説明

マイクロチップの製造方法およびマイクロチップ

【課題】光照射による溶着によって基板同士を貼り合わせるマイクロチップの製造方法において、流体回路の変形を防止または低減しつつ、基板間の接着性に優れたマイクロチップを生産性良く製造できる方法、および、流体回路の変形が防止または低減されており、基板間の接着性に優れたマイクロチップを提供する。
【解決手段】一方の面に凹部を有する光透過性の第1の基板における凹部形成面上に、光吸収性の第2の基板を配置する工程と、第1の基板側から光を照射することにより、第1の基板と第2の基板とを溶着させる工程とを備えるマイクロチップの製造方法であって、上記凹部に向けて照射される光の少なくとも一部が、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に集光されるマイクロチップの製造方法および該製造方法により得られるマイクロチップである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップの製造方法およびマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
一般に、マイクロチップは、その内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば検査・分析の対象となる検体(たとえば、血液等)を処理する、あるいは該検体と反応させるための液体試薬を保持するための液体試薬保持室、検体や液体試薬を計量するための計量部、検体と液体試薬とを混合するための混合室、混合液について分析および/または検査を行なうための検出部などの各部と、これら各部を適切に接続する微細な流路(数百μm程度の幅)とから主に構成される。このような流体回路を有するマイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm角で厚さ数mm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有し、たとえば血液検査等の生化学検査用として好適に用いられている。
【0004】
マイクロチップは、通常、流体回路を構成する凹部(溝)が形成された基板と、平坦な基板とを貼り合わせることにより作製される。従来、熱可塑性樹脂からなる2つの基板の貼り合わせには、光(たとえばレーザ光)照射による溶着が用いられてきた(たとえば、特許文献1)。この光照射による溶着においては、2枚の熱可塑性樹脂基板のうち、一方を光透過性基板とし、他方を光吸収性基板として、この両者を重ね合わせて圧力を印加した後、光透過性基板側から光を照射する。光照射により、貼り合わせ面の温度が融点を超えると、基板が融解して両基板が接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭62−49850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるような光照射による溶着には以下のような課題があった。すなわち、通常、光透過性基板と光吸収性基板とを貼り合わせる場合には、光透過性基板の全面に光を照射するが、光透過性基板と光吸収性基板との貼り合わせ部(接触部)への光の照射光量が十分でないと接合不良が生じる。一方、照射光量を大きくすると、長時間の光照射が必要になって生産性が低下するばかりでなく、貼り合わせ部以外へのダメージが大きくなってしまう。たとえば、上述のようなマイクロチップにおいては、照射光量を大きくし過ぎると、計量部の変形によりその容量が変化したり、各部を接続する微細な流路が閉塞したりする不具合が生じ得る。
【0007】
本発明の目的は、光照射による溶着によって基板同士を貼り合わせるマイクロチップの製造方法において、流体回路の変形を防止または低減しつつ、基板間の接着性に優れたマイクロチップを生産性良く製造できる方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、流体回路の変形が防止または低減されており、基板間の接着性に優れたマイクロチップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一方の面に凹部を有する光透過性の第1の基板における凹部形成面上に、光吸収性の第2の基板を配置する工程と、第1の基板側から光を照射することにより、第1の基板と第2の基板とを溶着させる工程とを備えるマイクロチップの製造方法であって、上記凹部に向けて照射される光の少なくとも一部が、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に集光されるマイクロチップの製造方法および該製造方法により得られるマイクロチップを提供する。
【0009】
本発明の製造方法において、上記第1の基板は、凹部と対向する領域の外面の少なくとも一部に、光の進行方向に対して0度を超え、90度未満の角度をなす面を有することが好ましい。また、第1の基板の凹部を形成する側壁は、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に向かうにしたがい、該側壁の幅が小さくなるようなテーパー形状を有することが好ましい。第1の基板の外面に入射される光の進行方向は、該外面に対して0度を超え、90度未満の角度をなす方向であることが好ましい。
