので、PETとは異なりポリ乳酸系重合体からなるフィルムでは、印刷体を押さえるホルダーから脱落したり、波打ちやしわとなって見栄えが悪くなる結果となった。
【0016】
そこで、本発明は、無溶剤型インキによる印刷適性、特に紫外線硬化型印刷インキ密着性に優れる特性を有すると共に、十分な耐ブロッキング性を有するポリ乳酸系の延伸フィルムを提供することを目的とする。
さらに、この発明は、上記、自動販売機用内ディスプレイ用印刷ラベルにおいて、収縮による変形やホルダーからの脱落がない印刷フィルムを提供するものでもある。また、当該ポリ乳酸系フィルム印刷体を用いた自動販売機内模擬缶用ラベルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)本発明のポリ乳酸系印刷用フィルムは、ポリ乳酸系重合体を主成分とし、少なくとも2層からなる2軸延伸積層フィルムであり、少なくとも一方の表層は、結晶融解熱量(ΔHm−ΔHc)が4〜23J/gの範囲内のポリ乳酸系重合体から構成され、かつ、当該フィルムの80℃で200時間経過後の収縮率(%)が、長手方向および幅方向ともに−2%から3%の範囲内であることを特徴とする。
(2)また本発明のポリ乳酸系フィルム印刷体は、上記(1)のポリ乳酸系印刷用フィルムに、無溶剤型インキによる印刷を施したことを特徴とする。
(3)本発明においては、前記無溶剤型インキが、紫外線硬化型インキであることができる。
(4)また、前記無溶剤型インキが、酸化重合型インキであることができる。
(5)さらに、本発明のポリ乳酸系フィルム印刷体は、自動販売機内ディスプレイ用として用いることができる。
(6)本発明の自動販売機内模擬缶用ラベルは、上記(2)〜(5)のいずれかに記載のポリ乳酸系フィルム印刷体を用いてなることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、自動販売機用内ディスプレイ用印刷フィルムにおいて、収縮による変形やホルダーからの脱落がないフィルムを得ることができる。
また、無溶剤型インキによる印刷適性、特に紫外線硬化型印刷インキの密着性あるいは酸化重合型インキの密着性に優れる特性を有すると共に、十分な耐ブロッキング性を有するポリ乳酸系フィルム印刷体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態を説明する。
【0020】
(自動販売機内模擬缶)
本発明のポリ乳酸系印刷用フィルムの用途として、特に好適に用いることができる自動販売機内の模擬缶について説明する。
図1は、本発明のポリ乳酸系印刷用フィルム2aにディスプレイ用の印刷2bを施してなる自動販売機内模擬缶用ラベル2を、缶状に固定するためのホルダー1に丸め込んで挿入し、フィルムの高い弾性を利用して保持しようとするものである。
また、図2は、自動販売機内模擬缶用ラベルの他の例を示すものであり、さらに缶の上部にも広告用の印刷3cを施す部分を設けた形態である。
もちろん、自動販売機内模擬缶用ラベルの形状やホルダーの形状はこれらに限定されるものではなく、また本発明のポリ乳酸系フィルム印刷体は、模擬缶用ラベルだけでなく、自動販売機内ディスプレイ用して用いられる種々の形態からなる印刷体に好適に適用できるものである。
【0021】
なお、ポリ乳酸系重合体からなるフィルムはPETと同等以上の高い弾性をもち、それ故、ポリ乳酸系重合体がPETに代替して使用できる性能を有する特徴でもあるが、夏場のように高温にさらされた場合、ガラス転移点を超える温度ではポリ乳酸系重合体フィルムの弾性は大きく低下し、さらにそれが長期にわたると、自身の収縮性と相まって波打ちやしわを生じる可能性がある。ここで、長期に使用を保証するには少なくとも80℃で数百時間以上、形状が保持されていることがひとつの指標となる。
【0022】
(ポリ乳酸系重合体)
上記ポリ乳酸系重合体は、乳酸を主成分とするモノマーを縮重合してなる重合体である。上記乳酸には、2種類の光学異性体のL−乳酸およびD−乳酸があり、これら2種の構造単位の割合で結晶性が異なる。例えば、L−乳酸とD−乳酸の割合がおおよそ80:20〜20:80のランダム共重合体では結晶性が無く、ガラス転移点60℃付近で軟化する透明完全非結晶性ポリマーとなる。一方、L−乳酸とD−乳酸の割合がおおよそ100:0〜80:20、又は20:80〜0:100のランダム共重合体は、結晶性を有する。その結晶化度は、上記のL−乳酸とD−乳酸の割合によって定まるが、この共重合体のガラス転移点は、上記と同様に60℃程度のポリマーである。このポリマーは、溶融押出した後、ただちに急冷することで透明性の優れた非晶性の材料になり、ゆっくり冷却することにより、結晶性の材料となる。例えば、L−乳酸のみ、また、D−乳酸のみからなる単独重合体は、180℃以上の融点を有する半結晶性ポリマーである。
