説明

ポンプの羽根車取り外し方法

【課題】ポンプの羽根車を主軸から取り外す際に、カジリ傷の発生を抑制できるポンプの羽根車取り外し方法を提供することである。
【解決手段】ポンプを駆動するモータを取り外した後に、ポンプを収納したバレルからポンプを吊り上げ、バレルの外部でポンプの羽根車を主軸から取り外すにあたり、ポンプをバレルから所定位置だけ吊り上げた状態でバレル内の水を排水し、バレル内の排水後に水と弱アルカリ性の洗浄剤とを注入しポンプの羽根車の取付部を洗浄剤溶液で浸漬させ温水循環をし、バレル内の洗浄剤溶液を所定温度範囲で所定時間以上加温した後にポンプを吊り上げてバレルの外部の所定場所に横置きし、羽根車の取付部に洗浄剤溶液をジェット噴射しながら羽根車を取り外す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプを収納したバレルからポンプを吊り上げ、バレルの外部でポンプの羽根車を主軸から取り外すポンプの羽根車取り外し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多段竪型のポンプは主軸に複数の羽根車が取り付けられて構成されている。多段竪型のポンプとしては、例えば、発電所で用いられる復水ポンプがある。復水ポンプは、所定期間ごとに分解して、付着したスケールを除去したり、軽微な傷を補修したりして手入れをしている。その際には、羽根車を主軸から取り外すことになる。
【0003】
この場合、スケールやスラッジが付着しているものや、主軸に軽微の軸曲がりが発生しているものは、主軸から羽根車を引き抜く際に羽根車がうまく引き抜けないことがある。また、主軸から羽根車を引き抜く際に異物の噛み込みがあると、分解時に大きな引き傷(カジリ傷)を発生させることになる。
【0004】
ポンプ分解時に、主軸を傷付けたり、破損させたり、変形等させたりしないよう、主軸は羽根車等の部材を引き抜く方向に向けて段階的に直径を細くしており、両端は小径に、中心部は大径となるよう形成されており、部材の分解組立を容易にしている。しかし、主軸に部材を取り付ける際に、主軸の直径が変化する段差部分において主軸を損傷させるおそれがあるため、段差部分の小径部に外径が大径から小径へ変化するように傾斜したリング状の養生部材をその大径側が主軸の大径側となるように取り付け、主軸に対して筒状の部材を嵌め込み分解組立されるようにしたものがある。
【0005】
(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ポンプの分解時に、主軸に焼き嵌め固定した羽根車を容易に抜き取れるようにしたものとして、カウンタをガイドロッドの他端側から一端側へ向けてスライド移動させてストッパに衝突させることにより、羽根車に抜取方向の衝撃力を加えるようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−248989号公報
【特許文献2】特開2000−337298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のものでは、ポンプを吊り込む際には、軸を傷付けたり、破損させたり、さらには変形させたりすることを防止できるが、羽根車を主軸から取り外す際に生じる傷については考慮がないものである。また、特許文献2のものでは、焼き嵌め固定した羽根車を容易に抜き取れるが、羽根車を主軸から取り外す際に生じる傷については考慮がないものである。
【0009】
曲がった軸のポンプを分解する場合や、羽根車と主軸との間に異物が噛み込むとカジリ傷を起こしていた。このカジリ傷が小さな引き傷であれば、手入の範疇で自力対応できるが、大きな引き傷はメーカ持ち込みで処置をしなくてはならない。また、このカジリ傷が深いと新品の軸への交換が必要となる。このように、ポンプ自体の耐用年数に満たないのに、羽根車と主軸との分解時の軸の損傷により、大きな費用が発生してしまうことがあった。
【0010】
