説明

マイクロ反応装置、その製造方法、集積化マイクロ反応モジュール、および有機ヒ素汚染水の浄化方法

【課題】 密閉性の高い微細な流路の形成が容易であり、加えて、光触媒等の触媒を担持させることも可能なマイクロ反応装置、その製造方法、および集積化マイクロ反応モジュールを提供する。
【解決手段】 接着性樹脂フィルムと、該接着性樹脂フィルムに設けられた細隙状の貫通孔と、前記接着性樹脂フィルムの一方の面に接合された第一基板と、前記接着性樹脂フィルムの他方の面に接合された第二基板と、を備え、前記第一基板と前記第二基板と前記貫通孔の内面により、微細な反応流路が形成されていることを特徴とする、マイクロ反応装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な流路内において化学反応、分離等を行うことができるマイクロ反応装置、その製造方法、集積化マイクロ反応モジュール、および集積化マイクロ反応モジュールを用いた有機ヒ素汚染水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ反応装置は、径が数μm〜数百μmの微細な流路内において化学反応、分離等を行う反応器であり、従来のバッチ方式に比べ数多くの利点を有している。
特に、光化学反応では、照射した光が反応場中で吸収・散乱するため、光触媒を反応容器中に懸濁させて反応を行うバッチ方式の場合には、反応容器全体に充分な光を照射することが困難であり、反応に用いる光の利用効率が上げられない問題や、反応後に触媒を分離する作業が必要であるため操作が煩雑である問題がある。
【0003】
上記問題を解決するために、特許文献1では、光触媒が設けられた微細な反応流路に反応分子を含む液体を流通させ、該液体中に含まれる反応分子を光化学反応させることができる光化学反応装置が提案されている。特許文献1で用いられている光化学反応装置では、石英またはホウ珪酸ガラス等で形成された反応器の一端面から、対向する他端面に達する中空状の貫通孔が微細な流路として設けられている。
【0004】
また、特許文献2では、ガラスプレートに微細な流路を成す溝を形成し、該溝に光触媒を担持させ、反応原料の供給口や反応液の取り出し口が設けられたプレートホルダーを接合することによって形成されたマイクロリアクターが用いられている。
また、特許文献3には、反応部(反応流路)が設けられた薄板を含む、複数の薄板を積層して形成したマイクロリアクタが開示されている。
【特許文献1】特開2005−279595号公報
【特許文献2】特開2006−239640号公報
【特許文献3】特開2006−187685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のように、石英またはホウ珪酸ガラス等で形成された反応器に中空状の貫通孔を設けて微細な流路を形成すると、その加工が難しくコストがかかる上、複雑な形状の流路を形成することができない。
【0006】
また、特許文献2のマイクロリアクターでは、反応流路を成す溝が形成されたガラスプレートとその上面に接合するプレートホルダー(同じくガラスで形成されているプレートである)が、ボルトとナットのような部材で押さえられて接合されているため、そのガラス同士の間に隙間が生じ、該隙間の影響によって反応流路へ反応原料を導入するための圧力の損失が大きくなる。特に、反応流路が微細になるほど前記圧力の損失の影響は大きくなり、反応原料の導入ができなくなってしまうため、この方法での反応流路の微細化には限界がある。また、反応原料の導入が可能な反応流路径である場合には、反応流路を流通する反応原料等が漏れる虞がある。
【0007】
この隙間をシールするため、重ね合わせたガラスプレートに熱をかけ、ガラスプレート同士を溶着させることも可能であるが、ホウ珪酸ガラスの場合には500〜600℃、石英の場合には1100℃以上の加熱が必要である。ここで、光触媒の代表例である二酸化チタンは、約650℃付近で結晶構造がアナターゼ型からルチル型に転移し、光触媒活性は低下することが知られている。また、より低い温度での加熱(300〜500℃)でも触媒の変性等により活性が低下する虞があり、その結晶構造への影響は前記転移温度以下(300〜400℃)から生じ始めると考えられ、二酸化チタン等の光触媒を流路に担持させる場合には、高温によりガラスプレートを圧着させることはできない。
【0008】
また、特許文献3のマイクロリアクターでは、前記薄板としてガラス基板や石英基板を用いる場合には、薄板への反応部(反応流路)の形成は半導体プロセスにより行われるため、コストが高くなる。
【0009】
このような問題に鑑み、発明者らは、コストアップの要因となるガラスや石英等への貫通孔や溝の形成加工を行うことなく、密閉性の高い微細な流路を形成したマイクロ反応装置を開発した。本発明の課題は、密閉性の高い微細な流路の形成が容易であり、加えて、光触媒等の触媒を担持させることも可能なマイクロ反応装置、その製造方法、集積化マイクロ反応モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様に係るマイクロ反応装置は、接着性樹脂フィルムと、該接着性樹脂フィルムに設けられた細隙状の貫通孔と、前記接着性樹脂フィルムの一方の面に接合された第一基板と、前記接着性樹脂フィルムの他方の面に接合された第二基板と、を備え、前記第一基板と前記第二基板と前記貫通孔の内面により、微細な反応流路が形成されていることを特徴とするものである。ここで、「接着性樹脂フィルム」は、常温または加熱による自己接着性を有する樹脂フィルムを指すものである。
【0011】
本発明によれば、接着性樹脂フィルムに設けられた細隙状の貫通孔の内面と、該接着性樹脂フィルムの一方の面に接合された第一基板と、該接着性樹脂フィルムの他方の面に接合された第二基板とにより、微細な反応流路が形成されているので、細隙状の貫通孔を、接着性樹脂フィルムの切除や切り欠き形成により設けることが可能となる。したがって、石英、ホウ珪酸ガラスのような硬い素材にエッチング加工や、半導体プロセスによる加工を行って微細な反応流路を形成するよりも容易であり、低コストで加工することができる。更に、接着性樹脂フィルムの密着性により微細な反応流路の密閉性が高められ、反応原料を微細な反応流路に導入する際の圧力の損失を少なくすることができるため、高度に微細化された反応流路の形成が可能となる。また、該反応流路を流通する反応原料等が漏れることを防止できる。
