説明

マイクロ波反応装置

【課題】
本発明の目的は、空冷ファンを有するマイクロ波照射装置内であっても、触媒充填部からの余計な放熱を防ぎ、より省エネギーで効率よく触媒反応を促進できるマイクロ波反応装置を提供することにある。
【解決手段】
空冷ファンを有するマイクロ波照射装置内で、反応管内の触媒充填部にマイクロ波を照射して該触媒充填部に導入したガス流体を触媒反応させるマイクロ波反応装置であって、前記触媒充填部位置の反応管周囲を比誘電率が1.0〜5.0のマイクロ波透過性の保温材で被覆したことを特徴とするマイクロ波化学反応装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を触媒充填部に照射して触媒反応を行わせるマイクロ波反応装置に関し、詳細には、触媒充填部をマイクロ波透過性の保温材で被覆したマクロ波反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒充填部にマイクロ波を照射することで触媒反応を促進する効果があることが知られており、マイクロ波は様々な反応に利用されている。
【0003】
例えば、マイクロ波を用いた化学反応には、二酸化炭素と水素を反応させてメタノールに転換し、二酸化炭素を固定化する技術(特許文献1参照)、或いはメタノールを反応させてジメチルエーテルを合成する技術等(特許文献2参照)が開示されている。
【0004】
これらの反応に用いられる装置は、電子レンジに収まるほどに小型化され、簡易かつ低コストにて触媒反応が促進できるように工夫されている。しかしながら、電子レンジ内では触媒充填部の外側に空間が存在し、さらにこの空間にはマイクロ波発振器の空冷ファンによる気流があるため、マイクロ波加熱中に触媒充填部が冷やされてしまい、一部のマイクロ波エネルギーが無駄に消費されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−169095号公報
【特許文献2】特開2006−225275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、これらの課題を解決するために本発明の目的は、空冷ファンを有するマイクロ波照射装置内であっても、触媒充填部からの余計な放熱を防ぎ、より省エネギーで効率よく触媒反応を促進できるマイクロ波反応装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、触媒充填部の周囲にマイクロ波透過性の保温材を配置することで、マイクロ波による加熱効率を維持したまま触媒充填部からの放熱を効果的に防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、空冷ファンを有するマイクロ波照射装置内で、反応管内の触媒充填部にマイクロ波を照射して該触媒充填部に導入したガス流体を触媒反応させるマイクロ波反応装置であって、前記触媒充填部位置の反応管周囲を比誘電率が1.0〜5.0のマイクロ波透過性の保温材で被覆したことを特徴とするマイクロ波反応装置である。
【0009】
ここで、前記触媒充填部よりガス流体上流側位置の反応管周囲を、比誘電率が5.0〜15.0のマイクロ波吸収性の保温材でさらに被覆することが好ましい。
【0010】
ここで、前記マイクロ波吸収性の保温材は、ロックウール製であることが好ましい。また、前記マイクロ波透過性の保温材は、グラスウール製であることが好ましい。
【0011】
ここで、前記ガス流体は、二酸化炭素と水素の混合ガスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロ波反応装置によれば、空冷ファンを有するマイクロ波照射装置内であっても、触媒充填部からの余計な放熱を防ぎ、より省エネルギーで効率よく触媒反応を促進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係わるマイクロ波反応システムの構成を表す概要図である。
【図2】本発明の実施形態に係わるマイクロ波反応装置の構成を表す概要図である。
【図3】本発明の別の実施形態に係わるマイクロ波反応装置の構成を表す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0015】
図1に、本発明の実施形態に係わるマイクロ波反応システムの構成を表す概要図を示す。マイクロ波反応システム1は、原料ガスが入ったガスボンベ2と、原料ガスを供給するガス供給管3と、原料ガスを触媒反応させるための触媒充填部22を有するマイクロ波反応装置4と、マイクロ波反応装置4にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置5と、マイクロ波反応装置4を通過した反応ガスを排気する排気管6とから主に構成される。
【0016】
