説明

ポリ乳酸系樹脂エマルション

【課題】 乾燥して得られる皮膜の耐水性が従来のものに比べて遜色なく、かつ有機溶剤を実質的に含有しないポリ乳酸系樹脂エマルションを提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸系樹脂(L)、可塑剤(A)及び水を含有してなり、下記(1)〜(3)を満たすポリ乳酸系樹脂エマルション;
(1)可塑剤(A)の含有量がポリ乳酸系樹脂(L)の重量に基づいて1〜40重量%である;
(2)揮発性有機溶剤の含有量が100ppm以下である;
(3)ポリ乳酸系樹脂エマルションを180℃で3時間乾燥して得られる膜厚0.2±0.1mmの乾燥皮膜の表面張力が20〜60mN/mである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂エマルションに関する。更に詳しくは、有機溶剤を実質的に含有しないポリ乳酸系樹脂エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は直植物由来原料から製造されるため、環境負荷の小さいプラスチックとして知られていることから、ポリ乳酸をコーティング剤や接着剤等に展開するため、ポリ乳酸エマルションに関する検討が行われている(例えば特許文献1及び2)。しかしながら、従来のポリ乳酸エマルションは、エマルションの製造に際して分散時にポリ乳酸を有機溶剤溶液とする必要があり、この有機溶剤が残存することから環境負荷の観点及び製造コスト面でも十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−204219号公報
【特許文献2】特開2001−11294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、乾燥して得られる皮膜の耐水性が従来のものに比べて遜色なく、かつ有機溶剤を実質的に含有しないポリ乳酸系樹脂エマルションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。即ち、本発明は、ポリ乳酸系樹脂(L)、可塑剤(A)及び水を含有してなり、下記(1)〜(3)を満たすポリ乳酸系樹脂エマルション;
(1)可塑剤(A)の含有量がポリ乳酸系樹脂(L)の重量に基づいて1〜40重量%である;
(2)揮発性有機溶剤の含有量が100ppm以下である;
(3)ポリ乳酸系樹脂エマルションを180℃で3時間乾燥して得られる膜厚0.2±0.1mmの乾燥皮膜の表面張力が20〜60mN/mである。
及び、ポリ乳酸系樹脂(L)及び可塑剤(A)、又はポリ乳酸系樹脂(L)、可塑剤(A)及び界面活性剤(S)を80〜160℃の温度条件下で分散機(B)を用いて、有機溶剤を使用せずに水中に分散させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のポリ乳酸系樹脂エマルションの製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリ乳酸系樹脂エマルションを用いることにより、乾燥して得られる皮膜の親水性が低く、耐水性に優れるポリ乳酸系樹脂の皮膜を得ることができる。また、本発明のポリ乳酸系樹脂エマルションは有機溶剤を実質的に含有しないことから、環境負荷が低く、コストパーフォーマンスに優れたポリ乳酸系樹脂エマルションを提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂(L)には、ポリ乳酸及び乳酸成分を50重量%以上含むコポリマーが含まれる。
乳酸成分を50重量%以上含むコポリマーとしては、乳酸と他のオキシカルボン酸とのコポリマー、及び乳酸、多価アルコールと多塩基酸とのコポリマー等が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂(L)は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0008】
ポリ乳酸系樹脂(L)の製造に用いられる乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸及び乳酸の環状二量体であるラクチドが挙げられる。
