説明

マイクロ流体デバイス、計測装置及びマイクロ流体撹拌方法

【課題】従来、シンプルな流路構造のマイクロ流体デバイスで、効果的に速やかに流体を攪拌し混合することは難しかった。また、流体中に浮遊する粒子状試料を沈殿させずに長時間、流路内で保持する手段が無かった。また、浮遊流動する粒子状試料の真の大きさを顕微鏡で計測する方法が無かった。
【解決手段】流路内あるいはチャンバ内に広いギャップ幅の電極対を形成したマイクロ流体デバイスを用い、この電極対に交流電圧を印加し、流体がトーラス状に旋回する渦を発生させて上記課題を解決する。特に、旋回流れ41が垂直に通過する位置に顕微鏡の対物レンズ52の合焦点面53を設定することにより、合焦点面を横切る粒子状試料の正確な大きさが計測可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板やプラスティック基板にマイクロサイズの流路を掘り、その中でわずかな量の試料を用いて分析や反応を実施するマイクロ流体デバイスに係わり、特に流路内で液体を旋回させて攪拌や混合を行うマイクロ流体デバイスに係わる。さらには液体中を浮遊流動する粒子状あるいは凝集状態の試料を液体とともに旋回させ、その大きさなどを計測するマイクロ粒子サイズ計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞や血液などの生体物質の大きさや凝集状態を計測する検査装置がある。例えば、非特許文献1に示される濁度法を原理とする血小板凝集能検査装置は、止血能力の定量的な確認のために広く使われてきた。近年の研究から動脈硬化や糖尿病に起因する血栓に関わる重要な生体内反応が、血小板の数個から100個程度が凝集した小さい塊状態から始まることが分かってきており、濁度法ではこの重要な領域を検知できないという欠点が指摘されている。
【0003】
この欠点を改善するために特許文献1に示される散乱光法が開発され、小さい凝集塊の検出感度が向上した。しかし、凝集塊が沈んだり試料が壁に付着したりしないようキュベット内を常時スターラーでかき混ぜる必要がある。また1cc程度の検体試料を準備するために、検査前に少なくとも5ccほどの採血と、血液から試料を調製する手間と技術が必要である。
【0004】
試料の少量化と手間の軽減を目指してマイクロ流体デバイスを利用する特許文献2のような方法が考えられている。この方法はマイクロ流路内に全血を流し、その速度や特定位置での時間を計測する。全血を使うので調製の手間も少なく扱いやすいため、食物や様々なストレスが血液状態に与える影響など、たくさんのデータが取得されている。しかし、マイクロ流路途中の一部に内径数μm程度の特に細い構造を設けるため詰まり易く、検査不能でリジェクトされる検体が多い。また、取得されたデータには幅の広い分布が現れるなど、精度や信頼性に劣る欠点がある。
【0005】
以上から、生体物質検査装置に使われるマイクロ流体デバイスには、(1)流路内で詰まりを生じやすい(微細構造が原因)、(2)流路内で撹拌する手段が無い、という2つの問題がある。目詰まり防止の点から、少なくとも現状の数μmよりは幅の広い数10μmから数100μmの幅をもつ一般的な流路で実現することが望ましく、また、マイクロ流路内で簡単に撹拌できる新規技術の開発が望まれている。
【0006】
一方、マイクロ流体デバイスには、拡散律速である化学反応がサイズ効果により速くなり、微少量を密封状態で扱うため環境汚染が防止でき、温度制御の応答が速く温度分布の無い反応場が得られ、不安定爆発性の試料も安全な環境条件下で管理できるなどの特徴があることから、マイクロ化学リアクターとしての期待も大きい。しかし、反応場である流路が短いという制限があるため、必要な反応時間の確保が難しいという課題がある。
【0007】
反応時間を速めるために、特許文献3、非特許文献2のようなミキシングの提案や研究がなされている。しかしこれ等の方法は、マイクロ流路内部にさらに細かい構造を敷設したり、曲線状の流路を用いたりするため、濃度不均一や試料の付着を生じやすく、特にコロイドあるいは微小粒子状の固体の反応生成物を得る場合には、生成物質の沈殿が起こりやすく、さらには流路の詰まりにまで発展しやすいという課題がある。
【0008】
したがって、マイクロ化学リアクターとして使われるマイクロ流体デバイスには、(1)流路内で詰まりを生じやすい(複雑構造が原因)、(2)シンプルな流路内で撹拌する手段が無い、という2つの問題がある。これらは前述した生体物質検査装置と同じ問題であり、さらには多くの応用分野も含めたマイクロ流体デバイス全体に共通する根本課題である。
【0009】
以上に加え、手軽な観測機器である光学顕微鏡で、マイクロ流路内に浮遊して流れる細胞などの生体物質あるいは粒子状の反応生成物などの大きさを計測する方法が今まで無かった。その原因は、光学顕微鏡の焦点深度が浅く、被写体までの距離が数μm違うだけでもボケを生じ、実際の正確な大きさが把握できないという欠点のためである。また流路内断面を流れる粒子のほんの一部しか観測できないため全数検査が難しく、計測しないまま通過して無駄になる試料も多い。
【特許文献1】特許公開平5−240863
【特許文献2】特許公開平2−130471
【特許文献3】WO 2003/011443(PCT/US2002/023462)
【非特許文献1】G.V.R. Born:“Aggregation of Blood Platelets by Adenosine Diphosphate and Its Reversal”, Nature, vol.194, pp.927−929 (1962).
【非特許文献2】K. Hosokawa, T. Fujii, and I. Endo:“Handling of Picoliter Liquid Samples in a Poly(dimethylsiloxane)−Based Microfluidic Device, Analytical Chemistry, vol.71, no.20, pp.4781−4785 (1999).
