説明

ポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法

【課題】鉛化合物含有使用済みPVCから鉛化合物を効率的に取り除くことができるポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法を提供する。
【解決手段】裁断したポリ塩化ビニル材料(PVC)を、PVCを析出させない量の水12を添加した極性良溶媒に溶解させて、溶解液中の鉛化合物を含む無機物をゲル化したPVCで凝集させると共にそのゲル状のPVCを沈澱させるPVC溶解工程11と、沈澱したゲル状のPVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離回収する遠心分離工程14からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル材料(PVC)に含まれる主として鉛化合物等の無機物を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、PVCには安定剤として、三塩基性硫酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、ステアリン酸鉛等の鉛化合物が使用されている。しかし最近環境負荷を低減する動きが活発化し、国内外でこれらを規制する法律や企業独自に規制する動きに伴い、特に鉛をはじめとする重金属の使用禁止が急務となっている。
【0003】
このような背景から、新規に製造されるPVCは鉛系安定剤を使用しない所謂非鉛化が進んでいる。
【0004】
一方これまで使用されてきたPVCには上述の鉛系化合物が含有されているのが一般的であり、これらを再利用する場合問題となる。
【0005】
PVCからゴミ、砂等の不純物を除く方法、他の材料との混合物からPVCを回収する方法、更にはPVCと同時に銅導体材料を回収する方法などが色々提案されているが(特許文献1〜4など)、鉛化合物をPVCより取り除く方法の例は殆どなく、特許文献5,6が非溶解微少固形物除去法として提案されている。
【0006】
この特許文献5,6の方法は、
(i)溶媒に溶解 → (ii)ろ過 → (iii)鉛分離(遠心分離) →
(iv)溶媒蒸発・回収 → (v)PVC回収
からなるものである。
【0007】
【特許文献1】特開平6−279614号公報
【特許文献2】特開平7−224186号公報
【特許文献3】特開平11−310660号公報
【特許文献4】特開2005−82664号公報
【特許文献5】特開2000−169625号公報
【特許文献6】特開2001−000946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した特許文献5,6の方法を含む、これまでの方法は、何れもPVCを溶媒に溶解後、そのまま遠心分離し、鉛化合物や炭酸カルシウムを含む非溶解微少固形物を分離するもので、回収されたPVC中に残存する鉛濃度については特に触れていない。
【0009】
2006年6月より施行された欧州のRoHS規制(特定有害物質の使用制限)では故意に使用しない不純物の閥値は鉛濃度1000ppmである。これらの値を達成するために、遠心分離のG値は15,000程度が必要であることから、回転数が速く連続運転は難しく、生産能力に劣っていた。
【0010】
そこで、本発明の目的は、鉛化合物含有使用済みPVCから鉛化合物を効率的に取り除き、汎用の連続式遠心分離機の遠心条件で回収PVC中の鉛含有量を1000ppm以下にすると共にトータルリサイクルシステムとして比較的安価なポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、裁断したポリ塩化ビニル材料(PVC)を極性良溶媒に溶解した溶液中にPVCを析出させない量の水を添加、もしくはあらかじめPVCを析出させない量の水を極性良溶媒に添加してPVCを溶解させ、その溶解液中の鉛化合物を含む無機物を、ゲル化したPVCで凝集させると共にそのゲル状のPVCを沈澱させ、沈澱したゲル状のPVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離回収することを特徴とするポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【0012】
請求項2の発明は、裁断したポリ塩化ビニル材料(PVC)を極性良溶媒に溶解した溶液中にPVCを析出させない量の水を添加、もしくはあらかじめPVCを析出させない量の水を極性良溶媒に添加してPVCを投入後、PVC、水、極性良溶媒からなる溶液を常圧下で、かつ上記極性良溶媒の沸点以下の条件で撹拌した後、ゲル状のPVCを沈澱させてPVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離回収する請求項1に記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【0013】