【0012】
本発明の第2の態様に係るマイクロ反応装置は、同一平面上に配設される複数枚の接着性樹脂フィルムと、該複数枚の接着性樹脂フィルムのうち、隣り合う接着性樹脂フィルムの端辺同士が、その端辺上の各点より法線方向へ所定の距離を保つように配設されて形成された細隙と、前記複数枚の接着性樹脂フィルムが形成する平面の一方の面に接合された第一基板と、前記複数枚の接着性樹脂フィルムが形成する平面の他方の面に接合された第二基板と、を備え、前記第一基板と前記第二基板と前記細隙の内面により、微細な反応流路が形成されていることを特徴とするものである。本発明によれば、第1の態様と同様の作用効果を得ることができる。
【0013】
本発明の第3の態様に係るマイクロ反応装置は、第1の態様または第2の態様において、前記接着性樹脂フィルムを成す素材は、接着性フッ素樹脂であることを特徴とするものである。ここで、「接着性フッ素樹脂」は、常温では非接着性でありながら比較的低い融点以上の温度で接着性が現れ、また常温ではフッ素樹脂としての化学的な安定性を有するものである。
【0014】
本発明によれば、第1の態様または第2の態様と同様の作用効果に加え、接着性フッ素樹脂の高い耐薬品性によって、有機溶媒やハロゲン化物等の反応原料を反応流路に流通させることが可能となり、様々な反応に利用可能なマイクロ反応装置とすることができる。
【0015】
本発明の第4の態様に係るマイクロ反応装置は、第1の態様乃至第3の態様のいずれか1つにおいて、前記第一基板および/または前記第二基板の前記接着性樹脂フィルムとの接合面に触媒を備えていることを特徴とするものである。本発明によれば、第1の態様乃至第3の態様のいずれかのマイクロ反応装置を、触媒反応に利用することができる。
【0016】
本発明の第5の態様に係るマイクロ反応装置は、第4の態様において、前記触媒は光触媒であることを特徴とするものである。本発明によれば、第4の態様に係るマイクロ反応装置を、光触媒反応に利用することができる。特に、本態様のマイクロ反応装置の反応流路はエッチング加工が行われていないので、該反応流路の表面は、石英、ホウ珪酸ガラス等で形成された第一基板および第二基板自体の高い光透過性が維持されているため、マイクロ反応装置の外側から照射する光を有効に利用することができる。
【0017】
本発明の第6の態様に係るマイクロ反応装置の製造方法は、接着性樹脂フィルムに細隙状の貫通孔を設ける工程と、該細隙状の貫通孔を設けた接着性樹脂フィルムの一方の面に第一基板を該接着性樹脂フィルムの接着性に基いて接合し、他方の面に第二基板を該接着性樹脂フィルムの接着性に基いて接合し、前記第一基板と前記第二基板と前記貫通孔の内面により、微細な反応流路を形成する工程と、を有することを特徴とするものである。
【0018】
本発明によれば、微細な反応流路を備えるマイクロ反応装置を容易に、且つ、低コストで製造することができる上、接着性樹脂フィルムの密着性により密閉性の高い微細な流路を備えたマイクロ反応装置とすることができる。
【0019】
本発明の第7の態様に係るマイクロ反応装置の製造方法は、複数枚の接着性樹脂フィルムを第一基板上の同一平面上に配設し、更に、隣り合う接着性樹脂フィルムの端辺同士を、その端辺上の各点より法線方向へ所定の距離を保つように配設して細隙を形成する工程と、該細隙を形成した接着性樹脂フィルムの一方の面に第一基板を該接着性樹脂フィルムの接着性に基いて接合し、他方の面に第二基板を該接着性樹脂フィルムの接着性に基いて接合し、前記第一基板と前記第二基板と前記細隙の内面により、微細な反応流路を形成する工程と、を有することを特徴とするものである。本発明によれば、第6の態様と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
本発明の第8の態様に係るマイクロ反応装置の製造方法は、第6の態様または第7の態様において、前記接着性樹脂フィルムを成す素材は、接着性フッ素樹脂であることを特徴とするものである。本発明によれば、第3の態様と同様の作用効果を奏するマイクロ反応装置を製造することができる。
【0021】
本発明の第9の態様に係るマイクロ反応装置の製造方法は、第6の態様乃至第8の態様のいずれか1つにおいて、前記第一基板と前記第二基板を接着性樹脂フィルムと接合する前に、前記第一基板および/または前記第二基板の前記接着性樹脂フィルムとの接合面に触媒を設ける工程を有することを特徴とするものである。本発明によれば、第4の態様と同様の作用効果を奏するマイクロ反応装置を製造することができる。
【0022】
本発明の第10の態様に係る集積化マイクロ反応モジュールは、接着性樹脂フィルムと、該接着性樹脂フィルムに設けられた複数の細隙状の貫通孔と、前記接着性樹脂フィルムの一方の面に接合された第一基板と、前記接着性樹脂フィルムの他方の面に接合された第二基板と、を備え、前記第一基板と前記第二基板と前記貫通孔の内面により、複数の微細な反応流路を有する反応流路部が形成されている集積化マイクロ反応モジュールであって、前記反応流路部は、複数の微細な反応流路が平行に配列されて成る集積流路部と、前記複数の微細な反応流路が、共通の流体導入口と共通の流体排出口とに合流するように形成された共通流路部と、を備え、前記第一基板および/または前記第二基板の前記接着性樹脂フィルムとの接合面に触媒を備えていることを特徴とするものである。
【0023】
本発明によれば、第1の態様と同様の作用効果に加え、反応原料を一つの流体導入口に導入することによって、該反応原料が、集積化された複数の微細な反応流路に送り込まれ、大容量の触媒反応を行うことができる。更に、各反応流路から排出される反応物は、再度合流されて一つの流体排出口から排出されるので、その回収が容易である。
【0024】
更に、複数の微細な反応流路を集積化することによってマイクロ反応装置を大容量化するに際して、接着性樹脂フィルムを第一基板と第二基板の間に介在させて積層させているため、製造簡単にして高精度に集積化することができる。
【0025】
本発明の第11の態様に係る集積化マイクロ反応モジュールは、第10の態様において、前記集積流路部と前記共通流路部との間に、集積流路部に導入される流体および集積流路部から排出される流体の条件を均一にするための共通幅広流路部を備えていることを特徴とするものである。集積流路部に導入される流体および集積流路部から排出される流体の「条件」は、例えば導入圧力、流体に含まれる原料および反応生成物の濃度等が挙げられる。
