説明

マイクロ波加熱炉

【課題】高炉製銑法に代わり、高エネルギ効率で溶融銑鉄を製造することができ、また所謂都市鉱山から貴金属等を回収することができ、更に、シリコン基板を高効率で製造することができるマイクロ波加熱炉を提供する。
【解決手段】マイクロ波ビームは、円筒状の支持板からこの円筒中心に配置された溶解炉10の反応容器11に向けて照射され、この間に、電力密度を増加させる。マイクロ波ビームは、溶解炉10のマイクロ波窓14から溶解炉10内部に導入され、副反射鏡16で反射して主反射鏡13に向かい、主反射鏡13で反射して、反応容器11の容器空間内の収容物12に向かう。収容物12及び反応容器11からは、赤外線が放射されるが、この赤外線は、主反射鏡13の一部に設けられた段差反射面15により反射して、収容物12に戻る。マイクロ波ビーム及び赤外線が、主反射鏡13と反応容器11との間に閉じ込められて、収容物12が加熱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鉱石から銑鉄を得る製鉄炉等のマイクロ波製錬炉又は、溶解炉、焼結炉等のマイクロ波加熱炉に関し、特に、マイクロ波により鉄鉱石と石炭又はコークス等の炭素源とを含む原料を加熱して溶融させ、鉄鉱石を炭素により還元して溶融銑鉄を得るマイクロ波製錬炉、所謂都市鉱山から貴金属及びレアメタルを回収する溶解炉、シリコン基板を製造するためにシリコン粉末を焼結する焼結炉等に使用するのに好適のマイクロ波加熱炉に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の分野においては、通常、高炉製銑法により溶融銑鉄を得ている。即ち、鉄酸化物である鉄鉱石とその還元剤である炭素源としてのコークス等と石灰石をペレット状にしたものを、高炉(溶鉱炉)にその上部から装入し、高炉下部の羽口から熱風(空気)を吹き込み、高炉内に熱風の上昇流を形成すると共に、落下してくるペレットを熱風により加熱し、鉄鉱石とコークスとの反応により、鉄鉱石を還元する。還元された鉄は、溶融して溶融銑鉄となって高炉の炉底に溜まる。一定量の銑鉄が貯留された後、炉底の銑鉄は、炉下部の湯出し口から取り出され、湯道を流れて取鍋に収容される(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、従来の高炉製銑法においては、鉄鉱石の還元、溶融には、約1500℃以上の温度において、6時間以上を要し、生産効率が低く、銑鉄1トンあたりCOガスを2トン排出するという問題点がある。
【0004】
一方、マイクロ波を利用して、鉄酸化物を加熱し、還元することにより、鉄粉を製造する方法が特許文献2に開示されている。この鉄粉の製造方法は、鉄鉱石、ミルスケール等の粉砕した鉄酸化物と、コークス、チャー炭、活性炭、微粉炭等の炭素を主成分とするマイクロ波高誘導体である炭素源と、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩とを混合し、これら混合物にマイクロ波を照射して炭素源を900℃を超える温度まで内部発熱させると共に、混合物中の炭酸塩の熱分解によって発生したCOガスと反応させてCOガスに変換し、このCOガスによって鉄酸化物を還元させて鉄粉を製造する方法である。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載のマイクロ波を利用した鉄粉の製造方法は、鉄鉱石等の鉄酸化物、コークス等の炭素源及び炭酸塩を混合したものをマイクロ波により加熱し、前記炭素源を900℃を超える温度に内部発熱させ、混合物中の炭酸塩から分解したCOガスと、炭素源との反応によりCOガスを生成し、このCOガスにより鉄酸化物を還元する方法であり、鉄鉱石及びコークス等を溶融させるものではない。従って、この方法では、単に鉄粉を製造できるだけであり、効率よく大量の溶融銑鉄を製造できるものではない。
【0006】
そこで、本願発明者等は、マイクロ波を使用して大量の溶融銑鉄を高効率で製造できる技術を先に提案した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−229007号公報
【特許文献2】特開平6−116616号公報
【特許文献3】特開2007−205639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の特許文献3に記載のマイクロ波製錬炉においては、鉄鉱石及びコークス等をマイクロ波のみにより溶融させ、その所期の目的は達成されたものの、マイクロ波製錬の実用化に向け、更に一層の加熱効率化が望まれている。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、高炉製銑法に代わり、高エネルギ効率で溶融銑鉄を製造することができ、また所謂都市鉱山から貴金属等を回収することができ、更に、シリコン基板を高効率で製造することができるマイクロ波加熱炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るマイクロ波加熱炉は、
