説明

マイクロ波を用いて、動いている物体を分類するための方法及び装置

【課題】動いている物体を分類することが望ましい。
【解決手段】送信アンテナ素子の線形アレイによって、監視エリア内にマイクロ波を送信することにより、動いている物体が分類される。動いている物体から逆投影される散乱したマイクロ波が、受信アンテナ素子の線形アレイによって受信される。散乱したマイクロ波から、散乱したマイクロ波の螺旋状の漸進的変化に関連する特徴が抽出される。その後、動いている物体は、抽出された特徴に従って、1組の可能なクラスのうちの1つに分類され、選択されたクラスを示すアラーム信号を生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的にはマイクロ波逆投影レーダに関し、より詳細には、監視のためにマイクロ波逆投影レーダを用いることに関する。
【背景技術】
【0002】
監視のために、センサ、たとえば赤外線センサ及びカメラが最も頻繁に用いられる。赤外線センサは、相対的に安価である。しかしながら、赤外線センサは、2値の事象、すなわち、侵入があるか否かだけしか検出することができない。カメラは、相対的に高価であり、カメラをベースとした監視システムは、その視野内で物体を特定及び分類することが望まれる場合に、構成が複雑になる。
【0003】
いずれの場合でも、検出エリアは、相対的に小さな視野によって制限され、それゆえ、広いエリアを監視するには、数多くのセンサを用いなければならない。
【0004】
広いエリアを監視するために、マイクロ波逆投影を用いることもできる。マイクロ波は、波長が1メートルよりも短く且つ1ミリメートルよりも長い、すなわち周波数が300メガヘルツ〜300ギガヘルツ(UHF、SHF、EHF)の電磁(EM)波である。
【0005】
投射マイクロ波は、「漏洩」同軸ケーブルである送信アンテナアレイによって送信される。漏洩同軸ケーブルは、導体外装に開けられてマイクロ波を放射するスロットを有し、放射されたマイクロ波は、同じくスロットを有する漏洩同軸ケーブルである受信アンテナアレイによって受信される。
【0006】
動いている物体は、受信信号を「散乱させる」。参照により本明細書に援用される非特許文献1を参照されたい。非特許文献1は、散乱した波の2次元空間表現を得るために、IQ復調と複素FFTとを組み合わせたスペクトル拡散技法を示している。この空間内のマイクロ波の拡散は、侵入者の検出に使用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Inomata他著「Microwave back−projection radar for wide−area surveillance system」,34th European Microwave Conference,2004.Volume 3,Issue,11−15,pp.1425−1428,Oct.2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1の技法では、電磁界のレベル全体を解析するだけなので、赤外線センサと同様に、2値の侵入事象しか検出することができない。すなわち、非特許文献1の技法では、観測される空間に入った侵入物の種類(人、乗り物、動物等)を区別することができない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
受信機は、複素空間内で、動いている物体によって散乱されたマイクロ波を得る。また、信号の特徴が抽出される。続いて、それらの特徴が分類されて、動いている物体のクラスが特定される。その後、動いている物体のクラスに従って、アラーム信号を生成することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、動いている物体を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1による監視システムを示すブロック図である。
【図2】本発明によって用いられるスライディング時間窓を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態1による監視方法を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるマイクロ波逆投影レーダシステムを示す。このシステムは、送信機110、及び受信機120を備える。送信機110及び受信機120は、それぞれ「漏洩」同軸ケーブル111及び121に接続される。同軸ケーブルは、送受信アンテナアレイとしての役割を果たす。それらのケーブルは、監視下に置かれるエリア105の周囲に配置することができる。
【0013】
第1のケーブル111は、投射マイクロ波101を送信し、第2のケーブル121は、2つのケーブル間で動いている物体103によって散乱されたマイクロ波102を受信する(120)。散乱したマイクロ波102は、受信されたマイクロ波から特徴を抽出することによって、以下に説明されるように分類される(130)。その分類に応じて、アラーム信号140を生成し、動いている物体を、たとえば人又はネズミと特定することができる。複数の異なる物体を同時に検出及び分類できることに留意されたい。
【0014】
物体の存在は、受信されたマイクロ波において測定される変位104によって示される。物体103が動いているとき、複素空間内の受信されたマイクロ波信号の表現は、移動及び回転する。すなわち、その位相が物体の動きに比例して変化し、その位相が動いて、複素空間内の「動きのない場合の」位置から離れる。これは、螺旋状の変位104を生成する。それゆえ、本発明において抽出される特徴は、散乱したマイクロ波の螺旋状の漸進的変化104に関連する。また、本発明において抽出される特徴は、螺旋状の漸進的変化の曲線距離(CURVD:curvilinear distances)又はカーネル主成分分析(KPCA:kernel principal component analysis)に基づくことができる。
【0015】
非特許文献1の技法では、螺旋に基づく特徴を抽出しないこと、及び動いている物体を分類しないことに留意されたい。
【0016】
その後、サポートベクトルマシン(SVM:support vector machines)、k最近傍法(k−NN:k−nearest neighbor)又は単純ベイズ分類器のような任意の分類器によって、その変位測定値を用いて、マイクロ波を散乱させる物体を分類することができる。単純ベイズ分類器は、強い(単純な)独立性を仮定してベイズの定理を適用することに基づく、簡単な確率的分類器である。本発明人は、ソート単純ベイズ分類器(SNBC:sorted naive Bayes classifier)も記載し、SNBCは、受信アンテナアレイ121に沿った物体の位置によって影響を及ぼされることなく、物体のタイプを有効に分類することができる。
【0017】
図2に示されるように、本発明では、スライディング時間窓200が用いられる。その窓は、監視エリア内の動的な条件、又は望まれる検出精度に応じて、固定又は可変にすることができる。スライディング窓のサイズは、N個のサンプルx、x、...、xである。ここで、xは窓内の第1のサンプル201であり、xは窓内の最後のサンプル202である。なお、次のサンプル毎に、最初のサンプルが捨てられ、次のサンプルが最後のサンプルになる。
【0018】
曲線距離(CURVD)
実施の形態1では、分類される特徴は、散乱の結果として行き来される全曲線距離であり、次式のように表される。
【0019】
【数1】