ガスボンベ2から排出された原料ガスは、流量調節手段11(マスフローコントローラ)で流量、圧力が調節され、ガス供給管3を通ってマイクロ波反応装置4に供給される。原料ガスの流量は流量計12を用いてモニタリングされ、圧力はマイクロ波反応装置の上流側に設けられた圧力弁13で再調整される。また、図1の通り原料ガスが2種類ある場合には、2つのガスボンベ2を用意し、途中で気体混合部14を設け、混合割合や圧力を調整した上でマイクロ波反応装置4に送られる。
【0017】
マイクロ波反応装置4に供給された原料ガスは、マイクロ波が照射された触媒充填部22を通過し、この際、触媒反応により生成物が生成される。生成物と反応後ガスとの混合物は排気管6を通って排出される。なお、排気管6には、マイクロ波反応装置内のガス圧を一定に保つために背圧弁15が設けられている。
【0018】
次に、マイクロ波反応装置4の詳細について図2を用いて説明する。図2は、本発明の実施形態に係わるマイクロ波反応装置の構成を表す概要図である。本実施形態では、空冷ファン31を有するマイクロ波照射装置5内で、反応管23内の触媒充填部22にマイクロ波を照射して触媒充填部22に導入したガス流体を触媒反応させるマイクロ波反応装置4を対象とする。
【0019】
図中に点線で表示したマイクロ波照射装置5の一側面にはマイクロ波照射器32が設置されており、さらに、マイクロ波照射器32はマイクロ波発振器(図示しない)を有している。マイクロ波発振器としては、マグネトロン等のマイクロ波発振器や、固体素子を用いたマイクロ波発振器等を適宜用いることができる。
【0020】
マイクロ波照射装置5としては、代表的には小型の電子レンジを例示できる。ただし、マイクロ波照射装置5のサイズはこれに限られず、空冷ファン31を有していれば大型、小型を問わない。
【0021】
空冷ファン31は、マイクロ波照射器内のマイクロ波発信器に向かって配置され、空冷ファン31からの気流により同発信器を冷却する。冷却に用いられた気流の一部はマイクロ波照射装置5の中にも入り、装置内にも気流を発生させる。なお、空冷ファン31の位置はこれに限られず、その他電子部品を冷却するために別の位置に配置されるものもある。
【0022】
マイクロ波反応装置4は、円筒形の反応管23と、その中に触媒21が充填された触媒充填部22と、触媒充填部22位置の反応管23周囲を被覆するマイクロ波透過性の保温材24から主に構成される。ここで触媒充填部22は反応管内をフィルタ等で仕切って形成される。反応管内の触媒充填部22の位置は、マイクロ波の照射強度を高めるためマイクロ波発信器の位置に合わせて設定される。
【0023】
反応管23は、上下をマイクロ波照射装置5と固定部25で固定されている。反応管23はマイクロ波を透過しやすいようにマイクロ波透過性の材料で形成される。マイクロ波透過性の材料としては、ガラスあるいはポリプロピレン系、ポリアミド系等の樹脂材料を用いることができ、なかでも耐久性や取扱の容易さからガラスが好ましい。
【0024】
反応管23の大きさは所要処理量により異なるが、例えば電子レンジ用の反応装置であれば、内径1〜5cm×長さ20〜30cmとするのが一般的である。
【0025】
本実施形態では、触媒充填部22位置の反応管23周囲に比誘電率が1.0〜5.0のマイクロ波透過性の保温材24が配置されていることに特徴がある。マイクロ波透過性の保温材24を用いることで、空調ファンが作動してマイクロ波照射装置5内に気流が生じていても、触媒充填部22からの余計な放熱を防ぐことができる。また、保温材24をマイクロ波透過性とすることで、保温材24によってマイクロ波が遮断されず、触媒充填部22の加熱効率を維持することができる。
【0026】
マイクロ波透過性の保温材24の材質は所要の比誘電率を満たしているならば特に限定されないが、保温性能、耐久性や取扱の容易さの点からグラスウール(比誘電率3.1)が好ましい。被覆位置は、図2に示すような触媒充填部位置だけでなく、さらに保温効果を高めるため反応管全体としてもよい。また、被覆厚さは必要とされる保温性能を考慮して適宜設定すればよいが、一般に1〜3cmとするのが好ましい。
【0027】
図3は、本発明の別の実施形態に係わるマイクロ波反応装置の構成を表す概要図である。図3に示す別の実施形態では、図2に示すマイクロ波反応装置4と比較して、触媒充填部22よりガス流体上流側位置の反応管23周囲を、比誘電率が5.0〜15.0のマイクロ波吸収性の保温材26で被覆している点が異なっている。触媒充填部22は、図2と同様にマイクロ波透過性の保温材24で被覆する。
【0028】
反応中のマイクロ波反応装置内の温度を計測してみると、触媒充填部22が目標温度まで加熱されていない場合があることが判明した。触媒充填部22の中でも、ガス流体上流側の温度が低く、逆に下流側の温度は高くなる傾向にあった。これは、ガス流体上流側は常温のガスが流れ込むことによって熱を奪われてしまうことが原因であった。
【0029】