原料を収納し、溶解して製錬するための反応容器と、
この反応容器を取り囲む円周面の内面上に配置され、前記反応容器内の特定点に向けてマイクロ波ビームを放射するマイクロ波ユニットと、
前記反応容器の上方に配置され、前記特定点を焦点とする放物面がマイクロ波の反射面である主反射鏡と、
を有することを特徴とする。
【0011】
このマイクロ波加熱炉において、前記主反射鏡は、前記放物面の一部を、前記放物面上で階段状にした段差反射面を有することが好ましい。
【0012】
また、例えば、前記段差反射面の前記放物面の周方向の幅は、赤外線波長の5乃至50倍であり、前記段差反射面で赤外線から可視光線の波長の光が反射し、前記反射面で周波数が1乃至100GHzのマイクロ波が反射することを特徴とする。
【0013】
更に、前記反応容器の周縁部に設けられ、前記マイクロ波ユニットから入射したマイクロ波を前記主反射鏡に向けて反射する副反射鏡を有することが好ましい。
【0014】
更にまた、前記反応容器の周縁部に設けられ、前記反応容器内の収容物から放射された赤外線及び可視光線を、前記反応容器内に戻すための補助反射鏡を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、主反射鏡により、主反射鏡の内側にマイクロ波を閉じ込め、マイクロ波のエネルギを高効率で利用することにより、原料を高効率で加熱することができる。よって、製鉄においては、高効率で溶融銑鉄を製造することができると共に、都市鉱山においては、貴金属を高効率で回収することができる。更に、シリコン基板も高効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るマイクロ波製錬炉の溶解炉近傍を示す斜視図である。
【図2】同じく、段差反射鏡を示す図である。
【図3】同じく、マイクロ波製錬炉の全体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は溶解炉の近傍を示す正面断面図であり、図3はマイクロ波加熱炉(製錬炉)の全体内部を示す斜視図である。図3に示すように、溶解炉10を中心とする円周面を構成する支持板1の内面に、複数個のマイクロ波ビームを放射するマイクロ波ユニット3が設置されており、これらのマイクロ波ユニット3は、溶解炉10内の反応容器11の収納空間の中心Cに向けてマイクロ波を照射する。この支持板1は、その縦断面において、内面が内側に湾曲しており、この内面は、平面視で、溶解炉10を中心とする円周上に位置すると共に、立面視で、外側に膨らみ、内面は上下方向に関して支持板内側に若干湾曲している。また、マイクロ波ユニット3は、例えば、半導体500Wモジュール2を4列5行の格子位置に設けた10kWの高指向性マイクロ波源ユニットであり、このマイクロ波ユニット3は、10kW波源合成ラジアルフェーズドアレーアンテナ放射器を構成している。このマイクロ波ユニット3の電力密度は、白熱電球程度である。このマイクロ波ユニット3が、円筒状支持板3の内面に、例えば、上下2段で、周方向に複数列配置されている。なお、このマイクロ波ユニット3の数は上記数値に限定されるものではない。一例として、本実施形態のマイクロ波製錬炉は、後述する溶解炉10を含めた全体の高さが、3乃至4m、直径が8m、マイクロ波ユニット3の大きさが縦20cm、横25cm程度である。
【0018】
溶解炉10においては、図1に示すように、その中心に反応容器11が設置されており、反応容器11の収容空間には、収容物12が溶融銑鉄の場合は、原料として、鉄鉱石粉、コークス粉、グラファイト粉及び石炭粉等の混合粉体が装入される。この原料がマイクロ波の照射を受けて加熱され、溶解し、製錬反応を受けて溶融銑鉄となる。この反応容器11の材質は、耐火材である。また、原料は溶銑を製錬する鉄鉱石等に限らず、収容物12は、所謂都市鉱山としての電子機器廃棄物等でもよく、この廃棄物を溶解することにより貴金属及びレアメタル等を回収することができる。また、収容物12として、金属シリコンの粉末を収容した場合には、この金属シリコン粉末を加熱して焼結させることができる。この焼結により原料の熱伝導度が上昇するので、誘導加熱により加熱しやすくなり、効率的に加熱することができる。
【0019】