【0026】
本発明によれば、共通の流体導入口側の共通流路部と集積流路部との間に前記共通幅広流路部が設けられていることによって、前記共通の流体導入口と集積流路部の各微細な反応流路との位置関係の違いによる、それぞれの微細な反応流路への反応原料の導入圧力差を均一化することができる。
【0027】
また、共通の流体排出口側の共通流路部と集積流路部との間に前記共通幅広流路部が設けられていることによって、それぞれの微細な反応流路内での反応性の違いによる反応生成物の濃度差を均一化することができる。
【0028】
本発明の第12の態様に係る集積化マイクロ反応モジュールは、第11の態様において、前記共通幅広流路部は、前記第一基板および/または前記第二基板に形成された凹部によって構成されていることを特徴とするものである。本発明によれば、第11の態様と同様の作用効果を構造簡単にして得ることができる。
【0029】
本発明の第13の態様に係る有機ヒ素汚染水の浄化方法は、第10の態様乃至第12の態様のいずれか1つの集積化マイクロ反応モジュールを用いて、有機ヒ素汚染水を浄化処理することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、接着性樹脂フィルムに設けられた細隙状の貫通孔の内面と、該接着性樹脂フィルムの一方の面に接合された第一基板と、該接着性樹脂フィルムの他方の面に接合された第二基板とにより、微細な反応流路が形成されているので、密閉性の高い微細な流路の形成が容易であり、且つ低コストで加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[実施例1]
以下、本発明に係るマイクロ反応装置の一実施例について説明する。図1は実施例1に係るマイクロ反応装置を構成する第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板の斜視図、図2は図1の第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板を接合して形成したマイクロ反応装置の斜視図、図3は図2のIII−III矢視図である。
【0032】
実施例1に係るマイクロ反応装置1は、接着性樹脂フィルム3と、該接着性樹脂フィルム3に設けられた細隙状の貫通孔5と、前記接着性樹脂フィルム3の一方の面6に接合された第一基板2と、前記接着性樹脂フィルム3の他方の面7に接合された第二基板4と、を備え、前記第一基板2と前記第二基板3と前記貫通孔の内面10により、微細な反応流路11が形成されて構成されている。
【0033】
すなわち、前記接着性樹脂フィルム3に設けられた細隙状の貫通孔5の幅および長さが、微細な反応流路11の幅および長さとなる。また、接合後の接着性樹脂フィルム3の厚みが、微細な反応流路11の深さとなる。
【0034】
接着性樹脂フィルム3は、常温または加熱による自己接着性を有する樹脂フィルムであり、例えば、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。フッ素樹脂は高い耐薬品性を有するため、反応流路11を形成する材料としては特に好ましい。
【0035】
前記接着性樹脂フィルム3は、市販されるシート状の樹脂フィルムを用いることができる。例えば、フッ素樹脂では、ダイキン工業株式会社製、ネオフロン(登録商標)EFEPのRP−4020またはRP−5000等が挙げられる。RP−4020は、その融点は一般的なフッ素樹脂(例えばETFE、融点265℃)よりも低く約160℃であるので、後述する反応流路11に触媒を設ける場合のように、その触媒の変性温度に起因した接着温度制限がある際に利用できることに加え、常温では非粘着性であり、フッ素樹脂としての化学的な安定性および耐薬品性を備えているため、微細な反応流路11を構成する接着性樹脂フィルム3としては特に適している。
【0036】
また、前記接着温度制限がない場合であって、形成したマイクロ反応装置1の使用温度を高く設定したい場合には、より高温で接着される接着性樹脂フィルム3を選択することもできる。また、反応流路11に設ける触媒が光触媒である場合には、照射する光を有効に利用するため、光透過性の高い、透明な樹脂を用いることが望ましい。
【0037】
更に、マイクロ反応装置1の反応流路11の深さは25μm〜1000μmであることが好ましい。前記接着性樹脂フィルム3を加熱によって融着させる場合には、その融着により形成された反応流路11の深さは、融着前の接着性樹脂フィルム3のシート厚よりも薄くなる。したがって、接着性樹脂フィルム3の樹脂性質に応じて、接合後の接着性樹脂フィルム3の厚みが所望の反応流路11の深さになるようなシート厚のものを選択する。
【0038】
前記接着性樹脂フィルム3には、細隙状の貫通孔5が設けられている。前記細隙状の貫通孔5は、接着性樹脂フィルム3の切除、切り欠き形成等の公知の技術を用いて設けることができる。接着性樹脂フィルム3は樹脂である上、非常に薄い(数十〜数百μm)ため、石英やホウ珪酸ガラス等のエッチング加工よりもその加工が容易である。微細な反応流路の流路幅となる前記細隙状の貫通孔5の幅は50〜5000μmであることが好ましい。
【0039】
図4(A)、図4(B)および図4(C)は、接着性樹脂フィルムに形成される細隙状の貫通孔によって形成される微細な反応流路の例を示す図である。図4(A)は直線状の細隙状貫通孔から成る反応流路11aである。また、図4(B)のように、枝分かれ構造を備えた細隙状の貫通孔によって、反応流路11bのような複数の原料の導入および反応物の分離が可能な構成とすることもできる。また、図4(C)は、緩やかな折り返し点を設けた細隙状の貫通孔によって、長い反応流路11cを形成することもできる。
【0040】
次に、第一基板2および第二基板4について説明する。第一基板2および第二基板4は、前記接着性樹脂フィルム3の一方の面6および他方の面7にそれぞれ接合され、マイクロ反応装置1の反応流路11の天面および底面を形成するものである。
第一基板2および第二基板4は、反応流路内の視認性および光透過性の高い透明な板材、例えば、石英、ホウ珪酸ガラス、アクリル等の板材であることが好ましい。特に、耐薬品性の観点から、石英またはホウ珪酸ガラスであることが好ましい。
【0041】