【0023】
この発明にかかるポリ乳酸系重合体は、D−乳酸単位とL−乳酸単位との重合体であって、少量共重合成分として他のヒドロキシカルボン酸単位を含んでもよく、また少量の鎖延長剤残基を含んでもよい。
【0024】
重合法としては、縮重合法、開環重合法等公知の方法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸又はD−乳酸あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して、任意の組成を持ったポリ乳酸を得ることができる。
【0025】
また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必用に応じて重合調節剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸を得ることができる。
【0026】
ポリ乳酸に共重合される上記の他のヒドロキシカルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0027】
また、必要に応じ、少量共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族カルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールや、乳酸及び/又は乳酸以外のヒドロキシカルボン酸を用いてもよい。
【0028】
本発明において使用されるポリ乳酸系重合体の重量平均分子量の好ましい範囲としては6万〜70万であり、より好ましくは8万〜40万、特に好ましくは10万〜30万である。分子量が小さすぎると機械物性や耐熱性等の実用物性がほとんど発現されず、大きすぎると溶融粘度が高すぎ成形加工性に劣る。
【0029】
(結晶化度)
本発明においては、ポリ乳酸系重合体の結晶化度を相対的にあらわす指標として、結晶融解熱量(ΔHm−ΔHc)を用いる。
ΔHm、ΔHcは、フィルムサンプルの示差走査熱量測定(DSC)により求められるもので、ΔHmは昇温速度10℃/minでフィルムを昇温したときの全結晶を融解させるのに必要な熱量であって、重合体の結晶融点付近に現れる結晶融解による融解ピークの面積から求められる。また、ΔHcは、昇温過程で生じる結晶化の際に発生する発熱ピークの面積から求められる。
【0030】
ΔHmは、主に重合体そのものの結晶性に依存し、結晶性の大きい重合体では大きな値をとる。ちなみに共重合体のないホモのL−乳酸重合体では約50J/gとなる。また、ΔHcは、重合体の結晶性に対するその時のフィルムの結晶化度に関係する指標であり、ΔHcが大きい時は、昇温過程でフィルムの結晶化が進行する、すなわち重合体が有する結晶性を基準にフィルムの結晶化度が相対的に低かったことを表す。逆に、ΔHcが小さい時は、重合体が有する結晶性を基準にフィルムの結晶化度が相対的に高かったことを表わす。
【0031】
すなわち、(ΔHm−ΔHc)は、結晶化度の適度な重合体を使用して、適度な熱処理温度で制御することができる。例えば、結晶性の高い重合体と結晶性の低い重合体を混合して、制御することもできる。
【0032】
(層構成)
本発明にかかるポリ乳酸系印刷用フィルムは、ポリ乳酸系重合体を主成分とする少なくとも2層からなる2軸延伸積層フィルムである。
当該積層フィルム中の1つの層(以下、「第1層」と称する。)は、少なくとも印刷を施すための印刷受理層としての役目を担う層である。
また、当該積層フィルムの他の1つの層(以下、「第2層」と称する。)は、支持層の役目を担う層であり、結晶性のポリ乳酸系重合体から構成される。
【0033】
(第1層)
第1層を構成するポリ乳酸系重合体の結晶融解熱量(ΔHm−ΔHc)は4〜23J/gの範囲内であることが好ましい。
第1層は少なくとも印刷を施すための印刷受理層としての役目を担うものであり、当該第1層を構成するポリ乳酸系重合体中の結晶融解熱量が4J/g以上であれば、室温40℃、相対湿度80%程度になりうる夏期の倉庫内のような環境下で、結晶化度の低下に起因するフィルム同士のブロッキング等の問題が生じることがない。また、23J/g以下であれば、無溶剤型のインキ、特に紫外線硬化型インキや酸化重合型インキとの密着性を良好に設計することができる。
【0034】