【0020】
サンプルは、連続して生成及び解析されるので、CURVD特徴は、新たなサンプルが受信されるのに応じて、効率的に更新することができる。CURVDoldは、サイズNのスライディング窓の中身に関する、現在の距離指標である。最後のサンプルxnewをスライディング窓の中に入れるために、第1のサンプルxが捨てられる。この新たな曲線距離CURVDnewは、次式のように表される。
【0021】
【数2】

【0022】
新たな曲線距離が得られた後に、サンプルxは捨てられる。これによって、その窓においてサンプルxが第1のサンプルになり、スライディング時間窓内の最後のサンプルとして、サンプルxnewが挿入される。
【0023】
カーネル主成分分析(KPCA)
別の実施形態では、特徴は、直交する軸に沿ったサンプルの変位の指標が与えられる場合に、線形固有値解析によって得られる固有値である。しかしながら、上記のように、変位の軸は螺旋に沿っている。曲線軸に沿って変位を測定するために、本発明では、カーネル主成分分析(KPCA)からの固有値が用いられる。参照により本明細書に援用される、Schoelkopf他著「Kernel principal component analysis」(Advances in Kernel Methods−Support Vector Learning,pp.327−352.MIT Press,Cambridge,MA,1999)を参照されたい。
【0024】
KPCAは、非線形特徴抽出の方法である。KPCAを用いて得られる固有値は、曲線軸に沿った変位に関する、より正確な指標をもたらす。
【0025】
入力サンプルセットは、次式のように表される。ここで、nはx〜xである。
【0026】
【数3】