第一基板2には、前記反応流路11の始点12および終点13に対応する位置に、反応流路3に反応原料を導入するための流体導入口8と、反応流路3を通過した反応物が取り出される流体排出口9が形成されている。前記流体導入口8および流体排出口9は、いずれか一方または両方を第二基板4に設けることもできる。
【0042】
また、第一基板2および第二基板4のいずれか一方または両方の前記接着性樹脂フィルム3との接合面14、15には、触媒を設けることができる。このことによって、反応流路11の天面と底面のいずれか一方または両方に触媒16が設けられ、反応原料が該反応流路11を通過している間に各種触媒反応を行うことができる。
【0043】
このように、マイクロ反応装置1の反応流路11の天面および底面を成す、第一基板2の前記接着性樹脂フィルム3との接合面14と第二基板4の前記接着性樹脂フィルム3との接合面15、すなわち、エッチング加工等を行っていない平らな面に予め触媒16を設け、前記第一基板2および第二基板4の接着面14、15を接着性樹脂フィルム3と接合して反応流路11を形成すれば、触媒16の形成が容易である。
【0044】
特に、触媒16が光触媒である場合には、第一基板2または第二基板4の光透過性が重要である。石英、ホウ珪酸ガラス等にエッチング加工を施すと、そのエッチング加工面は白く擦りガラス状になり、光透過性が低くなる。石英、ホウ珪酸ガラス等で形成された第一基板および第二基板自体の高い光透過性が維持された基板表面に、触媒を設けることによって、マイクロ反応装置の外側から照射する光を有効に利用することができる。なお、触媒16は、前記接着性樹脂フィルム3との接合面の全面に設けることが望ましいが、前記反応流路を成す部分にだけ設けることも可能である。
【0045】
前記触媒16は、前記第一基板2または第二基板4に固設できるものであればよく、光触媒、金属触媒、酵素等が挙げられる。ここで、光触媒や酵素は、比較的低温の加熱温度で変性(失活)することが知られている。光触媒のうち二酸化チタン(TiO)は、約650℃でその結晶構造がアナターゼ型からルチル型に転移し、光触媒活性が低くなってしまう。また、より低い温度での加熱(300〜500℃)でも触媒の変性等により活性が低下する虞がある。また、酵素はタンパク質であり、その変性温度は更に低く100℃以下で失活してしまうものが多い。このような場合は、使用する触媒の変性温度以下で接合できる接着性樹脂フィルム3を選択する。
【0046】
このように、接着性樹脂フィルム3に設けられた細隙状の貫通孔5の内面10と、該接着性樹脂フィルムの一方の面6に接合された第一基板2と、該接着性樹脂フィルム3の他方の面7に接合された第二基板4とにより、微細な反応流路11が形成されているので、マイクロ反応装置1の製造は容易、且つ低コストである。更に、接着性樹脂フィルム3の密着性により微細な反応流路11の密閉性が高められ、反応原料を微細な反応流路11に導入する際の圧力の損失を少なくすることができるため、高度に微細化された反応流路11の形成が可能となる。また、該反応流路11を流通する反応原料等が漏れることを防止できる。
【0047】
[実施例2]
次に、本発明に係るマイクロ反応装置の他の実施例について説明する。図5は実施例2に係るマイクロ反応装置を構成する第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板の斜視図、図6は図5の第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板を接合して形成したマイクロ反応装置の斜視図、図7は図6のVII−VII矢視図である。
【0048】
実施例2に係るマイクロ反応装置21は、第一基板22上の同一平面上に配設される複数枚の接着性樹脂フィルム23a、23bと(図5では、解りやすくするために接着性樹脂フィルム23a、23bが第一基板22に配設される前の状態を示している。)、該複数枚の接着性樹脂フィルム23a、23bのうち、隣り合う接着性樹脂フィルム23a、23bの端辺32a、32b同士が、その端辺上の各点より法線方向へ所定の距離を保つように配設されて形成された細隙25と、前記複数枚の接着性樹脂フィルム23a、23bが形成する平面の一方の面26に接合された第一基板22と、前記複数枚の接着性樹脂フィルム23a、23bが形成する平面の他方の面27に接合された第二基板24と、を備え、前記第一基板22と前記第二基板24と前記細隙25の内面30により、微細な反応流路31が形成されて構成されている。
【0049】
すなわち、接着性樹脂フィルム23a、23bが、微細な反応流路31の流路幅となる間隔をあけて配置されて、前記細隙25を形成している。また、端辺32a、32bの長さが流路長となり、接合後の接着性樹脂フィルム23の厚みが、微細な反応流路11の深さとなる。
【0050】
本実施例では、第一基板22、接着性樹脂フィルム23a、23b、および第二基板24を、接着性樹脂フィルムの接着性に基いて接合し、形成されたマイクロ反応装置の側面に形成される開口を、反応流路31に反応原料を導入するための流体導入口28と、反応流路31を通過した反応物が取り出される流体排出口29として利用することができるため、第一基板22または第二基板24に流体導入口28および流体排出口29としての穴を設けない構成とすることができる。
【0051】
図8(A)および図8(B)は、複数の接着性樹脂フィルムを配置して形成される細隙によって構成される微細な反応流路の例である。図8(A)は、2枚の接着性樹脂フィルム23a、23bによって形成される直線状の細隙から成る反応流路31aである。また、図8(B)のように、4枚の接着性樹脂フィルム23c、23d、23e、23fによって形成される枝分かれ構造を備えた細隙によって、反応流路31bのような複数の原料の導入および反応物の分離が可能な構成とすることができる。
【0052】
接着性樹脂フィルム23a〜23fのような単純な形状は、接着性樹脂のシートをカッターなどで切断して形成することができるため、図8(A)および図8(B)のような単純な構成のマイクロ反応装置を、実験室レベルで簡易的に作成したい場合などに適している。もちろん、緻密な切断面を形成できる切断方法によって、精密なマイクロ反応装置を製造することもできる。
【0053】
[実施例3]
