説明

ポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備

【課題】ランニングコスト及び最終処分コストが共に安価となるポリ塩化ビフェニルで汚染された重金属を含むポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備を提供する。
【解決手段】PCB汚染物11を高温で処理し含まれる重金属を揮発させながらPCBをプラズマで分解するプラズマ分解装置12と、プラズマ分解装置12の排気中に含まれるダストを除去するダスト除去装置18を備えたポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備10において、ダスト除去装置18は排気中のダストを捕集し含まれる塩化水素及び重金属とをアルカリ性薬剤と反応させて除去し1次処理排気を排出する第1のバグフィルタ15と、1次処理排気中に残留するダストを捕集し残留する塩化水素及び重金属とをアルカリ性薬剤と反応させて除去し、PCB分解物、ダイオキシン類、及び未分解のPCBを活性炭に吸着させて除去し2次処理排気を排出する第2のバグフィルタ17とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビフェニルで汚染された重金属を含む汚染物を無害化処理するポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビフェニル(以下、単にPCBともいう)を含む汚泥、PCBが付着したウエス、蛍光灯安定器又は感圧複写紙といったPCBを含む工業製品等のPCB汚染物は、性状が多様でPCB含有率も一定しない。このため、PCB汚染物を、例えば、ドラム缶等の密閉容器に封入しそのままプラズマ分解装置(プラズマ溶融炉)に投入して無害化処理(熱分解)するシステムの実証試験が行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
ここで、プラズマ分解装置でPCBの無害化処理を行う際に、PCB汚染物中の塩化物からは塩化水素が発生し重金属は一部(例えば、鉛、カドミウム)が揮発して、ダスト(飛灰)と共に排気中に混入してプラズマ分解装置から排出される。更に、PCBの分解により発生した塩化水素、並びにPCB分解物、PCB分解物から熱重合により生成したダイオキシン類、及び未分解のPCBの1又は2以上を含む有害有機物質も排気中に混入してプラズマ分解装置から排出される。このため、プラズマ分解装置から排出する排気をダスト除去装置に引き込みダストを除去する際に、消石灰等のアルカリ性薬剤及び活性炭をダスト除去装置内に吹き込んで、例えば消石灰と排気中の重金属及び塩化水素とをそれぞれ反応させて重金属の水酸化物及び塩化カルシウムとして重金属及び塩化水素の捕集を行ない、有害有機物質を活性炭に吸着させることにより有害有機物質を除去している。
【0003】
【特許文献1】特開平11−190798号公報
【特許文献2】特開2000−2411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ダスト除去装置で捕集したダストにはアルカリ性薬剤と反応した重金属及び塩化水素、並びに有害有機物質が吸着した活性炭が含まれているため、捕集したダストを、例えば、埋め立て処分するためには、重金属に対しては溶出量が埋め立て基準値を満足するように薬剤による処理を行ない、活性炭に対しては有害有機物質を無害化する処理を行う必要が有り、ダストを最終処分するためのコストが上昇するという問題がある。一方で、プラズマ分解装置内に存在するスラグ浴の融解温度が上昇してスラグの流動性が低下するのを抑制するため、塩基度調整剤(例えば、炭酸ナトリウム、消石灰等アルカリ金属、アルカリ土類金属を含む物質)をプラズマ分解装置内に投入しているため、プラズマ分解装置のランニングコストも上昇するという問題がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、ランニングコスト及び最終処分コストが共に安価となるポリ塩化ビフェニルで汚染された重金属を含むポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備は、重金属を含むポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物を高温で処理して該重金属を揮発させると共に該ポリ塩化ビフェニルをプラズマで分解するプラズマ分解装置と、前記プラズマ分解装置から排出される排気中に含まれるダストを除去するダスト除去装置を備えたポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備において、