【0010】
また本発明は、一方の面に凹部を有する光透過性の第1の基板と、該第1の基板における凹部形成面上に、第1の基板側からの光の照射によって溶着された光吸収性の第2の基板とを備え、第1の基板は、上記凹部に向けて照射される光の少なくとも一部を、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に集光させる集光部を有するマイクロチップを提供する。
【0011】
上記集光部は、第1の基板における、前記凹部と対向する領域の外面の少なくとも一部を構成する、前記光の進行方向に対して0度を超え、90度未満の角度をなす面を含むことが好ましい。また、集光部は、第1の基板の凹部を形成する側壁であって、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に向かうにしたがい、該側壁の幅が小さくなるようなテーパー形状を有する側壁を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロチップの製造方法によれば、光照射による溶着によって基板同士を貼り合わせるマイクロチップの製造方法において、流体回路の変形を防止または低減しつつ、基板間の接着性に優れたマイクロチップを生産性良く製造できる。また、本発明によれば、流体回路の変形が防止または低減されており、基板間の接着性に優れたマイクロチップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の基板に集光部を設けた一例および当該集光部による集光効果を示す概略断面図である。
【図2】第1の基板に集光部を設けた他の一例および当該集光部による集光効果を示す概略断面図である。
【図3】第1の基板に集光部を設けた他の一例および当該集光部による集光効果を示す概略断面図である。
【図4】第1の基板に集光部を設けた他の一例および当該集光部による集光効果を示す概略断面図である。
【図5】第1の基板に集光部を設けた他の一例および当該集光部による集光効果を示す概略断面図である。
【図6】溶着工程(B)における光を斜めに照射する例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<マイクロチップの製造方法>
本発明のマイクロチップの製造方法は、以下の工程:
(A)一方の面に凹部を有する光透過性の第1の基板における凹部形成面上に、光吸収性の第2の基板を配置する基板積層工程、および
(B)第1の基板側から光を照射することにより、第1の基板と第2の基板とを溶着させる溶着工程、
を含み、溶着工程(B)の光照射において、上記凹部に向けて照射される光の少なくとも一部が、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に集光されることを特徴とする。
【0015】
第1の基板には、光透過性の熱可塑性樹脂を用いることができる。このような熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、スチレン・ブタジエン樹脂(スチレン−ブタジエン共重合体)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)などを挙げることができる。
【0016】
第1の基板の一方の表面(第2の基板を積層する側の面)には、マイクロチップ内部の流体回路を形成する所定のパターンを有する凹部(溝)が形成される。基板表面に、流体回路を構成する凹部(溝)を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。マイクロチップの流体回路は、第1の基板表面に設けられた凹部と第2の基板における第1の基板に対向する側の表面とから構成される空洞部からなる。第1の基板表面に形成される凹部の形状(パターン)は、上記空洞部が所望される適切な流体回路構造となるように決定される。
【0017】
なお後で詳述するように、いくつかの好ましい実施形態において、第1の基板には、上記凹部に向けて照射される光の少なくとも一部を、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に集光させる集光部が設けられる。
【0018】
第2の基板は光吸収性の基板であり、たとえば、光を吸収して発熱する光吸収物質が分散された熱可塑性樹脂から構成することができる。第2の基板に用いることができる熱可塑性樹脂の具体例は、上記と同様である。光吸収物質としては、たとえば色素を挙げることができ、その中でもカーボンブラックを好適に用いることができる。光吸収物質は、少なくとも第2の基板の貼り合わせ面上に分散されていればよい。たとえば、基板の貼り合わせ面側に光吸収物質が分散された層が形成された構成としてもよく、あるいは第2の基板全体に光吸収物質が分散されていてもよい。
【0019】
第1の基板と第2の基板とは、異種の熱可塑性樹脂から構成する場合もあるが、同種の熱可塑性樹脂から構成することが好ましい。両基板を同種の樹脂から構成することにより、光照射によって両基板の貼り合わせ面が同時に融解するため、接着強度をより高くすることができる。
【0020】
第1および第2の基板のサイズ(マイクロチップのサイズ)は特に限定されず、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【0021】