次に、本発明に係る集積化マイクロ反応モジュールの一実施例について説明する。図9は実施例3に係るマイクロ反応装置を構成する第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板の斜視図、図10は図9の第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板を接合して形成したマイクロ反応装置の斜視図、図11は図10のXI−XI矢視図である。
【0054】
実施例3に係る集積化マイクロ反応モジュールは、接着性樹脂フィルム43に設けられた貫通孔が、複数の細隙状の貫通孔45であり、接着性樹脂フィルム43の一方の面46に接合された第一基板42と、接着性樹脂フィルム43の他方の面47に接合された第二基板44と、前記貫通孔45の内面50により形成された複数の微細な反応流路を有する反応流路部51が形成されているものである。
【0055】
本実施例において、接着性樹脂フィルム43、第一基板42および第二基板44の材質と、複数の細隙状の貫通孔45の形成方法は、実施例1のマイクロ反応装置1と同様であるため、その説明は省略する。
【0056】
次に、前記反応流路部51について説明する。図12(A)、図12(B)、図12(C)、および図22は、実施例3に係る集積化マイクロ反応モジュールの複数の微細な反応流路を有する反応流路部51の構成例である。
【0057】
前記反応流路部51は、複数の微細な反応流路が平行に配列されて成る集積流路部56と、前記複数の微細な反応流路が、共通の流体導入口と共通の流体排出口とに合流するように形成された共通流路部57とを備えている。
【0058】
図12(A)は複数の微細な反応流路が、一つの共通の流体導入口52aと、一つの共通の流体排出口53aとに合流するように形成された反応流路部51aである。
【0059】
反応原料を一つの共通の流体導入口52aに導入することによって、該反応原料が、集積化された複数の微細な反応流路に送り込まれるので、大容量の触媒反応を行うことができる。更に、各反応流路から排出される反応物は、再度合流されて一つの流体排出口53aから排出されるので、その回収が容易である。
【0060】
図12(B)は複数の微細な反応流路が、二つの共通の流体導入口52b1、52b2と、二つの共通の流体排出口53b1、53b2とに合流するように形成された反応流路部51bである。
【0061】
共通の流体導入口52b1、52b2および流体排出口53b1、53b2は、前記複数の微細な反応流路の本数に応じて、共通の流体導入口は適宜増やすことができる。いくつかの反応流路を合流させる構成とすることによって、原料導入用のポンプ等の数を減らすことができるため、コストダウンに繋がる。
【0062】
図12(C)は集積流路部56と前記共通流路部57との間に、集積流路部56に導入される流体および集積流路部56から排出される流体の条件を均一にするための共通幅広流路部58を備えた反応流路部51cである。
【0063】
共通の流体導入口52c側の共通流路部57と集積流路部56との間に前記共通幅広流路部58が設けられていることによって、前記共通の流体導入口52cと集積流路部56の各微細な反応流路との位置関係の違いによる、それぞれの微細な反応流路への反応原料の導入圧力差を均一化することができる。
【0064】
また、共通の流体排出口53c側の共通流路部57と集積流路部56との間に前記共通幅広流路部58が設けられていることによって、それぞれの微細な反応流路内での反応性の違いによる反応生成物の濃度差を均一化し、共通の流体排出口53cから排出することができる。
【0065】
更に、共通幅広流路部58は、図22のように、共通流路部57から集積流路部56に向けて放射状に広がった形状(共通流路部57を要とした扇状)とすることが好ましい。このような形状にすることによって、前記共通流路部57から集積流路部56への反応原料の導入圧力の均一化、および前記集積流路部56から送り出された反応生成物の濃度の均一化を効率よく行うことができる。
【0066】
本実施例においても、第一基板42および第二基板44のいずれか一方または両方の前記接着性樹脂フィルム43との接合面44、45には、触媒(図示せず)を設けることができる。このことによって、反応流路51の天面と底面のいずれか一方または両方に触媒(図示せず)が設けられ、反応原料が該反応流路41を通過している間に各種触媒反応を行うことができる。
【0067】
[実施例4]
図13〜図17は、集積化マイクロ反応モジュールの他の実施例を示す図である。図13は実施例4に係る集積化マイクロ反応モジュールの平面図、図14は図13のXIV−XIV矢視図、図15は図14のXV−XV矢視図、図16は図14のXVI−XVI矢視図、図17は図13のXVII−XVII矢視図である。図23は、第二基板に設けられる凹部79の形状の他の例を示す図である。
【0068】
本実施例は、実施例4の図12(C)の構成において、接着性樹脂フィルム43に設けられた貫通孔によって形成されていた共通幅広流路部を構造簡単に形成できるものである。集積化マイクロ反応モジュール61は、実施例4と同じく複数の細隙状の貫通孔65が設けられた接着性樹脂フィルム63と、前記接着性樹脂フィルムの一方の面に接合された第一基板62と、前記接着性樹脂フィルムの他方の面に接合された第二基板64とによって形成され、前記第一基板62と前記第二基板64と前記貫通孔65の内面70により、複数の微細な反応流路部71が形成される。また、第一基板62の接着性樹脂フィルム63に接合される接合面には触媒66が設けられている。
【0069】
接着性樹脂フィルム63には、図15のように独立した細隙状の貫通孔65が平行に並べられて形成されている。独立した細隙状の貫通孔65は集積反応流路部76(図17)を形成する。そして、第二基板64の接着性樹脂フィルム63に接合される接合面には、前記独立した細隙状の貫通孔65によって形成される集積反応流路部76を合流させる共通幅広流路部78を成す凹部79が、前記細隙状の貫通孔65の両端に対応する位置に設けられている(図16)。
【0070】
本実施例では、更に、前記第二基板64の前記接合面は、集積反応流路部76への共通の流体導入口および集積反応流路部からの共通の流体排出口となる共通流路部77を構成する凹部80を備えている。共通流路部77は、このように第二基板64へ凹部80を設けることによっても形成できるが、接着性樹脂フィルム63に、前記独立した細隙状の貫通孔65とは別の貫通孔を設けて形成することも可能である。