前記ダスト除去装置は、前記排気を引き入れ、アルカリ性薬剤の吸着層が予め形成された濾布を通過させ、前記ダストを捕集しながら該アルカリ性薬剤の吸着層中のアルカリ性薬剤と該排気中に含まれる塩化水素及び前記揮発した重金属とをそれぞれ反応させて除去し1次処理排気を排出する第1のバグフィルタと、
前記1次処理排気を引き入れ、アルカリ性薬剤及び活性炭の吸着層が予め形成された濾布を通過させて該1次処理排気中に残留するダストを捕集しながら該1次処理排気中に残留する塩化水素及び揮発した重金属と該吸着層中のアルカリ性薬剤とをそれぞれ反応させて反応物を形成すると共に、該1次処理排気中に存在する前記ポリ塩化ビフェニルの分解物、該分解物の一部から合成されたダイオキシン類、及び未分解の前記ポリ塩化ビフェニルのいずれか1又は2以上を含む有害有機物質を該吸着層中の活性炭に吸着させて該1次処理排気中から除去して2次処理排気を排出する第2のバグフィルタとを有する。
【0007】
本発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備において、前記第2のバグフィルタから取り出された前記ダスト、並びに前記反応物、前記有害有機物質を吸着した活性炭、及び未反応のアルカリ性薬剤を含んだ吸着層を、前記プラズマ分解装置内に供給するリサイクル流路が設けられていることが好ましい。
【0008】
また、本発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備において、前記プラズマ分解装置の下流側には、該プラズマ分解装置から排出される排気を急冷する冷却器が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1及び2記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備においては、第1のバグフィルタから取り出されたダスト及びアルカリ性薬剤の吸着層には活性炭が含有されていないので、活性炭に起因する有機物の処理、活性炭に吸着された有害物質の処理が必要ないため、ダスト及びアルカリ性薬剤の吸着層に含まれる重金属の水酸化物及び塩化物に対する処理を行なうことで、埋め立てとして最終処分することが容易に可能になる。また、第2のバグフィルタでは、活性炭の含有量を調整することにより1次処理排気中に含まれるポリ塩化ビフェニルの分解物を十分捕集することができるので、2次処理排気を清浄化すると共に2次処理排気中でダイオキシン類の合成を防止することが可能になる。
【0010】
特に、請求項2記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備においては、吸着層中の活性炭部分はプラズマ分解装置の熱源として、吸着層中のアルカリ性薬剤に由来するアルカリ金属分もしくはアルカリ土類金属分はプラズマ分解装置内のスラグ浴の塩基度調整剤としてそれぞれリサイクルすることができ、プラズマ分解装置のランニングコストを低減すると共に、有害有機物質を吸着した活性炭を安価に無害化処理することが可能になる。
【0011】
更に、プラズマ分解装置から排出される排気を急冷する冷却器を設けると、排気中に含まれるポリ塩化ビフェニルの分解物からダイオキシン類が合成されるのを防止することが可能になる。また、排気温度が低下することにより第1及び第2のバグフィルタの濾布の損傷を防止することができ、ダスト除去装置の運転を長期に渡って安定して行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備のブロック図、図2は同ポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備のプラズマ分解装置の断面図である。