【非特許文献3】Nicolas G. Green, Antonio Ramos, Antonio Gonzalez, Antonio Castellanos, and Hywel Morgan:“Electrothermally induced fluid flow on microelectrodes”, Journal of Electrostatics, vol.53, pp.71−87 (2001).
【非特許文献4】Nicolas G. Green, Antonio Ramos, Antonio Gonzalez, Hywel Morgan, and Antonio Castellanos: “Fluid flow induced by nonuniform ac electric fields in electrolytes on microelectrodes. III. Observation of streamlines and numerical simulation”, Physical Review E, vol.66, 026305 (2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の背景技術で述べたように、生体物質検査装置やマイクロ化学リアクターに使われるマイクロ流体デバイスで攪拌や混合を行うには、流路内にさらに細かい構造体を敷設する方法が使われている。しかし、流路の構造や形状の複雑化により不均一濃度の発生、試料や析出物の付着、さらには流路の詰まりを生じ易くなるという課題がある。また、顕微鏡で、浮遊流動状態の粒子状物質の大きさを計測することが難しいという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のマイクロ流体デバイスは、マイクロ流路内又はマイクロチャンバ内の水平面内に対向して配置される電極対を備え、該電極対に交流電圧が印加され、該電極対間ギャップの位置で、導電率が0.67S/m以上の流体に対して、反重力方向へ垂直上昇流れを発生することを特徴とする。
【0012】
また、前記垂直上昇流れによりマイクロ流路内又はマイクロチャンバ内を旋回する流れを誘起することで、流体の速やかな混合が可能となる。
【0013】
また、前記電極対は、前記マイクロ流路内又はマイクロチャンバ内の床側に配置されていることができる。
【0014】
また、前記電極対は、前記マイクロ流路内又はマイクロチャンバ内の天井側に配置されていることができる。
【0015】
また、本発明の計測装置は、マイクロ流体デバイスと、前記垂直上昇流れの中であって流れの流線と直交する位置に合焦点面を有する拡大光学系とを備えることを特徴とする。
【0016】
また、前記合焦点面における粒子状物質の大きさの見かけの経時的な変化により該粒子状物質の大きさを計測することで、粒子状物質の大きさを正確に計測することができる。
【0017】
また、前記合焦点面における粒子状物質の蛍光輝度を計測することで、粒子状物質の蛍光輝度を正確に計測することができる。
【0018】
また、前記粒子状物質は生物物質であることができる。
【0019】
また、前記粒子状物質は蛍光標識した生物物質であることができる。
【0020】
また、前記粒子状物質は生物物質を付着又は固定させたビーズであることができる。
【0021】
また、前記粒子状物質は蛍光標識した生物物質を付着又は固定させたビーズであることができる。
【0022】
また、本発明のマイクロ流体撹拌方法は、マイクロ流路内又はマイクロチャンバ内の水平面内に対向して配置される電極対を備え、該電極対に交流電圧が印加し、該電極対間ギャップの位置で、導電率が0.67S/m以上の流体に対して、反重力方向へ垂直上昇流れを発生させることを特徴とする導電率が0.67S/m以上の流体用のものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明が提供するシンプルな構造のマイクロ流体デバイス内でトーラス状の旋回渦を発生する手段により、試料の速やかな混合や攪拌だけでなく、浮遊する粒子状試料の沈殿や流路壁への付着を防止し、マイクロ空間内に浮遊状態で長時間保持することを可能にする。この流体旋回手段により、マイクロ流体デバイスの混合性能の向上と、応用用途の拡大が実現する。
【0024】
さらに、本発明によるマイクロ流体デバイスを顕微鏡とともに使うことにより、流体内に浮遊し流動する粒子状試料の大きさを、顕微鏡で計測することが可能になる。この計測手段により、マイクロ粒子サイズ計測装置が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明によるマイクロ流体デバイス内で、旋回流れを形成する方法を詳細に述べる。
【実施例1】
【0026】
まず本発明で使用される、電気流体力学的作用が誘起するマイクロ流体の旋回現象について説明する。マイクロサイズの空間内で流体を旋回させる方法として非特許文献3に示されたエレクトロサーマル効果、あるいは非特許文献4に示された交流電気浸透流の現象を使う方法が知られている。
【0027】
エレクトロサーマル効果は、電極間の流体に流れる交流電流により発生するジュール熱が、マイクロ流体内に温度の不均一(温度勾配)を生じる性質を利用する。流体内の温度不均一は流体内に導電率と誘電率の不均一を発生し、電流供給手段であるとともに電界形成手段でもある電極対から電界力が作用して流体は流動し、旋回する。
【0028】
交流電気浸透流は、電極表面に形成される電気二重層のイオン(流体側の電荷)が電極表面に沿って滑る界面動電現象を利用する。電気二重層が支える電圧は対向電極からの距離と周波数の関数であり、ある周波数を選択すると電極表面であっても横方向の電界が生じるため、イオン(と共に流体)は流動し、液体が旋回する。
【0029】