【0071】
また、共通幅広流路部78を成す凹部79は、図23のように、共通流路部77を成す凹部80から放射状に広がった形状(共通流路部77を成す凹部80を要とした扇状)とすることもできる。このことによって、共通流路部77から集積反応流路部76への反応原料の導入圧力の均一化、および前記集積流路部76から送り出された反応生成物の濃度の均一化を効率よく行うことができる。
【0072】
このような構成の第一基板62、接着性樹脂フィルム63、第二基板64を接着することによって、図14および図17のような共通幅広流路部78を備えた反応流路部71を構成することができる。本実施例において、接着性樹脂フィルム63には、独立した細隙状の貫通孔65が平行に並べられて設けられているので、前記貫通孔65の形成後の接着性樹脂フィルムは一枚の連続したシート状であり、その取り扱いが容易であると共に、第一基板62および第二基板64への接着も容易である。
【0073】
集積化マイクロ反応モジュール61を一つの単位として、該集積化マイクロ反応モジュール61を組み合わせることによって、微細な反応流路で行うマイクロ反応を大容量で行うことが可能となる。
【0074】
[実施例5]
本実施例は、実施例4の集積化マイクロ反応モジュールの第一基板62の上側に、UVダイオード素子モジュールを設け、微細な反応流路の上面から紫外線を照射し、光触媒反応を行うことを可能にした光触媒反応用集積化マイクロ反応モジュールである。
【0075】
図18〜図20は、光触媒反応用集積化マイクロ反応モジュールの一実施例を示す図であり、図18は実施例5の光触媒反応用集積化マイクロ反応モジュールの平面図、図19は図18のXIX−XIX矢視図、図20は図18のXX−XX断面図である。図21(A)〜(C)は、UVダイオード素子モジュールの構成を示す図であり、(A)はUVダイオード素子モジュールの平面図、(B)はUVダイオード素子モジュールの底面図、(C)は図21(B)のc-c矢視図である。
【0076】
まず、集積化マイクロ反応モジュール61の上に搭載されるUVダイオード素子モジュール91について説明する。図21(C)に示されるように、UVダイオード素子モジュール91は、UVダイオード部92とモジュール冷却部93とを備えている。UVダイオード部92は、公知の紫外線発光ダイオード(UV−LED)が用いられる。モジュール冷却部93は、UVダイオード部92の発熱を冷却するものであり、冷却水流路94に冷却水を流通させる構成である。
【0077】
本実施例では、前記UVダイオード素子モジュール91は、集積化マイクロ反応モジュール61の反応流路部71に沿って配置されるので(図20)、該反応流路部71の流路長すべてに紫外線を照射できる数のUVダイオード部が直列に配列される[図21(B)]。直列に配列されたUVダイオード部92の長さに応じてモジュール冷却部93の長さが決定される。配列されたUVダイオード部92とモジュール冷却部93はケーシング金枠95によって一体化され、一つのUVダイオード素子モジュール91を形成している。
【0078】
このようなUVダイオード素子モジュール91を、実施例4と同様の構成を備えた集積化マイクロ反応モジュール61の上に配設する。該UVダイオード素子モジュール91は、図18および図19に示されるように、集積化された微細な反応流路の数、すなわち、反応流路が設けられている範囲に応じ、すべての流路に紫外線を照射できる数のUVダイオード素子モジュール91が並列に配設される。
【0079】
UVダイオード素子モジュール91は、第一基板62上に直接設けることもできるが、図19および図20に示されるように、モジュールスペーサー96を用い、UVダイオード素子モジュール91と集積化マイクロ反応モジュール61の間に空間を設けることが好ましい。
【0080】
UVダイオード素子モジュール91とモジュールスペーサー96と集積化マイクロ反応モジュール61とを、押さえ金具97および固定ボルト98で一体化し、光触媒反応用集積化マイクロ反応モジュール101として利用することができる。
【0081】
[有機ヒ素分解反応実験]
次に、本発明に係るマイクロ反応装置を使用したマイクロ反応実験について説明する。本実験は、マイクロ反応装置を用いたジフェニルアルシン酸(以下、DPAA)の分解反応実験である。
【0082】
DPAAは、茨城県神栖町における地下水汚染の有機ヒ素化合物汚染の原因物質であり、その処理方法の確立が急務である。一方、無機ヒ素化合物を含有する汚染水の処理方法としては、鉄塩添加凝集沈殿法が実用化されている。しかし、DPAAは比較的安定な化合物であるとともに、ベンゼン環(フェニル基)を有するため、前記鉄塩添加凝集沈殿法では求められる水質基準の達成が困難であった。
【0083】
また、紫外線灯による光分解(貯留槽内でのバッチ式)を前処理として行う鉄塩添加凝集沈殿法が検討されたが、DPAAは光分解に対して難分解性であり、10ppmを超える高濃度汚染原水を処理するためには長時間を要すためコスト的に実現が困難であった。
【0084】
本実験は、接着性樹脂フィルムの密着性により微細な反応流路の密閉性が高く、毒性が高いヒ素化合物を含有する汚染水が漏れることを防止できる上、光触媒を担持させることが可能であり、大容量の汚染水を処理するための集積化が可能な本発明に係るマイクロ反応装置を用いることによって、DPAAの光分解反応を効率よく行えば、光分解を有機ヒ素化合物汚染水処理に利用できる可能性が高まると考えて行ったものである。
【0085】
本実験では、実施例1、図1のマイクロ反応装置1と同じ構成のマイクロ反応装置を用いた。接着性樹脂フィルム3としては、180℃前後に溶融点を有する接着性フッ素樹脂フィルムを用いた。第一基板2および第二基板4は合成石英製であり、第二基板4の接着性樹脂フィルム3との接合面15に光触媒としてTiOをゾル−ゲル法により担持したものを用いた。
【0086】
反応流路11は、流路幅2mm、流路長50mmに形成した。流路深さは、45μmの前記接着性樹脂フィルム3を200℃前後で溶着して40μm前後に形成されている。また、光触媒反応を行うための光源としてはUV−LED(波長365nm)を用いた。第一基板2の上側に反応流路11に沿って光源(図示せず)を配置し、光触媒が設けられた第二基板4の前記接合面15の上面から紫外光を照射した。このマイクロ反応装置1を用い、DPAAを対象として光分解実験を行った。その結果を表1に示す。
