説明

マイクロ波ドップラーセンサ

【課題】 加工性の良好な材料を用いて、強度、コストの問題に対応しつつ、ドップラーセンサの回路に影響を与えないマイクロ波ドップラーセンサを提供すること
【解決手段】 所定周波数のマイクロ波を生成する局部発振器15と、マイクロ波を放射並びに受信するアンテナ12と、そのアンテナから受信したマイクロ波と局部発振器から出力されるマイクロ波を混合し検波する検波器16と、アンテナの前面に配置されるレドーム13と、を備える。レドームは、全表面の面積の2分の1の範囲である第1レドーム部13aと他方の2分の1の範囲である第2レドーム部13bとに、所定周波数により求められる波長の4分の1の深さの段差を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドップラーセンサの前面にレドームが配置された構成からなるマイクロ波ドップラーセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動物体を検知するセンサの1つとしてドップラーセンサがある。特にマイクロ波を用いたドップラーセンサはマイクロ波が金属以外の物質を透過できることから、設置場所の制限が少なく、屋内外に限らず移動する物体の状況を感知するセキュリティセンサ等のセンサとして適している。
【0003】
図1は一般的なドップラーセンサの構成図を示している。局部発振器1で生成されたマイクロ波は、送信アンテナ2から放射され対象物3で反射して受信アンテナ4で受信される。この受信された反射波は、局部発振器1で生成された信号と混合器5で混合される。すなわち、このドップラーセンサでは、局部発振器1で生成されるマイクロ波(ローカル信号)と、その反射波(受信信号)とを混合してドップラー信号を検波するホモダイン検波が行われている。よって、この混合器は検波器として機能する。
【0004】
係る構成からなるドップラーセンサは、対象物3に動きが無い場合、局部発振器1で生成されたマイクロ波と対象物3から反射してきたマイクロ波の周波数は同一周波数であるため混合器5の出力には交流的な出力が生じない。一方、対象物3がドップラーセンサに対して接近あるいは離反した場合、ドップラー効果により反射波の周波数が変化するため混合器5の出力には、その差分の信号が現れる。この出力信号から、移動物体の有無並びに、その移動物体の移動方向(接近/離反)を検出することができ、このセンサ出力に基づいて侵入者の有無などの異常状態が発生しているか否かを判断することができる。
【0005】
このドップラーセンサをセキュリティセンサとして用いた場合、ドップラーセンサはセンサ自体を塵埃や異物の進入から保護するためカバーリングを施す必要がある。この場合、ドップラーセンサの直近にカバー(レドーム)を配置することになる。レドームは、アンテナ等を風や雨等の外囲環境から保護する電波透過性の構造物である。
【0006】
図2は、ドップラーセンサの前にレドーム7が配置された状況を示している。図1と図2を比較すると、図1の混合器5に替えて図2では検波器6を設けているが、上述したように図1に示したドップラーセンサにおいてもホモダイン検波を行なっており、図2は、その動作・機能に着目して記載したものであり、基本的に図1に示すドップラーセンサと同様のものである。
【0007】
係る構成にすることで、送信アンテナ2及び受信アンテナ4と、対象物3との間にレドーム7が介在することになる。レドーム7は、電波透過性の材質から構成されるため、送信アンテナ2から放射されたマイクロ波は、レドーム7を透過して外部に至り、対象物3で反射され、再びレドーム7を透過して受信アンテナ4で受信される。レドーム7は、電波透過性の材質から形成されるものの、マイクロ波に対して完全に透明とは言えず、送信アンテナ2から放射されたマイクロ波の一部は、レドーム7で反射された後、受信アンテナ4で受信されるものもある。
【0008】
つまり、受信アンテナ4で受信した受信信号は、対象物3からの反射波のみでなく、レドーム7からの反射波も含まれる。レドーム7は、アンテナ2,4から数〜数十mmの距離に位置するため、仮に、レドーム7を透過するマイクロ波に対するレドーム7で反射するマイクロ波の比率が小さいとしても、受信アンテナ4における受信レベルは、かなり大きい。そのためレドーム7で反射したマイクロ波によりドップラーセンサ内部に干渉が生じ、局部発振器1や検波器6の動作点が変わってしまう。そして、その動作点の変位によってノイズレベルが増大したり、感度が極端に低くなったりするという問題を有する。
【0009】
例えば、レドーム7からの反射波は、本来の局部発振器1が生成するマイクロ波(ローカル信号)と混合されて検波器6に注入される。このとき、本来のローカル信号に対して、レドーム7からの反射波の位相差が同相の関係にある場合は、検波器6にとってローカル信号の注入量過多の状態となり、逆相の関係にある場合はローカル信号の注入量不足の状態となる。
【0010】
ローカル信号の注入量過多の状態になると、局部発振器1の出力に含まれる振幅性ノイズ(回路固有のノイズや蛍光灯などから発せられる外部ノイズ)が検波出力のノイズレベルを増大させる。ローカル信号の注入量不足の場合には図3に示す様な検波器6の特性から、対象物からの反射波に対して検波効率が下がるため、感度が低くなる。そのため対象物3が存在する時に発生した検波器6の出力に、このノイズが重畳することになり信号検出時の誤動作原因となる。