これ等の現象についての従来からの研究では、流体の導電率が高々数十ミリS/mまでの実験報告しか無く、多くの実験はさらに低い導電率の液体を使っている。また、トーラス状の渦を発生させることはできなかった。また、対向電極間隔が数十μm以下の狭いギャップの電極対しか用いられていなかった。
【0030】
しかし、これ等の条件範囲内でこれらの現象を利用するだけならば、その応用用途は限られ、汎用性のあるデバイスの製作は難しい。例えば生体物質を扱う場合を考えると、生理食塩水、あるいはそれと同等のイオン濃度を有する液体が必要であるが、生理食塩水は約2S/m程度の導電率であり、従来から実験されている液体試料より2桁から3桁も大きい導電率の値に相当する。
【0031】
また、従来から用いられている構造のデバイスは、電極ギャップの左右に大きさの等しい二つの円筒状の旋回渦を発生する。しかし、この二つの渦に分かれた液体は、それぞれ個別に旋回するため、お互いに他方の渦への移動が起こらず、液体を混合する用途には不向きである。
【0032】
我々は実験を重ねるうちに、以下に示すいくつか新しい知見を得た。まず、生理食塩水(導電率1.6S/m)の濃度(約0.9wt%)、さらにはそれ以上の濃度の溶液でも旋回すること、またそれだけではなく、濃度が高くなるほど旋回速度が速くなることを確認した。このように、例えば導電率0.67S/m以上である溶液であっても旋回することから、医用やバイオ目的では必須となる生理食塩水で、充分にその能力を発揮できる。
【0033】
また、非特許文献3のエレクトロサーマル効果と非特許文献4の交流電気浸透流の理論および実験が示す旋回方向は、電極と流路との位置関係で決まる。例えば、エレクトロサーマル効果の場合、導電率0.01S/mの液体に交流周波数7(導電率に依存する)MHz以下の電圧を印加のときは、電極対が形成する平面の垂直方向にある液体が電極間ギャップに向かって流れ、7MHzより高い交流周波数の電圧を印加のときは、その逆に流れる。交流電気浸透流の場合は、常に、電極対が形成する平面の垂直方向にある液体が電極間ギャップに向かって流れる。
【0034】
一方、本発明で使用する旋回流れは導電率が0.01S/m以上の液体で発現し、液体が電極間ギャップの上方にある場合には電極間ギャップから離れる方向に流れ(図1)、液体が電極間ギャップの下方にある場合には電極間ギャップに向かう方向に流れる(図2)。図1は、チャンバ42内の床に電極対40を配置して、電極対40に交流電源31を接続し交流電圧を印加すると、液体が電極間ギャップから離れる方向に流れることを示す。図2は、チャンバ42内の天井に電極対40を配置して、電極対40に交流電源31を接続し交流電圧を印加すると、液体が電極間ギャップに向かう方向に流れることを示す。我々の発見したこの流れの旋回する方向は、電極と流路の位置関係では決まらないので、エレクトロサーマル効果でもなく、交流電気浸透流でもない。常に反重力方向に流れることから、従来マイクロチャネル内では力が弱くて無視できると言われていた浮力の作用である。浮力が働くために必要な液体の温度上昇は、電極間に流れる電流により電極間の液体の抵抗で発生するジュール熱が供給するため高い導電率の液体が必要になる。本発明の特徴は、この高導電率の液体を用いて発熱領域を電極間の狭い部分に閉じ込め、マイクロチャネルのような狭いスペース内であっても充分な発熱と温度差を保つことにより、強い浮力を働かせる点にある。
【0035】
次に、図3(a)に示す1mmという広い電極間ギャップの電極対40をパターンニングした基板を製作し、5mm(幅)×10mm(長さ)×2mm(高さ)の少し大きめのチャンバ42と貼り合わせて実験を行った。その結果、図3(b)のように流体がトーラス状に旋回することを発見した。
【0036】
さらに、電極間ギャップだけを変更したデバイスを試作し、実験した。その結果、電極間ギャップを2mmの幅まで広げると、その旋回速度は45%程度に下がり、それ以上の幅に広げると急激に低下した。しかし1mm以下の幅では、旋回速度はほとんど変わらないという特異な特性を示すことが分かった。
【0037】
図4は、電極基板側から、1mm幅の電極間ギャップを通してチャンバ42の内部を撮影した画像である。FITC(フルオレセインイソチオシアネート)で蛍光染色した血小板細胞の生理食塩水溶液に、血小板凝集惹起剤であるADP(アデノシン2リン酸)溶液を加えた試料を用いている。この画像は、攪拌と混合を20分間続けた状態で撮影したビデオ映像から抜き出した10秒間のフレーム画像を重畳し、試料の軌跡が見られるように処理した。様々な大きさの血小板凝集塊が約500μm/秒の速さでトーラス状に旋回し、電極ギャップの中心位置で垂直の方向へ遠ざかる流れを形成している様子が見られる。
【0038】
本発明の実施例1における要点は、図3(a)と図3(b)で説明したように電極間ギャップの広い電極を使うことであり、その範囲は100μm以上、2mm以下が適切である。この範囲であれば、電極間ギャップを通して顕微鏡で観察することを容易にする。さらには電極間ギャップを通してレーザー光を通過させることも容易であり、レーザー光散乱法などの光学的計測にも適している。
【0039】
以上述べたように、本発明により、曲がりくねった流路や流路内に特別な細かい突起を設けることなく、シンプルな構造のマイクロ流路内で、攪拌と混合が容易に行えるマイクロ流体デバイスが実現できる。
【0040】
また本実施例1のマイクロ流体デバイスによる攪拌と混合は、流路方向の流れの有無により大きな影響を受けることが無い。したがって流路方向の流れを止めた状態で使用しても構わない。生体物質には、反応時間が長く掛かる試料も多い。しかし本発明を使えば、流れを止めた状態で、沈殿を起こさずに浮遊状態のまま、試料を長時間マイクロ流体デバイス内に保持することが可能になる。
【0041】