【0013】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備10は、例えば、ペール缶又はドラム缶等の金属容器に封入された重金属(例えば、カドミウム、鉛)を含むPCBで汚染された汚染物11(以下、PCB汚染物11という)を高温で処理すると共にPCBをプラズマで分解するプラズマ分解装置12と、プラズマ分解装置12の下流側に設けられプラズマ分解装置12から排出されるダストを含む排気を急冷する冷却器13と、排気を引き入れアルカリ性薬剤の吸着層の一例である消石灰層が形成された濾布14を通過させながら排気中のダストを捕集して1次処理排気を排出する第1のバグフィルタ15及び1次処理排気を引き入れアルカリ性薬剤の一例である消石灰及び活性炭の吸着層が形成された濾布16を通過させながら1次処理排気中に残留するダストを捕集して2次処理排気を排出する第2のバグフィルタ17を備えたダスト除去装置18と、第2のバグフィルタ17から取り出された排出物をプラズマ分解装置12内に供給するリサイクル流路19を有している。以下、これらについて詳細に説明する。
【0014】
図2に示すように、プラズマ分解装置12は、PCB汚染物11を収容して、例えば、1400℃〜1600℃の炉内温度においてPCB汚染物11をプラズマにより溶融熱分解するプラズマ分解炉20と、プラズマ分解炉20内にPCB汚染物11投入する汚染物投入室21とを備えている。ここで、汚染物投入室21は、下流側がプラズマ分解炉20内に連通し、水平状態に保持された筒状の搬送部22と、搬送部22の中間部に設けられた開閉可能な第1の扉23と、下流側に開閉可能に設けられ水冷機能を備えた第2の扉25と、搬送部22の上流側に設けられPCB汚染物11が装入される図示しない装入口と、搬送部22の上流端部に設けられ装入口から装入されたPCB汚染物11を下流側に押し込むプッシャー26とを有している。
【0015】
このような構成とすることにより、金属容器に封入されたPCB汚染物11を封入された状態で装入口から汚染物投入室21の上流側に装入することができる。そして、第1の扉23と第2の扉25を開けてプッシャー26でPCB汚染物11を下流側に押し出すことにより、搬送部22を転がらせてプラズマ分解炉20内に投入することができる。
ここで、水冷機能を備えた第2の扉25を設けることにより、PCB汚染物11を装入口から汚染物投入室21の上流側に装入する際にプラズマ分解炉20内の気密性を保持することができると共に、汚染物投入室21の上流側に装入したPCB汚染物11及びプッシャー26等がプラズマ分解炉20内の高熱に曝されるのが防止できる。これによって、PCB汚染物11を汚染物投入室21に装入する際にプラズマ分解炉20内のガスが搬送部22を通過して装入口から排出されるのを防止し、PCB汚染物11を封入した金属容器が汚染物投入室21内で損傷して汚染物投入室21がPCB汚染物11で汚染されたり、プッシャー26が破損するのを防止できる。
【0016】
プラズマ分解炉20は、プラズマアークを発生させる炉で、例えば、2つのプラズマトーチ27、28が装着されている。ここで、プラズマトーチ27、28には、陽極と陰極とを具備した非移行型のプラズマトーチを用いている。これによって、PCB汚染物11に、例えば、コンクリートがら等の電気絶縁性のものが含まれていても効率的にプラズマアークを発生させることができる。また、プラズマトーチ27、28には、図示しないガス注入口が設けられ、陽極と陰極の間にガス(例えば、空気)を連続的に送ることができ、陽極と陰極の間のガスの温度を高温にすることができる。更に、プラズマトーチ27、28には、プラズマトーチ27、28を三次元(縦、横、及び高さの3方向)で自在に可動させる図示しない可動装置が設けられている。これによって、プラズマ分解炉20内のPCB汚染物11の処理状況に応じてプラズマトーチ27、28を移動させて、PCB汚染物11に対して選択的にプラズマを照射することができる。
【0017】
また、プラズマ分解炉20には図示しない傾動機構が設けられ、プラズマ分解炉20を傾動させることにより、プラズマ分解炉20の下部に形成したスラグ排出口30から溶融状態のスラグ31を取り出せるようになっている。そして、取り出されたスラグ31は、プラズマ分解炉20の下方に並べて配置されたスラグ回収容器32内に順次注入され、スラグ31が注入されたスラグ回収容器32は外部に向けて順次排出されるようになっている。