本発明の目的は、ポンプの羽根車を主軸から取り外す際に、カジリ傷の発生を抑制できるポンプの羽根車取り外し方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明に係るポンプの羽根車取り外し方法は、ポンプを駆動するモータを取り外した後に、前記ポンプを収納したバレルから前記ポンプを吊り上げ、前記バレルの外部で前記ポンプの羽根車を主軸から取り外すポンプの羽根車取り外し方法において、前記ポンプを前記バレルから所定位置だけ吊り上げた状態で前記バレル内の水を排水し、前記バレル内の排水後に水と弱アルカリ性の洗浄剤とを注入し前記ポンプの羽根車の取付部を洗浄剤溶液で浸漬させ、前記バレル内の洗浄剤溶液を所定温度範囲で所定時間以上加温した後に前記ポンプを吊り上げて前記バレルの外部の所定場所に横置きし、前記羽根車の取付部に前記洗浄剤溶液をジェット噴射しながら前記羽根車を取り外すことを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明に係るポンプの羽根車取り外し方法は、請求項1の発明において、前記洗浄剤は、過炭酸ナトリウムであることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明に係るポンプの羽根車取り外し方法は、請求項1または2の発明において、前記バレル内の洗浄剤溶液を加温する所定温度範囲は、10℃〜65℃であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、ポンプの羽根車の取付部を弱アルカリ性の洗浄剤溶液で浸漬させ、所定温度範囲で所定時間以上加温した後にポンプをバレルの外部の所定場所に横置きし、羽根車の取付部に洗浄剤溶液をジェット噴射しながら羽根車を取り外すので、カジリ傷を生じることなく安全に主軸から羽根車を取り外しできる。カジリ傷を生じないことから新品の主軸に取り替える必要がなくなるので、コストダウンを図ることができる。また、弱アルカリ性の洗浄剤を使用するので、ポンプ本体の主軸や羽根車など構成部品やバレル、周囲の配管系統に対して洗浄剤による酸腐食等の悪影響を防止できる。
【0015】
請求項2の発明によれば、洗浄剤として過炭酸ナトリウムを用いるので、安価に入手でき取り扱いも簡単である。
【0016】
請求項3の発明によれば、バレル内の洗浄剤溶液を10℃〜65℃の範囲で加温するので、洗浄効果を高めることができ、また、ポンプ本体やバレルや周囲の配管系統に対しても熱ストレスを与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るポンプの羽根車取り外し方法の一例を示すフローチャート。
【図2】本発明の実施形態において分解対象となるポンプの一例を示す概略構成図。
【図3】本発明の実施形態の分解対象のポンプからモータを取り外す過程の説明図。
【図4】本発明の実施形態の分解対象のポンプをバレルから所定位置だけ上方に載置した過程の説明図。
【図5】本発明の実施形態の分解対象のポンプをバレルから吊り上げる過程の説明図。
【図6】本発明の実施形態の分解対象のポンプをバレルから吊り上げバレル11の外部の所定場所に横置きした過程の説明図。
【図7】本発明の実施形態の分解対象のポンプを分解した状態を示す分解図、
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明に至った経緯を説明する。ポンプの分解工法を工夫して、カジリ傷を軽減し、新品への交換や工場への持ち込みの修理を抑制し、コストダウンできないかを検討した。
【0019】
ポンプの分解において、主軸から羽根車を取り外す際にカジリ傷が発生する原因は、異物の混入や軸曲がりが考えられる。本発明においては、主軸と羽根車との間の異物を除去しカジリ傷を抑制することを検討した。これは、主軸と羽根車との間の異物が出来る限り除去されれば、主軸に軽微の軸曲がりがあってもカジリ傷は軽微なものとなると考えられるからである。
【0020】
そこで、洗浄剤で主軸や羽根車に付着したスケールやスラッジやスライムを除去することを考えた。酸性の洗浄剤を使用するとスケールやスラッジを効率よく除去できるが、通常運転時においてはポンプやその下流の配管系統ではアルカリ性の水を使用しているので、もし酸性の洗浄剤を使用した場合には、通常運転する際に事前に中和処理し洗浄剤を洗い落とす必要が生じる。これは、ポンプやその配管系統が酸性の水で酸腐食等の悪影響が生じるおそれがあるからである。
【0021】
そこで、アルカリ性の洗浄剤である家庭用風呂釜洗浄剤に着目した。高温生成されるスケール以外の一般的なスケールやスラッジやスライムは家庭用風呂釜洗浄剤でも簡単に除去できるので、ポンプのバレルに家庭用風呂釜洗浄剤を入れ、洗浄効果を高めるために所定温度範囲で所定時間以上加温し循環させた。これにより、主軸や羽根車に付着した異物を洗浄することができることを確認した。