請求項3の発明は、PVCの極性良溶媒が、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、N−メチルピロリドンおよび塩化メチレン(ジクロロメタン)である請求項1に記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【0014】
請求項4の発明は、ゲル状のPVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を、ろ過、遠心分離、サイクロンまたはこれらの組み合わせで、分離回収する請求項1に記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【0015】
請求項5の発明は、PVCを析出させない量の水の組成が、純水または水酸化鉛、リン酸鉛を生成する化合物を含む請求項1に記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【0016】
請求項6の発明は、PVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離回収後、更に溶液と無機イオンを除去できるキレート溶液又はイオン交換樹脂と接触させることで、溶液中に残った鉛イオン、無機イオンを除去する請求項1〜4のいずれかに記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【0017】
請求項7の発明は、沈澱したゲル状のPVCを、再度極性良溶媒に溶解し、再度PVC中の鉛化合物を凝集させて、鉛化合物を含む無機物を分離回収するポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、PVCを溶解させた溶液から鉛化合物を効率的に分離・取り出すために、少量の水を添加することを特徴としており、鉛化合物を含む無機化合物が凝集し、PVCから鉛化合物の分離を容易なものとすることができる。回収PVC中に含有される鉛濃度1000ppm以下は勿論のこと200ppm以下にすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
図1は、本発明のフロー図を示したものである。
【0021】
図1において、本発明は、PVC裁断工程10、水12を加えてPVCを溶解するPVC溶解工程11、異物を除去19する第1ろ過工程13、鉛化合物を沈澱除去20する遠心分離工程14、イオン交換樹脂による鉛イオン除去工程15、貧溶媒21を加えてPVCを沈澱するPVC沈澱工程16、PVCを回収22する第2ろ過工程17、溶剤回収工程18からなっている。
【0022】
以下この各工程10〜18を説明する。
【0023】
PVC裁断工程10;
試料(PVC)の形状は、特に問わないが溶解速度を速めるため20mm角以下、できれば5mm角以下が望ましい。これを超える場合は、適当な装置により当該サイズ以下に裁断又は粉砕する。
【0024】
PVCを20mm以下に裁断するのは、PVCの比表面積を大きくするためで、溶解時間が短縮できるからである。
【0025】
PVC溶解工程11;
PVCを、あらかじめ適量の水を含んだTHF(テトラヒドロフラン;沸点66℃)、MEK(メチルエチルケトン;沸点79.5℃)、N−メチルピロリドン(沸点202℃)等の極性良溶媒中で加熱溶解する。この溶解は、試料1gに対して極性良溶媒を10〜30ccとなるように加え、また加熱は、極性良溶媒の沸点近くの温度で行うことで、PVCの溶解が促進される。
【0026】
溶媒に添加する水の量は、PVCが溶媒に溶解できる限界点の少し手前が望ましい。水を添加することで鉛化合物粒子は凝集し、少量のPVCがゲル状となって、高分子凝集剤として作用するが、水を添加しすぎると、PVCが溶媒に溶解することができなくなる。また、添加する水の量が少ないと、その凝集効果が薄れてしまう。そのため、水を添加した効果が見られ、PVCが溶解できる量が望ましい。
【0027】
このように、極性良溶媒中に多量の水を加えるとPVCが溶けなくなるので、本発明ではPVCが溶解する範囲で水を添加する。その量は、MEKを例にとるとMEK100ccに対し水4〜7ccである。
【0028】
このように極性良溶媒中に水を添加すると、鉛化合物の凝集が起こる。これは、水を添加することで溶媒中のイオン濃度が上昇、粒子表面の電気2重層が圧縮され、静電気的反発力が小さくなり、粒子の凝集が起こりやすくなると考えられる。
【0029】