【0011】
係る問題を解決するため、従来、特許文献1に開示された技術が提案されている。この特許文献1に開示された発明は、電波を通しやすい低誘電率で低誘電損失の材料(ガラス、セラミックス等)を用いるとともに、内層と外層にわけて接着し、それぞれの肉厚を反射波の位相が反転するように設定することで打ち消して反射率を最小にするようにしている。
【特許文献1】特開平6−21713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、この特許文献1に開示された発明では、レドーム7が厚くなり透過性に影響が生じる。係る問題を解決するためには、より透過性の高い材料が必要となる。しかし、加工が容易で一般的に入手可能なプラスチックなどの材料は、比誘電率εrは小さくても2前後である。それ以下の比誘電率の材質としては、陶器,セラミック,発泡スチロール等の発泡性材料があるが、いずれも加工性,強度,コストなどの何かしらの問題があり、レドームの材料として適切なものとは言えない。
【0013】
本発明は、加工性の良好な材料を用いて、強度、コストの問題に対応しつつ、かつドップラーセンサ本体の回路に影響を与えないマイクロ波ドップラーセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成するために、本発明に係るマイクロ波ドップラーセンサは、所定周波数のマイクロ波を生成する局部発振器と、前記マイクロ波を放射並びに受信する平面アンテナと、前記平面アンテナから受信したマイクロ波と前記局部発振器から出力されるマイクロ波を混合する手段(実施の形態では、「検波器16」に対応)と、を有するドップラーセンサ本体と、前記平面アンテナの前面に配置されるレドームと、を備えたマイクロ波ドップラーセンサである。そして、前記レドームは、全表面の面積の2分の1の範囲と他方の2分の1の範囲に段差を設け、前記段差は前記所定周波数により求められる波長の4分の1の深さに設定した。
【0015】
平面アンテナから放射されたマイクロ波の一部は、レドームを透過できずにそこで反射し、その反射波が平面アンテナで受信する。このとき、本発明では、レドームを同一面積の2つに分割するとともに、それらにλ/4分の段差を設けたため、一方のレドーム部からの反射波と、他方のレドーム部からの反射波の位相差はλ/2となり、両反射波は、180度位相がずれるので相殺される。これは、ドップラーセンサの任意の位置で両反射波が相殺されることを示し、レドームからの反射波は、ドップラーセンサ本体内部での信号処理に影響を与えない。よって、レドームの材質として比誘電率が高くても良くなり、プラスチックその他の加工性が良好で、強度・コストなど条件に合う材料を選択できる。
【0016】
前記平面アンテナは、送受兼用アンテナとして動作し、前記平面アンテナ上のアンテナパターンを左右対称とすると良い。このようにアンテナパターンを左右対称のレイアウトとすることで容易に上述した相殺のバランスを実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、比誘電率が必ずしも小さくなくても良いので、加工性の良好な材料を用いて、強度、コストの問題に対応しつつ、ドップラーセンサ本体の回路に影響を与えないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図4,図5は、本発明の好適な一実施の形態を示している。ドップラーセンサ10は、ケース11内に回路部品が実装され、そのケース11の一端面にアンテナ12が取り付けられ、そのアンテナ12の前方に、所定の距離を置いてレドーム13が配置された構成となっている。図示省略するが、ケース11,アンテナ12は、たとえば別の筐体内に収納され、その筐体の開口部にレドーム13が装着されるなどして、各部材が所定の位置関係で固定される。
【0019】
ケース11内の回路部品は、基本的には従来と同様である。すなわち、図5に示すように、局部発振器15と、その局部発振器15で生成されたマイクロ波(ローカル信号)と受信信号を混合してホモダイン検波する検波器22と、を備えている。アンテナ12は、送受兼用アンテナを用いている。これにより、局部発振器15で生成されたマイクロ波は、アンテナ12から放射され、レドーム13を透過したマイクロ波が対象物20で反射し、戻ってきた反射波がアンテナ12で受信される。この受信された反射波は、局部発振器15で生成されたローカル信号と混合される。検波信号が検波器16から出力される。この検波信号に交流成分があるか否かや、交流成分が存在する場合には、その信号(ローカル信号と受信信号の周波数の差分に基づく信号)から、移動する対象物20の有無や、その移動方向(接近/離反)を知ることができる。なお、係る信号に基づく判定処理・信号処理は、各種の公知の技術を用いることができるので、詳細な説明を省略する。
【0020】
ここで本発明では、図4に示すように、レドーム13を同一面積の第1レドーム部13aと、第2レドーム部13bの2つに分割し、第1レドーム13aと第2レドーム13bにλ/4分の段差を設けるようにした。