【0022】
さらに、分解したポンプの主軸と羽根車との間に、ジェット洗浄機を用いて洗浄剤溶液をジェット噴射しつつ主軸から羽根車を引き抜くと、カジリ傷がほとんど生じない状況で、主軸から羽根車を引き抜くことができることを確認し本件発明に至った。
【0023】
以下、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の実施形態に係るポンプの羽根車取り外し方法の一例を示すフローチャートであり、図2は本発明の実施形態において分解対象となるポンプの一例を示す概略構成図である。図2では、分解対象となるポンプとして、発電所で使用される復水ポンプである場合を示している。
【0024】
図2において、復水ポンプは復水器からの水をボイラー側に供給するものであり、バレル11内にポンプ12が収納される。バレル11の上部のケーシング13には、ポンプ12の主軸とモータ14の回転軸とを連結する軸継手が収納され、モータ14はケーシング13の上部に配置されている。バレル11には復水器からの水が吸込口15から流入し、ポンプ12の吸込ベル16、第1段ケーシング17に収納された第1段羽根車、吐出しボウル18に収納された第2段羽根車、揚水管19を通って、吐出口20から下流の配管系統からボイラー側に供給される。
【0025】
このようなポンプ12を手入れする際には、通常、発電所の運転が停止した状態で、図1に示した工程でポンプ12を分解して行う。
【0026】
まず、ポンプ12を駆動するモータ14を取り外す(S1)。ケーシング13内に収納されたポンプ12の主軸とモータ14の回転軸とを連結する軸継手のリーマボルトを外し、モータ支え台のボルトを取り去り、図3に示すように、モータ14にワイヤ21を取り付けて図示省略の起重機で吊り上げて所定の場所に載置する。これにより、ポンプ12からモータ14を切り離す。
【0027】
次に、ポンプ12をバレル11から所定位置だけ吊り上げ仮受けする(S2)。図4に示すように、ケーシング13にワイヤ21を取り付けて図示省略の起重機で吊り上げ、バレル11から所定位置Hだけ吊り上げた状態で、図示省略の仮受け台にケーシング13を載置する。
【0028】
これにより、バレル11とケーシング13との間に隙間ができるので、この隙間からホースをバレル11内に投入し、図示省略の小型ポンプにてバレル11内の水を排水する(S3)。
【0029】
そして、バレル11内に純水と弱アルカリ性の洗浄剤を注入する(S4)。洗浄剤としては、例えば、過炭酸ナトリウムを用いる。過炭酸ナトリウムは水溶性の無色の固体で水溶液は弱アルカリ性であり、一般家庭向けに酸素系のバブルを利用した希漂白剤として市販されているので、入手も容易である。弱アルカリ性の洗浄剤を使用するのは、バレル11や周辺の配管系統に対して中和処理を省略でき洗浄剤による酸腐食を防止するためである。
【0030】
このように、バレル11内に純水と弱アルカリ性の洗浄剤を注入することにより、ポンプ12の羽根車の取付部を洗浄剤溶液に浸漬させる(S5)。洗浄剤を純水に溶かすために小型ポンプとして水中ポンプを使用し、水中ポンプをバレル内に投入し、洗浄剤溶液を撹拌、循環するようにしてもよい。
【0031】
次に、バレル11内に加温用ヒーターを投入し、洗浄剤溶液を所定温度範囲で所定時間以上加温する(S6)。これは、洗浄効果を高めるためである。通常、一般家庭向けの洗浄剤は25℃〜40℃で洗浄効果が高まるが、10℃前後でも洗浄効果がある。また、ポンプ12の通常の運転温度40℃〜50℃や、バレル11や周辺の配管系統の塗装や材質の耐熱温度を考慮して、所定温度範囲として10℃〜65℃とする。従って、バレル11やそれより下流の配管系統に対して熱ストレスを与えることがない。温度は常に一定温度に制御しても良いし、常温から洗浄終了までゆっくり65℃以下になるように調整しても良い。また、加温をする所定時間は、長いほど効果が期待できるが、1日の作業時間内で作業を終了できるよう考慮し4時間〜6時間程度とする。適宜、洗浄効果を、主軸を目視したり、洗浄液の色や内容物の分析結果から、洗浄度が高い場合は、より時間を短くしたり長く設定しても良い。
【0032】
このようにして、所定温度範囲で所定時間、ポンプ12の羽根車の取付部を洗浄剤溶液に浸漬させた後に、図5に示すように、ポンプ12を吊り上げて、図6に示すように、バレル11の外部の所定場所に横置きする(S7)。洗浄後の洗浄剤溶液はポンプ12の吊り出し後に、小型ポンプを使用し排水する。