【0009】
ポリ乳酸系樹脂(L)の製造に用いられる乳酸以外の成分及び製造方法の具体例としては、以下の(1)〜(5)の特許文献に記載のもの等が挙げられる。
(1)米国特許5310865号(乳酸又は乳酸と脂肪族オキシカルボン酸の混合物を原料として、直接脱水重縮合する方法)
(2)米国特許2758987号[乳酸の環状二量体(ラクチド)を溶融重合する開環重合法]
(3)米国特許4057537号(乳酸と脂肪族オキシカルボン酸の環状二量体、例えばラクチドやグリコリドとε−カプロラクトンを、触媒の存在下、溶融重合する開環重合法)
(4)米国特許5428126号(乳酸、脂肪族二価アルコールと脂肪族二塩基酸の混合物を、直接脱水重縮合する方法)
(5)欧州特許公報0712880A2号(ポリ乳酸と脂肪族二価アルコールと脂肪族二塩基酸とのポリマーを、有機溶媒存在下に縮合する方法)。
【0010】
ポリ乳酸系樹脂(L)の製造方法は特に限定されず、上記方法に加えて、乳酸を触媒の存在下、脱水重縮合反応を行うことによりポリエステル重合体を製造するに際し、少なくとも一部の工程で固相重合を行っても良く、少量のトリメチロールプロパン及びグリセリン等の脂肪族多価アルコール、ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族多塩基酸並びに多糖類等の多価アルコール類を共存させて共重合させても良く、またジイソシアネート化合物等のような結合剤(高分子鎖延長剤)を用いて分子量を上げても良いし、ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及びジクミルパーオキシドのような過酸化物で架橋させてもよい。
【0011】
尚、ポリ乳酸は市場から入手することもでき、例えば、「レイシアH280」[三井化学(株)製]、「レイシアH440」[三井化学(株)製]、「レイシアH400」[三井化学(株)製]等を挙げることができる。
【0012】
ポリ乳酸系樹脂(L)の数平均分子量(以下、Mnと略記)や分子量分布は、実質的に成形加工が可能であれば特に制限されないが、Mnは、1,000〜100,000であることが好ましく、更に好ましくは1,500〜80,000、特に好ましくは2,000〜50,000である。Mnが1,000以上であると、エマルションを塗布して得られた成形体の耐水性が良好であり、100,000以下であると、樹脂の溶融粘度が低いため生産性が良好である。
【0013】
本発明のポリ乳酸系樹脂エマルションは可塑剤(A)を含有することにより、ポリ乳酸系樹脂(L)が可塑化されて水への分散性が向上し生産性が高くなり、また、可塑剤(A)の種類と量を適宜選択することにより、ポリ乳酸系樹脂エマルションを乾燥して得られる皮膜の表面張力を制御することができる。
可塑剤(A)としては、ポリ乳酸系樹脂(L)に対する可塑性があればよく、公知の可塑剤(特開2004−83631号公報、特開平11−35808号公報又は特開2007−246707号公報等に記載のもの)を使用することができる。具体的には、エステル系可塑剤(フタル酸ジオクチル、ジブチルセバケート等)、エーテルエステル系可塑剤(ポリエチレングリコールアジピン酸、トリエチレングリコールジアセテート、グリセリンエチレンオキサイド付加アセチル化物等)、ロジン変性物及びポリアルキレンオキシド金属塩等が挙げられる。
これらのうち、ポリ乳酸系樹脂エマルションの表面張力の制御のしやすさと生産性の観点から、エーテルエステル系可塑剤が好ましく、更に好ましくはグリセリンエチレンオキサイド付加アセチル化物である。
【0014】
可塑剤(A)の含有量はポリ乳酸系樹脂エマルションの固形分重量を基準として、通常1〜40重量%、好ましくは1.5〜20重量%、更に好ましくは2〜10重量%である。含有量が1重量%未満であると、エマルションの生産性が不良となり、40重量%を超えると、エマルション中のポリ乳酸成分含有率が低くなり、環境負荷が大きくなる。
【0015】
本発明において、エマルションの分散安定性を向上させる目的で更に界面活性剤(S)を添加してもよい。必要により使用する界面活性剤(S)としては、公知の界面活性剤、例えば特開2004−124059号公報に記載の界面活性剤[ノニオン性界面活性剤(ポリビニルアルコール及びポリラクチドポリエチレングリコールブロック化物等)、アニオン性界面活性剤(ポリカルボン酸塩及びポリスルホン酸塩等)及びカチオン性界面活性剤(1級アミン塩及び2級アミン塩等)]を使用することができる。