また本実施例1によるマイクロ流体デバイスは、高濃度溶液で速い旋回速度が得られるという特性があり、医用やバイオ目的では必須となる生理食塩水で、充分にその能力を発揮できるという利点がある。さらに、濃度の高い溶液を使うと反応速度や生成物の回収効率が向上するという化学反応も多く、マイクロ化学リアクターへの応用にも適している。
【0042】
本発明は、以上の実施例で述べた旋回用の電極を用いることが可能な全てのマイクロ流体デバイスに適用されるものである。以下に、マイクロ粒子サイズ計測装置に応用した実施例を示す。
【実施例2】
【0043】
図5は、本発明による液体を旋回させる電極を備えたマイクロ流体デバイスを用いた、マイクロ粒子サイズ計測装置の全体構成図である。ここでは特に、血小板凝集能検査に応用した例を示し、検査対象である血小板試料21の流れに沿って説明する。
【0044】
検査の前処理として、3.8%クエン酸採血を行った被検者の血液から多血小板血漿(PRP)あるいは貧血小板血漿(PPP)の血小板試料21を作成し、第1の送液ポンプ16に備えられた試料リザーバー内で、体温と同じ37℃にてインキュベートする。一方、血小板凝集惹起剤22として、エピネフリン(Epinephrine)0.3μMを作成し、第2の送液ポンプ17に備えられた凝集惹起剤用リザーバーにセットする。
【0045】
検査は第1の送液ポンプ16の起動で開始する。送液ポンプ16からの圧力により、血小板試料21がマイクロ流体デバイス10の流路へ送り込まれ、それと同時に第2の送液ポンプ17から血小板凝集惹起剤22が、マイクロ流体デバイス10の別の流路へ送り込まれる。マイクロ流体デバイス内部は、図6に示すようにY字状の流路が形成され、血小板試料21と血小板凝集惹起剤22はそれぞれ第1の流入口12と第2の流入口13から別々に流入してから同じ流路へ合流する。
【0046】
合流した2つの試料溶液は、ほとんど混ざらずに層流状態を維持したまま下流へ流れ、電極対40の設置されたチャンバ42へ流入する。この時点では、まだ血小板は活性化されず、流路壁へ粘着するほどの粘着能や大きな塊を生じるほどの凝集能は現れない。
【0047】
チャンバ42の底面には、図3(a)、図3(b)で述べた幅広の電極間ギャップ、例えば500μmを持つ電極対40が設置されており、チャンバ内は予め生理食塩水で満たされている。チャンバの流入口から層流状態で流入する2つの液体試料は、チャンバ内の生理食塩水と置き換わるようにして生理食塩水を流出口14から押し出す。マイクロ流体デバイス10の外部から圧力で2つの試料溶液を送り込んでいた第1の送液ポンプ16と第2の送液ポンプ17は、チャンバ内空間を試料溶液でほぼ満たした時点で動作を止める。
【0048】
チャンバ42の底面の電極対40には、予めチャンバへ試料が流入する前に、交流電源31から交流電圧を供給しておく。電極対40に印加される交流電圧の作用による旋回流れは、血小板試料21と血小板凝集惹起剤22を攪拌して混合する。血小板は徐々に活性化して小さな凝集塊を形成し始め、さらに時間を掛けて攪拌するうちに凝集塊は徐々に大きくなってゆく。しかし旋回流れにより攪拌されているため、血小板の粘着能が増大しても壁面へ付着することは無く、また、血小板の大きな凝集塊が生じても沈殿することは無い。
【0049】
本実施例の重要な部分であるマイクロ粒子サイズの計測は、図7に示す構成で行われる。浮遊流動状態の粒子状試料は、チャンバ42の上方に設置した顕微鏡51で観測され、その像はCCDカメラ53でビデオ映像に変換され、データ収集解析装置33へ送られ、画像処理される。画像処理により、時間とともに凝集塊が大きくなる速さや、凝集塊の大きさの分布などの結果が得られる。
【0050】
従来から、マイクロサイズの粒子状物質やその凝集塊の大きさの測定は、試料溶液を透過する光強度の変化、あるいはレーザー光の散乱光強度を検出することで、平均化されたデータ、あるいは統計的なデータとして取得する方法が多く用いられている。しかし、凝集塊の大きさが時間経過とともに増大する様子を、個々に、ミクロの視野で捉えることができず、さらには投入試料の全数を検査することは全く無理なことであった。
【0051】
本実施例2では上記課題を、マイクロ空間内の流体がトーラス状の渦を発生させて旋回するという、実施例1で説明した本発明の特性を利用し、対物レンズの合焦点面の位置と旋回流れの位置との関係を規定することにより解決する。以下に、粒子状試料やその凝集塊の大きさを計測する方法について述べる。
【0052】
図8に示すように、対物レンズ52の合焦点面53を、トーラス状の旋回流れ41の中心となる円の内側に設定すると、浮遊し流動する粒子状試料は合焦点面53を垂直に通過する。そのとき顕微鏡を通して観測される映像には、突然、空間に大きなボケ画像として粒子状物質が現れ、合焦点面に近づくにつれて小さくクリアな像となり、合焦点面を通過してから再びボケ画像となり、大きくぼやけて消えてゆく様子が映し出される。
【0053】
ぼけ画像のボケ量(d)とデフォーカス量(Δb)との関係は、図9に示すように幾何光学から簡単に求められ、対物レンズの開口径(D)と対物レンズの作業距離(b)を用いて、d={Δb/(b+Δb)}Dと表すことができる。
【0054】
したがって図10に示すグラフのように、合焦点面に近づく粒子状試料の見かけの大きさは、合焦点面の近傍では時間経過とともにほぼ直線状に変化する単調減少であり、ある時点を境に直線状に同じ傾き(符号は正負反転)の単調増加へと切り換わる。その両方のグラフの交点から、粒子状試料が合焦点面を通過した時間と粒子状試料の真の大きさを知ることができる。
【0055】
ビデオ映像のフレーム画像は33ms間隔であるため、粒子状試料がちょうど合焦点の位置で撮影される確率はかなり低く、ほとんどの画像がボケを含んでいる。しかしここで重要なことは、合焦点を挟んで増減が反転する粒子の見かけの大きさのデータ(図10の黒丸に相当する)が最低限3点あれば、上記のボケ量の式をあてはめることにより、粒子の正しい大きさ(図10の白丸に相当する)と合焦点面を通過した時間、さらには合焦点面を通過したときの速度が推定できる点である。