【0021】
係る構成にしたことにより、アンテナ12のアンテナ面(送受面)12aで受信した反射波の位相に着目すると、第1レドーム部13aで反射した反射波Pr1に対して第2レドーム部13bからの反射波Pr2の位相はλ/2だけ遅れるので、180度遅れることとなり両反射波は相殺される。第1レドーム部13aと第2レドーム部13bとは、その面積を等しくしているため、反射波の受信レベルも等しくなるので、レドーム13からの反射波による回路への影響はなくなる。
【0022】
さらに、アンテナ12は、平面アンテナとして送受一体化すると共に、そのアンテナパターンは、たとえば図6に示すように、送信アンテナと受信アンテナを左右対称とした。このように平面アンテナとすることにより、図5に示すようにアンテナ指向性が送信波と受信波で同じとなるため、利得の必要な方向はより大きな利得にでき、不要な方向はより小さな利得とできるメリットや、占有面積が小さくて済むという効果がある。
【0023】
さらに、アンテナパターンを左右対称のレイアウトとしたため、容易に相殺のバランスを実現することができる。また、アンテナパターンを左右対称とすることにより、左右の指向性が同じとなるので、「送信波を同レベルかつ同位相で2つのブロックに分ける」といったことを精度良く且つ容易に実現する事ができる。つまり、各ブロックの送信波が、それぞれ第1レドーム部13aと第2レドーム部13bに到達し、そこで反射される反射波のレベルを等しくすると共に、位相を180度ずらすことができ、アンテナ12で受信した際には、レドーム13からの反射波は、きれいに相殺できる。よって、アンテナ12で受信し、ローカル信号と混合される受信信号は、レドーム13を透過したマイクロ波が対象物20に至り、そこで反射されて戻ってきた反射波のみとなり、正確な検出を行なうことができる。
【0024】
なお、上述した実施の形態では、レドームは、表面を2分割して面積の等しい2つの領域(第1レドーム部13aと第2レドーム部13b)を設けたが、例えば、n個(nは3以上の整数)に分け、1つおきに段差を設けたり、格子状にして段差を設ける等、各種のレイアウトを取ることができる。この場合に、全体として第1レドーム部13aに属する領域の面積の総和と、第2レドーム部13bに属する領域の面積の総和とが等しくなるようにすればよい。
【0025】
ただし、本実施の形態のように、2つの領域に分け、段差が1つになるのが好ましい。これは、レドームを部分的に見たとき、0度の面と180度の面の境界線(段差部分)は電波の透過状態や反射状態が良い状態ではないため、境界線が一番少ない本実施の形態が最良の形態となる。
【0026】
なおまた、上述した実施の形態では、移動体検出用のドップラーセンサについて説明したが、本発明はこれに限ることはなく、たとえば、2周波ドップラーセンサによる測距装置等、マイクロ波を用いる各種のドップラーセンサに応用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一般的なドップラーセンサを説明する巣である。
【図2】レドームを設けたドップラーセンサの問題点を説明する図である。
【図3】従来の問題点を説明する図である。
【図4】本発明に係るドップラーセンサの好適な一実施の形態を示す図である。
【図5】本発明に係るドップラーセンサの好適な一実施の形態を示す図である。
【図6】アンテナパターンの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
10 ドップラーセンサ
11 ケース
12 アンテナ
13 レドーム
13a 第1レドーム
13b 第2レドーム
15 局部発振器
16 検波器
20 対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数のマイクロ波を生成する局部発振器と、前記マイクロ波を放射並びに受信する平面アンテナと、前記平面アンテナから受信したマイクロ波と前記局部発振器から出力されるマイクロ波を混合する手段と、を有するドップラーセンサ本体と、
前記平面アンテナの前面に配置されるレドームと、を備えたマイクロ波ドップラーセンサであって、
前記レドームは、全表面の面積の2分の1の範囲と他方の2分の1の範囲に段差を設け、
前記段差は前記所定周波数により求められる波長の4分の1の深さであることを特徴とするマイクロ波ドップラーセンサ。
【請求項2】
前記平面アンテナは、送受兼用アンテナとして動作し、前記平面アンテナ上のアンテナパターンを左右対称とすることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波ドップラーセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−124565(P2007−124565A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317410(P2005−317410)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(391001848)ユピテル工業株式会社 (238)
【Fターム(参考)】