【0033】
そして、ポンプ12の分解作業を開始する(S8)。ポンプの分解作業において、羽根車を取り外す際には、羽根車の取付部に洗浄剤溶液をジェット噴射しながら羽根車を取り外す(S9)。
【0034】
図7に示すように、まず、ケーシング13内にある軸端丸ナット22を取り外し、スプリットライナ23、軸継ぎ手24、パッキン押さえ25、パッキン26及びランタンリング27、パッキン箱28の順に取り去る。一方、吸込ベル取り付けフランジボルトを取り外し吸込ベル16を切り離す。
【0035】
次に、羽根車ナット29及び割りリング30を取り外し、主軸31から第1段羽根車32を取り外す。この際、更なる噛み混みがないか確認しながら必要に応じて、第1段羽根車32の取付部に洗浄剤溶液をジェット噴射しながら第1段羽根車32を取り外す。
【0036】
そして、第1段ケーシング17を取り外し、第1段ケーシング17を下部軸端側に引き抜く、ケーシング13、揚水管19、吐出しボウル18を固定しているナットを取り外し、この状態で、割りリング33を取り外し、第2段羽根車34を取り外す。この際、第2段羽根車34の取付部に洗浄剤溶液をジェット噴射しながら第2段羽根車34を取り外す。
【0037】
このように、本発明の実施の形態では、ポンプを収納したバレル11に弱アルカリ性の洗浄剤(家庭用風呂釜洗浄剤)を入れて加温し、所定温度範囲で所定時間以上浸漬してポンプを洗浄する。そして、ポンプの分解の際には、洗浄剤溶液をジェット噴射するジェット洗浄を併用しながら羽根車を引き抜くので、羽根車の引き抜きの際の分解時にカジリ傷を付けることなく難無く羽根車を引き抜くことができる。
【0038】
これにより、主軸31にカジリ傷を生じないことから新品の主軸31に取り替える必要がなくなるので、コストダウンを図ることができ、また、弱アルカリ性の洗浄剤を使用するので、バレル11やそれより下流や周囲の配管系統に対して中和処理が不要で洗浄剤による酸腐食を防止できる。従って、カジリ傷が付きやすいポンプは、この工法を採用することでカジリのリスクは大きく回避され、安全に分解ができ、工程、品質に寄与して他火力に水平展開ができる。
【符号の説明】
【0039】
11…バレル、12…ポンプ、13…ケーシング、14…モータ、15…吸込口、16…吸込ベル、17…第1段ケーシング、18…吐出しボウル、19…揚水管、20…吐出口、21…ワイヤ、22…軸端丸ナット、23…スプリットライナ、24…軸継ぎ手、25…パッキン押さえ、26…パッキン、27…ランタンリング、28…パッキン箱、29…羽根車ナット、30…割りリング、31…主軸、32…第1段羽根車、33…割りリング、34…第2段羽根車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプを駆動するモータを取り外した後に、前記ポンプを収納したバレルから前記ポンプを吊り上げ、前記バレルの外部で前記ポンプの羽根車を主軸から取り外すポンプの羽根車取り外し方法において、
前記ポンプを前記バレルから所定位置だけ吊り上げた状態で前記バレル内の水を排水し、
前記バレル内の排水後に水と弱アルカリ性の洗浄剤とを注入し前記ポンプの羽根車の取付部を洗浄剤溶液で浸漬させ、
前記バレル内の洗浄剤溶液を所定温度範囲で所定時間以上加温、温水洗浄した後に前記ポンプを吊り上げて前記バレルの外部の所定場所に横置きし、
前記羽根車の取付部に前記洗浄剤溶液をジェット噴射しながら前記羽根車を取り外すことを特徴とするポンプの羽根車取り外し方法。
【請求項2】
前記洗浄剤は、過炭酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1記載のポンプの羽根車取り外し方法。
【請求項3】
前記バレル内の洗浄剤溶液を加温する所定温度範囲は、10℃〜65℃であることを特徴とする請求項1または2記載のポンプの羽根車取り外し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−251488(P2012−251488A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125001(P2011−125001)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】