別の実施形態のように触媒充填部22よりガス流体上流側位置の反応管23周囲をマイクロ波吸収性の保温材26で被覆することにより、マイクロ波照射時に保温材24が発熱し、被覆された反応管23を加熱、保温することができる。当該部分を通過するガス流体も加熱されるため、触媒充填部22に導入される前にガス流体を予熱して、触媒充填部内の温度分布を均一化することができる。その結果、触媒充填部全域を均一に目標温度域にまで上げることができ、触媒21の反応効率を高めることが可能となる。
【0030】
マイクロ波吸収性の保温材26の材質は所要の比誘電率を満たしているならば特に限定されないが、保温性能、耐久性や取扱の容易さの点からロックウール(比誘電率12.0)が好ましい。被覆厚さは必要とされる保温性能や発熱性能を考慮して適宜設定すればよいが、前述のマイクロ波透過性の保温材24と同様に一般に1〜3cmとするのが好ましい。
【0031】
触媒充填部22に充填する触媒21は、マイクロ波吸収性を有するものであれば特に限定されない。例えば、Cu、Zn、Cr、Al、Au、Zrのいずれかの元素を1種類以上含む金属酸化物、金属複合酸化物、或いは、これらの酸化物を多孔質体に担持した触媒等が挙げられる。或いは、金属パラジウム等を酸化チタン等の金属酸化物担体に担持した触媒等も挙げられる。
【0032】
触媒21は1種単独で、又は2種以上を任意に組合せて用いることができ、触媒21のマイクロ波吸収性を高めるためにマイクロ波吸収性の加熱用媒体(図示しない)を触媒21に混合することもできる。
【0033】
本装置に導入する原料ガスは、常温で気体の物質だけでなく、反応に際してガス流体となっている物質も含む。かかる原料ガスとしては、CO、CO、HO、O、H、N、ジメチルエーテル、CH等の炭化水素及びこれらの物質を所望の物質に転換するのに必要な物質から選択される1種又は2種以上の物質が挙げられる。なかでも、本装置はCOとHの混合ガスを原料ガスとし、メタノールを合成するのに好適に用いられる
【0034】
ガス流体の流速は任意であるが、空間速度(SV)として500〜50000hr−1が好ましい。
【0035】
触媒充填部22にマイクロ波を照射する際は、連続的又は間欠的に照射することができる。反応の際は、照射するマイクロ波の出力を電圧制御装置等により制御しながら、発振管の電圧を温度計測手段による計測値をもとに、約60V〜200Vの間で制御するのが良い。照射するマイクロ波の周波数は、通常、1GHz〜2.45GHzである。
【0036】
反応条件は、ガス流体及び触媒の種類等により異なるが、通常、約100〜300℃、約0.1MPa(常圧)〜30MPaである。反応時間は、適宜に決定すれば良い。
【0037】
以上説明の通り、本発明のマイクロ波反応装置4によれば、空冷ファン31を有するマイクロ波照射装置内であっても、触媒充填部22からの余計な放熱を防ぎ、より省エネルギーで効率よく触媒反応を促進することが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1 マイクロ波反応システム
2 ガスボンベ
3 ガス供給管
4 マイクロ波反応装置
5 マイクロ波照射装置
6 排気管
11 流量調節手段
12 流量計
13 圧力弁
14 気体混合部
15 背圧弁
21 触媒
22 触媒充填部
23 反応管
24 マイクロ波透過性の保温材
25 固定部
26 マイクロ波吸収性の保温材
31 空冷ファン
32 マイクロ波照射器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空冷ファンを有するマイクロ波照射装置内で、反応管内の触媒充填部にマイクロ波を照射して該触媒充填部に導入したガス流体を触媒反応させるマイクロ波反応装置であって、
前記触媒充填部位置の反応管周囲を比誘電率が1.0〜5.0のマイクロ波透過性の保温材で被覆したことを特徴とするマイクロ波反応装置。
【請求項2】
前記触媒充填部よりガス流体上流側位置の反応管周囲を、比誘電率が5.0〜15.0のマイクロ波吸収性の保温材でさらに被覆することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波反応装置。
【請求項3】
前記マイクロ波吸収性の保温材は、ロックウール製であることを特徴とする請求項2に記載のマイクロ波反応装置。
【請求項4】
前記マイクロ波透過性の保温材は、グラスウール製であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマイクロ波反応装置。
【請求項5】
前記ガス流体は、二酸化炭素と水素の混合ガスであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマイクロ波反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−104526(P2011−104526A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262653(P2009−262653)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】