【0056】
以上に述べたような、時系列でサンプリングしたビデオ映像として、浮遊流動する粒子状試料のボケ画像を取り込み、ボケ画像の輝度に応じて閾値を決め2値化し、画面上の面積として見掛けの大きさを計測し、時間的変化から真の大きさを推測する一連の画像処理のアルゴリズムは、図5におけるデータ収集解析装置33にプログラムされている。さらには個々の粒子のデータを集積し、粒度分布とその時間的変化などの統計的処理も自動化されている。
【0057】
実際の観測ビデオから得た連続する3フレームの画像を、図11(a)(b)(c)に例として示す。この各フレーム画像内で矢印をつけた粒子に注目し、そのボケ画像を上述の手順により解析すると、合焦点面を通過する時間を基準としてそれぞれ、−28ms(合焦点面へ近づく途上)、+5ms(合焦点面通過の直後)、+38ms(合焦点面から遠ざかり中)であり、真の粒子径は6.0μmであることが分かる。
【0058】
ボケ量の式から分かるように、ボケ量は観測する粒子状試料の大きさには依存せず、デフォーカス量だけの関数である。したがって1フレーム毎のボケ量の変化からフレーム周期の33msの間に移動した距離が求められ、旋回流れの速度(粒子試料の速度)を計測することができる。図11の例では720μm/sという値が得られる。
【0059】
本実施例2の要点は、まず第1に、トーラス状の旋回流れを発生するマイクロ流体デバイスを使うこと、第2に、旋回し循環する流体の流れと直交する位置に顕微鏡の合焦点面を設定すること、そして第3に、顕微鏡を通して時系列のボケ画像数枚(最小限3枚)を、ビデオ撮影等の手段により取得することである。このプロセスにより、マイクロ流体デバイス内に浮遊流動する粒子状試料の大きさを顕微鏡で計測することが可能になる。
【0060】
本実施例2ではマイクロ流路よりも少し大きめのチャンバ内で旋回させる例を示したが、チャンバの形でなくても構わない。すこし幅の広い数100μmの幅の流路と電極であってもトーラス状の旋回は可能であり、本発明はそれら全ての構造、構成で実施可能である。
【0061】
本実施例2では血小板凝集能検査を例にして述べた。しかし本発明の主旨によれば、浮遊流動状態の粒子の大きさを測る目的であればどのような用途であっても構わない。例えばマイクロ流路内での化学反応、合成反応の結果として粒子状物質を生成する目的のマイクロ化学リアクターであってもよく、このような用途で使用すれば、生成粒子の大きさや粒度分布を常時チェックしながら合成時間などの条件を制御することが可能になり、プロセスや品質の管理が容易に実現できる。
【0062】
また本実施例2では、送液ポンプによる圧力流れの送液を示したが、送液は圧力流れに限定されるものではなく他の方法でも可能である。例えば、マイクロ流路の流入口と流出口に設けた電極に直流電圧を印加し、電気泳動あるいは電気浸透流を利用して送液する方法であっても良く、本特許の意図を何ら妨げるものではない。交流電圧で駆動する旋回流れと、直流電圧で駆動する電気泳動や電気浸透流とは相互に影響が無く、独立に作用させることができる点が本発明の特徴の1つである。
【0063】
本実施例2では、図8のように、旋回する流線が形成するトーラス面の内側の円(内側線)付近に合焦点面を設定した例で説明した。流れが垂直となる位置は、他に、外側の円(外側線)の位置にもあり、どちらに設定しても構わない。しかし、内側の円内は流線が密(速度が速い)であり、単位面積、単位時間当たりに通過する粒子数が最大となる位置でもあるため、顕微鏡の視野角を適合させて全ての流線の内側円をカバーすれば、旋回流れ内の粒子状試料の全数を計測することも可能である。
【実施例3】
【0064】
次に、図12(a)と図12(b)に示すように、マイクロ流路11の左右に対向する電極対40から構成され、その電極間ギャップは片側のマイクロ流路壁面15に極端に近い位置、つまり左右非対称の位置に電極間ギャップを配置したマイクロ流路を試作し、交流電源31から電圧を供給して実験を行ったところ、発生する旋回渦は2つではなく、図12(b)のように1つしか生じないことを発見した。
【0065】
図13は、試料として6μm径の蛍光ビーズ、液体として生理食塩水を用い、5MHz、20Vp−pの交流電圧を印加した実験で撮影した画像である。13秒間のビデオフレーム画像を重畳し、試料の軌跡が見られるように処理した。この画像の蛍光ビーズの動きから、流体の流れは円筒状に旋回する単一の渦であり、その速さは約100μm/秒であることが分かる。
【0066】
本発明の実施例3における要点は、図12(a)と図12(b)で示したように、直線帯状のギャップをもつ電極を、流路断面の中心線に対して非対称の位置に配置することである。つまり電極の電極間ギャップを、中心線位置には配置しないという点にある。このような構造のデバイスにより、流路内の流路方向へ伸びた、単一の円筒状の渦となる旋回流れを発生させることが可能になる。
【0067】
以上述べたように、本発明により、曲がりくねった流路や流路内に特別な細かい突起を設けることなく、シンプルな構造のマイクロ流路内で、攪拌と混合が容易に行えるマイクロ流体デバイスが実現できる。
【0068】
また本実施例のマイクロ流体デバイスによる攪拌と混合は、流路方向の流れの有無により大きな影響を受けることが無い。したがって流路方向の流れを止めた状態で使用しても構わない。生体物質には、反応時間が長く掛かる試料も多い。しかし本発明を使えば、流れを止めた状態で、沈殿を起こさずに浮遊状態のまま、試料を長時間マイクロ流路内に保持することが可能になる。
【0069】
また本実施例によるマイクロ流体デバイスは、高濃度溶液で速い旋回速度が得られるという特性があり、医用やバイオ目的では必須となる生理食塩水で、充分にその能力を発揮できるという利点がある。さらに、濃度の高い溶液を使うと反応速度や生成物の回収効率が向上するという化学反応も多く、マイクロ化学リアクターへの応用にも適している。