また、プラズマ分解炉20内で発生したダスト、揮発した重金属、PCB汚染物11の加熱分解で発生した塩化水素及びPCB分解物、並びに未分解のPCBを含む排気は、プラズマ分解炉20の上部の形成されたガス排出口33から外部に排出される。なお、スラグ31は、PCB汚染物11の中の土砂、金属、及びコンクリートがらのいずれか1又は2以上の不燃物がプラズマ分解炉20内で溶融して生じたもので、金属類、シリカ、アルミナ、及び酸化カルシウムのいずれか2以上を含んだ混合物である。
【0018】
冷却器13は、プラズマ分解炉20のガス排出口33から取り出した排気に対して水を噴霧する複数の水噴霧ノズルと、空気を噴射する複数の空気噴射ノズルとを有しており、冷却器13に流入した排気の温度を、例えば、200℃以下に急冷して排出することができる。排気の温度を200℃以下に急冷することによって、排気中のPCB分解物からダイオキシン類が生成するのを抑制できる。なお、冷却器13から排出される排気中の水分量は、冷却器13後段に設置する第1及び第2のバグフィルタ15、17で良好な運転ができるように湿度を調節している。
【0019】
第1のバグフィルタ15は、冷却器13から排出された排気を受け入れる排気収容容器34と、排気収容容器34内に設けられ排気を外側から内側に向けて通過させながら排気中に含まれるダストを捕集する濾布14とを有している。また、第1のバグフィルタ15は、消石灰槽35に貯留されている消石灰を排気収容容器34内に吹き込む図示しない消石灰噴射手段を備えている。消石灰噴射手段で消石灰を排気収容容器34内に吹き込みながら第1のバグフィルタ15に設けられた集塵機能を作動させることにより、吹き込んだ消石灰を濾布14の外側面に付着させることができ、濾布14の外側面に消石灰層を形成することができる。
これによって、外側面に消石灰層を予め形成させた濾布14を備えた第1のバグフィルタ15内に排気を導入すると、排気は消石灰層が形成された濾布14の外側面から内側面に向かって流れ、その際に、塩化水素の一部を消石灰と反応させて塩化カルシウムに、重金属の一部を消石灰と反応させて重金属の水酸化物にそれぞれ変化させて排気中から除去し、ダストの一部を濾布14表面の消石灰層に捕捉することができる。そして、第1のバグフィルタ15からは、ダストの残部、塩化水素の残部、重金属の残部、PCB分解物、ダイオキシン類、及び未分解のPCBを含む1次処理排気が通過して第2のバグフィルタ17に導入される。
【0020】
また、第2のバグフィルタ17は、第1のバグフィルタ15から導入された1次処理排気を受け入れる排気収容容器36と、排気収容容器36内に設けられ1次処理排気を外側から内側に向けて通過させながら1次処理排気中に含まれるダストの残部を捕集する濾布16とを有している。また、第2のバグフィルタ17は、消石灰槽35に貯留されている消石灰及び活性炭槽37に貯留されている活性炭を排気収容容器36内に混合状態で吹き込む図示しない混合物噴射手段を備えている。混合物噴射手段で消石灰及び活性炭の混合物を排気収容容器36内に吹き込みながら第2のバグフィルタ17に設けられた集塵機能を作動させることにより、吹き込んだ消石灰及び活性炭を濾布16の外側面に付着させることができ、濾布16の外側面に吸着層を形成することができる。
これによって、外側面に吸着層を予め形成させた濾布16を備えた第2のバグフィルタ17内に1次処理排気を導入すると、1次処理排気は吸着層が形成された濾布16の外側面から内側面に向かって流れ、その際に、塩化水素の残部を消石灰と反応させて塩化カルシウム(反応物)に、重金属の残部を消石灰と反応させて重金属の水酸化物(反応物)にそれぞれ変化させて1次処理排気中から除去し、PCB分解物、ダイオキシン類、及び未分解のPCBを活性炭に吸着させて1次処理排気中から除去し、更に、ダストの残部を濾布16に捕捉することができる。そして、第2のバグフィルタ17からは、清浄化された2次処理排気を排出することができる。
【0021】