第1層において、上記範囲の結晶融解熱量を達成するためには、適度な結晶性をもつポリ乳酸系重合体を選択し、かつ適正な温度下で熱処理することが必要である。
熱処理温度は、後述の第2層も含めて、フィルム全体の収縮変形を低減するように温度設定されるため、それに応じて適正なL−乳酸とD−乳酸の割合をもつポリ乳酸系重合体を選択する必要がある。
【0035】
本発明ではL−乳酸とD−乳酸の割合は90:10〜93:7にすることが好ましい。この場合、少なくとも120℃以上で熱処理を行うことによって本発明の結晶融解熱量の範囲内に達成させることができる。
【0036】
より好ましい(ΔHm−ΔHc)の範囲としては10〜18J/gの範囲内であり、耐ブロッキング性および紫外線硬化型インキの密着性の点でより優れたものになる。
【0037】
また第1層は、印刷受理層となるので、上記積層フィルムの少なくとも一方の最外層を構成することになる。
【0038】
(第2層)
第2層としては、上記のインキ密着性と耐ブロッキング性を兼ね備えた第1層を支持するための支持層であって、積層フィルム全体としての強度や収縮変形を防止できるものであれば、特に限定されるものではない。中でも優位に使用できる態様としては、第2層を構成するポリ乳酸系重合体の結晶化度を相対的にあらわす結晶融解熱量(ΔHm−ΔHc)は、27J/g以上とすることが好ましい。
本発明において、第2層は支持層となるので、この第2層を構成するポリ乳酸系重合体の結晶融解熱量が27J/g以上であれば支持層としての結晶化度が十分に高く、耐熱性を発揮できるため、加熱による収縮変形を生じることがない。特に29J/g以上であることがより好ましい。
【0039】
第2層において、上記範囲の結晶融解熱量を達成するためには、結晶性をもつポリ乳酸系重合体を選択し、かつ適正な温度下で熱処理することが必要である。ポリ乳酸系重合体を構成するL−乳酸とD−乳酸の割合は93:7〜100:0の範囲にあることが必要であり、かつ低くとも120℃以上で熱処理することが必要である。D−乳酸の割合が高いポリ乳酸系重合体を使用すると融解熱量ならびに融点は低下するので、相対的に熱処理温度は低く設定することになるが、この場合には結晶化度は低いものとなるので収縮変形しやすくなる。また、D−乳酸割合の低いポリ乳酸系重合体であっても熱処理温度が相対的に低いとやはり結晶化度は低く、熱変形しやすくなる。
好ましくは、D−乳酸割合が5%以下で、熱処理温度が130℃以上であることである。第2層を構成するポリ乳酸系重合体の結晶融解熱量は29J/gを上回り、熱収縮も120℃下で5%以下となる。
【0040】
なお、上記第1層を構成する結晶性ポリ乳酸系重合体、及び上記第2層を構成するポリ乳酸系重合体は、異なる2種類以上のポリ乳酸系重合体の混合体であってもよい。この場合、D−乳酸割合はそれぞれ2種類以上のポリ乳酸系重合体を構成するD−乳酸の配合割合から算出される平均値となり、融解熱量ΔHmはこれらの総和となる。
【0041】
(構成)
本発明にかかる積層フィルムの構成は、耐熱性の高い第2層を中間層に持ち、両面に印刷特性を有する第1層からなる第1層/第2層/第1層の3層構成が汎用性に優れる。また、第1層/第2層/第1層/第2層/第1層の5層構成、及び第1層/第2層/第1層/第2層/・・・/第1層の多層構成でもよい。また、フィルムのカールと耐熱性を考慮しつつ片面のみが印刷層となる第1層/第2層の2層構成、あるいは第1層/第2層/第1層/第2層の4層構成さらには第1層/第2層/・・・/第2層の多層構成でもよい。 これらの最終の多層フィルムの最外層を構成する第1層の好ましい厚みは、2μm以上、好ましくは5μm以上であり、そして、最終の積層フィルムとしての好ましい厚みの範囲は、10〜500μm、好ましくは15〜400μmである。
さらに模擬缶用ラベルとしての好ましい厚みの範囲は、フィルムの弾性を鑑み、100〜250μmである。
【0042】
なお、フィルムとは通常、狭義では100μm未満を称すことがあり、100μm以上ではシートと称すことがある。しかしながら、実際のところ明確に定義されているものではなく、本発明においてはすべてフィルムと表現する。
【0043】
さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で第1層/第2層間の各層の間に厚みが10μm以下、好ましくは5μm以下の接着剤層、接着用樹脂層、リサイクル樹脂層あるいは第1層と第2層の中間的な層を積層してあってもよい。
【0044】
また、第2層を構成する結晶性ポリ乳酸系重合体は、第1層を構成するポリ乳酸系重合体を含んだ混合体であってもよく、また、フィルム全層のリサイクルであってもよい。