【0070】
本発明は、以上の実施例で述べた旋回用の電極を用いることが可能な全てのマイクロ流体デバイスに適用されるものである。以下に、マイクロ粒子サイズ計測装置に応用した実施例を示す。
【実施例4】
【0071】
図5は、本発明による液体を旋回させる電極を備えたマイクロ流体デバイスを用いた、マイクロ粒子サイズ計測装置の全体構成図である。ここでは特に、血小板凝集能検査に応用した例を示し、検査対象である血小板試料21の流れに沿って説明する。
【0072】
検査の前処理として、3.8%クエン酸採血を行った被検者の血液から多血小板血漿(PRP)あるいは貧血小板血漿(PPP)の血小板試料21を作成し、第1の送液ポンプ16に備えられた試料リザーバー内で、体温と同じ37℃にてインキュベートする。一方、血小板凝集惹起剤22として、エピネフリン(Epinephrine)0.3μMを作成し、第2の送液ポンプ17に備えられた凝集惹起剤用リザーバーにセットする。
【0073】
検査は第1の送液ポンプ16の起動で開始する。送液ポンプ16からの圧力により、血小板試料21がマイクロ流体デバイス10の流路へ送り込まれ、それと同時に第2の送液ポンプ17から血小板凝集惹起剤22が、マイクロ流体デバイス10の別の流路へ送り込まれる。マイクロ流体デバイス内部は、図14に示すようにY字状の流路が形成され、第1の試料溶液23として血小板試料が、第2の試料溶液24として血小板凝集惹起剤が、それぞれ第1の流入口12と第2の流入口13から別々に流入してから同じ流路へ合流する。
【0074】
合流した2つの試料溶液は、ほとんど混ざらずに層流状態を維持したまま下流へ流れ、電極対40の設置された領域へ流入する。この時点では、まだ血小板は活性化されず、流路壁へ粘着するほどの粘着能や大きな塊を生じるほどの凝集能は現れない。
【0075】
電極対40には、試料が流入する前に、交流電源31から交流電圧を供給しておく。電極対40に印加される交流電圧の作用による旋回流れは、血小板試料21と血小板凝集惹起剤22を攪拌して混合する。血小板は徐々に活性化して小さな凝集塊を形成し始め、さらに時間を掛けて攪拌するうちに凝集塊は徐々に大きくなってゆく。しかし旋回流れにより攪拌されているため、血小板の粘着能が増大しても壁面へ付着することは無く、また、血小板の大きな凝集塊が生じても沈殿することは無い。
【0076】
電極対40の先端領域(A−A’)と後端領域(B−B’)における流路断面の様子を示しながら、本発明による攪拌と混合の効果について説明する。図15(a)は、本発明である非対称に配置した電極対の場合について示した図で、単一の円筒状の渦からなる旋回流れが流路の断面を横切って回転するため、層流状態で流入した2つの試料溶液を効率よく攪拌し、混合する。一方、電極間ギャップが流路中心位置にあり、左右対称の電極配置となる従来例では、図15(b)に示すように左右の2つの渦を発生する。そのため、左右に分かれて層流状態で流れていた2つの試料溶液は、お互い分離したまま個別に旋回し、混合の効果を発揮できない。
【0077】
本実施例の重要な部分であるマイクロ粒子サイズの計測は、図16に示す構成で行われる。浮遊流動状態の粒子状試料は、電極対40の後端領域の上方に設置した顕微鏡51で観測され、その像はCCDカメラ53でビデオ映像に変換され、データ収集解析装置33へ送られ、画像処理される。画像処理により、時間とともに凝集塊が大きくなる速さや、凝集塊の大きさの分布などの結果が得られる。
【0078】
従来から、マイクロサイズの粒子状物質やその凝集塊の大きさの測定は、試料溶液を透過する光強度の変化、あるいはレーザー光の散乱光強度を検出することで、平均化されたデータ、あるいは統計的なデータとして取得する方法が多く用いられている。しかし、凝集塊の大きさが時間経過とともに増大する様子を、個々に、ミクロの視野で捉えることができず、さらには投入試料の全数を検査することは全く無理なことであった。
【0079】
本実施例4では上記課題を、マイクロ空間内の流体が円筒状の渦を発生させて旋回するという、実施例3で説明した本発明の特性を利用し、対物レンズの合焦点面の位置と旋回流れの位置との関係を規定することにより解決する。以下に、粒子状試料やその凝集塊の大きさを計測する方法について述べる。
【0080】
図17に示すように、対物レンズ52の合焦点面53を、円筒状の旋回流れ41の中心と同じ程度の深さの位置に設定すると、浮遊し流動する粒子状試料は合焦点面53を垂直に通過する。そのとき顕微鏡を通して観測される映像には、空間に大きなボケ画像として粒子状物質が現れ、合焦点面に近づくにつれて小さくクリアな像となり、合焦点面を通過してから再びボケ画像となり、大きくぼやけてゆく様子が映し出される。
【0081】
実際の観測ビデオから抜き取った1フレームの画像を、図18に例として示す。データ収集解析装置33は、この前後のフレーム画像(ここでは示していない)と比較することにより、矢印Aで示した粒子は合焦点面に近づいている状態、矢印Bの粒子はほぼ合焦点面、矢印Cの粒子は合焦点面を通過した後の遠ざかる状態であることを検知する。
【0082】
図18のフレーム画像内で矢印Bをつけた粒子に注目し、そのボケ画像を上述の手順により解析した結果、この粒子の直径は5.85μmであり、この粒子は合焦点面を通過後5.8msの位置にあり、合焦点面を通過した速度は98μm/sであることなどが求められる。
【0083】
本実施例4の要点は、まず第1に、単一の円筒状の旋回流れを発生するマイクロ流体デバイスを使うこと、第2に、マイクロ流路内で旋回する流体の流れと直交する位置に、顕微鏡の合焦点面を設定すること、そして第3に、顕微鏡を通して時系列のボケ画像数枚(最小限3枚)を、ビデオ撮影等の手段により取得することである。このプロセスにより、マイクロ流体デバイス内に浮遊流動する粒子状試料の大きさを顕微鏡で計測することが可能になる。