【0027】
サンプルの分布は、非線形な軸に沿っている。それらのサンプルは、サンプルを特徴空間
【数4】

に非線形に写像することによって線形にすることができる。写像Φは、特徴空間内のドット積の形を指定することによって、暗黙のうちに定義される。したがって、写像された任意のサンプル対
【数5】

に対し、或るカーネル関数に関してドット積が定義される。それゆえ、次式が成り立つ。
【0028】
【数6】

【0029】
共通カーネルの一例は、ガウスカーネルであり、次式のように表される。ここで、σはガウスカーネルの帯域幅である。
【0030】
【数7】

【0031】
この実施の形態では、本発明人は、データの拡散の指標として、カーネル行列Kの最も高い固有値を使用した。スライディング時間窓内のサンプルを仮定すると、N×Nカーネル行列Kは、次式のように表される。
【0032】
【数8】

【0033】
ここで、i及びjはサンプル対を示す。適当なカーネル関数及びそのパラメータは、サンプルの特徴に応じて選択することができる。
【0034】
ソート単純ベイズ分類器(SNBC)
実施の形態1では、本発明人は、SNBCを用いる。SNBCは、強い特徴、すなわち独立性を仮定してベイズの定理を適用することに基づく、簡単な確率的分類器である。いかなるベイズの方法も用いることなく、単純ベイズモデルを使って作業することができる。単純な設計及び極端に単純化した仮定にもかかわらず、単純ベイズ分類器は、多くの場合に、監視のような多数の複雑な実世界の用途において、予想よりもはるかに良好に機能する。SNBCの利点は、それが、分類のために必要とされるパラメータ、すなわち特徴の平均及び分散を推定するのに、わずかな量のトレーニングサンプルしか必要としないことである。クラスを前提とすると、特徴は独立しているものと仮定されるので、クラス毎の特徴の分散しか求める必要はなく、共分散行列全体を求める必要はない。
【0035】
抽象的には、分類器のための確率モデルは、いくつかの特徴F〜Fを条件とする従属クラス変数Cに関する条件付きモデルであり、次式のように表される。
【0036】
【数9】

【0037】
ベイズの定理を用いて、以下の式が得られる。
【0038】
【数10】

【0039】
また、独立性の仮定を適用すると、以下の式が得られる。
【0040】
【数11】

【0041】
Zは定数であるので、本発明では無視することができ、2クラス問題クラス1(C)及びクラス2(C)に対して、特徴F、F、...、Fを有する試験サンプル集合Xを仮定すると、サンプル集合Xがクラス1に属する確率は、次式のようになる。
【0042】
【数12】