【0045】
本発明で用いられる重合体には、フィルムの滑り性の向上や柔軟性を付与する目的で、先に記述したポリ乳酸との共重合成分として上げた脂肪族ポリエステルもしくは脂肪族・芳香族ポリエステルの単独重合体を混合してもかまわない。これらの重合体の重量平均分子量はおおよそ2万〜30万程度である。
【0046】
積層方法としては、通常に用いられる方法を採用することができる。例えば複数の押出機からフィードブロック式あるいはマルチマニホールド式にひとつの口金に連結するいわゆる共押出をする方法、巻き出した混合フィルムの表面上に別種のフィルムをロールやプレス板を用いて加熱圧着する方法がある。
【0047】
ポリ乳酸系重合体を主成分とする2軸延伸フィルムの製造方法としては、Tダイ、Iダイ、丸ダイ等から押し出ししたシート状物又は円筒状物を冷却キャストロールや水、圧空等により急冷し非結晶に近い状態で固化させた後、ロール法、テンター法、チューブラー法等により2軸に延伸する方法が挙げられる。
【0048】
通常2軸延伸フィルムの製造においては縦延伸をロール法で、横延伸をテンター法で行う逐次2軸延伸法、また縦横同時にテンターで延伸する同時2軸延伸法が一般的である。
【0049】
延伸条件としては、延伸温度55〜90℃、好ましくは65〜85℃、縦延伸倍率1.5〜5倍、好ましくは2〜4倍、横延伸倍率1.5〜5倍、好ましくは2〜4倍、延伸速度10〜100000%/分、好ましくは100〜10000%/分である。しかしながら、これらの適性範囲は重合体の組成や、未延伸シートの熱履歴によって異なってくるので、フィルムの強度、伸びを考慮しながら適宜決められる。
【0050】
ここで、本発明では自動販売機内で求められる耐熱性、具体的には80℃での収縮率を以下の範囲内に抑えることが重要である。
80℃で200時間経過での長手方向の収縮率(%)と幅方向の収縮率(%)はともに−2〜3%の範囲内であることが必要である(マイナス表記は膨張)。 かかる範囲内にフィルムがあると、熱変形による見栄えの低下を抑えることができる。例えば、ポスターのようなフラットな品では、フィルムが縦もしくは横にカールしたり、裏側をボードや壁に簡易的に貼り付けていた場合にでも浮きが発生することを抑えることがでる。また、模造缶用ラベルでは、枠から脱落したり、しわになることを抑制できる。より好ましい範囲としては、−1.5〜2%の範囲内である。
【0051】
上記範囲内を達成する好ましい製造条件としては、縦延伸温度は70〜85℃で縦延伸倍率が2〜4倍、および横延伸温度は72〜85℃、横延伸倍率2〜4.5倍である。また、フィルムの熱収縮を抑制する点においてはフィルムを把持した状態で熱処理することが必要である。通常テンター法では、クリップでフィルムを把持した状態で延伸されるので直ちに熱処理される。
【0052】
本発明を達成するためには、熱処理温度を130〜150℃、好ましくは135〜145℃の範囲内で行い、同時に−2〜4%程度の弛緩を行う(マイナス表記は幅出し)。熱処理ゾーンが数ゾーンある場合は段階的に温度設定を上昇させることもできるが、2段目以降のいずれかで上記温度範囲にすることが必要である。また、弛緩は最高熱処理温度に設定したゾーン内で行ってもよいし、その最高熱処理ゾーンを越えて、フィルムがガラス転移点よりも高いゾーン内で行ってもよい。フィルムがガラス転移点よりも上回っているゾーン内で弛緩処理をすることが重要である。弛緩温度は、フィルムのたるみ具合との兼ね合いもあるが、上記範囲の収縮率を達成するために弛緩率を決定する。好ましい設定範囲としては65〜150℃の範囲内であり、より好ましくは75〜135℃である。なお弛緩処理は、流れ方向および幅方向のどちらに行ってもよい。
【0053】
上記各層には諸物性を調整する目的で、熱安定剤、光安定剤、光吸収剤、滑剤、可塑剤、無機充填材、着色剤、顔料等を添加することもできる。使用する無機充填材としては、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、カオリン、クレー等があげられる。また、顔料としては酸化チタンが上げられる。酸化チタンは、白色用であり更に隠蔽性を得るために配合することが多い。配合部数としては、本発明の組成のポリ乳酸系重合体100質量部に対し、1〜35質量部含むとよく、好ましくは5〜20質量部含む。使用する酸化チタンの種類としてはアナターゼ型、ルチル型があり、どちらも使用することが可能であるが酸化チタン表面は光化学的に活性の高い物質であり、耐光性を考慮するなら後者もしくは表面処理行い失活したものを使用することが好ましい。なお、酸化チタンを配合した白色のシートは高隠蔽性をもった印刷シートとして有用である。