また、溶極性良溶媒に水が含まれることで、溶解したPVCの一部がゲル状(固体と液体との中間的な状態)の高分子凝集剤として作用して鉛化合物が凝集するものと思われる。
【0030】
この効果のため、水を添加した場合、回収されるPVCの鉛濃度は低下するが、その回収率も低下するため、目的により水の添加量を選定する必要がある。
【0031】
例えば、極性良溶媒としてMEKを用いた場合、水の添加量が7ccを超えるとPVCの析出が起こってしまい、水の添加量が4cc未満では鉛化合物の凝集は起こるもののPVCの一部がゲル状にならないため、高分子凝集剤による鉛除去効果を得ることはできない。
【0032】
本発明においては、極性良溶媒に対する水およびPVCの添加順序については特に規定しないが、極性良溶媒に適量の水を加えてPVCを溶解させても、極性良溶媒にPVCを加えて溶解した溶解液に、PVCを析出させない量の水を添加してもいずれでもよい。
【0033】
また、極性良溶媒に対してPVCおよび水の両者を添加後においては、常圧下でかつ溶媒の沸点以下の条件で撹拌を行うのが好ましい。これは、加圧下、沸点以上の条件で撹拌を行うと、溶媒におけるPVCの溶解能力が高まり、水を添加した際のゲル状のPVCによる高分子凝集剤作用の効果が得られにくくなるためである。
【0034】
添加する液体に水を選定したのは、高価な薬剤を必要とせず、より安価に鉛化合物を除去できるためであり、水溶液であれば特に規定はしない。水の組成が水酸化鉛やリン酸鉛を生成する化合物を含む場合は、イオンとして存在する鉛を塩の生成により沈澱し易くするためである。
【0035】
第1ろ過工程13;
PVCの溶解により、組成物以外のゴミ・砂等の不溶解物をろ過で異物として除去19する。このろ過は、主に大きい粒子径の粒子や異物除去を目的に使用する。
【0036】
このろ過に使用する装置は、特に規定しないが、フィルタは、紙、ガラス、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、セラミック、金属等の極性良溶媒に侵されない材質のものを使用する。ろ過装置と遠心分離またはサイクロン等適当に組み合わせて目的を達成してもよい。
【0037】
遠心分離工程14;
水を加えたPVCの溶解液に遠心力をかけて、鉛化合物の凝集及びゲル状となったPVCで凝集された鉛化合物の沈澱除去20を行う。
【0038】
遠心分離工程14では、鉛化合物の凝集物及び鉛化合物を含むゲル状のPVCは沈殿物となり除去されるが、この場合、遠心分離工程14でのPVCの回収(溶解)率を上げるため、鉛化合物を凝集させたゲル状のPVCを、PVC溶解工程に戻し、新たなPVCと共に溶解して、再度鉛化合物を凝集させ濃縮するようにしてもよい。
【0039】
遠心分離装置はバッチ式でも連続式でも構わないが、量産性を考慮すると後者が望ましい。連続運転可能な遠心分離装置としては、例えば縦型分離板タイプ、横型デカンタ方式、縦型底部排出タイプなどが挙げられる。
【0040】
水添加後の溶液を遠心分離装置に連続的に投入し、鉛を含む無機化合物の比重が大きいことを利用することにより、連続的に鉛化合物を含む無機物とPVCの溶解した溶液を分離することができる。
【0041】
遠心分離装置のG値は特に定めないが、生産性、装置の価格などを考慮すると1000×G〜3000×Gが適している。
【0042】
これらの遠心分離装置は生産性や鉛の分離精度等を考慮し並列や直列に複数組み合わせることができる。
【0043】
サイクロンは遠心分離装置に比較するとG値が低い為分離能力はやや劣るが、遠心分離装置と組み合わせることにより効果が期待できる。例えば遠心分離装置の前処理に使用し、粒子径の比較的大きい物をまず分離除去した後、遠心分離装置により最終的に鉛化合物を含む細かい粒子を除去することができる。
【0044】
更には比較的長時間を要するが自然沈降と組み合わせてもよい。サイクロンの場合と同様、最初に自然沈降により比較的大きな粒子の非溶解微少固形物を除いた後、遠心分離装置により微少固形物を除くこともできる。
【0045】
前述のように水を添加することで、遠心分離条件は汎用の連続式遠心分離機の分離条件で行うことができる。当然、G値を上げ、遠心分離時間を長くすることでPVC中の鉛濃度は減少するが、低いG値、短い遠心分離時間でも同等の鉛濃度のPVCを得ることができる。
【0046】
MEKに水を添加しない場合は、試料投入量が少ないほうが溶液の粘度が低いため遠心分離後のPVC中の鉛濃度は低いが、水を添加して、少量ゲル状のPVCを沈澱させた場合は、試料投入量が多いほうが、高分子凝集剤として沈澱するPVCの量が多くなるため回収したPVC中の鉛濃度は低くなる。
【0047】
イオン交換樹脂による鉛イオン除去工程15:
無機物分離後の溶液(PVC+溶剤+水)を、イオン交換樹脂を用いて、PVCの溶解した溶液中に溶存している鉛イオンを除去する。