一方、第1のバグフィルタ15から取り出される排出物は、ダスト、塩化カルシウム、重金属の水酸化物、及び未反応の消石灰を含み、PCB分解物、ダイオキシン類、及び未分解のPCBのいずれか1又は2以上を含む有害有機物質はほとんど含有されていない。このため、第1のバグフィルタ15から取り出される排出物を、重金属の不溶化処理等の処理によりポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備10から系外に搬出できる。また、第2のバグフィルタ17から取り出された排出物中には有害有機物質を吸着した活性炭が含まれているため、排出物(すなわち、ダストと、反応物、有害有機物質を吸着した活性炭、及び未反応の消石灰を含む吸着層)をリサイクル流路19を介してプラズマ分解炉20内に供給して、PCB汚染物11と共に処理を行う。
【0022】
続いて、本発明の一実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備10を使用したPCB汚染物11の処理方法について説明する。
図2に示すように、先ず、ペール缶に封入されたPCBで汚染された重金属を含むPCB汚染物11をプラズマ分解装置12の汚染物投入室21の装入口に装入する。装入されたPCB汚染物11は、第1の扉23と、第2の扉25を開けてプッシャー26で下流側に押し出す。下流側に押し出されたPCB汚染物11は、搬送部22を転がりながらプラズマ分解炉20内に投入される。PCB汚染物11がプラズマ分解炉20内に投入されると、すぐにプッシャー26を元の位置に戻し、続いて第2の扉25、第1の扉23の順に各扉25、23を閉じる。
【0023】
プラズマ分解炉20内に投入されたPCB汚染物11は、プラズマ分解炉20に装着されたプラズマトーチ27、28から発生するプラズマアークによって加熱され、PCB汚染物11中の土砂、金属、コンクリートがら等の不燃物は溶融してスラグ31となる。このため、プラズマ分解炉20内の底部には溶融したスラグ31によるスラグ浴が形成される。従って、PCB汚染物11の投入を継続して行ってプラズマ分解炉20内の底部にスラグ浴が形成されるような状態では、プラズマ分解炉20内に投入されたPCB汚染物11はスラグ浴に一部が浸漬されるため、スラグ浴に浸漬された部分はスラグ浴からの伝熱により溶融し、スラグ浴に浸漬されていない部分はプラズマアークで発生する高温ガスにより加熱されて溶融するので、PCB汚染物の溶融分解が効率的に行われる。
【0024】
そして、スラグ浴を形成するスラグ31量が多くなると、プラズマ分解炉20を傾動させて、スラグ排出口30からスラグ31をスラグ回収容器32内に排出する。なお、スラグ31が注入されたスラグ回収容器32は、スラグ回収容器32内にスラグ31が注入される都度、スラグ排出口30の下方位置から外部に向けて徐々に送り出されるようになっている。このため、スラグ回収容器32が外部に取り出された時点では、スラグ31がスラグ回収容器32内で固化した状態になっている。
【0025】
一方、PCB汚染物11が加熱される際に、PCB汚染物11中の不燃物の一部は蒸発してダストを形成し、PCB汚染物11中の重金属の一部も揮発して、それぞれプラズマ分解炉20内のガス中に混入する。更に、PCBの加熱分解で発生した塩化水素及びPCB分解物、並びに未分解のPCBもそれぞれプラズマ分解炉20内のガス中に混入する。そして、ダスト、重金属、塩化水素、PCB分解物、及び未分解のPCBが混入したプラズマ分解炉20内のガスはガス排出口33から排気として排出され、冷却器13に供給される。
【0026】
冷却器13に供給された排気は、水と空気で、例えば、200℃以下になるように急冷される。ここで、水は霧状に噴霧されるため、排気を急冷しながら水蒸気となって排気中に混入する。更に、空気が吹き込まれて、排気の温度を更に低下させると共に排気中の水分量を、例えば、40体積%以下になるように調整する。急冷された排気は冷却器13から排出されてダスト除去装置18の第1のバグフィルタ15に供給される。なお、プラズマ分解炉20から排出された排気の温度が200℃以下まで急冷されているので、排気中に含まれるPCB分解物からダイオキシン類が合成されるのが抑制できる。
【0027】
第1のバグフィルタ15に供給された排気は、消石灰層が形成された濾布14の外側面から内側面に向かって流れる。その際に、排気中のダストは濾布14に捕捉され、排気中に含まれる塩化水素の一部は消石灰と反応させて塩化カルシウムに変化して消石灰層内に固定される。また、排気中の重金属の一部も消石灰と反応して重金属の水酸化物に変化して消石灰層内に固定される。このため、第1のバグフィルタ15からは、ダストの残部、塩化水素の残部、重金属の残部、PCB分解物、及び未分解のPCBを含む1次処理排気が排出される。なお、PCB分解物から微量のダイオキシン類が合成されている場合は、合成されたダイオキシン類も1次処理排気に含まれた状態で排出される。そして、1次処理排気は第2のバグフィルタ17に供給される。