【0087】
総ヒ素濃度の分析は誘導結合プラズマ質量分析法(ICP/MS)によって行った。無機ヒ素化合物[三価:As(III)、五価:As(V)]、および有機ヒ素化合物[モノメチルアルソン酸(MMAA)、ジメチルアルソン酸(DMAA)、ジフェニルアルシン酸(DPAA)、フェニルアルソン酸(PAA)、メチルフェニルアルシン酸(PMAA)、トリメチルアルシンオキシド(TMAO)]の分析は、液体クロマトグラフィー−誘導結合プラズマ質量分析法(LC−ICP/MS)によって行った。
【0088】
【表1】

上記マイクロ反応装置を用いてTiO触媒によるDPAAの光分解を行うと、10秒で77.3%、21秒で82.5%の高効率でDPAAが分解され、三価の無機ヒ素化合物が生じていることが分かる。無機ヒ素化合物にまで分解されれば、従来の鉄塩添加凝集沈殿法を用いた処理を行うことができる。尚、分解後の各化合物のヒ素濃度の合計が総ヒ素濃度よりも低い値となっているのは、DPAAの光分解によって、今回の測定対象以外の形態のヒ素化合物に分解されているためであると考えられる。
【0089】
また、本実験では約80%の分解率で分解反応が収束しているように思われるが、反応条件(反応流路深さ、比表面積、反応温度等)を最適化することによって、分解率を高めることができると考えられる。
【0090】
CFD数値解析プログラムで微細反応流路を用いた連続フロー型光触媒マイクロ反応装置をモデル化し、フェノールの光分解反応についての数値解析を行った解析結果を参考にすると、反応流路深さを更に薄く形成し、深さ25μ〜40μmの反応流路を用いることによって分解率が95〜99%以上に向上する可能性もあると予想される。
【0091】
また、マイクロ反応装置を用いることによって、有機ヒ素化合物(DPAA)から無機ヒ素化合物への分解を高効率で行うことができるので、実施例5で説明した集積化マイクロ反応モジュールを適用することによって、有機ヒ素汚染水に対する実用的な浄化装置を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、微細な流路内において化学反応、分離等を行うことができるマイクロ反応装置、その製造方法、および集積化マイクロ反応モジュール、および集積化マイクロ反応モジュールを用いた有機ヒ素汚染水の浄化方法として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】実施例1に係るマイクロ反応装置を構成する第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板の斜視図である。
【図2】図1の第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板を接合して形成したマイクロ反応装置の斜視図である。
【図3】図2のIII−III矢視図である。
【図4】接着性樹脂フィルムに形成される細隙状の貫通孔によって形成される微細な反応流路の例を示す図であり、(A)は直線状の反応流路、(B)は枝分かれ状に分岐した構造を備えた反応流路、(C)は、緩やかな折り返し点を設けた反応流路である。
【図5】実施例2に係るマイクロ反応装置を構成する第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板の斜視図である。
【図6】図5の第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板を接合して形成したマイクロ反応装置の斜視図である。
【図7】図6のVII−VII矢視図である。
【図8】複数の接着性樹脂フィルムを配置して形成される細隙によって構成される微細な反応流路の例であり、(A)は直線状の細隙から成る反応流路31A、(B)は枝分かれ構造を備えた反応流路31Cである。
【図9】実施例3に係るマイクロ反応装置を構成する第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板の斜視図である。
【図10】図9の第一基板、接着性樹脂フィルム、および第二基板を接合して形成したマイクロ反応装置の斜視図である。
【図11】図10のXI−XI矢視図である。
【図12】複数の微細な反応流路を有する反応流路部の構成例であり、(A)は複数の微細な反応流路が、一つの共通の流体導入口と、一つの共通の流体排出口とに合流するように形成された反応流路部、(B)は複数の微細な反応流路が、二つの共通の流体導入口と、二つの共通の流体排出口とに合流するように形成された反応流路部、(C)は集積流路部と前記共通流路部との間に、集積流路部に導入される流体および集積流路部から排出される流体の条件を均一にするための共通幅広流路部を備えた反応流路部である。
【図13】実施例4に係る光触媒反応用集積化マイクロ反応モジュールの平面図である。
【図14】図13のXIV−XIV矢視図である。
【図15】図14のXV−XV矢視図である。
【図16】図14のXVI−XVI矢視図である。
【図17】図13のXVII−XVII矢視図である。
【図18】実施例5の集積化マイクロ反応モジュールの平面図である。
【図19】図18のXIX−XIX矢視図である。
【図20】図18のXX−XX断面図である。
【図21】UVダイオード素子モジュールの構成を示す図であり、(A)はUVダイオード素子モジュールの平面図、(B)はUVダイオード素子モジュールの底面図、(C)は図21(A)のc-c矢視図である。
【図22】実施例3に係る集積化マイクロ反応モジュールの複数の微細な反応流路を有する反応流路部の構成例である。
【図23】実施例4における凹部79の形状の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
1 マイクロ反応装置、 2 第一基板、 3 接着性樹脂フィルム、
4 第二基板、 5 細隙状の貫通孔、
8 流体導入口、 9 流体排出口、 10 貫通孔の内面、
11、11a、11b、11c 微細な反応流路、
14 第一基板の接着性樹脂フィルムとの接合面、
15 第二基板の接着性樹脂フィルムとの接合面、16 触媒、
21 マイクロ反応装置、 22 第一基板、
23、23a、23b、23c、23d、23e、23f 接着性樹脂フィルム、
24 第二基板、 25 細隙、 28 流体導入口、
29 流体排出口、 30 細隙の内面、
31、31a、31b 微細な反応流路、