分散安定性の観点から、ポリラクチドポリエチレングリコールブロック化物、ポリカルボン酸塩が好ましい。
【0016】
界面活性剤(S)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂エマルションの固形分の重量に基づいて0.001〜10重量%が好ましく、更に好ましくは0.005〜5重量%、特に好ましくは0.01〜3重量%である。この範囲であると、ポリ乳酸系樹脂エマルションの分散安定性を更に容易に向上できる。
【0017】
本発明のポリ乳酸系樹脂エマルションは、必要により更に熱可塑性樹脂、架橋剤、顔料、顔料分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、劣化防止剤、安定化剤及び凍結防止剤等を1種又は2種以上含有することができる。
【0018】
熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂の含有量は、ポリ乳酸系樹脂エマルションの固形分重量を基準として、通常0〜50重量%、好ましくは0.1〜30重量%である。
【0019】
架橋剤としては水溶性又は水分散性のアミノ樹脂、水溶性又は水分散性のカルボジイミド、水溶性又は水分散性のポリエポキシド、水溶性又は水分散性のブロックドポリイソシアネート化合物及びポリエチレン尿素等が挙げられる。
架橋剤の含有量はポリウレタン樹脂エマルションの固形分重量を基準として、通常0〜30重量%、好ましくは0.1〜20重量%である。
【0020】
顔料としては、水への溶解度が1以下の無機顔料(例えば白色顔料、黒色顔料、灰色顔料、赤色顔料、茶色顔料、黄色顔料、緑色顔料、青色顔料及び紫色顔料及びメタリック顔料)及び有機顔料(例えば天然有機顔料合成系有機顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、顔料色素型アゾ顔料、水溶性染料からつくるアゾレーキ、難溶性染料からつくるアゾレーキ、塩基性染料からつくるレーキ、酸性染料からつくるレーキ、キサンタンレーキ、アントラキノンレーキ、バット染料からの顔料及びフタロシアニン顔料)等が挙げられる。顔料の含有量は、水性塗料の重量に基づいて通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
【0021】
顔料分散剤としては各種の界面活性剤[アニオン性、カチオン性、ノニオン性又は両性]及び高分子型乳化分散剤(Mn1,000〜20,000)が挙げられ、好ましいのは高分子型乳化分散剤である。顔料分散剤の含有量は、顔料の重量に基づいて通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下である。
【0022】
粘度調整剤としては増粘剤、例えば無機系粘度調整剤(ケイ酸ソーダやベントナイト等)、セルロース系粘度調整剤(メチルセルロール、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等:Mnは通常20,000以上)、タンパク質系(カゼイン、カゼインソーダ及びカゼインアンモニウム等)及びアクリル系(ポリアクリル酸ナトリウム及びポリアクリル酸アンモニウム等:Mnは通常20,000以上)、及びビニル系(ポリビニルアルコール等:Mnは通常20,000以上)が挙げられる。
【0023】
消泡剤としては、長鎖アルコール(オクチルアルコール等)、ソルビタン誘導体(ソルビタンモノオレート等)及びシリコーン系消泡剤(ポリメチルシロキサン及びポリエーテル変性シリコーン等)等が挙げられる。
【0024】
防腐剤としては、有機窒素硫黄化合物系防腐剤、有機硫黄ハロゲン化物系防腐剤等が挙げられる。
劣化防止剤及び安定化剤(紫外線吸収剤及び酸化防止剤等)としてはヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、ヒドラジン系、リン系、ベンゾフェノン系又はベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤又は酸化防止剤等が挙げられる。