【0028】
ここで、所定の流量における第1のバグフィルタ15の入口側の圧力と出口側の圧力との差圧を計測して、差圧の値が予め設定した値を超えた場合、濾布14の内側に、例えば高圧(例えば、0.2〜0.7MPa)の空気を吹き込んで濾布14に捕捉されたダストを消石灰層と共に濾布14の外表面から浮き上がらせて排気収容容器34内に払い落す。そして、消石灰槽35に貯留されている消石灰を排気収容容器34内に吹き込んで濾布14の外側面に新たに消石灰層を形成する。なお、第1のバグフィルタ15に供給する排気中の水分含有量は外表面を保温することにより露点以上にしているので、排気収容容器34内に払い落されたダスト及び消石灰層は、排気収容容器34の底部に振動を与えることで容易に外部に排出することができる。ここで、消石灰層には、PCB量としては比較的少なく、その他には消石灰、塩化カルシウム、及び重金属の水酸化物が含まれるだけなので、重金属と塩化水素に関する処理を行うことで、取り出されたダスト及び消石灰層を、例えば、埋め立て用として最終処分することができる。
【0029】
第2のバグフィルタ17に供給された1次処理排気は、消石灰及び活性炭の吸着層が形成された濾布16の外側面から内側面に向かって流れる。その際に、1次処理排気中のダストは濾布16に捕捉され、1次処理排気中に含まれる塩化水素は消石灰と反応させて塩化カルシウムに変化して吸着層内に固定される。また、1次処理排気中の重金属も消石灰と反応して重金属の水酸化物に変化して吸着層内に固定される。更に、1次処理排気中のPCB分解物、ダイオキシン類(PCB分解物から合成された場合)、及び未分解のPCBは活性炭に吸着されて吸着層内に固定される。このため、第2のバグフィルタ17から排出される2次処理排気中には、PCBの分解物、ダイオキシン類(PCBの分解物から合成された場合)、及び未分解のPCBがほとんど含まれないので、そのまま大気中に放散することができる。
【0030】
ここで、所定の流量において第2のバグフィルタ17の入口側の圧力と出口側の圧力との差圧を計測して、差圧の値が予め設定した値を超えた場合、濾布16の内側に、例えば高圧の空気を吹き込んで濾布16に捕捉されたダストを吸着層と共に濾布16の外表面から浮き上がらせて排気収容容器36内に払い落す。そして、消石灰槽35に貯留されている消石灰及び活性炭槽37に貯留されている活性炭を排気収容容器36内に吹き込んで濾布16の外側面に吸着層を新たに形成する。なお、第2のバグフィルタ17に供給する1次処理排気中の水分含有量も外表面を保温して露点以上となっているので、排気収容容器36内に払い落されたダスト及び吸着層は、排気収容容器36の底部に振動を与えることで容易に外部に排出することができる。
【0031】
そして、外部に排出されたダスト及び吸着層は、リサイクル流路19を介してプラズマ分解炉20内に投入される。ここで、プラズマ分解炉20内に投入された吸着層中のカルシウム分(未反応の消石灰、塩化カルシウム)は塩基性調整剤として作用し、プラズマ分解炉20の底部に形成されているスラグ浴のスラグ31の流動性を大きくする。このため、スラグ浴により分解反応が促進されると共にプラズマ分解炉20を傾動させてスラグ排出口30からスラグ31をスラグ回収容器32内に注入する作業が容易になる。一方、プラズマ分解炉20内に投入された吸着層中の活性炭は、熱源として作用しプラズマ分解炉20内の温度を高温に保持するのに利用される。更に、活性炭が燃焼することにより、活性炭に吸着していたPCB分解物、ダイオキシン類(PCB分解物から合成された場合)、及び未分解のPCBを、安価に処理して無害化することができる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、プラズマ分解炉に、炉内の状況を観察できるカメラを設置してもよい。これによって、プラズマトーチを移動させてPCB汚染物に効率的にプラズマを照射することができる。また、ペール缶に封入した状態のPCB汚染物を処理する場合について説明したが、ペール缶より大きな容器を使用する場合でも適用することができる。更に、プラズマ分解装置をプラズマトーチを装着したプラズマ分解炉で構成したが、PCB汚染物に含まれる重金属を揮発させながらプラズマを発生させてPCBを分解する機能を備えた装置であればプラズマ分解装置として使用することができる。