上記流体回路は、たとえば、検査または分析の対象となる検体と混合または反応させるための試薬を保持するための試薬保持部;流体回路内に導入された検体から特定成分を取り出すための分離部;検体(検体中の特定成分を含む。以下同じ。)を計量するための検体計量部;試薬を計量するための試薬計量部;検体と試薬とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査または分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出または定量)を行なうための検出部などを挙げることができる。検査または分析の方法と特に制限されず、たとえば、検出部に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法等の光学測定を挙げることができる。本発明に係るマイクロチップは、上述の例示された部位のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。流体回路の各部位は、所望する流体処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置され、かつ微細な流路を介して接続されている。
【0022】
検体からの特定成分の抽出(不要成分の分離)、検体および/または試薬の計量、検体と試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、マイクロチップを、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なうことができる。遠心装置は、回転自在なローター(回転子)と、該ローター上に配置された回転自在なステージとを備えることができる。該ステージ上にマイクロチップを載置し、該ステージを回転させてローターに対するマイクロチップの角度を任意に設定することにより、マイクロチップに対して任意の方向の遠心力を印加することができる。
【0023】
基板積層工程(A)においては、上記第1の基板の凹部形成面上に、上記第2の基板を配置する。ついで、溶着工程(B)において、ガラス板等を第1の基板上に配置し、このガラス板等を介して第1および第2の基板に圧力を印加した状態で、光(たとえば、レーザー光)を第1の基板側(ガラス板側)から照射し、第1の基板全体にわたってスキャンすることにより、基板の溶着を行なう。圧力を印加することにより、第1の基板と第2の基板とを隙間無く密着させた状態で溶着を行なうことができる。光照射により、光吸収物質が発熱し、この熱によって第2の基板の貼り合わせ面(第1の基板側表面)、場合によってはさらに第1の基板の貼り合わせ面(第2の基板側表面)が溶融し、基板同士が溶着される。
【0024】
照射する光は、カーボンブラック等の光吸収物質が光を吸収して、比較的効率よく貼り合わせ面を加熱できるものであれば特に限定されず、たとえば、波長0.8〜1.1μm程度、パワー10〜1000W程度のレーザー光を用いることができる。
【0025】
ここで、本発明において、溶着工程(B)の光照射は、マイクロチップの流体回路を形成する凹部に向けて照射される光の少なくとも一部が、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部(接触部)に集光されるように行なわれる。これにより、光源の照射強度や照射時間を増加させることなく、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部(接触部)に到達する光の照射光量が、集光されない場合と比較して増加するため、基板間の接着性を向上させることができる。また、照射時間を増加させる必要がないことから、生産性を良好に維持することができる。
【0026】
さらに、凹部に向けて照射される光を第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部(接触部)に集光させることにより、流体回路の変形を防止または低減することができる。すなわち、従来の溶着法では、第1の基板全体にわたって光を照射すると、貼り合わせ部でない箇所、つまり凹部(流体回路)が存在する領域にも一律に光照射がなされ、これによって、該凹部に対向する第2の基板の表面、ひいては流体回路が変形しやすいという問題があった。凹部に向けて照射される光を貼り合わせ部に集光させることにより、該凹部に対向する第2の基板の表面に光が照射されることを防止することができるため、このような変形を防ぐことができる。
【0027】
このように、本発明によれば、第1の基板全体にわたって一律に光を照射した場合においても、光照射が不要な領域(凹部が存在する領域)へ向けて照射された光を第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に振り向けることが可能になるため、流体回路の変形防止と基板間の接着性の向上とを同時に達成することが可能となる。
【0028】
以下、マイクロチップの流体回路を形成する凹部に向けて照射される光の少なくとも一部を、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部(接触部)に集光させるための具体的な実施の形態について詳細に述べる。