【0043】
上記表現において、特徴値Fは、散乱したマイクロ波121の変位の指標であり、この特徴値Fは、上述したようなKPCA又はCURVD方法を用いて得ることができる。一般的には、受信アンテナアレイの特定の素子においてこの指標が高いほど、物体がその素子の場所の近くにある確率が高くなる。したがって、侵入する物体の存在は、その物体が受信アレイに沿って動くのに応じて、波形のようなシグネチャを生成する。この波形のピークは、侵入者に最も近い受信機アレイ素子において生じる。これによって、同じクラスの侵入者であっても、受信アンテナアレイに沿って異なる場所に位置する場合に異なる形状の波形が生成されると考えられる。これは、従来の単純ベイズ分類器を混乱させる可能性がある。
【0044】
それゆえ、本発明では、信号値に基づいて入力信号をソートすることによって、入力信号を「スクランブル」した。このように、全ての信号値が標準形で表現され、このとき、第1の特徴は、常に最大変位値である。ソートされた特徴を、上記の定式化において用いて、侵入者タイプを分類することができる。
【0045】
図3は、本発明によるシステム及び方法を示す。受信機は、散乱したマイクロ波102を得る(310)。また、特徴321が抽出される(320)。それらの特徴を分類して(330)、動いている物体のクラス331が求められる。その後、アラーム信号140が、クラスを示すことができる(340)。
【0046】
本発明は、好ましい実施形態によって例として説明されてきたが、本発明の精神及び範囲内で種々の他の適合及び変更を行なうことができることは理解されたい。それゆえ、添付の特許請求の範囲の目的は、本発明の真の精神及び範囲内に入るような全ての変形及び変更を包含することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を用いて、動いている物体を分類するための方法であって、
送信アンテナ素子の線形アレイによって、マイクロ波を監視エリア内に送信するステップと、
受信アンテナ素子の線形アレイによって、前記動いている物体から逆投影される散乱したマイクロ波を受信するステップと、
前記散乱したマイクロ波から、前記散乱したマイクロ波の螺旋状の漸進的変化に関連する特徴を抽出するステップと、
前記抽出された特徴に従って、前記動いている物体を1組の可能なクラスのうちの1つに分類するステップと、
前記選択された1つのクラスを示すアラーム信号を生成するステップと、
を含むことを特徴とするマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項2】
前記可能なクラスは、人々、乗り物及び動物を含むことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項3】
前記送信アンテナ素子の線形アレイ及び前記受信アンテナ素子の線形アレイは、導体外装に開けられたスロットを有する漏洩同軸ケーブルの形をとり、
前記送信アンテナ素子の線形アレイ及び前記受信アンテナ素子の線形アレイを前記監視エリアの周囲に配置するステップをさらに含む
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項4】
複数の異なる物体を同時に分類するステップをさらに含む
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項5】
前記特徴は、前記散乱したマイクロ波の変位を示すことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項6】
前記動いている物体によって、前記受信アンテナ素子の線形アレイの各素子によって受信される複素信号が回転及び並進し、前記螺旋状の漸進的変化が生成されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項7】
前記特徴は、前記散乱したマイクロ波の前記螺旋状の漸進的変化に関連することを特徴とする請求項6に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項8】
前記特徴は、スライディング時間窓を用いて抽出されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項9】
前記スライディング時間窓は、固定されることを特徴とする請求項8に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項10】
前記スライディング時間窓は、可変であることを特徴とする請求項8に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項11】
前記スライディング時間窓は、N個のサンプルx、x、...、xを含み、xは第1のサンプルであり、xは任意の時点における最後のサンプルであることを特徴とする請求項8に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項12】
前記特徴は、
【数1】

として表される曲線距離であることを特徴とする請求項11に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項13】
古い曲線距離CURVDoldに基づく新たな曲線距離CURVDnewは、
【数2】

であることを特徴とする請求項12に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項14】
前記特徴は、線形固有値解析によって得られる固有値であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項15】
前記分類するステップは、サポートベクトルマシンを用いることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項16】
前記分類するステップは、k最近傍分類器を用いることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項17】
前記分類するステップは、単純ベイズ分類器を用いることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項18】
前記分類するステップは、ソート信号単純ベイズ分類器を用いることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項19】
前記特徴を抽出する前に、信号値に従って、前記散乱したマイクロ波の入力サンプルをソートするステップをさらに含む
ことを特徴とする請求項18に記載のマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための方法。
【請求項20】
マイクロ波を用いて、動いている物体を分類するための装置であって、
監視エリア内にマイクロ波を送信するように構成される送信アンテナ素子の線形アレイと、
前記動いている物体から逆投影される散乱したマイクロ波を得るように構成される受信アンテナ素子の線形アレイと、
前記散乱したマイクロ波から、前記散乱したマイクロ波の螺旋状の漸進的変化に関連する特徴を抽出する手段と、
前記抽出された特徴に従って、前記動いている物体を1組の可能なクラスのうちの1つに分類するように構成される分類器と、
前記選択された1つのクラスを示すアラーム信号を生成する手段と、
を備えることを特徴とするマイクロ波を用いて動いている物体を分類するための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−271071(P2009−271071A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−110640(P2009−110640)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】