第2のバグフィルタに形成する吸着層を消石灰と活性炭の混合物を濾布に付着させることにより形成したが、消石灰と活性炭を交互に濾布に付着させて吸着層を消石灰及び活性炭の各層から構成される多層構造とすることもできる。また、アルカリ性薬剤として消石灰を使用したが、消石灰の代りに生石灰、炭酸ナトリウムを使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備のブロック図である。
【図2】同ポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備のプラズマ分解装置の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10:ポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備、11:PCB汚染物、12:プラズマ分解装置、13:冷却器、14:濾布、15:第1のバグフィルタ、16:濾布、17:第2のバグフィルタ、18:ダスト除去装置、19:リサイクル流路、20:プラズマ分解炉、21:汚染物投入室、22:搬送部、23:第1の扉、25:第2の扉、26:プッシャー、27、28:プラズマトーチ、30:スラグ排出口、31:スラグ、32:スラグ回収容器、33:ガス排出口、34:排気収容容器、35:消石灰槽、36:排気収容容器、37:活性炭槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を含むポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物を高温で処理して該重金属を揮発させると共に該ポリ塩化ビフェニルをプラズマで分解するプラズマ分解装置と、前記プラズマ分解装置から排出される排気中に含まれるダストを除去するダスト除去装置を備えたポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備において、
前記ダスト除去装置は、前記排気を引き入れ、アルカリ性薬剤の吸着層が予め形成された濾布を通過させ、前記ダストを捕集しながら該アルカリ性薬剤の吸着層中のアルカリ性薬剤と該排気中に含まれる塩化水素及び前記揮発した重金属とをそれぞれ反応させて除去し1次処理排気を排出する第1のバグフィルタと、
前記1次処理排気を引き入れ、アルカリ性薬剤及び活性炭の吸着層が予め形成された濾布を通過させて該1次処理排気中に残留するダストを捕集しながら該1次処理排気中に残留する塩化水素及び揮発した重金属と該吸着層中のアルカリ性薬剤とをそれぞれ反応させて反応物を形成すると共に、該1次処理排気中に存在する前記ポリ塩化ビフェニルの分解物、該分解物の一部から合成されたダイオキシン類、及び未分解の前記ポリ塩化ビフェニルのいずれか1又は2以上を含む有害有機物質を該吸着層中の活性炭に吸着させて該1次処理排気中から除去して2次処理排気を排出する第2のバグフィルタとを有することを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備。
【請求項2】
請求項1記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備において、前記第2のバグフィルタから取り出された前記ダスト、並びに前記反応物、前記有害有機物質を吸着した活性炭、及び未反応のアルカリ性薬剤を含んだ吸着層を、前記プラズマ分解装置内に供給するリサイクル流路が設けられていることを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理設備。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−244958(P2007−244958A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69630(P2006−69630)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】