【0054】
ただし、本発明の自動販売機ディスプレイ用の模造缶用ラベルについては、内部に電球やLED等の照明灯を入れ込み、これら照明灯を点燈させて夜間でも見やすくする場合がある。よって、このような使用においては、フィルムの透明性をあらわすヘーズは10%以下が好ましい。フィルムへの印刷は裏側に施されることが多く、印刷の文字や図柄はフィルムを通して見ることとなるので、透明性の低い、すなわちヘーズで10%を上回るフィルムでは、文字通り霞んだ感がある。好ましいヘーズとしては8%以下であり、より好ましくは6%以下である。
【0055】
本発明における紫外線硬化型インキとは、紫外線光で硬化するインキの総称で、詳しくは文献「プラスチックのコーティング技術総覧」(材料技術研究協会編集、(株)産業技術サービスセンター発行、1989年初刊)の392ページおよび416ページに記載されている。組成としては顔料(染料)、オリゴマーおよびモノマー、光重合開始剤および促進剤、補助剤からなるインキである。オリゴマーおよびモノマーは本成分中で流動成分として働き、被印刷体に展着された後、紫外線ランプで光重合開始剤から発生するラジカルにより、硬化するものである。オリゴマーおよびモノマー種の含有する割合については、後述する印刷方式によって異なる。基本的には、粘度の調整目的以外で溶剤を含まないし、含んだとしても多くて10%程度で、グラビアインキに含まれるインキに比べれば、はるかに少ない。
【0056】
本発明における酸化重合型インキとは、上記文献の391ページに記載されているように、空気中の酸素によって重合・硬化性のある乾性油を主成分とするもので、他に顔料(染料)、重合促進剤、補助剤からなる。乾性油が流動成分として働き、印刷方式に応じて、粘度の調整がなされる。最近は、紫外線硬化成分と乾性油の両方を含む複合タイプもある。
なお、上記に記載する溶剤とは、主に有機溶剤のことを示し、上記文献の401ページに記載されているような、炭化水素類であるヘキサン、ヘプタン、エステル類である酢酸メチル、酢酸エチル、ケトン類であるアセトン、MEK等があり、これら単独もしくはこれらの混合物、アルコール類との混合物が挙げられる。重合・硬化性のあるモノマーやオリゴマー、油分は有機溶剤に含まれない。これらを用いる印刷方法としては、フレキソ印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷がある。後者ほどインキの粘度は高く設定される。
【0057】
本発明のフィルムは、特に前処理をしなくても有機溶剤のない紫外線硬化型インキあるいは酸化重合型インキを用いた印刷、ラミネート、コーティング等は行えるが、必要であれば表面処理を行ってもよい。表面処理としては、物理的な粗面化(凹凸)化処理、あるいは酸化処理等がある。粗面化処理の例としては、サンドブラスト処理、ヘアーライン加工処理がある。酸化処理の例としては、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線処理、クロム酸処理、火炎処理等が上げられる。その他、有機溶剤処理がある。ポリ乳酸系重合体の結晶化度による耐溶剤性の差異を利用して、良溶媒・貧溶媒を調整して、本発明のフィルム表面を侵食して粗面化する方法もある。良溶媒としては、トルエン、酢酸エチル、THF、MEK、DMF等があげられ、貧溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン等がある。
【0058】
なお、紫外線硬化型インキあるいは酸化重合型インキの中には、少量の有機溶剤を含有するものもある。これは、フィルムへの溶剤による密着性に寄与するものではなく、これらインキが硬化する前の流動性を調整する目的のもので、おおよそ20%以下の含有インキについては本発明でいう無溶剤型インキに含まれるものである。また、油分を含有するタイプもあるが、これも紫外線や熱による酸化で硬化樹脂成分として働く、もしくは補助する成分であるため、本発明では無溶剤型インキとして含む概念である。
【0059】
この発明によって製造されるポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムは、熱変形性が抑えられ、かつ無溶剤型、具体的には紫外線硬化型インキあるいは酸化重合型インキの密着性を兼ね備えたポリ乳酸系フィルムとなる。
【0060】