この反応容器11の周縁部には、円柱状のマイクロ波窓14が立設されており、このマイクロ波窓14の上方を覆うようにして、反応容器11の上方に主反射鏡13が設置されている。この主反射鏡13は、その縦断面において放物線をなす放物面を有し、その放物面をなす内面で反射したマイクロ波は、その放物面の焦点である中心Cに集まる。
【0020】
主反射鏡13は、マイクロ波ビームを反射する金属で成形されている。例えば、銅又は銅合金、金メッキしたステンレス鋼、導電膜をコーティングしたセラミックス等を使用することができる。主反射鏡13の反射面が、銅又は銅合金、金、導電膜で構成されていることにより、マイクロ波ビームを反射することができる。マイクロ波窓14は、マイクロ波ビームを透過するガラスで成形されており、例えば、熱膨張が小さいネオセラム(登録商標)を使用することができる。
【0021】
主反射鏡13には、その一部の領域13aに、図2に示すような段差反射面15が形成されている。図2は図1のA点の拡大図である。この段差反射面15は放物面の一部を階段状に成形したものであり、その放物面周方向の幅Dは、赤外線の波長の5乃至50倍である。これにより、反応容器11及び収容物12から放射された赤外線が、段差反射面15で反射して、反応容器11の収容物12に戻る。この段差反射面15は、上述のように、赤外線波長の5乃至50倍の幅Dを有する微小な面が連なるものであり、赤外線及び可視光を反射する性質を有する。そこで、この段差反射面15の傾斜角度等を、溶融収容物12の表面から放射する赤外線、及び反応容器11の表面から放射する赤外線が、この段差反射面15で反射して、収容物12に戻るように、設計する。これにより、反応容器11及び収容物12から放射された赤外線を主反射面13と反応容器11との間に閉じ込めることができる。なお、マイクロ波は、波長が長いので、段差反射面15の影響を受けない。つまり、マイクロ波ビームは、主反射鏡13の放物面にて、段差の影響を受けずに、放物面の焦点位置に向けて反射する。従って、段差反射面15は、主反射鏡13の全域に設けても、マイクロ波ビームの反射を阻害することはない。少なくとも、図1に示すように、収容物12及び反応容器11から放射される赤外線が到達する領域(少なくとも、収容物12の直上等)の主反射鏡13の内面に、この段差反射面15を設けておけば、赤外線を効率よく反射することができる。なお、段差反射面15は平面でもよいし、主反射面13と同程度に湾曲していてもよい。
【0022】
マイクロ波窓14はマイクロ波を透過する材料で成形されており、マイクロ波ユニット3から放射されたマイクロ波ビームを溶解炉10内に導入する。溶解炉10は、反応容器11、主反射鏡13及びマイクロ波窓14により、囲まれた空間を有しているが、この空間の内部の雰囲気は、窒素等の不活性ガス雰囲気でもよいし、大気雰囲気でもよい。
【0023】
反応容器11の周縁部には、外部からマイクロ波窓14を透過して導入されたマイクロ波ビームを主反射鏡13に向けて反射する副反射鏡16が形成されている。この副反射鏡16により反射したマイクロ波ビームは、主反射鏡13で反射して、反応容器11内の中心Cに向けて集まる。
【0024】
更に、反応容器11の周縁部であって、収容物12の収容空間と、副反射鏡16との間には、反応容器11及び収容物12の液面から放射された赤外線及び可視光線を、主反射鏡13に向けて反射する補助反射鏡17が設置されている。この補助反射鏡17により反射した赤外線及び可視光線が主反射鏡13で反射して反応容器11の収容部12に向けて集まる。
【0025】
次に、上述のごとく構成されたマイクロ波製錬炉の動作について説明する。溶融銑鉄を製造する場合は、鉄鉱石、コークス、グラファイト及び石炭等の原料の粉末又は塊を反応容器11の収容空間に収容し、内部を窒素雰囲気にした後、又は大気雰囲気のままで、マイクロ波ユニット3から、マイクロ波ビームを溶解炉10に向けて照射する。このマイクロ波ビームは、円筒状の支持板1からこの円筒中心に配置された溶解炉10の反応容器11に向けて進行し、この間に、電力密度を増加させる。本実施形態においては、マイクロ波ユニット3がその出射方向を支持板1の円周中心に向けて配置されていると共に、支持板1の内面が上下に湾曲しているので、マイクロ波ユニット3から出射するマイクロ波ビームの方向が、左右方向はもとより上下方向でも、支持板1の中心部に配置された反応容器11に向かう。このため、反応容器11の近傍で、マイクロ波ビームの電力密度を著しく高めることができる。なお、支持板1は、必ずしも、円周方向に延び、上下方向に膨らむ形状を有していなくても、マイクロ波ユニット3のマイクロ波ビームの出射方向が反応容器11に向かうように、マイクロ波ユニット3を設置すれば、マイクロ波ビームの電力密度を高めることができる。