41 集積化マイクロ反応モジュール、 42 第一基板、
43 接着性樹脂フィルム、 44 第二基板、
45 貫通孔、 50 貫通孔の内面、
51、51a、51b、51c、51d 反応流路部、
52、52a、52b1、52b2、52c、52d 流体導入口、
53、53a、53b1、53b2、53c、53d 流体排出口、
56 集積流路部、 57 共通流路部、 58 共通幅広流路部、
61 集積化マイクロ反応モジュール、 62 第一基板、
63 接着性樹脂フィルム、 64 第二基板、
65 複数の細隙状の貫通孔、 66 触媒、
70 細隙状の貫通孔の内面、 71 反応流路部、
76 集積反応流路部、 77 共通流路部、 78 共通幅広流路部、
79、80 凹部、
91 UVダイオード素子モジュール、
92 UVダイオード部、 93 モジュール冷却部、
101 光触媒反応用集積化マイクロ反応モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性樹脂フィルムと、
該接着性樹脂フィルムに設けられた細隙状の貫通孔と、
前記接着性樹脂フィルムの一方の面に接合された第一基板と、
前記接着性樹脂フィルムの他方の面に接合された第二基板と、を備え、
前記第一基板と前記第二基板と前記貫通孔の内面により、微細な反応流路が形成されていることを特徴とする、マイクロ反応装置。
【請求項2】
同一平面上に配設される複数枚の接着性樹脂フィルムと、
該複数枚の接着性樹脂フィルムのうち、隣り合う接着性樹脂フィルムの端辺同士が、その端辺上の各点より法線方向へ所定の距離を保つように配設されて形成された細隙と、
前記複数枚の接着性樹脂フィルムが形成する平面の一方の面に接合された第一基板と、
前記複数枚の接着性樹脂フィルムが形成する平面の他方の面に接合された第二基板と、を備え、
前記第一基板と前記第二基板と前記細隙の内面により、微細な反応流路が形成されていることを特徴とする、マイクロ反応装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクロ反応装置において、前記接着性樹脂フィルムを成す素材は、接着性フッ素樹脂であることを特徴とする、マイクロ反応装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のマイクロ反応装置において、前記第一基板および/または前記第二基板の前記接着性樹脂フィルムとの接合面に触媒を備えていることを特徴とする、マイクロ反応装置。
【請求項5】
請求項4に記載のマイクロ反応装置において、前記触媒は光触媒であることを特徴とする、マイクロ反応装置。
【請求項6】
接着性樹脂フィルムに細隙状の貫通孔を設ける工程と、
該細隙状の貫通孔を設けた接着性樹脂フィルムの一方の面に第一基板を該接着性樹脂フィルムの接着性に基いて接合し、他方の面に第二基板を該接着性樹脂フィルムの接着性に基いて接合し、前記第一基板と前記第二基板と前記貫通孔の内面により、微細な反応流路を形成する工程と、を有することを特徴とする、マイクロ反応装置の製造方法。
【請求項7】
複数枚の接着性樹脂フィルムを第一基板上の同一平面上に配設し、更に、隣り合う接着性樹脂フィルムの端辺同士を、その端辺上の各点より法線方向へ所定の距離を保つように配設して細隙を形成する工程と、
該細隙を形成した接着性樹脂フィルムの一方の面に第一基板を該接着性樹脂フィルムの接着性に基いて接合し、他方の面に第二基板を該接着性樹脂フィルムの接着性に基いて接合し、前記第一基板と前記第二基板と前記細隙の内面により、微細な反応流路を形成する工程と、を有することを特徴とする、マイクロ反応装置の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載のマイクロ反応装置の製造方法において、前記接着性樹脂フィルムを成す素材は、接着性フッ素樹脂であることを特徴とする、マイクロ反応装置の製造方法。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項に記載のマイクロ反応装置の製造方法において、前記第一基板と前記第二基板を接着性樹脂フィルムと接合する前に、前記第一基板および/または前記第二基板の前記接着性樹脂フィルムとの接合面に触媒を設ける工程を有することを特徴とする、マイクロ反応装置の製造方法。
【請求項10】
接着性樹脂フィルムと、
該接着性樹脂フィルムに設けられた複数の細隙状の貫通孔と、
前記接着性樹脂フィルムの一方の面に接合された第一基板と、
前記接着性樹脂フィルムの他方の面に接合された第二基板と、を備え、
前記第一基板と前記第二基板と前記貫通孔の内面により、複数の微細な反応流路を有する反応流路部が形成されている集積化マイクロ反応モジュールであって、
前記反応流路部は、複数の微細な反応流路が平行に配列されて成る集積流路部と、
前記複数の微細な反応流路が、共通の流体導入口と共通の流体排出口とに合流するように形成された共通流路部と、を備え、
前記第一基板および/または前記第二基板の前記接着性樹脂フィルムとの接合面に触媒を備えていることを特徴とする、集積化マイクロ反応モジュール。
【請求項11】
請求項10に記載の集積化マイクロ反応モジュールにおいて、前記集積流路部と前記共通流路部との間に、集積流路部に導入される流体および集積流路部から排出される流体の条件を均一にするための共通幅広流路部を備えていることを特徴とする、集積化マイクロ反応モジュール。
【請求項12】
請求項11に記載の集積化マイクロ反応モジュールにおいて、前記共通幅広流路部は、前記第一基板および/または前記第二基板に形成された凹部によって構成されていることを特徴とする、集積化マイクロ反応モジュール。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか1項に記載の集積化マイクロ反応モジュールを用いて、有機ヒ素汚染水を浄化処理することを特徴とする、有機ヒ素汚染水の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2008−194568(P2008−194568A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29780(P2007−29780)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】