本発明のフィルムおよび該印刷体は、ポスターやラベルとして、特に屋外で使用されている飲料やタバコ等の自動販売機用の広告ポスターやラベル、さらには模造缶に使用することができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。まず、下記に、この実施例及び比較例における物性測定方法を示す。
【0062】
(1)延伸倍率
縦延伸倍率=縦延伸後のフィルムの流れ速度/縦延伸前の原シートの流れ速度
横方向の延伸倍率は、縦延伸前の原シート幅からテンターのクリップに把持する部分の幅を差し引いた値で、横延伸後に得られる幅からクリップに把持していた部分の幅を差し引いた長さを割り付けた値である。
横延伸倍率={(延伸後のフィルム幅)−(クリップが把持していた幅)}/
{(延伸前の原シート幅)−(クリップが把持していた幅)}
【0063】
(2)収縮率
フィルムの長手方向(MD)及び幅方向(TD)に沿ってそれぞれ長さ120mm、幅は30mmに切り出し、そのサンプルの長手方向(120mm長方向)に正確に100mm間隔で評点を描いておく。該サンプル80℃の温風中に200時間吊り下げて放置した後、その収縮後の評点間の寸法を計り、次式にしたがって熱収縮率を算出した。収縮率は延伸方向に沿って測定しており、本試験ではMD、TDともに試験方向となる。
収縮率(%)={(収縮前の寸法)−(収縮後の寸法)}×100/(収縮前の寸法)
【0064】
(3)ヘーズ
JIS K 7105に基づいて、フィルムのヘーズを3回測定し、その平均値を算出した。
【0065】
(4)紫外線硬化型インキの密着性および酸化重合型インキの密着性
フィルムに紫外線硬化型インキFDO藍G(東洋インキ製造(株)製)およびUVSTP紅((株)T&K TOKA製)をそれぞれRIテスター(石川島産業機械(株)製)にて0.3cc展色刷を行い、紫外線照射装置(型式:JVC−5035/1MNL06−HGO、ウシオ電機(株)製)を15cm高さで80w/cm空冷水銀灯1灯、通過速度30m/分の条件で行った。
また、フィルムをA4サイズに断裁し、印刷機RYOBI3302HA(リョービ社製)を使用して、酸化重合型大豆油インキタイプのナチュラリス100墨(大日本インキ化学工業(株)製)を1分間に30枚刷り上る速度設定で印刷した。
それぞれのインキ密着性は、印刷面にセロハンテープ(ニチバン(株)製エルパックLP−18)を貼り、セロハンテープの上から指で5回こすった。その直後、セロハンテープを一気に剥がし、インキがどれほど剥離したかを目視で観察した。評価は、全くインキの剥離しないものを5とし、完全に剥離するものを1とし、5段階評価した。
【0066】
(5)耐ブロッキング性
フィルムを40mm×50mmに2枚切り出し、印刷層にあたる面同士を重ね合わせた。さらに上下に約40mm×50mmの鏡面板を重ね合わせ、恒温恒湿器内に置いた。この鏡面板上に約5kgの重りをのせて放置した。試験温度と湿度の設定は、40℃/80%RHで行った。放置2日後、重ねあわせたフィルムの剥離具合を見た。すなわち、フィルム同士がくっつき、剥がしにくいものを不良として×、剥離の優れるものは良好として○とした。
【0067】
(6)結晶融解熱量(ΔHm−ΔHc)(J/g)
積層フィルムの印刷層と基材層を切片化して引き剥がし、結晶融解熱量ΔHm(J/g)および再結晶化熱量ΔHc(J/g)について熱測定した。測定はJIS K7122「プラスチックの転移熱測定方法」に従い示差走査熱量計(DSC)(商品名:DSC−7、パーキンエルマー社製)を使用した。なお試料量5〜15mgである。
【0068】
(7)自動販売機内テスト
得られたフィルムをA2サイズに断裁し、枚葉とし、次いで紫外線硬化型無色アンカーNo.9(T&K TOKA社製)を、続けて紫外線硬化型インキ161(T&K TOKA社製)を用いて印刷を行った。印刷は、墨、紅の2色を使用し、それぞれのラベル全面に印刷した。印刷機は、SpeedmasterCD74(HEIDELBERG社製)を使用した。それぞれのインキ密着性は、印刷面にセロハンテ−プ(ニチバン(株)製エルパックLP−18)を貼り、セロハンテープの上から指で5回こすった。その直後、セロハンテープを一気に剥がし、インキがどれほど剥離したかを目視で観察した。
そして、印刷後のシートをフィルムの長手方向(MD)に沿って134.5mm、幅方向(TD)に沿って98.5mmに打ち抜いて、ラベルとした。そして、図1に示す模擬缶用のホルダーの内側にフィルムを丸めて挟み込んだ。なお、模擬缶の高さ方向がフィルムの幅方向になる。次に、飲料缶用自動販売機のポリカーボネートの透明板で覆われた模擬缶のディスプレイ場所(内部に電球が入るタイプ)に設置した。期間は7月初頭から9月末の約3ヶ月まで設置した。その3ヶ月後のその模擬缶用ラベルの変化を目視し、変化を観察した。特に変化のないものを○、しわが発生したり、ラベルがホルダーからはみ出たり、脱落しているものを×とした。