【0026】
そして、この電力密度が上昇したマイクロ波ビームが、溶解炉10のマイクロ波窓14から溶解炉10内部に導入され、副反射鏡16で反射して主反射鏡13に向かい、主反射鏡13で反射して、反応容器11の容器空間内の収容物に向かう。特に、主反射鏡13が放物面をなしているので、このマイクロ波ビームは、放物面の焦点位置(中心C)に向けて集まる。これにより、原料が高密度のマイクロ波の照射を受けて加熱され、溶融する。この原料の溶融により、鉄鉱石がカーボンにより還元されて銑鉄となり、溶融銑鉄が収容物12として反応容器11内に貯留される。
【0027】
この溶融銑鉄及び反応容器11からは、赤外線が放射されるが、この赤外線は、主反射鏡13の一部に設けられた段差反射面15により反射して、収容物12に戻る。収容物12に照射されたマイクロ波ビームも、この収容物12で反射した後、主反射鏡13に向かい、この主反射鏡13で反射して収容物12に戻る。このようにして、反応容器11内の収容物12の周囲に、マイクロ波ビーム及び赤外線が閉じ込められ、収容物12は高効率で、加熱される。よって、鉄鉱石から高効率で銑鉄を製錬することができる。前述の大きさのマイクロ波加熱炉の場合、溶融銑鉄を日産1000トン製造することが可能である。
【0028】
また、電子機器の廃棄物も高効率で加熱して、貴金属及びレアメタルを回収することができる。
【0029】
更に、金属シリコンの粉末を本実施形態のマイクロ波加熱炉で加熱して焼結することにより、この焼結体は粉末に比して熱伝導度が優れたものとなっているので、この焼結体を誘導加熱炉で誘導加熱することにより、高効率で溶解させることができる。そして、この溶融シリコンが凝固したインゴットをスライスしてシリコン基板とすることができ、太陽電池に使用されるシリコン基板とすることができる。従来、太陽電池のシリコン基板は、電気炉で製造されていたので、製造に多大の時間が必要であったが、本実施形態のマイクロ波加熱炉により加熱して焼結体とすることにより、効率的に溶融させることができ、従来の1/10の時間でシリコン基板を製造することができ、その分、投入エネルギも削減できる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、低エネルギによる鉄鋼製錬及び都市鉱山の貴金属及びレアメタルの回収に、極めて有効である。
【符号の説明】
【0031】
1:支持板
2:半導体500Wモジュール
3:マイクロ波ユニット
10:溶解炉
11:反応容器
12:収容物
13:主反射鏡
13a:領域
14:マイクロ波窓
15:段差反射面
16:副反射鏡
17:補助反射鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を収納し、溶解して製錬するための反応容器と、
この反応容器を取り囲む円周面の内面上に配置され、前記反応容器内の特定点に向けてマイクロ波ビームを放射するマイクロ波ユニットと、
前記反応容器の上方に配置され、前記特定点を焦点とする放物面がマイクロ波の反射面である主反射鏡と、
を有することを特徴とするマイクロ波加熱炉。
【請求項2】
前記主反射鏡は、前記放物面の一部を、前記放物面上で階段状にした段差反射面を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱炉。
【請求項3】
前記段差反射面の前記放物面の周方向の幅は、赤外線波長の5乃至50倍であり、前記段差反射面で赤外線から可視光線の波長の光が反射し、前記反射面で周波数が1乃至100GHzのマイクロ波が反射することを特徴とする請求項2に記載のマイクロ波加熱炉。
【請求項4】
前記反応容器の周縁部に設けられ、前記マイクロ波ユニットから入射したマイクロ波を前記主反射鏡に向けて反射する副反射鏡を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱炉。
【請求項5】
前記反応容器の周縁部に設けられ、前記反応容器内の収容物から放射された赤外線及び可視光線を、前記反応容器内に戻すための補助反射鏡を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−11384(P2013−11384A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143783(P2011−143783)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(598038407)
【出願人】(592087304)
【Fターム(参考)】