【0029】
(第1の実施形態)
図1は、照射光を第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に集光させるために、マイクロチップの第1の基板に集光部を設けた一例および当該集光部による集光効果を示す概略断面図である。図1(a)および図1(b)はともに、溶着工程(B)における第1の基板100側からの光照射の様子を示したものであり、図1(a)は第1の基板100が集光部を有しない場合の光の進行方向、図1(b)は第1の基板100が集光部400を有する場合の光の進行方向を示したものである。本実施形態において、集光部400は、第1の基板100における、凹部500と対向する外面の一部を構成する傾斜面(傾斜平面)、具体的には、光300の進行方向に対して0度を超え、90度未満の角度をなす面からなる。
【0030】
図1(a)を参照して、集光部を有しない場合においては、凹部500に向けて、第1の基板100の基板面に垂直な方向から照射された光300は、そのまま第1の基板100および凹部500を直進して凹部500に対向する第2の基板200の表面に至る。このような照射光は、第2の基板200の当該表面、ひいては流体回路の変形を生じさせ得る。一方、図1(b)を参照して、第1の基板100の外面に集光部400を設けた場合には、集光部400の傾斜面に入射した光300は、第1の基板100を構成する熱可塑性樹脂の屈折率nおよび集光部400の傾斜角度(すなわち、傾斜面への入射角度)に応じた角度で、第1の基板100内部で屈折を繰り返し、凹部に対向する第2の基板200の表面に到達することなく、第1の基板100と第2の基板200との貼り合わせ部に集光される。
【0031】
図1(b)の例においては、第1の基板100の外面に設けられた幅1.0の壁Xに隣接して幅0.75の傾斜面(集光部400)を形成していることにより、第1の基板100と第2の基板200との貼り合わせ部への照射光量が1.75倍増加している。なお、図1(b)の例において、集光部400への光300の入射角度φ1は60°であり、第1の基板100を構成する熱可塑性樹脂の屈折率は1.5である。したがって、スネルの法則に従い、屈折角φ2は35°となる。
【0032】
以上のように、本実施形態によれば、集光部400を設けた領域の直下に位置する第2の基板200表面の変形防止と、第1の基板100と第2の基板200との貼り合わせ部の接着性の向上とを同時に達成することができる。集光部400は、凹部500に対向する外面の全領域に設けてもよいし、当該外面の一部に設けてもよい。
【0033】
また、本実施形態に係る集光部は、図1に示されるような傾斜した平面に限定されるものではなく、図2および図3に示されるような、第1の基板100の外面(通常は、貼り合わせ部の直上)に設けられた凸面(レンズ面)からなる集光部405であってもよい。この場合、凸面の焦点距離fが、第1の基板100の厚み(外面から貼り合わせ部までの距離)と同じ(またはほぼ同じ)になるようにする。
【0034】
(第2の実施形態)
図4は、照射光を第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に集光させるために、マイクロチップの第1の基板に集光部を設けた他の一例および当該集光部による集光効果を示す概略断面図である。図4(a)および図4(b)はともに、溶着工程(B)における第1の基板100側からの光照射の様子を示したものであり、図4(a)は第1の基板100が集光部を有しない場合の光の進行方向、図4(b)は第1の基板100が集光部410を有する場合の光の進行方向を示したものである。本実施形態において、集光部410は、第1の基板100の凹部500を形成するテーパー形状の側壁、具体的には、第1の基板100と第2の基板200との貼り合わせ部に向かうにしたがい、その幅が小さくなるような傾斜側壁(傾斜した側壁面を有する側壁)からなる。集光部410である側壁が有する傾斜した側壁面の傾斜角度(傾斜側壁と、光300の進行方向とがなす角度)、すなわち、図4(b)におけるテーパー角αは、0°<α<90°(αが採り得る最小値は0°であり、最大値は90°である。)であり、傾斜側壁に入射した光を全反射させるために、好ましくは(90−θc)°以下とされる。θcは全反射の臨界角であり、θc=sin-1(1/n)〔nは第1の基板の屈折率〕である。なお、図4(b)は、側壁の両側に凹部500が形成され、これらの凹部500を形成する、対向する2つの側壁面が傾斜した例を示しているが、片側の側壁面のみが傾斜していてもよい。
【0035】
図4(a)を参照して、集光部を有しない場合においては、図1(a)の場合と同様、凹部500に向けて、第1の基板100の基板面に垂直な方向から照射された光300は、そのまま第1の基板100および凹部500を直進して凹部500に対向する第2の基板200の表面に至る。一方、図4(b)を参照して、テーパー形状の側壁からなる集光部410を設けた場合には、光300は、集光部410の傾斜側壁面にて反射(好ましくは全反射)し、凹部に対向する第2の基板200の表面に到達することなく、第1の基板100と第2の基板200との貼り合わせ部に集光される。
【0036】