【0084】
本実施例4では血小板凝集能検査を例にして述べた。しかし本発明の主旨によれば、浮遊流動状態の粒子の大きさを測る目的であればどのような用途であっても構わない。例えばマイクロ流路内での化学反応、合成反応の結果として粒子状物質を生成する目的のマイクロ化学リアクターであってもよく、このような用途で使用すれば、生成粒子の大きさや粒度分布を常時チェックしながら合成時間などの条件を制御することが可能になり、プロセスや品質の管理が容易に実現できる。
【0085】
また本実施例4では、送液ポンプによる圧力流れの送液を示したが、送液は圧力流れに限定されるものではなく他の方法でも可能である。例えば、マイクロ流路の流入口と流出口に設けた電極に直流電圧を印加し、電気泳動あるいは電気浸透流を利用して送液する方法であっても良く、本特許の意図を何ら妨げるものではない。交流電圧で駆動する旋回流れと、直流電圧で駆動する電気泳動や電気浸透流とは相互に影響が無く、独立に作用させることができる点が本発明の特徴の1つである。
【0086】
本実施例4では、図16のように、流路方向への流れを止めずに螺旋状に旋回しながら流れる例を前提にして説明したが、本発明の主旨は流路方向の流れの速度を限定するものではなく、自由に設定できる。したがって、試料を流路内の特定の場所に留め、同じ場所で長い時間旋回させ続けるプロセス制御とすることも可能である。また流路方向への流れの速度を旋回流れの速度と顕微鏡の視野角に適合させることにより、流路内を流れる粒子状試料の全数を計測することも可能である。
【実施例5】
【0087】
図19は、蛍光顕微鏡60とマイクロ流体デバイス10とを組み合わせた装置の例を示す図である。励起光光源61から発せられた光は集光レンズ62により光束の方向を整えられ、励起光フィルター62により試料20で使用する蛍光物質の励起に必要な波長の光だけを通過させる。ハーフミラー64にて反射された励起光は対物レンズ52の焦点面に集光され、焦点面を通過する試料20に付着する標識物質の蛍光を励起する。試料の蛍光像は対物レンズ52、ハーフミラー64、蛍光波長の成分だけを通過させる蛍光フィルター65を通してCCD撮像デバイス66に至り、対物レンズ20の倍率に拡大された蛍光像を結像する。マイクロ流体デバイス着脱用アダプター70は蛍光顕微鏡60とマイクロ流体デバイス10との位置関係が所定の配置となるよう、さらに詳しく述べるならば対物レンズの焦点面位置がマイクロ流体デバイス内の流路の所定深さ位置に一致するように、蛍光顕微鏡とマイクロ流体デバイスの製造規格の精度を考慮して設計されている。このような装置により本発明を実施し、計測することが可能となる。
【実施例6】
【0088】
従来、粒子状物質が発する蛍光から正確なサイズと輝度を計測することは難しかった。それは支持体、例えばガラス板など、試料粒子を分散している媒質とは屈折率が異なる物質が近傍に、あるいは接して存在するため、多重反射によるフレアが発生し、光束の増大とボケの増大をもたらすからである。
【0089】
本発明によれば蛍光を発する粒子を浮遊流動状態で計測することができ、近傍に多重反射を起こす物質が何も無い状態で正確な光束の計測が可能になる。
【0090】
本発明による計測装置を用いれば、抗原−抗体反応、酵素−たんぱく質反応などの特異的物質を捉える反応との組合せにより溶液中の微量化学物質、微量生体物質などの検出や測定を容易に行うことができる。
【0091】
例えば、本発明によるマイクロ流体デバイス内に、競合法で計測するための生体物質などを蛍光標識した試料溶液と、特異的な標的物質だけを吸着する抗体を表面に固定化したビーズを、それぞれ別の流路から導入して混合し、ビーズ表面の輝度を計測することにより、特定物質の検知や定量分析が可能になる。
【0092】
また例えば、蛍光染色血小板あるいは蛍光染色白血球を浮遊させた液体媒体中に疎水性ビーズを混入し、ビーズ表面に付着する血小板や白血球の量を蛍光で検出する粘着能検査が可能になる。
【0093】
また例えば、表面に抗体を固定化した粒子に標的抗原が付着した部分にだけ蛍光標識した抗体を作用させる抗原抗体反応による微量抗原の検出と計測、粒子単位でのELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法が可能となる。
【0094】
さらに、本発明が正確にサイズを計測できる特徴と組合せ、数種の大きさのビーズ毎に異なるターゲット物質と反応して吸着する物質を固定化し、蛍光染色した試料溶液と混合する方法を用いればマイクロアレイ、すなわちDNAマイクロアレイ、たんぱく質マイクロアレイ、細胞マイクロアレイ、化合物マイクロアレイとして使われている技術を、アレイ座標の替わりに大きさの異なるビーズを用いてマイクロチャネルの中で行うことも可能になる。数百から数千のアレイ要素を用いるマイクロアレイに数は及ばないが、僅かな量の試料溶液しか用いずに検査や実験が行える。
【0095】
また以上で述べたいずれの輝度計測においても、マイクロ流体中の浮遊粒子を用いることにより貴重な試料や高価な試薬であっても僅かな消費だけで検査や実験が行える。さらに粒子をマイクロ流体中で旋回させているため、攪拌による混合の促進と反応時間の短縮化が実現する。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上述べたように本発明は、シンプルな構造内で形成するトーラス状の旋回流れを利用して、試料を攪拌し混合する用途に適したマイクロ流体デバイスを実現する。また、浮遊流動状態の粒子状試料が流れる方向から顕微鏡で観測できる特徴を利用して、マイクロ粒子サイズ計測装置を実現する。また、シンプルな構造のマイクロ流路内で形成する単一の円筒状の旋回流れを利用して、試料を攪拌し混合する用途に適したマイクロ流体デバイスを実現する。また、浮遊流動状態の粒子状試料が流れる方向から顕微鏡で観測できる特徴を利用して、マイクロ粒子サイズ計測装置を実現する。特に、濃度の高い溶液での性能に優れるので、血小板凝集能検査のような生理食塩水を使う生体物質検査装置や、高濃度溶液から粒子状の反応生成物を得るマイクロ化学リアクターとしての利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明のマイクロ流体デバイスによる流体の流れの1例を示す概略断面図