【0069】
(8)総合評価
収縮率が長手方向および幅方向ともに−2%から3%の範囲内であり、各インキ密着性及び耐ブロッキング評価が、いずれも○のものを良好として○とし、1つでも範囲外もしくは×のあるものを不良として×とした。
【0070】
(積層体の構成樹脂)
積層体を構成する樹脂として、表1に示す第1成分単独、または、第1成分と第2成分との混合物を用いた。混合体の場合のD−乳酸割合は両者の質量分率から平均値として算出した。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
[実施例1]
第1層(印刷受理層)としてL−乳酸:D−乳酸=98.5:1.5の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)58℃のポリ乳酸(商品名:NatureWorks4032D、米国カーギル・ダウ社製)25質量%、L−乳酸:D−乳酸=88:12の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)56℃のポリ乳酸(商品名:NatureWorks4060D、米国カーギル・ダウ社製)75質量%を混合して、合計100質量部のポリ乳酸に乾燥した平均粒径1.4μmの粒状シリカ(商品名:サイリシア100、富士シリシア化学(株) 製)0.10質量部混合して58mmφの同方向二軸押出機にて、脱気しながら210℃でマルチマニホールド式の口金より表裏層として押出した。
【0074】
また、第2層(支持層)として上記L−乳酸:D−乳酸=98.5:1.5の構造単位を持つポリ乳酸重合体(商品名:NatureWorks4032D、米国カーギル・ダウ社製)100質量%を75mmφの同方向二軸押出機にて、上記口金より210℃で中間層として押出した。
【0075】
表層、中間層、裏層の厚み比は1:10:1になるよう溶融樹脂の吐出量を調整した。この共押出シートを約35℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。続いて長手方向に76℃で2.5倍のロール延伸、次いで、幅方向にテンターで74℃の温度で2.9倍に延伸した。テンターの熱処理ゾーンは等間隔の3ゾーンあり、順番に90、140、120℃に設定し、3ゾーン合わせての熱処理時間はおおよそ30秒になる。弛緩は熱処理の3ゾーン目で4%行った。最後に冷却して、熱処理したフィルムを作製した。フィルム厚みはおおよそ平均で150μmとなるように押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。フィルムの評価結果を表2に示す。
【0076】
[実施例2〜4及び比較例1、5〜7]
実施例1と同様にして、表1に示すように、L−乳酸とD−乳酸の異なるポリ乳酸系重合体(表1に記載の各樹脂に相当する。)を各々実施例1のようにして表層、中間層及び裏層にして所定の厚み比率になるよう押出し、2軸延伸後熱処理してフィルムを作製した。各フィルムの製膜条件ならびに評価結果を表2に示す。
【0077】
[実施例5]
第1層として、L−乳酸:D−乳酸=94.5:5.5の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)57℃のポリ乳酸系重合体(商品名:NatureWorks4050D、米国カーギル・ダウ社製)50質量%、L−乳酸:D−乳酸=88:12の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)56℃のポリ乳酸(商品名:NatureWorks4060D、米国カーギル・ダウ社製)50質量%を混合して、合計100質量部のポリ乳酸に乾燥した平均粒径1.4μmの粒状シリカ(商品名:サイリシア100、富士シリシア化学(株) 製)0.15質量部混合して58mmφの同方向二軸押出機にて、2層のマルチマニホールド式の口金より表層として210℃で押出した。
【0078】
また、第2層としてL−乳酸:D−乳酸=98.5:1.5の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)58℃のポリ乳酸重合体(商品名:NatureWorks4032D、米国カーギル・ダウ社製)75質量%、L−乳酸:D−乳酸=94.5:5.5の構造単位を持ち、ガラス転移点(Tg)57℃のポリ乳酸系重合体(商品名:NatureWorks4050D、米国カーギル・ダウ社製)25質量%を混合して100質量部とし、さらに乾燥した平均粒径1.4μmの粒状シリカ(商品名:サイリシア100、富士シリシア化学(株) 製)0.10質量部混合して75mmφ単軸押出機にて、210℃で上記口金より裏層として押出した。