図4(b)の例においては、図4(a)に示される幅1.0の側壁Yの両側に、それぞれ幅0.75にわたって傾斜面を形成していることにより、第1の基板100と第2の基板200との貼り合わせ部への照射光量が2.5倍増加している。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、集光部410(凹部500を形成する側壁)が有する傾斜した側壁面の直下に位置する第2の基板200表面の変形防止と、第1の基板100と第2の基板200との貼り合わせ部の接着性の向上とを同時に達成することができる。
【0038】
(第3の実施形態)
図5は、照射光を第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に集光させるために、マイクロチップの第1の基板に集光部を設けたさらに他の一例および当該集光部による集光効果を示す概略断面図である。図5(a)は、第1の基板100が集光部を有しない場合の光の進行方向を示した図であり、図4(a)と同一である。図5(b)は、第1の基板100が本実施形態に係る集光部を有する場合の光の進行方向を示したものである。本実施形態において、第1の基板100は、上記第1の実施形態で説明した、凹部500と対向する外面の一部を構成する傾斜面からなる2つの集光部400と、上記第2の実施形態で説明した、凹部500を形成するテーパー形状の側壁からなる2つの集光部410とを含む。
【0039】
図5(b)の例においては、第1の基板100の外面に設けられた幅1.0の壁Zの両側に隣接して幅0.75の傾斜面(集光部400)を形成し、かつ、入射した光を反射(全反射)させる傾斜側壁面(集光部410)を形成していることにより、第1の基板100と第2の基板200との貼り合わせ部への照射光量が3.6倍増加している。このように、上記第1および第2の実施形態で示した集光部400,410を組み合わせることで、集光効果をより向上させることができる。
【0040】
(第4の実施形態)
図6は、照射光を第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に集光させるために、光を斜めに照射する例を示す概略断面図である。図6(a)および図6(b)はともに、溶着工程(B)における第1の基板100側からの光照射の様子を示したものであり、図6(a)は第1の基板100の外面(基板面)に対して垂直な方向から光照射される場合の光の進行方向、図6(b)は第1の基板100の外面(基板面)に対して斜め方向に光照射される場合の光の進行方向を示したものである。ここでいう斜め方向とは、該外面に対して0度を超え、90度未満の角度をなす方向をいう。
【0041】
図6(a)を参照して、第1の基板100の外面(基板面)に対して垂直な方向から光照射される場合においては、凹部500に向けて照射された光300は、そのまま第1の基板100および凹部500を直進して凹部500に対向する第2の基板200の表面に至る。このような照射光は、第2の基板200の当該表面、ひいては流体回路の変形を生じさせ得る。一方、図6(b)を参照して、第1の基板100の外面(基板面)に対して斜め方向に光照射される場合、第1の基板100の屈折率n1は通常、凹部500内の屈折率n2(通常、空気であり、n2=1.0である。)より大きいため、凹部500内に斜めに入射した光は、凹部/第1の基板界面において反射することなく、第1の基板100内に浸入する。一方、第1の基板100内に斜めに入射した光(前記の浸入した光も含めて)は、第1の基板/凹部界面において反射し、第1の基板100と第2の基板200との貼り合わせ部に集光される。なお、空気/第1の基板100/凹部(空気)をこの順に通過する光は、図6(b)に示されるように、スネルの法則に従った入射角度、屈折角θ1、θ2を示す。n1>n2の場合、θ2>θ1となる。
【0042】
このように、光を斜めに入射した場合には、凹部500内に斜めに入射された光の少なくとも一部を第1の基板100と第2の基板200との貼り合わせ部に集光することが可能になるため、凹部500に対向する第2の基板200表面の変形防止と、第1の基板100と第2の基板200との貼り合わせ部の接着性の向上とを同時に達成することができる。
【0043】
第1の基板100内に斜めに入射した光をより効率的に貼り合わせ部に集光させるためには、該入射光を第1の基板/凹部界面において全反射させることが好ましい。したがって、第1の基板100の材質(屈折率)に応じて、照射光の照射角度(図6(b)におけるθ)を調整することが好ましい。すなわち、照射光の照射角度θは、sin-1(1/n1)以上とすることが好ましい。たとえば、第1の基板100をポリスチレン(屈折率1.6)から構成する場合、θを39度以上とすることで全反射させることができる。
【0044】
照射光の照射角度を斜めにする方法としては、たとえば、光源と第1の基板100との間に、ブラストガラスまたは拡散板を配置して、照射光を散乱させる方法を挙げることができる。
【0045】
ポリスチレンからなり、凹部を有する第1の基板およびポリスチレンにカーボンブラックを分散させた第2の基板を用いて、第2の基板/第1の基板/ガラス板の順に積層して積層体を形成し、500Nの荷重を積層体に印加しながら、光源〔60Wの半導体レーザー、光源からのレーザー光の進行方向は第1の基板の基板面に対して垂直な方向)とガラス板との間にブラストガラスを配置して、照射時間約10秒でレーザー照射を行なったところ、ブラストガラスを設置しない場合と比較して、凹部に対向する第2の基板表面の潰れが大幅に減少した。また、第1の基板と第2の基板との間の接着強度も十分に高かった。