凍結防止剤としては、エチレングリコール及びプロピレングリコール等が挙げられる。
【0025】
粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、劣化防止剤、安定化剤及び凍結防止剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂エマルションの重量に基づいて通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下である。
【0026】
本発明のポリ乳酸系樹脂エマルションを180℃で3時間乾燥して得られる膜厚0.2±0.1mmの乾燥皮膜の表面張力は通常20〜60mN/m、好ましくは30〜58、更に好ましくは40〜55である。この範囲であれば、ポリ乳酸系樹脂エマルションを乾燥して得られる皮膜の耐水性とポリ乳酸系樹脂エマルションの分散安定性を良好に維持することができる。
尚、表面張力はJISK6768(プラスチック−フィルム及びシート−ぬれ張力試験方法)に準拠して測定することができる。
【0027】
本発明のポリ乳酸系樹脂エマルションは、後述の通り、ポリ乳酸系樹脂(L)を水に分散させる際に揮発性有機溶剤を使用しないため、揮発性有機溶剤を実質的に含有しない。即ち本発明のポリ乳酸系樹脂エマルションの揮発性有機溶剤の含有量は通常100ppm以下、好ましくは、50ppm以下であり、更に好ましくは20ppm以下である。
本発明における揮発性有機溶剤とは、大気汚染防止法に定められる揮発性有機化合物であり、トルエン、キシレン及び酢酸エチル等が該当する。
尚、揮発性有機溶剤の含有量は、JISK5601−5−1(塗料成分試験方法−第5部:塗料中の揮発性有機化合物(VOC)の測定−第1節:ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定することができる。
【0028】
ポリ乳酸系樹脂エマルションの体積平均粒子径は、エマルションの流動性等の観点から好ましくは20〜10,000nm、更に好ましくは30〜5,000nm、特に好ましくは40〜3,000nmである。
尚、体積平均粒子径は、JIS Z8825−1:2001に準拠して、レーザー式粒度分布測定装置[例えば、「LA−920」、(株)堀場製作所製(分散媒:イオン交換水、測定温度:25℃]等により測定される。
【0029】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂エマルションの固形分濃度は、好ましくは10〜70重量%、更に好ましくは15〜60重量%である。
【0030】
本発明のポリ乳酸系樹脂エマルションは、ポリ乳酸系樹脂(L)、可塑剤(A)及び必要により使用される界面活性剤(S)を分散装置(B)を用いて、水中に分散させる過程において、加熱下でポリ乳酸系樹脂(L)を軟化させて目的とする微粒子まで分散させて製造される。
【0031】
ポリ乳酸系樹脂(L)を水中へ分散する工程における取扱い易さの観点から、ポリ乳酸系樹脂(L)の形状を0.2〜500mmの粒状又はブロック状にすることが好ましく、その大きさは、更に好ましくは0.5〜100mm、特に好ましくは0.7〜30mm、最も好ましくは1〜10mmである。
【0032】
ポリ乳酸系樹脂(L)の形状を粒状又はブロック状に調整する手段としては、例えば裁断、ペレット化、粒子化、或いは粉砕する等の手段を用いることができる。この粒状又はブロック状への調整は、水中或いは、水の非存在下において実施することができる。
例えば、シート状に圧延したポリ乳酸系樹脂(L)を角型ペレット機で処理して粒状にするという方法が例示される。
【0033】
本発明のポリ乳酸系樹脂(L)を水中に分散する分散装置(B)としては、回転式分散混合装置、超音波式分散機又は混練機等が上げられる。温度調整、粒状又はブロック状樹脂の供給及び分散能力等の観点から、回転式分散混合装置が好ましい。
【0034】
回転式分散混合装置の主たる分散原理は、駆動部の回転等によって処理物に外部から剪断力を与えて微粒子化し、分散させるというものである。また、は、常圧、減圧又は加圧下で稼働させることができる。