【0079】
この積層体の厚み比率が表層:裏層が1:8になるように、溶融樹脂の吐出量を調整した。この共押出シートを約35℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。続いて長手方向に77℃で2.8倍のロール延伸、次いで、幅方向にテンターで78℃の温度で3.3倍に延伸した。テンターの熱処理ゾーンは等間隔の3ゾーンあり、順番に85、135、115℃に設定し、3ゾーン合わせての熱処理時間はおおよそ35秒になる。弛緩は熱処理の3ゾーン目で1%行った。熱処理したフィルムを作製した。フィルム厚みはおおよそ平均で200μmとなるように押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。フィルムの評価結果を表2に示す。
【0080】
[実施例6、及び比較例2〜4]
実施例5と同様にして、表1に示すように、L−乳酸とD−乳酸の異なるポリ乳酸系重合体(表1に記載の各樹脂に相当する。)を各々実施例1のようにして表層、中間層及び裏層にして所定の厚み比率になるよう押出し、2軸延伸後熱処理してフィルムを作製した。各フィルムの製膜条件ならびに評価結果を表2に示す。
【0081】
表1、表2の結果から明らかなとおり、実施例1〜6はすべての項目において良好であった。
一方、比較例1、2、3は収縮率が高く、自動販売機内テストにおいて模擬缶用ラベルの変形が見られた。なお、所定サイズのラベルの採取にあたって、縦と横を逆にして(すなわちフィルムのMD/TDを逆にして)ラベルを作製し、同様のテストを行ったが、やはり自動販売機内テストにおいて模擬缶用ラベルの変形を生じた。
また、比較例4,5は収縮率が大きく、印刷中にカールしてしまったため、自動販売機内テストは行わなかった。比較例6はインキの密着性は問題ないものの、ブロッキングを生じた。さらに比較例7はインキの密着性に劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は本発明の実施形態である自動販売機内模擬缶用ラベルを用いた模擬缶の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】図2は本発明の実施形態である自動販売機内模擬缶用ラベルの他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0083】
1 ホルダー
2、3 自動販売機内模擬缶用ラベル
2a、3a ポリ乳酸系印刷用フィルム
2b、3b、3c 印刷


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系重合体を主成分とし、少なくとも2層からなる2軸延伸積層フィルムであり、少なくとも一方の表層は、結晶融解熱量(ΔHm−ΔHc)が4〜23J/gの範囲内のポリ乳酸系重合体から構成され、かつ、当該フィルムの80℃で200時間経過後の収縮率(%)が、長手方向および幅方向ともに−2%から3%の範囲内であることを特徴とするポリ乳酸系印刷用フィルム。
【請求項2】
請求項1記載のポリ乳酸系印刷用フィルムに、無溶剤型インキによる印刷を施したことを特徴とするポリ乳酸系フィルム印刷体。
【請求項3】
前記無溶剤型インキが、紫外線硬化型インキであることを特徴とする請求項2に記載のポリ乳酸系フィルム印刷体。
【請求項4】
前記無溶剤型インキが、酸化重合型インキであることを特徴とする請求項2に記載のポリ乳酸系フィルム印刷体。
【請求項5】
自動販売機内ディスプレイ用として用いることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のポリ乳酸系フィルム印刷体。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載のポリ乳酸系フィルム印刷体を用いた自動販売機内模擬缶用ラベル。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−240112(P2006−240112A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60095(P2005−60095)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】