【0048】
ある種のイオン交換樹脂、例えばアンバーリスト15JWET(オルガノ株式会社)を使用することで、鉛化合物粒子の吸着が起こり、PVCの溶解した溶液から鉛化合物を除去することができる。これによりPVC中の鉛濃度は200ppm以下にすることも可能である。
【0049】
イオン交換樹脂は鉛イオンを除去できる陽イオン交換樹脂が良い。また、樹脂表面の官能基、樹脂の細孔の大きさ次第では、鉛化合物粒子を吸着させることができる。遠心分離を行ったPVCの溶解した溶液とイオン交換樹脂を接触させることで、PVC中の鉛濃度を200ppm以下にすることができる。
【0050】
またイオン交換樹脂を用いる代わりにキレート溶液を、溶液(PVC+溶剤+水)に加えて溶液中の鉛イオンをキレート化して鉛化合物を除去するようにしてもよい。
【0051】
PVC沈澱工程16;
上澄み(PVC+溶剤+可塑剤)溶液をPVCの貧溶媒21と接触させてPVCを沈澱させる。貧溶媒24としては、例えば水、メタノール、温水等である。
【0052】
第2ろ過工程17;
PVCを沈澱させた溶液をろ過し、PVCを回収22し、その後、乾燥により再生PVCを得ることができる。
【0053】
この第2ろ過工程17で、ろ過使用する装置は、特に規定しないが、フィルタは、紙、ガラス、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、セラミック、金属等の極性良溶媒に侵されない材質のものを使用する。
【0054】
溶剤回収工程18;
ろ液として残った溶剤と水から、PVCの極性良溶媒と貧溶媒を分離し、この分離した溶剤を極性良溶媒として、PVC溶解工程11に再利用する。
【0055】
極性良溶媒と貧溶媒の混合物から両者を分離回収する方法としては、一般的な蒸留法、比重差を利用した超遠心分離法、分離膜法、吸着法、塩析法などがある。
【実施例】
【0056】
次に本発明の実施例1〜4と比較例1〜5とを説明する。
【0057】
【表1】

【0058】
約5mm角に裁断した黒色PVC(鉛含有量2.6%)9〜30gを、常圧下、約80℃で300ccのMEKに水15cc添加した溶媒に溶解し、ろ過でPVC組成物以外のごみ・砂等の不溶解物を除去し、遠心分離装置に投入、所定の遠心条件で処理し、鉛化合物を含む無機物と、上澄み液(PVC+溶剤+水)とに分離する。
【0059】
実施例1〜4は、MEK300cc、水15ccとし、PVCを、30g(実施例1)、15g(実施例2、4)、9g(実施例3)とした。
【0060】
また比較例1〜5は、比較例1が、MEK300ccと水の添加無しでPVCを30g、比較例2が、MEK300ccと水の添加無しでPVCを15g、比較例3が、MEK300ccと水9ccでPVCを15g、比較例4がMEK300ccと水25ccでPVCを15g、比較例5が、MEK300ccと水15ccでPVCを15gとし、圧力を0.2MPa、110℃で溶解したものである。
【0061】
遠心分離条件は、1000×G1分間の遠心分離後、さらに2000×G5分間遠心分離した。
【0062】
遠心分離により、鉛化合物が濃縮したPVCの黒色物質が沈澱する。これはゲル状のPVCが高分子凝集剤として沈澱したものと考えられる。
【0063】
なお、実際の分離では、PVCの回収率を上げるため、この鉛化合物が濃縮したゲル状のPVCをPVCの溶解工程に戻してもかまわない。
【0064】
次に遠心分離で鉛化合物等の無機物を除去した後の溶液を、イオン交換樹脂処理する。
【0065】
このイオン交換樹脂処理は、実施例4のみイオン交換樹脂に接触させ、他の実施例と比較例は接触させないで、PVCの溶液中の鉛濃度を測定した。
【0066】
但し、実施例3は、PVC試料(9g)が少ないため、沈澱物量が少なく測定ができず、また比較例4は、PVCが全量、鉛化合物と共に沈澱して測定できなかった。
【0067】
イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂アンバーリスト15JWET(オルガノ株式会社)を使用した。所定の処理を行ったイオン交換樹脂15ccと遠心分離後の上澄み溶液約40ccを15分間撹拌、接触を行った。イオン交換樹脂との接触はイオン交換樹脂を充填したカラムを通した接触でもかまわない。
【0068】
前述の処理を行った上澄み液から20ccを採取し、貧溶媒と接触させ、PVCを析出、PVCを乾燥後、MEKと水とを除き、PVC(可塑剤を含む)を得た。
【0069】
PVCを湿式酸分解法により処理した後、ICP/AES法により鉛含有量を測定した。
【0070】
実施例1、2、3,4は、MEKに水を適当量添加したことにより、汎用の連続遠心分離機の遠心条件でPVC中の鉛濃度1000ppm以下を達成できた。
【0071】