【0035】
回転式分散混合装置としては、例えばTKホモミキサー[プライミクス(株)製]、クレアミックス[エムテクニック(株)製]、フィルミックス[プライミクス(株)製]、ウルトラターラックス[IKA(株)製]、エバラマイルダー[荏原製作所(株)製]、キャビトロン(ユーロテック社製)及びバイオミキサー[日本精機(株)製]等が例示される。
【0036】
回転式分散混合装置を用いてポリ乳酸系樹脂エマルションを製造する際の回転数は、分散能力の観点から、通常100〜30000rpm、好ましくは500〜20000rpm、更に好ましくは1000〜10000rpmである。
【0037】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂(L)の劣化を抑制するためには、ポリ乳酸系樹脂(L)をその融点未満で水に分散させることが好ましい。
ポリ乳酸系樹脂(L)を水に分散させる際の温度は、通常80〜180℃、好ましくは90〜170℃、更に好ましくは100〜160℃、特に好ましくは120〜155℃である。
この範囲であれば、加水分解等によるポリ乳酸系樹脂の劣化を抑制できる。
【0038】
分散装置(A)に供給されるポリ乳酸系樹脂(L)、可塑剤(A)及び必要により使用される界面活性剤(S)と水との重量比は、目的とする水分散体の固形分濃度によって適宜選択されるが、ポリ乳酸系樹脂エマルションの固形分の重量に基づいく水の量が20〜900重量%であることが好ましく、更に好ましくは30〜500重量%、特に好ましくは50〜200重量%である。この範囲であると、ポリ乳酸系樹脂エマルションの分散安定性を更に容易に向上できる。
分散処理に当たっては、上記水の使用量の範囲で、ポリ乳酸系樹脂エマルションの固形分濃度が所望の値となる水の量を使用しても良いし、分散処理後に水を加えて固形分濃度を調整しても良い。
【0039】
また、ポリ乳酸系樹脂(L)と水を分散装置(B)で処理する時間は、分散体であるポリ乳酸系樹脂(L)の分解や劣化等を防ぐ観点から、通常10秒〜10時間、更に好ましくは1分〜3時間、最も好ましくは10〜60分である。
【0040】
本発明のポリ乳酸系樹脂エマルションは、水性塗料組成物、水性接着剤組成物、水性繊維加工処理剤組成物(顔料捺染用バインダー組成物、不織布用バインダー組成物、補強繊維用集束剤組成物、抗菌剤用バインダー組成物及び人工皮革・合成皮革用原料組成物等)、水性コーティング組成物(紙用コーティング組成物、フロアポリッシュ用組成物、防水コーティング組成物、撥水コーティング組成物、防汚コーティング組成物等)、吸水性ポリマー用フィラー、水性紙処理剤組成物及び水性インキ組成物等に広く使用することができるが、有機溶剤を含まず、耐水性が高いという特徴から、特に吸水性ポリマー用フィラー及び水性コーティング組成物として好適に使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を以て本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、部は重量部を意味する。
製造例1
撹拌装置及び温度制御装置付きのガラス製反応器に、「サンニックスGE−200」[分子量200のグリセリンエチレンオキサイド付加物:三洋化成工業(株)製]2000部を仕込み、無水酢酸3700部を反応温度60〜120℃に保持しながら、撹拌下に5時間かけて徐々に加えた。120℃で更に5時間反応させた後、徐々に減圧とし、過剰の無水酢酸と副生した酢酸を留去しながら140℃に昇温し、同温度で減圧下(30mmHg)、5時間更に留去して、可塑剤(a)3100部を得た。可塑剤(a)の酸価は0.1であった。
【0042】
実施例1
温度制御可能な耐圧容器にポリ乳酸36部[レイシアH−400:三井化学(株)製]、可塑剤(a)2部、カルボキシメチルセルロース1部、ポリカルボン酸塩[サンスパールPS−8:三洋化成工業(株)製]1部及びイオン交換水60部を仕込み、クレアミックス[エムテクニック(株)製]を用いて150℃で20分間、5000rpmで分散処理することでポリ乳酸エマルション(X−1)を得た。
【0043】
比較例1