【0046】
<マイクロチップ>
本発明は、一方の面に凹部を有する光透過性の第1の基板と、該第1の基板における凹部形成面上に、第1の基板側からの光の照射によって溶着された光吸収性の第2の基板とを備え、第1の基板は、上記凹部に向けて照射される光の少なくとも一部を、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に集光させる集光部を有するマイクロチップ、および上記製造方法により得られるマイクロチップを提供する。本発明のマイクロチップは、上記凹部と第2の基板における第1の基板に対向する側の表面とから構成される空洞部からなる流体回路を内部に有する。
【0047】
本発明のマイクロチップによれば、光源の照射強度や照射時間を増加させることなく、第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部(接触部)に到達する光の照射光量が、集光されない場合と比較して増加するため、基板間の接着性が向上されている。また、照射時間を増加させる必要がないことから、生産性を良好に維持することができる。また、凹部に向けて照射される光が貼り合わせ部に集光され、その結果、該凹部に対向する第2の基板の表面への光照射が低減または防止されているため、流体回路の変形が効果的に低減または防止されている。
【0048】
本発明のマイクロチップが備える集光部は、上述した集光部であることができる。具体的には、凹部と対向する外面の一部を構成する傾斜面(光の進行方向に対して0度を超え、90度未満の角度をなす面)、凹部を形成するテーパー形状の側壁(第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に向かうにしたがい、その幅が小さくなるような傾斜側壁)またはこれらの双方であることができる。マイクロチップを構成する第1の基板、第2の基板および流体回路については、上述した内容がここでも当てはまる。マイクロチップのサイズは特に限定されず、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【符号の説明】
【0049】
100 第1の基板、200 第2の基板、300 光、400,405,410 集光部、500 凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に凹部を有する光透過性の第1の基板における凹部形成面上に、光吸収性の第2の基板を配置する工程と、
前記第1の基板側から光を照射することにより、前記第1の基板と前記第2の基板とを溶着させる工程と、
を備えるマイクロチップの製造方法であって、
前記凹部に向けて照射される光の少なくとも一部が、前記第1の基板と前記第2の基板との貼り合わせ部に集光される、マイクロチップの製造方法。
【請求項2】
前記第1の基板は、前記凹部と対向する領域の外面の少なくとも一部に、前記光の進行方向に対して0度を超え、90度未満の角度をなす面を有する請求項1に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項3】
前記第1の基板の前記凹部を形成する側壁は、前記第1の基板と前記第2の基板との貼り合わせ部に向かうにしたがい、前記側壁の幅が小さくなるようなテーパー形状を有する請求項1または2に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項4】
前記第1の基板の外面に入射される光の進行方向が、該外面に対して0度を超え、90度未満の角度をなす方向である請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られるマイクロチップ。
【請求項6】
一方の面に凹部を有する光透過性の第1の基板と、前記第1の基板における凹部形成面上に、前記第1の基板側からの光の照射によって溶着された光吸収性の第2の基板と、を備え、
前記第1の基板は、前記凹部に向けて照射される光の少なくとも一部を、前記第1の基板と前記第2の基板との貼り合わせ部に集光させる集光部を有するマイクロチップ。
【請求項7】
前記集光部は、前記第1の基板における、前記凹部と対向する領域の外面の少なくとも一部を構成する、前記光の進行方向に対して0度を超え、90度未満の角度をなす面を含む請求項6に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記集光部は、前記第1の基板の前記凹部を形成する側壁であって、前記第1の基板と前記第2の基板との貼り合わせ部に向かうにしたがい、前記側壁の幅が小さくなるようなテーパー形状を有する側壁を含む請求項6または7に記載のマイクロチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−125858(P2012−125858A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277839(P2010−277839)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】