【図2】本発明のマイクロ流体デバイスによる流体の流れの他の例を示す概略断面図
【図3】本発明によるマイクロ流体デバイスの概略図
【図4】トーラス状の旋回流れを示す画像
【図5】本発明によるマイクロ粒子サイズ計測装置の全体構成図
【図6】マイクロ粒子サイズ計測装置用のマイクロ流体デバイスの平面図
【図7】マイクロ流体デバイスと顕微鏡の概略図
【図8】旋回流れと対物レンズの配置説明図
【図9】本発明によるマイクロ粒子サイズ計測の光学原理説明図
【図10】本発明によるマイクロ粒子サイズ計測のデータ処理説明図
【図11】顕微鏡観察ビデオ映像の連続する3フレーム画像
【図12】本発明によるマイクロ流体デバイスの概略図
【図13】単一円筒状の旋回流れを示す画像
【図14】マイクロ粒子サイズ計測装置用のマイクロ流体デバイスの平面図
【図15】本発明のマイクロ流路と従来例の断面比較図
【図16】マイクロ流体デバイスと顕微鏡の概略図
【図17】旋回流れと対物レンズの配置説明図
【図18】顕微鏡観察ビデオ映像の1フレーム画像
【図19】蛍光顕微鏡とマイクロ流体デバイスとを組み合わせた装置の例を示す図
【符号の説明】
【0098】
10 マイクロ流体デバイス
11 マイクロ流路
12 第1の流入口
13 第2の流入口
14 流出口
15 マイクロ流路壁面
16 第1の送液ポンプ
17 第2の送液ポンプ
18 回収容器
20 試料
21 血小板試料
22 血小板凝集惹起剤
31 交流電源
32 プロセス制御装置
33 データ収集解析装置
40 電極対
41 旋回流れ
42 チャンバ
43 ガラス基板
51 顕微鏡
52 対物レンズ
53 合焦点面
54 CCDカメラ
60 蛍光顕微鏡
61 励起光光源
62 集光レンズ
63 励起光フィルター
64 ハーフミラー
65 蛍光フィルター
66 CCD撮像デバイス
70 マイクロ流体デバイス着脱用アダプター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流路内又はマイクロチャンバ内の水平面内に対向して配置される電極対を備え、該電極対に交流電圧が印加され、該電極対間ギャップの位置で、導電率が0.67S/m以上の流体に対して、反重力方向へ垂直上昇流れを発生することを特徴とする導電率が0.67S/m以上の流体用のマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記垂直上昇流れによりマイクロ流路内又はマイクロチャンバ内を旋回する流れを誘起することを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記電極対は、前記マイクロ流路内又はマイクロチャンバ内の床側に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記電極対は、前記マイクロ流路内又はマイクロチャンバ内の天井側に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
請求項1記載のマイクロ流体デバイスと、
前記垂直上昇流れの中であって流れの流線と直交する位置に合焦点面を有する拡大光学系と
を備えることを特徴とする計測装置。
【請求項6】
前記合焦点面における粒子状物質の大きさの見かけの経時的な変化により該粒子状物質の大きさを計測することを特徴とする請求項5記載の計測装置。
【請求項7】
前記合焦点面における粒子状物質の蛍光輝度を計測することを特徴とする請求項5記載の計測装置。
【請求項8】
前記粒子状物質は生物物質であることを特徴とする請求項6又は7記載の計測装置。
【請求項9】
前記粒子状物質は蛍光標識した生物物質であることを特徴とする請求項6又は7記載の計測装置。
【請求項10】
前記粒子状物質は生物物質を付着又は固定させたビーズであることを特徴とする請求項6又は7記載の計測装置。
【請求項11】
前記粒子状物質は蛍光標識した生物物質を付着又は固定させたビーズであることを特徴とする請求項6又は7記載の計測装置。
【請求項12】
マイクロ流路内又はマイクロチャンバ内の水平面内に対向して配置される電極対を備え、該電極対に交流電圧が印加し、該電極対間ギャップの位置で、導電率が0.67S/m以上の流体に対して、反重力方向へ垂直上昇流れを発生させることを特徴とする導電率が0.67S/m以上の流体用のマイクロ流体撹拌方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図19】
image rotate

【図4】
image rotate

【図11a】
image rotate

【図11b】
image rotate

【図11c】
image rotate

【図13】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2008−3074(P2008−3074A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56204(P2007−56204)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本分析化学会「日本分析化学会第55年会講演要旨集」、平成18年 9月 6日発行に発表
【出願人】(304015760)有限会社フルイド (10)
【Fターム(参考)】