温度制御可能な耐圧容器にポリ乳酸36部[レイシアH−400 三井化学(株)製]、カルボキシメチルセルロース1部、ポリカルボン酸塩[サンスパールPS−8:三洋化成工業(株)製]4部、酢酸エチル50部及びイオン交換水100部を仕込み、クレアミックス[エムテクニック(株)製]を用いて50℃で80分間、5000rpmで分散処理することでポリ乳酸エマルション(H−1)を得た。
【0044】
比較例2
温度制御可能な耐圧容器にポリ乳酸36部[レイシアH−400 三井化学(株)製]、カルボキシメチルセルロース1部、ポリカルボン酸塩[サンスパールPS−8:三洋化成工業(株)製]1部、イオン交換水100部を仕込み、クレアミックス[エムテクニック(株)製]を用いて50℃で80分間、5000rpmで分散処理することでポリ乳酸エマルション(H−2)を得た。
【0045】
実施例1、比較例1及び2のポリ乳酸エマルション(X−1)、(H−1)及び(H−2)について、以下の方法で測定した体積平均粒子径(Dv)、乾燥被膜の表面張力及び有機溶媒含有量の値を表1に示す。
【0046】
<体積平均粒子径(Dv)>
試料を、イオン交換水で固形分が0.01重量%となるよう希釈した後、光散乱粒度分布測定装置[ELS−8000(大塚電子(株)製)]を用いて測定した。
【0047】
<乾燥皮膜の表面張力>
乾燥後の皮膜の膜厚が0.2±0.1mmとなる量の試料を10cm×20cm×1cmのポリプロピレン製モールドに流し込み、180℃で3時間、順風乾燥機中で乾燥することで、乾燥皮膜を得た。得られた乾燥皮膜の表面張力をJISK6768(プラスチック−フィルム及びシート−ぬれ張力試験方法)に準拠して用意した試験用混合液を使用し、測定した。
【0048】
<有機溶媒含有量>
試料1gをイオン交換水8gと5重量%プロピレングリコール水溶液1gで希釈し、ガスクロマトグラフ[GC−2010{SHIMADZU(株)製}、使用カラム:DB−WAX]で測定した。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のポリ乳酸系樹脂エマルションは、水性塗料組成物、水性接着剤組成物、水性繊維加工処理剤組成物(顔料捺染用バインダー組成物、不織布用バインダー組成物、補強繊維用集束剤組成物、抗菌剤用バインダー組成物及び人工皮革・合成皮革用原料組成物等)、水性コーティング組成物(紙用コーティング組成物、フロアポリッシュ用組成物、防水コーティング組成物、撥水コーティング組成物、防汚コーティング組成物等)、吸水性ポリマー用フィラー、水性紙処理剤組成物及び水性インキ組成物等に広く使用することができるが、有機溶剤を含まず、耐水性が高いという特徴から、特に吸水性ポリマー用フィラー及び水性コーティング組成物として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂(L)、可塑剤(A)及び水を含有してなり、下記(1)〜(3)を満たすポリ乳酸系樹脂エマルション;
(1)可塑剤(A)の含有量がポリ乳酸系樹脂(L)の重量に基づいて1〜40重量%である;
(2)揮発性有機溶剤の含有量が100ppm以下である;
(3)ポリ乳酸系樹脂エマルションを180℃で3時間乾燥して得られる膜厚0.2±0.1mmの乾燥皮膜の表面張力が20〜60mN/mである。
【請求項2】
更に、界面活性剤(S)を含有する請求項1記載の水性ポリ乳酸系樹脂エマルション。
【請求項3】
可塑剤(A)が、エーテルエステル系可塑剤である請求項1又は2記載のポリ乳酸系樹脂エマルション。
【請求項4】
ポリ乳酸系樹脂(L)及び可塑剤(A)、又はポリ乳酸系樹脂(L)、可塑剤(A)及び界面活性剤(S)を80〜160℃の温度条件下で分散機(B)を用いて、有機溶剤を使用せずに水中に分散させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のポリ乳酸系樹脂エマルションの製造方法。

【公開番号】特開2011−148888(P2011−148888A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10611(P2010−10611)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】