特に遠心分離後、上澄み液をイオン交換樹脂と接触させた実施例4では、回収したPVC中の鉛濃度を200ppm以下にすることができる。
【0072】
比較例1及び2では、水を添加していないため、本発明による効果を得られていない。また、比較例3は水の添加量が少ないため(MEK100ccに対して3cc)、所望の鉛濃度を得ることができず、その鉛除去効果は不十分である。また、比較例4は、水の添加量が多いためPVCの析出が起こってしまう。
【0073】
よって、何れの比較例においても水の量が適当量でないので、汎用の連続式遠心分離機の遠心分離条件ではPVC中の鉛濃度を1000ppm以下にすることができない。また、比較例5は、PVCを、0.2MPa、110℃の条件で、300ccのMEKに水15cc添加した溶媒に溶解したものであり、加圧下、MEKの沸点以上としたため、PVCの溶媒への溶解作用が高まり、所望のゲル化PVCによる高分子凝集剤としての作用を得ることができず、PVCの鉛濃度1000ppm以下を達成することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施の形態を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0075】
11 PVC溶解工程
14 遠心分離工程
15 イオン交換樹脂による鉛イオン除去工程
18 溶剤回収工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裁断したポリ塩化ビニル材料(PVC)を極性良溶媒に溶解した溶液中にPVCを析出させない量の水を添加、もしくはあらかじめPVCを析出させない量の水を極性良溶媒に添加してPVCを溶解させ、その溶解液中の鉛化合物を含む無機物を、ゲル化したPVCで凝集させると共にそのゲル状のPVCを沈澱させ、沈澱したゲル状のPVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離回収することを特徴とするポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。
【請求項2】
裁断したポリ塩化ビニル材料(PVC)を極性良溶媒に溶解した溶液中にPVCを析出させない量の水を添加、もしくはあらかじめPVCを析出させない量の水を極性良溶媒に添加してPVCを投入後、PVC、水、極性良溶媒からなる溶液を常圧下で、かつ上記極性良溶媒の沸点以下の条件で撹拌した後、ゲル状のPVCを沈澱させてPVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離回収する請求項1に記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。
【請求項3】
PVCの極性良溶媒が、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、N−メチルピロリドンおよび塩化メチレン(ジクロロメタン)である請求項1に記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。
【請求項4】
ゲル状のPVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を、ろ過、遠心分離、サイクロンまたはこれらの組み合わせで、分離回収する請求項1に記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。
【請求項5】
PVCを析出させない量の水の組成が、純水または水酸化鉛、リン酸鉛を生成する化合物を含む請求項1に記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。
【請求項6】
PVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離回収後、更に溶液と無機イオンを除去できるキレート溶液又はイオン交換樹脂と接触させることで、溶液中に残った鉛イオン、無機イオンを除去する請求項1〜4のいずれかに記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。
【請求項7】
沈澱したゲル状のPVCを、再度極性良溶媒に溶解し、再度PVC中の鉛化合物を凝集させて、鉛化合物を含む無機物を分離回収するポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−96870(P2009−96870A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269147(P2007−269147)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】